ゲスト
(ka0000)
【讐刃】堕ちた男
マスター:松尾京

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/08 22:00
- 完成日
- 2015/07/15 00:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●力
一人のハンターが、その森を、必死になって逃げていた。
「はあっ……! はぁっ……!」
剣に、弓、硬質な鎧――重厚な装備。彼自身も、弱くない。
だがそれでも、『その対象』と戦うこともなく――いや、戦うことを既に諦めて、全速力で逃げていた。
ざっ、ざっ、と、枝をかき分けて彼を追うのは、人間だ。
いや、傍目には人間と全く違わない、『何か』。
ハンターより装備も劣る、見た目にはその辺りの山賊と変わらない、男だ。
「よぉ、待ってくれよ。そう逃げられちゃ、お前を殺せないだろ?」
「く、来るな……! うわっ!」
ハンターが転ぶと、山賊風の男は笑って距離を詰めた。
「はっは。お天道様は俺に味方したな。まぁ、どちらにしろお前は死ぬけどな」
どっ、と剣がハンターの脳天をつく。一撃で、男はハンターを殺害した。
男は、笑った。
「へへ……ハンターも目じゃねえこの力。やっぱり、最高だぜ!」
●墜ちた男
「あんたか」
山賊風の男が振り返ると、そこに影――ナハトがいた。
マントに身を包んだ、漆黒の人形。
男はひるみもせず、死体の横の地面にどっかと腰を下ろすと、ナハトに楽しげに声をかけた。
「へへ。力の調子はいいぜ。こんなに強くなれるんなら、もっと早く出会いたかったぜ」
「お前自身がそう思うのならば、何よりだ。ヴァレリオよ」
ナハトもかすかにだけ、笑うような調子で続ける。
「皆がお前ほど単純で安直な人間であれば、世界はこれほど複雑ではなかったろう」
「おいおい、貶してんのか? まぁ、そうじゃないと否定はしねぇけどな」
男――ヴァレリオと呼ばれた彼は、へへ、と笑いをこぼした。
「俺はもう、人間じゃねぇんだろ。ただの賊が、ハンターを殺せるようになったんだからそんくらいはわかる。でも、この力が存分に振るえるなら、むしろ嬉しいぜ」
血に塗れた剣を、舌なめずりするように見つめる、ヴァレリオだった。
●玩具
ルイスとガムズが死んだあと、ナハトが目を付けたのが、ヴァレリオである。
ナハトが力を与えて数週間、ヴァレリオは既に、ハンターを数人屠っている。ルイスと同様の行動を起こしているわけで、ナハトとしては狙い通りだ。
ナハトはヴァレリオを見る。
「ヴァレリオよ。お前はなぜ、それほど力を求める?」
「あん?」
ヴァレリオはしかめっ面を向けた。
ナハトが今までこれを聞かなかったのは、ルイスとは違い、ヴァレリオは普段から力を誇示するように人を殺して回るような賊だったからだ。
つまりは天然物というわけで……深く考えずとも、力を与えて問題のない存在だったのだ。
ヴァレリオは、へっ、と笑う。
「そんなの忘れた……いや、違うな。殺したいからさ。力があるのに手をのばさないなんて、男じゃねえだろ」
予期した通りの答えが返って、ナハトはそうかと言った。
ヴァレリオがこんな調子なのは、期待通りでもある。
だが同時に、予想通りでもあって――ナハトは既に、ヴァレリオに飽き始めていた。
再びの失敗を犯さないために、ヴァレリオには、最初からルイス以上の『力』を与えた。
だからハンターを殺してくれるのは結構なのだが……ナハトの欲求は、どうにもそれでは満たされない。端的に言えば、ヴァレリオは駒として面白くない。
「潮時か」
「あん? 何がだ」
「お前のことだ。だが、最後に少しは、楽しませてもらおうか」
ナハトは、山の向こうの村のことを説明した。
「一般人しかいない村だが、襲っていれば、ハンターがやってくるであろう場所でもある」
「はん、そこを襲えば強いやつと戦えるってか」
「その通りだ。だが、今度の相手は一人とはいかないぞ。おそらく、強い者が複数来るだろう」
「面白えじゃねえか。力が有り余ってたところだよ」
これまで、駒にした者は、簡単に人里へ出さないナハトだった。
が、最後となれば話が別だ。
ルイスはあのとき、最後に改心した挙げ句、要らぬことをべらべらとしゃべろうとした。そういう意味では、玩具として失格だ。だが、ヴァレリオならそんな心配はないだろう。
それに、ハンターに再び会ってみたい、という欲求もあった。
「人形を貸してやる。ヴァレリオよ、存分に暴れてこい」
●村へ
「村はこっちだ! 急いでくれ」
ハンターたちを馬に乗せ――そして自身も馬を駆りながら、農道を進む男がいた。
フリッツだ。
フリッツは事件のあと、嫉妬の歪虚ナハトを探して、各地を回っていた。
そして最近、覚醒者が殺される事件が再び発生しているということで、村の周辺に駐留していたのだった。
今回も、賊が現れたという村からの助けをいち早く受け取り、ハンターに依頼を呼びかけたのはフリッツだった。
問題の村へ急ぎながら、フリッツはハンターたちへ振り向く。
「賊が出た、という事件に、わざわざ君たちを呼んだのは理由があるんだ」
前方に見えてくる村の姿を見ながら、続ける。
「賊、というのがどうやら、ただの人間じゃないらしい。応戦してるハンターがいるんだが、彼が言うには、間違いなく『歪虚』だという」
ハンターであれば、歪虚が目の前に迫れば、その禍々しい空気でわかる。その賊、というのが、そうである、とフリッツは言っているらしい。
「歪虚には、元が人間の者もいるらしいが……そうであっても、いや、だからこそ、敵は歪虚そのものだ。迷っている暇はないだろう」
そうして、ハンターたちとフリッツは、村へ到着した。
多くの村人は逃げているようだが――村の道や農地、軒先にも……無造作にうち捨てられている死体が、既にあった。
そして、被害者達の血が点々と、敵の居場所を道しるべのように示していた。
それは、村の教会だった。
ばぁん、とフリッツが入口を蹴り開けると、そこにいた。
血に塗れた剣を持つ、山賊風の男が。
たった今まで応戦していたらしい若いハンターは、そのすぐ横で息絶えていた。
「あぁん? ああ……来たか。なるほど、確かにその辺のやつよりかは、全然強そうだな」
ハンターたちの姿をみとめると、彼は笑った。
「じゃぁ、そういうことで、楽しませてくれよな」
設備が大破し、床に血液が舞う教会で……彼は剣を構える。
彼のそばと、そしてもう一つの出口の向こうには……嫉妬の人形が複数体。
そして、割れたステンドグラスの、その先に見える森に紛れて――木立の高い位置に。
マントを被った、黒い影が見えていた。
ナハトはそこから、教会内を見下ろしていた。
くつくつと笑いながら。
「強力なハンターどもを追い詰め……そしてお前自身も果てるがいい。それで少しは、楽しめる」
玩具は脆い方が面白い。激しく弄くって壊れるときは、もっと。
「さあ、殺し合え」
一人のハンターが、その森を、必死になって逃げていた。
「はあっ……! はぁっ……!」
剣に、弓、硬質な鎧――重厚な装備。彼自身も、弱くない。
だがそれでも、『その対象』と戦うこともなく――いや、戦うことを既に諦めて、全速力で逃げていた。
ざっ、ざっ、と、枝をかき分けて彼を追うのは、人間だ。
いや、傍目には人間と全く違わない、『何か』。
ハンターより装備も劣る、見た目にはその辺りの山賊と変わらない、男だ。
「よぉ、待ってくれよ。そう逃げられちゃ、お前を殺せないだろ?」
「く、来るな……! うわっ!」
ハンターが転ぶと、山賊風の男は笑って距離を詰めた。
「はっは。お天道様は俺に味方したな。まぁ、どちらにしろお前は死ぬけどな」
どっ、と剣がハンターの脳天をつく。一撃で、男はハンターを殺害した。
男は、笑った。
「へへ……ハンターも目じゃねえこの力。やっぱり、最高だぜ!」
●墜ちた男
「あんたか」
山賊風の男が振り返ると、そこに影――ナハトがいた。
マントに身を包んだ、漆黒の人形。
男はひるみもせず、死体の横の地面にどっかと腰を下ろすと、ナハトに楽しげに声をかけた。
「へへ。力の調子はいいぜ。こんなに強くなれるんなら、もっと早く出会いたかったぜ」
「お前自身がそう思うのならば、何よりだ。ヴァレリオよ」
ナハトもかすかにだけ、笑うような調子で続ける。
「皆がお前ほど単純で安直な人間であれば、世界はこれほど複雑ではなかったろう」
「おいおい、貶してんのか? まぁ、そうじゃないと否定はしねぇけどな」
男――ヴァレリオと呼ばれた彼は、へへ、と笑いをこぼした。
「俺はもう、人間じゃねぇんだろ。ただの賊が、ハンターを殺せるようになったんだからそんくらいはわかる。でも、この力が存分に振るえるなら、むしろ嬉しいぜ」
血に塗れた剣を、舌なめずりするように見つめる、ヴァレリオだった。
●玩具
ルイスとガムズが死んだあと、ナハトが目を付けたのが、ヴァレリオである。
ナハトが力を与えて数週間、ヴァレリオは既に、ハンターを数人屠っている。ルイスと同様の行動を起こしているわけで、ナハトとしては狙い通りだ。
ナハトはヴァレリオを見る。
「ヴァレリオよ。お前はなぜ、それほど力を求める?」
「あん?」
ヴァレリオはしかめっ面を向けた。
ナハトが今までこれを聞かなかったのは、ルイスとは違い、ヴァレリオは普段から力を誇示するように人を殺して回るような賊だったからだ。
つまりは天然物というわけで……深く考えずとも、力を与えて問題のない存在だったのだ。
ヴァレリオは、へっ、と笑う。
「そんなの忘れた……いや、違うな。殺したいからさ。力があるのに手をのばさないなんて、男じゃねえだろ」
予期した通りの答えが返って、ナハトはそうかと言った。
ヴァレリオがこんな調子なのは、期待通りでもある。
だが同時に、予想通りでもあって――ナハトは既に、ヴァレリオに飽き始めていた。
再びの失敗を犯さないために、ヴァレリオには、最初からルイス以上の『力』を与えた。
だからハンターを殺してくれるのは結構なのだが……ナハトの欲求は、どうにもそれでは満たされない。端的に言えば、ヴァレリオは駒として面白くない。
「潮時か」
「あん? 何がだ」
「お前のことだ。だが、最後に少しは、楽しませてもらおうか」
ナハトは、山の向こうの村のことを説明した。
「一般人しかいない村だが、襲っていれば、ハンターがやってくるであろう場所でもある」
「はん、そこを襲えば強いやつと戦えるってか」
「その通りだ。だが、今度の相手は一人とはいかないぞ。おそらく、強い者が複数来るだろう」
「面白えじゃねえか。力が有り余ってたところだよ」
これまで、駒にした者は、簡単に人里へ出さないナハトだった。
が、最後となれば話が別だ。
ルイスはあのとき、最後に改心した挙げ句、要らぬことをべらべらとしゃべろうとした。そういう意味では、玩具として失格だ。だが、ヴァレリオならそんな心配はないだろう。
それに、ハンターに再び会ってみたい、という欲求もあった。
「人形を貸してやる。ヴァレリオよ、存分に暴れてこい」
●村へ
「村はこっちだ! 急いでくれ」
ハンターたちを馬に乗せ――そして自身も馬を駆りながら、農道を進む男がいた。
フリッツだ。
フリッツは事件のあと、嫉妬の歪虚ナハトを探して、各地を回っていた。
そして最近、覚醒者が殺される事件が再び発生しているということで、村の周辺に駐留していたのだった。
今回も、賊が現れたという村からの助けをいち早く受け取り、ハンターに依頼を呼びかけたのはフリッツだった。
問題の村へ急ぎながら、フリッツはハンターたちへ振り向く。
「賊が出た、という事件に、わざわざ君たちを呼んだのは理由があるんだ」
前方に見えてくる村の姿を見ながら、続ける。
「賊、というのがどうやら、ただの人間じゃないらしい。応戦してるハンターがいるんだが、彼が言うには、間違いなく『歪虚』だという」
ハンターであれば、歪虚が目の前に迫れば、その禍々しい空気でわかる。その賊、というのが、そうである、とフリッツは言っているらしい。
「歪虚には、元が人間の者もいるらしいが……そうであっても、いや、だからこそ、敵は歪虚そのものだ。迷っている暇はないだろう」
そうして、ハンターたちとフリッツは、村へ到着した。
多くの村人は逃げているようだが――村の道や農地、軒先にも……無造作にうち捨てられている死体が、既にあった。
そして、被害者達の血が点々と、敵の居場所を道しるべのように示していた。
それは、村の教会だった。
ばぁん、とフリッツが入口を蹴り開けると、そこにいた。
血に塗れた剣を持つ、山賊風の男が。
たった今まで応戦していたらしい若いハンターは、そのすぐ横で息絶えていた。
「あぁん? ああ……来たか。なるほど、確かにその辺のやつよりかは、全然強そうだな」
ハンターたちの姿をみとめると、彼は笑った。
「じゃぁ、そういうことで、楽しませてくれよな」
設備が大破し、床に血液が舞う教会で……彼は剣を構える。
彼のそばと、そしてもう一つの出口の向こうには……嫉妬の人形が複数体。
そして、割れたステンドグラスの、その先に見える森に紛れて――木立の高い位置に。
マントを被った、黒い影が見えていた。
ナハトはそこから、教会内を見下ろしていた。
くつくつと笑いながら。
「強力なハンターどもを追い詰め……そしてお前自身も果てるがいい。それで少しは、楽しめる」
玩具は脆い方が面白い。激しく弄くって壊れるときは、もっと。
「さあ、殺し合え」
リプレイ本文
●闘欲
逸るフリッツの肩を、エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は掴む。
「落ち着け、フリッツ」
「エヴァンスさん……どうして止める? あそこに、嫉妬の歪虚がいるのがわかるだろう! やるなら、今しか……」
振り払おうとするフリッツに、日高・明(ka0476)は首を振って見せた。
「僕らは人を守るハンターだ。情に流されても、感情に流されるままになったら、いけない」
大事なものを見失うな、と。明は、脳裏に妹の姿を浮かべながら言っていた。
「怒りに飲まれるな。それこそ向こうの思うつぼだ。目的は明確に、だが方法は冷静に――な?」
エヴァンスが続けると、フリッツは一瞬躊躇していた。だが、その肩からは……余分な力が少し、抜けているようだった。
ヴァレリオは退屈そうに見ていた。
「どうした? 来ねえのか? ならこっちから――ッ!」
目を見開くヴァレリオ。言葉の途中で、光が閃いていた。クルス(ka3922)が撃ったホーリーライトが、側近の人形に命中したのだ。
「言われなくても、すぐに全員ぶちのめしてやるよ」
「――その通り。ここで撃破してあげますわ」
同時、イレス・アーティーアート(ka4301)も素速く接近している。
もう一体の人形ごと、刺突一閃。ざざっ! とヴァレリオの腕にグレイブを突き刺した。
うぉっ、と後退し、ヴァレリオは腕を押さえる。
「はは……いいじゃねえか。これだよ。俺はこれを求めてたんだよ! ははは!」
クルスは前衛に出たリューリ・ハルマ(ka0502)に素速く小声を使っていた。
「どこかに地下室か何かがあるんじゃないか」
「うん。私も思ってた。探してみるよ」
リューリは超聴覚を行使。辺りの全ての音を鋭敏に聞き取った。
そしてはっと、北東側に目をやった。
北東の人形は、銃撃をはじめていた。散発する銃声の中、セリス・アルマーズ(ka1079)は悠々と、ヴァレリオと北東側の間に立っていた。
「痛くない痛くない。信仰の足りない人形の攻撃なんて効かないわ!」
厚い装甲でかいん、かいんと銃弾を弾きながら仁王立ち。敵の戦力を二分させる。
龍崎・カズマ(ka0178)は、北東へまっすぐ進撃。瞬脚とランアウトを交え、人形に接近した。こちらに飛んだ銃弾一発は、その動きで回避する。
高円寺 義経(ka4362)もカズマと同時に北東へ。移動の間、人形や、ナハトの動向にも注意を向ける。
「……あの嫉妬の歪虚は、本当に見てるだけのようッスね」
「ま、それならここにいる連中を叩くだけさ」
カズマは答えつつ、ワイヤーウィップを振るう。距離を置いた人形の腕に巻き付け、銃口を跳ね上げた。義経は別の一体へ部位狙い。がきっ、とナイフで関節の一部を切り裂いていく。
「さーて、こんなところに集まって何を隠してるのやら」
戦いながらも見回すカズマは――そこで、リューリの視線に気付く。
視線の先、がれきに埋もれたそこに、可動式の床板があった。
「これは……地下室の入口ッスね……!」
「人形にこういう場所を探させてたってことかもな」
二人はセリスに目配せをする。セリスは了解した、というように、地下室への道の壁になった。
前線に並ぶフリッツに、クルスは顔を向ける。
「怒る気持ちはわかるぜ。でも、それで道を外ししまうこともあるんだ」
ああ、とフリッツは頷く。その顔を見てクルスは息をつく。
「少しは頭、冷やしてくれたみたいだな」
そう、今はまず、目の前の敵を。
「よし、行くよ!」
明の声と共に、エヴァンスと……フリッツも、前へ攻める。
●堕落強者
エヴァンスは、ヴァレリオを守る人形へ肉迫した。人形は対応して、発砲。正面から命中するが――エヴァンスは退かない。
「そんなんでやられるかよ!」
攻めの構えから、勢いを力に転化して渾身撃。ずおっ! 大剣の強烈な一撃で人形を転倒させた。
フリッツがもう一体に攻撃しつつ、明に声を投げる。
「ハンターを殺すような賊だ、攻撃力に気をつけてくれ!」
「わかったよ! ありがとう!」
ヴァレリオへと接近しながら、明は答える。
攻撃が強いのなら、なおさら自分が守りに出よう、と。同じく攻めに転じるリューリに併走しながら、守りの構えで突撃した。
「ヴァレリオッ!」
「次に来るのはお前か? いいぜ、やってやる」
ヴァレリオは面白がるように、剣を明の盾へ叩きつける。
がぎっ! 歪虚に堕ちた男の攻撃は、強烈。だがそれでも、明は耐えていた。
おっ、とヴァレリオは意外そうな顔をする。その隙に、リューリが大身槍を大きく振っていた。
ざんっ、とクラッシュブロウが横一閃に直撃。
「イレスさんっ!」
「連携しますわ!」
うめいて反抗しようとするヴァレリオに……多段攻撃をするように、イレスが渾身撃。ずおっ、と勢いを付けた斬撃がヴァレリオを襲った。
ふらついたヴァレリオに、リューリは拳を掲げる。
「どう? 悪い事をするなら、ぐーぱんちだよ!」
「いや、ぱんちじゃなくて思いっきり槍で切ってきてるじゃねえか……」
「それはそれ、これはこれ、だよ!」
「んな馬鹿な……いや、まあいい。その調子でもっと来てみろよ。それともこれで終わりか……ッ?」
言い終わる直前、背後からの光に気付くヴァレリオ。
「堕落者……ね。一見人間だけど、見れば見るほど歪虚ね。なら――浄化しないと」
セリスが魔法を発現し――ホーリーライトを放っていた。
その威力を後押しするのは、狂戦士の加護。きゅおおっ! 輝く光の弾が、ヴァレリオの胴体の一部を穿って消滅させる。
「ぐぉ……!」
「まだ浄化されないの? 早く浄化されなさいよ」
そしてまた魔法を生み始めるセリス。その間も銃弾が体に当たっていたが、セリスは全く顔色を変えない。ヴァレリオは体を押さえつつ聞いた。
「てめえ、銃弾が痛くねえのか」
「不浄な人形の攻撃なんて通じないわよ」
「化け物みてえな女だな……」
最初に比べ、消耗した様子を見せながらも……ヴァレリオは薄く笑った。
「まあ、いい。こういうやつらこそ、ぶちのめしたときに最高に気持ちがいいんだ。へへ……そこの死体と同じ目に遭わせてやる!」
猛るヴァレリオに、イレスは目を伏せた。
「殺戮を、楽しんでいるのですか……私の一番嫌いなタイプですわね」
「ただの歪虚より、性質が悪いったらねえな」
クルスは、ヒールで傷ついた明を回復しながら、ヴァレリオを睨んだ。
「聖導士が教会で負けてたまるかよ。絶対叩き出す」
カズマと義経は地下室を守る位置で、戦っている。銃を向ける人形にも、カズマは冷静さを崩さない。
「とにかく、とっとと破壊させてもらうかね」
正面からの銃撃を、カズマは横合いに飛んで対応。銃弾をかすめるに留めると、振動刀の斬撃を叩き込んだ。
ざざっ! と連撃を喰らった人形は腕、下半身の機構を破壊されて倒れ……そのまま起き上がれなくなる。
「わ! 凄いッスね」
「人形の質も変わってないようだし、慣れだ」
ほー、と感心する義経も、ナイフでもう一体を部位狙い。ばきん、と片脚の関節を破壊した。
だがその人形は、体力の差もあってまだ動く。義経に、至近から銃撃してきた。
はっとする義経――だが、そのダメージは何者かに阻まれる。
それは――どうか無事で、と天を仰ぎ、義経に祈りを捧げる女性の存在だった。
「……っと」
傷が浅く済んだ義経は、ふと一人の存在を思い起こして――気合いを入れて、構え直した。
そのときだった。場の中央で突如、大きな閃光が弾けた。
●決死
それはヴァレリオの雷撃だった。
「そこまで言うなら面白え……俺を負かしてみろ!」
体にエネルギーを溜めたヴァレリオは、それを床に叩きつけ――光を爆散。ばばばっ! と周囲に衝撃を飛ばしていた。
どおん! ダメージと大音。辺りのがれきがはじけ飛ぶ。
「これが……教会の惨状の原因ッスか……!」
義経は命中を免れている。がれきを防ぎつつも急いで仲間を確認した。
セリスは、ヴァレリオの近くにいつつも、一人かすり傷だった。
「ああ、ちょっとだけびっくりしたわ。みんな大丈夫?」
「何とかね――」
明も防御態勢で、立ち上がる。
それぞれが体力に注意ししていたためもあり、倒れたものはなかった。セリスとクルスが、ダメージを負ったものに即座に回復を施していく。
「一瞬、危ないかと思ったぜ。おい、やってくれたな?」
エヴァンスは剣を突きつける。
その先で……ヴァレリオは、息を上げていた。倒れぬハンターたちを驚いたように見つつも――武器を構える。
「これで死なねえのか。だが……まだだ。一番強えのは……俺だ!」
「――ならば、最後まで戦って差し上げますわ」
イレスが横から、ヴァレリオに肉迫している。勢いを乗せた、刺突攻撃。ばきん! ヴァレリオを横から攻撃しつつ、人形の一体を破壊した。
「てめえ――ぐっ!」
「やらせないよっ!」
反撃に出ようとするヴァレリオに追撃するのは、リューリ。クラッシュブロウでヴァレリオの肩口を切り裂いてゆく。
もう一体の人形が前衛を邪魔しにかかるが、それを明は見逃さない。大振りに振った剣で、強撃を叩き込む。
「今だ、攻撃を!」
明の声に呼応したフリッツが、その人形を攻撃し――さらにエヴァンスが、力を強めた渾身撃を真っ向から打ち込んだ。弾けるように人形は消滅する。
「……だが、この力がもらえるってんなら、中々魅力的だな。戦好きの俺には、もってこいじゃねえか」
エヴァンスはぽつりと、心情を込めたように呟く。ちらりと北方を向くが――しかしナハトに変化はない。
(言葉に興味を引かれた様子はなし、か……)
北東側では、動けぬ人形は後回しにして、残る二体の相手にかかっている。
ダメージが蓄積した一体に、まずは義経が素速くナイフで切り込む。がきん、と足元をすくわれた人形に、カズマが連撃。相手を二度にわたって両断し、破壊した。
まだ体力のある一体が横から迫るが――ぼっ! とそこにホーリーライトが命中する。クルスだ。
「援護するぜ」
「あら、じゃあ、私も浄化を手伝おうかしら」
次いで、セリスも魔法を発現、ホーリーライトを人形へ撃ち込んだ。二撃で体力を奪われた人形が、銃を撃つが――ふらつきながらの攻撃を、カズマは難なく躱す。
「さて、と。これで終わりだな」
カズマが連撃を叩き込むと同時、義経がナイフで急所を抉り――ずしゃっ、と人形を大破させた。
カズマが動けぬ人形を踏みつぶす横で、義経は視線を仲間へよこした。
「これで人形は全滅ッスね!」
「何――」
ヴァレリオは、切羽詰まった表情を浮かべる。劣勢を、ようやく理解したのだ。
そこへエヴァンスが切り込み、渾身撃でヴァレリオの腕を切り落とす。
「ぐぁっ……! てめえ……」
「どうだ。もう、あとがないぜ」
エヴァンスの言葉に、ヴァレリオはうめく。それでも片腕で剣を取り、がむしゃらに振るった。
「俺は死なねえ……やられてたまるか!」
だが、その攻撃を明が盾で抑えた。
「もう、きみは勝てないよ」
「くそ、がぁぁッ……!」
ヴァレリオはエネルギーを溜め、雷撃を放とうとする。だがその前面と背後から、リューリとイレスが迫っていた。
「終わりだよっ!」
「私達が、屠ってあげますわ!」
リューリが槍を横一閃、イレスがグレイブを上段から振り下ろす。十字の攻撃がヴァレリオを討ち――からん、と、ヴァレリオは武器を落とした。
●影
床に横たわるヴァレリオの体は……徐々に、消滅していた。
それは、歪虚の証。
ヴァレリオは体を見下ろし、笑っていた。
「へへ……もう、終わりかよ……」
「何か、言い残すことはありますか」
人として死ぬことも許されなかった賊に、イレスは言う。ヴァレリオは肩を揺らす。
「ねえよ。……散々殺して、最後は殺されて終わったか、ってだけだ。へ、へ……」
「……あなたは何で、人を殺したいって思ったの?」
消えゆく殺人鬼に、リューリが聞いた。
ヴァレリオははじめ、何とも言わない。カズマが退屈そうに声を出す。
「殺しには二種類ある。利益のためと、己の感情のためのもの。殺人鬼は後者で――『自分を見ろ』って思いがあったりするもんだ。恐怖や孤独感の、裏返し。……ま、リアルブルーの話だが」
「……間違っちゃ、いねえよ」
ヴァレリオは、薄く笑っていた。何かをあざけるような調子で続ける。
「俺ぁなぁ……幼い頃親に捨てられたんだ。食い扶持が減るっつってな……。死ぬ前に赤の他人に拾われたが……結局誰の子とも知れない人間だ、そこでも、死ぬよりつらい目に遭ったぜ。周りは……誰も助けちゃくれなかった。だから、そのとき思ったのさ……問題を解決するのは、力だけだ、ってな。最初に殺したやつだけは覚えてるんだ……生みの親と育ての親さ」
けらけらと、ヴァレリオは哀れな笑いを上げていた。
「弱いものは助けられない。だからこうするしかなかったんだぜ。まぁ、でも……」
消える直前に、ハンターたちを見ていた。
「あの頃に、お前らみたいなやつに出会ってたら――」
その言葉は最後まで、発せられなかった。ヴァレリオの体は完全に消滅していた。
「……気に入らないッスね」
義経が言葉を漏らす。
この堕落者もそうだが――人をオモチャにして遊ぶ、黒幕が。
「この賊に力を渡したのは、お前だよな?」
エヴァンスがステンドグラスの外を見ると――そこにいた影が動いた。
マントを羽織った、漆黒の人形、ナハト。
ゆっくりと窓枠に降り立ち、ハンターを見下ろす。
その様子は最初と異なり、機嫌の良さがうかがえる。くつくつと笑っているようだった。
「何がおかしいんスか」
「何が、だと」
ナハトはわからぬのか、と言うように続ける。
「ヴァレリオだ。最後の最後に、楽しませてくれた。貴様らは知らぬだろうが――ヴァレリオは、本当につまらぬ人形だった」
「つまらないってんなら、同意するぜ。持ち主に似てずいぶんとつまらなかった」
カズマの挑発にも、ナハトは笑いを返す。
「貴様らがそういった反応を示すのも、またヴァレリオのおかげでもあろう。やつ自身の最後の苦しむ姿と共に――新たな楽しみを、作ってくれた」
「楽しみ……? 楽しむためだけに、こんなことを? 遊ぶなら、一人でお人形遊びでもしてやがれってんスよ」
「“人形”で遊ぶことも、貴様らハンターと会うことも、私には大切な楽しみだ」
と、そこで明が剣を振るう。不意打ちの衝撃波を、ナハトに放った。
傷一つないナハトは、腕を掲げる。
「それもまた、いい。褒美だ。少し付き合ってやろう」
ナハトが腕を振ると、陶器の針が飛んだ。近接していたハンター数人が、魔力の糸で縫い止められたように行動不能になる。
残るハンターが武器を構えるが、ナハトは既に森の中へと飛んでいた。
「終わりだ。また会おう」
影は日の落ちる森へ消え――その行方は、知れなくなった。
逸るフリッツの肩を、エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は掴む。
「落ち着け、フリッツ」
「エヴァンスさん……どうして止める? あそこに、嫉妬の歪虚がいるのがわかるだろう! やるなら、今しか……」
振り払おうとするフリッツに、日高・明(ka0476)は首を振って見せた。
「僕らは人を守るハンターだ。情に流されても、感情に流されるままになったら、いけない」
大事なものを見失うな、と。明は、脳裏に妹の姿を浮かべながら言っていた。
「怒りに飲まれるな。それこそ向こうの思うつぼだ。目的は明確に、だが方法は冷静に――な?」
エヴァンスが続けると、フリッツは一瞬躊躇していた。だが、その肩からは……余分な力が少し、抜けているようだった。
ヴァレリオは退屈そうに見ていた。
「どうした? 来ねえのか? ならこっちから――ッ!」
目を見開くヴァレリオ。言葉の途中で、光が閃いていた。クルス(ka3922)が撃ったホーリーライトが、側近の人形に命中したのだ。
「言われなくても、すぐに全員ぶちのめしてやるよ」
「――その通り。ここで撃破してあげますわ」
同時、イレス・アーティーアート(ka4301)も素速く接近している。
もう一体の人形ごと、刺突一閃。ざざっ! とヴァレリオの腕にグレイブを突き刺した。
うぉっ、と後退し、ヴァレリオは腕を押さえる。
「はは……いいじゃねえか。これだよ。俺はこれを求めてたんだよ! ははは!」
クルスは前衛に出たリューリ・ハルマ(ka0502)に素速く小声を使っていた。
「どこかに地下室か何かがあるんじゃないか」
「うん。私も思ってた。探してみるよ」
リューリは超聴覚を行使。辺りの全ての音を鋭敏に聞き取った。
そしてはっと、北東側に目をやった。
北東の人形は、銃撃をはじめていた。散発する銃声の中、セリス・アルマーズ(ka1079)は悠々と、ヴァレリオと北東側の間に立っていた。
「痛くない痛くない。信仰の足りない人形の攻撃なんて効かないわ!」
厚い装甲でかいん、かいんと銃弾を弾きながら仁王立ち。敵の戦力を二分させる。
龍崎・カズマ(ka0178)は、北東へまっすぐ進撃。瞬脚とランアウトを交え、人形に接近した。こちらに飛んだ銃弾一発は、その動きで回避する。
高円寺 義経(ka4362)もカズマと同時に北東へ。移動の間、人形や、ナハトの動向にも注意を向ける。
「……あの嫉妬の歪虚は、本当に見てるだけのようッスね」
「ま、それならここにいる連中を叩くだけさ」
カズマは答えつつ、ワイヤーウィップを振るう。距離を置いた人形の腕に巻き付け、銃口を跳ね上げた。義経は別の一体へ部位狙い。がきっ、とナイフで関節の一部を切り裂いていく。
「さーて、こんなところに集まって何を隠してるのやら」
戦いながらも見回すカズマは――そこで、リューリの視線に気付く。
視線の先、がれきに埋もれたそこに、可動式の床板があった。
「これは……地下室の入口ッスね……!」
「人形にこういう場所を探させてたってことかもな」
二人はセリスに目配せをする。セリスは了解した、というように、地下室への道の壁になった。
前線に並ぶフリッツに、クルスは顔を向ける。
「怒る気持ちはわかるぜ。でも、それで道を外ししまうこともあるんだ」
ああ、とフリッツは頷く。その顔を見てクルスは息をつく。
「少しは頭、冷やしてくれたみたいだな」
そう、今はまず、目の前の敵を。
「よし、行くよ!」
明の声と共に、エヴァンスと……フリッツも、前へ攻める。
●堕落強者
エヴァンスは、ヴァレリオを守る人形へ肉迫した。人形は対応して、発砲。正面から命中するが――エヴァンスは退かない。
「そんなんでやられるかよ!」
攻めの構えから、勢いを力に転化して渾身撃。ずおっ! 大剣の強烈な一撃で人形を転倒させた。
フリッツがもう一体に攻撃しつつ、明に声を投げる。
「ハンターを殺すような賊だ、攻撃力に気をつけてくれ!」
「わかったよ! ありがとう!」
ヴァレリオへと接近しながら、明は答える。
攻撃が強いのなら、なおさら自分が守りに出よう、と。同じく攻めに転じるリューリに併走しながら、守りの構えで突撃した。
「ヴァレリオッ!」
「次に来るのはお前か? いいぜ、やってやる」
ヴァレリオは面白がるように、剣を明の盾へ叩きつける。
がぎっ! 歪虚に堕ちた男の攻撃は、強烈。だがそれでも、明は耐えていた。
おっ、とヴァレリオは意外そうな顔をする。その隙に、リューリが大身槍を大きく振っていた。
ざんっ、とクラッシュブロウが横一閃に直撃。
「イレスさんっ!」
「連携しますわ!」
うめいて反抗しようとするヴァレリオに……多段攻撃をするように、イレスが渾身撃。ずおっ、と勢いを付けた斬撃がヴァレリオを襲った。
ふらついたヴァレリオに、リューリは拳を掲げる。
「どう? 悪い事をするなら、ぐーぱんちだよ!」
「いや、ぱんちじゃなくて思いっきり槍で切ってきてるじゃねえか……」
「それはそれ、これはこれ、だよ!」
「んな馬鹿な……いや、まあいい。その調子でもっと来てみろよ。それともこれで終わりか……ッ?」
言い終わる直前、背後からの光に気付くヴァレリオ。
「堕落者……ね。一見人間だけど、見れば見るほど歪虚ね。なら――浄化しないと」
セリスが魔法を発現し――ホーリーライトを放っていた。
その威力を後押しするのは、狂戦士の加護。きゅおおっ! 輝く光の弾が、ヴァレリオの胴体の一部を穿って消滅させる。
「ぐぉ……!」
「まだ浄化されないの? 早く浄化されなさいよ」
そしてまた魔法を生み始めるセリス。その間も銃弾が体に当たっていたが、セリスは全く顔色を変えない。ヴァレリオは体を押さえつつ聞いた。
「てめえ、銃弾が痛くねえのか」
「不浄な人形の攻撃なんて通じないわよ」
「化け物みてえな女だな……」
最初に比べ、消耗した様子を見せながらも……ヴァレリオは薄く笑った。
「まあ、いい。こういうやつらこそ、ぶちのめしたときに最高に気持ちがいいんだ。へへ……そこの死体と同じ目に遭わせてやる!」
猛るヴァレリオに、イレスは目を伏せた。
「殺戮を、楽しんでいるのですか……私の一番嫌いなタイプですわね」
「ただの歪虚より、性質が悪いったらねえな」
クルスは、ヒールで傷ついた明を回復しながら、ヴァレリオを睨んだ。
「聖導士が教会で負けてたまるかよ。絶対叩き出す」
カズマと義経は地下室を守る位置で、戦っている。銃を向ける人形にも、カズマは冷静さを崩さない。
「とにかく、とっとと破壊させてもらうかね」
正面からの銃撃を、カズマは横合いに飛んで対応。銃弾をかすめるに留めると、振動刀の斬撃を叩き込んだ。
ざざっ! と連撃を喰らった人形は腕、下半身の機構を破壊されて倒れ……そのまま起き上がれなくなる。
「わ! 凄いッスね」
「人形の質も変わってないようだし、慣れだ」
ほー、と感心する義経も、ナイフでもう一体を部位狙い。ばきん、と片脚の関節を破壊した。
だがその人形は、体力の差もあってまだ動く。義経に、至近から銃撃してきた。
はっとする義経――だが、そのダメージは何者かに阻まれる。
それは――どうか無事で、と天を仰ぎ、義経に祈りを捧げる女性の存在だった。
「……っと」
傷が浅く済んだ義経は、ふと一人の存在を思い起こして――気合いを入れて、構え直した。
そのときだった。場の中央で突如、大きな閃光が弾けた。
●決死
それはヴァレリオの雷撃だった。
「そこまで言うなら面白え……俺を負かしてみろ!」
体にエネルギーを溜めたヴァレリオは、それを床に叩きつけ――光を爆散。ばばばっ! と周囲に衝撃を飛ばしていた。
どおん! ダメージと大音。辺りのがれきがはじけ飛ぶ。
「これが……教会の惨状の原因ッスか……!」
義経は命中を免れている。がれきを防ぎつつも急いで仲間を確認した。
セリスは、ヴァレリオの近くにいつつも、一人かすり傷だった。
「ああ、ちょっとだけびっくりしたわ。みんな大丈夫?」
「何とかね――」
明も防御態勢で、立ち上がる。
それぞれが体力に注意ししていたためもあり、倒れたものはなかった。セリスとクルスが、ダメージを負ったものに即座に回復を施していく。
「一瞬、危ないかと思ったぜ。おい、やってくれたな?」
エヴァンスは剣を突きつける。
その先で……ヴァレリオは、息を上げていた。倒れぬハンターたちを驚いたように見つつも――武器を構える。
「これで死なねえのか。だが……まだだ。一番強えのは……俺だ!」
「――ならば、最後まで戦って差し上げますわ」
イレスが横から、ヴァレリオに肉迫している。勢いを乗せた、刺突攻撃。ばきん! ヴァレリオを横から攻撃しつつ、人形の一体を破壊した。
「てめえ――ぐっ!」
「やらせないよっ!」
反撃に出ようとするヴァレリオに追撃するのは、リューリ。クラッシュブロウでヴァレリオの肩口を切り裂いてゆく。
もう一体の人形が前衛を邪魔しにかかるが、それを明は見逃さない。大振りに振った剣で、強撃を叩き込む。
「今だ、攻撃を!」
明の声に呼応したフリッツが、その人形を攻撃し――さらにエヴァンスが、力を強めた渾身撃を真っ向から打ち込んだ。弾けるように人形は消滅する。
「……だが、この力がもらえるってんなら、中々魅力的だな。戦好きの俺には、もってこいじゃねえか」
エヴァンスはぽつりと、心情を込めたように呟く。ちらりと北方を向くが――しかしナハトに変化はない。
(言葉に興味を引かれた様子はなし、か……)
北東側では、動けぬ人形は後回しにして、残る二体の相手にかかっている。
ダメージが蓄積した一体に、まずは義経が素速くナイフで切り込む。がきん、と足元をすくわれた人形に、カズマが連撃。相手を二度にわたって両断し、破壊した。
まだ体力のある一体が横から迫るが――ぼっ! とそこにホーリーライトが命中する。クルスだ。
「援護するぜ」
「あら、じゃあ、私も浄化を手伝おうかしら」
次いで、セリスも魔法を発現、ホーリーライトを人形へ撃ち込んだ。二撃で体力を奪われた人形が、銃を撃つが――ふらつきながらの攻撃を、カズマは難なく躱す。
「さて、と。これで終わりだな」
カズマが連撃を叩き込むと同時、義経がナイフで急所を抉り――ずしゃっ、と人形を大破させた。
カズマが動けぬ人形を踏みつぶす横で、義経は視線を仲間へよこした。
「これで人形は全滅ッスね!」
「何――」
ヴァレリオは、切羽詰まった表情を浮かべる。劣勢を、ようやく理解したのだ。
そこへエヴァンスが切り込み、渾身撃でヴァレリオの腕を切り落とす。
「ぐぁっ……! てめえ……」
「どうだ。もう、あとがないぜ」
エヴァンスの言葉に、ヴァレリオはうめく。それでも片腕で剣を取り、がむしゃらに振るった。
「俺は死なねえ……やられてたまるか!」
だが、その攻撃を明が盾で抑えた。
「もう、きみは勝てないよ」
「くそ、がぁぁッ……!」
ヴァレリオはエネルギーを溜め、雷撃を放とうとする。だがその前面と背後から、リューリとイレスが迫っていた。
「終わりだよっ!」
「私達が、屠ってあげますわ!」
リューリが槍を横一閃、イレスがグレイブを上段から振り下ろす。十字の攻撃がヴァレリオを討ち――からん、と、ヴァレリオは武器を落とした。
●影
床に横たわるヴァレリオの体は……徐々に、消滅していた。
それは、歪虚の証。
ヴァレリオは体を見下ろし、笑っていた。
「へへ……もう、終わりかよ……」
「何か、言い残すことはありますか」
人として死ぬことも許されなかった賊に、イレスは言う。ヴァレリオは肩を揺らす。
「ねえよ。……散々殺して、最後は殺されて終わったか、ってだけだ。へ、へ……」
「……あなたは何で、人を殺したいって思ったの?」
消えゆく殺人鬼に、リューリが聞いた。
ヴァレリオははじめ、何とも言わない。カズマが退屈そうに声を出す。
「殺しには二種類ある。利益のためと、己の感情のためのもの。殺人鬼は後者で――『自分を見ろ』って思いがあったりするもんだ。恐怖や孤独感の、裏返し。……ま、リアルブルーの話だが」
「……間違っちゃ、いねえよ」
ヴァレリオは、薄く笑っていた。何かをあざけるような調子で続ける。
「俺ぁなぁ……幼い頃親に捨てられたんだ。食い扶持が減るっつってな……。死ぬ前に赤の他人に拾われたが……結局誰の子とも知れない人間だ、そこでも、死ぬよりつらい目に遭ったぜ。周りは……誰も助けちゃくれなかった。だから、そのとき思ったのさ……問題を解決するのは、力だけだ、ってな。最初に殺したやつだけは覚えてるんだ……生みの親と育ての親さ」
けらけらと、ヴァレリオは哀れな笑いを上げていた。
「弱いものは助けられない。だからこうするしかなかったんだぜ。まぁ、でも……」
消える直前に、ハンターたちを見ていた。
「あの頃に、お前らみたいなやつに出会ってたら――」
その言葉は最後まで、発せられなかった。ヴァレリオの体は完全に消滅していた。
「……気に入らないッスね」
義経が言葉を漏らす。
この堕落者もそうだが――人をオモチャにして遊ぶ、黒幕が。
「この賊に力を渡したのは、お前だよな?」
エヴァンスがステンドグラスの外を見ると――そこにいた影が動いた。
マントを羽織った、漆黒の人形、ナハト。
ゆっくりと窓枠に降り立ち、ハンターを見下ろす。
その様子は最初と異なり、機嫌の良さがうかがえる。くつくつと笑っているようだった。
「何がおかしいんスか」
「何が、だと」
ナハトはわからぬのか、と言うように続ける。
「ヴァレリオだ。最後の最後に、楽しませてくれた。貴様らは知らぬだろうが――ヴァレリオは、本当につまらぬ人形だった」
「つまらないってんなら、同意するぜ。持ち主に似てずいぶんとつまらなかった」
カズマの挑発にも、ナハトは笑いを返す。
「貴様らがそういった反応を示すのも、またヴァレリオのおかげでもあろう。やつ自身の最後の苦しむ姿と共に――新たな楽しみを、作ってくれた」
「楽しみ……? 楽しむためだけに、こんなことを? 遊ぶなら、一人でお人形遊びでもしてやがれってんスよ」
「“人形”で遊ぶことも、貴様らハンターと会うことも、私には大切な楽しみだ」
と、そこで明が剣を振るう。不意打ちの衝撃波を、ナハトに放った。
傷一つないナハトは、腕を掲げる。
「それもまた、いい。褒美だ。少し付き合ってやろう」
ナハトが腕を振ると、陶器の針が飛んだ。近接していたハンター数人が、魔力の糸で縫い止められたように行動不能になる。
残るハンターが武器を構えるが、ナハトは既に森の中へと飛んでいた。
「終わりだ。また会おう」
影は日の落ちる森へ消え――その行方は、知れなくなった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/06 00:20:51 |
|
![]() |
相談卓 高円寺 義経(ka4362) 人間(リアルブルー)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/07/08 20:18:23 |