• 東征

【東征】少年、寺院にゆく!

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/07/22 15:00
完成日
2015/07/30 05:31

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「大丈夫ですか、篠原さん?」
 青空の下、篠原神薙は汗だくで山道を歩いていた。
 ここは首都圏の結界域から遠く離れた歪虚の支配領域だが、近辺に敵の気配はなくのどかそのものである。
 それもその筈、ここはエトファリカに多数存在する小さな無人島の一つ。ハンターの依頼の目的地としては地味な場所だった。
「浦場さん……俺、これでも一応ハンターですから……」
「ははは。それは立派ですね。しかし、無理はしない方がいい。どれ、そろそろ一休みしましょうか」
 そう言って男が見上げた先には山頂付近の神社へ続く階段が見えた。ここから更に千段上がると聞き、神薙はがくりと膝を折った。

「この近辺には憤怒の歪虚はいないんでしょうか?」
「あまりいないでしょうね。なにせもう人も住んでいないし、重要な施設もない。とうに忘れられた場所です」
 竹の水筒を呷り、神薙は問いかける。階段に腰掛けた浦場という依頼人は穏やかに笑みを湛え。
「各地では大きな戦いが続いているというのに、このようなお願いを聞いてくれてありがとうございます」
「あ、いえ。どっち道、俺はハンターとしては半人前ですから」
 篠原神薙はサルヴァトーレ・ロッソの大転移より少し前にこの世界にやってきたリアルブルー人である。
 彼はファリフ・スコールやヴィオラ・フルブライトと共に旅をしてリゼリオに辿り着いた。
 道中で関わった人々が実はエライ人ばかりだったことに気づいたのは少し後の話。本来であれば全く会話できるはずもない、雲の上の存在ともまともに討論を交わしたりもした。
 しかしその後、神薙はこの歴史の表舞台には立っていない。これまでも自分にできる仕事はしてきたが、大きな戦いで戦果を挙げたとは言い難いだろう。
「……あっ! 半人前だから受けたとかではなく、この仕事を軽視しているわけでは……!」
「わかっていますよ」
 ゆっくり頷かれ、神薙は苦笑を浮かべた。
 今回の依頼は、現在は無人島となっているこの島にある寺院を訪れる事。
 そしてその寺院から、貴重な歴史書を持ち帰る事であった。
「篠原さん達はご存知ないかもしれませんが、この東方には昔から多くの寺院が点在していました」
「天ノ都で聞きました。寺院が地域の人々の学び舎だったんですよね?」
「ええ。篠原さんは勉強家ですねぇ」
 そもそも、エトファリカというのは東方大陸の端にある小国であった。
 歪虚による北方からの侵略が始まる前、東方には幾つもの大国が存在したという。
 そんな東方では様々な文化が栄えていた。西方大陸と同等の大きさがあるのだから、同等の文化の差異もあって当然である。
「エトファリカは、そんな滅んだ国の人々が集まって新たな文化を作った国です」
「だから、中国っぽいところと日本っぽいところとアジアっぽいところがあるのかな……」
「ちゅう?」
「あ、いえ。なんでもないです」
「ともあれ、敗北者達の連邦国なわけですね。その中にはこの寺院という風習も共に合流したわけです」
 寺院の起こりが何時頃なのかはハッキリしていないが、その始祖はやはり転移者であったと言う。
 その転移者が本来この地に伝えようとした教えとは、神を伴うモノであるはずだった。
 しかし、この東方には既に八百万という考え方が先に定着していた為、始祖が伝えた神仏はその一つと捉えられてしまった。
 結果として、神を祀る場としての寺院は形骸化し、「神の教え」の中から道徳を抽出した新たな法典が生み出され、人々はそれを学んだという。
「勿論、神とは無関係な読み書きであるとか、生活の知恵、簡易的な診察所としての役割も持っていました」
「なんでもやっていたんですね」
「やはり、貧しい民と豊かな民というものがありましたからね。寺院は貧しい人々の拠り所だったのです」
 自らを磨く場としての寺院には、己の肉体を鍛える事で精神を高めようという僧侶達も現れた。それが武僧である。
 彼らはその武術を護身術として、あるいは健康維持の手段として民に伝えたという。
 そして、もしも悪人押しかけたのなら、この武を以って追い払い、弱き民を守ったのだ。
「こういった流れが組織化したものを、我々は“武林”と呼んでいます」
「浦場さんも武林の一員なんですか?」
「はい。しかし、僧侶ではありません。最初は武僧の集まりだったのですが、後には武人達の集団として認知されるようになったからです」
 四十八家門であるとか、何らかの組織に所属せず、ただ己の武を磨く者達が居た。
 彼らは基本的に立場が弱く、何らかの事情で追われる事も多かった。その為、彼らを受け入れてくれるのは寺院くらいしかなかったのだ。
「寺院はお金のない武人に宿と質素な食事を提供し、見返りに武人は寺院を守り、人々を助けたわけです」
「へぇ……。じゃあ、浦場さんも修行の旅をしていたんですか?」
「ええ。その中でこの寺院にも立ち寄らせて貰いました」
「なんだか、武林の人ってハンターみたいですね」
 にこにこと笑いながら頷く浦場は汗一つかいていない。細身ではあるが、相当鍛えた武人なのだろう。
「篠原さんは確か、異世界からやってきたのでしたね」
「はい。西方ではもう珍しくもないんですが」
「東方は未だ大転移が起こる前の状況のままですからね。東方でも昔から転移者は救世主であると言われていました。これから向かう寺院には、その書物も眠っていると思いますよ」
 東方に置ける転移者の扱いには神薙も興味があった。そもそも、この依頼を受けた目的がそれに近い。
 神薙本人はそれと気づいていないが、実は戦いの才能も持ち合わせている。
 しかし少年は戦い以外の事で、転移者がこの世界にどんな影響をもたらす事ができるのかを考えてきた。
 第三者、完全な部外者である転移者は、この世界の歪みをまっすぐに捉える事ができる。
 そういう視線を養う為、これまで各地を旅しながら世界の過去、そしてこれまでの転移者について調べてきたのだ。
「もしよかったら、是非それも持ち帰りたいんですが……勝手にとったら怒られますかね?」
「寺院には口伝を書き起こした民話や細かな歴史、各地の出来事を記した書物が沢山あるのです。そうした書物を守る事が亡くなった方々への弔いになるのではないかと」
 納得したように二度頷き、神薙は汗を拭って立ち上がる。
「俄然、興味が出てきました。先を急ぎましょう、浦場さん!」
 階段を駆け上がる神薙だが、いくらか上がった所で躓きつんのめる。ここには鉄製の手すりなんかないので、現代っ子はそのまま膝を打った。
「ああ……篠原さん、ゆっくり、ゆっくり……」
 涙目の神薙を追いかける浦場を見て、ハンター達も長い長い階段を登り始めた。

リプレイ本文

「ふう! いや~、いい眺めだな! 足腰のトレーニングにも最適だ!」
 千段の階段を登り切った近衛 惣助(ka0510)は爽やかに汗を流しながら軽くスクワットして余力を見せつける。
「近衛さんは従軍経験者か何かなのでしょうか……俺は既にうんざりなのですが」
「俺も身体を鍛えるのは好きな方だが、皆が皆そういうわけではないだろう。自然な反応だと思うぞ」
 肩で息をする牧 渉(ka0033)の肩を薬師神 流(ka3856)がそっと叩く。
「うんざりと言えばこっちもなんだけど……」
 青ざめた表情で上がってきたキサ・I・アイオライト(ka4355)。その背後から加茂 忠国(ka4451)がいい笑顔で続く。
「さっきから軟派な台詞が滞りなく出てくる出てくる」
「仕方ないじゃないですか~。どうせなら野郎より美少女に話しかけたいですし~」
 顎に手をやり白い歯を輝かせる忠国。銀 真白(ka4128)はその横顔を凝視し。
「この長さの階段を身振り手振り時折小躍りのような動きさえ入れつつ登り、しかし全く疲労の色を見せないとなると、加茂殿はひょっとすると一角の武人なのではなかろうか?」
 真顔の真白に微妙に脱力する面々。渉は咳払いし。
「あまりこういう事を指摘するのも無粋ですが、加茂さんはキサさんと銀さんの少し下の段をキープしていました」
「はい! つまり、お尻を追いかけていたらいつの間にか到達していただけでっす☆」
 人差し指と中指で作ったブイサイン越しのウィンクにキサの眉がピクリと動く。
「いっそ清々しいな、きみは」
「悪路の集団行軍の場合、先頭が進路を踏み固め後続を牽引すると言うが、階段でも有効なのだろうか?」
 真面目に考えこむ真白。そこへ惣助が声をかける。
「皆見てくれ。あんなところに雑魔が」
 見れば庭を元気に走り回る子犬のようなものが五体。
「あまりいないと言ってもいるところにはいると」
 屈んで様子を伺う渉。見れば走りながらちょくちょく火を吹いている。
「倒すのはいいとして、周囲に燃え移ると厄介ですね」
「階段付近は石造りだ。こちらまで誘導するとしよう」
 流に同意するハンター達。神薙は剣を抜き。
「それなら俺が囮になりますよ」
「勇敢だな。だが、ここは俺に任せて貰えるか?」
 流は振動刀を手に立ち上がる。狛犬に近づいていくと、すぐに反応があった。
 吠えながら一斉に駆け出す狛犬。それを確認し流が反転し戻ってくる。
「……結構かわいいな。歪虚なのが残念だよ」
「こうしていると公園で犬と遊んでいるようにしか見えませんね」
 猟銃を構える惣助。渉の言う通り、なんだかどこか和やかな様子だ。
 しかし引き金は引く。放たれた銃弾は狛犬の一匹に命中。これに気づき、狛犬達が階段付近へ殺到する。
「左右から挟撃するぞ!」
 流の声に従い動き出すハンター達。狛犬は何体か足を止め、口から火炎弾を放った。
「キサちゃん真白ちゃん危ない!」
 忠国はアースウォールを発動。石壁で火炎を妨害し、二人へ駆け寄る。
「ふふっ、どうですか僕のアシストは?」
「はいはい」
 スルーして岩陰から飛び出すキサ。槍を手に駆け出すと、身体を大きく回転させ薙ぎ払うような一撃を放つ。
 槍のリーチを活かした攻撃に狛犬が打たれて転がる。真白はそこへ距離を詰め、刀を振り下ろした。
 マテリアルを帯びた刃が狛犬を切り裂くと、悲鳴と共に小さな身体は闇に消えていく。
 二人が二体を相手にする間、反対側では流と渉が狛犬と対峙する。
 飛びかかる狛犬の動きを目で追い、流はカウンターで振動刀を振り下ろす。打ち払われた所へ渉がダーツを投げつけると、また狛犬が一匹消滅した。
「この加茂忠国、守るだけの男ではありませんよ!」
 スリープクラウドを敵集団目掛け放つ忠国。丁度敵を包囲する陣形だったこともあり、効果は抜群だ。
「うっ、心が痛む……」
 安らかに眠っている狛犬に申し訳なさそうな惣助。放たれた弾丸は青い軌跡を描き、着弾と同時に狛犬を凍結させる。
 起き上がる間もなく砕け散る狛犬の姿にちょっとやりすぎたかと思い悩む惣助であった。
「相手が動かないのは、実際楽よね」
 寝転がっているのだから余程の事がなければ攻撃だって外さない。
 キサの槍が狛犬を貫通する。これで更に一体。神薙が機導で雷を纏わせた剣で切り裂き更に一体が倒れる。
 残り一体を始末しようとハンターが動く前に、浦場の放った矢が額を貫く。
「いやはや。西方のモノノフというのも、中々の手際ですね」
 ハンター達はほぼ無傷で、寺院への被害もなく、障害は速やかに排除された。
 その結果はハンターに明るくない浦場からしても、十分なものだったようだ。



「……で、書物だけど。寺院内のどこに保管されているの?」
「併設された書庫か、住職の部屋でしょうね」
 キサの質問に笑顔で応じる浦場。
「この場で読みたいけど、貴重なものなのよね。破損させたりしないかしら?」
「こればかりは状態によりますが、そもそも全てを持ち帰ることは出来ません。ある程度状態や内容を確認し、厳選しなければなりませんから」
「古書の扱いには一応の心得がある。そういう事なら、状態の良い物を集めるとしよう」
 二人の話に流がそう結論付ける。
 まだ歪虚が残っていないとも限らない。ハンター達は寺院の見回りも兼ね、半々に人数を分け、住職の部屋と書庫を目指す事にした。

 木造の書庫の扉は木製の閂で塞がれていたが、ハンターの力なら開くのに苦労はしなかった。
「出入りが制限されていたという事は、歪虚も中にはいないでしょうね」
 扉の向こうを覗き込む渉。惣助がライトをつけると、舞い上がった埃が視界を遮る。
 少し待てばそれも落ち着き、比較的保存状態のよい本棚が目についた。
「ほう……。これならば手にとっただけで崩れるような事はないだろうな」
「これは……漢字でしょうか?」
 紐で綴られた書を手に取る渉。惣助も開いてみるが、やはり漢字に近いように思える。
「雰囲気で読めそうな気もするな」
「そういえば、我々はリアルブルーの……しかも日本からの転移者だったね」
 流の言う通り、書庫を確認しに来た四人は所謂日本人である。
「しかし、この辺りの書は全く読めんな。サンスクリッド語に近いようだが……」
「少し事前に調べたのですが、エトファリカで元々使われていた文字と、東方大陸各地で使われていた文字は違ったらしいですよ」
「恐らく漢字圏以外からの転移者も多かったのだろうな」
 神薙の解説に頷く惣助。見れば棚には様々な文字で記された書が、しかしある程度整頓されて並んでいるようだ。
「エトファリカは連邦国で、歪虚に故郷を追われた東方各地の小国が集まって出来たそうです。寺院はそういう人達にとっても拠り所だったんでしょうね」

「それにしても、まさかこうして東方を歩ける日が来るとは思ってなかったわ」
 寺院の構造を興味深そうに眺めるキサ。一方、真白は高台から見下ろす竹林、そして海を見つめていた。
「素晴らしい眺めだ」
「そうね。あれだけ階段を登らせただけの事はあるわ」
「私は東方の出身なのだが、その記憶は殆どないのだ。郷愁の念でも湧くかと期待したのだが、やはり見知らぬ土地だったよ」
 肩を並べる二人、そこへ本を抱えた浦場が部屋を出てくる。
「ここには昔、故郷を追われた人々が身を寄せていました。彼らはこの高台から遠いふるさとを想っていたのかもしれませんね」
「……ウラバ。ごめんなさいね、ぼんやりしてしまって」
「いえいえ。私がざっと厳選しますので、皆さんは運んで貰えれば」
「これはどんな書なの?」
「この地と近隣の島々に住んでいた人々の生活の記録と、彼らが故郷について書いてある……と、思います」
 少し自信なさ気に、しかし笑顔で答える浦場。真白は書を手に取り。
「浦場殿は武人でありながら古語にも明るいのですね」
「皆さんより少し長く生きているだけですよ。私自身、故郷を追われた流浪の民でしたから。武林に属した事も高い志からではなく、生活の為にやむを得なかっただけの事なのです」
 長らく歪虚の脅威が身近だった東方において、武は民にも親しい物であった。
 それらを広く、そして損得に関係なく与える場として、寺院は活躍していたのだという。
「それで、これを運び出せばいいんですか?」
 いつの間にか近くに立っていた忠国に目を向ける女子二人。
「美少女達が並んで語らう様子は美しくて見ていて飽きなかったのですが、おじさんが画面に入ってしまったのでそろそろ働こうかと思いまして」
「ははは。では、この風呂敷に包んで運んで頂けますか?」
 特に何事もなかったかのように作業が進むと、キサと真白もそれに参加するのであった。

 集められた本は寺院の外に運び出され、階段の脇の木陰に並べられる事になった。
 結局の所浦場にしか厳選が出来なかった為、彼が仕分けた本を只管風呂敷に包んでいく。
「既にざっと五十冊以上あるのですが、これを持って帰るんですよね……」
 うんざりした様子の渉。そう、これから千段階段を降り、山道を歩いて船に戻るのです。
「浦場さんは、四十八家門とは無関係だったんですか?」
 作業の気を紛らわすように惣助が声をかける。
「私自身はそうですが、武林の中には四十八家門に仕えたり、或いはその当主となった者もいましたよ。しかし、武林自体今は殆ど組織として機能していませんからね……」
 東方にあった歴史も文化も、今や記憶する者すら途絶えつつあるのが実情だ。
「この国は俺達の故郷に似ている……だが、話を聞けば聞く程、俺の知る日本とは違うものだと思い知らされるな」
「そういえば、あなた達は日本人なのよね」
 キサの言葉に頷く流。忠国も手を挙げ。
「はいはーい! 僕も転移者ですよー!」
「私の母さんがね、日本人だったのよ。どんな所だったのかなと思って」
「今まで見てきた限り、東方はかなり日本に近いと思うぞ」
「そうですね。まあ、現代の日本というわけではないようですけど」
 惣助の説明を補足しつつ、神薙は頷く。
「特に、俺はコロニー……宇宙で育ったから、本物の日本人かというと微妙なんだ」
「宇宙……りあるぶるーでは、そんな所に暮らす者がいたのだな」
 流石に驚いた様子の真白。クリムゾンウェストでは信じられないような話である。
「私の母は、私が生まれる前からずっと帰りたがっていたそうよ。母が夢見た故郷がどんな所なのかと思ったんだけど……今の東方とは少し違うのね」
 そんなしみじみとしたキサの言葉に、神薙は思わず肩を落とし。
「そっか……帰れなかったんだね。でも、殆どの転移者が帰れないまま、この世界で生きていく事になったんだよね」
「えっと……もしかして、落ち込ませてしまったかしら?」
「状況は理解しているつもりだがね。ただ、帰りたいと思う時もある。故郷とはそういう物だよ」
 流の言うように、ハンター達は故郷に想いを馳せていた。
「僕は別に美少女が居ればどこでもいいような……」
 真剣に思い悩む忠国を除き。
「私は、私を待つ家族の顔も、帰るべき故郷の事も覚えていない。もしかしたらそれは幸運なのかもしれないな」
「でも、東方の生まれというのは確かなんでしょ? なら、きっといつか帰れるよ」
 優しく笑いかける神薙。真白は目を瞑り、小さく頷いた。
「そういえば、鬼に関する資料はないんですか? 聞けば鬼は歪虚ではなくヒトらしいじゃないですか」
 本を適当に捲りながらの忠国の問い。浦場は腕を組み。
「鬼ですか。もしかしたらあるかもしれませんね」
「今は敵同士ですけど、彼らがヒトと敵対した理由が民話から読み解けるのではないか……と思うんですよ」
「日本の昔話にも鬼は出てくるが、それとの類似性が見つかれば、また何かわかるかもしれないな」
「でもこれ読めないんですよねぇ」
 忠国や惣助の目には一応漢字のように見えるものもあり、雰囲気でどんなことが書いてあるのかわからなくもないが……。
「この場ではわからないけど、ソサエティに持ち帰れればパルムが翻訳してくれると思うよ。俺、これまで集めた古書もそうやって読んでるから」
「ほほお。そのような事が可能なのですねぇ。私は世俗に疎いもので……」
 浦場が驚くのも無理はない。東方ではハンターもソサエティも稀有な存在なのだ。
「俺の方でソサエティに調査を依頼して、何かわかれば皆さんにもお伝えするようにします」
「……その歳で立派なものだな。危険を承知でここまで来たのだ、強い信念を持っているのだろうね」
「い、いえ。俺はただ、人と人とがもっと分かり合えたらいいなと思っているだけですから」
 ただの高校生、しかも争いを好まない大人しそうな少年である神薙だが、その行動力はかなりのものだ。
 人の相互理解という目的はどこか綺麗事に聞こえるが、少なくとも流の目には真摯に映る。
「そういえば、東方にはハンターという制度が根付いていなかったから、転移者がより貴重だったのか?」
「その通りです。それにですね、実際に過去には東方を救おうと戦った何人かの英雄がいたのですよ」
 惣助の疑問に答える浦場。まとめていた本から一冊取り出し。
「東方の大精霊、黒龍。その力を受けた術者がスメラギと呼ばれる皇族でした。そして黒龍は一部の転移者にも同じくその力を与えたと言います。黒龍の力を受けた転移者は救世主とされ、彼を筆頭に人々は団結し歪虚と戦ったそうですが……」
「ですが?」
「東方の現状を鑑みるに、救世主がどのような末路を辿ったのか、想像に難しくないでしょうね」

 大きな風呂敷にまとめた書物は百冊を超える。それでも持ち帰れないものは書庫に戻し、ハンター達は帰路についた。
「戦闘で余力も残しましたし、帰りは覚醒して帰っても許されますかね……」
 げんなりした様子で階段を下りる渉。惣助は軽い足取りで荷物を背負直し。
「これもいい経験だ。いずれ俺達の世界に戻った時にはいい土産話になるよ」
「元の世界に……戻れるんでしょうか」
 ぽつりと神薙が呟く。勿論、それに答えられる者はいなかった。
「ねえ。シノハラがどんな生活を送っていたのか、そのコロニーって所の話でいいから教えてくれないかしら?」
「星空の話か。それは面白そうだ」
「はいはいはーい! それなら僕が話しますよー!」
 キサと真白が神薙と話そうとすると忠国が飛び込んでくる。
「それはともかく。人と人とが分かり合うというのなら、鬼もその中に入れるといいですね」
「そうだな。人間同士が傷つけあうなんて、悲しすぎるもんな」
「更にそれはさておき、ラキちゃんを紹介してくれませんか?」
「え? 別にいいけど……なんで?」
 ゆったりとした時間は眩い日差しの中に溶けるように消えていく。
 得られた知識が何を変えるのか。それはまだ、誰にもわからない事である。

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MVP一覧

  • 歩む道に、桜
    薬師神 流ka3856

重体一覧

参加者一覧

  • 探し物屋
    牧 渉(ka0033
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 歩む道に、桜
    薬師神 流(ka3856
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • 正秋隊(雪侍)
    銀 真白(ka4128
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 境界を紡ぐ者
    キサ・I・アイオライト(ka4355
    エルフ|17才|女性|霊闘士
  • それでも尚、世界を愛す
    加茂 忠国(ka4451
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 書物回収について
銀 真白(ka4128
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/07/22 05:58:04
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/07/17 20:58:00