ゲスト
(ka0000)
お風呂パニック!? 消えたスライム
マスター:ミノリアキラ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~5人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/17 12:00
- 完成日
- 2015/07/24 20:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●おフロに潜むモノ
ここは自由都市同盟北部の、とある小さな町……。
時刻は夕方、紅く輝く太陽が、西に向かって落ちようとしている頃合いだ。
一日の仕事を終えた人々は、ほんのりオレンジ色に染まった石畳を歩いて、町の中心部にある建物に集まってくる。
若者は友達どうし連れ立って、父親は子の手を引いて、孫は祖父母をせかしながら……それはのどかで平和そのものの光景だ。
この町では、労働を終えた人々が家の玄関をくぐるまでに、もうひとつやることがある。
それは、公共浴場で身体にしみついた汗や汚れを洗い落すことだ。
河川の近くにあり水資源に恵まれたこの町には、昔から労働者たちの汗を流す浴場があり、人々の憩いの場として親しまれていた。
今も、ひとりの若い女性が楽しげに女性用の浴場の入り口に入って行った。
この町の浴場は男性用と女性用で建物が分かれており、ふたつは全く別の建物として隣どうしに並んでいる。
入ってすぐにカウンターがあり、その隣の入り口を入ると、脱衣場兼休憩所がある。
彼女はそこで衣服を脱ぎ、鏡台の前で長い髪を結いあげ、いざ、浴室へと向かった。
湯煙のただよう洗い場であたりを見回して、彼女は満足そうにうなずいた。
しめしめ。
タイル張りの洗い場にはまだ五人ほどしか客がいない。
この分なら、新しい湯を一番乗りで楽しめそうだ。
「~~~♪」
タイル張りの浴場で、さっと汗を流して体を洗い、鼻歌まじりにいざ、湯船へ――。
細く引き締まった足を湯に下ろした瞬間、彼女は異常をさとって身震いした。
『にゅるうううううん!』
そうとしか形容のできない奇妙な感触が、彼女の脚にからみついたのだ。
「な、なに……!?」
おそるおそる湯の中を見てみるが、透明なお湯が湛えられているだけで、これといった異変はない。
ただ、感触だけが異様だった。
しかも……。
『もにょおおん!』
その、ぬるぬるしたモノは、動いているではないか!
彼女はすぐに湯船から飛び出した。
「きゃっ……きゃあああああ!」
気持ち悪さに堪え切れず、悲鳴を上げた。
湯煙によって視界も悪く、それが何なのかまではわからない。
「どうしたの!? 大丈夫?」
他の客がかけよってくる。
そして、ほどなくあちこちから悲鳴があがった。
「お湯の中に何かいるわ!!」
「そんなの見えないわよ!?」
「い、いやあ、湯船から何か出てきたわっ! 逃げて!!」
その場は一気にパニックへと突入していったのだった。
●湯煙に消えたモンスター?
翌日。
事件の調査のためにハンターズソサエティからひとりの係員が派遣された。
「ようこそおいでくださいました、ハンターさん」
町長と思しきおじいさんは、事件のあらましを一通り語ってくれた。
女湯の浴槽に潜んでいたものはほぼ目には見えなかったものの、その後、湯船から飛び出した姿を目撃した者がいること。
それは『ぶにょぶにょ』『ぷるぷる』した、透明な生き物であったこと。
はじめにそれをみつけた女性は、周囲が助け出したので無事で、幸運にもけが人は出なくて済んだ。
そしてプルプルしたものは、湯の中から飛び出すと、パニックになった人々をすり抜けて『男湯』に向かったという。
(どうやらスライムみたいだな。水中に潜むと、屈折率の問題で確かに見えにくくなり、危険だろう……)
調査員はすぐにその正体を察知した。
問題の男湯は、入口を厳重に閉じ、窓には分厚い板が打ちつけてあった。
「夜間、換気のために窓を開けていることが多いので、そこから迷い込んだんでしょうな。現在はこのようにその生物を中に閉じ込めたままにしてあります」
「なるほど。数はわかりますか?」
「みんな混乱していましたので正確ではありませんが、1匹だけだったはずです」
調査員はうなずきながら手帳に書き写した。
今はまだ一体でも、分裂をすると厄介かもしれない。
建物の裏手に回ると、年季が入っているが丁寧にメンテナンスされている、ごく単純な構造のボイラーがとりつけられていた。
「オンボロでしょう? しっかり見ていてやらないと、調子にのって熱湯にしてしまう困りものです」
そう言いながらも、町長は微笑んでいた。
「ですが、ここは昔、町がまだちいさな農村だったころ、農作業の泥を落とすためにお金を出し合って作った浴場でしてな……。みんなが復旧を待ち望んでいるのですよ」
それだけ、この町や、浴場に対する思い入れが強いのだろう。
公共浴場は、町の歴史や思い出がつまった大事な場所なのだ。
町長は、こうも付け加えた。
「解決の暁には、ハンターさんたちの浴場の使用料を無料にさせて頂きます。皆さんにも浴場のよさをわかっていただきたいですからな」
どうやら、この広い風呂は町の自慢でもあるらしい。
(なるべく早急に、浴場を使えるようにしなくては。この人たちにいつもの日常が戻ってくるといい……)
調査員は調査を終えると、町を後にした。
ここは自由都市同盟北部の、とある小さな町……。
時刻は夕方、紅く輝く太陽が、西に向かって落ちようとしている頃合いだ。
一日の仕事を終えた人々は、ほんのりオレンジ色に染まった石畳を歩いて、町の中心部にある建物に集まってくる。
若者は友達どうし連れ立って、父親は子の手を引いて、孫は祖父母をせかしながら……それはのどかで平和そのものの光景だ。
この町では、労働を終えた人々が家の玄関をくぐるまでに、もうひとつやることがある。
それは、公共浴場で身体にしみついた汗や汚れを洗い落すことだ。
河川の近くにあり水資源に恵まれたこの町には、昔から労働者たちの汗を流す浴場があり、人々の憩いの場として親しまれていた。
今も、ひとりの若い女性が楽しげに女性用の浴場の入り口に入って行った。
この町の浴場は男性用と女性用で建物が分かれており、ふたつは全く別の建物として隣どうしに並んでいる。
入ってすぐにカウンターがあり、その隣の入り口を入ると、脱衣場兼休憩所がある。
彼女はそこで衣服を脱ぎ、鏡台の前で長い髪を結いあげ、いざ、浴室へと向かった。
湯煙のただよう洗い場であたりを見回して、彼女は満足そうにうなずいた。
しめしめ。
タイル張りの洗い場にはまだ五人ほどしか客がいない。
この分なら、新しい湯を一番乗りで楽しめそうだ。
「~~~♪」
タイル張りの浴場で、さっと汗を流して体を洗い、鼻歌まじりにいざ、湯船へ――。
細く引き締まった足を湯に下ろした瞬間、彼女は異常をさとって身震いした。
『にゅるうううううん!』
そうとしか形容のできない奇妙な感触が、彼女の脚にからみついたのだ。
「な、なに……!?」
おそるおそる湯の中を見てみるが、透明なお湯が湛えられているだけで、これといった異変はない。
ただ、感触だけが異様だった。
しかも……。
『もにょおおん!』
その、ぬるぬるしたモノは、動いているではないか!
彼女はすぐに湯船から飛び出した。
「きゃっ……きゃあああああ!」
気持ち悪さに堪え切れず、悲鳴を上げた。
湯煙によって視界も悪く、それが何なのかまではわからない。
「どうしたの!? 大丈夫?」
他の客がかけよってくる。
そして、ほどなくあちこちから悲鳴があがった。
「お湯の中に何かいるわ!!」
「そんなの見えないわよ!?」
「い、いやあ、湯船から何か出てきたわっ! 逃げて!!」
その場は一気にパニックへと突入していったのだった。
●湯煙に消えたモンスター?
翌日。
事件の調査のためにハンターズソサエティからひとりの係員が派遣された。
「ようこそおいでくださいました、ハンターさん」
町長と思しきおじいさんは、事件のあらましを一通り語ってくれた。
女湯の浴槽に潜んでいたものはほぼ目には見えなかったものの、その後、湯船から飛び出した姿を目撃した者がいること。
それは『ぶにょぶにょ』『ぷるぷる』した、透明な生き物であったこと。
はじめにそれをみつけた女性は、周囲が助け出したので無事で、幸運にもけが人は出なくて済んだ。
そしてプルプルしたものは、湯の中から飛び出すと、パニックになった人々をすり抜けて『男湯』に向かったという。
(どうやらスライムみたいだな。水中に潜むと、屈折率の問題で確かに見えにくくなり、危険だろう……)
調査員はすぐにその正体を察知した。
問題の男湯は、入口を厳重に閉じ、窓には分厚い板が打ちつけてあった。
「夜間、換気のために窓を開けていることが多いので、そこから迷い込んだんでしょうな。現在はこのようにその生物を中に閉じ込めたままにしてあります」
「なるほど。数はわかりますか?」
「みんな混乱していましたので正確ではありませんが、1匹だけだったはずです」
調査員はうなずきながら手帳に書き写した。
今はまだ一体でも、分裂をすると厄介かもしれない。
建物の裏手に回ると、年季が入っているが丁寧にメンテナンスされている、ごく単純な構造のボイラーがとりつけられていた。
「オンボロでしょう? しっかり見ていてやらないと、調子にのって熱湯にしてしまう困りものです」
そう言いながらも、町長は微笑んでいた。
「ですが、ここは昔、町がまだちいさな農村だったころ、農作業の泥を落とすためにお金を出し合って作った浴場でしてな……。みんなが復旧を待ち望んでいるのですよ」
それだけ、この町や、浴場に対する思い入れが強いのだろう。
公共浴場は、町の歴史や思い出がつまった大事な場所なのだ。
町長は、こうも付け加えた。
「解決の暁には、ハンターさんたちの浴場の使用料を無料にさせて頂きます。皆さんにも浴場のよさをわかっていただきたいですからな」
どうやら、この広い風呂は町の自慢でもあるらしい。
(なるべく早急に、浴場を使えるようにしなくては。この人たちにいつもの日常が戻ってくるといい……)
調査員は調査を終えると、町を後にした。
リプレイ本文
●作戦1、まずはみんなでお片づけ!
腕まくりをした袖からのぞく二の腕。
そしてジャケットをぬいだ胸元を大胆に縦走する谷間、ホットパンツから伸びた健康的な太もも。
そして……柔肌を控え目に覆う可憐な布、それは見る者の視線を虜にしてやまない伝説の夏装束……人よんでビキニ水着。
濡れないように、あるいは動きやすいようにと各自思い思いの軽装になったハンターたち……彼女たちの存在のおかげで、ふだんは汗臭いにおいしかしない田舎町の男湯は華やかな地上の楽園と化していた。
「さ、ちゃっちゃと終わらせよーぜ」
四条 鈴(ka4349)は、みずからも桶を重ねて持ち、洗い場の片づけをしている仲間たちに声をかけた。
お風呂に入りたいがため参加したネフィリア・レインフォード(ka0444)、人助けのため、みんなの憩いの場を取り戻すために参加したメルクーア(ka4005)……目的は様々ながら、協力してイスや桶などの小物を次々に運びだしていく。
「すべらないようキレーにしておかなくちゃね~♪」
その隣では、マギステルのリナリス・リーカノア(ka5126)が四つん這いになって、濡れたタイルを乾拭きしていた。
「にしても、ホントにスライムいるのかな……?」
目と鼻の先ほどの距離にある、波ひとつたてない湯船の様子をうかがいながら、超級まりお(ka0824)が呟いた。
事前の調査では湯船にスライムが逃げ込んでいるらしいが、波ひとつたてず、ただの透明な水が湯船いっぱいに張られているだけのようにみえた。
ぶきみな沈黙の傍ら、スライム退治の準備は着々と進んでいた。
●作戦2、ひそかな難関
「さて、あとはこいつを浴槽に流しこむだけだよ」
まりおの手によって、洗い場の中央に大きな酒樽がふたつ置かれた。
事前に町の酒場に頼んでおいた蒸留酒である。
浴場のためと説明したところ、町の人たちが無償で提供してくれたものだ。
「とっても良い香りがするね~」
メルクーアの言う通り、あたりには酒精の、ふんわりとした甘いにおいが漂っている。
だが、作戦にはひとつだけ問題があった。
酒を湯船に注ぐために、敵のひそむ浴槽に近づかなければいけないということだ。
当然、近づけば近づくほど、見えない敵の襲撃をうける危険は増えてしまう……だが、それがこの作戦のいちばん大事な、肝の部分でもある。
相談の結果、身軽な超級まりおが大役を引き受けることになった。
リナリスとメルクーアが大きなバケツに酒を入れ、それをまりおに渡した。
まりおはバケツの中身を運び、浴槽の中の湯に次々に注ぎこむ。
脱衣場側から作業を見守りながら、ネフィは首を傾げた。
「これで屈伸数変化が起こって敵が見えるようになるのかな? かな?」
「屈折率変化、よ。もしだめだったら、別の手を考えないといけないわね」
柏部 狭綾(ka2697)が、冷静に答えた。
「これでよし……と!」
作業が終わりかけた頃。
まりおは何とも言い難い気配を感じた。
それは、経験のなせる技だったのかもしれない。
まりおは素早く後ろに跳び退る。
バシャッ!!
その瞬間、透明でぬるぬるした物体が、空中に踊り出た。
バシャン!!
大きな水しぶきを立てながら、スライムは湯船にもぐっていく。
「気をつけて、もう一回来るわよ!」
狭綾が声をかける。
水面が波打ち、まりおに向かって来る。
「悪いけど、こんなの余裕すぎるんだよね」
強気な言葉はうそではなかった。
右手側から飛びかかってくる透明な塊を、まるで踊っているかのようにひらりとかわす。
スライムは彼女に触れることすらできずに湯の中へと戻っていった。
「それに、もう見えちゃってるしね……!」
酒を大量に入れて、ほのかに色づいた湯の中には、透明なスライムの形がはっきりと浮かびあがっていた。
●作戦3 戦闘……の前に、囮作戦開始?
「それじゃあスライム追い出しに掛かるのだ♪」
洗い場には、上半身を縄で縛られたメルクーアとネフィがいた。
ネフィは着物を脱いで下着姿、メルクーアもズボンを脱いでいる。
「敵が見えるようになったのに、囮作戦って必要あるのかな……?」
空になったバケツを担いで脱衣場にもどってきたまりおが、ささやかな疑問を口にする。
「いいのいいの。あたしたちだって水の中で戦闘するより、洗い場に誘き出したほうが有利でしょお?」
一見、正論のようなことを言いながら、リナリスは麻縄を手にあやしい笑みを浮かべていた。
「行ってきまーす」
ネフィとメルクーアは縄を引きずりながら、湯船にむかう。
ネフィから伸びる綱をまりおと狭綾が持ち、メルクーアの綱を鈴とリナリスが握り、準備は整った。
囮役のふたりは、浴槽の両端から、そっと湯船に足を下ろした。
スライムはまだ浴槽の奥のほうでじっとしている。
「んっ……! ちょっと冷たい……」と、メルクーアが声をあげる。
「お酒のにおいがすごくしてるのだ……なんだか変な気分なのだ……」
大量に注がれた酒のにおいは浴場全体に広がっていた。
窓はふさがれているため、換気もままならないのでむりもない。
「う……少し酔っぱらってきたな……クラクラするぜ」
縄を引くタイミングを待っている鈴の頬も赤く火照っている。
そして、メルクーアは湯殿に足を差し入れる。ネフィも両足を入れ、ゆっくりと腰まで水に浸かった。
「スライム、おいでおいでなのだ~」
「こっちにおいしいエサがあるよ~」
スライムは水中を泳ぎながら、少し迷うように身をよじった。
そして、急に方向を変え、囮のふたりに向かってくる。
洗い場の四人の、縄を持つ手に力がこもった。
ほぼ同時に、囮に向かっていたスライムの立てる小さな波が、二つに分かれた。
二人の獲物を同時に捕獲するために分裂したのだ。
二体となったスライムは透明な体を大きく広げ、囮に覆いかぶさった。
「きゃっ……あん!」
「あ、ソコ入っちゃ……ふ、ふにゃあ!」
ネフィとメルクーア、どちらのものともいえない悲鳴が、浴場の屋根に当たって反響する。
「いや! は、激しすぎるわ……!」
何を思い出しているのか、狭綾は縄を手放して真っ赤になった顔を逸らした。
そして彼女の想像した通り、ぬるぬるとした体液に塗れたモンスターが、とうとう獲物となったふたりの薄着の胸元やズボンの裾からうねうねと入りこみ、敏感な部分を舐めるように這い回り、めくるめく快楽と痴態の宴が開かれ……ることは、残念ながらなかった。
「いくよっ!」
メルクーアが機導術を使ったのだ。
雷撃が放たれ、瞬間、凄まじい音とともにあたりが明滅した。エレクトリックショック。敵に雷と麻痺を与える技だ。
「ロープを引いて!」
●銭湯……戦闘開始!
「よし、やっと出番だな」
どこか、ここまでの作業を遠巻きにみていた鈴は武器を構え、洗い場に立った。
そこには湯から引き出されたスライムが弾力のある体をぶるりと震わせていた。
「もう一体は……!?」
湯船から出た時点で、ネフィの体にはスライムが巻きついていなかった。
もう一体は、浴槽から引き出されるネフィの体をすべり落ち、湯の中に落ちてしまったのだ。
洗い場に出たスライムのほうはというと、体をくねらせ、粘性のある液体を勢いよく吐きかける。
狙われたのは近くに立っていた狭綾だ。
しかし、電撃が効いているのか狙いは大きく外れて液体はタイルの床にふりそそいだ。
ジュウウ…‥‥!
タイルは白い煙を上げて溶けていく。
酸性の液体にひるむことなく、ネフィが素早く踏みこんだ。
「お風呂を楽しむためにさっさと倒されるのだ!」
事前の準備がよかったためか、足はすべることなくタイルをとらえる。
鉤爪が力強くスライムを抉り、切り裂く。
「よーくねらって……! んっ……!?」
わずかな違和感に眉をひそめる。
間髪入れず、まりおが構えたダガーで斬りこんでいく。
「あれっ……?」
確かに、攻撃は当たっている。
だが……ぶよん、と奇妙な感触がして、ふたりの攻撃はスライムの体の表面をすべっていく。
どうやらこのスライムの軟らかい体のせいでダメージが分散してしまっているようだ。
次に狭綾がチャクラムを構え、放つ。
円形の刃はスライムの体を両断しようとうなり、迫るが……。
べにょんっ!
スライムは思いっきり柔らかな体を床に伸ばし、飛翔する刃をやり過ごした。
「避けられた……意外と素早いみたいね」
彼女は悔しそうに浴室を縦に回転しながらもどってきた武器をキャッチする。
「なかなかいい動きをするじゃねえか。じゃ……こいつはどうだ?」
向かってくる鈴に対し、スライムは勢いよく飛び上った。
鈴がアルケミストクローを突き出す。
「食らいな!」
手甲に組み込まれた鉤爪が透明な体に食い込む、その一瞬。
先ほどと同じように、威力が粘性のある体に削がれそうになったその瞬間、鉤爪が光を帯びた。
マテリアルで構成されたエネルギーが輝く刃になり、的確な技術が敵の急所を正確にとらえる。
そして、刃はスライムを中心から真っ二つにして、その向こう側へと抜けていく。
機導剣という技によって体組織を引き裂かれた魔法生物は空中で四散した。
「よし、こいつは効いたみたいだな……。次だ!」
もう一体は未だ浴槽の中にその身を浸していた。
「あたしにまかせて♪」
リナリスが飛び出した。
洗い場の上をはねるように駆けて、お風呂の中に飛び込む。
ウォーターウォークを使い、軽快に水面を走っていく。
「よいしょっと」
浴槽の隅までいくと、水の中に両手を突っ込んで、金属製の蓋を外して、持ち上げた。
そのとたん、音を立ててお湯が抜け始めた。
リナリスを狙いスライムが動きはじめる。
「させない……!」
しかし、リナリスに続いて湯に飛び込んだメルクーアが、ナックルを装着した拳でスライムを攻撃した。
熊手のような爪は体液ですべったものの、みごとに命中する。
そうしているうちに湯船の水はどんどん抜けていく。
残るスライムは、あと一体を残すのみだ。
水中に身を隠すこともできず、窮地に立たされたことをさとったのか、スライムはメルクーアにむかって酸性の体液を吐きかけた。
だが苦し紛れの攻撃は明後日の方向に飛んで行ってしまった。
その隙を逃さず、まりおとネフィが攻撃をしかげる。
スライムに容赦なく攻撃が叩き込まれ、かなり苦しそうに透明な体をくねらせる。
「よし、これで最後にしてやるよ!」
鈴は助走をつけて、湯船に向かって走った。
スライムは体をぐねぐねと動かし、刃を避けようとする。
「――てめえの動きは見切った!」
再び、マテリアルの刃がスライムを切り裂く。
その光が消えたと同時に、魔法生物の体は崩れ落ちていった。
●お仕事終了……!
浴場に、ハンターたち以外に動くものの姿はいない。
「無事に終わったな……」
「あとは後片付けだけだねー。その前に、町の人たちに終了したって報告してくるねー!」
まりおが楽しそうに、出口に向かって駆けていく。
浴場の外から「キャー!」と、絹をさくような男性の悲鳴が聞こえた。
いつの間にか、外は黄昏時となっていた。
「どうもありがとうございました……こんなにはやく浴場を取り戻せたのは、みなさんのおかげです」
町長は、丁寧に礼を述べて、頭を下げる。
何やら頬を赤らめ、もじもじしているようにみえるのは、夕陽のせいばかりではない……。
実は、先ほど外に飛び出して退治完了を伝えたまりおこそが、武器とバトルレガース以外何も『身に着けていない』という、とてつもなく大胆な格好をしていたのだ。
「あの……大変申し訳ないんだけど、スライムが吐く酸性の液体のせいで、お風呂を傷つけてしまったの」
始終、浴場を傷つけないようにと奮闘していた狭綾がすまなさそうに申し出る。
町長は表情を綻ばせた。
「ああ、それなら問題ありませんよ、お嬢さん。見ての通り年季の入った風呂でしょう、壊れても少しずつ修理しながら使ってきたんですよ。明日の朝には元通りになってますとも」
その言葉に、少女はほっとした表情をみせる。
「さあ、皆さん。お疲れだと思いますが、どうぞ私ら自慢の浴場で汗を流していってくださいね」
それは、お待ちかねのお風呂の時間の合図だった。
個人宅では到底考えれない、広々とした浴槽。
あたためられた湯のにおい。そして立ちのぼる湯気。
ほかほかに暖められたお湯は張り替えられたばかりで、澄んでいる。
「いやっふ~~!」
まりおは浴槽の手前でかけ足を止めると、静かに湯船に入って行った。
「男湯のほう、片づけは町の人たちがするからしなくていいって言われたけど……よかったのかしら」
狭綾は肩まで湯に浸かると、ゆっくりと足を伸ばした。
じんわりと、湯の中に疲労と緊張がとけだしていく気がした。
「見て見てー♪ 胸ってお湯に浮くんだよ♪」
リナリスが豊かな胸元をみせつけてくる。
「たしかに……お、大きい……」
自分の控え目なバストと見比べ、少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。
そして、いつの間にかリナリスの接近を許していたことに気がついたようだった。
「じゃなくて、ちょっと、あんまり近寄らないで……!」
「やん♪」
ふたりのやりとりを、少し離れたところで聞いていた鈴は、複雑そうな表情を浮かべる。
そして、誰にも聞こえないように……とくに、慎ましやかな胸に悩みを抱いているらしい狭綾には聞こえないように、ぼそりと呟いた。
「……小さい方が良くね? 楽そーだし」
いっぽう、洗い場では地元の人たちにまぎれて、メルクーアとネフィが、楽しげに背中を流しあっていた。
「泡だらけなのだ!」
「じっとしてなきゃ洗えないよ~」
「あたしも混ぜてー♪」
湯船から飛び出したリナリスは、泡をたっぷりつけた手のひらで、メルクーアに後ろから抱きついた。
「やだ~くすぐった……あっ、ダメ、そこさわっちゃ!」
「そこ? そこってどこなのかな? ねぇ、お、し、え、て……?」
「い、いや~ん!」
ただの洗いっこのはずが、なんだかおかしな雰囲気をつくりはじめていた。
狭綾は見なかったことにして、洗い場から目をそらした。
そして天井を仰ぎみる。
「あ……」
ふと天井を見上げると、とりつけられた天窓の向こうに、輝く星がみえていた。
壁で囲まれた風呂のため露天風呂とまではいかないものの、湯気の向こうに見える夜空は美しい。
町の人たちがこのお風呂を愛する理由がよくわかる気がする。
「ほんと、いいお湯ね」
狭綾は自然と笑みを浮かべていた。
腕まくりをした袖からのぞく二の腕。
そしてジャケットをぬいだ胸元を大胆に縦走する谷間、ホットパンツから伸びた健康的な太もも。
そして……柔肌を控え目に覆う可憐な布、それは見る者の視線を虜にしてやまない伝説の夏装束……人よんでビキニ水着。
濡れないように、あるいは動きやすいようにと各自思い思いの軽装になったハンターたち……彼女たちの存在のおかげで、ふだんは汗臭いにおいしかしない田舎町の男湯は華やかな地上の楽園と化していた。
「さ、ちゃっちゃと終わらせよーぜ」
四条 鈴(ka4349)は、みずからも桶を重ねて持ち、洗い場の片づけをしている仲間たちに声をかけた。
お風呂に入りたいがため参加したネフィリア・レインフォード(ka0444)、人助けのため、みんなの憩いの場を取り戻すために参加したメルクーア(ka4005)……目的は様々ながら、協力してイスや桶などの小物を次々に運びだしていく。
「すべらないようキレーにしておかなくちゃね~♪」
その隣では、マギステルのリナリス・リーカノア(ka5126)が四つん這いになって、濡れたタイルを乾拭きしていた。
「にしても、ホントにスライムいるのかな……?」
目と鼻の先ほどの距離にある、波ひとつたてない湯船の様子をうかがいながら、超級まりお(ka0824)が呟いた。
事前の調査では湯船にスライムが逃げ込んでいるらしいが、波ひとつたてず、ただの透明な水が湯船いっぱいに張られているだけのようにみえた。
ぶきみな沈黙の傍ら、スライム退治の準備は着々と進んでいた。
●作戦2、ひそかな難関
「さて、あとはこいつを浴槽に流しこむだけだよ」
まりおの手によって、洗い場の中央に大きな酒樽がふたつ置かれた。
事前に町の酒場に頼んでおいた蒸留酒である。
浴場のためと説明したところ、町の人たちが無償で提供してくれたものだ。
「とっても良い香りがするね~」
メルクーアの言う通り、あたりには酒精の、ふんわりとした甘いにおいが漂っている。
だが、作戦にはひとつだけ問題があった。
酒を湯船に注ぐために、敵のひそむ浴槽に近づかなければいけないということだ。
当然、近づけば近づくほど、見えない敵の襲撃をうける危険は増えてしまう……だが、それがこの作戦のいちばん大事な、肝の部分でもある。
相談の結果、身軽な超級まりおが大役を引き受けることになった。
リナリスとメルクーアが大きなバケツに酒を入れ、それをまりおに渡した。
まりおはバケツの中身を運び、浴槽の中の湯に次々に注ぎこむ。
脱衣場側から作業を見守りながら、ネフィは首を傾げた。
「これで屈伸数変化が起こって敵が見えるようになるのかな? かな?」
「屈折率変化、よ。もしだめだったら、別の手を考えないといけないわね」
柏部 狭綾(ka2697)が、冷静に答えた。
「これでよし……と!」
作業が終わりかけた頃。
まりおは何とも言い難い気配を感じた。
それは、経験のなせる技だったのかもしれない。
まりおは素早く後ろに跳び退る。
バシャッ!!
その瞬間、透明でぬるぬるした物体が、空中に踊り出た。
バシャン!!
大きな水しぶきを立てながら、スライムは湯船にもぐっていく。
「気をつけて、もう一回来るわよ!」
狭綾が声をかける。
水面が波打ち、まりおに向かって来る。
「悪いけど、こんなの余裕すぎるんだよね」
強気な言葉はうそではなかった。
右手側から飛びかかってくる透明な塊を、まるで踊っているかのようにひらりとかわす。
スライムは彼女に触れることすらできずに湯の中へと戻っていった。
「それに、もう見えちゃってるしね……!」
酒を大量に入れて、ほのかに色づいた湯の中には、透明なスライムの形がはっきりと浮かびあがっていた。
●作戦3 戦闘……の前に、囮作戦開始?
「それじゃあスライム追い出しに掛かるのだ♪」
洗い場には、上半身を縄で縛られたメルクーアとネフィがいた。
ネフィは着物を脱いで下着姿、メルクーアもズボンを脱いでいる。
「敵が見えるようになったのに、囮作戦って必要あるのかな……?」
空になったバケツを担いで脱衣場にもどってきたまりおが、ささやかな疑問を口にする。
「いいのいいの。あたしたちだって水の中で戦闘するより、洗い場に誘き出したほうが有利でしょお?」
一見、正論のようなことを言いながら、リナリスは麻縄を手にあやしい笑みを浮かべていた。
「行ってきまーす」
ネフィとメルクーアは縄を引きずりながら、湯船にむかう。
ネフィから伸びる綱をまりおと狭綾が持ち、メルクーアの綱を鈴とリナリスが握り、準備は整った。
囮役のふたりは、浴槽の両端から、そっと湯船に足を下ろした。
スライムはまだ浴槽の奥のほうでじっとしている。
「んっ……! ちょっと冷たい……」と、メルクーアが声をあげる。
「お酒のにおいがすごくしてるのだ……なんだか変な気分なのだ……」
大量に注がれた酒のにおいは浴場全体に広がっていた。
窓はふさがれているため、換気もままならないのでむりもない。
「う……少し酔っぱらってきたな……クラクラするぜ」
縄を引くタイミングを待っている鈴の頬も赤く火照っている。
そして、メルクーアは湯殿に足を差し入れる。ネフィも両足を入れ、ゆっくりと腰まで水に浸かった。
「スライム、おいでおいでなのだ~」
「こっちにおいしいエサがあるよ~」
スライムは水中を泳ぎながら、少し迷うように身をよじった。
そして、急に方向を変え、囮のふたりに向かってくる。
洗い場の四人の、縄を持つ手に力がこもった。
ほぼ同時に、囮に向かっていたスライムの立てる小さな波が、二つに分かれた。
二人の獲物を同時に捕獲するために分裂したのだ。
二体となったスライムは透明な体を大きく広げ、囮に覆いかぶさった。
「きゃっ……あん!」
「あ、ソコ入っちゃ……ふ、ふにゃあ!」
ネフィとメルクーア、どちらのものともいえない悲鳴が、浴場の屋根に当たって反響する。
「いや! は、激しすぎるわ……!」
何を思い出しているのか、狭綾は縄を手放して真っ赤になった顔を逸らした。
そして彼女の想像した通り、ぬるぬるとした体液に塗れたモンスターが、とうとう獲物となったふたりの薄着の胸元やズボンの裾からうねうねと入りこみ、敏感な部分を舐めるように這い回り、めくるめく快楽と痴態の宴が開かれ……ることは、残念ながらなかった。
「いくよっ!」
メルクーアが機導術を使ったのだ。
雷撃が放たれ、瞬間、凄まじい音とともにあたりが明滅した。エレクトリックショック。敵に雷と麻痺を与える技だ。
「ロープを引いて!」
●銭湯……戦闘開始!
「よし、やっと出番だな」
どこか、ここまでの作業を遠巻きにみていた鈴は武器を構え、洗い場に立った。
そこには湯から引き出されたスライムが弾力のある体をぶるりと震わせていた。
「もう一体は……!?」
湯船から出た時点で、ネフィの体にはスライムが巻きついていなかった。
もう一体は、浴槽から引き出されるネフィの体をすべり落ち、湯の中に落ちてしまったのだ。
洗い場に出たスライムのほうはというと、体をくねらせ、粘性のある液体を勢いよく吐きかける。
狙われたのは近くに立っていた狭綾だ。
しかし、電撃が効いているのか狙いは大きく外れて液体はタイルの床にふりそそいだ。
ジュウウ…‥‥!
タイルは白い煙を上げて溶けていく。
酸性の液体にひるむことなく、ネフィが素早く踏みこんだ。
「お風呂を楽しむためにさっさと倒されるのだ!」
事前の準備がよかったためか、足はすべることなくタイルをとらえる。
鉤爪が力強くスライムを抉り、切り裂く。
「よーくねらって……! んっ……!?」
わずかな違和感に眉をひそめる。
間髪入れず、まりおが構えたダガーで斬りこんでいく。
「あれっ……?」
確かに、攻撃は当たっている。
だが……ぶよん、と奇妙な感触がして、ふたりの攻撃はスライムの体の表面をすべっていく。
どうやらこのスライムの軟らかい体のせいでダメージが分散してしまっているようだ。
次に狭綾がチャクラムを構え、放つ。
円形の刃はスライムの体を両断しようとうなり、迫るが……。
べにょんっ!
スライムは思いっきり柔らかな体を床に伸ばし、飛翔する刃をやり過ごした。
「避けられた……意外と素早いみたいね」
彼女は悔しそうに浴室を縦に回転しながらもどってきた武器をキャッチする。
「なかなかいい動きをするじゃねえか。じゃ……こいつはどうだ?」
向かってくる鈴に対し、スライムは勢いよく飛び上った。
鈴がアルケミストクローを突き出す。
「食らいな!」
手甲に組み込まれた鉤爪が透明な体に食い込む、その一瞬。
先ほどと同じように、威力が粘性のある体に削がれそうになったその瞬間、鉤爪が光を帯びた。
マテリアルで構成されたエネルギーが輝く刃になり、的確な技術が敵の急所を正確にとらえる。
そして、刃はスライムを中心から真っ二つにして、その向こう側へと抜けていく。
機導剣という技によって体組織を引き裂かれた魔法生物は空中で四散した。
「よし、こいつは効いたみたいだな……。次だ!」
もう一体は未だ浴槽の中にその身を浸していた。
「あたしにまかせて♪」
リナリスが飛び出した。
洗い場の上をはねるように駆けて、お風呂の中に飛び込む。
ウォーターウォークを使い、軽快に水面を走っていく。
「よいしょっと」
浴槽の隅までいくと、水の中に両手を突っ込んで、金属製の蓋を外して、持ち上げた。
そのとたん、音を立ててお湯が抜け始めた。
リナリスを狙いスライムが動きはじめる。
「させない……!」
しかし、リナリスに続いて湯に飛び込んだメルクーアが、ナックルを装着した拳でスライムを攻撃した。
熊手のような爪は体液ですべったものの、みごとに命中する。
そうしているうちに湯船の水はどんどん抜けていく。
残るスライムは、あと一体を残すのみだ。
水中に身を隠すこともできず、窮地に立たされたことをさとったのか、スライムはメルクーアにむかって酸性の体液を吐きかけた。
だが苦し紛れの攻撃は明後日の方向に飛んで行ってしまった。
その隙を逃さず、まりおとネフィが攻撃をしかげる。
スライムに容赦なく攻撃が叩き込まれ、かなり苦しそうに透明な体をくねらせる。
「よし、これで最後にしてやるよ!」
鈴は助走をつけて、湯船に向かって走った。
スライムは体をぐねぐねと動かし、刃を避けようとする。
「――てめえの動きは見切った!」
再び、マテリアルの刃がスライムを切り裂く。
その光が消えたと同時に、魔法生物の体は崩れ落ちていった。
●お仕事終了……!
浴場に、ハンターたち以外に動くものの姿はいない。
「無事に終わったな……」
「あとは後片付けだけだねー。その前に、町の人たちに終了したって報告してくるねー!」
まりおが楽しそうに、出口に向かって駆けていく。
浴場の外から「キャー!」と、絹をさくような男性の悲鳴が聞こえた。
いつの間にか、外は黄昏時となっていた。
「どうもありがとうございました……こんなにはやく浴場を取り戻せたのは、みなさんのおかげです」
町長は、丁寧に礼を述べて、頭を下げる。
何やら頬を赤らめ、もじもじしているようにみえるのは、夕陽のせいばかりではない……。
実は、先ほど外に飛び出して退治完了を伝えたまりおこそが、武器とバトルレガース以外何も『身に着けていない』という、とてつもなく大胆な格好をしていたのだ。
「あの……大変申し訳ないんだけど、スライムが吐く酸性の液体のせいで、お風呂を傷つけてしまったの」
始終、浴場を傷つけないようにと奮闘していた狭綾がすまなさそうに申し出る。
町長は表情を綻ばせた。
「ああ、それなら問題ありませんよ、お嬢さん。見ての通り年季の入った風呂でしょう、壊れても少しずつ修理しながら使ってきたんですよ。明日の朝には元通りになってますとも」
その言葉に、少女はほっとした表情をみせる。
「さあ、皆さん。お疲れだと思いますが、どうぞ私ら自慢の浴場で汗を流していってくださいね」
それは、お待ちかねのお風呂の時間の合図だった。
個人宅では到底考えれない、広々とした浴槽。
あたためられた湯のにおい。そして立ちのぼる湯気。
ほかほかに暖められたお湯は張り替えられたばかりで、澄んでいる。
「いやっふ~~!」
まりおは浴槽の手前でかけ足を止めると、静かに湯船に入って行った。
「男湯のほう、片づけは町の人たちがするからしなくていいって言われたけど……よかったのかしら」
狭綾は肩まで湯に浸かると、ゆっくりと足を伸ばした。
じんわりと、湯の中に疲労と緊張がとけだしていく気がした。
「見て見てー♪ 胸ってお湯に浮くんだよ♪」
リナリスが豊かな胸元をみせつけてくる。
「たしかに……お、大きい……」
自分の控え目なバストと見比べ、少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。
そして、いつの間にかリナリスの接近を許していたことに気がついたようだった。
「じゃなくて、ちょっと、あんまり近寄らないで……!」
「やん♪」
ふたりのやりとりを、少し離れたところで聞いていた鈴は、複雑そうな表情を浮かべる。
そして、誰にも聞こえないように……とくに、慎ましやかな胸に悩みを抱いているらしい狭綾には聞こえないように、ぼそりと呟いた。
「……小さい方が良くね? 楽そーだし」
いっぽう、洗い場では地元の人たちにまぎれて、メルクーアとネフィが、楽しげに背中を流しあっていた。
「泡だらけなのだ!」
「じっとしてなきゃ洗えないよ~」
「あたしも混ぜてー♪」
湯船から飛び出したリナリスは、泡をたっぷりつけた手のひらで、メルクーアに後ろから抱きついた。
「やだ~くすぐった……あっ、ダメ、そこさわっちゃ!」
「そこ? そこってどこなのかな? ねぇ、お、し、え、て……?」
「い、いや~ん!」
ただの洗いっこのはずが、なんだかおかしな雰囲気をつくりはじめていた。
狭綾は見なかったことにして、洗い場から目をそらした。
そして天井を仰ぎみる。
「あ……」
ふと天井を見上げると、とりつけられた天窓の向こうに、輝く星がみえていた。
壁で囲まれた風呂のため露天風呂とまではいかないものの、湯気の向こうに見える夜空は美しい。
町の人たちがこのお風呂を愛する理由がよくわかる気がする。
「ほんと、いいお湯ね」
狭綾は自然と笑みを浮かべていた。
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銭湯でスライム退治 柏部 狭綾(ka2697) 人間(リアルブルー)|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/07/17 08:11:47 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/14 09:15:26 |