ゲスト
(ka0000)
【東征】若葉舞う
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/22 12:00
- 完成日
- 2015/07/30 05:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
暗く沈んだ空に浮かぶ無数の星。それらを見上げた東方出身の少年――祀は、頬を照らす焚火に目を落とすと少し憂うように目を細めた。
「西方の友人にこの様なことをお願いして申し訳ありませんでした。本来であれば僕が1人で行わなければいけないことなのに……あなた方なら僕の力になってくれると聞いたので……」
祀の前には、彼と同じく焚火を囲むハンターの姿がある。東方にはハンターに何かを依頼すると言う習慣が根付いていない。
故にこうして依頼を出すことは罪悪感を生むのだろう。祀は視線を落としたまま膝を抱くと、浮かぶ感情を消し去るように言葉を紡いだ。
「……今回、皆さんと一緒に倒したい妖怪は、僕が1人で挑んで倒せなかった相手なんです。大きな獣で、舞刀士として駆け出しだった僕は奴の前にひれ伏すしかありませんでした」
ひと月前。祀は1人でこの地を訪れ、妖怪との戦闘に敗れた。闘いは誰かが見ていたら目を瞑りそうなほど悲惨で、彼の一方的な負け戦だった。
「僕は死を覚悟しました。体も動かないし、声も出ない。そもそもここには住んでいる人も居ない。だから助けなんてあるはずもありません……そう、本当ならないはずだったんです」
祀の言うようにこの地に人はいない。
ここは東方本土から離れた場所にある孤島。
昔は人が住んでいたのか、その名残として建造物の跡などがある。それらを一瞥するように視線を上げると、彼は少し困ったようにハンターを見た。
「僕、歪虚に助けられたんです。変な着物を着た歪虚に……」
歪虚は祀を妖怪の元から連れ去った。
そして安全な場所に彼を放置すると、何事もなく去って行ったと言う。
何故助けられたのかは一切不明。考えられるのは歪虚のきまぐれだったのだろう、と言うことだけだ。
「考えても仕方ないですし、今は与えられた生を活かしたい……今度こそ、妖怪を倒したいんです」
ひと月経った今でも半人前のまま。1人ではきっと妖怪を倒す事は出来ない。
それでも倒したいと願う彼に、本土の老人が教えてくれた。
西方から来た友人の存在を。
ハンターと言う名の英雄は、エトファリカに救済の手を差し伸べるべくこの地に来たと。
だからこそ祀は藁にでも縋る想いで彼らを頼った――どうか一緒に妖怪を退治して欲しい――と。
「もうじき夜が明けます。その時が絶好の機会……妖怪は夜の時間を主な行動時間にしています。巣に帰る瞬間を討てば、きっと」
そう、確信めいた声を零し、新たな薪を火にくべようとした。だがその手が止まる。
ウゥォォオオオンッ!
「!」
近くで遠吠えに似た声がした。
慌てて顔を上げた祀の目に青い目の獣が飛び込んで来る。
「妖怪除けの術を張ってたはずなのに――ッ!!」
腕を弾かれ、勢いよく地面に吹っ飛ぶ。
転がりながら獣の動きを目で追うと、焚火を囲んでいたハンターたちが動く様子が見えた。
「……、もう……戦闘態勢を……」
咄嗟の出来事に直ぐに反応したハンター。経験と度胸が違うのだと見せつけられて胸が痛くなる。
それでも闘わない訳にはいかない。
「逃げちゃ、ダメだ」
立ち上がり、痛む腕を抑えてハンターの動きを目で追う。そうして刀に手を伸ばすと、祀の表情が変わった。
「他所ごとを考えるのはあとだ。父さん、母さん、見ていて下さい。僕は、エトファリカの武人になります!」
●影
同時刻。ハンターと共に妖怪に挑む祀を見下ろす者があった。
夜空に浮かぶフルメタルに和風装束の男。背に大きな機械刀を背負うのは十三魔の1人、紫電の刀鬼だ。
彼は自らを励まし闘いに向かう祀を見て聞こえないくらいの小さな口笛を吹く。
「グッファイトですネ~♪」
ひと月前にこの地で発見した少年。もう少しで息の音を止められそうになっていた彼が再び同じ敵に挑む。
その姿は何とも興味深い。
刀鬼は空に浮かんだまま地上を見下ろすと、楽しそうに鼻歌を零し始めた。
「西方の友人にこの様なことをお願いして申し訳ありませんでした。本来であれば僕が1人で行わなければいけないことなのに……あなた方なら僕の力になってくれると聞いたので……」
祀の前には、彼と同じく焚火を囲むハンターの姿がある。東方にはハンターに何かを依頼すると言う習慣が根付いていない。
故にこうして依頼を出すことは罪悪感を生むのだろう。祀は視線を落としたまま膝を抱くと、浮かぶ感情を消し去るように言葉を紡いだ。
「……今回、皆さんと一緒に倒したい妖怪は、僕が1人で挑んで倒せなかった相手なんです。大きな獣で、舞刀士として駆け出しだった僕は奴の前にひれ伏すしかありませんでした」
ひと月前。祀は1人でこの地を訪れ、妖怪との戦闘に敗れた。闘いは誰かが見ていたら目を瞑りそうなほど悲惨で、彼の一方的な負け戦だった。
「僕は死を覚悟しました。体も動かないし、声も出ない。そもそもここには住んでいる人も居ない。だから助けなんてあるはずもありません……そう、本当ならないはずだったんです」
祀の言うようにこの地に人はいない。
ここは東方本土から離れた場所にある孤島。
昔は人が住んでいたのか、その名残として建造物の跡などがある。それらを一瞥するように視線を上げると、彼は少し困ったようにハンターを見た。
「僕、歪虚に助けられたんです。変な着物を着た歪虚に……」
歪虚は祀を妖怪の元から連れ去った。
そして安全な場所に彼を放置すると、何事もなく去って行ったと言う。
何故助けられたのかは一切不明。考えられるのは歪虚のきまぐれだったのだろう、と言うことだけだ。
「考えても仕方ないですし、今は与えられた生を活かしたい……今度こそ、妖怪を倒したいんです」
ひと月経った今でも半人前のまま。1人ではきっと妖怪を倒す事は出来ない。
それでも倒したいと願う彼に、本土の老人が教えてくれた。
西方から来た友人の存在を。
ハンターと言う名の英雄は、エトファリカに救済の手を差し伸べるべくこの地に来たと。
だからこそ祀は藁にでも縋る想いで彼らを頼った――どうか一緒に妖怪を退治して欲しい――と。
「もうじき夜が明けます。その時が絶好の機会……妖怪は夜の時間を主な行動時間にしています。巣に帰る瞬間を討てば、きっと」
そう、確信めいた声を零し、新たな薪を火にくべようとした。だがその手が止まる。
ウゥォォオオオンッ!
「!」
近くで遠吠えに似た声がした。
慌てて顔を上げた祀の目に青い目の獣が飛び込んで来る。
「妖怪除けの術を張ってたはずなのに――ッ!!」
腕を弾かれ、勢いよく地面に吹っ飛ぶ。
転がりながら獣の動きを目で追うと、焚火を囲んでいたハンターたちが動く様子が見えた。
「……、もう……戦闘態勢を……」
咄嗟の出来事に直ぐに反応したハンター。経験と度胸が違うのだと見せつけられて胸が痛くなる。
それでも闘わない訳にはいかない。
「逃げちゃ、ダメだ」
立ち上がり、痛む腕を抑えてハンターの動きを目で追う。そうして刀に手を伸ばすと、祀の表情が変わった。
「他所ごとを考えるのはあとだ。父さん、母さん、見ていて下さい。僕は、エトファリカの武人になります!」
●影
同時刻。ハンターと共に妖怪に挑む祀を見下ろす者があった。
夜空に浮かぶフルメタルに和風装束の男。背に大きな機械刀を背負うのは十三魔の1人、紫電の刀鬼だ。
彼は自らを励まし闘いに向かう祀を見て聞こえないくらいの小さな口笛を吹く。
「グッファイトですネ~♪」
ひと月前にこの地で発見した少年。もう少しで息の音を止められそうになっていた彼が再び同じ敵に挑む。
その姿は何とも興味深い。
刀鬼は空に浮かんだまま地上を見下ろすと、楽しそうに鼻歌を零し始めた。
リプレイ本文
「よみ通りっていうのかな?! すごいね、祀さん! あたりだよ!」
そう声を上げた丹々(ka3767)は、無邪気な表情で祀を振り返ると、彼の強張った表情に目を瞬いた。
今はまだ夜明け前。空には星が浮かぶ中で、丹々は腰に付けたライトを点灯させる。そうして臨戦体勢を取ると前を見た。
「……それにしても、はやい」
先程祀を襲った妖怪はかなりの速さを持っていた。馬のような体躯に巨大な2本の角。一見すれば一角獣にも見えるその妖怪を祀は『妖騎』と呼んでいたと思う。
「祀さん、いこ……う?」
振り返った先。先程まで険しい表情をしていた祀の様子がおかしい。刀を構えたまま目を見開く彼の額には薄らをと汗がにじんでいる。
「あ、れ……足が――」
「ボサッとするな!」
「!」
厳しい声にハッとしたのも束の間。地面に放られる衝撃に目を見張る。そして痛みに顔を顰めながら目を開けると、盾を構えるグライブ・エルケイル(ka1080)の姿が飛び込んで来た。
「グライブさん……僕……」
目の前で妖騎の角を受け止めるグライブに情けない声が零れる。それを耳に彼の肩が竦められた。
「怪我をするな……という方が無理だろうが……せめて無事に帰れるように努めろ」
俺もそうする。と、大きな背中で語る彼に祀の目が瞬かれた。そこに丹々の無邪気な声が飛ぶ。
「だいじょうぶ。祀さんはもうその馬とはたたかえる。だって丹々達と祀さんはいっしょだもん!」
聞こえた声に違和感を覚える。だが疑問を抱く間もなく、彼の腕が引かれた。
「立てますか?」
腕を引いたのは龍華 狼(ka4940)だ。彼は腰に丹々のライトを見ながら自身のそれも点灯させる。そうして不思議そうにこちらを見ている祀に目を向けるとフッと笑んで肩を叩いた。
「初めは皆弱いですよ、諦めずに頑張りましょう」
言って武器を水平に構え、目の前に控える妖騎を見据える。
(……まさかこんな形で東方に帰ってくるなんて……)
悲しい過去と、目的。その双方が狼の胸を過る。
だが今は他所事を考えている場合ではない。
「今は戦闘に集中だっ」
被りを振って駆け出した足は妖騎に向かう。一気に詰める間合いは相手を逃がさない為――だが。
「避けた!?」
狼の動きは見事だった。だが妖騎の方が僅かに上、寸前で回避され思わず声が上がる。
そしてこの結果を見て祀の中に『絶望』と言う文字が浮かぶ。
「今ので当たらない……だったら僕は……」
「祀さん、武器を……」
祀を立ち上がらせて武器を構えさせようするラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457)は、彼の視線を辿るように前を見ると切っ先を妖騎に向けさせた。
「東方でも、精霊と契約するんでしょうか……祀さんは契約の時、何を思いましたか?」
「精霊、ですか?」
「私が契約した時……とても、怖かったんです。でも……負けたくなくて……妹が誇れる、姉になりたくて」
馬鹿ですよね。そう、薄く笑む彼女にハッとする。
だが何か言葉を返す前に、温もりと地面に転がる衝撃が祀を襲った。
「シェリーさん、祀さん!?」
ラウィーヤの声で何が起きたのか察知する。
シェリーに抱えられて地面に転がった祀は無傷だ。そして彼女の肩越しには攻撃を回避され荒立つ妖騎の姿も見える。
「あ、の……」
「大丈夫、みんなと一緒に頑張ろう!」
ニコッと笑ったシェリー・ポルトゥマ・ディーラ(ka4756)の肩に鮮血が滲んでいる。
祀を庇った衝撃で攻撃を受けたのだろう。
「怪我……っ」
「大丈夫、大丈夫だから!」
痛い筈なのに笑顔を向ける彼女の気遣いに胸が痛くなる。思わず目を背けたくなるがここは戦場だ。
地面を蹴るために足を動かす妖騎が見え、祀は震える足を叱咤して立ち上がった。
「ラウィーヤ、壁を……」
「はい、っ!」
祀が立て直すまで攻撃を抑える。そう指示を飛ばしたグライブにラウィーヤが頷く。
そして2人で盾を構えると、その姿に呼応するように丹々や狼、シェリーも武器を妖騎に向けた。
「これが、経験の差……僕にはないもの……」
立つこともままならない自分と、勇敢に妖騎に立ち向かう彼ら。経験だけが差を生むのか。
そう考えた時、ひと際明るい声が響いて来た。
「Hey,マツリ? こういうときは気持ちで負けちゃダメですヨ! No Problem!! 今回はワタシたちが一緒デス!」
「一緒……」
確か。丹々もそう言っていた。
祀はクロード・N・シックス(ka4741)の言葉を反芻することで、先程生まれた違和感の正体を掴む。高みから見下ろすだけではない、寄り添い力を分け与える彼らの姿。
それはこれまで1人だった祀の考えを覆すものだ。
(一緒に……確かに僕はそう言った。でもここまで僕のことを考えてくれるなんて思わなかったんだ……)
「……これが西方の『ハンター』の力……」
思わず苦笑いが漏れる。だがわかったところで妖騎に立ち向かうのが怖い事実は変わらない。だが次のシェリーとラウィーヤの言葉で彼の意識が変わった。
「一度酷い目にあった相手だからきっと怖いと思うけど、今回は一人じゃないから!」
「ですよ、ね。でも……大丈夫、私達は……一人じゃないですから」
わかってくれている。たったそれだけのことが胸の奥をスゥッと軽くした。
「あれ、立てる……それに、っ!?」
グレイブの盾を弾いて迫る妖騎に気付いた。
咄嗟に側面へ転がって攻撃を避けて目を瞬く。
「Wow♪ マツリ、避けれたデース♪」
あまりにもすんなり避けれた事に動揺が隠せない。そんな彼を背に庇い、グレイブは問う。
「自信が無いというのであれば下がっていてもいい。何を選んでも俺の仕事はお前を守ることだ。だから聞かせてくれ、お前はどうしたい?」
「どう、したい……」
問われて周囲を見回す。
するとこの場にいる全員が祀の返答を待っているのが見えた。
1人で怖がって、1人で全部を抱え込んでいる気になっていたさっきとは違う。全員の顔がはっきり見える。
「祀殿」
「祀さん……」
「祀さん」
「マツリ!」
「祀さん!」
励ますように自身を呼ぶ声に鳥肌が立つ。
祀は浮かびそうになる涙を呑み込むと、柄を握る手に力を込めて顔を上げた。
「戦います! みなさんと一緒に!」
1人じゃない。その想いが与える効果のなんと大きいことか。
祀は自分を見て微笑んだ皆に勇気を貰うと、今度こそ自分の足で立って武器を構えた。
●
嘶きを上げて地面を掻く妖騎。明らかに威嚇するその姿に丹々が警戒の声を上げる。
「……遠吠えから攻撃……もしかして、祀さんを覚えてる?」
登場早々に祀を狙ったこと。そして今も祀に狙いを定めている様子から、仕留め損ねた獲物として祀を襲っている可能性はある。
となれば当初の予定通り祀を護りながら戦うのが一番だ。とは言え、まずは相手の足を止めるのが先。
「ん、止める!」
トンッと一歩退いた足。それを起点に駆け出すと、同じく突進してきた妖騎に槍を突きだした。
「どうなるかな!」
突進する相手に槍を突き刺したらどうなるのか。実は少し興味があったのだ。
瞳を輝かせて突出する彼女にラウィーヤが並走する。
「……援護、します!」
焚火が背に控えているので逆行気味で表情が伺えない。それでも聞こえる声は頼もしい。
丹々は彼女に頷きを返すと、ラウィーヤは側面に飛んで胴へ刃を突き入れた。
『キュァァァアアッ!』
吹き出す血のような黒い飛沫。それに刃を濡らしながらラウィーヤは水晶の剣に力を込める。
だが抑え込みを狙って突き入れた刃が、丹々の渾身の一撃を回避するのと同時に妖騎の体から抜けた。
そして妖騎の近くにあった丹々とラウィーヤが思わぬものを目撃する。
「う……う?!」
「え……角、じゃ……?」
目を見開いた直後、グレイブの声が飛んだ――
「避けろ!」
2人の前に出るように盾を構えたグレイブが飛び出す。そして目を赤く光らせた妖騎の角から放たれる黒炎を受け止めた。
「――ッ、く」
ジリジリと盾を焼くような衝撃と熱さ。それらを耐えながら妖騎を見る。
「成程……目が光って、角から……か」
零し、敵の動きを注視する。
大きな攻撃の直後と言うのは隙が生じやすい。そして妖騎も例に漏れず黒炎の後、動きを止めて次の行動を模索していた。
「行ってこい」
好機は今。そう合図を飛ばした先にいたのは祀だ。
祀は彼の好意で得た命中と回避の効果を活かすために飛び出す。それに合わせて狼も飛び出すと、彼は自らの刀を軽く掲げ見せて踏み込んだ。
この動きに祀の目が輝く。
「まずは間合いを詰めますよ!」
「はい!」
同じように武器を水平に構えて間合いを詰める。そして狼は右、祀は左、2人同時に挟み撃ちで斬り掛かると妖騎の角が割れた。
『ギュァァァーーッ!』
頭を振り、前足を掲げて抗議する妖騎に、双方の体が吹き飛ばされる。そして尻餅を付いた祀を妖騎が捉えると、シェリーとクロードが彼の前に出た。
「態勢を整えて下さい。来ますよ!」
シェリーの言葉通り妖騎はこちらを目指して地面を掻いている。それを目にしたクロードは「フッフーン♪」と声を上げてステップを踏んだ。
「ンー、見た目はcoolな相手ですネー。強さもそこそこデス! でもワタシたちの敵じゃありマセン!」
ウインク1つで飛び出す彼女に妖騎も飛び出す。ここまでの流れなら、無難に攻撃を受けて他のハンターが攻撃していた。
だが祀が目にしたのは、彼の予想を越えた戦闘方法だった。
「なっ!?」
正面から攻撃を受け止めたクロードの肩に妖騎の折れた角が突き刺さる。
回避など見えなかった。あったのは自分からぶつかると言う謎のスタイル。これには祀も他の面々も呆気にとられたように固まっている。
だが当の本人はそんな空気は何処吹く風だ。
「この程度で倒れるほどヤワな鍛え方はしてないデス! 怪我の痛みは根性で我慢!!」
我慢で如何にかなるのか!? そんな突っ込みが聞こえてきそうだが、クロードは傷を受けなかった方のトンファーを振り上げると、妖騎の顎を割りに掛かった。
「会心のcounter attackをお見舞いネ!!」
踏込みと同時に脳震盪を狙う勢いで棍が頭部を叩く。その強烈な動きに敵の足元が揺らいだ。
「拙者も早く一人前のサムライになりたい……その為にも――拙者の舞刀、見せたげる!」
同じ舞刀士としての意気込みが祀の耳に届く。シェリーは上体低く敵の間合いに踏み込むと、流れるような動きで妖騎の足を薙いだ。
『――ァァアァアッ!』
鈍い音を立て、妖騎が全身を震わせて膝を折った。これこそ最後のチャンスだろう。
「ごー!」
「え、ご、ごー?」
「行けってことデース!」
「は、はい!」
丹々の声に戸惑っていた祀にクロードのフォローが飛ぶ。そしてグレイブが彼の背を押すと、狼が先導するように刃を掲げてみせた。
「円舞で終わらせます。行けますか?」
「はい!」
「シェリーさん、妖騎の後方をお願いします」
返事に笑んだ狼が妖騎の傍にいるシェリーに指示を出す。これに彼女が頷くと、再び祀と狼が左右に分かれた。
「「「三位一体の攻撃――三舞刀士の円舞!」」」
同時に繰り出された満月を描くような3つの刀技。それが妖騎を切裂くと、敵は引き裂かれるような悲鳴を上げて崩れ落ちた。
●
「倒せ、た……?」
「祀殿! やったね!」
「……ぁ、はい」
笑顔で祀を見たシェリーに思わず頬が赤くなる。そして俯いた瞬間、頭を大きな手が叩いた。
「良くやったな」
声を掛けたのはグレイブだ。彼を見上げると手や腕、顔にも火傷らしきものが見える。
「それ黒炎を受けた、傷……」
「ああ、こんなものは直ぐ治る。だろ?」
「Yes! それよりもマツリ、今度の戦いはどうでした? ちょっと前までは、私も一人で歪虚を倒そうとしてましたねー。さっきみたいな無茶やって死にかけたことも何度もあります! 一人で戦うより、皆が一緒なら勝てる確率は格段にあがりますよ!」
「威張ることじゃないですよ……でも、自分一人で戦うのでは無く、誰かの力を借りるのも大事な事です」
えっへん。そう胸を張るクロードの横で狼が控えめな溜息を吐く。その上で祀を見ると、彼は自分を見る輝かんばかりの瞳に気付いた。
「え、と?」
「僕、狼さんのような舞刀士になりたいです!」
「へ?」
「確かに狼殿の闘いは舞刀士として見習うことが多かったね!」
思わぬ反応に戸惑う狼。そしてそんな彼を他所に、意気投合して盛り上がるシェリーと祀。そんな2人に顔を赤くすると、狼の視線が落ちた。
「……なんなんだ、これっ」
そう悪態を零した時、彼の耳に風音とも葉音とも違う音が響いた。そして不思議に思って顔を上げた直後――
「ガッデーーーームッ! ミーを無視するなんてヒッドイデース!!!」
焚火のど真ん中に急降下してきた何かが、炎を吹き飛ばして着地した。
当然これにはこの場にいた全員が驚き飛び退いたが、丹々だけは現れた存在を見て「あ」と声を上げた。
「祀さんをたすけた歪虚……?」
全身に雷を纏い、泣き真似をするフルメットに和風装束の男。まさに祀が話した歪虚にそっくりだ。
「ソーデース。ミーがそこなユーをhelpした歪虚デース。special nameは紫電の刀鬼デス。以後、お見知り置き四露死苦ネー♪」
どう見ても危険な存在であるのに、ノリが変過ぎて危機感が生まれない。
それでもグレイブやラウィーヤは進んで祀の前に立つと、警戒心を露わに己の武器を刀鬼に向けた。
「何の用だ」
「チョーット、そこのユーに聞きたいことがあるデース」
「僕、ですか?」
戸惑う祀に刀鬼は「yes」と頷く。
「ユーは宗野家の末裔デスネ?」
「宗野家?」
なにそれ。そう首を傾げる丹々だったが、祀は落ち着いた様子で「そうです」とだけ答えた。これに刀鬼が満足げに口笛を零す。
「OKデース。ユーが目指すモノはこの先にありマース。ゴーデ~ス♪」
目指すもの。その言葉に祀の目が見開かれるが問いを投げ掛ける暇はなかった。
刀鬼はもう興味がないのか、祀から視線を外すとクロードを見て「Boo!」とブーイングを上げた。
「ユーはミーと被ってマース! チョベリバーデース!!!」
「Why?!」
何を言ってんだこの馬鹿。そんな雰囲気もなんのその。刀鬼は言いたいことだけ言い終えると、来た時と同じように頭上に飛び上がり白くなり始めた空に消えた。
「飛ぶん、ですね……」
「だね」
思わず零れたラウィーヤの声に、丹々が頷く。
そして何とも言えない沈黙の後、シェリーは静かに聞いた。
「……祀殿の目的とは何なのでしょうか?」
聞いても大丈夫ですか? そう伺う彼女に頷きを返す。そして明ける空の向こう、森の先を見詰めて祀は言った。
「父と母の墓があるんです。僕はそこへ行くために妖騎を倒したかった……」
そう声を上げた丹々(ka3767)は、無邪気な表情で祀を振り返ると、彼の強張った表情に目を瞬いた。
今はまだ夜明け前。空には星が浮かぶ中で、丹々は腰に付けたライトを点灯させる。そうして臨戦体勢を取ると前を見た。
「……それにしても、はやい」
先程祀を襲った妖怪はかなりの速さを持っていた。馬のような体躯に巨大な2本の角。一見すれば一角獣にも見えるその妖怪を祀は『妖騎』と呼んでいたと思う。
「祀さん、いこ……う?」
振り返った先。先程まで険しい表情をしていた祀の様子がおかしい。刀を構えたまま目を見開く彼の額には薄らをと汗がにじんでいる。
「あ、れ……足が――」
「ボサッとするな!」
「!」
厳しい声にハッとしたのも束の間。地面に放られる衝撃に目を見張る。そして痛みに顔を顰めながら目を開けると、盾を構えるグライブ・エルケイル(ka1080)の姿が飛び込んで来た。
「グライブさん……僕……」
目の前で妖騎の角を受け止めるグライブに情けない声が零れる。それを耳に彼の肩が竦められた。
「怪我をするな……という方が無理だろうが……せめて無事に帰れるように努めろ」
俺もそうする。と、大きな背中で語る彼に祀の目が瞬かれた。そこに丹々の無邪気な声が飛ぶ。
「だいじょうぶ。祀さんはもうその馬とはたたかえる。だって丹々達と祀さんはいっしょだもん!」
聞こえた声に違和感を覚える。だが疑問を抱く間もなく、彼の腕が引かれた。
「立てますか?」
腕を引いたのは龍華 狼(ka4940)だ。彼は腰に丹々のライトを見ながら自身のそれも点灯させる。そうして不思議そうにこちらを見ている祀に目を向けるとフッと笑んで肩を叩いた。
「初めは皆弱いですよ、諦めずに頑張りましょう」
言って武器を水平に構え、目の前に控える妖騎を見据える。
(……まさかこんな形で東方に帰ってくるなんて……)
悲しい過去と、目的。その双方が狼の胸を過る。
だが今は他所事を考えている場合ではない。
「今は戦闘に集中だっ」
被りを振って駆け出した足は妖騎に向かう。一気に詰める間合いは相手を逃がさない為――だが。
「避けた!?」
狼の動きは見事だった。だが妖騎の方が僅かに上、寸前で回避され思わず声が上がる。
そしてこの結果を見て祀の中に『絶望』と言う文字が浮かぶ。
「今ので当たらない……だったら僕は……」
「祀さん、武器を……」
祀を立ち上がらせて武器を構えさせようするラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457)は、彼の視線を辿るように前を見ると切っ先を妖騎に向けさせた。
「東方でも、精霊と契約するんでしょうか……祀さんは契約の時、何を思いましたか?」
「精霊、ですか?」
「私が契約した時……とても、怖かったんです。でも……負けたくなくて……妹が誇れる、姉になりたくて」
馬鹿ですよね。そう、薄く笑む彼女にハッとする。
だが何か言葉を返す前に、温もりと地面に転がる衝撃が祀を襲った。
「シェリーさん、祀さん!?」
ラウィーヤの声で何が起きたのか察知する。
シェリーに抱えられて地面に転がった祀は無傷だ。そして彼女の肩越しには攻撃を回避され荒立つ妖騎の姿も見える。
「あ、の……」
「大丈夫、みんなと一緒に頑張ろう!」
ニコッと笑ったシェリー・ポルトゥマ・ディーラ(ka4756)の肩に鮮血が滲んでいる。
祀を庇った衝撃で攻撃を受けたのだろう。
「怪我……っ」
「大丈夫、大丈夫だから!」
痛い筈なのに笑顔を向ける彼女の気遣いに胸が痛くなる。思わず目を背けたくなるがここは戦場だ。
地面を蹴るために足を動かす妖騎が見え、祀は震える足を叱咤して立ち上がった。
「ラウィーヤ、壁を……」
「はい、っ!」
祀が立て直すまで攻撃を抑える。そう指示を飛ばしたグライブにラウィーヤが頷く。
そして2人で盾を構えると、その姿に呼応するように丹々や狼、シェリーも武器を妖騎に向けた。
「これが、経験の差……僕にはないもの……」
立つこともままならない自分と、勇敢に妖騎に立ち向かう彼ら。経験だけが差を生むのか。
そう考えた時、ひと際明るい声が響いて来た。
「Hey,マツリ? こういうときは気持ちで負けちゃダメですヨ! No Problem!! 今回はワタシたちが一緒デス!」
「一緒……」
確か。丹々もそう言っていた。
祀はクロード・N・シックス(ka4741)の言葉を反芻することで、先程生まれた違和感の正体を掴む。高みから見下ろすだけではない、寄り添い力を分け与える彼らの姿。
それはこれまで1人だった祀の考えを覆すものだ。
(一緒に……確かに僕はそう言った。でもここまで僕のことを考えてくれるなんて思わなかったんだ……)
「……これが西方の『ハンター』の力……」
思わず苦笑いが漏れる。だがわかったところで妖騎に立ち向かうのが怖い事実は変わらない。だが次のシェリーとラウィーヤの言葉で彼の意識が変わった。
「一度酷い目にあった相手だからきっと怖いと思うけど、今回は一人じゃないから!」
「ですよ、ね。でも……大丈夫、私達は……一人じゃないですから」
わかってくれている。たったそれだけのことが胸の奥をスゥッと軽くした。
「あれ、立てる……それに、っ!?」
グレイブの盾を弾いて迫る妖騎に気付いた。
咄嗟に側面へ転がって攻撃を避けて目を瞬く。
「Wow♪ マツリ、避けれたデース♪」
あまりにもすんなり避けれた事に動揺が隠せない。そんな彼を背に庇い、グレイブは問う。
「自信が無いというのであれば下がっていてもいい。何を選んでも俺の仕事はお前を守ることだ。だから聞かせてくれ、お前はどうしたい?」
「どう、したい……」
問われて周囲を見回す。
するとこの場にいる全員が祀の返答を待っているのが見えた。
1人で怖がって、1人で全部を抱え込んでいる気になっていたさっきとは違う。全員の顔がはっきり見える。
「祀殿」
「祀さん……」
「祀さん」
「マツリ!」
「祀さん!」
励ますように自身を呼ぶ声に鳥肌が立つ。
祀は浮かびそうになる涙を呑み込むと、柄を握る手に力を込めて顔を上げた。
「戦います! みなさんと一緒に!」
1人じゃない。その想いが与える効果のなんと大きいことか。
祀は自分を見て微笑んだ皆に勇気を貰うと、今度こそ自分の足で立って武器を構えた。
●
嘶きを上げて地面を掻く妖騎。明らかに威嚇するその姿に丹々が警戒の声を上げる。
「……遠吠えから攻撃……もしかして、祀さんを覚えてる?」
登場早々に祀を狙ったこと。そして今も祀に狙いを定めている様子から、仕留め損ねた獲物として祀を襲っている可能性はある。
となれば当初の予定通り祀を護りながら戦うのが一番だ。とは言え、まずは相手の足を止めるのが先。
「ん、止める!」
トンッと一歩退いた足。それを起点に駆け出すと、同じく突進してきた妖騎に槍を突きだした。
「どうなるかな!」
突進する相手に槍を突き刺したらどうなるのか。実は少し興味があったのだ。
瞳を輝かせて突出する彼女にラウィーヤが並走する。
「……援護、します!」
焚火が背に控えているので逆行気味で表情が伺えない。それでも聞こえる声は頼もしい。
丹々は彼女に頷きを返すと、ラウィーヤは側面に飛んで胴へ刃を突き入れた。
『キュァァァアアッ!』
吹き出す血のような黒い飛沫。それに刃を濡らしながらラウィーヤは水晶の剣に力を込める。
だが抑え込みを狙って突き入れた刃が、丹々の渾身の一撃を回避するのと同時に妖騎の体から抜けた。
そして妖騎の近くにあった丹々とラウィーヤが思わぬものを目撃する。
「う……う?!」
「え……角、じゃ……?」
目を見開いた直後、グレイブの声が飛んだ――
「避けろ!」
2人の前に出るように盾を構えたグレイブが飛び出す。そして目を赤く光らせた妖騎の角から放たれる黒炎を受け止めた。
「――ッ、く」
ジリジリと盾を焼くような衝撃と熱さ。それらを耐えながら妖騎を見る。
「成程……目が光って、角から……か」
零し、敵の動きを注視する。
大きな攻撃の直後と言うのは隙が生じやすい。そして妖騎も例に漏れず黒炎の後、動きを止めて次の行動を模索していた。
「行ってこい」
好機は今。そう合図を飛ばした先にいたのは祀だ。
祀は彼の好意で得た命中と回避の効果を活かすために飛び出す。それに合わせて狼も飛び出すと、彼は自らの刀を軽く掲げ見せて踏み込んだ。
この動きに祀の目が輝く。
「まずは間合いを詰めますよ!」
「はい!」
同じように武器を水平に構えて間合いを詰める。そして狼は右、祀は左、2人同時に挟み撃ちで斬り掛かると妖騎の角が割れた。
『ギュァァァーーッ!』
頭を振り、前足を掲げて抗議する妖騎に、双方の体が吹き飛ばされる。そして尻餅を付いた祀を妖騎が捉えると、シェリーとクロードが彼の前に出た。
「態勢を整えて下さい。来ますよ!」
シェリーの言葉通り妖騎はこちらを目指して地面を掻いている。それを目にしたクロードは「フッフーン♪」と声を上げてステップを踏んだ。
「ンー、見た目はcoolな相手ですネー。強さもそこそこデス! でもワタシたちの敵じゃありマセン!」
ウインク1つで飛び出す彼女に妖騎も飛び出す。ここまでの流れなら、無難に攻撃を受けて他のハンターが攻撃していた。
だが祀が目にしたのは、彼の予想を越えた戦闘方法だった。
「なっ!?」
正面から攻撃を受け止めたクロードの肩に妖騎の折れた角が突き刺さる。
回避など見えなかった。あったのは自分からぶつかると言う謎のスタイル。これには祀も他の面々も呆気にとられたように固まっている。
だが当の本人はそんな空気は何処吹く風だ。
「この程度で倒れるほどヤワな鍛え方はしてないデス! 怪我の痛みは根性で我慢!!」
我慢で如何にかなるのか!? そんな突っ込みが聞こえてきそうだが、クロードは傷を受けなかった方のトンファーを振り上げると、妖騎の顎を割りに掛かった。
「会心のcounter attackをお見舞いネ!!」
踏込みと同時に脳震盪を狙う勢いで棍が頭部を叩く。その強烈な動きに敵の足元が揺らいだ。
「拙者も早く一人前のサムライになりたい……その為にも――拙者の舞刀、見せたげる!」
同じ舞刀士としての意気込みが祀の耳に届く。シェリーは上体低く敵の間合いに踏み込むと、流れるような動きで妖騎の足を薙いだ。
『――ァァアァアッ!』
鈍い音を立て、妖騎が全身を震わせて膝を折った。これこそ最後のチャンスだろう。
「ごー!」
「え、ご、ごー?」
「行けってことデース!」
「は、はい!」
丹々の声に戸惑っていた祀にクロードのフォローが飛ぶ。そしてグレイブが彼の背を押すと、狼が先導するように刃を掲げてみせた。
「円舞で終わらせます。行けますか?」
「はい!」
「シェリーさん、妖騎の後方をお願いします」
返事に笑んだ狼が妖騎の傍にいるシェリーに指示を出す。これに彼女が頷くと、再び祀と狼が左右に分かれた。
「「「三位一体の攻撃――三舞刀士の円舞!」」」
同時に繰り出された満月を描くような3つの刀技。それが妖騎を切裂くと、敵は引き裂かれるような悲鳴を上げて崩れ落ちた。
●
「倒せ、た……?」
「祀殿! やったね!」
「……ぁ、はい」
笑顔で祀を見たシェリーに思わず頬が赤くなる。そして俯いた瞬間、頭を大きな手が叩いた。
「良くやったな」
声を掛けたのはグレイブだ。彼を見上げると手や腕、顔にも火傷らしきものが見える。
「それ黒炎を受けた、傷……」
「ああ、こんなものは直ぐ治る。だろ?」
「Yes! それよりもマツリ、今度の戦いはどうでした? ちょっと前までは、私も一人で歪虚を倒そうとしてましたねー。さっきみたいな無茶やって死にかけたことも何度もあります! 一人で戦うより、皆が一緒なら勝てる確率は格段にあがりますよ!」
「威張ることじゃないですよ……でも、自分一人で戦うのでは無く、誰かの力を借りるのも大事な事です」
えっへん。そう胸を張るクロードの横で狼が控えめな溜息を吐く。その上で祀を見ると、彼は自分を見る輝かんばかりの瞳に気付いた。
「え、と?」
「僕、狼さんのような舞刀士になりたいです!」
「へ?」
「確かに狼殿の闘いは舞刀士として見習うことが多かったね!」
思わぬ反応に戸惑う狼。そしてそんな彼を他所に、意気投合して盛り上がるシェリーと祀。そんな2人に顔を赤くすると、狼の視線が落ちた。
「……なんなんだ、これっ」
そう悪態を零した時、彼の耳に風音とも葉音とも違う音が響いた。そして不思議に思って顔を上げた直後――
「ガッデーーーームッ! ミーを無視するなんてヒッドイデース!!!」
焚火のど真ん中に急降下してきた何かが、炎を吹き飛ばして着地した。
当然これにはこの場にいた全員が驚き飛び退いたが、丹々だけは現れた存在を見て「あ」と声を上げた。
「祀さんをたすけた歪虚……?」
全身に雷を纏い、泣き真似をするフルメットに和風装束の男。まさに祀が話した歪虚にそっくりだ。
「ソーデース。ミーがそこなユーをhelpした歪虚デース。special nameは紫電の刀鬼デス。以後、お見知り置き四露死苦ネー♪」
どう見ても危険な存在であるのに、ノリが変過ぎて危機感が生まれない。
それでもグレイブやラウィーヤは進んで祀の前に立つと、警戒心を露わに己の武器を刀鬼に向けた。
「何の用だ」
「チョーット、そこのユーに聞きたいことがあるデース」
「僕、ですか?」
戸惑う祀に刀鬼は「yes」と頷く。
「ユーは宗野家の末裔デスネ?」
「宗野家?」
なにそれ。そう首を傾げる丹々だったが、祀は落ち着いた様子で「そうです」とだけ答えた。これに刀鬼が満足げに口笛を零す。
「OKデース。ユーが目指すモノはこの先にありマース。ゴーデ~ス♪」
目指すもの。その言葉に祀の目が見開かれるが問いを投げ掛ける暇はなかった。
刀鬼はもう興味がないのか、祀から視線を外すとクロードを見て「Boo!」とブーイングを上げた。
「ユーはミーと被ってマース! チョベリバーデース!!!」
「Why?!」
何を言ってんだこの馬鹿。そんな雰囲気もなんのその。刀鬼は言いたいことだけ言い終えると、来た時と同じように頭上に飛び上がり白くなり始めた空に消えた。
「飛ぶん、ですね……」
「だね」
思わず零れたラウィーヤの声に、丹々が頷く。
そして何とも言えない沈黙の後、シェリーは静かに聞いた。
「……祀殿の目的とは何なのでしょうか?」
聞いても大丈夫ですか? そう伺う彼女に頷きを返す。そして明ける空の向こう、森の先を見詰めて祀は言った。
「父と母の墓があるんです。僕はそこへ行くために妖騎を倒したかった……」
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相談卓 グライブ・エルケイル(ka1080) 人間(クリムゾンウェスト)|28才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/07/22 01:38:57 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/17 19:47:18 |