ゲスト
(ka0000)
AMNESIA BIRDS
マスター:風亜智疾

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/10 19:00
- 完成日
- 2015/07/24 00:32
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
―どこかに。置き忘れてしまったような。
■
自分以外の5人は、全員初任務なのだと聞いていた。
シンプルで動きやすい服に、口元を隠すようなマフラー。腰に携えた細身の剣。
くすんだ灰色の短髪の40代半ばの男、ディーノ・オルドリーニは他のメンツに聞こえない様に溜息を一つ吐く。
(俺はいつから引率係になったんだ……)
確かに、オフィスで依頼を受ける際に職員へ「ブランクがあるので、軽めのものから頼みたい」とは言った。言ったが。
依頼内容は難しくないものでも、新人を連れて行く事はまた別の難易度がある。
「あのっ。ディーノ先輩!」
年齢のせいで、どうやらこの新人たちにはディーノが「凄腕のハンター」にでも見えているのだろう。
思わず口をひきつらせ、ディーノは手を振った。
「俺は先輩じゃない。その呼び方はやめてくれ」
目を輝かせる新人たちは、そんな彼の言葉も気にせずに矢継ぎ早に質問を飛ばしてくる。
「今回の敵はどんなものですか!?」
「先輩はいつからハンターを?」
「今までで一番強かった敵はどんな奴でしたか!」
ハンターになりたて。夢も希望も、将来の栄光も。全てその手に掴めるような錯覚を覚えるそんな頃だ。
何でも自分で出来ると思って、誰でも助ける事が出来るのだと粋がって―――。
「あの、先輩?」
逡巡。のち覚醒。
「……俺の経験なんざ、聞く価値もないもんだ。お前たちはお前たちの思うように、これから先、進んでいけばいい」
彼は英雄などではない。勿論勇者でもない。
悔いても悔いきれない失敗談だけを持つ、ただのハンターだ。
えぇー? と残念そうに声を合わせる新人たちを促しつつ、彼は道をゆく。
■
それが、数刻前の出来事だ。
(何が。何が起きた)
ディーノは倒れていく新人たちを必死に守りつつ、雑魔と対峙していた。
眼前で嘲笑うかのように羽ばたくのは、鳥のような翼をもつ異形。
鳥ではない。翼は鳥のものに酷似していたが、その身はまるで小型の獅子のよう。
鋭い爪と、鋭い牙。翼を持つものらしく敏捷な動き。
それだけならば、まだ何とか出来ただろう。いくら新人であっても、彼らもまたハンターなのだ。
その力があり、そしてしっかりと自分の役割を果たせれば。
何より、ブランクがあれども自分もついていた。
恐らくはギリギリ。負傷者は出るだろうが、それでも倒せないはずはなかった。
けれど。今のこの状況は。この惨状はなんだ。
「クソッ……! こんな敵なら、そこまでしっかり情報として落としておけ……!」
今更オフィスの依頼書に文句をつけたところで始まらない。
目の前で舞う敵は、まるで光を乱反射させる様な体を持っていた。
不可視、というわけではない。しかし、太陽の下ではその姿を捉え辛い。
そしておそらく夜は夜で、闇に溶け込んでしまうだろう。
そしてその翼が羽ばたく度に、周囲に鱗粉のようなものが振り撒かれる。
その粉を浴びると一瞬意識が遠のいて、自分が何故ここにいるのか分からなくなり、武器を握る力が弱まってしまう。
「……おい、目を閉じるなよ! 俺は6人も抱える力はないんだからな……!」
とにかく、今のディーノがすべきことはただ一つ。
敵を退けつつ、この場にいる全員をなんとしてでも連れ帰る。
それだけだ。
■
「……つまり。ほぼ全滅、と。そういう事でよろしいですか?」
「辛辣だな……弁解の余地もないが、その通りだ」
苦い表情で頭を掻きつつ頷く、どこかくたびれた様子の男を見上げるオフィス職員はそっと首を横に振る。
「仕方ありません。情報が少なかったこの状況で、重体者が出なかっただけよかったですよ。敵の正確な情報も得られましたし、次は対策が打てるでしょう」
これならば、もう一度依頼を出して後続のハンター達に任せればいい。
新しい書類を作成しつつ、職員がふと顔を上げた。視線の先には、何故自分を見るのだと訝しげな表情をした男が一人。
「ディーノさん、すみませんが引率をお願いします」
「は?」
素っ頓狂な声を上げる中年の男に、職員は有無を言わさぬ笑みを浮かべた。
「現場を見て、敵と交戦した貴方がここにいるんです。道案内をお願いしますね」
■
自分以外の5人は、全員初任務なのだと聞いていた。
シンプルで動きやすい服に、口元を隠すようなマフラー。腰に携えた細身の剣。
くすんだ灰色の短髪の40代半ばの男、ディーノ・オルドリーニは他のメンツに聞こえない様に溜息を一つ吐く。
(俺はいつから引率係になったんだ……)
確かに、オフィスで依頼を受ける際に職員へ「ブランクがあるので、軽めのものから頼みたい」とは言った。言ったが。
依頼内容は難しくないものでも、新人を連れて行く事はまた別の難易度がある。
「あのっ。ディーノ先輩!」
年齢のせいで、どうやらこの新人たちにはディーノが「凄腕のハンター」にでも見えているのだろう。
思わず口をひきつらせ、ディーノは手を振った。
「俺は先輩じゃない。その呼び方はやめてくれ」
目を輝かせる新人たちは、そんな彼の言葉も気にせずに矢継ぎ早に質問を飛ばしてくる。
「今回の敵はどんなものですか!?」
「先輩はいつからハンターを?」
「今までで一番強かった敵はどんな奴でしたか!」
ハンターになりたて。夢も希望も、将来の栄光も。全てその手に掴めるような錯覚を覚えるそんな頃だ。
何でも自分で出来ると思って、誰でも助ける事が出来るのだと粋がって―――。
「あの、先輩?」
逡巡。のち覚醒。
「……俺の経験なんざ、聞く価値もないもんだ。お前たちはお前たちの思うように、これから先、進んでいけばいい」
彼は英雄などではない。勿論勇者でもない。
悔いても悔いきれない失敗談だけを持つ、ただのハンターだ。
えぇー? と残念そうに声を合わせる新人たちを促しつつ、彼は道をゆく。
■
それが、数刻前の出来事だ。
(何が。何が起きた)
ディーノは倒れていく新人たちを必死に守りつつ、雑魔と対峙していた。
眼前で嘲笑うかのように羽ばたくのは、鳥のような翼をもつ異形。
鳥ではない。翼は鳥のものに酷似していたが、その身はまるで小型の獅子のよう。
鋭い爪と、鋭い牙。翼を持つものらしく敏捷な動き。
それだけならば、まだ何とか出来ただろう。いくら新人であっても、彼らもまたハンターなのだ。
その力があり、そしてしっかりと自分の役割を果たせれば。
何より、ブランクがあれども自分もついていた。
恐らくはギリギリ。負傷者は出るだろうが、それでも倒せないはずはなかった。
けれど。今のこの状況は。この惨状はなんだ。
「クソッ……! こんな敵なら、そこまでしっかり情報として落としておけ……!」
今更オフィスの依頼書に文句をつけたところで始まらない。
目の前で舞う敵は、まるで光を乱反射させる様な体を持っていた。
不可視、というわけではない。しかし、太陽の下ではその姿を捉え辛い。
そしておそらく夜は夜で、闇に溶け込んでしまうだろう。
そしてその翼が羽ばたく度に、周囲に鱗粉のようなものが振り撒かれる。
その粉を浴びると一瞬意識が遠のいて、自分が何故ここにいるのか分からなくなり、武器を握る力が弱まってしまう。
「……おい、目を閉じるなよ! 俺は6人も抱える力はないんだからな……!」
とにかく、今のディーノがすべきことはただ一つ。
敵を退けつつ、この場にいる全員をなんとしてでも連れ帰る。
それだけだ。
■
「……つまり。ほぼ全滅、と。そういう事でよろしいですか?」
「辛辣だな……弁解の余地もないが、その通りだ」
苦い表情で頭を掻きつつ頷く、どこかくたびれた様子の男を見上げるオフィス職員はそっと首を横に振る。
「仕方ありません。情報が少なかったこの状況で、重体者が出なかっただけよかったですよ。敵の正確な情報も得られましたし、次は対策が打てるでしょう」
これならば、もう一度依頼を出して後続のハンター達に任せればいい。
新しい書類を作成しつつ、職員がふと顔を上げた。視線の先には、何故自分を見るのだと訝しげな表情をした男が一人。
「ディーノさん、すみませんが引率をお願いします」
「は?」
素っ頓狂な声を上げる中年の男に、職員は有無を言わさぬ笑みを浮かべた。
「現場を見て、敵と交戦した貴方がここにいるんです。道案内をお願いしますね」
リプレイ本文
―貴方の、忘れ物は?
■時間喪失
「せめて移動中の時間も使えれば、色々と手はあったのだけど」
「日が暮れたら意味がないだろう。今回は諦めるんだな」
紅の瞳を眇めつつ、自分よりはるかに背の高い男を見上げた鬼非鬼 ふー(ka5179)は、仕方がないと肩を竦めた。
時間が許せば火気を使った仕掛けを施したかったのだが、如何せん今回は時間がない。
準備に時間をかければかけるほど、確実に敵を仕留めることは難しくなる。
口元を隠すように巻かれたマフラーをさらに引き上げたディーノの隣に立ったジル・ティフォージュ(ka3873)が、眼前で揺らめく宙を見やった後に口角を上げた。
「『自分はなぜここにいるのか』『何をしようとしていたのか』とな」
雑魔の分際で、大層なことを問うものだ。内心僅かに感心しつつもちらりと隣の男を見れば、ディーノは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべていた。
「歪虚を討伐する、がまず1つ。依頼を遂行する、で1つ。……『ここにいる理由』、まさかその2つのみではあるまい」
「……さあな」
今多くを語るつもりはない。と言葉をそこで切った男へと小さく肩を竦め、ジルは眼前揺らめくナニか――恐らく、報告のあった今回の敵だろう。それへと視線を戻す。
(この装いで思い出す、嫌な感じ。……違う。ここはあの時の戦場じゃない)
タオルを折り簡易的に口を中心にした露出部を覆った椿姫・T・ノーチェ(ka1225)が、ふと既視感を覚えて視線を伏せた。
嘗ての『なにか』と酷く被る、自分の姿。そっとその記憶を払うように頭を振る。今は、眼前の戦場を見据える時だ。
「‥‥厄介な攻撃をしてきますね。わたしの力が及ぶと宜しいのですけれど……。最悪な事にはならないように尽力します」
日下 菜摘(ka0881)の言葉に、小さく頷いたのは桜憐りるか(ka3748)だった。
「きっと成功させて……皆さんのおかげで成功を掴んだと報告したいの」
柔らかな桜色のかつぎでそっと口元を隠しつつ、りるかは瞳に凛とした意思を浮かべる。
彼女は今回が初めての任務。その気負いもどこかにあるのかもしれない。
全員がその視界に揺らめきを確認出来た所から、行動開始だ。
「本当、やっかいな相手ね? まぁ、嗅ぎ殺すことにかわりはないかしら」
携えた日本刀の柄に手をかけつつ、軽く鼻を鳴らしたのはブラウ(ka4809)。
人とは少し違う趣向を好む体臭愛好の少女は、黒髪を揺らしつつ微笑んでいる。
「それにしても。話を聞く限りじゃ、かなりヤバイ状況だったんでしょ?」
ディーノの前へと回り込んで顔を覗き込みつつ、カーミン・S・フィールズ(ka1559)は可愛らしく首を傾げ。
「相当やるわね、オジサン」
「……死ぬ気になれば、お前達でも出来るだろ」
「ご謙遜を。誰にだって出来る事ではありません」
微笑みを浮かべつつ、ジュースを手にした神薙 綾女(ka0944)がゆっくりとその腕を振り上げる。
「さて件の能力…思いつく限りの事は用意しましたが…無事討伐となるか本題は此処からですね」
遠くの揺らめきが、こちらと視線を合わせた。ような。
それを確認して綾女以外のりるかとブラウもその手にジュースや牛乳、蜂蜜の入った瓶を持つ。
些か戦場に不釣り合いなこれらのものが、彼女たちの第一の策であった。
ディーノは眉を寄せつつ、それでも敢えて口を噤む。
「逢魔が時。さぁ、お前達には何が見える? 犬か、狼か、人か。それとも鬼か」
ふーの言葉を皮切りに、行動は始まる。
揺らめきが範囲に入ったのを見計らい、綾女とりるか、ブラウは其々のタイミングで液体の入った瓶を投擲した。
放物線を描いて飛ぶそれを、ゆらりゆらりと揺らめく敵は易々と躱していく。
最後尾、負傷のせいで最低限自分の身を守るだけのディーノが顔を顰めた。
「それは、武器じゃないからな……」
武器であれば命中する可能性もあっただろう。
しかし、瓶は投げられるためのものではない。故に、命中は著しく低い。遠距離からなら、なおさらだ。
元々『非常に素早い』と報告のあった敵なのだ。命中する確率は、最早『ダメ元』といってもいい状態。
甲高い音を立てて割れるいくつかの瓶のうち。
たったひとつ、敵の1体に当たったのは綾女のジュース瓶だった。
「ひとつだけでも当たってもらえてよかったです」
微笑みつつ武器に手をかける。
と同時に響く発砲音。
後方、構えた武器の射程ギリギリからスキルで底上げされた弾丸を敵へと放ったのはふーだ。
「さあおいで。赤く染めてあげる」
紅の二本角を幻視させつつ、自身の射撃へと反応した1体へと標的を絞る。
それに合わせて全員が機敏に二手に分かれた。
必ず風上を取っているのは、鱗粉が風に乗って身に及ばない様にという対策だ。
「ディーノさん」
自らの後方、どこか歯がゆそうに戦場を見つめるしかないディーノへと、椿姫は微笑みかける。
「終わり次第、すぐに手当てをさせていただきますね。それまで……少しだけ、待っていてください」
椿姫の一言に、一瞬言葉に詰まった後。ディーノは困ったように苦笑を一つ零した。
「……気をつけろよ」
■舞う鱗粉
ふーが釣った1体とは別の1体が合流しない様に、椿姫は手にした武器をノーモーションで投擲する。
鬼を自称する別班の少女が釣ったのは、運よくジュースがかかっていない方だった。
つまり、椿姫たちが対応するのは、ジュースを被ることでその乱反射が僅かに減少した1体。
「鬼さんこちら、というのは鬼非鬼さんに失礼でしょうか」
艶やかに冷ややかに微笑みを浮かべ、敵を見据える。
目指すは前衛のジルが、敵の元へノーダメージで向かえること。
やや後方からりるかが、小さな火球を生み出し自らの周囲を照らす。
「火は、苦手……です?」
桜の瞳に凛とした光を灯し、敵を注意深く観察する。
自身の手元に生まれた火に対して、敵はさして脅威を感じてはいないのか、怯えるそぶりは見せなかった。
「んぅ……」
どうやら火を恐れはしないらしい。その情報収集が行えただけでも、今後の行動が決められるので上々か。
二人の行動に敵が対応している間に、ジルは目的通り敵の元へと駆け込んでいく。
肉薄した勢いをも利用して、掲げた騎士剣をやや大振りに振り下ろした。
ゆらり。多少その威力が減少したとはいえ、完全に消滅していない以上敵の姿は揺らめき続けている。
振り下ろされた剣は、敵の前足を掠めるに止まった。
未だ敵は、様子見をするように探るように攻撃してくることはない。
(知能が高いタイプには見えませんが……)
後方、菜摘は探りつつも、魔法で光球を生み出し放つ。
その攻撃が揺らめく敵の鼻先を掠めた次の瞬間。
―キィィィィ!!
耳障りな、鳴き声が二つ、響いた。
「っ! 下がれ!!」
遥か後方の案内人の声が響く。しかし、間に合わない。
前足、鼻先とダメージを受けた敵は、揺らめきつつ大きく翼を羽ばたかせる。
スカーフで覆われた口元を、全員がさらに掌で覆うよりも、僅かに早く。
宙を舞った大量の鱗粉が、最も敵へと肉薄していたジルを中心に椿姫や、中衛であったりるかすら襲った。
「―――っ!」
誰かを呼ぶ声が。遠く。
■鬼事
日本刀を納刀状態で構えたブラウが、敵へと駆け込んでいく。
その姿を援護するように、ふーは一発目に着弾したその場所を狙って狙撃を続ける。
揺らめく敵はなかなか同じ場所へと弾丸をめり込ませる事を許さないが、それでも何発かは確実に掠め、または着弾しているので結果は上々だろう。
「全くほんとにすばしっこくてイヤになっちゃう」
カーミンはぽつりと呟きつつも、俊敏に動き回りつつ魔導拳銃を放つ。
「仕方ありません。策は講じたのです。あとはこちらが臨機応変に動くのみです」
綾女が上昇させた移動を利用した素早いモーションで敵へと手裏剣を投擲した直後、ブラウは手にした日本刀の間合いへと敵を捉えた。
翻るスカートのその裾から、蠢く手のような影を生み出しつつ、一気に抜刀し下から掬い上げるように敵へと斬りかかる。
ゆらり。揺らめく敵の腹部を掠め、一閃。
ふーの元へと向かおうとしていた敵が、目の前のブラウへとその矛先を向ける。
「そうこなくちゃ。貴方はわたしたちと遊んでくれないと」
貴方の匂いは、今は素敵じゃないけれど。きっと血を流せば素敵になるでしょう。
その姿を想像して、ブラウは微笑む。それを、わたしは、見たいのだ。そういわんばかりに。
「でも残念ね? いい匂いじゃないけど、貴方人気があるみたい」
「そうそう。次は私と踊りましょ?」
タァン! 打ち鳴らされた鞭は、カーミンのもの。
鋭い破裂音に、敵がその動きを一瞬止めた。
ブラウか、カーミンか。どちらを獲物にするべきか。
逡巡するような敵の動きを確認して、滑らかに体を動かした綾女が隙を縫うように手裏剣を投擲する。
揺らめく体の、その隙を縫った攻撃は、敵の後ろ脚を切り裂いて。
―キィィィィ!!
耳障りな鳴き声が二つ、響いた。
「っ! 下がれ!!」
案内人の声が響く。
蓄積したダメージに反射的になのか、反撃としてなのか。
敵は大きく翼を羽ばたかせ、大量の鱗粉を舞い散らせる。
咄嗟に口を手で覆っても、ほんの僅かタイミングが遅かった。
「―――っ!」
誰かを呼ぶ声が、遠く。
■一時喪失
「なぜここにいるのか」
ぼんやりと、彼は。彼女は考えていた。
なにか目的があったはずだ。手にした武器が、ただただ重い。
「なにをしようとしていたのか」
わからない。分からない。
自分の眼前で、振りかざされた、鋭い、爪。が。翻って。
「―――っく!!」
■そして現実
カーミンが仮称として名づけた「アムネジア」―つまるところ、一瞬の喪失状態に陥ったメンバーが意識自体を取り戻したのは、敵の攻撃をその身に受けた直後だった。
最後衛として立っていたふーと菜摘は、その被害を免れたが、想像以上に鱗粉は広範囲に蔓延した。
口元を布で覆い、可能な限り風上に立ったというのに、それだけの被害が。
内心、ぞっとした菜摘は、気を取り直してメンバーの異常状態回復を始める。
「……逆に。これだけで済んでよかった。というべきだろうな」
ディーノの呻くような言葉に、ふーは「そうね」とトリガーから指を離すことなく頷いた。
「私たちのだれも、傷は負いこそすれ戦闘不能にはなっていないわ。対策は効果があったのでしょうね」
冷静に分析する赤眼の鬼子に、ディーノは視線を他のメンバーへと移す。
菜摘は一番負傷度の高いジルから順に状態異常を回復し、その間、敵は最も距離を取っていた二人へと接近していく。
そう。今の状況は。
図らずしも好機。後衛である菜摘、ふー。そして前衛中衛として行動していた残りのメンバーとの挟み撃ち状態だ。
菜摘たちは、アムネジアを受けなかったので見ていた。
敵は、前衛たちをアムネジア状態へと堕とした後、通り過ぎるように移動しつつそれぞれのメンバーへ攻撃を加えていったのだ。
「アンタ……ムカつく顔よね……」
ゆらり。体を揺らすように方向転換したのはカーミンだった。
先ほどまでの明るい少女然した表情はどこへやら。一気に目を細め、自身の目標を睨み据える。
一気に間合いを詰めると、そのまま敵の近距離から魔導拳銃の引き金を引く。
いくら揺らめく敵とはいえ、ほぼ至近距離といえる距離からの攻撃は避けきれない。
与えられる痛みからもがき羽ばたこうとするその敵へと、空気を裂く弾丸が飛び込む。
後方、ふーの一撃だ。
「あなたの命も記憶と一緒に消し去って差し上げるわ」
よろめき落ちる敵に、銀の閃きが走る。
「仲間の血の匂いを堪能させてもらったことには感謝するわ。でも、やっぱり貴方の匂いは好きになれないのよね」
納刀からの抜刀一閃。ブラウの刀によって、翼を切り落とされた敵が地面へと転げ落ちる。
もうこうなれば、鱗粉も回避も恐れるものは何もない。
「いかな迷彩効果を施そうともその身についた香りと血の匂い……隠し切れませんよ」
それ以前に。もう動けませんか?
小さく笑みを浮かべつつ、その瞳は氷の様に冷たく。綾女はそっと手裏剣の先を、敵の胸部へと向けた。
―鳴き声は、響かない。
同じく、もう1体も自らの進撃によって窮地に陥っていた。
ゆっくりと距離を取ったりるかが、血の滲む指先を敵へと向ける。
「その翼……こまってしまうの、です」
放たれる炎の矢は、バックアタックとなって敵の翼を焼く。
間髪入れず接近した椿姫は、手にしたワイヤーウィップを翼を焼かれた敵に巻きつけ引き落とす。
ぬるり、と掌を流れる血で、ワイヤーが滑りそうなのをこらえ。
「拘束なら、私もお手伝いします」
後方からメンバーの状態異常を回復し終えた菜摘が、朗々とその美しい歌声を響かせ敵を縫いとめる。
「ジルさん!」
声に応えるように、ジルが一気に肉薄する。
鈍く美しく光る騎士剣を振り上げ、笑う。
「たかだか十秒惑わした程度でいい気になるなよ、下郎が」
振り下ろされた剣は、そのまま拘束を重ねられた敵を、真っ二つに切り裂き。
「残念だが、貴様風情の手品に騙されるほど、浅い生き方はしとらん」
揺らめく二体は、その体を地面へと沈めるのだった。
■喪失の先へ
傷だらけのメンバーを迎え、灰の髪を持つ男は頭を下げた。
「すまん。もっと情報を的確に集められていたら」
こんなことには。と続けようとした男の言葉を遮るように、菜摘は微笑む。
「あなたがきちんと情報を持ち帰ってくれたお陰で戦い抜く事が出来ました。その判断に敬意を表させて頂きます」
ありがとうございました。と頭を下げる菜摘の横に立った椿姫が、自らも傷を負いながらディーノへと手を差し伸べる。
「お約束しましたよね」
行動の意味をくみ取って、男は笑う。
「まずは、お前たち自身をどうにかしてからだな。俺は一応の手当ては受けている」
傷だらけだ。
ジルに至っては、浅い傷ではない。
しかし彼はまるで「痛いところなどない」と言わんばかりに、いつも通りの表情を浮かべている。
「強がるのもいいが。痛みには敏感であった方が、生きていくには都合がいいぞ」
「それは、オルドリーニ殿の自論か?」
「なに。ただのオッサンからの忠告だ」
肩を竦めるジルの肩を態と強めに叩いたディーノが、その場に座り込む。
それにつられるように、傷だらけのメンバーが次々と休息を取るためにその場へと座り込み。
どこか特殊な愛好を持つ少女は、恍惚とした笑みを浮かべるのだった。
揺らめく敵の消えた草原には、血の匂いが暫くの間漂い続けていた。
■時間喪失
「せめて移動中の時間も使えれば、色々と手はあったのだけど」
「日が暮れたら意味がないだろう。今回は諦めるんだな」
紅の瞳を眇めつつ、自分よりはるかに背の高い男を見上げた鬼非鬼 ふー(ka5179)は、仕方がないと肩を竦めた。
時間が許せば火気を使った仕掛けを施したかったのだが、如何せん今回は時間がない。
準備に時間をかければかけるほど、確実に敵を仕留めることは難しくなる。
口元を隠すように巻かれたマフラーをさらに引き上げたディーノの隣に立ったジル・ティフォージュ(ka3873)が、眼前で揺らめく宙を見やった後に口角を上げた。
「『自分はなぜここにいるのか』『何をしようとしていたのか』とな」
雑魔の分際で、大層なことを問うものだ。内心僅かに感心しつつもちらりと隣の男を見れば、ディーノは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべていた。
「歪虚を討伐する、がまず1つ。依頼を遂行する、で1つ。……『ここにいる理由』、まさかその2つのみではあるまい」
「……さあな」
今多くを語るつもりはない。と言葉をそこで切った男へと小さく肩を竦め、ジルは眼前揺らめくナニか――恐らく、報告のあった今回の敵だろう。それへと視線を戻す。
(この装いで思い出す、嫌な感じ。……違う。ここはあの時の戦場じゃない)
タオルを折り簡易的に口を中心にした露出部を覆った椿姫・T・ノーチェ(ka1225)が、ふと既視感を覚えて視線を伏せた。
嘗ての『なにか』と酷く被る、自分の姿。そっとその記憶を払うように頭を振る。今は、眼前の戦場を見据える時だ。
「‥‥厄介な攻撃をしてきますね。わたしの力が及ぶと宜しいのですけれど……。最悪な事にはならないように尽力します」
日下 菜摘(ka0881)の言葉に、小さく頷いたのは桜憐りるか(ka3748)だった。
「きっと成功させて……皆さんのおかげで成功を掴んだと報告したいの」
柔らかな桜色のかつぎでそっと口元を隠しつつ、りるかは瞳に凛とした意思を浮かべる。
彼女は今回が初めての任務。その気負いもどこかにあるのかもしれない。
全員がその視界に揺らめきを確認出来た所から、行動開始だ。
「本当、やっかいな相手ね? まぁ、嗅ぎ殺すことにかわりはないかしら」
携えた日本刀の柄に手をかけつつ、軽く鼻を鳴らしたのはブラウ(ka4809)。
人とは少し違う趣向を好む体臭愛好の少女は、黒髪を揺らしつつ微笑んでいる。
「それにしても。話を聞く限りじゃ、かなりヤバイ状況だったんでしょ?」
ディーノの前へと回り込んで顔を覗き込みつつ、カーミン・S・フィールズ(ka1559)は可愛らしく首を傾げ。
「相当やるわね、オジサン」
「……死ぬ気になれば、お前達でも出来るだろ」
「ご謙遜を。誰にだって出来る事ではありません」
微笑みを浮かべつつ、ジュースを手にした神薙 綾女(ka0944)がゆっくりとその腕を振り上げる。
「さて件の能力…思いつく限りの事は用意しましたが…無事討伐となるか本題は此処からですね」
遠くの揺らめきが、こちらと視線を合わせた。ような。
それを確認して綾女以外のりるかとブラウもその手にジュースや牛乳、蜂蜜の入った瓶を持つ。
些か戦場に不釣り合いなこれらのものが、彼女たちの第一の策であった。
ディーノは眉を寄せつつ、それでも敢えて口を噤む。
「逢魔が時。さぁ、お前達には何が見える? 犬か、狼か、人か。それとも鬼か」
ふーの言葉を皮切りに、行動は始まる。
揺らめきが範囲に入ったのを見計らい、綾女とりるか、ブラウは其々のタイミングで液体の入った瓶を投擲した。
放物線を描いて飛ぶそれを、ゆらりゆらりと揺らめく敵は易々と躱していく。
最後尾、負傷のせいで最低限自分の身を守るだけのディーノが顔を顰めた。
「それは、武器じゃないからな……」
武器であれば命中する可能性もあっただろう。
しかし、瓶は投げられるためのものではない。故に、命中は著しく低い。遠距離からなら、なおさらだ。
元々『非常に素早い』と報告のあった敵なのだ。命中する確率は、最早『ダメ元』といってもいい状態。
甲高い音を立てて割れるいくつかの瓶のうち。
たったひとつ、敵の1体に当たったのは綾女のジュース瓶だった。
「ひとつだけでも当たってもらえてよかったです」
微笑みつつ武器に手をかける。
と同時に響く発砲音。
後方、構えた武器の射程ギリギリからスキルで底上げされた弾丸を敵へと放ったのはふーだ。
「さあおいで。赤く染めてあげる」
紅の二本角を幻視させつつ、自身の射撃へと反応した1体へと標的を絞る。
それに合わせて全員が機敏に二手に分かれた。
必ず風上を取っているのは、鱗粉が風に乗って身に及ばない様にという対策だ。
「ディーノさん」
自らの後方、どこか歯がゆそうに戦場を見つめるしかないディーノへと、椿姫は微笑みかける。
「終わり次第、すぐに手当てをさせていただきますね。それまで……少しだけ、待っていてください」
椿姫の一言に、一瞬言葉に詰まった後。ディーノは困ったように苦笑を一つ零した。
「……気をつけろよ」
■舞う鱗粉
ふーが釣った1体とは別の1体が合流しない様に、椿姫は手にした武器をノーモーションで投擲する。
鬼を自称する別班の少女が釣ったのは、運よくジュースがかかっていない方だった。
つまり、椿姫たちが対応するのは、ジュースを被ることでその乱反射が僅かに減少した1体。
「鬼さんこちら、というのは鬼非鬼さんに失礼でしょうか」
艶やかに冷ややかに微笑みを浮かべ、敵を見据える。
目指すは前衛のジルが、敵の元へノーダメージで向かえること。
やや後方からりるかが、小さな火球を生み出し自らの周囲を照らす。
「火は、苦手……です?」
桜の瞳に凛とした光を灯し、敵を注意深く観察する。
自身の手元に生まれた火に対して、敵はさして脅威を感じてはいないのか、怯えるそぶりは見せなかった。
「んぅ……」
どうやら火を恐れはしないらしい。その情報収集が行えただけでも、今後の行動が決められるので上々か。
二人の行動に敵が対応している間に、ジルは目的通り敵の元へと駆け込んでいく。
肉薄した勢いをも利用して、掲げた騎士剣をやや大振りに振り下ろした。
ゆらり。多少その威力が減少したとはいえ、完全に消滅していない以上敵の姿は揺らめき続けている。
振り下ろされた剣は、敵の前足を掠めるに止まった。
未だ敵は、様子見をするように探るように攻撃してくることはない。
(知能が高いタイプには見えませんが……)
後方、菜摘は探りつつも、魔法で光球を生み出し放つ。
その攻撃が揺らめく敵の鼻先を掠めた次の瞬間。
―キィィィィ!!
耳障りな、鳴き声が二つ、響いた。
「っ! 下がれ!!」
遥か後方の案内人の声が響く。しかし、間に合わない。
前足、鼻先とダメージを受けた敵は、揺らめきつつ大きく翼を羽ばたかせる。
スカーフで覆われた口元を、全員がさらに掌で覆うよりも、僅かに早く。
宙を舞った大量の鱗粉が、最も敵へと肉薄していたジルを中心に椿姫や、中衛であったりるかすら襲った。
「―――っ!」
誰かを呼ぶ声が。遠く。
■鬼事
日本刀を納刀状態で構えたブラウが、敵へと駆け込んでいく。
その姿を援護するように、ふーは一発目に着弾したその場所を狙って狙撃を続ける。
揺らめく敵はなかなか同じ場所へと弾丸をめり込ませる事を許さないが、それでも何発かは確実に掠め、または着弾しているので結果は上々だろう。
「全くほんとにすばしっこくてイヤになっちゃう」
カーミンはぽつりと呟きつつも、俊敏に動き回りつつ魔導拳銃を放つ。
「仕方ありません。策は講じたのです。あとはこちらが臨機応変に動くのみです」
綾女が上昇させた移動を利用した素早いモーションで敵へと手裏剣を投擲した直後、ブラウは手にした日本刀の間合いへと敵を捉えた。
翻るスカートのその裾から、蠢く手のような影を生み出しつつ、一気に抜刀し下から掬い上げるように敵へと斬りかかる。
ゆらり。揺らめく敵の腹部を掠め、一閃。
ふーの元へと向かおうとしていた敵が、目の前のブラウへとその矛先を向ける。
「そうこなくちゃ。貴方はわたしたちと遊んでくれないと」
貴方の匂いは、今は素敵じゃないけれど。きっと血を流せば素敵になるでしょう。
その姿を想像して、ブラウは微笑む。それを、わたしは、見たいのだ。そういわんばかりに。
「でも残念ね? いい匂いじゃないけど、貴方人気があるみたい」
「そうそう。次は私と踊りましょ?」
タァン! 打ち鳴らされた鞭は、カーミンのもの。
鋭い破裂音に、敵がその動きを一瞬止めた。
ブラウか、カーミンか。どちらを獲物にするべきか。
逡巡するような敵の動きを確認して、滑らかに体を動かした綾女が隙を縫うように手裏剣を投擲する。
揺らめく体の、その隙を縫った攻撃は、敵の後ろ脚を切り裂いて。
―キィィィィ!!
耳障りな鳴き声が二つ、響いた。
「っ! 下がれ!!」
案内人の声が響く。
蓄積したダメージに反射的になのか、反撃としてなのか。
敵は大きく翼を羽ばたかせ、大量の鱗粉を舞い散らせる。
咄嗟に口を手で覆っても、ほんの僅かタイミングが遅かった。
「―――っ!」
誰かを呼ぶ声が、遠く。
■一時喪失
「なぜここにいるのか」
ぼんやりと、彼は。彼女は考えていた。
なにか目的があったはずだ。手にした武器が、ただただ重い。
「なにをしようとしていたのか」
わからない。分からない。
自分の眼前で、振りかざされた、鋭い、爪。が。翻って。
「―――っく!!」
■そして現実
カーミンが仮称として名づけた「アムネジア」―つまるところ、一瞬の喪失状態に陥ったメンバーが意識自体を取り戻したのは、敵の攻撃をその身に受けた直後だった。
最後衛として立っていたふーと菜摘は、その被害を免れたが、想像以上に鱗粉は広範囲に蔓延した。
口元を布で覆い、可能な限り風上に立ったというのに、それだけの被害が。
内心、ぞっとした菜摘は、気を取り直してメンバーの異常状態回復を始める。
「……逆に。これだけで済んでよかった。というべきだろうな」
ディーノの呻くような言葉に、ふーは「そうね」とトリガーから指を離すことなく頷いた。
「私たちのだれも、傷は負いこそすれ戦闘不能にはなっていないわ。対策は効果があったのでしょうね」
冷静に分析する赤眼の鬼子に、ディーノは視線を他のメンバーへと移す。
菜摘は一番負傷度の高いジルから順に状態異常を回復し、その間、敵は最も距離を取っていた二人へと接近していく。
そう。今の状況は。
図らずしも好機。後衛である菜摘、ふー。そして前衛中衛として行動していた残りのメンバーとの挟み撃ち状態だ。
菜摘たちは、アムネジアを受けなかったので見ていた。
敵は、前衛たちをアムネジア状態へと堕とした後、通り過ぎるように移動しつつそれぞれのメンバーへ攻撃を加えていったのだ。
「アンタ……ムカつく顔よね……」
ゆらり。体を揺らすように方向転換したのはカーミンだった。
先ほどまでの明るい少女然した表情はどこへやら。一気に目を細め、自身の目標を睨み据える。
一気に間合いを詰めると、そのまま敵の近距離から魔導拳銃の引き金を引く。
いくら揺らめく敵とはいえ、ほぼ至近距離といえる距離からの攻撃は避けきれない。
与えられる痛みからもがき羽ばたこうとするその敵へと、空気を裂く弾丸が飛び込む。
後方、ふーの一撃だ。
「あなたの命も記憶と一緒に消し去って差し上げるわ」
よろめき落ちる敵に、銀の閃きが走る。
「仲間の血の匂いを堪能させてもらったことには感謝するわ。でも、やっぱり貴方の匂いは好きになれないのよね」
納刀からの抜刀一閃。ブラウの刀によって、翼を切り落とされた敵が地面へと転げ落ちる。
もうこうなれば、鱗粉も回避も恐れるものは何もない。
「いかな迷彩効果を施そうともその身についた香りと血の匂い……隠し切れませんよ」
それ以前に。もう動けませんか?
小さく笑みを浮かべつつ、その瞳は氷の様に冷たく。綾女はそっと手裏剣の先を、敵の胸部へと向けた。
―鳴き声は、響かない。
同じく、もう1体も自らの進撃によって窮地に陥っていた。
ゆっくりと距離を取ったりるかが、血の滲む指先を敵へと向ける。
「その翼……こまってしまうの、です」
放たれる炎の矢は、バックアタックとなって敵の翼を焼く。
間髪入れず接近した椿姫は、手にしたワイヤーウィップを翼を焼かれた敵に巻きつけ引き落とす。
ぬるり、と掌を流れる血で、ワイヤーが滑りそうなのをこらえ。
「拘束なら、私もお手伝いします」
後方からメンバーの状態異常を回復し終えた菜摘が、朗々とその美しい歌声を響かせ敵を縫いとめる。
「ジルさん!」
声に応えるように、ジルが一気に肉薄する。
鈍く美しく光る騎士剣を振り上げ、笑う。
「たかだか十秒惑わした程度でいい気になるなよ、下郎が」
振り下ろされた剣は、そのまま拘束を重ねられた敵を、真っ二つに切り裂き。
「残念だが、貴様風情の手品に騙されるほど、浅い生き方はしとらん」
揺らめく二体は、その体を地面へと沈めるのだった。
■喪失の先へ
傷だらけのメンバーを迎え、灰の髪を持つ男は頭を下げた。
「すまん。もっと情報を的確に集められていたら」
こんなことには。と続けようとした男の言葉を遮るように、菜摘は微笑む。
「あなたがきちんと情報を持ち帰ってくれたお陰で戦い抜く事が出来ました。その判断に敬意を表させて頂きます」
ありがとうございました。と頭を下げる菜摘の横に立った椿姫が、自らも傷を負いながらディーノへと手を差し伸べる。
「お約束しましたよね」
行動の意味をくみ取って、男は笑う。
「まずは、お前たち自身をどうにかしてからだな。俺は一応の手当ては受けている」
傷だらけだ。
ジルに至っては、浅い傷ではない。
しかし彼はまるで「痛いところなどない」と言わんばかりに、いつも通りの表情を浮かべている。
「強がるのもいいが。痛みには敏感であった方が、生きていくには都合がいいぞ」
「それは、オルドリーニ殿の自論か?」
「なに。ただのオッサンからの忠告だ」
肩を竦めるジルの肩を態と強めに叩いたディーノが、その場に座り込む。
それにつられるように、傷だらけのメンバーが次々と休息を取るためにその場へと座り込み。
どこか特殊な愛好を持つ少女は、恍惚とした笑みを浮かべるのだった。
揺らめく敵の消えた草原には、血の匂いが暫くの間漂い続けていた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/07 11:57:51 |
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相談卓ってヤツ カーミン・S・フィールズ(ka1559) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/07/10 13:17:08 |