ゲスト
(ka0000)
亡き人に思い込めて
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/21 07:30
- 完成日
- 2015/07/29 06:40
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
――開拓地ホープ。
夜煌祭も無事に終え、いまはゆっくりと設備の回復を目指している最中だ。
そこに駐留しているのは帝国軍属の女医、ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)である。
とは言っても、そろそろ暑い季節になってきた。
辺境は基本的に暮らしづらい環境と言われているが、この天気もその一因であろう。冬寒く、夏は暑い。
正直、ゲルタも水浴びでもしたい気分だ。
でも、もしこんなところで歪虚が登場してきたら、きっとひとたまりもない。いまは、ハンターも殆ど東方の一件に取られているようなものだからだ。
でも暑い。
そう思っていたある日、辺境部族の若者がふらりとやってきた。
ホープの様子を確かめてこいと言うことらしい。まあ、いまは辺境の有志と要塞都市の有志、双方で力を出し合っての再開発を進めている状態だ。連絡が届かないエリアがあっても、仕方がない。
実際、こういう若者は少なくなかった。まあ、ある意味ではありがたい話である。辺境でホープが忘れ去られていない証拠なのだから。
「で、今回はどうしたの?」
「それがですね」
ラウズという名前のその青年は、声を震わせながら問うた。
「その、魂鎮めの儀を、行なった方がいいと思いまして」
「魂鎮め?」
ゲルタは興味深げに尋ねる。もともと彼女はこの辺境文化に興味があって要塞都市に志願していたのだから、ある意味当然だが。
「ええ、うちの部族――マルキ族に伝わる儀式で。多くの人の魂が迷わぬよう、祈り捧げる儀式です」
夜煌祭ともちょっと違うらしい。どうやらリアルブルーの「オボン」とやらに似ているようだなと、ゲルタは話を聞きつつぼんやり思った。
しかしそんな儀式を間近で見られるのなら楽しかろう。
「分かった。じゃあ、手伝いにハンターも呼ぶことにして、やってみましょうか、魂鎮め」
非科学的なことも受け入れられる彼女は、きっと度量が大きいのだろう。
そう思える、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
――開拓地ホープ。
夜煌祭も無事に終え、いまはゆっくりと設備の回復を目指している最中だ。
そこに駐留しているのは帝国軍属の女医、ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)である。
とは言っても、そろそろ暑い季節になってきた。
辺境は基本的に暮らしづらい環境と言われているが、この天気もその一因であろう。冬寒く、夏は暑い。
正直、ゲルタも水浴びでもしたい気分だ。
でも、もしこんなところで歪虚が登場してきたら、きっとひとたまりもない。いまは、ハンターも殆ど東方の一件に取られているようなものだからだ。
でも暑い。
そう思っていたある日、辺境部族の若者がふらりとやってきた。
ホープの様子を確かめてこいと言うことらしい。まあ、いまは辺境の有志と要塞都市の有志、双方で力を出し合っての再開発を進めている状態だ。連絡が届かないエリアがあっても、仕方がない。
実際、こういう若者は少なくなかった。まあ、ある意味ではありがたい話である。辺境でホープが忘れ去られていない証拠なのだから。
「で、今回はどうしたの?」
「それがですね」
ラウズという名前のその青年は、声を震わせながら問うた。
「その、魂鎮めの儀を、行なった方がいいと思いまして」
「魂鎮め?」
ゲルタは興味深げに尋ねる。もともと彼女はこの辺境文化に興味があって要塞都市に志願していたのだから、ある意味当然だが。
「ええ、うちの部族――マルキ族に伝わる儀式で。多くの人の魂が迷わぬよう、祈り捧げる儀式です」
夜煌祭ともちょっと違うらしい。どうやらリアルブルーの「オボン」とやらに似ているようだなと、ゲルタは話を聞きつつぼんやり思った。
しかしそんな儀式を間近で見られるのなら楽しかろう。
「分かった。じゃあ、手伝いにハンターも呼ぶことにして、やってみましょうか、魂鎮め」
非科学的なことも受け入れられる彼女は、きっと度量が大きいのだろう。
そう思える、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
リプレイ本文
●
ルピナス(ka0179)は考える。
――人は死んだら終わりじゃないの?
膝をつき、手を組み、まるで祈りを捧げるかのように死者を想っていたエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)はそんな同僚を振りかえり、言葉なく微笑む。
――『ルピナスだけじゃない、人は不変ではないのね』――
●
「リアルブルーから伝わったものらしいけど、こちらでもオボンみたいな風習があるんだね」
感慨深げに呟くのは、天竜寺 舞(ka0377)。彼女とその妹の双子を産んで間もなく亡くなった母親の為にも、心を込めた弔いをと考えていた。
開拓地ホープで行なわれるという魂鎮めの儀は、そういう意味ではうってつけだ。
「ああ、きたきた。久しぶりの顔もいるわね」
ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)が笑顔で出迎える。開拓地と言っても先だっての戦いでかなりの被害を被った場所だ。
久々の顔の中でも特に面識があるのはレイス(ka1541)だ。この開拓地の設立や復興に何度も尽力してくれていたので忘れようがない。
「ゲルタ女史も久々だな。鎮魂の祭と聞いてやってきたが、こういう催しができるのも余裕が出てきた証拠だろうな。よかった」
そのそばには彼の大切な仲間の一人であるエイル・メヌエット(ka2807)もいた。彼女もホープが野戦病院と化したときに尽力してくれたひとりだ。
「あ、あのときの……」
当時からいまもホープで手伝ってくれている辺境の民は彼らを覚えていたこともあって、夏も黒いコートのレイスをみて何度も礼をしている者も多い。
ホープに定住しているものはあまり多くない。しかし入れ替わり立ち替わりになにかと様子を見にやってくる人も少なくなく、今回のマルキ族の来訪も、そんなうちのひとつ――と言えるだろう。
「今回協力して下さる方、ですよね。よろしくお願いします」
紹介されたラウズ青年は、微笑んで礼をする。
「でも、お盆と似た、魂鎮めの儀……ですか。以前の戦いでも多くの人が亡くなっているし……少しでも、その方たちの魂を、そして残された方たちの魂を、癒やせる日になれるとよいですね」
わずかに微笑んで、そしてそう感慨深げにいうのはユキヤ・S・ディールス(ka0382)。リアルブルー出身、日本人の血を引く少年は、静かに目を閉じると胸の奥の本心は見せぬまま、しかし鎮魂の思いをそっと吐息とともにはきだした。
少年は故郷で盆を迎えたことはない。それが幸運なことか不幸なことか、分からないけれど。しかし、心の安寧を求める為の行事に、彼は静かに祈りを捧げていた。
●
ちとせ(ka4855)は、傍にいる兄のやしろ(ka5242)に手を引かれながら、迎え火の為の準備をする。
(……魂を集め、鎮める……両親や、村の仲間も、ここに集まるのじゃろうか……?)
兄妹は、東方の小さな集落の出身。親は、既に亡い。
しかしその集落は、彼らにとって遙か彼方。いまはふたり、支え合って生きている状態だ。――その場所から、逃げ出したのだから。
やしろはわずかに眉根を寄せる妹の頭をそっと撫で、そして小さく微笑みかけた。
「魂鎮め……とても、大切なことだと思うよ」
ちとせの思うことが分かるよと言いたげに、少年は妹に頷いてやる。ちとせも、牛馬作りを黙々と手伝いながら、胸の奥に去来する思いを静かに整理していく。
(そう……ちとせは、忘れてはいけないのじゃ……ずっと、ずっと……逃げ出してしまった、あの場所にいた仲間を……)
そして同時に、こうも考える。
(……もし、ちとせがいなくなっても、誰が覚えていてくれようか……)
わずかに影を落とす、長いまつげ。そんな妹の姿に、もう一度やしろは頷いてやった。
「ちとせ、暑くなりそうだから水をしっかりとって。みんなにも、配ろう」
横でいっしょに馬作りをこなしているエヴァにもそれを渡す。手先の器用な彼女は個体差をと、馬の首にリボンを巻いたり鬣を少しふさふさとさせてみたり、バリエーションを作っているが、やはり夏の暑さには少し参っていた模様だ。笑顔でそれを受け取ると、
『ありがとう』
と記されたカードを示した。彼女は言葉を発することが出来ないが、芸術という分野で雄弁に語る。手先の器用さもそれが手伝っているのだろう。
作業の合間合間にもスケッチブックにさらさらとこの祭の様子を記している。記憶しておきたい、記録しておきたいと考えているからだ。
その横でエヴァの様子を眺めつつ馬作りをしているのはルピナス。彼が参加していることにエヴァはまず驚いていた。どうやら、『人の生き死に』という事項にあまりにも無知――いや無関心であった彼だが、最近参加した依頼で少し心境の変化があったようだ。
「でもこれに乗って帰ってくるのは人だけなんだ? じゃあ、たとえば死んだのが歪虚だったら? ……いや、『あちら側』に関わってしまった人の魂は、巡らないのかな、なんて想ったからさ」
ラウズはそれを聞いて、わずかにうなる。
「魂、の考え方にもよるでしょうね。それと、回帰する場所。普通の人はこの星のマテリアルに回帰すると思いますけど、歪虚の還る先は、少なくとも僕は知りません。だから、いないとも言い切れない……のかな。正直、歪虚の弔いなんてそうそうするものじゃないから……わからないというのが本音です」
「そうね……でもルピナス君の着眼点は面白いわ。今度調べてみる価値は十分ありそうね」
ゲルタもそう言って、ぽんと肩を叩いてやった。
「でも、牛とか馬って、なんか理由あるんですかね? 送り迎えで違うって、ちょっと面白いけれど」
そう言いながら手を動かすのはメリエ・フリョーシカ(ka1991)。それに反応したのは舞だった。
「リアルブルーでもやっぱり送り迎えで乗り物が違うよ。たしかね、行きは馬で急いで自分たちのもとに来られますように、帰りは牛に乗ってゆっくり帰れますように、って祈りを込めてるって」
リアルブルーでは野菜に棒をさして牛や馬を作るのだとも説明する。似ているけれど少しずつ違う二つの世界の弔いに、紅い星の面々も驚くばかりだ。
「でも、そういう接点があると、面白いですね。それに、うまく言えないけれど……なんだか、新鮮です」
メリエは小さく笑う。
気づけば送り迎えの為の馬も牛も結構な量ができあがっていた。こんなモノかなと、水を飲みながら笑いあう。
――さあ、もう祭も近い。
●
夕方。ぱちぱちと、薪の爆ぜる音。
ホープの中央で、焚き火が赤々と燃えている。
ハンター、そして子どもたちが固唾をのんでそれを見守っていた。
子どもたちへの説得をしたのはレイスだ。死者への弔い、鎮魂という祈りの大切さをそれとなく、しかし心に残るように子どもたちに説明してくれたのだ。
それはすなわち命の大切さにつながる。特にここは辺境と呼ばれる地、ほかの西方地域に比べても過酷な条件下。だからこそ、子どもたちが命の尊さを忘れてしまわないよう、彼は力を尽くしてくれたのだ。更に近隣の部族にも声をかけ、夜煌祭とはひと味違う鎮魂祭をともに迎えないか、と声をかけてくれた。
おかげで、ホープには各地の部族から少しずつではあるが人が集まっている。炎を囲むようにして迎えの為の馬を置き、更にだれぞかが用意してくれた花も添えられていた。
「……なんだか、故郷を思い出します」
メリエが笑う。鉱山の街出身の彼女は鍛冶屋の炎を見慣れて過ごしたせいか、炎の尊さを知っていた。
(……これも手紙のネタにしようっと)
そう思いながら、炎から目を離さない。
また、その火を分けたランタンがホープの近くに置かれる。エヴァのアイデアで、炎が見えない人も迎えに行ってはどうか――と言うものだった。
――魂は、それが来たと目に見えて分かるものではない。
来たと「感じる」、それが何より大切なことなのだ。だから、神経をとぎすまし、心を静かにする。
それが来た、と感じられるように。
こういうとき、子どもはとても敏感だ。僅かな風の動き、漂う草いきれ、小さな星のきらめきですらも、「感じる」ことの一因として受け取る。
そして「感じ取る」ことが出来れば、それは受け入れたことになるのだ。
ぱちっと、ひときわ大きく薪が爆ぜる。その瞬間、誰かが空を見上げた。吊られて多くのものが空を見つめる。
――彼らは、受け入れたのだ。肉体を失った同胞たちの、来訪を。
●
花はホープのあちこちに捧げられていた。
かつての大規模作戦の犠牲者を悼み、そして彼らへの祈りとして。
「……ホープでこういう行事を定期的にできるようになれば、ホープの存在意義も上がるだろう。どうだろうか」
レイスがゲルタに言うと、彼女はにこりと微笑んだ。
「そうね。……実はまだ模索の段階だけれど、いずれは部族会議もホープでできれば――と、部族のお偉方やユニオン側では考えているみたい。もっとも、まだまだ時間がかかるとは思うけれど」
その言葉に、レイスは一瞬驚いたように目を見開いて、そして笑った。
「……リムネラ嬢も、部族の皆も、なかなかに考えているんだな」
まだまだ時間はかかるだろうが、それを承知で開拓を進めるのだろう――そう知ると、胸が熱くなる。
(あのとき、この場所にいたら……歪虚の侵攻を防げただろうか……いや、これは傲慢だな)
レイスは、そっと瞑目する。安らかな眠りを、祈る為に。
机の一つには見事にご馳走が並んでいた。どれも肉や魚を用いていないもので、リアルブルーで言うところの精進料理に近い。
野菜をふんだんに使った彩りの美しい料理の数々は、やしろやルピナス、舞らが作った物だ。料理の腕前自体は平均的だが、想いを込めて作ったそれはとても美味しそうだ。
それらは人間の為の料理ではない。故人の為の陰膳だ。
むろん、皆が食べる分の食事も用意されている。こちらも基本、生き物は使われていない。しかし口にすればどこをどうしたのか、肉のように感じられる食感の料理も混ざっていた。リアルブルーの豆腐料理をアレンジしたらしい。
誰の口にも合うように味付けも様々で、もっぱら好評だった。
●
翌日。
今日は神楽と笹舟流しが行なわれる。
神楽の音楽はマルキ族のものももちろんだが、皆のアイデアでさまざまな曲を使うことになった。
マルキ族の踊りはごくシンプルで、盆踊りを知っているならだいたいの動きがすぐに理解出来る。そうでなくても誰もが動きやすい動きばかりで、集まっていた子どもたちはもちろんながら、舞がなかなかにみごとな動きを見せている。名前の通り、舞が得意らしい。しかもそれに三味線で伴奏に深みをつけるなど、なかなかほかのものにはできない行動だ。日本の神楽舞も参考にと披露してみたところ、好評だったところを見ると喜ばれているらしい。
「なんだかじっとしてるのも勿体ないくらい、わくわくする曲ですね」
見ていて踊りを覚えたらしいメリエは、さっそく踊りの輪に加わる。
また当方からの兄妹も、神楽に興味を示したらしく、ちとせは踊りに参加しようとする、が、慌てたせいかわずかに足を滑らしてしまう。やしろのほうは楽に興味を示しており、演奏に飛び入り参加。
そんな仲むつまじい光景も、きっといまが幸せな証なのだろう。
●
笹舟作りはあらかじめすませてある。
上に載せる紙に、彼らはそれぞれの想いを込めて、書き記した。
兄は妹の幸せをただひたすらに祈り。
妹は兄とありたいと願い。
ちとせは兄の手をそっと握り、そして思う。
(もしちとせがいなくなったら……きっと覚えていてくれるのはしろちゃんだけじゃ。ときどきでいい、思い出してくれるのなら、千歳は、きっと寂しくなどないのじゃよ……でも、ずっといっしょにと言うのは、我儘、かのう……?)
その妹の思いを知ってか知らずか、やしろはその手を握り替えず。
繋いだ手は、あたたかかった。
(全ての魂の安息を)
そう願うのは、ユキヤ。リアルブルーで知っている行事に似ているせいか、どこか親近感がある。
小さな花を一輪、いっしょに流したのは、リアルブルーの精霊流しに則ったルールのようなもの。思いがどこかに届くようにと、祈りを込めて。
いつか安息の日が訪れ、真の平和に暮らせるようにと。
(あたしと妹、見守っててね、ママ)
舞はそう祈りを込めて舟を流す。
双子はいわゆる不義の子であった――が、彼女の母は父親を愛し、そして儚くなった。素敵な母だった分父親を許せない気持ちもあるが、そんなことを思うとママが悲しむかも知れない、とも思う。
幸せな一生とは言いがたいかも知れない。でも、注いでくれた愛情はたしかに幸せだった。思い出して、そっと目を伏せた。
「死ぬこともやっぱり、旅になるのかな……」
ルピナスの声はどこか心ここにあらずといった感じだった。
そんな声を聞いたエヴァは、普段の彼を知っている分瞬きをする。
舟が流れていく姿は美しい。網膜というキャンバスに、エヴァはそれを閉じ込めるようにして見つめている。
『ルピナスはなにを祈ったの?』
茶目っ気混じりに聞いてみたりする。実のところ、自身の祈りというのがなかなか思い浮かばないのだ。しかし、ルピナスは答えない。正直、言葉にしづらいのだ。彼自身も。
エヴァは考えたすえ、笑顔で迎え火を囲んでいる子どもたちのスケッチを舟に乗せて流した。祈りなんて曖昧で不確かなものには、アバウトな表現のほうがいいのかも知れないと思いながら。
●
そして今日もまた大きく火が燃える。送り火だ。
もてなした死者の魂を、再びあるべき場所に戻してあげる為の、導きの炎。
兄妹は牛と、そして羊の人形を飾る。
――彷徨う魂が安らかな眠りにつけるように、いつかまた素敵な夢を見られるように。
――彷徨う魂派がこれ以上迷わぬように、来世というのがあるのなら、同胞の魂たちが皆来世にいけるように。
手を繋ぎ、願うことは同じ。
泡沫の夢のような光景に、微笑んでいた。辛い記憶を飲み込んで、微笑んでいた。
(亡くなられた全ての方に、どうか安らかな眠りを。まだ傷は癒えきっていないけれど、ここに住まう人は精一杯生きています。貴方たちの分まで。たくさんの思い出を作り、そしていつか貴方たちとともに眠るでしょう。それまでどうか見守っていて下さい……今度は、きっと守り抜いて見せますから)
レイスは、そう胸に刻む。過去を悔やむより、未来をみたいから。
舞はごくシンプルに。
(さよならママ。また来年)
そっと胸中で手を振る。
「人は死んだら終わりだけど、また会えたらいいなって思う。いまは、少し分かる」
ルピナスの言葉。
「一年に一度帰ってくるなら」
それはなんだか、少しあたたかい。
亡き人を思い、祈る。
それはきっと、幸せなこと――
ルピナス(ka0179)は考える。
――人は死んだら終わりじゃないの?
膝をつき、手を組み、まるで祈りを捧げるかのように死者を想っていたエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)はそんな同僚を振りかえり、言葉なく微笑む。
――『ルピナスだけじゃない、人は不変ではないのね』――
●
「リアルブルーから伝わったものらしいけど、こちらでもオボンみたいな風習があるんだね」
感慨深げに呟くのは、天竜寺 舞(ka0377)。彼女とその妹の双子を産んで間もなく亡くなった母親の為にも、心を込めた弔いをと考えていた。
開拓地ホープで行なわれるという魂鎮めの儀は、そういう意味ではうってつけだ。
「ああ、きたきた。久しぶりの顔もいるわね」
ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)が笑顔で出迎える。開拓地と言っても先だっての戦いでかなりの被害を被った場所だ。
久々の顔の中でも特に面識があるのはレイス(ka1541)だ。この開拓地の設立や復興に何度も尽力してくれていたので忘れようがない。
「ゲルタ女史も久々だな。鎮魂の祭と聞いてやってきたが、こういう催しができるのも余裕が出てきた証拠だろうな。よかった」
そのそばには彼の大切な仲間の一人であるエイル・メヌエット(ka2807)もいた。彼女もホープが野戦病院と化したときに尽力してくれたひとりだ。
「あ、あのときの……」
当時からいまもホープで手伝ってくれている辺境の民は彼らを覚えていたこともあって、夏も黒いコートのレイスをみて何度も礼をしている者も多い。
ホープに定住しているものはあまり多くない。しかし入れ替わり立ち替わりになにかと様子を見にやってくる人も少なくなく、今回のマルキ族の来訪も、そんなうちのひとつ――と言えるだろう。
「今回協力して下さる方、ですよね。よろしくお願いします」
紹介されたラウズ青年は、微笑んで礼をする。
「でも、お盆と似た、魂鎮めの儀……ですか。以前の戦いでも多くの人が亡くなっているし……少しでも、その方たちの魂を、そして残された方たちの魂を、癒やせる日になれるとよいですね」
わずかに微笑んで、そしてそう感慨深げにいうのはユキヤ・S・ディールス(ka0382)。リアルブルー出身、日本人の血を引く少年は、静かに目を閉じると胸の奥の本心は見せぬまま、しかし鎮魂の思いをそっと吐息とともにはきだした。
少年は故郷で盆を迎えたことはない。それが幸運なことか不幸なことか、分からないけれど。しかし、心の安寧を求める為の行事に、彼は静かに祈りを捧げていた。
●
ちとせ(ka4855)は、傍にいる兄のやしろ(ka5242)に手を引かれながら、迎え火の為の準備をする。
(……魂を集め、鎮める……両親や、村の仲間も、ここに集まるのじゃろうか……?)
兄妹は、東方の小さな集落の出身。親は、既に亡い。
しかしその集落は、彼らにとって遙か彼方。いまはふたり、支え合って生きている状態だ。――その場所から、逃げ出したのだから。
やしろはわずかに眉根を寄せる妹の頭をそっと撫で、そして小さく微笑みかけた。
「魂鎮め……とても、大切なことだと思うよ」
ちとせの思うことが分かるよと言いたげに、少年は妹に頷いてやる。ちとせも、牛馬作りを黙々と手伝いながら、胸の奥に去来する思いを静かに整理していく。
(そう……ちとせは、忘れてはいけないのじゃ……ずっと、ずっと……逃げ出してしまった、あの場所にいた仲間を……)
そして同時に、こうも考える。
(……もし、ちとせがいなくなっても、誰が覚えていてくれようか……)
わずかに影を落とす、長いまつげ。そんな妹の姿に、もう一度やしろは頷いてやった。
「ちとせ、暑くなりそうだから水をしっかりとって。みんなにも、配ろう」
横でいっしょに馬作りをこなしているエヴァにもそれを渡す。手先の器用な彼女は個体差をと、馬の首にリボンを巻いたり鬣を少しふさふさとさせてみたり、バリエーションを作っているが、やはり夏の暑さには少し参っていた模様だ。笑顔でそれを受け取ると、
『ありがとう』
と記されたカードを示した。彼女は言葉を発することが出来ないが、芸術という分野で雄弁に語る。手先の器用さもそれが手伝っているのだろう。
作業の合間合間にもスケッチブックにさらさらとこの祭の様子を記している。記憶しておきたい、記録しておきたいと考えているからだ。
その横でエヴァの様子を眺めつつ馬作りをしているのはルピナス。彼が参加していることにエヴァはまず驚いていた。どうやら、『人の生き死に』という事項にあまりにも無知――いや無関心であった彼だが、最近参加した依頼で少し心境の変化があったようだ。
「でもこれに乗って帰ってくるのは人だけなんだ? じゃあ、たとえば死んだのが歪虚だったら? ……いや、『あちら側』に関わってしまった人の魂は、巡らないのかな、なんて想ったからさ」
ラウズはそれを聞いて、わずかにうなる。
「魂、の考え方にもよるでしょうね。それと、回帰する場所。普通の人はこの星のマテリアルに回帰すると思いますけど、歪虚の還る先は、少なくとも僕は知りません。だから、いないとも言い切れない……のかな。正直、歪虚の弔いなんてそうそうするものじゃないから……わからないというのが本音です」
「そうね……でもルピナス君の着眼点は面白いわ。今度調べてみる価値は十分ありそうね」
ゲルタもそう言って、ぽんと肩を叩いてやった。
「でも、牛とか馬って、なんか理由あるんですかね? 送り迎えで違うって、ちょっと面白いけれど」
そう言いながら手を動かすのはメリエ・フリョーシカ(ka1991)。それに反応したのは舞だった。
「リアルブルーでもやっぱり送り迎えで乗り物が違うよ。たしかね、行きは馬で急いで自分たちのもとに来られますように、帰りは牛に乗ってゆっくり帰れますように、って祈りを込めてるって」
リアルブルーでは野菜に棒をさして牛や馬を作るのだとも説明する。似ているけれど少しずつ違う二つの世界の弔いに、紅い星の面々も驚くばかりだ。
「でも、そういう接点があると、面白いですね。それに、うまく言えないけれど……なんだか、新鮮です」
メリエは小さく笑う。
気づけば送り迎えの為の馬も牛も結構な量ができあがっていた。こんなモノかなと、水を飲みながら笑いあう。
――さあ、もう祭も近い。
●
夕方。ぱちぱちと、薪の爆ぜる音。
ホープの中央で、焚き火が赤々と燃えている。
ハンター、そして子どもたちが固唾をのんでそれを見守っていた。
子どもたちへの説得をしたのはレイスだ。死者への弔い、鎮魂という祈りの大切さをそれとなく、しかし心に残るように子どもたちに説明してくれたのだ。
それはすなわち命の大切さにつながる。特にここは辺境と呼ばれる地、ほかの西方地域に比べても過酷な条件下。だからこそ、子どもたちが命の尊さを忘れてしまわないよう、彼は力を尽くしてくれたのだ。更に近隣の部族にも声をかけ、夜煌祭とはひと味違う鎮魂祭をともに迎えないか、と声をかけてくれた。
おかげで、ホープには各地の部族から少しずつではあるが人が集まっている。炎を囲むようにして迎えの為の馬を置き、更にだれぞかが用意してくれた花も添えられていた。
「……なんだか、故郷を思い出します」
メリエが笑う。鉱山の街出身の彼女は鍛冶屋の炎を見慣れて過ごしたせいか、炎の尊さを知っていた。
(……これも手紙のネタにしようっと)
そう思いながら、炎から目を離さない。
また、その火を分けたランタンがホープの近くに置かれる。エヴァのアイデアで、炎が見えない人も迎えに行ってはどうか――と言うものだった。
――魂は、それが来たと目に見えて分かるものではない。
来たと「感じる」、それが何より大切なことなのだ。だから、神経をとぎすまし、心を静かにする。
それが来た、と感じられるように。
こういうとき、子どもはとても敏感だ。僅かな風の動き、漂う草いきれ、小さな星のきらめきですらも、「感じる」ことの一因として受け取る。
そして「感じ取る」ことが出来れば、それは受け入れたことになるのだ。
ぱちっと、ひときわ大きく薪が爆ぜる。その瞬間、誰かが空を見上げた。吊られて多くのものが空を見つめる。
――彼らは、受け入れたのだ。肉体を失った同胞たちの、来訪を。
●
花はホープのあちこちに捧げられていた。
かつての大規模作戦の犠牲者を悼み、そして彼らへの祈りとして。
「……ホープでこういう行事を定期的にできるようになれば、ホープの存在意義も上がるだろう。どうだろうか」
レイスがゲルタに言うと、彼女はにこりと微笑んだ。
「そうね。……実はまだ模索の段階だけれど、いずれは部族会議もホープでできれば――と、部族のお偉方やユニオン側では考えているみたい。もっとも、まだまだ時間がかかるとは思うけれど」
その言葉に、レイスは一瞬驚いたように目を見開いて、そして笑った。
「……リムネラ嬢も、部族の皆も、なかなかに考えているんだな」
まだまだ時間はかかるだろうが、それを承知で開拓を進めるのだろう――そう知ると、胸が熱くなる。
(あのとき、この場所にいたら……歪虚の侵攻を防げただろうか……いや、これは傲慢だな)
レイスは、そっと瞑目する。安らかな眠りを、祈る為に。
机の一つには見事にご馳走が並んでいた。どれも肉や魚を用いていないもので、リアルブルーで言うところの精進料理に近い。
野菜をふんだんに使った彩りの美しい料理の数々は、やしろやルピナス、舞らが作った物だ。料理の腕前自体は平均的だが、想いを込めて作ったそれはとても美味しそうだ。
それらは人間の為の料理ではない。故人の為の陰膳だ。
むろん、皆が食べる分の食事も用意されている。こちらも基本、生き物は使われていない。しかし口にすればどこをどうしたのか、肉のように感じられる食感の料理も混ざっていた。リアルブルーの豆腐料理をアレンジしたらしい。
誰の口にも合うように味付けも様々で、もっぱら好評だった。
●
翌日。
今日は神楽と笹舟流しが行なわれる。
神楽の音楽はマルキ族のものももちろんだが、皆のアイデアでさまざまな曲を使うことになった。
マルキ族の踊りはごくシンプルで、盆踊りを知っているならだいたいの動きがすぐに理解出来る。そうでなくても誰もが動きやすい動きばかりで、集まっていた子どもたちはもちろんながら、舞がなかなかにみごとな動きを見せている。名前の通り、舞が得意らしい。しかもそれに三味線で伴奏に深みをつけるなど、なかなかほかのものにはできない行動だ。日本の神楽舞も参考にと披露してみたところ、好評だったところを見ると喜ばれているらしい。
「なんだかじっとしてるのも勿体ないくらい、わくわくする曲ですね」
見ていて踊りを覚えたらしいメリエは、さっそく踊りの輪に加わる。
また当方からの兄妹も、神楽に興味を示したらしく、ちとせは踊りに参加しようとする、が、慌てたせいかわずかに足を滑らしてしまう。やしろのほうは楽に興味を示しており、演奏に飛び入り参加。
そんな仲むつまじい光景も、きっといまが幸せな証なのだろう。
●
笹舟作りはあらかじめすませてある。
上に載せる紙に、彼らはそれぞれの想いを込めて、書き記した。
兄は妹の幸せをただひたすらに祈り。
妹は兄とありたいと願い。
ちとせは兄の手をそっと握り、そして思う。
(もしちとせがいなくなったら……きっと覚えていてくれるのはしろちゃんだけじゃ。ときどきでいい、思い出してくれるのなら、千歳は、きっと寂しくなどないのじゃよ……でも、ずっといっしょにと言うのは、我儘、かのう……?)
その妹の思いを知ってか知らずか、やしろはその手を握り替えず。
繋いだ手は、あたたかかった。
(全ての魂の安息を)
そう願うのは、ユキヤ。リアルブルーで知っている行事に似ているせいか、どこか親近感がある。
小さな花を一輪、いっしょに流したのは、リアルブルーの精霊流しに則ったルールのようなもの。思いがどこかに届くようにと、祈りを込めて。
いつか安息の日が訪れ、真の平和に暮らせるようにと。
(あたしと妹、見守っててね、ママ)
舞はそう祈りを込めて舟を流す。
双子はいわゆる不義の子であった――が、彼女の母は父親を愛し、そして儚くなった。素敵な母だった分父親を許せない気持ちもあるが、そんなことを思うとママが悲しむかも知れない、とも思う。
幸せな一生とは言いがたいかも知れない。でも、注いでくれた愛情はたしかに幸せだった。思い出して、そっと目を伏せた。
「死ぬこともやっぱり、旅になるのかな……」
ルピナスの声はどこか心ここにあらずといった感じだった。
そんな声を聞いたエヴァは、普段の彼を知っている分瞬きをする。
舟が流れていく姿は美しい。網膜というキャンバスに、エヴァはそれを閉じ込めるようにして見つめている。
『ルピナスはなにを祈ったの?』
茶目っ気混じりに聞いてみたりする。実のところ、自身の祈りというのがなかなか思い浮かばないのだ。しかし、ルピナスは答えない。正直、言葉にしづらいのだ。彼自身も。
エヴァは考えたすえ、笑顔で迎え火を囲んでいる子どもたちのスケッチを舟に乗せて流した。祈りなんて曖昧で不確かなものには、アバウトな表現のほうがいいのかも知れないと思いながら。
●
そして今日もまた大きく火が燃える。送り火だ。
もてなした死者の魂を、再びあるべき場所に戻してあげる為の、導きの炎。
兄妹は牛と、そして羊の人形を飾る。
――彷徨う魂が安らかな眠りにつけるように、いつかまた素敵な夢を見られるように。
――彷徨う魂派がこれ以上迷わぬように、来世というのがあるのなら、同胞の魂たちが皆来世にいけるように。
手を繋ぎ、願うことは同じ。
泡沫の夢のような光景に、微笑んでいた。辛い記憶を飲み込んで、微笑んでいた。
(亡くなられた全ての方に、どうか安らかな眠りを。まだ傷は癒えきっていないけれど、ここに住まう人は精一杯生きています。貴方たちの分まで。たくさんの思い出を作り、そしていつか貴方たちとともに眠るでしょう。それまでどうか見守っていて下さい……今度は、きっと守り抜いて見せますから)
レイスは、そう胸に刻む。過去を悔やむより、未来をみたいから。
舞はごくシンプルに。
(さよならママ。また来年)
そっと胸中で手を振る。
「人は死んだら終わりだけど、また会えたらいいなって思う。いまは、少し分かる」
ルピナスの言葉。
「一年に一度帰ってくるなら」
それはなんだか、少しあたたかい。
亡き人を思い、祈る。
それはきっと、幸せなこと――
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/21 06:28:54 |
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相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/07/20 23:18:20 |
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質問卓 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/07/19 13:40:23 |