ゲスト
(ka0000)
農園を守れ!
マスター:北生見理一

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/18 09:00
- 完成日
- 2015/07/20 16:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●炎上
深夜、けたたましく騒ぐ犬の吠え声に、ルリエは起こされた。
弟たちも起きてきて、二段ベッドから顔をのぞかせる。
「ちょっと見てくる。貴方たちは外に出ないで」
と、ルリエは寝間着のまま外に出た。
戸を開けた瞬間、息を呑む。
北の空が真っ赤になっていた。
ルリエたちが働く農園は、東西南北にそれぞれ畑が広がる。もともとは村人に見向きもされない荒れ地に過ぎなかった。
それを、ようやく収穫できるまでにしたというのに。
一体なにが、とルリエは目を凝らす。
ルリエと弟たちの汗を吸い込んだ畑。
それが、燃えていた。
●依頼内容
「依頼が入っています」
ハンターソサエティ本部の一室。
円卓の正面の壁に見慣れない地図が貼られてあった。
職員が事務的な口調で述べる。
「依頼人はルリエ嬢、18歳。農園の責任者です。彼女は弟たちと一緒に荒れ地を開墾。ようやく今年、収穫が見込めるようになったのだとか。しかし、そこをゴブリンに狙われてしまいました」
ゴブリンが農作物を盗むのはよくある話だ。
しかし、ルリエたちが抱える事情は、少々深刻だった。
「ルリエ嬢たちの父親は、歪虚との戦いで兵士として出征しました。しかし、彼は戦いの中、逃亡してしまったのです。以来、行方が知れません。保護者を失ったルリエ嬢たちに村長が与えたのが、荒れ地だったというわけです」
ひどい話だ。
職員も怒りをにじませる。
「私も、村長の対応は度が過ぎていると思います」
職員はテーブルの上で拳を強く握った。
「歪虚との戦いで兵士が逃亡することはざらにあることです。それほど歪虚とは恐ろしいもの。だというのに、村長はその責任を子供たちに負わせたのです。人間として、村長はどうかしていると言わざるを得ません」
職員がそう語るのも無理はないだろう。
この職員は淡々としていながらも、いつもより熱が入っているように見えた。
声音はいつもように硬いが。
次いで、職員は実務的な話に移った。
「襲われたのは北の畑です。ゴブリンは粗方、農作物を盗み、持ちきれないものは焼き払ってしまいました。残るのは、東、西、南の畑です。この三つも危険にされされていると見ていいでしょう」
地形についてもご説明します、と職員は席を立って地図に歩み寄る。
農園を荒れ果てた土地が囲む。
「北から東にかけて、沼地が広がっています。西には森。南には村に通じる道が伸びていますね」
それと、と職員は北の畑を指差した。
「北の畑から沼地にかけて、泥の付いたゴブリンたちの足跡が残っていたそうです。人数は10匹前後。驚くべきことですが、ゴブリンたちは沼地を越えて農園を襲っているようですね。みなさんはくれぐれも真似をしないでください。下手をしたら、沼に沈んでしまいます」
沼に沈めば、いかにハンターといえども助からない。
職員の懸念はもっともだった。
そこで職員は私見を述べる。
「ゴブリンが沼地から来ており、北の畑が真っ先に襲われたというのは、おそらく距離的に近いからでしょう。となると、次に襲われるのは東にあるトウモロコシ畑と考えるのが自然でしょう」
ゴブリンは悪知恵が働くものの、その知恵は総じて浅い。
職員の推測はあながち間違いではないだろう。
次に、職員はトウモロコシ畑について説明する。
「御存知の通り、トウモロコシは成長すると2メートルに達します。そこにゴブリンが入り込めば、見つけるのは容易ではありません。ゴブリンがトウモロコシ畑に入る前に捕捉する必要があるでしょう」
だが、一体どうやって?
その方法について、職員はハンターたちに示唆を与えた。
「ルリエ嬢たちが飼っている犬は、父親がゴブリン討伐に使っていた軍用犬で、ゴブリンの臭いを嗅ぎ取ることができるそうです。年老いて軍務から引退した犬ですが、まだ役に立つかもしれませんね」
最後に職員は一通の手紙を取り出す。
「ルリエ嬢から手紙を預かっています。これを読んで、依頼を受けるかどうか考えてみてください」
●ルリエからの手紙
――ハンター様へ。
私はルリエと申します。
今回、みなさんにお願いしたいことがあって筆を執りました。
ゴブリンに狙われ、私たちの農園は危機に陥っています。
私は弟たちと一緒に、必死になって荒れ地を開墾しました。その収穫がようやく見込めるというのに、私たちの努力は灰になろうとしているのです。弟たちの中にはゴブリンと戦うと息巻いている子もいます。必死で止めていますが、いつまで抑えられるか不安です。
弟たちはたくましくなりましたが、やはりまだ子供です。
ゴブリンには敵わないでしょう。
力を持った人でないとゴブリンには敵わないと思います。
そう、貴方のような。
私たちには貴方が必要です。
貧しい私たちには貴方を満足させる報酬は用意できません。それでも私たちは貴方が到着されるのを待っています。
お願いします。
私たちを助けて下さい。
深夜、けたたましく騒ぐ犬の吠え声に、ルリエは起こされた。
弟たちも起きてきて、二段ベッドから顔をのぞかせる。
「ちょっと見てくる。貴方たちは外に出ないで」
と、ルリエは寝間着のまま外に出た。
戸を開けた瞬間、息を呑む。
北の空が真っ赤になっていた。
ルリエたちが働く農園は、東西南北にそれぞれ畑が広がる。もともとは村人に見向きもされない荒れ地に過ぎなかった。
それを、ようやく収穫できるまでにしたというのに。
一体なにが、とルリエは目を凝らす。
ルリエと弟たちの汗を吸い込んだ畑。
それが、燃えていた。
●依頼内容
「依頼が入っています」
ハンターソサエティ本部の一室。
円卓の正面の壁に見慣れない地図が貼られてあった。
職員が事務的な口調で述べる。
「依頼人はルリエ嬢、18歳。農園の責任者です。彼女は弟たちと一緒に荒れ地を開墾。ようやく今年、収穫が見込めるようになったのだとか。しかし、そこをゴブリンに狙われてしまいました」
ゴブリンが農作物を盗むのはよくある話だ。
しかし、ルリエたちが抱える事情は、少々深刻だった。
「ルリエ嬢たちの父親は、歪虚との戦いで兵士として出征しました。しかし、彼は戦いの中、逃亡してしまったのです。以来、行方が知れません。保護者を失ったルリエ嬢たちに村長が与えたのが、荒れ地だったというわけです」
ひどい話だ。
職員も怒りをにじませる。
「私も、村長の対応は度が過ぎていると思います」
職員はテーブルの上で拳を強く握った。
「歪虚との戦いで兵士が逃亡することはざらにあることです。それほど歪虚とは恐ろしいもの。だというのに、村長はその責任を子供たちに負わせたのです。人間として、村長はどうかしていると言わざるを得ません」
職員がそう語るのも無理はないだろう。
この職員は淡々としていながらも、いつもより熱が入っているように見えた。
声音はいつもように硬いが。
次いで、職員は実務的な話に移った。
「襲われたのは北の畑です。ゴブリンは粗方、農作物を盗み、持ちきれないものは焼き払ってしまいました。残るのは、東、西、南の畑です。この三つも危険にされされていると見ていいでしょう」
地形についてもご説明します、と職員は席を立って地図に歩み寄る。
農園を荒れ果てた土地が囲む。
「北から東にかけて、沼地が広がっています。西には森。南には村に通じる道が伸びていますね」
それと、と職員は北の畑を指差した。
「北の畑から沼地にかけて、泥の付いたゴブリンたちの足跡が残っていたそうです。人数は10匹前後。驚くべきことですが、ゴブリンたちは沼地を越えて農園を襲っているようですね。みなさんはくれぐれも真似をしないでください。下手をしたら、沼に沈んでしまいます」
沼に沈めば、いかにハンターといえども助からない。
職員の懸念はもっともだった。
そこで職員は私見を述べる。
「ゴブリンが沼地から来ており、北の畑が真っ先に襲われたというのは、おそらく距離的に近いからでしょう。となると、次に襲われるのは東にあるトウモロコシ畑と考えるのが自然でしょう」
ゴブリンは悪知恵が働くものの、その知恵は総じて浅い。
職員の推測はあながち間違いではないだろう。
次に、職員はトウモロコシ畑について説明する。
「御存知の通り、トウモロコシは成長すると2メートルに達します。そこにゴブリンが入り込めば、見つけるのは容易ではありません。ゴブリンがトウモロコシ畑に入る前に捕捉する必要があるでしょう」
だが、一体どうやって?
その方法について、職員はハンターたちに示唆を与えた。
「ルリエ嬢たちが飼っている犬は、父親がゴブリン討伐に使っていた軍用犬で、ゴブリンの臭いを嗅ぎ取ることができるそうです。年老いて軍務から引退した犬ですが、まだ役に立つかもしれませんね」
最後に職員は一通の手紙を取り出す。
「ルリエ嬢から手紙を預かっています。これを読んで、依頼を受けるかどうか考えてみてください」
●ルリエからの手紙
――ハンター様へ。
私はルリエと申します。
今回、みなさんにお願いしたいことがあって筆を執りました。
ゴブリンに狙われ、私たちの農園は危機に陥っています。
私は弟たちと一緒に、必死になって荒れ地を開墾しました。その収穫がようやく見込めるというのに、私たちの努力は灰になろうとしているのです。弟たちの中にはゴブリンと戦うと息巻いている子もいます。必死で止めていますが、いつまで抑えられるか不安です。
弟たちはたくましくなりましたが、やはりまだ子供です。
ゴブリンには敵わないでしょう。
力を持った人でないとゴブリンには敵わないと思います。
そう、貴方のような。
私たちには貴方が必要です。
貧しい私たちには貴方を満足させる報酬は用意できません。それでも私たちは貴方が到着されるのを待っています。
お願いします。
私たちを助けて下さい。
リプレイ本文
●迎撃準備
「偉いねえ、きみたち」
と、水流崎トミヲ(ka4852)は感心したように呟く。
ルリエの弟たちは、ハンターに混じって鳴子の設置を手伝っていた。僕たちもできることをしたい、と弟たちが申し出たのだ。実際、沼地から農園までの広い荒野に鳴子を設置するには、ハンターたちでは手が足りない。
アズリア=バルナック(ka4002)が額の汗を拭う。
「日が落ちる前に準備が終わりそうだな」
太陽はまだ陰りを見せない。
火椎 帝(ka5027)が別行動を取るウィンス・デイランダール(ka0039)を心配した。
「ウィンスさん、一人で大丈夫かな?」
「大丈夫でしょう」
ラススヴェート(ka5325)が鳴子を設置しながら答えた。
「一人とは言え、ハンターがゴブリンに遅れを取ることはありません。問題は、彼らが逃げた時に討ち漏らさないかということ」
この依頼はゴブリンに勝てばいいわけではない。
それはハンターたちの共通認識だった。
畑を襲うゴブリンから農作物を守り、後顧の憂いを断つ。
できればゴブリンたちを全滅させたいところだった。
しかし、アズリアの聞き込みによれば、ゴブリンの数は10匹前後だという。ずいぶんと多い。
果たして1匹も討ち漏らすことなく倒せるだろうか。
「こっちは終わったぞ」
あちこちに落とし穴を掘って回っていた榊 兵庫(ka0010)が合流した。
誰に向けるでもなく独り言ちる。
「念のためにトウモロコシ畑の周りにも落とし穴を掘っておくか」
「じゃあ、ボクは宴の準備を手伝ってくるね」
トミヲは明るい声を出す。
「さー、宴じゃー」
「トミヲくん、外で夕食を食べるのはゴブリンを誘い出す目的があるんだからね?」
火椎の指摘に、ハンターたちは苦笑した。
●夕食
トウモロコシが焼けたいい匂いが漂う。
涼しくなり始めた風が心地よい。
夕刻、ルリエたちを交えて、ハンターたちは食事にした。
ルリエは取れたばかりの野菜でハンターたちをもてなす。
彼女は、高価な食材を使わずに美味しく調理する腕前を持っていた。
「いっぱい食べてくださいね!」
「遠慮なくいただかせてもらう」
哨戒から戻ってきたウィンスがぶっきらぼうな口調で答えた。
一方で朗らかに笑うのがトミヲだ。
美味い、美味いよ、とトウモロコシをかじる。
トミヲは大いにはしゃいだが、ルリエが微笑みかけると途端に黙り込んで目をそらしてしまう。
それでもルリエは気を悪くする風でもない。
ハンターたちに甲斐甲斐しく給仕した。
ルリエが用意した食事は、決して豪華とは言えない。それでもハンターたちにとってはごちそうだった。ハンターたちは、ルリエと弟たちがどれだけ苦労して麦や野菜を育てたか知っていたから。
粗末な椅子に座り、ハンターたちは楽しげに雑談を交わす。
時に、その話題はこれまでに解決した事件に及ぶ。
その話をルリエの弟たちは目を輝かせて聞いていた。
ハンターにとっては取るに足らない事件でも、弟たちにとっては大冒険に聞こえるのだろう。
「さて、お茶でも淹れますか」
食事が終わったところで、ラススヴェートが全員にお茶を振る舞う。
和やかな時間は日没まで続いた。
●ゴブリン、襲来
あたりはすっかり暗くなった。
火椎は重装馬に乗り、農園から沼地にかけての道のりを警戒する。
老犬を連れていた。
その犬は、なんでも軍用犬だったらしい。兵士だったルリエの父親がゴブリン討伐のために使っていたのだとか。もう老犬だが、まだ役に立つかもしれない。火椎はそう判断した。
「おまえの力、貸してくれな」
と撫でる火椎に、老犬は力強く吠えて応えていた。
今も、確かな足取りで火椎の先を行く。
主人の子供たちが危機に陥っていることを、この老犬は悟っていたのかもしれない。
不意に、火椎の先を歩く老犬が足を止めた。
ぐるる、と唸る。
「どうした?」
火椎がそう尋ねた時。
鳴子の音が遠くから聞こえてきた。
沼地からだ、と火椎は魔導短伝話を取り出す。
「沼地の方だ! ゴブリンが来たかもしれない!」
知らせを受けて、ハンターたちは鳴子が鳴った方向へと急ぐ。
一方で、ラススヴェートの姿はトウモロコシ畑にあった。2メートルに達するトウモロコシに身を隠し、注意深く様子をうかがう。
「他の方々が討ち漏らすことがなければいいのですが」
ラススヴェートが独り言ちる間にも、鳴子は次々と鳴っていった。
ゴブリンたちは移動しているらしい。
最初にゴブリンを捕捉したのは、榊だった。
その数、10匹。
榊は挑発的とも取れる足取りでゴブリンに歩み寄ってゆく。その歩みに力みはない。あくまで自然体のままゴブリンたちを間合いへと引き寄せる。
誘い出される形で3匹のゴブリンが榊を囲む。
――それが榊の狙いだった。
「はぁああっ!」
気合とともに管槍を振るう。
槍の穂先が手足を切り落とし、固い柄の部分が骨を砕く。
瞬く間に3匹のゴブリンが倒された。
槍の兵庫という異名に相応しい手並みだった。
ゴブリンたちはまともに相手をする不利を悟ったのか、散り散りになって榊の間をかすめていった。
残る7匹がめいめいにトウモロコシ畑を目指す。
その1匹の前に火椎が立ち塞がった。
「ここは行かせない!」
オートMURAMASAが閃く。
超振動する刃によってゴブリンがまたも斬り伏せられる。
ゴブリンの数は着実に減っていった。
また1匹、アズリアによって捕捉される。
「余はバルナック家の騎士アズリア! 罪なき人々を苦しめる輩は余の剣で成敗してくれよう!」
騎士剣が闇夜に輝く。
アズリアは一刀のもとにゴブリンを斬り伏せた。
また一方で、雷にも似た光が走った。
トミヲの放ったライトニングだ。
「迸れDT魔力ゥ……ッ!」
その魔力はゴブリンを2匹、黒焦げにした。
残るゴブリンは3匹。
そこへ、ゴースロンを駆るウィンスが馬蹄を響かせてトウモロコシ畑に到着する。
ウィンスは3匹のゴブリンを発見した。
「やらせねえっ」
馬の突進力を乗せて、七色に輝く刃がゴブリンを断つ。
残った2匹のゴブリンに、当初の目的が残っていたかどうか。
ゴブリンの視線の先に2メートルに達するトウモロコシ畑があった。
あそこへ逃げ込めば助かるかもしれない。
そう思ったのか、2匹のゴブリンは死に物狂いでトウモロコシ畑へ走った。
だが、その1匹が急に消え失せた。
「ぐげぇっ」
という気色悪い悲鳴が上がる。
榊が念のためにと掘っておいた落とし穴に引っかかったのだ。
それでもゴブリンは往生際が悪い。
最後に残ったゴブリンがトウモロコシ畑に達しようとした。
その手に松明が燃えていた。
トウモロコシ畑に火を放たれれば――。
ハンターたちに緊張が走る。
その時、トウモロコシ畑の中から一陣の風が走った。
風は鋭さを見せ、松明を持つゴブリンの腕を切り落とす。
「ぎゃあああ!」
ゴブリンは地面をのたうち回った。
そんな見苦しい姿を、トウモロコシ畑に隠れていたラススヴェートが一笑する。
「やはり威勢がいいのは、弱い者イジメの時だけですね」
かくしてゴブリンたちはすべて退治された。
ラススヴェートはトウモロコシ畑から出てきて汚れを払う。
「さて、ご報告に行かねばなりませんね」
それを果たし、ラススヴェートを待つ主のもとに帰らねば。
ラススヴェートは主の姿を思い浮かべた。
●嘘という名の良薬
次の日、村長はウィンスというハンターに呼び出された。
用向きがよく分からない。
それでもハンターからの呼び出しを無視できるものではない。
訝しみながら村長は農園へと向かった。
農園に着いた村長は、大勢の村人が集まっていることに気づく。
村人たちはゴブリンたちの死体やら、ハンターたちが設置した鳴子を回収しているところだった。その協力的な振る舞いは、村人たちがルリエに同情的であることを示していた。
「おまえたち、一体どうした?」
村長は面白くない。
喚き声を上げる村長に、ルリエが歩み寄った。
「後片付けをお願いしているんです。村長こそ、どうしたんですか?」
「いや、わしは……」
なにかがおかしい。
と、村長は本能的に悟った。
今すぐ立ち去るべきか、と思った時、ウィンスが姿を見せた。
「みんな、集まってくれ」
と、ウィンスは村人たちを呼び集めた。
また他のハンターたちも姿を見せる。
その一人、火椎が穏やかに村長に語りかけた。
「見ての通り、ルリエちゃんたちの畑がゴブリンに狙われました。ゴブリンがこれだけとは限らないです。おそらくまだいるんじゃないですか。今度は他の村人の畑を狙うかもしれませんよ」
ざわざわ、と村人たちがざわめく。
一方、トミヲははらはらと様子をうかがっていた。
トミヲは懸念していた。
この確執を刺激することが悪い方向に影響しないかと。
トミヲが陰から見守る中、ウィンスが一歩踏み出した。
ウィンスは村人たちに事情を理解させる。
「この事態に遭遇したそこの、何つった……そう、ルリエはハンター協会に依頼を出した」
ここでウィンスは嘘をひとさじ混ぜる。
その嘘がルリエたちにとって薬となると考えて。
「――このままでは村全体が襲われてしまうと考え、被害を此処で食い止める為にな」
村人たちのざわめきは一層強まった。
ウィンスは自分の言葉が充分に浸透するのを待つ。
たっぷり余裕を持たせてから村長に向き直った。
「で……村長さんよ。彼女はない金絞り出して依頼を出した。だがそれで村全体が助かった……それならあんた、すべき事があるんじゃねーの?」
はめられた!
村長はようやくすべてを悟った。
だが、すでに遅い。
村人たちは次々とまくしたてた。
「そうだ、ルリエたちのおかげで村が助かった!」
「本来なら村がハンターたちを雇うべきだったんだ!」
「そもそも村長はルリエたちに厳し過ぎる!」
「父親が歪虚から逃げ出したのは仕方ないだろ! 誰だって歪虚は怖い!」
次第に、村人たちは村長を責め立てていった。
村長は殺意を込めてウィンスをにらむ。
そのウィンスはどこ吹く風といった風情で村長に迫った。
「さて、村長さん。みんな、あんたの言葉を待ってるぜ」
「ぐ、ぐ……」
村長は顔を真赤にして歯ぎしりした。
もはや状況を変えることはできない。
自分は完全に悪者になってしまった。
これからも村長の座に留まるためには選択肢は一つしかなかった。
村長は声を震わせる。
「分かった……今回の件は、ルリエからではなく、村からの依頼ということにする」
「つまり、村がルリエの代わりに金を出すってことだな?」
わざとらしくウィンスが確認する。
殺してやろうか、と思いながら村長はうなずいた。
「……そうだ」
わぁっ、と村人たちから歓声が上がった。
ルリエはなにが起きたのか信じられない思いで立ち尽くしていた。
彼女たちを巡る状況は一変したのだ。
たったひとさじの嘘で。
そんなルリエに榊が歩み寄った。
榊は懐中から取り出した小切手を渡す。
「受け取ってくれ」
「これは?」
その小切手を見てルリエは目を丸くした。
「20万G……!」
「施しではない」
と榊は強調して続けた。
「これから先復興の資金に不足するようになっては本末転倒だからな。何年か後でも良い。十分に収穫が出来るようになったら、利子を付けて必ず俺に返してくれ。信用して預けるんだ。俺の信頼を裏切らないでくれよ」
ルリエの視界が潤む。
涙をこらえながらルリエは何度もうなずいた。
「はい……必ず……」
ルリエは榊と固い約束を交わした。
彼女を応援したいのは榊だけではなかった。
アズリアが進み出て、寄付を申し出た。
「余も貴公らを支援したい」
その金額にルリエはさらに驚いた。
さすがに、とルリエは固辞した。
「いえ、これ以上いただくわけにはいきません。お気持ちだけで充分です」
「そうか」
だからアズリアは気持ちだけは伝えることにする。
「応援しているぞ」
「はい!」
太陽のような笑顔が咲いた。
「偉いねえ、きみたち」
と、水流崎トミヲ(ka4852)は感心したように呟く。
ルリエの弟たちは、ハンターに混じって鳴子の設置を手伝っていた。僕たちもできることをしたい、と弟たちが申し出たのだ。実際、沼地から農園までの広い荒野に鳴子を設置するには、ハンターたちでは手が足りない。
アズリア=バルナック(ka4002)が額の汗を拭う。
「日が落ちる前に準備が終わりそうだな」
太陽はまだ陰りを見せない。
火椎 帝(ka5027)が別行動を取るウィンス・デイランダール(ka0039)を心配した。
「ウィンスさん、一人で大丈夫かな?」
「大丈夫でしょう」
ラススヴェート(ka5325)が鳴子を設置しながら答えた。
「一人とは言え、ハンターがゴブリンに遅れを取ることはありません。問題は、彼らが逃げた時に討ち漏らさないかということ」
この依頼はゴブリンに勝てばいいわけではない。
それはハンターたちの共通認識だった。
畑を襲うゴブリンから農作物を守り、後顧の憂いを断つ。
できればゴブリンたちを全滅させたいところだった。
しかし、アズリアの聞き込みによれば、ゴブリンの数は10匹前後だという。ずいぶんと多い。
果たして1匹も討ち漏らすことなく倒せるだろうか。
「こっちは終わったぞ」
あちこちに落とし穴を掘って回っていた榊 兵庫(ka0010)が合流した。
誰に向けるでもなく独り言ちる。
「念のためにトウモロコシ畑の周りにも落とし穴を掘っておくか」
「じゃあ、ボクは宴の準備を手伝ってくるね」
トミヲは明るい声を出す。
「さー、宴じゃー」
「トミヲくん、外で夕食を食べるのはゴブリンを誘い出す目的があるんだからね?」
火椎の指摘に、ハンターたちは苦笑した。
●夕食
トウモロコシが焼けたいい匂いが漂う。
涼しくなり始めた風が心地よい。
夕刻、ルリエたちを交えて、ハンターたちは食事にした。
ルリエは取れたばかりの野菜でハンターたちをもてなす。
彼女は、高価な食材を使わずに美味しく調理する腕前を持っていた。
「いっぱい食べてくださいね!」
「遠慮なくいただかせてもらう」
哨戒から戻ってきたウィンスがぶっきらぼうな口調で答えた。
一方で朗らかに笑うのがトミヲだ。
美味い、美味いよ、とトウモロコシをかじる。
トミヲは大いにはしゃいだが、ルリエが微笑みかけると途端に黙り込んで目をそらしてしまう。
それでもルリエは気を悪くする風でもない。
ハンターたちに甲斐甲斐しく給仕した。
ルリエが用意した食事は、決して豪華とは言えない。それでもハンターたちにとってはごちそうだった。ハンターたちは、ルリエと弟たちがどれだけ苦労して麦や野菜を育てたか知っていたから。
粗末な椅子に座り、ハンターたちは楽しげに雑談を交わす。
時に、その話題はこれまでに解決した事件に及ぶ。
その話をルリエの弟たちは目を輝かせて聞いていた。
ハンターにとっては取るに足らない事件でも、弟たちにとっては大冒険に聞こえるのだろう。
「さて、お茶でも淹れますか」
食事が終わったところで、ラススヴェートが全員にお茶を振る舞う。
和やかな時間は日没まで続いた。
●ゴブリン、襲来
あたりはすっかり暗くなった。
火椎は重装馬に乗り、農園から沼地にかけての道のりを警戒する。
老犬を連れていた。
その犬は、なんでも軍用犬だったらしい。兵士だったルリエの父親がゴブリン討伐のために使っていたのだとか。もう老犬だが、まだ役に立つかもしれない。火椎はそう判断した。
「おまえの力、貸してくれな」
と撫でる火椎に、老犬は力強く吠えて応えていた。
今も、確かな足取りで火椎の先を行く。
主人の子供たちが危機に陥っていることを、この老犬は悟っていたのかもしれない。
不意に、火椎の先を歩く老犬が足を止めた。
ぐるる、と唸る。
「どうした?」
火椎がそう尋ねた時。
鳴子の音が遠くから聞こえてきた。
沼地からだ、と火椎は魔導短伝話を取り出す。
「沼地の方だ! ゴブリンが来たかもしれない!」
知らせを受けて、ハンターたちは鳴子が鳴った方向へと急ぐ。
一方で、ラススヴェートの姿はトウモロコシ畑にあった。2メートルに達するトウモロコシに身を隠し、注意深く様子をうかがう。
「他の方々が討ち漏らすことがなければいいのですが」
ラススヴェートが独り言ちる間にも、鳴子は次々と鳴っていった。
ゴブリンたちは移動しているらしい。
最初にゴブリンを捕捉したのは、榊だった。
その数、10匹。
榊は挑発的とも取れる足取りでゴブリンに歩み寄ってゆく。その歩みに力みはない。あくまで自然体のままゴブリンたちを間合いへと引き寄せる。
誘い出される形で3匹のゴブリンが榊を囲む。
――それが榊の狙いだった。
「はぁああっ!」
気合とともに管槍を振るう。
槍の穂先が手足を切り落とし、固い柄の部分が骨を砕く。
瞬く間に3匹のゴブリンが倒された。
槍の兵庫という異名に相応しい手並みだった。
ゴブリンたちはまともに相手をする不利を悟ったのか、散り散りになって榊の間をかすめていった。
残る7匹がめいめいにトウモロコシ畑を目指す。
その1匹の前に火椎が立ち塞がった。
「ここは行かせない!」
オートMURAMASAが閃く。
超振動する刃によってゴブリンがまたも斬り伏せられる。
ゴブリンの数は着実に減っていった。
また1匹、アズリアによって捕捉される。
「余はバルナック家の騎士アズリア! 罪なき人々を苦しめる輩は余の剣で成敗してくれよう!」
騎士剣が闇夜に輝く。
アズリアは一刀のもとにゴブリンを斬り伏せた。
また一方で、雷にも似た光が走った。
トミヲの放ったライトニングだ。
「迸れDT魔力ゥ……ッ!」
その魔力はゴブリンを2匹、黒焦げにした。
残るゴブリンは3匹。
そこへ、ゴースロンを駆るウィンスが馬蹄を響かせてトウモロコシ畑に到着する。
ウィンスは3匹のゴブリンを発見した。
「やらせねえっ」
馬の突進力を乗せて、七色に輝く刃がゴブリンを断つ。
残った2匹のゴブリンに、当初の目的が残っていたかどうか。
ゴブリンの視線の先に2メートルに達するトウモロコシ畑があった。
あそこへ逃げ込めば助かるかもしれない。
そう思ったのか、2匹のゴブリンは死に物狂いでトウモロコシ畑へ走った。
だが、その1匹が急に消え失せた。
「ぐげぇっ」
という気色悪い悲鳴が上がる。
榊が念のためにと掘っておいた落とし穴に引っかかったのだ。
それでもゴブリンは往生際が悪い。
最後に残ったゴブリンがトウモロコシ畑に達しようとした。
その手に松明が燃えていた。
トウモロコシ畑に火を放たれれば――。
ハンターたちに緊張が走る。
その時、トウモロコシ畑の中から一陣の風が走った。
風は鋭さを見せ、松明を持つゴブリンの腕を切り落とす。
「ぎゃあああ!」
ゴブリンは地面をのたうち回った。
そんな見苦しい姿を、トウモロコシ畑に隠れていたラススヴェートが一笑する。
「やはり威勢がいいのは、弱い者イジメの時だけですね」
かくしてゴブリンたちはすべて退治された。
ラススヴェートはトウモロコシ畑から出てきて汚れを払う。
「さて、ご報告に行かねばなりませんね」
それを果たし、ラススヴェートを待つ主のもとに帰らねば。
ラススヴェートは主の姿を思い浮かべた。
●嘘という名の良薬
次の日、村長はウィンスというハンターに呼び出された。
用向きがよく分からない。
それでもハンターからの呼び出しを無視できるものではない。
訝しみながら村長は農園へと向かった。
農園に着いた村長は、大勢の村人が集まっていることに気づく。
村人たちはゴブリンたちの死体やら、ハンターたちが設置した鳴子を回収しているところだった。その協力的な振る舞いは、村人たちがルリエに同情的であることを示していた。
「おまえたち、一体どうした?」
村長は面白くない。
喚き声を上げる村長に、ルリエが歩み寄った。
「後片付けをお願いしているんです。村長こそ、どうしたんですか?」
「いや、わしは……」
なにかがおかしい。
と、村長は本能的に悟った。
今すぐ立ち去るべきか、と思った時、ウィンスが姿を見せた。
「みんな、集まってくれ」
と、ウィンスは村人たちを呼び集めた。
また他のハンターたちも姿を見せる。
その一人、火椎が穏やかに村長に語りかけた。
「見ての通り、ルリエちゃんたちの畑がゴブリンに狙われました。ゴブリンがこれだけとは限らないです。おそらくまだいるんじゃないですか。今度は他の村人の畑を狙うかもしれませんよ」
ざわざわ、と村人たちがざわめく。
一方、トミヲははらはらと様子をうかがっていた。
トミヲは懸念していた。
この確執を刺激することが悪い方向に影響しないかと。
トミヲが陰から見守る中、ウィンスが一歩踏み出した。
ウィンスは村人たちに事情を理解させる。
「この事態に遭遇したそこの、何つった……そう、ルリエはハンター協会に依頼を出した」
ここでウィンスは嘘をひとさじ混ぜる。
その嘘がルリエたちにとって薬となると考えて。
「――このままでは村全体が襲われてしまうと考え、被害を此処で食い止める為にな」
村人たちのざわめきは一層強まった。
ウィンスは自分の言葉が充分に浸透するのを待つ。
たっぷり余裕を持たせてから村長に向き直った。
「で……村長さんよ。彼女はない金絞り出して依頼を出した。だがそれで村全体が助かった……それならあんた、すべき事があるんじゃねーの?」
はめられた!
村長はようやくすべてを悟った。
だが、すでに遅い。
村人たちは次々とまくしたてた。
「そうだ、ルリエたちのおかげで村が助かった!」
「本来なら村がハンターたちを雇うべきだったんだ!」
「そもそも村長はルリエたちに厳し過ぎる!」
「父親が歪虚から逃げ出したのは仕方ないだろ! 誰だって歪虚は怖い!」
次第に、村人たちは村長を責め立てていった。
村長は殺意を込めてウィンスをにらむ。
そのウィンスはどこ吹く風といった風情で村長に迫った。
「さて、村長さん。みんな、あんたの言葉を待ってるぜ」
「ぐ、ぐ……」
村長は顔を真赤にして歯ぎしりした。
もはや状況を変えることはできない。
自分は完全に悪者になってしまった。
これからも村長の座に留まるためには選択肢は一つしかなかった。
村長は声を震わせる。
「分かった……今回の件は、ルリエからではなく、村からの依頼ということにする」
「つまり、村がルリエの代わりに金を出すってことだな?」
わざとらしくウィンスが確認する。
殺してやろうか、と思いながら村長はうなずいた。
「……そうだ」
わぁっ、と村人たちから歓声が上がった。
ルリエはなにが起きたのか信じられない思いで立ち尽くしていた。
彼女たちを巡る状況は一変したのだ。
たったひとさじの嘘で。
そんなルリエに榊が歩み寄った。
榊は懐中から取り出した小切手を渡す。
「受け取ってくれ」
「これは?」
その小切手を見てルリエは目を丸くした。
「20万G……!」
「施しではない」
と榊は強調して続けた。
「これから先復興の資金に不足するようになっては本末転倒だからな。何年か後でも良い。十分に収穫が出来るようになったら、利子を付けて必ず俺に返してくれ。信用して預けるんだ。俺の信頼を裏切らないでくれよ」
ルリエの視界が潤む。
涙をこらえながらルリエは何度もうなずいた。
「はい……必ず……」
ルリエは榊と固い約束を交わした。
彼女を応援したいのは榊だけではなかった。
アズリアが進み出て、寄付を申し出た。
「余も貴公らを支援したい」
その金額にルリエはさらに驚いた。
さすがに、とルリエは固辞した。
「いえ、これ以上いただくわけにはいきません。お気持ちだけで充分です」
「そうか」
だからアズリアは気持ちだけは伝えることにする。
「応援しているぞ」
「はい!」
太陽のような笑顔が咲いた。
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ウィンス・デイランダール(ka0039)
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作戦相談卓 アズリア=バルナック(ka4002) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/07/17 23:36:17 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/16 01:27:22 |