ゲスト
(ka0000)
【聖呪】ワルサー総帥、戦場に立つ
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/28 22:00
- 完成日
- 2015/08/04 19:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
戦略的な動きを見せるゴブリンたち。
亜種――茨小鬼(ホロム・ゴブリン)の目撃情報も増え、王国も対策に本腰を入れざるを得なくなった。
比較的平穏な土地。王国北部ルサスール領。
その領主カフェ・W・ルサスールも、頭を悩ませていた。
王族と貴族間の政治的な動き、領民の不安緩和への施策、戦力の確認……。
やらねばならぬことを頭に、王都での会合を終えたのだ。
だが、カフェが帰ってすぐに事態は一変した。
深く考えるだけの時間を、ゴブリンどもは与えてくれはしなかったのだ。
「騎士団の編成はどうなっている? 住民の避難と受け入れ先の確保を……占領された場合に備えて前線基地を築く準備はしておけ」
矢継ぎ早に指示を飛ばすカフェの顔色には、疲れが見える。
ルサスール領内でも北端に位置する町、オーレフェルト。そこを目指して、ゴブリンの軍勢が動き出したというのだ。
「あそこは領の関門にもなっている場所だ。何としても、死守しなければっ」
カフェの息子たちは政治的外遊のため不在。騎士団も散発するゴブリンへの対処で手薄となっていた。
時間も、戦力も足りてはいない。
「すぐに、緊急事態を発令させろ……戦えるものを全てオーレフェルトへ集めるのだ」
せめて、教会だけでも死守しなければならない。
精神的拠り所として、あそこは領北部の村々にとっても重要な位置を占める。
「間に合ってくれればよいのだが……」
オーレフェルトは、空気が変わるのを感じていた。
そよぐ風も、飛び立つ鳥のさえずりも、嵐の前の静けさという言葉を思い起こさせる。
少女は空を見上げ、母の袖をぎゅっと掴んで楽しそうに言う。
「鳥! 大きな鳥がいっぱい!」
次の瞬間、鳥が何かを落とした。いや、そいつらは降り立ったのだ。
ゴブリンの眼が少女をとらえる。
母は叫び、娘は呆然と立ち尽くす。暴虐が、始まろうとしていた。
●
「はーはっはっは、困っているようなのだぜ?」
けたたましいカフェの執務室に、高笑いが響く。
声の主は、カフェの娘サチコであった。
「何の用だ。今は忙しい。いつものようなことなら……」
サチコはワルサー総帥を名乗り、あれやこれやとイベントを起こしていた。
家出同然のサチコだったが、カフェは密かに後押しをしていたりする。
だが、今日のサチコは表情を切り替えるとまっすぐにカフェを見つめた。
「お父様……いえ、カフェ様。今日はワルサー総帥として、仕事をしにきたのだぜ」
「……どういうことだ?」
「オーレフェルトの一件。この俺様の耳にもしかと届いたのだぜ」
カフェは苦い顔をする。
サチコにだけは、その話を聞かせたくはなかったのだ。
ふざけた理由で家出したサチコであったが、最近は自分の気持ちに気づいたようだった。
領民のために、じっとはしていられない。
「ワルワル団として、オーレフェルトへ向かいます。ワルワル団は、ルサスール家に依頼を受けた傭兵団」
「どうして、そのようにする必要がある? 領内であれば……サチコとして」
「今後、ルサスール領だけでことが済むとは思えませんので」
いやになるほど、まっすぐに視線を送ってくる。
カフェの思い描いた方向とは、全く別の道を娘は歩もうとしていた。
それは喜ばしくもあるが、憂うることでもある。
「そんな顔をなさらないでください、カフェ様。わた……俺様はワルサー総帥なのだぜ?」
根拠のない自信がどこから湧いてくるのだろうか。
だが、上に立つものとしてはそれぐらいでなければならない。
「……いいだろう。ワルワル団を、ルサスールの名のもとに雇い入れよう」
地図を取り出し、サチコに手渡す。
「防衛用の地図だ。教会だけは死守しろ……あそこは周辺の領民にとって精神の要だ」
「了解した」とサチコは頷く。
「だが」とカフェは続けた。
サチコと目を合わせ、父親らしい表情で告げる。
「死ぬな」
「もちろん。平和訪れるその時まで、私は死んだりしませんわ」
にっと笑って去っていくサチコの背中を見送る。
扉を閉める、その間際、サチコの頭に銀色の狐耳を見た気がした。
「いや、まさかな」
カフェは慌てて、扉の上を見た。
そこにはレリーフに、ルサスール家の紋章が飾られていた。
銀色の狐は、ルサスール家を示す紋である。
由来は無論、精霊なのだ。
「ワルサー総帥」
「タロ、ジロ。お前たちは、無理してついてこなくていいのですわよ」
「そういうわけには行きません」
従者たちも用意を整え待っていた。
その後ろには、予め募ったハンターたちの姿がある。
「さて、行きま……行くのだぜ。ワルワル団の初陣なのだぜ!」
虚勢を張るように、声を上げてサチコは馬を駆るのだった。
戦略的な動きを見せるゴブリンたち。
亜種――茨小鬼(ホロム・ゴブリン)の目撃情報も増え、王国も対策に本腰を入れざるを得なくなった。
比較的平穏な土地。王国北部ルサスール領。
その領主カフェ・W・ルサスールも、頭を悩ませていた。
王族と貴族間の政治的な動き、領民の不安緩和への施策、戦力の確認……。
やらねばならぬことを頭に、王都での会合を終えたのだ。
だが、カフェが帰ってすぐに事態は一変した。
深く考えるだけの時間を、ゴブリンどもは与えてくれはしなかったのだ。
「騎士団の編成はどうなっている? 住民の避難と受け入れ先の確保を……占領された場合に備えて前線基地を築く準備はしておけ」
矢継ぎ早に指示を飛ばすカフェの顔色には、疲れが見える。
ルサスール領内でも北端に位置する町、オーレフェルト。そこを目指して、ゴブリンの軍勢が動き出したというのだ。
「あそこは領の関門にもなっている場所だ。何としても、死守しなければっ」
カフェの息子たちは政治的外遊のため不在。騎士団も散発するゴブリンへの対処で手薄となっていた。
時間も、戦力も足りてはいない。
「すぐに、緊急事態を発令させろ……戦えるものを全てオーレフェルトへ集めるのだ」
せめて、教会だけでも死守しなければならない。
精神的拠り所として、あそこは領北部の村々にとっても重要な位置を占める。
「間に合ってくれればよいのだが……」
オーレフェルトは、空気が変わるのを感じていた。
そよぐ風も、飛び立つ鳥のさえずりも、嵐の前の静けさという言葉を思い起こさせる。
少女は空を見上げ、母の袖をぎゅっと掴んで楽しそうに言う。
「鳥! 大きな鳥がいっぱい!」
次の瞬間、鳥が何かを落とした。いや、そいつらは降り立ったのだ。
ゴブリンの眼が少女をとらえる。
母は叫び、娘は呆然と立ち尽くす。暴虐が、始まろうとしていた。
●
「はーはっはっは、困っているようなのだぜ?」
けたたましいカフェの執務室に、高笑いが響く。
声の主は、カフェの娘サチコであった。
「何の用だ。今は忙しい。いつものようなことなら……」
サチコはワルサー総帥を名乗り、あれやこれやとイベントを起こしていた。
家出同然のサチコだったが、カフェは密かに後押しをしていたりする。
だが、今日のサチコは表情を切り替えるとまっすぐにカフェを見つめた。
「お父様……いえ、カフェ様。今日はワルサー総帥として、仕事をしにきたのだぜ」
「……どういうことだ?」
「オーレフェルトの一件。この俺様の耳にもしかと届いたのだぜ」
カフェは苦い顔をする。
サチコにだけは、その話を聞かせたくはなかったのだ。
ふざけた理由で家出したサチコであったが、最近は自分の気持ちに気づいたようだった。
領民のために、じっとはしていられない。
「ワルワル団として、オーレフェルトへ向かいます。ワルワル団は、ルサスール家に依頼を受けた傭兵団」
「どうして、そのようにする必要がある? 領内であれば……サチコとして」
「今後、ルサスール領だけでことが済むとは思えませんので」
いやになるほど、まっすぐに視線を送ってくる。
カフェの思い描いた方向とは、全く別の道を娘は歩もうとしていた。
それは喜ばしくもあるが、憂うることでもある。
「そんな顔をなさらないでください、カフェ様。わた……俺様はワルサー総帥なのだぜ?」
根拠のない自信がどこから湧いてくるのだろうか。
だが、上に立つものとしてはそれぐらいでなければならない。
「……いいだろう。ワルワル団を、ルサスールの名のもとに雇い入れよう」
地図を取り出し、サチコに手渡す。
「防衛用の地図だ。教会だけは死守しろ……あそこは周辺の領民にとって精神の要だ」
「了解した」とサチコは頷く。
「だが」とカフェは続けた。
サチコと目を合わせ、父親らしい表情で告げる。
「死ぬな」
「もちろん。平和訪れるその時まで、私は死んだりしませんわ」
にっと笑って去っていくサチコの背中を見送る。
扉を閉める、その間際、サチコの頭に銀色の狐耳を見た気がした。
「いや、まさかな」
カフェは慌てて、扉の上を見た。
そこにはレリーフに、ルサスール家の紋章が飾られていた。
銀色の狐は、ルサスール家を示す紋である。
由来は無論、精霊なのだ。
「ワルサー総帥」
「タロ、ジロ。お前たちは、無理してついてこなくていいのですわよ」
「そういうわけには行きません」
従者たちも用意を整え待っていた。
その後ろには、予め募ったハンターたちの姿がある。
「さて、行きま……行くのだぜ。ワルワル団の初陣なのだぜ!」
虚勢を張るように、声を上げてサチコは馬を駆るのだった。
リプレイ本文
●
突然のゴブリンによる襲撃、混乱する街にある一団がたどり着いていた。
「魔獣、まかり通るってな」
教会までの道すがら、先頭を行く龍崎・カズマ(ka0178)が自身をさしていう。
カズマにつづいて歩く一人の少女は、魔獣とは程遠い。
風に銀髪をなびかせる彼女は、ワルワル団ワルサー総帥サチコである。
「ワルワル団参上、だぜ!」
そんな彼女の傍らで、ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)が名乗りを上げる。
だが、その名を聞いて足を止めるものは、まだいない。
「ふふ、噂に名高いワルワル団か」
逆に一団に含まれるアルファス(ka3312)が、そっと声を漏らす。
アルファスは、サチコと出会った際、
「僕はDADのアルファス。マフィアみたいなもの……まぁ、君達と似たようなものさ」
そういって握手を求めた。
握り返し、「よろしくですわ」とサチコは挨拶を返す。
「今回は傭兵として助太刀しよう、ワルサー総帥」
「ご助力、感謝します」等とサチコは応対する。
その姿は、まさしく貴族の令嬢のそれであった。
メトロノーム・ソングライト(ka1267)は久々に会ったサチコの姿に、感嘆をもらす。
一年と経たず、見違えるほどであった。
だが、その原因が今回の状況だとすれば少し哀しくもある。
「今はそんな感傷に浸っている場合ではありませんね」
視線を前に移せば、尖塔を持つ教会が見えた。
「あそこだね!」
「えぇ、そうですわ」
天竜寺 舞(ka0377)の問いに、サチコは即座に答える。
「住民の心の支えを失わせる訳にいかないもんね。絶対死守するよ!」
教会の入り口前には、無残にも散らされた扉の残骸。
すでに中に侵入は許してしまっていた。
サチコたちも急ぎ、中へ入る。
「ここがやられちゃうと駄目なんですね。先陣、切らせてもらいましょう」
葛音 水月(ka1895)は、二階へと続く階段を睨む。
左右合わせて十数匹のゴブリン、そして、目立つ体躯の二体のゴブリン……茨小鬼である。だが、名付けられた者ほどの雰囲気はない。
尖兵といったところか。
「どうしても必要な敵だけ攻撃して、あとは無視ね」
戦況を見て、ジェーン・ノーワース(ka2004)が水月に続く。舞、アルファス、そしてヴォーイも飛び出していた。サチコも続こうとするが、神谷 春樹(ka4560)がそっと止める。
「今行っても、危ないだけだよ。戦況を見極めるんだ」
諭すように告げる春樹の動きはどこかぎこちない。
怪我をしているのは明らかなだ。
「怪我しててもできることはあるんだよ」
気にかけるサチコの横に並び、春樹は告げる。
二人の後ろでは、最上 風(ka0891)と鈴胆 奈月(ka2802)がサチコの従者タロとジロへ話しかけていた。
「タロさん&ジロさん、危ないと判断したらサチコさんを担いででも、戦線離脱でOKですよー?」
そういうのは風だ。告げるだけ告げると、前を見据え、先陣を切るヴォーイに光を与える。
奈月は二人に逃がさないよう鉄針線などで入り口に罠を貼ってほしいと頼む。
「逃げられるのは嫌だからね。余裕がある間に、頼んだ」
自身はバトルライフルを構え、サチコたちに続く。
サチコ、春樹、風、奈月……そして、カズマとメトロノーム。
この五人が後追い組として、ゴブリンにプレッシャーを掛ける役を担う。
●
「さぁーて、ゲームスタートですよー」
小さく口に出して水月が駆け出す。
脚に集中させたマテリアルによって、一気に加速する。
舞とジェーンも同じく、急加速によって階段を目指す。
「気づかれたわよ」
「それで止まるわけにもいかないね」
茨小鬼が咆哮、気がついたゴブリンの数匹が動きを見せた。
弓と魔法の矢が、階上から降り注ぐ。
「地の利は向こうにあるか」
舞は魔法の矢を腕で受け払いながら、呟く。
唯一被弾を逃れた水月が、一番近いゴブリンに肉迫する。
同時に、目の前に白い霧が渦巻いた。
「これで少しでも隙を作り出せれば……」
メトロノームがスリープクラウドを放ったのだ。
白い霧に飲み込まれ、ゴブリンの一体が姿勢を崩した。
「一気に……」
攻め込まんとするのは、舞とジェーンだ。
両者とも、立体的な動きを駆使して、機先を取った。近い位置にいるゴブリンの頭を踏み越え、壁を蹴り、群れの中腹まで一気に詰め寄る。
「結構、無茶するじゃんか」
後ろから追いつこうとするヴォーイが思わず苦笑する。
成功したからよいものの、失敗すれば集中砲火で崩されるだろう。
「俺も急がないとな」
祈り、マテリアルを高め、戦闘意欲を向上させる。
「急ぎたいところですが」
盾で矢を弾きながら、アルファスも続く。
「的確に崩しますよー」
ふふ、挟まれ潰されていくゴブリンさんはどんな気持ちと表情なんでしょう。
トゥルムで身を隠し見える脚を狙って、水月は剣をふるう。崩れたところを狙いながら、水月は前へ行く。
その間にも、舞とジェーンは茨小鬼に斬りこんでいた。
だが、ゴブリンたちの猛攻もあって刃が届かない。そのまま尖塔へ続く螺旋階段前を背に陣取る。
「行きますわよ」
戦況を見て後追組も、本格的に動き出す。
先頭を行くのはカズマだ。
詰め寄るのに邪魔なゴブリンソルジャーを見るに、ワイヤーウィップを操り、脚を狙う。
素早く立ちまわったワイヤーウィップは、狙い通り、ゴブリンソルジャーを階段から追い落とした。メトロノームも風刃をメイジへと飛ばし、動きを阻害する。
「挟み撃ちって訳だ」
にやっとヴォーイは、ゴブリンたちに笑みを見せる。
斬り込まれた上に、追撃を受けたゴブリンたちはいささか混乱していた。
茨小鬼が何やら号令を発するが、その間にもヴォーイがゴブリンを一匹階下へと弾き落としていた。空いた部分からアルファスとともに群れを抜け出した。
「……っ!」
抜け出る瞬間、アルファスは弓持ちの一人がサチコへ視線を向かわせているのを見た。
総帥、と注意を向けるが間に合わない。
「え」
サチコの目が見開かれる。ゴブリンソルジャーと視線が交錯する。
矢は、サチコの胸へとまっすぐに飛来しようとしていた。
「間に合えっ」
慌てて奈月が防御障壁を飛ばす。
「させま、せんわっ!」
春樹がカバーリングに出ようとするのを制し、サチコは剣を振るった。
その瞬間、風は自身のプロテクションとは違う光が、サチコを覆うのを見た。
「まさか……覚醒っ!?」
「え……。あっ」
ヴォーイの言葉に、舞が思わず見やる。
その瞬間を狙って、一撃を食らってしまったが、それどころではない。
(きっと精霊が願いを聞いてくれたんだな)
(短冊の願いが叶ったってこと!?)
二人の思いは似ていた、だが、その表情は分かれていた。
ヴォーイは純粋な嬉しさの中、敵の隙をつく。
一方で、舞は心配そうな表情を浮かべていた。サチコにとって必要なのは、個としての力ではなく、リーダーとしての力と彼女は思う。
だが、あまり長い時間気を取られるわけにも行かない。
意識が行く敵もいるが、これを機に攻め込む者もいる。ざくりと、右腕に深く刃が入ってしまった。
「ここは僕たちが抑えます。少し下がって」
すかさずアルファスが、光の三角形を紡ぎだし、三体を光で貫く。
そのうち一体をジェーンが切り伏せた。
「あの耳……い、いや、戦いに集中っ!」
水月は動揺して空振った雷撃刀を構えなおそうとして、脚部に一撃を見舞われた。
踏ん張りを効かせ、体勢を立て直す。脚部に再びマテリアルを集中させつつ、流れるように二撃を打つ。
一撃目、茨小鬼の剣に刃がはじかれる、身体には届かず。
二撃目は、狙いを落とし茨小鬼の足先を切りつけた。
短い悲鳴を上げながら、茨小鬼が上段から剣を振り下ろす。かわしたところで、アルファスが声を上げた。
「この角度なら、一気にいけます!」
「じゃあ、合わせるわよ」
水月が射線から離れたのを見て、すかさずアルファスが扇状に炎属性のエネルギーを放つ。巻き込める数は少ないが、この角度、方向ならば教会には当たらない。
ほぼ同時にジェーンは、手裏剣を広範に投擲した。
「それじゃあ、俺も……」
と武器を掲げるヴォーイに茨小鬼の視線が向く。
にやっと笑ったヴォーイは、振り下ろすのではなく、「わるわるさー」と叫びながら振り回した。余裕の現れを見せつけるような姿に、茨小鬼は心外だとばかりに鼻を鳴らす。
だが、冷静さは失わない。
速度を乗せて武器をなぐ、ヴォーイもすかさず避ける。
「サチコは?」
その後ろで、舞は階下に見えるサチコの様子を伺った。
●
サチコの混乱を前に、風は素早く近づいた。銀色の狐耳がぴこぴこと動いている。狐の尻尾も直に生えているようにみえる。覚醒状態だと確信を得た。
横目でタロとジロの様子をうかがったが、すぐに動けそうはない。
「とりあえず、落ち着いてください」
典型的な文句を用いて、サチコの混乱を納めようと試みる。
「今やるべきことをしっかり意識しろ。まずは呼吸を整えて……」
同時に春樹が声をかけながら深呼吸をうながす。サチコは自分に何が起きたのか、把握しかねる様子だった。
「……」
先を行くカズマは貸し出そうとしたダガーを納め直す。ゴブリンの一撃を受けられるのならサチコの持つ剣でも、十分だろう。
そう判断し、自身は目の前に立つ邪魔者に向き直る。
「少し、おとなしくしてもらおうか」
言い放つと同時に大剣を振り下ろす。
深々と肩口から刃は入り、一体のメイジを袈裟斬りにした。
悪あがきに放たれた魔法の矢を打ち払い、再び上段から振り下ろす。今度の一撃は骨を砕き、ゴブリンを打ち崩した。
「……」
力はただ、力でしかない。
何を為すか、何を望むのか考えて剣は振るうといい――。今はまだ狼狽するサチコへ思う。カズマの意識はすぐに戦いへ向く。ソルジャーの矢を軽々とかわし、背中を取った。
カズマの大剣に載るものをゴブリンは知らずに果てる。
「落ち着いたようだね」
「えぇ」
奈月の言葉に、メトロノームが応じる。
一瞬視線は動かしつつも、二人の狙いはゴブリンへと真っ直ぐに向けられていた。ヴォーイとカズマによって落とされたゴブリンどもである。
「逃がさない……」
広い教会内で変に立ち回られると厄介だ。奈月は機導砲を放ち、けん制する。
メトロノームも合わせて風刃を放ち、ゴブリンソルジャーへ確実なダメージを与えた。そして、動き出したサチコへ向けてファイアエンチャントをかける準備を始めた。
「いいですか、サチコさん。回復役の風がやられると、戦線が崩壊するので、しっかり護ってくださいね?」
「え、あ、わかりましたわ」
「さて、行くよ」
サチコの初陣、無茶はさせられないが何もさせないのも問題だ。
春樹が助言を与えながらサチコとともに前へ出る。階上から落とされたゴブリンがナイフを構えてサチコを睨む。
「私が、ワルワル団……ワルサー総帥ですわ!」
銀色の狐耳をめいいっぱい立たせ、ぴんとはった背筋から声を出す。
それは自身を奮い立たせる言葉だった。
「まずは相手の動きを見て、隙がないかを見極める」
逆にこちらが隙を見せないよう、気をつけながらタイミングを見計らう。と春樹は助言する。
お手本とばかりに、春樹が武器を隣で構える。怪我をしながらであっても構えるぐらいはできる。サチコも合わせて剣を構えて敵を見据えた。
呼吸を合わせ、自身に加護を与えた精霊の息吹を感じる。力強い踏み込みから放たれたのは精錬された剣技だった。
「攻めこむだけじゃ、駄目だ。守りを考えて」
反撃を受けそうになるサチコを下がらせつつ、春樹は助言を重ねる。
奈月の防御障壁がサチコを凶刃から守る。 風もサチコへとプロテクションを重ねていた。みんなの助けを感じながらサチコは切っ先をゴブリンへと向ける。
「落ち着いて、相手の動きを見て……」
武器が赤い光を帯びる、メトロノームが炎の力を付与したのだ。
サチコはそれに気づいていないが次に放たれた一撃は、ゴブリンの息の根を止めるには十分過ぎるものとなった。
「こっちはもう終わりそうですねー」
サチコの後ろで風が呟く。手に握られたデリンジャーでゴブリンソルジャーの脚を撃ちぬく。そこへメトロノームがトドメの一撃を放った。
落とされたゴブリンはこれで始末されたことになる。
残るは、二階へ至った茨小鬼を中心とする連中だ。
●
「さて、そろそろ終わりにしましょうか」
少し楽しげに水月が告げる。茨小鬼は満身創痍、水月も少なからぬ傷を負っていた。勝負は次で決まる、連撃を茨小鬼は捌ききれてはいない。
ふっ、と水月が短い息を吐くと同時に茨小鬼の胴部が薙ぎ払われた。
上段に振り上げた茨小鬼の剣は落ち、からんと乾いた音を響かせた。
「そろそろ、戻るよ」
戦況を見て囲まれないとわかった舞も戦線に復帰する。
数の差は逆転しようとしていた。弓持ちはジェーンとアルファスによる広範囲攻撃に沈み、メイジは上がってきたカズマの一撃に屠られる。
まもなくしてサチコを始めとする後追い組も射程圏内におさめてくるだろう。勝敗は喫したと行ってもよいが、茨小鬼の瞳から闘争心は失われてはいない。
一人でも冥府へ送ってやろうといわんばかりに咆哮、刃を強く振り払う。
「させるかっ」
戦槍を突き出して武器を弾く。
体勢が崩れた隙を突いて、舞が飛び出した。お返しとばかりに洗練された動きで茨小鬼の腕を切りつけた。武器がこぼれ落ちる。
トドメは意外にもアルファスが刺した。後方から刀を突き刺し、アルファスは静かに笑う。刺した刃へとマテリアルを流して巨大化させ、茨小鬼を内部から破壊した。
リーダーの陥落、烏合の衆とかしたゴブリンは瓦解した。
「これで、終わりですわ」
静かに最後まで残されていたメイジへと、サチコが刃を突き入れる。
かくして新生ワルワル団の初戦闘は幕を閉じる。
●
「しかし、覚醒しましたね……」
改めて水月は驚きの表情を浮かべる。サチコはまだ加減がわかっていないのか、覚醒状態を維持していた。自分と同じ耳と尻尾が生えるタイプの覚醒状態に、少し親近感がわく。
一方で離れた位置で見ていたのがジェーンだ。
「かくあれと望むなら、そうであるべきだと思うし」
静かな言葉が口からこぼれ出る。
「なにかを願うのなら、持てる全ての力でその手を伸ばすべきだと思う」
君も、自分の道を願うのかしら。
ジェーンの視線の先でサチコは戸惑いながらも嬉しそうにしていた。視線を外して教会内を見て回る。
(……それが私と重なるのなら手を貸すし、邪魔するのなら斬り捨てる……けれど)
ま、どうでもいいわ。
ゴブリンとの戦いが面前に迫るのを感じる。今は、目の前の障害を確実に取り除いていく……ただそれだけである。
「先にパルムに見に行かせたが」
ヴォーイは螺旋階段を指さす。
「敵影はなかった。教会の死守はできたみたいだな」
その言葉にサチコはやっと覚醒状態を解除した。
半ば放心状態のサチコに後ろからメトロノームが近づく。
「わるわるさー、無事に終わってよかったですね」
「とりあえず、無事でよかったよ」
無数の傷を負っている舞も近づいてくる。
負傷者が集まってきた所で風が動き出す。
「範囲回復しますよー? 勿体ないので、出来るだけ多く範囲内に、入ってくださいねー?」
連続して効率よくをモットーに風が回復をしていく。使い切る前に何とか全員の負傷を回復し切ることができた。
「さて、と」
ヴォーイがタロから何かを受け取り、広げてみせた。
ルサスール家の紋章が描かれた旗だ。尖塔に掲げようという提案をした……というか提案をするまでもなく掲げるつもりであった。
「後で修復を手伝おう……それが、僕のできることだ」
戦いで破損した教会の備品を見やり、奈月が静かに呟く。
ひと通り見まわったカズマと合流し、皆のもとへと戻る。
「で、どうする? とりあえず、出るか」
「サチコさんの初陣を記念して、ぱぁーと食べに行きましょうー。経費はカフェさんに付ける感じで!」
元気よく提案する風であったが、サチコは首を横に振る。
まだ、防衛ができたと決まったわけではない。
「それに防衛できてもやることはたくさんありますわ」
そういって扉から出た瞬間、サチコを歓声が襲った。
無論、歓声を上げたのは住民たちである。
「防衛できたみたいですね」
「ほら。ぼーっとつったってないで、行くよ?」
舞たちに促されサチコはぎこちなく歩き出す。振り返れば尖塔に掲げられたルサスール家の旗がなびく。
サチコだと認識できた住民たちは、こぞって礼を述べたり近寄ってくる。
「ふふ、用心棒の依頼があればいつでもどうぞ……ワルサー総帥」
戸惑うサチコへアルファスがそっと呟く。
くすぐったいものを感じながら、サチコは住民たちに笑顔を返すのだった。
その少し後ろで風は宴の気配を感じて小さく笑みを浮かべるのだった。
突然のゴブリンによる襲撃、混乱する街にある一団がたどり着いていた。
「魔獣、まかり通るってな」
教会までの道すがら、先頭を行く龍崎・カズマ(ka0178)が自身をさしていう。
カズマにつづいて歩く一人の少女は、魔獣とは程遠い。
風に銀髪をなびかせる彼女は、ワルワル団ワルサー総帥サチコである。
「ワルワル団参上、だぜ!」
そんな彼女の傍らで、ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)が名乗りを上げる。
だが、その名を聞いて足を止めるものは、まだいない。
「ふふ、噂に名高いワルワル団か」
逆に一団に含まれるアルファス(ka3312)が、そっと声を漏らす。
アルファスは、サチコと出会った際、
「僕はDADのアルファス。マフィアみたいなもの……まぁ、君達と似たようなものさ」
そういって握手を求めた。
握り返し、「よろしくですわ」とサチコは挨拶を返す。
「今回は傭兵として助太刀しよう、ワルサー総帥」
「ご助力、感謝します」等とサチコは応対する。
その姿は、まさしく貴族の令嬢のそれであった。
メトロノーム・ソングライト(ka1267)は久々に会ったサチコの姿に、感嘆をもらす。
一年と経たず、見違えるほどであった。
だが、その原因が今回の状況だとすれば少し哀しくもある。
「今はそんな感傷に浸っている場合ではありませんね」
視線を前に移せば、尖塔を持つ教会が見えた。
「あそこだね!」
「えぇ、そうですわ」
天竜寺 舞(ka0377)の問いに、サチコは即座に答える。
「住民の心の支えを失わせる訳にいかないもんね。絶対死守するよ!」
教会の入り口前には、無残にも散らされた扉の残骸。
すでに中に侵入は許してしまっていた。
サチコたちも急ぎ、中へ入る。
「ここがやられちゃうと駄目なんですね。先陣、切らせてもらいましょう」
葛音 水月(ka1895)は、二階へと続く階段を睨む。
左右合わせて十数匹のゴブリン、そして、目立つ体躯の二体のゴブリン……茨小鬼である。だが、名付けられた者ほどの雰囲気はない。
尖兵といったところか。
「どうしても必要な敵だけ攻撃して、あとは無視ね」
戦況を見て、ジェーン・ノーワース(ka2004)が水月に続く。舞、アルファス、そしてヴォーイも飛び出していた。サチコも続こうとするが、神谷 春樹(ka4560)がそっと止める。
「今行っても、危ないだけだよ。戦況を見極めるんだ」
諭すように告げる春樹の動きはどこかぎこちない。
怪我をしているのは明らかなだ。
「怪我しててもできることはあるんだよ」
気にかけるサチコの横に並び、春樹は告げる。
二人の後ろでは、最上 風(ka0891)と鈴胆 奈月(ka2802)がサチコの従者タロとジロへ話しかけていた。
「タロさん&ジロさん、危ないと判断したらサチコさんを担いででも、戦線離脱でOKですよー?」
そういうのは風だ。告げるだけ告げると、前を見据え、先陣を切るヴォーイに光を与える。
奈月は二人に逃がさないよう鉄針線などで入り口に罠を貼ってほしいと頼む。
「逃げられるのは嫌だからね。余裕がある間に、頼んだ」
自身はバトルライフルを構え、サチコたちに続く。
サチコ、春樹、風、奈月……そして、カズマとメトロノーム。
この五人が後追い組として、ゴブリンにプレッシャーを掛ける役を担う。
●
「さぁーて、ゲームスタートですよー」
小さく口に出して水月が駆け出す。
脚に集中させたマテリアルによって、一気に加速する。
舞とジェーンも同じく、急加速によって階段を目指す。
「気づかれたわよ」
「それで止まるわけにもいかないね」
茨小鬼が咆哮、気がついたゴブリンの数匹が動きを見せた。
弓と魔法の矢が、階上から降り注ぐ。
「地の利は向こうにあるか」
舞は魔法の矢を腕で受け払いながら、呟く。
唯一被弾を逃れた水月が、一番近いゴブリンに肉迫する。
同時に、目の前に白い霧が渦巻いた。
「これで少しでも隙を作り出せれば……」
メトロノームがスリープクラウドを放ったのだ。
白い霧に飲み込まれ、ゴブリンの一体が姿勢を崩した。
「一気に……」
攻め込まんとするのは、舞とジェーンだ。
両者とも、立体的な動きを駆使して、機先を取った。近い位置にいるゴブリンの頭を踏み越え、壁を蹴り、群れの中腹まで一気に詰め寄る。
「結構、無茶するじゃんか」
後ろから追いつこうとするヴォーイが思わず苦笑する。
成功したからよいものの、失敗すれば集中砲火で崩されるだろう。
「俺も急がないとな」
祈り、マテリアルを高め、戦闘意欲を向上させる。
「急ぎたいところですが」
盾で矢を弾きながら、アルファスも続く。
「的確に崩しますよー」
ふふ、挟まれ潰されていくゴブリンさんはどんな気持ちと表情なんでしょう。
トゥルムで身を隠し見える脚を狙って、水月は剣をふるう。崩れたところを狙いながら、水月は前へ行く。
その間にも、舞とジェーンは茨小鬼に斬りこんでいた。
だが、ゴブリンたちの猛攻もあって刃が届かない。そのまま尖塔へ続く螺旋階段前を背に陣取る。
「行きますわよ」
戦況を見て後追組も、本格的に動き出す。
先頭を行くのはカズマだ。
詰め寄るのに邪魔なゴブリンソルジャーを見るに、ワイヤーウィップを操り、脚を狙う。
素早く立ちまわったワイヤーウィップは、狙い通り、ゴブリンソルジャーを階段から追い落とした。メトロノームも風刃をメイジへと飛ばし、動きを阻害する。
「挟み撃ちって訳だ」
にやっとヴォーイは、ゴブリンたちに笑みを見せる。
斬り込まれた上に、追撃を受けたゴブリンたちはいささか混乱していた。
茨小鬼が何やら号令を発するが、その間にもヴォーイがゴブリンを一匹階下へと弾き落としていた。空いた部分からアルファスとともに群れを抜け出した。
「……っ!」
抜け出る瞬間、アルファスは弓持ちの一人がサチコへ視線を向かわせているのを見た。
総帥、と注意を向けるが間に合わない。
「え」
サチコの目が見開かれる。ゴブリンソルジャーと視線が交錯する。
矢は、サチコの胸へとまっすぐに飛来しようとしていた。
「間に合えっ」
慌てて奈月が防御障壁を飛ばす。
「させま、せんわっ!」
春樹がカバーリングに出ようとするのを制し、サチコは剣を振るった。
その瞬間、風は自身のプロテクションとは違う光が、サチコを覆うのを見た。
「まさか……覚醒っ!?」
「え……。あっ」
ヴォーイの言葉に、舞が思わず見やる。
その瞬間を狙って、一撃を食らってしまったが、それどころではない。
(きっと精霊が願いを聞いてくれたんだな)
(短冊の願いが叶ったってこと!?)
二人の思いは似ていた、だが、その表情は分かれていた。
ヴォーイは純粋な嬉しさの中、敵の隙をつく。
一方で、舞は心配そうな表情を浮かべていた。サチコにとって必要なのは、個としての力ではなく、リーダーとしての力と彼女は思う。
だが、あまり長い時間気を取られるわけにも行かない。
意識が行く敵もいるが、これを機に攻め込む者もいる。ざくりと、右腕に深く刃が入ってしまった。
「ここは僕たちが抑えます。少し下がって」
すかさずアルファスが、光の三角形を紡ぎだし、三体を光で貫く。
そのうち一体をジェーンが切り伏せた。
「あの耳……い、いや、戦いに集中っ!」
水月は動揺して空振った雷撃刀を構えなおそうとして、脚部に一撃を見舞われた。
踏ん張りを効かせ、体勢を立て直す。脚部に再びマテリアルを集中させつつ、流れるように二撃を打つ。
一撃目、茨小鬼の剣に刃がはじかれる、身体には届かず。
二撃目は、狙いを落とし茨小鬼の足先を切りつけた。
短い悲鳴を上げながら、茨小鬼が上段から剣を振り下ろす。かわしたところで、アルファスが声を上げた。
「この角度なら、一気にいけます!」
「じゃあ、合わせるわよ」
水月が射線から離れたのを見て、すかさずアルファスが扇状に炎属性のエネルギーを放つ。巻き込める数は少ないが、この角度、方向ならば教会には当たらない。
ほぼ同時にジェーンは、手裏剣を広範に投擲した。
「それじゃあ、俺も……」
と武器を掲げるヴォーイに茨小鬼の視線が向く。
にやっと笑ったヴォーイは、振り下ろすのではなく、「わるわるさー」と叫びながら振り回した。余裕の現れを見せつけるような姿に、茨小鬼は心外だとばかりに鼻を鳴らす。
だが、冷静さは失わない。
速度を乗せて武器をなぐ、ヴォーイもすかさず避ける。
「サチコは?」
その後ろで、舞は階下に見えるサチコの様子を伺った。
●
サチコの混乱を前に、風は素早く近づいた。銀色の狐耳がぴこぴこと動いている。狐の尻尾も直に生えているようにみえる。覚醒状態だと確信を得た。
横目でタロとジロの様子をうかがったが、すぐに動けそうはない。
「とりあえず、落ち着いてください」
典型的な文句を用いて、サチコの混乱を納めようと試みる。
「今やるべきことをしっかり意識しろ。まずは呼吸を整えて……」
同時に春樹が声をかけながら深呼吸をうながす。サチコは自分に何が起きたのか、把握しかねる様子だった。
「……」
先を行くカズマは貸し出そうとしたダガーを納め直す。ゴブリンの一撃を受けられるのならサチコの持つ剣でも、十分だろう。
そう判断し、自身は目の前に立つ邪魔者に向き直る。
「少し、おとなしくしてもらおうか」
言い放つと同時に大剣を振り下ろす。
深々と肩口から刃は入り、一体のメイジを袈裟斬りにした。
悪あがきに放たれた魔法の矢を打ち払い、再び上段から振り下ろす。今度の一撃は骨を砕き、ゴブリンを打ち崩した。
「……」
力はただ、力でしかない。
何を為すか、何を望むのか考えて剣は振るうといい――。今はまだ狼狽するサチコへ思う。カズマの意識はすぐに戦いへ向く。ソルジャーの矢を軽々とかわし、背中を取った。
カズマの大剣に載るものをゴブリンは知らずに果てる。
「落ち着いたようだね」
「えぇ」
奈月の言葉に、メトロノームが応じる。
一瞬視線は動かしつつも、二人の狙いはゴブリンへと真っ直ぐに向けられていた。ヴォーイとカズマによって落とされたゴブリンどもである。
「逃がさない……」
広い教会内で変に立ち回られると厄介だ。奈月は機導砲を放ち、けん制する。
メトロノームも合わせて風刃を放ち、ゴブリンソルジャーへ確実なダメージを与えた。そして、動き出したサチコへ向けてファイアエンチャントをかける準備を始めた。
「いいですか、サチコさん。回復役の風がやられると、戦線が崩壊するので、しっかり護ってくださいね?」
「え、あ、わかりましたわ」
「さて、行くよ」
サチコの初陣、無茶はさせられないが何もさせないのも問題だ。
春樹が助言を与えながらサチコとともに前へ出る。階上から落とされたゴブリンがナイフを構えてサチコを睨む。
「私が、ワルワル団……ワルサー総帥ですわ!」
銀色の狐耳をめいいっぱい立たせ、ぴんとはった背筋から声を出す。
それは自身を奮い立たせる言葉だった。
「まずは相手の動きを見て、隙がないかを見極める」
逆にこちらが隙を見せないよう、気をつけながらタイミングを見計らう。と春樹は助言する。
お手本とばかりに、春樹が武器を隣で構える。怪我をしながらであっても構えるぐらいはできる。サチコも合わせて剣を構えて敵を見据えた。
呼吸を合わせ、自身に加護を与えた精霊の息吹を感じる。力強い踏み込みから放たれたのは精錬された剣技だった。
「攻めこむだけじゃ、駄目だ。守りを考えて」
反撃を受けそうになるサチコを下がらせつつ、春樹は助言を重ねる。
奈月の防御障壁がサチコを凶刃から守る。 風もサチコへとプロテクションを重ねていた。みんなの助けを感じながらサチコは切っ先をゴブリンへと向ける。
「落ち着いて、相手の動きを見て……」
武器が赤い光を帯びる、メトロノームが炎の力を付与したのだ。
サチコはそれに気づいていないが次に放たれた一撃は、ゴブリンの息の根を止めるには十分過ぎるものとなった。
「こっちはもう終わりそうですねー」
サチコの後ろで風が呟く。手に握られたデリンジャーでゴブリンソルジャーの脚を撃ちぬく。そこへメトロノームがトドメの一撃を放った。
落とされたゴブリンはこれで始末されたことになる。
残るは、二階へ至った茨小鬼を中心とする連中だ。
●
「さて、そろそろ終わりにしましょうか」
少し楽しげに水月が告げる。茨小鬼は満身創痍、水月も少なからぬ傷を負っていた。勝負は次で決まる、連撃を茨小鬼は捌ききれてはいない。
ふっ、と水月が短い息を吐くと同時に茨小鬼の胴部が薙ぎ払われた。
上段に振り上げた茨小鬼の剣は落ち、からんと乾いた音を響かせた。
「そろそろ、戻るよ」
戦況を見て囲まれないとわかった舞も戦線に復帰する。
数の差は逆転しようとしていた。弓持ちはジェーンとアルファスによる広範囲攻撃に沈み、メイジは上がってきたカズマの一撃に屠られる。
まもなくしてサチコを始めとする後追い組も射程圏内におさめてくるだろう。勝敗は喫したと行ってもよいが、茨小鬼の瞳から闘争心は失われてはいない。
一人でも冥府へ送ってやろうといわんばかりに咆哮、刃を強く振り払う。
「させるかっ」
戦槍を突き出して武器を弾く。
体勢が崩れた隙を突いて、舞が飛び出した。お返しとばかりに洗練された動きで茨小鬼の腕を切りつけた。武器がこぼれ落ちる。
トドメは意外にもアルファスが刺した。後方から刀を突き刺し、アルファスは静かに笑う。刺した刃へとマテリアルを流して巨大化させ、茨小鬼を内部から破壊した。
リーダーの陥落、烏合の衆とかしたゴブリンは瓦解した。
「これで、終わりですわ」
静かに最後まで残されていたメイジへと、サチコが刃を突き入れる。
かくして新生ワルワル団の初戦闘は幕を閉じる。
●
「しかし、覚醒しましたね……」
改めて水月は驚きの表情を浮かべる。サチコはまだ加減がわかっていないのか、覚醒状態を維持していた。自分と同じ耳と尻尾が生えるタイプの覚醒状態に、少し親近感がわく。
一方で離れた位置で見ていたのがジェーンだ。
「かくあれと望むなら、そうであるべきだと思うし」
静かな言葉が口からこぼれ出る。
「なにかを願うのなら、持てる全ての力でその手を伸ばすべきだと思う」
君も、自分の道を願うのかしら。
ジェーンの視線の先でサチコは戸惑いながらも嬉しそうにしていた。視線を外して教会内を見て回る。
(……それが私と重なるのなら手を貸すし、邪魔するのなら斬り捨てる……けれど)
ま、どうでもいいわ。
ゴブリンとの戦いが面前に迫るのを感じる。今は、目の前の障害を確実に取り除いていく……ただそれだけである。
「先にパルムに見に行かせたが」
ヴォーイは螺旋階段を指さす。
「敵影はなかった。教会の死守はできたみたいだな」
その言葉にサチコはやっと覚醒状態を解除した。
半ば放心状態のサチコに後ろからメトロノームが近づく。
「わるわるさー、無事に終わってよかったですね」
「とりあえず、無事でよかったよ」
無数の傷を負っている舞も近づいてくる。
負傷者が集まってきた所で風が動き出す。
「範囲回復しますよー? 勿体ないので、出来るだけ多く範囲内に、入ってくださいねー?」
連続して効率よくをモットーに風が回復をしていく。使い切る前に何とか全員の負傷を回復し切ることができた。
「さて、と」
ヴォーイがタロから何かを受け取り、広げてみせた。
ルサスール家の紋章が描かれた旗だ。尖塔に掲げようという提案をした……というか提案をするまでもなく掲げるつもりであった。
「後で修復を手伝おう……それが、僕のできることだ」
戦いで破損した教会の備品を見やり、奈月が静かに呟く。
ひと通り見まわったカズマと合流し、皆のもとへと戻る。
「で、どうする? とりあえず、出るか」
「サチコさんの初陣を記念して、ぱぁーと食べに行きましょうー。経費はカフェさんに付ける感じで!」
元気よく提案する風であったが、サチコは首を横に振る。
まだ、防衛ができたと決まったわけではない。
「それに防衛できてもやることはたくさんありますわ」
そういって扉から出た瞬間、サチコを歓声が襲った。
無論、歓声を上げたのは住民たちである。
「防衛できたみたいですね」
「ほら。ぼーっとつったってないで、行くよ?」
舞たちに促されサチコはぎこちなく歩き出す。振り返れば尖塔に掲げられたルサスール家の旗がなびく。
サチコだと認識できた住民たちは、こぞって礼を述べたり近寄ってくる。
「ふふ、用心棒の依頼があればいつでもどうぞ……ワルサー総帥」
戸惑うサチコへアルファスがそっと呟く。
くすぐったいものを感じながら、サチコは住民たちに笑顔を返すのだった。
その少し後ろで風は宴の気配を感じて小さく笑みを浮かべるのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 メトロノーム・ソングライト(ka1267) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/07/25 19:47:46 |
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![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/23 21:27:44 |
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相談卓 最上 風(ka0891) 人間(リアルブルー)|10才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/07/28 20:15:36 |