ゲスト
(ka0000)
無謀なる少女よ大志を抱け
マスター:芹沢かずい

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/17 12:00
- 完成日
- 2015/07/24 20:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「ねえお姉ちゃん」
前を行く短い赤毛の後ろ頭に向かって声をかけるのは、長い赤毛を緩く三つ編みにした小柄な少女。
「今更文句は言わせないわよ、エマ」
振り返ることなくきっぱりと、お姉ちゃんことリタが答える。エマは溜め息と同時に眼鏡を直すと、リタの進行方向もついでに修正する。
ここは彼女たちが住む村に隣接する雑木林。二人は決して深くまで踏み込まない。というのも……
「お姉ちゃん、村の屋根とか……見えてるよね?」
「っ……見えてるわよ!」
リタが筋金入りの方向音痴だからだ。目標が見えていないと辿り着けない程に。
「本気でハンターになるつもりなの?」
「そうよ! もう村の人たちに反対されるのはうんざりだわ。食料は今調達できたし、出発するなら今しかしないわ!」
「……」
ジト目でリタの後ろ頭を見つめるが、彼女の歩みは止まらなかった。
「……まぁ……狩りができるのはありがたいことよね……標的は動きの鈍い小動物に限られるけど……」
「何か言った?」
「ううん別に」
姉妹は、村人の視線から隠れるようにしながら村の外れへと向かって行く。
彼女たちの荷物はかなり大きい。獲物を調達したその足で、村を出るつもりなのだ。ハンターとして登録しなければ、そもそもハンターと名乗れないではないか。
「お姉ちゃん、登録するのは良いんだけど……」
「何よ」
「その先のことって考えてるの?」
「どういう意味?」
「登録したからってすぐに活躍できるわけじゃないし、精霊とかクラスとか、色々決めていかなきゃいけないみたいよ? 大体覚醒者の素質があるかどうかも分からないのに」
「……そうなの?」
あ。何も考えてないわ私の姉。……正直な感想が顔に出る。
「いいの! まずはハンターとして登録する。それが認められたら、そのあとに色々勉強してから決めるわ! 素質だってこの村にいるよりはハンターズソサエティの施設とかで分かるかも知れないじゃない! とにかく! 村を出る! それから、あたしにぴったりのスタイルを見つけるのよ!」
「……うん、それが良いかもね」
今色々調べたことを説明しても、きっとほとんど記憶に残らないだろうしね。……言いたいことを頑張って飲み込む。
「ところでエマ」
「何?」
「このまま道なりに行けばいいんだったかしら?」
「そう。この一本道を二日くらい歩けば町があるはずよ。途中森を突っ切らなきゃならないけど、馬車が通るくらいの道はあるから、よっぽどじゃないと迷わない……って、お姉ちゃん! そっちじゃないわ!」
不意に道のない薮の中に踏み込むリタを鋭く呼び戻す。
「エマ、ちゃんと道案内してよね。あんたの方が頭良いんだから」
「……うん……頑張るわ……」
……何で道のない所を選んで進むのだろうか。
エマの表情が引きつるのはいつものことだ。
「ま、この先どんな障害が待ち構えていようとも、あたしは夢を追い続けるからね! この旅立ちが第一歩なのよ!」
あらぬ方角に視線を定め、夢見る乙女のイメージとはかけ離れたポーズで気合いを入れる姉を、妹はやはり引きつった表情で見守るのだった。
●
「村長っ! 大変よっ!」
ばたぁんっ!
けたたましい騒音を響かせて、村長宅のドアが開けられた。
「何事じゃい騒々しいっ!」
白髪頭の村長も、負けじと怒鳴り返す。
「これ、これ見て! 今あの子たちの家に行ったら……っ」
「?」
「二人だけで出発しちゃったらしいのよ!」
「何じゃとっ? まったくあの二人は……というかリタじゃな……折角ワシが誕生日サプライズを用意したというのに……」
大袈裟に肩を落とす村長。
「村長が正式に許可を出す前に二人だけで村を出るなんて。ま、行動力だけは大したものだわね。でもハンターの皆さんが迎えに来て下さるっていうのに……なんだか申し訳ないわね」
呆れたように言いながらも、おばちゃんの表情は温かい。
「ふぅむ……ハンターさんたちも同じ道を通るハズじゃし、途中で合流してくれることを願うばかりじゃな……」
村長が依頼を出したのは村から一番近い町にある支部らしい。町からこの村までは一本道。余程のことが無い限り、道を逸れることはないだろう。
「こんな田舎でも物騒な話は聞くし……せめて一般人である間はトラブルは避けてもらいたいもんじゃ。……ワシらに責任問題が生じるでな」
真面目な顔でそんなことを口走る村長。心配しているのは姉妹の安全か己の保身か。
●
村を出てしばらくは、のどかな風景。目指す町までは似たような風景が続くのだが、途中にはさほど深くない森がある。
午後の光が柔らかく差し込む中、突如としてそれは現れた。
「お、お姉ちゃん……ははは早くやっつけて……っ」
「だだだだだいじょうぶよ……っ……はは早く逃げなさい!」
エマ以上に震えた声で、姉は妹を背に庇う。エマは素直に振り返り走る。リタもその後ろを追うが、すぐに妹に激突する。
「っ……! どうしたのよエマ! ……ひぅぇっ」
奇妙な声が漏れた。
二人が目にしたのは、巨大なウサギ。彼女らと同じくらいのサイズはある。歪に膨らんだ巨大な腕をのそのそと振りながら、右へ左へ、ゆったりとした動きで進行を阻むように立ちはだかっている。
「う、後ろは……?」
じりじりと後退し、再度振り向く。
「うひぃ……っ」
その視線の先には、凶悪に光る前歯を剥き出した、リスのような小動物。ちょろちょろと動き回り、異様に大きな赤い目玉でこちらの様子を伺っている。
「お、お姉ちゃん……弓は……?」
「はっ……そう言えば……っ」
バサバサバサ……っ!
「ひぃあああっ!!」
頭上から響いた羽音に、二人はそろって頭を庇って踞る。二人の髪を掠めたのは、巨大なフクロウ。あの足に掴まれなかったのは幸運だった。掴まれたら簡単に攫われてしまうだろう。枝に止まり、奇妙な角度に曲げたその顔は、明らかに二人をからかっているようにも見える。
どちらを向いても不気味な目玉はついてくる。
……ハンターを目指すリタにとっての障害は、ずいぶんと早くにその姿を現したようだ。
不意にリタが立ち上がり、矢をつがえ弓を構えた。……今にも折れそうな程に両足を震わせて。
「お姉ちゃん……?」
「あ、あたしの夢を邪魔するヤツは、よ、容赦しないわ! あたしは町に行くのよ! 邪魔しないでえぇぇっ!!」
最後はほとんど絶叫だった。雄叫びにも似たその声は、森にさしかかったハンター数人の鼓膜にまで響いたのだった。
「ねえお姉ちゃん」
前を行く短い赤毛の後ろ頭に向かって声をかけるのは、長い赤毛を緩く三つ編みにした小柄な少女。
「今更文句は言わせないわよ、エマ」
振り返ることなくきっぱりと、お姉ちゃんことリタが答える。エマは溜め息と同時に眼鏡を直すと、リタの進行方向もついでに修正する。
ここは彼女たちが住む村に隣接する雑木林。二人は決して深くまで踏み込まない。というのも……
「お姉ちゃん、村の屋根とか……見えてるよね?」
「っ……見えてるわよ!」
リタが筋金入りの方向音痴だからだ。目標が見えていないと辿り着けない程に。
「本気でハンターになるつもりなの?」
「そうよ! もう村の人たちに反対されるのはうんざりだわ。食料は今調達できたし、出発するなら今しかしないわ!」
「……」
ジト目でリタの後ろ頭を見つめるが、彼女の歩みは止まらなかった。
「……まぁ……狩りができるのはありがたいことよね……標的は動きの鈍い小動物に限られるけど……」
「何か言った?」
「ううん別に」
姉妹は、村人の視線から隠れるようにしながら村の外れへと向かって行く。
彼女たちの荷物はかなり大きい。獲物を調達したその足で、村を出るつもりなのだ。ハンターとして登録しなければ、そもそもハンターと名乗れないではないか。
「お姉ちゃん、登録するのは良いんだけど……」
「何よ」
「その先のことって考えてるの?」
「どういう意味?」
「登録したからってすぐに活躍できるわけじゃないし、精霊とかクラスとか、色々決めていかなきゃいけないみたいよ? 大体覚醒者の素質があるかどうかも分からないのに」
「……そうなの?」
あ。何も考えてないわ私の姉。……正直な感想が顔に出る。
「いいの! まずはハンターとして登録する。それが認められたら、そのあとに色々勉強してから決めるわ! 素質だってこの村にいるよりはハンターズソサエティの施設とかで分かるかも知れないじゃない! とにかく! 村を出る! それから、あたしにぴったりのスタイルを見つけるのよ!」
「……うん、それが良いかもね」
今色々調べたことを説明しても、きっとほとんど記憶に残らないだろうしね。……言いたいことを頑張って飲み込む。
「ところでエマ」
「何?」
「このまま道なりに行けばいいんだったかしら?」
「そう。この一本道を二日くらい歩けば町があるはずよ。途中森を突っ切らなきゃならないけど、馬車が通るくらいの道はあるから、よっぽどじゃないと迷わない……って、お姉ちゃん! そっちじゃないわ!」
不意に道のない薮の中に踏み込むリタを鋭く呼び戻す。
「エマ、ちゃんと道案内してよね。あんたの方が頭良いんだから」
「……うん……頑張るわ……」
……何で道のない所を選んで進むのだろうか。
エマの表情が引きつるのはいつものことだ。
「ま、この先どんな障害が待ち構えていようとも、あたしは夢を追い続けるからね! この旅立ちが第一歩なのよ!」
あらぬ方角に視線を定め、夢見る乙女のイメージとはかけ離れたポーズで気合いを入れる姉を、妹はやはり引きつった表情で見守るのだった。
●
「村長っ! 大変よっ!」
ばたぁんっ!
けたたましい騒音を響かせて、村長宅のドアが開けられた。
「何事じゃい騒々しいっ!」
白髪頭の村長も、負けじと怒鳴り返す。
「これ、これ見て! 今あの子たちの家に行ったら……っ」
「?」
「二人だけで出発しちゃったらしいのよ!」
「何じゃとっ? まったくあの二人は……というかリタじゃな……折角ワシが誕生日サプライズを用意したというのに……」
大袈裟に肩を落とす村長。
「村長が正式に許可を出す前に二人だけで村を出るなんて。ま、行動力だけは大したものだわね。でもハンターの皆さんが迎えに来て下さるっていうのに……なんだか申し訳ないわね」
呆れたように言いながらも、おばちゃんの表情は温かい。
「ふぅむ……ハンターさんたちも同じ道を通るハズじゃし、途中で合流してくれることを願うばかりじゃな……」
村長が依頼を出したのは村から一番近い町にある支部らしい。町からこの村までは一本道。余程のことが無い限り、道を逸れることはないだろう。
「こんな田舎でも物騒な話は聞くし……せめて一般人である間はトラブルは避けてもらいたいもんじゃ。……ワシらに責任問題が生じるでな」
真面目な顔でそんなことを口走る村長。心配しているのは姉妹の安全か己の保身か。
●
村を出てしばらくは、のどかな風景。目指す町までは似たような風景が続くのだが、途中にはさほど深くない森がある。
午後の光が柔らかく差し込む中、突如としてそれは現れた。
「お、お姉ちゃん……ははは早くやっつけて……っ」
「だだだだだいじょうぶよ……っ……はは早く逃げなさい!」
エマ以上に震えた声で、姉は妹を背に庇う。エマは素直に振り返り走る。リタもその後ろを追うが、すぐに妹に激突する。
「っ……! どうしたのよエマ! ……ひぅぇっ」
奇妙な声が漏れた。
二人が目にしたのは、巨大なウサギ。彼女らと同じくらいのサイズはある。歪に膨らんだ巨大な腕をのそのそと振りながら、右へ左へ、ゆったりとした動きで進行を阻むように立ちはだかっている。
「う、後ろは……?」
じりじりと後退し、再度振り向く。
「うひぃ……っ」
その視線の先には、凶悪に光る前歯を剥き出した、リスのような小動物。ちょろちょろと動き回り、異様に大きな赤い目玉でこちらの様子を伺っている。
「お、お姉ちゃん……弓は……?」
「はっ……そう言えば……っ」
バサバサバサ……っ!
「ひぃあああっ!!」
頭上から響いた羽音に、二人はそろって頭を庇って踞る。二人の髪を掠めたのは、巨大なフクロウ。あの足に掴まれなかったのは幸運だった。掴まれたら簡単に攫われてしまうだろう。枝に止まり、奇妙な角度に曲げたその顔は、明らかに二人をからかっているようにも見える。
どちらを向いても不気味な目玉はついてくる。
……ハンターを目指すリタにとっての障害は、ずいぶんと早くにその姿を現したようだ。
不意にリタが立ち上がり、矢をつがえ弓を構えた。……今にも折れそうな程に両足を震わせて。
「お姉ちゃん……?」
「あ、あたしの夢を邪魔するヤツは、よ、容赦しないわ! あたしは町に行くのよ! 邪魔しないでえぇぇっ!!」
最後はほとんど絶叫だった。雄叫びにも似たその声は、森にさしかかったハンター数人の鼓膜にまで響いたのだった。
リプレイ本文
「あれは……?」
移動中の森。進行方向の少し先から悲鳴じみた声が聞こえた。夕凪 沙良(ka5139)の呟く声に、行動を共にしていたハンターたちは目を合わせ、走り出す。
真っ先に覚醒しその場に到着したのは狭霧 雷(ka5296)。狙うは彼らの目の前にいる小さなリス型雑魔。そのまま攻撃の射程に入る! ……かと思いきや。
「いきゃあああぁっ!」
少女の悲鳴が思った以上に近くで聞こえた。
「っ!?」
すこおぉんっ!
一瞬標的を見失った雷の足元直下に、リタの放った矢が突き刺さった!
「をあっ?」
ずざああっっ!
バランスを崩した雷は、顔面から地面に勢い良くダイブ!
馬から下りたヴァイス(ka0364)の足が、まさに『疾風』のごとく雷の頭を掠め駆け抜け、後ろからスピードを落とした沙良のバイクが近付く。
「無事か!」
ヴァイスは素早く雑魔の位置を確認すると、姉妹の近くへ走る。エマは腰を抜かして動けずにいるが、リタも似たようなものだ。立っているのが不思議な程に膝が震えている。……この状態で放った矢が雷に直撃しなかったことは奇跡に近いのかも知れない。
「お前たちは村の住人か?」
「えっ? あっ、つ、ついさっきまではね! あああんたたちは何なのっ? あそこで思いっきり突っ伏してるヒトとか!」
リタが震える声でまくしたてる。未だ突っ伏したままの雷を遠慮なく指差して。
「ご、ごめんなさい! お姉ちゃんテンパっちゃって……」
エマはリタの指を押さえつけ、姉の代わりに謝りながら、二人分名乗る。
「そうか、お前たちが……と。説明は後だ。まずはここを切り抜けないと」
ヴァイスは改めて敵に向き直る。
姉妹の後ろ、進行を阻むように巨大なウサギ型雑魔。フクロウ型雑魔は枝の上、高い位置から様子を伺っている。リス型雑魔だけはちょろちょろと落ち着き無く動き回っているが、近付いてはこない。
ジオラ・L・スパーダ(ka2635)も馬から下りて太刀を構え、キャリコ・ビューイ(ka5044)、沙良、そして姿の見えないクオン・サガラ(ka0018)との位置関係を確認する。遠距離攻撃用の武器を構えた二人は、すぐに援護ができる位置。
クオンとは定時連絡を取っているし、状況は見えているはず……必要とあらば援護してくれるだろう。
「行くぜ!」
気合いと共にヴァイスの煌剣が巨大ウサギ型雑魔に振り下ろされる! 命中を気にしない渾身の一撃はのろりと避けたウサギの片腕を薙いだが、致命傷ではない。
「俺の攻撃を避けても安心するのはまだ早いぜ」
言うや否や繰り出した刺突一閃! 大きく踏み込んで繰り出された一撃は、腕を薙がれてもなおゆらゆらと動いていたウサギの胴体を貫いた! 一瞬にして形を失うウサギ型雑魔。……残り二匹。
ちょこまかと落ち着きの無いリス型雑魔に狙いを定めたのはジオラ。狼の咆哮に合わせて武器を振り回し威嚇! リス型雑魔はびくりと身体を震わせると、そのまま萎縮し動けない。隙を逃さず渾身のクラッシュブロウで文字通り粉砕! 残り一匹!
バサバサバサ……ッ!
「ひぃいいえあああっ!!」
頭上から降り注ぐ激しい羽音に、リタの奇妙な悲鳴が混じる。
「なっ……?」
ジオラが黄金拳銃を構えて急ぎ振り返ると、視界一杯にリタの顔が映った。……逆さまに。
「うぃいええっ!」
ゆらゆらと宙づりにされている彼女の足には大きな荷物。それを掴み損なって足に絡ませたまま羽ばたき続けるフクロウ型雑魔。張り出した枝が邪魔して身動きが取れないという間の抜けた状況。
ヒュンっ! ギャヒュッ……
風を切り裂く鋭い音と、鳥の首を絞めたような音が連続して響き、羽音に混じる。
森からクオンが放った矢は、フクロウの足を正確に射抜いていた。足は荷物と離れ、重力に従って落下する。……勿論、リタも。
「おっと!」
「ひあっ!?」
間一髪、ヴァイスが地面との間に割り込んで見事にキャッチ。傍にいたエマをジオラが抱えると同時にその場を離れる。と、
「後衛をする場合は味方と敵の位置を常に気にしてくださいね」
沙良の声が聞こえた。
速度は落ちているが安定した走行を続けるバイクに騎乗したまま直立し、ライフルの狙いを定める。もがき暴れるフクロウ型雑魔はものの見事に撃ち抜かれ、地面に落ちる前に原型を失う。
……台詞は実演と共に姉妹に向けられていたようだが、今の二人に届いたかどうかは怪しい。
「大丈夫ですか?」
バイクから降りて問いかける。
「あ、ああたしはだだ大丈夫……だけど……っ」
ヴァイスの腕から抜け出したものの、震え止まぬ声を自覚したのか、大きな深呼吸を三つ四つ。ごほんっ、と咳払いをしてようやく落ち着きを取り戻す。
●
姉妹を襲った雑魔を倒したあとも、クオンは周囲への探索を続けていた。多少彼らから離れていても、リタの声は小気味良いほどに通るので、会話は丸聞こえだった。
(好奇心旺盛なのは良いことですが……わたしはこのまま姿を現さない方が無難なようですね)
クオンの判断も正解だったようだ。リタの興味を惹く存在が増えれば、会話の中でさえ迷子になり兼ねない。
……リタがまくしたてるように話すのを、エマが上手く補足しながら事情を説明している。
「全く、ここからどれだけ距離があると思っているんだ?」
ヴァイスの呆れたような一言。
「まあ、無事だったから良かったが無謀すぎるぞ。ハンターを目指すなら自分の失敗は自分だけに帰ってこない、それだけは覚えておけ」
リタはヴァイスの御説教に耳が痛いのか、エマを見てバツの悪い顔をする。……普段村長に怒られてもこんな顔をしたことはないのだが。
「まあ……無事みたいで何よりだ。立ち向かう勇気もなかなかのもんだな」
言いながら、ヴァイスは二人の頭を撫でる。
「さて、お二人はどうします? 一度村に戻って正式に出発し直しますか?」
立ち直った雷が二人に問う。彼らハンターがここに来た理由は話してあるが、一度村に報告には行くべきだろう。
「嫌よ! あたしたちはハンターになって反対してた村の人たちを見返すまで絶っ対に戻らないわ! ね、エマ!」
「ええっ? 私も?」
エマの方は盛大に驚いたが、リタは気にしない。姉の行く所妹は必ずついて来るもの。それがリタの持論なのだ。
「そうか、何か伝言があれば伝えておくぞ? な、雷」
「そうですね。村の人たちからの伝言があれば聞いてきますし。お二人はここで待っていて下さい。クオンさんもそう遠くへは行かないでしょうから」
言ってちらりと森の方に目をやる。リタがその視線を追うのを見て、必死に誤摩化すハンターたち。
その後ヴァイスと雷はそれぞれ馬とバイクを駆って、村へと向かって行った。
彼らを見送ると、残ったメンバーは小休憩。
「さっきの戦いは凄かったですね……えっと、ジオラさん」
「凄かったわ! 狼みたいに吠えたり、獣の尻尾が見えた気がしたんだけど、あれが『覚醒』っていうやつなの?」
姉妹は先ほど派手に立ち回ったジオラの戦闘に興味津々だったようで、あれこれと矢継ぎ早に質問を繰り返す。エマはメモを手に、生真面目な様子で聞き入っている。ジオラは何やら思う所がある様子で、穏やかな笑みを浮かべている。
「最初にリタに撃たれかけた雷のあの姿も、覚醒したときのものだよ。……敵と間違えたようだがな」
「う……」
少し冗談めかして言うジオラに、リタが赤くなる。
「そう言えば……これを雷の傍に立てるのを忘れていたな」
言いながらキャリコが取り出したのは立て看板。
『フレンドリーという名であっても友好的な攻撃ではない』という意味合いらしい。
「あ、そう言えば私も……」
沙良も同様に用意していたモノを掲げる。内容は……
『コレは敵。撃ってもいいよ』『コレは味方。撃ったらダメ』……こんな雰囲気で、敵と味方が分かりやすく表現されている。
「そんなものを用意していたのか……」
呆れているのはジオラだけ。リタもエマも激しく納得した顔をしている。
「これならお姉ちゃんも間違えないね」
「そうね。さっき雷ってヒトに当たりそうになったから、もっと早くに見せて欲しかったわ」
反省などこれっぽっちもしていないこの発言。
ひとしきり喋り終わると、彼女の興味は周囲の森に移り変わった。ハンターたちの装備品やバイクに向けていた視線が、落ち着き無く彷徨い始める。
「ん? リタはどこへ行った?」
言ったのはキャリコだ。
「え?」
キャリコを除く全員の声がハモった。……今の今までここに居たのに。座り込んで話していたのに。
次の瞬間、全員一斉に森の方へと視線を向けた。示し合わせたかのように、同じ方向へ。……先ほどクオンの名が出てきた時に見た方向。
「まさか……」
誰かの声が空しく響いた。
「やれやれ……方向音痴はハンターにとっては致命的な気がするんですがね……」
一人森の中で探索を続けながら姉妹を見守っていたクオンは、小さくぼやくと魔導短伝話を取り出した。
周囲への警戒をさらに強める。
●
「お姉ちゃーん! クオンって人、あっちだって!」
機転を利かせたエマの呼び声。……果たしてリタは身の丈の半分はあるかという下生えを飛び越えて戻ってきた。
「……へえ、戻って来れるんだね?」
「ええ……どうやら、私の頭の先だけでも見えていれば……」
感心するジオラに、エマが赤くなって答える。リタは何故か得意気だ。そのまま道を横切って行こうとするのを、キャリコががっちりと捕まえた。
「……何かいるようですね」
沙良が森へ視線を向ける。
「えっ? 何っ!?」
自分を捕まえている腕を振りほどくように暴れると、突然弓を構えるリタ。
ガサガサ……小さな音。
どうやら小動物のようだが、キャリコもまたライフルを構え呟く。
「『これこそが我が銃。銃は数あれど我がものは一つ。これぞ我が最良の友、我が命』……というのは、師匠に教わった言葉だが」
「あ、あたしがやるわ!」
喚いてリタが弓を構える。が、何故かそれはバイクで戻ってきた雷に向けられる。
「話を聞け! 今回はその出番はなさそうだと言いたいんだ!」
慌ててリタを羽交い締めるキャリコ。が、二人に向けて沙良が武器を構える……!
「……リスみたいですね、もう行っちゃいましたけど」
突然向けられた沙良の銃口に、さすがのリタも言葉が出ない。
「……射撃する時に集中しすぎて敵の接近に気付かなかった、とかにはならないように。ちなみにアレは敵ではありませんよ、残念ながら」
武器を降ろし、あくまでクールに沙良が言う。
「『残念ながら』って……いま、あきらかにこちらを狙っていませんでしたか!? ……私はなにと戦っているのでしょうか……」
がっくりと呟く雷。クオンから連絡を受け、ヴァイスと共に急いで戻ってきたのだ。
●
「おまえは油断も隙もないから……俺の馬に乗っていくのがいいだろう」
「え? 乗せてくれるのっ?」
ぱあっ! ……そんな効果音さえ出そうな程に顔を輝かせるリタ。ひょいっと持ち上げると、キャリコはリタを自分の前に座らせる。……後ろに座らせれば目が届かない。
「ならエマはあたしの後ろに乗るといい。落ちるんじゃないよ?」
「は、はいっ!」
「よし、じゃあ俺が乗せてやるぜ」
ヴァイスはエマをジオラの後ろに座らせ、彼女にしっかりと掴まるよう言い含める。……姉と違って安心できる。
そのまま一行は、町へ向かって一本道を辿る。……あれ以来雑魔の襲撃も野生動物の襲来もなく、のどかな旅路だ。
不意にキャリコが口を開いた。
「そう言えば……師匠の言葉に『我々の最も偉大な栄光は、失敗しないことではなく、失敗する度に起き上がることだ』というのがあるんだが……」
「ふむふむ……」
エマは熱心にメモに取って聞いているが、リタは初めて乗る馬に興奮気味……キャリコの言葉は右から左。……今晩耳元で唱えてやろう……エマは密かに心に決めた。
やがて森を抜けると、目指す町は目と鼻の先。
●
「さて着いた。この町のほぼ中央に、目指すハンター支部がある」
キャリコは馬を下りると、今度はリタを肩車して歩き始めた。……顔には出さないが、森で一瞬のうちに逃げられたのが相当ショックだったらしい。
町に入ると、全員が徒歩。足並みを揃えて歩き出す。リタはキャリコの肩の上なので、さすがに迷子の心配はないだろう。
「そうだ、村長にはお前達の無事と森の雑魔を退治したこと、報告してきたからな。『頑張れ』だとよ。面白い村長さんだな」
ヴァイスの言葉に、思い出したようにリタがホッとした顔をする。エマは複雑そうだが。
「ハンターの戦いってもんが分かったかい? ま、でも気負わずに、だけど命を粗末にしないで頑張りなよ。応援してるからね」
「ええ! 勿論よ! あたしもジオラさんみたいなハンターになりたいなぁ」
そんな他愛のない話の中でも、先輩ハンターたちはその心得なるものをそれぞれに語ってくれた。細かくメモにとり、時に質問をしながら聞いているのは主にエマ。少しでも姉のためにと、姉の代わりに必死らしい。
「ひゃっ!」
不意にエマが悲鳴を上げた。
見るとヴァイスに肩車されている。……あまりに幼気な姿に心打たれたのだろうか。
「これなら少しはメモも取りやすいだろ?」
爽やかな笑みで言うヴァイス。真っ赤な顔をしているエマには気付かないようだ。……その様子を傍で見ていた他のメンバーは、やはり示し合わせたかのように、彼に心の中で『ロリータキラー』の称号を与えたとか与えないとか。
やがて複雑な町並みを抜け、中心街へとやってきた。
「わぁ……大きいのね!」
見上げる建物は、目指していたそれだ。
「何か困ったことがあれば、ハンターオフィスの受付に相談してみるといいですよ。お人好しなハンターも多いですから」
「はい」
雷のアドバイスもしっかりと書きとめ、少しばかり緊張した声でエマが答える……姉はこれから一人で大丈夫だろうか。妹の心配をよそにして、リタは一人燃えていた。
「ここからあたしたちのハンターとしての道が始まるのよっ!」
ぐっと拳を握りしめるリタ。改めて振り返り、後ろに並ぶ先輩ハンターたちに向かって大きく一礼。
「あたしたち、頑張るから! ありがとう!」
「ありがとうございました! …………『たち』……? え? ……やっぱり私もなの?!」
……最後のエマの言葉が虚しく響くが、先輩達は聞こえないフリ。
「ここまで来れば一安心でしょう……訓練して方向音痴だけでも直して下さいね」
小さなクオンの呟きは誰に届くわけでもなかったが、エマのメモには『方向音痴を直すこと』と書き足されていた。
クオンは一人バイクを駆って走り去る。
ハンター支部に入って行く二人の背中を見送った先輩ハンターたちは、同時に安堵と疲労の大きな溜め息を吐き出すのだった。
移動中の森。進行方向の少し先から悲鳴じみた声が聞こえた。夕凪 沙良(ka5139)の呟く声に、行動を共にしていたハンターたちは目を合わせ、走り出す。
真っ先に覚醒しその場に到着したのは狭霧 雷(ka5296)。狙うは彼らの目の前にいる小さなリス型雑魔。そのまま攻撃の射程に入る! ……かと思いきや。
「いきゃあああぁっ!」
少女の悲鳴が思った以上に近くで聞こえた。
「っ!?」
すこおぉんっ!
一瞬標的を見失った雷の足元直下に、リタの放った矢が突き刺さった!
「をあっ?」
ずざああっっ!
バランスを崩した雷は、顔面から地面に勢い良くダイブ!
馬から下りたヴァイス(ka0364)の足が、まさに『疾風』のごとく雷の頭を掠め駆け抜け、後ろからスピードを落とした沙良のバイクが近付く。
「無事か!」
ヴァイスは素早く雑魔の位置を確認すると、姉妹の近くへ走る。エマは腰を抜かして動けずにいるが、リタも似たようなものだ。立っているのが不思議な程に膝が震えている。……この状態で放った矢が雷に直撃しなかったことは奇跡に近いのかも知れない。
「お前たちは村の住人か?」
「えっ? あっ、つ、ついさっきまではね! あああんたたちは何なのっ? あそこで思いっきり突っ伏してるヒトとか!」
リタが震える声でまくしたてる。未だ突っ伏したままの雷を遠慮なく指差して。
「ご、ごめんなさい! お姉ちゃんテンパっちゃって……」
エマはリタの指を押さえつけ、姉の代わりに謝りながら、二人分名乗る。
「そうか、お前たちが……と。説明は後だ。まずはここを切り抜けないと」
ヴァイスは改めて敵に向き直る。
姉妹の後ろ、進行を阻むように巨大なウサギ型雑魔。フクロウ型雑魔は枝の上、高い位置から様子を伺っている。リス型雑魔だけはちょろちょろと落ち着き無く動き回っているが、近付いてはこない。
ジオラ・L・スパーダ(ka2635)も馬から下りて太刀を構え、キャリコ・ビューイ(ka5044)、沙良、そして姿の見えないクオン・サガラ(ka0018)との位置関係を確認する。遠距離攻撃用の武器を構えた二人は、すぐに援護ができる位置。
クオンとは定時連絡を取っているし、状況は見えているはず……必要とあらば援護してくれるだろう。
「行くぜ!」
気合いと共にヴァイスの煌剣が巨大ウサギ型雑魔に振り下ろされる! 命中を気にしない渾身の一撃はのろりと避けたウサギの片腕を薙いだが、致命傷ではない。
「俺の攻撃を避けても安心するのはまだ早いぜ」
言うや否や繰り出した刺突一閃! 大きく踏み込んで繰り出された一撃は、腕を薙がれてもなおゆらゆらと動いていたウサギの胴体を貫いた! 一瞬にして形を失うウサギ型雑魔。……残り二匹。
ちょこまかと落ち着きの無いリス型雑魔に狙いを定めたのはジオラ。狼の咆哮に合わせて武器を振り回し威嚇! リス型雑魔はびくりと身体を震わせると、そのまま萎縮し動けない。隙を逃さず渾身のクラッシュブロウで文字通り粉砕! 残り一匹!
バサバサバサ……ッ!
「ひぃいいえあああっ!!」
頭上から降り注ぐ激しい羽音に、リタの奇妙な悲鳴が混じる。
「なっ……?」
ジオラが黄金拳銃を構えて急ぎ振り返ると、視界一杯にリタの顔が映った。……逆さまに。
「うぃいええっ!」
ゆらゆらと宙づりにされている彼女の足には大きな荷物。それを掴み損なって足に絡ませたまま羽ばたき続けるフクロウ型雑魔。張り出した枝が邪魔して身動きが取れないという間の抜けた状況。
ヒュンっ! ギャヒュッ……
風を切り裂く鋭い音と、鳥の首を絞めたような音が連続して響き、羽音に混じる。
森からクオンが放った矢は、フクロウの足を正確に射抜いていた。足は荷物と離れ、重力に従って落下する。……勿論、リタも。
「おっと!」
「ひあっ!?」
間一髪、ヴァイスが地面との間に割り込んで見事にキャッチ。傍にいたエマをジオラが抱えると同時にその場を離れる。と、
「後衛をする場合は味方と敵の位置を常に気にしてくださいね」
沙良の声が聞こえた。
速度は落ちているが安定した走行を続けるバイクに騎乗したまま直立し、ライフルの狙いを定める。もがき暴れるフクロウ型雑魔はものの見事に撃ち抜かれ、地面に落ちる前に原型を失う。
……台詞は実演と共に姉妹に向けられていたようだが、今の二人に届いたかどうかは怪しい。
「大丈夫ですか?」
バイクから降りて問いかける。
「あ、ああたしはだだ大丈夫……だけど……っ」
ヴァイスの腕から抜け出したものの、震え止まぬ声を自覚したのか、大きな深呼吸を三つ四つ。ごほんっ、と咳払いをしてようやく落ち着きを取り戻す。
●
姉妹を襲った雑魔を倒したあとも、クオンは周囲への探索を続けていた。多少彼らから離れていても、リタの声は小気味良いほどに通るので、会話は丸聞こえだった。
(好奇心旺盛なのは良いことですが……わたしはこのまま姿を現さない方が無難なようですね)
クオンの判断も正解だったようだ。リタの興味を惹く存在が増えれば、会話の中でさえ迷子になり兼ねない。
……リタがまくしたてるように話すのを、エマが上手く補足しながら事情を説明している。
「全く、ここからどれだけ距離があると思っているんだ?」
ヴァイスの呆れたような一言。
「まあ、無事だったから良かったが無謀すぎるぞ。ハンターを目指すなら自分の失敗は自分だけに帰ってこない、それだけは覚えておけ」
リタはヴァイスの御説教に耳が痛いのか、エマを見てバツの悪い顔をする。……普段村長に怒られてもこんな顔をしたことはないのだが。
「まあ……無事みたいで何よりだ。立ち向かう勇気もなかなかのもんだな」
言いながら、ヴァイスは二人の頭を撫でる。
「さて、お二人はどうします? 一度村に戻って正式に出発し直しますか?」
立ち直った雷が二人に問う。彼らハンターがここに来た理由は話してあるが、一度村に報告には行くべきだろう。
「嫌よ! あたしたちはハンターになって反対してた村の人たちを見返すまで絶っ対に戻らないわ! ね、エマ!」
「ええっ? 私も?」
エマの方は盛大に驚いたが、リタは気にしない。姉の行く所妹は必ずついて来るもの。それがリタの持論なのだ。
「そうか、何か伝言があれば伝えておくぞ? な、雷」
「そうですね。村の人たちからの伝言があれば聞いてきますし。お二人はここで待っていて下さい。クオンさんもそう遠くへは行かないでしょうから」
言ってちらりと森の方に目をやる。リタがその視線を追うのを見て、必死に誤摩化すハンターたち。
その後ヴァイスと雷はそれぞれ馬とバイクを駆って、村へと向かって行った。
彼らを見送ると、残ったメンバーは小休憩。
「さっきの戦いは凄かったですね……えっと、ジオラさん」
「凄かったわ! 狼みたいに吠えたり、獣の尻尾が見えた気がしたんだけど、あれが『覚醒』っていうやつなの?」
姉妹は先ほど派手に立ち回ったジオラの戦闘に興味津々だったようで、あれこれと矢継ぎ早に質問を繰り返す。エマはメモを手に、生真面目な様子で聞き入っている。ジオラは何やら思う所がある様子で、穏やかな笑みを浮かべている。
「最初にリタに撃たれかけた雷のあの姿も、覚醒したときのものだよ。……敵と間違えたようだがな」
「う……」
少し冗談めかして言うジオラに、リタが赤くなる。
「そう言えば……これを雷の傍に立てるのを忘れていたな」
言いながらキャリコが取り出したのは立て看板。
『フレンドリーという名であっても友好的な攻撃ではない』という意味合いらしい。
「あ、そう言えば私も……」
沙良も同様に用意していたモノを掲げる。内容は……
『コレは敵。撃ってもいいよ』『コレは味方。撃ったらダメ』……こんな雰囲気で、敵と味方が分かりやすく表現されている。
「そんなものを用意していたのか……」
呆れているのはジオラだけ。リタもエマも激しく納得した顔をしている。
「これならお姉ちゃんも間違えないね」
「そうね。さっき雷ってヒトに当たりそうになったから、もっと早くに見せて欲しかったわ」
反省などこれっぽっちもしていないこの発言。
ひとしきり喋り終わると、彼女の興味は周囲の森に移り変わった。ハンターたちの装備品やバイクに向けていた視線が、落ち着き無く彷徨い始める。
「ん? リタはどこへ行った?」
言ったのはキャリコだ。
「え?」
キャリコを除く全員の声がハモった。……今の今までここに居たのに。座り込んで話していたのに。
次の瞬間、全員一斉に森の方へと視線を向けた。示し合わせたかのように、同じ方向へ。……先ほどクオンの名が出てきた時に見た方向。
「まさか……」
誰かの声が空しく響いた。
「やれやれ……方向音痴はハンターにとっては致命的な気がするんですがね……」
一人森の中で探索を続けながら姉妹を見守っていたクオンは、小さくぼやくと魔導短伝話を取り出した。
周囲への警戒をさらに強める。
●
「お姉ちゃーん! クオンって人、あっちだって!」
機転を利かせたエマの呼び声。……果たしてリタは身の丈の半分はあるかという下生えを飛び越えて戻ってきた。
「……へえ、戻って来れるんだね?」
「ええ……どうやら、私の頭の先だけでも見えていれば……」
感心するジオラに、エマが赤くなって答える。リタは何故か得意気だ。そのまま道を横切って行こうとするのを、キャリコががっちりと捕まえた。
「……何かいるようですね」
沙良が森へ視線を向ける。
「えっ? 何っ!?」
自分を捕まえている腕を振りほどくように暴れると、突然弓を構えるリタ。
ガサガサ……小さな音。
どうやら小動物のようだが、キャリコもまたライフルを構え呟く。
「『これこそが我が銃。銃は数あれど我がものは一つ。これぞ我が最良の友、我が命』……というのは、師匠に教わった言葉だが」
「あ、あたしがやるわ!」
喚いてリタが弓を構える。が、何故かそれはバイクで戻ってきた雷に向けられる。
「話を聞け! 今回はその出番はなさそうだと言いたいんだ!」
慌ててリタを羽交い締めるキャリコ。が、二人に向けて沙良が武器を構える……!
「……リスみたいですね、もう行っちゃいましたけど」
突然向けられた沙良の銃口に、さすがのリタも言葉が出ない。
「……射撃する時に集中しすぎて敵の接近に気付かなかった、とかにはならないように。ちなみにアレは敵ではありませんよ、残念ながら」
武器を降ろし、あくまでクールに沙良が言う。
「『残念ながら』って……いま、あきらかにこちらを狙っていませんでしたか!? ……私はなにと戦っているのでしょうか……」
がっくりと呟く雷。クオンから連絡を受け、ヴァイスと共に急いで戻ってきたのだ。
●
「おまえは油断も隙もないから……俺の馬に乗っていくのがいいだろう」
「え? 乗せてくれるのっ?」
ぱあっ! ……そんな効果音さえ出そうな程に顔を輝かせるリタ。ひょいっと持ち上げると、キャリコはリタを自分の前に座らせる。……後ろに座らせれば目が届かない。
「ならエマはあたしの後ろに乗るといい。落ちるんじゃないよ?」
「は、はいっ!」
「よし、じゃあ俺が乗せてやるぜ」
ヴァイスはエマをジオラの後ろに座らせ、彼女にしっかりと掴まるよう言い含める。……姉と違って安心できる。
そのまま一行は、町へ向かって一本道を辿る。……あれ以来雑魔の襲撃も野生動物の襲来もなく、のどかな旅路だ。
不意にキャリコが口を開いた。
「そう言えば……師匠の言葉に『我々の最も偉大な栄光は、失敗しないことではなく、失敗する度に起き上がることだ』というのがあるんだが……」
「ふむふむ……」
エマは熱心にメモに取って聞いているが、リタは初めて乗る馬に興奮気味……キャリコの言葉は右から左。……今晩耳元で唱えてやろう……エマは密かに心に決めた。
やがて森を抜けると、目指す町は目と鼻の先。
●
「さて着いた。この町のほぼ中央に、目指すハンター支部がある」
キャリコは馬を下りると、今度はリタを肩車して歩き始めた。……顔には出さないが、森で一瞬のうちに逃げられたのが相当ショックだったらしい。
町に入ると、全員が徒歩。足並みを揃えて歩き出す。リタはキャリコの肩の上なので、さすがに迷子の心配はないだろう。
「そうだ、村長にはお前達の無事と森の雑魔を退治したこと、報告してきたからな。『頑張れ』だとよ。面白い村長さんだな」
ヴァイスの言葉に、思い出したようにリタがホッとした顔をする。エマは複雑そうだが。
「ハンターの戦いってもんが分かったかい? ま、でも気負わずに、だけど命を粗末にしないで頑張りなよ。応援してるからね」
「ええ! 勿論よ! あたしもジオラさんみたいなハンターになりたいなぁ」
そんな他愛のない話の中でも、先輩ハンターたちはその心得なるものをそれぞれに語ってくれた。細かくメモにとり、時に質問をしながら聞いているのは主にエマ。少しでも姉のためにと、姉の代わりに必死らしい。
「ひゃっ!」
不意にエマが悲鳴を上げた。
見るとヴァイスに肩車されている。……あまりに幼気な姿に心打たれたのだろうか。
「これなら少しはメモも取りやすいだろ?」
爽やかな笑みで言うヴァイス。真っ赤な顔をしているエマには気付かないようだ。……その様子を傍で見ていた他のメンバーは、やはり示し合わせたかのように、彼に心の中で『ロリータキラー』の称号を与えたとか与えないとか。
やがて複雑な町並みを抜け、中心街へとやってきた。
「わぁ……大きいのね!」
見上げる建物は、目指していたそれだ。
「何か困ったことがあれば、ハンターオフィスの受付に相談してみるといいですよ。お人好しなハンターも多いですから」
「はい」
雷のアドバイスもしっかりと書きとめ、少しばかり緊張した声でエマが答える……姉はこれから一人で大丈夫だろうか。妹の心配をよそにして、リタは一人燃えていた。
「ここからあたしたちのハンターとしての道が始まるのよっ!」
ぐっと拳を握りしめるリタ。改めて振り返り、後ろに並ぶ先輩ハンターたちに向かって大きく一礼。
「あたしたち、頑張るから! ありがとう!」
「ありがとうございました! …………『たち』……? え? ……やっぱり私もなの?!」
……最後のエマの言葉が虚しく響くが、先輩達は聞こえないフリ。
「ここまで来れば一安心でしょう……訓練して方向音痴だけでも直して下さいね」
小さなクオンの呟きは誰に届くわけでもなかったが、エマのメモには『方向音痴を直すこと』と書き足されていた。
クオンは一人バイクを駆って走り去る。
ハンター支部に入って行く二人の背中を見送った先輩ハンターたちは、同時に安堵と疲労の大きな溜め息を吐き出すのだった。
依頼結果
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新人ハンター(予定)のお出迎え 狭霧 雷(ka5296) 人間(リアルブルー)|27才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/07/16 23:23:36 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/14 18:44:48 |