• 東征

【東征】三竦みからの脱出

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2015/07/23 09:00
完成日
2015/07/31 06:49

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 かつては街道として利用されていた道も、使われなくなって久しく、雨風により運ばれて来た石や砂利などで悪路へと変わっている。
 周囲に緑はなく、枯れ木と枯れ草が風に揺れるだけの荒野が広がっている。
 結界が少しずつ機能を回復し、正のマテリアルが戻りつつあるエトフェリカではあったが、まだまだ全土にその効果が出るには時間がかかりそうであった。
 そんな未だ荒野の片隅では、3つの影が思い思いに身体を休めていた。
「ねーさまー。たーいーくーつー」
 身軽な魅彩が、今にも倒れそうな枯れ木の枝に跨がりながら俯せに寝そべり、その先の枝を揺らして呟いた。
「仕方が無いだろ。それもこれも山本が下手打ったからいけないのさ」
 聖はその樹の根元に座り込んだまま、ふわりと欠伸をしながら言った。
 彼らが縄張りにしていた土地を結界が包み込んでしまい、以来、放浪生活を余儀なくされていた。
「……おい、前から何かくるぞ」
 風禅が前を見据えながら、するすると刃を出現させる。
 土埃を立てながら走り寄ってくるのは、大きな狒狒2体。
 それを見て魅彩と聖は嬉しそうに立ち上がった。
「……丁度暇だったんだ。ちょっと遊ぼうか」
 魅彩が唇の端を嬉しそうに持ち上げて刃を構える。
「狒狒を相手にするのは久しぶりだねぇ。いいんじゃないか、楽しめそうだ」
 聖も着物の裾を払いながら立ち上がると、狒狒達の進行方向に立ち塞がった。
 前方に立ち塞がる3兄弟の姿に気付いた狒狒達は、その足を止めた。
「ちょ、何止まってんですか! ほら早く先に行きますよ!」
 一体の狒狒の背中から甲高い声がした後、ひょこんと細くて小さな狐が顔を出して、前にいる3兄弟の姿を見て、心底面倒臭いという感情を隠さず声を上げた。
「……げ。3馬鹿……」
「失礼だね、馬でも鹿でも無いよ」
 聖が片眉を跳ね上げて抗議すると、ひょろ長い狐はやれやれと首を振った。
「はいはい、イタチ様でしたね。知ってますよ。それじゃ、わたし達は先を急ぎたいので失礼……」
「行かせると思うか?」
 風禅が狒狒には及ばないものの、その精悍な身体で一歩踏み出そうとした狒狒の鼻先に刃を向ける。
「丁度僕たち退屈してたんだ。遊んでよ、管狐」
 魅彩が無邪気に笑うと、聖が赤紫の霧を出現させ狒狒達を包んだ。
「……ふんら、こんなころもだまひみらいな技はきかないもんねー……って、寝るな、馬鹿っ!」
 鼻をつまんで、あっかんべー、と聖を挑発していた管狐だったが、自分を運んでいた狒狒がぐぅ、と寝息を立てたのを聞いて、慌てて尻尾で叩き起こす。
「そうそう、そのまま寝ているところを切り裂くなんてつまらないもん。ちゃんと起きてよ?」
 魅彩は嗤いながら、眠らなかった狒狒の脇を通り過ぎ様に素早く何度も斬り付ける。
 風禅もその後に続きながら周囲に風を起こすと、その風に乗って更に早く走り寄り、魅彩に続いて切り付ける。
「あー! もぅ! 何なんですかっ! わたし達は君達と違って忙しいんです!! お前達の相手をしている暇なんてないんですーっ!!」
 キーッ! と甲高く奇声を発すると、管狐は怒って狒狒の背中から飛び降りた。宙返りをしながら狐火を生み出し、聖を前脚で指しながら「行くですっ!」と狐火に号令をかけた。
 蒼白い狐火は音も無く聖の前まで飛んで行き、一瞬聖を火に包む。
「あはははは! いいねぇ! 暖かいぐらいさ!!」
 しかし聖はそれを一笑に伏す。
 狒狒達もそれぞれに地面に手をやると、ボゴッと岩を取り出し、それを両手に持って聖と魅彩に向かって思いっきり殴りかかっていく。
「やだ、痛そう」
 魅彩と聖はその攻撃を軽々と避けて、再び斬り掛かりに行く。

 ――こうして戦い続けること暫し。

「あぁーっ!!」
 管狐が突如叫ぶと、狒狒の一体に飛び乗り、街道の先を指し示す。
「もう、こんな馬鹿の相手してる場合じゃないんですっ! アレ! アレを止めなきゃです!!」
 ぺしぺしと小さな前脚で狒狒の額を叩いて向かう先には、ハンター達と荷物を大量に載せた荷車が見えた。
 狒狒達は管狐の指示に従ってハンター達のいる方向へ走り出した。
「あ、ちょっと! まだ勝負は終わってないよ!」
 魅彩が慌ててその後を追って走り、狒狒の足に追いつくと、その背中に鋭い一太刀を入れる。
 しかしその攻撃を読んでいたかのように、狒狒はその攻撃を避けて、更に前へと走っていく。
「ちょ、狒狒のくせに僕の攻撃読むなんて生意気っ!」
 魅彩はギリギリと奥歯を噛みしめると、再び追いつく為に走り出した。

 ハンター達の前に現れた2mを越える2体の狒狒……の頭の上に立つ管狐。
「やあやあ、待て待てぇい! その荷物を置いてとっとと引き返すというのであれば、生かして帰してやろう。しかぁし! どうしても此処を通りたいならば、わたし達を倒してから行くがよい!」
 突然現れた狒狒2体と、その頭の上でひょろ長い小さな狐が仁王立ちしながら、甲高い声で朗々と宣戦布告をする様に、ハンター達はぽかんと顔を見合わせる。
「ちょっ! 先に勝負してたの僕たちじゃんかーっ! 人間なんてどうでも良いから僕たちと遊べよ、管狐!」
 その後から走り寄るのは、以前に報告書に上がったことがある3兄弟の姿。
「煩い! お前達みたいな喧嘩馬鹿相手にしている暇はないのですと何度言ったらわかるのですか!」
「馬鹿じゃねぇっつってんだろ!」
「あぁハイハイ、イタチ様イタチ様。お願いですから僕の邪魔をしないで下さいっ!」
「おい人間、邪魔するなよ。これは俺達と狐達との勝負なんだからな!」
 魅彩に続いて聖と風禅もハンター達の前に並ぶと、丁度三竦みのような状態となり誰もが動くに動けない状態となってしまった。


 ……果たして、ハンター達は無事荷物を目的地まで届けることが出来るのであろうか?

リプレイ本文

●咄嗟の交渉
 管狐が狒狒の上で仁王立ちをしてハンター達を睨み、狒狒たちは何処を見ているのかイマイチ掴みづらい無表情で明後日の方向を見ている。
 一方で鎌鼬3兄弟は管狐達を見据えて戦闘態勢だ。
 『動物ばかりが寄り集まって大変可愛らしい……』なんて、レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は声にこそ出さないが楽しみながら現状を見ていた。
 ……とは言え、イタチイタチと呼ばれている事と、前回の報告書から鎌鼬だという判断が付いたものの、人型を保っている鎌鼬達の方が恐らく管狐達より実力が上なのだろうとも推測して、舌先で唇を濡らして思案する。
「管狐だっけ。その挑戦だけど……隣の鎌鼬を放っておいて良いの?」
 霧雨 悠月(ka4130)が少年らしく素朴に疑問をぶつける。
「こいつ等なんてかんけーねーです! わたしはお前達に用があるのですーっ!」
 じたばたと狒狒の頭の上で足を打ち鳴らす管狐の姿は、確かに可愛らしくも見えるが、それ以上にレイア・ユキムラ(ka3845)にとってはこの鎌鼬との再会が最悪だと眉間にしわを寄せる。
 しかし、具体的な打開策案が出てこず、仲間の動向を見守ることとした。
「……とりあえず、キミらで白黒付けてからにしてくれない、かな?」
 両腕を組んで馬上から2組の歪虚を観察していたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が、チャイナドレスの裾を翻しながら下馬して言った。
「逃げないで待ってるからさ」
 そしてその証拠と、馬を荷車の方へと押しやる。
「こちらにはこのように怪我人も居てまともに戦える状態ではありません。先に双方の決着を付けては如何でしょうか?」
 実際重症の身でこの作戦に参加していたシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)は、自前のバイクに乗るのも困難で、誰かに馬を借りようと思っていたところだった。
 もう少し早くに馬を借りる相談が出来ていれば借りることも出来たかも知れないが、それより前にこの状況になってしまったのは、不運としか言いようが無い。
 シルヴィアは満身創痍の身をわざとらしく辛そうに抑えてみせると、管狐はキラリ、と瞳を輝かせた。
「ほぅ、それは僥倖です! わたしはわたしの仕事が出来ればそれでいいのですから、怪我人を含んでいるとは有り難いですね! 逃がしませんよ!!」
 シルヴィアの言葉は完全に裏目に出た。管狐は嬉しそうに複数の狐火を発生させるとそれらをシルヴィアに嗾ける。
 通常なら躱せたかもしれない攻撃だが、今のシルヴィアには非常に難しい。狐火が次々とシルヴィアに命中し、シルヴィアは悲鳴も出せないまま倒れた。追い打ちとばかりに更に飛んで来る狐火、しかしそれは前に立ったエヴァンス・カルヴィ(ka0639)がその身を盾にし、打ち消した。
「……まぁ待てよ。どのみち俺らは逃げも隠れもしねぇんだ。まずは鎌鼬と戦ってやったらどうだ管狐?」
「そうだな。戦うのはいいが、先客がいるようだ。ボクらは待っているから先に用事を済ませるといい。彼らが先客だろう?」
 同じくシルヴィアを庇う様に前に立ったミリア・コーネリウス(ka1287)もエヴァンスの言葉に同意しつつ、聖を見た。
「すまないな、君たちの用事を済ませてくれ。ボクらはここに居る」
 ミリアの言葉に聖は酷く胡散臭げに顔をしかめた。
「あぁ? 煩いよ、気が散る。どっか行け」
 現状の把握が中々できず、理解しようと周囲に気を配っていたリュー・グランフェスト(ka2419)は、その言葉を捉えてこくりと頷いた。
「お? おぅ。そりゃまあ、ああ、勝負だもんな。俺たちは邪魔か?」
 「邪魔なら失礼しようか」と続けて、ザレム・アズール(ka0878)を見た。
 ザレムは頷くと隣の悠月と共に馬に『進め』と合図を送り、ゆっくりと荷車を動かしはじめた。
「だーっ! 待てって言ってるんですっ!」
「おい! バカ狐! 人間なんかに気ぃ逸らされてんじゃねぇよ!」
「あーもぅ! どいつもこいつもうっさいって言ってるんですよ!!」
 魅彩の攻撃を狒狒が受け止め、その弾みで地面に落ちた管狐が、土埃を立てながら両後ろ脚を打ち鳴らす。
 狒狒たちは傍に埋まっていた岩を軽々と掴みあげると、その豪腕で投げ飛ばした。
 岩は馬の目の前に落ちて、驚いた馬が両足を上げて嘶く。
「だっ! どーどー」
 悠月は舌を噛みそうになって、1人冷や汗を掻きながらも馬の首を撫でて落ち着かせる。
「あぁ、動かないで下さい」
 そんな荷車と狒狒との間に立って、レイが静かに悠月とザレムに告げると、管狐を見た。
「管狐様。もしかして貴方は……この、鎌鼬の三匹が怖いのですか? 今をときめく九尾の眷属の、貴方が……?」
「な、ななななななっ!!!!」
 レイの言葉を受けて、管狐が顔を真っ赤にしながら戦慄いた。
「わたし達は待ちますよ、と言っていますのに。不思議ですね」
「い、今、今! 動いたでは無いかっ!!」
「それは、鎌鼬様がどっか行け、とおっしゃるものですから……でも、貴方様がそう望むのでしたら、此処で待ちますよ」
 「彼らに背を向けて良いのですか?」と綺麗な笑顔でレイは丁寧に管狐と向かう。
「ぐぬぬ~っ!」
 唸る管狐を見て、レイは自分の言葉で管狐が荷よりも鎌鼬たち側に注意が向かい始めたのを感じて、密かに心から微笑んだ。
「久しぶりだな、覚えて居るか?」
 ロニ・カルディス(ka0551)が聖に話しかけると、聖は直ぐにあだ花のように笑った。
「おや、いつぞやの色男じゃないか。また逢えるとは嬉しいね」
 ロニは聖の魅了の力の恐ろしさを身をもって知っている1人でもあった為、その目を見ない為にも管狐を見て言った。
「どちらが先に管狐を倒すか勝負しないか?」
 その提案を聴いた聖は、きょとんと両目を大きく開いて絶句した後、爆笑した。
「あっはっはっはっは! おふざけも大概にしなよ、色男! わたし達と、勝負? わたし達に歯も立たなかったくせに!」
 腹を抱えてむせるほど笑い転げている聖を見て、風禅が残念そうな顔をした。
「……あー、これはダメだ」
 執拗に狒狒たちを攻撃していた魅彩も、聖の爆笑に気付いて狒狒から距離を取った。
「……ひじりねぇ?」
 聖はその艶やかな目尻に涙まで浮かべて、ひーひー言いながら呼吸を整えるとロニを見た。
「あのねぇ、一応教えてやるけど。管狐は見てくれはあぁだけど、部下連れ回す程度には強いのよ。そんで、狒狒もね、見た目通り剛力で頑丈。魅彩の攻撃を腕一本で庇えるくらいにね」
 見れば、確かに魅彩が何度か斬り付けているはずがその腕には血の一滴も見当たらない。
「あんたからすれば、あたし達の勝負を良いように利用したいって事なんだろうけど、それにしちゃ、言葉が悪いわ」
 聖が流れるような動きで手にしていた刃をロニの足を地面へと縫い止めるように突き刺した。
「ぐっ!」
 不意打ちを食らう形になり、ロニは呻いた。
「あーあ。冷めちゃった。かーえろ」
 「えぇ!?」と悲鳴を上げる魅彩と対照的に「やっぱりか」と額を抑えた風禅は大きく溜息を吐いた。
「ちょっと待ってよ! 何でだよ! もっと遊ぼうよ」
「いやよ。だって、それがこいつらの狙いなんだもの」
「そんなの関係無いよ! 僕が遊びたいの!」
「じゃぁ、お前1人で遊んだら? あたしは帰る。あんたはどーするの?」
 問われて風禅は両肩を竦めて空を仰ぐと、魅彩を脇に抱えた。
「長兄様の意見に従いますよ」
「うわぁっ! 風禅の裏切り者っ!」
「お姉様、でしょう?」
 聖と魅彩から同時に責められて、「はいはい、すみませんね」と言いながら風禅は聖の傍へと寄った。
「勝負を邪魔された、あんた達へのこの怒りはまたあたし達を強くする。それをお忘れで無いよ」
 一陣の強い風が吹くと、次の瞬間には3体の歪虚は忽然とその場から姿を消していた。

「わはははは! さぁこれで邪魔者も居なくなりました! さぁ、怪我したくなかったら荷物置いてどっか行くです!」
 管狐は嬉しそうに吠えると、狐火を四方へと飛ばす。
 リューは荷を守る為前へと躍り出ると身を挺して庇った。
「行くぞ、ミリア!」
「任せてよ、兄貴!」
 揃って飛び出すと、エヴァンスとミリアは同じ狒狒に向かって同時に攻撃を仕掛けた。
 その後を追ってアルトも振動刀を振り下ろす。
 そこへザレムの攻性強化済みの弓矢が飛来し、レイの魔導拳銃が火を噴いた。
 ロニが素早く動き、動けないシルヴィアを抱える。
「逃がしませんよ!」
 狒狒の一体が腕を振り回し周囲を牽制し、その間にもう一体の狒狒がロニへと向かう。
「行かせない!」
 レイアが割り込み狒狒の拳を不知火の刀身で受け、その腕を切りつけるが、鉄板でも仕込んであるかのような手応えに奥歯を噛みしめる。
「行け!」
 エヴァンスが叫ぶと、ロニからシルヴィアを預かったザレムと悠月はアルトの馬と共に走り出した。
「あー! コラ! 待つですっ!!」
 管狐が狐火を飛ばすが、事前にザレムが発動させていた光の防御壁によって荷に当たることは無かった。
「きーっ!! お前ら、良くも虚仮にしてくれたですねっ!!」
 管狐の毛が逆立ち、全身から怒りのオーラを迸る。
「こうなったら、お前ら全員皆殺しにしてやるですーっ!」
 管狐が大きく鳴くと、狒狒たちもそれに呼応するようにヒヒヒヒヒと嗤った。

●狐と猿と人
 戦いは熾烈を極めた。
 『人の心を読む』と言われた狒狒たちは実に良くハンター達の攻撃を避け、避けきれなくともその頑丈な皮膚が受け止める。
 管狐はそもそも体格が小さいのもあって攻撃を命中させることが難しく、その逆に管狐の攻撃は確実にハンター達の生命力を奪った。
 そして何より現在3人が戦線から離脱しており、決定的に攻撃手が足りないのが何より痛かった。
「……流石は鎌鼬達が『遊びたい』と願うほどの力の持ち主と言うことですか……」
 ロニがヒーリングスフィアで味方を纏めて回復するが、それも1回の攻撃で傷口は簡単に開くだろう。
 鎌鼬達と争いになれば……と考えていたレイアは、逆にほぼ無傷の管狐達との戦いに乱されたペースを整えられずにいた。
 そんなレイアを、管狐の青白い狐火が襲う。
「っ!?」
 ぐずん、とレイアの身体が動かなくなった。
「さぁ! 好きに動くといいですよ!!」
 楽しそうな管狐の声に「何を!」と日本刀を構えたが、その切っ先は管狐では無く、そばに居たリューの喉元に突きつけられた。
「ちょっ!?」
 すんでの所でそれを避けたリューは、レイアの視線が定まっていない事に気付く。
「次は助っ人使うかよ」
 レイアから繰り出される剣戟を振動刀で受け止め、流しながらリューは管狐に毒吐くも、管狐はレイの銃弾を避けながら楽しそうに嗤うばかりだった。
 アルトが跳んで避けた場所に拳が振り下ろされ、ドゴォンという大地の抉れる音が周囲に響く。
「ヒヒヒ。ビジンだ。ビジンだ」
「はらわた、しんのぞう、タベタイ、タベタイ」 
 2体の狒狒を相手にしているアルト、エヴァンス、ミリアは3人で一体を取り囲み一斉攻撃をすることで回避出来ない状況を生み出そうとしていた。
 しかし、そうすると残るもう一体が必ず死角から攻撃してくる為、それを避けようとして結果陣が崩れるという事を繰り返していた。
「心を読む、んだよな」
 やっかいだな、とアルトが額から流れる汗と血を乱暴に拭って改造済みの振動刀を握り直す。
「嘘吐くから読まれて困るんだろ? 嘘吐かなきゃいいじゃないか」
 どうせ、倒すだけだとミリアは唇の端を持ち上げて狒狒を睨む。
「とにかく一撃中てていかねぇとな」
 エヴァンスもテンペストを正面に構えながら油断無く狒狒たちを観察して、大きく地を蹴った。
「っ、流石にしんどいぞ」
 リューは魔導短電話のスイッチがオンになっていることをちらりと確認して、レイアの一撃を避け、狐火を避け、移動した勢いをそのままに管狐へと刃を向ける。
 管狐が宙返りでその攻撃を避けた所を、レイが一気に駆け寄り雷神斧を振り抜く。
 ギャンッ! という鳴き声と共に管狐が地面に転がった。
 ロイが治療し、正気を取り戻したレイアは最初自分が何をしようとしていたのか思い出せなかった。
「レイア! 今だ!」
 しかし、リューの叫び声を受けて視界に管狐を捕らえた瞬間、足は管狐に向かい走り出し、袈裟斬りに振り下ろした。
「……舐めるなぁっ!」
 管狐はその刃をすんでの所で躱して、狐火を発生させると全弾レイアへと放った。
「ぐぅっ!」
 炎に巻かれたレイアは土埃を立てながら地を転がった。
「人間如きがぁ、この、わたしに、土を付けるとは!!」
 激昂した管狐を見て、レイは微笑んだ。
 やはり、この狐は存外自尊心が高い様だ。状況が煮詰まり、煽られれば何処かでキレるだろう。そういった自分の見立ては間違っていなかったのだ。
「……ですが、ちょっと遅かったですねぇ」
 再び銃へと持ち替えて、冷静に管狐を狙って引き金を引いた。
「さぁ! どうした狒狒野郎!」
 ミリアが渾身の一撃を狒狒の胴体へと叩き込み、人差し指で「来いよ」と挑発する。
 狒狒たちは2匹同時にミリアに向かって飛び掛かった。
 ――その瞬間、光の熱線が狒狒の身体を貫いた。
 ミリアが眩しさに思わず閉じた目を開くと、狒狒たちの向こうから、一頭の馬に乗った悠月とザレムの姿が見えた。
「遅くなった!」
 馬はアルトの愛馬だった。荷車に結んだ彼らの馬はいざとなった時の為にそのままにして、彼女の馬を借りて帰ってきたのだ。
 悠月は馬から飛び降りると距離が惜しいとワイヤーウィップで狒狒へと鞭打った。
「……まさか、狐と化かし合う日が来ようとはね」
 嬉しそうに楽しそうに笑う悠月は『手強い者と戦いたい』という気持ちをもう隠していない。
「さぁ、反撃と行こうか」
 エヴァンスが獰猛な笑みを浮かべる。アルトとミリアはその笑みを見て、頷くと各々武器を構えた。
 ロニのレクイエムが周囲に響き渡り、ギシギシと3体の動きが鈍る。
 それでも振り下ろされた狒狒の攻撃をその頭部で受け止めた後、その手首を掴んで、ミリアはエヴァンスによく似た獰猛な笑みを浮かべながら狒狒を見返した。
「兄貴の盾になるって決めてんだよ。ここは通せない」
 動きを抑えられた狒狒はその背後から来る一撃が分かっていても逃げられず、柄まで通る一撃をその身に鎮めた。
 笑いながら執拗にアルトを攻撃していたもう一体の狒狒は、ついにアルトを捉え、彼女の頭を掴んで持ち上げた。
 しかし、アルトはその口元に弧を描いたまま「ふっ」と息を吐いた。
 そして、息を吸い込むタイミングで振動刀を何度もその腕へと叩き付けた。
「ヒヒィ!」
 振り落とされたアルトは尻餅をついたが、直ぐに立ち上がり刀を構え直す。
 しかし、狒狒の腹部から悠月の白狼が顔を覗かせ、その腹部を切り裂いた。
「さようなら」
 悠月が白狼を引き抜くのと同時に、ザレムのデルタレイが狒狒に止めを刺し、それは管狐にも及んだ。
 予想外の方向からの攻撃だった為に直撃を受けた管狐が、ザレムに向かって狐火を放つ。
 その隙を逃さずレイアが一太刀浴びせ、リューがその反対から斬り込んだ。
「おのれ……おのれぇっ!」
 そして、レイが斧を振り下ろした。
「それではごきげんよう」
 レイの言葉が届いたか、届かなかったか。管狐の首が宙を舞い、この戦いはハンター側の勝利で終わった。


「危なかった……」
 それぞれぼろぼろになったのを、自分で回復できる者は回復しながら、ロニは最後の1回までヒーリングスフィアを使い果たして仲間の回復に充てた。
 恐らく、あと誰か1人が辻褄の合わないことを言ったり、不用意な言動を取っていたなら狐達だけでなく鎌鼬も同時に相手にしなければならい状況だっただろう事は、全員が感じていた。
「まぁ、咄嗟にしては上々だったんじゃないか?」
 エヴァンスがごろりと仰向けに倒れて大きく息を吐いた。
「もうこれ以上変なのと遭わなきゃいいけどなぁ」
 ミリアの呟きに、アルトは大きく頷きながら、前髪を掻き上げた。

 ザレムと悠月は一足先に再びアルトの馬を借りて荷車まで戻っていった。
「なんかあったら呼ぶから来いよ」
 そう言われたリューは「勘弁してよ」と苦く笑った。

 空は曇天。空気ばかりが湿度を含んで重く、とてもすがすがしいとは言えない。
 それでも、レイアは枯れた木の根元に小さな緑を見つけて思わず近寄った。
 それは小さな双葉。枯れた大地から力強く芽吹いた命だった。
「さぁ、荷物を無事届けに行きましょう」
 レイの柔らかな微笑に、レイアは大きく頷いて痛む身体を起こした。


 その後、無事10人は小さな戦いはあれど、恵土城まで物資を輸送することに成功したのだった。

依頼結果

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MVP一覧

  • SKMコンサルタント
    レイ・T・ベッドフォードka2398

重体一覧

参加者一覧

  • 凶獣の狙撃手
    シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338
    人間(蒼)|14才|女性|猟撃士
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 英雄譚を終えし者
    ミリア・ラスティソード(ka1287
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • SKMコンサルタント
    レイ・T・ベッドフォード(ka2398
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士

  • レイア・ユキムラ(ka3845
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 感謝のうた
    霧雨 悠月(ka4130
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/07/21 21:30:14
アイコン 【相談卓】この状況からの脱出
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/07/23 00:33:59