ゲスト
(ka0000)
邂逅!? 老女師団長&老女商人
マスター:旅硝子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/12 07:30
- 完成日
- 2015/07/21 07:38
このシナリオは1日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ここ数カ月というもの、ベルトルード軍港の造船ドックは、ひどく久々に賑わっていた。
「やっぱり、高速小型艦とは迫力が違うわねぇ」
帝国第四師団長ユーディト・グナイゼナウ(kz0084)が見上げる先には、第四師団初の戦艦が、その威容を表そうとしている。
海賊退治の思わぬ成果として発見した鉱物マテリアルの提供と引き換えに、造船ドックには錬魔院の技術者が何人か派遣され、船体や艤装の設計などを担当している。造船に必要な多くの人員を雇い入れることで、雇用の創出にも貢献できる、第四師団の一大事業であった。
――が。
「これで、お金がたくさんあればねぇ……」
「リーリヤが頭を抱えていましたよ。予算がギリギリなんてもんじゃないって」
「戦艦さえ出来てしまえば、あとはプランもあるのだけれど……」
頬に手を当てて首を傾げたユーディトは、肩を竦めて微笑んだ。
「とりあえず皮算用のプランを担保にするしかないみたいねぇ」
数日後、ユーディトの姿はハンターオフィスにあった。
「断られてしまった寄付のお願いを、もう1回しに行くから付き合って欲しい、なんて図々しい依頼なんだけどねぇ」
アイスハーブティのグラスに唇を付け、ほう、と息を吐いてから、ユーディトは可愛らしく笑って首を傾げる。
「ダフネ・オヴェリスという、ベルトルードを拠点にしている女商人がいるのよ。ハンターや冒険者を呼んで冒険の話を聞くのが好きだってことだから、会ったことのある人もいるかもしれないわねぇ」
既に家業は息子に譲っているが、商売に関しては大きな発言権を持っているという。また、革命前後の混乱の時期には、私兵を雇って治安維持を引き受けるなど、義侠心も強い。
「だけど、その時何もしなかった第四師団に出すお金はないって、断られちゃってねぇ。口約束など信じられないって。ま、私が彼女でもそうするけどね」
直筆の依頼書を持たせたといえど、代理人による依頼。ならば、ユーディト自身が行ってみようというのである。
「一応交換条件としては、産業振興策の一環として町や村に設立していく、卸売と観光客向け販売を中心にしたマーケットへの優先出店権を用意はしたのだけれど……まぁ、今からやると思います、みたいなプランを出されて、それに協力してさらに寄付もしてね、なんて此方にだけ都合のいい話なのよねぇ。だから、他に何か交換条件として出せるものがあれば、それも募集……だけどね」
ふ、と笑んだまま、ユーディトの瞳が真剣みを帯びた。
「ダフネさんは、このベルトルードを、周辺地域を愛しているわ。そして第四師団は、本気でそこを守り、発展させる。そういう気概を、見せようと思うのよ」
本来ならば――2人の老女の目的は、一致するのだ。
「だから、どうか手伝ってちょうだい。この街を、この地域を、もっと素晴らしいものにするためにね」
空になったグラスをトンと置き、すっと立ち上がったユーディトは、丁寧にハンター達に頭を下げた。
「やっぱり、高速小型艦とは迫力が違うわねぇ」
帝国第四師団長ユーディト・グナイゼナウ(kz0084)が見上げる先には、第四師団初の戦艦が、その威容を表そうとしている。
海賊退治の思わぬ成果として発見した鉱物マテリアルの提供と引き換えに、造船ドックには錬魔院の技術者が何人か派遣され、船体や艤装の設計などを担当している。造船に必要な多くの人員を雇い入れることで、雇用の創出にも貢献できる、第四師団の一大事業であった。
――が。
「これで、お金がたくさんあればねぇ……」
「リーリヤが頭を抱えていましたよ。予算がギリギリなんてもんじゃないって」
「戦艦さえ出来てしまえば、あとはプランもあるのだけれど……」
頬に手を当てて首を傾げたユーディトは、肩を竦めて微笑んだ。
「とりあえず皮算用のプランを担保にするしかないみたいねぇ」
数日後、ユーディトの姿はハンターオフィスにあった。
「断られてしまった寄付のお願いを、もう1回しに行くから付き合って欲しい、なんて図々しい依頼なんだけどねぇ」
アイスハーブティのグラスに唇を付け、ほう、と息を吐いてから、ユーディトは可愛らしく笑って首を傾げる。
「ダフネ・オヴェリスという、ベルトルードを拠点にしている女商人がいるのよ。ハンターや冒険者を呼んで冒険の話を聞くのが好きだってことだから、会ったことのある人もいるかもしれないわねぇ」
既に家業は息子に譲っているが、商売に関しては大きな発言権を持っているという。また、革命前後の混乱の時期には、私兵を雇って治安維持を引き受けるなど、義侠心も強い。
「だけど、その時何もしなかった第四師団に出すお金はないって、断られちゃってねぇ。口約束など信じられないって。ま、私が彼女でもそうするけどね」
直筆の依頼書を持たせたといえど、代理人による依頼。ならば、ユーディト自身が行ってみようというのである。
「一応交換条件としては、産業振興策の一環として町や村に設立していく、卸売と観光客向け販売を中心にしたマーケットへの優先出店権を用意はしたのだけれど……まぁ、今からやると思います、みたいなプランを出されて、それに協力してさらに寄付もしてね、なんて此方にだけ都合のいい話なのよねぇ。だから、他に何か交換条件として出せるものがあれば、それも募集……だけどね」
ふ、と笑んだまま、ユーディトの瞳が真剣みを帯びた。
「ダフネさんは、このベルトルードを、周辺地域を愛しているわ。そして第四師団は、本気でそこを守り、発展させる。そういう気概を、見せようと思うのよ」
本来ならば――2人の老女の目的は、一致するのだ。
「だから、どうか手伝ってちょうだい。この街を、この地域を、もっと素晴らしいものにするためにね」
空になったグラスをトンと置き、すっと立ち上がったユーディトは、丁寧にハンター達に頭を下げた。
リプレイ本文
ベルトルードのハンターや冒険者がよく訪れる酒場で、カウンターでベルトルード名物の砂糖入りワインを楽しみながら、ただ黙って冒険者達の話に耳を傾ける女性がいれば、それは大抵ダフネ・オヴェリスである。
既に引退した身といえど、彼女をベルトルードで知らぬ者はいない。彼女が戦乱の時期にベルトルードに尽くしたことを、知らぬ者も誰もいない。
だからダフネの姿があれば、冒険者達はいつも以上に熱を入れて冒険譚を語るのだ。
今日の語り手は、老域に足を踏み込んだ女性であった。
「そうねぇ、あの時はひどかったわ。とんでもない時化の中、海賊達に襲われて……しかもそれは本当は海賊じゃなくて、私達が護衛していた方を狙った暗殺者だったんですもの」
老女の話に聞き入っていた若者達が、次々に声を上げ、続きをねだる。いつものカウンターの隅にいるダフネは振り向きはしないが、横から見ればその口元が楽しげに笑んでいるのがわかっただろう。
――ミグ・ロマイヤー(ka0665)には、よくわかった。3つ離れたカウンターの席で、そっと彼女の様子を伺っていたからだ。ユーディトにこのダフネ行きつけの酒場で語ることを勧めたのも、彼女である。
(しかし、あの時の海賊の女頭目が今じゃ海軍提督とはのう)
美少女――に見える女ドワーフは、ふと口元を緩めた。実年齢は言わぬが華、実はユーディトとは言葉を交わしたことすらある。
だが、昔話に花を咲かせる気はないし、そのことを明かすつもりもない。そっと手助けするのみと、ミグは三杯目のグラスを空け追加の注文を口にするのだった。
交渉の準備は、ダフネに対するものだけではない。
「ハンターというより1人の帝国民として協力したいな。国を守ってくれるんだから……さ」
そう呟いたのは、帝国軍人の父を持つザレム・アズール(ka0878)であった。――それが父の影響だという事を、反発して家を出た彼は認めようとはしないけれど。
「まずは、腹を割って話、わだかまりを解消した方が良いかと」
「それにひとまずさ、ベルトルードのために第四師団が現状できる現実的な案、提示しようよ」
ザレムの言葉に続いて、、レベッカ・アマデーオ(ka1963)が傍らの紙を広げる。
「商人って基本的に現実主義者だし、現状を把握できてないと思われると、その地点でダメな気がするんだよね」
「そうね、まずは両方とも書き出してみましょうか」
そのユーディトの言葉を合図に盛んに交わされる提案や議論に耳を傾けながら、シェリル・マイヤーズ(ka0509)はふとユーディトの顔を見上げた。
(戦う事しか……出来ない私でも……お手伝い……できるかな……)
戦いを愉しむことを覚えた彼女にとって、ユーディトはどこか眩しくも感じられた。ふと振り向いたユーディトから向けられた微笑みにも、眩しげにシェリルは笑みを返す。
広げた紙が埋まっていくのを楽しげに眺めるのは、ユーディトとミグに加えてさらにもう1人の老人。
「ダフネ嬢とユーディト嬢が、二人の想いを伝え合えば分かり合えるじゃろうて」
そうバリトン(ka5112)は真っ白な髭に包まれた唇を吊り上げる。若者から見れば老女二人も、それ以上に年上のバリトンにとってはお嬢さんに等しい。
「あ、そうだ。この提案ももちろんするとして、あとはユーディトばーちゃんにいろいろ語ってもらいたいな」
そう提案したラザラス・フォースター(ka0108)に、もちろんとユーディトは頷いた。
ユーディトの人生は劇的な冒険譚でもあり、その人となりを彷彿ともさせる自己紹介でもある。自らそれを語ることで、信用を得られるだろうとラザラスは考える。
「さて、こんなところかしらね」
書き出され、さらに文書の形に清書された提案に目を通し、頷いたユーディトはくるくると紙を丸めて持ち片目をつぶる。
「では、行きましょうか」
アポは取ってあるから、とユーディトはお茶目に笑んだ。
広い応接室で、自ら冷たいハーブティを用意しながらダフネはひょいと肩を竦める。
「師団長自らいらっしゃるとは、さすがの私も驚きましたよ」
若干皮肉交じりとも取れるその言葉に、ユーディトはホホと笑って。
「こちらこそ、手ずからお茶をいただけるなんて嬉しいわ」
「引退しましたのでね、酒場で冒険譚を語る師団長と同じくらいには暇なはずですよ」
「あら気付いてたかしら」
「商人は人の顔を忘れないものですからねぇ」
探り合うような会話に、ラザラスはそっと冷や汗を拭う。
(ユーディトばーちゃんもダフネばーちゃんも、腹を割って話し合えば分かり合えそうな気がするんだけどなー)
そう、2人のおばあちゃんを交互に見つめて思うラザラスである。――だって2人とも逆らっちゃいけねえ感じがする、とは彼の弁。
豪速キャッチボールのようなやり取りから同時にグラスを傾けて、2人が一息ついたところでバリトンが口を開く。
「ダフネ嬢、覚えておるかわからんが、去年孫娘が世話になった。赤髪赤眼の」
「あらまぁ、アルトさんのことかしら?」
「覚えていて下さったか」
ぱっと顔を輝かせたダフネは、もちろんよと頷いた。かつて雑魔に襲われたダフネと家族や使用人達を守ってくれたハンター達は、彼女にとって本当の英雄なのだからと。
「その事件によって、孫娘も己が目指す道を定めたようじゃ。孫娘の成長の切欠、心から感謝じゃ」
「なんて嬉しいことかしら。私を助けてくれた素敵なお嬢さんが、それで道を決めてくれたなんて」
縁があればまた会って欲しいとのバリトンの言葉に、ダフネは幸せそうに頷く。
その様子にほっとしたように、ラザラスが口を開く。
「冒険譚だったら、ユーディトばーちゃんもすごいぜ、ダフネばーちゃん」
「あらまぁ、でも1回聞いた気がするわ」
まだ機嫌のよい様子ではあるが、皮肉げにそう目を細めたダフネに、ミグがけらりと笑って。
「あのくらいの時間では、まだ語り切れないと言っておったぞ?」
「その実力見せて、いえ聞かせて貰おうかしら」
値踏みするように目を細めながらも、その瞳の奥に期待が宿っているのにレベッカは気付く。既にユーディトが海賊であったことはダフネの耳に入っていると聞いていたが、それゆえにユーディトを忌避しているようには感じられなかった。
もし、ユーディトが第四師団長としての情熱を伝えた上でも経歴を理由に拒むならば、己も海賊であるレベッカは釘を刺してから出ていくつもりだったけれど――受け入れられるならその方が嬉しいと、そっと彼女は目を細めた。
結論から言えば、最初にユーディトの経歴を冒険譚形式で語ったのは大成功、盛り上がったし空気も和やかになったのである。
「第四師団長として、帝国の軍人としては、ベルトルード周辺地域をこのような状態にしてしまったのは本当に申し訳ないと思っています。革命後の混乱の中、師団長も立てられず人員不足で治安の維持も出来なかったのは、第四師団の、そして帝国軍の責任になりますからね」
申し訳ありませんでした、と深く頭を下げたユーディトに、ダフネは頷く。
「元々、旧帝国の頃から海軍は弱かったですものね。謝罪すべきは私ではなく、苦しんだ民だけれど」
「じゃあ、お礼を言うべきね。第四師団の代わりに、治安維持に尽くしてくれたことへのね」
「それは受け取っておきましょう。でも、謝罪と感謝だけではどうにもならないわ」
その言葉を待っていたように、先ほど清書した文章を取り出したのはレベッカだ。
「つまり、具体的な案が必要ってことだよね」
現状の第四師団でできる行動について、レベッカは説明を繰り広げていく。
着任してすぐの頃にハンターの協力を得て行った盗賊・海賊退治の際に、深刻な悪事を働いておらず素直に投降した者達についてはマスケンヴァルでの刑期が終わってベルトルードに戻りつつある。故郷に戻って漁業や農業などを行う者もいるが、職に就けない大多数は第四師団が三等兵として組み込んでいるのだ。
まだ教育が必要な三等兵といえど、人員が増えればベルトルードのパトロールなどを行うことはでき、そうすれば今までベルトルードに常駐していた二等兵以上の兵士を地方へと派遣することができるし、商船の護衛なども可能だ。
「第四師団が現地点で出来るプランはここまで。もちろんこれじゃ足りないどころの話じゃない」
だから商人の力を借りたいのだと言うレベッカの話に、書類に目を通してからダフネは頷く。
「そうね、筋は通っているし、これ以上のことをやるなら予算が必要だというのもわかるわ」
「じゃあ次に必要なのは、お金があった上での目的ってとこかな」
そうねと首肯するダフネに、得たりとラザラスが笑う。
「ユーディトばーちゃんの思う豊かになったこの地域の姿っての、ちょっと聞かせてくれねえか?」
「ええ、そうね。まずは……」
ベルトルード周辺地域の治安維持は急務。だが、なぜ治安が悪いかと言えば、まともに生活できるだけの基盤となる産業がなく、食べていくために盗賊や海賊にならざるを得ないからだとユーディトは口火を切る。
そもそもベルトルード周辺地域の土壌は一般的な農耕には向かず、羊を飼うのも盛んではない。しかし、塩分を含んだ土壌を活かせば今は細々とやっている甜菜の生産力を高めることができ、さらにほぼ内陸にある帝国の中では珍しく海に面していることで、漁業は盛んだ。そこからもっと目を広げるならば、ベルトルードは唯一の同盟との貿易港であり、輸入品の窓口ともなることができる。
「つまり、この地域では一般的な帝国の地域とは全く違う産業を行うことができる。珍しいものは、受け入れられるのは大変だけれど」
「一度受け入れられれば需要が生まれるということでしょう」
「ええ。そのためのマーケット展開ね。まずは隣の地域辺りから人を集めて、利益が出るようになったら販路の拡大を考えられるわ。幸い帝国には高速輸送の技術も冷蔵冷凍の技術もあるわけだから、輸送手段を整えれば新鮮な海産物を遠距離まで配達することも可能だし、それができれば雇用も生まれる」
――そして、産業発展を支えるための治安維持、そのための軍備拡大。海を拠点とする歪虚や、まだ捉えきれていない賊を掃討するために。
そのために、地域を見て回り、話を聞き、戦艦を建造し、賊を捕らえ兵士へと変える。ユーディトとハンター達はそう活動してきたのだ。
「ダフネおばさま、そういう話……届いて……ない……?」
「聞いてはいるわ。ただの人気取りだったらと警戒していたけれどね」
その言葉に、シェリルはちらとユーディトを見てから言葉を重ねる。
「ユーディトおばーちゃんは……民の方から、国の実情を、知ってる……だから、子どもの私から見ても、ユーディトおばーちゃんの想いは……本物と、分かる……」
戦艦が完成すれば、海の治安が強化され漁業や貿易が盛んになるだろう。
雇用が生まれれば、貧困ゆえに堕ちる人は減るだろう。
ダフネ自身、屋敷をゾンビに襲われハンター達に助けられている。その報告書に、シェリルも目を通していた。
ならば、ちゃんと向き合えば、わかるはずだと思うのだ。
「偏見は……心の瞳も……曇らせる……ユーディトおばーちゃんを……見てあげて欲しい」
シェリルの言葉に、ダフネは優しい目をした。ダフネから見れば、シェリルは孫のような存在だ。
「それに、戦艦が必要とする物品と逗留する軍人の消費で、経済的な効果もかなり見込めるかと」
ザレムが文書として提示したのは、それによって生まれる需要の積算である。さらに、戦艦運用に伴う消耗品の卸業者名簿への記載をも見返りとして添えて。ミグもそれに協力し、利と実を説いていく。
現実問題、この莫大な需要を支えられる商人が、ダフネの店すなわちオヴェリス家くらいしかいないという事情もあるが。
「町おこしとして毎年戦艦に人々を招待するのもよいでしょうし、よろしければ名誉隊員として処女航海に……」
「本当!?」
凄まじい勢いで食い付いてから、慌てて咳払いするダフネ。
「も、もちろん実利の方が悪くない以上、検討する価値は存分にあるわけで」
「初めは貸付という名目で、第四師団の働きに納得すれば、現状提示の条件と引き換えに債務の一部か全額を寄付という名目で帳消しにするという手段もあるしの」
老獪さを感じさせる提案をしたバリトンは、さらに寄付を収めている商人からの要請があれば第四師団がハンターとの混成で護衛の手配をするというシステムを提案する。
「ダフネ嬢もそれならまず半分は信用出来んか? 一般商人もハンターと師団員が合わされば信用が置けると判断するのも居るじゃろ」
第四師団としても、ハンターとの連携で実戦訓練を積んだり、流通の把握や住民との交流も進むだろうという目的もある。ゆえにそう提案したバリトンに、ダフネはさらにそれを一般の人々にも使えるようにできないかと首をひねる。
話し合っているうちに時間も遅くなったため、一度一行はダフネの元を辞し、翌日――彼らの姿は、まだドック内の戦艦の、甲板の上にあった。
「……気概ね。この船自体の戦力だけではなく、これだけの力を注ぐという気概」
そう目を細めたダフネに、ラザラスが頷く。
「俺も支援要員だけど軍隊にいた身だから少しは分かるんだけどよ、有能な将に率いられた弱兵は、無能な将に率いられた強兵にあっさり勝つぜ」
「最初に突っぱねた理由だって、前の師団長の時の話が元なんでしょ? 頭が代われば体制だって大なり小なり変わるもんだよ、それを、過去に拘って潰すのは勿体ない話だと思うんだけど」
さらにレベッカが、言葉を続けて。
「自分達が利を得るための先行投資じゃなくて、この街や住んでる人皆が安心して次の世代に繋いでいけるようにするための投資って……考えてもらえないかな?」
「わしら年寄りの役割は、主との出会いがわしの孫娘の道を決めたように、変わろうと、前に進もうとする『これから』の者の礎を作ることじゃなかろうか?」
さらに言葉を添えたのは第四師団は、生まれ変わろうとしているから。
協力してほしいのは、第四師団の、そしてベルトルード周辺地域の『これから』に対してだ。
「ユーディトおばーちゃんは……日だまりの匂い……。おばさまも、強くて……優しい匂いがする……」
2人を良く知っているわけではないけれど、何となく2人とも好き、とシェリルは言って、両手でユーディトとダフネの手を握る。
信頼は、強さ。一人でも多くの人の笑顔の為に、支え合えたらいいと。
ゆっくりと頷いたダフネが差し出した手を、ユーディトは握り返す。
「お手並み拝見といきましょうか」
「第四師団長として感謝します。……それに」
「お友達になりましょ?」
2人の声が重なり、笑い声が弾けた。
既に引退した身といえど、彼女をベルトルードで知らぬ者はいない。彼女が戦乱の時期にベルトルードに尽くしたことを、知らぬ者も誰もいない。
だからダフネの姿があれば、冒険者達はいつも以上に熱を入れて冒険譚を語るのだ。
今日の語り手は、老域に足を踏み込んだ女性であった。
「そうねぇ、あの時はひどかったわ。とんでもない時化の中、海賊達に襲われて……しかもそれは本当は海賊じゃなくて、私達が護衛していた方を狙った暗殺者だったんですもの」
老女の話に聞き入っていた若者達が、次々に声を上げ、続きをねだる。いつものカウンターの隅にいるダフネは振り向きはしないが、横から見ればその口元が楽しげに笑んでいるのがわかっただろう。
――ミグ・ロマイヤー(ka0665)には、よくわかった。3つ離れたカウンターの席で、そっと彼女の様子を伺っていたからだ。ユーディトにこのダフネ行きつけの酒場で語ることを勧めたのも、彼女である。
(しかし、あの時の海賊の女頭目が今じゃ海軍提督とはのう)
美少女――に見える女ドワーフは、ふと口元を緩めた。実年齢は言わぬが華、実はユーディトとは言葉を交わしたことすらある。
だが、昔話に花を咲かせる気はないし、そのことを明かすつもりもない。そっと手助けするのみと、ミグは三杯目のグラスを空け追加の注文を口にするのだった。
交渉の準備は、ダフネに対するものだけではない。
「ハンターというより1人の帝国民として協力したいな。国を守ってくれるんだから……さ」
そう呟いたのは、帝国軍人の父を持つザレム・アズール(ka0878)であった。――それが父の影響だという事を、反発して家を出た彼は認めようとはしないけれど。
「まずは、腹を割って話、わだかまりを解消した方が良いかと」
「それにひとまずさ、ベルトルードのために第四師団が現状できる現実的な案、提示しようよ」
ザレムの言葉に続いて、、レベッカ・アマデーオ(ka1963)が傍らの紙を広げる。
「商人って基本的に現実主義者だし、現状を把握できてないと思われると、その地点でダメな気がするんだよね」
「そうね、まずは両方とも書き出してみましょうか」
そのユーディトの言葉を合図に盛んに交わされる提案や議論に耳を傾けながら、シェリル・マイヤーズ(ka0509)はふとユーディトの顔を見上げた。
(戦う事しか……出来ない私でも……お手伝い……できるかな……)
戦いを愉しむことを覚えた彼女にとって、ユーディトはどこか眩しくも感じられた。ふと振り向いたユーディトから向けられた微笑みにも、眩しげにシェリルは笑みを返す。
広げた紙が埋まっていくのを楽しげに眺めるのは、ユーディトとミグに加えてさらにもう1人の老人。
「ダフネ嬢とユーディト嬢が、二人の想いを伝え合えば分かり合えるじゃろうて」
そうバリトン(ka5112)は真っ白な髭に包まれた唇を吊り上げる。若者から見れば老女二人も、それ以上に年上のバリトンにとってはお嬢さんに等しい。
「あ、そうだ。この提案ももちろんするとして、あとはユーディトばーちゃんにいろいろ語ってもらいたいな」
そう提案したラザラス・フォースター(ka0108)に、もちろんとユーディトは頷いた。
ユーディトの人生は劇的な冒険譚でもあり、その人となりを彷彿ともさせる自己紹介でもある。自らそれを語ることで、信用を得られるだろうとラザラスは考える。
「さて、こんなところかしらね」
書き出され、さらに文書の形に清書された提案に目を通し、頷いたユーディトはくるくると紙を丸めて持ち片目をつぶる。
「では、行きましょうか」
アポは取ってあるから、とユーディトはお茶目に笑んだ。
広い応接室で、自ら冷たいハーブティを用意しながらダフネはひょいと肩を竦める。
「師団長自らいらっしゃるとは、さすがの私も驚きましたよ」
若干皮肉交じりとも取れるその言葉に、ユーディトはホホと笑って。
「こちらこそ、手ずからお茶をいただけるなんて嬉しいわ」
「引退しましたのでね、酒場で冒険譚を語る師団長と同じくらいには暇なはずですよ」
「あら気付いてたかしら」
「商人は人の顔を忘れないものですからねぇ」
探り合うような会話に、ラザラスはそっと冷や汗を拭う。
(ユーディトばーちゃんもダフネばーちゃんも、腹を割って話し合えば分かり合えそうな気がするんだけどなー)
そう、2人のおばあちゃんを交互に見つめて思うラザラスである。――だって2人とも逆らっちゃいけねえ感じがする、とは彼の弁。
豪速キャッチボールのようなやり取りから同時にグラスを傾けて、2人が一息ついたところでバリトンが口を開く。
「ダフネ嬢、覚えておるかわからんが、去年孫娘が世話になった。赤髪赤眼の」
「あらまぁ、アルトさんのことかしら?」
「覚えていて下さったか」
ぱっと顔を輝かせたダフネは、もちろんよと頷いた。かつて雑魔に襲われたダフネと家族や使用人達を守ってくれたハンター達は、彼女にとって本当の英雄なのだからと。
「その事件によって、孫娘も己が目指す道を定めたようじゃ。孫娘の成長の切欠、心から感謝じゃ」
「なんて嬉しいことかしら。私を助けてくれた素敵なお嬢さんが、それで道を決めてくれたなんて」
縁があればまた会って欲しいとのバリトンの言葉に、ダフネは幸せそうに頷く。
その様子にほっとしたように、ラザラスが口を開く。
「冒険譚だったら、ユーディトばーちゃんもすごいぜ、ダフネばーちゃん」
「あらまぁ、でも1回聞いた気がするわ」
まだ機嫌のよい様子ではあるが、皮肉げにそう目を細めたダフネに、ミグがけらりと笑って。
「あのくらいの時間では、まだ語り切れないと言っておったぞ?」
「その実力見せて、いえ聞かせて貰おうかしら」
値踏みするように目を細めながらも、その瞳の奥に期待が宿っているのにレベッカは気付く。既にユーディトが海賊であったことはダフネの耳に入っていると聞いていたが、それゆえにユーディトを忌避しているようには感じられなかった。
もし、ユーディトが第四師団長としての情熱を伝えた上でも経歴を理由に拒むならば、己も海賊であるレベッカは釘を刺してから出ていくつもりだったけれど――受け入れられるならその方が嬉しいと、そっと彼女は目を細めた。
結論から言えば、最初にユーディトの経歴を冒険譚形式で語ったのは大成功、盛り上がったし空気も和やかになったのである。
「第四師団長として、帝国の軍人としては、ベルトルード周辺地域をこのような状態にしてしまったのは本当に申し訳ないと思っています。革命後の混乱の中、師団長も立てられず人員不足で治安の維持も出来なかったのは、第四師団の、そして帝国軍の責任になりますからね」
申し訳ありませんでした、と深く頭を下げたユーディトに、ダフネは頷く。
「元々、旧帝国の頃から海軍は弱かったですものね。謝罪すべきは私ではなく、苦しんだ民だけれど」
「じゃあ、お礼を言うべきね。第四師団の代わりに、治安維持に尽くしてくれたことへのね」
「それは受け取っておきましょう。でも、謝罪と感謝だけではどうにもならないわ」
その言葉を待っていたように、先ほど清書した文章を取り出したのはレベッカだ。
「つまり、具体的な案が必要ってことだよね」
現状の第四師団でできる行動について、レベッカは説明を繰り広げていく。
着任してすぐの頃にハンターの協力を得て行った盗賊・海賊退治の際に、深刻な悪事を働いておらず素直に投降した者達についてはマスケンヴァルでの刑期が終わってベルトルードに戻りつつある。故郷に戻って漁業や農業などを行う者もいるが、職に就けない大多数は第四師団が三等兵として組み込んでいるのだ。
まだ教育が必要な三等兵といえど、人員が増えればベルトルードのパトロールなどを行うことはでき、そうすれば今までベルトルードに常駐していた二等兵以上の兵士を地方へと派遣することができるし、商船の護衛なども可能だ。
「第四師団が現地点で出来るプランはここまで。もちろんこれじゃ足りないどころの話じゃない」
だから商人の力を借りたいのだと言うレベッカの話に、書類に目を通してからダフネは頷く。
「そうね、筋は通っているし、これ以上のことをやるなら予算が必要だというのもわかるわ」
「じゃあ次に必要なのは、お金があった上での目的ってとこかな」
そうねと首肯するダフネに、得たりとラザラスが笑う。
「ユーディトばーちゃんの思う豊かになったこの地域の姿っての、ちょっと聞かせてくれねえか?」
「ええ、そうね。まずは……」
ベルトルード周辺地域の治安維持は急務。だが、なぜ治安が悪いかと言えば、まともに生活できるだけの基盤となる産業がなく、食べていくために盗賊や海賊にならざるを得ないからだとユーディトは口火を切る。
そもそもベルトルード周辺地域の土壌は一般的な農耕には向かず、羊を飼うのも盛んではない。しかし、塩分を含んだ土壌を活かせば今は細々とやっている甜菜の生産力を高めることができ、さらにほぼ内陸にある帝国の中では珍しく海に面していることで、漁業は盛んだ。そこからもっと目を広げるならば、ベルトルードは唯一の同盟との貿易港であり、輸入品の窓口ともなることができる。
「つまり、この地域では一般的な帝国の地域とは全く違う産業を行うことができる。珍しいものは、受け入れられるのは大変だけれど」
「一度受け入れられれば需要が生まれるということでしょう」
「ええ。そのためのマーケット展開ね。まずは隣の地域辺りから人を集めて、利益が出るようになったら販路の拡大を考えられるわ。幸い帝国には高速輸送の技術も冷蔵冷凍の技術もあるわけだから、輸送手段を整えれば新鮮な海産物を遠距離まで配達することも可能だし、それができれば雇用も生まれる」
――そして、産業発展を支えるための治安維持、そのための軍備拡大。海を拠点とする歪虚や、まだ捉えきれていない賊を掃討するために。
そのために、地域を見て回り、話を聞き、戦艦を建造し、賊を捕らえ兵士へと変える。ユーディトとハンター達はそう活動してきたのだ。
「ダフネおばさま、そういう話……届いて……ない……?」
「聞いてはいるわ。ただの人気取りだったらと警戒していたけれどね」
その言葉に、シェリルはちらとユーディトを見てから言葉を重ねる。
「ユーディトおばーちゃんは……民の方から、国の実情を、知ってる……だから、子どもの私から見ても、ユーディトおばーちゃんの想いは……本物と、分かる……」
戦艦が完成すれば、海の治安が強化され漁業や貿易が盛んになるだろう。
雇用が生まれれば、貧困ゆえに堕ちる人は減るだろう。
ダフネ自身、屋敷をゾンビに襲われハンター達に助けられている。その報告書に、シェリルも目を通していた。
ならば、ちゃんと向き合えば、わかるはずだと思うのだ。
「偏見は……心の瞳も……曇らせる……ユーディトおばーちゃんを……見てあげて欲しい」
シェリルの言葉に、ダフネは優しい目をした。ダフネから見れば、シェリルは孫のような存在だ。
「それに、戦艦が必要とする物品と逗留する軍人の消費で、経済的な効果もかなり見込めるかと」
ザレムが文書として提示したのは、それによって生まれる需要の積算である。さらに、戦艦運用に伴う消耗品の卸業者名簿への記載をも見返りとして添えて。ミグもそれに協力し、利と実を説いていく。
現実問題、この莫大な需要を支えられる商人が、ダフネの店すなわちオヴェリス家くらいしかいないという事情もあるが。
「町おこしとして毎年戦艦に人々を招待するのもよいでしょうし、よろしければ名誉隊員として処女航海に……」
「本当!?」
凄まじい勢いで食い付いてから、慌てて咳払いするダフネ。
「も、もちろん実利の方が悪くない以上、検討する価値は存分にあるわけで」
「初めは貸付という名目で、第四師団の働きに納得すれば、現状提示の条件と引き換えに債務の一部か全額を寄付という名目で帳消しにするという手段もあるしの」
老獪さを感じさせる提案をしたバリトンは、さらに寄付を収めている商人からの要請があれば第四師団がハンターとの混成で護衛の手配をするというシステムを提案する。
「ダフネ嬢もそれならまず半分は信用出来んか? 一般商人もハンターと師団員が合わされば信用が置けると判断するのも居るじゃろ」
第四師団としても、ハンターとの連携で実戦訓練を積んだり、流通の把握や住民との交流も進むだろうという目的もある。ゆえにそう提案したバリトンに、ダフネはさらにそれを一般の人々にも使えるようにできないかと首をひねる。
話し合っているうちに時間も遅くなったため、一度一行はダフネの元を辞し、翌日――彼らの姿は、まだドック内の戦艦の、甲板の上にあった。
「……気概ね。この船自体の戦力だけではなく、これだけの力を注ぐという気概」
そう目を細めたダフネに、ラザラスが頷く。
「俺も支援要員だけど軍隊にいた身だから少しは分かるんだけどよ、有能な将に率いられた弱兵は、無能な将に率いられた強兵にあっさり勝つぜ」
「最初に突っぱねた理由だって、前の師団長の時の話が元なんでしょ? 頭が代われば体制だって大なり小なり変わるもんだよ、それを、過去に拘って潰すのは勿体ない話だと思うんだけど」
さらにレベッカが、言葉を続けて。
「自分達が利を得るための先行投資じゃなくて、この街や住んでる人皆が安心して次の世代に繋いでいけるようにするための投資って……考えてもらえないかな?」
「わしら年寄りの役割は、主との出会いがわしの孫娘の道を決めたように、変わろうと、前に進もうとする『これから』の者の礎を作ることじゃなかろうか?」
さらに言葉を添えたのは第四師団は、生まれ変わろうとしているから。
協力してほしいのは、第四師団の、そしてベルトルード周辺地域の『これから』に対してだ。
「ユーディトおばーちゃんは……日だまりの匂い……。おばさまも、強くて……優しい匂いがする……」
2人を良く知っているわけではないけれど、何となく2人とも好き、とシェリルは言って、両手でユーディトとダフネの手を握る。
信頼は、強さ。一人でも多くの人の笑顔の為に、支え合えたらいいと。
ゆっくりと頷いたダフネが差し出した手を、ユーディトは握り返す。
「お手並み拝見といきましょうか」
「第四師団長として感謝します。……それに」
「お友達になりましょ?」
2人の声が重なり、笑い声が弾けた。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 レベッカ・アマデーオ(ka1963) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/07/11 23:18:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/11 13:22:29 |
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質問卓 バリトン(ka5112) 人間(クリムゾンウェスト)|81才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/07/11 21:44:45 |