ゲスト
(ka0000)
壺
マスター:革酎

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/27 22:00
- 完成日
- 2015/08/03 05:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
とある地方の町に、マダム・デヴィニダスという少しばかり有名な富豪が居た。
先日、この地方の領主が、マダムからの寄付金への謝礼として、彼女に高価な壺を贈答した。
マダムは、
「あらあらあら、実に素晴らしい逸品ですわね。このわたくし、ひと目見て分かりましたわよ。これは、かの有名な陶芸家の作品でございますわね。このわたくしの目に狂いはありませんわ」
などとご機嫌の極みで、それはもうたいそう喜びに喜んだのだという。
ところが――。
* * *
駆け出しのハンター、ケルティス・アービンは拝みに拝み倒している領主の姿に、すっかり困惑していた。
「そのう、マダム・デヴィニダスのお手元にある壺を、本物とすりかえて欲しいというのは、一体どういうことなんでしょう?」
ケルティスの問いに、領主は憔悴し切った表情で、今にも泣きそうな勢いを見せながら答えた。
曰く、渡す品を間違えたのだという。
今、マダムの手元にあるのはイミテーション品で、本物は現在も領主の手元にあるのだという。
勿論、領主はマダムを騙すつもりなど毛頭無く、最初から本物の壺を渡すつもりだったのだが――。
「いかんせん、彼女はご自分の眼力には相当な自信をお持ちだ。もしあの壺が偽物だ分かれば、本物に間違いないといい切っていた彼女のプライドをずたずたに引き裂いてしまうことになる」
だから、マダムに気付かれないように何とか壺をすりかえて欲しい、というのである。
それも極々自然な形で、こっそりとさりげなく、という注文つきだ。
そんなもん無理でしょうというか、そもそもハンターに依頼するような話ですか、と普通の場慣れたハンターなら速攻で蹴ってしまうような話であったが、ケルティスはまだまだハンターとしては素人に等しい。
彼はこの依頼を恐ろしく重大なものであると解釈し(正確にいえば、錯覚し)、領主が哀れにも思えてきて、受諾することにした。
* * *
しかし、問題は方法である。
どうやって、壺をすりかえるか。
領主の館を出て、馬車道をてくてくと歩きつつ頭をひねっていたケルティスは、不意にグッドアイデアを生み出した。
「そうだ……一度誰かに強奪させて、それを取り返す風を装いつつ、本物とすりかえれば良いんだ」
但し、ひとつ問題がある。
誰が強奪役を演じるか、であった。
ここでケルティスの軽い脳みそが高速回転を始めた。先日、同僚の年若い娘がひとりの野盗と知り合い、マヴダチになったのー、というような話を聞いた。
きっとその野盗さんなら強奪役ににぴったりに違いない。
ケルティスはすっかり自己完結してしまい、他人様の都合とか迷惑なんぞを考えぬまま、その野盗と早速コンタクトを取ってみることにした。
* * *
とある、酒場にて。
片耳隻眼の凄腕戦士ゼルガッソは、野盗としても名の知れた存在である。
但し、野盗としては現在、事実上の開店休業中にあるゼルガッソであったが、彼は自分を呼び出した年若いハンターの顔をおよそ三分間、じろじろと眺め続けた。
ゼルガッソは、先日知り合ったハンターの少女からの紹介ということで、ケルティスとの面会に応じていた、のだが――。
「いやぁ、良いですねぇ。その片目片耳、いかにも野盗っていう感じで、雰囲気出てますね。是非、お願い出来ませんか。領主さんからはあなたを雇うことで了解を得てますし、その分の予算も確保して下さってます。基本給に交通手当、後はちょっと危ない橋を渡って頂きますので危険手当も三割増しで。今なら三度の食事つきも契約に含めることが出来ます」
一方的に話を進めるケルティスに、ゼルガッソは言葉を挟む隙も見出せない。
この若造、ハンターなんぞやめて営業職に鞍替えしたら良いんじゃないか、と腹の底で思ったぐらいだ。
結局あれよあれよといってるうちに、何故か契約が成立してしまっていた。
「ひとりだけじゃ不自然ですので、ハンターの方からも何人か野盗役を出しますから、是非ご安心下さい」
訳も分からず何枚かの書類にサインさせられて、幾分呆気に取られているゼルガッソを尻目に、ケルティスは上機嫌で酒場を飛び出していった。
そんなケルティスの後ろ姿を眺めながら、ゼルガッソはぼそりと、小さくひとこと。
「……いまどきのハンターって、皆あんなのばっかりか?」
先日、この地方の領主が、マダムからの寄付金への謝礼として、彼女に高価な壺を贈答した。
マダムは、
「あらあらあら、実に素晴らしい逸品ですわね。このわたくし、ひと目見て分かりましたわよ。これは、かの有名な陶芸家の作品でございますわね。このわたくしの目に狂いはありませんわ」
などとご機嫌の極みで、それはもうたいそう喜びに喜んだのだという。
ところが――。
* * *
駆け出しのハンター、ケルティス・アービンは拝みに拝み倒している領主の姿に、すっかり困惑していた。
「そのう、マダム・デヴィニダスのお手元にある壺を、本物とすりかえて欲しいというのは、一体どういうことなんでしょう?」
ケルティスの問いに、領主は憔悴し切った表情で、今にも泣きそうな勢いを見せながら答えた。
曰く、渡す品を間違えたのだという。
今、マダムの手元にあるのはイミテーション品で、本物は現在も領主の手元にあるのだという。
勿論、領主はマダムを騙すつもりなど毛頭無く、最初から本物の壺を渡すつもりだったのだが――。
「いかんせん、彼女はご自分の眼力には相当な自信をお持ちだ。もしあの壺が偽物だ分かれば、本物に間違いないといい切っていた彼女のプライドをずたずたに引き裂いてしまうことになる」
だから、マダムに気付かれないように何とか壺をすりかえて欲しい、というのである。
それも極々自然な形で、こっそりとさりげなく、という注文つきだ。
そんなもん無理でしょうというか、そもそもハンターに依頼するような話ですか、と普通の場慣れたハンターなら速攻で蹴ってしまうような話であったが、ケルティスはまだまだハンターとしては素人に等しい。
彼はこの依頼を恐ろしく重大なものであると解釈し(正確にいえば、錯覚し)、領主が哀れにも思えてきて、受諾することにした。
* * *
しかし、問題は方法である。
どうやって、壺をすりかえるか。
領主の館を出て、馬車道をてくてくと歩きつつ頭をひねっていたケルティスは、不意にグッドアイデアを生み出した。
「そうだ……一度誰かに強奪させて、それを取り返す風を装いつつ、本物とすりかえれば良いんだ」
但し、ひとつ問題がある。
誰が強奪役を演じるか、であった。
ここでケルティスの軽い脳みそが高速回転を始めた。先日、同僚の年若い娘がひとりの野盗と知り合い、マヴダチになったのー、というような話を聞いた。
きっとその野盗さんなら強奪役ににぴったりに違いない。
ケルティスはすっかり自己完結してしまい、他人様の都合とか迷惑なんぞを考えぬまま、その野盗と早速コンタクトを取ってみることにした。
* * *
とある、酒場にて。
片耳隻眼の凄腕戦士ゼルガッソは、野盗としても名の知れた存在である。
但し、野盗としては現在、事実上の開店休業中にあるゼルガッソであったが、彼は自分を呼び出した年若いハンターの顔をおよそ三分間、じろじろと眺め続けた。
ゼルガッソは、先日知り合ったハンターの少女からの紹介ということで、ケルティスとの面会に応じていた、のだが――。
「いやぁ、良いですねぇ。その片目片耳、いかにも野盗っていう感じで、雰囲気出てますね。是非、お願い出来ませんか。領主さんからはあなたを雇うことで了解を得てますし、その分の予算も確保して下さってます。基本給に交通手当、後はちょっと危ない橋を渡って頂きますので危険手当も三割増しで。今なら三度の食事つきも契約に含めることが出来ます」
一方的に話を進めるケルティスに、ゼルガッソは言葉を挟む隙も見出せない。
この若造、ハンターなんぞやめて営業職に鞍替えしたら良いんじゃないか、と腹の底で思ったぐらいだ。
結局あれよあれよといってるうちに、何故か契約が成立してしまっていた。
「ひとりだけじゃ不自然ですので、ハンターの方からも何人か野盗役を出しますから、是非ご安心下さい」
訳も分からず何枚かの書類にサインさせられて、幾分呆気に取られているゼルガッソを尻目に、ケルティスは上機嫌で酒場を飛び出していった。
そんなケルティスの後ろ姿を眺めながら、ゼルガッソはぼそりと、小さくひとこと。
「……いまどきのハンターって、皆あんなのばっかりか?」
リプレイ本文
●打ち合わせ
ハンター役と野盗役に分かれて、壺を本物とすりかえるだけの簡単なお仕事です――。
ケルティス・アービンからの仕事ということで、本当にそんなに簡単な内容なのかと半信半疑で集まった四人のハンター達は、同じく今回の依頼に、本物の野盗でありながらあくまでも『野盗役』という形で参加しているゼルガッソのただならぬ雰囲気に、思わず顔を見合わせていた。
六人は、騒ぎを起こす舞台となるマダム・デヴィニダスの館に程近い街道脇の廃屋で、どういう段取りで壺をすりかえるのかを確認する為の打ち合わせを行っていた。
ところがどういう訳か、ゼルガッソは打ち合わせ開始早々に酒を要求してきたのだ。
「おぅ、何でも良いから酒くれ、酒」
「こんな昼間っから一杯やってて、大丈夫か?」
仕方無さそうに持参していた缶ビールをゼルガッソに手渡しながら、シェイス(ka5065)は幾分呆れた様子で眉間に皺を寄せる。
シェイスから受け取った缶ビールを、ほとんど一気飲みに近しい勢いで空っぽにしてしまったゼルガッソは、更にもっと寄越せと要求してきた。
すると今度は、フィルメリア・クリスティア(ka3380)が持参していた二本の缶ビールを荷物の中から取り出して、不思議そうな面持ちで小首を傾げながらゼルガッソに手渡してやった。
「何だか、ヤケ酒みたいな飲み方ね……一体、どうしたの?」
「俺が、変な気を起こさねぇ為だよ」
フィルメリアはゼルガッソがいっている意味が、よく分からない。
ハンター役で参加しているノノトト(ka0553)やユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)も、その真意を理解出来ない様子で、不思議そうな眼差しでゼルガッソを凝視した。
「えぇっと……そんなに、今回の依頼はややこしそうな感じですか? ただ、お芝居するだけなのに?」
「普通に壺をすりかえるだけなのでしょう? 何をそんなに、心配しているのですか?」
するとゼルガッソは、やや酔っぱらった様子で幾分顔を赤く染めながら、渋い表情を浮かべた。
「あのな、俺は本職の野盗だぜ。その壺とやらを見て、変な気を起こしたらどうする」
「あぁ、成る程、だから」
ようやく、フィルメリアも納得した。
敢えて酔っぱらうことで野盗としての本能が目覚めることを防止した上で、依頼された仕事をしっかりこなそう、という意図なのであろう。
「さすがゼルガッソさん……プロですね。お仕事完了の暁には、是非ともクッキーを進呈させて下さい」
ノノトトの申し出に、ゼルガッソは一瞬ぎょっとした表情を浮かべた。
「頼むから、今度は水も一緒に用意してくれ」
「あ、じゃあその一本を後に取っておけば良いのでは?」
ユーリの提案は、一見すると尤もらしいのだが、少しばかり問題が無いことも無かった。
「うぅむ、ビールにクッキーか……」
合う合わないは別として、一応ビールも飲み物であろう。
●いざ、お仕事
夜になって、五人のハンターとひとりの野盗はそれぞれの配置についた。
まずはシェイス、フィルメリア、ゼルガッソの三人がデヴィニダス邸内へと押し入り、幾分派手目に暴れながら、例のイミテーションの壺を強奪した。
と、そこへまるで打ち合わせたかの如く(いや、実際打ち合わせたのだが)、ノノトト、ユーリ、ケルティスの三人が『偶然』通りかかって、壺を持ち出そうとする三人とすったもんだの丁々発止を繰り広げ始めた。
「やぁやぁ、ぐうぜんハンターがとおりがかってよかった! かくごしろどろぼうめー!」
「逃げられませんよ、観念なさいッ!」
びっくりするぐらい棒読みのノノトトに対し、ユーリは随分と自然な演技だ。
対する三人の野盗役は、予定通りに中庭の物置方面へと走る。
魔道面と外套で素性を隠しているフィルメリアとは対照的に、シェイスは随分とオープンだったが、それでも手拭いで口元を隠しているから、大丈夫といえば大丈夫だろうか。
「面倒事は避けたいけど、お仕事の邪魔になるなら、対処はさせてもらいますからね」
威嚇射撃を放ちながら中庭へと走るフィルメリアの後に、シェイスとゼルガッソが続いた。
「ボスッ! どうしますか、こいつら、やっちまって良いっすかッ!」
シェイスも野盗役としては、ノリにノッている方であろう。
ともあれ両者は適当に斬り結び、適当にやりあって、一応ハンター役の側が壺を奪い返しつつある――というところまでは段取り通りに進んだ。
「ケルティスお……兄さんこっちこっち」
ノノトトがケルティスを手招きしながら、中庭へと飛び込む。
既にそこでは、先行していたユーリがシェイスとフィルメリアを相手に廻して、割りと本気っぽい戦いを演じていた。
騒ぎを聞きつけたメイドや執事といった連中を前にして、ハンター役と野盗役は大立ち回りを演じている。
多少の手傷を負うことは、ユーリ自身も覚悟していた。
幸い、ユーリはシェイスとフィルメリアという二枚の壁を相手にしている為、ゼルガッソと直接剣を交えることは無かった。
今のゼルガッソは、結構酔っぱらっている。
昔どこかの安全週間の標語で、飲むなら持つな、持つなら飲むな、というのを聞いたことがあったような気がした。
ゼルガッソは今まさに飲酒戦闘の真っ最中だから、あまり近寄りたくなかった。
シェイスも若干、ビールが入っている。
ゼルガッソひとりが酒臭いのは不自然だということで、飲み残しのビールを少しばかり胃の中に放り込んでいた。
が、バタフライナイフを順手で振り回している分には、無害に近いといって良い。
ユーリの得物にバタフライナイフを弾き飛ばされる演出も、中々真剣味があって及第点の演技だった。
魔導ガントレットと刀で応戦しているフィルメリアも、シェイスと同様に幾分アルコールが入っているとはいえ、ユーリ相手に大健闘だ。
やがてユーリが、壺の奪還に成功した。
「えぇい、糞ッ! このポンコツ、こんな時にッ!」
シェイスも芸が細かい。
あらかじめジャムるように細工を施しておいた拳銃を取り出し、不発に終わる様子を自ら罵ることで不自然さを消していた。
「ボス、どうしたら良いっすかッ!?」
「あぁまぁ、何か適当にやっとけ」
困ったことに、ゼルガッソが一番適当だった。酔っぱらってるから、仕方が無いといえばそうなのだが。
ともあれ、本物の壺がユーリの手に渡り、後は野盗側が何か理由をつけて退散するばかりという段まで話が進んだ。
問題は、この後である。
如何にしてマダムに対して、説得力のある展開を見せつけるか、であるが――。
「ちょっとちょっと、この騒ぎは一体、何事ですのッ?」
中庭での騒ぎを聞きつけて、やたらセクシーな薄着姿のマダムが飛び出してきた。
これが妙齢の美女であれば男共の視線も釘付けになるのだが、いかんせんマダムはお歳もお歳で、その体形も決して美麗で絶妙なプロポーションという訳にはいかない。
寧ろ目にした瞬間、ある者は殺意が芽生え、ある者は精神の耐久性を試される程の破壊力を具えていた。
「で……出たぁ~ッ!」
ノノトトが思わず、本気の本気で恐怖に打ち震えながら叫んだのも、無理は無いだろう。
あのゼルガッソも、マダムの殺人的セクシー衣装には耐えられなかった様子で、あやうく胃の中の物を全部吐き出しそうになったのだが、何とか堪え、酒臭いゲップだけに留めたのは流石というべきか。
ところが、そのゲップを真正面から喰らってしまったノノトトが、その余りの臭さに卒倒してしまった。
ノノトトは、涙目になりながら本物の壺を抱えているユーリに向けて叫んだ。
「ユーリお姉さん、あの壺をマダムに届けて下さいよッ! あれは、良いものだぁーーーーッ!」
ノノトト、大往生(注:死んでません)。
●ホウレンソウを終えるところまでがお仕事です
「良いなぁ、ノノトトさん、なんか、美味しい役どころで」
「え、そこ感心するところですかッ?」
何となく羨ましそうに眺めているケルティスに、ユーリがぎょっとした顔を見せた。
「ふッ……ツッ込んで良いのは、ツッ込まれる覚悟のある奴だけだ」
全然関係の無いところでニヒルな笑みを浮かべるシェイス。
ユーリはひとり、混乱した。
(えぇッ? ボケとツッ込みって役割分担してるんじゃなかったんですかッ!? ツッ込み同士で、それで漫才成立するんですかッ!?)
何だか違う方向に、混乱しているようであった。
人類にとってボケとツッコミ理論は永遠のテーマであったろうが、今はとにかく、仕事を進めなければならない。
ノノトトが卒倒したことで、野盗役は離脱のタイミングを得たといって良い。
「くそッ、ここは退却だッ! あんなの見せられたら、壺どころじゃねぇよッ!」
「あぁ、何と恐ろしい……ここは、魔窟だったのですねッ!」
シェイスとフィルメリアが立て続けに挑発的な台詞を放ったものだから、マダムも黙っていられない。
「何をしているのですかッ、さっさと追いなさいッ!」
ところが、ハンター役の側にもいい訳が出来た。
マダム自身の、その容姿であろう。
「いえ、それは無理です……こちらもひとり、尊い犠牲を出してしまいました。この戦力で追跡したら、返り討ちに遭ってしまいます」
ユーリは、白目を剥いてぴくりとも動かないノノトトを抱え上げ、月に向かって慟哭しているケルティスに、悲哀の視線を向けた(注:死んでません)。
当のマダムは自分が原因だとは露とも思っていないが、こんな光景を見せられたら『それでも良いから追いかけろ』とは流石にいえない様子だった。
「それにしても、向こうは酔っ払いも居たみたいでしたのに、わたくしが出てくるまで、さっさと片付けられなかったものですか?」
「それは危険です……下手に全力で戦えば、この大事な壺が割れてしまう恐れがありましたから」
だからこそ、マダムの出現で取り逃がしてしまったことが悔しいといわんばかりに、ユーリは露骨な程に歯噛みしてみせたのだが、それでもマダムは自分が原因だとはちっとも気づいていない。
仕方無く、ユーリは本物にすりかえた壺をマダムにそっと手渡した。
マダムも非常に単純な性格なのか、ユーリの説明を受けて、あぁ成る程と納得している。
三日後、一同は例の打ち合わせ用の廃屋で再び、顔を合わせた。
「お疲れ様ですー。はい、これ。ゼルガッソさん、クッキー好きでしょ?」
心の傷が癒えたノノトトが、いつもの笑みで御礼のクッキーをゼルガッソに差し出した。
空腹のゼルガッソは口の中がぱっさぱさになるのも厭わず、ノノトトに貰ったクッキーを盛大な勢いで頬張り始めた。
やっぱり、ビールには合わないのか。
フィルメリア曰く、あの日の晩に残りの一本も空けてしまったそうだ。
「もうな、あんなとこで依頼受けんじゃねぇぞ」
ゼルガッソのひと言に、ケルティスは何度も大きく頷き返していた。
昼間ならいざ知らず、夜にデヴィニダス邸を舞台とするような依頼はある意味、命がけだった。
「ところでゼルガッソさん。ハンターと仲良くなんてお嫌でしょうけど、良かったら、何か奢らせてもらえませんか?」
立場は違えど、契約上で見知った仲なのだから、このような縁も大事にしたいというのが、フィルメリアの素直な気持ちだった。
すると最初に食いついてきたのはゼルガッソではなく、シェイスだった。
「乗った。なんだかんだで結構大変だったからな。酒場で一杯ぐらいやったって、罰は当たらねぇだろう」
そんな訳で野盗役の三人は、そのまま連れ立って近くの村の酒場へと繰り出していった。
残ったハンター役のうち、ケルティスは領主への報告が待っている為に早々と廃屋を去っていったが、ユーリとノノトトは、何ともいえない表情でしばらく、廃屋に残っていた。
「……今回の依頼、もっと楽に進むと思ったんですけどね」
「え、楽じゃなかったです?」
ユーリの反応に、ノノトトはがっくりと項垂れた。
結局大変だったのは、ノノトトひとりだけだったのかも知れない。
ハンター役と野盗役に分かれて、壺を本物とすりかえるだけの簡単なお仕事です――。
ケルティス・アービンからの仕事ということで、本当にそんなに簡単な内容なのかと半信半疑で集まった四人のハンター達は、同じく今回の依頼に、本物の野盗でありながらあくまでも『野盗役』という形で参加しているゼルガッソのただならぬ雰囲気に、思わず顔を見合わせていた。
六人は、騒ぎを起こす舞台となるマダム・デヴィニダスの館に程近い街道脇の廃屋で、どういう段取りで壺をすりかえるのかを確認する為の打ち合わせを行っていた。
ところがどういう訳か、ゼルガッソは打ち合わせ開始早々に酒を要求してきたのだ。
「おぅ、何でも良いから酒くれ、酒」
「こんな昼間っから一杯やってて、大丈夫か?」
仕方無さそうに持参していた缶ビールをゼルガッソに手渡しながら、シェイス(ka5065)は幾分呆れた様子で眉間に皺を寄せる。
シェイスから受け取った缶ビールを、ほとんど一気飲みに近しい勢いで空っぽにしてしまったゼルガッソは、更にもっと寄越せと要求してきた。
すると今度は、フィルメリア・クリスティア(ka3380)が持参していた二本の缶ビールを荷物の中から取り出して、不思議そうな面持ちで小首を傾げながらゼルガッソに手渡してやった。
「何だか、ヤケ酒みたいな飲み方ね……一体、どうしたの?」
「俺が、変な気を起こさねぇ為だよ」
フィルメリアはゼルガッソがいっている意味が、よく分からない。
ハンター役で参加しているノノトト(ka0553)やユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)も、その真意を理解出来ない様子で、不思議そうな眼差しでゼルガッソを凝視した。
「えぇっと……そんなに、今回の依頼はややこしそうな感じですか? ただ、お芝居するだけなのに?」
「普通に壺をすりかえるだけなのでしょう? 何をそんなに、心配しているのですか?」
するとゼルガッソは、やや酔っぱらった様子で幾分顔を赤く染めながら、渋い表情を浮かべた。
「あのな、俺は本職の野盗だぜ。その壺とやらを見て、変な気を起こしたらどうする」
「あぁ、成る程、だから」
ようやく、フィルメリアも納得した。
敢えて酔っぱらうことで野盗としての本能が目覚めることを防止した上で、依頼された仕事をしっかりこなそう、という意図なのであろう。
「さすがゼルガッソさん……プロですね。お仕事完了の暁には、是非ともクッキーを進呈させて下さい」
ノノトトの申し出に、ゼルガッソは一瞬ぎょっとした表情を浮かべた。
「頼むから、今度は水も一緒に用意してくれ」
「あ、じゃあその一本を後に取っておけば良いのでは?」
ユーリの提案は、一見すると尤もらしいのだが、少しばかり問題が無いことも無かった。
「うぅむ、ビールにクッキーか……」
合う合わないは別として、一応ビールも飲み物であろう。
●いざ、お仕事
夜になって、五人のハンターとひとりの野盗はそれぞれの配置についた。
まずはシェイス、フィルメリア、ゼルガッソの三人がデヴィニダス邸内へと押し入り、幾分派手目に暴れながら、例のイミテーションの壺を強奪した。
と、そこへまるで打ち合わせたかの如く(いや、実際打ち合わせたのだが)、ノノトト、ユーリ、ケルティスの三人が『偶然』通りかかって、壺を持ち出そうとする三人とすったもんだの丁々発止を繰り広げ始めた。
「やぁやぁ、ぐうぜんハンターがとおりがかってよかった! かくごしろどろぼうめー!」
「逃げられませんよ、観念なさいッ!」
びっくりするぐらい棒読みのノノトトに対し、ユーリは随分と自然な演技だ。
対する三人の野盗役は、予定通りに中庭の物置方面へと走る。
魔道面と外套で素性を隠しているフィルメリアとは対照的に、シェイスは随分とオープンだったが、それでも手拭いで口元を隠しているから、大丈夫といえば大丈夫だろうか。
「面倒事は避けたいけど、お仕事の邪魔になるなら、対処はさせてもらいますからね」
威嚇射撃を放ちながら中庭へと走るフィルメリアの後に、シェイスとゼルガッソが続いた。
「ボスッ! どうしますか、こいつら、やっちまって良いっすかッ!」
シェイスも野盗役としては、ノリにノッている方であろう。
ともあれ両者は適当に斬り結び、適当にやりあって、一応ハンター役の側が壺を奪い返しつつある――というところまでは段取り通りに進んだ。
「ケルティスお……兄さんこっちこっち」
ノノトトがケルティスを手招きしながら、中庭へと飛び込む。
既にそこでは、先行していたユーリがシェイスとフィルメリアを相手に廻して、割りと本気っぽい戦いを演じていた。
騒ぎを聞きつけたメイドや執事といった連中を前にして、ハンター役と野盗役は大立ち回りを演じている。
多少の手傷を負うことは、ユーリ自身も覚悟していた。
幸い、ユーリはシェイスとフィルメリアという二枚の壁を相手にしている為、ゼルガッソと直接剣を交えることは無かった。
今のゼルガッソは、結構酔っぱらっている。
昔どこかの安全週間の標語で、飲むなら持つな、持つなら飲むな、というのを聞いたことがあったような気がした。
ゼルガッソは今まさに飲酒戦闘の真っ最中だから、あまり近寄りたくなかった。
シェイスも若干、ビールが入っている。
ゼルガッソひとりが酒臭いのは不自然だということで、飲み残しのビールを少しばかり胃の中に放り込んでいた。
が、バタフライナイフを順手で振り回している分には、無害に近いといって良い。
ユーリの得物にバタフライナイフを弾き飛ばされる演出も、中々真剣味があって及第点の演技だった。
魔導ガントレットと刀で応戦しているフィルメリアも、シェイスと同様に幾分アルコールが入っているとはいえ、ユーリ相手に大健闘だ。
やがてユーリが、壺の奪還に成功した。
「えぇい、糞ッ! このポンコツ、こんな時にッ!」
シェイスも芸が細かい。
あらかじめジャムるように細工を施しておいた拳銃を取り出し、不発に終わる様子を自ら罵ることで不自然さを消していた。
「ボス、どうしたら良いっすかッ!?」
「あぁまぁ、何か適当にやっとけ」
困ったことに、ゼルガッソが一番適当だった。酔っぱらってるから、仕方が無いといえばそうなのだが。
ともあれ、本物の壺がユーリの手に渡り、後は野盗側が何か理由をつけて退散するばかりという段まで話が進んだ。
問題は、この後である。
如何にしてマダムに対して、説得力のある展開を見せつけるか、であるが――。
「ちょっとちょっと、この騒ぎは一体、何事ですのッ?」
中庭での騒ぎを聞きつけて、やたらセクシーな薄着姿のマダムが飛び出してきた。
これが妙齢の美女であれば男共の視線も釘付けになるのだが、いかんせんマダムはお歳もお歳で、その体形も決して美麗で絶妙なプロポーションという訳にはいかない。
寧ろ目にした瞬間、ある者は殺意が芽生え、ある者は精神の耐久性を試される程の破壊力を具えていた。
「で……出たぁ~ッ!」
ノノトトが思わず、本気の本気で恐怖に打ち震えながら叫んだのも、無理は無いだろう。
あのゼルガッソも、マダムの殺人的セクシー衣装には耐えられなかった様子で、あやうく胃の中の物を全部吐き出しそうになったのだが、何とか堪え、酒臭いゲップだけに留めたのは流石というべきか。
ところが、そのゲップを真正面から喰らってしまったノノトトが、その余りの臭さに卒倒してしまった。
ノノトトは、涙目になりながら本物の壺を抱えているユーリに向けて叫んだ。
「ユーリお姉さん、あの壺をマダムに届けて下さいよッ! あれは、良いものだぁーーーーッ!」
ノノトト、大往生(注:死んでません)。
●ホウレンソウを終えるところまでがお仕事です
「良いなぁ、ノノトトさん、なんか、美味しい役どころで」
「え、そこ感心するところですかッ?」
何となく羨ましそうに眺めているケルティスに、ユーリがぎょっとした顔を見せた。
「ふッ……ツッ込んで良いのは、ツッ込まれる覚悟のある奴だけだ」
全然関係の無いところでニヒルな笑みを浮かべるシェイス。
ユーリはひとり、混乱した。
(えぇッ? ボケとツッ込みって役割分担してるんじゃなかったんですかッ!? ツッ込み同士で、それで漫才成立するんですかッ!?)
何だか違う方向に、混乱しているようであった。
人類にとってボケとツッコミ理論は永遠のテーマであったろうが、今はとにかく、仕事を進めなければならない。
ノノトトが卒倒したことで、野盗役は離脱のタイミングを得たといって良い。
「くそッ、ここは退却だッ! あんなの見せられたら、壺どころじゃねぇよッ!」
「あぁ、何と恐ろしい……ここは、魔窟だったのですねッ!」
シェイスとフィルメリアが立て続けに挑発的な台詞を放ったものだから、マダムも黙っていられない。
「何をしているのですかッ、さっさと追いなさいッ!」
ところが、ハンター役の側にもいい訳が出来た。
マダム自身の、その容姿であろう。
「いえ、それは無理です……こちらもひとり、尊い犠牲を出してしまいました。この戦力で追跡したら、返り討ちに遭ってしまいます」
ユーリは、白目を剥いてぴくりとも動かないノノトトを抱え上げ、月に向かって慟哭しているケルティスに、悲哀の視線を向けた(注:死んでません)。
当のマダムは自分が原因だとは露とも思っていないが、こんな光景を見せられたら『それでも良いから追いかけろ』とは流石にいえない様子だった。
「それにしても、向こうは酔っ払いも居たみたいでしたのに、わたくしが出てくるまで、さっさと片付けられなかったものですか?」
「それは危険です……下手に全力で戦えば、この大事な壺が割れてしまう恐れがありましたから」
だからこそ、マダムの出現で取り逃がしてしまったことが悔しいといわんばかりに、ユーリは露骨な程に歯噛みしてみせたのだが、それでもマダムは自分が原因だとはちっとも気づいていない。
仕方無く、ユーリは本物にすりかえた壺をマダムにそっと手渡した。
マダムも非常に単純な性格なのか、ユーリの説明を受けて、あぁ成る程と納得している。
三日後、一同は例の打ち合わせ用の廃屋で再び、顔を合わせた。
「お疲れ様ですー。はい、これ。ゼルガッソさん、クッキー好きでしょ?」
心の傷が癒えたノノトトが、いつもの笑みで御礼のクッキーをゼルガッソに差し出した。
空腹のゼルガッソは口の中がぱっさぱさになるのも厭わず、ノノトトに貰ったクッキーを盛大な勢いで頬張り始めた。
やっぱり、ビールには合わないのか。
フィルメリア曰く、あの日の晩に残りの一本も空けてしまったそうだ。
「もうな、あんなとこで依頼受けんじゃねぇぞ」
ゼルガッソのひと言に、ケルティスは何度も大きく頷き返していた。
昼間ならいざ知らず、夜にデヴィニダス邸を舞台とするような依頼はある意味、命がけだった。
「ところでゼルガッソさん。ハンターと仲良くなんてお嫌でしょうけど、良かったら、何か奢らせてもらえませんか?」
立場は違えど、契約上で見知った仲なのだから、このような縁も大事にしたいというのが、フィルメリアの素直な気持ちだった。
すると最初に食いついてきたのはゼルガッソではなく、シェイスだった。
「乗った。なんだかんだで結構大変だったからな。酒場で一杯ぐらいやったって、罰は当たらねぇだろう」
そんな訳で野盗役の三人は、そのまま連れ立って近くの村の酒場へと繰り出していった。
残ったハンター役のうち、ケルティスは領主への報告が待っている為に早々と廃屋を去っていったが、ユーリとノノトトは、何ともいえない表情でしばらく、廃屋に残っていた。
「……今回の依頼、もっと楽に進むと思ったんですけどね」
「え、楽じゃなかったです?」
ユーリの反応に、ノノトトはがっくりと項垂れた。
結局大変だったのは、ノノトトひとりだけだったのかも知れない。
依頼結果
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相談スレッド ノノトト(ka0553) ドワーフ|10才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/07/27 22:00:20 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/24 09:58:19 |