ゲスト
(ka0000)
秘密基地にさよならを
マスター:柚烏

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/14 19:00
- 完成日
- 2015/07/19 11:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
――その廃墟は、僕たちの秘密基地だった。
錆びついた螺子や、面白い形の小石。鮮やかな鳥の羽根なんかを、大切に小瓶に詰めて。おんぼろのシーツを上手く利用して、お手製のハンモックを作ったりもした。
ひびの入った壁には、お伽噺の絵を描いたり――ふたりでこれからの夢を、文字に残して絶対叶えるんだって誓い合った。
『……ほら、こうして見ると綺麗だろう?』
あの日の事は忘れない。廃墟の窓から見上げた夜空には、銀色の月が輝いていた。淡い月の光に、ちいさな硝子玉を翳してみると――まるで、この瞬間を大切に閉じ込めたみたいで。そう、この時間はずっと続いていくのだと、根拠も無く信じられたんだ。
『あの、さ。俺……ハンターになろうと思うんだ』
けれど唐突に。とっておきの秘密を、彼は囁く。それは、ふわりとした甘い夢が、ぱちんと弾けて消えていくかのようだった。
真っ直ぐに、彼の瞳が僕を見つめていて。ややあって彼は、少し照れ臭そうに笑った。
『必ず、ここに帰って来るから。だからそれまで、この秘密基地をお前が守ってくれないか?』
――勿論だよと、僕は頷いていた。ずっと待ってるから。忘れたりなんてしないから、と。
依頼をお願いしたいんです、とその日、ハンターオフィスをひとりの婦人が訪ねてきた。少し変わった依頼なのですけれどと前置きして、彼女は言葉を選びながら話し始める。
「実は、息子のリュカと一夜、秘密基地で過ごして欲しいのです」
何故と言う視線で彼女を見遣れば、最後の思い出を作る手伝いをして欲しいのだと婦人は答えた。急な話になるが、彼女たち一家は仕事の都合で、別の街へ引っ越さねばならなくなった。この街で過ごす最後の夜に、何とかしてリュカの願いを叶えてやりたくて、と彼の母親は訴える。
「リュカには、ふたつ年上の友達が居たのです。本当に仲が良くて……近所の廃墟を秘密基地にして、よく二人で遊んでいるようでした」
けれど数か月前、その友達はハンターを目指して都会へ出ることを決めたらしい。その際、彼はリュカに言ったそうだ――『絶対ハンターになって帰ってくるから、それまで秘密基地を守っていて欲しい』と。
「でも、私達はここを離れなければなりません。リュカは仕方ないよねと言っていますが、気持ちの整理が付いていないみたいなんです」
仕方のないこととは言え、約束が守れずにやりきれない想いもあるのだろう。最近のリュカは元気がなく、何処か上の空で過ごしているのだそうだ。
だから――と、そこで職員がハンターの皆に告げた。皆さんの力で、彼がさよならを言えるように助けてくれないかと。
「お友達がハンターになると言っていたので、リュカさんもハンターと言う存在には憧れているみたいです。ですから、彼にハンターとしての冒険譚を話したりして、それから……童心に帰って秘密基地で一緒に遊ぶと言うのは如何でしょう?」
そうして、共に思い出を作ってあげて――最後に、秘密基地を守る代わりに、何かをしてあげられれば良いでしょうと職員は言った。忘れないと言う証のようなものを打ち立てるのもいいし、いつか帰ってくる友に何かを残すのもいい。皆で相談し合って、考えて貰えたらと職員は穏やかな瞳を向ける。
「……大なり小なり、別れは誰もが乗り越えていかなければならないものですが」
それでも、出来るなら想いに寄り添って、共に越えていってあげて欲しい。
――そう、いつか。笑顔でおかえりと言えるように、今はこの瞬間にさよならを、と。
錆びついた螺子や、面白い形の小石。鮮やかな鳥の羽根なんかを、大切に小瓶に詰めて。おんぼろのシーツを上手く利用して、お手製のハンモックを作ったりもした。
ひびの入った壁には、お伽噺の絵を描いたり――ふたりでこれからの夢を、文字に残して絶対叶えるんだって誓い合った。
『……ほら、こうして見ると綺麗だろう?』
あの日の事は忘れない。廃墟の窓から見上げた夜空には、銀色の月が輝いていた。淡い月の光に、ちいさな硝子玉を翳してみると――まるで、この瞬間を大切に閉じ込めたみたいで。そう、この時間はずっと続いていくのだと、根拠も無く信じられたんだ。
『あの、さ。俺……ハンターになろうと思うんだ』
けれど唐突に。とっておきの秘密を、彼は囁く。それは、ふわりとした甘い夢が、ぱちんと弾けて消えていくかのようだった。
真っ直ぐに、彼の瞳が僕を見つめていて。ややあって彼は、少し照れ臭そうに笑った。
『必ず、ここに帰って来るから。だからそれまで、この秘密基地をお前が守ってくれないか?』
――勿論だよと、僕は頷いていた。ずっと待ってるから。忘れたりなんてしないから、と。
依頼をお願いしたいんです、とその日、ハンターオフィスをひとりの婦人が訪ねてきた。少し変わった依頼なのですけれどと前置きして、彼女は言葉を選びながら話し始める。
「実は、息子のリュカと一夜、秘密基地で過ごして欲しいのです」
何故と言う視線で彼女を見遣れば、最後の思い出を作る手伝いをして欲しいのだと婦人は答えた。急な話になるが、彼女たち一家は仕事の都合で、別の街へ引っ越さねばならなくなった。この街で過ごす最後の夜に、何とかしてリュカの願いを叶えてやりたくて、と彼の母親は訴える。
「リュカには、ふたつ年上の友達が居たのです。本当に仲が良くて……近所の廃墟を秘密基地にして、よく二人で遊んでいるようでした」
けれど数か月前、その友達はハンターを目指して都会へ出ることを決めたらしい。その際、彼はリュカに言ったそうだ――『絶対ハンターになって帰ってくるから、それまで秘密基地を守っていて欲しい』と。
「でも、私達はここを離れなければなりません。リュカは仕方ないよねと言っていますが、気持ちの整理が付いていないみたいなんです」
仕方のないこととは言え、約束が守れずにやりきれない想いもあるのだろう。最近のリュカは元気がなく、何処か上の空で過ごしているのだそうだ。
だから――と、そこで職員がハンターの皆に告げた。皆さんの力で、彼がさよならを言えるように助けてくれないかと。
「お友達がハンターになると言っていたので、リュカさんもハンターと言う存在には憧れているみたいです。ですから、彼にハンターとしての冒険譚を話したりして、それから……童心に帰って秘密基地で一緒に遊ぶと言うのは如何でしょう?」
そうして、共に思い出を作ってあげて――最後に、秘密基地を守る代わりに、何かをしてあげられれば良いでしょうと職員は言った。忘れないと言う証のようなものを打ち立てるのもいいし、いつか帰ってくる友に何かを残すのもいい。皆で相談し合って、考えて貰えたらと職員は穏やかな瞳を向ける。
「……大なり小なり、別れは誰もが乗り越えていかなければならないものですが」
それでも、出来るなら想いに寄り添って、共に越えていってあげて欲しい。
――そう、いつか。笑顔でおかえりと言えるように、今はこの瞬間にさよならを、と。
リプレイ本文
●さいごのよる
其処は大人たちには内緒の、僕らだけの秘密の場所。例えがらくたに見えるようなものだって、僕らにとってはきらきらと輝く宝物。そっと瞳を閉じてみれば、其処は崩れかけた廃墟なんかじゃなくて――勇者の集う砦のような頼もしさを感じたんだ。
――遥か遠い空を仰ぎ、僕らは優しく大地を照らす月に手を振った。ずっと一緒だよ、此処は僕たちの秘密基地なんだから、と。
「ひっみつきちー、ひっみつきちー!」
遠くから虫の声が聞こえてくる中、鬼百合(ka3667)は陽気な歌を口ずさんで軽やかに一礼した。目の前に居るのは、今回の依頼で一緒に過ごすリュカという少年で――街を離れる最後の夜に、彼の秘密基地でとっておきの思い出を作るのが彼らの任務だ。
「リュカさん初めまして! オレは鬼百合って言いますぜ、よろしくお願いしまさ」
「あ、どうも……よろしく、お願いします……!」
何処か異国の雰囲気を纏う鬼百合に、リュカは興味津々と言う感じでぺこりと頭を下げる。鬼百合の方も同い年の友人は居なかった為、わくわくする気持ちが抑えられずにいたのだが――そんな同年代の子供たちと一緒に過ごす事になった龍華 狼(ka4940)はと言えば、微かに顔を赤らめてぷいっと顔を反らした。
「秘密基地……ねぇ……べ……別に羨ましくなんかねーし」
普段の猫を被った態度は何処へやら、その仕草は年相応の子供のものだ。最初は「さん」付けで呼び合っていた彼らだが、直ぐに呼び捨てへと変わっていったのが何とも微笑ましい。
「ふむん。懐かしいのう……昔を思い出すのじゃ」
そう呟いて、少しお姉さんっぽく思い出を噛み締めるのは紅薔薇(ka4766)で。かつて一緒に秘密基地で遊んだと言う、リュカの友達とは同い年だ。
「小さい頃に、近所にあった秘密基地に入れてもらおうとしてのう。女は駄目だと言われ、おもわず相手を叩きのめしてしまったのも良い思い出なのじゃ」
――どうやら彼女は、かなりやんちゃな子供時代を過ごしてきた様子。オレらは仲間外れにしませんぜぃと、慌てて鬼百合が紅薔薇へフォローを行う。
「……種も性も違う、同じ名前を持つ小さな隣人、か。奇妙な、だが悪くない縁だ」
そんな彼らを見守る、逞しい体躯のエルフの女性――彼女の名もまた、リュカ(ka3828)と言った。私で何か力になれるなら、共に一夜の夢を見ようと彼女は囁く。
(リュカ少年とその友人、二人にはこれまでの思い出があるんだろう。それを振り返りながら……)
そうしていつかの再会へと前を向いて、少年自身も顔を上げ、新たな環境で生きていければとリュカは願った。
「そうですね。リュカくんが心残りの無いように、気持ちの整理を手伝いましょう」
シャルア・レイセンファード(ka4359)もふわりと柔和な微笑みを浮かべ、月明かりに照らされた廃墟を見上げる。リュカと一緒に秘密基地で夜を過ごし、彼と思い出を作る――それが、今回ハンター達に課せられた使命だった。しかし、ザレム・アズール(ka0878)はと言えば、それとは異なる行動をしようとしていたのだ。
(子供ってのは、大人が考えてるよりずっと大人だ。『約束』の反故は、相手への罪であり約束してた自分への失望になる)
そう考えたザレムは、何とか約束を破らせずに終わらせたいと思った。今の約束の完了と、新たな約束の締結によって――故に彼は、遠く離れたリュカの友人に会おうと決めたのだ。
「……え、これから? リュカと過ごすんじゃなくて?」
「遅れるけど必ずいく。合流したら返してな」
戸惑う仲間たちに安心させるように頷くと、ザレムはリュカに愛用の携帯ゲーム機を手渡した。それは彼が、リュカと交わす『約束』だ。
こうして別行動を取る事になった仲間たちは、其々に最後の夜に向けて動き出す。少年が素敵な思い出を作って、笑ってさよならを言えるように――。
●ひみつのおはなし
きっと、思い出をひとつひとつ振り返って大切にしまいながら――リュカは少し照れつつも、ハンター達を秘密基地へと案内していった。
其処は、彼らの手で住みやすく整えられ、あちこちに持ち込んだ道具や誇らしげに飾られた宝物が、月夜の下できらきらと輝いている。
「なんか、懐かしいな……ここで誰かと過ごすの、久しぶりだから」
そう言ったリュカは、早速ハンター達の話を聞きたがっている様子。きっと彼は昔も此処で、友人とのお喋りを楽しんでいたのだろう。
「……あたしは、リュカ君の憧れているようなハンターではないのです。語ってあげられるようなものはなにも……」
――けれど。意を決したように口を開いたのはシャルアだった。そして彼女は、逆にリュカに問い掛ける。リュカ君にとって、その秘密基地は何なのでしょう、と。
「その秘密基地は……その一番新しい記憶は、どう残っていますか? 友人と離れてしまった悲しみ? 秘密基地を守ると誓った、決意? それとも、大事な友人との約束を破ってしまう悔しさでしょうか」
「……え、と……?」
けれど、自分に語る事は無いと拒絶した上で、逆に此方へ答えを求めてくるシャルアの態度に、リュカは明らかに困惑していた。その問いは、子供が答えを出すには余りにも抽象的だと言う事もあり――リュカは悲しげな顔をして黙り込んでしまう。
「あたしは、それが約束を破ってしまう事だとは思いません」
納得して貰えるか分からないのは、シャルアも覚悟していた。それでも、自分の思った事を伝えたいと彼女は思っていたのだ。
「思い出というもの……それは忘れぬ限り受け継がれ、生き続けるもの」
そこでシャルアは一呼吸置いて、月の輝きを思わせる瞳を瞬かせて告げる。
「リュカ君に、その友人の中に秘密基地の存在が残っていれば、きっと秘密基地は守られる。それも、秘密基地を守る事だとあたしは思うのです」
波が引いていくように、静かにシャルアの声が廃墟へ吸い込まれていって。其処で不意に訪れた沈黙を、鬼百合の飄々とした声が断ち切った。
「あぁ、オレはハンターの話をしますかね。ハンター、オレにとってはオシゴトですねぃ。オオカミの雑魔を倒したこともあれば、魔法でレンセイのお手伝いをしたこともありまさぁ」
適度な広さがあれば、実際に自慢の魔術を披露する所なのだが――生憎、この場所で放つには危険が大きい。と、其処で皆に凄いと思われたい狼は対抗心を燃やし「俺だって!」と早速武勇伝を披露し始めた。
「俺はたった一人で、砂蜘蛛20匹を相手して全部倒したんだぜ!」
「え、本当に!?」
見事に尊敬のまなざしを向けてくるリュカであったが、鬼百合はと言えば半信半疑の様子。実際、狼はハンターとしてはまだまだで――話の砂蜘蛛はもっと少なかったし、結果的には逃げたのだけれど。
「それちょっとコチョーヒョーゲン入ってませんかぃ?」
「な、な訳あるか!」
狼に突っ込みを入れる鬼百合は、にやにやと笑いながらからかって。虚勢を張りつつ実は打たれ弱かったりする狼は、鬼百合に小突かれる内に涙目になっていった。
「あああ、泣かないでくださいよぅ!」
「な……泣いてねーし……俺泣いてねぇもん……」
ぐす、と目をこする狼を見た鬼百合は、慌ててちょっと優しくなって――そんな子供たちを微笑ましく見つめていたハンターのリュカは、ふと思い立ってリュカ少年に覚醒の変化を見せようと思い立つ。
「……どうだ? 霊闘士は動物霊を宿す者が多いから、多少珍しいかもしれないが」
大樹の精霊の力をその身に宿したリュカの姿は、まるで樹の化身そのもののように鮮やかな変貌を遂げていた。四肢から芽生える葉――耳はまるで枝を思わせるような形に変わり、夜風に靡く髪は今にも葉擦れの音を奏でそうだ。
「すごい……!」
「ハンターの活動は危険もあるが、それによって助けられ笑顔を取り戻す人々がいる。危険に身を投じる者だからこそ、帰る場所や家族、友人の存在が支えになるのだとも思うよ」
その友人にとっての少年のように、とリュカが言えば、リュカ少年は真剣な表情で彼女の言葉に聞き入っていた。そんな彼に向かい、鬼百合もその背を押すように励ましの言葉を掛ける。
「リュカも、できることからやったらいいんですぜ」
「俺も! 俺も話す! 鬼百合ばっかズルい!」
格好よく決めた鬼百合に、再び対抗心を燃やした狼が強引に割って入り――しかし其処にするりと、紅薔薇が優雅に滑り込んだ。
「仕事の話なら、妾もあるぞ。この前の仕事は大変だったのじゃ、大きな城のような化け物が出てのう」
血生臭い事を抜きにして、東方での戦いを身振りも交えて語る紅薔薇。そうしている間にリュカがランタンと毛布を準備して、今度はリュカ少年の思い出も聞きたいと会話を促す。
その中で、二人での時間を振り返れるといい――そう願いながら、秘密基地での夜は静かに更けていった。
●ゆめのおわり
一方、ザレムは限られた時間でリュカの友人と接触しようと、必死に奮闘していたのだが――残念ながら、その試みは上手くいかなかった。紅薔薇も事前に確認しようとしていたようだが、連絡を取るには時間も情報も足りなかったのだ。
リュカの母から、友人の名前はクロードだと聞いたまでは良かったのだが――彼の親の家を尋ねても、取り敢えずリゼリオへ向かったという以外、詳しい事は分からなかったのだ。どうやら、落ち着いたら連絡を寄越すと言っていたらしいが、未だ便りは来ていないらしい。
遠距離通話で連絡を試みようにも、肝心の相手の居場所が分からないのでは伝言を貰う事も出来ない。仕方なくザレムは、自分の言葉をリュカに伝える事にしたのだった。
(間に合え!)
――必ずいくと、彼と交わした約束を思い出しながら、ザレムは夜の街を駆ける。
「オレも遊びたい! あ、オレもこないだひとつ教えてもらったんでさ。鬼ごっこ!」
「鬼百合も一緒に遊ぶか? じゃー仕方ないから俺が一緒に遊んでやるよ!」
一方、秘密基地で過ごす面々は、リュカがよく遊んだと言う探検ごっこやハンターごっこを、鬼百合や狼の号令の元楽しんでいた。
「俺隊長! 隊長がいい! 鬼百合部下な!」
「なんでぇなんでぇ、オレの方が背ぇ高いからオレのがジョーシでさ!」
二人ともすっかり打ち解け、まるで彼らも秘密基地の友人同士のよう。何処かじゃれ合うように言い合いを続ける狼と鬼百合に、紅薔薇は「これで勝負じゃ」と言わんばかりに厚紙を丸めた剣を差し出す。
「チャンバラか、面白え!」
最初は玩具の剣で叩き合っていたものの、何時しか手が出て足が出て。楽しく喧嘩し合うのもまた、仲の良い証拠だ。小さな秘密基地は笑い声に包まれて、リュカは共に夜を過ごしてくれたハンター達に感謝をする。
――けれど、夢はいつか醒めるもの。彼らが此処を去る時間は、刻一刻と近づいていた。
●タイムカプセル
「……リュカ!」
その時、息を切らせたザレムが秘密基地へと戻って来た。間に合った事に安堵しつつ、彼は友人を見つける事は出来なかったと告げる。残念ながら、友人の親からの伝言も受け取れなかったが――それでも、自分が友人ならばリュカに伝えようとした言葉を続ける。
「次に会う時は、世界が俺達の新しい秘密基地だ」
「うん……!」
自分の為に必死に頑張ってくれたザレムの事を、リュカは眩しそうに見上げて頷いた。そして彼らは、忘れないと言う証――そしていつか帰ってくる友へ残すものとして、秘密基地にタイムカプセルを埋めるのはどうかとリュカに提案する。
「将来の自分と友達に向けての手紙……10年後の自分達へ、くらいで良かろう。埋めた場所を忘れんように気をつけるのじゃ」
紅薔薇が適当な鉄缶を廃墟から見繕いながら言うと、それは良い考えだとリュカも頷いた。
「そうだな、『何年後の何日にまたここで会おう』といった置き手紙でもいいかもしれない。友人が残していった何かがあるなら、その日までそれを預かり、それが在った場所に手紙を残すのも、いいんじゃないかな」
「あ、俺は幸運の実を入れるぜ。幸運を閉じ込めるんだ。これを開けた時には、今の何倍にも幸運の力をつけてるはずだ!」
そう言って、狼が勢いよく取り出したのは辺境に伝わる珍しい木の実。一方のザレムは、リュカから返して貰った携帯ゲーム機を――そして鬼百合はクリスマスオーナメントを、其々タイムカプセルに入れる。
「これ、ハンターになってすぐの依頼で貰ったもんでさ。大人になったオレが、これ見て色々思い出せるようにするんですぜ」
シャルアも自身の大切なもの、父が残してくれた白地に青いリボンのついたサシェを残していきたかったのだが、生憎所持していなかった為にそれは叶わなかった。
(大事な思い出の一欠片。ここに残していってもいいですか? 貴方の記憶と共に)
――もし手元にあれば、そんな言葉を掛けただろうか。そうしている間にリュカは手紙を書き終え、大切にしていた硝子玉と一緒に、慎重にタイムカプセルへと仕舞った。
「あ、それと。これ一緒に植えませんか」
秘密基地の入り口に穴を掘る皆へ、鬼百合が差し出したのは紫苑の花の種。彼は教えてくれた――この花は、リアルブルーでは『忘れない』と言う意味を秘めているのだと。
「お友達さんが帰ってきたとき、これがいっぱい咲いてたら、忘れてないんだってわかるように!」
「ありがとう……本当にありがとう、ハンターのみなさん……っ」
涙を滲ませたリュカが見上げた空には、いつかの夜みたいに綺麗な月が出ていて。この場所で過ごす最後の夜に、彼は笑ってさよならを言えた。
――そして、いつか。今よりも大きくなった子供たちは、思い出の秘密基地で再び出会うだろう。
其処にはきっと、満開の紫苑の花が咲いている筈だ。
其処は大人たちには内緒の、僕らだけの秘密の場所。例えがらくたに見えるようなものだって、僕らにとってはきらきらと輝く宝物。そっと瞳を閉じてみれば、其処は崩れかけた廃墟なんかじゃなくて――勇者の集う砦のような頼もしさを感じたんだ。
――遥か遠い空を仰ぎ、僕らは優しく大地を照らす月に手を振った。ずっと一緒だよ、此処は僕たちの秘密基地なんだから、と。
「ひっみつきちー、ひっみつきちー!」
遠くから虫の声が聞こえてくる中、鬼百合(ka3667)は陽気な歌を口ずさんで軽やかに一礼した。目の前に居るのは、今回の依頼で一緒に過ごすリュカという少年で――街を離れる最後の夜に、彼の秘密基地でとっておきの思い出を作るのが彼らの任務だ。
「リュカさん初めまして! オレは鬼百合って言いますぜ、よろしくお願いしまさ」
「あ、どうも……よろしく、お願いします……!」
何処か異国の雰囲気を纏う鬼百合に、リュカは興味津々と言う感じでぺこりと頭を下げる。鬼百合の方も同い年の友人は居なかった為、わくわくする気持ちが抑えられずにいたのだが――そんな同年代の子供たちと一緒に過ごす事になった龍華 狼(ka4940)はと言えば、微かに顔を赤らめてぷいっと顔を反らした。
「秘密基地……ねぇ……べ……別に羨ましくなんかねーし」
普段の猫を被った態度は何処へやら、その仕草は年相応の子供のものだ。最初は「さん」付けで呼び合っていた彼らだが、直ぐに呼び捨てへと変わっていったのが何とも微笑ましい。
「ふむん。懐かしいのう……昔を思い出すのじゃ」
そう呟いて、少しお姉さんっぽく思い出を噛み締めるのは紅薔薇(ka4766)で。かつて一緒に秘密基地で遊んだと言う、リュカの友達とは同い年だ。
「小さい頃に、近所にあった秘密基地に入れてもらおうとしてのう。女は駄目だと言われ、おもわず相手を叩きのめしてしまったのも良い思い出なのじゃ」
――どうやら彼女は、かなりやんちゃな子供時代を過ごしてきた様子。オレらは仲間外れにしませんぜぃと、慌てて鬼百合が紅薔薇へフォローを行う。
「……種も性も違う、同じ名前を持つ小さな隣人、か。奇妙な、だが悪くない縁だ」
そんな彼らを見守る、逞しい体躯のエルフの女性――彼女の名もまた、リュカ(ka3828)と言った。私で何か力になれるなら、共に一夜の夢を見ようと彼女は囁く。
(リュカ少年とその友人、二人にはこれまでの思い出があるんだろう。それを振り返りながら……)
そうしていつかの再会へと前を向いて、少年自身も顔を上げ、新たな環境で生きていければとリュカは願った。
「そうですね。リュカくんが心残りの無いように、気持ちの整理を手伝いましょう」
シャルア・レイセンファード(ka4359)もふわりと柔和な微笑みを浮かべ、月明かりに照らされた廃墟を見上げる。リュカと一緒に秘密基地で夜を過ごし、彼と思い出を作る――それが、今回ハンター達に課せられた使命だった。しかし、ザレム・アズール(ka0878)はと言えば、それとは異なる行動をしようとしていたのだ。
(子供ってのは、大人が考えてるよりずっと大人だ。『約束』の反故は、相手への罪であり約束してた自分への失望になる)
そう考えたザレムは、何とか約束を破らせずに終わらせたいと思った。今の約束の完了と、新たな約束の締結によって――故に彼は、遠く離れたリュカの友人に会おうと決めたのだ。
「……え、これから? リュカと過ごすんじゃなくて?」
「遅れるけど必ずいく。合流したら返してな」
戸惑う仲間たちに安心させるように頷くと、ザレムはリュカに愛用の携帯ゲーム機を手渡した。それは彼が、リュカと交わす『約束』だ。
こうして別行動を取る事になった仲間たちは、其々に最後の夜に向けて動き出す。少年が素敵な思い出を作って、笑ってさよならを言えるように――。
●ひみつのおはなし
きっと、思い出をひとつひとつ振り返って大切にしまいながら――リュカは少し照れつつも、ハンター達を秘密基地へと案内していった。
其処は、彼らの手で住みやすく整えられ、あちこちに持ち込んだ道具や誇らしげに飾られた宝物が、月夜の下できらきらと輝いている。
「なんか、懐かしいな……ここで誰かと過ごすの、久しぶりだから」
そう言ったリュカは、早速ハンター達の話を聞きたがっている様子。きっと彼は昔も此処で、友人とのお喋りを楽しんでいたのだろう。
「……あたしは、リュカ君の憧れているようなハンターではないのです。語ってあげられるようなものはなにも……」
――けれど。意を決したように口を開いたのはシャルアだった。そして彼女は、逆にリュカに問い掛ける。リュカ君にとって、その秘密基地は何なのでしょう、と。
「その秘密基地は……その一番新しい記憶は、どう残っていますか? 友人と離れてしまった悲しみ? 秘密基地を守ると誓った、決意? それとも、大事な友人との約束を破ってしまう悔しさでしょうか」
「……え、と……?」
けれど、自分に語る事は無いと拒絶した上で、逆に此方へ答えを求めてくるシャルアの態度に、リュカは明らかに困惑していた。その問いは、子供が答えを出すには余りにも抽象的だと言う事もあり――リュカは悲しげな顔をして黙り込んでしまう。
「あたしは、それが約束を破ってしまう事だとは思いません」
納得して貰えるか分からないのは、シャルアも覚悟していた。それでも、自分の思った事を伝えたいと彼女は思っていたのだ。
「思い出というもの……それは忘れぬ限り受け継がれ、生き続けるもの」
そこでシャルアは一呼吸置いて、月の輝きを思わせる瞳を瞬かせて告げる。
「リュカ君に、その友人の中に秘密基地の存在が残っていれば、きっと秘密基地は守られる。それも、秘密基地を守る事だとあたしは思うのです」
波が引いていくように、静かにシャルアの声が廃墟へ吸い込まれていって。其処で不意に訪れた沈黙を、鬼百合の飄々とした声が断ち切った。
「あぁ、オレはハンターの話をしますかね。ハンター、オレにとってはオシゴトですねぃ。オオカミの雑魔を倒したこともあれば、魔法でレンセイのお手伝いをしたこともありまさぁ」
適度な広さがあれば、実際に自慢の魔術を披露する所なのだが――生憎、この場所で放つには危険が大きい。と、其処で皆に凄いと思われたい狼は対抗心を燃やし「俺だって!」と早速武勇伝を披露し始めた。
「俺はたった一人で、砂蜘蛛20匹を相手して全部倒したんだぜ!」
「え、本当に!?」
見事に尊敬のまなざしを向けてくるリュカであったが、鬼百合はと言えば半信半疑の様子。実際、狼はハンターとしてはまだまだで――話の砂蜘蛛はもっと少なかったし、結果的には逃げたのだけれど。
「それちょっとコチョーヒョーゲン入ってませんかぃ?」
「な、な訳あるか!」
狼に突っ込みを入れる鬼百合は、にやにやと笑いながらからかって。虚勢を張りつつ実は打たれ弱かったりする狼は、鬼百合に小突かれる内に涙目になっていった。
「あああ、泣かないでくださいよぅ!」
「な……泣いてねーし……俺泣いてねぇもん……」
ぐす、と目をこする狼を見た鬼百合は、慌ててちょっと優しくなって――そんな子供たちを微笑ましく見つめていたハンターのリュカは、ふと思い立ってリュカ少年に覚醒の変化を見せようと思い立つ。
「……どうだ? 霊闘士は動物霊を宿す者が多いから、多少珍しいかもしれないが」
大樹の精霊の力をその身に宿したリュカの姿は、まるで樹の化身そのもののように鮮やかな変貌を遂げていた。四肢から芽生える葉――耳はまるで枝を思わせるような形に変わり、夜風に靡く髪は今にも葉擦れの音を奏でそうだ。
「すごい……!」
「ハンターの活動は危険もあるが、それによって助けられ笑顔を取り戻す人々がいる。危険に身を投じる者だからこそ、帰る場所や家族、友人の存在が支えになるのだとも思うよ」
その友人にとっての少年のように、とリュカが言えば、リュカ少年は真剣な表情で彼女の言葉に聞き入っていた。そんな彼に向かい、鬼百合もその背を押すように励ましの言葉を掛ける。
「リュカも、できることからやったらいいんですぜ」
「俺も! 俺も話す! 鬼百合ばっかズルい!」
格好よく決めた鬼百合に、再び対抗心を燃やした狼が強引に割って入り――しかし其処にするりと、紅薔薇が優雅に滑り込んだ。
「仕事の話なら、妾もあるぞ。この前の仕事は大変だったのじゃ、大きな城のような化け物が出てのう」
血生臭い事を抜きにして、東方での戦いを身振りも交えて語る紅薔薇。そうしている間にリュカがランタンと毛布を準備して、今度はリュカ少年の思い出も聞きたいと会話を促す。
その中で、二人での時間を振り返れるといい――そう願いながら、秘密基地での夜は静かに更けていった。
●ゆめのおわり
一方、ザレムは限られた時間でリュカの友人と接触しようと、必死に奮闘していたのだが――残念ながら、その試みは上手くいかなかった。紅薔薇も事前に確認しようとしていたようだが、連絡を取るには時間も情報も足りなかったのだ。
リュカの母から、友人の名前はクロードだと聞いたまでは良かったのだが――彼の親の家を尋ねても、取り敢えずリゼリオへ向かったという以外、詳しい事は分からなかったのだ。どうやら、落ち着いたら連絡を寄越すと言っていたらしいが、未だ便りは来ていないらしい。
遠距離通話で連絡を試みようにも、肝心の相手の居場所が分からないのでは伝言を貰う事も出来ない。仕方なくザレムは、自分の言葉をリュカに伝える事にしたのだった。
(間に合え!)
――必ずいくと、彼と交わした約束を思い出しながら、ザレムは夜の街を駆ける。
「オレも遊びたい! あ、オレもこないだひとつ教えてもらったんでさ。鬼ごっこ!」
「鬼百合も一緒に遊ぶか? じゃー仕方ないから俺が一緒に遊んでやるよ!」
一方、秘密基地で過ごす面々は、リュカがよく遊んだと言う探検ごっこやハンターごっこを、鬼百合や狼の号令の元楽しんでいた。
「俺隊長! 隊長がいい! 鬼百合部下な!」
「なんでぇなんでぇ、オレの方が背ぇ高いからオレのがジョーシでさ!」
二人ともすっかり打ち解け、まるで彼らも秘密基地の友人同士のよう。何処かじゃれ合うように言い合いを続ける狼と鬼百合に、紅薔薇は「これで勝負じゃ」と言わんばかりに厚紙を丸めた剣を差し出す。
「チャンバラか、面白え!」
最初は玩具の剣で叩き合っていたものの、何時しか手が出て足が出て。楽しく喧嘩し合うのもまた、仲の良い証拠だ。小さな秘密基地は笑い声に包まれて、リュカは共に夜を過ごしてくれたハンター達に感謝をする。
――けれど、夢はいつか醒めるもの。彼らが此処を去る時間は、刻一刻と近づいていた。
●タイムカプセル
「……リュカ!」
その時、息を切らせたザレムが秘密基地へと戻って来た。間に合った事に安堵しつつ、彼は友人を見つける事は出来なかったと告げる。残念ながら、友人の親からの伝言も受け取れなかったが――それでも、自分が友人ならばリュカに伝えようとした言葉を続ける。
「次に会う時は、世界が俺達の新しい秘密基地だ」
「うん……!」
自分の為に必死に頑張ってくれたザレムの事を、リュカは眩しそうに見上げて頷いた。そして彼らは、忘れないと言う証――そしていつか帰ってくる友へ残すものとして、秘密基地にタイムカプセルを埋めるのはどうかとリュカに提案する。
「将来の自分と友達に向けての手紙……10年後の自分達へ、くらいで良かろう。埋めた場所を忘れんように気をつけるのじゃ」
紅薔薇が適当な鉄缶を廃墟から見繕いながら言うと、それは良い考えだとリュカも頷いた。
「そうだな、『何年後の何日にまたここで会おう』といった置き手紙でもいいかもしれない。友人が残していった何かがあるなら、その日までそれを預かり、それが在った場所に手紙を残すのも、いいんじゃないかな」
「あ、俺は幸運の実を入れるぜ。幸運を閉じ込めるんだ。これを開けた時には、今の何倍にも幸運の力をつけてるはずだ!」
そう言って、狼が勢いよく取り出したのは辺境に伝わる珍しい木の実。一方のザレムは、リュカから返して貰った携帯ゲーム機を――そして鬼百合はクリスマスオーナメントを、其々タイムカプセルに入れる。
「これ、ハンターになってすぐの依頼で貰ったもんでさ。大人になったオレが、これ見て色々思い出せるようにするんですぜ」
シャルアも自身の大切なもの、父が残してくれた白地に青いリボンのついたサシェを残していきたかったのだが、生憎所持していなかった為にそれは叶わなかった。
(大事な思い出の一欠片。ここに残していってもいいですか? 貴方の記憶と共に)
――もし手元にあれば、そんな言葉を掛けただろうか。そうしている間にリュカは手紙を書き終え、大切にしていた硝子玉と一緒に、慎重にタイムカプセルへと仕舞った。
「あ、それと。これ一緒に植えませんか」
秘密基地の入り口に穴を掘る皆へ、鬼百合が差し出したのは紫苑の花の種。彼は教えてくれた――この花は、リアルブルーでは『忘れない』と言う意味を秘めているのだと。
「お友達さんが帰ってきたとき、これがいっぱい咲いてたら、忘れてないんだってわかるように!」
「ありがとう……本当にありがとう、ハンターのみなさん……っ」
涙を滲ませたリュカが見上げた空には、いつかの夜みたいに綺麗な月が出ていて。この場所で過ごす最後の夜に、彼は笑ってさよならを言えた。
――そして、いつか。今よりも大きくなった子供たちは、思い出の秘密基地で再び出会うだろう。
其処にはきっと、満開の紫苑の花が咲いている筈だ。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/14 15:18:33 |
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相談卓 龍華 狼(ka4940) 人間(クリムゾンウェスト)|11才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/07/14 15:23:26 |