ゲスト
(ka0000)
【東征】伸びる翼賛の手
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/07/22 07:30
- 完成日
- 2015/08/05 05:34
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●帝の膝元で
「スメラギ様、失礼致しま……」
膝をつき、深々と頭を垂れた黒髪の女性。
エトファリカ東方連邦の巫子である伊集院 白藍は、顔を上げると……目の前に繰り広げられている光景に絶句した。
「ところでよ。てめーは一体何をしてんだよさっきから」
「……裁縫だ」
「そんなん見りゃ分かる! 何で俺様の前でわざわざそんなことやってんだって聞いてんだよ」
「……これはお前の分だからな」
がるるると吼えるスメラギの横で澄ました顔をしているバタルトゥ・オイマト(kz0023)。
辺境部族の大首長であり、オイマト族の族長でもあり、戦士として一級の腕前を持つ彼が、慎ましやかに正座をして、極めて手際良く布に針を通し刺繍を仕上げて行く様は何というか……衝撃という言葉以外に思いつかない。
「何なんだよ。大首長がこんなに器用とか初耳だぞオイ。ってか似合わねーなお前……」
「族長は、部族の中で裁縫や民芸品を作るのが一番上手なんですよ」
率直な感想を漏らすスメラギに、近くにいたオイマト族の人間が笑顔で説明する。
――腕っぷしが強い上に家事も完璧とかどんな究極超人だっつーの。
ああ! 仮にも族長なのに、こいつに浮いた話が一切ないのはこれが理由か!
まあ、これ見ちまった女はそりゃ逃げたくもなるかもなぁ……。怖ぇもん。別の意味で。
「……スメラギ様。声に出ておられますよ」
「うおあっ!? 白藍! いるならいるって言え!」
「申し訳ございません。先程声をおかけしたのですが……」
「あ? そうだったか? まあいいや。何か用か?」
「はい。先日の山本五郎左衛門との戦いで、被害を受けた市井の者達の支援とお見舞いに伺いたく思います。そのご許可を戴きに参りました」
山本五郎左衛門、そして歪虚要塞ヨモツヘグリの大禍を打ち払った東方。
その為に散った命は多く、都の被害も決して軽くはない。兵に限らず、民間人にも被害が出ており……その現状に、スメラギも白藍も心を痛めていた。
「そうさな……。民にも大分苦労かけちまってるもんな。白藍、行ってくれるか?」
「勿論ですわ。スメラギ様は片時も民のことを忘れてはいないと、市井の者達に伝える大きな機会でもございますし。スメラギ様の株を大きく上げることが出来ましょう」
「……おめー。その高潔なのか腹黒いのか分からねぇ物言いなんとかなんねぇ?」
「あら。心外ですわ。わたくし、スメラギ様の御身を一番に考えておりましてよ?」
にっこり、と笑う白藍にウヘェ……という顔をするスメラギだったが、次の瞬間真顔に戻る。
「しかし、支援はしたいが、おめー一人で行かせるのもな……。かと言って、うちも今人手不足だしよ」
「……だったら、ハンター達に同行を依頼するといい。手が空いている者も居よう」
裁縫の手を止めぬまま、呟くバタルトゥ。それに白藍が首を傾げる。
「それは助かりますが……バタルトゥ様、宜しいのですか?」
「……うむ。我々はエトファリカの民を助ける。……元々そういう約束だった筈だ」
「だからもうそれはいいって。チャラにしたって言ってんだろ?」
「……そうだったな。では、『現在の我々』が支援したいと言っておこうか」
ひらひらと手を振るスメラギにくつりと笑うバタルトゥ。
完成したのか、手馴れた手つきで糸を止めると、無言で黒髪の少年に手渡す。
「あ? 何だよこれ」
「……これはオイマト族に伝わる守りの文様だ。持ち主の身を守る。持っているといい」
「はあああああああああ!? 何なの!? 何なのお前!? 乙女か!」
「スメラギ様。贈り物を戴いたらきちんとお礼を言わないといけませんわよ」
「……まあ、受け取ってやってもいいぞ」
頬を赤らめそっぽを向くスメラギに、バタルトゥと白藍は顔を見合わせた。
●伸びる翼賛の手
「先日の山本五郎左衛門との戦いで、被害を受けた市井の者達の支援とお見舞いに伺いたく思っております。ご同行願えませんでしょうか」
人が多く集まるハンターズソサエティ。
突然そう切り出した白藍に、ハンターが首を傾げる。
「ああ、この間の戦い、民間の人にも被害が出たんだっけね」
「はい。家を壊され、避難生活を余技なくされている方もいらっしゃいますので……」
「そうか……」
――山本五郎左衛門、そして歪虚要塞ヨモツヘグリの大禍を打ち払った朗報に、喜び沸き立つ市民達。
今は滅びの運命に抗える事に、勝ち取った事実に喜びが大きいけれど……。
それを過ぎたらきっと――失ったものの大きさに絶望してしまうかもしれない。
「そういう事なら、安心して生活できるようにしてあげた方がいいよね」
「そうだな。……支援、ということだし、何か持って行った方がいいかな」
「お見舞いの品があると喜ばれるかしら」
「そうですわね。見舞いの方法などは、皆様にお任せします。勿論、わたくしも一緒に参りますし、何か出来ることがございましたらお申し付けください」
礼儀正しく頭を下げた白藍に、ハンター達は頷き。
どんなお見舞いをしようかと、考えを巡らせるのだった。
「スメラギ様、失礼致しま……」
膝をつき、深々と頭を垂れた黒髪の女性。
エトファリカ東方連邦の巫子である伊集院 白藍は、顔を上げると……目の前に繰り広げられている光景に絶句した。
「ところでよ。てめーは一体何をしてんだよさっきから」
「……裁縫だ」
「そんなん見りゃ分かる! 何で俺様の前でわざわざそんなことやってんだって聞いてんだよ」
「……これはお前の分だからな」
がるるると吼えるスメラギの横で澄ました顔をしているバタルトゥ・オイマト(kz0023)。
辺境部族の大首長であり、オイマト族の族長でもあり、戦士として一級の腕前を持つ彼が、慎ましやかに正座をして、極めて手際良く布に針を通し刺繍を仕上げて行く様は何というか……衝撃という言葉以外に思いつかない。
「何なんだよ。大首長がこんなに器用とか初耳だぞオイ。ってか似合わねーなお前……」
「族長は、部族の中で裁縫や民芸品を作るのが一番上手なんですよ」
率直な感想を漏らすスメラギに、近くにいたオイマト族の人間が笑顔で説明する。
――腕っぷしが強い上に家事も完璧とかどんな究極超人だっつーの。
ああ! 仮にも族長なのに、こいつに浮いた話が一切ないのはこれが理由か!
まあ、これ見ちまった女はそりゃ逃げたくもなるかもなぁ……。怖ぇもん。別の意味で。
「……スメラギ様。声に出ておられますよ」
「うおあっ!? 白藍! いるならいるって言え!」
「申し訳ございません。先程声をおかけしたのですが……」
「あ? そうだったか? まあいいや。何か用か?」
「はい。先日の山本五郎左衛門との戦いで、被害を受けた市井の者達の支援とお見舞いに伺いたく思います。そのご許可を戴きに参りました」
山本五郎左衛門、そして歪虚要塞ヨモツヘグリの大禍を打ち払った東方。
その為に散った命は多く、都の被害も決して軽くはない。兵に限らず、民間人にも被害が出ており……その現状に、スメラギも白藍も心を痛めていた。
「そうさな……。民にも大分苦労かけちまってるもんな。白藍、行ってくれるか?」
「勿論ですわ。スメラギ様は片時も民のことを忘れてはいないと、市井の者達に伝える大きな機会でもございますし。スメラギ様の株を大きく上げることが出来ましょう」
「……おめー。その高潔なのか腹黒いのか分からねぇ物言いなんとかなんねぇ?」
「あら。心外ですわ。わたくし、スメラギ様の御身を一番に考えておりましてよ?」
にっこり、と笑う白藍にウヘェ……という顔をするスメラギだったが、次の瞬間真顔に戻る。
「しかし、支援はしたいが、おめー一人で行かせるのもな……。かと言って、うちも今人手不足だしよ」
「……だったら、ハンター達に同行を依頼するといい。手が空いている者も居よう」
裁縫の手を止めぬまま、呟くバタルトゥ。それに白藍が首を傾げる。
「それは助かりますが……バタルトゥ様、宜しいのですか?」
「……うむ。我々はエトファリカの民を助ける。……元々そういう約束だった筈だ」
「だからもうそれはいいって。チャラにしたって言ってんだろ?」
「……そうだったな。では、『現在の我々』が支援したいと言っておこうか」
ひらひらと手を振るスメラギにくつりと笑うバタルトゥ。
完成したのか、手馴れた手つきで糸を止めると、無言で黒髪の少年に手渡す。
「あ? 何だよこれ」
「……これはオイマト族に伝わる守りの文様だ。持ち主の身を守る。持っているといい」
「はあああああああああ!? 何なの!? 何なのお前!? 乙女か!」
「スメラギ様。贈り物を戴いたらきちんとお礼を言わないといけませんわよ」
「……まあ、受け取ってやってもいいぞ」
頬を赤らめそっぽを向くスメラギに、バタルトゥと白藍は顔を見合わせた。
●伸びる翼賛の手
「先日の山本五郎左衛門との戦いで、被害を受けた市井の者達の支援とお見舞いに伺いたく思っております。ご同行願えませんでしょうか」
人が多く集まるハンターズソサエティ。
突然そう切り出した白藍に、ハンターが首を傾げる。
「ああ、この間の戦い、民間の人にも被害が出たんだっけね」
「はい。家を壊され、避難生活を余技なくされている方もいらっしゃいますので……」
「そうか……」
――山本五郎左衛門、そして歪虚要塞ヨモツヘグリの大禍を打ち払った朗報に、喜び沸き立つ市民達。
今は滅びの運命に抗える事に、勝ち取った事実に喜びが大きいけれど……。
それを過ぎたらきっと――失ったものの大きさに絶望してしまうかもしれない。
「そういう事なら、安心して生活できるようにしてあげた方がいいよね」
「そうだな。……支援、ということだし、何か持って行った方がいいかな」
「お見舞いの品があると喜ばれるかしら」
「そうですわね。見舞いの方法などは、皆様にお任せします。勿論、わたくしも一緒に参りますし、何か出来ることがございましたらお申し付けください」
礼儀正しく頭を下げた白藍に、ハンター達は頷き。
どんなお見舞いをしようかと、考えを巡らせるのだった。
リプレイ本文
「同じエステルさんがいます! 黒い髪のエステルさんです!」
「あら。エステルさんこんにちは。良くお会いしますね」
少しお姉さんのエステル・クレティエ(ka3783)を見つけて、ぴょこぴょこと嬉しそうに飛び跳ねるエステル・ソル(ka3983)。
そんな青い髪の少女が愛らしくて、黒髪のエステルの顔が思わず綻ぶ。
白藍に先導されて歩く天ノ都の城下町。歪虚によって放たれた火は、もう消えていたけれど……そこかしこから、焦げた匂いが漂って来る。
無事に残った家はごく僅かで、殆どの家が一部が燃えていたり、煤にまみれていたり……何らかの損傷を負い、全焼した家も、焼け落ちた状態でそのままになっている。
「出来れば早く、元の生活に……と思いましたが、これは……」
「市井の状況が城へ伝わりきって居らぬとは思っておったが、ここまでとはの……」
想像以上の惨状に、眉根を寄せる天央 観智(ka0896)と蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)。
今現在、市井の家々や、民がどうなっているのか、早急に現状を把握する必要がある。
そして、突然現れた沢山の荷物を抱えたハンター達に注がれる困惑の目。
予告なき来訪に、人々が戸惑っているようで……。
「あの。こんにちは。驚かせてごめんなさい。私達怪しいものじゃなくって……」
「皆さんがお困りだと聞いて来ました。何かお手伝いできる事はありませんか?」
安心させるように言葉を選ぶ七夜・真夕(ka3977)に続く藤峰 雪凪(ka4737)。
ハンター達に訝しげな目を向けた彼らは、白藍の姿を見つけると『あっ』と小さく声をあげた。
「巫子様……! 巫子様がいらっしゃるぞ!」
「ご無事でしたか巫子様!」
「この通り無事ですわ。ありがとうございます。……この方達はスメラギ様の命で皆様を支援しに来て下さったのですよ。どうぞ安心なさいませ」
住民達の手を取り、笑顔を向ける白藍。
その一言を聞くや否や、人々はわっとハンター達を取り囲む。
「どうぞお助けを……! 怪我人がおるのです……!」
「うちの子が弱ってしまっていて……」
「落ち着いて。順番にお伺いしますから……」
「まずは避難所に行ってもいいかな?」
「あ、すみません……。ご案内します」
宥める観智と真夕に頷き、慌てて身を離す住人達。
彼らの案内を得て、ハンター達は避難所に到着する事が出来た。
避難所の様子を見て、リアカーを引いていた観智の眉間の皺は更に深くなった。
避難所は半分焼けた集会場に天幕を加え、何とか雨風が凌いでいると言った状況で、快適とは言い難かったからだ。
そこに全てを諦めたように地面に横たわる人々。家族を探しに時折人がやってくる。
誰がいて、誰がいないのかすらハッキリしない現状に加え、食料は日に一度の炊き出しのみ。
続く混乱に、遅れてやってきた失意……。
――民は、かなり疲弊しているように見えた。
怪我人がいると聞いたが、とても治療できるような衛生状態ではない。
「……優先すべき事から順番に、ですね。『食』の方は雪凪さん達が対応してくれるとの事ですし、取り急ぎ、次の優先事項……集会場の一部を病院化して出来うる限りの治療をしようと思います」
「分かったのじゃ。やれやれ、念の為と思うておったピュアウォーターが早速役に立ちそうじゃな」
使えそうな瓦礫を見繕いながら言う観智に、ため息をつく蜜鈴。
集会場の広さに対し、人が多すぎるのも気になるところで……。ここ以外にも、どこか避難所が用意出来ると良いのだが――。
「わたくし、井戸の水を確認したら炊き出しを始めますね」
そういいながら、よいしょっと荷物を降ろす雪凪。何をどうやったのか、大きな鞄を6個も身体にくくりつけていたので、道中相当動きにくかったのだ。
中身は沢山の野菜に、手ぬぐい、食器、水飴、黒蜜、乾燥寒天。そして、様々な植物の種や苗木、種芋などだ。
復興に使えそうなものを片っ端から買い揃えて来たのでお財布は大分軽くなってしまったが……自分はハンターだ。お金はまた稼げばいい。
さあ、これでようやっと、身軽に動き回れる……!
「荷物降ろすの手伝うよ!」
「私もお手伝いしますね」
「ありがとうございます」
馬からせっせと支援物資を下ろす白藍を手伝い始める真夕と黒い髪のエステル。
……エトファリカは、黒龍の力を守る力に変え、天ノ都周辺に結界を張ってその中で生きてきた。
言わば、永きに渡り篭城生活をしてきたようなもので……西方との交流が復活した事で、物資の供給が始まったとはいえ、物資が十分にあるとは決して言えない状況はずなのに。
物資には、生活に必要な色々なものが詰め込まれていて……。
スメラギは国民の為に、国の倉庫の中身を使う事を厭わなかった。
王として、今出来る事の最大限を……という気概を感じる。
「……この刺繍の布は何です? とっても綺麗です!」
「それはオイマト族に伝わる守りの文様だそうですよ。バタルトゥ様が作られたものです」
白藍の言葉に、ぴきーんと固まる青い髪のエステル。刺繍を恐る恐る手に取って、白藍を見る。
「……お顔怖いのに、これ作ったんです?」
「はい。この目で見ましたので間違いないですわよ」
「ほう。バタルトゥがのう。……殿御の割に器用じゃのう」
「本当です! とっても素敵なのです! お顔が怖いのに上手です!」
どこまでも正直な少女に、くつくつと笑う蜜鈴。
どうやら、エステルに恐れられる程の仏頂面の友人は、東方の地で頑張っているようで――。
そんな事をしている間に、瓦礫や、こんな事もあろうかと思い持ってきていた天幕用の布などを器用に組み合わせ、テキパキと簡易医療所を作り上げた観智は、怪我人の往診を始めていた。
怪我をしているものは、大半が火傷だったけれど……適切な治療を受けられなかったせいか、化膿し始めており、発熱を伴う者も出始めている。
このまま放っておいたら重篤化してしまう……。
医療の知識がある訳ではないけれど、火傷の治療くらいなら……と。観智はリアルブルーにいた頃の知識を総動員して対処を始める。
「いたい~! いたいよう」
「ちょっと我慢して下さい」
「先生、俺もここに火傷が……」
「順番にお伺いしますね」
子供を優先して対処を始めた彼を『先生』と呼び、次々と縋ってくる住民達。
自分は医師ではないと訂正する暇もない。
「先生、我が家にも火傷を負って動けないものがいます。診て戴けませんか」
「分かりました。こちらが終わりましたらすぐに」
「あ、そちらは私がこれからお伺いします。……観智さん。火傷にはラベンダーが効くそうですので良かったら使って下さい」
「ああ、ありがとうございます。他にも気になる事が色々あるんですが……僕、手が放せそうにないので、周辺の現地調査と現状把握をもお願いして良いですか?」
「はい。お見舞いがてら見てきます!」
「うむ。任せておけ」
黒い髪のエステルが差し出すハーブを受け取りながら言う観智。
青い髪のエステルと蜜鈴に頭を下げると、再び治療に没頭する。
やるべき事は山程あるが、一人ではない。
手分けをすれば、効率的に回せるはずだ……。
「みんなー! ご飯できたよー!」
「順番にお配りしますから並んでくださーい!」
真夕と雪凪の元気な声に、ぞろぞろと集まって来る住民達。
彼女達は白藍と共に、持ち込んだ食材で野菜たっぷりのすいとん汁を用意していた。
この場にいる人々に十分行き渡る量を用意出来る、というのは安心感に繋がるはずだし。
そして、赤子がいるにも関わらず乳が出なくなった母親の為に、水飴まで用意している……まさに、老人から赤子まで食に困らぬようにする徹底ぶりだ。
漂う美味しそうな匂いに、子供達から歓声が上がり、浮かない顔をしていた大人達の表情も少し和らいで……ピリピリしていた避難所の空気が、ほんの少しだけ明るく変わったようで――。
「助かりました。欲しいとは思っていたんですが……」
「皆が大変な時に言い辛いですよね。お気持ちよく分かります」
「小さな事も大事です! こんなのが欲しいっていうのがあったら教えて下さい!」
馬と二人のエステルが訪れたのは、赤子がいる家庭だった。
産着やおむつなどが焼けてしまい、数が足りずに困っていたと訴える母親に、さらしや裁縫道具、日用品や雪凪から預かってきた水飴などを包み、リボンでラッピングをして渡したら涙目になる程喜ばれた。
「ハーブで作った化粧水が入っています。どうぞ使って下さい」
「お母さんは色々大変なのです。これもどうぞ! 美味しくて疲れが取れます! お口を開けて下さい!」
安心させるような柔和な笑顔を浮かべる黒い髪のエステルに、色とりどりのきらきらとした干琥珀を、背伸びして母親の口に入れる青い髪のエステル。
美味しい、と笑顔になった母に釣られて赤子が笑うのを見て、黒い髪のエステルも微笑む。
――失ったものを取り戻すには、時間がかかる。その間に計り知れない辛さがあると思うけれど……少しずつ日常を取り戻して、できれば綺麗でいて、笑顔でいて貰いたい。
黒い髪のエステルが馬に、青い髪のエステルが補助輪つきの自転車に乗って次の家に移動しようとした時、半焼した家を必死で修繕している翁が目に入った。
「あの、こんにちは。こちらで暮らしてるんですか……?」
恐る恐る声をかける青い髪のエステル。翁に鋭い目で睨まれ、あう……と呟いてしょんぼりする。
――人見知りの人は、本当に困っていてもなかなか言い出せない。
自分がそうなので良く分かる。
青い髪のエステルはめげる事なく、翁を見上げる。
「あの。この家は傷みが酷いみたいです。避難所に行かないのですか?」
「……この家は婆さんと住んでいた場所だ。そう簡単に捨てられぬ」
「そうですか。思い出があるんでしたら……住み続けたいですよね」
ぼそりと呟いた翁に、しきり頷く黒い髪のエステル。
否定されるどころかあっさりと同意されて驚いたのか、翁は二人をまじまじと見る。
「分かったら帰ってくれ。儂はここから動く気はない」
「分かりました! じゃあ、せめて物資を受け取って下さい!」
「お風呂入れていらっしゃらないでしょう? 薄荷水で身体拭かれるとサッパリしますよ」
にこにこと笑顔で迫る二人。翁は毒気が抜かれたように、こくりと首を縦に振った。
「どうした? そのように泣いて」
「とと様とかか様がいないの。足がいたい……」
現状把握の為に、被害地域を散策していた蜜鈴は、泣きながら歩いている幼女に出会った。
話を聞いたところ、歪虚が襲って来た日から、両親に会えておらず、家も全焼してしまったらしい。
両親が違う場所に避難していれば良いが、もしかしたら――。
そんな事を考えた蜜鈴。それを億尾にも出さず、しゃがみこんで幼女を覗き込み、笑顔を向ける。
「……そうであったか。では、妾が一緒に親御殿を探してやろう」
「本当?」
「うむ。ほれ、涙は悲しみを呼ぶ。良う笑え、笑顔は幸福を招く故な」
そう言って少女の頬を拭い、小さな手に金平糖を握らせる蜜鈴。彼女が目を輝かせたのを見て、満足気に頷く。
「そうじゃ。おぬし、広い敷地を持つ家を知らぬか? 寺などでも良いのじゃが」
「えっと……この辺だったら、庄屋さんのおうちが一番大きいかなぁ」
「そうか。そこに案内して貰う事は出来るかえ?」
「うん、いいよ」
「おお、助かるぞ。では、お礼におんぶをしてやろうかの」
「……いいの?」
「うむ。足が痛いのであろう? おぬしを負ぶって歩くくらい造作もない事ゆえ」
喜んで彼女の背に飛びついた少女。歩き出してまもなくして、規則的な寝息が聞こえてくる。
「……おや。道案内をして貰おうと思っておったが、仕方ないのう」
くすくすと笑う蜜鈴。ちょっと遠回りになりそうだが、両親とはぐれた少女の安息に繋がるのなら、まあ良しとしようか――。
調理を終えた雪凪は、避難所の責任者と白藍に許可を取り、避難所の一角を畑へと改造し始めた。
退けた岩や瓦礫で囲いを作ったかと思ったら、猛然と土を掘り返し始めた彼女を見て、民達は目を瞬かせる。
「あの……ハンター様は何をしておいでで?」
「見ての通り畑を作ってるんですよ。今回の慰安品では口を糊する程度にしか行き渡りません。今はそれで何とかなるかもしれませんが……この先も、皆さんが食事に困らないようにしたいんです」
きっぱりと言う雪凪に、ハッとする民達。
――その日を何とか凌ぐのがやっとで、この先の事まで考える余裕がなかったのだろう。
「わたくし達が帰った後、面倒は皆さまに見て戴かないと野菜達は育ちません。食べ物を増やすためにもご協力お願いします!」
「……俺、鍬探してくる」
「雑草を刈るのに鎌もあった方がいいよな」
深々と頭を下げる雪凪に、民達は弾かれたように動き出す。
「とうちゃん達が働いてるの久しぶりに見た」
「そうなの? じゃあ、邪魔にならないようにこっちで遊んでよっか」
「うん!」
畑を耕す大人達を見つめる子供達に笑顔を向ける真夕。
親達は、これから復興に向けてもっともっと忙しくなる。親を亡くした子だっている。
様々な状況下に置かれた子供達を、少しでも励ましたいから――。
真夕は山程持ってきた折り紙を出して、丁寧に折っていく。
「これをこうして……できた」
「わぁ……! お姉ちゃんすごい! 鳥さんだ!」
「これね、鶴っていう鳥なのよ。私の故郷の言い伝えなんだけど、折鶴を沢山折るとね、病気が怪我が早く治るんだって」
「えー?! 本当!? じゃあ、かか様の火傷も早く治るかな」
「うん。きっとね」
「私も折りたい! お姉ちゃんやり方教えて!」
「俺も折る!」
「あたしも!!」
「わー! 待って待って! 教えるから!」
わーーっと子供達に飛びつかれて目を白黒させる真夕。
子供の相手は大変だけれど、この子達が少しでも明るく過ごせたらいいと思う。
「庄屋殿の屋敷を、新たな避難所として開放してくれるよう話をつけてきたぞ。貯蔵している物資も出してくれるそうじゃ」
「お見舞いの品も恙無く配り終えました。怪我人の応急手当もして来たので大丈夫ですよ」
「皆、疲れた顔してたけど、最後は笑ってくれたのです!」
「そうですか……。お疲れ様でした。ひとまずここだけは何とかなりましたが、足りないものが山程ありますね。ひとまず纏めて、白藍さんに託すとしましょう」
蜜鈴と二人のエステルの報告に頷く観智。
生活の建て直しは始まったばかりで、今後また要望は変わるかもしれないけれど。
極力『足りない』事がないようにしてやりたい――。
「皆さーん! 黒蜜寒天が出来ましたよー! どうぞ召し上がって下さい~!」
そこに聞こえて来た雪凪の声。子供達と真夕の明るい伸びやかな歌が、避難所に響いていた。
「あら。エステルさんこんにちは。良くお会いしますね」
少しお姉さんのエステル・クレティエ(ka3783)を見つけて、ぴょこぴょこと嬉しそうに飛び跳ねるエステル・ソル(ka3983)。
そんな青い髪の少女が愛らしくて、黒髪のエステルの顔が思わず綻ぶ。
白藍に先導されて歩く天ノ都の城下町。歪虚によって放たれた火は、もう消えていたけれど……そこかしこから、焦げた匂いが漂って来る。
無事に残った家はごく僅かで、殆どの家が一部が燃えていたり、煤にまみれていたり……何らかの損傷を負い、全焼した家も、焼け落ちた状態でそのままになっている。
「出来れば早く、元の生活に……と思いましたが、これは……」
「市井の状況が城へ伝わりきって居らぬとは思っておったが、ここまでとはの……」
想像以上の惨状に、眉根を寄せる天央 観智(ka0896)と蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)。
今現在、市井の家々や、民がどうなっているのか、早急に現状を把握する必要がある。
そして、突然現れた沢山の荷物を抱えたハンター達に注がれる困惑の目。
予告なき来訪に、人々が戸惑っているようで……。
「あの。こんにちは。驚かせてごめんなさい。私達怪しいものじゃなくって……」
「皆さんがお困りだと聞いて来ました。何かお手伝いできる事はありませんか?」
安心させるように言葉を選ぶ七夜・真夕(ka3977)に続く藤峰 雪凪(ka4737)。
ハンター達に訝しげな目を向けた彼らは、白藍の姿を見つけると『あっ』と小さく声をあげた。
「巫子様……! 巫子様がいらっしゃるぞ!」
「ご無事でしたか巫子様!」
「この通り無事ですわ。ありがとうございます。……この方達はスメラギ様の命で皆様を支援しに来て下さったのですよ。どうぞ安心なさいませ」
住民達の手を取り、笑顔を向ける白藍。
その一言を聞くや否や、人々はわっとハンター達を取り囲む。
「どうぞお助けを……! 怪我人がおるのです……!」
「うちの子が弱ってしまっていて……」
「落ち着いて。順番にお伺いしますから……」
「まずは避難所に行ってもいいかな?」
「あ、すみません……。ご案内します」
宥める観智と真夕に頷き、慌てて身を離す住人達。
彼らの案内を得て、ハンター達は避難所に到着する事が出来た。
避難所の様子を見て、リアカーを引いていた観智の眉間の皺は更に深くなった。
避難所は半分焼けた集会場に天幕を加え、何とか雨風が凌いでいると言った状況で、快適とは言い難かったからだ。
そこに全てを諦めたように地面に横たわる人々。家族を探しに時折人がやってくる。
誰がいて、誰がいないのかすらハッキリしない現状に加え、食料は日に一度の炊き出しのみ。
続く混乱に、遅れてやってきた失意……。
――民は、かなり疲弊しているように見えた。
怪我人がいると聞いたが、とても治療できるような衛生状態ではない。
「……優先すべき事から順番に、ですね。『食』の方は雪凪さん達が対応してくれるとの事ですし、取り急ぎ、次の優先事項……集会場の一部を病院化して出来うる限りの治療をしようと思います」
「分かったのじゃ。やれやれ、念の為と思うておったピュアウォーターが早速役に立ちそうじゃな」
使えそうな瓦礫を見繕いながら言う観智に、ため息をつく蜜鈴。
集会場の広さに対し、人が多すぎるのも気になるところで……。ここ以外にも、どこか避難所が用意出来ると良いのだが――。
「わたくし、井戸の水を確認したら炊き出しを始めますね」
そういいながら、よいしょっと荷物を降ろす雪凪。何をどうやったのか、大きな鞄を6個も身体にくくりつけていたので、道中相当動きにくかったのだ。
中身は沢山の野菜に、手ぬぐい、食器、水飴、黒蜜、乾燥寒天。そして、様々な植物の種や苗木、種芋などだ。
復興に使えそうなものを片っ端から買い揃えて来たのでお財布は大分軽くなってしまったが……自分はハンターだ。お金はまた稼げばいい。
さあ、これでようやっと、身軽に動き回れる……!
「荷物降ろすの手伝うよ!」
「私もお手伝いしますね」
「ありがとうございます」
馬からせっせと支援物資を下ろす白藍を手伝い始める真夕と黒い髪のエステル。
……エトファリカは、黒龍の力を守る力に変え、天ノ都周辺に結界を張ってその中で生きてきた。
言わば、永きに渡り篭城生活をしてきたようなもので……西方との交流が復活した事で、物資の供給が始まったとはいえ、物資が十分にあるとは決して言えない状況はずなのに。
物資には、生活に必要な色々なものが詰め込まれていて……。
スメラギは国民の為に、国の倉庫の中身を使う事を厭わなかった。
王として、今出来る事の最大限を……という気概を感じる。
「……この刺繍の布は何です? とっても綺麗です!」
「それはオイマト族に伝わる守りの文様だそうですよ。バタルトゥ様が作られたものです」
白藍の言葉に、ぴきーんと固まる青い髪のエステル。刺繍を恐る恐る手に取って、白藍を見る。
「……お顔怖いのに、これ作ったんです?」
「はい。この目で見ましたので間違いないですわよ」
「ほう。バタルトゥがのう。……殿御の割に器用じゃのう」
「本当です! とっても素敵なのです! お顔が怖いのに上手です!」
どこまでも正直な少女に、くつくつと笑う蜜鈴。
どうやら、エステルに恐れられる程の仏頂面の友人は、東方の地で頑張っているようで――。
そんな事をしている間に、瓦礫や、こんな事もあろうかと思い持ってきていた天幕用の布などを器用に組み合わせ、テキパキと簡易医療所を作り上げた観智は、怪我人の往診を始めていた。
怪我をしているものは、大半が火傷だったけれど……適切な治療を受けられなかったせいか、化膿し始めており、発熱を伴う者も出始めている。
このまま放っておいたら重篤化してしまう……。
医療の知識がある訳ではないけれど、火傷の治療くらいなら……と。観智はリアルブルーにいた頃の知識を総動員して対処を始める。
「いたい~! いたいよう」
「ちょっと我慢して下さい」
「先生、俺もここに火傷が……」
「順番にお伺いしますね」
子供を優先して対処を始めた彼を『先生』と呼び、次々と縋ってくる住民達。
自分は医師ではないと訂正する暇もない。
「先生、我が家にも火傷を負って動けないものがいます。診て戴けませんか」
「分かりました。こちらが終わりましたらすぐに」
「あ、そちらは私がこれからお伺いします。……観智さん。火傷にはラベンダーが効くそうですので良かったら使って下さい」
「ああ、ありがとうございます。他にも気になる事が色々あるんですが……僕、手が放せそうにないので、周辺の現地調査と現状把握をもお願いして良いですか?」
「はい。お見舞いがてら見てきます!」
「うむ。任せておけ」
黒い髪のエステルが差し出すハーブを受け取りながら言う観智。
青い髪のエステルと蜜鈴に頭を下げると、再び治療に没頭する。
やるべき事は山程あるが、一人ではない。
手分けをすれば、効率的に回せるはずだ……。
「みんなー! ご飯できたよー!」
「順番にお配りしますから並んでくださーい!」
真夕と雪凪の元気な声に、ぞろぞろと集まって来る住民達。
彼女達は白藍と共に、持ち込んだ食材で野菜たっぷりのすいとん汁を用意していた。
この場にいる人々に十分行き渡る量を用意出来る、というのは安心感に繋がるはずだし。
そして、赤子がいるにも関わらず乳が出なくなった母親の為に、水飴まで用意している……まさに、老人から赤子まで食に困らぬようにする徹底ぶりだ。
漂う美味しそうな匂いに、子供達から歓声が上がり、浮かない顔をしていた大人達の表情も少し和らいで……ピリピリしていた避難所の空気が、ほんの少しだけ明るく変わったようで――。
「助かりました。欲しいとは思っていたんですが……」
「皆が大変な時に言い辛いですよね。お気持ちよく分かります」
「小さな事も大事です! こんなのが欲しいっていうのがあったら教えて下さい!」
馬と二人のエステルが訪れたのは、赤子がいる家庭だった。
産着やおむつなどが焼けてしまい、数が足りずに困っていたと訴える母親に、さらしや裁縫道具、日用品や雪凪から預かってきた水飴などを包み、リボンでラッピングをして渡したら涙目になる程喜ばれた。
「ハーブで作った化粧水が入っています。どうぞ使って下さい」
「お母さんは色々大変なのです。これもどうぞ! 美味しくて疲れが取れます! お口を開けて下さい!」
安心させるような柔和な笑顔を浮かべる黒い髪のエステルに、色とりどりのきらきらとした干琥珀を、背伸びして母親の口に入れる青い髪のエステル。
美味しい、と笑顔になった母に釣られて赤子が笑うのを見て、黒い髪のエステルも微笑む。
――失ったものを取り戻すには、時間がかかる。その間に計り知れない辛さがあると思うけれど……少しずつ日常を取り戻して、できれば綺麗でいて、笑顔でいて貰いたい。
黒い髪のエステルが馬に、青い髪のエステルが補助輪つきの自転車に乗って次の家に移動しようとした時、半焼した家を必死で修繕している翁が目に入った。
「あの、こんにちは。こちらで暮らしてるんですか……?」
恐る恐る声をかける青い髪のエステル。翁に鋭い目で睨まれ、あう……と呟いてしょんぼりする。
――人見知りの人は、本当に困っていてもなかなか言い出せない。
自分がそうなので良く分かる。
青い髪のエステルはめげる事なく、翁を見上げる。
「あの。この家は傷みが酷いみたいです。避難所に行かないのですか?」
「……この家は婆さんと住んでいた場所だ。そう簡単に捨てられぬ」
「そうですか。思い出があるんでしたら……住み続けたいですよね」
ぼそりと呟いた翁に、しきり頷く黒い髪のエステル。
否定されるどころかあっさりと同意されて驚いたのか、翁は二人をまじまじと見る。
「分かったら帰ってくれ。儂はここから動く気はない」
「分かりました! じゃあ、せめて物資を受け取って下さい!」
「お風呂入れていらっしゃらないでしょう? 薄荷水で身体拭かれるとサッパリしますよ」
にこにこと笑顔で迫る二人。翁は毒気が抜かれたように、こくりと首を縦に振った。
「どうした? そのように泣いて」
「とと様とかか様がいないの。足がいたい……」
現状把握の為に、被害地域を散策していた蜜鈴は、泣きながら歩いている幼女に出会った。
話を聞いたところ、歪虚が襲って来た日から、両親に会えておらず、家も全焼してしまったらしい。
両親が違う場所に避難していれば良いが、もしかしたら――。
そんな事を考えた蜜鈴。それを億尾にも出さず、しゃがみこんで幼女を覗き込み、笑顔を向ける。
「……そうであったか。では、妾が一緒に親御殿を探してやろう」
「本当?」
「うむ。ほれ、涙は悲しみを呼ぶ。良う笑え、笑顔は幸福を招く故な」
そう言って少女の頬を拭い、小さな手に金平糖を握らせる蜜鈴。彼女が目を輝かせたのを見て、満足気に頷く。
「そうじゃ。おぬし、広い敷地を持つ家を知らぬか? 寺などでも良いのじゃが」
「えっと……この辺だったら、庄屋さんのおうちが一番大きいかなぁ」
「そうか。そこに案内して貰う事は出来るかえ?」
「うん、いいよ」
「おお、助かるぞ。では、お礼におんぶをしてやろうかの」
「……いいの?」
「うむ。足が痛いのであろう? おぬしを負ぶって歩くくらい造作もない事ゆえ」
喜んで彼女の背に飛びついた少女。歩き出してまもなくして、規則的な寝息が聞こえてくる。
「……おや。道案内をして貰おうと思っておったが、仕方ないのう」
くすくすと笑う蜜鈴。ちょっと遠回りになりそうだが、両親とはぐれた少女の安息に繋がるのなら、まあ良しとしようか――。
調理を終えた雪凪は、避難所の責任者と白藍に許可を取り、避難所の一角を畑へと改造し始めた。
退けた岩や瓦礫で囲いを作ったかと思ったら、猛然と土を掘り返し始めた彼女を見て、民達は目を瞬かせる。
「あの……ハンター様は何をしておいでで?」
「見ての通り畑を作ってるんですよ。今回の慰安品では口を糊する程度にしか行き渡りません。今はそれで何とかなるかもしれませんが……この先も、皆さんが食事に困らないようにしたいんです」
きっぱりと言う雪凪に、ハッとする民達。
――その日を何とか凌ぐのがやっとで、この先の事まで考える余裕がなかったのだろう。
「わたくし達が帰った後、面倒は皆さまに見て戴かないと野菜達は育ちません。食べ物を増やすためにもご協力お願いします!」
「……俺、鍬探してくる」
「雑草を刈るのに鎌もあった方がいいよな」
深々と頭を下げる雪凪に、民達は弾かれたように動き出す。
「とうちゃん達が働いてるの久しぶりに見た」
「そうなの? じゃあ、邪魔にならないようにこっちで遊んでよっか」
「うん!」
畑を耕す大人達を見つめる子供達に笑顔を向ける真夕。
親達は、これから復興に向けてもっともっと忙しくなる。親を亡くした子だっている。
様々な状況下に置かれた子供達を、少しでも励ましたいから――。
真夕は山程持ってきた折り紙を出して、丁寧に折っていく。
「これをこうして……できた」
「わぁ……! お姉ちゃんすごい! 鳥さんだ!」
「これね、鶴っていう鳥なのよ。私の故郷の言い伝えなんだけど、折鶴を沢山折るとね、病気が怪我が早く治るんだって」
「えー?! 本当!? じゃあ、かか様の火傷も早く治るかな」
「うん。きっとね」
「私も折りたい! お姉ちゃんやり方教えて!」
「俺も折る!」
「あたしも!!」
「わー! 待って待って! 教えるから!」
わーーっと子供達に飛びつかれて目を白黒させる真夕。
子供の相手は大変だけれど、この子達が少しでも明るく過ごせたらいいと思う。
「庄屋殿の屋敷を、新たな避難所として開放してくれるよう話をつけてきたぞ。貯蔵している物資も出してくれるそうじゃ」
「お見舞いの品も恙無く配り終えました。怪我人の応急手当もして来たので大丈夫ですよ」
「皆、疲れた顔してたけど、最後は笑ってくれたのです!」
「そうですか……。お疲れ様でした。ひとまずここだけは何とかなりましたが、足りないものが山程ありますね。ひとまず纏めて、白藍さんに託すとしましょう」
蜜鈴と二人のエステルの報告に頷く観智。
生活の建て直しは始まったばかりで、今後また要望は変わるかもしれないけれど。
極力『足りない』事がないようにしてやりたい――。
「皆さーん! 黒蜜寒天が出来ましたよー! どうぞ召し上がって下さい~!」
そこに聞こえて来た雪凪の声。子供達と真夕の明るい伸びやかな歌が、避難所に響いていた。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
白藍さんにお聞きします。 エステル・ソル(ka3983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/07/19 01:22:58 |
|
![]() |
一時の安寧を届けに… 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009) エルフ|22才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/07/22 01:22:47 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/18 05:48:38 |