ゲスト
(ka0000)
【聖呪】炎の亜人
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/07 22:00
- 完成日
- 2015/07/12 19:24
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
――桜色の髪が風で流れる。
慌てて幼い少女はそれを抑えた。
村の外、小高い丘の上に、二つの人影が見えた。
「やっと、見つけっ……」
途中で声が途切れる。
二つの人影は、遠くから見た時、寄り添っている様に見えていた。
だけど、それは、ただ、『寄り添っている』だけではなかった。
「わぁ……」
思わず少女は手で目を隠した。
自分でも分かる。今、顔どころか全身真っ赤になっているだろうと。
幼い少女にはそれほど、刺激的な光景だった――
●
リルエナ・ピチカートはウィーダの街からパルシア村へと移動していた。
なぜなら、村が亜人の襲撃を受けたとの知らせを聞いたからだ。
王国北部の亜人関係の依頼を専門に受けている『北の戦乙女』と名高い彼女にとって、亜人出没の情報は極めて興味深いものであるが、それ以上に、村が亜人の襲撃を受けたという情報は、急いで彼女を村に向かわせたのであった。
「また、ハンターが来たな。誰に雇われたのか」
「この前、亜人の襲撃もあったから、警備を……って、おい! まさか!」
村の入口付近で井戸端会議をしていた村人達は、『北の戦乙女』の姿をマジマジと見て驚いた。
「リルエナちゃん!?」
「おぉ! 本当に、リルエナちゃんなのか?」
怪訝な顔つきだった村人達の表情が一変する。
歴戦の戦士を思わせる自信ある歩みで村に向かってくるその女性の姿に村人達が駆け寄る。
「リルエナちゃん、お帰り! 大きくなって」
「お帰り! 凄く大きくなったなぁ~」
身長もそうだが、色々と大きくなった。それは10年の歳月の結果を告げている。
村人の誰もが、嬉しそうに彼女を歓迎した。
それは、再開を懐かしむような光景でもあった。
「お父さんは会議に行ってて今、居ないけど、会っていくの?」
誰かの質問に、明らかに嫌そうな表情を浮かべるリルエナ。
首を横に振った。
「親に会いに来たわけじゃない。それより、あいつは?」
静まる村人達。先程までの明るい雰囲気が一変、通夜の様に静まりかえる。
そのうちの一人がある方角を指差した。
「たぶん、家にいると思う」
「ありがとう」
妹は一直線にアランの家へ行く。
発せられるオーラや諸々が揺れる。
その姿は、まるで、これから亜人でも倒しに行くのかというような雰囲気を発していて、村人達は黙ってそれを見送るしかできなかった。
アランの家の扉をノックもせずに乱暴に開く。
「どういう事だ! 貴方がいるのに、村を亜人に襲撃されるなんて!」
「リルエナ……帰ってきたのか……」
「私の事など、どうでもいい、亜人の事だ」
最低限の会話しかしないぞと言わないばかり、ズカズカと踏み込んで、アランの胸ぐらを掴みかかる。
いつも低い声だったリルエナの声は、甲高くなっていた。
「村は騎士団に守られているからって、貴方は!」
「俺には、俺のやり方がある」
冷静な口調だが、彼も怒っているようにも見える。
アランは自身の胸元を掴んでいたリルエナの腕を払った。
「15年間引き籠り続け、何もしなかった貴方に、なにができる!」
「村を出た人間が、村の事に口出しするな」
怒りに満ち溢れる視線がぶつかり、火花が散っている。
恐る恐る村人達が、開いている戸から、その光景をみつめていた。
そこへ、慌てた様子で一人の村人がやってきた。
「た、大変だ! 幽霊が出た! 女の子の幽霊が!」
村人は猟師として生計を立てている者であった。
森の中で怪しい半透明に透けている人影を見つけた。幽霊は亜人の勢力域に向かっており、その事を伝える為、村に戻ってきたのだ。
アランとリルエナの2人は、村にたまたま滞在していたハンター達を伴って、幽霊を追いかける事にした。
●
「女の子の幽霊……」
リルエナが呟いた言葉に、アランは表情を硬くしたままだった。
2人には、いや、村人全員、その幽霊に心当たりがあった。もしかしてと……。
(なんで? どうして? どういう事?)
疑問の言葉を心の中で繰り返すリルエナ。
信じたくない。認めたくない。その幽霊は、きっと、『別物』だ。
アランの表情を盗み見る。彼は先程から、変わらない様に見える。
その時、視線の先で、チラリと紅蓮の炎が見えた。
覚醒状態に入ると彼女は盾を構えて、先頭に躍り出る。次の瞬間、丸太の様な大きさの炎の塊が飛んできた。
「リルエナ!」
後ろからアランの叫び声が聞こえた。
心配されるとは心外だと『北の戦乙女』は思った。この10年、ずっと亜人相手に戦い続けてきたのだ。今なら、アランに対等以上の実力を持っている自信はある。
森の中を凝視していると、数体のゴブリンが、のしのしと揺らめく様に現れる。
いずれもが炎を纏っていた。どう見ても、普通じゃない。
その内の1体、一際大きいゴブリンが凶悪そうな表情を見せた。
「我らが主の贄の残骸が、この一帯に逃げたと聞いた。お前達も追っているのか」
「なんの事だ?」
リルエナは油断なく剣を向けたまま答えた。
燃えさかる炎を身に纏ったゴブリンなど、この10年間、一度も見た事も聞いた事も無かった。
「知らない事ならいい。この場で全員、餌食になるといい!」
両手をバッと広げる。
身体を覆っている炎が、周囲に放出された。
「俺の名は、『業火の禍』ダバデリ。お前達の全てを燃やし尽くす!」
その言葉が終わると同時に、炎を纏った数体のゴブリンが突撃してきた。
それは、近付いてくるだけで、熱さを感じられる。
「貴方は先に行って!」
リルエナがアランに向かって叫ぶ。
幽霊は亜人の勢力域深くに向かって行ったと思われる。
時間がかかれば、その分、危険な地に踏み込むとなるからだ。
「……頼んだ」
アランと数人のハンター達は駆けて行く。
その姿を視界内に入れながら、『北の戦乙女』は剣を構え直す。
(……まるで、15年が嘘のよう……)
どんなに月日が経ったとしても、人は変わる事ができる存在なのだと、アランの真剣な眼差しを見て、リルエナは感じたのだった。
慌てて幼い少女はそれを抑えた。
村の外、小高い丘の上に、二つの人影が見えた。
「やっと、見つけっ……」
途中で声が途切れる。
二つの人影は、遠くから見た時、寄り添っている様に見えていた。
だけど、それは、ただ、『寄り添っている』だけではなかった。
「わぁ……」
思わず少女は手で目を隠した。
自分でも分かる。今、顔どころか全身真っ赤になっているだろうと。
幼い少女にはそれほど、刺激的な光景だった――
●
リルエナ・ピチカートはウィーダの街からパルシア村へと移動していた。
なぜなら、村が亜人の襲撃を受けたとの知らせを聞いたからだ。
王国北部の亜人関係の依頼を専門に受けている『北の戦乙女』と名高い彼女にとって、亜人出没の情報は極めて興味深いものであるが、それ以上に、村が亜人の襲撃を受けたという情報は、急いで彼女を村に向かわせたのであった。
「また、ハンターが来たな。誰に雇われたのか」
「この前、亜人の襲撃もあったから、警備を……って、おい! まさか!」
村の入口付近で井戸端会議をしていた村人達は、『北の戦乙女』の姿をマジマジと見て驚いた。
「リルエナちゃん!?」
「おぉ! 本当に、リルエナちゃんなのか?」
怪訝な顔つきだった村人達の表情が一変する。
歴戦の戦士を思わせる自信ある歩みで村に向かってくるその女性の姿に村人達が駆け寄る。
「リルエナちゃん、お帰り! 大きくなって」
「お帰り! 凄く大きくなったなぁ~」
身長もそうだが、色々と大きくなった。それは10年の歳月の結果を告げている。
村人の誰もが、嬉しそうに彼女を歓迎した。
それは、再開を懐かしむような光景でもあった。
「お父さんは会議に行ってて今、居ないけど、会っていくの?」
誰かの質問に、明らかに嫌そうな表情を浮かべるリルエナ。
首を横に振った。
「親に会いに来たわけじゃない。それより、あいつは?」
静まる村人達。先程までの明るい雰囲気が一変、通夜の様に静まりかえる。
そのうちの一人がある方角を指差した。
「たぶん、家にいると思う」
「ありがとう」
妹は一直線にアランの家へ行く。
発せられるオーラや諸々が揺れる。
その姿は、まるで、これから亜人でも倒しに行くのかというような雰囲気を発していて、村人達は黙ってそれを見送るしかできなかった。
アランの家の扉をノックもせずに乱暴に開く。
「どういう事だ! 貴方がいるのに、村を亜人に襲撃されるなんて!」
「リルエナ……帰ってきたのか……」
「私の事など、どうでもいい、亜人の事だ」
最低限の会話しかしないぞと言わないばかり、ズカズカと踏み込んで、アランの胸ぐらを掴みかかる。
いつも低い声だったリルエナの声は、甲高くなっていた。
「村は騎士団に守られているからって、貴方は!」
「俺には、俺のやり方がある」
冷静な口調だが、彼も怒っているようにも見える。
アランは自身の胸元を掴んでいたリルエナの腕を払った。
「15年間引き籠り続け、何もしなかった貴方に、なにができる!」
「村を出た人間が、村の事に口出しするな」
怒りに満ち溢れる視線がぶつかり、火花が散っている。
恐る恐る村人達が、開いている戸から、その光景をみつめていた。
そこへ、慌てた様子で一人の村人がやってきた。
「た、大変だ! 幽霊が出た! 女の子の幽霊が!」
村人は猟師として生計を立てている者であった。
森の中で怪しい半透明に透けている人影を見つけた。幽霊は亜人の勢力域に向かっており、その事を伝える為、村に戻ってきたのだ。
アランとリルエナの2人は、村にたまたま滞在していたハンター達を伴って、幽霊を追いかける事にした。
●
「女の子の幽霊……」
リルエナが呟いた言葉に、アランは表情を硬くしたままだった。
2人には、いや、村人全員、その幽霊に心当たりがあった。もしかしてと……。
(なんで? どうして? どういう事?)
疑問の言葉を心の中で繰り返すリルエナ。
信じたくない。認めたくない。その幽霊は、きっと、『別物』だ。
アランの表情を盗み見る。彼は先程から、変わらない様に見える。
その時、視線の先で、チラリと紅蓮の炎が見えた。
覚醒状態に入ると彼女は盾を構えて、先頭に躍り出る。次の瞬間、丸太の様な大きさの炎の塊が飛んできた。
「リルエナ!」
後ろからアランの叫び声が聞こえた。
心配されるとは心外だと『北の戦乙女』は思った。この10年、ずっと亜人相手に戦い続けてきたのだ。今なら、アランに対等以上の実力を持っている自信はある。
森の中を凝視していると、数体のゴブリンが、のしのしと揺らめく様に現れる。
いずれもが炎を纏っていた。どう見ても、普通じゃない。
その内の1体、一際大きいゴブリンが凶悪そうな表情を見せた。
「我らが主の贄の残骸が、この一帯に逃げたと聞いた。お前達も追っているのか」
「なんの事だ?」
リルエナは油断なく剣を向けたまま答えた。
燃えさかる炎を身に纏ったゴブリンなど、この10年間、一度も見た事も聞いた事も無かった。
「知らない事ならいい。この場で全員、餌食になるといい!」
両手をバッと広げる。
身体を覆っている炎が、周囲に放出された。
「俺の名は、『業火の禍』ダバデリ。お前達の全てを燃やし尽くす!」
その言葉が終わると同時に、炎を纏った数体のゴブリンが突撃してきた。
それは、近付いてくるだけで、熱さを感じられる。
「貴方は先に行って!」
リルエナがアランに向かって叫ぶ。
幽霊は亜人の勢力域深くに向かって行ったと思われる。
時間がかかれば、その分、危険な地に踏み込むとなるからだ。
「……頼んだ」
アランと数人のハンター達は駆けて行く。
その姿を視界内に入れながら、『北の戦乙女』は剣を構え直す。
(……まるで、15年が嘘のよう……)
どんなに月日が経ったとしても、人は変わる事ができる存在なのだと、アランの真剣な眼差しを見て、リルエナは感じたのだった。
リプレイ本文
●炎撃の始まり
「噂として、よく聞いた『北の戦乙女』の力、見せてもらう」
フライス=C=ホテンシア(ka4437)が、魔導銃を構えながらリルエナに声をかけた。
リルエナは少しだけ振り返り、視線を向ける。手放しで再開を喜べない事情に対する悲哀が込められている様でもあった。
(俺の家は、今はもうない。知らずとも構わないさ)
心の中で、その様に呼掛けて、構えた銃で狙いをつける。
狙いをつけた先には、燃えさかる炎を身に纏う亜人共の姿。
「炎を纏うゴブリンとは、妙な物だな。これは最早、ゴブリンとは考えぬ方がよいだろう」
周囲に警戒する様にと思わせる言い方で、ストゥール(ka3669)は冷静に亜人をみつめていた。
特に、奴らのボスと思われる一際大きい亜人。
(この業火の何某とやらが、追っている幽霊と何の関わりがあるのかは知らんが、目の前に集中せねばならんな)
幽霊を追って亜人の勢力域までやってきた。こんな亜人が出没するのだ。
リルエナが先に行かせたアランや他のハンター達もなにかと遭遇する可能性はあるはず。
「あちらの状況も気になるから、素早く倒させてもらうよ?」
刀を構える、シェラリンデ(ka3332)。
炎を纏っている事でなにかしらの能力はあると予想していた。
なるべく情報共有しながら炎の影響をできるだけ少なくしたい戦い方をしたいとも感じながら前に進み出た。
それだけでも熱さが感じられる……だが、周囲の木々が燃える様子は無かった。
(周りは燃えないっていうのがちょっと不可解だけど、まあ燃えないものは燃えないんだから今詮索してもしょうがないわよね)
ティス・フュラー(ka3006)は、炎に対抗する為に水の魔法を準備する。
ふと頭によぎる。水の魔法は効果を発揮したら消え去る。炎の魔法は火災を発生させるものではない。
もしかして、ゴブリンが纏っている炎は、魔法的ななにか……かもしれない。
(余計なことを考えながら戦ってたら動きが鈍って危険だし、今はさっさとこいつらを撃退することを考えましょう)
自分に言い聞かせると、杖を高々と掲げた。
その横を、オルドレイル(ka0621) が通り過ぎ、前衛に躍り出る。
「幽霊を追いかけていたら燃える亜人に出くわすとは、いよいよ王国の亜人騒ぎもきな臭いな」
オルドレイルの言う通り、王国北部で頻発する亜人騒ぎは怪しい状況になってきた。
炎の亜人の出現はなんらかの異常事態が起きていると見ていいだろう。
(村人が見た人影というのはむしろ普通の人間か妖精か、はたまた幻だと思うのだが)
チラリと前衛に並んだリルエナを盗み見た。前の依頼で一緒になった際、彼女も亜人騒ぎの原因は分からなかったという。
リルエナとアラン……そして、幽霊を追って亜人の勢力域に飛びこむ理由……気にかけておこうと思った。
檜ケ谷 樹(ka5040) も『北の戦乙女』の真横に並ぶ。
(……修羅場に出くわすは、変なの出てくるわ……)
パルシア村に到着次第、リルエナとアランの口喧嘩を目撃するとは思っていなかっただけではなく、こんな状態になるとはと、思わずため息をつく。
(それに、コイツは、あの地中に潜るって報告に有った奴の別パターンの個体か、ちょっと……厄介だな)
ハンターオフィスにあった王国北部の依頼に関する報告書の中に、異形の亜人が出没した依頼があった。
『大地の禍』と名乗ったらしい。そして、今回は『業火の禍』。なにか共通性があるのかもしれない。
「行くぞ!」
リルエナが気合いの掛け声と共に、大きく揺れながら駆けだし、亜人共を迎えうった。
●取り巻く炎
炎に包まれた取り巻きのゴブリンは6体。
前衛に立つオルドレイルとシェラリンデに、それぞれ3体ずつ襲いかかってくる。
「熱い、な……」
「ボクもそう感じるよ」
異変はすぐに発生した。接敵した途端、炎に焼かれているような痛みに襲われたからだ。
炎が燃え移る事はなさそうではある。だが、ジワジワと焼かれている様な嫌な気分になる。
「火は確かに恐ろしいが、熱いと感じる前に切り伏せればいい」
水の精霊の加護を受けた刀をオルドレイルは構えた。防御に徹するよりも攻勢に出た方が良いと判断したからだ。
こうしている間にも、アラン達は先を進んでいるはず。
(前衛は押されるかもしれないが、素早く撃破できれば)
フライスが亜人の動きをよく観察しつつ、精神を研ぎ澄まし、魔導銃を放つ。
戦線が支えられている間に、可能な限り前衛を掩護する為、攻撃に集中しているのだ。
亜人が一斉に襲いかかってきた。それをシェラリンデは巧くいなす。
次に別の亜人が棍棒を振り降ろそうとするのが視界の中に入った所で、動きが止まった。
「その亜人を狙う」
ストゥールは目印代わりに機導砲を放ったのだ。
亜人がよろめいた所をシェラリンデが素早く刀を返して斬りつける。なかなかの深手のはず。
それでも、亜人は倒れない。傷ついた亜人は若干後ろに下がると、燃えさかる両腕を突きだす。すると、炎の矢が現れ、一直線にティスへ飛んで行った。
「炎の魔法を!?」
間一髪、木の幹を盾にして避けると、水の魔法で反撃する。
「見るからに、水に弱いはずよね」
魔力によって現れた水球を傷ついた亜人に向かって放つ。
避け損ねた亜人は吹き飛ぶ。炎が消えると共に息の根も止まったようだ。
「やはり、普通のゴブリンではなさそうだ」
オルドレイルが亜人の炎の伴った鋭い突きを避けながらの台詞。
その認識は正しかった。傷ついた亜人は各個撃破を防ぐ為か、一度後方に下がる。そして、炎の魔法を放つ。
戦術としては妥当とも思える事だが、それを亜人が連携しながら行うのだ。炎を纏っているだけではなく、他の能力も普通のゴブリンではないのは明白だ。
「近寄るだけで炎の熱と離れれば炎の魔法だね。ボクは前線を支えるから、計画通り、各個撃破だよ」
シェラリンデの素早い動きは亜人からの攻撃を許さなかった。
魔導機械が取り付けられた刀が振るわれる度に、刃が煌めく。
「これで、更に避けやすくなるはずだ」
ストゥールがマテリアルを前衛に流し込ませる。
取り巻きの亜人とハンター達との戦いに差が生じてきた。それは単に個々の力量もあるが、多彩な戦闘内容にもよるものだ。
傷ついた亜人を追撃するフライス。
魔導銃から放たれる弾が一瞬の光となっていく。
「一気にたたみ掛ける」
言葉通り、次々と冷静に引き金を引く。
その勢いに炎の魔法を放つ余裕を与えない。そして、それは、ティスにとっても援護となっていた。
「そうね。樹さん達が頑張ってくれている間に、取り巻きのゴブリンたちを片付けなきゃ」
彼女の作りだす水の魔法の効果は、他のハンターが持つ水属性の武器と共に、炎の亜人に対して有効であった。
一刻も早くダバデリ戦への援護に向かいたいというハンター達の思いも重なり、当初は拮抗していた戦況が傾き始める。
亜人の炎が揺れめきかけてきた。
●ダバデリ
炎を宿した棍棒の一撃を樹は、盾で受け流した。
その一撃は重く、また、ダバデリが近くにいるだけで、全身がやけどの様に痛む。
それでも、樹は正面に立ち続ける。自分が盾になる事でリルエナに攻撃の機会を作る為だ。
「君は、あの逃げてった大地のなんちゃらの親戚?」
相手の攻勢を和らげる為に、試しに呼び掛けてみたが、なんの役にも立ちそうには無い様子だった。
「アヤツは、我らの中でも、さい……」
「ヤァァ!」
ダバデリの言葉を遮って、リルエナが鋭い突きを繰り出し、太股に一撃を入れた。
だが、気にした様子もなくダバデリは棍棒を振るって反撃する。
一撃、二撃と連続して繰り出される棍棒の嵐を数歩下がって避けるリルエナの前に樹が盾を持って割り込む。
「雑魚が! どけぇ!」
怒りの言葉をあげてダバデリが渾身の力で、割って入って来た樹に棍棒を振り下ろした。
その勢いは盾で防いだ樹を後方に下がらせた。バランスを崩し、後ろに倒れる所を、なにか、柔らかい感触を後頭部に感じる。
「無茶し過ぎだぞ!」
見上げるとリルエナの端正な顔が間近に迫っていた。
低い声でドスが効いているが表情からは怒っている様子ではなさそうだ。
「後、少しの辛抱みたいだからね~」
樹の言葉は痩せ我慢ではない。
事実、取り巻きのゴブリンは駆逐されたのは、この直後の事であったからだ。
●業火の禍
「お前との斬り合いを楽しもう」
戦闘狂の様な歓喜の雰囲気を発しながらオルドレイルがダバデリとの距離を詰めて斬りかかる。
その斬撃を棍棒で受け止め、炎の亜人は周囲を見渡した。
連れて来た部下全員が地に伏せている。
「役立たず共め! 我らが主への忠誠心が足りんのだ」
「お前の言う『主』とやらが気になるところだ」
受け止められた斬撃をそのまま力任せに押す。
それは、無理矢理斬りつけようとする動きではなかった。視界の隅に映ったシェラリンデを掩護する為だ。
「ふん!」
ダバデリは空いた方の腕を突きだすと、腕先から炎が迸る。
木々の幹を蹴りあげ、蛇の様な動きで追撃してくる炎を避け、シェラリンデはワイヤーを鞭の様に扱い、突き出された腕を絡め取った。
「その腕、貰うよ」
続いてシェラリンデは絡め取った腕を引っ張りつつ、刀で切り付けた。
太い腕の中ほどまで刃が食い込む。
「リルエナ。待たせたな」
『北の戦乙女』の運動能力を上げる為に、自身のマテリアルを流し込みながらストゥールが声をかけた。
無理に突出し過ぎない様に忠告しておいたからだ。
「では、遠慮なくやらせてもらう!」
リルエナが聖なる力が込められた盾を前面に繰り出す。
その瞬間、盾から発せられた白い光が魔法陣を描きながら、彼女全身を包み込むように見えた。
強烈な衝撃でダバデリの姿勢が崩れるが、反撃する様に足を蹴りあげてきた。だが、その蹴りはリルエナに届かなかった。
「俺が援護する」
フライスの黒目の中の青い瞳が、ダバデリの動きを射抜いていたからだ。
彼女の放った銃撃は、先程、リルエナがいれた太股の傷の所に重なっている。
このダメージで亜人の炎は大きく揺れた。
「裁きの炎は神聖なるもの。お前達が軽々しく扱っているソレはただの殺人の道具だ」
「おのれ、人間共め!」
ダバデリが腕の戒めを強引に解き、体勢を整えた。
そこへ更に追撃――ティスが放った水の魔法だ。
「炎には水なのよね」
炎の亜人の表情が苦痛で歪んだ。
戦況は一気にハンター達に傾いている。
「さて、7対1だ。どーする?」
樹の言葉に亜人は不気味な笑みを浮かべる。
「7対1? 違うな!」
バッと両腕を広げると猛烈な炎が周囲に放たれた。
思わず、誰もが目を一瞬、背けたり閉じたりする。
「……なにか、変わった様には見えないよ?」
そんな疑問の声をあげたのは、シェラリンデだった。
油断なく刀を構えているが、目の前のダバデリに変化は見られない。
「これは……熱風か」
最初は弱く感じられた風は、切り裂くような鋭さよりも、熱さだと、ストゥールは警戒の声を発する。
森の中から吹いてきたそれは、突如として突風の様な勢いでハンター達に襲いかかった。
胴はまだしも、腕や足に激しいやけどの様な痛みを感じる。
「あつぃ! って、炎の雨なの?」
思わず頭部を守る為に、手を顔にかざすティス。
見上げれば、木々の葉や枝の合間から、炎の雨のような物が降ってきていた。
「森の中に、他の亜人がいる」
魔導銃を向けるフライスの言葉に一行は森の中を凝視した。
確かに、亜人の影が見える。それも……。
「ダバデリが2体居るように、ボクには見えるね」
シェラリンデの言う様に、森の中に『ダバデリ』が2体立っていたのだ。
それも全くの同じ姿形である。
「熱風と炎の雨とは、やっかいだな」
ストゥールが腕に一際大きい痛みを感じながら、苦痛を漏らす。
見れば、広範囲に炎の風と雨が広がっていた。幸い、森の中なので、その威力は軽減されている様ではあるのだが。
「長期戦になれば、不利になるな」
「なら、せめて、この亜人だけでもね」
フライスとティスが、やけどの様な痛みに耐えながらも、攻撃の手を緩めない。
森の中の新手は気になるが、各個撃破していけばいい事だ。
「ボクもその意見に賛成だね」
鋭い軌道を刀先で描きながら、シェラリンデが亜人に斬りつける。
よろめいた所を更に追撃! と思ったが、森の中から放たれた火球の魔法が爆発を起こす。
その間にも炎の風と雨は止む気配がなかった。森の中から『ダバデリ』の声が響く。
「やはり、森の中では、我が炎の全てが発揮されないか! 一時、退却だ」
再度、火球の魔法がハンター達に向かってくる。
ある者は避け、ある者は、太い木の幹に隠れる。
「グググッ!」
その一瞬の隙を突いて、先程まで戦っていたダバデリが森の中へと逃げていく。
「待て! 贄とはなんだ!」
「深追いは危険だ!」
ハンターの誰かが言った制止を無視し、リルエナが大きなそれを揺らしながら、森の中へと入って行った。
先に行ったアラン達を追いかけなければならないのに、リルエナが別行動である。しかも、敵は健在だ。
ハンター達はお互いに頷くと、オルドレイルと樹が森の中に飛び込んでいく。
残ったハンター達は、アラン達の後を急ぎ追いかける。時間を少しかけてしまったが、追いかけられないという程ではないと判断したからだ。
おしまい。
●聖女の妹
結局、リルエナは炎の亜人に追いつける事は無かった。
逆に、待ち伏せされている事も無かった。
それでも、執拗に追撃を止めないリルエナだったが、大きめの沢にぶち当たった所で足を止める。
「……来た道を引き返すのは危険かもしれない」
理由にはなる。しかし、ここまで来て言う台詞ではない。
「こ、ここから、下ろう。ウィーダの街に出られるはずだ」
沢沿いに歩きだすリルエナ。
「いいのか? アランを追いかけなくて。幽霊の正体を確かめなくて」
オルドレイルの台詞に、リルエナが立ち止まった。
『北の戦乙女』の足と手が、かすかに震えているようにも見える。
「……アランがいる。大丈夫だ」
少しの間の後に呟いた声は力が入っていない。
「……何があったかは知らないけど。気負いすぎて大事な事、忘れないようにね」
頭を垂れ、震えている肩を樹がポンポンと優しく叩いて声をかける。
その言葉に、まるで、堰を切ったように、リルエナの瞳から涙が流れた。
そして、嗚咽と共に声が途切れ途切れに森の中に響いた。いつもの低い声じゃなく、女性らしい高い声で。
「……エリ……カお姉ちゃん……が、ゆう……れい……な、わけが……」
その場で崩れ落ちるように座り込むリルエナ。
『北の戦乙女』ではなく、まるで、1人の少女が泣き崩れているように、オルドレイルと樹は感じたのであった。
「噂として、よく聞いた『北の戦乙女』の力、見せてもらう」
フライス=C=ホテンシア(ka4437)が、魔導銃を構えながらリルエナに声をかけた。
リルエナは少しだけ振り返り、視線を向ける。手放しで再開を喜べない事情に対する悲哀が込められている様でもあった。
(俺の家は、今はもうない。知らずとも構わないさ)
心の中で、その様に呼掛けて、構えた銃で狙いをつける。
狙いをつけた先には、燃えさかる炎を身に纏う亜人共の姿。
「炎を纏うゴブリンとは、妙な物だな。これは最早、ゴブリンとは考えぬ方がよいだろう」
周囲に警戒する様にと思わせる言い方で、ストゥール(ka3669)は冷静に亜人をみつめていた。
特に、奴らのボスと思われる一際大きい亜人。
(この業火の何某とやらが、追っている幽霊と何の関わりがあるのかは知らんが、目の前に集中せねばならんな)
幽霊を追って亜人の勢力域までやってきた。こんな亜人が出没するのだ。
リルエナが先に行かせたアランや他のハンター達もなにかと遭遇する可能性はあるはず。
「あちらの状況も気になるから、素早く倒させてもらうよ?」
刀を構える、シェラリンデ(ka3332)。
炎を纏っている事でなにかしらの能力はあると予想していた。
なるべく情報共有しながら炎の影響をできるだけ少なくしたい戦い方をしたいとも感じながら前に進み出た。
それだけでも熱さが感じられる……だが、周囲の木々が燃える様子は無かった。
(周りは燃えないっていうのがちょっと不可解だけど、まあ燃えないものは燃えないんだから今詮索してもしょうがないわよね)
ティス・フュラー(ka3006)は、炎に対抗する為に水の魔法を準備する。
ふと頭によぎる。水の魔法は効果を発揮したら消え去る。炎の魔法は火災を発生させるものではない。
もしかして、ゴブリンが纏っている炎は、魔法的ななにか……かもしれない。
(余計なことを考えながら戦ってたら動きが鈍って危険だし、今はさっさとこいつらを撃退することを考えましょう)
自分に言い聞かせると、杖を高々と掲げた。
その横を、オルドレイル(ka0621) が通り過ぎ、前衛に躍り出る。
「幽霊を追いかけていたら燃える亜人に出くわすとは、いよいよ王国の亜人騒ぎもきな臭いな」
オルドレイルの言う通り、王国北部で頻発する亜人騒ぎは怪しい状況になってきた。
炎の亜人の出現はなんらかの異常事態が起きていると見ていいだろう。
(村人が見た人影というのはむしろ普通の人間か妖精か、はたまた幻だと思うのだが)
チラリと前衛に並んだリルエナを盗み見た。前の依頼で一緒になった際、彼女も亜人騒ぎの原因は分からなかったという。
リルエナとアラン……そして、幽霊を追って亜人の勢力域に飛びこむ理由……気にかけておこうと思った。
檜ケ谷 樹(ka5040) も『北の戦乙女』の真横に並ぶ。
(……修羅場に出くわすは、変なの出てくるわ……)
パルシア村に到着次第、リルエナとアランの口喧嘩を目撃するとは思っていなかっただけではなく、こんな状態になるとはと、思わずため息をつく。
(それに、コイツは、あの地中に潜るって報告に有った奴の別パターンの個体か、ちょっと……厄介だな)
ハンターオフィスにあった王国北部の依頼に関する報告書の中に、異形の亜人が出没した依頼があった。
『大地の禍』と名乗ったらしい。そして、今回は『業火の禍』。なにか共通性があるのかもしれない。
「行くぞ!」
リルエナが気合いの掛け声と共に、大きく揺れながら駆けだし、亜人共を迎えうった。
●取り巻く炎
炎に包まれた取り巻きのゴブリンは6体。
前衛に立つオルドレイルとシェラリンデに、それぞれ3体ずつ襲いかかってくる。
「熱い、な……」
「ボクもそう感じるよ」
異変はすぐに発生した。接敵した途端、炎に焼かれているような痛みに襲われたからだ。
炎が燃え移る事はなさそうではある。だが、ジワジワと焼かれている様な嫌な気分になる。
「火は確かに恐ろしいが、熱いと感じる前に切り伏せればいい」
水の精霊の加護を受けた刀をオルドレイルは構えた。防御に徹するよりも攻勢に出た方が良いと判断したからだ。
こうしている間にも、アラン達は先を進んでいるはず。
(前衛は押されるかもしれないが、素早く撃破できれば)
フライスが亜人の動きをよく観察しつつ、精神を研ぎ澄まし、魔導銃を放つ。
戦線が支えられている間に、可能な限り前衛を掩護する為、攻撃に集中しているのだ。
亜人が一斉に襲いかかってきた。それをシェラリンデは巧くいなす。
次に別の亜人が棍棒を振り降ろそうとするのが視界の中に入った所で、動きが止まった。
「その亜人を狙う」
ストゥールは目印代わりに機導砲を放ったのだ。
亜人がよろめいた所をシェラリンデが素早く刀を返して斬りつける。なかなかの深手のはず。
それでも、亜人は倒れない。傷ついた亜人は若干後ろに下がると、燃えさかる両腕を突きだす。すると、炎の矢が現れ、一直線にティスへ飛んで行った。
「炎の魔法を!?」
間一髪、木の幹を盾にして避けると、水の魔法で反撃する。
「見るからに、水に弱いはずよね」
魔力によって現れた水球を傷ついた亜人に向かって放つ。
避け損ねた亜人は吹き飛ぶ。炎が消えると共に息の根も止まったようだ。
「やはり、普通のゴブリンではなさそうだ」
オルドレイルが亜人の炎の伴った鋭い突きを避けながらの台詞。
その認識は正しかった。傷ついた亜人は各個撃破を防ぐ為か、一度後方に下がる。そして、炎の魔法を放つ。
戦術としては妥当とも思える事だが、それを亜人が連携しながら行うのだ。炎を纏っているだけではなく、他の能力も普通のゴブリンではないのは明白だ。
「近寄るだけで炎の熱と離れれば炎の魔法だね。ボクは前線を支えるから、計画通り、各個撃破だよ」
シェラリンデの素早い動きは亜人からの攻撃を許さなかった。
魔導機械が取り付けられた刀が振るわれる度に、刃が煌めく。
「これで、更に避けやすくなるはずだ」
ストゥールがマテリアルを前衛に流し込ませる。
取り巻きの亜人とハンター達との戦いに差が生じてきた。それは単に個々の力量もあるが、多彩な戦闘内容にもよるものだ。
傷ついた亜人を追撃するフライス。
魔導銃から放たれる弾が一瞬の光となっていく。
「一気にたたみ掛ける」
言葉通り、次々と冷静に引き金を引く。
その勢いに炎の魔法を放つ余裕を与えない。そして、それは、ティスにとっても援護となっていた。
「そうね。樹さん達が頑張ってくれている間に、取り巻きのゴブリンたちを片付けなきゃ」
彼女の作りだす水の魔法の効果は、他のハンターが持つ水属性の武器と共に、炎の亜人に対して有効であった。
一刻も早くダバデリ戦への援護に向かいたいというハンター達の思いも重なり、当初は拮抗していた戦況が傾き始める。
亜人の炎が揺れめきかけてきた。
●ダバデリ
炎を宿した棍棒の一撃を樹は、盾で受け流した。
その一撃は重く、また、ダバデリが近くにいるだけで、全身がやけどの様に痛む。
それでも、樹は正面に立ち続ける。自分が盾になる事でリルエナに攻撃の機会を作る為だ。
「君は、あの逃げてった大地のなんちゃらの親戚?」
相手の攻勢を和らげる為に、試しに呼び掛けてみたが、なんの役にも立ちそうには無い様子だった。
「アヤツは、我らの中でも、さい……」
「ヤァァ!」
ダバデリの言葉を遮って、リルエナが鋭い突きを繰り出し、太股に一撃を入れた。
だが、気にした様子もなくダバデリは棍棒を振るって反撃する。
一撃、二撃と連続して繰り出される棍棒の嵐を数歩下がって避けるリルエナの前に樹が盾を持って割り込む。
「雑魚が! どけぇ!」
怒りの言葉をあげてダバデリが渾身の力で、割って入って来た樹に棍棒を振り下ろした。
その勢いは盾で防いだ樹を後方に下がらせた。バランスを崩し、後ろに倒れる所を、なにか、柔らかい感触を後頭部に感じる。
「無茶し過ぎだぞ!」
見上げるとリルエナの端正な顔が間近に迫っていた。
低い声でドスが効いているが表情からは怒っている様子ではなさそうだ。
「後、少しの辛抱みたいだからね~」
樹の言葉は痩せ我慢ではない。
事実、取り巻きのゴブリンは駆逐されたのは、この直後の事であったからだ。
●業火の禍
「お前との斬り合いを楽しもう」
戦闘狂の様な歓喜の雰囲気を発しながらオルドレイルがダバデリとの距離を詰めて斬りかかる。
その斬撃を棍棒で受け止め、炎の亜人は周囲を見渡した。
連れて来た部下全員が地に伏せている。
「役立たず共め! 我らが主への忠誠心が足りんのだ」
「お前の言う『主』とやらが気になるところだ」
受け止められた斬撃をそのまま力任せに押す。
それは、無理矢理斬りつけようとする動きではなかった。視界の隅に映ったシェラリンデを掩護する為だ。
「ふん!」
ダバデリは空いた方の腕を突きだすと、腕先から炎が迸る。
木々の幹を蹴りあげ、蛇の様な動きで追撃してくる炎を避け、シェラリンデはワイヤーを鞭の様に扱い、突き出された腕を絡め取った。
「その腕、貰うよ」
続いてシェラリンデは絡め取った腕を引っ張りつつ、刀で切り付けた。
太い腕の中ほどまで刃が食い込む。
「リルエナ。待たせたな」
『北の戦乙女』の運動能力を上げる為に、自身のマテリアルを流し込みながらストゥールが声をかけた。
無理に突出し過ぎない様に忠告しておいたからだ。
「では、遠慮なくやらせてもらう!」
リルエナが聖なる力が込められた盾を前面に繰り出す。
その瞬間、盾から発せられた白い光が魔法陣を描きながら、彼女全身を包み込むように見えた。
強烈な衝撃でダバデリの姿勢が崩れるが、反撃する様に足を蹴りあげてきた。だが、その蹴りはリルエナに届かなかった。
「俺が援護する」
フライスの黒目の中の青い瞳が、ダバデリの動きを射抜いていたからだ。
彼女の放った銃撃は、先程、リルエナがいれた太股の傷の所に重なっている。
このダメージで亜人の炎は大きく揺れた。
「裁きの炎は神聖なるもの。お前達が軽々しく扱っているソレはただの殺人の道具だ」
「おのれ、人間共め!」
ダバデリが腕の戒めを強引に解き、体勢を整えた。
そこへ更に追撃――ティスが放った水の魔法だ。
「炎には水なのよね」
炎の亜人の表情が苦痛で歪んだ。
戦況は一気にハンター達に傾いている。
「さて、7対1だ。どーする?」
樹の言葉に亜人は不気味な笑みを浮かべる。
「7対1? 違うな!」
バッと両腕を広げると猛烈な炎が周囲に放たれた。
思わず、誰もが目を一瞬、背けたり閉じたりする。
「……なにか、変わった様には見えないよ?」
そんな疑問の声をあげたのは、シェラリンデだった。
油断なく刀を構えているが、目の前のダバデリに変化は見られない。
「これは……熱風か」
最初は弱く感じられた風は、切り裂くような鋭さよりも、熱さだと、ストゥールは警戒の声を発する。
森の中から吹いてきたそれは、突如として突風の様な勢いでハンター達に襲いかかった。
胴はまだしも、腕や足に激しいやけどの様な痛みを感じる。
「あつぃ! って、炎の雨なの?」
思わず頭部を守る為に、手を顔にかざすティス。
見上げれば、木々の葉や枝の合間から、炎の雨のような物が降ってきていた。
「森の中に、他の亜人がいる」
魔導銃を向けるフライスの言葉に一行は森の中を凝視した。
確かに、亜人の影が見える。それも……。
「ダバデリが2体居るように、ボクには見えるね」
シェラリンデの言う様に、森の中に『ダバデリ』が2体立っていたのだ。
それも全くの同じ姿形である。
「熱風と炎の雨とは、やっかいだな」
ストゥールが腕に一際大きい痛みを感じながら、苦痛を漏らす。
見れば、広範囲に炎の風と雨が広がっていた。幸い、森の中なので、その威力は軽減されている様ではあるのだが。
「長期戦になれば、不利になるな」
「なら、せめて、この亜人だけでもね」
フライスとティスが、やけどの様な痛みに耐えながらも、攻撃の手を緩めない。
森の中の新手は気になるが、各個撃破していけばいい事だ。
「ボクもその意見に賛成だね」
鋭い軌道を刀先で描きながら、シェラリンデが亜人に斬りつける。
よろめいた所を更に追撃! と思ったが、森の中から放たれた火球の魔法が爆発を起こす。
その間にも炎の風と雨は止む気配がなかった。森の中から『ダバデリ』の声が響く。
「やはり、森の中では、我が炎の全てが発揮されないか! 一時、退却だ」
再度、火球の魔法がハンター達に向かってくる。
ある者は避け、ある者は、太い木の幹に隠れる。
「グググッ!」
その一瞬の隙を突いて、先程まで戦っていたダバデリが森の中へと逃げていく。
「待て! 贄とはなんだ!」
「深追いは危険だ!」
ハンターの誰かが言った制止を無視し、リルエナが大きなそれを揺らしながら、森の中へと入って行った。
先に行ったアラン達を追いかけなければならないのに、リルエナが別行動である。しかも、敵は健在だ。
ハンター達はお互いに頷くと、オルドレイルと樹が森の中に飛び込んでいく。
残ったハンター達は、アラン達の後を急ぎ追いかける。時間を少しかけてしまったが、追いかけられないという程ではないと判断したからだ。
おしまい。
●聖女の妹
結局、リルエナは炎の亜人に追いつける事は無かった。
逆に、待ち伏せされている事も無かった。
それでも、執拗に追撃を止めないリルエナだったが、大きめの沢にぶち当たった所で足を止める。
「……来た道を引き返すのは危険かもしれない」
理由にはなる。しかし、ここまで来て言う台詞ではない。
「こ、ここから、下ろう。ウィーダの街に出られるはずだ」
沢沿いに歩きだすリルエナ。
「いいのか? アランを追いかけなくて。幽霊の正体を確かめなくて」
オルドレイルの台詞に、リルエナが立ち止まった。
『北の戦乙女』の足と手が、かすかに震えているようにも見える。
「……アランがいる。大丈夫だ」
少しの間の後に呟いた声は力が入っていない。
「……何があったかは知らないけど。気負いすぎて大事な事、忘れないようにね」
頭を垂れ、震えている肩を樹がポンポンと優しく叩いて声をかける。
その言葉に、まるで、堰を切ったように、リルエナの瞳から涙が流れた。
そして、嗚咽と共に声が途切れ途切れに森の中に響いた。いつもの低い声じゃなく、女性らしい高い声で。
「……エリ……カお姉ちゃん……が、ゆう……れい……な、わけが……」
その場で崩れ落ちるように座り込むリルエナ。
『北の戦乙女』ではなく、まるで、1人の少女が泣き崩れているように、オルドレイルと樹は感じたのであった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/03 16:54:00 |
|
![]() |
相談卓 シェラリンデ(ka3332) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/07/07 10:48:10 |