ゲスト
(ka0000)
一匹見たら数十匹……? 住み着いた厄介者
マスター:sagitta

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/08 19:00
- 完成日
- 2015/07/17 00:29
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●鉱山にて
自由都市同盟の都市のひとつ、フマーレにほど近い中規模の鉱山。そこには、都市の近くにある鉱山の例に漏れず、ドワーフの一群が住み着いてくらしていた。その数は、職人や鉱夫20人とその家族で総勢70名ほど。集落には目立って大きな施設などはないが、取引先であり、買い出し先でもあるフマーレに徒歩で1日ほどという便利さもあり、住民達はそれなりにしあわせな暮らしを営んでいた。
――奴らが、来るまでは。
「くそ、忌々しい、やっかいな奴らが住み着きやがった」
今後の対策を協議する集会の席上で、血気盛んな若い鉱夫が、悪態をついた。
「これじゃ、あぶなっかしくておちおち酒も飲めねぇ」
「しかも、いつの間にかあいつら、どんどん増えやがる……」
「1匹見たら100匹とか言うからな……」
「くそ、だから最初の奴を見つけたときに駆除しとけば良かったんだ。弱気な族長が、様子を見よう、なんて言うもんだから……」
「す、すまない……」
まだそれほど年長とは思えない、人の良さそうな族長が、申し訳なさそうに頭を下げる。族長とは言え、小さな集落の長ともなれば、「ちょっと気のいいリーダー」にすぎない。まして彼は、1年ほど前に前任者が事故で亡くなったあとに新しく族長になったばかりだった。
「で? どうするんだ? 殴り込みか? このままにしとくってわけにはいかないだろ?」
鍛え上げられた筋肉を誇示するように族長に向かって尋ねたのは、最初に悪態をついた若い鉱夫だ。気圧されるように一歩下がった族長は、絞り出すように言った。
「ハンターオフィスに、力を借りようと思うんだ」
●ハンターオフィスにて
「なるほど、コボルドの集団がすみついたと」
ドワーフの族長の話を聞いた受付嬢が、真剣な面持ちでうなずいた。
鉱山の厄介者の正体は、コボルドとよばれる亜人だ。「ドワーフの宿敵」ともよばれる彼らは、どう猛で野蛮な暮らしをしていて、食べ物を得るためにドワーフや人間達を襲うことも少なくない。
数ヶ月前に、老朽化して封鎖していた坑道のひとつに、数匹のコボルドが住み着いたのだという。コボルドは、繁殖力が非常に高いのが特徴だ。あっという間に数匹だったはずのコボルドは数十匹になり――まだドワーフたちに人的な被害は出ていないものの、食料を保管していた倉庫から食べ物が盗まれたり、井戸から水が盗られたりするなど、だんだんと無視できない状況になってきたのだという。
「コボルドを一掃する、という依頼ですか? 数十匹ともなると、なかなかたいへんそうですが」
「とりあえず、われわれの行動圏内から出て行ってくれればかまわない。もちろん、一掃できるに越したことはないが……。必要なら、集落から人手を出すこともできるだろう。戦いの心得があるわけではないが、ふだんから採掘と鍛冶で鍛えている屈強な男達が10人はいる」
「わかりました。依頼してみましょう」
自由都市同盟の都市のひとつ、フマーレにほど近い中規模の鉱山。そこには、都市の近くにある鉱山の例に漏れず、ドワーフの一群が住み着いてくらしていた。その数は、職人や鉱夫20人とその家族で総勢70名ほど。集落には目立って大きな施設などはないが、取引先であり、買い出し先でもあるフマーレに徒歩で1日ほどという便利さもあり、住民達はそれなりにしあわせな暮らしを営んでいた。
――奴らが、来るまでは。
「くそ、忌々しい、やっかいな奴らが住み着きやがった」
今後の対策を協議する集会の席上で、血気盛んな若い鉱夫が、悪態をついた。
「これじゃ、あぶなっかしくておちおち酒も飲めねぇ」
「しかも、いつの間にかあいつら、どんどん増えやがる……」
「1匹見たら100匹とか言うからな……」
「くそ、だから最初の奴を見つけたときに駆除しとけば良かったんだ。弱気な族長が、様子を見よう、なんて言うもんだから……」
「す、すまない……」
まだそれほど年長とは思えない、人の良さそうな族長が、申し訳なさそうに頭を下げる。族長とは言え、小さな集落の長ともなれば、「ちょっと気のいいリーダー」にすぎない。まして彼は、1年ほど前に前任者が事故で亡くなったあとに新しく族長になったばかりだった。
「で? どうするんだ? 殴り込みか? このままにしとくってわけにはいかないだろ?」
鍛え上げられた筋肉を誇示するように族長に向かって尋ねたのは、最初に悪態をついた若い鉱夫だ。気圧されるように一歩下がった族長は、絞り出すように言った。
「ハンターオフィスに、力を借りようと思うんだ」
●ハンターオフィスにて
「なるほど、コボルドの集団がすみついたと」
ドワーフの族長の話を聞いた受付嬢が、真剣な面持ちでうなずいた。
鉱山の厄介者の正体は、コボルドとよばれる亜人だ。「ドワーフの宿敵」ともよばれる彼らは、どう猛で野蛮な暮らしをしていて、食べ物を得るためにドワーフや人間達を襲うことも少なくない。
数ヶ月前に、老朽化して封鎖していた坑道のひとつに、数匹のコボルドが住み着いたのだという。コボルドは、繁殖力が非常に高いのが特徴だ。あっという間に数匹だったはずのコボルドは数十匹になり――まだドワーフたちに人的な被害は出ていないものの、食料を保管していた倉庫から食べ物が盗まれたり、井戸から水が盗られたりするなど、だんだんと無視できない状況になってきたのだという。
「コボルドを一掃する、という依頼ですか? 数十匹ともなると、なかなかたいへんそうですが」
「とりあえず、われわれの行動圏内から出て行ってくれればかまわない。もちろん、一掃できるに越したことはないが……。必要なら、集落から人手を出すこともできるだろう。戦いの心得があるわけではないが、ふだんから採掘と鍛冶で鍛えている屈強な男達が10人はいる」
「わかりました。依頼してみましょう」
リプレイ本文
●鉱山に到着
あちらこちから、カーン、カーンと高い金属音が聞こえていた。鉱山で岩をツルハシで削る音、そして、金属を加工する為に槌で叩く音。ドワーフたちがくらす鉱山は、今日も活気に満ちていた。
だが、一見平和に見えるここにも、厄介な隣人の魔の手が、確実に忍び寄っていた。旧坑道に住み着いたコボルドたちの数は日に日に増えているようだ。住民やこどもたちには旧坑道には近づかないように、ふれを出しているが、不安は募るばかり。
「おおぅ、あんたたちがハンターか。遠くまでよく来てくださった」
訪れた旅人達を人のよい笑顔で出迎えたのは、この鉱山にすむドワーフの族長だ。
「……生活の場を荒らされたままというのはさぞや腹立たしい事でしょう。ドワーフの方々の為にも速やかに取り戻さなくてはなりませんね。わたしも尽力させて頂きます」
穏やかにそう言ったのはハンターのひとり、Hollow(ka4450)。端正な顔に強い意志を秘めて、ここまでやってきている。
「ああ、やつら、まだまだふえやがる……今はまだ食料を盗まれる程度で済んでるが、いつ被害が出るかわかりゃしない」
族長の隣で、ドワーフの若者が吐き捨てるようにつぶやく。ドワーフたちのコボルドへの憎悪は、太古の昔より受け継がれた筋金入りのものだ。
「一匹見たら数十匹とか、まるでゴッキーみたいだな……」
つぶやいたのは、リアルブルーからの来訪者、ガーレッド・ロアー(ka4994)だ。
「繁殖力の強い敵というのは厄介なものだ。一匹一匹はそれほどでなくても、数がまとまればそれだけで危険だからな。早々に駆除する事としよう」
そう言って得物の槍を示してみせる榊 兵庫(ka0010)はいかにも頼もしい。
「コボルトさんの駆除ですかー。ふふ、楽しみですねぇ」
周囲の緊迫感も何のその。のんびりとした口調で笑みを浮かべてみせたのは、エルフの桐壱(ka1503)。子どものようにしか見えない外見だが、エルフの年齢はわかりにくい。両手で大事そうに抱えている容器に入っているのは、どうやら酒のようである。
「一匹見たら10匹いると思えか……コボルトといい、ゴブリンといい、倒せど倒せどなかなか数が減らないものだな。まあ、それらを減らすために大王たるボク達が今回やってきたわけだが」
尊大な口調で、小さな胸をエッヘン、と張ってみせるディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)。
「……だ、大王、ですか?」
ほんの少女にしか見えないディアドラの言葉に、族長が怪訝そうな顔になる。ディアドラは得意げにうなずいてみせた。
「ボクの名は大王ディアドラ! この世界に光をもたらす者だ! 大王たるボクがいるのだ。確実な成功は保証されたようなものだ」
「別次元からやってきた男、ガーレッド・ロアーもいるぜ。ま、俺たちに任しとけば亜人なんぞ、敵じゃないな」
胸を張るディアドラの隣で、ガーレッドもにやりと不敵な笑みを浮かべてみせる。
「は、はぁ。お任せしますよ」
族長が頭を下げる。いささか奇妙なメンバーだが、頼もしいと言えなくもない。
「まずは坑道内の構造を教えてくれんかのう。地図があればより助かる」
紅薔薇(ka4766)が具体的な提案をはじめると、やや圧倒され気味だった族長が、気を取り直したようにうなずいた。
「では、こちらで作戦会議をしましょう」
●旧坑道出口側
鉱山の裏側は、ドワーフたちがすむ集落とは反対側に当たるため、いつも人影はほとんどない。まして、坑道が閉鎖されてからは、通る人もなく、シン、と静まりかえっている。
(……そんなところで、見張りをさせられるだなんてたまったもんじゃない)
リーダーが怖いので直接は言えないが、見張りを任せられたコボルド2匹は、不満タラタラだった。
(どうせこんなところを襲ってくるやつなんていやしないって。あーだりぃー。早く交代にならないかなー)
そんなふうに考えながら、かろうじて槍にすがりついて立っているものの、まぶたは半ば落ちかかっている。
(ん? 何か匂うぞ……いいにおい……)
ふと流れてきた匂いに、2匹は目を覚ました。なにやら美味しそうな匂いに刺激され、おなかがくぅうう、と鳴く。そういえば、もうすぐ夕食の時間だ。
(怪しげなものは確かめねばならない。決して、匂いにつられてふらふらと持ち場を離れるわけではないぞ)
自分で自分に言い聞かせながら、2匹は同時に匂いの元に向かって歩き出した。本来なら、1匹が確認に行き、1匹は残るべきだろうが、残ってこの美味しそうな何かを奪われてはたまらない。競うように、早足で匂いを辿っていく。
(うまそうな食べ物だ!)
コボルドが、目を見開いた。目の前には肉やら野菜やらをぐつぐつと煮込んだ大きな鍋があった。だしの香りが食欲をそそる。もう耐えられない、とばかりに思わず、飛びつこうとする。
「残念でした」
突然のコボルドの登場にも驚くことなく、淡々と鍋をかき混ぜていたドワーフの聖導師マリアン・ベヘーリト(ka3683)が、冷静な口調で告げた。
ザシュッ。
背中にするどい斬撃を受け、コボルドは倒れ伏した。隠れていたディアドラが、剣で斬りつけたのだ。見張りのコボルドがもうろうとする意識でもう1匹の同胞に目をやると、そちらは放たれた炎の矢で黒焦げになっていた。物陰から、酒の入った容器を手にした桐壱があらわれる。
鍋は罠か、と気づいたのを最後に、コボルドは事切れた。魔法での奇襲を受けたもう1匹も、大剣を手にしたマリアンの一撃によってとどめを刺されていた。
「あなたたちも生きる上でなのでしょうが、それは同胞達も同じことです」
マリアンが静かに告げる。桐壱が懐からトランシーバーを出して報告を伝える。
「もしもし、入口班ですか~? こちらは見張りの排除に成功。突入してください~」
●入口側からの突入
「何匹いようと片っ端から片付ける志士、天ヶ瀬だ……逃げられると思うなよっ!」
迫力ある怒鳴り声を上げて、天ヶ瀬 焔騎(ka4251)が巨大な槍を振り回しながら旧鉱山に突入した。入口側の見張りは、すでにHollowの狙撃によってあっという間に仕留められていた。
数匹のコボルド達が、慌てて侵入者を迎え撃とうと入口の方に押し寄せてくる。
「はあっ!」
焔騎と並んで先陣を切った兵庫の槍が、一直線に並んだコボルド達を串刺しにした。そのまま、一気に押し込み、奥の空間へと追いやっていく。
「特に恨みは無いのじゃが。住んだ場所が悪いと思って消えるのじゃ」
兵庫の後ろから飛び出した紅薔薇が縦横無尽に振るった日本刀が、コボルド達を切り裂いた。
「これでもくらえっ!」
後列にいたガーレッドが機械のような籠手に覆われた掌を突き出すと、そこから三条の光線が放たれ、コボルド達を襲う。
「こっちもいきます!」
Hollowも同じく三条の光を放ち、敵を追い詰める。合計六条の光線に襲われ、コボルド達は逃げることもできずに貫かれていく。
「ワォーーーン!」
洞窟内に、雄叫びが響き渡った。
洞窟の奥からあらわれたのは、一回り大きく、攻撃的な顔つきのコボルドだ。他のコボルドと違って、丁寧に手入れを施された金属の鎧と剣、盾を手にしている。どうやらリーダー格のようだ。
リーダーは20匹ほどのコボルドをつれていた。多勢の援軍の到着に、崩れかけていたコボルド達の士気が一気に引き締まる。
「……暴れる分には…遠慮などは要らないな……」
焔騎が、肉食獣のような笑みを浮かべ、槍を握り直す。
死闘が、はじまった。
コボルドたちは数を頼りに押し切ろうと、ハンター達に殺到する。
「……衆を頼めば、押し切れるとでも思ったか。その甘さ、高くついたな」
兵庫が、槍を大きく振り回して、殺到するコボルド達を薙ぎ払っていく。
「咲き散らせ……陰椿ッ!」
兵庫と背中合わせに立った焔騎が突き出した槍の穂先から、黒い塊が飛び出して、コボルドの胸を刺し貫く。
ガーレッドも、いつのまにか、近接戦闘に切り替えていた。コボルドの頭部をがっしりと掴み、籠手から放つ光の剣で頭を刺し貫いて、確実に1匹ずつ屠っていく。
三人の鬼のような気迫に、たまらず、一部のコボルドたちが逃走を開始した。
「おっと、こっちにはいかせませんよ」
入口の方に逃げようとしたコボルドに、Hollowが銃撃を浴びせる。
一方、紅薔薇はリーダー格のコボルドと対峙していた。手にした日本刀を煌めかせ、流れるような連続攻撃で、敵の盾をくぐり抜けて確実にダメージを与えていく。
「バウワウッ!」
リーダー格のコボルドが、うなり声を上げた。どうやらそれは撤退の合図だったらしい。態勢を立て直して起死回生を狙う為か、コボルド達が一斉に洞窟の奥に向けて撤退をはじめた。――逃走先を、誘導されていることにも気づかずに。
「作戦通り、コボルドたちが出口の方に逃走を開始した。準備を頼む」
兵庫がトランシーバーを取り出し、待機している仲間達に報告する。その間も逃走を進めるコボルド達を追って、つかず離れず追撃をかけていく。仲間達も、逃げ出したコボルド達を追いかけて洞窟の奥へと向かう。
すべて順調にいくかと思われた、そのとき。
「危ない!」
ガーレッドの叫ぶ声と、岩が砕ける音が響いた。ハンター達の頭に、細かい小石や砂が降り注ぐ。とっさに彼が放った光線が、ハンター達の頭上に落下してきた岩盤を、粉々に砕いたのだ。
「こんなこともあろうかと、魔法を温存しておいてよかった。みんな、今のうちに退避するんだ!」
●出口で待ち伏せ
「うふふ、やっと来ましたねぇ。さてー、何匹倒せるか数えてみますかぁ」
酒を飲みながら出口の外で待ちわびていた桐壱が、兵庫からの伝言を受けてワンドを構え直す。酔っ払い、というほどではないが頬がやや紅潮している。本人に言わせれば、この方が調子が出るらしい。
「殲滅を目指しましょう。下手に残せばまた同じです。……それに、みんな一緒の方がさびしくないでしょうから」
マリアンが神妙な表情でグレートソードを構える。古い友人にすすめられた剛剣術を活かせることを祈りつつ、目を閉じて体内のマテリアルの流れを意識し、戦闘に備える。
「オレたちも、準備はばっちりッス! コボルドのやろうどもを、ぎったんぎったんにしてやりますぜ、な、みんな?」
「おおーっ!」
屈強なドワーフの男達、総勢10名が興奮した声を上げる。彼らには必ず、複数が組になって1匹のコボルドと応戦するように伝えてある。逃亡してきた敵を待ち伏せして叩けば、戦いの素人とは言え、後れを取ることはまずないだろう。
「無理はせず、危ないところはボクたちに任せてくれればよいぞ」
ディアドラが血気はやるドワーフたちに声をかける。
(大王たるもの、積極的に前に出ることで、相手からの注意を引きつつ突破を断念させ、同時にドワーフ達の安全を確保するのだ)
彼女はそんな立派な決意を胸に、盾を構えて剣を抜き、コボルド達が出口から出てくるのを待ち構えているのだ。
「あ、来たみたいですよ~」
洞窟内からの足音を聞きつけて、桐壱がうれしそうな声を上げた。
出口から飛び出してきた先頭のコボルドに向けて桐壱が放った風の刃が、殲滅作戦開始の合図となった。
あとは、あっという間だった。
前からと後ろから、挟み撃ちになったコボルド達に逃げ場はない。そして、コボルド達の唯一の頼りである「数の差」も、ドワーフたちの参戦によってほぼなくなっていた。そうなればあとは、純粋な実力が鍵になってくる。そして明らかに、コボルド達よりも熟練のハンター達の実力が勝っていたのである。
――いくらも経たないうちに、コボルド達は一匹残らず倒され、旧鉱山の出口のまわりには、亡骸が積み上げられていた。
「運動した後のお酒は最高ですねぇ。ふふー、お疲れ様でしたぁ」
桐壱が手持ちの酒を飲み干して、満足げにつぶやいた。
「これで依頼は完了かのう?」
ディアドラとともに洞窟内の見回りを終えた紅薔薇が、族長に尋ねる。
「このたびは、本当にありがとうございました。おかげさまで、平和に暮らしていけます」
駆けつけてきていた族長が、深々と頭を下げた。
「かんたんにお墓をつくって、彼らを弔ってもいいですか?」
マリアンの言葉に、族長が驚いて彼女を見返した。
「こいつらを、ですか?」
「ええ。私は聖導師、私達も、そして彼らもまた命なのだから」
真摯な様子で彼女が応えると、族長は黙ってうなずいた。
「次元の彼方でまた会おう!」
ガーレッドが立てた人差し指と中指を目尻に当てて、ポーズを決める。
再びもたらされた鉱山の平和は、しばらく続きそうだった――。
あちらこちから、カーン、カーンと高い金属音が聞こえていた。鉱山で岩をツルハシで削る音、そして、金属を加工する為に槌で叩く音。ドワーフたちがくらす鉱山は、今日も活気に満ちていた。
だが、一見平和に見えるここにも、厄介な隣人の魔の手が、確実に忍び寄っていた。旧坑道に住み着いたコボルドたちの数は日に日に増えているようだ。住民やこどもたちには旧坑道には近づかないように、ふれを出しているが、不安は募るばかり。
「おおぅ、あんたたちがハンターか。遠くまでよく来てくださった」
訪れた旅人達を人のよい笑顔で出迎えたのは、この鉱山にすむドワーフの族長だ。
「……生活の場を荒らされたままというのはさぞや腹立たしい事でしょう。ドワーフの方々の為にも速やかに取り戻さなくてはなりませんね。わたしも尽力させて頂きます」
穏やかにそう言ったのはハンターのひとり、Hollow(ka4450)。端正な顔に強い意志を秘めて、ここまでやってきている。
「ああ、やつら、まだまだふえやがる……今はまだ食料を盗まれる程度で済んでるが、いつ被害が出るかわかりゃしない」
族長の隣で、ドワーフの若者が吐き捨てるようにつぶやく。ドワーフたちのコボルドへの憎悪は、太古の昔より受け継がれた筋金入りのものだ。
「一匹見たら数十匹とか、まるでゴッキーみたいだな……」
つぶやいたのは、リアルブルーからの来訪者、ガーレッド・ロアー(ka4994)だ。
「繁殖力の強い敵というのは厄介なものだ。一匹一匹はそれほどでなくても、数がまとまればそれだけで危険だからな。早々に駆除する事としよう」
そう言って得物の槍を示してみせる榊 兵庫(ka0010)はいかにも頼もしい。
「コボルトさんの駆除ですかー。ふふ、楽しみですねぇ」
周囲の緊迫感も何のその。のんびりとした口調で笑みを浮かべてみせたのは、エルフの桐壱(ka1503)。子どものようにしか見えない外見だが、エルフの年齢はわかりにくい。両手で大事そうに抱えている容器に入っているのは、どうやら酒のようである。
「一匹見たら10匹いると思えか……コボルトといい、ゴブリンといい、倒せど倒せどなかなか数が減らないものだな。まあ、それらを減らすために大王たるボク達が今回やってきたわけだが」
尊大な口調で、小さな胸をエッヘン、と張ってみせるディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)。
「……だ、大王、ですか?」
ほんの少女にしか見えないディアドラの言葉に、族長が怪訝そうな顔になる。ディアドラは得意げにうなずいてみせた。
「ボクの名は大王ディアドラ! この世界に光をもたらす者だ! 大王たるボクがいるのだ。確実な成功は保証されたようなものだ」
「別次元からやってきた男、ガーレッド・ロアーもいるぜ。ま、俺たちに任しとけば亜人なんぞ、敵じゃないな」
胸を張るディアドラの隣で、ガーレッドもにやりと不敵な笑みを浮かべてみせる。
「は、はぁ。お任せしますよ」
族長が頭を下げる。いささか奇妙なメンバーだが、頼もしいと言えなくもない。
「まずは坑道内の構造を教えてくれんかのう。地図があればより助かる」
紅薔薇(ka4766)が具体的な提案をはじめると、やや圧倒され気味だった族長が、気を取り直したようにうなずいた。
「では、こちらで作戦会議をしましょう」
●旧坑道出口側
鉱山の裏側は、ドワーフたちがすむ集落とは反対側に当たるため、いつも人影はほとんどない。まして、坑道が閉鎖されてからは、通る人もなく、シン、と静まりかえっている。
(……そんなところで、見張りをさせられるだなんてたまったもんじゃない)
リーダーが怖いので直接は言えないが、見張りを任せられたコボルド2匹は、不満タラタラだった。
(どうせこんなところを襲ってくるやつなんていやしないって。あーだりぃー。早く交代にならないかなー)
そんなふうに考えながら、かろうじて槍にすがりついて立っているものの、まぶたは半ば落ちかかっている。
(ん? 何か匂うぞ……いいにおい……)
ふと流れてきた匂いに、2匹は目を覚ました。なにやら美味しそうな匂いに刺激され、おなかがくぅうう、と鳴く。そういえば、もうすぐ夕食の時間だ。
(怪しげなものは確かめねばならない。決して、匂いにつられてふらふらと持ち場を離れるわけではないぞ)
自分で自分に言い聞かせながら、2匹は同時に匂いの元に向かって歩き出した。本来なら、1匹が確認に行き、1匹は残るべきだろうが、残ってこの美味しそうな何かを奪われてはたまらない。競うように、早足で匂いを辿っていく。
(うまそうな食べ物だ!)
コボルドが、目を見開いた。目の前には肉やら野菜やらをぐつぐつと煮込んだ大きな鍋があった。だしの香りが食欲をそそる。もう耐えられない、とばかりに思わず、飛びつこうとする。
「残念でした」
突然のコボルドの登場にも驚くことなく、淡々と鍋をかき混ぜていたドワーフの聖導師マリアン・ベヘーリト(ka3683)が、冷静な口調で告げた。
ザシュッ。
背中にするどい斬撃を受け、コボルドは倒れ伏した。隠れていたディアドラが、剣で斬りつけたのだ。見張りのコボルドがもうろうとする意識でもう1匹の同胞に目をやると、そちらは放たれた炎の矢で黒焦げになっていた。物陰から、酒の入った容器を手にした桐壱があらわれる。
鍋は罠か、と気づいたのを最後に、コボルドは事切れた。魔法での奇襲を受けたもう1匹も、大剣を手にしたマリアンの一撃によってとどめを刺されていた。
「あなたたちも生きる上でなのでしょうが、それは同胞達も同じことです」
マリアンが静かに告げる。桐壱が懐からトランシーバーを出して報告を伝える。
「もしもし、入口班ですか~? こちらは見張りの排除に成功。突入してください~」
●入口側からの突入
「何匹いようと片っ端から片付ける志士、天ヶ瀬だ……逃げられると思うなよっ!」
迫力ある怒鳴り声を上げて、天ヶ瀬 焔騎(ka4251)が巨大な槍を振り回しながら旧鉱山に突入した。入口側の見張りは、すでにHollowの狙撃によってあっという間に仕留められていた。
数匹のコボルド達が、慌てて侵入者を迎え撃とうと入口の方に押し寄せてくる。
「はあっ!」
焔騎と並んで先陣を切った兵庫の槍が、一直線に並んだコボルド達を串刺しにした。そのまま、一気に押し込み、奥の空間へと追いやっていく。
「特に恨みは無いのじゃが。住んだ場所が悪いと思って消えるのじゃ」
兵庫の後ろから飛び出した紅薔薇が縦横無尽に振るった日本刀が、コボルド達を切り裂いた。
「これでもくらえっ!」
後列にいたガーレッドが機械のような籠手に覆われた掌を突き出すと、そこから三条の光線が放たれ、コボルド達を襲う。
「こっちもいきます!」
Hollowも同じく三条の光を放ち、敵を追い詰める。合計六条の光線に襲われ、コボルド達は逃げることもできずに貫かれていく。
「ワォーーーン!」
洞窟内に、雄叫びが響き渡った。
洞窟の奥からあらわれたのは、一回り大きく、攻撃的な顔つきのコボルドだ。他のコボルドと違って、丁寧に手入れを施された金属の鎧と剣、盾を手にしている。どうやらリーダー格のようだ。
リーダーは20匹ほどのコボルドをつれていた。多勢の援軍の到着に、崩れかけていたコボルド達の士気が一気に引き締まる。
「……暴れる分には…遠慮などは要らないな……」
焔騎が、肉食獣のような笑みを浮かべ、槍を握り直す。
死闘が、はじまった。
コボルドたちは数を頼りに押し切ろうと、ハンター達に殺到する。
「……衆を頼めば、押し切れるとでも思ったか。その甘さ、高くついたな」
兵庫が、槍を大きく振り回して、殺到するコボルド達を薙ぎ払っていく。
「咲き散らせ……陰椿ッ!」
兵庫と背中合わせに立った焔騎が突き出した槍の穂先から、黒い塊が飛び出して、コボルドの胸を刺し貫く。
ガーレッドも、いつのまにか、近接戦闘に切り替えていた。コボルドの頭部をがっしりと掴み、籠手から放つ光の剣で頭を刺し貫いて、確実に1匹ずつ屠っていく。
三人の鬼のような気迫に、たまらず、一部のコボルドたちが逃走を開始した。
「おっと、こっちにはいかせませんよ」
入口の方に逃げようとしたコボルドに、Hollowが銃撃を浴びせる。
一方、紅薔薇はリーダー格のコボルドと対峙していた。手にした日本刀を煌めかせ、流れるような連続攻撃で、敵の盾をくぐり抜けて確実にダメージを与えていく。
「バウワウッ!」
リーダー格のコボルドが、うなり声を上げた。どうやらそれは撤退の合図だったらしい。態勢を立て直して起死回生を狙う為か、コボルド達が一斉に洞窟の奥に向けて撤退をはじめた。――逃走先を、誘導されていることにも気づかずに。
「作戦通り、コボルドたちが出口の方に逃走を開始した。準備を頼む」
兵庫がトランシーバーを取り出し、待機している仲間達に報告する。その間も逃走を進めるコボルド達を追って、つかず離れず追撃をかけていく。仲間達も、逃げ出したコボルド達を追いかけて洞窟の奥へと向かう。
すべて順調にいくかと思われた、そのとき。
「危ない!」
ガーレッドの叫ぶ声と、岩が砕ける音が響いた。ハンター達の頭に、細かい小石や砂が降り注ぐ。とっさに彼が放った光線が、ハンター達の頭上に落下してきた岩盤を、粉々に砕いたのだ。
「こんなこともあろうかと、魔法を温存しておいてよかった。みんな、今のうちに退避するんだ!」
●出口で待ち伏せ
「うふふ、やっと来ましたねぇ。さてー、何匹倒せるか数えてみますかぁ」
酒を飲みながら出口の外で待ちわびていた桐壱が、兵庫からの伝言を受けてワンドを構え直す。酔っ払い、というほどではないが頬がやや紅潮している。本人に言わせれば、この方が調子が出るらしい。
「殲滅を目指しましょう。下手に残せばまた同じです。……それに、みんな一緒の方がさびしくないでしょうから」
マリアンが神妙な表情でグレートソードを構える。古い友人にすすめられた剛剣術を活かせることを祈りつつ、目を閉じて体内のマテリアルの流れを意識し、戦闘に備える。
「オレたちも、準備はばっちりッス! コボルドのやろうどもを、ぎったんぎったんにしてやりますぜ、な、みんな?」
「おおーっ!」
屈強なドワーフの男達、総勢10名が興奮した声を上げる。彼らには必ず、複数が組になって1匹のコボルドと応戦するように伝えてある。逃亡してきた敵を待ち伏せして叩けば、戦いの素人とは言え、後れを取ることはまずないだろう。
「無理はせず、危ないところはボクたちに任せてくれればよいぞ」
ディアドラが血気はやるドワーフたちに声をかける。
(大王たるもの、積極的に前に出ることで、相手からの注意を引きつつ突破を断念させ、同時にドワーフ達の安全を確保するのだ)
彼女はそんな立派な決意を胸に、盾を構えて剣を抜き、コボルド達が出口から出てくるのを待ち構えているのだ。
「あ、来たみたいですよ~」
洞窟内からの足音を聞きつけて、桐壱がうれしそうな声を上げた。
出口から飛び出してきた先頭のコボルドに向けて桐壱が放った風の刃が、殲滅作戦開始の合図となった。
あとは、あっという間だった。
前からと後ろから、挟み撃ちになったコボルド達に逃げ場はない。そして、コボルド達の唯一の頼りである「数の差」も、ドワーフたちの参戦によってほぼなくなっていた。そうなればあとは、純粋な実力が鍵になってくる。そして明らかに、コボルド達よりも熟練のハンター達の実力が勝っていたのである。
――いくらも経たないうちに、コボルド達は一匹残らず倒され、旧鉱山の出口のまわりには、亡骸が積み上げられていた。
「運動した後のお酒は最高ですねぇ。ふふー、お疲れ様でしたぁ」
桐壱が手持ちの酒を飲み干して、満足げにつぶやいた。
「これで依頼は完了かのう?」
ディアドラとともに洞窟内の見回りを終えた紅薔薇が、族長に尋ねる。
「このたびは、本当にありがとうございました。おかげさまで、平和に暮らしていけます」
駆けつけてきていた族長が、深々と頭を下げた。
「かんたんにお墓をつくって、彼らを弔ってもいいですか?」
マリアンの言葉に、族長が驚いて彼女を見返した。
「こいつらを、ですか?」
「ええ。私は聖導師、私達も、そして彼らもまた命なのだから」
真摯な様子で彼女が応えると、族長は黙ってうなずいた。
「次元の彼方でまた会おう!」
ガーレッドが立てた人差し指と中指を目尻に当てて、ポーズを決める。
再びもたらされた鉱山の平和は、しばらく続きそうだった――。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 4人 |
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MVP一覧
- (自称)別次元の戦士
ガーレッド・ロアー(ka4994)
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 Hollow(ka4450) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/07/08 16:06:41 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/07 22:04:03 |