ゲスト
(ka0000)
【幻導】共鳴の先
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/07/16 07:30
- 完成日
- 2015/07/22 22:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「へぇ~! 君がチューダだね?」
ナルガンド塔から戻ったファリフ・スコールは中腰になった。
目の前にいる小さな幻獣に視線を合わせる為だ。
「こらっ! 呼び捨てにしてはダメなのです!
我輩は大幻獣の王『チューダ』なのです。頭が高ーいっ!」
本の上で胸を張るモルモットのような生物は、自称『幻獣王』のチューダ。
昔から大霊堂に棲み着いている幻獣だ。聖地周辺が歪虚に支配されてから姿を消していたが、最近になってひょっこり戻ってきたようだ。
王を自称するチューダを指差しながら、ファリフは大巫女の方へ振り返った。
「大巫女、チューダは王様なの?」
「こいつが勝手に言っているだけだよ」
「な、なんですってっ!?
我輩は王の中の王。どっかのドワーフの王みたいな扱いは心外なのです!」
大巫女に憤慨するチューダ。
大巫女によれば幻獣王と名乗っているのはチューダだけで、誰もチューダを王と崇めたりはしていない。ただ、幻獣に関する知識は本物で、幻獣の事を質問すれば答えてくれる。その答えを忘れていたりしていなければ、だが。
「ねぇ、チューダ。
ボクを呼んでいたのはトリシュヴァーナって大幻獣なの?」
「その通り! ナルガンド塔の頂上でトリシュヴァーナがファリフを待っているのです」 大幻獣トリシュヴァーナ。
巨大な三首の犬のような幻獣で性格は攻撃的である一方、群れの一員と認めた者は命をかけて守るなど、プライドや社会性が強い。かつて歪虚との戦いで致命傷を負った事から歪虚へ激しい復讐心を持つと言われている。
そのトリシュヴァーナが、ファリフを呼んでいるというのだ。
「ファリフのお腹にある刺青は、大精霊の祝福を受けた戦士の証。きっと大幻獣と心を通わせて一緒に歪虚と戦う事もできるはずなのです。
でも、大幻獣と心を通わせるには、大幻獣が与える試練をクリアしなければならないのです」
チューダによれば、トリシュヴァーナは白龍の消滅を感じ取り、人類と幻獣の窮地を察して姿を現したという。ファリフを呼び続けているのも、伝説の刺青を持つ者に力を貸して歪虚へ復讐を果たすつもりなのだろう。
だが、ここで気を付けなければならない事がある。
大幻獣は認めた相手に力を貸してくれる。
だが、それは大幻獣が相手を認める必要がある。それが『試練』と呼ばれるもので、大幻獣によってその試練は大きく異なるらしい。
「トリシュヴァーナは、強い力を持つ者が大好きなのです。だから、試練も自分の強さを見せないとダメなのです」
「強い力ねぇ。なら、ちょうどいいじゃないか」
チューダの話を聞いていた大巫女が口を開く。
「ちょうどいい?」
「ナルガンド塔で歪虚にあったんだろう? だったら、あいつを力でねじ伏せて大幻獣に会えばいいじゃないか。倒すまではいかなくても力を示すなら十分だと思うよ」
ファリフは、思い出した。
BADDASを名乗る歪虚。
歪虚退治に乱入をしたという牛鬼という歪虚。
きっと他にも大幻獣の存在を察知した歪虚が集まってくるに違いない。
ならば、それら歪虚をはね除けて最初にナルガンド塔の頂上で大幻獣と会う事が何よりの試練ではないのか。
「そっか。大幻獣と会うのなら、あいつらを何とかしなくちゃいけないんだよね?
ボク、やってみるよ。トリシュヴァーナに会いに行ってみる。そして、トリシュヴァーナと共に東方で救援を待つみんなのところへ行くんだ」
力強く頷くファリフ。
その横でどや顔のチューダが余計な口を挟む。
「塔に行くのであれば、我輩のしもべ達を連れて行くといいのです。我輩が特別に許可をしてやるのです。えっへん」
チューダのしもべ――つまり、ハンター達を同行させるように言っているようだ。
いつからハンターがチューダのしもべになったのかは不明だが、ファリフ一人では到底すべての歪虚を相手にはできない。
ファリフは、『星の友』を呼び集めるべくハンターズソサエティへ向かった。
後日、ファリフの呼びかけに応えた、自称『幻獣王』チューダのしもべらしいハンターたちが集まった。
「我がしもべども! よくきたのです!」
とても偉そうに言うチューダにファリフは何だか不満げに見下ろした。
「チューダ。ハンターの皆はボクの星の友なんだ。そういう風に言ってほしくないよ」
文句を言われたチューダはお構いなし。
「我輩は偉いのですからしもべなのです!」
胸を張るチューダの様子に頬を膨らませて唇をへの字に曲げるファリフのやり取りにハンター達は微笑ましく見守る。
「ふぅん……王は民を護るもの。チューダも一緒に行くって事だね?」
ファリフの誘いにチューダは酷くショックを受けたような表情となってしまうと、途端に大慌てで手足をばたつかせて大巫女の後ろに隠れてしまう。
「わ、我輩も同行したいのは山々なのですが……その……ほら、我輩が同行したら、試練にならなくなってしまうのです! 残念ながら、我輩は涙を飲んで大霊堂でお留守番なのです。いやー、実に残念。我輩が覚醒すれば山の一つや二つ、軽く消し飛ばしてやるのですが……」
大巫女の足元から大声を上げるチューダに大巫女はくすりと口元に笑みをのせる。
「ゆくがいいさ。お前が導くもののもとへな」
大巫女の言葉にファリフは頷いたが、その視線は自身の腹へ向ける。
「ボクの刺青を通して導かれるままに行くのは構わないけど……歪虚に狙われているなら助けてあげたい」
ファリフの言葉に大巫女が「そうか」と優しく応えた。
「これ以上、歪虚の侵攻させたくない。でも、ボク一人じゃムリなんだ。だから、皆の力を貸して」
きびすを返したファリフがハンター達へ言葉を向ける。
「歪虚を倒して、トリシュヴァーナと会う為にまた一緒に行ってほしい。ナルガンド塔へ行こう!」
ファリフはハンターと共に再びナルガンド塔へと向かった。
「へぇ~! 君がチューダだね?」
ナルガンド塔から戻ったファリフ・スコールは中腰になった。
目の前にいる小さな幻獣に視線を合わせる為だ。
「こらっ! 呼び捨てにしてはダメなのです!
我輩は大幻獣の王『チューダ』なのです。頭が高ーいっ!」
本の上で胸を張るモルモットのような生物は、自称『幻獣王』のチューダ。
昔から大霊堂に棲み着いている幻獣だ。聖地周辺が歪虚に支配されてから姿を消していたが、最近になってひょっこり戻ってきたようだ。
王を自称するチューダを指差しながら、ファリフは大巫女の方へ振り返った。
「大巫女、チューダは王様なの?」
「こいつが勝手に言っているだけだよ」
「な、なんですってっ!?
我輩は王の中の王。どっかのドワーフの王みたいな扱いは心外なのです!」
大巫女に憤慨するチューダ。
大巫女によれば幻獣王と名乗っているのはチューダだけで、誰もチューダを王と崇めたりはしていない。ただ、幻獣に関する知識は本物で、幻獣の事を質問すれば答えてくれる。その答えを忘れていたりしていなければ、だが。
「ねぇ、チューダ。
ボクを呼んでいたのはトリシュヴァーナって大幻獣なの?」
「その通り! ナルガンド塔の頂上でトリシュヴァーナがファリフを待っているのです」 大幻獣トリシュヴァーナ。
巨大な三首の犬のような幻獣で性格は攻撃的である一方、群れの一員と認めた者は命をかけて守るなど、プライドや社会性が強い。かつて歪虚との戦いで致命傷を負った事から歪虚へ激しい復讐心を持つと言われている。
そのトリシュヴァーナが、ファリフを呼んでいるというのだ。
「ファリフのお腹にある刺青は、大精霊の祝福を受けた戦士の証。きっと大幻獣と心を通わせて一緒に歪虚と戦う事もできるはずなのです。
でも、大幻獣と心を通わせるには、大幻獣が与える試練をクリアしなければならないのです」
チューダによれば、トリシュヴァーナは白龍の消滅を感じ取り、人類と幻獣の窮地を察して姿を現したという。ファリフを呼び続けているのも、伝説の刺青を持つ者に力を貸して歪虚へ復讐を果たすつもりなのだろう。
だが、ここで気を付けなければならない事がある。
大幻獣は認めた相手に力を貸してくれる。
だが、それは大幻獣が相手を認める必要がある。それが『試練』と呼ばれるもので、大幻獣によってその試練は大きく異なるらしい。
「トリシュヴァーナは、強い力を持つ者が大好きなのです。だから、試練も自分の強さを見せないとダメなのです」
「強い力ねぇ。なら、ちょうどいいじゃないか」
チューダの話を聞いていた大巫女が口を開く。
「ちょうどいい?」
「ナルガンド塔で歪虚にあったんだろう? だったら、あいつを力でねじ伏せて大幻獣に会えばいいじゃないか。倒すまではいかなくても力を示すなら十分だと思うよ」
ファリフは、思い出した。
BADDASを名乗る歪虚。
歪虚退治に乱入をしたという牛鬼という歪虚。
きっと他にも大幻獣の存在を察知した歪虚が集まってくるに違いない。
ならば、それら歪虚をはね除けて最初にナルガンド塔の頂上で大幻獣と会う事が何よりの試練ではないのか。
「そっか。大幻獣と会うのなら、あいつらを何とかしなくちゃいけないんだよね?
ボク、やってみるよ。トリシュヴァーナに会いに行ってみる。そして、トリシュヴァーナと共に東方で救援を待つみんなのところへ行くんだ」
力強く頷くファリフ。
その横でどや顔のチューダが余計な口を挟む。
「塔に行くのであれば、我輩のしもべ達を連れて行くといいのです。我輩が特別に許可をしてやるのです。えっへん」
チューダのしもべ――つまり、ハンター達を同行させるように言っているようだ。
いつからハンターがチューダのしもべになったのかは不明だが、ファリフ一人では到底すべての歪虚を相手にはできない。
ファリフは、『星の友』を呼び集めるべくハンターズソサエティへ向かった。
後日、ファリフの呼びかけに応えた、自称『幻獣王』チューダのしもべらしいハンターたちが集まった。
「我がしもべども! よくきたのです!」
とても偉そうに言うチューダにファリフは何だか不満げに見下ろした。
「チューダ。ハンターの皆はボクの星の友なんだ。そういう風に言ってほしくないよ」
文句を言われたチューダはお構いなし。
「我輩は偉いのですからしもべなのです!」
胸を張るチューダの様子に頬を膨らませて唇をへの字に曲げるファリフのやり取りにハンター達は微笑ましく見守る。
「ふぅん……王は民を護るもの。チューダも一緒に行くって事だね?」
ファリフの誘いにチューダは酷くショックを受けたような表情となってしまうと、途端に大慌てで手足をばたつかせて大巫女の後ろに隠れてしまう。
「わ、我輩も同行したいのは山々なのですが……その……ほら、我輩が同行したら、試練にならなくなってしまうのです! 残念ながら、我輩は涙を飲んで大霊堂でお留守番なのです。いやー、実に残念。我輩が覚醒すれば山の一つや二つ、軽く消し飛ばしてやるのですが……」
大巫女の足元から大声を上げるチューダに大巫女はくすりと口元に笑みをのせる。
「ゆくがいいさ。お前が導くもののもとへな」
大巫女の言葉にファリフは頷いたが、その視線は自身の腹へ向ける。
「ボクの刺青を通して導かれるままに行くのは構わないけど……歪虚に狙われているなら助けてあげたい」
ファリフの言葉に大巫女が「そうか」と優しく応えた。
「これ以上、歪虚の侵攻させたくない。でも、ボク一人じゃムリなんだ。だから、皆の力を貸して」
きびすを返したファリフがハンター達へ言葉を向ける。
「歪虚を倒して、トリシュヴァーナと会う為にまた一緒に行ってほしい。ナルガンド塔へ行こう!」
ファリフはハンターと共に再びナルガンド塔へと向かった。
リプレイ本文
●
塔の中では一人の老人が右足を引きずって中を進んでいた。
息は荒く、時折、苦しみに歯を食いしばっても足を止めることはない。
誰よりも早く辿り付く為、歩みを止めるわけにはいかない。トリシュヴァーナはBADDASSが吸収せんとする為にと。
三階へ到着すると、下から足音が聞こえた。
「……来やがったな」
天井を見上げて呟くBADDASSはどこか愉しげにも感じる。
下ではファリフ達が塔を駆け抜けていく。
三階へ上がると、先客の姿にハンター達が驚いた。
「随分な格好だな」
ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)の言葉にダメージを負った老人……BADDASSが振り向く。
ファリフの姿にBADDASSがにやりと笑った。
「思ったより早かったな……」
戦意は落ちていないBADDASSは杖を構える。
「我輩はバアル・ハッドゥ・イル・バルカ3世。王である!」
小さな身体の底から大きな声を出したのはハッド(ka5000)だ。
「ファリフんをトリシュヴァーナとやらと邂逅させる為に来た! そこを退くがいい!!」
「ほしいものがあれば、自らの手で奪い取る……それがロックだ。なぁ……?」
問いかける言葉が終わった瞬間、BADDASSは大きく杖を床に突かせると、負のマテリアルが床とぶつかって重低音を奏で、衝撃波としてハンター達を歓迎する。
細い老体より打ち出されるビートのプレッシャーはハンター達の足を止める。
「ぬぅん!」
気合を入れてバルバロス(ka2119)が力を込めて不規則に身体を打ち付ける衝撃波を受け止めている。
後ろから横へ駆け出したのはネージュ(ka0049)。
BADDASSが視線をネージュへと向けると、前に出てきたのはヴォルフガングとエヴァンス・カルヴィ(ka0639)。
「俺ぁ、ロックとかわかんねぇが、こういうのは嫌いじゃねぇぜ!」
グレートソードを抜き放ったエヴァンスが上段より剣を振り下ろす。
「ロックは考えるもんじゃねぇ……感じるんだ。てめぇの魂でな!」
BADDASSが杖でエヴァンスの剣を受け止めると、熱を帯びた風が巻き起こる。
ワンテンポ置いた後、BADDASSが握る杖にエヴァンスの力とは違う負荷が加わった。杖にチェーンウィップが巻きついており、その先にネージュが引っ張っている。
「小癪な……」
「私一人の攻撃が通用すると考えるよりも、私の仲間の攻撃は、通じる事を考えます」
BADDASSの力は底知れず、ネージュは力の限りをもって牽制していた。
「ならば為すべきは、仲間の攻撃を確実に『通す』ことです。仲間は貴方の音には負けません」
睨み付けるように宣言するネージュにエヴァンスは笑う。
「いいこと言うぜ、なぁ!」
杖を跳ね返したエヴァンスの剣の衝撃の後、風を斬るようにBADDASSの右足から脇腹を切り裂いたのはヴォルフガングの大太刀だ。
「ぐ……っ」
顔を顰めたBADDASSが思い切りネージュのチェーンウィップを掴み、彼女ごと引き寄せる。
一撃離脱したヴォルフガングと入れ替えに上泉 澪(ka0518)が追撃に走り、祖霊の力を武器に込め、剣を大きく振りぬくと、BADDASSの右腕を深く切り裂いた。
ウーナがBADDASSの足元を狙って味方の動きを先読みし、標準をあわせている。
引き金を引くタイミングは風が収まり、衝撃波が再び発動されない瞬間を狙う。
短く悲鳴を上げたネージュが浮いた瞬間に機を見出したウーナ(ka1439)は即座に引き金を打つ。
鈍いうめき声を上げるBADDASSの右足はウーナの射撃により、更に負のマテリアルが流れている。
アカーシャ・ヘルメース(ka0473)が前に出てBADDASSの視界を遮るように棍を振った。
「ネージュさんを離せ!」
ファリフが斧でBADDASの右腕をたたき付けるように斧を振り降ろす。
「小娘!」
衝撃波が再び発動されると思いきや、大きな衝撃が塔自体を揺らし、爆風がハンター達とBADDASSを襲う。
「あぶないっ」
キヅカ・リク(ka0038)がファリフをバルバロスの方へと放り投げる。
元凶は塔の中ではない。
爆風が止むと、壁に人一人より大きな穴が開いており、外の様子が簡単に伺えられた。
「ハイルタイの奴……」
舌打ち混じりにBADDASSが呟けば、ファリフは目を見開く。
「来てるの……奴が……!」
ファリフがBADDASSを見やれば、「知っているようだな」と返した。
忘れるはずもない。脳裏に浮かぶシバの姿にファリフは強く歯を食いしばる。
もう一度、塔に揺れが来て壁に大きなひびが走った。
これ以上、ハイルタイの矢が塔に打ちこめられたら、塔が壊されてしまう。
早くBADDASSを倒して上へ行かねばとハンター達が思案していると、下から猛然と揺れだした。
攻撃とは違う揺れ。
「な、何事……」
アルマ・アニムス(ka4901)が階下を覗けば、牛の姿をした巨体が猛然と駆け上がってくるではないか。
「う、牛鬼!」
一緒に下を覗いたハッドが叫ぶのは牛鬼発見だけではない。
猛然と走る牛鬼が何かを背負っているのだ。
牛鬼がファリフ達に追いつけば、背負っていた者がゆるりと牛より降りる。
「これは、お揃いで」
「アレクサンドルか……」
災厄の十三魔が一人、『天命輪転』アレクサンドルがいた。
「今回は協力する事になったからな」
アレクサンドルの姿にハンター達は警戒を強める。
BADDASSだけではなく、牛鬼が現れた上に災厄の十三魔までいるのだから。
「情けない姿だ」
牛鬼が言えば、老人は「まだ終わっちゃいねぇよ」と返す。
「なぁんか、揃っちまったが……しょうがねぇよな」
ゆっくりと剣を構えるエヴァンスが呟く。その口元には笑みを乗せ、この状況を心から楽しみにしている。
「ファリフ! お前の力を、祈りを見せつけてやれ!」
「うん!」
こうなってしまっては戦うしかない。
何としてもトリシュヴァーナを歪虚より助けたいとファリフは切に想い、戦いが開始された。
まず最初に動いたのはアルマとウーナだ。
混沌とした状態の中、牛鬼の姿を見据えるなり、集中を始めている。
仲間の合間を縫ってアルマがウーナへ攻勢強化のマテリアルを流しこみ、ウーナがいち早く引き金を引いた。
牛鬼はウーナの動きに気づいていたのか、武器を構えようとした瞬間、弾丸が跳躍をする。
弾丸が更に不規則な動きをし始める。アレクサンドルが牛鬼を庇うため、弾丸を捉える前に自身に弾丸が掠った。
「うっ」
アレクサンドルの動きが止まると、澪がファミリアアタックを発動させて剣に魔力を宿らせ、アレクサンドルへ一太刀浴びせる。
「肉弾戦なら任せろ」
牛鬼の武器とバルバロスの斧が互いにぶつかると、バルバロスの斧が弾き返されてしまい、牛鬼がバルバロスを弾き飛ばすかのように猛然と走り出す。
アレクサンドルが一人になった瞬間を逃さないかのようにハッドがブロウビートの声を上げる。
ハッドの声に反応したアレクサンドルに同時に攻撃を仕掛けたのはネージュとアカーシャ。
ネージュがアレクサンドルの眼球目掛けてチェーンウィップを飛ばすと、アレクサンドルは避けもせず、ウィップの先がネージュを襲わせた。
アカーシャがノックバックでアレクサンドルの腹を抉り、顰めるアレクサンドルだが、反射的に裏拳でアカーシャの頬を殴り飛ばす。
牛鬼はBADDASSへ駆けていき、巨体は細い老体の頭を鷲掴みにする。
「トリシュヴァーナは頂くぜ」
怪我によって負のマテリアルが流れている状態の歪虚を喰っても意味がないといわんばかりに牛鬼はBADDASSを壁へと打ち付けるために投げつけた。
「あ!」
皆が叫んだのはBADDASSが牛鬼に力任せで壁に投げ打ちつけられた事ではなく、ノーコンよろしく、BADDASがハイルタイが開けただろう大穴に吸い込まれるように飛ばされたから。
BADDASSに飛行能力はなかったのか、そのまま重力に従い、落ちていく。
「マジか」
ポツリとハンターが呟く。
くるりと踵を返した牛鬼はアレクサンドルの傍へと向かうと、牛鬼の動きを邪魔するかのようにアルマが放った機導砲の光が牛鬼を頭に直撃した。
じろりとアルマへ顔を向いた牛鬼目掛けてヴォルフガングが前に出た。強く踏み込み、装甲の合間の肌目掛けて一撃を入れる。牛鬼は中々に固いが、確実にダメージは入っている。
一撃離脱をするヴォルフガング目掛け、ブレスを吹きかけようと息を吸う牛鬼にリクがランタンを投げつけ、間合いを詰めるために駆け出す。
油入りのランタンが牛鬼の頭部に当たるも、頑丈な牛鬼の前にはランタンが壊れて肩に油を被ってしまう。
「焼けてしまえ!」
駆け出したリクが叫び、ファイアスローワーを発動させると、扇状に炎が牛鬼へと打ち込まれ、油に引火する。
「牛鬼!」
ファリフとバルバロスとエヴァンスの同時攻撃をいなしていたアレクサンドルが叫び、ファリフの斧を空ぶらせて消火するため牛鬼の方へと走ろうとするも、歪虚二体を引き離すかのように前衛達が一気に攻めこむ。
炎は牛鬼の左腕を焼き、短い毛が燃える臭いが鼻につく。
ヴォルフガングの剣が牛鬼の左腕を狙うと、牛鬼がヴォルフガングの太刀を握り締めた。
「……!!」
牛鬼が何をしようと気づいたネージュがウィップを牛鬼の口腔を抉ろうとしたが。先端を握られて力任せにネージュを床へと叩きつけられた。
剣を伝って牛鬼の炎がヴォルフガングへと襲い、離脱しようとするも、牛鬼が左腕でヴォルフガングの腹を打ちつけ、吹き飛ばす。
ネージュは痛む身体を堪え、ヴォルフガングへマテリアルヒーリングを流し込んだ。
「余所見をしている暇はない」
アレクサンドルがファリフの斧を弾き飛ばし、ファリフは身の丈ほどある斧の反動に従うように身体をよろけた。
攻撃の合間を見ていた澪が牛鬼へ剣を振るうと、牛鬼が右腕を盾にして澪の剣を受け止める。
澪を殴ろうと今だ燃える左腕で勢いよく殴りつけようとすると、彼女は素早く間合を取ったが、牛鬼に更に詰められて下段蹴りに澪は足元を崩した。
足元を崩された澪は隠し持っていた手裏剣を下手から投げつけ、牛鬼の頬を削り、タイミングを見ていたアカーシャが身体に力を入れて牛鬼の頬を殴る。
アカーシャと澪が間合いを離れた瞬間、バルバロスが牛鬼へ斧を振りおろす。
鈍い音が響いても、牛鬼の腕が折れることはない。牛鬼の左腕がバルバロスを殴り、彼は皆の盾となり、動かない。
更に後衛のアルマが駆け出してバルバロスに攻勢強化のマテリアルを与えた。
「うぉおおおおおおお!」
雄叫びを上げてバルバロスが牛鬼へ頭突きをかませば、バルバロスの額が割れて血が流れる。
「ドワーフ……!!」
牛鬼が忌々しく叫んだ瞬間、足を広げてにらみ合ってるバルバロスと牛鬼の足の間を何かが掠める。
「しま……っ!」
「余所見してんじゃねぇよ!」
アレクサンドルがそれが何かに気づくが、澪とエヴァンスの剣が自身を襲う。
気づいた『それ』はリクだった。バルバロスと牛鬼の打ち合いの隙を見て、滑り込んだのだ。
リクの両腕が電気の様なマテリアルが纏っている。牛鬼の尻目掛けてエレクトリックショックを打ち放つ。
体内に直接マテリアルを流し込まれた牛鬼は塔が揺れるほどの大音量で叫び出してしまう。
何とか攻撃をかわしたアレクサンドルがリクから放たれるマテリアルを奪うと、再び動き出した牛鬼はリクのわき腹を蹴り上げ、リクは近くの柱に背を打ちつけた。
「こ…この……」
どすどすと力強く床を踏む牛鬼はハンター達への怒りに燃え、我を忘れそうである。
異変に気づいたアレクサンドルが顔を上げて牛鬼を止めようとするも、牛鬼は気づいていない。
ハイルタイが開けた大穴は壁だけではなく、床までもひび割れしていた。
巨体の牛鬼と十数人が乱闘していれば、その負荷は塔自体に響いてしまう。
もう一歩、牛鬼が踏み出すと、その場所から床が崩れた。牛鬼自体はまだ気づいてなく、もう一歩動いた瞬間、ようやく牛鬼は違和感に気づくが、遅かった。
「牛鬼!」
アレクサンドルが駆け出すが、彼が牛鬼をこの階に繋ぎとめるのは無理。
彼が取った行動は唯一つ。
牛鬼と共に崩れる床へ飛び込んだのだ。
「なっ……」
「約束だからな」
驚くハンター達を他所にアレクサンドルは目を見開く牛鬼の肩に手をかける。
「ウソやろ……」
呆然と呟くアカーシャだが、アレクサンドルは事実、穴へ落ちていった。
事実上、敵がいなくなったハンター達は驚くしかない。
こんなことがあるのだろうか……
「私達も危険です」
そう言ったのは澪だ。
「せや。ファリフ、先に進まなっ!」
アカーシャが言えば、ファリフは怪我をしたハンター達を心配する。
「ファリフ……行ってくれ……」
呻きながらリクはファリフを促した。
「行ってください……私達は、先に降ります……」
リクの治療を終えたネージュが言う。
「ファリフん、皆の願いはファリフんとトリシュヴァーナを邂逅させることぞ」
ハッドが言えば、ファリフはぎゅっと唇をかみ締める。
「行きましょう」
アルマが言えば、ファリフは何度も頷いた。その目尻には涙が浮かんでいる。
「絶対……会ってくる! 先に降りる皆、気をつけて!」
ファリフが叫ぶと、アルマ、ハッド、アカーシャが彼女の護衛として走った。
「このままいると絶対やばいよね」
ウーナが示唆するのは塔の事。
牛鬼が落ちた穴からのひび割れは塔がいつ崩れてもおかしくはない状態。
「先に降りましょう」
澪の言葉にエヴァンスも頷く。
「下にあいつらがいるかもしれないしな」
落ちたとはいえ、下にまだいるかもしれないからだ。
「……行きましょう」
ネージュがリクを抱えようとすると、エヴァンスがリクの腕を自身の肩に回す。
「ゆっくり歩け、俺はお前さんよりマシだから」
「お願いします……」
「急げよ。塔が崩れる」
ヴォルフガングを抱えたバルバロスが皆を急かすも、彼の視線はショートカットしたファリフを心配する。
ファリフ達は崩れで揺らされながらもショートカットのロープで頂上へ登り始めている。
四階あたりに窓のような穴があり、そこから見える壁画にアルマが気づく。
「あれって、トリシュヴァーナ……?」
チューダが言っていた三つ首の獣が吼える姿が壁画に描かれていた。その周辺には何体ものの同胞らしき姿が倒れていた。
「あの壁画が事実としたら……」
ハッドの呟きにファリフは唇をかみ締める。
「尚更、会いに行かなきゃ。行こう!」
力強くファリフはロープを握り締めて頂上へと登り、ハッドとアルマもそれに続く。
三人が頂上に着けば、山に刻まれた戦闘の痛ましさが視界に焼きつかせられる。
「トリシュヴァーナ! 来たよ! 姿を現して!」
ファリフが叫ぶと、頂上階の中心にマテリアルだろう光が収束して溢れるかのように姿が形成していく。
艶やかな白銀の毛並みの巨大な狼の姿にアルマの目が輝くも、頭の数に目を瞬かせる。狼の頭は一つしかなかった。
「トリシュヴァーナでは……ないのか」
ハッドの言葉に白銀の狼は「そうだ」と答えた。
「俺はトリシュヴァーナの眷属、フェンリルだ」
「トリシュヴァーナはどこにいるの?」
ファリフの問いにフェンリルと名乗った白銀の狼は落胆したように顔を俯かせる。
「歪虚との戦いで酷く消耗してしまっている。まだ傷を癒している状態だ」
「そんなに酷いの……」
呆然と返すファリフにフェンリルは「そうだ」と答えた。
「では、試練はどうなるのですか?」
アルマの言葉にフェンリルは軽い調子で「あぁ」と思い出す。
「塔の屋上まで登ることが試練だからな。お嬢ちゃん達の戦いもしっかり見極めていた。トリシュヴァーナも納得できる強さと勇敢さを持っていると俺は判断した」
「それじゃぁ……」
ファリフの言葉にフェンリルは応じる。
「トリシュヴァーナの力を与えるに相応しい。そして、トリシュヴァーナが目覚めるその時までお嬢ちゃんを護ろう!」
高らかに宣言したフェンリルにファリフとハンターは笑顔を見せた。
「さて、塔が更に崩れそうだが、乗っていくか?」
フェンリルの誘いにファリフは首を横に振る。
「ボクはハンターの皆と降りる。一緒に登って来たんだもん。だから、先に行ってて」
「わかったよ。お嬢ちゃんとのランデブーは次の機会へ取っておくさ」
そう言ったフェンリルは颯爽と塔を駆け降りた。
「美しい毛並み……いえ、無事に試練が終わって何よりです」
アルマの言葉にファリフは笑顔で頷いた。
塔は半壊で済み、ファリフ達は危なっかしくも塔を脱出する。
下では、先に降りたハンター達とフェンリルが合流していた。先に降りたハンター達は塔を出て、敵の姿は見てない。
「頭が一つしかないんだけど……」
ハンターの一人が言えばファリフは「事情はあとでね。まず手当てしに降りよう!」と返した。
いつ、敵が現れるか分からないので、先に降りた方がいい。
山から下りると、ファリフの刺青の輝きが消えていた。
トリシュヴァーナの眷属であるフェンリルと会えたからだろうと大巫女は言葉を添える。
いつか、トリシュヴァーナの傷が癒えるその時をファリフは更に心も身体も強くなろうと決意した。
塔の中では一人の老人が右足を引きずって中を進んでいた。
息は荒く、時折、苦しみに歯を食いしばっても足を止めることはない。
誰よりも早く辿り付く為、歩みを止めるわけにはいかない。トリシュヴァーナはBADDASSが吸収せんとする為にと。
三階へ到着すると、下から足音が聞こえた。
「……来やがったな」
天井を見上げて呟くBADDASSはどこか愉しげにも感じる。
下ではファリフ達が塔を駆け抜けていく。
三階へ上がると、先客の姿にハンター達が驚いた。
「随分な格好だな」
ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)の言葉にダメージを負った老人……BADDASSが振り向く。
ファリフの姿にBADDASSがにやりと笑った。
「思ったより早かったな……」
戦意は落ちていないBADDASSは杖を構える。
「我輩はバアル・ハッドゥ・イル・バルカ3世。王である!」
小さな身体の底から大きな声を出したのはハッド(ka5000)だ。
「ファリフんをトリシュヴァーナとやらと邂逅させる為に来た! そこを退くがいい!!」
「ほしいものがあれば、自らの手で奪い取る……それがロックだ。なぁ……?」
問いかける言葉が終わった瞬間、BADDASSは大きく杖を床に突かせると、負のマテリアルが床とぶつかって重低音を奏で、衝撃波としてハンター達を歓迎する。
細い老体より打ち出されるビートのプレッシャーはハンター達の足を止める。
「ぬぅん!」
気合を入れてバルバロス(ka2119)が力を込めて不規則に身体を打ち付ける衝撃波を受け止めている。
後ろから横へ駆け出したのはネージュ(ka0049)。
BADDASSが視線をネージュへと向けると、前に出てきたのはヴォルフガングとエヴァンス・カルヴィ(ka0639)。
「俺ぁ、ロックとかわかんねぇが、こういうのは嫌いじゃねぇぜ!」
グレートソードを抜き放ったエヴァンスが上段より剣を振り下ろす。
「ロックは考えるもんじゃねぇ……感じるんだ。てめぇの魂でな!」
BADDASSが杖でエヴァンスの剣を受け止めると、熱を帯びた風が巻き起こる。
ワンテンポ置いた後、BADDASSが握る杖にエヴァンスの力とは違う負荷が加わった。杖にチェーンウィップが巻きついており、その先にネージュが引っ張っている。
「小癪な……」
「私一人の攻撃が通用すると考えるよりも、私の仲間の攻撃は、通じる事を考えます」
BADDASSの力は底知れず、ネージュは力の限りをもって牽制していた。
「ならば為すべきは、仲間の攻撃を確実に『通す』ことです。仲間は貴方の音には負けません」
睨み付けるように宣言するネージュにエヴァンスは笑う。
「いいこと言うぜ、なぁ!」
杖を跳ね返したエヴァンスの剣の衝撃の後、風を斬るようにBADDASSの右足から脇腹を切り裂いたのはヴォルフガングの大太刀だ。
「ぐ……っ」
顔を顰めたBADDASSが思い切りネージュのチェーンウィップを掴み、彼女ごと引き寄せる。
一撃離脱したヴォルフガングと入れ替えに上泉 澪(ka0518)が追撃に走り、祖霊の力を武器に込め、剣を大きく振りぬくと、BADDASSの右腕を深く切り裂いた。
ウーナがBADDASSの足元を狙って味方の動きを先読みし、標準をあわせている。
引き金を引くタイミングは風が収まり、衝撃波が再び発動されない瞬間を狙う。
短く悲鳴を上げたネージュが浮いた瞬間に機を見出したウーナ(ka1439)は即座に引き金を打つ。
鈍いうめき声を上げるBADDASSの右足はウーナの射撃により、更に負のマテリアルが流れている。
アカーシャ・ヘルメース(ka0473)が前に出てBADDASSの視界を遮るように棍を振った。
「ネージュさんを離せ!」
ファリフが斧でBADDASの右腕をたたき付けるように斧を振り降ろす。
「小娘!」
衝撃波が再び発動されると思いきや、大きな衝撃が塔自体を揺らし、爆風がハンター達とBADDASSを襲う。
「あぶないっ」
キヅカ・リク(ka0038)がファリフをバルバロスの方へと放り投げる。
元凶は塔の中ではない。
爆風が止むと、壁に人一人より大きな穴が開いており、外の様子が簡単に伺えられた。
「ハイルタイの奴……」
舌打ち混じりにBADDASSが呟けば、ファリフは目を見開く。
「来てるの……奴が……!」
ファリフがBADDASSを見やれば、「知っているようだな」と返した。
忘れるはずもない。脳裏に浮かぶシバの姿にファリフは強く歯を食いしばる。
もう一度、塔に揺れが来て壁に大きなひびが走った。
これ以上、ハイルタイの矢が塔に打ちこめられたら、塔が壊されてしまう。
早くBADDASSを倒して上へ行かねばとハンター達が思案していると、下から猛然と揺れだした。
攻撃とは違う揺れ。
「な、何事……」
アルマ・アニムス(ka4901)が階下を覗けば、牛の姿をした巨体が猛然と駆け上がってくるではないか。
「う、牛鬼!」
一緒に下を覗いたハッドが叫ぶのは牛鬼発見だけではない。
猛然と走る牛鬼が何かを背負っているのだ。
牛鬼がファリフ達に追いつけば、背負っていた者がゆるりと牛より降りる。
「これは、お揃いで」
「アレクサンドルか……」
災厄の十三魔が一人、『天命輪転』アレクサンドルがいた。
「今回は協力する事になったからな」
アレクサンドルの姿にハンター達は警戒を強める。
BADDASSだけではなく、牛鬼が現れた上に災厄の十三魔までいるのだから。
「情けない姿だ」
牛鬼が言えば、老人は「まだ終わっちゃいねぇよ」と返す。
「なぁんか、揃っちまったが……しょうがねぇよな」
ゆっくりと剣を構えるエヴァンスが呟く。その口元には笑みを乗せ、この状況を心から楽しみにしている。
「ファリフ! お前の力を、祈りを見せつけてやれ!」
「うん!」
こうなってしまっては戦うしかない。
何としてもトリシュヴァーナを歪虚より助けたいとファリフは切に想い、戦いが開始された。
まず最初に動いたのはアルマとウーナだ。
混沌とした状態の中、牛鬼の姿を見据えるなり、集中を始めている。
仲間の合間を縫ってアルマがウーナへ攻勢強化のマテリアルを流しこみ、ウーナがいち早く引き金を引いた。
牛鬼はウーナの動きに気づいていたのか、武器を構えようとした瞬間、弾丸が跳躍をする。
弾丸が更に不規則な動きをし始める。アレクサンドルが牛鬼を庇うため、弾丸を捉える前に自身に弾丸が掠った。
「うっ」
アレクサンドルの動きが止まると、澪がファミリアアタックを発動させて剣に魔力を宿らせ、アレクサンドルへ一太刀浴びせる。
「肉弾戦なら任せろ」
牛鬼の武器とバルバロスの斧が互いにぶつかると、バルバロスの斧が弾き返されてしまい、牛鬼がバルバロスを弾き飛ばすかのように猛然と走り出す。
アレクサンドルが一人になった瞬間を逃さないかのようにハッドがブロウビートの声を上げる。
ハッドの声に反応したアレクサンドルに同時に攻撃を仕掛けたのはネージュとアカーシャ。
ネージュがアレクサンドルの眼球目掛けてチェーンウィップを飛ばすと、アレクサンドルは避けもせず、ウィップの先がネージュを襲わせた。
アカーシャがノックバックでアレクサンドルの腹を抉り、顰めるアレクサンドルだが、反射的に裏拳でアカーシャの頬を殴り飛ばす。
牛鬼はBADDASSへ駆けていき、巨体は細い老体の頭を鷲掴みにする。
「トリシュヴァーナは頂くぜ」
怪我によって負のマテリアルが流れている状態の歪虚を喰っても意味がないといわんばかりに牛鬼はBADDASSを壁へと打ち付けるために投げつけた。
「あ!」
皆が叫んだのはBADDASSが牛鬼に力任せで壁に投げ打ちつけられた事ではなく、ノーコンよろしく、BADDASがハイルタイが開けただろう大穴に吸い込まれるように飛ばされたから。
BADDASSに飛行能力はなかったのか、そのまま重力に従い、落ちていく。
「マジか」
ポツリとハンターが呟く。
くるりと踵を返した牛鬼はアレクサンドルの傍へと向かうと、牛鬼の動きを邪魔するかのようにアルマが放った機導砲の光が牛鬼を頭に直撃した。
じろりとアルマへ顔を向いた牛鬼目掛けてヴォルフガングが前に出た。強く踏み込み、装甲の合間の肌目掛けて一撃を入れる。牛鬼は中々に固いが、確実にダメージは入っている。
一撃離脱をするヴォルフガング目掛け、ブレスを吹きかけようと息を吸う牛鬼にリクがランタンを投げつけ、間合いを詰めるために駆け出す。
油入りのランタンが牛鬼の頭部に当たるも、頑丈な牛鬼の前にはランタンが壊れて肩に油を被ってしまう。
「焼けてしまえ!」
駆け出したリクが叫び、ファイアスローワーを発動させると、扇状に炎が牛鬼へと打ち込まれ、油に引火する。
「牛鬼!」
ファリフとバルバロスとエヴァンスの同時攻撃をいなしていたアレクサンドルが叫び、ファリフの斧を空ぶらせて消火するため牛鬼の方へと走ろうとするも、歪虚二体を引き離すかのように前衛達が一気に攻めこむ。
炎は牛鬼の左腕を焼き、短い毛が燃える臭いが鼻につく。
ヴォルフガングの剣が牛鬼の左腕を狙うと、牛鬼がヴォルフガングの太刀を握り締めた。
「……!!」
牛鬼が何をしようと気づいたネージュがウィップを牛鬼の口腔を抉ろうとしたが。先端を握られて力任せにネージュを床へと叩きつけられた。
剣を伝って牛鬼の炎がヴォルフガングへと襲い、離脱しようとするも、牛鬼が左腕でヴォルフガングの腹を打ちつけ、吹き飛ばす。
ネージュは痛む身体を堪え、ヴォルフガングへマテリアルヒーリングを流し込んだ。
「余所見をしている暇はない」
アレクサンドルがファリフの斧を弾き飛ばし、ファリフは身の丈ほどある斧の反動に従うように身体をよろけた。
攻撃の合間を見ていた澪が牛鬼へ剣を振るうと、牛鬼が右腕を盾にして澪の剣を受け止める。
澪を殴ろうと今だ燃える左腕で勢いよく殴りつけようとすると、彼女は素早く間合を取ったが、牛鬼に更に詰められて下段蹴りに澪は足元を崩した。
足元を崩された澪は隠し持っていた手裏剣を下手から投げつけ、牛鬼の頬を削り、タイミングを見ていたアカーシャが身体に力を入れて牛鬼の頬を殴る。
アカーシャと澪が間合いを離れた瞬間、バルバロスが牛鬼へ斧を振りおろす。
鈍い音が響いても、牛鬼の腕が折れることはない。牛鬼の左腕がバルバロスを殴り、彼は皆の盾となり、動かない。
更に後衛のアルマが駆け出してバルバロスに攻勢強化のマテリアルを与えた。
「うぉおおおおおおお!」
雄叫びを上げてバルバロスが牛鬼へ頭突きをかませば、バルバロスの額が割れて血が流れる。
「ドワーフ……!!」
牛鬼が忌々しく叫んだ瞬間、足を広げてにらみ合ってるバルバロスと牛鬼の足の間を何かが掠める。
「しま……っ!」
「余所見してんじゃねぇよ!」
アレクサンドルがそれが何かに気づくが、澪とエヴァンスの剣が自身を襲う。
気づいた『それ』はリクだった。バルバロスと牛鬼の打ち合いの隙を見て、滑り込んだのだ。
リクの両腕が電気の様なマテリアルが纏っている。牛鬼の尻目掛けてエレクトリックショックを打ち放つ。
体内に直接マテリアルを流し込まれた牛鬼は塔が揺れるほどの大音量で叫び出してしまう。
何とか攻撃をかわしたアレクサンドルがリクから放たれるマテリアルを奪うと、再び動き出した牛鬼はリクのわき腹を蹴り上げ、リクは近くの柱に背を打ちつけた。
「こ…この……」
どすどすと力強く床を踏む牛鬼はハンター達への怒りに燃え、我を忘れそうである。
異変に気づいたアレクサンドルが顔を上げて牛鬼を止めようとするも、牛鬼は気づいていない。
ハイルタイが開けた大穴は壁だけではなく、床までもひび割れしていた。
巨体の牛鬼と十数人が乱闘していれば、その負荷は塔自体に響いてしまう。
もう一歩、牛鬼が踏み出すと、その場所から床が崩れた。牛鬼自体はまだ気づいてなく、もう一歩動いた瞬間、ようやく牛鬼は違和感に気づくが、遅かった。
「牛鬼!」
アレクサンドルが駆け出すが、彼が牛鬼をこの階に繋ぎとめるのは無理。
彼が取った行動は唯一つ。
牛鬼と共に崩れる床へ飛び込んだのだ。
「なっ……」
「約束だからな」
驚くハンター達を他所にアレクサンドルは目を見開く牛鬼の肩に手をかける。
「ウソやろ……」
呆然と呟くアカーシャだが、アレクサンドルは事実、穴へ落ちていった。
事実上、敵がいなくなったハンター達は驚くしかない。
こんなことがあるのだろうか……
「私達も危険です」
そう言ったのは澪だ。
「せや。ファリフ、先に進まなっ!」
アカーシャが言えば、ファリフは怪我をしたハンター達を心配する。
「ファリフ……行ってくれ……」
呻きながらリクはファリフを促した。
「行ってください……私達は、先に降ります……」
リクの治療を終えたネージュが言う。
「ファリフん、皆の願いはファリフんとトリシュヴァーナを邂逅させることぞ」
ハッドが言えば、ファリフはぎゅっと唇をかみ締める。
「行きましょう」
アルマが言えば、ファリフは何度も頷いた。その目尻には涙が浮かんでいる。
「絶対……会ってくる! 先に降りる皆、気をつけて!」
ファリフが叫ぶと、アルマ、ハッド、アカーシャが彼女の護衛として走った。
「このままいると絶対やばいよね」
ウーナが示唆するのは塔の事。
牛鬼が落ちた穴からのひび割れは塔がいつ崩れてもおかしくはない状態。
「先に降りましょう」
澪の言葉にエヴァンスも頷く。
「下にあいつらがいるかもしれないしな」
落ちたとはいえ、下にまだいるかもしれないからだ。
「……行きましょう」
ネージュがリクを抱えようとすると、エヴァンスがリクの腕を自身の肩に回す。
「ゆっくり歩け、俺はお前さんよりマシだから」
「お願いします……」
「急げよ。塔が崩れる」
ヴォルフガングを抱えたバルバロスが皆を急かすも、彼の視線はショートカットしたファリフを心配する。
ファリフ達は崩れで揺らされながらもショートカットのロープで頂上へ登り始めている。
四階あたりに窓のような穴があり、そこから見える壁画にアルマが気づく。
「あれって、トリシュヴァーナ……?」
チューダが言っていた三つ首の獣が吼える姿が壁画に描かれていた。その周辺には何体ものの同胞らしき姿が倒れていた。
「あの壁画が事実としたら……」
ハッドの呟きにファリフは唇をかみ締める。
「尚更、会いに行かなきゃ。行こう!」
力強くファリフはロープを握り締めて頂上へと登り、ハッドとアルマもそれに続く。
三人が頂上に着けば、山に刻まれた戦闘の痛ましさが視界に焼きつかせられる。
「トリシュヴァーナ! 来たよ! 姿を現して!」
ファリフが叫ぶと、頂上階の中心にマテリアルだろう光が収束して溢れるかのように姿が形成していく。
艶やかな白銀の毛並みの巨大な狼の姿にアルマの目が輝くも、頭の数に目を瞬かせる。狼の頭は一つしかなかった。
「トリシュヴァーナでは……ないのか」
ハッドの言葉に白銀の狼は「そうだ」と答えた。
「俺はトリシュヴァーナの眷属、フェンリルだ」
「トリシュヴァーナはどこにいるの?」
ファリフの問いにフェンリルと名乗った白銀の狼は落胆したように顔を俯かせる。
「歪虚との戦いで酷く消耗してしまっている。まだ傷を癒している状態だ」
「そんなに酷いの……」
呆然と返すファリフにフェンリルは「そうだ」と答えた。
「では、試練はどうなるのですか?」
アルマの言葉にフェンリルは軽い調子で「あぁ」と思い出す。
「塔の屋上まで登ることが試練だからな。お嬢ちゃん達の戦いもしっかり見極めていた。トリシュヴァーナも納得できる強さと勇敢さを持っていると俺は判断した」
「それじゃぁ……」
ファリフの言葉にフェンリルは応じる。
「トリシュヴァーナの力を与えるに相応しい。そして、トリシュヴァーナが目覚めるその時までお嬢ちゃんを護ろう!」
高らかに宣言したフェンリルにファリフとハンターは笑顔を見せた。
「さて、塔が更に崩れそうだが、乗っていくか?」
フェンリルの誘いにファリフは首を横に振る。
「ボクはハンターの皆と降りる。一緒に登って来たんだもん。だから、先に行ってて」
「わかったよ。お嬢ちゃんとのランデブーは次の機会へ取っておくさ」
そう言ったフェンリルは颯爽と塔を駆け降りた。
「美しい毛並み……いえ、無事に試練が終わって何よりです」
アルマの言葉にファリフは笑顔で頷いた。
塔は半壊で済み、ファリフ達は危なっかしくも塔を脱出する。
下では、先に降りたハンター達とフェンリルが合流していた。先に降りたハンター達は塔を出て、敵の姿は見てない。
「頭が一つしかないんだけど……」
ハンターの一人が言えばファリフは「事情はあとでね。まず手当てしに降りよう!」と返した。
いつ、敵が現れるか分からないので、先に降りた方がいい。
山から下りると、ファリフの刺青の輝きが消えていた。
トリシュヴァーナの眷属であるフェンリルと会えたからだろうと大巫女は言葉を添える。
いつか、トリシュヴァーナの傷が癒えるその時をファリフは更に心も身体も強くなろうと決意した。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
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ファリフんに質問(>ω<)v ハッド(ka5000) 人間(クリムゾンウェスト)|12才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/07/10 13:28:59 |
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相談卓である!(>ω<)ノ ハッド(ka5000) 人間(クリムゾンウェスト)|12才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/07/16 06:40:29 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/11 13:01:42 |