ゲスト
(ka0000)
【幻導】弓弦の災禍
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/13 19:00
- 完成日
- 2015/07/22 06:30
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
※このシナリオは難易度が高く設定されています。所持金の大幅な減少や装備アイテムの損失、場合によっては、再起不能、死亡判定が下される可能性があります。
再起不能、死亡判定の下されたキャラクターはログイン、及びコンテンツへのアクセスが制限されます。
●混迷
東方で人類と歪虚が激戦を繰り広げている頃。
辺境地域においても熾烈なる戦いが始まろうとしている。ナンガンド塔の頂上に現れた大幻獣を巡り、様々な立場の者が動き出したのだ。
情報によれば、今まで対人類で団結していたと思しき歪虚達も一枚岩でない事が露見。
事件は混迷を極めながらも、結末に向かって走り始める。
●理由
起きた理由はなんだったか。
思い出すことすら面倒臭い――。
ああ、そうだ。……BADDASと牛鬼が、大幻獣がどうとか騒いでいたのを聞いた。
正直、大幻獣なんかどうでもいい。
奴らの好きにすれば良い。
だが、その大幻獣を巡って安眠を妨害されるのは勘弁ならん。
特に小賢しい人間が多数現れて大騒ぎするのが許せん。
眠りの邪魔をするのであれば……。
●弓弦の災禍
「……すみません。皆さん。手伝ってください」
ハンターズソサエティに現れた赤毛の青年、イェルズ・オイマトは珍しく硬い表情でそう告げた。
「手伝うって……何をだ?」
「何かあったの?」
「あの。ファリフさんがナルガンド塔を目指していることは、皆さんもご存知ですよね」
「ああ、聞いてる。大幻獣に会いに行くんだったな」
「はい。それで……そのことを族長に報告したらですね。『大幻獣は辺境部族にとっても大きな鍵になるから、助力をするように』と申し付かりまして」
「ああ、なるほどね。その依頼をしに来たのね」
「……それもそうなんですが、それだけじゃないんです」
一層表情が険しくなるイェルズに、ハンター達は顔を見合わせる。
「実は、ナルガンド塔から北の方角に、大型歪虚が出現しました。……斥候の報告によると、『ハイルタイ』ではないかと」
「……何だと……!?」
イェルズの重苦しい声に、凍りつくハンター達。
――ハイルタイ。
かつてオイマト族と辺境部族を裏切り、歪虚へとついた大罪人。
災厄の十三魔が一将、辺境に今なお伝わる災禍『ベスタハの悲劇』の主犯――。
「何でハイルタイがこんなところに……?」
「正確な目的はわかりません。ただ、南下しているという情報が入っているので、恐らく目的は『塔』ではないかと……」
「ちょっと待てよ。塔にあいつの矢を打ち込まれてみろ。大幻獣やファリフは……」
そう。ハイルタイは恐るべき威力を誇る矢を放って来る。
それをまともに食らえば、塔はおろか、ファリフや大幻獣もタダでは済まないだろう……。
「今回皆さんにお願いしたいのは、俺と一緒に、ハイルタイを止めて欲しいんです。族長に内緒で」
「え? バタルトゥに内緒で……? どういうこと?」
キョトンとするハンターに、イェルズははぁ……とため息をつく。
「今、族長はエトファリカを救う為に東方で戦っています。でも、ハイルタイが現れたと聞いたら、族長のことだからきっと戻って来ちゃうと思うんですよ」
ぽつりぽつりと語るイェルズ。
――バタルトゥは以前、酷くハイルタイを憎んでいた。
今はハンター達のお陰で、大分冷静さを取り戻しているけれど……それでも。『オイマト族の恥』であることには変わりはないのだ。
「……東方の王と、遥か昔に交わした約束を果たしに行っているっていうのに、今戻ってきたらまた約束を投げ出したって言われかねない。だから、族長には内緒で……俺が、行こうって。そう決めたんです」
「イェルズ。大丈夫なのか? ハイルタイは……その。ハンパなく強いぞ?」
「俺だってオイマト族の一員です。戦う術は持っているので足を引っ張るような真似はしません。だからどうか、一緒にハイルタイを止めてください。お願いします……!」
がばっと頭を下げるイェルズに、言葉を失くすハンター達。
どちらにせよ、ハイルタイが現れるとなっては放っておくことは出来ない。
――大幻獣と、ファリフの試練の行く末は、ハンター達の手に委ねられた。
再起不能、死亡判定の下されたキャラクターはログイン、及びコンテンツへのアクセスが制限されます。
●混迷
東方で人類と歪虚が激戦を繰り広げている頃。
辺境地域においても熾烈なる戦いが始まろうとしている。ナンガンド塔の頂上に現れた大幻獣を巡り、様々な立場の者が動き出したのだ。
情報によれば、今まで対人類で団結していたと思しき歪虚達も一枚岩でない事が露見。
事件は混迷を極めながらも、結末に向かって走り始める。
●理由
起きた理由はなんだったか。
思い出すことすら面倒臭い――。
ああ、そうだ。……BADDASと牛鬼が、大幻獣がどうとか騒いでいたのを聞いた。
正直、大幻獣なんかどうでもいい。
奴らの好きにすれば良い。
だが、その大幻獣を巡って安眠を妨害されるのは勘弁ならん。
特に小賢しい人間が多数現れて大騒ぎするのが許せん。
眠りの邪魔をするのであれば……。
●弓弦の災禍
「……すみません。皆さん。手伝ってください」
ハンターズソサエティに現れた赤毛の青年、イェルズ・オイマトは珍しく硬い表情でそう告げた。
「手伝うって……何をだ?」
「何かあったの?」
「あの。ファリフさんがナルガンド塔を目指していることは、皆さんもご存知ですよね」
「ああ、聞いてる。大幻獣に会いに行くんだったな」
「はい。それで……そのことを族長に報告したらですね。『大幻獣は辺境部族にとっても大きな鍵になるから、助力をするように』と申し付かりまして」
「ああ、なるほどね。その依頼をしに来たのね」
「……それもそうなんですが、それだけじゃないんです」
一層表情が険しくなるイェルズに、ハンター達は顔を見合わせる。
「実は、ナルガンド塔から北の方角に、大型歪虚が出現しました。……斥候の報告によると、『ハイルタイ』ではないかと」
「……何だと……!?」
イェルズの重苦しい声に、凍りつくハンター達。
――ハイルタイ。
かつてオイマト族と辺境部族を裏切り、歪虚へとついた大罪人。
災厄の十三魔が一将、辺境に今なお伝わる災禍『ベスタハの悲劇』の主犯――。
「何でハイルタイがこんなところに……?」
「正確な目的はわかりません。ただ、南下しているという情報が入っているので、恐らく目的は『塔』ではないかと……」
「ちょっと待てよ。塔にあいつの矢を打ち込まれてみろ。大幻獣やファリフは……」
そう。ハイルタイは恐るべき威力を誇る矢を放って来る。
それをまともに食らえば、塔はおろか、ファリフや大幻獣もタダでは済まないだろう……。
「今回皆さんにお願いしたいのは、俺と一緒に、ハイルタイを止めて欲しいんです。族長に内緒で」
「え? バタルトゥに内緒で……? どういうこと?」
キョトンとするハンターに、イェルズははぁ……とため息をつく。
「今、族長はエトファリカを救う為に東方で戦っています。でも、ハイルタイが現れたと聞いたら、族長のことだからきっと戻って来ちゃうと思うんですよ」
ぽつりぽつりと語るイェルズ。
――バタルトゥは以前、酷くハイルタイを憎んでいた。
今はハンター達のお陰で、大分冷静さを取り戻しているけれど……それでも。『オイマト族の恥』であることには変わりはないのだ。
「……東方の王と、遥か昔に交わした約束を果たしに行っているっていうのに、今戻ってきたらまた約束を投げ出したって言われかねない。だから、族長には内緒で……俺が、行こうって。そう決めたんです」
「イェルズ。大丈夫なのか? ハイルタイは……その。ハンパなく強いぞ?」
「俺だってオイマト族の一員です。戦う術は持っているので足を引っ張るような真似はしません。だからどうか、一緒にハイルタイを止めてください。お願いします……!」
がばっと頭を下げるイェルズに、言葉を失くすハンター達。
どちらにせよ、ハイルタイが現れるとなっては放っておくことは出来ない。
――大幻獣と、ファリフの試練の行く末は、ハンター達の手に委ねられた。
リプレイ本文
「こんなとこまで付き合ってもらってすまねぇなぁ。ちーと我慢してくれな」
ジャンク(ka4072)が軍馬の首をぽんぽんと叩くと、馬が応えるように嘶く。
――聞き分けのいい子だ。いい軍馬は財産だ。きちんと帰してやりたいと思う。
「……来ましたね」
シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)の呟きに、顔を上げたミカ・コバライネン(ka0340)。
遠目からでも分かるハイルタイの巨体。そしてそれを運ぶこれまた大きな馬に、彼は咥えていた煙草を揉み消す。
――世界の危機、大幻獣、ハイルタイ、オイマト族。
放っておけないのは同感で……。
歪虚が1匹でも減らせるなら……たまには命懸けの嫌がらせも悪くない。
「ま、報酬期待しておこうか」
「えっ。報酬足りなかったですか?!」
「さーてね。まあ、首尾よく行ったら酒の1杯でもつけてくれ」
慌てるイェルズに、クククと笑うミカ。イブリス・アリア(ka3359)がため息をつく。
「しかし、あの野郎も暇だな。何だかんだでこうやって出て来るんだから」
「大人しく寝ててくれた方が有難いんですけどね」
「それは困るな。出てきてくれなきゃあいつを殺せない」
「イブリスさん? 今回の目的は……」
「分かってるよ。逸脱する気はない」
どこか楽しげな彼に、眉を上げた白神 霧華(ka0915)。それにイブリスは肩を竦める。
「それじゃまあ、デカブツへの嫌がらせにいくとするかねぇ」
「ひとまず狙うべきは馬……かしら」
「だな。作戦が上手くいくといいが……。ま、考えても仕方がないさね。ここまで来たらやるしかないな、と」
お守りの埴輪を胸に入れながら言うアルト・ハーニー(ka0113)に小首を傾げるフィリテ・ノート(ka0810)。続けたアルトに、オウガ(ka2124)もこくりと頷く。
「ひとまず左右に分かれよう。……フィリテはくれぐれも無理すんなよ」
「うん。オウガも気をつけてね」
「……それでは、援護します。行ってください」
静かなシルヴィアの声に応えるように、軍馬を駆るハンター達。
――それが、戦端を開く合図となった。
「うわっ。なんつーデカさだよ……!」
「上手いこと近づけるよう祈るんだぜ。俺かオウガ、どっちかだけでも近づければいいわけだしな、と」
ハイルタイに接近を試みるオウガから思わず漏れた本音に、アルトがふう、と息を吐く。
馬を駆る怠惰の歪虚。それは巨体……というのを通り越して、ハンター達が見上げる空を覆いそうなほどだ。
圧倒的な体格差。こんなの、正直止められるかどうか分からないけど……!
「行くよ!」
「お願いします」
「んじゃ頼むよ、ジャンク」
「副隊長殿の頼みじゃ仕方ねえ。いっちょやりますか」
フィリテの声に応え、散会するシルヴィアとミカ、ジャンク。
――彼らの役割は、前衛の者達がハイルタイに近づき、攻撃範囲内に入るまでひきつけておくことだ。
ついでに、注意を塔からこちらに向け、足止めが出来たら理想的なのだが……。
軍馬の上から巨馬に向けて銃弾を放つシルヴィアは、着ている全身鎧のせいか、まるで龍が銃を操っているようにも見える。
フィリテも、短い詠唱から石つぶてを生み出し、馬の間接に狙いを定めて放つ。
ミカとジャンクもまた、シルヴィアとフィリテを上手く支援し、流れるように射撃を続け、攻撃の手が途切れないように図っていたが……ハイルタイの進軍スピードが落ちる様子もない。
巨馬からしたら、足元に子犬が走り回っているような感覚なのかもしれない。
こちらに気を払う様子がないなら、何回でも打ち込んでやるまでだ。
幾度となく打ち込まれる4人の攻撃。
だが、馬が止まる気配はない。何しろ馬も巨体なだけあって一歩が大きく、軍馬の足で攻撃範囲内を保ち続けているのがやっとの状態だ。
こうしている間もじわじわと迫る塔。
ハイルタイの射程範囲がどのくらいなのか分からないが、早く止めないと塔が危険だ……!
「うおおおおお!!」
「これ以上先は行かせないんだぞ、と!!」
そこに飛び込んだオウガとアルト。
だが、CAMに近い高さがあるのだ。立ち塞がろうにも、軽々と飛び越えられてしまう。
追いすがりながらでは微妙に武器が届かない……!
「援護するよ!」
「進んでください!」
聞こえて来るフィリテとシルヴィアの声。
二人は、巨馬の目に向けて燃える炎の矢と銃撃を浴びせる。
視界を遮られることに苛立ったのか、若干緩まる巨馬の足運び。
オウガとアルトは、その隙を逃さなかった。
「どうせ俺達は近寄らなきゃはじまらねえ! いっくぜえええ!」
「おう! やるしかないな、と……!」
軍馬を奮い立たせ、踵を返して再度突撃を図る二人。
こんな所で落馬して巨馬に踏み潰されでもしたらタダでは済まない。
二人は何とか体勢を立て直すと、渾身の力を込めて、アックスとハンマーを振り下ろす……!
次の瞬間、ビクリ、と巨馬の身体が揺れた。
馬の巨体からすれば傷は浅いのかもしれないが、痛みは感じたらしい。
微かにスピードを緩めた愛馬の様子で――ハイルタイはようやくハンター達を『妨害』と認識したようだった。
「……何だ。面倒事を増やしよってからに……」
「……久しぶりだな、弓野郎。面倒臭がりの癖に毎度顔出してんじゃねーよ」
「好きで出向いた訳ではない」
「そう言うな。歓迎してない訳じゃないんだぜ」
イブリスを一瞥したハイルタイは、それ以上話すのが面倒になったのか、徐に弦を引く。
「……狙いは塔です!」
「させるか!」
「イェルズさん! 馬頼む!」
周囲にくまなく目線を走らせていたシルヴィアとイブリス、ミカが叫んだのはほぼ同時。
ハイルタイに向かって放たれるシルヴィアの冷気を纏った弾丸。
凄まじい威力を持った矢目掛けてイブリスが手裏剣を投げ、ミカの盾を使った高速移動……文字通り人間大砲も追撃をかける。
――ギィイイィン!!
矢と手裏剣、盾がぶつかる事で生まれる激しい衝撃音。
軌道は確かに逸れたが……遠くて、どこに向かったのか分からない。
ただ、塔の上部から、ガラガラという音が聞こえるという事は……残念ながら、何らかのダメージはあったのかもしれない。
「ミカさん! 無茶ですよ……!」
「イテテ……まあ、生きてるし軌道は逸れたし良しとしてくれ」
矢に弾かれ、そのまま地面に落ちたミカを助け起こすイェルズ。
霧華はハイルタイの前に歩み寄ると、深々と頭を下げる。
「初めまして。白神 霧華と申します」
「……は? 何の真似だ」
「いえ、何故あなたがここに来た理由が気になりましたので……教えて戴こうかと思いまして」
ハイルタイにまるで道端の石ころをみるような目を向けられ、早鐘のように打つ鼓動。
歪虚から感じる殺気――いつ、二発目を仕掛けられてもおかしくはない。
少しでも言葉で時間を稼げたら……彼女は臆する事なく、ハイルタイを見上げる。
「……何故、塔に執着されるのです?」
「何故そのような事を気にする?」
「いんやぁ。ハイルタイの旦那がこんな所にまで足伸ばすなんざ、突然勤労意欲に目覚めたかって聞きたくもなるわな」
……ったく、とっとと帰ってくれんもんかね。
内心毒づきながら、肩を竦めるジャンク。
歪虚の目線がこちらに移ったのを感じて、彼は続ける。
「お仲間のロックな爺さんもあの塔に向かったらしいじゃねえか。わざわざあんたが掃除しに寝床から出て来るなんざ、面倒な事この上ないだろうがよ」
「BADDASは仲間ではない。勘違いするな」
「へえ? ……で、あの塔はいい寝床になりそうか? ぶっ壊したらただの瓦礫の山。枕代わりにもなんねえぜ」
「瓦礫になろうが何だろうが、静かになって眠れるなら何でもいいわい」
「……安眠さえ出来ればお帰り戴けるのですか?」
「そうだな。考えてやらん事もない」
「そうか。んじゃ、良い事を教えてやるぜ。……この騒ぎもすぐ収まる」
真剣な眼差しの霧華とニヤリと笑うジャンクに、ほう? と呟き眉を上げるハイルタイ。
どうやら気が引けたらしい。彼は内心ガッツポーズをしながら続ける。
「次に騒がしくなるのはあんたにゃ関係のない遠い遠い東方だ。黙ってりゃ嵐は過ぎる。とっとと帰って寝た方がよっぽど建設的だとは思わねえか? ……まあ、『旦那が何もしなけりゃ』が頭に付くが。このままやりあって大事な馬が怪我して、自分の足で帰るのなんざ一番面倒だろ」
「……お前達は何か思い違いをしている。儂は次に騒がしくなる場所など興味はない」
「では一体何が嫌だと仰るんです……?」
「お前達には聞こえぬのか? このやかましい大幻獣の遠吠えが」
忌々しげに塔を睨むハイルタイ。
――ヴォォォォ!
大地を震わせ鳴り響く遠吠え。
これは、大幻獣が選ばれし者を呼ぶ声――。
「……吼える声が煩かったのですか? だったら、大幻獣の声が届かぬ場所に……」
「話はここまでだ。面倒だが……わしの馬に傷をつけた礼はせねばな」
一方的に終わりを告げられる会話。
ハイルタイも流石に飽きたのだろう。ここまで会話を引き伸ばせただけでも御の字としなければならないが……。
「あーもー! いつまで居座る気だ! とっとと帰れよ!」
「帰らないとお前の大事な馬にもう一撃くれてやるぞ、と!」
これ以上の交渉は無理と悟ったオウガとアルトがそれぞれ武器を構えた途端、弓を構えるハイルタイ。
番えられる巨大な矢。
それは、確かに彼らを狙っていて――。
「ダメ! オウガ!」
「来ます!! 伏せてくださいッ!!!」
フィリテとの悲鳴に近い声。
――考えるより先に、身体が動いた。
盾を手にした霧華と、アースウォールを作り上げたフィリテが仲間達の前に立ちはだかり……。
ドンッ!!
「く……あっ!!」
「くぅっ……」
次の瞬間、襲い来る激しい衝撃と烈風。
土と石礫と一緒に巻き上げられ、オウガとアルトと馬達が地面に叩き付けられる。
血を流し、地に伏すフィリテ。彼女の作り上げた壁は一瞬で崩れ、烈風の中に消えて行く。
霧華の身体に走る鋭い痛み。身体が熱い。見ると腕の肉が刳られている。
矢の直撃を受け、盾も遠方に吹き飛ばされていた。
「そうこなくっちゃな! 馬野郎!」
挑発するイブリス。それに、ハイルタイは興味がないのかこちらを見ようとしない。
シルヴィアが何度も冷気を纏った弾丸をハイルタイに浴びせているが、効いた様子はない。
ハイルタイの連射を凌げる者など、現状いないが、タダで帰る気はない。
再び矢を番えるハイルタイ。それは、間違いなく塔を狙っていて……。
矢を受けた仲間達はもう動けまい。それほどまでに深いダメージを負っている。
あと自分達に出来る事は、極力塔に矢が届かないようにする事だけ――。
「……!? おい! 嬢ちゃん何やってる! 無理だって!!」
ジャンクの叫び。シルヴィアの鎧の奥に見える瞳。決意に満ちた戦士の目だ。
塔に向けて放たれた矢。それを体を張って受けようと走る彼女。
盾を構えて、足に力を入れて……刹那、身体が宙に浮いた。
「……うあっ!」
どさり、と重たい音がして、そのまま大地に転がる。
激しい衝撃と烈風が続く中、口に広がる鉄の味。己が負った傷もかなり深い事を覚る。
鎧の肩のパーツが弾き飛ばされ、そこからも次々と赤い血が溢れだしていた。
「……ったく、割に合わない仕事だな」
「さーて、絶対絶命ってとこか。どーすっかね」
「俺の経験上の話だが……奴さん、もうすぐ飽きると思うぜ」
ため息をつくミカ。ジャンクは喋っている内容の割に飄々としていて……。
間合いを見極めながら呟くイブリスに、ミカが首を傾げる。
「……もうすぐ飽きるって、一体どれくらいだ?」
「さてな。あと一撃か二撃ってとこじゃないか」
「やれやれ。簡単に言ってくれるねぇ」
「こうなったらイチかバチかだ! 矢の軌道を逸らす! イェルズさん手伝え! イブリスさんとジャンクさんは支援頼む!」
「分かりましたっ!」
「了解」
「あいよ!」
走り出すミカの後を追うイェルズ。イブリスとジャンクも散会する。
「相手をしてやる! こっちを見ろ!」
馬の足や身体を器用に踏み台にして駆け上がるイブリス。
馬の頭に立たれてさすがに無視できなくなったのか、ハイルタイは心底面倒臭そうに彼を一瞥する。
「小煩い蝿が……大人しくしていろ」
「俺は蝿じゃない。イブリス・アリアだ。よーく覚えておくんだな!」
言うや否や、手裏剣を投げようとした彼。
ハイルタイがその巨体を信じられないスピードで動かし、矢を番えて……。
この巨大な歪虚には幾度となく会い、剣を交えていたから……瞬時に動けた。
「ジャンク! 伏せろ!」
「うおあああああ!?」
銃から弾丸を放っていたジャンクだったが、イブリスの鋭い叫びに咄嗟に身を伏せる。
次の瞬間、放たれた矢。矢を包む狂ったように吹きすさぶ烈風。
その風圧でイブリスとジャンクを吹き飛ばし、まっすぐに塔に向かう矢。
「イェルズさん! 気合入れろ!」
「分かりました!」
それにミカとイェルズが再び突撃をかける――!
――ガキイィイィン!!
辺りに響く耳が割れんばかりの衝撃音。
……最初に矢の軌道を逸らした時、既に怪我を追っていたミカ。そして武器で矢を受け止めきれず吹き飛ばされたイェルズもまた、深い傷を負ってその場に倒れる。
しかし、2人の捨て身の攻撃は僅かではあったが、矢の軌道を逸らし……そして塔の方角から、衝撃波が炸裂する音が聞こえた。
「……どうする。まだやるか?」
本当は立っているのもやっとだが、覚られぬように必死に歯を食いしばるイブリス。
「……興醒めだ。疲れた。帰る」
突然のハイルタイ言葉。彼は手綱を引き、馬首を巡らすと拍子抜けするほどあっさりと……その場を後にした。
「やりたい放題やりやがって、くそ……! おい、霧華、生きてるか!?」
「はい。何とか……アルトさんは?」
「俺も生きてるぞ、と。シルヴィアは? ……って、あああ……埴輪割れた……!」
「問題ありません。埴輪は残念でしたが命があるだけ良いと思ってください」
「フィリテ……こんな傷だらけになっちまって。守れなくてすまん」
「大丈夫よ、オウガ。こんな怪我すぐに治るよ」
「族長、褒めてくれますかね……」
「……ああ、皆良く頑張ったな。さ、こんなとこに長居は無用だ。早く帰って傷の治療すっぞ」
乱暴な言葉の中に、ジャンクの気遣いを感じて微かに頷く仲間達。
ここから塔の様子は見えない。
矢を防ぎきれたのかどうか、塔を守れたのか、ハッキリとは分からないけれど……。
今回は不覚を取ったが、いつの日か本気の一撃を受けきってみせる、と霧華は心に誓う。
「……次は殺せるかねぇ。楽しみだ」
去り行くハイルタイの背を見ながら、イブリスはふう……と煙草の煙を吐き出した。
ジャンク(ka4072)が軍馬の首をぽんぽんと叩くと、馬が応えるように嘶く。
――聞き分けのいい子だ。いい軍馬は財産だ。きちんと帰してやりたいと思う。
「……来ましたね」
シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)の呟きに、顔を上げたミカ・コバライネン(ka0340)。
遠目からでも分かるハイルタイの巨体。そしてそれを運ぶこれまた大きな馬に、彼は咥えていた煙草を揉み消す。
――世界の危機、大幻獣、ハイルタイ、オイマト族。
放っておけないのは同感で……。
歪虚が1匹でも減らせるなら……たまには命懸けの嫌がらせも悪くない。
「ま、報酬期待しておこうか」
「えっ。報酬足りなかったですか?!」
「さーてね。まあ、首尾よく行ったら酒の1杯でもつけてくれ」
慌てるイェルズに、クククと笑うミカ。イブリス・アリア(ka3359)がため息をつく。
「しかし、あの野郎も暇だな。何だかんだでこうやって出て来るんだから」
「大人しく寝ててくれた方が有難いんですけどね」
「それは困るな。出てきてくれなきゃあいつを殺せない」
「イブリスさん? 今回の目的は……」
「分かってるよ。逸脱する気はない」
どこか楽しげな彼に、眉を上げた白神 霧華(ka0915)。それにイブリスは肩を竦める。
「それじゃまあ、デカブツへの嫌がらせにいくとするかねぇ」
「ひとまず狙うべきは馬……かしら」
「だな。作戦が上手くいくといいが……。ま、考えても仕方がないさね。ここまで来たらやるしかないな、と」
お守りの埴輪を胸に入れながら言うアルト・ハーニー(ka0113)に小首を傾げるフィリテ・ノート(ka0810)。続けたアルトに、オウガ(ka2124)もこくりと頷く。
「ひとまず左右に分かれよう。……フィリテはくれぐれも無理すんなよ」
「うん。オウガも気をつけてね」
「……それでは、援護します。行ってください」
静かなシルヴィアの声に応えるように、軍馬を駆るハンター達。
――それが、戦端を開く合図となった。
「うわっ。なんつーデカさだよ……!」
「上手いこと近づけるよう祈るんだぜ。俺かオウガ、どっちかだけでも近づければいいわけだしな、と」
ハイルタイに接近を試みるオウガから思わず漏れた本音に、アルトがふう、と息を吐く。
馬を駆る怠惰の歪虚。それは巨体……というのを通り越して、ハンター達が見上げる空を覆いそうなほどだ。
圧倒的な体格差。こんなの、正直止められるかどうか分からないけど……!
「行くよ!」
「お願いします」
「んじゃ頼むよ、ジャンク」
「副隊長殿の頼みじゃ仕方ねえ。いっちょやりますか」
フィリテの声に応え、散会するシルヴィアとミカ、ジャンク。
――彼らの役割は、前衛の者達がハイルタイに近づき、攻撃範囲内に入るまでひきつけておくことだ。
ついでに、注意を塔からこちらに向け、足止めが出来たら理想的なのだが……。
軍馬の上から巨馬に向けて銃弾を放つシルヴィアは、着ている全身鎧のせいか、まるで龍が銃を操っているようにも見える。
フィリテも、短い詠唱から石つぶてを生み出し、馬の間接に狙いを定めて放つ。
ミカとジャンクもまた、シルヴィアとフィリテを上手く支援し、流れるように射撃を続け、攻撃の手が途切れないように図っていたが……ハイルタイの進軍スピードが落ちる様子もない。
巨馬からしたら、足元に子犬が走り回っているような感覚なのかもしれない。
こちらに気を払う様子がないなら、何回でも打ち込んでやるまでだ。
幾度となく打ち込まれる4人の攻撃。
だが、馬が止まる気配はない。何しろ馬も巨体なだけあって一歩が大きく、軍馬の足で攻撃範囲内を保ち続けているのがやっとの状態だ。
こうしている間もじわじわと迫る塔。
ハイルタイの射程範囲がどのくらいなのか分からないが、早く止めないと塔が危険だ……!
「うおおおおお!!」
「これ以上先は行かせないんだぞ、と!!」
そこに飛び込んだオウガとアルト。
だが、CAMに近い高さがあるのだ。立ち塞がろうにも、軽々と飛び越えられてしまう。
追いすがりながらでは微妙に武器が届かない……!
「援護するよ!」
「進んでください!」
聞こえて来るフィリテとシルヴィアの声。
二人は、巨馬の目に向けて燃える炎の矢と銃撃を浴びせる。
視界を遮られることに苛立ったのか、若干緩まる巨馬の足運び。
オウガとアルトは、その隙を逃さなかった。
「どうせ俺達は近寄らなきゃはじまらねえ! いっくぜえええ!」
「おう! やるしかないな、と……!」
軍馬を奮い立たせ、踵を返して再度突撃を図る二人。
こんな所で落馬して巨馬に踏み潰されでもしたらタダでは済まない。
二人は何とか体勢を立て直すと、渾身の力を込めて、アックスとハンマーを振り下ろす……!
次の瞬間、ビクリ、と巨馬の身体が揺れた。
馬の巨体からすれば傷は浅いのかもしれないが、痛みは感じたらしい。
微かにスピードを緩めた愛馬の様子で――ハイルタイはようやくハンター達を『妨害』と認識したようだった。
「……何だ。面倒事を増やしよってからに……」
「……久しぶりだな、弓野郎。面倒臭がりの癖に毎度顔出してんじゃねーよ」
「好きで出向いた訳ではない」
「そう言うな。歓迎してない訳じゃないんだぜ」
イブリスを一瞥したハイルタイは、それ以上話すのが面倒になったのか、徐に弦を引く。
「……狙いは塔です!」
「させるか!」
「イェルズさん! 馬頼む!」
周囲にくまなく目線を走らせていたシルヴィアとイブリス、ミカが叫んだのはほぼ同時。
ハイルタイに向かって放たれるシルヴィアの冷気を纏った弾丸。
凄まじい威力を持った矢目掛けてイブリスが手裏剣を投げ、ミカの盾を使った高速移動……文字通り人間大砲も追撃をかける。
――ギィイイィン!!
矢と手裏剣、盾がぶつかる事で生まれる激しい衝撃音。
軌道は確かに逸れたが……遠くて、どこに向かったのか分からない。
ただ、塔の上部から、ガラガラという音が聞こえるという事は……残念ながら、何らかのダメージはあったのかもしれない。
「ミカさん! 無茶ですよ……!」
「イテテ……まあ、生きてるし軌道は逸れたし良しとしてくれ」
矢に弾かれ、そのまま地面に落ちたミカを助け起こすイェルズ。
霧華はハイルタイの前に歩み寄ると、深々と頭を下げる。
「初めまして。白神 霧華と申します」
「……は? 何の真似だ」
「いえ、何故あなたがここに来た理由が気になりましたので……教えて戴こうかと思いまして」
ハイルタイにまるで道端の石ころをみるような目を向けられ、早鐘のように打つ鼓動。
歪虚から感じる殺気――いつ、二発目を仕掛けられてもおかしくはない。
少しでも言葉で時間を稼げたら……彼女は臆する事なく、ハイルタイを見上げる。
「……何故、塔に執着されるのです?」
「何故そのような事を気にする?」
「いんやぁ。ハイルタイの旦那がこんな所にまで足伸ばすなんざ、突然勤労意欲に目覚めたかって聞きたくもなるわな」
……ったく、とっとと帰ってくれんもんかね。
内心毒づきながら、肩を竦めるジャンク。
歪虚の目線がこちらに移ったのを感じて、彼は続ける。
「お仲間のロックな爺さんもあの塔に向かったらしいじゃねえか。わざわざあんたが掃除しに寝床から出て来るなんざ、面倒な事この上ないだろうがよ」
「BADDASは仲間ではない。勘違いするな」
「へえ? ……で、あの塔はいい寝床になりそうか? ぶっ壊したらただの瓦礫の山。枕代わりにもなんねえぜ」
「瓦礫になろうが何だろうが、静かになって眠れるなら何でもいいわい」
「……安眠さえ出来ればお帰り戴けるのですか?」
「そうだな。考えてやらん事もない」
「そうか。んじゃ、良い事を教えてやるぜ。……この騒ぎもすぐ収まる」
真剣な眼差しの霧華とニヤリと笑うジャンクに、ほう? と呟き眉を上げるハイルタイ。
どうやら気が引けたらしい。彼は内心ガッツポーズをしながら続ける。
「次に騒がしくなるのはあんたにゃ関係のない遠い遠い東方だ。黙ってりゃ嵐は過ぎる。とっとと帰って寝た方がよっぽど建設的だとは思わねえか? ……まあ、『旦那が何もしなけりゃ』が頭に付くが。このままやりあって大事な馬が怪我して、自分の足で帰るのなんざ一番面倒だろ」
「……お前達は何か思い違いをしている。儂は次に騒がしくなる場所など興味はない」
「では一体何が嫌だと仰るんです……?」
「お前達には聞こえぬのか? このやかましい大幻獣の遠吠えが」
忌々しげに塔を睨むハイルタイ。
――ヴォォォォ!
大地を震わせ鳴り響く遠吠え。
これは、大幻獣が選ばれし者を呼ぶ声――。
「……吼える声が煩かったのですか? だったら、大幻獣の声が届かぬ場所に……」
「話はここまでだ。面倒だが……わしの馬に傷をつけた礼はせねばな」
一方的に終わりを告げられる会話。
ハイルタイも流石に飽きたのだろう。ここまで会話を引き伸ばせただけでも御の字としなければならないが……。
「あーもー! いつまで居座る気だ! とっとと帰れよ!」
「帰らないとお前の大事な馬にもう一撃くれてやるぞ、と!」
これ以上の交渉は無理と悟ったオウガとアルトがそれぞれ武器を構えた途端、弓を構えるハイルタイ。
番えられる巨大な矢。
それは、確かに彼らを狙っていて――。
「ダメ! オウガ!」
「来ます!! 伏せてくださいッ!!!」
フィリテとの悲鳴に近い声。
――考えるより先に、身体が動いた。
盾を手にした霧華と、アースウォールを作り上げたフィリテが仲間達の前に立ちはだかり……。
ドンッ!!
「く……あっ!!」
「くぅっ……」
次の瞬間、襲い来る激しい衝撃と烈風。
土と石礫と一緒に巻き上げられ、オウガとアルトと馬達が地面に叩き付けられる。
血を流し、地に伏すフィリテ。彼女の作り上げた壁は一瞬で崩れ、烈風の中に消えて行く。
霧華の身体に走る鋭い痛み。身体が熱い。見ると腕の肉が刳られている。
矢の直撃を受け、盾も遠方に吹き飛ばされていた。
「そうこなくっちゃな! 馬野郎!」
挑発するイブリス。それに、ハイルタイは興味がないのかこちらを見ようとしない。
シルヴィアが何度も冷気を纏った弾丸をハイルタイに浴びせているが、効いた様子はない。
ハイルタイの連射を凌げる者など、現状いないが、タダで帰る気はない。
再び矢を番えるハイルタイ。それは、間違いなく塔を狙っていて……。
矢を受けた仲間達はもう動けまい。それほどまでに深いダメージを負っている。
あと自分達に出来る事は、極力塔に矢が届かないようにする事だけ――。
「……!? おい! 嬢ちゃん何やってる! 無理だって!!」
ジャンクの叫び。シルヴィアの鎧の奥に見える瞳。決意に満ちた戦士の目だ。
塔に向けて放たれた矢。それを体を張って受けようと走る彼女。
盾を構えて、足に力を入れて……刹那、身体が宙に浮いた。
「……うあっ!」
どさり、と重たい音がして、そのまま大地に転がる。
激しい衝撃と烈風が続く中、口に広がる鉄の味。己が負った傷もかなり深い事を覚る。
鎧の肩のパーツが弾き飛ばされ、そこからも次々と赤い血が溢れだしていた。
「……ったく、割に合わない仕事だな」
「さーて、絶対絶命ってとこか。どーすっかね」
「俺の経験上の話だが……奴さん、もうすぐ飽きると思うぜ」
ため息をつくミカ。ジャンクは喋っている内容の割に飄々としていて……。
間合いを見極めながら呟くイブリスに、ミカが首を傾げる。
「……もうすぐ飽きるって、一体どれくらいだ?」
「さてな。あと一撃か二撃ってとこじゃないか」
「やれやれ。簡単に言ってくれるねぇ」
「こうなったらイチかバチかだ! 矢の軌道を逸らす! イェルズさん手伝え! イブリスさんとジャンクさんは支援頼む!」
「分かりましたっ!」
「了解」
「あいよ!」
走り出すミカの後を追うイェルズ。イブリスとジャンクも散会する。
「相手をしてやる! こっちを見ろ!」
馬の足や身体を器用に踏み台にして駆け上がるイブリス。
馬の頭に立たれてさすがに無視できなくなったのか、ハイルタイは心底面倒臭そうに彼を一瞥する。
「小煩い蝿が……大人しくしていろ」
「俺は蝿じゃない。イブリス・アリアだ。よーく覚えておくんだな!」
言うや否や、手裏剣を投げようとした彼。
ハイルタイがその巨体を信じられないスピードで動かし、矢を番えて……。
この巨大な歪虚には幾度となく会い、剣を交えていたから……瞬時に動けた。
「ジャンク! 伏せろ!」
「うおあああああ!?」
銃から弾丸を放っていたジャンクだったが、イブリスの鋭い叫びに咄嗟に身を伏せる。
次の瞬間、放たれた矢。矢を包む狂ったように吹きすさぶ烈風。
その風圧でイブリスとジャンクを吹き飛ばし、まっすぐに塔に向かう矢。
「イェルズさん! 気合入れろ!」
「分かりました!」
それにミカとイェルズが再び突撃をかける――!
――ガキイィイィン!!
辺りに響く耳が割れんばかりの衝撃音。
……最初に矢の軌道を逸らした時、既に怪我を追っていたミカ。そして武器で矢を受け止めきれず吹き飛ばされたイェルズもまた、深い傷を負ってその場に倒れる。
しかし、2人の捨て身の攻撃は僅かではあったが、矢の軌道を逸らし……そして塔の方角から、衝撃波が炸裂する音が聞こえた。
「……どうする。まだやるか?」
本当は立っているのもやっとだが、覚られぬように必死に歯を食いしばるイブリス。
「……興醒めだ。疲れた。帰る」
突然のハイルタイ言葉。彼は手綱を引き、馬首を巡らすと拍子抜けするほどあっさりと……その場を後にした。
「やりたい放題やりやがって、くそ……! おい、霧華、生きてるか!?」
「はい。何とか……アルトさんは?」
「俺も生きてるぞ、と。シルヴィアは? ……って、あああ……埴輪割れた……!」
「問題ありません。埴輪は残念でしたが命があるだけ良いと思ってください」
「フィリテ……こんな傷だらけになっちまって。守れなくてすまん」
「大丈夫よ、オウガ。こんな怪我すぐに治るよ」
「族長、褒めてくれますかね……」
「……ああ、皆良く頑張ったな。さ、こんなとこに長居は無用だ。早く帰って傷の治療すっぞ」
乱暴な言葉の中に、ジャンクの気遣いを感じて微かに頷く仲間達。
ここから塔の様子は見えない。
矢を防ぎきれたのかどうか、塔を守れたのか、ハッキリとは分からないけれど……。
今回は不覚を取ったが、いつの日か本気の一撃を受けきってみせる、と霧華は心に誓う。
「……次は殺せるかねぇ。楽しみだ」
去り行くハイルタイの背を見ながら、イブリスはふう……と煙草の煙を吐き出した。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 ジャンク(ka4072) 人間(クリムゾンウェスト)|53才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/07/09 20:20:35 |
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相談卓 ジャンク(ka4072) 人間(クリムゾンウェスト)|53才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/07/13 10:33:37 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/09 08:17:25 |