ゲスト
(ka0000)
あおひかげ【2】
マスター:月宵

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/07/28 09:00
- 完成日
- 2015/08/05 05:50
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
『無理です! 無理ですって崖に、雑魔がわちゃぁ、って』
『えーい。それでも、あの審神者の弟か! 情けない』
『僕は一般人ですぅ! トハと一緒にしないで!』
『大丈夫、私が総て護る。全軍突撃、この蒼い火に導かれよ!』
『イヤダァァァァ~!!』
●
昔の思い出、男はその一節に上の空になっていたことに気付いた。インデュー族の祭司となった男は、形だけながら会議に参加していた。
内容は、これから作る予定の祭事についての相談、だ。
「やはり、トゥューハ様の倣いが必要に」
「いやいや、藍染めを使用する。後の商いにも繋がろう」
「どうでも良いが、楽しめるものにしよう」
「いやいや。ここは伝統を守って、本家の習慣を」
「ここはもう、出し惜しみせず、派手にぱーーーっと」
「内部でひっそりにしません? そんなに大きくしても」
「待て! 我らは彼処から離れたのだ、また真似をする必要は……」
「酒が飲めればOK~♪」
男は既に年老いて刻んだシワ、更に嘆息を共に深くする。部下達の意見に、族長である祭司の娘アキエヴェは場を纏めようとするのに、それこそ精一杯だ。こんな踊る会議なら彼が上の空になるのも、まぁわからなく無いのかも知れない。
(あの人なら、この場を一喝してすぐにまとめあげただろうに)
今更そんなことを言っても、愛したその人は天寿を全うしたのだ。
「わかりました。皆様の意見は、イチヨ族とハンターの方々に伝えさせていただきます! ですから、この場はおおさめ下さい」
場所は変わって、こちらはイチヨ族のテント。話すは、ハンター達と一緒にインデュー族の集落の外の案内を受けた若者マ・エダ。
情景を一つ、一つと頭に浮かべ目を瞑りながら族長に説明……と言う名の感想をあげ連なった。
「まっ平らの黒い舞台があってよ。かなり大きくて、丈夫であれなら大規模なもんが出来そうだ」
「それから、河川が近くに流れてんだけど、あの場所なら何艘か小舟を並べて川も下れるぜ」
「それで?」
浮かんだ情景の風船を、パチンと割ったのは目の前の族長、サ・ナダであった。まだ、表情はやわらかい。
「他にも、砦や蓼藍の群生地もあった、とハンターの皆様から聞きましたが?」
言われて暫く、二枚目の癖にあんぐり口を開けて冷や汗かいた後、マダは言葉を放つ。
「あー……花が綺麗だったデス」
「……それだけなんですね」
ナダは思わず頭を抱える。いくら、ハンター達に任せたとは言えこちらでも少しは近辺の情報を集めておきたい。例え、外に出さずともだ。
と言うのに、エダと言えば観光を楽しむだけ楽しんで、自分が司会を行える場所の下見しかしていない。
(やっぱり、山田くんを行かせるべきだった……)
後悔先に立たず。もう考えないようにした。
引き続きハンターに頼み、祭事創造を実行してもらおう。インデュー族の情報は、ある程度取り揃っている。もうこの段階に進んでも、問題はないだろう。
集落の意見を纏めるのは少々大変かも知れないが……
「あ、後重大な話を案内の人から聞いたんだった!」
「……聞きましょうか」
期待は全くしてませんが、とルビが振れそうなほどの冷淡口調。
「前の族長は、それはもーーう見目麗しい蛾眉だってよ!!」
「…………」
ペシンッッ
『えーい。それでも、あの審神者の弟か! 情けない』
『僕は一般人ですぅ! トハと一緒にしないで!』
『大丈夫、私が総て護る。全軍突撃、この蒼い火に導かれよ!』
『イヤダァァァァ~!!』
●
昔の思い出、男はその一節に上の空になっていたことに気付いた。インデュー族の祭司となった男は、形だけながら会議に参加していた。
内容は、これから作る予定の祭事についての相談、だ。
「やはり、トゥューハ様の倣いが必要に」
「いやいや、藍染めを使用する。後の商いにも繋がろう」
「どうでも良いが、楽しめるものにしよう」
「いやいや。ここは伝統を守って、本家の習慣を」
「ここはもう、出し惜しみせず、派手にぱーーーっと」
「内部でひっそりにしません? そんなに大きくしても」
「待て! 我らは彼処から離れたのだ、また真似をする必要は……」
「酒が飲めればOK~♪」
男は既に年老いて刻んだシワ、更に嘆息を共に深くする。部下達の意見に、族長である祭司の娘アキエヴェは場を纏めようとするのに、それこそ精一杯だ。こんな踊る会議なら彼が上の空になるのも、まぁわからなく無いのかも知れない。
(あの人なら、この場を一喝してすぐにまとめあげただろうに)
今更そんなことを言っても、愛したその人は天寿を全うしたのだ。
「わかりました。皆様の意見は、イチヨ族とハンターの方々に伝えさせていただきます! ですから、この場はおおさめ下さい」
場所は変わって、こちらはイチヨ族のテント。話すは、ハンター達と一緒にインデュー族の集落の外の案内を受けた若者マ・エダ。
情景を一つ、一つと頭に浮かべ目を瞑りながら族長に説明……と言う名の感想をあげ連なった。
「まっ平らの黒い舞台があってよ。かなり大きくて、丈夫であれなら大規模なもんが出来そうだ」
「それから、河川が近くに流れてんだけど、あの場所なら何艘か小舟を並べて川も下れるぜ」
「それで?」
浮かんだ情景の風船を、パチンと割ったのは目の前の族長、サ・ナダであった。まだ、表情はやわらかい。
「他にも、砦や蓼藍の群生地もあった、とハンターの皆様から聞きましたが?」
言われて暫く、二枚目の癖にあんぐり口を開けて冷や汗かいた後、マダは言葉を放つ。
「あー……花が綺麗だったデス」
「……それだけなんですね」
ナダは思わず頭を抱える。いくら、ハンター達に任せたとは言えこちらでも少しは近辺の情報を集めておきたい。例え、外に出さずともだ。
と言うのに、エダと言えば観光を楽しむだけ楽しんで、自分が司会を行える場所の下見しかしていない。
(やっぱり、山田くんを行かせるべきだった……)
後悔先に立たず。もう考えないようにした。
引き続きハンターに頼み、祭事創造を実行してもらおう。インデュー族の情報は、ある程度取り揃っている。もうこの段階に進んでも、問題はないだろう。
集落の意見を纏めるのは少々大変かも知れないが……
「あ、後重大な話を案内の人から聞いたんだった!」
「……聞きましょうか」
期待は全くしてませんが、とルビが振れそうなほどの冷淡口調。
「前の族長は、それはもーーう見目麗しい蛾眉だってよ!!」
「…………」
ペシンッッ
リプレイ本文
プレゼンを行うと言うが、やはり事前準備は必要不可欠。新たに必要な情報。何か道具を用いるなら、それを造る必要も出てくる。
皆が一斉に取り掛かるなかで、エアルドフリス(ka1856)はいち早くインデュー族の族長アキエヴェを訪ねたのだった。
「確認させて頂きたいのですが」
「……誰もいない早朝に、と言うことはワタシ以外聞かれたくない話、と」
エアルドフリスは前族長トゥューハを英霊にする動きがあるのを知っているか、と問う。アキエヴェは、一瞬止まるも頷く。
肯定を見てから、エアルドフリスは言葉を続ける。
「どう、お考えですか? 部族の団結を図る現実的な解決策の一つだと思いますが」
「……族長として、安易に英霊化など言えません。もしするにしても、それなりの儀式と信仰を必要とします」
若干アキエヴェの声に波を感じる。恐らく、手段としての優位性には彼女も気付いてはいるのだろう……だが。
「では、貴方自身は如何です?」
「……まだ手が尽きてはいませんよ」
最後の手段、そう言うものとしてアキエヴェは見ているようだ。つまり、英霊化には否定的、とも見える。
「巫女の本質は犠牲だと、俺は教えられました……考えておいて下さい」
●
ジュード・エアハート(ka0410)は紙貼り、木枠の提灯に薄めた藍の染め液を刷毛で塗っていた。
「やっぱり和紙を鋤く時に染め液を加えようかな」
提灯に小舟と、プレゼンに持っていく道具を作成していた。一緒にイチヨ族のヤ・マダが材料の確認をしている。
「Holmesさん、唐辛子なら自生してるようです。それから木材の確保は――」
ジュードが彼に手伝いを頼んだのは、どうやら正解のようだ。あらかたの原料の予算は、計算はしてくれる。
「ジュードさん出来た?」
テントに入ってきたのはルナ・レンフィールド(ka1565)だ。手には、膝に置いて用いる木製の弦楽器を携えている。集落で使用されている楽器だ。
「こんな感じだね」
ジュードは紙を渡す。そこには、彼が思い描いた歌詞が綴られていた。彼が部族が一つになれるよう、そんな思いがこもった歌詞に目を通すルナ。
「今歌ってみる?」
「っ……いいや、もう少し外で曲練ってくる」
まるで逃げるように、ルナはその場を後にした。
――矢、石、様々なものが飛び交う戦場。自分も戦った。ここに住まうため。眼前に迫る岩、脳裏に過る死後の肉塊。
だが、それは愛しきかの人の蒼い火にくるまれ、自分は事なきを得た――
「凄いのね……トゥューハは」
「全くだ。蒼い火の羽衣ねぇ」
ブリジット(ka4843)と 鵤(ka3319)は生き証人とも言えるであろう、祭司の元へ訪れていた。何か新たなエピソードがないか、それを新たな材料に出来ないかとブリジットは考えたからだ。
次いでに、代表者達の名前も教えてもらう。プレゼンを行うのに、相手の名前を知らないわけにいかない。
「藍染めのビロードだが、あれを火に見立て、代わりに使えないかねぇ?」
簡単な祭事のやり方のみを記し纏めた後、鵤はそう祭司に質問する。
「確かに藍染めならば火にも……それなら」
三人は口元を斜めに上げながら、その計画を練り始めた。
「それ戦舞の時になら……早速奏に相談してくる!」
こうして、各自着々と準備を整えていったのである……
「あー言う時、若者の即決が羨ましい」
「ほんと全く」
瞬く間に消えたブリジットを眺める、じい二人であった……
●プレゼン始まるよ!
アキエヴェのテントには、既に族長と祭司、10人の代表が集まっていた。
最初に話を始めたのは、久延毘 大二郎(ka1771)だ。彼は全体的な祭の構成を説明し始める。
「祭事は昼と夜の二部構成になる」
理由も包み隠さず大二郎は話した。昼は主に観光客向けの物産展、若しくは縁日のような賑やかな物を開催し、藍の利用法、宣伝にもなる。
「 観光客を招聘する事で、インデュー族を『離脱した部族の一派』では無く、『インデュー族という一部族』として外部に認識させる事ができる」
仰々しく言い切るも、とは言え予算が大幅にかさむのも事実だろう、と大二郎は付け加える。
賑やかな昼と対比し、夜の部は正に内向けの祭祀と言ったところだろう。こちらは部族のみの祭となる。
「部族の成り立ち。これの追体験をしつつ伝統と倣いを形づかせ、信仰を後世まで残し、自然となるまでに根付かせる」
狙いはそんなところだ、と話した。
「それから、参加者達が須らく楽しく出来れば良いのである!」
とどのつまりが、祭りの本質はこれだ。
「ここからは奏、頼んだのである」
「ありがとうございます。大二郎様」
次に進んで出たのは、八雲 奏(ka4074)だ。彼女の役目は、昼間に行われる祭に関しての説明だ。これには、ジュードとHolmes(ka3813)が補助をする。ここで奏は設計図を床に広げた。大二郎と共に考えた山車の設計図である。
最初は歪虚の頭飾りの山車だが、側面と後方には赤と青の提灯。先頭の赤い提灯を落として、歪虚の頭を外し巫女の山車になると言う演出だ。そして、巫女はこの山車で集落を練り歩く。
巫女、つまり族長だが藍染めの衣装を着ることになる。
「こちらが、その衣装で」
「こっちがその提灯になりまーすっと」
ジュードが作った正方形の提灯がか置かれ、藍色の淡い光を屋内に振り撒いている。
「これは良い……新たな名物にもなりそうですな」
「どうです?これなら手のひらサイズでも、それなりの効力もあり、お土産にも最適ですよ!」
布を商品としていた彼らには、提灯と言う新たな風に食指が動いたらしい。流石、商人ジュードと言ったところか。
そこからHolmesは、屋台で売り出す食事について軽く説明した。元より片手で食べる形を取っているインデュー族の食事は、屋台にはかなり適している。
「山車のパレードには、太鼓や笛を女性や子供も参加出来る曲を考えています」
奏の提案には子を持つ親世代には、なかなかの提案であったらしく好評だ。会話を保つため、部族の人達を観察していたブリジット。
その時、何か物を言いたげな若者が、何度も山車の設計図を眺めていることに気付いた。
「レーサさん、何かご意見ありますか?」
「あ、えっと」
急にブリジットに名を言われ、若干逃げ腰になりつつ彼女へと顔を向ける。
「お祭りは皆で作っていきましょう、ね?」
彼女の笑いかけに、彼は小さくだが口を開いた。
「資料によると、夜に別で小舟を出すんですよね。山車の搭乗部をその小舟にすれば、手間かからないかな……と」
この夜の儀式は後に説明があるため、今は割愛しておく。
「山車は再利用出来ますから、初回作れば、小舟を乗せるのも恐らく可能でしょう」
代表者達もそのアイデアに、各自賛成を示してくれた。
「あの、質問何だが」
「はい」
「提灯光るのか?昼だぞ」
「………っ」
ここに来て改めて奏も気付く、提灯とは本来夜間の照明だ。更に言えば青い光は目立ち難い。どうやら、名産に注目するあまり、少々盲目になっていたのかも知れない。
別に提灯に色があるのだからとも言えるが、それでは提灯で飾る意味が無いのだ。
言葉を詰まらせる奏に、意外な所から助け船が出た。
「それなら、代替品に硫黄の松明。若しくは藍の布でも良い」
鵤は更に続ける。どちらにしても、山車の装飾品なのだから後で考えても問題はない、と。
「確かにそうだな」
質問者も返答に納得してくれたようだ。
●
場所夕刻。
インデュー族の代表者達は、エアルドフリスに連れられて砦まで来ていた。
彼の考えは、日々の労働を讃え尚且つ先人に感謝する、と言うものだ。
アキエヴェが砦に登り、薄い水色の旗を取る。旗は祭司のいた祠から借りたものだ。ここから旗を持った族長を先頭に、反時計回りに山を進むことになる。
儀式の過程を話す中、小腹が空いたであろう皆にHolmesは自ら作った食事を提供した。
目の前で彼らが良く見知った薄い生地に、これまた常の豆と茹でた鳥肉、そこに唐辛子粉を調味し巻いたものだ。
リアルブルーで言う、チリコンカーンに似ている。もう一つは、先程の生地を細かくし、揚げたものだ。チップ状のそれを先程の中身をディップすれば、酒のつまみにも丁度良い。
「酒を片手に持ったまま、摘んで着けて食べるんだ。どうかな諸君、余分な一手間が楽しさに変わる瞬間は」
「おー、いつもの奴とは思えん」
「酒、欲しかったなぁ」
なれない刺激に目を瞬かせる大人達。唐辛子の量にも限りがある。故にこういった祭事の時だけ唐辛子を使うようにすれば、美味しさもまた一味。
というHolmesの策であったりもする。
「けど、屋台で出すなら子供用に甘いものも欲しいかも……冷たい香草茶だけじゃあね」
「ふむ……甘いもの、か」
これは新たに何か考えるべきか、と一人考察をするHolmesであった……
夜の儀式は、エアルドフリスと奏の二つの案をくっつけたものだ。夕刻、先程の砦の旗を掲げ、砦、漆黒の舞台、蓼藍の群生地、そして最後に集落近くの河川を目指す。それはまるで、インデュー族創成の歴史を辿る様なものだ。
蒼い火の元に集いし民よ
灯すことを忘れるな
始まりの火が燃え尽きても
火種は皆の手の中、心の中に
新しい蒼い火を灯せ
灯すことを忘れるな
忘れるな、忘れるな、口ずさみと山道を部族達が闊歩していく。吊り下げた藍染め提灯が、ゆらりゆらりと足元を導くように照らす。
漆黒の舞台には、ジュードが立っていた。今回はアキエヴェの代わりに、彼が戦舞を舞うようだ。
ブリジットの整えた白抜きの藍染めの衣装を纏う。しかし、昼の衣装と違い、染めてない白い生地部位が多く、地味な様にも感じる。
背後には、木製の弦楽器を持つルナとハープを携えたブリジット。神秘的な透き通った曲調に、ジュードは身を翻しながら舞う。
青の灯火が舞台が照らし、舞台の反射が舞台に揺らめく。徐々に鼓舞する太鼓、人工に作られた水音が場を盛り上げる。
皆がジュードの舞に息を飲んで見守る、そして山場を迎えフィナーレ!
『ソレ』を見た瞬時の一時の静寂。次いで場を包む拍手。それだけで戦舞がいかなるものであったかを、ハンター達に伝えた。
「なーるほど、だからこそのあの衣装であるわけか」
「祭司様と鵤様のアイデアだそうですよ」
静観していた大二郎に、奏がそう答えた。何でも祭司の実話を元にしたそうだ。
「…………」
誰もが、やんやとするなか、族長アキエヴェだけが一人俯き、顔色を悪くしていた。その様子はまるで、鬼火が乗り移ったかの様だ。
藍の群生地を通り、やがて河川に辿り着いた。そこでは、いち早くジュードが小舟の準備を終えていた。
試しに流す一艘は、無事に下流へとゆっくり下っていく。
願いを込めて、提灯に希望を乗せるには充分な時間だ。
元より運送用の河川だ。荷を安全に運ぶ速度ではある。本番では、旗を翻す巫女の小舟を最初に幾つもの小舟が浮かび、更に更に小さな蒼い希望が川を流れるのだ。
まぁ、後で回収すると言う裏話は、今は置いておこう。
揺蕩えよ、さぁ
総て導く蒼き火よ
流れ、流れて希望を秘めて
流れる小舟をエアルドフリスの歌が送る。傷を押さえながらも、精一杯発声を行う。
響く笛の音色は優しく、薪の温もりの如く体に染み込む。
「この曲は……」
祭司が呟くと、ルナが頷いた。元の曲はアキエヴェが聴いていたとされる子守唄、この曲はそのアレンジであった。
「昔からあるものに加えて、新しい音楽を創りたかったんだよ」
どこからともなく、ルナが出してきた指揮棒。何てことはない、木の棒を一本拝借したまでのこと。
「さあ、奏でましょうっ」
「内容は単純。踊る、奉る、ついでに飲み食いする。以上」
鵤はアキエヴェの直属の部下達に話を始めた。何かのアクシデントで祭事が滞る場合、短期に進められる祭りのやり方を伝授していた。必要なのは、臨機応変に動くこと、出来ないなら出来ないなりのやり方を見つけること、だ。
「 終わったあとはハイ宴会。祭りには付き物よなぁ」
「了解っす。じゃあこの後は打ち上げ――」
「いや、これ演習だろが」
ワイのワイの、と部族関係無しに祭への期待が高まる、集落への帰りの夜道。
「あの……奏様」
奏にそっとアキエヴェが耳打ちをしてくる。弱々しくも、はっきり彼女は言ってくれたのだ。
「ワタシ……踊ったことないのですが」
皆が一斉に取り掛かるなかで、エアルドフリス(ka1856)はいち早くインデュー族の族長アキエヴェを訪ねたのだった。
「確認させて頂きたいのですが」
「……誰もいない早朝に、と言うことはワタシ以外聞かれたくない話、と」
エアルドフリスは前族長トゥューハを英霊にする動きがあるのを知っているか、と問う。アキエヴェは、一瞬止まるも頷く。
肯定を見てから、エアルドフリスは言葉を続ける。
「どう、お考えですか? 部族の団結を図る現実的な解決策の一つだと思いますが」
「……族長として、安易に英霊化など言えません。もしするにしても、それなりの儀式と信仰を必要とします」
若干アキエヴェの声に波を感じる。恐らく、手段としての優位性には彼女も気付いてはいるのだろう……だが。
「では、貴方自身は如何です?」
「……まだ手が尽きてはいませんよ」
最後の手段、そう言うものとしてアキエヴェは見ているようだ。つまり、英霊化には否定的、とも見える。
「巫女の本質は犠牲だと、俺は教えられました……考えておいて下さい」
●
ジュード・エアハート(ka0410)は紙貼り、木枠の提灯に薄めた藍の染め液を刷毛で塗っていた。
「やっぱり和紙を鋤く時に染め液を加えようかな」
提灯に小舟と、プレゼンに持っていく道具を作成していた。一緒にイチヨ族のヤ・マダが材料の確認をしている。
「Holmesさん、唐辛子なら自生してるようです。それから木材の確保は――」
ジュードが彼に手伝いを頼んだのは、どうやら正解のようだ。あらかたの原料の予算は、計算はしてくれる。
「ジュードさん出来た?」
テントに入ってきたのはルナ・レンフィールド(ka1565)だ。手には、膝に置いて用いる木製の弦楽器を携えている。集落で使用されている楽器だ。
「こんな感じだね」
ジュードは紙を渡す。そこには、彼が思い描いた歌詞が綴られていた。彼が部族が一つになれるよう、そんな思いがこもった歌詞に目を通すルナ。
「今歌ってみる?」
「っ……いいや、もう少し外で曲練ってくる」
まるで逃げるように、ルナはその場を後にした。
――矢、石、様々なものが飛び交う戦場。自分も戦った。ここに住まうため。眼前に迫る岩、脳裏に過る死後の肉塊。
だが、それは愛しきかの人の蒼い火にくるまれ、自分は事なきを得た――
「凄いのね……トゥューハは」
「全くだ。蒼い火の羽衣ねぇ」
ブリジット(ka4843)と 鵤(ka3319)は生き証人とも言えるであろう、祭司の元へ訪れていた。何か新たなエピソードがないか、それを新たな材料に出来ないかとブリジットは考えたからだ。
次いでに、代表者達の名前も教えてもらう。プレゼンを行うのに、相手の名前を知らないわけにいかない。
「藍染めのビロードだが、あれを火に見立て、代わりに使えないかねぇ?」
簡単な祭事のやり方のみを記し纏めた後、鵤はそう祭司に質問する。
「確かに藍染めならば火にも……それなら」
三人は口元を斜めに上げながら、その計画を練り始めた。
「それ戦舞の時になら……早速奏に相談してくる!」
こうして、各自着々と準備を整えていったのである……
「あー言う時、若者の即決が羨ましい」
「ほんと全く」
瞬く間に消えたブリジットを眺める、じい二人であった……
●プレゼン始まるよ!
アキエヴェのテントには、既に族長と祭司、10人の代表が集まっていた。
最初に話を始めたのは、久延毘 大二郎(ka1771)だ。彼は全体的な祭の構成を説明し始める。
「祭事は昼と夜の二部構成になる」
理由も包み隠さず大二郎は話した。昼は主に観光客向けの物産展、若しくは縁日のような賑やかな物を開催し、藍の利用法、宣伝にもなる。
「 観光客を招聘する事で、インデュー族を『離脱した部族の一派』では無く、『インデュー族という一部族』として外部に認識させる事ができる」
仰々しく言い切るも、とは言え予算が大幅にかさむのも事実だろう、と大二郎は付け加える。
賑やかな昼と対比し、夜の部は正に内向けの祭祀と言ったところだろう。こちらは部族のみの祭となる。
「部族の成り立ち。これの追体験をしつつ伝統と倣いを形づかせ、信仰を後世まで残し、自然となるまでに根付かせる」
狙いはそんなところだ、と話した。
「それから、参加者達が須らく楽しく出来れば良いのである!」
とどのつまりが、祭りの本質はこれだ。
「ここからは奏、頼んだのである」
「ありがとうございます。大二郎様」
次に進んで出たのは、八雲 奏(ka4074)だ。彼女の役目は、昼間に行われる祭に関しての説明だ。これには、ジュードとHolmes(ka3813)が補助をする。ここで奏は設計図を床に広げた。大二郎と共に考えた山車の設計図である。
最初は歪虚の頭飾りの山車だが、側面と後方には赤と青の提灯。先頭の赤い提灯を落として、歪虚の頭を外し巫女の山車になると言う演出だ。そして、巫女はこの山車で集落を練り歩く。
巫女、つまり族長だが藍染めの衣装を着ることになる。
「こちらが、その衣装で」
「こっちがその提灯になりまーすっと」
ジュードが作った正方形の提灯がか置かれ、藍色の淡い光を屋内に振り撒いている。
「これは良い……新たな名物にもなりそうですな」
「どうです?これなら手のひらサイズでも、それなりの効力もあり、お土産にも最適ですよ!」
布を商品としていた彼らには、提灯と言う新たな風に食指が動いたらしい。流石、商人ジュードと言ったところか。
そこからHolmesは、屋台で売り出す食事について軽く説明した。元より片手で食べる形を取っているインデュー族の食事は、屋台にはかなり適している。
「山車のパレードには、太鼓や笛を女性や子供も参加出来る曲を考えています」
奏の提案には子を持つ親世代には、なかなかの提案であったらしく好評だ。会話を保つため、部族の人達を観察していたブリジット。
その時、何か物を言いたげな若者が、何度も山車の設計図を眺めていることに気付いた。
「レーサさん、何かご意見ありますか?」
「あ、えっと」
急にブリジットに名を言われ、若干逃げ腰になりつつ彼女へと顔を向ける。
「お祭りは皆で作っていきましょう、ね?」
彼女の笑いかけに、彼は小さくだが口を開いた。
「資料によると、夜に別で小舟を出すんですよね。山車の搭乗部をその小舟にすれば、手間かからないかな……と」
この夜の儀式は後に説明があるため、今は割愛しておく。
「山車は再利用出来ますから、初回作れば、小舟を乗せるのも恐らく可能でしょう」
代表者達もそのアイデアに、各自賛成を示してくれた。
「あの、質問何だが」
「はい」
「提灯光るのか?昼だぞ」
「………っ」
ここに来て改めて奏も気付く、提灯とは本来夜間の照明だ。更に言えば青い光は目立ち難い。どうやら、名産に注目するあまり、少々盲目になっていたのかも知れない。
別に提灯に色があるのだからとも言えるが、それでは提灯で飾る意味が無いのだ。
言葉を詰まらせる奏に、意外な所から助け船が出た。
「それなら、代替品に硫黄の松明。若しくは藍の布でも良い」
鵤は更に続ける。どちらにしても、山車の装飾品なのだから後で考えても問題はない、と。
「確かにそうだな」
質問者も返答に納得してくれたようだ。
●
場所夕刻。
インデュー族の代表者達は、エアルドフリスに連れられて砦まで来ていた。
彼の考えは、日々の労働を讃え尚且つ先人に感謝する、と言うものだ。
アキエヴェが砦に登り、薄い水色の旗を取る。旗は祭司のいた祠から借りたものだ。ここから旗を持った族長を先頭に、反時計回りに山を進むことになる。
儀式の過程を話す中、小腹が空いたであろう皆にHolmesは自ら作った食事を提供した。
目の前で彼らが良く見知った薄い生地に、これまた常の豆と茹でた鳥肉、そこに唐辛子粉を調味し巻いたものだ。
リアルブルーで言う、チリコンカーンに似ている。もう一つは、先程の生地を細かくし、揚げたものだ。チップ状のそれを先程の中身をディップすれば、酒のつまみにも丁度良い。
「酒を片手に持ったまま、摘んで着けて食べるんだ。どうかな諸君、余分な一手間が楽しさに変わる瞬間は」
「おー、いつもの奴とは思えん」
「酒、欲しかったなぁ」
なれない刺激に目を瞬かせる大人達。唐辛子の量にも限りがある。故にこういった祭事の時だけ唐辛子を使うようにすれば、美味しさもまた一味。
というHolmesの策であったりもする。
「けど、屋台で出すなら子供用に甘いものも欲しいかも……冷たい香草茶だけじゃあね」
「ふむ……甘いもの、か」
これは新たに何か考えるべきか、と一人考察をするHolmesであった……
夜の儀式は、エアルドフリスと奏の二つの案をくっつけたものだ。夕刻、先程の砦の旗を掲げ、砦、漆黒の舞台、蓼藍の群生地、そして最後に集落近くの河川を目指す。それはまるで、インデュー族創成の歴史を辿る様なものだ。
蒼い火の元に集いし民よ
灯すことを忘れるな
始まりの火が燃え尽きても
火種は皆の手の中、心の中に
新しい蒼い火を灯せ
灯すことを忘れるな
忘れるな、忘れるな、口ずさみと山道を部族達が闊歩していく。吊り下げた藍染め提灯が、ゆらりゆらりと足元を導くように照らす。
漆黒の舞台には、ジュードが立っていた。今回はアキエヴェの代わりに、彼が戦舞を舞うようだ。
ブリジットの整えた白抜きの藍染めの衣装を纏う。しかし、昼の衣装と違い、染めてない白い生地部位が多く、地味な様にも感じる。
背後には、木製の弦楽器を持つルナとハープを携えたブリジット。神秘的な透き通った曲調に、ジュードは身を翻しながら舞う。
青の灯火が舞台が照らし、舞台の反射が舞台に揺らめく。徐々に鼓舞する太鼓、人工に作られた水音が場を盛り上げる。
皆がジュードの舞に息を飲んで見守る、そして山場を迎えフィナーレ!
『ソレ』を見た瞬時の一時の静寂。次いで場を包む拍手。それだけで戦舞がいかなるものであったかを、ハンター達に伝えた。
「なーるほど、だからこそのあの衣装であるわけか」
「祭司様と鵤様のアイデアだそうですよ」
静観していた大二郎に、奏がそう答えた。何でも祭司の実話を元にしたそうだ。
「…………」
誰もが、やんやとするなか、族長アキエヴェだけが一人俯き、顔色を悪くしていた。その様子はまるで、鬼火が乗り移ったかの様だ。
藍の群生地を通り、やがて河川に辿り着いた。そこでは、いち早くジュードが小舟の準備を終えていた。
試しに流す一艘は、無事に下流へとゆっくり下っていく。
願いを込めて、提灯に希望を乗せるには充分な時間だ。
元より運送用の河川だ。荷を安全に運ぶ速度ではある。本番では、旗を翻す巫女の小舟を最初に幾つもの小舟が浮かび、更に更に小さな蒼い希望が川を流れるのだ。
まぁ、後で回収すると言う裏話は、今は置いておこう。
揺蕩えよ、さぁ
総て導く蒼き火よ
流れ、流れて希望を秘めて
流れる小舟をエアルドフリスの歌が送る。傷を押さえながらも、精一杯発声を行う。
響く笛の音色は優しく、薪の温もりの如く体に染み込む。
「この曲は……」
祭司が呟くと、ルナが頷いた。元の曲はアキエヴェが聴いていたとされる子守唄、この曲はそのアレンジであった。
「昔からあるものに加えて、新しい音楽を創りたかったんだよ」
どこからともなく、ルナが出してきた指揮棒。何てことはない、木の棒を一本拝借したまでのこと。
「さあ、奏でましょうっ」
「内容は単純。踊る、奉る、ついでに飲み食いする。以上」
鵤はアキエヴェの直属の部下達に話を始めた。何かのアクシデントで祭事が滞る場合、短期に進められる祭りのやり方を伝授していた。必要なのは、臨機応変に動くこと、出来ないなら出来ないなりのやり方を見つけること、だ。
「 終わったあとはハイ宴会。祭りには付き物よなぁ」
「了解っす。じゃあこの後は打ち上げ――」
「いや、これ演習だろが」
ワイのワイの、と部族関係無しに祭への期待が高まる、集落への帰りの夜道。
「あの……奏様」
奏にそっとアキエヴェが耳打ちをしてくる。弱々しくも、はっきり彼女は言ってくれたのだ。
「ワタシ……踊ったことないのですが」
依頼結果
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祭事創作会議室(相談卓) ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/07/27 23:04:56 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/24 16:54:49 |