ゲスト
(ka0000)
【燭光】flying into the…
マスター:墨上古流人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~2人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/14 22:00
- 完成日
- 2015/07/22 03:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「ユウ、頼まれてた内政の件、全部片付いたぞ」
欲望と夜光の歓楽街・ラオネン、帝国第九師団の執務室に徐に入ってきたのは副師団長のリベルト。
薄汚れた外套を乱暴に脱ぎ捨てると、席に着いていた師団長のユウ=クヴァールが居る机にぽんと書類の束を放る。
湿った風がぼさついた短髪を撫でると、うっとおしげに頭を掻いてから、窓の縁に腰を掛けて煙草に火をつけた。
「……どうした? 俺の敏腕っぷりに言葉も出ないってか?」
「そうだね、敏腕な副師団長さんには、もうひとつ片づけてもらおうかな」
紙飛行機がひとつ、執務室を飛ぶ。
危うく煙草の火に飛び込んできたそれを、ユウのへらっとした顔の次に広げてから一瞥した。
「おっまえ……またこういう大事な書類を」
「大事なのはあくまで中身だもの。リベルトも見た目ばっかりいい子に気を取られてちゃいけないよ?」
「何の話だ……えー、何々……オズワルドのおっさん……だけじゃねぇな、この印は、司法課? 珍しいとこの名前もあるもんだ」
「要するに反政府反乱因子の検挙だって」
「穏やかじゃねーな。俺が地下水路で汗水泥水被ってるうちに、何があったんだ?」
リベルトもまた、しかめっ面でひらひらとおざなりに紙ぺら一枚を弄んでユウへと言葉をかける。
「ヴルツァライヒっていう反政府組織があってね、そこのアウグストって人をクリームヒルトって人が、そんな事やめましょうーみたいな感じで糾弾してたんだけど、クリームヒルトさんの妹の、ヒルデガントさんがいつの間にか反政府組織のリーダーになっちゃってたんだって」
「説明がぶっ飛んでるが、色々いきなりニューワードが出てきてややこしいんだが……えーと、ヴルストとビールデカンタで頼んだらデザートにクリームがついてくるのか……?」
「お腹空いてきちゃったね。今日の夕飯はリベルトのいいとこ連れていってよ」
「経費は?」
「落ちない」
わかってたよね? といういい笑顔を向けるユウを尻目にして、リベルトは話に集中すべく煙草の火を炭酸飲料の空き缶へと突っ込む。
「オーケー、反政府組織と妹を取られた姉の話だな。それがなんでそんなオオゴトになってんだ?」
「もういっこ大きな話があってね、そのヴルツァライヒって反政府組織について前から調べてたら、シャーフブルートって村の元領主の名前が出てきたんだって」
「村?」
「そう、村」
「なんでまた。その村は小指動かすだけで世界中のヴルストが魚肉ソーセージになるぐらいのすっげー魔導具でも持ってんのか? そりゃ大変だ。ビールデカンタじゃ足りねーぞ」
「すっげー、って言う意味では侮れないね。村の元領主のブランズさんは、革命後に民衆が受けた煽りの残る村を、FSDっていう民間警備会社に委託したんだけど、それがまぁ酷い会社でね、村人なんて奴隷当然のように使われてるんだって」
「また警備会社の名前もすげーな。汚ねぇ言葉の頭文字三つも掲げりゃ、キレイって言う方がおかしいや。で、それがその反政府組織とどう絡むんだ?」
「ブランズさんは、FSDの力なんて借りるんじゃなかった、追い出したい、でも力がない」
「まさか、そこで……」
「そう、ヴルツァライヒ。反政府組織の『力』を借りて、村を取り戻そうとしてるの」
「だが、村の奪還だけには留まらず……」
「反政府組織は村民も数に取り入れたい。虐げられた民衆を煽りに煽った反乱は、次第にうちの州全域に飛び火しちゃう、って事」
「革命後にリアルに民衆が煽りを受けてた村か。そりゃ反政府組織が助けに来て少し振って刺激与えりゃ、溜まってた炭酸は暴発しちまうワケだな」
からからん、と煙を立て続けていた炭酸飲料の缶を振って残り火を消すと、新しく煙草に火をつけるリベルト。
「で、今回の任務なんだけど、帝国の駐屯地のブルーネンフーフって場所が、もうヴルツァライヒに占拠されちゃってるんだけど、僕らはそこに合流しようとしている反政府組織の討伐だよ」
「駐屯地の中身はいいのか?」
「そこはまた別みたい。師団側に求められる動きとしては、これ以上反乱を拡大させないために、駐屯地を包囲したいみたいだよ」
「で、合流しようとする勢力も叩くと。やることはわかった」
「僕としては、目的に対して意見をハッキリして行動を起こす人は好きなんだけどね。立場が違ってたら、応援したかもなぁ」
「……だからよ、頼むからそういう勘違いされそうな発言、外ではすんなよな?」
火のついた煙草を向けて、煙を吹きかけるリベルト。
ユウまでは距離が足りず霧散する煙の中からは、いつものへらっとした顔が出てきた。
「立場は理解しているつもりだから、心配しないで。ただね、窮地で、死にものぐるいで、救いを求められる側としては、手を取ってあげたくなるんだよね」
「その手を違えるなっつー話だ」
「もちろん。それに、ただ乗せられて、逆上せて、前が見えなくなってるような人達は、止めてあげないとね」
勘弁しろよ……と深く煙を吐くリベルト。
何を考えているのか、それとも深く考えてこれなのか、未だに図りかねる上司への忠誠は、
信頼という、硬く、脆いものだけである。
「……そういや、なんでまたよく分からない姉妹がそこまででっかい神輿に乗ってんだ?」
「んー……細かい部分や生い立ちについては他の報告書にも上がってるんだけど……端的に言えば、クリームヒルトさんって、旧帝国の皇女さんなんだって」
「マジか」
「マジ」
「その辺のカスタードかと思ったら超高級プレミアム乳牛生クリームかよ……」
「旧いけどね」
「言い方」
「ちなみに僕、カスタードの方が好きだよ」
「聞いてねーよ」
短くなった煙草を、窓の外へと向けるリベルト。
歓楽街の賑やかで下品な明かりを背に、微かに、しかし確実に灯る火は、ぽとり、と暗い地面へと落ちていった。
欲望と夜光の歓楽街・ラオネン、帝国第九師団の執務室に徐に入ってきたのは副師団長のリベルト。
薄汚れた外套を乱暴に脱ぎ捨てると、席に着いていた師団長のユウ=クヴァールが居る机にぽんと書類の束を放る。
湿った風がぼさついた短髪を撫でると、うっとおしげに頭を掻いてから、窓の縁に腰を掛けて煙草に火をつけた。
「……どうした? 俺の敏腕っぷりに言葉も出ないってか?」
「そうだね、敏腕な副師団長さんには、もうひとつ片づけてもらおうかな」
紙飛行機がひとつ、執務室を飛ぶ。
危うく煙草の火に飛び込んできたそれを、ユウのへらっとした顔の次に広げてから一瞥した。
「おっまえ……またこういう大事な書類を」
「大事なのはあくまで中身だもの。リベルトも見た目ばっかりいい子に気を取られてちゃいけないよ?」
「何の話だ……えー、何々……オズワルドのおっさん……だけじゃねぇな、この印は、司法課? 珍しいとこの名前もあるもんだ」
「要するに反政府反乱因子の検挙だって」
「穏やかじゃねーな。俺が地下水路で汗水泥水被ってるうちに、何があったんだ?」
リベルトもまた、しかめっ面でひらひらとおざなりに紙ぺら一枚を弄んでユウへと言葉をかける。
「ヴルツァライヒっていう反政府組織があってね、そこのアウグストって人をクリームヒルトって人が、そんな事やめましょうーみたいな感じで糾弾してたんだけど、クリームヒルトさんの妹の、ヒルデガントさんがいつの間にか反政府組織のリーダーになっちゃってたんだって」
「説明がぶっ飛んでるが、色々いきなりニューワードが出てきてややこしいんだが……えーと、ヴルストとビールデカンタで頼んだらデザートにクリームがついてくるのか……?」
「お腹空いてきちゃったね。今日の夕飯はリベルトのいいとこ連れていってよ」
「経費は?」
「落ちない」
わかってたよね? といういい笑顔を向けるユウを尻目にして、リベルトは話に集中すべく煙草の火を炭酸飲料の空き缶へと突っ込む。
「オーケー、反政府組織と妹を取られた姉の話だな。それがなんでそんなオオゴトになってんだ?」
「もういっこ大きな話があってね、そのヴルツァライヒって反政府組織について前から調べてたら、シャーフブルートって村の元領主の名前が出てきたんだって」
「村?」
「そう、村」
「なんでまた。その村は小指動かすだけで世界中のヴルストが魚肉ソーセージになるぐらいのすっげー魔導具でも持ってんのか? そりゃ大変だ。ビールデカンタじゃ足りねーぞ」
「すっげー、って言う意味では侮れないね。村の元領主のブランズさんは、革命後に民衆が受けた煽りの残る村を、FSDっていう民間警備会社に委託したんだけど、それがまぁ酷い会社でね、村人なんて奴隷当然のように使われてるんだって」
「また警備会社の名前もすげーな。汚ねぇ言葉の頭文字三つも掲げりゃ、キレイって言う方がおかしいや。で、それがその反政府組織とどう絡むんだ?」
「ブランズさんは、FSDの力なんて借りるんじゃなかった、追い出したい、でも力がない」
「まさか、そこで……」
「そう、ヴルツァライヒ。反政府組織の『力』を借りて、村を取り戻そうとしてるの」
「だが、村の奪還だけには留まらず……」
「反政府組織は村民も数に取り入れたい。虐げられた民衆を煽りに煽った反乱は、次第にうちの州全域に飛び火しちゃう、って事」
「革命後にリアルに民衆が煽りを受けてた村か。そりゃ反政府組織が助けに来て少し振って刺激与えりゃ、溜まってた炭酸は暴発しちまうワケだな」
からからん、と煙を立て続けていた炭酸飲料の缶を振って残り火を消すと、新しく煙草に火をつけるリベルト。
「で、今回の任務なんだけど、帝国の駐屯地のブルーネンフーフって場所が、もうヴルツァライヒに占拠されちゃってるんだけど、僕らはそこに合流しようとしている反政府組織の討伐だよ」
「駐屯地の中身はいいのか?」
「そこはまた別みたい。師団側に求められる動きとしては、これ以上反乱を拡大させないために、駐屯地を包囲したいみたいだよ」
「で、合流しようとする勢力も叩くと。やることはわかった」
「僕としては、目的に対して意見をハッキリして行動を起こす人は好きなんだけどね。立場が違ってたら、応援したかもなぁ」
「……だからよ、頼むからそういう勘違いされそうな発言、外ではすんなよな?」
火のついた煙草を向けて、煙を吹きかけるリベルト。
ユウまでは距離が足りず霧散する煙の中からは、いつものへらっとした顔が出てきた。
「立場は理解しているつもりだから、心配しないで。ただね、窮地で、死にものぐるいで、救いを求められる側としては、手を取ってあげたくなるんだよね」
「その手を違えるなっつー話だ」
「もちろん。それに、ただ乗せられて、逆上せて、前が見えなくなってるような人達は、止めてあげないとね」
勘弁しろよ……と深く煙を吐くリベルト。
何を考えているのか、それとも深く考えてこれなのか、未だに図りかねる上司への忠誠は、
信頼という、硬く、脆いものだけである。
「……そういや、なんでまたよく分からない姉妹がそこまででっかい神輿に乗ってんだ?」
「んー……細かい部分や生い立ちについては他の報告書にも上がってるんだけど……端的に言えば、クリームヒルトさんって、旧帝国の皇女さんなんだって」
「マジか」
「マジ」
「その辺のカスタードかと思ったら超高級プレミアム乳牛生クリームかよ……」
「旧いけどね」
「言い方」
「ちなみに僕、カスタードの方が好きだよ」
「聞いてねーよ」
短くなった煙草を、窓の外へと向けるリベルト。
歓楽街の賑やかで下品な明かりを背に、微かに、しかし確実に灯る火は、ぽとり、と暗い地面へと落ちていった。
リプレイ本文
◆
腰から響く激しい揺れ。ルナ・レンフィールド(ka1565)が、横の馬の頬を宥めるように手のひらでゆっくりなぞった。
本来ならば馬を貸してくれ、というオーダーは通し難いものだが、
馬を運用する師団員に乗せてもらう、という形でルナの申請は話がついた。
「それなら是非俺の馬に!」
「むしろ俺が馬になります!!」
と、こぞって手を挙げる野郎共を一蹴し、困ったように笑うルナへリベルトが女性聖導士の騎手をあてがった。
「目的が手段を正当化すると思ったら大間違いよ!」
気合充分で荷台の先頭で前を見据えるのはヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207)―――フリーデだ。
そんな彼女に、ジル・ティフォージュ(ka3873)が煩わしそうな顔で言葉を投げる。
「黙れ小娘……その目的が歪かどうかは、主観により変わると知る事だな」
「だったらその間違った主観を許しておけというの?!」
「貴様が他人の主観を間違っていると主張するのなら……それもまた主観だ」
「言うだけ無駄って事なの? 歪虚に加担するような奴らに?!」
「だからその口を閉じろと言っているのだ……! 喧しくて仕事にならん」
知人同士なのか、だが良い仲ではないようだ。やたらと喰っては掛かり、掛かっては喰らいあう二人。
「……止めないのか?」
「若いうちはあれぐらいがいいのさ。お前はどっちに賭ける?」
「個人の主義主張は関係ない。仕事だからな」
ヴァレル・ロエンローグ(ka2925)がリベルトに声をかけるが、
リベルトの回答に、諦めるように小さくため息を吐き、荷台で魔導バイクに跨った。
「人間同士のイザコザというのは兎角醜いものね」
鬼非鬼 ふー(ka5179)が戦地となる先の地図と勢力図を見ながら、ユウの隣でため息その2を吐いた。
「あれのこと?」
「それは置いておくとして……自分らの都合のためだけに他人の弱みや憎しみを利用するなんて」
成功しても、民衆が付いてくるなどありえないわ、と師団の駒をとん、と図面上に置くふー。
「まだ少女の域を出ない子達に縋ろうって根性が気に食わない……そんな奴らがゾンビと一緒にハイキングとかホント笑えないよね」
さすがに師団員に離され、喧嘩はドロー。むくれているフリーデに、ジュード・エアハート(ka0410)が声をかける。
まだ不満気に、言い足りないのか、愚痴のように言葉を垂らしていくフリーデ。
少し乱暴か、残酷か、良くも悪くも少女らしいフリーデに、ジュードは苦笑してゴーグルをはめた。
「同じ帝国のひと同士で争うなんて……これ以上争いが酷くならないように、何とかしないとね」
「えぇ。このくにに、むだなちがながれてしまうことは とてもかなしいですもの」
避けられるのであれば、避けるべき。
ルナの言葉に、マレーネ・シェーンベルグ(ka4094)が返す。
……そのためにも、最大限の努力を――
「壮大な追いかけっこで面白いですねっ」
あまり帝国のことはわかっていないという和泉 澪(ka4070)。少し抜けた物言いに和んだのもつかの間。
リベルトの合図で、手綱を弾き、グリップを捻ったハンター達は、荷台から一斉に飛び出して草原を駆けていった。
◆
作戦としては、ハンターが敵を追い越して進軍速度を削ぎ、その隙に後方から第九師団にて包囲を行うという行動だった。
数名が前に曝け出される、追いつき、追い越すまでに耐えきる、抜かせてはならない、やることに対してリスクが非常に大きいが、
成功すれば間違いはないだろう。
もう少しで敵の顔の輪郭も見えてくるだろう――そんな距離で、一発の銃声が平野を劈く。
ジュードの頬に一瞬熱くなると、チリチリと痛みが走る。
口元へ飛んだ血をひと舐め、ジュードは不敵に笑んでから手綱を思いきり鳴らした。
ごう、と風を切る音が強くなり、比例して敵の銃撃や魔法が空を抜けていく。
だが巧みに人馬合せた呼吸は細かく蹄の跡を地に刻み、攻撃を避けていく。
ジュードに追随していたヴァレルが、バイクのスピードを上げてエンブレムナイフを抜く。
刃の棟と切っ先を真っ直ぐに目で捉え、走る馬車の車輪に向ける。
魔法の矢は、忙しなく回る車輪に真っ直ぐ飛び込み、大きな音を立てて馬車のバランスを崩した。
荷馬車は武器等が積まれているようだ。ジュードは馬と崩れた馬車に飛び込み、馬車を台にして幌を突き破り一気に宙へと駆け跳ぶ。
(でっけー弓持ってきたな。そんなん馬走らせながら撃てるのか?)
ふと、矢を番えながら出発前のリベルトの言葉を思い出す。
大きな影が敵勢力を飲みこみ、それは目の前に降り立つ。
(―――当然でしょ)
そして、自身の返した言葉も思い出す。
「お兄さん達ちょっと休憩していかない?」
構えられた弓から放たれる制圧射撃は、敵の進軍の足を戸惑わせていった。
「エアハートのが敵の信仰を止めたようね……和泉の、その辺で伏兵に気を付けて」
「了解ですっ。やられはしませんよー?」
鬼非鬼からの伝話に太刀を構える、同時に師団員の壊した荷馬車の残骸から、3人の男が飛び出してきた。
1人の男が振りかぶった鍬を翻って回避、太刀で掬うように鍬を振り上げて、近づいてきたもう1人の男の顎にぶつける。
散弾の猟銃を構えていた男を捉えると、縺れていた2人の背中を滑るように上り、肩を踏みつけ跳躍、
宙で体を捻り、背後へ落ちると同時に逆袈裟で斬りつけた。
「多人数戦闘こそ、鳴隼一刀流の本領ですっ」
倒れ込んだ2人へ向けて構え直す澪。
その背中を狙うのは、冷たい銃口。
銃声、火を噴き弾が捉えるのは、倒れていた男の膝。
鬼非鬼が後方、魔導トラックの幌から覗き、澪への脅威を払ったのだ。
「膝に銃弾を受けた気分はいかがかしら?」
「冒険者をしていた昔でもこんなことはなかった、いてぇ……」
力無く銃を手放す男。気を取られている隙に、澪に対峙していた男2人は間合いを詰めるが、
勢いよく振り下ろされた鍬を地面に叩き付けるように払う。めり込んだ鍬を踏みつけ、突きだされた太刀は男の腕を刺す。
もう1人の男が澪の脇腹目がけて棒を振るうが、咄嗟に膝を上げて受け止める。その足を思いきり踏み込んで、返す刃で男を切り払った。
「ふむ……ティフォージュの、前に出れるかしら?」
魔導トラックの上に乗り、弓を射って抜け出そうとしていた者達を止めていたジルに鬼非鬼が声をかける。
「それは、あの辺りか? 混乱が少ないゆえに指示者がいると踏んでいたが……」
「御名答よ。露払いはこちらで引き受けるから、お願いね」
トラックから戦馬に飛び乗り、剣を抜くジル。
「一度なれども民を捨てて逃げた身の上。今更何を言う権利も無い……が」
民を煽り巻き込む事は関心せん、とその目は真っ直ぐ目標を捉える。
軽く馬の横腹を蹴り、前進を促す。剣を馬の体を平行に構え、勢いよく剣戟の中へと飛び込んでいった。
「まだ来るぞ! 武器をかまヴぇ」
「……あら、きづきませんでしたわ」
ぽつ、と口元に手を当てて呟くマレーネ。
抵抗しようと斧を持ち出した男は、哀れコミックのように轢き飛ばされてしまった。
再度スロットルを思いきり上げようとしたところで、突如横からの衝撃を受ける。
鈍く響く脇腹の痛みに反応する暇すらなく、バランスを崩すバイクのハンドルとグリップを思いきり捻り、
タイヤの跡を思いきり残してターンをする。
「うまいな、嬢ちゃん。二人で抜け出してツーリングとでもシャレこもうや」
「あいにくですがわたくし、くちぐるまは、のれませんの」
下手をしたらバイクに巻きこまれる形で地面に倒れていた。衝撃を逃がす形でたまたまできた技だ。
「よていは、かわりましたけれども」
突きだされた槍の手元へ影色の弾丸が喰らいつく。
逸らされた穂先はマレーネの脇腹を掠る。休むまもなく二段目の突き。
太腿を狙った突きは、急ぎバイクの裏へ倒れ込む形で影に隠れて回避、金属音が響く。
急ぎ膝立ちで引き金を二回、一発は敵の後ろを走って逃げようとする他の敵の足首を捕える。
だが目の前の敵の胸部を狙った二発目は回避される。突き出された槍を一歩下がって避ける。刃の風圧が肩を―――
否、マレーネが肩に感じたのは、熱、そして迸る血潮で脈打つ血管。
槍からは機導剣の光の刃が飛び出し、下がったマレーネの距離を埋めて来た。
「風の音よ、眠りに誘え!」
敵の振り上げた槍は、マレーネではなく地面を力なく突く。
ルナが師団員の馬で駆け寄り、スリープクラウドを放ってくれた。
「大丈夫っ?!」
急ぎ二人は馬から降りる。師団員は淡い光でマレーネの肩の傷口を包み込んだ。
「ここは引き受けるね。これ以上前に行かせないようにしないと」
よろしくおねがいします、と声をかけてから、傷ついたバイクを起こして今一度エンジンをかける。
土ぼこりを上げて去るマレーネを見送り、ルナと師団員は馬に乗りなおした。
「ベッドなら空きはまだある。どんどん健やかに病院送りにしてやるといい」
師団員が馬を出し、敵進路へスリープクラウドを放つルナ。
やはり行動を制限するという作戦で、睡眠というのは強かった。
「あれを寝かせる場所は……ベッドの上ではなさそうだがな」
師団員が指す方には、ゾンビの少数の群れが確認できた。
後方に置かれているのを見るに、まきびしのような感覚で起こされていったのだろう。
「操っている人がいないといいんだけど……」
杖を振り直し、詠唱を風から火へと切り替える。
少しテンポの上がった手の振りで術式を編み直し、作り出された火球はゾンビの群れへと飛び込んでいく。
炎の爆発は、朽ちた四肢を契り地面へ鈍い音を立てて落とされていった。
「まだ荷台が残っているぞ、そっちはどうだ?」
「ゾンビなら任せて、この槍はあいつらの弱点なはず!」
ヴァレルの声に反応するフリーデは、数体目のゾンビをその光属性の槍で貫いた。
血肉を振り払う間もなく、フリーデに迫るゾンビ。大きく巻き上げるように石突で足元を薙ぎ、
宙に浮いたゾンビを叩き付けるように切り払った。
今しばらくフリーデの手は空かなそうだ、仕方なく近くの師団員へと声をかける。
荷馬車はゾンビは乗っている可能性が高いと判断し、車輪に向けてマジックアロー。
盛大な音を立てて横転する荷馬車、駆け寄る師団員とヴァレルの目に飛び込んできたのは―――
「殺さないで……」
地面に放り出されて擦り傷だらけになった老婆と、小さなナイフを構える男児だった。
革命思想の者全員が、戦える者ばかりではない。
荷馬車は、戦えない女子供達、革命家を支える者達が乗り合わせていた。
「こんな人たちまで……」
「野盗ならまだしも、俺達は帝国師団だ。身柄を抑えさせてもらうぞ」
思考が停止するフリーデを横に、師団員を誘導するヴァレル。
「二重に民を傷付け不安がらせ、そうなった暁にはどこが人類の守護者なのやら」
追いついたジルの言葉に、フリーデが睨み返す。
むしろそうなれば良いザマとも思うが……と吐き捨てた小声は前方からの爆発音でかき消された。
フリーデは戦場に乗り、体を馬に張り付けるように低く、槍を腕で強く固定して突撃。
道中のゾンビ、武器を持ち抵抗する人、敵の移動手段を吹き飛ばし、ジュード、マレーネが立ち会っていた人物へと迫る。
フリーデが開いた道をジルが駆け抜ける。霊闘士らしき指示者に、突撃した勢いのまま剣を突き下ろす。
「見逃しちゃくれないかね……」
「……13年前であれば俺も貴様らを同胞と呼んだやもしれんが、今は事情が違う、許せ」
馬をその場で捻らせ敵を弾く。そして、すぐさまフリーデが追いつき対峙する。
「見逃したところで……一度歪虚に加担したその性根……どんなお綺麗な思想で飾立てようが、あんたらは誰も救わない! ただ堕ちていくだけよ!」
「そうかもな……ここにきて、ぶるっちまってるよ……でもよ、もうそれしか見えねぇんだよ」
フリーデの馬に向けて爪を振るう霊闘士。槍を横にして受け止めると、爪と爪の間に槍を差し込みテコのように固定、そのまま地面へと縫い付けるように突き刺した。
ジルの馬を切りつける男、一瞬慄いた馬の隙を突き、ヴァレルへと踏み込んでいく。
が、詠唱の完了したヴァレルの至近距離でのファイアアローを受け止め、仰向けで吹き飛ばされてしまう。
「死にたくないなら、自分たちでどうにかしろ。他人を頼り、他人を殺すな」
「散々魔法撃ちこんで何言ってやがる! 力のあるやつばかりじゃないんだよ……強いやつしか、生きてちゃいけないのかよぉ!!」
起き上がろうとした男に、ジルの剣先がのど元へすっ、とあてがわれる。からん、と男が握った剣は地面へ落ちた。
「弱いままでいなければ良い。生き恥を晒したとしても明日へ繋ぎ、その魂を未来に託せ。どうしても今の政府が許せぬというならば……歪虚を排除した暁に、再び声を上げれば良い。そのときは俺も共に立とう。この剣に誓って」
ヴァレルが他の敵へ向いた後、囁くように声をかけるジル。
背後には、戦線を押し上げて追いついていたユウがいた。口角が上がっていたが、普段通りか、それとも―――
◆
「大人しくしてなよ」
「やれやれ、年寄りに冷たいもんは勘弁してほしいがね」
掌の炎を消し、両手を上げる魔術師。ジュードのレイターコールドショットによって動きを封じられた者だ。
敵の進軍はほとんど止まっていた。既に、師団の後続が合流し手当や確保に当たっている様子も見える。
「あんまり見ていたくない光景ですね……」
「ちょっと小腹が空いたわね」
「……よくそんな気になれますねー」
ユウの指示で和泉と鬼非鬼も手伝い、死体はゾンビの材料に使われる危険があるとし、ゾンビと共に焼却処分されていく。
「……ひは、あまりすきではないのだけれど」
ぽつ、とマレーネが零す。
(あの日に焼かれた『ほんもの』は、きっと『わたし』を怨んでいるのでしょう。『ほんもの』が愛した、大嫌いなこの国だけれど―――どうか平穏が訪れますように)
揺れる炎、立ち昇る火煙を見つめながら、まるで透かしてその先、遠くを見ているかのようにマレーネはただそこに佇んでいた。
ルナも手当に助力し、反政府の者であろうと癒しの光を当てる師団員を目で追いかける。
「命ある者を助けるのがこの師団だ、敵味方、人種や思想も命の前では関係ない。それで損をすることも多いがな」
自嘲気味に笑って救護テントへ去る師団員を見送り、ルナは思わずリュートに指を添える。
一度、二度、つま弾かれた音はやがて旋律へと連なっていく。
人同士の戦いに悲しみを
傷ついた人に癒しを
いま、何の慰めにもならないかも知れないけど―――
思いは調べに乗って、この戦いに居た全ての者へ届けられていった。
腰から響く激しい揺れ。ルナ・レンフィールド(ka1565)が、横の馬の頬を宥めるように手のひらでゆっくりなぞった。
本来ならば馬を貸してくれ、というオーダーは通し難いものだが、
馬を運用する師団員に乗せてもらう、という形でルナの申請は話がついた。
「それなら是非俺の馬に!」
「むしろ俺が馬になります!!」
と、こぞって手を挙げる野郎共を一蹴し、困ったように笑うルナへリベルトが女性聖導士の騎手をあてがった。
「目的が手段を正当化すると思ったら大間違いよ!」
気合充分で荷台の先頭で前を見据えるのはヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207)―――フリーデだ。
そんな彼女に、ジル・ティフォージュ(ka3873)が煩わしそうな顔で言葉を投げる。
「黙れ小娘……その目的が歪かどうかは、主観により変わると知る事だな」
「だったらその間違った主観を許しておけというの?!」
「貴様が他人の主観を間違っていると主張するのなら……それもまた主観だ」
「言うだけ無駄って事なの? 歪虚に加担するような奴らに?!」
「だからその口を閉じろと言っているのだ……! 喧しくて仕事にならん」
知人同士なのか、だが良い仲ではないようだ。やたらと喰っては掛かり、掛かっては喰らいあう二人。
「……止めないのか?」
「若いうちはあれぐらいがいいのさ。お前はどっちに賭ける?」
「個人の主義主張は関係ない。仕事だからな」
ヴァレル・ロエンローグ(ka2925)がリベルトに声をかけるが、
リベルトの回答に、諦めるように小さくため息を吐き、荷台で魔導バイクに跨った。
「人間同士のイザコザというのは兎角醜いものね」
鬼非鬼 ふー(ka5179)が戦地となる先の地図と勢力図を見ながら、ユウの隣でため息その2を吐いた。
「あれのこと?」
「それは置いておくとして……自分らの都合のためだけに他人の弱みや憎しみを利用するなんて」
成功しても、民衆が付いてくるなどありえないわ、と師団の駒をとん、と図面上に置くふー。
「まだ少女の域を出ない子達に縋ろうって根性が気に食わない……そんな奴らがゾンビと一緒にハイキングとかホント笑えないよね」
さすがに師団員に離され、喧嘩はドロー。むくれているフリーデに、ジュード・エアハート(ka0410)が声をかける。
まだ不満気に、言い足りないのか、愚痴のように言葉を垂らしていくフリーデ。
少し乱暴か、残酷か、良くも悪くも少女らしいフリーデに、ジュードは苦笑してゴーグルをはめた。
「同じ帝国のひと同士で争うなんて……これ以上争いが酷くならないように、何とかしないとね」
「えぇ。このくにに、むだなちがながれてしまうことは とてもかなしいですもの」
避けられるのであれば、避けるべき。
ルナの言葉に、マレーネ・シェーンベルグ(ka4094)が返す。
……そのためにも、最大限の努力を――
「壮大な追いかけっこで面白いですねっ」
あまり帝国のことはわかっていないという和泉 澪(ka4070)。少し抜けた物言いに和んだのもつかの間。
リベルトの合図で、手綱を弾き、グリップを捻ったハンター達は、荷台から一斉に飛び出して草原を駆けていった。
◆
作戦としては、ハンターが敵を追い越して進軍速度を削ぎ、その隙に後方から第九師団にて包囲を行うという行動だった。
数名が前に曝け出される、追いつき、追い越すまでに耐えきる、抜かせてはならない、やることに対してリスクが非常に大きいが、
成功すれば間違いはないだろう。
もう少しで敵の顔の輪郭も見えてくるだろう――そんな距離で、一発の銃声が平野を劈く。
ジュードの頬に一瞬熱くなると、チリチリと痛みが走る。
口元へ飛んだ血をひと舐め、ジュードは不敵に笑んでから手綱を思いきり鳴らした。
ごう、と風を切る音が強くなり、比例して敵の銃撃や魔法が空を抜けていく。
だが巧みに人馬合せた呼吸は細かく蹄の跡を地に刻み、攻撃を避けていく。
ジュードに追随していたヴァレルが、バイクのスピードを上げてエンブレムナイフを抜く。
刃の棟と切っ先を真っ直ぐに目で捉え、走る馬車の車輪に向ける。
魔法の矢は、忙しなく回る車輪に真っ直ぐ飛び込み、大きな音を立てて馬車のバランスを崩した。
荷馬車は武器等が積まれているようだ。ジュードは馬と崩れた馬車に飛び込み、馬車を台にして幌を突き破り一気に宙へと駆け跳ぶ。
(でっけー弓持ってきたな。そんなん馬走らせながら撃てるのか?)
ふと、矢を番えながら出発前のリベルトの言葉を思い出す。
大きな影が敵勢力を飲みこみ、それは目の前に降り立つ。
(―――当然でしょ)
そして、自身の返した言葉も思い出す。
「お兄さん達ちょっと休憩していかない?」
構えられた弓から放たれる制圧射撃は、敵の進軍の足を戸惑わせていった。
「エアハートのが敵の信仰を止めたようね……和泉の、その辺で伏兵に気を付けて」
「了解ですっ。やられはしませんよー?」
鬼非鬼からの伝話に太刀を構える、同時に師団員の壊した荷馬車の残骸から、3人の男が飛び出してきた。
1人の男が振りかぶった鍬を翻って回避、太刀で掬うように鍬を振り上げて、近づいてきたもう1人の男の顎にぶつける。
散弾の猟銃を構えていた男を捉えると、縺れていた2人の背中を滑るように上り、肩を踏みつけ跳躍、
宙で体を捻り、背後へ落ちると同時に逆袈裟で斬りつけた。
「多人数戦闘こそ、鳴隼一刀流の本領ですっ」
倒れ込んだ2人へ向けて構え直す澪。
その背中を狙うのは、冷たい銃口。
銃声、火を噴き弾が捉えるのは、倒れていた男の膝。
鬼非鬼が後方、魔導トラックの幌から覗き、澪への脅威を払ったのだ。
「膝に銃弾を受けた気分はいかがかしら?」
「冒険者をしていた昔でもこんなことはなかった、いてぇ……」
力無く銃を手放す男。気を取られている隙に、澪に対峙していた男2人は間合いを詰めるが、
勢いよく振り下ろされた鍬を地面に叩き付けるように払う。めり込んだ鍬を踏みつけ、突きだされた太刀は男の腕を刺す。
もう1人の男が澪の脇腹目がけて棒を振るうが、咄嗟に膝を上げて受け止める。その足を思いきり踏み込んで、返す刃で男を切り払った。
「ふむ……ティフォージュの、前に出れるかしら?」
魔導トラックの上に乗り、弓を射って抜け出そうとしていた者達を止めていたジルに鬼非鬼が声をかける。
「それは、あの辺りか? 混乱が少ないゆえに指示者がいると踏んでいたが……」
「御名答よ。露払いはこちらで引き受けるから、お願いね」
トラックから戦馬に飛び乗り、剣を抜くジル。
「一度なれども民を捨てて逃げた身の上。今更何を言う権利も無い……が」
民を煽り巻き込む事は関心せん、とその目は真っ直ぐ目標を捉える。
軽く馬の横腹を蹴り、前進を促す。剣を馬の体を平行に構え、勢いよく剣戟の中へと飛び込んでいった。
「まだ来るぞ! 武器をかまヴぇ」
「……あら、きづきませんでしたわ」
ぽつ、と口元に手を当てて呟くマレーネ。
抵抗しようと斧を持ち出した男は、哀れコミックのように轢き飛ばされてしまった。
再度スロットルを思いきり上げようとしたところで、突如横からの衝撃を受ける。
鈍く響く脇腹の痛みに反応する暇すらなく、バランスを崩すバイクのハンドルとグリップを思いきり捻り、
タイヤの跡を思いきり残してターンをする。
「うまいな、嬢ちゃん。二人で抜け出してツーリングとでもシャレこもうや」
「あいにくですがわたくし、くちぐるまは、のれませんの」
下手をしたらバイクに巻きこまれる形で地面に倒れていた。衝撃を逃がす形でたまたまできた技だ。
「よていは、かわりましたけれども」
突きだされた槍の手元へ影色の弾丸が喰らいつく。
逸らされた穂先はマレーネの脇腹を掠る。休むまもなく二段目の突き。
太腿を狙った突きは、急ぎバイクの裏へ倒れ込む形で影に隠れて回避、金属音が響く。
急ぎ膝立ちで引き金を二回、一発は敵の後ろを走って逃げようとする他の敵の足首を捕える。
だが目の前の敵の胸部を狙った二発目は回避される。突き出された槍を一歩下がって避ける。刃の風圧が肩を―――
否、マレーネが肩に感じたのは、熱、そして迸る血潮で脈打つ血管。
槍からは機導剣の光の刃が飛び出し、下がったマレーネの距離を埋めて来た。
「風の音よ、眠りに誘え!」
敵の振り上げた槍は、マレーネではなく地面を力なく突く。
ルナが師団員の馬で駆け寄り、スリープクラウドを放ってくれた。
「大丈夫っ?!」
急ぎ二人は馬から降りる。師団員は淡い光でマレーネの肩の傷口を包み込んだ。
「ここは引き受けるね。これ以上前に行かせないようにしないと」
よろしくおねがいします、と声をかけてから、傷ついたバイクを起こして今一度エンジンをかける。
土ぼこりを上げて去るマレーネを見送り、ルナと師団員は馬に乗りなおした。
「ベッドなら空きはまだある。どんどん健やかに病院送りにしてやるといい」
師団員が馬を出し、敵進路へスリープクラウドを放つルナ。
やはり行動を制限するという作戦で、睡眠というのは強かった。
「あれを寝かせる場所は……ベッドの上ではなさそうだがな」
師団員が指す方には、ゾンビの少数の群れが確認できた。
後方に置かれているのを見るに、まきびしのような感覚で起こされていったのだろう。
「操っている人がいないといいんだけど……」
杖を振り直し、詠唱を風から火へと切り替える。
少しテンポの上がった手の振りで術式を編み直し、作り出された火球はゾンビの群れへと飛び込んでいく。
炎の爆発は、朽ちた四肢を契り地面へ鈍い音を立てて落とされていった。
「まだ荷台が残っているぞ、そっちはどうだ?」
「ゾンビなら任せて、この槍はあいつらの弱点なはず!」
ヴァレルの声に反応するフリーデは、数体目のゾンビをその光属性の槍で貫いた。
血肉を振り払う間もなく、フリーデに迫るゾンビ。大きく巻き上げるように石突で足元を薙ぎ、
宙に浮いたゾンビを叩き付けるように切り払った。
今しばらくフリーデの手は空かなそうだ、仕方なく近くの師団員へと声をかける。
荷馬車はゾンビは乗っている可能性が高いと判断し、車輪に向けてマジックアロー。
盛大な音を立てて横転する荷馬車、駆け寄る師団員とヴァレルの目に飛び込んできたのは―――
「殺さないで……」
地面に放り出されて擦り傷だらけになった老婆と、小さなナイフを構える男児だった。
革命思想の者全員が、戦える者ばかりではない。
荷馬車は、戦えない女子供達、革命家を支える者達が乗り合わせていた。
「こんな人たちまで……」
「野盗ならまだしも、俺達は帝国師団だ。身柄を抑えさせてもらうぞ」
思考が停止するフリーデを横に、師団員を誘導するヴァレル。
「二重に民を傷付け不安がらせ、そうなった暁にはどこが人類の守護者なのやら」
追いついたジルの言葉に、フリーデが睨み返す。
むしろそうなれば良いザマとも思うが……と吐き捨てた小声は前方からの爆発音でかき消された。
フリーデは戦場に乗り、体を馬に張り付けるように低く、槍を腕で強く固定して突撃。
道中のゾンビ、武器を持ち抵抗する人、敵の移動手段を吹き飛ばし、ジュード、マレーネが立ち会っていた人物へと迫る。
フリーデが開いた道をジルが駆け抜ける。霊闘士らしき指示者に、突撃した勢いのまま剣を突き下ろす。
「見逃しちゃくれないかね……」
「……13年前であれば俺も貴様らを同胞と呼んだやもしれんが、今は事情が違う、許せ」
馬をその場で捻らせ敵を弾く。そして、すぐさまフリーデが追いつき対峙する。
「見逃したところで……一度歪虚に加担したその性根……どんなお綺麗な思想で飾立てようが、あんたらは誰も救わない! ただ堕ちていくだけよ!」
「そうかもな……ここにきて、ぶるっちまってるよ……でもよ、もうそれしか見えねぇんだよ」
フリーデの馬に向けて爪を振るう霊闘士。槍を横にして受け止めると、爪と爪の間に槍を差し込みテコのように固定、そのまま地面へと縫い付けるように突き刺した。
ジルの馬を切りつける男、一瞬慄いた馬の隙を突き、ヴァレルへと踏み込んでいく。
が、詠唱の完了したヴァレルの至近距離でのファイアアローを受け止め、仰向けで吹き飛ばされてしまう。
「死にたくないなら、自分たちでどうにかしろ。他人を頼り、他人を殺すな」
「散々魔法撃ちこんで何言ってやがる! 力のあるやつばかりじゃないんだよ……強いやつしか、生きてちゃいけないのかよぉ!!」
起き上がろうとした男に、ジルの剣先がのど元へすっ、とあてがわれる。からん、と男が握った剣は地面へ落ちた。
「弱いままでいなければ良い。生き恥を晒したとしても明日へ繋ぎ、その魂を未来に託せ。どうしても今の政府が許せぬというならば……歪虚を排除した暁に、再び声を上げれば良い。そのときは俺も共に立とう。この剣に誓って」
ヴァレルが他の敵へ向いた後、囁くように声をかけるジル。
背後には、戦線を押し上げて追いついていたユウがいた。口角が上がっていたが、普段通りか、それとも―――
◆
「大人しくしてなよ」
「やれやれ、年寄りに冷たいもんは勘弁してほしいがね」
掌の炎を消し、両手を上げる魔術師。ジュードのレイターコールドショットによって動きを封じられた者だ。
敵の進軍はほとんど止まっていた。既に、師団の後続が合流し手当や確保に当たっている様子も見える。
「あんまり見ていたくない光景ですね……」
「ちょっと小腹が空いたわね」
「……よくそんな気になれますねー」
ユウの指示で和泉と鬼非鬼も手伝い、死体はゾンビの材料に使われる危険があるとし、ゾンビと共に焼却処分されていく。
「……ひは、あまりすきではないのだけれど」
ぽつ、とマレーネが零す。
(あの日に焼かれた『ほんもの』は、きっと『わたし』を怨んでいるのでしょう。『ほんもの』が愛した、大嫌いなこの国だけれど―――どうか平穏が訪れますように)
揺れる炎、立ち昇る火煙を見つめながら、まるで透かしてその先、遠くを見ているかのようにマレーネはただそこに佇んでいた。
ルナも手当に助力し、反政府の者であろうと癒しの光を当てる師団員を目で追いかける。
「命ある者を助けるのがこの師団だ、敵味方、人種や思想も命の前では関係ない。それで損をすることも多いがな」
自嘲気味に笑って救護テントへ去る師団員を見送り、ルナは思わずリュートに指を添える。
一度、二度、つま弾かれた音はやがて旋律へと連なっていく。
人同士の戦いに悲しみを
傷ついた人に癒しを
いま、何の慰めにもならないかも知れないけど―――
思いは調べに乗って、この戦いに居た全ての者へ届けられていった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
ユウ師団長さまへのご質問 マレーネ・シェーンベルグ(ka4094) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/07/13 00:58:59 |
|
![]() |
相談卓 マレーネ・シェーンベルグ(ka4094) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/07/14 18:23:53 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/11 19:49:31 |