ゲスト
(ka0000)
輝く星を身につけて
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~9人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/13 19:00
- 完成日
- 2015/07/20 09:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
七夕はかつて、宮中の「乞巧奠(きこうでん)」と呼ばれる行事と結びつき、五節句の一つとして数えられていた――というのは、リアルブルーの極東地域での伝承である。
●
さて。
リゼリオの一角にある『ヤマシナ学院』では、その他菜畑に向けての準備が進められていた。
学院長のヤマシナ氏曰く、祭礼というのはどの地においても大切なモノだという認識らしい。
笹の葉に願いを込めた短冊をつるし、星を眺める――これが一般的な七夕だが、ヤマシナ氏の考える七夕はそれだけではなかった。
簡単に言うと、過去の「乞巧奠」に由来する、手芸上達を祈ろうとしているのである。
手芸上達と行っても一朝一夕で成るものでないのは当然のこと。
なので、ヤマシナ氏は考えた。
「それなら、センスを磨くという意味で、ファッションショーを開きましょう」
●
ヤマシナ学院のファッションショーの噂はたちまちリゼリオを駆け巡った。
新設校ながら色々と挑戦的なヤマシナ学院に好感をもつ人は多い。そこがファッションショー対決(?)をするというのだから、興味が集まるのも当然だ。
ついでに「院外のものの参加も歓迎」となれば、ざわつくのは目に見えて明らかである。
ただ、テーマだけは決まっていた。
『星』にまつわるもの。
これだけは七夕と言うこともあって譲れなかったのだろう。
そして、その学院の生徒であるファナも、参加予定だ――が、何をどう間違ったのか、モデルとしての参加になってしまった。
性別のことは相変わらず口を閉ざしているファナだが、さてどんな衣装を着せられるのか。
コンテストまであと数日……戦々恐々としているのであった。
七夕はかつて、宮中の「乞巧奠(きこうでん)」と呼ばれる行事と結びつき、五節句の一つとして数えられていた――というのは、リアルブルーの極東地域での伝承である。
●
さて。
リゼリオの一角にある『ヤマシナ学院』では、その他菜畑に向けての準備が進められていた。
学院長のヤマシナ氏曰く、祭礼というのはどの地においても大切なモノだという認識らしい。
笹の葉に願いを込めた短冊をつるし、星を眺める――これが一般的な七夕だが、ヤマシナ氏の考える七夕はそれだけではなかった。
簡単に言うと、過去の「乞巧奠」に由来する、手芸上達を祈ろうとしているのである。
手芸上達と行っても一朝一夕で成るものでないのは当然のこと。
なので、ヤマシナ氏は考えた。
「それなら、センスを磨くという意味で、ファッションショーを開きましょう」
●
ヤマシナ学院のファッションショーの噂はたちまちリゼリオを駆け巡った。
新設校ながら色々と挑戦的なヤマシナ学院に好感をもつ人は多い。そこがファッションショー対決(?)をするというのだから、興味が集まるのも当然だ。
ついでに「院外のものの参加も歓迎」となれば、ざわつくのは目に見えて明らかである。
ただ、テーマだけは決まっていた。
『星』にまつわるもの。
これだけは七夕と言うこともあって譲れなかったのだろう。
そして、その学院の生徒であるファナも、参加予定だ――が、何をどう間違ったのか、モデルとしての参加になってしまった。
性別のことは相変わらず口を閉ざしているファナだが、さてどんな衣装を着せられるのか。
コンテストまであと数日……戦々恐々としているのであった。
リプレイ本文
●
「――乞巧奠(きこうでん)とは、機織りや裁縫が上達するようにと星に祈りを捧げるリアルブルーの行事、のようですね」
話を聞いて集まったハンターのうちのひとり、マリア・ベルンシュタイン(ka0482)は、ヤマシナ学院の図書室にあった書籍をひもときながらなるほど、と頷く。
「なるほど、だからファッションコンテスト、というわけかぁ……そういえばなんか、姉さんたちがそんなこと、言ってた記憶もあるなぁ」
『七夕』の知識はあるけれど、その成り立ちまではなかなか知る人はいない。たとえリアルブルーの人間でも、それを知識として持っているのはおそらくごく一部のはずだ。リアルブルー出身の日本人、桃園ふわり(ka1776)もきちんとは知らなかったらしく、ふんふんとそのことを素直に聞いている。
ここはヤマシナ学院内にある、ハンター用に今回貸し与えられた小教室。
学院長であるヤマシナ氏の呼びかけに応じたハンターと、もうひとり――ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)が以前保護したファナが、そこにいる。
相変わらずファナは中性的な容姿を中性的なファッションで包み、性別が分からないようなふわふわした笑顔を浮かべているが、ファナが少年か少女かはまだ誰もきちんと確かめたことがなかったりする辺りハンターたちものんびりしているというか、達観しているというか。
あと、人数が集まりきらなかったと言うこともあって、モデルのみの志望も基本的になかった為、それなら自分で身につければいいじゃないか、と言う寛大なのかなんなのか今ひとつ分からない裁定も取られていた。
学院生よりも外の世界を知っているというのも、一つの理由なのかも知れないが。
ただ、ファナの服装については、デュシオン・ヴァニーユ(ka4696)が是非とも、と言うことで彼女が作成する。
「モデルはしたことありませんけれど……もともとファッションショーには少将興味がございますの。折角お店のほうもございますし、楽しませて頂きますわ」
ゴシック調の黒いワンピースに身を包み、こくりと紅茶を飲無その姿はまるでお人形めいた雰囲気を持つデュシオンだが、意外と気さくなキャラクターであるようだ。さっそくデザインイラストをいくつか持ち込んで、
「どれがファナさんに似合うでしょうか?」
と小首をかしげている。
彼女の提示した服はやはり全体的にアンティークドールめいた独特の美しさがあって、これはこれでなかなか中性的なファナによく似合いそうなものが多い。
「折角の七夕にちなんだものなんですもの、精一杯楽しんで、願いを叶えましょう?」
デュシオンは綺麗に微笑んだ。
●
いっぽう、今回臨時講師としてやってきたものが一人いる。
シルウィス・フェイカー(ka3492)、王国出身の女性ハンターである。と言っても、彼女、もともとは騎士の家系で生まれ育っていて、そのためだろう、立ち居振る舞いはどこか優雅で育ちの良さがどこかしら漂っている。
「でも、ドレスに袖を通すなんて、いつ以来かしら……」
ハンターとしての道を選んで早十年ほど。その間、そういった服装に袖を通すなんて、依頼がらみで何度かある程度だ。
もちろん、着ないわけではない。彼女はちゃんと、理解をしている。
「七夕……ですよね。これについて講義をすることにしましょうか……」
色々考えた結果、リアルブルーの星にまつわる伝説を探すことになった。
●
さて、七夕である。
きょうに向けてのファッションショーの準備――と言うのにはむろん余念がない。
一部の生徒は、もう既にきらきらしい服装に身を包んで、今か今かと楽しみにしている。
ハンターたちも、デザインとにらめっこしながら何とか作り上げた。
「自分で作った服に袖を通すのって、なんだか新鮮」
ふわりはそんなことを言って笑う。彼らはコンテストの時までは通常の服装だが、折角だからファナには、とデュシオンがさっそく服を渡していた。
「……あの、これでいいですか?」
ぴょんと現れたファナは、照れくさそうに笑いながら、しかし喜びを隠せないといった表情をしていた。
基本的にデュシオン好みのゴシックパンク調のコーディネートだ。
トップスはフリルのついた、タートルネックタイプのブラウストップ。
その上に、空をイメージしたという、青を基調とした和風の燕尾コート。その色合いは上から下へのグラデーションが目を引くデザインになっていて、ファナはそれをわざとはだけた着物であるかのようなラフな感じに袖を通している。
限りなく黒に近い紺色のホットパンツにはシルバーのチェーンがあしらわれており、それがアクセントとなって光っている。更に厚底のパンク調ブーツも黒で、それがまたよく似合う。足首につけられているシルバーの星形チャームのついたアンクレットは、やはり星をイメージしてのものだろう。むろんソックスにも小さなこだわりがよく出ている。リボンつきのサイハイソックスだ。
胸元には銀細工の、青い宝石があしらわれた繊細なデザインのブローチ。長い髪には星の形のチャームがついたヘアピンをクロスになるようにつけ、灰色のメッシュに出来るようなエクステヘアピンもサイドにつけている。
「わぁ! ファナちゃん、こういう格好もよく似合うよー!」
ふわりがそう言ってにっこり笑うと、ファナは少し照れくさそうに顔を赤らめた。いままでこういうタイプのファッションを身につけたことがないせいだろう、本人はもちろん周囲からも新鮮に見える。
「ええ、確かにこれは――ファナさんの中性的な特徴をよく捉えてあると思います。ファナさん、似合っていますよ」
「そういう皆さんはどう言う格好をするんですか?」
ファナは不思議そうに尋ねる。
「それは、あとでのお楽しみですよ」
マリアがそう言って、小さくウィンクをした。
●
さて、祭りの日とは言っても勉強をまったくしないわけではない。本日の臨時講師・シルウィスによる、『リアルブルーの星の伝説』の講義が待っている。
「――私も、リアルブルーの出身者ではないので、説明不足の点もあるかも知れません。そこは注意して、聞いてくれると嬉しいです」
彼女はそう前置きを置いて、ゆっくりと話し始める。
牽牛と織女の悲しい七夕伝説から始まり、オルフェウスのこと座の話、英雄ヘラクレスの伝説……星の伝説は大量にあるので、そこから興味深そうなものをいくつかピックアップして、身振り手振りを多く加えて、説明をしていくのだ。
「もっとも、私個人は……余り夜空を見上げることがなくて。ですからこんな講義自体も、かなり新鮮なんです」
そう付け加えると、生徒たちはくすっと小さな笑みを浮かべる。でもそれを批判したりはしない。
彼女の説明は丁寧で、語り口も柔らかい。小難しい説明を延々聞かされるよりも、このくらいの緩さで構わないのだ。
――だって、祭りなんだから。
やがて授業が終わると、あちこちから拍手がわく。
慣れない環境での講義は簡単とは行かないが、それを受け入れてくれた人がいるのが何よりも大事なことなのだった。
シルウィスも最後は照れくさそうに笑いながら、ぺこりとお辞儀をした。
●
講義が終われば、いよいよファッションショーだ。
と言っても、デュシオンはファナに衣装を着せているので彼女の場合はそれが作品という扱いになる。
「ファナちゃーん!」
すっかり打ち解けてきたふわりは、さっそく着替えてファナに近づく。
「その服装は?」
ファナが不思議そうに尋ねると、
「これはね、リアルブルーの……故郷の民族衣装の一種で、浴衣って言うんだ。七夕って言ったら、やっぱり浴衣だもんね」
「そうなんだ……」
ファナが頷くと、ふわりも頷く。
「これはね、僕の手作り。星柄の布が綺麗でしょ?」
身につけている浴衣は、ふわっとした感じの柔らかい帯を巻いた、白地に星の柄のは言ったものだ。ちなみに彼の着方を見ると、どうやら女性ものらしい。それもあっさり着こなしてしまう辺り、ふわりは少女らしいところが多いのだ。
髪も結い上げて星をあしらった髪留めで綺麗にまとめ、手には小さな巾着袋を持っていた。
「あとね、これ!」
ふわりはにっこりと笑って巾着とは反対の手に持つモノを皆に見せた。そこには小さい笹に色紙で作ったオーナメント、それに小さな短冊までついている。
「七夕にはね、笹にこうやって飾り付けをして、願い事を書いた短冊を飾るんだ。本当はもっと大きいんだけど、雰囲気作りって大事だもんね……タイトルは『星に願いを』、かな……?」
そう言って、ふわりはふっと昔に思いをはせる。
昔、リアルブルーにいた頃に行った七夕祭り。
流しそうめん、冷たい井戸水につけて冷やしたキュウリやなす、それに野菜の漬け物。
そしてデザートは、よく熟れた桃だ。
さっぱりと食べられるものをみんなで食べていたっけ。
懐かしい、リアルブルーの思い出。
むろん、デザートや冷やした野菜はこの世界でもある程度は食べることが出来る。今日もそれらを用意してくれているらしいし、古い風習を忘れないようにするにはいい方法なのだろう。
「ファナちゃん、いっしょに短冊に願い事、書こうよ」
星に願いを――まさしくその言葉の通り。
ふわりは、いつか家族と再会出来ますよう、そしてそれまでを素敵にこちらで過ごせますよう、そう書くのだという。
「ファナちゃんはなに書くのかな?」
「え、あ……」
そこに書かれていたのは、奇しくも「家族と再会出来ますよう」だった。ファナは記憶の一部にまだ混濁があることもあって、家族の記憶が曖昧だ。
もう生きていないかも知れない、しかし生きているかも知れない。そんな一縷の望みを書くのは、ある意味当然だったのかも知れない。
「……お揃いだね」
「そうだね」
二人は微笑みあう。
●
「あら、ふたりばかり楽しんでないで、ショーも楽しみましょう?」
声をかけられて振りかえると、そこには巫女服にアレンジされた着物を纏ったマリアがいた。
「考えたのだけど、普段は戦場の巫女として、仲間の勝利の願いを天に届けるようにしているわ。けれど、今日だけはみんなの七夕の願いが天に届くように――『星天の巫女』として祈ろうと思って」
そうにっこり笑う彼女の着物は、まるで夜空の如き藍色の地に星をイメージしたガラス玉やビーズを縫い付け、まるで天の川を閉じ込めたかのような美しさを醸し出している。あたまにはオーロラヴェール、七色のヴェールをふわふわと揺らすその姿はまるで神聖な巫女姫という風情たっぷりだ。
腕には水晶をあしらった腕輪。
更に手には、神事で用いられるという和弓『鳴弦』を持っている。
まさしく『星を纏う巫女』という言葉がしっくりくる姿だった。
「ショーでは楽しみにしていてね」
なにかパフォーマンスをするつもりなのだろう。その笑みは楽しそうだった。と、そこにシルウィスも加わって微笑みかける。
「私も参加ですよ? ニホンの七夕では、桃園さんみたいにユカタを着る人が多いそうですが、私はあえて西方らしい装いにしてみようと思って」
彼女が纏っているのはやはり濃い紺のドレス。ロングスカートのあちこちに、きらきら光る細かな装飾があしらわれ、それが揺れるごとに光を乱反射していく。色白の肌は目立ってしまうので、露出は控えめ。オペラ・グローブや靴も暗色系にまとめ、まるで闇夜に溶け込んでしまったかのような風にも見える。ドレスとは少し色合いを変えて、夜空の時間や季節での微妙な違いを示しているらしい。
その代わりというか、アクセサリ系は控えめだ。あまり大ぶりでないイヤリングは、光を受けると白く輝く鉱石を使っている。それがまた独特の雰囲気を醸し出している。そう――例えば流星か何かのような。
ただ、髪飾りだけはいつものものだった。本人曰く、「大切な方から頂いた品なので」と言うことだった。そんな控えめな装飾でも、彼女が夜空を纏っているように見えるのは間違いない。
「うーん、みんなちがって皆いい、ってやつですわね」
デュシオンがいつものゴシックドレスで、楽しそうに微笑んだ。
●
そうこうしていると、有志によるパフォーマンスタイムになった。
マリアはこれに出るつもりで、弓を手にしていたのだろう。
仲間たちも、それを固唾をのんで見守る。
やがて現れたマリアは――わざと一段暗くした照明の中からぱっと現れ、スポットを浴びた。
そして、手にしていた弓をつま弾いてそっとメロディを奏で、ヴェールを揺らしながら歩いてくる。
「折角の七夕です。今日は、星天の巫女として……皆さんの願いが星に届くよう、そしてこの学院のこれからのご発展を、天に祈ろうと思います」
その笑みは、穏やかで柔らかい。彼女はそっと弓にホーリーセイバーをかける。弓はその力を受けて白く輝き、その輝きを纏った矢を天に向かって――射った。
ちゃんと許可を取ってあったとは言え、その白い輝きが空へと一直線に伸びていくさまは誰もが見惚れる。
誰もが一瞬呆けて見とれていた。が、すぐに拍手がわき上がる。
それを受けながら、マリアは丁寧な所作で礼をした。
●
その後。
「――誰が一番か、結局決まりませんでしたね」
そう、デュシオンの言葉のように、「みんなちがってみんないい」、個性を大事にしたと言うことをヤマシナ氏は尊重した。
ハンターのみんなには今回も深く感謝の意を示してくれたし、生徒たちもまた着てね、と言ってくれたが、やっぱり一番が決まらないというのは不思議な話である。
まあ、この学校の方針の一つでもあるらしいので、納得する部分はあるのだけれど――。
「でも楽しかった! またこの学院にお邪魔したいな」
ふわりは嬉しそうに笑う。ほかの仲間たちも、それは同感だったようだ。
「でも、星に願いを――かぁ」
誰とはなしに、空を仰ぎ見る。きれいな綺麗な星たちが、輝いている空。
星々はまるで彼らを見守っているかのように、清かな光を降り注いでいた。
願いはきっと叶うよと、まるでそう言いたげに。
「――乞巧奠(きこうでん)とは、機織りや裁縫が上達するようにと星に祈りを捧げるリアルブルーの行事、のようですね」
話を聞いて集まったハンターのうちのひとり、マリア・ベルンシュタイン(ka0482)は、ヤマシナ学院の図書室にあった書籍をひもときながらなるほど、と頷く。
「なるほど、だからファッションコンテスト、というわけかぁ……そういえばなんか、姉さんたちがそんなこと、言ってた記憶もあるなぁ」
『七夕』の知識はあるけれど、その成り立ちまではなかなか知る人はいない。たとえリアルブルーの人間でも、それを知識として持っているのはおそらくごく一部のはずだ。リアルブルー出身の日本人、桃園ふわり(ka1776)もきちんとは知らなかったらしく、ふんふんとそのことを素直に聞いている。
ここはヤマシナ学院内にある、ハンター用に今回貸し与えられた小教室。
学院長であるヤマシナ氏の呼びかけに応じたハンターと、もうひとり――ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)が以前保護したファナが、そこにいる。
相変わらずファナは中性的な容姿を中性的なファッションで包み、性別が分からないようなふわふわした笑顔を浮かべているが、ファナが少年か少女かはまだ誰もきちんと確かめたことがなかったりする辺りハンターたちものんびりしているというか、達観しているというか。
あと、人数が集まりきらなかったと言うこともあって、モデルのみの志望も基本的になかった為、それなら自分で身につければいいじゃないか、と言う寛大なのかなんなのか今ひとつ分からない裁定も取られていた。
学院生よりも外の世界を知っているというのも、一つの理由なのかも知れないが。
ただ、ファナの服装については、デュシオン・ヴァニーユ(ka4696)が是非とも、と言うことで彼女が作成する。
「モデルはしたことありませんけれど……もともとファッションショーには少将興味がございますの。折角お店のほうもございますし、楽しませて頂きますわ」
ゴシック調の黒いワンピースに身を包み、こくりと紅茶を飲無その姿はまるでお人形めいた雰囲気を持つデュシオンだが、意外と気さくなキャラクターであるようだ。さっそくデザインイラストをいくつか持ち込んで、
「どれがファナさんに似合うでしょうか?」
と小首をかしげている。
彼女の提示した服はやはり全体的にアンティークドールめいた独特の美しさがあって、これはこれでなかなか中性的なファナによく似合いそうなものが多い。
「折角の七夕にちなんだものなんですもの、精一杯楽しんで、願いを叶えましょう?」
デュシオンは綺麗に微笑んだ。
●
いっぽう、今回臨時講師としてやってきたものが一人いる。
シルウィス・フェイカー(ka3492)、王国出身の女性ハンターである。と言っても、彼女、もともとは騎士の家系で生まれ育っていて、そのためだろう、立ち居振る舞いはどこか優雅で育ちの良さがどこかしら漂っている。
「でも、ドレスに袖を通すなんて、いつ以来かしら……」
ハンターとしての道を選んで早十年ほど。その間、そういった服装に袖を通すなんて、依頼がらみで何度かある程度だ。
もちろん、着ないわけではない。彼女はちゃんと、理解をしている。
「七夕……ですよね。これについて講義をすることにしましょうか……」
色々考えた結果、リアルブルーの星にまつわる伝説を探すことになった。
●
さて、七夕である。
きょうに向けてのファッションショーの準備――と言うのにはむろん余念がない。
一部の生徒は、もう既にきらきらしい服装に身を包んで、今か今かと楽しみにしている。
ハンターたちも、デザインとにらめっこしながら何とか作り上げた。
「自分で作った服に袖を通すのって、なんだか新鮮」
ふわりはそんなことを言って笑う。彼らはコンテストの時までは通常の服装だが、折角だからファナには、とデュシオンがさっそく服を渡していた。
「……あの、これでいいですか?」
ぴょんと現れたファナは、照れくさそうに笑いながら、しかし喜びを隠せないといった表情をしていた。
基本的にデュシオン好みのゴシックパンク調のコーディネートだ。
トップスはフリルのついた、タートルネックタイプのブラウストップ。
その上に、空をイメージしたという、青を基調とした和風の燕尾コート。その色合いは上から下へのグラデーションが目を引くデザインになっていて、ファナはそれをわざとはだけた着物であるかのようなラフな感じに袖を通している。
限りなく黒に近い紺色のホットパンツにはシルバーのチェーンがあしらわれており、それがアクセントとなって光っている。更に厚底のパンク調ブーツも黒で、それがまたよく似合う。足首につけられているシルバーの星形チャームのついたアンクレットは、やはり星をイメージしてのものだろう。むろんソックスにも小さなこだわりがよく出ている。リボンつきのサイハイソックスだ。
胸元には銀細工の、青い宝石があしらわれた繊細なデザインのブローチ。長い髪には星の形のチャームがついたヘアピンをクロスになるようにつけ、灰色のメッシュに出来るようなエクステヘアピンもサイドにつけている。
「わぁ! ファナちゃん、こういう格好もよく似合うよー!」
ふわりがそう言ってにっこり笑うと、ファナは少し照れくさそうに顔を赤らめた。いままでこういうタイプのファッションを身につけたことがないせいだろう、本人はもちろん周囲からも新鮮に見える。
「ええ、確かにこれは――ファナさんの中性的な特徴をよく捉えてあると思います。ファナさん、似合っていますよ」
「そういう皆さんはどう言う格好をするんですか?」
ファナは不思議そうに尋ねる。
「それは、あとでのお楽しみですよ」
マリアがそう言って、小さくウィンクをした。
●
さて、祭りの日とは言っても勉強をまったくしないわけではない。本日の臨時講師・シルウィスによる、『リアルブルーの星の伝説』の講義が待っている。
「――私も、リアルブルーの出身者ではないので、説明不足の点もあるかも知れません。そこは注意して、聞いてくれると嬉しいです」
彼女はそう前置きを置いて、ゆっくりと話し始める。
牽牛と織女の悲しい七夕伝説から始まり、オルフェウスのこと座の話、英雄ヘラクレスの伝説……星の伝説は大量にあるので、そこから興味深そうなものをいくつかピックアップして、身振り手振りを多く加えて、説明をしていくのだ。
「もっとも、私個人は……余り夜空を見上げることがなくて。ですからこんな講義自体も、かなり新鮮なんです」
そう付け加えると、生徒たちはくすっと小さな笑みを浮かべる。でもそれを批判したりはしない。
彼女の説明は丁寧で、語り口も柔らかい。小難しい説明を延々聞かされるよりも、このくらいの緩さで構わないのだ。
――だって、祭りなんだから。
やがて授業が終わると、あちこちから拍手がわく。
慣れない環境での講義は簡単とは行かないが、それを受け入れてくれた人がいるのが何よりも大事なことなのだった。
シルウィスも最後は照れくさそうに笑いながら、ぺこりとお辞儀をした。
●
講義が終われば、いよいよファッションショーだ。
と言っても、デュシオンはファナに衣装を着せているので彼女の場合はそれが作品という扱いになる。
「ファナちゃーん!」
すっかり打ち解けてきたふわりは、さっそく着替えてファナに近づく。
「その服装は?」
ファナが不思議そうに尋ねると、
「これはね、リアルブルーの……故郷の民族衣装の一種で、浴衣って言うんだ。七夕って言ったら、やっぱり浴衣だもんね」
「そうなんだ……」
ファナが頷くと、ふわりも頷く。
「これはね、僕の手作り。星柄の布が綺麗でしょ?」
身につけている浴衣は、ふわっとした感じの柔らかい帯を巻いた、白地に星の柄のは言ったものだ。ちなみに彼の着方を見ると、どうやら女性ものらしい。それもあっさり着こなしてしまう辺り、ふわりは少女らしいところが多いのだ。
髪も結い上げて星をあしらった髪留めで綺麗にまとめ、手には小さな巾着袋を持っていた。
「あとね、これ!」
ふわりはにっこりと笑って巾着とは反対の手に持つモノを皆に見せた。そこには小さい笹に色紙で作ったオーナメント、それに小さな短冊までついている。
「七夕にはね、笹にこうやって飾り付けをして、願い事を書いた短冊を飾るんだ。本当はもっと大きいんだけど、雰囲気作りって大事だもんね……タイトルは『星に願いを』、かな……?」
そう言って、ふわりはふっと昔に思いをはせる。
昔、リアルブルーにいた頃に行った七夕祭り。
流しそうめん、冷たい井戸水につけて冷やしたキュウリやなす、それに野菜の漬け物。
そしてデザートは、よく熟れた桃だ。
さっぱりと食べられるものをみんなで食べていたっけ。
懐かしい、リアルブルーの思い出。
むろん、デザートや冷やした野菜はこの世界でもある程度は食べることが出来る。今日もそれらを用意してくれているらしいし、古い風習を忘れないようにするにはいい方法なのだろう。
「ファナちゃん、いっしょに短冊に願い事、書こうよ」
星に願いを――まさしくその言葉の通り。
ふわりは、いつか家族と再会出来ますよう、そしてそれまでを素敵にこちらで過ごせますよう、そう書くのだという。
「ファナちゃんはなに書くのかな?」
「え、あ……」
そこに書かれていたのは、奇しくも「家族と再会出来ますよう」だった。ファナは記憶の一部にまだ混濁があることもあって、家族の記憶が曖昧だ。
もう生きていないかも知れない、しかし生きているかも知れない。そんな一縷の望みを書くのは、ある意味当然だったのかも知れない。
「……お揃いだね」
「そうだね」
二人は微笑みあう。
●
「あら、ふたりばかり楽しんでないで、ショーも楽しみましょう?」
声をかけられて振りかえると、そこには巫女服にアレンジされた着物を纏ったマリアがいた。
「考えたのだけど、普段は戦場の巫女として、仲間の勝利の願いを天に届けるようにしているわ。けれど、今日だけはみんなの七夕の願いが天に届くように――『星天の巫女』として祈ろうと思って」
そうにっこり笑う彼女の着物は、まるで夜空の如き藍色の地に星をイメージしたガラス玉やビーズを縫い付け、まるで天の川を閉じ込めたかのような美しさを醸し出している。あたまにはオーロラヴェール、七色のヴェールをふわふわと揺らすその姿はまるで神聖な巫女姫という風情たっぷりだ。
腕には水晶をあしらった腕輪。
更に手には、神事で用いられるという和弓『鳴弦』を持っている。
まさしく『星を纏う巫女』という言葉がしっくりくる姿だった。
「ショーでは楽しみにしていてね」
なにかパフォーマンスをするつもりなのだろう。その笑みは楽しそうだった。と、そこにシルウィスも加わって微笑みかける。
「私も参加ですよ? ニホンの七夕では、桃園さんみたいにユカタを着る人が多いそうですが、私はあえて西方らしい装いにしてみようと思って」
彼女が纏っているのはやはり濃い紺のドレス。ロングスカートのあちこちに、きらきら光る細かな装飾があしらわれ、それが揺れるごとに光を乱反射していく。色白の肌は目立ってしまうので、露出は控えめ。オペラ・グローブや靴も暗色系にまとめ、まるで闇夜に溶け込んでしまったかのような風にも見える。ドレスとは少し色合いを変えて、夜空の時間や季節での微妙な違いを示しているらしい。
その代わりというか、アクセサリ系は控えめだ。あまり大ぶりでないイヤリングは、光を受けると白く輝く鉱石を使っている。それがまた独特の雰囲気を醸し出している。そう――例えば流星か何かのような。
ただ、髪飾りだけはいつものものだった。本人曰く、「大切な方から頂いた品なので」と言うことだった。そんな控えめな装飾でも、彼女が夜空を纏っているように見えるのは間違いない。
「うーん、みんなちがって皆いい、ってやつですわね」
デュシオンがいつものゴシックドレスで、楽しそうに微笑んだ。
●
そうこうしていると、有志によるパフォーマンスタイムになった。
マリアはこれに出るつもりで、弓を手にしていたのだろう。
仲間たちも、それを固唾をのんで見守る。
やがて現れたマリアは――わざと一段暗くした照明の中からぱっと現れ、スポットを浴びた。
そして、手にしていた弓をつま弾いてそっとメロディを奏で、ヴェールを揺らしながら歩いてくる。
「折角の七夕です。今日は、星天の巫女として……皆さんの願いが星に届くよう、そしてこの学院のこれからのご発展を、天に祈ろうと思います」
その笑みは、穏やかで柔らかい。彼女はそっと弓にホーリーセイバーをかける。弓はその力を受けて白く輝き、その輝きを纏った矢を天に向かって――射った。
ちゃんと許可を取ってあったとは言え、その白い輝きが空へと一直線に伸びていくさまは誰もが見惚れる。
誰もが一瞬呆けて見とれていた。が、すぐに拍手がわき上がる。
それを受けながら、マリアは丁寧な所作で礼をした。
●
その後。
「――誰が一番か、結局決まりませんでしたね」
そう、デュシオンの言葉のように、「みんなちがってみんないい」、個性を大事にしたと言うことをヤマシナ氏は尊重した。
ハンターのみんなには今回も深く感謝の意を示してくれたし、生徒たちもまた着てね、と言ってくれたが、やっぱり一番が決まらないというのは不思議な話である。
まあ、この学校の方針の一つでもあるらしいので、納得する部分はあるのだけれど――。
「でも楽しかった! またこの学院にお邪魔したいな」
ふわりは嬉しそうに笑う。ほかの仲間たちも、それは同感だったようだ。
「でも、星に願いを――かぁ」
誰とはなしに、空を仰ぎ見る。きれいな綺麗な星たちが、輝いている空。
星々はまるで彼らを見守っているかのように、清かな光を降り注いでいた。
願いはきっと叶うよと、まるでそう言いたげに。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/13 16:28:37 |