山岳猟団〜辺境最前線

マスター:有坂参八

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/07/21 07:30
完成日
2014/07/29 21:16

みんなの思い出

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オープニング

 ゾンネンシュトラール帝国軍が辺境に擁する大要塞ノアーラ・クンタウ。
 ドワーフによって築かれた堅牢な砦は、この地で歪虚に抗う人類にとって、また世界の覇権を狙う帝国にとっても、その未来の明暗を担う極めて重要な拠点である。
 この要塞に、ある一つの部隊がある。
 帝国軍第一師団分隊、通称『山岳猟団』。それは人類を守るという目的の為に歪虚の討伐を命じられ、この地へとやってきた誉れ高き部隊である。少なくとも、彼等自身はそう信じてきた。
 だが、現実は理想に追随しない。
 慣れない土地。一貫しない上層部の運用。外部戦力の合流。連日の戦闘による消耗。そして団長の死。問題は重なり、慢性化する。
 極めつけは、代わりにやってきた新たな指揮官だ。
 要塞責任者のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、戦傷が元で死んだ前団長の後釜として、正規兵ですらない傭兵の八重樫敦を置いたのだ。
 異例極まるその人事にざわめく空気を背負いながら、『極東十八傭兵団団長兼ねて山岳猟団団長代理』……八重樫敦は、その日、初めて兵舎の扉をくぐった。

「部隊の運用状況を把握したい」 
 単刀直入の切り出しに、猟団団員達から返る視線は、お世辞にも暖かいものとは言えなかった。帝国軍人、辺境の部族、傭兵、異界からの来訪者……並んだ顔ぶれは不揃いだが、その誰もが一様に仮にも団長の八重樫を厳しく見つめ、中には剥き出しの敵意を向ける物さえいる。
「現状で足りないものは」
「足りない? すべてだ。武器、薬、食料、被服、馬、施設、人。すべて足りん」
 この場にいる人間の中では、まだ若い部類に入る戦士が答えた。纏った重鎧はボロボロに傷ついているが、帝国が正規兵に与える由緒正しきものだ。
 彼の顔半分は、赤黒い染みの浮いた包帯で覆われていた。
「無い無いづくしの中で我らは歪虚と戦い続けてきた。正規兵ですらない傭兵を指揮官に据える、能『無し』の上層部に従いながらな。新たな団長代殿は、どうやってこの惨状に収拾をつけるつもりだ」
「あるもので戦うだけだ」
「何?」
 突然、戦士は八重樫の胸ぐらを掴んだ。
 同時に八重樫もその腕を掴み返す。互いの掌には、万力の様な握力が込められている。
「宣うなよ。元々あるもので戦っていたのが擦り減り続けた結果がこの様だ。それを傭兵如きが、どうにかできると?」
「愚痴はいらん。気力が萎えているならば団を去れ」
「きさま……」
 戦士が激昂しかけたそのときだ。
 すっ……と。
 二人の視線を遮る様にして、皺まみれの掌が、静かに割って入った。
「……失礼。団長代殿に至急の報告があってな」
 真っ白に染まった髪が、小麦色に染まった肌とは対照的な……それは老人、老兵だった。おそらくは辺境部族由来であろう皮鎧を身につけているが、その胸には、猟団の団員の証である徽章が輝いている。
「外様は黙っていろ、シバ。重要な話の最中だ」
 団員が吐き捨てる。シバ、と呼ばれた老戦士は笑って流した。
「そうもいかんよ。歪虚が現れたからにはな」
「……!」
「灰色谷の奥に、影食らいの群狼が這っておる。彼奴ら、少しずつ南下して様子を伺っておるからに、今に里を襲うぞ」
 場の空気が、一瞬にして変わった。
 シバの言葉を聞き終え即座、団員達は出撃準備を始める。それまでの倦怠感が、まるで嘘だったかの様に機敏な動作。彼等の目には一人の例外も無く、修羅の様な闘志がみなぎっている。
 その光景に、八重樫は僅かに眼を細めた。
「皆、すぐに出撃するぞ!」
「ダメだ」
 八重樫の声は、部屋中に響きわたり、団員達を静止させた。
 出鼻を挫かれて、殺意さえ籠もる視線が、山岳猟団団長代理に注がれる。
「今の猟団は消耗が激しすぎる。傷病者は予備戦力として待機。無傷で、助けのいらん者だけで出る」
「何ッ……」
「要塞管理者より正式に任命された指揮権者からの命令だぞ。従え」
 頭の固い軍人の彼等にこそ、その言葉は重い。
 屈辱に顔を染めた団員達を後目に、八重樫は部屋を後にした。



「いやはや、新しい団長が傭兵とは聞いていたが、これは中々剛毅よの」
 部屋から出た八重樫に声をかけたのは、彼を追ってきた例の老戦士だった。
「どうかね、猟団を見た感想は」
「劣悪だ。運用が破綻している」
「はは、儂と気が合う様だな」
 からからと笑った老人に、八重樫はまた、眼を細めた。
「原因は何だ」
「そこはご自分で理解されよ。優秀だからヴェルナーに呼ばれたのじゃろ?」
 老戦士の表情は、沼の様に穏やかで底知れず、真意を測れない。
 八重樫は、意識を切り替えた。
「敵状はどうなっている?」
「数は三〇。かなりの大群じゃな。場所も悪い。灰色谷の細道は待伏に持ってこいだが、目と鼻の先に部族の集落がある故、谷の外でのんびり迎え討つわけにも行くまい」
「いま猟団内で動ける戦力は」
「さっきあんたが見た通りじゃよ」
「俺の傭兵団からも動ける戦力を出す。それにハンターを足せば、頭数は揃うだろう」
「ハンター?」
「俺の雇い主は、そういう方針だ。戦力不足を補う為に、ハンターを雇い入れると」
「ほ」
 得心いったかの様に、老戦士は短く返す。
 八重樫は踵を返し、歩き出した。
「十五分後に出る。俺は隊の戦闘準備を指揮する。そっちは、ハンターソサエティへの連絡を頼む」
 頷き、足早に去っていく八重樫を見送る老戦士。肩幅の広い背が曲がり角に消えるのを確認してから……彼はくくく、と声を押し殺した。
「……とんだ寄せ集め部隊よな。さて、どいつが使い物になるか、見ものじゃて」

 かくてハンター達は歪虚討伐の目的の元、ゾンネンシュトラール帝国軍第一師団分隊、山岳猟団へ招聘される。
 帝国、辺境、傭兵、ハンター、青と赤、二つの世界、その全てが混濁した最果ての部隊……その、新たな戦力として。
 そしてそれは、彼等が満身創痍で護り続けてきた、人類最前線の戦場への誘いでもあった。

リプレイ本文

●合議
 ハンター達が山岳猟団の兵舎に入った時には、すでに出撃準備は完了していた。
 精強な戦士の顔ぶれが並ぶ一方、彼らの装備はぼろぼろに損傷し、その表情は険しい。
(何じゃこれは……これが最前線の兵と言う物なのか……?)
 クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)は、黒い瞳を戸惑いに揺らして、その兵士達を見つめた。
 彼らは戦意こそ旺盛だが、ならば尚の事、互いに険悪な視線を向けあう姿が、ハンター達の目には異様だった。

「部隊を分けろと?」
 自分より頭一つ小さい少年に、団長の八重樫は問い返した。
 彼らが囲んだ卓上には、戦場の地図とともに、ライエル・ブラック(ka1450)が纏めた分隊案とその戦力構成を記した紙が広げられている。
 神学者でもあり戦士でもある少年は、八重樫の視線をまっすぐ受け止めながらも狼狽える事無く、滔々と答えた。
「傭兵が合流したばかりの猟団に、急に肩を並べて戦えと言っても難しいでしょう。まずは、顔見知りで固めれば」
「気は進まん」
 八重樫の発言は常に率直だった。
「それぞれ考え方も特色も違うなら、無理に統一するより違いを活かしてはどうでしょうか? 分隊を作り、それぞれに長と連絡役を置く方が効率的です」
 ハイネ・ブランシェ(ka1130)が、ライエルの隣から八重樫に言った。
「敵は陽動や奇襲を得意としている。此方がそれを予想、或いは上手く誘導できるなら、逆手にとって敵戦力を分散、各個撃破も可能ではありませんか?」
 ハイネの主張に賛同の色を示したのは、帝国軍の正規兵だ。
「部族も傭兵も、我らと隊列を組んで戦闘するには足手纏いだ。ハンター達の案は理に適っている」
 その言葉に部族の戦士や、傭兵達がざわめく。
「俺たちには俺たちのやり方がある。正面突撃しか能のない帝国人にゃわからんかもしれんがな」
「何だと。帝国軍の戦術に従わぬ貴様らが、厚かましくもその言い草、恥を知れ!」
「やめぬか!」
 口論を止めたのは、静観していたクラリッサだった。
「今ここで互いを罵っても、何も得るものはあるまい。汝ら皆、歪虚の脅威から民を守る……その思いは、同じじゃろう?」
 叱責というより、それは嘆願であった。団員達は、言葉を失う。
「異世界から転移してきた妾だって、同じ気持ちじゃ。どうか、今このときだけでも……」
 魔女の瞳は微かに赤く潤み、気まずい沈黙が流れた……が、ハンター達をここまで案内したシバが、それを破る。
「まぁ、分隊を作り崖に上らせる事自体は可能じゃな。ちと遠回りになるが」
 どうする団長、と問われ、八重樫は僅かな間を置いて答えた。
「……一理ある事は認める。隊を分割し、進撃する」
 異論の声はあがらなかったが、表情に不満を浮かべる者は少なくない。
 ライエルはその様子を見て、溜息を押し殺す。
(何故、こんなバラバラな……何とかしなくては。神よ、これは試練なのですね)

●会敵前
 要塞を出立し、戦場へ向かう道中。
 ハンター達が団員に話しかけると、意外にも邪険にあしらう様な者は殆ど居なかった。
「命を守る代わり、生活は総て帝国の慣習に従い、元の文化を捨てよ。帝国が帰順する部族民に要求したのは、そういう内容だな」
 シバは自分達の事情を、ハンター達にそう語った。
「それじゃ揉める訳だね……でもシバさんの服装、普通に部族の格好じゃないの?」
 ウーナ(ka1439)が、桃色のツインテールの髪を揺らしてシバの横顔を見上げた。問いかける語調には少女らしい幼さを感じさせるが、一方で彼女は、時折周囲に、鋭く警戒の視線を向けている。
「カッ! ンな要求、部族出の団員は皆シカトしとるわい」
「ひひっ、マジか! 部族民ゲロロックだな!」
 シバの言葉にケラケラと笑うのは毒々沼 冥々(ka0696)。奇しくもウーナと同じ髪型の少女ながら、こちらは所々緑やピンクが混じった紫髪で、言動も含めかなりアナーキーである。
 部族民や傭兵の団員は、ハンター達に不信を向ける様子も無く、概ね好意的に接してくる者が多かった。テリー・ヴェランダル(ka0911)に至っては、傭兵達と会話が弾む程で。
「四つ足の獣は、アーカンソーで鹿を撃って以来っスね。それ以降はコロニー住まいで、ヴォイドは多足でした」
「懐かしいな。俺もミズーリの出だから、アーカンソーにもよく狩に行ったよ」
 比較的年輩の傭兵が、背中のライフルを掲げる。傭兵達の半分程は、彼の様にリアルブルー出身者で、その人種も装備もまばらだ。
 いかにも寄せ集め部隊、といった映画の様な光景にテリーは内心たぎるような感情を抱いてはいたが、口には出さない。
 彼らの緊張感を邪魔したくはなかったし、何より彼女自身、実戦は半年ぶりで、軽口を叩く余裕はあまり無かったからだ。
「皆、止まって!」
 突如、ウーナが何かを見つけ、叫ぶ。
 何事かと全員の視線がウーナに行くと、彼女は道の前方に見えてきた灰色谷の谷道を指さす。
 真っ黒な狼……型の歪虚が十頭。此方の様子を伺っている。
「先遣隊か。団長代、進軍命令を」
 帝国軍正規兵の要求に、八重樫は首を横に振った。
「だめだ。あれは偵察と……囮だ」
「今、交戦すれば各個撃破できるのだぞ!?」
 いきりたつ帝国兵達をなだめる様に、彼らに随伴していたライエルが割って入る。
「敵の罠にはまります。この先は道が細く曲がりくねっていますから……敵が待伏するとしたら、ここ以外に無いでしょう」
「しかし」
「猟団の事情を考えれば、我々は勝つ事以上に、負けてはならない筈です。隙を見せてはいけません」
 あどけない顔立ちに不釣り合いなライエルの落ち着いた説得は、帝国兵達を不承不承ながらも納得させた。

 その後、猟団は隊を分割した。
 まず、谷底の道を帝国軍正規兵部隊六名が先頭に、ライエルが連絡員として随伴する。
 その背後を守るような形で部族出身者が六名。これにハイネ、ウーナ、冥々の三人がつく。
 傭兵やその他の戦力は、谷道を挟む崖の上を進軍。崖上の道は狭い為、左右に分かれて配置する事になった。
「部族部隊はシバさんが、正規兵部隊は序列最上位の方が小隊長とすれば、よく纏まると思います。あとは、崖上の傭兵ですが……」
 人員の配置を相談していたハイネが、八重樫をみる。
 八重樫は、クラリッサと共に左の崖につく予定だった。反対側の崖に指揮官がいない。
「自分が八重樫さんの命令を中継するっス。それで大丈夫っスよね?」
 ハンターが持つトランシーバーと同型の物を、八重樫も携行している。
 八重樫はテリーの言葉に頷き、傭兵部隊はそれぞれ左右に別れ、回り道して崖上に上った。
 そして、三手に分かれた猟団は進撃し始めた。

●戦場
「敵襲!」
 無銭越しに、テリーが叫ぶ。左右の崖上から、黒い影の群が魚群の様にして現れるのを視認したのだ。
 ハンター達が読んだ通り、件の細道で、影喰らいの群狼は彼らを待ち構えていた。
 報せは、無線を通じて即座に対岸、崖下の部隊へと通達される。
 事前の算段では、崖下の部隊が狼を迎撃、崖上の部隊がそこに援護射撃する流れだったのだが……
「谷底に降りてこない……!?」
 真っ先に異常を見て取ったのは、谷底で崖上からの警戒を奇襲していたウーナだった。
 狼の群は崖を降りずそのまま直進、崖上の分隊めがけて突撃していく。
「まずい、奴ら、こっちに向かってくるっス!」
 トランシーバーから、テリーの叫び声。
 ハンター達の立てた作戦には、一点の誤算があった。
 部隊を三手に分けた、猟団の布陣。敵は自在に地形を移動できるのに対し、崖を隔てて分断された猟団は、崖上の部隊を救援する手段を欠いてしまう。
 そして狼の性質……即ち、群の中の脆弱な対象を選び群がる『ハンター』の本能。
「八重樫殿よ、こやつらは妾達から各個撃破するつもりのようじゃな…!」
 左の崖上にいるクラリッサは、同行している八重樫に言った。
 同時にウィンドスラッシュを放ち狼を牽制するが、数で勝る狼の群は意に介さず向かってくる。
「構わん、俺達はこのまま交戦する。対岸の部隊は崖を降り、本隊と合流しろ」
 対して八重樫は無線を握り、躊躇無く指示を下す。その指示に驚く者も居れば、納得した者もいた。
「八重樫さん、何か考えがあるみたいだね」と、ウーナ。
「僕達は僕達で、敵の分隊を各個撃破するって訳さ! 囮は団長達、先に分隊を潰された方が負け、てな! こちら冥々たん、ゲロ了解ぃっ!」
 冥々の決断は早い。状況を飲み込み、自身も攪乱の為に前に移動し始める。
「マジっスか。確かに、こんな時の為にロープ持ってきたっスけど……」
 テリーは急ぎ、ロープを気に結びつけ崖に垂らして下をのぞき込むが……
(高っ! 経験無いのに、何でこんな事考えちゃってたんスかね、自分は……!)
「テリーさん、迷ってる暇はないよ、下から援護するから急いで!」
 崖下からウーナや部族部隊が、テリー達の周囲の群狼に射撃し、その動きを妨げた。
 その隙に、テリーと六名の傭兵達は掛下への降下を始めた。
 無論、それを追って群狼達も崖を降りてくる。
「行きましょう! 皆さんに、神のご加護がありますように……」
 テリー達を救援するため、ライエルが短く祈りを捧げ、帝国正規兵と共に群狼に突撃する。
 ライエル自身はメイスを振るいながらも、囲まれ、傷つく味方がいないか注意を払う。
 これまで我慢を強いられた帝国軍正規兵達はここぞとばかり、咆哮を上げ敵に襲いかかった。
「さぁ、新生山岳猟団のファーストライブだッ! てめえら愉快にゲロ歌おうぜ!? うひひひひっ!」
 囮として飛び出した冥々は、アクション映画めいた水平撃ちやら両手をクロスさせた二丁拳銃やらでリボルバーを乱射。一見滅茶苦茶な動きに見えて、最適位置を探りながら遠射や牽制射撃を交えた支援攻撃は、狼の行動を巧みに妨げる。
 一方のテリーの射撃法は、冥々と同じ拳銃でも外連味の一切を排した正道のアイソセレススタンスだ。
 両手で銃を支え、大口径弾の反動を受け止める体軸を固定する。肺の中の空気を全て吐き出し、そのまま止める。発砲時の銃身のブレを極限する為、トリガーを引く指は静かに、しかし素早く、精密に、真っ直ぐに。
 この間、僅かに一秒弱。
「……!」
 銃声。次いで、強弾を受け鮮血をまき散らす、黒い狼。
 着弾を確認して、テリーは大きく呼吸を再開するが、休んでいる暇はない。視界にはまだ、何体もの狼が入ってくる。

 一方、崖上にいる八重樫、クラリッサ以下七名は、十五体の群狼を引きつけながら死闘を演じている。矢面に立つ八重樫は大剣を竜巻の如く振り回し、群がる狼を近寄せず、時に崖下へと叩き落とす。
 その背後から、クラリッサがマジックアローを放ち、手負いの狼から順に留めを刺していく。
「団長殿一人にいい格好はさせぬぞえ?」
 傷だらけの八重樫は、クラリッサの言葉に答えない代わりに、自分を盾のようにして狼達の進路を塞ぎ、後衛の彼女達を護った。
 八重樫に無数の狼が殺到し、その更に脇を抜けた狼が後衛の団員に、クラリッサに襲いかかる。
 傭兵達が叫び、銃を構える。クラリッサは向かいくる敵を見据え、杖の柄を握りしめた。

 ハンターの奮戦もあり戦況が五分五分の状態にもつれこんだ頃、唐突に冥々からの無線が入った。
「ワンコロ共、悪くねェバンドだな。こりゃリーダーがいるんじゃねーか?」
「アルファ・ウルフっスね。そういうのは図体がでかい奴って相場が決まってるっス」冷静に返すテリー。
「じゃ、あれだね!」
 無線上での会話が終わるのを待たず、ウーナは群狼の中で先陣を切る、一回り大きな個体を見つけ、指差した。
「部族部隊で、あの個体に仕掛けましょう。今なら切り崩せます」
 ハイネが周りの団員に持ちかけた。反対を唱える者はいない。
「私が援護するよ。仲間なら助け合い、だよね?」
 シバは少女の言葉に、満足そうに笑う。
 直後にウーナが牽制射撃を入れて、リーダー狼の動きを鈍らせたのが合図となった。
「行け、周りの狼は儂らが抑える」
「はい!」
 シバに後押しされ、ハイネや部族団員がリーダー狼に群がり集中攻撃を加える。
 通常であれば機動力に勝っただろう狼は、ウーナの継続的な牽制射撃を受けて自由に動けない。
 冥々やテリーも共に、リーダー狼に向けて火線を集中する。
「逃がさないよ。弾は豊富にあるもんね!」
 弾倉の八発を打ち切って即座に、もう一丁の予備銃に持ち換え、再度射撃するウーナ。その一撃が留めとなって、リーダー狼は動きを止め息絶えた。

 その直後から、突如狼達の動きが鈍り、その殺気が薄れる。
 リーダーがいる、という冥々の読みは、正鵠を射たようだ。
「奴ら、逃げていくな」
 崖上のクラリッサは、駄目押しのマジックアローを放ち、背を向けた群狼の最後尾の一体を仕留める。
 八重樫は既に、足も手も止めている。結果的に囮となった崖上部隊は全員が浅からぬ傷を負ったが、八重樫の傷は特に酷い。
「大丈夫か、八重樫殿」
「……軽傷だ」
 八重樫の表情は堅いままだが、幾分か語調は柔らかった。
 団長はいつもの事だと傭兵達が笑うと、つられてクラリッサも苦笑した。

 三〇体居た群狼のうち、戦場に死体として残ったのは二四体。暫くは再起できまいと、シバは語った。
 崖下の部隊は、ライエルはじめ少数の聖導士の奮闘もあり崖上程の大被害は無いが、それでも無傷の者はいなかった。
 だが、猟団の団員は、安堵の表情を浮かべている。
「上出来だよ。戦死者がいないのだから」
 団員が何気なく口にした言葉に、誰もが辺境の、猟団の現実を感じ取る。
 テリーは彼らと、横たわる群狼の死体とを見比べながら、小さく呟いた。
「タフな戦場っス、ねぇ……」

●帰路
 要塞に帰還し、報酬を受け取った、ハンター達の帰り道。
 ライエルは少し名残惜しげに、ぽつりと呟いた。
「人類を護るという志が共通しているのは、掛け値なしに本当なのに、それなのに……」
 どうして心から手を取ることができないのか……ライエルには、その事がまだ引っかかっていた。
「違う文明同士のしがらみ、か。難儀よな」とクラリッサ。
「だけどさ、戦ってる間は僕らも含めて、いいセッションになってたと思うぜ?」
 冥々は、難しいことではないとでも言いたげな表情だった。
「少なくとも、部族や傭兵の人たちはそこまで険悪じゃなかったね」
 と、ウーナは率直な感想を述べる。
 今日得た勝利は、僅かな希望のかけらとなって未来を作るかもしれない。
 志さえ共通するならば、いつか猟団の全員が、そしてハンターさえも、立場を越え、団結する事もある筈。
 だが。
(今は、その時ではないのでしょうね。今は、まだ)
 去り際、ハイネは一度だけ、猟団の兵舎を振り返る。
 ハンター達の背を見送る様に、猟団の団旗が風に揺らめいていた。

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重体一覧

参加者一覧

  • 風の紡ぎ手
    クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659
    人間(蒼)|20才|女性|魔術師
  • Trigger "H"
    毒々沼 冥々(ka0696
    人間(蒼)|17才|女性|猟撃士
  • Gun-ner
    テリー・ヴェランダル(ka0911
    人間(蒼)|17才|女性|猟撃士
  • 鎮魂の刃
    ハイネ・ブランシェ(ka1130
    人間(蒼)|14才|男性|疾影士
  • 青竜紅刃流師範
    ウーナ(ka1439
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • 仁愛の士
    ライエル・ブラック(ka1450
    人間(紅)|15才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659
人間(リアルブルー)|20才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2014/07/21 07:18:09
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/16 20:05:35
アイコン 質問卓
ハイネ・ブランシェ(ka1130
人間(リアルブルー)|14才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/07/19 19:26:14