TRIGGER HAPPY

マスター:楠々蛙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2015/07/12 19:00
完成日
2015/07/20 10:34

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「煙草吸いて」
 荒野を行く荷馬車の屋根に寝転がりながら、呟く男が一人。黒髪黒瞳、二十歳そこそこの若い男だ。
「……」
 御者台で馬車を引く二頭の馬の手綱を握る男が沈黙を返す。こちらは金髪碧眼。年の頃は同じ程。
「煙草」
「うるっせえぞ、キャロル。俺だって吸いたいさ。けどとうに切れちまったよ、同じ事何度も言わせんな余計苛々する」
「何でもっと買い溜めしとかなかったんだ」
 寝転がりながら、黒髪男──キャロルが更に粒やく。
「聞こえなかったか? もう何億回も答えたが、金がないからだよ、金が! 食糧と水の分の金、そしてこの間の馬車の修理費、それで御破産だ。」
「食い物なら、そこに縄で縛ってあるのが居るじゃねえか、二頭も。やったなバリー、食い切れない肉と皮は次の街で売っちまおう」
「なら、手前がこの車を引っ張ってくれんだな? この馬鹿が、今すぐスレイプニルとブケパロスに謝りやがれ」
 金髪男──バリーが、馬車を引っ張る白馬と黒馬を指差した。
「はん、大層な名前付けやがって。八本足でもなけりゃ、両方とも雄じゃねえか」
「あの、すいませ」
「良いんだよ、こういうのは験さえ担げりゃ」
「ちょっと待」
「何が験だよ。軍馬なんぞから名前を取るから、馬車が壊れる様な戦いに巻き込まれん」
「ちょっと待ってっって、言ってるでしょ!」
 口喧嘩をしていた彼ら──道を行く馬車の前に、突然人影が躍り出る。
「危ねっ!」
「どぅわ?!」
 バリーが手綱を引いて馬車を急停止させ、その為に屋根の上のキャロルが、御者台へ尻から滑り落ちる。
「何なんだよ、畜生が」
 バリーの隣で尻を打ち付けたキャロルが、悪態を吐きながら前を見る。そこには、
「お願い、助けて」
 赤毛の少女。ようやく十を過ぎた頃だろうか。
「人が尻痛めてんのに、第一声がSOSか?」
「そ、それは仕方ないじゃない。幾ら声を掛けても気付かないし、大体屋根の上で寝転がったりしてる方が悪いのよ」
「誰も寝てなんかいねえ。俺は屋根の上から見張りを」
「見張りが役立たずだったから、私に気付けなかったんじゃない」
「な、何だとこの」
「キャロル、お前ちょっと黙ってろよ」
 言い返そうとしたキャロルをバリーが遮る。
「お嬢さん、助けるにも事情を聞かなきゃ何ともならん。まずは、話を聞かせてくれ」
「そ、そうね、ごめんなさい。えっとまず自己紹介からよね。私は、ラウラ=フアネーレ」
「ご丁寧にどうも、俺はバリー=ランズダウンだ。で、こっちの短気が」
「……キャロル=クルックシャンクだ」
 不機嫌さを隠さずに、キャロルが二人に続づいて名を告げる。
「で、用件は?」
 バリーの催促を受けて、少女──ラウラが説明を始めた。
「まず順を追って話すわね。実は私はこの土地の人間じゃなくて、遠くにある村に住んでたの。けどある日森の中で花を摘んでたら、人攫いに捕まっちゃった」
「そいつは難儀だったな。で、連中には引っ掛けてやったのか?」
「どういう意味? ……っ!」
 キャロルの言葉の意味がわからず、しばし首を傾げていたラウラが意味を悟り赤面する。
「ち、違うわ、本当に花を摘んでいたの! 私は薬師だから、その為の花よ! さ、最低だわ。あなた、女の子に対する口の利き方も知らないの?」
「ちょっとした冗句だろ?」
「キャロル、今のは俺もどうかと思う」
「さいで」
「悪いな、ミス・ラウラ。話を続けてくれ」
 相方の失言を詫びるバリーに、鼻を鳴らしてからラウラは説明を続ける。
「別にラウラで良いわ。それで、私はついさっきまでこの近くの、人攫い共が根城にしている洞窟に囚われていたんだけど」
「逃げ出して来たってわけだ」
「そういう事」
 バリーの言葉に、ラウラが頷く。
「よっぽど間の抜けた連中らしい」
 キャロルがまた口を挟む。
「引っ掛かる言い方ね。私が逃げ出せたのは、牢屋に抜け穴があったからよ。私くらいの背丈でやっと通れるくらい小さい穴だったから、見落としたのね」
「何にしても間抜けだ」
「そうね、それは否定しないわ。でも、彼らがもう少し利口だったら、私は逃げられなかったから良いじゃない。まあ、本当に利口だったら、悪い事もしないでしょうけど」
「そりゃそうだ。でも、もう連中とはおさらばした身で、何を助けてくれって? ああ、近場の街に送って欲しいのか?」
 バリーの問いに、ラウラは首を横に振って返答する。
「違う、まだ囚われている人達を助けて欲しいの。私よりも年は上だけど、皆まだ子供なのよ。あなた達ハンターでしょ。なら助けてよ」
「どうして、俺達がハンターだと?」
「馬車の横に書いてあるじゃない」
 言われてバリーは思い出す。『我らハンター、依頼求む』と先の修理の際に、ついでに宣伝を書いたのだった。
「それに、その銃。戦えるんでしょ?」
 ラウラが、キャロルの腰に提げられてあるリボルバーと、バリーの隣に掛けてあるライフルを指差した。
「まあ、それなりにな。相手次第さ」
「人攫い共は、二十人くらい居たわ。ほとんどが、あなた達と同じリアルブルー製の銃を持ってた。けど、二人だけ魔導銃を使ってるの」
「成程ね。となると、そいつら覚醒者の可能性ありだな」
「ああ、でないと、わざわざ規格が違う武器を持つ理由がない」
 キャロルの推測に、バリーが同意を示す。
「となると二人の覚醒者と二十近いガンマン共を相手取らなきゃならんぜ。俺達二人じゃ、間に合わない」
「じゃあ、さっき擦れ違ったハンター集団にも声掛けりゃ良いんじゃねえの?」
「まあ、それしかないな。だが、そうなると問題がある。ラウラ、金は幾ら持ってんだ?」
 バリーの問いに、ラウラは躊躇いがちに答える。
「お金は持っていないんだけど、その、これで代わりになる?」
 彼女が服の下から取り出し、手渡して来たのは、
「指輪か?」
 鎖に取り付けられた二つの指輪。
「中々の値打ちものだな、これは。だが、一体何でこんなものを?」
「父さんと母さんから貰ったものよ。二人の結婚指輪」
「は? なんだって、んなもんを……」
「二人が私に残してくれたの。必要な時に使いなさいって。使うべきは、きっと今なのよ。きっと、二人とも許してくれるわ、何たって、私の父さんと母さんなんだから」
 ラウラが浮かべた笑みを見て、バリーとキャロルが顔を見合わせる。すぐに、二人はラウラの方に向き直ると、
「OK、商談成立であります、ボス」
「何なりとご命令を、ボス」
 敬礼の真似事をしてみせる。
「うむ、良きにはからえ。」
 ラウラは即興の冗句に付き合い、存在しない髭をいじって応じる。
「ふふ、それじゃあ私を乗せて頂戴。ガンマンさん達」
 一転して少女の顔に戻ったラウラは、二人に手を伸ばした。

「あん? 商品が一つなくなった?」
「へえ、どうやらその様で」
 BAAAANG
「へえ、じゃねえんだよ。おい、草の根わけてでも探せ。アジトの場所が漏れれば、俺ら全員が、この馬鹿と同じ様になっちまうぞ」

リプレイ本文

「ラウラさん、これを。こちら側は俺とリオンさんが持つから。使い方は、かくかくしかじかだ」
 揺れる馬車の中、藤堂研司(ka0569)がラウラに使い方を説明しながらトランシーバーを手渡した。
「……まるまるうまうまね」
「おい、今のでわかったのか?」
 二人のやり取りに、キャロルが突っ込む。
「当然。これでも呑み込みは良い方よ?」
「さいで」
 ユリシウス(ka5002)がラウラへと小袋を差し出す。
「ラウラ、これも持って行ってくださいな」
「……これは、キャンディ?」
 受け取った袋の中身を見て、ラウラが呟く。
「ええ、牢の中に着いたら、皆に配ってあげると良いでしょう」
「ありがとう、お姉さん。きっと皆喜ぶわ。あそこのご飯と言ったら、具のないスープだけだったから」
 思い浮かべる粗末な食事とは雲泥の差の飴玉に笑顔を浮かべるラウラに、カッツ・ランツクネヒト(ka5177)が応じる。
「そんな仕打ちを可愛らしいお嬢さんが受けたかと思うと、胸が張り裂けそうだね」
「……あなたも女の子の扱いがイマイチね。褒めれば良いというわけじゃないのよ」
「おっと、こいつは手厳しい」
「でも、そこのガンマンよりはましだわ」
「放っとけ」
 指差されたキャロルが鼻を鳴らす。
「言われてやんの~」
 煙草を燻らせるリオン(ka1757)が笑う。
「食も大事だろうが、住の方も工面してあげたいものだな。何よりも、我が家を恋しがっている事だろう」
 子供達を救出した後の事を案じて、ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)が発言する。
「それなら、近場の町で軍なり自警団なりにでも声掛けりゃ良いだろ。捜索願にでも引っ掛かれば話が早いしな」
 それに、キャロルが応じる。
「にしてもさ、ま~だ着かないのかに~?」
 リオンが不平を口にすると正面の扉が開き、御者台のバリーが顔を見せる。
「見えて来たぞ。トードー、任せて良いか?」
「あいよ、任された」
 応じて藤堂が御者台へと出る。
「おそらく、六十が限界だ。それ以上近付けば、連中問答無用で撃って来る」
「それだけあれば、十分さ」
 藤堂の鋭敏な視覚が、彼方にある洞穴の前に立つ二人の見張りを明確に捉えた。
 しかし、彼らにとっては御者台に座る者の顔も判然としない距離だ。まだ、彼らの腰に収まる拳銃の撃鉄が起きる事はない。
「こっちには、鼻の穴まで見えるぜ賊共。サーチアンドデストロイだ」
 藤堂が和弓に複数の矢を番え、敵を見据える眼と、弦を引く腕にマテリアルを集中。一射で放った矢が雨あられと降り注ぐ。見張り達が貫かれ、過たず事切れたかと思われたが、しかし、僅かに急所から矢が逸れた一人が、銃火の轟を響かせた後に息絶える。
 狙いも何もなく放たれた銃弾は馬車を掠めもしない。しかし、銃声は間違いなく洞窟内へと届いただろう。
「……しくじった、かな」
「いいや、上出来だ」
 引き攣った藤堂の声に応じながら、キャロルが馬車内から顔を出し、更に屋根へと上る。揺れる馬車の上で足を開いて立つ。
「突っ込めバリー、RUN、RUN、RUN!」
「無茶言いやがって!」
 バリーが馬の尻を鞭で打つ。
「出番だぜ、おっさん」
 加速する馬車の上で腰溜めに拳銃を構えながら、キャロルは馬車の陰で重装馬に騎乗して控えているライナス・ブラッドリー(ka0360)に声を投げる。
「……ようやくか?」
 煙草を咥えたライナスがホルスターから拳銃を抜き取り、馬を馬車に並走させる。
「撃鉄は起きてるか?」
「当然だ、若いの」
 二人のガンマンが言葉を交わした直後、敵の増援が姿を現す。数は四。彼らは突撃して来る馬車と騎馬に面喰らいながら銃を構える。が、
「遅いな。ド素人が」
 ライナスが片手で手綱を握りながら、先手の掃射を浴びせる。弾倉の中身を全てバラ撒き、敵の動きを封じ込める。
 動きを止めた一人に銃口を向けて、キャロルが引鉄を引く。
 リアルブルーのとある大陸での開拓時代において多用された、シングルアクションのリボルバーは連射が困難であるとされていた、しかし、それを克服する絶技が一つ存在する。
 扇ぎ撃ち。
 添え手で落ちた撃鉄を起こすガンアクションで、六発全てを撃ち尽くす。的となった男が、ボロ屑と成り果てた。
 残りの増援が立ち直り、銃口を洞窟手前で減速した馬車へと向けるが、
「待っってましたぁ♪」
 リオンが照準の前に躍り出た。引鉄に僅かな力を込める暇すら与えずに、彼女は更に前へと加速する。
「月まで吹っ飛べ☆」
 敵の懐まで潜り込んだリオンは、一旦沈めた右拳を顎へ目掛けて振り上げる。殴撃が、敵の顎を打ち砕き、上空へと打ち上げる。
「邪魔だ」
 馬車内から突き出た突撃銃から放たれし凶弾が、残りの一人に叩き込まれる。凶弾の射手──ルナリリルが死体を一瞥して鼻を鳴らす。
「さっさと地獄に墜ちてしまえ」
「…………」
 血みどろの惨状に、ラウラが唾を呑む。その様子に気が付いたユリシウスが声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「……平気。これは私が始めた事だから、大丈夫よ。ここで依頼人の私が蹲ってちゃ、雇ったあなた達に申し訳が立たないもの」
 ラウラの言葉を聞いて、カッツが口笛を鳴らす。
「初っ端の仕事で依頼人に恵まれちまったね。こいつは気合い入れていかねえと」
「よろしく頼むわ、ニンジャさん」
「喜んで、お姫様。エスコートは?」
「私は抜け穴を通って行くから、大丈夫。その剣は、皆を助けるのに使ってあげて」
「へっ、御意のままに」
 洞窟の奥から、度重なる銃声を聞いた敵の喧噪が聞こえる。
「この様子だと、敵は籠城を決め込む様だ。馬車と俺の馬を繋ぎ次第、突入するとしよう」
 馬から降り、煙草を地面に落として踏み躙りながら、ライナスが提案した。

 穴蔵の鉄火場で、口火を切ったのはリオン。
「ひゃっほう☆ ドンパチの始まりだぁ」
 デリンジャーを構えながら駆ける彼女は、自分を迎撃しようとした手近な敵の土手っ腹目掛けて、熱い死の投げキッスを撃ち放つ。敵の銃火に晒される前に、岩陰へと滑り込んだ。
 次手を打ったのは、ライナス。彼は手近な空き瓶を掴むと、リオンへと注意が逸れた敵の背後へ放る。甲高い破砕音に、緊張で強張っていた敵が過敏に反応する。その動きを確認したライナスが接近し、鎧通しを喉元に突き入れる。
 骸ごと彼を狙った敵の銃弾を、傍の丸テーブルを倒しその陰に入って凌ぐ。
 二人の活躍に陰に潜み接近を企んでいたカッツを、幾つもの銃口が睨む。銃口から銃弾が放たれる直前に、積み上げられた木箱を踏み台にして、カッツは高く舞い上がった。
「よおく狙え下手糞共」
 立体的な動きに、無駄弾を放る男達をカッツが嘲笑う。
「でねえと、死んじまうぞ?」
 落下と共に繰り出した精緻の斬撃が、落下点に居た男の額をかち割った。
 侵入者に三人の同胞を瞬殺されて怖気づいたのか、敵は遮蔽物に潜み、場が膠着状態に陥り掛ける。しかし、それを藤堂は許さない。
「キャロルさん、連中を燻し出してやろう」
「応とも」
 二人が放った銃弾が岸壁を跳ね、遮蔽物を迂回してそれぞれの標的を捉える。
 新たに骸となった二人の同胞を見て、彼らと同じく遮蔽物に潜んでいた者達に戦慄が走る。
「焦燥と恐怖は煙たいだろう、悪党共!」
「ほら、押せや、駆けれや、喚き立て!」
 二人の言葉に突かれて、彼らは尻に火が付いたかの様に移動を試みるが、それを侵入者達が待ち望んでいた事をすぐに思い知る事となった。
「……鴨の方がまだ張りがあるな」
 バリーが敵の一人の頭を撃ち抜きながら、呆れた声を上げる。
「あらあら、堪え性のない事。見るに堪えないので早く死んでくださいな」
 ユリシウスが騎兵銃を構え、猟銃持ちの男の胸を射抜く。
「この手応えといったら、止められませんわ」
 彼女はお淑やかながら、何処か蠱惑的な笑みを浮かべる。
 敵の一人が、短刀を手に取り、ルナリリルに接近。彼女の矮躯、そして突撃銃の接近戦における取り回しの悪さに付け込もうとしたのだろう。しかし、
「遠距離戦だけだと思うなよ?」
 考えが甘い。彼女は機杖を抜き取り振るう。機杖を柄として現出したのは光の刃。光刃が、突き出されたナイフを持つ腕を斬り飛ばした。
「い、命だけは勘弁して」
 尻餅を着き、切株となった腕をもう片方の腕で抑えながら、男が涙を流し懇願する。
「……馬鹿か、悪党を生かしておく理由が何処にある?」
 ルナリリルは男の額に、躊躇いなく銃弾を叩き込んだ。
「世界に平穏のあらん事を……ってね」

 入口付近に居た敵を一掃した彼らが、更に奥に進もうとすると、
「あの雑魚共が、糞の役にも立ちゃしねえ!」
 銃弾と怒声が迎える。全員が咄嗟に遮蔽物に隠れる。
 声の主は、魔導拳銃とそれを構えた無精髭の男。その傍らには、魔導銃を持った巨体の男が立って居る。
「しっかし、良くもやってくれたもんだな。覚悟しろよ?」
「それはこちらの台詞ですわね。年貢の納め時という言葉を知っていらして?」
「度し難いな。この状況で己の不利を悟る事もできないとは」
 ユリシウスとライナスが、無精髭の啖呵に呆れた声を返すが、
「悪党に一々道理を説いて、何様だ。俺が歩くのは、外道だぞ? 手前らの道理に従うわけがねえだろうが!」
 無精髭が叫んで投げたのは、
「っ!」
 ダイナマイト。天頂近くまで放ったそれを、無精髭が撃ち抜く。爆発の衝撃が、洞窟内を揺るがした。
「滅多にお目に掛かれねえ貴重品、一発限りの大花火だ。痺れたろ?」
「正気か、馬鹿が」
 爆音の余韻が消えぬ中、ルナリリルが声を上げる。
「何、すぐには崩れやしねえ。だが、時間の問題だぜ。さあ、どうするよ糞共」
 洞窟内に微かながら、不吉な鳴動が木霊する。
「私は、子供達の救出に向かいます。錠開けを試みたいと思いますが、何方か援護を頼めますか?」
「アタシ付いてくよん」
「俺もお供するとしようかね」
 ユリシウスの言葉に、リオンとカッツが頷く。
「行かすか、糞が」
 無精髭がユリシウスらの動きを察知して阻害しようとするが、
「やらすかよ」
 キャロルが先じて、弾丸をばら撒く。
「おい!」
「わかってるよ、兄貴」
 弾丸は、巨漢が作った障壁に阻まれるが、行動を封殺する目的は果たした。
『トードー? 牢に着いたんだけど、今の音は何?』
 救出班がその隙を縫って行動した直後、藤堂の通信機からラウラの声がする。
「ああ、ちと拙い事になってね。そっちに助けが行くから、待っててくれよ」
『うん、わかった。……頑張ってね』
 切れた通信機を仕舞って、藤堂が残りの五人を見渡す。
「だってさ。さて、どうするかね」
「どうもこうもない。あの馬鹿共は邪魔だ。殺るしかないだろう」
 ルナリリルが応え、
「だな、まずはあの壁役からだ」
 キャロルが頷く。
 意見を示し合わせた三人が、弾丸を巨漢に集中させる。再び障壁が阻むが、三重の連射を受けて砕ける。守護を失った巨漢が凶弾の猛威を総身に浴びる事となった。
「糞が、どいつもこいつも」
 単独となった無精髭が移動しようとするが、バリーが放った牽制射撃が、それを阻害する。
「いい加減に、その汚い口を閉じろ」
 ライナスが、必殺のマテリアルを込めた弾丸を無精髭の頭に叩き込んだ。
「……子供の教育に悪い」

 牢の前に立ちはだかる三人の残党。
 彼らに構わず、ユリシウスが牢へと接近する。させじと残党達が銃口を向けようとするが、一瞬の隙を突いて彼らに向かって駆けて来るカッツに気付き、そちらへと意識を逸らした。
 目的地に辿り着いたユリシウスが、道具を取り出して錠開けに取り掛かる。
「ラウラっち、聞こえる?」
 リオンが、通信機を介してラウラに呼び掛ける。
『リオン?』
「そだよん。ちょっち、待っててね♪……どう、開けれそ?」
「可能でしょう。しばらく護衛をお願いいたしますわ」
「まっかせなさ~い♪」
 開錠に徹するユリシウスに、陽気にリオンが応える。
「どうした? 的はここだぞ」
 カッツが障害物を足場にした立体機動によって飛んで来る弾丸を回避しつつ、敵へと駆けて行く。
 とうとう、敵の懐中へと飛び込んだ彼を、左右から同時に銃撃が襲う。しかし、また飛び跳ねたカッツは、弾道の上を舞う。味方が放った弾丸を互いに喰らって二人が倒れ伏す。
「畜生……」
 最後の一人となった男が、最期の足掻きを試みる。手に持ったリボルバーの残弾は一。その標的として選んだのは、ユリシウス。しかし、その弾道の間にリオンが立つ。
 彼女が左手に装備しているのは、錬魔院が試作した受けに特化したグローブだ。しかし製作者達とて、まさか銃弾を弾く者が居ようとは考えもしなかったろう。
「軽いねぇ! あたしを倒したきゃ、五十口径を持って来やがれ!」
 昂ぶりのままに吼えたリオンが駆けて、男の顔面に叩き込む。
「開きましたわ」
 開錠の手応えを感じて、ユリシウスは扉を開く。軋む音を立てて開いた扉の向こうには、ラウラと窶れた九人の少年少女。
「良く耐えましたね。もう大丈夫ですよ」
 ユリシウスは、彼らに慈愛の言葉と笑みを向けた。

 洞窟に響く音が更に大きく鳴り出した時に、全員が牢に辿り着き、衰弱した子供達を抱えて、倒壊直前に洞窟内から脱出した.
 救出した子供達を馬車に乗せて近くの町まで送り出した為、バリーを除く一行は、洞窟付近で待ち惚けを喰らっている最中である。
「何?」
 岩の上に腰掛けていたラウラは、近付いて来たキャロルに顔を向ける。
「ほらよ」
「これ、なんで?」
 手渡された品を見て、ラウラは訝しんだ声を上げる。彼女が報酬として差し出した両親の指輪だった。
 彼女の問いに対して、キャロルが懐から一丁の魔導拳銃を取り出す。それは、無精髭の男が使っていた物だ。
「連中の頭が、悪名高き賞金首だった。銃把に当人の名前も刻んであるし、証拠としては十分だろ」
「でも」
「心配すんな。文句を言う奴は居やしないさ」
 キャロルの言葉に、一旦ラウラが俯く。再び顔を上げた彼女は、指輪を突き返した。
「……依頼して良い? 私を家まで送って?」
「わざわざ、俺らに頼む事じゃないだろ」
 治安を取り締まっている組織なら、誘拐された子供達くらいなら送り届けてくれるだろう。
「わかってる。けど、どうせ家に戻っても、また独りだし」
「受け取れねえな」
「……そうだよね。ごめん、忘れて」
 指輪を握り締めて、またラウラは俯く。
「飯当番」
「え?」
 ラウラが顔を上げて、キャロルを見る
「俺もバリーも、料理が下手なんだ。お前作れるか?」
「う、うん。できる、作れるわ」
「雇ってやるんだ。語尾には、イエッサーを付けろよ」
 ラウラは零れんばかりの笑みを湛えて、敬礼をして見せた。
「いえっさー♪」

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重体一覧

参加者一覧

  • いつか、本当の親子に。
    ライナス・ブラッドリー(ka0360
    人間(蒼)|37才|男性|猟撃士
  • 龍盟の戦士
    藤堂研司(ka0569
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • HappyTerror
    リオン(ka1757
    人間(蒼)|20才|女性|疾影士
  • 竜潰
    ルナリリル・フェルフューズ(ka4108
    エルフ|16才|女性|機導師
  • 淑やかなる令嬢
    ユリシウス(ka5002
    人間(紅)|18才|女性|猟撃士
  • この手で救えるものの為に
    カッツ・ランツクネヒト(ka5177
    人間(紅)|17才|男性|疾影士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/07/07 01:29:00
アイコン 相談卓
カッツ・ランツクネヒト(ka5177
人間(クリムゾンウェスト)|17才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/07/12 19:17:25