ゲスト
(ka0000)
深い霧の中に
マスター:神崎結衣

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/18 19:00
- 完成日
- 2014/07/24 21:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
青年が足の不自由な妻を連れて霧の深い小さな農村に家を構えたのは、ほんの一年前のことだ。都会の喧騒から離れた穏やかな暮らしは幸せだった。このままずっとこの幸せが続くものだと思っていた。
けれど、あの日唐突に終わってしまったのだ。
大抵の物は村で手に入るが、時折、都会に出て色々な物を買い足すことがあった。その日も青年は妻を置いて家を出た。
そして数時間の後、村に帰る道の途中で青ざめた村人達が走って来るのに遭遇したのだった。
「ジャイアントとゴブリンが村に出た! あんたも戻っちゃ駄目だ!」
そう話している間にも、次々と村人が青年を追い抜いていった。しかしざっと見る限りで、これは村に残っていた全員ではない。青年の妻は見当たらない。
村人の制止を無視して走りだそうとした青年を、複数人の男が押さえつけた。
「離してくれ、妻が家に……!」
「……あんたの家はもう半分くらい潰されちまってる、私も助けようと思ったがもう……」
そう苦々しい顔で言ったのは、隣に住んでいる老人だった。
「何だって!? それならなおさら早く助けに――」
「あいつらは武器も持ってるんだ! あんた戦えるのかよ! ただ死にに行くことに何の意味があるっていうんだ!?」
激しく怒鳴られ、青年は言葉を失う。
彼の言う通り、青年には戦う力は無かった。
けれど、そんなことは百も承知で、それでも走り出さずにいられなかったのだ。
「ったく、力尽くでも連れて行くから、な!」
なおも男達の手を振り解こうとする青年の身体に、鈍い衝撃が走った。殴られたらしい。ぐらりと世界が歪んだ。
この程度で気絶してしまう青年には、やはり妻の元へたどり着くことは出来なかったのだろう。
青年は呆然とベッドに横たわり天井を眺めている。今頃ハンターが討伐しに行っている頃だ。
(下手な希望は持たないようにしようと思ったが、私が信じずに誰が信じるというのだ。きっと彼女はまだ家の隅で震えながら助けを待っている――)
けれど、あの日唐突に終わってしまったのだ。
大抵の物は村で手に入るが、時折、都会に出て色々な物を買い足すことがあった。その日も青年は妻を置いて家を出た。
そして数時間の後、村に帰る道の途中で青ざめた村人達が走って来るのに遭遇したのだった。
「ジャイアントとゴブリンが村に出た! あんたも戻っちゃ駄目だ!」
そう話している間にも、次々と村人が青年を追い抜いていった。しかしざっと見る限りで、これは村に残っていた全員ではない。青年の妻は見当たらない。
村人の制止を無視して走りだそうとした青年を、複数人の男が押さえつけた。
「離してくれ、妻が家に……!」
「……あんたの家はもう半分くらい潰されちまってる、私も助けようと思ったがもう……」
そう苦々しい顔で言ったのは、隣に住んでいる老人だった。
「何だって!? それならなおさら早く助けに――」
「あいつらは武器も持ってるんだ! あんた戦えるのかよ! ただ死にに行くことに何の意味があるっていうんだ!?」
激しく怒鳴られ、青年は言葉を失う。
彼の言う通り、青年には戦う力は無かった。
けれど、そんなことは百も承知で、それでも走り出さずにいられなかったのだ。
「ったく、力尽くでも連れて行くから、な!」
なおも男達の手を振り解こうとする青年の身体に、鈍い衝撃が走った。殴られたらしい。ぐらりと世界が歪んだ。
この程度で気絶してしまう青年には、やはり妻の元へたどり着くことは出来なかったのだろう。
青年は呆然とベッドに横たわり天井を眺めている。今頃ハンターが討伐しに行っている頃だ。
(下手な希望は持たないようにしようと思ったが、私が信じずに誰が信じるというのだ。きっと彼女はまだ家の隅で震えながら助けを待っている――)
リプレイ本文
●霧の村にて
依頼を受けた一行が村の放牧地に向かうと、深い霧の向こうに三メートル程の巨体を持つジャイアント一体と、その足元に見え隠れするゴブリンが二体確認できた。ジャイアントは棍棒を、ゴブリンは弓を持っており、全員が簡素な鎧を身に纏っているようだ。
「今日は、ゴブリンにジャイアントか……こうして見るのは初めてだね。まぁ、やる事に変わりはないが」
Charlotte・V・K(ka0468)が武器を構え、戦闘の体勢に入る。その身に纏う雰囲気が、心なしか変わったように見えた。
「随分と大型の客人だな。ここはひとつ、丁重にもてなしてやるとしよう」
「実戦で剣を抜くのは久々だ、やれるかどうか…」
ユルゲンス・クリューガー(ka2335)、ロニ・カルディス(ka0551)もそれぞれに思うことは違えど、目の前のジャイアントを共に見据えた。
「足が動かない女性が逃げ遅れたとか聞いたから、俺はとりあえず助けに行こうと思うんだけど?」
一方、如月・涼一(ka1734)は背後にある半壊した家を振り返る。依頼自体はジャイアントとゴブリンの殲滅なのだが、受付嬢が最後に言い添えるように、ある青年の訴えを伝えてきたのだった。何でも彼の妻が半壊した家の中にいて、きっと生きているから助けて欲しいと頼んできたのだった。
「わかった。救出の時間を稼ぐ為にも、少しでも村から引き剥がすしかあるまい。少々危険だが、打って出る事にしよう」
榊 兵庫(ka0010)が敵の動きを確認しながら言う。ジャイアントがもしも家を完全に壊してしまったら、女性を助けようがない。女性の安否を確認できるまでは足止めをする必要があった。
「俺としちゃ放っとけよと思うがね。……この程度で死ぬようなヤツはよ、この世界で生きてくにゃ弱すぎんだよ」
そのやり取りを聞きながら、クリスタ・K・シュテルベルン(ka0289)は携帯していた弓に持ち替えながら呟いた。
●戦闘開始
「今回は速さを重視っとね」
ジャイアントとゴブリンがこちらに気付き走り寄って来る中、涼一はナイフ一本のみを携えた軽装でマテリアルを脚に込め、素早く女性がいるという家へ向かった。他の全員は村に敵を近付けないべく前進していく。
その途中にクリスタが威嚇に放った矢は霧に紛れたゴブリンには当たらなかったが、ゴブリンはその挑発に乗って簡素な弓から矢を放ち、クリスタの胴に傷を作った。
「立ち塞がるものは殲滅する。戦争屋の私がする事は、今も昔もそれだけだ」
ジャイアントともう一体のゴブリンがまっすぐに向かってきたところで、Charlotteがユルゲンスと自身にマテリアルを流入して動きをより洗練された物にしていく。
「……貴様等とは散々戦った筈だがな、この漲るような闘志は何だというのだ」
一歩踏み込んで大きく振るわれたユルゲンスの剣がジャイアントの足に一撃を見舞って、戦闘の開始を告げた。
それに反撃したジャイアントの棍棒がユルゲンスの頭に当たり、それに合わせてゴブリン達が放った矢はクリスタとロニに避けられて空間を切り裂いて行った。
ここで霧に紛れて大回りに敵との間合いを詰めていた兵庫にゴブリンが気付き、何か言葉のような物を発した。兵庫は一気に間合いを詰めて勢い良く薙刀を振り下ろしたが、ゴブリンは素早い動きで回避して再度弓を構えた。
後方支援に回ったCharlotteはロニにマテリアルを流入させて攻撃力を高めると共に、構えていた銃でジャイアントの足を撃った。銃弾は動物の皮で作られていると思われる靴を貫通し、ジャイアントが発した低い地響きのような唸り声が空気を振動させる。
「さて、一つ手痛い教訓を教えてやろう」
そこにロニがマテリアルにより活性化した身体でストライクブロウを決め、ジャイアントの腕にウォーハンマーがめり込む鈍い音が鳴った。ユルゲンスはジャイアントの攻撃対象を分散させるために敢えて攻撃を止め、ロニの対角線上へと位置を調整して行く。
狙い通りに今度はロニを攻撃しようとジャイアントが大きく腕を振り下ろしたが、狙いは逸れて地面を叩く轟音が響いただけだ。それに苛立ったのか、ジャイアントは三人の間を突破しようと更に前進する。
様子を見ながらゴブリンに接近していたクリスタが武器を持ち替えたところで、ゴブリン達がそれぞれに放った矢がクリスタと兵庫に命中した。
「なに、傷は浅い。その程度ならすぐ復帰できる」
戦場を見回したロニが手早くクリスタを癒やすと共にジャイアントを追いかける。
「ご丁寧にどーも。大したこと無かったけどな」
少し離れた場所にいるロニを一瞬だけ見やったクリスタは短く礼を告げ、すぐに目の前のゴブリンに向き直った。
「生憎畜生如きに抜く剣は持ち合わせてないもんでな、この粗末な槍で十分だろ」
やや遠めの間合いからその手に握ったグレイブを突き出したが、敏捷なゴブリンはさっとそれを避けた。ゴブリンが得意としている弓を下ろして素手で殴りかかってくるのをクリスタも避け、その場は接近戦に持ち込まれた。
対して兵庫が相手をするゴブリンはジャイアントの方に逃げようとした。
「おっと、逃げられると思ったか?」
しかし逃すまいと注意深く位置を取った兵庫に阻まれ、薙刀のリーチを生かした攻撃を受けることとなった。ゴブリンも負けじと矢を放ったが、結局双方の攻撃が当たらず緊張した空気が張り詰める。
「血が滾るわ!」
「おまえの相手はそっちにはいないよ!」
村の方へ進もうとするジャイアントを追いかけつつユルゲンスとCharlotteが繰り出した攻撃はそれぞれジャイアントの下半身に集中し、ジャイアントは鎧の隙間から血を流した。その場で闇雲に振り回した棍棒は誰にも当たらず、ただいたずらに地面を陥没させていく。
「ほら、よそ見をしていると背中が空く」
更にその背中にロニがストライクブロウを見舞うとジャイアントは歩を止め、腕を振り回して暴れ出す。
「とっととケリつけてやるよ」
クリスタはゴブリンの拳を素早く避けると、そのまま攻撃のみを考えた構えで踏み込んで強烈な一撃を繰り出した。回避できなかったゴブリンの脚にグレイブが深々と突き刺さり、引き抜いた刃を追って血しぶきが飛び、かなりの痛手だったことを物語る。
「その程度の攻撃じゃ全然大したことないな、所詮ゴブリンってところか」
兵庫はゴブリンの矢で足に負傷したところで素早く傷を癒やすと、一歩踏み込んで力を込め薙刀を振った。こちらのゴブリンもその攻撃を避けきれず、脚を斬りつけられて短い叫び声を発した。
●救助活動
その頃、女性が取り残されているという家の前にたどり着いていた涼一は慎重に家の中を捜索していた。普通の状態であればすぐに女性を見つけることができただろうが、何しろ家は半分崩れ落ちており、他の部分もいつ崩れるかわからない。そのためゆっくりと進まざるを得なかった。
「おーい、誰かいるー?」
「た、助けてください! こっちです、廊下の奥です!」
幸いにも逃げ遅れた女性は生きていたようだった。涼一が家の奥からの声を追って行くと、彼女はダイニングテーブルの下にうずくまっており、涼一の姿を目にすると涙を流し出した。
「ああ、ありがとうございます、ありがとうございます……! このままここで死んでしまうのだとばかり思って……」
「うんうん、生きてて何より。家が潰れる前に安全な場所に避難しよう」
涼一は彼女を担ぎ上げると半壊した家から脱出し、激しい戦闘を繰り広げている様子を背にして彼女を運んだ。戦闘地点から十分離れた場所に彼女を座らせると、再び脚にマテリアルを込めて素早くその場を後にした。
●後半戦
涼一が通信機の類を持っていなかったため、救助の状況は戦闘中の仲間には一切不明だった。
「お待たせー。助けてきた。かなり遠くに座らせてるから多分大丈夫だと思う」
「そうか、無事でよかった。これで何も心配せず戦えるな」
しかし颯爽と戦場に戻ってきた涼一が女性を救出したことを伝え、Charlotteを始め、場が一瞬安堵の雰囲気に包まれた。
その間にも戦いは止まらない。
ユルゲンスがジャイアントを囲みながら移動している間にCharlotteが銃をジャイアントの胴に撃ち込む。ロニが追撃を図ったが僅差で狙いが逸れ、ウォーハンマーは空を切った。
「俺は臆病だから捕縛とかはちょっと無理」
戦場に戻ってきたばかりの涼一がロニの攻撃の合間に素早くナイフを鎧の隙間に突き刺した。
「っとぉ! だから危険は嫌いだし逃げるって!」
それに反応してジャイアントが構えたのを見て涼一がその場からさっと引く。直後に広範囲に振られた棍棒を避けられなかったロニは胴に重い一撃を受けた。
その横では兵庫とゴブリンの戦いが続いており、互いに攻撃を避けあってなかなか決着がつかない。
「これで終わりだな」
もう一体のゴブリンを相手にしていたクリスタは続けて全力の一撃を見舞い、胴体をぐさりと貫かれたゴブリンは力を失ってその場に崩れ落ちた。
「こちらもそろそろ弱ってきたか」
Charlotteはだいぶ攻撃を食らったジャイアントを見て自身の攻撃力を高めると、機導砲を使った。眩い光がジャイアントの胴体を貫く。
「喰らえ!」
その隙にユンゲルスが一気に懐へ踏み込んで全力の一撃を見舞った。
「蝶のように舞い、ゴキブリのように逃げる! ――と見せかけて蜂のように刺す! そして逃げる!!」
ロニがその場から一歩引きつつ体力を回復している間に、涼一が再びジャイアントをナイフで刺して即離脱する。
「さて、矢1本につき10万Gの貸しだ」
ゴブリンを倒した後に武器を弓に持ち替えていたクリスタが放った矢もジャイアントの脚に突き刺さった。
四方から攻撃を食らったジャイアントは最も近くにいたユンゲルスに殴りかかったが、狙いが甘く当たらない。しかし続けて逆の手で振った棍棒は兜に包まれた頭に当たり重い音を発した。
「それにしても、すばしっこいだけが取り柄ってか。せっかくLEDライトも持ってきたってのに、出番無さそうだな」
一方兵庫は再三攻撃を避け続けるゴブリンの懐に踏み込み、その脚を強く斬り付けるとまた間合いを取った。ゴブリンも弓を構えて間合いを取ると、兵庫の頭と胴に続けて矢を命中させて反撃する。
「畳み掛けていくよ!」
ユンゲルスが間合いを取りながら回復している横でCharlotteが機導砲を撃ったが、ジャイアントは流石に体力に不安を感じ始めたのかそれを避けた。
「こちらは避けられるかな」
「あー、さっさと帰りたいんだって」
しかし直後にジャイアントを囲むロニと涼一がジャイアントの胴に攻撃を集中させた。
クリスタの矢も命中して着実にダメージを与えていく。
「さて、そろそろ終わりにしようか!」
兵庫はゴブリンを牽制しながら間合いを取り、傷を癒してから会心の一撃を繰り出した。ゴブリンはその攻撃を避けられず、血しぶきをあげながらその場に倒れ伏した。
そして体力を武器にしぶとく戦い続けたジャイアントもついに倒れる時が来た。
「こちらも終わりだ」
「行くぞ!」
Charlotteの機導砲、そしてユンゲルスが放った強打がそれぞれ胴と脚に深い傷を作り、ジャイアントは叫び声を上げたかと思うとその巨体を支える力を失って轟音を上げながら地面に倒れこんだのだった。
●仕事終わりに
「あなた……!」
「おお、良かった……! きっと生きていると信じていたよ! 助けに行けなくて本当にすまなかった……」
無事に救出された女性は、夫である青年の元へと送り届けられた。
「本当にありがとうございます。何とお礼を申し上げて良いか……」
「ふむ、家族が無事で何よりだな……」
妻と再開して何度も頭を下げる青年を前にロニやCharlotteが安心した表情を見せる。ユンゲルスも兜に隠れて表情は見えないが、彼らの再会を喜んでいるように見えた。
「あーあ、働いたら負けだってのに……帰ってぐーたらするべするべ」
その様子を見届けると、涼一は青年からのお礼の言葉をまともに受け取る間もなく、そんなことを呟きながらふらっとその場を立ち去ってしまった。
「ところで一言物申してぇんだけど、今回みたいなのは散々自然を荒らしてきたツケが回ってきたってこった」
クリスタは少し離れたところで壁にもたれていたが、徐ろに口を開いた。
「あんたらは周りの力のある奴が支えてっからまだ生きてられてっけど、本当なら生存競争の中で篩い落とされてるとこだ。
またこういうことになったときにどうすんのか知らねぇけど、この世の中で生きるつもりなら身の程弁えて自分を見直す方がいいんじゃねぇの?」
青年はクリスタの言葉を受け止め、思考を巡らせるように目を僅かに伏せた。そして少しの沈黙の後、彼をまっすぐに見て言った。
「確かに私達は自然を壊して生きていて、亜人に襲われても仕方ないかもしれません。その時にあなた方のような存在に守って貰っていることもわかっています。
それでも私は、そんな自分が未熟だとは思いません。何の才能も持たず、一人では生きられない弱い人間がこの世界で生きるために出来るのは、戦うことだけではないんです。
……私達はこれからも家畜を育てて食料を売ることで、周りに恩を返しながら生きます」
依頼を受けた一行が村の放牧地に向かうと、深い霧の向こうに三メートル程の巨体を持つジャイアント一体と、その足元に見え隠れするゴブリンが二体確認できた。ジャイアントは棍棒を、ゴブリンは弓を持っており、全員が簡素な鎧を身に纏っているようだ。
「今日は、ゴブリンにジャイアントか……こうして見るのは初めてだね。まぁ、やる事に変わりはないが」
Charlotte・V・K(ka0468)が武器を構え、戦闘の体勢に入る。その身に纏う雰囲気が、心なしか変わったように見えた。
「随分と大型の客人だな。ここはひとつ、丁重にもてなしてやるとしよう」
「実戦で剣を抜くのは久々だ、やれるかどうか…」
ユルゲンス・クリューガー(ka2335)、ロニ・カルディス(ka0551)もそれぞれに思うことは違えど、目の前のジャイアントを共に見据えた。
「足が動かない女性が逃げ遅れたとか聞いたから、俺はとりあえず助けに行こうと思うんだけど?」
一方、如月・涼一(ka1734)は背後にある半壊した家を振り返る。依頼自体はジャイアントとゴブリンの殲滅なのだが、受付嬢が最後に言い添えるように、ある青年の訴えを伝えてきたのだった。何でも彼の妻が半壊した家の中にいて、きっと生きているから助けて欲しいと頼んできたのだった。
「わかった。救出の時間を稼ぐ為にも、少しでも村から引き剥がすしかあるまい。少々危険だが、打って出る事にしよう」
榊 兵庫(ka0010)が敵の動きを確認しながら言う。ジャイアントがもしも家を完全に壊してしまったら、女性を助けようがない。女性の安否を確認できるまでは足止めをする必要があった。
「俺としちゃ放っとけよと思うがね。……この程度で死ぬようなヤツはよ、この世界で生きてくにゃ弱すぎんだよ」
そのやり取りを聞きながら、クリスタ・K・シュテルベルン(ka0289)は携帯していた弓に持ち替えながら呟いた。
●戦闘開始
「今回は速さを重視っとね」
ジャイアントとゴブリンがこちらに気付き走り寄って来る中、涼一はナイフ一本のみを携えた軽装でマテリアルを脚に込め、素早く女性がいるという家へ向かった。他の全員は村に敵を近付けないべく前進していく。
その途中にクリスタが威嚇に放った矢は霧に紛れたゴブリンには当たらなかったが、ゴブリンはその挑発に乗って簡素な弓から矢を放ち、クリスタの胴に傷を作った。
「立ち塞がるものは殲滅する。戦争屋の私がする事は、今も昔もそれだけだ」
ジャイアントともう一体のゴブリンがまっすぐに向かってきたところで、Charlotteがユルゲンスと自身にマテリアルを流入して動きをより洗練された物にしていく。
「……貴様等とは散々戦った筈だがな、この漲るような闘志は何だというのだ」
一歩踏み込んで大きく振るわれたユルゲンスの剣がジャイアントの足に一撃を見舞って、戦闘の開始を告げた。
それに反撃したジャイアントの棍棒がユルゲンスの頭に当たり、それに合わせてゴブリン達が放った矢はクリスタとロニに避けられて空間を切り裂いて行った。
ここで霧に紛れて大回りに敵との間合いを詰めていた兵庫にゴブリンが気付き、何か言葉のような物を発した。兵庫は一気に間合いを詰めて勢い良く薙刀を振り下ろしたが、ゴブリンは素早い動きで回避して再度弓を構えた。
後方支援に回ったCharlotteはロニにマテリアルを流入させて攻撃力を高めると共に、構えていた銃でジャイアントの足を撃った。銃弾は動物の皮で作られていると思われる靴を貫通し、ジャイアントが発した低い地響きのような唸り声が空気を振動させる。
「さて、一つ手痛い教訓を教えてやろう」
そこにロニがマテリアルにより活性化した身体でストライクブロウを決め、ジャイアントの腕にウォーハンマーがめり込む鈍い音が鳴った。ユルゲンスはジャイアントの攻撃対象を分散させるために敢えて攻撃を止め、ロニの対角線上へと位置を調整して行く。
狙い通りに今度はロニを攻撃しようとジャイアントが大きく腕を振り下ろしたが、狙いは逸れて地面を叩く轟音が響いただけだ。それに苛立ったのか、ジャイアントは三人の間を突破しようと更に前進する。
様子を見ながらゴブリンに接近していたクリスタが武器を持ち替えたところで、ゴブリン達がそれぞれに放った矢がクリスタと兵庫に命中した。
「なに、傷は浅い。その程度ならすぐ復帰できる」
戦場を見回したロニが手早くクリスタを癒やすと共にジャイアントを追いかける。
「ご丁寧にどーも。大したこと無かったけどな」
少し離れた場所にいるロニを一瞬だけ見やったクリスタは短く礼を告げ、すぐに目の前のゴブリンに向き直った。
「生憎畜生如きに抜く剣は持ち合わせてないもんでな、この粗末な槍で十分だろ」
やや遠めの間合いからその手に握ったグレイブを突き出したが、敏捷なゴブリンはさっとそれを避けた。ゴブリンが得意としている弓を下ろして素手で殴りかかってくるのをクリスタも避け、その場は接近戦に持ち込まれた。
対して兵庫が相手をするゴブリンはジャイアントの方に逃げようとした。
「おっと、逃げられると思ったか?」
しかし逃すまいと注意深く位置を取った兵庫に阻まれ、薙刀のリーチを生かした攻撃を受けることとなった。ゴブリンも負けじと矢を放ったが、結局双方の攻撃が当たらず緊張した空気が張り詰める。
「血が滾るわ!」
「おまえの相手はそっちにはいないよ!」
村の方へ進もうとするジャイアントを追いかけつつユルゲンスとCharlotteが繰り出した攻撃はそれぞれジャイアントの下半身に集中し、ジャイアントは鎧の隙間から血を流した。その場で闇雲に振り回した棍棒は誰にも当たらず、ただいたずらに地面を陥没させていく。
「ほら、よそ見をしていると背中が空く」
更にその背中にロニがストライクブロウを見舞うとジャイアントは歩を止め、腕を振り回して暴れ出す。
「とっととケリつけてやるよ」
クリスタはゴブリンの拳を素早く避けると、そのまま攻撃のみを考えた構えで踏み込んで強烈な一撃を繰り出した。回避できなかったゴブリンの脚にグレイブが深々と突き刺さり、引き抜いた刃を追って血しぶきが飛び、かなりの痛手だったことを物語る。
「その程度の攻撃じゃ全然大したことないな、所詮ゴブリンってところか」
兵庫はゴブリンの矢で足に負傷したところで素早く傷を癒やすと、一歩踏み込んで力を込め薙刀を振った。こちらのゴブリンもその攻撃を避けきれず、脚を斬りつけられて短い叫び声を発した。
●救助活動
その頃、女性が取り残されているという家の前にたどり着いていた涼一は慎重に家の中を捜索していた。普通の状態であればすぐに女性を見つけることができただろうが、何しろ家は半分崩れ落ちており、他の部分もいつ崩れるかわからない。そのためゆっくりと進まざるを得なかった。
「おーい、誰かいるー?」
「た、助けてください! こっちです、廊下の奥です!」
幸いにも逃げ遅れた女性は生きていたようだった。涼一が家の奥からの声を追って行くと、彼女はダイニングテーブルの下にうずくまっており、涼一の姿を目にすると涙を流し出した。
「ああ、ありがとうございます、ありがとうございます……! このままここで死んでしまうのだとばかり思って……」
「うんうん、生きてて何より。家が潰れる前に安全な場所に避難しよう」
涼一は彼女を担ぎ上げると半壊した家から脱出し、激しい戦闘を繰り広げている様子を背にして彼女を運んだ。戦闘地点から十分離れた場所に彼女を座らせると、再び脚にマテリアルを込めて素早くその場を後にした。
●後半戦
涼一が通信機の類を持っていなかったため、救助の状況は戦闘中の仲間には一切不明だった。
「お待たせー。助けてきた。かなり遠くに座らせてるから多分大丈夫だと思う」
「そうか、無事でよかった。これで何も心配せず戦えるな」
しかし颯爽と戦場に戻ってきた涼一が女性を救出したことを伝え、Charlotteを始め、場が一瞬安堵の雰囲気に包まれた。
その間にも戦いは止まらない。
ユルゲンスがジャイアントを囲みながら移動している間にCharlotteが銃をジャイアントの胴に撃ち込む。ロニが追撃を図ったが僅差で狙いが逸れ、ウォーハンマーは空を切った。
「俺は臆病だから捕縛とかはちょっと無理」
戦場に戻ってきたばかりの涼一がロニの攻撃の合間に素早くナイフを鎧の隙間に突き刺した。
「っとぉ! だから危険は嫌いだし逃げるって!」
それに反応してジャイアントが構えたのを見て涼一がその場からさっと引く。直後に広範囲に振られた棍棒を避けられなかったロニは胴に重い一撃を受けた。
その横では兵庫とゴブリンの戦いが続いており、互いに攻撃を避けあってなかなか決着がつかない。
「これで終わりだな」
もう一体のゴブリンを相手にしていたクリスタは続けて全力の一撃を見舞い、胴体をぐさりと貫かれたゴブリンは力を失ってその場に崩れ落ちた。
「こちらもそろそろ弱ってきたか」
Charlotteはだいぶ攻撃を食らったジャイアントを見て自身の攻撃力を高めると、機導砲を使った。眩い光がジャイアントの胴体を貫く。
「喰らえ!」
その隙にユンゲルスが一気に懐へ踏み込んで全力の一撃を見舞った。
「蝶のように舞い、ゴキブリのように逃げる! ――と見せかけて蜂のように刺す! そして逃げる!!」
ロニがその場から一歩引きつつ体力を回復している間に、涼一が再びジャイアントをナイフで刺して即離脱する。
「さて、矢1本につき10万Gの貸しだ」
ゴブリンを倒した後に武器を弓に持ち替えていたクリスタが放った矢もジャイアントの脚に突き刺さった。
四方から攻撃を食らったジャイアントは最も近くにいたユンゲルスに殴りかかったが、狙いが甘く当たらない。しかし続けて逆の手で振った棍棒は兜に包まれた頭に当たり重い音を発した。
「それにしても、すばしっこいだけが取り柄ってか。せっかくLEDライトも持ってきたってのに、出番無さそうだな」
一方兵庫は再三攻撃を避け続けるゴブリンの懐に踏み込み、その脚を強く斬り付けるとまた間合いを取った。ゴブリンも弓を構えて間合いを取ると、兵庫の頭と胴に続けて矢を命中させて反撃する。
「畳み掛けていくよ!」
ユンゲルスが間合いを取りながら回復している横でCharlotteが機導砲を撃ったが、ジャイアントは流石に体力に不安を感じ始めたのかそれを避けた。
「こちらは避けられるかな」
「あー、さっさと帰りたいんだって」
しかし直後にジャイアントを囲むロニと涼一がジャイアントの胴に攻撃を集中させた。
クリスタの矢も命中して着実にダメージを与えていく。
「さて、そろそろ終わりにしようか!」
兵庫はゴブリンを牽制しながら間合いを取り、傷を癒してから会心の一撃を繰り出した。ゴブリンはその攻撃を避けられず、血しぶきをあげながらその場に倒れ伏した。
そして体力を武器にしぶとく戦い続けたジャイアントもついに倒れる時が来た。
「こちらも終わりだ」
「行くぞ!」
Charlotteの機導砲、そしてユンゲルスが放った強打がそれぞれ胴と脚に深い傷を作り、ジャイアントは叫び声を上げたかと思うとその巨体を支える力を失って轟音を上げながら地面に倒れこんだのだった。
●仕事終わりに
「あなた……!」
「おお、良かった……! きっと生きていると信じていたよ! 助けに行けなくて本当にすまなかった……」
無事に救出された女性は、夫である青年の元へと送り届けられた。
「本当にありがとうございます。何とお礼を申し上げて良いか……」
「ふむ、家族が無事で何よりだな……」
妻と再開して何度も頭を下げる青年を前にロニやCharlotteが安心した表情を見せる。ユンゲルスも兜に隠れて表情は見えないが、彼らの再会を喜んでいるように見えた。
「あーあ、働いたら負けだってのに……帰ってぐーたらするべするべ」
その様子を見届けると、涼一は青年からのお礼の言葉をまともに受け取る間もなく、そんなことを呟きながらふらっとその場を立ち去ってしまった。
「ところで一言物申してぇんだけど、今回みたいなのは散々自然を荒らしてきたツケが回ってきたってこった」
クリスタは少し離れたところで壁にもたれていたが、徐ろに口を開いた。
「あんたらは周りの力のある奴が支えてっからまだ生きてられてっけど、本当なら生存競争の中で篩い落とされてるとこだ。
またこういうことになったときにどうすんのか知らねぇけど、この世の中で生きるつもりなら身の程弁えて自分を見直す方がいいんじゃねぇの?」
青年はクリスタの言葉を受け止め、思考を巡らせるように目を僅かに伏せた。そして少しの沈黙の後、彼をまっすぐに見て言った。
「確かに私達は自然を壊して生きていて、亜人に襲われても仕方ないかもしれません。その時にあなた方のような存在に守って貰っていることもわかっています。
それでも私は、そんな自分が未熟だとは思いません。何の才能も持たず、一人では生きられない弱い人間がこの世界で生きるために出来るのは、戦うことだけではないんです。
……私達はこれからも家畜を育てて食料を売ることで、周りに恩を返しながら生きます」
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作戦会議卓 ユルゲンス・クリューガー(ka2335) 人間(クリムゾンウェスト)|40才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/07/18 16:29:07 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/13 17:51:38 |