ゲスト
(ka0000)
沈没船からの引き上げ ~ミヤサ~
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/09 22:00
- 完成日
- 2015/07/16 22:07
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
冒険家ミヤサ・カミーはオールスパイスの樹木植生地を探し当てた。種子や葉が香辛料のシナモン、クローブ、ナツメグの代替えになるといわれている。この功績はハンター達が協力してくれたからこそ成すことができた。
ここは港街【ガンナ・エントラータ】。ミヤサは今回も海運業を営む実業家ウリッシュ・ビスナーの屋敷を訪ねていた。
「オールスパイスの件はよくやってくれましたね。今頃は派遣した者達が測量している頃だろう。栽培園にする際にはまた君に助力を頼みたい。よろしく頼むね。それはそれとして、本日の話はそのことではないのだ。例の沈没船のことなのだがね」
「沈没船『ナリアーナ号』ですか」
ウリッシュが机の上の木箱を開ける。中身を見たミヤサは表情を曇らせた。
ミヤーナは半年前、ウリッシュから沈没船ナリアーナ号からのトレジャーハントを請け負った。しかし失敗に終わる。
箱の中身は一枚の皿だ。形こそは変哲もないが、燃えさかる炎のような緋色が表班に浮かんでいる。数百年前に絶えたある地方の窯で作られたものらしい。好事家の間では高価な値が付けられていた。苦労の末に得られたのは、この一枚のみである。
「あれは……」
「わかっていますよ。報告書は詳しく読ませて頂きましたから。海流が鎮まるタイミングの発見は素晴らしいですね。さすがはミヤサくんだ。鮫……ではなく、イレギュラーな海竜のような幻獣が襲ってことを為せなかった。とても残念な幕切れで、君も悔しかったことだろう。そこでもう一度、挑戦してみたらどうだろうか?」
雇った漁師のサポートは素晴らしかったが、海に潜って皿を取りに行くのがミヤサだけだったのが失敗した大きな要因である。
「わかりました。私も心残りでしたので。一つお願いしたいことがあります。今度は漁師に加えてハンターにも手伝ってもらいたいのですが」
「それは私からも提案するつもりだった。ミヤサくんとハンターのみなさんに期待するとしよう」
契約はまとまった。
ナリアーナ号が沈んでいるのはガンナ・エントラータよりも東に位置する海岸線から一キロメートル先の海底である。
大きめ漁船二隻から鋼鉄製の釣り鐘状の潜水道具を下ろす。ちょうどお椀を逆さまにした形なので内部に空気が含まれる。その中に入って海底に横たわる沈没船へと向かう。
周辺は海流が激しいのだが特定時間帯のみ弱まった。そのタイミングは三日から四日に間隔で二時間だけ。昼だけでなく夜の場合もあり得た。
海面から海底まで十二、三メートルといったところだ。全長二十メートルの沈没船は傾いているものの上下はそのままである。割れてもいない。
潜水道具内に入れるのは四から五名で空気は通常で十五分は持つ。限界まで粘って二十五分といったところだ。
ハンターズソサエティ支部を訪れたミヤサが募集をかける。それからまもなくリゼリオのハンターオフィスに依頼が表示されるのだった。
ここは港街【ガンナ・エントラータ】。ミヤサは今回も海運業を営む実業家ウリッシュ・ビスナーの屋敷を訪ねていた。
「オールスパイスの件はよくやってくれましたね。今頃は派遣した者達が測量している頃だろう。栽培園にする際にはまた君に助力を頼みたい。よろしく頼むね。それはそれとして、本日の話はそのことではないのだ。例の沈没船のことなのだがね」
「沈没船『ナリアーナ号』ですか」
ウリッシュが机の上の木箱を開ける。中身を見たミヤサは表情を曇らせた。
ミヤーナは半年前、ウリッシュから沈没船ナリアーナ号からのトレジャーハントを請け負った。しかし失敗に終わる。
箱の中身は一枚の皿だ。形こそは変哲もないが、燃えさかる炎のような緋色が表班に浮かんでいる。数百年前に絶えたある地方の窯で作られたものらしい。好事家の間では高価な値が付けられていた。苦労の末に得られたのは、この一枚のみである。
「あれは……」
「わかっていますよ。報告書は詳しく読ませて頂きましたから。海流が鎮まるタイミングの発見は素晴らしいですね。さすがはミヤサくんだ。鮫……ではなく、イレギュラーな海竜のような幻獣が襲ってことを為せなかった。とても残念な幕切れで、君も悔しかったことだろう。そこでもう一度、挑戦してみたらどうだろうか?」
雇った漁師のサポートは素晴らしかったが、海に潜って皿を取りに行くのがミヤサだけだったのが失敗した大きな要因である。
「わかりました。私も心残りでしたので。一つお願いしたいことがあります。今度は漁師に加えてハンターにも手伝ってもらいたいのですが」
「それは私からも提案するつもりだった。ミヤサくんとハンターのみなさんに期待するとしよう」
契約はまとまった。
ナリアーナ号が沈んでいるのはガンナ・エントラータよりも東に位置する海岸線から一キロメートル先の海底である。
大きめ漁船二隻から鋼鉄製の釣り鐘状の潜水道具を下ろす。ちょうどお椀を逆さまにした形なので内部に空気が含まれる。その中に入って海底に横たわる沈没船へと向かう。
周辺は海流が激しいのだが特定時間帯のみ弱まった。そのタイミングは三日から四日に間隔で二時間だけ。昼だけでなく夜の場合もあり得た。
海面から海底まで十二、三メートルといったところだ。全長二十メートルの沈没船は傾いているものの上下はそのままである。割れてもいない。
潜水道具内に入れるのは四から五名で空気は通常で十五分は持つ。限界まで粘って二十五分といったところだ。
ハンターズソサエティ支部を訪れたミヤサが募集をかける。それからまもなくリゼリオのハンターオフィスに依頼が表示されるのだった。
リプレイ本文
●
ミヤサとハンター一行は港街【ガンナ・エントラータ】でウリッシュが手配した調査船の一隻へと乗り込んだ。
二隻の調査船は海岸線に沿って東を目指す。二日ほどして『ナリアーナ号』の沈没地点が近い漁村へと寄港した。
そこで近海をよく知る漁師を臨時で雇い入れる。すべては海底から貴重な皿を引き揚げるためだ。
「ナリアーナ号は漁村から一キロ強沖に沈んでいます。海底まで十二、三メートルだけど、甲板までは八から九メートルといったところかな。ナリアーナ号の全長は約二十メートルで傾いたまま海底にめり込んでいる状態のはずです」
ミヤサが模型を用いて沈没の状態を説明する。
付近の海は潮の流れが速くて潜ることは難しい。しかし今から一時間半後、穏やかになる時間帯が訪れる。その状態が続くのは経験則から二時間前後と考えられていた。
「海に沈んだお宝か。どんな皿なのか気になるぜ。壊さず回収できるようちゃんと護衛しないとな」
瞳を輝かせた柊 真司(ka0705)が机上の海底地図を眺める。
「希少品のお皿ですか。どんなものか興味はありますね」
「トレジャーハンティングって浪漫があって面白そうだよね♪」
エルバッハ・リオン(ka2434)とステラ・ブルマーレ(ka3014)がそれぞれに手にしていたのは皿の破片だ。割れているので商品価値はないものの、噂通りに緋色が走っている。色づけされたのではなく、素材の土そのものが変化しているように見えた。
「海竜は少々厄介だな」
「これがあればイチコロじゃ。といいたいが妾は銃は苦手でのう」
ザレム・アズール(ka0878)は紅薔薇(ka4766)が抱えていた水中銃を眺める。同じ銃をミヤサも所持していた。
「その海竜だけど食べたことはあるのか? どんな味なんだ?」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が身体を前のめりにさせてミヤサに迫る。
「あ、あいにく食べたことはないのですよ。命からがら逃げたことがあるだけで」
以前の調査の際にはミヤサ一人が回収作業を行ったという。
「このお皿以外にも何かあったら探してみたいんだよ♪」
弓月 幸子(ka1749)が皿の欠片を掌に乗せてじっと眺める。
潮が穏やかになる時間まで三十分を切った。調査船二隻に搭載された釣り鐘状の潜水道具『潜水鐘』の準備が行われる。
潜水鐘の運用方法として採用されたのは紅薔薇の案だ。潜水鐘を一つだけ海中に下ろして作業に使う。空気が薄くなる十五分を目安にしてもう片方を沈めて交代させれば、回収組が潜ったままでいられる寸法だ。
ミヤサとハンター達は船上に残って鮫や海竜を警戒するサポート班と探索班に分かれるのだった。
●
ザレム、弓月幸子、ステラ、レイオス、そしてミヤサが最初に潜る。
水着になった回収組が海に飛び込んで潜水鐘の内側に収まった。クレーンの先に取りつけられた滑車が回って潜水鐘が下ろされていく。
「回収した皿はこの棚にお願いしますね」
ミヤサが潜水鐘内の設備を改めて説明を行う。照明は空気を汚さないようにLEDライトが天井から吊されていた。一分程度で潜水鐘は停止する。
(あれか?)
ザレムが潜水鐘から身を乗りだして眼を凝らす。すぐ近くの海底にナリアーナ号が佇んでいた。砂地の海底に四分の一ほどが沈んでいる。
他の全員もザレムと同じようにしてナリアーナ号を確認した。傾き具合からいって右舷に穴を開けるのが最良だと結論がでる。
ミヤサが前回の回収に失敗したのは一人で行っただけでなく、真っ正直に甲板から船倉を往復しようとしたからだ。近道がなければ作ってしまえばよい。
ナリアーナ号の外壁強度がどの程度かわからないので手加減しながら壊していく。
(アースバレットを使ってみるんだよ)
弓月幸子が当てた石つぶてが木製の外壁に亀裂を走らせた。
鮫や海竜に襲われる危険性があるので、一人に負担をかけるのは好ましくない。次はステラが行う。
(火のマテリアル操作苦手だけど……、何とかしないと)
潜水鐘から抜けたステラは慎重に魔法を使った。ファイアーボールの火球が外壁付近で弾けると板の破片が周囲に散らばる。
ステラと入れ替わってレイオスとザレムがナリアーナ号に近づいた。
(ここが邪魔だな)
レイオスが愛刀で外壁の突起部分を切り落とす。
(こっちはもう少し広げてた方がいいだろう)
ザレムはドリルナックルで穴を広げていく。
準備が整ったところで潜水鐘からでたミヤサが皿を取りに向かう。外壁の穴を潜り抜けて船倉内へ。綺麗な皿一枚を手にして即座に戻った。
「近道は充分です。みなさんさすがですね」
柊真司から借りたダイバーズウォッチで計ったところ往復で三十五秒。もう少し奥まで探しに行っても大丈夫そうである。
もう一つの潜水鐘に移動してから皿の回収を本格的に始めるのだった。
●
時は少し遡って潜水鐘が下りた直後の調査船甲板上。エルバッハ、柊真司、紅薔薇は海底に下りていく仲間を見送る。
「次の機会があるはずですので仕舞っておきましょう」
魔導ドリルを甲板に置くエルバッハに視線が集まっていた。彼女のきわどいビキニアーマー姿に漁師達が生唾を飲む。
「探索できる時間も限られておるしのう。海中に居られる時間は長い方が良いと思うのじゃ」
紅薔薇が両腕を振ると漁師が滑車止めを外す。もう一つの潜水鐘が海中へと沈んでいった。無理をすれば二十五分ぐらい息は持つようだが、余裕のある十五分ごとに交代させていく。
最初の潜水鐘が海面より上に引き揚げられる。内側に潜った柊真司がLEDライトで照らす。棚の中を調べてみると一枚の皿が仕舞われていた。
「どうやらミヤサ達が見つけたようだ」
柊真司が手にした完品の皿を見ようと多くの者が集まる。
「本物はより綺麗な緋色ですね。まるで鮮血の色のよう」
「欠片ではこの美しさはわからぬな。まごう事なき宝のようじゃ」
エルバッハと紅薔薇が皿を眺めていると監視の漁師が警告の声をあげる。
「もしやあれなのか? ミヤサがいっていた海竜とは」
柊真司が遠くの海面に浮かんでいる何かに眼を凝らす。エルバッハと紅薔薇にもそれが見えた。
幻獣はとても首が長い海竜のようだった。色は保護色なのか光沢の青っぽい。例えるならマグロの外皮のようだ。
距離感がうまく掴めなくて大きさまでは言及できない。ただ小さいはずがなかった。
「これが役に立つやもしれんな」
紅薔薇が水中銃を手に取る。エルバッハと柊真司も武器を手にして海竜の動向に目を光らせた。
緊張の時間が過ぎていく。
潜水鐘を交互に上下させる二時間の作業は無事終了。海竜は調査船に近づくことなく何処かへと消えてしまう。
甲板に残った三人は海底から戻ってきた五人に海竜の目撃談を話す。油断は禁物だと肝に銘じる一同であった。
●
三日が過ぎ去り、挑戦二回目の時がやって来た。
柊真司は潜水鐘の端に掴んで海中に身を乗りだす。
(順調だな)
彼は仲間の心配と同時に鮫や海竜への警戒も怠らない。いつでも戦えるよう水中用アサルトライフルP5の所持していた。
時折、ダイバーズウォッチで仲間の往復時間を計る。緊急時には泳いで近づいて助けるつもりでいた。現在、潜水鐘からナリアーナ号まで約一メートルの距離。往復にかかる時間は平均四十秒といったところだ。
(よいしょ。まだ潮の流れが早くなるには余裕があるよね♪)
船倉に辿り着いたステラは麻布で皿を覆っていく。呼吸しに往復して繰り返し、最後には麻袋に収める。潜水鐘へ運ぶ際には仲間に手伝ってもらう。
(電流が使えなかったのはちょっと残念だな)
レイオスは回収作業を行いながら昨日のことを思いだした。釣りをしていて子鮫を引っかけたのである。わずかな電流でも鮫は嫌がると聞いていたのだが、試作雷撃刀「ダークMASAMUNE」を海中に触れさせても効果がなかった。直接触る分にはとてもよく効いたのだが。
船倉といってもいくつかの区画に分かれている。狭い空間で魔法を使うと皿が壊れてしまうので、魔導鋸「イレクトルキュート」を稼働させた。レイオスによって区画が取り去られていく。
外部の光が届かない船倉奥で作業する際には弓月幸子がリトルファイアで照らしてくれる。ハンディLEDライトは使えるには使えるのだが完全防水ではない。壊れる可能性が高いので緊急時以外には潜水鐘の内部に置かれた。
一時間後、弓月幸子とミヤサが仲間と交代して調査船に戻る。周囲を見張りながら紅薔薇と海竜を話題にした。
「あれはどの程度の大きさかわかりにくい幻獣じゃて。半身が海の中じゃからな」
「私が以前に接触した海竜なら十メートル以下だと思いますね」
二人の会話を聞きながら弓月幸子が瞳を大きく開いた。
「こっちの世界にはそんな生き物までいるんだね、まだまだ見た事ない物がいっぱいだね♪」
仕事としては海竜と接触しない方が望ましい。だが個人的には見てみたい。冒険者の悩みは業が深いと弓月幸子は思うのだった。
(これは一体?)
そしてナリアーナ号の船倉内部。ザレムは木材の下敷きになっていた宝箱を発見する。
このままではどうにもならないので潜水鐘までドリルナックルを取りに戻った。宝箱を壊してみるが中身は空っぽである。
がっくりと肩を落とすザレム。しかし片隅に小箱が残っていた。潜水鐘へと持ち帰ってから開けてみる。
「古い金貨と銀貨ですね」
「一応は宝箱だったな」
エルバッハが小箱の中を覗き込む。普段クールなザレムだがこの時ばかりは笑顔を浮かべた。
二時間が経過。仕事終わりの寸前にエルバッハが魔導ドリルをナリアーナ号の外壁に突き刺す。次回の近道用である。潜水鐘で息を整えて止めの一撃。アースバレットの石つぶてで穴を広げた。
今回の成果で皿八十七枚が回収される。どの皿も完品であった。
●
潮の流れが穏やかになる時間帯が満月の深夜と重なる。滞在できる最後の機会になるために一行は回収作業を始めた。
「あの影は海竜ではないかのう?」
「そうですね。あれはそうです」
最初の潜水鐘が沈められてまもなく巨大な影が忍び寄ってくる。紅薔薇とミヤサが攻撃を開始。二人とも水中銃を海竜に向けて構えた。
「俺に任せろ!」
仲間に危険を知らせようとザレムが海に飛び込んだ。一気に潜水し、手振り身振りで仲間へと知らせる。
「海竜が……現れた。三分後に潜水鐘は浮上するはずだ」
「大変なんだよ!」
ザレムから直接聞いた弓月幸子は潜水鐘から抜けた。そして船内に向けてリトルファイアを可能な限り立て続けに灯す。こうしてステラとエルバッハに危険を知らせる。
潜水鐘の柊真司とレイオスが武器を手に取った。
全員が戻るとタイミングよく潜水鐘が上昇を始める。ほっとする間もなく、潜水鐘が激しく揺れて全員が海中へ放りだされた。海竜が潜水鐘を体当たりしてきたのである。
月下照らす泡立つ海の中、各々のハンターは浮上前に海竜への一撃を試みた。
(戒め解き放たれし風よ……、斬り裂け!)
ウィンドスラッシュの風の刃が海竜の右手ヒレを分離させた。上下反対になりながらもステラは海面へと浮かんでいく。
(昨日のは子鮫で残念だったな。しかしこれだけでかければ)
迫る海竜にレイオスが魔導鋸を突きだす。すれ違いざまに脇腹の一部をえぐり取られた海竜が激しく暴れた。
(邪魔な海竜の弱点はどこだ?)
柊真司は構えた水中用アサルトライフルで海竜の頭部を狙う。一発を決めてから浮上する。
(こっちに来ないで欲しいんだよ)
息苦しくて顔を真っ赤にした弓月幸子がアースバレットで威嚇。うまく片眼に当たって一時的に海竜の視力半分を奪うことに成功した。
アイコンタクトを取ったエルバッハとザレムは時間稼ぎを選択する。
(これで動けなくなるだろう)
ザレムが使ったのはエレクトリックショック。雷撃で痺れた海竜が動きを鈍らせた。
(立て直しの時間を頂きましょう)
エルバッハはスリープクラウドで海竜を眠りに誘う。
呼吸するために浮上する仲間と入れ替わりに、ミヤサと紅薔薇が海竜の待つ海の底へ。
紅薔薇は手振りでミヤサに援護射撃を頼んだ。水中銃を手放して担いでいた試作光斬刀「MURASAMEブレイド」を握りしめる。
(やはり刀で斬った方が手っ取り早いのう)
海竜が牙を剥きだしにした頬に矢が刺さった。紅薔薇は海竜の動きが鈍った瞬間を見逃さずに刃を喉元へと突き立てる。
これで海竜が限界に達した。ただの肉塊と化して、ぷかりと海面へと浮かんだ。
潮の流れが速くなるまでに残り三十分を切っている。皿の回収作業はここまででお終い。海竜の肉を一部手に入れてから調査船二隻は撤収するのだった。
●
沖に戻った仕事後の一同は誰もが腹を空かせていた。
真夜中だったが港で焚き火を熾して調理を行う。手に入れたばかりの肉にハーブや香辛料、塩を塗して焼いていく。
「どんな味かすごく興味があったんだ。そろそろ焼けたかな?」
「仕上げに葡萄酒をかけてみましょうか」
レイオスがミヤサを手伝う。完成した肉料理を食べてみると魚の肉というよりも陸上の獣肉に近い。
「なかなかの味じゃないか!」
「本当に」
レイオスはミヤサの横で頬を膨らませて頂く。脂身に少々クセがあったが香辛料のおかげで気にならなかった。
食事後は宿で眠りに就いた。翌日には全員で昨晩回収した皿を綺麗にする。
「この緋色は確かに惹かれるものがあるな」
「どれも景色が違って個性的なんだよ」
磨いたばかりの皿を眺めながら柊真司と弓月幸子が感想を言い合う。
「全部で百三十二枚か。なかなかの成果だ」
「硬貨は港街に戻ったら換金してきますね」
ザレムが手に入れた硬貨をミヤサが預かる。後に港街で換金して一同で分配。余った分は香辛料流通のための資金として取っておく。
「惚れ惚れしますね。このお皿」
「綺麗だよね♪ この緋の形、ファイアーボールの爆発に似てるかも♪」
エルバッハとステラは緋色の形状を話題にしていた。
「成果があってよかったのう」
「本当に。みなさんのおかげです」
紅薔薇にミヤサが頷いた。
皿は割れないように梱包してガンナ・エントラータへと運び込む。
ミヤサは転移門で帰路に就こうとしていたハンター一行を見送るのだった。
ミヤサとハンター一行は港街【ガンナ・エントラータ】でウリッシュが手配した調査船の一隻へと乗り込んだ。
二隻の調査船は海岸線に沿って東を目指す。二日ほどして『ナリアーナ号』の沈没地点が近い漁村へと寄港した。
そこで近海をよく知る漁師を臨時で雇い入れる。すべては海底から貴重な皿を引き揚げるためだ。
「ナリアーナ号は漁村から一キロ強沖に沈んでいます。海底まで十二、三メートルだけど、甲板までは八から九メートルといったところかな。ナリアーナ号の全長は約二十メートルで傾いたまま海底にめり込んでいる状態のはずです」
ミヤサが模型を用いて沈没の状態を説明する。
付近の海は潮の流れが速くて潜ることは難しい。しかし今から一時間半後、穏やかになる時間帯が訪れる。その状態が続くのは経験則から二時間前後と考えられていた。
「海に沈んだお宝か。どんな皿なのか気になるぜ。壊さず回収できるようちゃんと護衛しないとな」
瞳を輝かせた柊 真司(ka0705)が机上の海底地図を眺める。
「希少品のお皿ですか。どんなものか興味はありますね」
「トレジャーハンティングって浪漫があって面白そうだよね♪」
エルバッハ・リオン(ka2434)とステラ・ブルマーレ(ka3014)がそれぞれに手にしていたのは皿の破片だ。割れているので商品価値はないものの、噂通りに緋色が走っている。色づけされたのではなく、素材の土そのものが変化しているように見えた。
「海竜は少々厄介だな」
「これがあればイチコロじゃ。といいたいが妾は銃は苦手でのう」
ザレム・アズール(ka0878)は紅薔薇(ka4766)が抱えていた水中銃を眺める。同じ銃をミヤサも所持していた。
「その海竜だけど食べたことはあるのか? どんな味なんだ?」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が身体を前のめりにさせてミヤサに迫る。
「あ、あいにく食べたことはないのですよ。命からがら逃げたことがあるだけで」
以前の調査の際にはミヤサ一人が回収作業を行ったという。
「このお皿以外にも何かあったら探してみたいんだよ♪」
弓月 幸子(ka1749)が皿の欠片を掌に乗せてじっと眺める。
潮が穏やかになる時間まで三十分を切った。調査船二隻に搭載された釣り鐘状の潜水道具『潜水鐘』の準備が行われる。
潜水鐘の運用方法として採用されたのは紅薔薇の案だ。潜水鐘を一つだけ海中に下ろして作業に使う。空気が薄くなる十五分を目安にしてもう片方を沈めて交代させれば、回収組が潜ったままでいられる寸法だ。
ミヤサとハンター達は船上に残って鮫や海竜を警戒するサポート班と探索班に分かれるのだった。
●
ザレム、弓月幸子、ステラ、レイオス、そしてミヤサが最初に潜る。
水着になった回収組が海に飛び込んで潜水鐘の内側に収まった。クレーンの先に取りつけられた滑車が回って潜水鐘が下ろされていく。
「回収した皿はこの棚にお願いしますね」
ミヤサが潜水鐘内の設備を改めて説明を行う。照明は空気を汚さないようにLEDライトが天井から吊されていた。一分程度で潜水鐘は停止する。
(あれか?)
ザレムが潜水鐘から身を乗りだして眼を凝らす。すぐ近くの海底にナリアーナ号が佇んでいた。砂地の海底に四分の一ほどが沈んでいる。
他の全員もザレムと同じようにしてナリアーナ号を確認した。傾き具合からいって右舷に穴を開けるのが最良だと結論がでる。
ミヤサが前回の回収に失敗したのは一人で行っただけでなく、真っ正直に甲板から船倉を往復しようとしたからだ。近道がなければ作ってしまえばよい。
ナリアーナ号の外壁強度がどの程度かわからないので手加減しながら壊していく。
(アースバレットを使ってみるんだよ)
弓月幸子が当てた石つぶてが木製の外壁に亀裂を走らせた。
鮫や海竜に襲われる危険性があるので、一人に負担をかけるのは好ましくない。次はステラが行う。
(火のマテリアル操作苦手だけど……、何とかしないと)
潜水鐘から抜けたステラは慎重に魔法を使った。ファイアーボールの火球が外壁付近で弾けると板の破片が周囲に散らばる。
ステラと入れ替わってレイオスとザレムがナリアーナ号に近づいた。
(ここが邪魔だな)
レイオスが愛刀で外壁の突起部分を切り落とす。
(こっちはもう少し広げてた方がいいだろう)
ザレムはドリルナックルで穴を広げていく。
準備が整ったところで潜水鐘からでたミヤサが皿を取りに向かう。外壁の穴を潜り抜けて船倉内へ。綺麗な皿一枚を手にして即座に戻った。
「近道は充分です。みなさんさすがですね」
柊真司から借りたダイバーズウォッチで計ったところ往復で三十五秒。もう少し奥まで探しに行っても大丈夫そうである。
もう一つの潜水鐘に移動してから皿の回収を本格的に始めるのだった。
●
時は少し遡って潜水鐘が下りた直後の調査船甲板上。エルバッハ、柊真司、紅薔薇は海底に下りていく仲間を見送る。
「次の機会があるはずですので仕舞っておきましょう」
魔導ドリルを甲板に置くエルバッハに視線が集まっていた。彼女のきわどいビキニアーマー姿に漁師達が生唾を飲む。
「探索できる時間も限られておるしのう。海中に居られる時間は長い方が良いと思うのじゃ」
紅薔薇が両腕を振ると漁師が滑車止めを外す。もう一つの潜水鐘が海中へと沈んでいった。無理をすれば二十五分ぐらい息は持つようだが、余裕のある十五分ごとに交代させていく。
最初の潜水鐘が海面より上に引き揚げられる。内側に潜った柊真司がLEDライトで照らす。棚の中を調べてみると一枚の皿が仕舞われていた。
「どうやらミヤサ達が見つけたようだ」
柊真司が手にした完品の皿を見ようと多くの者が集まる。
「本物はより綺麗な緋色ですね。まるで鮮血の色のよう」
「欠片ではこの美しさはわからぬな。まごう事なき宝のようじゃ」
エルバッハと紅薔薇が皿を眺めていると監視の漁師が警告の声をあげる。
「もしやあれなのか? ミヤサがいっていた海竜とは」
柊真司が遠くの海面に浮かんでいる何かに眼を凝らす。エルバッハと紅薔薇にもそれが見えた。
幻獣はとても首が長い海竜のようだった。色は保護色なのか光沢の青っぽい。例えるならマグロの外皮のようだ。
距離感がうまく掴めなくて大きさまでは言及できない。ただ小さいはずがなかった。
「これが役に立つやもしれんな」
紅薔薇が水中銃を手に取る。エルバッハと柊真司も武器を手にして海竜の動向に目を光らせた。
緊張の時間が過ぎていく。
潜水鐘を交互に上下させる二時間の作業は無事終了。海竜は調査船に近づくことなく何処かへと消えてしまう。
甲板に残った三人は海底から戻ってきた五人に海竜の目撃談を話す。油断は禁物だと肝に銘じる一同であった。
●
三日が過ぎ去り、挑戦二回目の時がやって来た。
柊真司は潜水鐘の端に掴んで海中に身を乗りだす。
(順調だな)
彼は仲間の心配と同時に鮫や海竜への警戒も怠らない。いつでも戦えるよう水中用アサルトライフルP5の所持していた。
時折、ダイバーズウォッチで仲間の往復時間を計る。緊急時には泳いで近づいて助けるつもりでいた。現在、潜水鐘からナリアーナ号まで約一メートルの距離。往復にかかる時間は平均四十秒といったところだ。
(よいしょ。まだ潮の流れが早くなるには余裕があるよね♪)
船倉に辿り着いたステラは麻布で皿を覆っていく。呼吸しに往復して繰り返し、最後には麻袋に収める。潜水鐘へ運ぶ際には仲間に手伝ってもらう。
(電流が使えなかったのはちょっと残念だな)
レイオスは回収作業を行いながら昨日のことを思いだした。釣りをしていて子鮫を引っかけたのである。わずかな電流でも鮫は嫌がると聞いていたのだが、試作雷撃刀「ダークMASAMUNE」を海中に触れさせても効果がなかった。直接触る分にはとてもよく効いたのだが。
船倉といってもいくつかの区画に分かれている。狭い空間で魔法を使うと皿が壊れてしまうので、魔導鋸「イレクトルキュート」を稼働させた。レイオスによって区画が取り去られていく。
外部の光が届かない船倉奥で作業する際には弓月幸子がリトルファイアで照らしてくれる。ハンディLEDライトは使えるには使えるのだが完全防水ではない。壊れる可能性が高いので緊急時以外には潜水鐘の内部に置かれた。
一時間後、弓月幸子とミヤサが仲間と交代して調査船に戻る。周囲を見張りながら紅薔薇と海竜を話題にした。
「あれはどの程度の大きさかわかりにくい幻獣じゃて。半身が海の中じゃからな」
「私が以前に接触した海竜なら十メートル以下だと思いますね」
二人の会話を聞きながら弓月幸子が瞳を大きく開いた。
「こっちの世界にはそんな生き物までいるんだね、まだまだ見た事ない物がいっぱいだね♪」
仕事としては海竜と接触しない方が望ましい。だが個人的には見てみたい。冒険者の悩みは業が深いと弓月幸子は思うのだった。
(これは一体?)
そしてナリアーナ号の船倉内部。ザレムは木材の下敷きになっていた宝箱を発見する。
このままではどうにもならないので潜水鐘までドリルナックルを取りに戻った。宝箱を壊してみるが中身は空っぽである。
がっくりと肩を落とすザレム。しかし片隅に小箱が残っていた。潜水鐘へと持ち帰ってから開けてみる。
「古い金貨と銀貨ですね」
「一応は宝箱だったな」
エルバッハが小箱の中を覗き込む。普段クールなザレムだがこの時ばかりは笑顔を浮かべた。
二時間が経過。仕事終わりの寸前にエルバッハが魔導ドリルをナリアーナ号の外壁に突き刺す。次回の近道用である。潜水鐘で息を整えて止めの一撃。アースバレットの石つぶてで穴を広げた。
今回の成果で皿八十七枚が回収される。どの皿も完品であった。
●
潮の流れが穏やかになる時間帯が満月の深夜と重なる。滞在できる最後の機会になるために一行は回収作業を始めた。
「あの影は海竜ではないかのう?」
「そうですね。あれはそうです」
最初の潜水鐘が沈められてまもなく巨大な影が忍び寄ってくる。紅薔薇とミヤサが攻撃を開始。二人とも水中銃を海竜に向けて構えた。
「俺に任せろ!」
仲間に危険を知らせようとザレムが海に飛び込んだ。一気に潜水し、手振り身振りで仲間へと知らせる。
「海竜が……現れた。三分後に潜水鐘は浮上するはずだ」
「大変なんだよ!」
ザレムから直接聞いた弓月幸子は潜水鐘から抜けた。そして船内に向けてリトルファイアを可能な限り立て続けに灯す。こうしてステラとエルバッハに危険を知らせる。
潜水鐘の柊真司とレイオスが武器を手に取った。
全員が戻るとタイミングよく潜水鐘が上昇を始める。ほっとする間もなく、潜水鐘が激しく揺れて全員が海中へ放りだされた。海竜が潜水鐘を体当たりしてきたのである。
月下照らす泡立つ海の中、各々のハンターは浮上前に海竜への一撃を試みた。
(戒め解き放たれし風よ……、斬り裂け!)
ウィンドスラッシュの風の刃が海竜の右手ヒレを分離させた。上下反対になりながらもステラは海面へと浮かんでいく。
(昨日のは子鮫で残念だったな。しかしこれだけでかければ)
迫る海竜にレイオスが魔導鋸を突きだす。すれ違いざまに脇腹の一部をえぐり取られた海竜が激しく暴れた。
(邪魔な海竜の弱点はどこだ?)
柊真司は構えた水中用アサルトライフルで海竜の頭部を狙う。一発を決めてから浮上する。
(こっちに来ないで欲しいんだよ)
息苦しくて顔を真っ赤にした弓月幸子がアースバレットで威嚇。うまく片眼に当たって一時的に海竜の視力半分を奪うことに成功した。
アイコンタクトを取ったエルバッハとザレムは時間稼ぎを選択する。
(これで動けなくなるだろう)
ザレムが使ったのはエレクトリックショック。雷撃で痺れた海竜が動きを鈍らせた。
(立て直しの時間を頂きましょう)
エルバッハはスリープクラウドで海竜を眠りに誘う。
呼吸するために浮上する仲間と入れ替わりに、ミヤサと紅薔薇が海竜の待つ海の底へ。
紅薔薇は手振りでミヤサに援護射撃を頼んだ。水中銃を手放して担いでいた試作光斬刀「MURASAMEブレイド」を握りしめる。
(やはり刀で斬った方が手っ取り早いのう)
海竜が牙を剥きだしにした頬に矢が刺さった。紅薔薇は海竜の動きが鈍った瞬間を見逃さずに刃を喉元へと突き立てる。
これで海竜が限界に達した。ただの肉塊と化して、ぷかりと海面へと浮かんだ。
潮の流れが速くなるまでに残り三十分を切っている。皿の回収作業はここまででお終い。海竜の肉を一部手に入れてから調査船二隻は撤収するのだった。
●
沖に戻った仕事後の一同は誰もが腹を空かせていた。
真夜中だったが港で焚き火を熾して調理を行う。手に入れたばかりの肉にハーブや香辛料、塩を塗して焼いていく。
「どんな味かすごく興味があったんだ。そろそろ焼けたかな?」
「仕上げに葡萄酒をかけてみましょうか」
レイオスがミヤサを手伝う。完成した肉料理を食べてみると魚の肉というよりも陸上の獣肉に近い。
「なかなかの味じゃないか!」
「本当に」
レイオスはミヤサの横で頬を膨らませて頂く。脂身に少々クセがあったが香辛料のおかげで気にならなかった。
食事後は宿で眠りに就いた。翌日には全員で昨晩回収した皿を綺麗にする。
「この緋色は確かに惹かれるものがあるな」
「どれも景色が違って個性的なんだよ」
磨いたばかりの皿を眺めながら柊真司と弓月幸子が感想を言い合う。
「全部で百三十二枚か。なかなかの成果だ」
「硬貨は港街に戻ったら換金してきますね」
ザレムが手に入れた硬貨をミヤサが預かる。後に港街で換金して一同で分配。余った分は香辛料流通のための資金として取っておく。
「惚れ惚れしますね。このお皿」
「綺麗だよね♪ この緋の形、ファイアーボールの爆発に似てるかも♪」
エルバッハとステラは緋色の形状を話題にしていた。
「成果があってよかったのう」
「本当に。みなさんのおかげです」
紅薔薇にミヤサが頷いた。
皿は割れないように梱包してガンナ・エントラータへと運び込む。
ミヤサは転移門で帰路に就こうとしていたハンター一行を見送るのだった。
依頼結果
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レイオス・アクアウォーカー(ka1990)
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 レイオス・アクアウォーカー(ka1990) 人間(リアルブルー)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/07/09 21:43:28 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/09 19:41:28 |