植物学者の研究テーマ

マスター:江口梨奈

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~8人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/07/17 19:00
完成日
2014/07/24 18:24

みんなの思い出

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オープニング

 某月某日、某所にてヴォイドの目撃情報あり。数は1匹、長く平たい尻尾を持ちすばしこく動く、イタチのような形状であったが、大きさはオオカミか大型犬ほど。しかしそれでも、木の幹を駆け上り、枝から枝へ軽々と飛び移っていたという。見たところ低俗な雑魔で、他に数も無いようなので、今のうちに退治してしまえば大丈夫だろう……と思われたが。その某所の所有者が、立ち入りを拒否しているのだ。
 所有者とは、植物学者のドゴシである。
 もとは、何の価値もない二束三文の土地であった。材木にもならない木が、誰に手入れされるでもなく荒れ放題になっており、草ぼうぼうで畑に拓くにも一苦労するようなところだ。それをドゴシは自身の研究・観察林として入手した。何十年も前のことである。
 その後何十年も、スミレの開花時期がどうだとか、スズランの分布がどうかとか、誰に認められるでもない記録をちまちまと付けている。女房のリンは呆れ返って三行半を突き付けようと何度も考えたが、なんだかんだの情でここまで一緒を続けていた。
 とまあ、何の権威もない植物学者が、ここでどでかい研究論文を発表してやろうと山っ気を起こしてしまった。
 ヴォイドの影響下で、ヤマユリの繁殖がどう影響するのか云々。
 そのためには、肝心のヴォイドが無くなっては台無しだ。このままヴォイドを残したままにし、自身の研究を成就させねばならぬ……ドゴシはそうして、討伐隊の出入りを拒否しているのである。

「うちのアホ亭主の言うことなんて、無視してくれていいですから」
 と、リンは言う。言われなくとも、相手が歪虚となれば、所有権などという垣根を取り払うことは国は可能だ。しかし、穏便に済ませられるなら、それに越したことはない。
 そんなわけでこの件は、まずハンターズソサエティに話が持ち込まれたのであった。

リプレイ本文

●客
 Capella(ka2390)は鍛冶が得意だ。今回の依頼の詳細を聞いてCapellaはまず自身のアトリエにこもり、ヤマユリの置物をつくった。少々不格好なヤマユリだが仕方あるまい。それと、すこし良いワインを手土産にして、ドゴシの元を訪れた。
「僕は、鍛冶職人見習いのカペラと申します。氏のお噂はかねがね……」
「ほう、こんな田舎学者の元に、鍛冶屋さんが何のご用かな?」
「研究者としての熱い姿勢に感銘を受けました。なんでも、広い土地をわざわざ購入して、自然な形での観察を続けていらっしゃるとか」
「猫の額だよ。……おーい、リン。お客さんだ、部屋へ案内しろ」
 奥から顔を出したリンは、あらかじめCapellaと打ち合わせをしていたとおり、彼女が初めて来た客であるふうを装った。受け取った置物をさっそく飾り、2人の前に茶と菓子を出してきた。打ち合わせといっても、たいした内容ではない。ドゴシと楽しくおしゃべりをしたいから、その雰囲気作りを手伝ってくれと言うものだ。出来るだけ、和やかに。後からもう一人来るのだから。
「この置物は、ご自身で作られたのかな? ユリだね、ヤマユリだ」
「花が大きくて、迫力がありますよね。作品のモチーフにぜひしてみたくて」
 Capellaは、自分がハンターであること、ドゴシの山林に現れているヴォイドのために来ていることなど、微塵も出さず、会話を続けた。
 するとそこへ、予定通り、別の客がやってきた。
 珍しく来客の多い日だね、と笑いながらドゴシがドアを開けると、そこに立っていたのはエアルドフリス(ka1856)だった。
「ハンターズソサエティから参りました。少々お話をさせて頂きたい」
 組織の名称を聞いて、ドゴシの表情がゆがんだ。どうせ「あの」件で、やいやい言われるのだろう……と警戒したのだ。
「あの、お客様でしたら、僕はこれで……」
 ドゴシの後ろから、Capellaが声をかける。振り返って「いやいや、ゆっくりしておくれ」と返事をする、その視線に添ってエアルドフリスも部屋の奥を見た。
「ほう、綺麗な花の置物ですね。さすが、植物をご研究されているだけはある」
「頂き物だよ、そちらのお嬢さんから」
「初めまして、鍛冶職人のCapellaと申します」
 紹介され、Capellaは立ち上がって頭を下げた。エアルドフリスも倣う。その丁寧な所作に、ドゴシの緊張がやや解けた。
「花は、美しいですね。私も本業で、植物から薬を作っておりましてね」
「おや、同業でしたか」
「薬学寄りですけれど……博士が植物学の専門だと伺ったので、ぜひご教授いただきたいと思っていたのですよ」
 なんの、分野の異なる知識の応酬はこの上なく刺激的だ、と、ドゴシは喜んでエアルドフリスを室内に招き入れる。新しい茶碗が運ばれた。

●ドゴシの山林
「あの2人は、うまくいっているであろうか?」
 計画通りなら今頃話が弾んでいるだろう、とディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は想像する。Capellaとエアルドフリスが足止めをしている間に、残りの者でヴォイド退治だ。できることなら説得が上手くいってほしい、ドゴシの許可と協力のもと、ここへ立ち入り、始末といきたいところだが。
「頭のいいヤツの考えることはわからねぇや」
 大げさに肩をすくめ、溜息をつきながらボルディア・コンフラムス(ka0796)は言った。
「頭のいい? 果たしてそうかの」
 そう言ったのは、レーヴェ・W・マルバス(ka0276)だった。
 このままヴォイドを野放しにしておいて、百の害はあれど、利はひとつもない。雑魔らしいとはいえ、人を傷つける存在だ。周囲に民家も多少はある。そもそも、覚醒者ですらないドゴシに、ヴォイドが制御出来るとは思えない。しかし、それでも己の山林に涌き出るままにさせるというのは……決して、利口なやり方とは思えない。
「放置してたらマテリアルの状況が悪化して、ヴォイドが2匹3匹に増える温床になりかねないわ」
 マリーシュカ(ka2336)がもっともなことを言う。皆の意見は同じで、ドゴシがどれだけ反対しようと、ヴォイド退治の手を止めるつもりはない。
「早々に終わらせよう、これを用意してきた」
 霧島(ka2263)が、人数分揃えたトランシーバーを渡す。
「なんだこれ、声が聞こえるぞ? こっちからも、こっちからも?」
 オウガ(ka2124)は見知らぬリアルブルーの技術を、素直に驚いた。精霊の気配もないこんな小さな金属の箱同士で声のやり取りが出来るとは!
「霧島、リアルブルーって、すげーのなー」
「過剰な期待はするな、離れすぎると使い物にならんのだからな」
 そう言われてもオウガは、「ふえー」「へーっ」と、構造をまじまじ眺めている。
「さあ、行くぞ。……伊蔵もがんばってくれ」
 霧島は同行させた鼻の利く犬を森に放した。

 ヴォイドはそれなりに大きなものらしい、そんなものが動けば目立つ痕跡も残しているだろう。レーヴェは鞘に納めたままの日本刀で草を薙ぎ払いながら、それらを捜す。
「よいか、雑魔といえども、この世の荒廃をもたらす悪である。我々の手で必ずや仕留めるぞ」
 ディアドラは張り切って皆にハッパをかける。なにせディアドラは自称大王なのである。大王たるもの模範となり、誰よりも率先して動かねばならぬ。自分の背丈より高い雑草に埋もれ、あちこちに網のようになっている木の根に足を取られそうになりながらも、それをかき分け乗り越えずんずん進む。
 小さい頃から山や野ッ原を駆け回っていたというボルディアにとってみれば、この程度の山林は慣れたものだ、皆よりやや楽々と、斜面もでこぼこも難なく歩いている。歩きながら、自然児・ボルディアのなかに、ある欲求がむらむらと湧いてきた。
「しかし、あれだなあ……こう、木ばっかりだと、アレをやりたくなってくるな……」
 指揮棒を振っていたディアドラが、この辺りでそれぞれに別れようと言ったのを、これ幸いと飛びつくボルディア。
「俺はこっちを捜す! 真っ先に見つけてやるぜ!!」
 言うが早いか、皆の居ないほうへ駆けていった。
「よーしよしよし、誰も居ないな……」
 周囲をざっと見回して、仲間が居ないことを確認すると、ボルディアはパッと木に飛びかかり、するする登りだした。手入れのなっていない木々は、足場となる枝だらけで、彼女にとってみれば梯子を登るより簡単だった。別の木に、また丈夫そうな枝を見つけては飛び移る、それを繰り返した。
「こーいうの、リアルブルーではフリーランニングって言うらしいけど……ま、名前なんざどうでもいいか!」
「ずいぶん慣れてらっしゃるのね」
「このぐらい、朝飯前……って、うわああ!?」
 幹の下で、マリーシュカが気配無く立っていたので、ボルディアは枝から転がり落ちそうになった。
「べ、別に遊んでたんじゃないぞ。捜索を効率的にやろうと思ってな!」
「見晴らしはいかが?」
「すこぶる良し、だ」
 開き直って枝の上に仁王立ちになるボルディア。手を庇にして目の上に当て、周囲を見回す。
 その顔色が変わったのを、マリーシュカも気が付いた。
「!! どの方向なの?」
「左後方、おまえに向かってるぞ、マリーシュカ!!」
 マリューシュカの双眸が赤く光り、その方角を見る。
「鬼ごっこの、鬼はあちらの番なのね……」
 さあて、このあたしを捕まえられるかしら、とマリューシュカは悪戯っぽく微笑み、ヴォイドに敢えて追われながら、仲間達の元へ走った。

 霧島のトランシーバーに連絡が入ったのと、伊蔵が吠えたのは同時だった。ハンター達の誰でもない、大きな影が草をかき分け、ザザザッと、突風が吹いたような音をいつまでも鳴らしている。
「どこだ?」
 腰まである草が、行く手を阻む。音の方角ははっきりと分かるのに、思うように進めない。
「進めないなら……あちらさんに止まって貰うまで、か」
 霧島は金色の瞳に『エイミング』を宿らせ、コンポジットボウの狙いを定める。草の波間から、長い平たい尻尾が見えた。矢は目標に命中したか、走り回る音が止み、代わりにけたたましい雄叫びがあがった。
「そこにいたか、化け物!」
 はっきりと姿を見せたヴォイドに向かい、ディアドラが突進する。尻を射抜かれたヴォイドは、自分に向かって剣を突きつけてくる『敵』を治まらぬ怒りのまま食い殺そうかと思ったか、大きく口を開けた。
「はぁッ!!」
 ディアドラの頭など丸飲みにしてしまいかねない口に、彼女は迷わずエストックを叩きつけた。崩れた体勢を直しなおも向かってくるヴォイドに、ディアドラも負けじと有らん限りの『強打』で殴りつける。
「さすが大王、天晴れじゃ」
 ディアドラの渾身の足止めに、レーヴェは口笛を吹いた。おかげで確実に、大イタチを猟銃の射程に収められる。
「我々ドワーフを、なめるでないよ」
 銃口から飛び出した弾丸には『強弾』が込められている。それはイタチの後ろ脚を吹き飛ばすに十分の威力があった。
 だが、威力がありすぎた。ヴォイドは、怒りよりも恐怖を強く感じ、その場から逃げ出そうとする。
「うおおおおおおおお!!」
 それを止めたのはオウガだった。手負いの獣ほど危険なものはない。確実に、この場で仕留めなければ!
「逃がすかあああ!!」
 飛びかかり、跨り、すかさず短剣で喉笛を掻き切った。
 ぴくりとも動かなくなったのを確認して、ようやく皆は普段の姿に戻った。

●解決
 ドゴシとの談義はまだ続いていた。エアルドフリスは各地を旅していたというだけあっていろんな地方との比較を交えた考えを述べ、Capellaは2人の話す内容をどれも積極的に吸収していく。
「博士のきめ細やかな研究には頭が下がります。これまでの蓄積は、このまま残すべきですよ」
 エアルドフリスは、歪虚と関係のない研究テーマを殊更に褒め称えた。決して、ヴォイドから目を背けさせるための口実ではなく、長い年月、一つの場所で緻密な観察を続けている研究は、彼にとって一番貴重なテーマであると思えた。
「わし程度の研究など、皆がやっておるよ。特別な事じゃない。だからな……わしの山林にヴォイドが出たというのは、特別なことができる機会なんだよ」
 ドゴシの意志は固い、だが、そんな会話をしているところへ、仕事を片付けたハンターたちが集まってきた。
「終わったわ」
 そうとだけ、マリューシュカが言った、それでドゴシは全てを察し、力なくへたりこんだ。説得しきれなかったことを悔やみ、エアルドフリスも肩を落とす。
「おぬしがやろうとしていた研究の話は聞いておる」
 レーヴェは、同情しながらも続けた。
「だが、その研究は既に研究結果が出ておるでの。ヴォイドの存在が周辺のマテリアルの枯渇を為し、結果植物は枯れ果てる。そりゃ、今までの常識とは違う変異変質あるやもしれぬが、しかしヴォイドに伴う植物の研究をしたいならば国に相談するのじゃよ。相談もなしにヴォイド飼いたいなんてのが通らんのは、分かるじゃろ?」
 正論だ。正論だけに、反論はできない。けれど、理屈と感情は違うものだ。ドゴシは、やりきれない感情を何とか鎮めようと、幾度も溜息をついた。
「博士、いずれ歪虚の存在しない世界が来ます、我々がもたらします。そうなれば、歪虚絡みの研究は、過去の物となるのですよ?」
 エアルドフリスは、改めて言った。
「重要なのは、平時の研究です。博士、今、貴方が行っている研究がそれなのですよ」
 ドゴシは彼の言葉を、手で遮って、最後にもう一度大きな溜息をついて体を起こした。
「まあ、分かっておるよ。ヴォイドをそのままにすることなぞ、できん。けどな……期待はしたさ、そのぐらいはいいだろう?」
 ドゴシも、理解はしている。ヴォイドを放置することが許されるはずはないと。しかし、もしかしたら、万が一、……そんな色気を出してしまいたいほど、彼の研究は平穏で堅実だったのだ。
(力を振るい、依頼をこなすのがハンター……。依頼人でもない土地の所有者の意見など聞き流しておけばいい……)
 筈なのだがな、と霧島は思った。ドゴシもその妻も、今回の依頼人ではない。自分たちハンターは依頼を受ければ、それを忠実に遂行すればよいものではないか? なのに、なぜ彼らはドゴシの事を考えて動こうとするのだろうか……。霧島は、ハンターとしての自身の在り方に若干の迷いを感じていた。
「思いつきで始めたことが、うまくいくもんですか!」
 そんな霧島の感傷を吹き飛ばす容赦のない言葉が、背後から飛んできた。博士の妻である。
「あんたねえ、この人らは、アンタのために骨を折ってくれたのよ。化け物退治をして、そのまま知らん顔して帰ってりゃバレやしないものを、わざわざこうして伝えに来てくれた、これが誠意じゃなくてなんですか。感謝なさい!」
 怒鳴りつけられてドゴシは、いたずらが見つかった子供のように小さくなった。そしてハンカチで額の汗を拭いながら、それもそうだ、とハンターに頭を下げた。
 この様子を見て、Capellaは安心した。
 リンに、聞いておいたのだ。「確認のためですが、旦那さんとは今後、どのような関係でいたいですか?」と。
 リンは、あっけらかんと、「今のままだよ」と答えた。何十年も、あのアホ亭主と連れ添ってきたんだ、多少のことで今更揺らぎますかいな、と。
「博士、お忙しいのに長々と、失礼しました」
「おお、またいつでもおいで。そろそろマツヨイグサが見頃になるよ」
 ヴォイドの居なくなった山林では、黄色い花はきっと一面に咲き誇ることだろう。その光景を思い浮かべ、Capellaは新しい創作意欲が湧いてきたのだった。

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  • 大王の鉄槌
    ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271
    人間(紅)|12才|女性|闘狩人
  • 豪傑!ちみドワーフ姐さん
    レーヴェ・W・マルバス(ka0276
    ドワーフ|13才|女性|猟撃士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 援励の竜
    オウガ(ka2124
    人間(紅)|14才|男性|霊闘士
  • 愛憐の明断
    霧島 キララ(ka2263
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士

  • マリーシュカ(ka2336
    エルフ|13才|女性|霊闘士
  • マウス、激ラブ!
    Capella(ka2390
    人間(紅)|15才|女性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2014/07/17 17:39:54
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/15 17:44:45