ゲスト
(ka0000)
Fish Fight!
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~50人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/16 07:30
- 完成日
- 2015/07/24 03:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●どうしてこうなった
ひと月ほど前になる。
男はまるで恋人に会う前のように胸をときめかせながら釣り道具を持って、いそいそと行き慣れた川へと向かった。
この川は釣り人の間では、少し山に入れば、ほどよい川魚が豊富に取れる場所として有名で、男は足繁く通っていた。
近くに聞こえる滝の音と鳥の鳴き声をBGMに、竿を投げ入れる。……と、直ぐさまツンツンと竿が引かれ、やや小振りの川魚がかかった。
……それにしても、今年は小さいながらも本当に良く釣れる。入れ食いなんて言葉じゃ足りないぐらいに直ぐに魚が掛かるので、釣りを開始して30分も経たないうちに籠がいっぱいになってしまう。
男は、チーッ! という鳥の鳴き声にふと、滝を見た。
落ちる水と共にギラギラと光る魚の鱗が見えた気がして、普段は伸ばさない滝の向こう、川上へと歩き出す。
えっちらおっちらと、なるべく足を置きやすい岩を選んで滝の脇を登っていく。
――登り切って水面を見た男はあまりの情景に言葉を失った。
川面では、みっしりと川魚が鱗を寄せ合って泳いでいたのだった。
●ハンターオフィスにて
「どうやら原因は、春先の豪雨で流されてきた岩が適度に川を塞いでしまって、普通ならもっと上流まで生活圏を広く取っている魚の稚魚が上手く上に行けなくなってしまい、その場で成長したため“吹きだまり”のようになってしまっていた、という事らしいのですが」
なお、その原因となっていた岩は村人達で協力し合って除去に成功したらしい。
もっと酷い集中豪雨が来てしまえばその岩のせいで川の流れが変わり、不要な水害を起こしていたかも知れず、むしろ今のうちに発見し、対処できて何よりだった。
「ただ、その増えすぎた川魚達が、どうやら次に問題になったそうで」
稚魚の内はよかったが、成長してくると共に餌不足となり、餓死する魚が出てきたらしい。
また、それ以外にも周囲にとんでも無い数の野鳥が集まってきていてその糞害なども出てきていた。
「恐らく一過性のものだとは思いますが……それでまぁ、何と言いますか、転んでもただでは起きないと言いますか、ピンチはチャンス、と思ったらしく」
実はこの川、4ヶ月ほど前にけったいな歪虚が湧いた川でもあり、ハンター達の活躍のお陰で本来の静けさを取り戻したという曰く付きの川でもある。
「お礼も兼ねて、皆さんで水遊びしに来ませんか? というお誘いをいただきました」
ある程度村人が総出で対策にはあったらしいのだが、「もうお魚食べたくない」という村人が続出。
ならばいっそ、ハンター達を呼んでどうにかして貰おうと考えたらしい。
「川の上流から、魚釣りスポット、つかみ取りスポット。滝を降りた先からは水遊びとバーベキューコーナーと整備したそうです。釣り道具は貸して下さるそうですし、つかみ取りはポイントを教えて下さるそうです。水遊びには水着が必須。公序良俗に反する行いは禁止。あと、マテリアルを操作するなどの行為も禁止だそうです」
何故? という声に、彼女は説明用紙をぺらりとめくる。
「BBQスポットにいるお年寄りが見てびっくりしてしまうというのと、川の流れは意外に速いところがありますから、例として上げるならば、ウォーターウォーク使用中にうっかり落ちて事故に繋がるのを防ぎたいのでしょう」
……まぁ、確かにハンターと接点無く過ごしてきたお年寄りからすれば、人間が水の上を歩く姿というのは衝撃的な絵かも知れない。
「スキルなど使わなくとも十分堪能出来るはずですので、今回は『NO覚醒でただの人』として遊ぶのも良いかも知れませんよ? お友達をお誘い合わせの上ご参加してみては如何でしょう」
最近、色々と事件続きで慌ただしかったですしね、と彼女は付け加えると柔らかく微笑んだ。
ひと月ほど前になる。
男はまるで恋人に会う前のように胸をときめかせながら釣り道具を持って、いそいそと行き慣れた川へと向かった。
この川は釣り人の間では、少し山に入れば、ほどよい川魚が豊富に取れる場所として有名で、男は足繁く通っていた。
近くに聞こえる滝の音と鳥の鳴き声をBGMに、竿を投げ入れる。……と、直ぐさまツンツンと竿が引かれ、やや小振りの川魚がかかった。
……それにしても、今年は小さいながらも本当に良く釣れる。入れ食いなんて言葉じゃ足りないぐらいに直ぐに魚が掛かるので、釣りを開始して30分も経たないうちに籠がいっぱいになってしまう。
男は、チーッ! という鳥の鳴き声にふと、滝を見た。
落ちる水と共にギラギラと光る魚の鱗が見えた気がして、普段は伸ばさない滝の向こう、川上へと歩き出す。
えっちらおっちらと、なるべく足を置きやすい岩を選んで滝の脇を登っていく。
――登り切って水面を見た男はあまりの情景に言葉を失った。
川面では、みっしりと川魚が鱗を寄せ合って泳いでいたのだった。
●ハンターオフィスにて
「どうやら原因は、春先の豪雨で流されてきた岩が適度に川を塞いでしまって、普通ならもっと上流まで生活圏を広く取っている魚の稚魚が上手く上に行けなくなってしまい、その場で成長したため“吹きだまり”のようになってしまっていた、という事らしいのですが」
なお、その原因となっていた岩は村人達で協力し合って除去に成功したらしい。
もっと酷い集中豪雨が来てしまえばその岩のせいで川の流れが変わり、不要な水害を起こしていたかも知れず、むしろ今のうちに発見し、対処できて何よりだった。
「ただ、その増えすぎた川魚達が、どうやら次に問題になったそうで」
稚魚の内はよかったが、成長してくると共に餌不足となり、餓死する魚が出てきたらしい。
また、それ以外にも周囲にとんでも無い数の野鳥が集まってきていてその糞害なども出てきていた。
「恐らく一過性のものだとは思いますが……それでまぁ、何と言いますか、転んでもただでは起きないと言いますか、ピンチはチャンス、と思ったらしく」
実はこの川、4ヶ月ほど前にけったいな歪虚が湧いた川でもあり、ハンター達の活躍のお陰で本来の静けさを取り戻したという曰く付きの川でもある。
「お礼も兼ねて、皆さんで水遊びしに来ませんか? というお誘いをいただきました」
ある程度村人が総出で対策にはあったらしいのだが、「もうお魚食べたくない」という村人が続出。
ならばいっそ、ハンター達を呼んでどうにかして貰おうと考えたらしい。
「川の上流から、魚釣りスポット、つかみ取りスポット。滝を降りた先からは水遊びとバーベキューコーナーと整備したそうです。釣り道具は貸して下さるそうですし、つかみ取りはポイントを教えて下さるそうです。水遊びには水着が必須。公序良俗に反する行いは禁止。あと、マテリアルを操作するなどの行為も禁止だそうです」
何故? という声に、彼女は説明用紙をぺらりとめくる。
「BBQスポットにいるお年寄りが見てびっくりしてしまうというのと、川の流れは意外に速いところがありますから、例として上げるならば、ウォーターウォーク使用中にうっかり落ちて事故に繋がるのを防ぎたいのでしょう」
……まぁ、確かにハンターと接点無く過ごしてきたお年寄りからすれば、人間が水の上を歩く姿というのは衝撃的な絵かも知れない。
「スキルなど使わなくとも十分堪能出来るはずですので、今回は『NO覚醒でただの人』として遊ぶのも良いかも知れませんよ? お友達をお誘い合わせの上ご参加してみては如何でしょう」
最近、色々と事件続きで慌ただしかったですしね、と彼女は付け加えると柔らかく微笑んだ。
リプレイ本文
●穏やかな時間
チチチ、と名も知らぬ小鳥が鳴いた。
夏の日差しは徐々に熱量を増してきているが、川面を走る風は涼しく、揺れる木々が奏でる葉音はさやさやと優しい。
蝉の鳴き声が響くが、それさえも季節を感じさせる演出の一つであり、いたずらに気分を逆撫でるような不快さは一切感じさせない。
ドミノ・ウィル(ka0208)はそんな風景の一部に自分もなったような、そんな錯覚を覚えながら釣り糸を垂らしていた。
「川釣りは難しい。川の流れと一緒で釣れるタイミングは一瞬。だからこそ面白い……とは師匠も言っていたな、うん」
竿の先の鈴がりん、と鳴り、糸の引かれる感覚にワクワクしながら、竿をゆっくりと立てて慎重に糸を巻く。逃げられたとしても、釣り上げられたとしても、どちらにしても今この一瞬を心から楽しんでいた。
ステラ・ブルマーレ(ka3014)は慣れた手つきで針に餌を付けると、そぅっと川へと投げ入れた。
海辺暮らしのお陰で漁や海釣りの経験はあるものの、川釣りはあまり経験が無い為、ゆったりと楽しむつもりで木陰の大岩に腰を据える。
「こういうのも、今後は研究対象にすれば面白いかな? 広く知られれば、こういった二次水害の注意喚起にもなるだろうし」
今回の吹きだまりが出来た経緯を思い出しながら、のんびりと思案にふける。
暫くしてツンツンと竿が揺れたタイミングを逃さず、クィッと素早く竿を上げた。
ビチビチと跳ねる銀色の鱗を引き寄せて、その大きさに思わず頬が緩んだ。
「ま、良いや♪ 今日は近くの村の人達には悪いけど、人助けだと思って楽しんじゃおう♪♪」
手早く針を外して魚を籠へ入れると、鼻歌を口ずさみながら再び糸を垂らした。
そんなステラの大岩を挟んで右隣ではデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が並々ならぬ気魄と共に竿を振った。
「……お前さん、何をしとるのかね?」
アドバイス係の老人が見事な放物線を描いて川面に沈み……再び浮いてきたキュウリを見て思わず声を掛けた。
すると「くっくっく」という邪笑の後、デスドクロは老人に向かって朗々と語った。
「釣りをする際にターゲットを絞らないのは素人。しかし、この俺様のように上位ステージに立つ男ともなると話しは別、ってな。当然釣るべき獲物を定め、それに応じた仕掛けを用意する。それでこそ、真のフィッシャーマンと言えるからだ」
「はぁ」と老人は視線の先に、川の流れに翻弄されるきゅうりを捕らえつつ話しを聞いていた。
「で、何を狙っとるんだね?」
老人の問いに、デスドクロはビシィっと親指を立てて白い歯を輝かせた。
「ずばり、河童だ!」
老人は、再び「はぁ」と呆れとも相づちとも分からぬ声を漏らした。
「歪虚が消え、魚が増えた。なればこそ本来の住人が戻ってくる可能性は極めて高ぇ。このデスドクロ様と川に棲む怪異との真剣勝負! 負けるわけにゃーいかねぇな」
なお、そう告げる瞳はきらっきらしている。一点の曇も無い少年の瞳だ。
「……そうかね。だが、針にそのままキュウリでは浮いてしまってダメだから、何か重しを一緒に結わえた方が良いと思うよ」
「!! そうか、なるほど! 助言感謝する!」
老人は敢えてその夢を否定するような事はせず静かに去って行った。
その背中を見送り、デスドクロは手頃な石を拾いキュウリへと括り付けて、再び川へと投げ入れたのだった。
「ウィアドー、魚釣れたかよー?」
さっきまで釣る気満々だったはずの陽向居 酒楽(ka5161)が、次の瞬間には木陰でゴロ寝しながらウィアド(ka3220)へと声を掛けた。
「……酒楽さんが釣りしたいって言ったのに……」
釣った魚は塩焼きでいいかなぁなんて提案しようとしていたウィアドはがっくりと肩を落とした。
「お前ならできる、間違いない。だから後は任せたヨロシクー」
言うが早いか、すやぁと寝息を立て始めた酒楽を見て、ウィアドは酒楽を起こすという選択肢を早々に諦めて、テキパキと食事の準備を整える。
「おーい。出来たぞ、起きろ」
その声に満足そうに笑いながら酒楽は起きた。
「おう、良い香りだァ♪ ウィアド、酒くれ、酒」
「は? そんなもの持ってきている訳ないだろ」
「はぁ? おま、こういう時に酒で一杯やんなくてどうするよー」
ブーたれる酒楽の前に、焼きたての塩焼きを置いてウィアドは腰に手を当てた。
「いつも酒ばかり飲んでいるんだから……」
「こんな時にお説教とか聞きたくありませーん。オカンかお前は」
ぷいっと顔を背ける酒楽に「誰が母親か!」とツッコミつつ、ウィアドは今日何度目かの溜息を吐いた。
「もー、お説教は後だ。ほら、冷めないうちに食べて」
ウィアドの勧めに酒楽は魚にかぶりついた。
焼きたてのそれはとても熱かったが、脂の乗った魚の身と絶妙な塩加減に自然と笑顔が浮かぶ。
「おー、美味ェわ」
絶妙な焼き加減を褒めつつ、酒楽は自分の食事する様を見守るウィアドにも魚を食べるように勧める。
そんな酒楽を何だかんだと放って置けない自分に苦笑しつつ、ウィアドも食事を開始したのだった。
「二人きりでこういう時間を過ごすのも随分久しぶりな気がしますね」
日下 菜摘(ka0881)の優しい笑顔に、榊 兵庫(ka0010)は罰が悪そうに後頭部を掻いた。
「……なかなか二人きりになれる時間も取れなかったが。悪い。俺の趣味に付き合わせてしまったようで」
その言葉に菜摘は驚いて首を横に振って答える。
「……退屈していないか?」
「……退屈なんてしていませんよ。わたしはわたしでこの一時を楽しんでいますから」
釣り糸を垂れる兵庫の傍らで穏やかな時間を過ごす。それが菜摘にとっては幸せな時間だった。
静かに微笑む菜摘に、兵庫は結局気の利いた会話も出来ないまま「そうか」と釣りを続けた。
時間もお昼時となり、菜摘は持参したお弁当を広げて見せた。
「お酒もありますよ」
蒸留酒を取り出して見せると、兵庫は喜んで杯を受け取り、また菜摘の杯にも酒を注いだ。
「「乾杯」」
軽く杯を合わせて、舌先を濡らす。それから、我慢出来ないと言わんばかりに兵庫は「いただきます」と声を上げると、早速お弁当へと箸をのばした。
「どうですか? 結構美味しく出来たと思うんですけど」
色とりどりの和風弁当は兵庫の好みを予想しながら菜摘が作ったもので、黙々と食べ続ける兵庫に菜摘は恐る恐る声を掛けた。
「……旨い! 俺好みの味付けだ。良い嫁さんになれるな」
問われて、嚥下すると同時に告げた言葉に、菜摘の表情が固まる。それを見た兵庫も言葉を詰まらせた。
「……あの、それは……!」
兵庫は戸惑う菜摘を抱き寄せるとその唇を優しく奪った。
そして耳元で囁かれた言葉に、菜摘は花が咲き誇るような笑顔で兵庫に答えた。
「よぉ兄さん、釣れてるかい?」
「!?」
ぼーっと釣りを楽しんでいたヨルムガンド・D・アルバ(ka5168)は、驚いて派手に全身をビクつかせた。
明らかに怯えている様子の彼を見て、フェリル・L・サルバ(ka4516)は「いきなり話しかけてごめんな」と告げて自分の竿の位置まで戻る。
暫くしてヨルムガンドは立ち上がった。
「……」
無言で差し出された飴とヨルムガンドの顔を3往復して、フェリルは自分を指差した。
「えっ、いいの? サンキュ」
やっぱり無言で頷くので、礼を言ってその掌の飴を受け取ると口に放り込む。
ヨルムガンドは『魚もこの人が怖いから寄り付かないのか?』と真剣に失礼な事を思いながら、自分もまた飴を口に入れた。
釣れないまま暫くして、再び人の気配を感じてヨルムガンドが顔を向けると、目の前に魚の籠が差し出された。
「飴玉くれたからお礼にな」
思わず受け取ってしまって、籠の中を見ると、1匹の川魚がビチビチと動いているのが目に見えた。
「ありがとう」
戸惑いながらも、僅かに微笑みながらお礼を告げると、その顔をじーっとフェリルに見られて「ひぃっ!」と思わず悲鳴が上がった。
「ところでお前さぁ、なんか俺に似てね? 声とか目の辺りがなんとなく……」
フェリルの視線に、ヨルムガンドはガクガクガクガクと震えながらぶんぶんと首を横に振った。
「ひ、ひと、ひとちが、い……!」
ガタガタと後退すると、ダッシュで逃げ出した。
「ありゃ、怯えさせたかな?」
またなー! とフェリルは笑顔で手を振ってそんなヨルムガンドを見送ったのだった。
そんな二人の対岸では、超級まりお(ka0824)が釣り糸を垂らしていた。
全く釣れていないのだが、まりおにとって釣果よりこの場のパワースポット感が気に入り、この場を独占したかっただけなので特に問題は無い。
そもそも、糸の先にただの刺繍針を付けただけで餌も付けていないので釣れる訳もなく。
それでも岩の上でのんびりと自然を感じながら過ごす一時にご満悦のまりおなのだった。
●番外:主を追う者
「主クラスが釣りたい? じゃぁここにはいないよ。もっと下流じゃないと」
そう村人から指摘されたミネット・ベアール(ka3282)は、釣り場を離れ、BBQ広場を離れ、下へ下へと下っていった。かなり川幅が広くなった頃、アドバイスにあった橋を漸く見つけた。
「ミネット、行きます!」
ざっぱぁーんと銛と共に皮へと飛び込み獲物を探す。
大物のいそうな場所や気配を静かに探し続けるその後ろを、のそりと大きな影が走った。
ミネットは一気に銛を突き貫き、水面に上がると雄叫びを上げた。
「川の主、とったど~!」
……しかし、周囲には誰もおらず、大きな魚をえっちらおっちらと運んで戻る頃にはもう誰もいなくなっていたのだった。
●追う人、逃げる魚
魚釣りに来たが、堪え性が無い響ヶ谷 玲奈(ka0028)は早々に飽きた。一方で初めて魚釣りに挑戦してみたエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)も待っている間に素潜りした方が早いんじゃ無いかと思い始めていた。
結局2人は早々に釣りを諦め、岩場を後にする事にした。
「森林浴しながら野鳥のスケッチとかでもよかったんだよ?」
そういう玲奈にエヴァはふるふると首を振って『魚食べたい!』と目と唇で訴える。
「まったく、エヴァは食いしん坊なんだから」
満面の笑顔でエヴァの手を引き、川下へ向かって歩き始めた。
魚のつかみ取り会場前にさしかかった時、玲奈の手からエヴァがするりと離れた。
エヴァはにっこりスマイルを浮かべながら、1人の男性へと近付いていく。
「あっ、ちょっと待ってエヴァちゃん、別にね俺サボっているわけじゃ……あぁああああ!?」
綺麗な一本背負いにより、男は派手な水音を立てて川へと投げ込まれた。
「え、エヴァ!?」
慌てて玲奈がエヴァの傍に駆け寄るのと、「ルピさん!?」と川から声が上がるのはほぼ同時だった。
「響ヶ谷 玲奈だ、どうぞよろしく」
「俺はルピナス。こっちが妹のリオ」
ずぶ濡れのまま、ルピナス(ka0179)が自己紹介すると、紹介された蒲公英(ka3795)は丁寧にお辞儀をした。
「蒲公英と申します。エヴァ様と玲奈様ですね。よろしくお願いします」
差し出される手を握り替えしながら、エヴァはニコニコと微笑む。
……と、その背後になにやら気配を感じて振り返る。
「……捌きがいのある子……ねぇねぇ、捌こうか。釣果」
ブラウスを肩に引っかけた、シンプルな白いワンピース水着に身を包んだ女性が、大包丁を片手にふらりと近寄ってきた。
「あげてからすぐ下ごしらえしたほうがおいしいよ」
声は弾んだ感じだが驚くほどの無表情で告げる彼女に、呆気にとられた一同だったが、どうやら蒲公英の釣果を指しての申し出らしいと気付いた玲奈が「わたし塩焼きがいいな」ときらきらと笑っていった。
「あたしはメロウ」
メロウ(ka1307)の為に再度自己紹介をし直した一同は、ルピナスと蒲公英が再度魚を捕まえに行く事とし、玲奈とエヴァはメロウの調理を手伝う事とした。
「……君はたまに騎士らしくないことをするよね」
蹴られそうになったのを持ち前の反射神経で避けたルピナスは少し呆れを込めて蒲公英に告げるが、「何の事でしょう?」と彼女はすっとぼけて見せた。
ルピナスと蒲公英が真面目に魚獲りに興じた結果、十分な量の魚が獲れ、ルピナスは兄としての威厳を保てた事にほくほく顔で釣果を調理組に渡した。
メロウはバタフライナイフを取り出し、見事な手際で魚を捌いていく。
出来上がった料理は塩焼き、ムニエル、煮付けとシンプルながらもどれも絶妙な味付けで、5人は食事を通して楽しく親交を深めた。
食事が済んで一段落して、エヴァは絵を描くとそれを玲奈に見せた。
木々の緑と川の碧、空の青と光の乱反射。見事な風景画の中には美味しそうな魚料理が写り込んでいて、玲奈は素敵、と笑った。
シックな黒ビキニに身を包んだ鹿島 雲雀(ka3706)と、清涼感のある白青ビキニのリリティア・オルベール(ka3054)の間には『酒代を掛けた戦い』の火蓋が今切って落とされようとしていた。
「「よーい、ドン!」」
お互いの目を見て、同時に合図を出すと、リリティアは疾影士の俊敏さを見せつけんとばかりに、中腰の姿勢で次々に魚を捕らえていく。
リリティアが場所を移動しようとしたその時、ベチコーン! と飛んできた魚がリリティアの側頭部に命中。思わず蹌踉けたリリティアは足下の石を踏み外して派手にすっころんだ。
なおこの魚。『もっと効率のいい方法は無いか』と考えた雲雀が、気合いの下、熊が鮭を獲る方法を真似て挑戦した結果だったりする。
「な、何するんですーっ!?」
ざばぁっ! とリリティアが立ち上がると同時にビキニトップの紐が外れ、リリティアは悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。
「ちょ、だめですよ! 見ないで下さい!!」
周囲のハンター達に懇願しながら、必死に紐を結ぼうとあたふたするリリティアを見て、雲雀は小さく頷くと今のうちにと魚を捕まえに行くのだった。
「うっし、勝負だ。8匹!」
「私は10匹です」
「うわぁ、俺様の負けかぁ」
にこにこと笑うリリティアに雲雀も笑い頷く。
「いやー、何にせよ楽しかった。いい納涼になったわ」
「えぇ、では行きましょうか」
豪快に笑う雲雀の肩をリリティアは掴むと、絶対に逃がさないぞと笑顔を向けたのだった。
一方、逃げる魚に苦戦しているのは『自称:別次元からやって来た男』ガーレッド・ロアー(ka4994)だ。
「ちょこまかと逃げやがって……必殺超次元キャッチ!」
全力で叫びながら両手をざばぁっと水面に突き入れるが、魚はするりと逃げていく。
「く、超次元キャッチが効かないだと……これは強敵だ! かくなる上は……!」
ドボンと水中に潜り、潜水したまま泳ぎ、両手で水を掻き、力強く後ろ脚を蹴った。ぐん、と前へ進むと、その口で狙い定めた魚を咥え捕らえた。
「どうだ、見たか! これが別次元から来た戦士の実力だ! っておわっ!?」
ざばぁっと身を起こしたのは良いが、そのまましゃべってしまった為、再び魚は川の中へと帰っていってしまった。
「な、なんと……! おのれこしゃくな……!!」
こうなったら、奥の手だ-! と叫びながら再び魚をゲットする為に全力を傾けるガーレッドだった。
「鵤ちゃんもお魚とろうよ」
メオ・C・ウィスタリア(ka3988)の呼びかけに鵤(ka3319)は預かった『たかし丸』の羽根をぴこぴこと動かして拒否を示す。
「おっさんはたかし丸と楽しぃく酒飲んでんの。いいから一人馬鹿みたく遊んでな」
「お魚食べないとねー、健康になれないんだよー。鵤ちゃんいっつもふけんこーしょくひんばっか食べてんじゃんかー。メオさん知ってんだかんなー」
「……不健康食品? おたくにしちゃ難しい言葉知ってんなおい。だが残念。おっさんはぁ、魚なんぞよりよほど身体にいい飲む主食即ち生命の水を摂取してるんでぇ、欠片も問題ないわけよぉ」
なー? と鵤は『たかし丸』に呼びかけながら、くいっとビール缶を傾ける。
「あー、お酒ちびちび飲んで遅くしようったってそうは行かないんだからなぁ。たかし丸こっちに渡してくれていいからー。はーやーくー」
「……ったくこれだから頭幼稚園児はぁ」
鵤は空になったビール缶を不意に放り投げた。
それは綺麗な放物線を描いて、真剣に良い魚を集中し狙いを定めていた冬樹 文太(ka0124)の背中に落ちる。
「……ったぁ!? なんやねん! おっちゃんにメオ、お前ら邪魔すんなやボケェ! っぶ!」
「うっさい」
文太の顔面に折角獲った魚をクリーンヒットさせると、メオはザバザバと波音を立てながら河原へと上がって、文太の顔を見てゲラゲラ笑っている鵤の腕を取る。
「いーやーだっつってんだろ……っぶっ!」
水が入って重くなった空き缶が鵤の額にクリーンヒットし、鵤は仰向けに転がった。
「高みの見物しながら不法投棄とか良いご身分やなぁ?」
空き缶を投げ返した張本人である文太がにっかりと笑う。
「ねー、いこー」
「いーやーだ。ほら、おっさんにかまけて文太君1人に魚取り任せてたら1匹も持って帰られないかもよ?」
「なんやとー!」
鵤の言葉にムッと眉をつり上げた文太が抗議の声を上げる。
そんなこんなで3人で騒いでいると、「お時間です」と係の人に言われてしまい、結局魚を捕れずに帰るハメになった3人だった。
●水遊びとBBQ
「川で遊ぶと聞いていたのでな」
どうじゃ? と胸を張るエルディラ(ka3982)のシンプルながらも可愛らしいワンピースの水着姿をばっちりと眼に焼き付けながらも、思わずピオス・シルワ(ka0987)の口から出たのは「普段より露出が控えめじゃ無い?」だった。
「放っておけ」
ぷぃ、とそっぽを向いてすねた様子も可愛くて、ピオスは彼女の手を取って水の中へと引き込んだ。
「やっぱりこの季節は、水遊びが気持ちいいよね」
「最近暑いからな……ってこら、水をかけるな!」
水を掛けられて、眉間にしわを寄せてみせるが、ピオスの楽しそうな笑顔にエルディラも直ぐに笑顔になる。
膝下までの浅瀬になった所で、ピオスが足を滑らせた。咄嗟に繋いだ手を離せないまま、2人は縺れるように転んだ。
「いたたた……あ、あの、エルディ、これは決してわざとじゃ無くて、その……ぶべらっ!」
不可抗力の結果、エルディラの胸に顔を埋める形となったピオスは、顔を真っ赤にしながら慌てて身を起こそうとしたところ、鳩尾に見事な蹴りを喰らって吹っ飛んだ。
「わ、わざとで無くとも許さんわ! いいから早くどけ!!」
叫ぶエルディラの顔も真っ赤だ。
「あ、いや、その、ホント、ごめん」
ぷりぷりと早歩きで先へと進むエルディラの後を、真っ赤な顔で俯きながらとぼとぼとピオスは歩いて行く。さっきまでの楽しかった気分は何処かに吹き飛んで、ただ恥ずかしいし申し訳無いし、彼女は怒っているしで散々たる想いだった。
そのピオスの手をエルディラは無言のまま取った。
耳まで真っ赤にしているエルディラを見て、ピオスは彼女が本気で怒っているのでは無くて恥ずかしいのだと気付いた。
ピオスは愛しい彼女の小さな手を少し力を込めて握り替えした。
川に入らず河原の日陰で涼を取っていたJ(ka3142)は、そんな初々しい2人の一部始終を見るとも無しに眺めていた。
微笑ましいと思うと同時に、世情の混乱に思いを馳せる。
今起こっている事象が沈静化するのは秋頃だろうと予測し、ほぅ、と溜息を吐いた。
「今日ぐらい、先の労苦に備えて何も考えずに休むのもいいだろう」
そして、また今日が終わったなら、また明日から頑張ろうと静かに眼を閉じた。
【夜煌会】の3人はただ楽しむだけでは無く、みんなと楽しめるようにしようと、専用ベースを作り、オーダー制のバイキング形式の一画を設けていた。
「いらっしゃいませ♪ 注文は何になさいます?」
Uisca Amhran(ka0754)はリアルブルー出身で恋人でもある瀬織 怜皇(ka0684)にBBQについて教えてもらった後はオーダーを取る係となって右に左にと走り回った。
ただオーダーを取るだけでは無く手作りしたサブレや雉鍋の紹介も忘れずに、礼儀作法をわきまえた丁寧な接客を心がけた。
星輝 Amhran(ka0724)はUiscaから注文を受け取ると、己の人生を掛けて習得した薪をくべる技術による火力調整と、焼き色のベストを見計らい飄々とライブクッキング風に魅せる調理をしていく。
……なお、ちょこちょこと途中呑んでいるのはアルコールであるが、その腕に酔いは感じさせない。
空中に酒を撒き一斉にフランベしてみせると、通りがかりの人達も思わず足を止めて「おぉ」と感嘆の声を上げた。
その食材の仕込みや下ごしらえを担当するのは怜皇の仕事だった。
事前に釣った魚、持参した野菜や肉などを串に刺したり、軽く味付けたりしていく。
「しっかり、下味をつけるのが、大切、ですよ」
忙しく働いていた3人だが、それも昼過ぎには落ち着いたので3人は漸く自分達の食事を取った。
食後に怜皇はUiscaの歌とと星輝の舞を特等席で楽しんだ。
「……こういう時間も、大事、ですよね」
杯を傾けながら怜皇は愛しい恋人とその姉と共に過ごす時間をたっぷりと満喫したのだった。
華彩 理子(ka5123)はハンターになって日も浅く、この機会にハンターの知人を増やしたいと思っていたが、【夜煌会】の料理ショー(?)を見て呆気にとられた後、流石にあの中に入る勇気は無く、河原をとぼとぼと歩いていた。
そんな中、大量のバケツにみっちりと入った魚を見事な包丁捌きと、素晴らしい手際の良さで調理していくザレム・アズール(ka0878)と、彼に付いて調理法を教えて貰っているミオレスカ(ka3496)の姿を見つけた。
ザレムは自分の手元を見つめている理子に気付いて「一緒にやってみるか?」と声を掛ける。
「でも、いいんですか?」
仲間に入れて欲しいとは思いつつも、いざ声を掛けると躊躇してしまうものでもある。ミオレスカはそんな理子の背を後押しするように笑いかけた。
「お魚はたくさんあるようですので、どんどん調理してみましょう。燻製も、楽しいですよ」
「ありがとうございます」
3人は軽く自己紹介をした後、淡水魚は良く焼かなければ寄生虫などの可能性が高い事を、サバイバル経験から知識として持っていた理子は、鞄から取ってきた香草をザレムに渡した。
「この季節なら、と思って。山葵と山椒、三つ葉を見つけたわ」
「あぁいいね。じゃぁ有り難く使わせてもらうよ」
ザレムはそれらを受け取るとすり下ろし、刻み、すりつぶした。
ミオレスカは燻製器に並べて燻し、理子は素揚げした骨を指示通りすり鉢で骨粉へと変える。
2人がそれらの作業に没頭していると、その間にザレムが内臓を塩辛にする為に塩と一部には調味料を加えて混ぜていた。
「本当に、手際がいいですね」
ミオレスカが思わず感心して呟くと、ザレムは完成した燻製を一つ味見用に切り分けながら笑った。
「料理人してたこともあるんだよ」
そして出来たてを2人にも食べさせた。
「……美味しい!」
「この香りが、いいですね」
「本当は1日置いてから干す方がいいんだけどな……今回は時間が無いから」
ザレムは2人の笑顔にまんざらでもなさそうに眼を細めた。
……なお、この大量の干物と燻製は後で村へと寄付されたのだった。
【縁】の4人はBBQコーナーに着くなり、各自が役割を果たすべく散り散りになった。
ヘルヴェル(ka4784)は弓を持って山の中へ。クウ(ka3730)は川へ魚釣りに。アティニュス(ka4735)は香草や山菜集めに川の更に上流へ。カイ(ka3770)は皆が出掛けている間に調理場を整え、持ち寄った材料を切り分けたり、調味料を整理したりと下準備を済ませた。
「さぁ、魚にトウモロコシ、色々焼くわ! 火加減なら任せて頂戴!」
魚を釣って帰ってきたクウは塩をぱらぱらと掛けて火に掛けた。
次に帰ってきたヘルヴェルは野鳥を3羽ほど絞めて帰ってくると、血抜きしてから天ぷら・唐揚げ用に捌いた。
最後に帰ってきたアティニュスは薬味となる山菜を取って帰って来た。
「……川魚には寄生虫がいることがありますからね。薬味は必須です」
飯盒の準備を終わらせたカイは、次いで天ぷらの準備をしながら、作って貰った背ごしを食す。
「あぁ、柑橘酢がいいね」
火の番にかかり切りになってしまたクウから魚を譲り受けて背ごしを作ったヘルヴェルは、褒められて嬉しそうに笑った。
「焼けたー!」
クウが嬉しそうに焼きたての塩焼きを手に、ふふりと笑いながらその腹部に噛みつこうとした所をカイがしれっと攫って食べた。
「あぁー!!」
「んぅ、まい。ふふ、油断大敵だな、姉貴」
「……食の恨みはこわいの。カイのお肉を没収するわ!」
「あぁっ! 俺の肉ーーっ!!! やってくれたな姉貴! 俺の楽しみをっ!」
どたばたと暴れる2人を横目に、ヘルヴェルもカイの手元からしれっと魚を奪って食べる。
「あぁっ!」
「ちょ、何横からかっぱらってんだヘル!? アティも何気なく喰うなよ!?」
揚がりたての天ぷらを塩で美味しく頂きはじめているアティを見つけて、カイが悲鳴を上げた時には既に、魚も肉もヘルヴェルの手元に移動していた。
「目を離す方が悪い」
「ぐ、ぐぬぬ~っ! こうなったら戦争よ!」
クウが3人へと飛び掛かり、激しい食糧争奪戦が行われ……最終的には皆のお腹が満ちて、各々幸せそうに河原に寝転がった。
「あー、し、あ、わ、せぇ~……」
クウはすやぁとお昼寝に入り、そんな姉を見てカイは苦笑しながら外套をそっと掛けたのだった。
●静かな森に抱かれて
エルティア・ホープナー(ka0727)は森の中で最も大きな樹を探し出すと、するするとその樹に登った。
川のせせらぎと風に揺れる木々の奏でる音、鳥のさえずりに羽ばたきの音色。大好きな本を繰りながら、それらに全身を浸し、たゆたう。
「エア、ボードウォッチングでも……ってあれ?」
シルヴェイラ(ka0726)は一緒に来たはずのエルティアがいつの間にか姿を消してしまったので慌てて探していたが、その姿を樹の上で見つけると「何をしてるんだ」と呆れて問うて木に登る。こんなところに来てまで本を読み続ける彼女を、呆れつつもらしいなぁと思い、自然に浮かぶ笑みをそのままに横に座った。
エルティアはシルヴェイラに凭れるようして座り直すと、ぱらりと分厚い本のページを捲る。
「エルフハイムにはとても及ばないけれど、それでも、良いマテリアルを感じる事ができる、素敵な森ね」
彼女の言葉に「あぁ」と短く同意する。
「……たまには悪くないか。こういうのも」
彼女の求めに応じてクッキーを差し出したりして寛ぎながら、クッキーを餌に鳥を呼び寄せた。
そんな野鳥たちを至近距離で観察したエルティアは、その姿を分厚いノートに書き写し、鳥たちと共に歌詞の無い音を謡う
シルヴェイラは落ちないように彼女を見守りつつ、その歌を微笑みながら聴き入る。
「世は全て事もなし……か」
シルヴェイラの独白に、エルティアは小さく微笑む。
「たまには、ね。少しくらいサービスしてあげるわ」
こつん、と頭部を彼の肩口に預けてゆっくりと目を閉じた。
「静かで、よいですね……」
天央 観智(ka0896)は心地よい風に吹かれながら、ここで繰り広げられた雑魔との戦い、その報告書を思い出して緩やかに首を振ると、身を預けているハンモックがゆらりと揺れた。
元々が学者肌気質だったが、このクリムゾンウェストに来てからはそれまでの自分が知っていた『常識』を遥に凌駕した事象と対面するようになり、この二つの世界の共通点と相違点などを一つ一つ挙げながら、それらについて思考を巡らす。
……目を閉じている為、他人からは寝ているように見えるが、観智は存分に知的活動を楽しんだのだった。
「カムロ! なんや偶然やなぁ。よかったらうちも一緒してかまへん?」
突然白藤(ka3768)に声を掛けられてカムロ(ka0160)は目を瞬かせたが、直ぐにいつも通りの表情に戻ると、静かに頷いた。
「……いいよ。ロクなとこ行かないけど」
その返事が来るより早く、白藤はカムロの横に並んで歩き始める。
「ありがとな」
にこりと微笑むと、白藤は世間話をはじめる。
カムロは白藤の話を聞きながら歩を進める。此処――クリムゾンウェストに来てから出来た唯一の知り合いの言葉は、とても心地が良かった。暑さと喧噪から逃れる為に1人この森へ入ったのだが、1人でいた最初より、今の方が気が休まっている気さえした。
「……これから、また大きい戦いが始まってしまうけど、カムロは……出るん?」
今までの声のトーンとは違う問いかけに、カムロは足を止めて白藤を見る。
「……戦いには、出ることになる……だろうな。それが、あたしの選んだ道だから」
カムロは正直に伝えた。むしろ、それ以外の選択肢は無いのだというように。
白藤はとても傷ついたような、悲しむような、諦めたような、知っていたような、とても複雑な表情をして、瞳を伏せた。それから一度逡巡した細い指先がカムロの手を取り、真剣な表情で彼女の瞳を捕らえた。
「迷惑かもしれん、いきなりこんなん言うん変なやつやと思うかもしれん。それでも……うちは、カムロと戦いたいねん。一緒に……一緒に、戦ってくれへんやろか?」
――白藤の提案に、カムロは心底驚いていた。
痛いくらいに握られた指先からは彼女が震えていることを伝えてくる。
でも、不思議と懐かしい気すら覚えて、カムロはその手をゆっくりと握り替えした。
「……承諾するのに理由がいるか? アンタの誘いなら、断ることなんてありえないのに」
その答えを聞いて、白藤はえもいわれぬ表情をした後、瞳を固く閉じた。
そしてゆっくりと瞳を開けると、白藤は綺麗な瞳で微笑った。
●自分達の世界
【お茶会】に参加するはずだったジャバ=ウォーケン(ka4330)は自ら課した目隠しのせいで遭難しかけたところを、『ヤマネ』であるドア=アール=メイジー(ka3901)に発見され、2人は共に現地へと向かっていた……はずだった。
「何故私は道も分からぬままヤマネを背負っているのだ?」
いつの間にかジャバは『ヤマネ』を背に担ぎ、担がれた彼女は気持ちよさそうな寝息を立てている。
「なんだか、美味しそうな、匂い……」
それは『ハンプティ』ことシグ・ハンプティ(ka3900)が淹れた紅茶の香りだった。ジャバは自分の鼻が利く方で良かったと思いながら、一同に遅れた事をまず詫びた。
「遅れて来た罰は重いわ」
この【お茶会】で『女王』であるシルフィウム=クイーン=ハート(ka3981)が、『スペード』であるアーク=ゼロ=シュバイツァー(ka3801)の差す大きな日傘の下でふんぞり返りながら告げる。
「ん? 誰か私の膝の上に座ったか? というか1人じゃ無いな!? なぜ私がみんなの椅子になるのだ!?」
戸惑いながら叫ぶも、命じられた事に何故か逆らえないジャバは気がつけば腕立て状態で皆の椅子としての役割を果たしている。
「私が座るのだから、光栄に思いなさい」
そんな『女王』の左手側には『アリス』ことエルシー・リデル(ka3891)が座り、さらにその左手側には『チェシャ』ことミルク=チェシャ=キャザレル(ka3936)が座った。
「アリスー、いちゃいちゃしよう!」
アリスの右手を取りつつ「もちろん、女王サマもね」と『チェシャ』が付け加えると、女王は「無論よ」とアリスの右手を取った。
「ふっふーん。ボクってば両手に花! 羨ましいでしょー?」
そんな『アリス』の膝の上には、ジャバの背中(寝床)を失った『ヤマネ』がちょこんと座っている。
「どうぞ、お茶ですよ」
『ハンプティ』がジャバの顔前(地ベタ)にティーセットを置いた。
「……おぅ、ありがとう」
ふるふると震える指先ででカップを手に取り、華やかな紅茶の香りにひととき癒やされ、一口含んで、ぶはっ、とむせた。
「これ。椅子が動くな」
「ハンプティ、渋茶はないないしよう」
「アリスがそう言うのなら。三月兎! これを下げて下さい」
呼ばれて「うわあごめんなさい!」と叫びながらすっ飛んできたのは『三月兎』ことヘイヤ・ノワール(ka3903)。
「渋茶は止めてくれない!? 流石に二杯飲まされるのは勘弁だよ!」
「えぇ、飲ませませんからこれを下げて下さい」
「あ、はい」
粛々と手伝いをはじめる『三月兎』を見て、『チェシャ』が『ハンプティ』に声を掛けた。
「ハンプティ、一応聞いとくー。何か手伝う?」
オレの仕事はアリスにあーんをする事なんだがと思いつつも、とりあえず声だけは掛ける。
そんな思いが伝わったのか、『ハンプティ』は『チェシャ』をちらりと見た後、小さく溜息を吐いた。
「手伝いはありがたいですが」
結構ですと断って、出来上がった料理を取りに『ハンプティ』は調理台へ戻る。
さて、ここまでずーっと日傘を持っていた『スペード』は、ついにストレスが限界値を超えた。
『女王』に日が当たらないように日傘を地面にぶっ刺して逃走を図る。
「あ、スペード!」
『アリス』の引き留める声も振り切って彼は何処かへと行ってしまった。
「料理が冷えてしまいます。放っておきましょう」
『ハンプティ』と『三月兎』が粛々とテーブルの上にBBQの網で焼いた肉・野菜・魚、手間暇を掛けた魚の南蛮漬けなどを並べていく。
「あ。ボク食べたいものがあるんだー」
にこりと『三月兎』を見て、アリスが言う。
「兎のホイル焼きとかどうだろう!」
「兎のホイル焼き? 丸ごと行くの?」
『チェシャ』がこきりと首を折って問う。
「え、何だいアリス! 兎のホイル焼きが食べた……え、なんで僕をしばあああああああ」
「畏まりました、直ぐにご用意いたしましょう」
『ハンプティ』が三月兎の腕を背後に捻り上げて身柄を拘束する。
「大丈夫だよ☆ なんどでもヒールするからねー」
ひらひらと手を振りながら『チェシャ』が笑う。
「じゃぁ、食べようか」
『女王』の声により、食事がスタートとなる。
『アリス』は『女王』と『チェシャ』に交互に食べさせて貰って幸せそうに笑うと、お返しと彼女も2人に食べさせる。
「よくやったわ。褒めてあげる」
機嫌良く『女王』が『ハンプティ』を褒めると彼は恭しく一礼して返す。
食事も終わろうという頃、アリスの膝の上で大人しくしていた『ヤマネ』がくしゅん、とくしゃみをした。
「煙草……吸う者は女王様に首を刎ねられれば、いいのにぃ……」
漸く椅子の役割から解放されたジャバは立ち上がると、目隠しをしたままにも関わらず煙草の匂いを辿って『スペード』のもとへと向かおうとして、転んだ。流石に初めて来る場所で目隠ししたままで先に進むのは困難極まりない。
「サボり魔のスペードは叱られればいい」
『アリス』がむすっとした表情で告げると、『女王』はそんなアリスの頭を撫でて宥めた。
「あらあら。役に立たないなら、次は首だけ置いて行かせましょうね」
そしてお茶会を終えた一同は早々に河原を後にしていく。
離れた所で煙管で一服していた『スペード』は溜息と共にぼやいた。
「はぁ……なんでみんなあんなアグレッシブやねん……このまま帰るかいな~」
「なんで俺があんなことを……」とぼやき続けていたが、置いて行かれた事に気付いて慌てて帰路へと付いたのだった。
こうして多くのハンターの協力の下、無事成魚の数を減らす事が出来たお陰で、糞害も徐々に収まり、無駄に餓死する魚も出なくなったのだった。
チチチ、と名も知らぬ小鳥が鳴いた。
夏の日差しは徐々に熱量を増してきているが、川面を走る風は涼しく、揺れる木々が奏でる葉音はさやさやと優しい。
蝉の鳴き声が響くが、それさえも季節を感じさせる演出の一つであり、いたずらに気分を逆撫でるような不快さは一切感じさせない。
ドミノ・ウィル(ka0208)はそんな風景の一部に自分もなったような、そんな錯覚を覚えながら釣り糸を垂らしていた。
「川釣りは難しい。川の流れと一緒で釣れるタイミングは一瞬。だからこそ面白い……とは師匠も言っていたな、うん」
竿の先の鈴がりん、と鳴り、糸の引かれる感覚にワクワクしながら、竿をゆっくりと立てて慎重に糸を巻く。逃げられたとしても、釣り上げられたとしても、どちらにしても今この一瞬を心から楽しんでいた。
ステラ・ブルマーレ(ka3014)は慣れた手つきで針に餌を付けると、そぅっと川へと投げ入れた。
海辺暮らしのお陰で漁や海釣りの経験はあるものの、川釣りはあまり経験が無い為、ゆったりと楽しむつもりで木陰の大岩に腰を据える。
「こういうのも、今後は研究対象にすれば面白いかな? 広く知られれば、こういった二次水害の注意喚起にもなるだろうし」
今回の吹きだまりが出来た経緯を思い出しながら、のんびりと思案にふける。
暫くしてツンツンと竿が揺れたタイミングを逃さず、クィッと素早く竿を上げた。
ビチビチと跳ねる銀色の鱗を引き寄せて、その大きさに思わず頬が緩んだ。
「ま、良いや♪ 今日は近くの村の人達には悪いけど、人助けだと思って楽しんじゃおう♪♪」
手早く針を外して魚を籠へ入れると、鼻歌を口ずさみながら再び糸を垂らした。
そんなステラの大岩を挟んで右隣ではデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が並々ならぬ気魄と共に竿を振った。
「……お前さん、何をしとるのかね?」
アドバイス係の老人が見事な放物線を描いて川面に沈み……再び浮いてきたキュウリを見て思わず声を掛けた。
すると「くっくっく」という邪笑の後、デスドクロは老人に向かって朗々と語った。
「釣りをする際にターゲットを絞らないのは素人。しかし、この俺様のように上位ステージに立つ男ともなると話しは別、ってな。当然釣るべき獲物を定め、それに応じた仕掛けを用意する。それでこそ、真のフィッシャーマンと言えるからだ」
「はぁ」と老人は視線の先に、川の流れに翻弄されるきゅうりを捕らえつつ話しを聞いていた。
「で、何を狙っとるんだね?」
老人の問いに、デスドクロはビシィっと親指を立てて白い歯を輝かせた。
「ずばり、河童だ!」
老人は、再び「はぁ」と呆れとも相づちとも分からぬ声を漏らした。
「歪虚が消え、魚が増えた。なればこそ本来の住人が戻ってくる可能性は極めて高ぇ。このデスドクロ様と川に棲む怪異との真剣勝負! 負けるわけにゃーいかねぇな」
なお、そう告げる瞳はきらっきらしている。一点の曇も無い少年の瞳だ。
「……そうかね。だが、針にそのままキュウリでは浮いてしまってダメだから、何か重しを一緒に結わえた方が良いと思うよ」
「!! そうか、なるほど! 助言感謝する!」
老人は敢えてその夢を否定するような事はせず静かに去って行った。
その背中を見送り、デスドクロは手頃な石を拾いキュウリへと括り付けて、再び川へと投げ入れたのだった。
「ウィアドー、魚釣れたかよー?」
さっきまで釣る気満々だったはずの陽向居 酒楽(ka5161)が、次の瞬間には木陰でゴロ寝しながらウィアド(ka3220)へと声を掛けた。
「……酒楽さんが釣りしたいって言ったのに……」
釣った魚は塩焼きでいいかなぁなんて提案しようとしていたウィアドはがっくりと肩を落とした。
「お前ならできる、間違いない。だから後は任せたヨロシクー」
言うが早いか、すやぁと寝息を立て始めた酒楽を見て、ウィアドは酒楽を起こすという選択肢を早々に諦めて、テキパキと食事の準備を整える。
「おーい。出来たぞ、起きろ」
その声に満足そうに笑いながら酒楽は起きた。
「おう、良い香りだァ♪ ウィアド、酒くれ、酒」
「は? そんなもの持ってきている訳ないだろ」
「はぁ? おま、こういう時に酒で一杯やんなくてどうするよー」
ブーたれる酒楽の前に、焼きたての塩焼きを置いてウィアドは腰に手を当てた。
「いつも酒ばかり飲んでいるんだから……」
「こんな時にお説教とか聞きたくありませーん。オカンかお前は」
ぷいっと顔を背ける酒楽に「誰が母親か!」とツッコミつつ、ウィアドは今日何度目かの溜息を吐いた。
「もー、お説教は後だ。ほら、冷めないうちに食べて」
ウィアドの勧めに酒楽は魚にかぶりついた。
焼きたてのそれはとても熱かったが、脂の乗った魚の身と絶妙な塩加減に自然と笑顔が浮かぶ。
「おー、美味ェわ」
絶妙な焼き加減を褒めつつ、酒楽は自分の食事する様を見守るウィアドにも魚を食べるように勧める。
そんな酒楽を何だかんだと放って置けない自分に苦笑しつつ、ウィアドも食事を開始したのだった。
「二人きりでこういう時間を過ごすのも随分久しぶりな気がしますね」
日下 菜摘(ka0881)の優しい笑顔に、榊 兵庫(ka0010)は罰が悪そうに後頭部を掻いた。
「……なかなか二人きりになれる時間も取れなかったが。悪い。俺の趣味に付き合わせてしまったようで」
その言葉に菜摘は驚いて首を横に振って答える。
「……退屈していないか?」
「……退屈なんてしていませんよ。わたしはわたしでこの一時を楽しんでいますから」
釣り糸を垂れる兵庫の傍らで穏やかな時間を過ごす。それが菜摘にとっては幸せな時間だった。
静かに微笑む菜摘に、兵庫は結局気の利いた会話も出来ないまま「そうか」と釣りを続けた。
時間もお昼時となり、菜摘は持参したお弁当を広げて見せた。
「お酒もありますよ」
蒸留酒を取り出して見せると、兵庫は喜んで杯を受け取り、また菜摘の杯にも酒を注いだ。
「「乾杯」」
軽く杯を合わせて、舌先を濡らす。それから、我慢出来ないと言わんばかりに兵庫は「いただきます」と声を上げると、早速お弁当へと箸をのばした。
「どうですか? 結構美味しく出来たと思うんですけど」
色とりどりの和風弁当は兵庫の好みを予想しながら菜摘が作ったもので、黙々と食べ続ける兵庫に菜摘は恐る恐る声を掛けた。
「……旨い! 俺好みの味付けだ。良い嫁さんになれるな」
問われて、嚥下すると同時に告げた言葉に、菜摘の表情が固まる。それを見た兵庫も言葉を詰まらせた。
「……あの、それは……!」
兵庫は戸惑う菜摘を抱き寄せるとその唇を優しく奪った。
そして耳元で囁かれた言葉に、菜摘は花が咲き誇るような笑顔で兵庫に答えた。
「よぉ兄さん、釣れてるかい?」
「!?」
ぼーっと釣りを楽しんでいたヨルムガンド・D・アルバ(ka5168)は、驚いて派手に全身をビクつかせた。
明らかに怯えている様子の彼を見て、フェリル・L・サルバ(ka4516)は「いきなり話しかけてごめんな」と告げて自分の竿の位置まで戻る。
暫くしてヨルムガンドは立ち上がった。
「……」
無言で差し出された飴とヨルムガンドの顔を3往復して、フェリルは自分を指差した。
「えっ、いいの? サンキュ」
やっぱり無言で頷くので、礼を言ってその掌の飴を受け取ると口に放り込む。
ヨルムガンドは『魚もこの人が怖いから寄り付かないのか?』と真剣に失礼な事を思いながら、自分もまた飴を口に入れた。
釣れないまま暫くして、再び人の気配を感じてヨルムガンドが顔を向けると、目の前に魚の籠が差し出された。
「飴玉くれたからお礼にな」
思わず受け取ってしまって、籠の中を見ると、1匹の川魚がビチビチと動いているのが目に見えた。
「ありがとう」
戸惑いながらも、僅かに微笑みながらお礼を告げると、その顔をじーっとフェリルに見られて「ひぃっ!」と思わず悲鳴が上がった。
「ところでお前さぁ、なんか俺に似てね? 声とか目の辺りがなんとなく……」
フェリルの視線に、ヨルムガンドはガクガクガクガクと震えながらぶんぶんと首を横に振った。
「ひ、ひと、ひとちが、い……!」
ガタガタと後退すると、ダッシュで逃げ出した。
「ありゃ、怯えさせたかな?」
またなー! とフェリルは笑顔で手を振ってそんなヨルムガンドを見送ったのだった。
そんな二人の対岸では、超級まりお(ka0824)が釣り糸を垂らしていた。
全く釣れていないのだが、まりおにとって釣果よりこの場のパワースポット感が気に入り、この場を独占したかっただけなので特に問題は無い。
そもそも、糸の先にただの刺繍針を付けただけで餌も付けていないので釣れる訳もなく。
それでも岩の上でのんびりと自然を感じながら過ごす一時にご満悦のまりおなのだった。
●番外:主を追う者
「主クラスが釣りたい? じゃぁここにはいないよ。もっと下流じゃないと」
そう村人から指摘されたミネット・ベアール(ka3282)は、釣り場を離れ、BBQ広場を離れ、下へ下へと下っていった。かなり川幅が広くなった頃、アドバイスにあった橋を漸く見つけた。
「ミネット、行きます!」
ざっぱぁーんと銛と共に皮へと飛び込み獲物を探す。
大物のいそうな場所や気配を静かに探し続けるその後ろを、のそりと大きな影が走った。
ミネットは一気に銛を突き貫き、水面に上がると雄叫びを上げた。
「川の主、とったど~!」
……しかし、周囲には誰もおらず、大きな魚をえっちらおっちらと運んで戻る頃にはもう誰もいなくなっていたのだった。
●追う人、逃げる魚
魚釣りに来たが、堪え性が無い響ヶ谷 玲奈(ka0028)は早々に飽きた。一方で初めて魚釣りに挑戦してみたエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)も待っている間に素潜りした方が早いんじゃ無いかと思い始めていた。
結局2人は早々に釣りを諦め、岩場を後にする事にした。
「森林浴しながら野鳥のスケッチとかでもよかったんだよ?」
そういう玲奈にエヴァはふるふると首を振って『魚食べたい!』と目と唇で訴える。
「まったく、エヴァは食いしん坊なんだから」
満面の笑顔でエヴァの手を引き、川下へ向かって歩き始めた。
魚のつかみ取り会場前にさしかかった時、玲奈の手からエヴァがするりと離れた。
エヴァはにっこりスマイルを浮かべながら、1人の男性へと近付いていく。
「あっ、ちょっと待ってエヴァちゃん、別にね俺サボっているわけじゃ……あぁああああ!?」
綺麗な一本背負いにより、男は派手な水音を立てて川へと投げ込まれた。
「え、エヴァ!?」
慌てて玲奈がエヴァの傍に駆け寄るのと、「ルピさん!?」と川から声が上がるのはほぼ同時だった。
「響ヶ谷 玲奈だ、どうぞよろしく」
「俺はルピナス。こっちが妹のリオ」
ずぶ濡れのまま、ルピナス(ka0179)が自己紹介すると、紹介された蒲公英(ka3795)は丁寧にお辞儀をした。
「蒲公英と申します。エヴァ様と玲奈様ですね。よろしくお願いします」
差し出される手を握り替えしながら、エヴァはニコニコと微笑む。
……と、その背後になにやら気配を感じて振り返る。
「……捌きがいのある子……ねぇねぇ、捌こうか。釣果」
ブラウスを肩に引っかけた、シンプルな白いワンピース水着に身を包んだ女性が、大包丁を片手にふらりと近寄ってきた。
「あげてからすぐ下ごしらえしたほうがおいしいよ」
声は弾んだ感じだが驚くほどの無表情で告げる彼女に、呆気にとられた一同だったが、どうやら蒲公英の釣果を指しての申し出らしいと気付いた玲奈が「わたし塩焼きがいいな」ときらきらと笑っていった。
「あたしはメロウ」
メロウ(ka1307)の為に再度自己紹介をし直した一同は、ルピナスと蒲公英が再度魚を捕まえに行く事とし、玲奈とエヴァはメロウの調理を手伝う事とした。
「……君はたまに騎士らしくないことをするよね」
蹴られそうになったのを持ち前の反射神経で避けたルピナスは少し呆れを込めて蒲公英に告げるが、「何の事でしょう?」と彼女はすっとぼけて見せた。
ルピナスと蒲公英が真面目に魚獲りに興じた結果、十分な量の魚が獲れ、ルピナスは兄としての威厳を保てた事にほくほく顔で釣果を調理組に渡した。
メロウはバタフライナイフを取り出し、見事な手際で魚を捌いていく。
出来上がった料理は塩焼き、ムニエル、煮付けとシンプルながらもどれも絶妙な味付けで、5人は食事を通して楽しく親交を深めた。
食事が済んで一段落して、エヴァは絵を描くとそれを玲奈に見せた。
木々の緑と川の碧、空の青と光の乱反射。見事な風景画の中には美味しそうな魚料理が写り込んでいて、玲奈は素敵、と笑った。
シックな黒ビキニに身を包んだ鹿島 雲雀(ka3706)と、清涼感のある白青ビキニのリリティア・オルベール(ka3054)の間には『酒代を掛けた戦い』の火蓋が今切って落とされようとしていた。
「「よーい、ドン!」」
お互いの目を見て、同時に合図を出すと、リリティアは疾影士の俊敏さを見せつけんとばかりに、中腰の姿勢で次々に魚を捕らえていく。
リリティアが場所を移動しようとしたその時、ベチコーン! と飛んできた魚がリリティアの側頭部に命中。思わず蹌踉けたリリティアは足下の石を踏み外して派手にすっころんだ。
なおこの魚。『もっと効率のいい方法は無いか』と考えた雲雀が、気合いの下、熊が鮭を獲る方法を真似て挑戦した結果だったりする。
「な、何するんですーっ!?」
ざばぁっ! とリリティアが立ち上がると同時にビキニトップの紐が外れ、リリティアは悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。
「ちょ、だめですよ! 見ないで下さい!!」
周囲のハンター達に懇願しながら、必死に紐を結ぼうとあたふたするリリティアを見て、雲雀は小さく頷くと今のうちにと魚を捕まえに行くのだった。
「うっし、勝負だ。8匹!」
「私は10匹です」
「うわぁ、俺様の負けかぁ」
にこにこと笑うリリティアに雲雀も笑い頷く。
「いやー、何にせよ楽しかった。いい納涼になったわ」
「えぇ、では行きましょうか」
豪快に笑う雲雀の肩をリリティアは掴むと、絶対に逃がさないぞと笑顔を向けたのだった。
一方、逃げる魚に苦戦しているのは『自称:別次元からやって来た男』ガーレッド・ロアー(ka4994)だ。
「ちょこまかと逃げやがって……必殺超次元キャッチ!」
全力で叫びながら両手をざばぁっと水面に突き入れるが、魚はするりと逃げていく。
「く、超次元キャッチが効かないだと……これは強敵だ! かくなる上は……!」
ドボンと水中に潜り、潜水したまま泳ぎ、両手で水を掻き、力強く後ろ脚を蹴った。ぐん、と前へ進むと、その口で狙い定めた魚を咥え捕らえた。
「どうだ、見たか! これが別次元から来た戦士の実力だ! っておわっ!?」
ざばぁっと身を起こしたのは良いが、そのまましゃべってしまった為、再び魚は川の中へと帰っていってしまった。
「な、なんと……! おのれこしゃくな……!!」
こうなったら、奥の手だ-! と叫びながら再び魚をゲットする為に全力を傾けるガーレッドだった。
「鵤ちゃんもお魚とろうよ」
メオ・C・ウィスタリア(ka3988)の呼びかけに鵤(ka3319)は預かった『たかし丸』の羽根をぴこぴこと動かして拒否を示す。
「おっさんはたかし丸と楽しぃく酒飲んでんの。いいから一人馬鹿みたく遊んでな」
「お魚食べないとねー、健康になれないんだよー。鵤ちゃんいっつもふけんこーしょくひんばっか食べてんじゃんかー。メオさん知ってんだかんなー」
「……不健康食品? おたくにしちゃ難しい言葉知ってんなおい。だが残念。おっさんはぁ、魚なんぞよりよほど身体にいい飲む主食即ち生命の水を摂取してるんでぇ、欠片も問題ないわけよぉ」
なー? と鵤は『たかし丸』に呼びかけながら、くいっとビール缶を傾ける。
「あー、お酒ちびちび飲んで遅くしようったってそうは行かないんだからなぁ。たかし丸こっちに渡してくれていいからー。はーやーくー」
「……ったくこれだから頭幼稚園児はぁ」
鵤は空になったビール缶を不意に放り投げた。
それは綺麗な放物線を描いて、真剣に良い魚を集中し狙いを定めていた冬樹 文太(ka0124)の背中に落ちる。
「……ったぁ!? なんやねん! おっちゃんにメオ、お前ら邪魔すんなやボケェ! っぶ!」
「うっさい」
文太の顔面に折角獲った魚をクリーンヒットさせると、メオはザバザバと波音を立てながら河原へと上がって、文太の顔を見てゲラゲラ笑っている鵤の腕を取る。
「いーやーだっつってんだろ……っぶっ!」
水が入って重くなった空き缶が鵤の額にクリーンヒットし、鵤は仰向けに転がった。
「高みの見物しながら不法投棄とか良いご身分やなぁ?」
空き缶を投げ返した張本人である文太がにっかりと笑う。
「ねー、いこー」
「いーやーだ。ほら、おっさんにかまけて文太君1人に魚取り任せてたら1匹も持って帰られないかもよ?」
「なんやとー!」
鵤の言葉にムッと眉をつり上げた文太が抗議の声を上げる。
そんなこんなで3人で騒いでいると、「お時間です」と係の人に言われてしまい、結局魚を捕れずに帰るハメになった3人だった。
●水遊びとBBQ
「川で遊ぶと聞いていたのでな」
どうじゃ? と胸を張るエルディラ(ka3982)のシンプルながらも可愛らしいワンピースの水着姿をばっちりと眼に焼き付けながらも、思わずピオス・シルワ(ka0987)の口から出たのは「普段より露出が控えめじゃ無い?」だった。
「放っておけ」
ぷぃ、とそっぽを向いてすねた様子も可愛くて、ピオスは彼女の手を取って水の中へと引き込んだ。
「やっぱりこの季節は、水遊びが気持ちいいよね」
「最近暑いからな……ってこら、水をかけるな!」
水を掛けられて、眉間にしわを寄せてみせるが、ピオスの楽しそうな笑顔にエルディラも直ぐに笑顔になる。
膝下までの浅瀬になった所で、ピオスが足を滑らせた。咄嗟に繋いだ手を離せないまま、2人は縺れるように転んだ。
「いたたた……あ、あの、エルディ、これは決してわざとじゃ無くて、その……ぶべらっ!」
不可抗力の結果、エルディラの胸に顔を埋める形となったピオスは、顔を真っ赤にしながら慌てて身を起こそうとしたところ、鳩尾に見事な蹴りを喰らって吹っ飛んだ。
「わ、わざとで無くとも許さんわ! いいから早くどけ!!」
叫ぶエルディラの顔も真っ赤だ。
「あ、いや、その、ホント、ごめん」
ぷりぷりと早歩きで先へと進むエルディラの後を、真っ赤な顔で俯きながらとぼとぼとピオスは歩いて行く。さっきまでの楽しかった気分は何処かに吹き飛んで、ただ恥ずかしいし申し訳無いし、彼女は怒っているしで散々たる想いだった。
そのピオスの手をエルディラは無言のまま取った。
耳まで真っ赤にしているエルディラを見て、ピオスは彼女が本気で怒っているのでは無くて恥ずかしいのだと気付いた。
ピオスは愛しい彼女の小さな手を少し力を込めて握り替えした。
川に入らず河原の日陰で涼を取っていたJ(ka3142)は、そんな初々しい2人の一部始終を見るとも無しに眺めていた。
微笑ましいと思うと同時に、世情の混乱に思いを馳せる。
今起こっている事象が沈静化するのは秋頃だろうと予測し、ほぅ、と溜息を吐いた。
「今日ぐらい、先の労苦に備えて何も考えずに休むのもいいだろう」
そして、また今日が終わったなら、また明日から頑張ろうと静かに眼を閉じた。
【夜煌会】の3人はただ楽しむだけでは無く、みんなと楽しめるようにしようと、専用ベースを作り、オーダー制のバイキング形式の一画を設けていた。
「いらっしゃいませ♪ 注文は何になさいます?」
Uisca Amhran(ka0754)はリアルブルー出身で恋人でもある瀬織 怜皇(ka0684)にBBQについて教えてもらった後はオーダーを取る係となって右に左にと走り回った。
ただオーダーを取るだけでは無く手作りしたサブレや雉鍋の紹介も忘れずに、礼儀作法をわきまえた丁寧な接客を心がけた。
星輝 Amhran(ka0724)はUiscaから注文を受け取ると、己の人生を掛けて習得した薪をくべる技術による火力調整と、焼き色のベストを見計らい飄々とライブクッキング風に魅せる調理をしていく。
……なお、ちょこちょこと途中呑んでいるのはアルコールであるが、その腕に酔いは感じさせない。
空中に酒を撒き一斉にフランベしてみせると、通りがかりの人達も思わず足を止めて「おぉ」と感嘆の声を上げた。
その食材の仕込みや下ごしらえを担当するのは怜皇の仕事だった。
事前に釣った魚、持参した野菜や肉などを串に刺したり、軽く味付けたりしていく。
「しっかり、下味をつけるのが、大切、ですよ」
忙しく働いていた3人だが、それも昼過ぎには落ち着いたので3人は漸く自分達の食事を取った。
食後に怜皇はUiscaの歌とと星輝の舞を特等席で楽しんだ。
「……こういう時間も、大事、ですよね」
杯を傾けながら怜皇は愛しい恋人とその姉と共に過ごす時間をたっぷりと満喫したのだった。
華彩 理子(ka5123)はハンターになって日も浅く、この機会にハンターの知人を増やしたいと思っていたが、【夜煌会】の料理ショー(?)を見て呆気にとられた後、流石にあの中に入る勇気は無く、河原をとぼとぼと歩いていた。
そんな中、大量のバケツにみっちりと入った魚を見事な包丁捌きと、素晴らしい手際の良さで調理していくザレム・アズール(ka0878)と、彼に付いて調理法を教えて貰っているミオレスカ(ka3496)の姿を見つけた。
ザレムは自分の手元を見つめている理子に気付いて「一緒にやってみるか?」と声を掛ける。
「でも、いいんですか?」
仲間に入れて欲しいとは思いつつも、いざ声を掛けると躊躇してしまうものでもある。ミオレスカはそんな理子の背を後押しするように笑いかけた。
「お魚はたくさんあるようですので、どんどん調理してみましょう。燻製も、楽しいですよ」
「ありがとうございます」
3人は軽く自己紹介をした後、淡水魚は良く焼かなければ寄生虫などの可能性が高い事を、サバイバル経験から知識として持っていた理子は、鞄から取ってきた香草をザレムに渡した。
「この季節なら、と思って。山葵と山椒、三つ葉を見つけたわ」
「あぁいいね。じゃぁ有り難く使わせてもらうよ」
ザレムはそれらを受け取るとすり下ろし、刻み、すりつぶした。
ミオレスカは燻製器に並べて燻し、理子は素揚げした骨を指示通りすり鉢で骨粉へと変える。
2人がそれらの作業に没頭していると、その間にザレムが内臓を塩辛にする為に塩と一部には調味料を加えて混ぜていた。
「本当に、手際がいいですね」
ミオレスカが思わず感心して呟くと、ザレムは完成した燻製を一つ味見用に切り分けながら笑った。
「料理人してたこともあるんだよ」
そして出来たてを2人にも食べさせた。
「……美味しい!」
「この香りが、いいですね」
「本当は1日置いてから干す方がいいんだけどな……今回は時間が無いから」
ザレムは2人の笑顔にまんざらでもなさそうに眼を細めた。
……なお、この大量の干物と燻製は後で村へと寄付されたのだった。
【縁】の4人はBBQコーナーに着くなり、各自が役割を果たすべく散り散りになった。
ヘルヴェル(ka4784)は弓を持って山の中へ。クウ(ka3730)は川へ魚釣りに。アティニュス(ka4735)は香草や山菜集めに川の更に上流へ。カイ(ka3770)は皆が出掛けている間に調理場を整え、持ち寄った材料を切り分けたり、調味料を整理したりと下準備を済ませた。
「さぁ、魚にトウモロコシ、色々焼くわ! 火加減なら任せて頂戴!」
魚を釣って帰ってきたクウは塩をぱらぱらと掛けて火に掛けた。
次に帰ってきたヘルヴェルは野鳥を3羽ほど絞めて帰ってくると、血抜きしてから天ぷら・唐揚げ用に捌いた。
最後に帰ってきたアティニュスは薬味となる山菜を取って帰って来た。
「……川魚には寄生虫がいることがありますからね。薬味は必須です」
飯盒の準備を終わらせたカイは、次いで天ぷらの準備をしながら、作って貰った背ごしを食す。
「あぁ、柑橘酢がいいね」
火の番にかかり切りになってしまたクウから魚を譲り受けて背ごしを作ったヘルヴェルは、褒められて嬉しそうに笑った。
「焼けたー!」
クウが嬉しそうに焼きたての塩焼きを手に、ふふりと笑いながらその腹部に噛みつこうとした所をカイがしれっと攫って食べた。
「あぁー!!」
「んぅ、まい。ふふ、油断大敵だな、姉貴」
「……食の恨みはこわいの。カイのお肉を没収するわ!」
「あぁっ! 俺の肉ーーっ!!! やってくれたな姉貴! 俺の楽しみをっ!」
どたばたと暴れる2人を横目に、ヘルヴェルもカイの手元からしれっと魚を奪って食べる。
「あぁっ!」
「ちょ、何横からかっぱらってんだヘル!? アティも何気なく喰うなよ!?」
揚がりたての天ぷらを塩で美味しく頂きはじめているアティを見つけて、カイが悲鳴を上げた時には既に、魚も肉もヘルヴェルの手元に移動していた。
「目を離す方が悪い」
「ぐ、ぐぬぬ~っ! こうなったら戦争よ!」
クウが3人へと飛び掛かり、激しい食糧争奪戦が行われ……最終的には皆のお腹が満ちて、各々幸せそうに河原に寝転がった。
「あー、し、あ、わ、せぇ~……」
クウはすやぁとお昼寝に入り、そんな姉を見てカイは苦笑しながら外套をそっと掛けたのだった。
●静かな森に抱かれて
エルティア・ホープナー(ka0727)は森の中で最も大きな樹を探し出すと、するするとその樹に登った。
川のせせらぎと風に揺れる木々の奏でる音、鳥のさえずりに羽ばたきの音色。大好きな本を繰りながら、それらに全身を浸し、たゆたう。
「エア、ボードウォッチングでも……ってあれ?」
シルヴェイラ(ka0726)は一緒に来たはずのエルティアがいつの間にか姿を消してしまったので慌てて探していたが、その姿を樹の上で見つけると「何をしてるんだ」と呆れて問うて木に登る。こんなところに来てまで本を読み続ける彼女を、呆れつつもらしいなぁと思い、自然に浮かぶ笑みをそのままに横に座った。
エルティアはシルヴェイラに凭れるようして座り直すと、ぱらりと分厚い本のページを捲る。
「エルフハイムにはとても及ばないけれど、それでも、良いマテリアルを感じる事ができる、素敵な森ね」
彼女の言葉に「あぁ」と短く同意する。
「……たまには悪くないか。こういうのも」
彼女の求めに応じてクッキーを差し出したりして寛ぎながら、クッキーを餌に鳥を呼び寄せた。
そんな野鳥たちを至近距離で観察したエルティアは、その姿を分厚いノートに書き写し、鳥たちと共に歌詞の無い音を謡う
シルヴェイラは落ちないように彼女を見守りつつ、その歌を微笑みながら聴き入る。
「世は全て事もなし……か」
シルヴェイラの独白に、エルティアは小さく微笑む。
「たまには、ね。少しくらいサービスしてあげるわ」
こつん、と頭部を彼の肩口に預けてゆっくりと目を閉じた。
「静かで、よいですね……」
天央 観智(ka0896)は心地よい風に吹かれながら、ここで繰り広げられた雑魔との戦い、その報告書を思い出して緩やかに首を振ると、身を預けているハンモックがゆらりと揺れた。
元々が学者肌気質だったが、このクリムゾンウェストに来てからはそれまでの自分が知っていた『常識』を遥に凌駕した事象と対面するようになり、この二つの世界の共通点と相違点などを一つ一つ挙げながら、それらについて思考を巡らす。
……目を閉じている為、他人からは寝ているように見えるが、観智は存分に知的活動を楽しんだのだった。
「カムロ! なんや偶然やなぁ。よかったらうちも一緒してかまへん?」
突然白藤(ka3768)に声を掛けられてカムロ(ka0160)は目を瞬かせたが、直ぐにいつも通りの表情に戻ると、静かに頷いた。
「……いいよ。ロクなとこ行かないけど」
その返事が来るより早く、白藤はカムロの横に並んで歩き始める。
「ありがとな」
にこりと微笑むと、白藤は世間話をはじめる。
カムロは白藤の話を聞きながら歩を進める。此処――クリムゾンウェストに来てから出来た唯一の知り合いの言葉は、とても心地が良かった。暑さと喧噪から逃れる為に1人この森へ入ったのだが、1人でいた最初より、今の方が気が休まっている気さえした。
「……これから、また大きい戦いが始まってしまうけど、カムロは……出るん?」
今までの声のトーンとは違う問いかけに、カムロは足を止めて白藤を見る。
「……戦いには、出ることになる……だろうな。それが、あたしの選んだ道だから」
カムロは正直に伝えた。むしろ、それ以外の選択肢は無いのだというように。
白藤はとても傷ついたような、悲しむような、諦めたような、知っていたような、とても複雑な表情をして、瞳を伏せた。それから一度逡巡した細い指先がカムロの手を取り、真剣な表情で彼女の瞳を捕らえた。
「迷惑かもしれん、いきなりこんなん言うん変なやつやと思うかもしれん。それでも……うちは、カムロと戦いたいねん。一緒に……一緒に、戦ってくれへんやろか?」
――白藤の提案に、カムロは心底驚いていた。
痛いくらいに握られた指先からは彼女が震えていることを伝えてくる。
でも、不思議と懐かしい気すら覚えて、カムロはその手をゆっくりと握り替えした。
「……承諾するのに理由がいるか? アンタの誘いなら、断ることなんてありえないのに」
その答えを聞いて、白藤はえもいわれぬ表情をした後、瞳を固く閉じた。
そしてゆっくりと瞳を開けると、白藤は綺麗な瞳で微笑った。
●自分達の世界
【お茶会】に参加するはずだったジャバ=ウォーケン(ka4330)は自ら課した目隠しのせいで遭難しかけたところを、『ヤマネ』であるドア=アール=メイジー(ka3901)に発見され、2人は共に現地へと向かっていた……はずだった。
「何故私は道も分からぬままヤマネを背負っているのだ?」
いつの間にかジャバは『ヤマネ』を背に担ぎ、担がれた彼女は気持ちよさそうな寝息を立てている。
「なんだか、美味しそうな、匂い……」
それは『ハンプティ』ことシグ・ハンプティ(ka3900)が淹れた紅茶の香りだった。ジャバは自分の鼻が利く方で良かったと思いながら、一同に遅れた事をまず詫びた。
「遅れて来た罰は重いわ」
この【お茶会】で『女王』であるシルフィウム=クイーン=ハート(ka3981)が、『スペード』であるアーク=ゼロ=シュバイツァー(ka3801)の差す大きな日傘の下でふんぞり返りながら告げる。
「ん? 誰か私の膝の上に座ったか? というか1人じゃ無いな!? なぜ私がみんなの椅子になるのだ!?」
戸惑いながら叫ぶも、命じられた事に何故か逆らえないジャバは気がつけば腕立て状態で皆の椅子としての役割を果たしている。
「私が座るのだから、光栄に思いなさい」
そんな『女王』の左手側には『アリス』ことエルシー・リデル(ka3891)が座り、さらにその左手側には『チェシャ』ことミルク=チェシャ=キャザレル(ka3936)が座った。
「アリスー、いちゃいちゃしよう!」
アリスの右手を取りつつ「もちろん、女王サマもね」と『チェシャ』が付け加えると、女王は「無論よ」とアリスの右手を取った。
「ふっふーん。ボクってば両手に花! 羨ましいでしょー?」
そんな『アリス』の膝の上には、ジャバの背中(寝床)を失った『ヤマネ』がちょこんと座っている。
「どうぞ、お茶ですよ」
『ハンプティ』がジャバの顔前(地ベタ)にティーセットを置いた。
「……おぅ、ありがとう」
ふるふると震える指先ででカップを手に取り、華やかな紅茶の香りにひととき癒やされ、一口含んで、ぶはっ、とむせた。
「これ。椅子が動くな」
「ハンプティ、渋茶はないないしよう」
「アリスがそう言うのなら。三月兎! これを下げて下さい」
呼ばれて「うわあごめんなさい!」と叫びながらすっ飛んできたのは『三月兎』ことヘイヤ・ノワール(ka3903)。
「渋茶は止めてくれない!? 流石に二杯飲まされるのは勘弁だよ!」
「えぇ、飲ませませんからこれを下げて下さい」
「あ、はい」
粛々と手伝いをはじめる『三月兎』を見て、『チェシャ』が『ハンプティ』に声を掛けた。
「ハンプティ、一応聞いとくー。何か手伝う?」
オレの仕事はアリスにあーんをする事なんだがと思いつつも、とりあえず声だけは掛ける。
そんな思いが伝わったのか、『ハンプティ』は『チェシャ』をちらりと見た後、小さく溜息を吐いた。
「手伝いはありがたいですが」
結構ですと断って、出来上がった料理を取りに『ハンプティ』は調理台へ戻る。
さて、ここまでずーっと日傘を持っていた『スペード』は、ついにストレスが限界値を超えた。
『女王』に日が当たらないように日傘を地面にぶっ刺して逃走を図る。
「あ、スペード!」
『アリス』の引き留める声も振り切って彼は何処かへと行ってしまった。
「料理が冷えてしまいます。放っておきましょう」
『ハンプティ』と『三月兎』が粛々とテーブルの上にBBQの網で焼いた肉・野菜・魚、手間暇を掛けた魚の南蛮漬けなどを並べていく。
「あ。ボク食べたいものがあるんだー」
にこりと『三月兎』を見て、アリスが言う。
「兎のホイル焼きとかどうだろう!」
「兎のホイル焼き? 丸ごと行くの?」
『チェシャ』がこきりと首を折って問う。
「え、何だいアリス! 兎のホイル焼きが食べた……え、なんで僕をしばあああああああ」
「畏まりました、直ぐにご用意いたしましょう」
『ハンプティ』が三月兎の腕を背後に捻り上げて身柄を拘束する。
「大丈夫だよ☆ なんどでもヒールするからねー」
ひらひらと手を振りながら『チェシャ』が笑う。
「じゃぁ、食べようか」
『女王』の声により、食事がスタートとなる。
『アリス』は『女王』と『チェシャ』に交互に食べさせて貰って幸せそうに笑うと、お返しと彼女も2人に食べさせる。
「よくやったわ。褒めてあげる」
機嫌良く『女王』が『ハンプティ』を褒めると彼は恭しく一礼して返す。
食事も終わろうという頃、アリスの膝の上で大人しくしていた『ヤマネ』がくしゅん、とくしゃみをした。
「煙草……吸う者は女王様に首を刎ねられれば、いいのにぃ……」
漸く椅子の役割から解放されたジャバは立ち上がると、目隠しをしたままにも関わらず煙草の匂いを辿って『スペード』のもとへと向かおうとして、転んだ。流石に初めて来る場所で目隠ししたままで先に進むのは困難極まりない。
「サボり魔のスペードは叱られればいい」
『アリス』がむすっとした表情で告げると、『女王』はそんなアリスの頭を撫でて宥めた。
「あらあら。役に立たないなら、次は首だけ置いて行かせましょうね」
そしてお茶会を終えた一同は早々に河原を後にしていく。
離れた所で煙管で一服していた『スペード』は溜息と共にぼやいた。
「はぁ……なんでみんなあんなアグレッシブやねん……このまま帰るかいな~」
「なんで俺があんなことを……」とぼやき続けていたが、置いて行かれた事に気付いて慌てて帰路へと付いたのだった。
こうして多くのハンターの協力の下、無事成魚の数を減らす事が出来たお陰で、糞害も徐々に収まり、無駄に餓死する魚も出なくなったのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/16 00:01:18 |