ゲスト
(ka0000)
ルーレット・フォレスト
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/19 12:00
- 完成日
- 2015/07/25 13:07
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
つめたい泉の水をかき混ぜて、ガラス玉のような泡をつくってはその不思議に柔らかな感触を楽しむのが、夏の季節の、姉妹のお気に入りの遊びだった。
今年もその季節がきた。
泉は、森を北へまっすぐ抜けたところにある。姉妹は手を繋ぎ、その泉を目指す。
「あたしは左、そして前。あなたは右、そして前」
「あたしは右、そして前。お姉ちゃんは左、そして前」
自作の歌をデタラメに、けれどとても楽しそうに歌いながら、姉妹は森を進む。森は迷いやすいから、周囲を良く見て進むように、という母親のいいつけをきちんと守るための歌だ。
「あたしは左、そして前。あなたは右、そして前」
「あたしは右、そして前。お姉ちゃんは左、そして前」
歌に合わせて、姉妹はきょろきょろと周囲を確認する。
去年と同じ、大クスノキ。……の、はず。今年はなんだか、随分と葉っぱが少ないけれど。
去年と同じ、コケモモの茂み。……の、はず。今年は雨の所為かしら、随分と地面に実が落ちてしまっているけれど。
姉妹はきちんと、いいつけを守った。
けれど、姉妹は知らなかった。
今年の森は、いつもの森と違っていたことを。
今年の森は、ルーレット・フォレストと呼ばれる森になっていたことを。
森の木々が、ざわざわと揺れた。揺らしたのは、単なる風ではなかった。大きな鳥の羽ばたきが巻き起こした、湿った臭いのする風であった。
「雑貨屋の息子が昨日、森で迷ったってよ」
「森って、あの」
「そう、ルーレット・フォレストさ」
「本当かよ! で、戻ってこれたのか?」
「戻るには戻ってこれた、と言うかなあ。森の西側に抜けて、旅の商人と落ち合うはずが、西側にはたどり着けずに、元の地点に戻って来ちまったんだとさ」
「なーんだそりゃあ!」
どっと、笑い声が起こった。
村にひとつしかない酒場で、仕事を終えた男たちがジョッキを片手に噂話をしているのだ。噂好きは女の特徴としたものだが、実際のところ、男も嬉々として酒の肴に噂話を選ぶものなのだ。
「カジノでのルーレットだったら、大損だったところだなあ、そりゃ」
「違いない!」
村の境界線としても使われている森は、ここのところ、地図通りに歩いても目的地へたどり着けない、という不思議な現象が起こっている。まるで、ルーレットで行先を決められているようだ、ということで、誰がいつ発案したものやら、ルーレット・フォレスト、と呼ばれるようになった。随分と迷わされた、だの、結局目的地へ抜けられなくて森を迂回して進んだ、だのという話は上がっていたが、特に遭難者が出たというような実害がなかったため、ニュースの少ないこの村において恰好の笑い話のネタになっていた。
「俺もこの前、ルーレット・フォレストに入ったけどよ」
ビールの泡を上唇につけたまま、家具屋の主人が話し始めた。
「ひどい目にあった、というほどのことじゃなかったが、やっぱり迷わされたよ。去年まではそんなことなかったのに、なんでだろうなあ、気味が悪いなあ……それに」
「……それに?」
勿体つけて、家具屋の主人が精いっぱいの不気味な表情を作った。
「頭の上をな、見たこともないような大きな鳥が、ばさあっ、と飛んでいってなあ」
おおお、と一同がどよめくが、すぐに、その鳥なら俺も見た、という者が何人か声を上げた。
「一瞬しか姿は見てないけど、とにかく大きかったな。なんか、恐ろしくなっちまって、とにかく足早にその場を離れたもんだけどよ」
「ああ、わかるわかる。なんか、嫌な風を感じるんだよな、あの鳥が飛んでいくと」
「……あの鳥、本当にただの鳥なのか……?」
誰かが、そうぽつりと呟いた。そのときに。
「助けて……!!! お願いです!!!」
蒼白な顔をした女性が、酒場に駆け込んできた。
「娘たちが……、森に!!! ルーレット・フォレストに!!!」
女性は、姉妹の母親であった。
今年は森がおかしいから、入ってはいけないと注意するつもりだったのに、その前に姉妹は森へ出かけてしまい、日暮れになっても戻ってこないと言う。
「夫は仕事で十日ほど帰ってこないんです……! 私、もう、どうしたらいいか……」
混乱する頭を抱え、ひとまず、村で一番男手の集まっている酒場へ駆け込んだものらしかった。
泣きじゃくる母親をなだめつつ話を聞いた酒場の男たちは、決めた。
「俺たちの手には余る。確実に、お嬢さんたちを見つけ出さなければならない。ハンターに依頼しよう」
回り続けるルーレットを、止めてもらわねば。
その、回り続けるルーレットの渦中には、手を取り合う姉妹がいた。
歩き続け、歩き続け、自分たちが迷っているのだと気がついたときにはもう夕暮れだった。目指し続けた泉がようやく見えたけれど、ちっとも嬉しくなかった。泉ではなく、母親の待つ家が、恋しかった。
「疲れたよう、お姉ちゃん」
「うん……、でも、お家に帰らなくちゃ」
自分も泣き出したいのをこらえながら、姉は泣きべそをかく妹を必死になだめた。周囲は暗くなりかけ、薄っぺらな三日月が森の木々の間に見えた。……と、思った。
けれどそれは。
姉妹が三日月だと思ったそれは。
鋭く光る、鳥の嘴だった。
今年もその季節がきた。
泉は、森を北へまっすぐ抜けたところにある。姉妹は手を繋ぎ、その泉を目指す。
「あたしは左、そして前。あなたは右、そして前」
「あたしは右、そして前。お姉ちゃんは左、そして前」
自作の歌をデタラメに、けれどとても楽しそうに歌いながら、姉妹は森を進む。森は迷いやすいから、周囲を良く見て進むように、という母親のいいつけをきちんと守るための歌だ。
「あたしは左、そして前。あなたは右、そして前」
「あたしは右、そして前。お姉ちゃんは左、そして前」
歌に合わせて、姉妹はきょろきょろと周囲を確認する。
去年と同じ、大クスノキ。……の、はず。今年はなんだか、随分と葉っぱが少ないけれど。
去年と同じ、コケモモの茂み。……の、はず。今年は雨の所為かしら、随分と地面に実が落ちてしまっているけれど。
姉妹はきちんと、いいつけを守った。
けれど、姉妹は知らなかった。
今年の森は、いつもの森と違っていたことを。
今年の森は、ルーレット・フォレストと呼ばれる森になっていたことを。
森の木々が、ざわざわと揺れた。揺らしたのは、単なる風ではなかった。大きな鳥の羽ばたきが巻き起こした、湿った臭いのする風であった。
「雑貨屋の息子が昨日、森で迷ったってよ」
「森って、あの」
「そう、ルーレット・フォレストさ」
「本当かよ! で、戻ってこれたのか?」
「戻るには戻ってこれた、と言うかなあ。森の西側に抜けて、旅の商人と落ち合うはずが、西側にはたどり着けずに、元の地点に戻って来ちまったんだとさ」
「なーんだそりゃあ!」
どっと、笑い声が起こった。
村にひとつしかない酒場で、仕事を終えた男たちがジョッキを片手に噂話をしているのだ。噂好きは女の特徴としたものだが、実際のところ、男も嬉々として酒の肴に噂話を選ぶものなのだ。
「カジノでのルーレットだったら、大損だったところだなあ、そりゃ」
「違いない!」
村の境界線としても使われている森は、ここのところ、地図通りに歩いても目的地へたどり着けない、という不思議な現象が起こっている。まるで、ルーレットで行先を決められているようだ、ということで、誰がいつ発案したものやら、ルーレット・フォレスト、と呼ばれるようになった。随分と迷わされた、だの、結局目的地へ抜けられなくて森を迂回して進んだ、だのという話は上がっていたが、特に遭難者が出たというような実害がなかったため、ニュースの少ないこの村において恰好の笑い話のネタになっていた。
「俺もこの前、ルーレット・フォレストに入ったけどよ」
ビールの泡を上唇につけたまま、家具屋の主人が話し始めた。
「ひどい目にあった、というほどのことじゃなかったが、やっぱり迷わされたよ。去年まではそんなことなかったのに、なんでだろうなあ、気味が悪いなあ……それに」
「……それに?」
勿体つけて、家具屋の主人が精いっぱいの不気味な表情を作った。
「頭の上をな、見たこともないような大きな鳥が、ばさあっ、と飛んでいってなあ」
おおお、と一同がどよめくが、すぐに、その鳥なら俺も見た、という者が何人か声を上げた。
「一瞬しか姿は見てないけど、とにかく大きかったな。なんか、恐ろしくなっちまって、とにかく足早にその場を離れたもんだけどよ」
「ああ、わかるわかる。なんか、嫌な風を感じるんだよな、あの鳥が飛んでいくと」
「……あの鳥、本当にただの鳥なのか……?」
誰かが、そうぽつりと呟いた。そのときに。
「助けて……!!! お願いです!!!」
蒼白な顔をした女性が、酒場に駆け込んできた。
「娘たちが……、森に!!! ルーレット・フォレストに!!!」
女性は、姉妹の母親であった。
今年は森がおかしいから、入ってはいけないと注意するつもりだったのに、その前に姉妹は森へ出かけてしまい、日暮れになっても戻ってこないと言う。
「夫は仕事で十日ほど帰ってこないんです……! 私、もう、どうしたらいいか……」
混乱する頭を抱え、ひとまず、村で一番男手の集まっている酒場へ駆け込んだものらしかった。
泣きじゃくる母親をなだめつつ話を聞いた酒場の男たちは、決めた。
「俺たちの手には余る。確実に、お嬢さんたちを見つけ出さなければならない。ハンターに依頼しよう」
回り続けるルーレットを、止めてもらわねば。
その、回り続けるルーレットの渦中には、手を取り合う姉妹がいた。
歩き続け、歩き続け、自分たちが迷っているのだと気がついたときにはもう夕暮れだった。目指し続けた泉がようやく見えたけれど、ちっとも嬉しくなかった。泉ではなく、母親の待つ家が、恋しかった。
「疲れたよう、お姉ちゃん」
「うん……、でも、お家に帰らなくちゃ」
自分も泣き出したいのをこらえながら、姉は泣きべそをかく妹を必死になだめた。周囲は暗くなりかけ、薄っぺらな三日月が森の木々の間に見えた。……と、思った。
けれどそれは。
姉妹が三日月だと思ったそれは。
鋭く光る、鳥の嘴だった。
リプレイ本文
●序幕
まもなく宵闇に包まれるはずの、夕暮れ時の村に、沈みかけた太陽が引き返してきた。と、誰もが一瞬はそう錯覚した。可憐な、清楚な、艶やかな、それぞれ個性の違う輝きを持った女性ハンターたちが燦然と現れたのである。
「そろそろ日が落ちますわ。森の散策には、やはり少々遅すぎますわね」
セシール・フェーヴル(ka4507)が桔梗色の空を一瞥して呟くと、アニス・エリダヌス(ka2491)が同意を示した。
「そうですね。巨大な鳥の存在が気がかりですし、急がないと」
「森の情報を、もう少し入手しておいた方がいいんじゃないか?」
ヤツカ・F・リップマン(ka5180)の金色の髪が、さらりと揺れた。早くも夜風が吹き始めたものとみえた。
「姉妹が目指したという泉に、森を通らず行ける道はありますか?」
フランソワーズ・ガロッテ(ka4590)の問いかけに、村の人々はハッと我を取り戻したように慌てふためいた。
「な、ないのと同じだと思ってくれていいですな。森を避けて通ろうとすると、山をひとつ越えて行かなければなりません」
うわずった声でつっかえつっかえ答えたのは、家具屋の主人だった。女性ハンターたちにわかりやすく見惚れていたものとみえる。
(ま、気持ちはわかる)
六人のうち、唯一の男性ハンターであるカッツ・ランツクネヒト(ka5177)がへらり、と笑った。
「やっぱり、迷える森へ入らなくちゃいけないわけだね。大きな野鳥狩りってところかな?早々に出発だね」
ミルティア・ミルティエラ(ka0155)の柔らかな微笑みが、出発の合図となった。
●廻る森へ
森の捜索は、二人ずつ三班に分かれて行うこととした。ひとまず目的地は姉妹が目指したという、森を北に抜けた泉である。一直線に北へ向かう班、東方面へ迂回して向かう班、西方面へ迂回して向かう班、の三つである。それぞれの状況を知らせるために楽器と、トランシーバーをバランスよく割り当ててあった。
ミルティアとセシールの班は、東方面へ迂回するルートを受け持っていた。
「……仲のいい、姉妹、ね……」
己の境遇と比べられずにはいられなかったミルティアがぽつりと呟く。
「ミルティエラ様、何か仰いまして?」
呟きをよく聞きとれなかったらしいセシールが首を傾げた。気合十分に、合図用の太鼓を構えている。ミルティアは思わず、ぷっと吹きだした。
「な、なんですの! 太鼓が似合わないことなんてわかってますわ!」
「いやいや、そうじゃないよ、セシールちゃんのやる気、可愛いなあと思ってね。そうだね……、助けてあげないとね」
胸に落ちかけた気鬱を振り払うべく、ミルティアはセシールに微笑んだ。
「セシールちゃん、うずうずしてるみたいだし、とりあえず周囲に異常もないし、太鼓ひとつ叩いてよ」
「うずうず、って、まるでわたくしが叩きたがってるみたいじゃありませんの」
拗ねたように可愛らしく口をとがらせて不平を言いつつも、セシールは太鼓を叩いた。
どん、と響いてきた太鼓の音は、ひとつ。
「えーと、一回なら異常なしって取決めにしてあったな」
カッツがそう確認しヤツカが、ああ、と短く返事をした。カッツは太鼓の音に返答するように、自分もハーモニカを一度だけ吹く。
楽器の種類は違えど、合図は音の回数で決めてあった。一回なら異常なし。三回なら敵発見。五回なら姉妹を連れて逃走中、である。
「合図の係を任せてしまってすまないな、カッツ」
「いいさ、それが役割分担ってやつだろ? お、その樹なんかいいんじゃないか?すでに枯れてるからこれ以上変化することはないだろ」
そう言ってカッツが指差した老木に、ヤツカは目印代わりのスローイングカードを突き刺した。ふたりは、一直線に北へ向かう班を引き受けていた。泉へ到達するルートとしては最短である代わりに、帰り道を見失わないようにするための目印を道々につけていく役目を担っている。ヤツカのスローイングカードだけでなく、カッツも派手な橙色の毛糸玉を携え、するすると糸を垂らしながら進んでいた。枯れるはずのない時期に枯れ果てている樹木。その隣で今まさに力を失う草花。これでは、村の者らが迷わされるのも無理はないといえた。ぐるぐると変化を続ける森、ルーレット・フォレスト。
「それにしても、困ったお嬢さんたちもいたもんだ。娘が親を泣かせていいのは嫁ぐときくらいだぜ」
「……そういう、ものか?」
剣に生きるヤツカとしては、嫁ぐ、というのは想像の難しいことのように思えた。
「そういうもんさ。大人になって、きちんと嫁げるように、助けてやらないとな」
カッツは軽い口調で言いつつも油断なく周囲を見回し、異常なしのハーモニカをもう一度吹いた。
ハーモニカの澄んだ音を耳にして、四弦黒琵琶を抱えたアニスはホッとした。
「皆さんご無事であるようですね。けれども、どのあたりを進んでいらっしゃるんでしょうか」
アニスのその言葉を受けて、フランソワーズが携帯していたトランシーバーに声を通した。
「こちらフランソワーズ、予定通り森の西方面を進行中。順調よ、森の中腹まで来てるわ。皆はどうかしら?」
『ミルティアだよー、こっちも半分くらいまで来たね』
『カッツだ。こっちももうそろそろ森の中心くらいだな。目印をつけながら、ってのが案外時間かかってさ』
すべての班の安否を確認し、安堵すると同時に、ふたりは気を引き締めなおす。ここまで何もなかったということは、雑魔も姉妹もこの先にいるということだ。
「森は元々油断ならない場所です。それが次々に姿を変えるなんて、危険極まります……」
森に囲まれて育ったアニスは、森がもたらす恩恵も恐ろしさもよく知っていた。ふたりで慎重に周囲をうかがいながら進み、アニスが異常なし、の琵琶の音を奏でようとした、そのとき。
ドンドンドンドンドンッ!!!
切羽詰まった太鼓が、聞こえてきた。回数は、五回。
●回転軸たるはばたき
泉が見えましたわ、と言いかけてセシールは、その泉のすぐそばで手を取り合う少女ふたりの姿をみとめた。
「ミルティエラ様……」
姉妹発見の旨をパートナーたるミルティアに伝えようと隣をふり仰ぐと、ミルティアはクロイツハンマーをかまえて頭上を睨み上げていた。
「セシールちゃん! 太鼓鳴らしながらあの子たち連れて逃げて!!」
「わ、わかりましたわ!」
現状を正しく把握したセシールは、姉妹のもとへ駆け寄る。
「助けに来ましたわ! 怪我はございませんか? さあ、わたくしと一緒に行きますわよ!」
怯え顔をしていた姉妹は、セシールの登場に驚いていたが、素直に立ち上がった。
セシールが把握した現状。それは、言うまでもなく、雑魔の登場だった。
「姉妹を発見したよ! でも、雑魔にも遭遇しちゃった、泉のすぐそば! 合流よろしく!」
ミルティアがトランシーバーに向かって早口で伝達をすると、ばさり、と羽ばたく音がした。ぶわ、と湿った風と、セシールが叩く太鼓の音がミルティアの闘志を煽る。
「やれやれ、少し頑張るとしようかな」
ミルティアが真っ赤な舌をぺろり、と出して戦闘態勢に入った。……が。雑魔はミルティアの頭上を飛び越えた。向かう先は、音のする方。つまりは。
「セシールちゃん! そっち行った、気を付けて!」
叫びながらミルティアは、自らもセシールたちの方へ素早く身を翻した。雑魔はおそらく太鼓の音に反応してしまったのだろう。楽器の音で囮になる、というプランも出ていたことを思い出す。その囮が、助けたい対象を連れていては意味がなかった。ミルティアは内心臍を噛む。
雑魔が、飛翔の高度を下げてセシールと姉妹に近づかんとしたとき。
静かなる鎮魂歌が、森の空気を震わせた。雑魔の動きが、鈍くなる。
「アニスちゃん!」
「待たせたわ」
レクイエムを歌いつつ琵琶を奏でるアニスの代わりに、フランソワーズが返事をした。その後ろから、カッツとヤツカも駆けつけた。カッツは素早くミルティアと並んで雑魔に対峙し、ヤツカは鞘を払って雑魔を警戒しつつセシールを援護すべく、そちらへ歩を速めた。
「遅くなってすまねえな、ミルティア嬢」
「そうでもないよ! さ、片をつけよう!」
ミルティアの瞳が、紅にきらり、と輝いた。背から、触手が現れ、ぬらぬらとミルティアに絡みつく。
「別に恨みは無いけどさ!」
歓喜を、ほとばしらせ。
「真っ赤に咲かせてやりますよ!」
ミルティアが鮮やかにストライクブロウを雑魔に叩きつけた。
ギャアアアアアアア
ガラス板を爪で引っ掻いたような鳴き声をあげ、雑魔は無に帰した。が、その直後。
「危ない!」
アニスが叫び、カッツがミルティアの腕を引いた。
ばさり、とはばたきがカッツの腕をかすめ、ミルティアは腕を引かれたことで攻撃は受けなかったものの、膝をしたたか地面にぶつけた。
もう一体の雑魔が、飛来したのだ。先ほどの雑魔が死に際に鳴いた声が呼び寄せたらしかった。
「お二人とも、大丈夫ですか!?」
アニスが顔色を変えて駆け寄ってくる。ミルティアはすぐに立ち上がって、ぱんぱん、と土埃を払った。
「うん、ボクは何ともないよ。ありがとカッツ、大丈夫?」
「かすり傷だ、ツバつけときゃ治るさ。それよりも……」
問題は、飛来してきた雑魔の方である。
「……姉妹たちの逃げた方向へ、飛んで行ったな」
冷静な声でそう告げたのは、フランソワーズだった。いつの間にやら覚醒していたようである。柔らかな雰囲気は一変し、全身を真紅のオーラが包み込んでいた。
「すぐに、追いましょう」
アニスもまた、瞳に凛々しさを宿して行く先を見据えた。
ヤツカは、泉へたどり着くまでに付けてきたスローイングカードの目印が始まっているところまで、セシールと姉妹を案内した。一刻も早く、森を出なければならない。しかし、幼い上に怯えきった姉妹を連れてのことである。思うような速度で進めるわけはなかった。
セシールが姉妹の手を引き、ヤツカはその後ろで背後を気にしながらいつでも三人を庇える姿勢を取っていた。
と、不意に。
セシールと、ヤツカの緊張度が同時に上がった。
「はばたきが、聞こえますわ」
「空気も動いている。来るようだな。セシール、姉妹を連れて先に行け。私がここで時間を稼ぐ」
「けれど」
「大丈夫だ、皆もすぐ追いついてくるだろう。早く行け」
「……わかりましたわ、お任せいたします」
ヤツカの毅然とした瞳を見据えて、セシールは頷いた。姉妹の手を引き、ヤツカを残してその場を去る。
ほどなくして。
雑魔がヤツカの目の前へと迫ってきた。ヤツカは慌てることなく、気迫を漲らせた。
「来たな。……私は剣だ。幼子に手を出したくば、折ってみせろ」
その気迫に押されたのか、雑魔はヤツカの太刀筋が届かぬ程度にまで高度を上げた。しかし、それが災いした。
ギャア!
輝く光の弾が、雑魔の大きな翼をかすめたのである。
「アニスのホーリーライトだ。避けられなかったようだな」
戦闘中においてはいっそ不自然なほどの冷静さと艶然さを持ち合わせた真似のできない声は、フランソワーズのものだった。左の鎖骨辺りから、首筋へ。狐のような文様の紋章が、淡く輝き、まるで彼女の美しい肌を這っているようであった。
「狐よ、私に力を貸してもらおう」
フランソワーズの手には、白銀に輝く武器。霊槍グングニルだ。
フランソワーズは、その鋭いグングニルを。
「さぁ、霊槍グングニルよ、美しきその一撃で、私達に勝利を、寄越せ!!」
真っ直ぐ雑魔に向かって、投げた。
グェアアアアアア
派手な鳴き声とともに、雑魔ははばたきをやめ、姿を消した。
●終幕
派手な鳴き声は、セシールと姉妹にも聞こえていた。幼いふたりがビクリと体をすくませるのを、セシールが優しい声でなだめる。
「心配ありませんわ。今の鳴き声は、わたくしの仲間が怖い鳥をやっつけた証拠ですわ」
ほどなくして、全員がセシールと姉妹に合流を果たした。真っ先に姉妹に駆け寄ったのは、アニスであった。
「怖かったですよね、良く頑張りましたよ」
そしてアニスは、お腹が空いているでしょう、とパンを差し出した。恐々とハンターたちを見上げていたふたりであるが、アニスの優しい笑顔に少々緊張を解いたようで、パンを受け取り、姉妹で仲良く半分ずつ、口にした。
それでもまだ完全には怯えた様子が消えないのを見て、セシールが、おもむろに太鼓を叩き始めた。もう、合図は必要ないというのに。
「わたくし、たまたま太鼓を持っておりますの。持っているとつい、叩きたくなってしまうでしょう? でも、太鼓だけでも寂しいですし、どうでしょうかしら、お歌でも歌っていただけませんこと?」
姉妹に微笑みかけると、戸惑ったような表情が返ってきた。無理だっただろうか、とセシールは一瞬不安になったが、そこへアニスとカッツの助け舟が入った。
「わたしも、琵琶を持っていますよ」
「偶然だなあ、俺もハーモニカを持ってるぜ」
おどけたような調子に、姉妹がようやく笑顔を見せた。妹の方らしき小柄な少女が、あのね、と口を開く。
「あのね、お姉ちゃんは、お歌がとっても上手なの! あたしもよ!」
でたらめな歌を歌いながらの、奇妙な帰路がスタートした。
「あたしは左、そして前。あなたは右、そして前」
「あたしは右、そして前。お姉ちゃんは左、そして前」
そうやって、何度同じ歌を歌っただろうか。視界が開ける予感がして、カッツがハーモニカを吹くのをやめた。
「……さあ、お嬢さんたち。もう、親を泣かせちゃダメだぜ」
何のことかわからずきょとんとする姉妹に、ヤツカが前方を指差して見せた。
「あっ!」
「お母さん!」
姉妹は森を出た先で待つ母親の姿を見つけて駆け出そうとし、思いとどまって振り返った。
「おねえさんたち、助けてくれてありがとう!」
「ありがとう!」
アニスとフランソワーズが華やかに微笑んで手を振り、セシールは困ったように視線を泳がせた。
そこから、ひとり、もう一歩さがったところでミルティアは呟いた。
「……ま、無事だったんなら良かったんじゃない?」
今度こそ駆け出していく姉妹を眺めるまなざしは、眩しげであった。
ルーレット・フォレストの回転は、終わった。
けれど、ハンターたちのあたたかな気持ちは、ゆっくりと、回り続けていた。
まもなく宵闇に包まれるはずの、夕暮れ時の村に、沈みかけた太陽が引き返してきた。と、誰もが一瞬はそう錯覚した。可憐な、清楚な、艶やかな、それぞれ個性の違う輝きを持った女性ハンターたちが燦然と現れたのである。
「そろそろ日が落ちますわ。森の散策には、やはり少々遅すぎますわね」
セシール・フェーヴル(ka4507)が桔梗色の空を一瞥して呟くと、アニス・エリダヌス(ka2491)が同意を示した。
「そうですね。巨大な鳥の存在が気がかりですし、急がないと」
「森の情報を、もう少し入手しておいた方がいいんじゃないか?」
ヤツカ・F・リップマン(ka5180)の金色の髪が、さらりと揺れた。早くも夜風が吹き始めたものとみえた。
「姉妹が目指したという泉に、森を通らず行ける道はありますか?」
フランソワーズ・ガロッテ(ka4590)の問いかけに、村の人々はハッと我を取り戻したように慌てふためいた。
「な、ないのと同じだと思ってくれていいですな。森を避けて通ろうとすると、山をひとつ越えて行かなければなりません」
うわずった声でつっかえつっかえ答えたのは、家具屋の主人だった。女性ハンターたちにわかりやすく見惚れていたものとみえる。
(ま、気持ちはわかる)
六人のうち、唯一の男性ハンターであるカッツ・ランツクネヒト(ka5177)がへらり、と笑った。
「やっぱり、迷える森へ入らなくちゃいけないわけだね。大きな野鳥狩りってところかな?早々に出発だね」
ミルティア・ミルティエラ(ka0155)の柔らかな微笑みが、出発の合図となった。
●廻る森へ
森の捜索は、二人ずつ三班に分かれて行うこととした。ひとまず目的地は姉妹が目指したという、森を北に抜けた泉である。一直線に北へ向かう班、東方面へ迂回して向かう班、西方面へ迂回して向かう班、の三つである。それぞれの状況を知らせるために楽器と、トランシーバーをバランスよく割り当ててあった。
ミルティアとセシールの班は、東方面へ迂回するルートを受け持っていた。
「……仲のいい、姉妹、ね……」
己の境遇と比べられずにはいられなかったミルティアがぽつりと呟く。
「ミルティエラ様、何か仰いまして?」
呟きをよく聞きとれなかったらしいセシールが首を傾げた。気合十分に、合図用の太鼓を構えている。ミルティアは思わず、ぷっと吹きだした。
「な、なんですの! 太鼓が似合わないことなんてわかってますわ!」
「いやいや、そうじゃないよ、セシールちゃんのやる気、可愛いなあと思ってね。そうだね……、助けてあげないとね」
胸に落ちかけた気鬱を振り払うべく、ミルティアはセシールに微笑んだ。
「セシールちゃん、うずうずしてるみたいだし、とりあえず周囲に異常もないし、太鼓ひとつ叩いてよ」
「うずうず、って、まるでわたくしが叩きたがってるみたいじゃありませんの」
拗ねたように可愛らしく口をとがらせて不平を言いつつも、セシールは太鼓を叩いた。
どん、と響いてきた太鼓の音は、ひとつ。
「えーと、一回なら異常なしって取決めにしてあったな」
カッツがそう確認しヤツカが、ああ、と短く返事をした。カッツは太鼓の音に返答するように、自分もハーモニカを一度だけ吹く。
楽器の種類は違えど、合図は音の回数で決めてあった。一回なら異常なし。三回なら敵発見。五回なら姉妹を連れて逃走中、である。
「合図の係を任せてしまってすまないな、カッツ」
「いいさ、それが役割分担ってやつだろ? お、その樹なんかいいんじゃないか?すでに枯れてるからこれ以上変化することはないだろ」
そう言ってカッツが指差した老木に、ヤツカは目印代わりのスローイングカードを突き刺した。ふたりは、一直線に北へ向かう班を引き受けていた。泉へ到達するルートとしては最短である代わりに、帰り道を見失わないようにするための目印を道々につけていく役目を担っている。ヤツカのスローイングカードだけでなく、カッツも派手な橙色の毛糸玉を携え、するすると糸を垂らしながら進んでいた。枯れるはずのない時期に枯れ果てている樹木。その隣で今まさに力を失う草花。これでは、村の者らが迷わされるのも無理はないといえた。ぐるぐると変化を続ける森、ルーレット・フォレスト。
「それにしても、困ったお嬢さんたちもいたもんだ。娘が親を泣かせていいのは嫁ぐときくらいだぜ」
「……そういう、ものか?」
剣に生きるヤツカとしては、嫁ぐ、というのは想像の難しいことのように思えた。
「そういうもんさ。大人になって、きちんと嫁げるように、助けてやらないとな」
カッツは軽い口調で言いつつも油断なく周囲を見回し、異常なしのハーモニカをもう一度吹いた。
ハーモニカの澄んだ音を耳にして、四弦黒琵琶を抱えたアニスはホッとした。
「皆さんご無事であるようですね。けれども、どのあたりを進んでいらっしゃるんでしょうか」
アニスのその言葉を受けて、フランソワーズが携帯していたトランシーバーに声を通した。
「こちらフランソワーズ、予定通り森の西方面を進行中。順調よ、森の中腹まで来てるわ。皆はどうかしら?」
『ミルティアだよー、こっちも半分くらいまで来たね』
『カッツだ。こっちももうそろそろ森の中心くらいだな。目印をつけながら、ってのが案外時間かかってさ』
すべての班の安否を確認し、安堵すると同時に、ふたりは気を引き締めなおす。ここまで何もなかったということは、雑魔も姉妹もこの先にいるということだ。
「森は元々油断ならない場所です。それが次々に姿を変えるなんて、危険極まります……」
森に囲まれて育ったアニスは、森がもたらす恩恵も恐ろしさもよく知っていた。ふたりで慎重に周囲をうかがいながら進み、アニスが異常なし、の琵琶の音を奏でようとした、そのとき。
ドンドンドンドンドンッ!!!
切羽詰まった太鼓が、聞こえてきた。回数は、五回。
●回転軸たるはばたき
泉が見えましたわ、と言いかけてセシールは、その泉のすぐそばで手を取り合う少女ふたりの姿をみとめた。
「ミルティエラ様……」
姉妹発見の旨をパートナーたるミルティアに伝えようと隣をふり仰ぐと、ミルティアはクロイツハンマーをかまえて頭上を睨み上げていた。
「セシールちゃん! 太鼓鳴らしながらあの子たち連れて逃げて!!」
「わ、わかりましたわ!」
現状を正しく把握したセシールは、姉妹のもとへ駆け寄る。
「助けに来ましたわ! 怪我はございませんか? さあ、わたくしと一緒に行きますわよ!」
怯え顔をしていた姉妹は、セシールの登場に驚いていたが、素直に立ち上がった。
セシールが把握した現状。それは、言うまでもなく、雑魔の登場だった。
「姉妹を発見したよ! でも、雑魔にも遭遇しちゃった、泉のすぐそば! 合流よろしく!」
ミルティアがトランシーバーに向かって早口で伝達をすると、ばさり、と羽ばたく音がした。ぶわ、と湿った風と、セシールが叩く太鼓の音がミルティアの闘志を煽る。
「やれやれ、少し頑張るとしようかな」
ミルティアが真っ赤な舌をぺろり、と出して戦闘態勢に入った。……が。雑魔はミルティアの頭上を飛び越えた。向かう先は、音のする方。つまりは。
「セシールちゃん! そっち行った、気を付けて!」
叫びながらミルティアは、自らもセシールたちの方へ素早く身を翻した。雑魔はおそらく太鼓の音に反応してしまったのだろう。楽器の音で囮になる、というプランも出ていたことを思い出す。その囮が、助けたい対象を連れていては意味がなかった。ミルティアは内心臍を噛む。
雑魔が、飛翔の高度を下げてセシールと姉妹に近づかんとしたとき。
静かなる鎮魂歌が、森の空気を震わせた。雑魔の動きが、鈍くなる。
「アニスちゃん!」
「待たせたわ」
レクイエムを歌いつつ琵琶を奏でるアニスの代わりに、フランソワーズが返事をした。その後ろから、カッツとヤツカも駆けつけた。カッツは素早くミルティアと並んで雑魔に対峙し、ヤツカは鞘を払って雑魔を警戒しつつセシールを援護すべく、そちらへ歩を速めた。
「遅くなってすまねえな、ミルティア嬢」
「そうでもないよ! さ、片をつけよう!」
ミルティアの瞳が、紅にきらり、と輝いた。背から、触手が現れ、ぬらぬらとミルティアに絡みつく。
「別に恨みは無いけどさ!」
歓喜を、ほとばしらせ。
「真っ赤に咲かせてやりますよ!」
ミルティアが鮮やかにストライクブロウを雑魔に叩きつけた。
ギャアアアアアアア
ガラス板を爪で引っ掻いたような鳴き声をあげ、雑魔は無に帰した。が、その直後。
「危ない!」
アニスが叫び、カッツがミルティアの腕を引いた。
ばさり、とはばたきがカッツの腕をかすめ、ミルティアは腕を引かれたことで攻撃は受けなかったものの、膝をしたたか地面にぶつけた。
もう一体の雑魔が、飛来したのだ。先ほどの雑魔が死に際に鳴いた声が呼び寄せたらしかった。
「お二人とも、大丈夫ですか!?」
アニスが顔色を変えて駆け寄ってくる。ミルティアはすぐに立ち上がって、ぱんぱん、と土埃を払った。
「うん、ボクは何ともないよ。ありがとカッツ、大丈夫?」
「かすり傷だ、ツバつけときゃ治るさ。それよりも……」
問題は、飛来してきた雑魔の方である。
「……姉妹たちの逃げた方向へ、飛んで行ったな」
冷静な声でそう告げたのは、フランソワーズだった。いつの間にやら覚醒していたようである。柔らかな雰囲気は一変し、全身を真紅のオーラが包み込んでいた。
「すぐに、追いましょう」
アニスもまた、瞳に凛々しさを宿して行く先を見据えた。
ヤツカは、泉へたどり着くまでに付けてきたスローイングカードの目印が始まっているところまで、セシールと姉妹を案内した。一刻も早く、森を出なければならない。しかし、幼い上に怯えきった姉妹を連れてのことである。思うような速度で進めるわけはなかった。
セシールが姉妹の手を引き、ヤツカはその後ろで背後を気にしながらいつでも三人を庇える姿勢を取っていた。
と、不意に。
セシールと、ヤツカの緊張度が同時に上がった。
「はばたきが、聞こえますわ」
「空気も動いている。来るようだな。セシール、姉妹を連れて先に行け。私がここで時間を稼ぐ」
「けれど」
「大丈夫だ、皆もすぐ追いついてくるだろう。早く行け」
「……わかりましたわ、お任せいたします」
ヤツカの毅然とした瞳を見据えて、セシールは頷いた。姉妹の手を引き、ヤツカを残してその場を去る。
ほどなくして。
雑魔がヤツカの目の前へと迫ってきた。ヤツカは慌てることなく、気迫を漲らせた。
「来たな。……私は剣だ。幼子に手を出したくば、折ってみせろ」
その気迫に押されたのか、雑魔はヤツカの太刀筋が届かぬ程度にまで高度を上げた。しかし、それが災いした。
ギャア!
輝く光の弾が、雑魔の大きな翼をかすめたのである。
「アニスのホーリーライトだ。避けられなかったようだな」
戦闘中においてはいっそ不自然なほどの冷静さと艶然さを持ち合わせた真似のできない声は、フランソワーズのものだった。左の鎖骨辺りから、首筋へ。狐のような文様の紋章が、淡く輝き、まるで彼女の美しい肌を這っているようであった。
「狐よ、私に力を貸してもらおう」
フランソワーズの手には、白銀に輝く武器。霊槍グングニルだ。
フランソワーズは、その鋭いグングニルを。
「さぁ、霊槍グングニルよ、美しきその一撃で、私達に勝利を、寄越せ!!」
真っ直ぐ雑魔に向かって、投げた。
グェアアアアアア
派手な鳴き声とともに、雑魔ははばたきをやめ、姿を消した。
●終幕
派手な鳴き声は、セシールと姉妹にも聞こえていた。幼いふたりがビクリと体をすくませるのを、セシールが優しい声でなだめる。
「心配ありませんわ。今の鳴き声は、わたくしの仲間が怖い鳥をやっつけた証拠ですわ」
ほどなくして、全員がセシールと姉妹に合流を果たした。真っ先に姉妹に駆け寄ったのは、アニスであった。
「怖かったですよね、良く頑張りましたよ」
そしてアニスは、お腹が空いているでしょう、とパンを差し出した。恐々とハンターたちを見上げていたふたりであるが、アニスの優しい笑顔に少々緊張を解いたようで、パンを受け取り、姉妹で仲良く半分ずつ、口にした。
それでもまだ完全には怯えた様子が消えないのを見て、セシールが、おもむろに太鼓を叩き始めた。もう、合図は必要ないというのに。
「わたくし、たまたま太鼓を持っておりますの。持っているとつい、叩きたくなってしまうでしょう? でも、太鼓だけでも寂しいですし、どうでしょうかしら、お歌でも歌っていただけませんこと?」
姉妹に微笑みかけると、戸惑ったような表情が返ってきた。無理だっただろうか、とセシールは一瞬不安になったが、そこへアニスとカッツの助け舟が入った。
「わたしも、琵琶を持っていますよ」
「偶然だなあ、俺もハーモニカを持ってるぜ」
おどけたような調子に、姉妹がようやく笑顔を見せた。妹の方らしき小柄な少女が、あのね、と口を開く。
「あのね、お姉ちゃんは、お歌がとっても上手なの! あたしもよ!」
でたらめな歌を歌いながらの、奇妙な帰路がスタートした。
「あたしは左、そして前。あなたは右、そして前」
「あたしは右、そして前。お姉ちゃんは左、そして前」
そうやって、何度同じ歌を歌っただろうか。視界が開ける予感がして、カッツがハーモニカを吹くのをやめた。
「……さあ、お嬢さんたち。もう、親を泣かせちゃダメだぜ」
何のことかわからずきょとんとする姉妹に、ヤツカが前方を指差して見せた。
「あっ!」
「お母さん!」
姉妹は森を出た先で待つ母親の姿を見つけて駆け出そうとし、思いとどまって振り返った。
「おねえさんたち、助けてくれてありがとう!」
「ありがとう!」
アニスとフランソワーズが華やかに微笑んで手を振り、セシールは困ったように視線を泳がせた。
そこから、ひとり、もう一歩さがったところでミルティアは呟いた。
「……ま、無事だったんなら良かったんじゃない?」
今度こそ駆け出していく姉妹を眺めるまなざしは、眩しげであった。
ルーレット・フォレストの回転は、終わった。
けれど、ハンターたちのあたたかな気持ちは、ゆっくりと、回り続けていた。
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ミルティア・ミルティエラ(ka0155)
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マテリアルリンク参加者一覧
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相談卓 フランソワーズ・ガロッテ(ka4590) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/07/19 06:53:21 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/17 05:55:44 |