ゲスト
(ka0000)
男の憂鬱
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/27 15:00
- 完成日
- 2015/07/28 21:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●憂鬱なリゲル
「見間違いなんかじゃない!」
まだ日も高いとある村で、三十代前半の男――リゲルが叫んだ。
相手はたった今、村の外の見回りから帰ってきたばかりの自警団だった。
村の近くには、優しい風の吹く草原がある。ピクニックに最適で、リゲルを含めて村の人間はよく利用する。
村から北に進めば、目的の草原につく。
さらに北へ一時間ほど歩いていけば、木々が覆い茂る森へ到着する。奥に行くほど深くなる、わりと大きめの森だ。
見晴らしのいい草原と違い、中に入れば日中でも薄暗い森には村人もあまり近づかない。
「そうは言っても、影も形も見当たらなかったぞ」
鎧を着こんだ屈強な中年男性がリゲルに言った。
自警団の団長である中年男性は、十名程度の団員を連れて草原へ出向いていた。リゲルから、ゴブリンを目撃したという知らせを受けたからだ。
嘘を言ったわけじゃない。確かにリゲルは見た。
草原を散歩している最中、離れたところから、こちらをじっと見ていたゴブリンの姿を。
襲われると思ったリゲルは、すぐに村へ逃げ帰った。その足で、自警団へ見たままを告げたのである。
本当にゴブリンがいたら大変だ。自警団はすぐに草原を調査した。その結果が、先ほどの台詞だった。
「もしかしたら、草原の北の森に隠れてるのかもしれない。そっちは探したのか?」
自警団の団長は「ああ」と頷いた。
「俺たちもその可能性を考えた。森の中に入って、可能な限り周囲を注意深く捜索した。だが、ゴブリンはいなかった」
――そんなバカな。
リゲルは愕然とした。
「そんなはずはない。俺は見たんだ。ゴブリンだけじゃない。近くにはコボルドらしき影もあった!」
「お前を疑ってるわけじゃないんだ」
団長は困ったような顔をした。どうするべきか、悩んでいるようだ。
「とにかく今日は家に帰れ。気をつけて見回るようにはするから」
納得はできていないが、見つからないと言われればそれまでだ。
しつこく食い下がろうとはせず、リゲルはひとりで住んでいる我が家へ帰宅することにした。
とりあえず、少し休みたかった。肩を落として帰路を歩いていると、唐突にリゲルは背後から声をかけられた。
「よう」
振り返ると、仲の良さげな家族が立っていた。唯一の親友と呼べる男と、その妻と息子の三人だった。
「家族で買い物か?」
リゲルの問いかけに、親友が頷く。
「これから、明日のピクニックのための買物をしにいくんだ」
「ピクニック?」
「ああ。いつもの北の草原さ。丁度いい季節だしな」
嫌な予感がした。
親友を大切に思っているリゲルは、即座に待ってくれと言った。
「実は俺、草原でゴブリンを見たんだ。コボルドっぽいのもいた」
「本当か?」
「確かに見たんだよ。なのに、調査してくれた自警団は発見できなかったらしい」
なんだ、と親友は安堵のため息をついた。
「見間違いだったんじゃないのか? それか、もう他の場所に移動したとかな」
親友の言うとおりであってくれたらとリゲルも思う。
しかし、一瞬だけ目が合ったゴブリンの凶悪そうな瞳の輝きが忘れられない。
「……もう少し、あとにしたらどうだ」
「ピクニックをか? そうはいっても、仕事を休めるのは明日だけなんだよ。大丈夫、注意しておくからさ」
リゲル以外の誰もゴブリンを目撃してないだけに、もう何も言えなかった。
親友と別れたあと、リゲルは自宅のベッドに飛び込んだ。
見たのは間違いないんだ。心の中で繰り返してるうちに、いつしかリゲルは眠りに落ちた。
夕方になり、リゲルは目を覚ます。
全身が汗でびっしょりだ。
見たのは悪夢。
親友の家族が、ゴブリンやコボルドに蹂躙されている光景だった。
単なる夢だ。
自分自身にそう言い聞かせて、気分を落ち着かせようとする。
なのに、どうしようもなく不安になる。
「……くそっ!」
いてもたってもいられなくなったリゲルは、ベッドから飛び起きると、駆け足で家を出た。
ハンターへ依頼を出すために。
●助けてほしい
「草原の安全を確保し、親友の家族が無事にピクニックを終えられるようにしてほしい」
リゲルはそう切り出した。
ピクニックの舞台は、町から少し離れた草原。北に森があり、南側がリゲルの村となる。それぞれ、草原から一キロメートル以上は離れている。
ピクニックの正確な時間は決まってないらしい。親友は昼過ぎを目安に出かけると言っていた。
リゲルが草原で目撃したのはゴブリン。側にコボルドらしい影も見た。複数だ。正確な数はわからない。
他に目撃証言はなく、襲われたという話もない。周囲は見間違いの可能性を考えてるみたいだが、リゲルは間違いなく見たと声を大にする。
コボルドらしき影はゴブリンの背後にいた。印象だけで言うなら、ゴブリンが命令でもしてそうな感じだった。
正確な数はわからないといったが、膨大な数でないのだけは確かだ。ゴブリンも含めて、二桁には届いてないと思う。
「連中にそこまでの知恵があるかはわからないが、俺に目撃されたせいで警戒してるのかもしれない。だとしたら、森の中にひっそりと隠れてる可能性がある」
リゲルひとりの時は姿を見せて、武装した自警団の調査では発見できなかった。
わざと弱そうな人間を襲おうとしてるのだとしたら、三人だけでピクニックをする親友一家が危険だ。
心配が杞憂に終われば問題ないが、どうにも嫌な予感がする。
せめて他に目撃した人間がいれば自警団も本腰を入れるだろうし、領主様に軍の派遣をお願いもできる。
ただ、やはり時間が少なさすぎる。
何もなければそれでいいが、襲われたりすれば一般人の親友一家が抵抗しきれるとは思えない。
「俺としては、家族水入らずのピクニックを楽しんでほしい。無駄足に終わるかもしれない依頼だが、どうか引き受けてほしい……!」
丁寧に頭を下げるリゲル。
親友家族がピクニックに出かける日は、すぐそこまで迫っていた。
「見間違いなんかじゃない!」
まだ日も高いとある村で、三十代前半の男――リゲルが叫んだ。
相手はたった今、村の外の見回りから帰ってきたばかりの自警団だった。
村の近くには、優しい風の吹く草原がある。ピクニックに最適で、リゲルを含めて村の人間はよく利用する。
村から北に進めば、目的の草原につく。
さらに北へ一時間ほど歩いていけば、木々が覆い茂る森へ到着する。奥に行くほど深くなる、わりと大きめの森だ。
見晴らしのいい草原と違い、中に入れば日中でも薄暗い森には村人もあまり近づかない。
「そうは言っても、影も形も見当たらなかったぞ」
鎧を着こんだ屈強な中年男性がリゲルに言った。
自警団の団長である中年男性は、十名程度の団員を連れて草原へ出向いていた。リゲルから、ゴブリンを目撃したという知らせを受けたからだ。
嘘を言ったわけじゃない。確かにリゲルは見た。
草原を散歩している最中、離れたところから、こちらをじっと見ていたゴブリンの姿を。
襲われると思ったリゲルは、すぐに村へ逃げ帰った。その足で、自警団へ見たままを告げたのである。
本当にゴブリンがいたら大変だ。自警団はすぐに草原を調査した。その結果が、先ほどの台詞だった。
「もしかしたら、草原の北の森に隠れてるのかもしれない。そっちは探したのか?」
自警団の団長は「ああ」と頷いた。
「俺たちもその可能性を考えた。森の中に入って、可能な限り周囲を注意深く捜索した。だが、ゴブリンはいなかった」
――そんなバカな。
リゲルは愕然とした。
「そんなはずはない。俺は見たんだ。ゴブリンだけじゃない。近くにはコボルドらしき影もあった!」
「お前を疑ってるわけじゃないんだ」
団長は困ったような顔をした。どうするべきか、悩んでいるようだ。
「とにかく今日は家に帰れ。気をつけて見回るようにはするから」
納得はできていないが、見つからないと言われればそれまでだ。
しつこく食い下がろうとはせず、リゲルはひとりで住んでいる我が家へ帰宅することにした。
とりあえず、少し休みたかった。肩を落として帰路を歩いていると、唐突にリゲルは背後から声をかけられた。
「よう」
振り返ると、仲の良さげな家族が立っていた。唯一の親友と呼べる男と、その妻と息子の三人だった。
「家族で買い物か?」
リゲルの問いかけに、親友が頷く。
「これから、明日のピクニックのための買物をしにいくんだ」
「ピクニック?」
「ああ。いつもの北の草原さ。丁度いい季節だしな」
嫌な予感がした。
親友を大切に思っているリゲルは、即座に待ってくれと言った。
「実は俺、草原でゴブリンを見たんだ。コボルドっぽいのもいた」
「本当か?」
「確かに見たんだよ。なのに、調査してくれた自警団は発見できなかったらしい」
なんだ、と親友は安堵のため息をついた。
「見間違いだったんじゃないのか? それか、もう他の場所に移動したとかな」
親友の言うとおりであってくれたらとリゲルも思う。
しかし、一瞬だけ目が合ったゴブリンの凶悪そうな瞳の輝きが忘れられない。
「……もう少し、あとにしたらどうだ」
「ピクニックをか? そうはいっても、仕事を休めるのは明日だけなんだよ。大丈夫、注意しておくからさ」
リゲル以外の誰もゴブリンを目撃してないだけに、もう何も言えなかった。
親友と別れたあと、リゲルは自宅のベッドに飛び込んだ。
見たのは間違いないんだ。心の中で繰り返してるうちに、いつしかリゲルは眠りに落ちた。
夕方になり、リゲルは目を覚ます。
全身が汗でびっしょりだ。
見たのは悪夢。
親友の家族が、ゴブリンやコボルドに蹂躙されている光景だった。
単なる夢だ。
自分自身にそう言い聞かせて、気分を落ち着かせようとする。
なのに、どうしようもなく不安になる。
「……くそっ!」
いてもたってもいられなくなったリゲルは、ベッドから飛び起きると、駆け足で家を出た。
ハンターへ依頼を出すために。
●助けてほしい
「草原の安全を確保し、親友の家族が無事にピクニックを終えられるようにしてほしい」
リゲルはそう切り出した。
ピクニックの舞台は、町から少し離れた草原。北に森があり、南側がリゲルの村となる。それぞれ、草原から一キロメートル以上は離れている。
ピクニックの正確な時間は決まってないらしい。親友は昼過ぎを目安に出かけると言っていた。
リゲルが草原で目撃したのはゴブリン。側にコボルドらしい影も見た。複数だ。正確な数はわからない。
他に目撃証言はなく、襲われたという話もない。周囲は見間違いの可能性を考えてるみたいだが、リゲルは間違いなく見たと声を大にする。
コボルドらしき影はゴブリンの背後にいた。印象だけで言うなら、ゴブリンが命令でもしてそうな感じだった。
正確な数はわからないといったが、膨大な数でないのだけは確かだ。ゴブリンも含めて、二桁には届いてないと思う。
「連中にそこまでの知恵があるかはわからないが、俺に目撃されたせいで警戒してるのかもしれない。だとしたら、森の中にひっそりと隠れてる可能性がある」
リゲルひとりの時は姿を見せて、武装した自警団の調査では発見できなかった。
わざと弱そうな人間を襲おうとしてるのだとしたら、三人だけでピクニックをする親友一家が危険だ。
心配が杞憂に終われば問題ないが、どうにも嫌な予感がする。
せめて他に目撃した人間がいれば自警団も本腰を入れるだろうし、領主様に軍の派遣をお願いもできる。
ただ、やはり時間が少なさすぎる。
何もなければそれでいいが、襲われたりすれば一般人の親友一家が抵抗しきれるとは思えない。
「俺としては、家族水入らずのピクニックを楽しんでほしい。無駄足に終わるかもしれない依頼だが、どうか引き受けてほしい……!」
丁寧に頭を下げるリゲル。
親友家族がピクニックに出かける日は、すぐそこまで迫っていた。
リプレイ本文
●
――ジャリ。
夜の名残が残る草原を、ハンターたちが歩く。リゲルからの依頼を引き受けた面々だ。
「此方の世界も、空が綺麗ですね……」
空を見上げたユキヤ・S・ディールス(ka0382)が、呟くように言った。
空に雲はなく、数時間もしないうちに青く染まるのは想像に難くなかった。
事前にリゲルとの面会を終えており、親友家族のピクニックルートも確認してある。
何度も頭を下げるリゲルの姿を思い出したのか、水流崎トミヲ(ka4852)はやや感動気味に口を開いた。
「なんて友人想いなんだ、リゲル氏は……。僕はぼっちだけど、リア充を憎むことなんてしない、良いぼっちだからね。家族達に楽しいピクニックをお届けしよう!」
呼応するように気合を入れたのは、桜色のサムライガールことミィリア(ka2689)だ。
「親友思いなリゲルさんの為にも、家族思いなその親友さんの為にも楽しいピクニックにさせてあげたいな。怖い思いとかもさせたくないし、なるべく気づかれないよーに。友情と楽しい家族団欒の時間のために、えいえいおー! でござるっ!」
「家族……ねぇ。知ってしまった以上、何もせずに黙って見てるだけってのも後味が悪いだけだし。あたしに出来る限りで手は尽くすわ」
牡丹(ka4816)も同調する。一組の家族に、ピクニックを楽しんでもらいたい。全員が同じ気持ちだった。
「家族とピクニックなんて妹と遊んだくらいしか記憶にない。兄や父母と行ったことなんて……」
内心で羨ましそうにしているのはザレム・アズール(ka0878)だ。
森の入口まで到着したところで、トミヲとザレムがそれぞれ試作魔導バイクと魔導二輪を隠した。素早く移動するための手段だ。
ミィリアとユキヤは、馬を草原から見えない位置に移動させた。これにより、ピクニックへ訪れた家族が危機に陥っても十分に対処可能となった。
だが最善は、家族がピクニックへ来る前に脅威を排除することだ。調査隊は見つけられなかったみたいだが、依頼者のリゲルは確実に敵対的亜人を見たと繰り返した。
依頼者の言葉を信じ、ハンターたちは準備を整えてから森へ入る。
●
ゴブリンやコボルドを油断、安心させる目的で、ハンターたちは森の中をピクニックする風情で探索する。
「さあ、楽しいピクニックの時間だね……!」
意気揚々と、先頭で森に入ったトミヲが歩く。
奥に行くほど森が深くなるので、普通の人間であれば、こんな場所をピクニックしたがる者がいるものかと不審がる。
しかし相手は人間の言語もわからず、知能指数の低いゴブリンやコボルド。薄い装備でうろついていれば、向こうから襲い掛かってくる可能性が高い。
ミィリアも大きく工夫をしたハンターのひとりだ。敵に警戒されたら困るので、あくまで一般人に見える服装を選んだ。
「鎧とかはつけずに普段着のメイド服。武器も仕込み傘を持ってきたでござる! これなら普通に傘にしか見えないしねっ。でもでも抜けば刀になっちゃうとか、すっごく浪漫感じちゃうかもかも! さすが憧れのおサムライさんアイテムでござる!!」
リアルブルー文化の侍を目指しているだけに、若干興奮気味だ。
一方ですぐ隣を歩く牡丹は、なんだか複雑そうな表情である。理由は他のハンターどうこうでなく、自分の服装にあった。
武器は着物の中に隠してある。鉄線は裾の部分に、小太刀は太腿に括りつけていた。
ゴブリンらを油断させるため、遠目から見て武器を持たない無防備な女を装っているのである。
意図通り完璧な振る舞いができているものの、牡丹は女性らしさを求められることにかなりの苦手意識を持っている。時折、ため息なんかをついてしまうは、そのせいだった。
「……癪ではあるけれど、仕方ないわ」
諦めるように言った牡丹の後ろを、ユキヤとザレムがついてくる。
しばらく歩いたが、ゴブリンやコボルドの影すら見当たらない。
そこで牡丹が適当な木を見繕って登った。枝の上から草むらの揺れや、何かが通り過ぎる影などを探すつもりだった。
気配を抑えて枝の中へ潜むと同時に、鋭敏視覚で周囲の状況を確認。怪しい場所を発見すれば、すかさず望遠鏡を使い、拡大した上でじっくり観察する。
牡丹が潜む木の下では、一行がお喋りをしながら森の中を歩く。敵を誘き出すためには、ピクニック感を強く漂わせるのが大事だ。
「匂いに釣られてくれるのを期待して、持ってきたおやつを食べよう。いかにもお散歩風に、うろうろしながらね」
持参したおやつを取り出しつつ、ミィリアはリスとかウサギの小動物でも探すかのようなそぶりをする。辺りを見回し、敵が出てこないか警戒しているのである。
にわかに緊張感が漂い出した森の中で、とにかく明るいのはトミヲだ。
「もーりはひっろーいなー♪」
陽気に歌い続けるのには理由がある。広い森の中で、コボルドたちを引き寄せるためだ。
人間の存在をアピールし、向こうから発見してもらう。ゴツい装備はしていないので、勝機ありと見ればほぼ間違いなく飛び出してくる。
なんとか家族がピクニックへやってくる前に片をつけたい。
すると木の上にいる牡丹が叫んだ。少し先の正面で、幾つかの影が動いたのを発見したのである。
ハンターたちは、即座に戦闘態勢を整える。
一匹のゴブリンと四匹のコボルドが、わらわらと姿を現したのは、その数秒後だった。
――やっぱり、いた。誰かの声が周囲に木霊す。
真っ先に動いたのは、木から飛び降りた牡丹だ。先手必勝で自身のスピードを上げながら、太腿から素早く小太刀を取り出す。
「あんたたちに、あたしの動きが見切れるかしら?」
可能な限り無駄のない動きで敵との間合いを詰め、気息充溢でコボルドの胸を貫く。致命傷とはならずも、かなりのダメージを負わせた。
今度はザレムが動く。普段着のシャツの中に隠していた魔導拳銃のペンタグラムで、他のコボルドの足を止める。
集団での連続攻撃を防いだところで、トミヲがファイアーボールを放つ。敵の周囲に味方がいない隙を狙った。
炎に悶える複数のコボルドを、ミィリアが薙ぎ払いでまとめて仕留めにかかる。
「ばっさりやられる覚悟があるやつから、かかってこーい! でござる!!」
呻くコボルドの反撃をうまく回避し、叩きこんだ攻撃で四匹のコボルドを倒した。
あまりにも抜群のコンビネーションだったがゆえに、ゴブリンは即座に怯えてしまう。
ムキになってハンターを倒そうとするのではなく、あっさり背を向けて逃走を開始する。
木々に紛れ、ハンターの視界を奪う。追いきれずに、ゴブリンを見失ってしまう。
執拗に追いかけたいところだったが、そろそろ家族がピクニックへ来る予定の時間だ。
ここでハンターは二手に分かれることにする。
ミィリア、牡丹、ユキヤの三人が森の中で索敵を続ける。
トミヲ、ザレムの二人が、家族を近くで護衛する。
それぞれの役割を確認したあと、トミヲとザレムが別々に草原へと移動する。
残ったのはミィリア、牡丹、ユキヤの三人だ。
「せっかくの家族水入らず、血の匂いで邪魔をしたくないわ」
本当はちょっと参加したい気持ちもあったが、牡丹はピクニックに参加しない理由をそう説明した。
直後に、今後の行動について説明する。
「あたしは草原近くの木に移動するわ。家族の様子を見守りつつ、近づこうとするやつらが森から現れるまで待機するつもりよ」
頷いたミィリアが、自分の方針も説明する。
「家族を護衛するメンバーと別れてから会敵したら、獣の角笛を鳴らして合図を送るよ。そのほうが警戒しやすいと思うしね!」
「僕は敵が森の外へ出た際に、馬で駆け巡り、焦点を合させないようにします」
広い草原なら誘導もしやすい。上手く直線に並んだ感じになれば、今度もユキヤはセイクリッドフラッシュで攻撃するつもりだった。
●
草原ではすでに、リゲルの親友家族がピクニックを開始していた。
父親はどことなく周囲を気にしてる感じだが、母親と息子はとても楽しそうだ。にこにこ笑顔を見れば、尋ねなくともわかる。
トミヲとザレムは二人一緒ではなく、それぞれおひとり様を装っての家族護衛を選択した。
開けてて、見られやすい場所にザレムがシートを広げる。持ってきたお菓子を食べながら、ギターを軽く弾く。
ピクニックを楽しんでる感じを演出しながら、音でゴブリンやコボルドの注意を引く狙いがあった。
もうひとりのトミヲも、満面の笑みを浮かべてピクニックを開始する。
「ふふ、おひとりピクニックだ! 久しぶりだなあ。あ! ごめんごめん、今回は君たちも居たね」
爽やかに言ったあとで、パルムたちを撫でたりする。
ピクニックの舞台である草原が、どんどん賑やかさを増していく。
子供が好奇心旺盛に見つめてるのに気づいたトミヲは、にこにこしながら近づく。
「お。君たちもピクニックかな? 実は僕も、相棒たちと休暇をしよう、ってね。パルム達が、息子君に興味津々みたいでさ!」
話しかけられた子供が嬉しがったのもあって、比較的すんなりと溶け込めた。パルムを上手く使ったのがよかったのかもしれない。
トミヲが家族と合流できたのもあり、ザレムはひとりで警戒という名のピクニックを継続する。
ギター演奏だけでなく、スケッチブックに写生してみたりと、効果的に一般人がピクニックを楽しんでる風を装う。
「さて……このまま何事もなく終わってくれればいいんだが……」
クールに呟いたザレムが再びギターに手を伸ばし、軽やかな音色を奏でだす。
もちろん視線を周囲に飛ばし、油断することなく警戒を続ける。
するとザレムの視界に、ゆらりと動く影が映った。
驚きの声を発したりせず、左手に持ったギターの先端をクイっと向けた。
仲間が気づいてくれるのに期待して、その先にゴブリンがいると合図を送ったのである。
●
森で警戒を続けながらも、草原の様子を見ていたミィリア、牡丹、ユキヤの三人。
ザレムの唐突な行動に異変を察し、ギターの先端が向けられた方を見た。
そこには先ほど逃がしたゴブリンだけでなく、二匹のコボルドもいた。
「家族さんのほうには、行かせない! でござる!」
ミィリアが衝撃波を放ち、ゴブリンを牽制する。
ダメージを負ったゴブリンはミィリアに向かってくるのではなく、一直線にピクニック中の家族を目指した。
素早く馬に乗ったユキヤが攪乱しようとするも、足を止めさせられたのは二匹のコボルドのみ。親玉となるゴブリンは、あくまでも無防備な家族を狙おうとする。
ゴブリンに気づいた父親が、慌てて妻と子供の前に立つ。自分の身を犠牲にしてでも、守ろうとする。
本来なら絶対的な窮地となるも、万が一の事態を想定してトミヲやザレムが家族の側にいた。
途中から家族に合流していたトミヲが、前に進み出る。
「危ないから、僕の後ろに下がっとくんだよ。大丈夫だから、さ」
ゴブリンが間合いに入るなり、ライトニングを放つ。
反撃されると予想していなかったゴブリンが、トミヲのライトニングをまともに放つ。
致命傷にはならずとも、動きが緩んだところでザレムも本格的に合流する。
「俺達から離れないでください」
要請すると同時に、子供を抱きしめて戦いの現場を見せないようにする。
「怖かったら耳を塞いでおくんだ。歌を歌ってるうちに終わるから大丈夫だ」
ザレムに言われたとおり、恐怖に負けないように子供が大声で歌い始める。
ピクニックに来てからも歌っていた、大好きな歌だ。
ザレムが全力で家族を守ってる間に、トミヲが今度はファイアーボールでゴブリンを攻撃する。
早朝に四匹ものコボルドを倒していたおかげで、草原に現れた敵対的亜人の数は少なく済んだ。
ゴブリンの直進は許したものの、残りのコボルドをミィリアや牡丹が引き受けてくれたのもあって、家族を守りながらでも十分に戦えた。
トミヲの魔法が直撃したゴブリンは、瞳から生命の輝きを失わせて、その場にドウと倒れた。
「よく頑張ったな」
ザレムが声をかけると、目を閉じて歌を歌っていた子供がゆっくりと瞼を開けた。
涙目の子供を、トミヲも労う。
「た、助かりました。ありがとうございました」
両親が丁寧に頭を下げる。
本当なら家族に余計な不安や恐怖を与えたくなかったが、依頼は十分に成功といえる。
ゴブリンが倒されて、戸惑っていたコボルド二匹も、ミィリアと牡丹にそれぞれ斬り捨てられた。
「どうやら、他にゴブリンやコボルドはいないみたいですね」
馬で残党がいないか確認していたユキヤが、ひと安心といった表情を浮かべる。
全員で倒したゴブリンやコボルドを処分したあと、改めて家族に挨拶をする。
「本当にありがとうございました。まさか、ゴブリンやコボルドがいるなんて……これじゃ、あいつの……」
そこまで言ったところで、父親は何かに気づいたみたいだった。
「そうか……皆さんはきっと、お節介な男に頼まれたんですね」
笑顔を浮かべるハンターたちを見れば、一目瞭然だった。
父親も笑ったあとで、側にいる息子に声をかけた。
「どうする? ピクニックは中止して、今日はもう帰るか?」
息子は勢いよく首を左右に振った。
「このまま続けようよ。僕なら大丈夫だよ。それに、頼りになるお兄ちゃんやお姉ちゃんもいるし!」
助けてもらったからか、瞳をキラキラさせて子供はハンターひとりひとりの顔を見る。
「ふふ。どうやら、すっかりハンターの皆さんに憧れてしまったみたいですね。どうですか。よろしければ皆さんも一緒に」
もうこの場における魔物の脅威はなくなったが、せっかくだからとハンターたちは承諾する。
全員で美味しい料理やおやつを囲みながら、笑い声を響かせる。
数分後、草原にひとりのお節介な男もやってきた。
男は一組の家族とハンターたちを見るなり、憂鬱さなど微塵もない満面の笑みを浮かべた。
――ジャリ。
夜の名残が残る草原を、ハンターたちが歩く。リゲルからの依頼を引き受けた面々だ。
「此方の世界も、空が綺麗ですね……」
空を見上げたユキヤ・S・ディールス(ka0382)が、呟くように言った。
空に雲はなく、数時間もしないうちに青く染まるのは想像に難くなかった。
事前にリゲルとの面会を終えており、親友家族のピクニックルートも確認してある。
何度も頭を下げるリゲルの姿を思い出したのか、水流崎トミヲ(ka4852)はやや感動気味に口を開いた。
「なんて友人想いなんだ、リゲル氏は……。僕はぼっちだけど、リア充を憎むことなんてしない、良いぼっちだからね。家族達に楽しいピクニックをお届けしよう!」
呼応するように気合を入れたのは、桜色のサムライガールことミィリア(ka2689)だ。
「親友思いなリゲルさんの為にも、家族思いなその親友さんの為にも楽しいピクニックにさせてあげたいな。怖い思いとかもさせたくないし、なるべく気づかれないよーに。友情と楽しい家族団欒の時間のために、えいえいおー! でござるっ!」
「家族……ねぇ。知ってしまった以上、何もせずに黙って見てるだけってのも後味が悪いだけだし。あたしに出来る限りで手は尽くすわ」
牡丹(ka4816)も同調する。一組の家族に、ピクニックを楽しんでもらいたい。全員が同じ気持ちだった。
「家族とピクニックなんて妹と遊んだくらいしか記憶にない。兄や父母と行ったことなんて……」
内心で羨ましそうにしているのはザレム・アズール(ka0878)だ。
森の入口まで到着したところで、トミヲとザレムがそれぞれ試作魔導バイクと魔導二輪を隠した。素早く移動するための手段だ。
ミィリアとユキヤは、馬を草原から見えない位置に移動させた。これにより、ピクニックへ訪れた家族が危機に陥っても十分に対処可能となった。
だが最善は、家族がピクニックへ来る前に脅威を排除することだ。調査隊は見つけられなかったみたいだが、依頼者のリゲルは確実に敵対的亜人を見たと繰り返した。
依頼者の言葉を信じ、ハンターたちは準備を整えてから森へ入る。
●
ゴブリンやコボルドを油断、安心させる目的で、ハンターたちは森の中をピクニックする風情で探索する。
「さあ、楽しいピクニックの時間だね……!」
意気揚々と、先頭で森に入ったトミヲが歩く。
奥に行くほど森が深くなるので、普通の人間であれば、こんな場所をピクニックしたがる者がいるものかと不審がる。
しかし相手は人間の言語もわからず、知能指数の低いゴブリンやコボルド。薄い装備でうろついていれば、向こうから襲い掛かってくる可能性が高い。
ミィリアも大きく工夫をしたハンターのひとりだ。敵に警戒されたら困るので、あくまで一般人に見える服装を選んだ。
「鎧とかはつけずに普段着のメイド服。武器も仕込み傘を持ってきたでござる! これなら普通に傘にしか見えないしねっ。でもでも抜けば刀になっちゃうとか、すっごく浪漫感じちゃうかもかも! さすが憧れのおサムライさんアイテムでござる!!」
リアルブルー文化の侍を目指しているだけに、若干興奮気味だ。
一方ですぐ隣を歩く牡丹は、なんだか複雑そうな表情である。理由は他のハンターどうこうでなく、自分の服装にあった。
武器は着物の中に隠してある。鉄線は裾の部分に、小太刀は太腿に括りつけていた。
ゴブリンらを油断させるため、遠目から見て武器を持たない無防備な女を装っているのである。
意図通り完璧な振る舞いができているものの、牡丹は女性らしさを求められることにかなりの苦手意識を持っている。時折、ため息なんかをついてしまうは、そのせいだった。
「……癪ではあるけれど、仕方ないわ」
諦めるように言った牡丹の後ろを、ユキヤとザレムがついてくる。
しばらく歩いたが、ゴブリンやコボルドの影すら見当たらない。
そこで牡丹が適当な木を見繕って登った。枝の上から草むらの揺れや、何かが通り過ぎる影などを探すつもりだった。
気配を抑えて枝の中へ潜むと同時に、鋭敏視覚で周囲の状況を確認。怪しい場所を発見すれば、すかさず望遠鏡を使い、拡大した上でじっくり観察する。
牡丹が潜む木の下では、一行がお喋りをしながら森の中を歩く。敵を誘き出すためには、ピクニック感を強く漂わせるのが大事だ。
「匂いに釣られてくれるのを期待して、持ってきたおやつを食べよう。いかにもお散歩風に、うろうろしながらね」
持参したおやつを取り出しつつ、ミィリアはリスとかウサギの小動物でも探すかのようなそぶりをする。辺りを見回し、敵が出てこないか警戒しているのである。
にわかに緊張感が漂い出した森の中で、とにかく明るいのはトミヲだ。
「もーりはひっろーいなー♪」
陽気に歌い続けるのには理由がある。広い森の中で、コボルドたちを引き寄せるためだ。
人間の存在をアピールし、向こうから発見してもらう。ゴツい装備はしていないので、勝機ありと見ればほぼ間違いなく飛び出してくる。
なんとか家族がピクニックへやってくる前に片をつけたい。
すると木の上にいる牡丹が叫んだ。少し先の正面で、幾つかの影が動いたのを発見したのである。
ハンターたちは、即座に戦闘態勢を整える。
一匹のゴブリンと四匹のコボルドが、わらわらと姿を現したのは、その数秒後だった。
――やっぱり、いた。誰かの声が周囲に木霊す。
真っ先に動いたのは、木から飛び降りた牡丹だ。先手必勝で自身のスピードを上げながら、太腿から素早く小太刀を取り出す。
「あんたたちに、あたしの動きが見切れるかしら?」
可能な限り無駄のない動きで敵との間合いを詰め、気息充溢でコボルドの胸を貫く。致命傷とはならずも、かなりのダメージを負わせた。
今度はザレムが動く。普段着のシャツの中に隠していた魔導拳銃のペンタグラムで、他のコボルドの足を止める。
集団での連続攻撃を防いだところで、トミヲがファイアーボールを放つ。敵の周囲に味方がいない隙を狙った。
炎に悶える複数のコボルドを、ミィリアが薙ぎ払いでまとめて仕留めにかかる。
「ばっさりやられる覚悟があるやつから、かかってこーい! でござる!!」
呻くコボルドの反撃をうまく回避し、叩きこんだ攻撃で四匹のコボルドを倒した。
あまりにも抜群のコンビネーションだったがゆえに、ゴブリンは即座に怯えてしまう。
ムキになってハンターを倒そうとするのではなく、あっさり背を向けて逃走を開始する。
木々に紛れ、ハンターの視界を奪う。追いきれずに、ゴブリンを見失ってしまう。
執拗に追いかけたいところだったが、そろそろ家族がピクニックへ来る予定の時間だ。
ここでハンターは二手に分かれることにする。
ミィリア、牡丹、ユキヤの三人が森の中で索敵を続ける。
トミヲ、ザレムの二人が、家族を近くで護衛する。
それぞれの役割を確認したあと、トミヲとザレムが別々に草原へと移動する。
残ったのはミィリア、牡丹、ユキヤの三人だ。
「せっかくの家族水入らず、血の匂いで邪魔をしたくないわ」
本当はちょっと参加したい気持ちもあったが、牡丹はピクニックに参加しない理由をそう説明した。
直後に、今後の行動について説明する。
「あたしは草原近くの木に移動するわ。家族の様子を見守りつつ、近づこうとするやつらが森から現れるまで待機するつもりよ」
頷いたミィリアが、自分の方針も説明する。
「家族を護衛するメンバーと別れてから会敵したら、獣の角笛を鳴らして合図を送るよ。そのほうが警戒しやすいと思うしね!」
「僕は敵が森の外へ出た際に、馬で駆け巡り、焦点を合させないようにします」
広い草原なら誘導もしやすい。上手く直線に並んだ感じになれば、今度もユキヤはセイクリッドフラッシュで攻撃するつもりだった。
●
草原ではすでに、リゲルの親友家族がピクニックを開始していた。
父親はどことなく周囲を気にしてる感じだが、母親と息子はとても楽しそうだ。にこにこ笑顔を見れば、尋ねなくともわかる。
トミヲとザレムは二人一緒ではなく、それぞれおひとり様を装っての家族護衛を選択した。
開けてて、見られやすい場所にザレムがシートを広げる。持ってきたお菓子を食べながら、ギターを軽く弾く。
ピクニックを楽しんでる感じを演出しながら、音でゴブリンやコボルドの注意を引く狙いがあった。
もうひとりのトミヲも、満面の笑みを浮かべてピクニックを開始する。
「ふふ、おひとりピクニックだ! 久しぶりだなあ。あ! ごめんごめん、今回は君たちも居たね」
爽やかに言ったあとで、パルムたちを撫でたりする。
ピクニックの舞台である草原が、どんどん賑やかさを増していく。
子供が好奇心旺盛に見つめてるのに気づいたトミヲは、にこにこしながら近づく。
「お。君たちもピクニックかな? 実は僕も、相棒たちと休暇をしよう、ってね。パルム達が、息子君に興味津々みたいでさ!」
話しかけられた子供が嬉しがったのもあって、比較的すんなりと溶け込めた。パルムを上手く使ったのがよかったのかもしれない。
トミヲが家族と合流できたのもあり、ザレムはひとりで警戒という名のピクニックを継続する。
ギター演奏だけでなく、スケッチブックに写生してみたりと、効果的に一般人がピクニックを楽しんでる風を装う。
「さて……このまま何事もなく終わってくれればいいんだが……」
クールに呟いたザレムが再びギターに手を伸ばし、軽やかな音色を奏でだす。
もちろん視線を周囲に飛ばし、油断することなく警戒を続ける。
するとザレムの視界に、ゆらりと動く影が映った。
驚きの声を発したりせず、左手に持ったギターの先端をクイっと向けた。
仲間が気づいてくれるのに期待して、その先にゴブリンがいると合図を送ったのである。
●
森で警戒を続けながらも、草原の様子を見ていたミィリア、牡丹、ユキヤの三人。
ザレムの唐突な行動に異変を察し、ギターの先端が向けられた方を見た。
そこには先ほど逃がしたゴブリンだけでなく、二匹のコボルドもいた。
「家族さんのほうには、行かせない! でござる!」
ミィリアが衝撃波を放ち、ゴブリンを牽制する。
ダメージを負ったゴブリンはミィリアに向かってくるのではなく、一直線にピクニック中の家族を目指した。
素早く馬に乗ったユキヤが攪乱しようとするも、足を止めさせられたのは二匹のコボルドのみ。親玉となるゴブリンは、あくまでも無防備な家族を狙おうとする。
ゴブリンに気づいた父親が、慌てて妻と子供の前に立つ。自分の身を犠牲にしてでも、守ろうとする。
本来なら絶対的な窮地となるも、万が一の事態を想定してトミヲやザレムが家族の側にいた。
途中から家族に合流していたトミヲが、前に進み出る。
「危ないから、僕の後ろに下がっとくんだよ。大丈夫だから、さ」
ゴブリンが間合いに入るなり、ライトニングを放つ。
反撃されると予想していなかったゴブリンが、トミヲのライトニングをまともに放つ。
致命傷にはならずとも、動きが緩んだところでザレムも本格的に合流する。
「俺達から離れないでください」
要請すると同時に、子供を抱きしめて戦いの現場を見せないようにする。
「怖かったら耳を塞いでおくんだ。歌を歌ってるうちに終わるから大丈夫だ」
ザレムに言われたとおり、恐怖に負けないように子供が大声で歌い始める。
ピクニックに来てからも歌っていた、大好きな歌だ。
ザレムが全力で家族を守ってる間に、トミヲが今度はファイアーボールでゴブリンを攻撃する。
早朝に四匹ものコボルドを倒していたおかげで、草原に現れた敵対的亜人の数は少なく済んだ。
ゴブリンの直進は許したものの、残りのコボルドをミィリアや牡丹が引き受けてくれたのもあって、家族を守りながらでも十分に戦えた。
トミヲの魔法が直撃したゴブリンは、瞳から生命の輝きを失わせて、その場にドウと倒れた。
「よく頑張ったな」
ザレムが声をかけると、目を閉じて歌を歌っていた子供がゆっくりと瞼を開けた。
涙目の子供を、トミヲも労う。
「た、助かりました。ありがとうございました」
両親が丁寧に頭を下げる。
本当なら家族に余計な不安や恐怖を与えたくなかったが、依頼は十分に成功といえる。
ゴブリンが倒されて、戸惑っていたコボルド二匹も、ミィリアと牡丹にそれぞれ斬り捨てられた。
「どうやら、他にゴブリンやコボルドはいないみたいですね」
馬で残党がいないか確認していたユキヤが、ひと安心といった表情を浮かべる。
全員で倒したゴブリンやコボルドを処分したあと、改めて家族に挨拶をする。
「本当にありがとうございました。まさか、ゴブリンやコボルドがいるなんて……これじゃ、あいつの……」
そこまで言ったところで、父親は何かに気づいたみたいだった。
「そうか……皆さんはきっと、お節介な男に頼まれたんですね」
笑顔を浮かべるハンターたちを見れば、一目瞭然だった。
父親も笑ったあとで、側にいる息子に声をかけた。
「どうする? ピクニックは中止して、今日はもう帰るか?」
息子は勢いよく首を左右に振った。
「このまま続けようよ。僕なら大丈夫だよ。それに、頼りになるお兄ちゃんやお姉ちゃんもいるし!」
助けてもらったからか、瞳をキラキラさせて子供はハンターひとりひとりの顔を見る。
「ふふ。どうやら、すっかりハンターの皆さんに憧れてしまったみたいですね。どうですか。よろしければ皆さんも一緒に」
もうこの場における魔物の脅威はなくなったが、せっかくだからとハンターたちは承諾する。
全員で美味しい料理やおやつを囲みながら、笑い声を響かせる。
数分後、草原にひとりのお節介な男もやってきた。
男は一組の家族とハンターたちを見るなり、憂鬱さなど微塵もない満面の笑みを浮かべた。
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男の憂鬱(意味深) 水流崎トミヲ(ka4852) 人間(リアルブルー)|27才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/07/27 13:30:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/27 04:08:57 |