祈りよ、深潭に眠れ

マスター:冬野泉水

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
5~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/07/20 12:00
完成日
2014/07/27 21:12

みんなの思い出

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オープニング

「教会に歪虚……ですか?」
 訓練を終え、教会の様子をセドリック・マクファーソンに報告するため謁見を許されたヴィオラ・フルブライトは鸚鵡返しに大司教に尋ねた。
 こんなご時世だ、神聖な場所である教会に歪虚が出ることに今更驚きはない。
 彼女が言葉を返したのは、敢えてそんな話をセドリックが口にしたからだ。
「フルブライト。君は王女と聖堂教会に永久の忠誠を誓っているね?」
「勿論です。聖堂戦士としての誓いに偽りはありません」
「そう。それで良い。君は王女と聖堂教会のために命を差し出すことも厭わない。それでこそ、王の鎧の長であろう」
「……」
 セドリックの真意が掴みかねるヴィオラの無言を前に、王国の核である大司教は淡々と言った。
「教会現れる歪虚が増えている。巡礼、信仰の拠点がこの様では、信徒の安寧たる祈りは届くまい」
「……承知いたしました。すぐ体制を整えます」
 皆まで言わせることなく、ヴィオラは大司教の執務室を最敬礼で辞去した。
 扉が閉まると同時に、大司教の誰に向けるでもない独白が満ちる。
「その祈りが何に覆われようと、君は教会に命を捧げなくてはならないのだよ」

 ●

 聖堂戦士団の宿舎に戻ったヴィオラの行動は早かった。即座に主要な団員を集め、各地の教会の安全を確認するための隊を編成した。ある隊は遠方に、ある隊は王国内を、という具合だ。
 ヴィオラ本人は、ごく少数の団員を率い、聖ヴェレニウス大聖堂へと至る道にある教会の巡回に向かうこととなった。国内において最も重要な巡礼地であるがゆえに、訪れる信徒の数も他の教会の比ではない。
「『深き祈りは光を導く。祈りよ、深潭に眠れ』って一節があるくらいだもんな。もしもその祈りが邪悪なものなら、相当の魔が教会にはびこってるんじゃね?」
「不謹慎なことを言うな」
 若い団員をいかつい団員がたしなめる。団長を前にしても、彼らはいつもこんな感じだ。
 銀の鎧の集団は王国内でも非常に目立つ。王国民の様々な視線を浴びながら、聖堂戦士団が到着したのは、トルティアという村――王国においては『始まりの村』と呼ばれる場所であった。
「何か変わったことはありませんか?」
 聖堂戦士団長直々の訪問について、事前に何の連絡も受けていない村の司祭たちは揃って腰を抜かしそうになった。それでも何とかこらえながら、彼らは報告する程でもないという不安の種をぽつぽつと語ってくれた。
「アークエルスの方の教会で歪虚騒ぎがあってハンターが向かうとか……あの辺りは教会にまつわる言い伝えがあるじゃないですか。ここトルティアもそうですし、もう不安で」
「向こうみたいに教会から夜な夜な変な声が聞こえたりとかしないですよね?」
 いかつい戦士団の男性が尋ねると司祭達は首を横に振り、少しだけ顔を俯けた。
「トルティアは至って平和ですが……ここから東へ少し行った村に孤児院がありますでしょ? そこの墓地で、最近夜に変な音が聞こえるそうなんです」
「変な音、ですか」
「ええ。あまりにも怖いんで、村の人は夜になるとここに来て泊まっていきますよ。昼間は聞こえないんで、村に戻っているみたいですが……」
「東ですね。分かりました。少し、こちらで様子を見ましょう」
 ヴィオラの答えに満足したのか、それとも聖女、あるいは戦乙女と言われる彼女を間近で見れたためか、司祭たちは高揚仕切った声で「お願いします」と頭を下げた。

 ●

「先程の一節、確か古い伝承のものと記憶していますが、合っていますか?」
「へ?」
 東へ向かう道中、若い団員は妙な声を出した。すぐに団長の言葉がトルティアへ向かう途中のことを指していると気付き頷く。
「ええ。聖女と言われた乙女と、英雄と称された青年騎士の悲しい恋の物語……だっけ?」
「俺はそういう言い伝えだけは信じてないから分からん」
 大体、悲恋なんてものは――といかつい団員が独り身の愚痴を語ろうとしたのを制し、若い団員は肩を竦めた。
「団長、この言い伝えってこの辺のものでしたっけ?」
「いえ……すみません、私もその手の言い伝えには疎いので」
 敬虔なエクラ教信者ではあるが、言い伝え――王国内では『伝承』と言われているが、その伝承の細部までは明るくないヴィオラである。ただ、その一節だけが心に引っかかっているだけだ。

――深き祈りは光を導く。祈りよ、深潭に眠れ。

「うーん……何だったかな、思い出せない」
「おい、ちゃんと仕事をしろよ」
「違いますって! その物語、何かあったような……俺、ばあちゃんから聞いたんですけど、あんまりちゃんと覚えてないんですよね」
 確か悲恋だったと思うんですけど、と若い団員が記憶をこねくりまわしているうちに、聖堂戦士団一行は件の村に到着していた。
 ちょうど、夜の帳が下りる頃だ。
「……静か、ですね」
「ええ。嫌な静けさです」
「後続の隊に、念のためハンターへの応援を要請するよう伝えて下さい。この静けさは、違和感があります」
「承知しました」
 いかつい団員が来た道を引き返すために馬の鼻先を翻す。
「……教会ってこの辺りですよね。なんで明かりがついてないんでしょうか」
「……」
 眉を潜める若い団員を手で制し、ヴィオラは目をこらす。
 その視線の先には、教会の奥に設けられた祈りの場所――村の墓地だ。
「皆、武器をとりなさい」
 小さな声で、しかし凛として命じたヴィオラの手には、既に槍が握られている。
 戦士団を包んでいた空気がガラリと変わる。
 それに呼応するように、墓地の方から何かを抉る音が聞こえてきた。
「……うえぇ。マジっすか」
 若い団員はそれが何の音か気づいて青ざめる。団長の手前なのに、素の言葉遣いに戻る程度には。
 この村は土葬が主だ。そんな墓地を夜に掘り起こす目的は、そう多くない。
 抉るような音の元には、身をかがめる女の後ろ姿が見える。暗闇に目が慣れた戦士団達ならば、それが異様なものであることは一目瞭然だ。
 女は長い髪を乱すように頭を上下に振り、ボロ布のようなドレスを纏っている。その裾から覗く白い足は、既に骨が見え、周りの皮膚は腐食を始めていた。
「マジ、あれ……伝承の聖女の亡霊とかじゃないっすよね……」
「それは分かりませんが、間違いなく歪虚でしょうね」
 ぽつ、ぽつ、と墓地の周りを光が飛び交う。それに照らされて、地中から骨となった手が這い出してくるのが見えた。
「分かりやすいくらいにホラーですよ、これ……そりゃ、村の人も逃げ出しますよね」
 くるり、と彼らの気配に気づいて振り返った女の顔は、最早人のそれとは分からないほど腐食していた。
 見たくない、見たくない、と首を振った団員は、苦し紛れに祈りの言葉を口にした。
「歪虚に清き光の制裁を。これより聖堂戦士団は歪虚の殲滅に入る。見たくない奴はそこで祈ってろ!」

リプレイ本文

 暗がりの教会――その佇まいは、おそらくこの地が平和に満ちていても、どことなく暗澹たる気持ちを想起させるに相応しい場所である。
「墓地、ですか……聞いている数だけで済むとは思わない方が良さそうですね」
 シリル・B・ライヘンベルガー(ka0025)が淡々と言ったのは、聖堂戦士団員による救援要請を受けた直後のことだ。
「その、残されている二名は大丈夫でしょうか」
「油断はできないが……まあ、団長がいるしな」
 あらゆる戦闘において慎重な判断をする聖堂戦士団長のことだ、戦力は潤沢にあった方が良いのだろう。
 それ以上に、今この状況において、ハンター達の活躍を王国内に示すことの意味は大きい。
 そこまで彼らが察したかはさておき、その『団長』という言葉に反応したのはコートニー・ヴァンシタート(ka1724)とフェレシア・ウィンフォート(ka2676)だった。
 もっとも、二人で考えていたことは全く違う方向のことだったのだが。
「最近、教会で現れる歪虚が増えてるとは聞いていましたが、こうして要請が来る程でしたか」
 信仰心から、そして未来への目標からこの話を受けたコートニーは、淡々として頷いた。一方で、フェレシアの方は自然に肩に力が入るようである。
「ヴィオラ様……」
 憧れの存在と共に戦える機会だ。ぐっと拳を握ったフェレシアは「急ぎましょう」とはやる気持ちを抑えて言った。
 かくして、彼らは団員に導かれ、件の教会まで足を運ぶこととなった。
 もう辺りは真っ暗で、明かり一つない村への入口がいつもより不気味に見える。
 ただ一つ、この場に異質なことがあるとすれば、教会の向こうにある墓場から、奇妙な咆哮が響いているということだった。

 ●

「これは……後始末にも骨が折れそうです……」
 左目を布で覆ったクランクハイト=XIII(ka2091)が呟いた。
 掘り返された墓に無残に開いた穴、歪む十字架。そして、ハンター達の持つ明かりに照らされた白銀の鎧。
 ぽつ、ぽつ、と周囲を舞う光の玉は、明らかにこちらを警戒して漂っている。対して墓場から現れた異形のもの達は、突然煌々と現れた光に爛れた顔を無理やり捻って振り返る。
「うげ……思ったよりエグいぜ」
 眉をひそめたゴトフリート・ヴァル・ガヴァク(ka2250)が吐き捨てるように言った。
「五、六……と。掘り返されてない墓もあるが、とりあえず穴ボコと奴らの数は一致してるぜ」
「なら、とりあえずこの場を収めれば問題は解決するね」
 ライトを構えたアレックス・マクラウド(ka0580)が強い口調で言う。
 彼女のライトの光に視線を泳がせるアンデットが動き出す前に、ハンター達は素早く陣形を整えた。
「それじゃあ、前線は頼む。そっちの方が堅いしな」
 その代わり、あの光は任せてもらおうか。
 後方に下がった楠木 惣介(ka2690)がランタンを腰に提げて杖を軽く回す。
 魔術師のコートニーと惣介を庇うように、奇しくも聖導士が周りを固める陣形でもって、ハンター達は飛びかからんとする歪虚と相対したのであった。


 その人工の光は、ウィスプに対しては有効であろう。ウィスプは自身で光を発するが、光に対して十分な視力を持ち得ない。
 だが、天然だろうが人工だろうが、動き、眩いもの全てに反応するアンデットには格好の的となった。目の前で戦っていたヴィオラ達を無視して動きを変える程度には、だ。
「私の前で死者が歩き、徒党を組み、命を脅かす。許せるか? 否、許せるものか。故に私は斬り捨てる。命の尊厳を弄ぶ歪虚を塵の一片までも撃滅する」
 剣を抜き、声を張り上げたシリルは鋒を腐敗した顔に向けた。
「そしてその仮初めの命、この世界に還してもらう。それが、我が守護獣の意思だ」
 言い終わらぬうちに、飛びかかるアンデットを受け止める。地面を転がって身を反転させたシリルは、今度は地面を蹴って歪虚に真正面からぶつかった。
「お前たちの相手はこっちにもいる!」
 ライトを回し、アレックスが叫ぶ。輝きに満ちた盾に向かって、一体のアンデットが突っ込んでくる。鈍い衝撃の後、弾き飛ばされた歪虚が欠けた頬を歪めて笑う。
「聖導士フェレシア、これより歪虚の討滅に掛かります。我らの戦いに光あれ!」
 アレックスが飛ばしたアンデットの脇にフェレシアが滑り込んだ。同じく盾を使って、少しでも遠く歪虚を弾こうとした、刹那――。

――ハッタリでも相手の意識をそげればこっちの勝ちよ。

 何気なく過った、茶飲み仲間の言葉。
「――いっけええぇぇ!」
 漲る力を込めて盾を振るったフェレシアに、アンデットの体が大きく弾かれた。無残に転がって墓に激突するも、醜い女の顔をしたそれはなおもゆらりと起き上がる。
「やれやれ……あっちは派手だな」
 青白の幻影を浮かべる惣介が肩を竦めた。
 前線がアンデットを引き受けている間、先に戦闘に入っていた聖堂戦士団の二名は最後方まで退いていた。
「大丈夫ですか?」
 コートニーの言葉はヴィオラに向けられたものではなく、彼女の横で荒い息を吐く団員に向けたものだ。傷はそれほど無いようだが、青い顔の団員は叩きつけるように言ったものだ。
「マジ……マジ、グロいっ!!」
「あの程度、大したことはないさ。ほら……そこに、『いる』だろ?」
「ちょ、やめてくれよ……っ」
「冗談だ、当然だな」
 本気で顔を歪める若い団員に惣介は口角を上げた。こういうことに慣れていない人間をいじくるのは、実に愉快だ。
「まあ……それも、あれを片付けてからではあるな」
 杖を掲げた惣介は、浮遊する光に向かって何かを小さく口遊んだ。瞬間――杖の先から放たれた光の矢が、ウィスプを掠めて飛んで行く。
「一人ではありませんよ。こちらにも魔術師はいます」
 間髪入れずに光の矢を放ったのはコートニーである。
 集中力を高めた一撃が惣介のそれと入り乱れるようにして飛んで行った。動きを封じられたウィスプは、次第にその矢を身に受けるしかなくなってくる。
 逃げようと矢の隙間に飛び込もうとしたが、そんなものを与えるハンター達ではない。
「どこへ行くのですか?」
 邪光を追う聖光を杖から放つのは、クランクハイトだ。退路を絶たれたウィスプに、最早反撃の力など残っているはずがない。
「まずは一体――邪なる光は、消えてもらいます」
 ウィスプが怯んで弱々しく漂う瞬間を狙って、コートニーが杖を向ける。淡く輝くその先端から飛び出した光の矢が、ウィスプの中心部に吸い込まれた。徐々に光を失いながら地面に落ちたウィスプは、やがてその輝きの一切を失うことになったのである。


 今のハンター達は数多の死線をかいくぐった英雄ではない。
 前線が崩壊しないだけで十分だが、全てのアンデットを受け止められるわけではない。
「――来ますよ」
 落ち着きを払ったヴィオラの声で、魔術師の両翼は視線を落とした。向かい来るアンデットを阻むように、クランクハイトとゴトフリートが魔術師の前に立つ。
 そう、彼らは英雄ではないが、仲間と共に戦っている。
 戦略が一切不要の場面において、共闘の力――つまり、数の差が大きな勝因となりえるのだ。
「そっちに行った! 間に合わない……!」
 アレックスの盾をすり抜けたアンデットが、魔術師の光に導かれるように突っ込んでくる。
「行かせませんよ」
 クランクハイトのホーリーライトが地面に突き刺さる。唸り声を上げて、アンデットが進路を変え、なおもこちらに向かってくる。
 だが、その矛先は最早魔術師には向いていない。直近の――目に見えるものなら何でも良いように見えた。
「そちらをお願いします」
「おう、待ってたぜ!」
 腕を鳴らしたゴトフリートがワンドを振り上げた。口を開き、かぶりつこうとする醜女の頭部に、渾身の一撃を叩き込む。
「死者が冒涜されるのは我慢ならないぜ! すまないが、もう一度土の中に戻ってもらうぞ!」
 砕けた顔を押さえてひっくり返った歪虚の足をゴトフリートの杖が砕く。悲痛な叫び声を上げて、女の残骸がのた打ち回った。
「うへぇ……あんまり見たい光景じゃないな」
 嫌そうに言ったゴトフリートである。クランクハイトだけが、表情を変えずにそれを見下ろしている。
「後は私達が引き受けましょう。あなた方は、あちらを」
 背後からヴィオラの声がかかる。彼女の声が示す先には、未だ浮遊するもう一体のウィスプがある。
「では、お願いします」
 余計な労力は払わないに越したことはない。
 マジっすか……とげんなりする若い団員の肩を一度だけポンと叩いて、クランクハイト達は次の光へと向かった。

 ●

 一体取り逃がしても、まだ彼らにはアンデットが残されていた。
「く……っ、こいつら、しぶとい!」
 滲んだ血を拭ったシリルが苦々しく口にした。だが、それでも再度プロテクションをかけて吶喊するしかない。
 それがシリルのスタイルだからだ。どれだけ歪虚に齧りつかれようと、攻撃の姿勢は揺るがない。
「……っ!」
 肩を捉えられたシリルだが、逆に纏う鎧に力を乗せてアンデットを追い返す。
「こっちだ!」
 よろけたシリルの追撃を躱すため、アレックスが声を張る。同時に、反対側にいた歪虚の注意も引き、一時的に防御と囮役を一手に引き受けた。
「ボクは大丈夫だから、今の内に!」
「この……!」
 アレックスに群がるアンデットに向かって、フェレシアがホーリーライトを放った。浄化の光を背中に浴びて、歪虚が咽ぶ声を上げる。
「不浄の輩よ、退け!」
 杖を振り抜いたフェレシアと、逆側からシリルがアンデット二体に突っ込んだ。アレックスが一歩後ずさり、できた隙間に二体を押し込む。
「我が守護獣の加護の下に!」
 太刀でアンデットの首を薙いだシリルが叫ぶ。声に反応したアンデットが彼女の体にぶつかり、両者僅かに後退る。
「シリルさん、これを!」
「ありがとう、助かります」
 ヒールを受けたシリルが癒えた体で太刀を構えた。衰えそうになっていた紅いオーラが勢いを取り戻し、シリルの全身から溢れ出る。
「これで……最後にしてみせます」
 輝く翠の瞳を瞬かせ、シリルが踏み込んだ。追って、同じくアレックスから回復を受けたフェレシアが肉薄する。
「光よ……エクラの大いなる輝きよ!」
 夜に紛れる緑の髪が揺れる。マテリアルを活性化して、フェレシアがアンデットの背後を取った。
 骨を砕く、鈍い一撃。アンデットはもう一体に寄りかかるように倒れ、結果として二体ともが体勢を大きく崩した。
 そこに、シリルが輝きを持つ刃を振り下ろす。
「この光を以って命ずる……。塵は塵に……そして、無に帰れ!」
 体の一部を消失してなお、動こうとするアンデットへとどめの一振りである。
 裂かれた体は戻らない。
 動く気力の尽きたアンデットは、再び何も語らない骨と、襤褸切れだけの悲しい遺体に戻ったのである。

 ●

 その墓場には、再び静寂が訪れようとしていた。
「取り逃がしたか……その程度のもの、ということなんだろうな」
 惣介は悔しそうに呟いたものだ。
 本能的なものか、あるいは己の不利を悟ったか、アンデットが全滅するとウィスプはすう、とその光を消し、姿そのものも消してしまった。
 取り逃がしたものの全てのアンデットとウィスプを仕留めたことは、ハンター達にとって大きな戦果である。
 私達とウィスプは相性が悪いですから、とヴィオラは息を吐いて言ったのが彼らの心に残った。
「アンデット、怖かったね。見ててゾッとしたよ」
 がらりと口調を変えたアレックスは可愛らしく苦笑した。その体に刻まれた傷は、若い団員の必死の回復で徐々に治りつつある。
 それにしても、と彼女は口を開く。
「――深き祈りは光を導く。祈りよ、深潭に眠れ……? それが、今回の件と何か関係があるのかな? ボクも帰ったら、ちょっと調べておこうかな」
「その件について、関係がありそうな事件が報告されています。近々、またあなた方の力を借りることもあるでしょう」
 その時はお願いしますね、と軽く頭を下げるヴィオラに、逆にアレックスが恐縮してしまうほどだ。
 彼女の回復を終えた後、教会の内部制圧を完了した聖堂戦士団が合流し、ハンター達は墓地の整理を行うことになった。なにしろ、激しい戦闘の後だ。帰ってきた村人が見たら腰を抜かしそうな程に荒れている。
「最近教会ので歪虚が増えてません?」
 散らばった白骨を集めるコートニーは近くの団員に話しかけた。
「エクラ教に疑いはありません。ただ、自分は宗教だけでは割り切れない、何か大きな力が働いているのかもしれないと最近思います」
「なるほど……。そのことについてですが――」
 知的好奇心豊かなコートニーは、その後も団員に様々な話を投げているようだった。
「げ、げげ……! あんた、何してんだ!?」
 若い団員は、一緒に弔いをしていたクランクハイトがアンデットだったものに口付けするのを見て青ざめた。それでなくとも腐食の激しいものだし、骨が殆どのようなものだし、土葬だから異臭もするし――。
 俺には真似できないわ……と真っ青なまま言った団員に、彼は穏やかに笑って見せた。
「お休みのキスみたいなものですよ、エクラ教の方々から見れば不愉快に思われるかもしれませんけどね」
「人の信仰心にとやかく言うつもりはないけど、その宗教……すごいな」
 大体誰からもそういう反応をされてきたのだろう、クランクハイトは微笑するだけで彼の言葉には何も返さなかった。
「ここまで荒れてしまったが、出来る限り直しておこうや。そうしなきゃ、村の皆も安心して戻ってこれないと思うぜ」
「そうですね……」
 墓の埋戻しをするゴトフリートの横で、シリルは依然周囲を警戒していた。相手は墓の中から現れたのだ、もう一度襲ってこないとも限らない。
 だが、やがて日が昇り、周囲に危険がないことを確認した彼女も、段々作業に加わるようになっていた。
 墓の修復が一段落し、聖堂戦士団は村人の帰還を見守るため残留し、ハンター達は先に王都に戻り報酬を受け取ることになった。
 もう随分辺りが明るくなって来た頃だった。
「その……お、お疲れ様でした、ヴィオラ様!」
 意を決して話しかけたフェレシアに、ヴィオラはまるで新人の団員を見守るように温かい笑みを見せた。
「ありがとうございます。今回も皆さんには助けられてばかりですね」
「そ、そんなこと……!」
「いえ、そんなことはありませんよ」
 ハンターは今や、王国にも教会にも必要な存在ですから、と付け加えたヴィオラは、両腕をハンター達に伸ばし、祝福の姿勢をとった。
「どうか、これからもあなた方にエクラの光の加護がありますように――」
 司教の位も持つ聖堂戦士団長直々の祝福である。
 いつもよりも少しだけ誇らしい気持ちを胸に秘め、ハンター達はそれぞれの帰路に着いたのだった。

 了

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  • 精霊へ誘う聖句の紡ぎ手
    シリル・B・ライヘンベルガー(ka0025
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 小さなプリトウェン
    アレックス・マクラウド(ka0580
    人間(蒼)|14才|女性|聖導士

  • コートニー・ヴァンシタート(ka1724
    人間(紅)|22才|女性|魔術師
  • 死の訓戒者
    クランクハイト=XIII(ka2091
    人間(紅)|28才|男性|聖導士

  • ゴトフリート・ヴァル・ガヴァク(ka2250
    ドワーフ|48才|男性|聖導士

  • フェレシア・ウィンフォート(ka2676
    人間(紅)|16才|女性|聖導士
  • 鎮魂の巫覡
    楠木 惣介(ka2690
    人間(蒼)|18才|男性|魔術師

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楠木 惣介(ka2690
人間(リアルブルー)|18才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2014/07/20 07:32:18
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/16 09:26:45