ゲスト
(ka0000)
【聖呪】元騎士の後悔と誇り
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/28 22:00
- 完成日
- 2015/08/02 22:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
戦略的な動きを見せるゴブリンたち。
亜種――茨小鬼(ホロム・ゴブリン)の目撃情報も増え、王国も対策に本腰を入れざるを得なくなった。
比較的平穏な土地。王国北部ルサスール領。
その領主カフェ・W・ルサスールも、頭を悩ませていた。
王族と貴族間の政治的な動き、領民の不安緩和への施策、戦力の確認……。
やらねばならぬことを頭に、王都での会合を終えたのだ。
だが、カフェが帰ってすぐに事態は一変した。
深く考えるだけの時間を、ゴブリンどもは与えてくれはしなかったのだ。
「騎士団の編成はどうなっている? 住民の避難と受け入れ先の確保を……占領された場合に備えて前線基地を築く準備はしておけ」
矢継ぎ早に指示を飛ばすカフェの顔色には、疲れが見える。
ルサスール領内でも北端に位置する町、オーレフェルト。そこを目指して、ゴブリンの軍勢が動き出したというのだ。
「あそこは領の関門にもなっている場所だ。何としても、死守しなければっ」
カフェの息子たちは政治的外遊のため不在。騎士団も散発するゴブリンへの対処で手薄となっていた。
時間も、戦力も足りてはいない。
「すぐに、緊急事態を発令させろ……戦えるものを全てオーレフェルトへ集めるのだ」
せめて、教会だけでも死守しなければならない。
精神的拠り所として、あそこは領北部の村々にとっても重要な位置を占める。
「間に合ってくれればよいのだが……」
オーレフェルトは、空気が変わるのを感じていた。
そよぐ風も、飛び立つ鳥のさえずりも、嵐の前の静けさという言葉を思い起こさせる。
少女は空を見上げ、母の袖をぎゅっと掴んで楽しそうに言う。
「鳥! 大きな鳥がいっぱい!」
次の瞬間、鳥が何かを落とした。いや、そいつらは降り立ったのだ。
ゴブリンの眼が少女をとらえる。
母は叫び、娘は呆然と立ち尽くす。暴虐が、始まろうとしていた。
●
「何だ、これは……」
街中の酒場で飲んだくれていたラーセフ・メドラは自分の目を疑った。
飲みすぎで、酔っぱらってるものとばかり思った。
まるで……戦場ではないか。
四十代後半となった今でこそ、ただの飲んだくれだが、ラーセフは元騎士だった。
血のにおいが充満する戦場で、ラーセフは初めて命を失う恐怖を覚えた。
誇りのためなら命はいらぬと常日頃から豪語しておきながら、敵に背を向けた。
ラーセフは逃げたのだ。戦場から、己の誇りから。
生き残ったラーセフに周囲の反応は冷たかった。
いたたまれなくなって騎士を辞め、住み慣れた街を離れた。
それでも同い年の妻と今年で十五歳の娘は、ろくに働かず、最低な男になったラーセフを父と認めてくれる。
慕ってくれる家族の声と、未練たらしく腰に下げたロングソードの鳴る音が、堕落しきったラーセフをかろうじて支えていた。
このままではいけないと思いながらも、朝から営業している行きつけの安い酒場で飲んだくれた。
酔っぱらって眠れば、戦場から逃げた悪夢を見なくて済む。
ふらつく足取りで外へ出たラーセフを待っていたのは、街を蹂躙しようとするゴブリンの群れだった。
しかも、その数はどんどん増えている。
軍が派遣されるだろうが、その前にかなりの被害が出る。
「何が……起きてるんだ」
酔いならとっくにさめた。
ジャイアントみたいなやつが、周りのゴブリンたちをこき使うようにしている。
恐らく、あれが最近よく噂になっている茨小鬼――ホロム・ゴブリンと呼ばれてる奴だろう。
「……ターニア! アンナ!」
ターニアは心優しい妻。そしてアンナは、誰より大切な娘だった。
急いで戻り、自宅に飛び込む。二人とも、中にいてくれた。
居間にしゃがみ込んでいるターニアが、守るように両腕で娘のアンナを抱いていた。
「二人とも無事か。理由はわからないが、どうやら街にゴブリンが攻めてきたようだ。すぐに逃げるぞ」
ラーセフが二人を連れて家を出ると、そこには逃げ惑うたくさんの人々がいた。
助けを求める人たちの声が、失われていたラーセフの騎士としての心を取り戻させる。
今の自分は飲んだくれの中年親父かもしれないが、ここにいる住民を救える可能性がある。
騎士だった頃の知識と経験をフル動員する。
「……逃げるなら、地下水路だな。脱出経路にはならないが、隠れ場所にはなる」
不安そうにするアンナを安心させるために、ラーセフは強引に笑顔を作る。
「大丈夫だ。統率のとれた動きで攻めてきた以上、奴らには狙いがある。仮に占領だったとしても、住民の殲滅より先に中枢部の制圧を優先するはずだ」
相手はゴブリン。何かきっかけがあれば、かならず隙を見せるはずだ。
その機会を逃さずに、地下水路から出て街を脱出する。
「可能なら、西方あたりが無難だろう。とにかく、まずは身を隠すのが――」
ラーセフが最後まで言い終わるのを待たずに、ゴブリンたちが現れた。
獲物となる住民を見つけ、舌なめずりでもしそうな顔つきになる。
「……お前たちはすぐに逃げろ」
「パパはどうするの?」
「元がつくとはいえ、俺は騎士だ。不愉快な汚名を、この場で返上してやろうと思う」
「そんな……! 駄目だよっ!」
「……ターニア、アンナとこの場にいる他の住民たちを頼む」
悲しそうな表情を見せながらも、ターニアは強く頷いた。
さすが俺の愛した女だ。ラーセフは心から思った。
震える右手に力を入れ、鞘からロングソードを抜く。
今度は……絶対に逃げない。
逃げた戦場ではともに戦えなかった相棒が、待ってましたとばかりに剣身を輝かせた。
●
偶然、街にいたハンターたちは目撃する。
多数のゴブリンを相手に一歩も引かず、逃げ惑う住民の盾になっているひとりの男の姿を。
「……ハンターか。俺の名はラーセフ。ただの……飲んだくれだ」
そう言って笑ったあと、すでに左手が上がらなくなっているラーセフは、ハンターたちに住民の避難誘導を依頼した。
「この先に地下水路がある。住民たちはそこへ向かった。俺はここで食い止めるつもりだったが……」
そう言って、ラーセフは唇を噛む。
すでに、結構な数のゴブリンに抜かれてしまっていた。
「このままでは住民が危うい。一刻も早く、追いかけてくれ」
追ったダメージのせいで、ラーセフは素早く動けそうもない。
それどころか、死神が愛しげに寄り添ってるような感じすらあった。
「住民の中には……俺の妻と、娘もいる。どうか……助けてくれ……」
戦略的な動きを見せるゴブリンたち。
亜種――茨小鬼(ホロム・ゴブリン)の目撃情報も増え、王国も対策に本腰を入れざるを得なくなった。
比較的平穏な土地。王国北部ルサスール領。
その領主カフェ・W・ルサスールも、頭を悩ませていた。
王族と貴族間の政治的な動き、領民の不安緩和への施策、戦力の確認……。
やらねばならぬことを頭に、王都での会合を終えたのだ。
だが、カフェが帰ってすぐに事態は一変した。
深く考えるだけの時間を、ゴブリンどもは与えてくれはしなかったのだ。
「騎士団の編成はどうなっている? 住民の避難と受け入れ先の確保を……占領された場合に備えて前線基地を築く準備はしておけ」
矢継ぎ早に指示を飛ばすカフェの顔色には、疲れが見える。
ルサスール領内でも北端に位置する町、オーレフェルト。そこを目指して、ゴブリンの軍勢が動き出したというのだ。
「あそこは領の関門にもなっている場所だ。何としても、死守しなければっ」
カフェの息子たちは政治的外遊のため不在。騎士団も散発するゴブリンへの対処で手薄となっていた。
時間も、戦力も足りてはいない。
「すぐに、緊急事態を発令させろ……戦えるものを全てオーレフェルトへ集めるのだ」
せめて、教会だけでも死守しなければならない。
精神的拠り所として、あそこは領北部の村々にとっても重要な位置を占める。
「間に合ってくれればよいのだが……」
オーレフェルトは、空気が変わるのを感じていた。
そよぐ風も、飛び立つ鳥のさえずりも、嵐の前の静けさという言葉を思い起こさせる。
少女は空を見上げ、母の袖をぎゅっと掴んで楽しそうに言う。
「鳥! 大きな鳥がいっぱい!」
次の瞬間、鳥が何かを落とした。いや、そいつらは降り立ったのだ。
ゴブリンの眼が少女をとらえる。
母は叫び、娘は呆然と立ち尽くす。暴虐が、始まろうとしていた。
●
「何だ、これは……」
街中の酒場で飲んだくれていたラーセフ・メドラは自分の目を疑った。
飲みすぎで、酔っぱらってるものとばかり思った。
まるで……戦場ではないか。
四十代後半となった今でこそ、ただの飲んだくれだが、ラーセフは元騎士だった。
血のにおいが充満する戦場で、ラーセフは初めて命を失う恐怖を覚えた。
誇りのためなら命はいらぬと常日頃から豪語しておきながら、敵に背を向けた。
ラーセフは逃げたのだ。戦場から、己の誇りから。
生き残ったラーセフに周囲の反応は冷たかった。
いたたまれなくなって騎士を辞め、住み慣れた街を離れた。
それでも同い年の妻と今年で十五歳の娘は、ろくに働かず、最低な男になったラーセフを父と認めてくれる。
慕ってくれる家族の声と、未練たらしく腰に下げたロングソードの鳴る音が、堕落しきったラーセフをかろうじて支えていた。
このままではいけないと思いながらも、朝から営業している行きつけの安い酒場で飲んだくれた。
酔っぱらって眠れば、戦場から逃げた悪夢を見なくて済む。
ふらつく足取りで外へ出たラーセフを待っていたのは、街を蹂躙しようとするゴブリンの群れだった。
しかも、その数はどんどん増えている。
軍が派遣されるだろうが、その前にかなりの被害が出る。
「何が……起きてるんだ」
酔いならとっくにさめた。
ジャイアントみたいなやつが、周りのゴブリンたちをこき使うようにしている。
恐らく、あれが最近よく噂になっている茨小鬼――ホロム・ゴブリンと呼ばれてる奴だろう。
「……ターニア! アンナ!」
ターニアは心優しい妻。そしてアンナは、誰より大切な娘だった。
急いで戻り、自宅に飛び込む。二人とも、中にいてくれた。
居間にしゃがみ込んでいるターニアが、守るように両腕で娘のアンナを抱いていた。
「二人とも無事か。理由はわからないが、どうやら街にゴブリンが攻めてきたようだ。すぐに逃げるぞ」
ラーセフが二人を連れて家を出ると、そこには逃げ惑うたくさんの人々がいた。
助けを求める人たちの声が、失われていたラーセフの騎士としての心を取り戻させる。
今の自分は飲んだくれの中年親父かもしれないが、ここにいる住民を救える可能性がある。
騎士だった頃の知識と経験をフル動員する。
「……逃げるなら、地下水路だな。脱出経路にはならないが、隠れ場所にはなる」
不安そうにするアンナを安心させるために、ラーセフは強引に笑顔を作る。
「大丈夫だ。統率のとれた動きで攻めてきた以上、奴らには狙いがある。仮に占領だったとしても、住民の殲滅より先に中枢部の制圧を優先するはずだ」
相手はゴブリン。何かきっかけがあれば、かならず隙を見せるはずだ。
その機会を逃さずに、地下水路から出て街を脱出する。
「可能なら、西方あたりが無難だろう。とにかく、まずは身を隠すのが――」
ラーセフが最後まで言い終わるのを待たずに、ゴブリンたちが現れた。
獲物となる住民を見つけ、舌なめずりでもしそうな顔つきになる。
「……お前たちはすぐに逃げろ」
「パパはどうするの?」
「元がつくとはいえ、俺は騎士だ。不愉快な汚名を、この場で返上してやろうと思う」
「そんな……! 駄目だよっ!」
「……ターニア、アンナとこの場にいる他の住民たちを頼む」
悲しそうな表情を見せながらも、ターニアは強く頷いた。
さすが俺の愛した女だ。ラーセフは心から思った。
震える右手に力を入れ、鞘からロングソードを抜く。
今度は……絶対に逃げない。
逃げた戦場ではともに戦えなかった相棒が、待ってましたとばかりに剣身を輝かせた。
●
偶然、街にいたハンターたちは目撃する。
多数のゴブリンを相手に一歩も引かず、逃げ惑う住民の盾になっているひとりの男の姿を。
「……ハンターか。俺の名はラーセフ。ただの……飲んだくれだ」
そう言って笑ったあと、すでに左手が上がらなくなっているラーセフは、ハンターたちに住民の避難誘導を依頼した。
「この先に地下水路がある。住民たちはそこへ向かった。俺はここで食い止めるつもりだったが……」
そう言って、ラーセフは唇を噛む。
すでに、結構な数のゴブリンに抜かれてしまっていた。
「このままでは住民が危うい。一刻も早く、追いかけてくれ」
追ったダメージのせいで、ラーセフは素早く動けそうもない。
それどころか、死神が愛しげに寄り添ってるような感じすらあった。
「住民の中には……俺の妻と、娘もいる。どうか……助けてくれ……」
リプレイ本文
●
ハンターたちはすぐに動いた。
会話する時間も勿体ないとばかりに、天央 観智(ka0896)が魔導バイクを走らせる。
「困った事態……ですけれど、目の届く範囲で、脱落者……なんて、出させませんよ」
戦馬に乗るラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)も住民を救いに向かう。
「この状況は、故郷の最期を思い出します……今度こそは。命を懸ける価値のある戦いです。武運がありますように」
もうひとり、扼城(ka2836)も魔導バイクにまたがる。住民を追いかける前にラーセフへ近づく。
「……騎士の誇りも結構だが……父親として家族を守る未来も忘れるなよ……」
戸惑うラーセフに、連絡手段だと半ば強引にトランシーバーを押しつけた。
三人が出発すると、ユーロス・フォルケ(ka3862)もバイクに乗った。
「おいおい無理すんなよおっさん、膝が笑ってるぜ? いい齢して張り切るからそうなるんだよ。だがまあ――今のアンタ、最高にカッコいいぜ。死ぬんじゃねぇぞ、ダッセェからな。……後は任せとけ」
バイク上から、真っ直ぐにゴブリンの群れを見据える。
その間にユルゲンス・クリューガー(ka2335)が、ラーセフの前へ進み出る。
「敵の急襲に混乱する街と人々、珍しくはないが何度見ても良い気持ちのする光景ではないな。ひとまず目前の敵を片付ける事としよう」
今にもラーセフへとどめを刺そうとしていたホロム・ゴブリンを睨みつける。隣には夕鶴(ka3204)もいる。
「死を覚悟して敵前に立つとは。……あの人の背を幻視させてくれる。その意気やよし」
馬上でクレイモアを構えた夕鶴が、言葉を続ける。
「だが……貴殿もまたこの街の住民の一人だ、ラーセフ殿。見捨てるわけにはいかないな。安心してくれ、奴の相手は我々が引き受ける! 守るべきものがあるのなら、剣を握る貴殿の死に場所は此処ではないと心得よ!」
夕鶴とユルゲンスが同時に馬を走らせる。
チャージングを使用し、それぞれ威力を高めた一撃をホロム・ゴブリンに見舞う。
動きに優れないホロム・ゴブリンは回避しきれない。攻撃がまともに命中し、バランスを崩す。
怒りに満ちた視線が、ラーセフからハンターに移る。その隙にクレール(ka0586)が戦馬を操る。
ラーセフの状態は想像以上に酷かった。クレールはすぐに自分の馬へ乗るように告げた。
退けないと首を左右に振るラーセフを、繰り返し説得する。
「……住民の方々は、不安で、怯えて……必死に逃げています。だから、希望が……ラーセフさんが! 皆を守った英雄の帰還が必要なんです! それに……どんなになっても! お父さんは、世界で一番頼もしいんです! 家族のためにも、生きて! 父を持つ娘からの、お願いです……!」
「娘を持つ父親だからこそ、俺は退けない……!」
叫ぶように発したラーセフが、ユルゲンスの一撃でよろめいていたホロム・ゴブリンに気合の追撃を行う。
「貴公、死ぬつもりか? 退けぬというのならば手を貸そう」
攻撃が届く前に吹き飛ばされたラーセフを、ユルゲンスが受け止めた。
すぐにクレールがラーセフへ駆け寄る。
「こんな……無茶を……ラーセフさん……。奥さんと、娘さん……お父さんの、強さ。……死なせない。ラーセフさんも、住民の方も! 誰一人、死なせるかぁっ!!」
クレールの放ったデルタレイが、ホロム・ゴブリンと近くにいたゴブリン二匹を貫く。
二匹のゴブリンを絶命させはしたが、ホロム・ゴブリンは両手斧を盾代わりに使用してダメージを軽減させた。
期待以上の被害は与えられず、逆に怒りを買う。だが、ホロム・ゴブリンの前にユルゲンスが立ち塞がる。
「ふむ、ジャイアントではないようだが厄介そうな敵だ」
ホロム・ゴブリンが振るう両手斧による一撃を、ユルゲンスが回避する。全身鎧で身を固めていても、直撃はキツい。
だが、その代わりに他のゴブリンの攻撃を受けてしまう。
敵の視線がユルゲンスに集まったタイミングで、二十メートルほど後方からユーロスが動き出す。
「そんじゃあ始めるか。まずは目の前のゴミ共をぶっ潰す。全員助けるぞ」
ゴブリンたちはユルゲンスを攻撃目標にしていたのもあり、ランアウトを使ったユーロスの突撃をまともに食らう。
ゴブリンの数が減り始めたのを好機に、ユルゲンスもホロム・ゴブリンから一定距離を取る。
周回しつつ取り巻きのゴブリンを攻撃。ホロム・ゴブリンの隙を窺いながら、敵の数をユーロスや夕鶴と一緒に減らしていく。
その間に、クレールはラーセフを撤退させようとするが、どうしても首を縦に振ってくれない。
仕方なしにここで一度、伝波増幅を使った魔導短伝話で住民の護衛に向かった仲間と連絡を取ることにした。
●
ハンターが救出に向かってることを知らない住民たちは、必死の形相で追ってくるゴブリンから逃げ続ける。
リーダーもいない状況下で、ゴブリンから逃げ切るのは至難の業だった。
次第に両者の距離が詰まる。追いつかれるのは時間の問題だ。
誰かがもう駄目だと叫んだ。目指す地下水路までは、まだ距離がある。
絶体絶命の窮地に、脇目も振らずに全速力で移動してきた天央が追いついた。
「ギリギリ……間に合ったみたいですね。よく、僕らが来るまで無事でいてくれました」
攻撃されるのも厭わず、天央は途中で遭遇したゴブリンには目もくれずに魔導バイクで突っ切ってきた。
身体のあちこちにダメージを負ったが、おかげで住民に被害が出る前に到着できた。
振り返り様にファイアーボールを命中させる。広範囲に広がる衝撃によって、ゴブリンたちの足が止まった。
「急場の戦禍、その中で成すべき事への尽力、時間も無い……急きはするが、焦りと油断は禁物か」
扼城もゴブリンの先頭集団へ追いついた。道すがらユナイテッド・ドライブ・ソードを分離させ、バイクのグリップごと握り両サイドに剣と刀を展開させた。
バイクの突進を利用した上で、チャージングを使って住民を狙うゴブリンに手傷を与える。
いまだ多勢に無勢の状況だが、ここで軍馬に乗ったラシュディアも登場する。
天央と扼城の攻撃で足を止めていたゴブリンたちに、生み出した燃える火球をお見舞いした。
爆発音が響き、火が消えるとゴブリンの数も減っていた。
けれど、まだ安全圏とは言い難い。敵の数を減らしても、新たなゴブリンが次々と降り立つ状況なのである。
「パパ、大丈夫かな……」
「無事を伝え、励ましてやれ」
涙目の少女に、扼城は持っていたトランシーバーを差し出す。
直後に、ラシュディアの魔導短伝話に連絡が入る。ラーセフの保護を担当するクレールからだった。
ハンターたちが使用方法を教えたトランシーバーを持ち、通信が可能なところまでアンナが走る。
「ラーセフさんには勝手ながら親近感が。逃げ出して死に損なった者が死に場所を得るのは堪らない悦びがあるんです。勿論彼が俺と同じとは限りませんが……」
ラシュディアの見解は正解だった。騎士の誇りを取り戻すための死に場所を、ラーセフは探していた。
理解できているからこそ、妻のターニアは悲しげに俯くだけだ。けれど、娘のアンナは違った。
トランシーバーがラーセフとの会話を可能にするなり、アンナは自身の気持ちを全力で伝えた。
●
「退却の手伝いを……お願いする」
ラーセフが言った。プライドを捨てるきっかけになったのは、愛娘の心のこもった励ましだった。
頑張って。死なないで。数々の言葉が、騎士の誇りよりも重く心の中に沈んだ。
トランシーバーを使った会話により、結果的にハンターたちはラーセフの説得に成功した。
クレールの馬に乗り、身体を固定する。その最中もゴブリンたちは、執拗にラーセフを狙う。
「敵の増援が来てる。退却するぞ。速度が出ない奴らから先に行け」
退却を促したユーロスが、ホロム・ゴブリンの前へ行く。
すぐさまホロム・ゴブリンが巨大な斧を振るってくる。
攻撃を待ち構えていたユーロスは、魔導バイクを急発進させて脚の間を抜ける。
背面に移動して、膝裏に連撃を叩きこむ。大きくバランスを崩したホロム・ゴブリンが、怒りの咆哮を上げる。
すぐには動けないホロム・ゴブリンに代わり、取り巻きのゴブリンが一斉に動き出す。
酷い怪我のラーセフと行動を一緒にするクレールを守るべく、夕鶴が数多くの敵を引き受ける。
「邪魔をするなら容赦はしない! 弱者を狙う下衆共が……それでも剣を握る者か! 貴様らの相手は此処にいるぞ!」
大きな声を出し、注目を集めた上で惜しまずにチャージングを見舞ってゴブリンの群れを押し返す。
「ラーセフさんに負担はかけない! 敵の攻撃も、全部私が防ぐ!」
クレールが遠隔機導術で、増援に現れたゴブリンもまとめて攻撃する。
ラーセフを移動させる準備が整ったところで、再度、魔導短伝話を使って状況を伝える。
その後、クレールが先頭で地下水路を目指す。
ラーセフを乗せているクレールを守るため、夕鶴が速度を落として同行する。まとわりついてくる敵を、すべて排除するつもりだった。
そのあとをユルゲンスとユーロスが続く。
全員が魔導バイクや馬に乗っているため、追ってくるゴブリンよりもスピードはずっと上だった。
「間もなく水路か……一気に叩くとしよう」
仲間と合流すれば反撃体制も整う。そこからが本番になる。
●
逃げる住民と合流したあと、天央は双眼鏡も使って辺りを確認し続ける。
倒したと思っても、増援のゴブリンがどんどん空からやってくる。
「次から次へと……きりがありませんね」
間合いを調整しながら、機動性と射撃を効果的に活用して住民の護衛を行う。
「あと少しで地下通路へ到着します。なんとか住民の方々を守りきりましょう」
下馬したラシュディアが、逃げる住民の横から敵増援が来ないか警戒する。
馬には怪我した住民を乗せ、歩行速度が落ちないように気を遣う。
住民の最後尾の護衛を天央とラシュディアに任せ、扼城はバイクから降りてゴブリンとの戦闘を積極的に行う。いわゆる時間稼ぎだ。
「抜かせるものか、俺が動ける限り」
オートマチックST43で、迫ってくるゴブリンを次々と撃ち抜く。
ゴブリンに周りを囲まれれば、武器をユナイテッド・ドライブ・ソードに持ち替える。
踏込からの刺突一閃でゴブリンを仕留めたあと、隙を見てバイクに飛び乗る。
襲いくるゴブリンの攻撃を回避し、距離を取ってからチャージングからの攻撃を行う。
さすがに無傷というわけにはいかないが、住民が地下水路へ移動するまでの時間は十分に稼げた。
ひと時の安心であっても喉から手が出るほど欲しい住民は、我先にと地下水路へ入りたがる。
そのせいで無駄に時間がかかり、ゴブリンたちの接近を許すはめになる。
ハンターたちが必死で守る中、地下水路前にラーセフを連れた仲間がやってくる。
「パパっ!」
応急処置だけをしたラーセフに、アンナが抱きつく。
「ゆっくりしている暇はありませんよ。早く地下水路の中に隠れてください」
天央の言葉にラーセフが頷き、住民へ落ち着いて行動するように言い聞かせる。
たったひとりで住民を逃がそうとしたラーセフに指示されれば、住民たちも素直に従う。
住民たちが地下水路へ入る間は、ハンターたちが連携してゴブリンたちの接近を防ぐ。
倒した数以上のゴブリンが、四方八方からショートソードや槍を振るう。
住民へ被害が及ばないようにするには、ハンターたちが盾になるしかない。
そこへ、ユーロスが足止めしたホロム・ゴブリンもやってきた。
取り巻きのゴブリンが活気づき、これまで以上にハンターへ攻撃を仕掛けてくる。
対するハンターたちも、全力で応戦する。総力戦だ。
ラーセフを彼の家族に任せたクレールも、ゴブリンたちとの戦闘に参加する。
「ここで、勝つ! ホロムゥッ! くたばれぇぇぇっ!!」
現れたホロム・ゴブリンに、渾身の機導砲が命中する。
取り巻きのゴブリンに狙われようとも、とにかく親玉となるホロム・ゴブリンの退治を優先させる。
一方で住民の地下水路への避難がようやく完了する。
地下水路内の住民の護衛は、天央が一手に引き受けた。同時に、脱出タイミングの連絡要員役にもなる。
住民たちが怯える中、地上ではハンターとホロム・ゴブリンの戦闘が激しさを増していた。
すでに結構なダメージを与えてるにもかかわらず、動きが鈍るどころかホロム・ゴブリンは怒りに任せて両手斧を振りまくる。
一対一ならまだしも、周囲には取り巻きのゴブリンどもがいるからたちが悪い。
死角から攻撃を仕掛けられ、手間取る間にホロム・ゴブリンの一撃を食らわせられる。
ここが勝負だと、ラシュディアはライトニングボルトを放つ。縦に連なっていたゴブリンたちを、まとめて始末する。
「効果的ならば、自分ごと炎球で撃つ事も辞さないですよ。狂気の沙汰ではありますが。覚悟があるなら、どんどんかかってきてください」
よほどの威圧感があったのか、人間の言語がわからないはずのゴブリンたちが怯えた。
取り巻きからの邪魔が少なくなったところで、ユーロスがホロム・ゴブリンを攪乱する。
苛立ちと一緒に振り下ろされた斧を回避してから、ホロム・ゴブリンの脚部を狙って連撃を仕掛ける。
「とっとと、倒れちまえよ」
出し惜しみはしない。攻撃と回避を繰り返しながら、使えるだけの連撃を叩きこむ。
グラついたホロム・ゴブリンが地面に片膝をついた瞬間を見逃さず、夕鶴が渾身撃を繰り出す。
「我が矜持とこの剣に誓って、私は貴様らを斃す! 明日の朝日が拝めると思うな!!」
巨大のホロム・ゴブリンの動きがさらに鈍ったのもあり、強烈な一撃が命中する。
ラシュディア、扼城が取り巻きのゴブリンを牽制する。
その間にクレール、ユルゲンス、ユーロス、夕鶴がホロム・ゴブリンを着実に追い詰めていく。
単独で戦えば危険な相手でも、ハンターたちが協力すれば脅威も減る。
頭が下がってきた巨体のホロム・ゴブリンに、ユルゲンスがディバインランスを突き立てる。
さすがのホロム・ゴブリンも、ハンターたちの一斉攻撃に耐えられなかった。
地面に沈んだホロム・ゴブリンの姿に、取り巻きのゴブリンが戸惑う。
戸惑いと混乱に支配され、この場から逃げ出す者までいた。
今がチャンスだと、地下水路にいる天央に連絡を取る。
場にいる少なくなったゴブリンをハンターが始末してる間に、住民が地下水路から出てくる。
こうしてハンターたちは、住民に被害を出さないどころか、瀕死のラーセフまでをも救出するのに成功したのだった。
ハンターたちはすぐに動いた。
会話する時間も勿体ないとばかりに、天央 観智(ka0896)が魔導バイクを走らせる。
「困った事態……ですけれど、目の届く範囲で、脱落者……なんて、出させませんよ」
戦馬に乗るラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)も住民を救いに向かう。
「この状況は、故郷の最期を思い出します……今度こそは。命を懸ける価値のある戦いです。武運がありますように」
もうひとり、扼城(ka2836)も魔導バイクにまたがる。住民を追いかける前にラーセフへ近づく。
「……騎士の誇りも結構だが……父親として家族を守る未来も忘れるなよ……」
戸惑うラーセフに、連絡手段だと半ば強引にトランシーバーを押しつけた。
三人が出発すると、ユーロス・フォルケ(ka3862)もバイクに乗った。
「おいおい無理すんなよおっさん、膝が笑ってるぜ? いい齢して張り切るからそうなるんだよ。だがまあ――今のアンタ、最高にカッコいいぜ。死ぬんじゃねぇぞ、ダッセェからな。……後は任せとけ」
バイク上から、真っ直ぐにゴブリンの群れを見据える。
その間にユルゲンス・クリューガー(ka2335)が、ラーセフの前へ進み出る。
「敵の急襲に混乱する街と人々、珍しくはないが何度見ても良い気持ちのする光景ではないな。ひとまず目前の敵を片付ける事としよう」
今にもラーセフへとどめを刺そうとしていたホロム・ゴブリンを睨みつける。隣には夕鶴(ka3204)もいる。
「死を覚悟して敵前に立つとは。……あの人の背を幻視させてくれる。その意気やよし」
馬上でクレイモアを構えた夕鶴が、言葉を続ける。
「だが……貴殿もまたこの街の住民の一人だ、ラーセフ殿。見捨てるわけにはいかないな。安心してくれ、奴の相手は我々が引き受ける! 守るべきものがあるのなら、剣を握る貴殿の死に場所は此処ではないと心得よ!」
夕鶴とユルゲンスが同時に馬を走らせる。
チャージングを使用し、それぞれ威力を高めた一撃をホロム・ゴブリンに見舞う。
動きに優れないホロム・ゴブリンは回避しきれない。攻撃がまともに命中し、バランスを崩す。
怒りに満ちた視線が、ラーセフからハンターに移る。その隙にクレール(ka0586)が戦馬を操る。
ラーセフの状態は想像以上に酷かった。クレールはすぐに自分の馬へ乗るように告げた。
退けないと首を左右に振るラーセフを、繰り返し説得する。
「……住民の方々は、不安で、怯えて……必死に逃げています。だから、希望が……ラーセフさんが! 皆を守った英雄の帰還が必要なんです! それに……どんなになっても! お父さんは、世界で一番頼もしいんです! 家族のためにも、生きて! 父を持つ娘からの、お願いです……!」
「娘を持つ父親だからこそ、俺は退けない……!」
叫ぶように発したラーセフが、ユルゲンスの一撃でよろめいていたホロム・ゴブリンに気合の追撃を行う。
「貴公、死ぬつもりか? 退けぬというのならば手を貸そう」
攻撃が届く前に吹き飛ばされたラーセフを、ユルゲンスが受け止めた。
すぐにクレールがラーセフへ駆け寄る。
「こんな……無茶を……ラーセフさん……。奥さんと、娘さん……お父さんの、強さ。……死なせない。ラーセフさんも、住民の方も! 誰一人、死なせるかぁっ!!」
クレールの放ったデルタレイが、ホロム・ゴブリンと近くにいたゴブリン二匹を貫く。
二匹のゴブリンを絶命させはしたが、ホロム・ゴブリンは両手斧を盾代わりに使用してダメージを軽減させた。
期待以上の被害は与えられず、逆に怒りを買う。だが、ホロム・ゴブリンの前にユルゲンスが立ち塞がる。
「ふむ、ジャイアントではないようだが厄介そうな敵だ」
ホロム・ゴブリンが振るう両手斧による一撃を、ユルゲンスが回避する。全身鎧で身を固めていても、直撃はキツい。
だが、その代わりに他のゴブリンの攻撃を受けてしまう。
敵の視線がユルゲンスに集まったタイミングで、二十メートルほど後方からユーロスが動き出す。
「そんじゃあ始めるか。まずは目の前のゴミ共をぶっ潰す。全員助けるぞ」
ゴブリンたちはユルゲンスを攻撃目標にしていたのもあり、ランアウトを使ったユーロスの突撃をまともに食らう。
ゴブリンの数が減り始めたのを好機に、ユルゲンスもホロム・ゴブリンから一定距離を取る。
周回しつつ取り巻きのゴブリンを攻撃。ホロム・ゴブリンの隙を窺いながら、敵の数をユーロスや夕鶴と一緒に減らしていく。
その間に、クレールはラーセフを撤退させようとするが、どうしても首を縦に振ってくれない。
仕方なしにここで一度、伝波増幅を使った魔導短伝話で住民の護衛に向かった仲間と連絡を取ることにした。
●
ハンターが救出に向かってることを知らない住民たちは、必死の形相で追ってくるゴブリンから逃げ続ける。
リーダーもいない状況下で、ゴブリンから逃げ切るのは至難の業だった。
次第に両者の距離が詰まる。追いつかれるのは時間の問題だ。
誰かがもう駄目だと叫んだ。目指す地下水路までは、まだ距離がある。
絶体絶命の窮地に、脇目も振らずに全速力で移動してきた天央が追いついた。
「ギリギリ……間に合ったみたいですね。よく、僕らが来るまで無事でいてくれました」
攻撃されるのも厭わず、天央は途中で遭遇したゴブリンには目もくれずに魔導バイクで突っ切ってきた。
身体のあちこちにダメージを負ったが、おかげで住民に被害が出る前に到着できた。
振り返り様にファイアーボールを命中させる。広範囲に広がる衝撃によって、ゴブリンたちの足が止まった。
「急場の戦禍、その中で成すべき事への尽力、時間も無い……急きはするが、焦りと油断は禁物か」
扼城もゴブリンの先頭集団へ追いついた。道すがらユナイテッド・ドライブ・ソードを分離させ、バイクのグリップごと握り両サイドに剣と刀を展開させた。
バイクの突進を利用した上で、チャージングを使って住民を狙うゴブリンに手傷を与える。
いまだ多勢に無勢の状況だが、ここで軍馬に乗ったラシュディアも登場する。
天央と扼城の攻撃で足を止めていたゴブリンたちに、生み出した燃える火球をお見舞いした。
爆発音が響き、火が消えるとゴブリンの数も減っていた。
けれど、まだ安全圏とは言い難い。敵の数を減らしても、新たなゴブリンが次々と降り立つ状況なのである。
「パパ、大丈夫かな……」
「無事を伝え、励ましてやれ」
涙目の少女に、扼城は持っていたトランシーバーを差し出す。
直後に、ラシュディアの魔導短伝話に連絡が入る。ラーセフの保護を担当するクレールからだった。
ハンターたちが使用方法を教えたトランシーバーを持ち、通信が可能なところまでアンナが走る。
「ラーセフさんには勝手ながら親近感が。逃げ出して死に損なった者が死に場所を得るのは堪らない悦びがあるんです。勿論彼が俺と同じとは限りませんが……」
ラシュディアの見解は正解だった。騎士の誇りを取り戻すための死に場所を、ラーセフは探していた。
理解できているからこそ、妻のターニアは悲しげに俯くだけだ。けれど、娘のアンナは違った。
トランシーバーがラーセフとの会話を可能にするなり、アンナは自身の気持ちを全力で伝えた。
●
「退却の手伝いを……お願いする」
ラーセフが言った。プライドを捨てるきっかけになったのは、愛娘の心のこもった励ましだった。
頑張って。死なないで。数々の言葉が、騎士の誇りよりも重く心の中に沈んだ。
トランシーバーを使った会話により、結果的にハンターたちはラーセフの説得に成功した。
クレールの馬に乗り、身体を固定する。その最中もゴブリンたちは、執拗にラーセフを狙う。
「敵の増援が来てる。退却するぞ。速度が出ない奴らから先に行け」
退却を促したユーロスが、ホロム・ゴブリンの前へ行く。
すぐさまホロム・ゴブリンが巨大な斧を振るってくる。
攻撃を待ち構えていたユーロスは、魔導バイクを急発進させて脚の間を抜ける。
背面に移動して、膝裏に連撃を叩きこむ。大きくバランスを崩したホロム・ゴブリンが、怒りの咆哮を上げる。
すぐには動けないホロム・ゴブリンに代わり、取り巻きのゴブリンが一斉に動き出す。
酷い怪我のラーセフと行動を一緒にするクレールを守るべく、夕鶴が数多くの敵を引き受ける。
「邪魔をするなら容赦はしない! 弱者を狙う下衆共が……それでも剣を握る者か! 貴様らの相手は此処にいるぞ!」
大きな声を出し、注目を集めた上で惜しまずにチャージングを見舞ってゴブリンの群れを押し返す。
「ラーセフさんに負担はかけない! 敵の攻撃も、全部私が防ぐ!」
クレールが遠隔機導術で、増援に現れたゴブリンもまとめて攻撃する。
ラーセフを移動させる準備が整ったところで、再度、魔導短伝話を使って状況を伝える。
その後、クレールが先頭で地下水路を目指す。
ラーセフを乗せているクレールを守るため、夕鶴が速度を落として同行する。まとわりついてくる敵を、すべて排除するつもりだった。
そのあとをユルゲンスとユーロスが続く。
全員が魔導バイクや馬に乗っているため、追ってくるゴブリンよりもスピードはずっと上だった。
「間もなく水路か……一気に叩くとしよう」
仲間と合流すれば反撃体制も整う。そこからが本番になる。
●
逃げる住民と合流したあと、天央は双眼鏡も使って辺りを確認し続ける。
倒したと思っても、増援のゴブリンがどんどん空からやってくる。
「次から次へと……きりがありませんね」
間合いを調整しながら、機動性と射撃を効果的に活用して住民の護衛を行う。
「あと少しで地下通路へ到着します。なんとか住民の方々を守りきりましょう」
下馬したラシュディアが、逃げる住民の横から敵増援が来ないか警戒する。
馬には怪我した住民を乗せ、歩行速度が落ちないように気を遣う。
住民の最後尾の護衛を天央とラシュディアに任せ、扼城はバイクから降りてゴブリンとの戦闘を積極的に行う。いわゆる時間稼ぎだ。
「抜かせるものか、俺が動ける限り」
オートマチックST43で、迫ってくるゴブリンを次々と撃ち抜く。
ゴブリンに周りを囲まれれば、武器をユナイテッド・ドライブ・ソードに持ち替える。
踏込からの刺突一閃でゴブリンを仕留めたあと、隙を見てバイクに飛び乗る。
襲いくるゴブリンの攻撃を回避し、距離を取ってからチャージングからの攻撃を行う。
さすがに無傷というわけにはいかないが、住民が地下水路へ移動するまでの時間は十分に稼げた。
ひと時の安心であっても喉から手が出るほど欲しい住民は、我先にと地下水路へ入りたがる。
そのせいで無駄に時間がかかり、ゴブリンたちの接近を許すはめになる。
ハンターたちが必死で守る中、地下水路前にラーセフを連れた仲間がやってくる。
「パパっ!」
応急処置だけをしたラーセフに、アンナが抱きつく。
「ゆっくりしている暇はありませんよ。早く地下水路の中に隠れてください」
天央の言葉にラーセフが頷き、住民へ落ち着いて行動するように言い聞かせる。
たったひとりで住民を逃がそうとしたラーセフに指示されれば、住民たちも素直に従う。
住民たちが地下水路へ入る間は、ハンターたちが連携してゴブリンたちの接近を防ぐ。
倒した数以上のゴブリンが、四方八方からショートソードや槍を振るう。
住民へ被害が及ばないようにするには、ハンターたちが盾になるしかない。
そこへ、ユーロスが足止めしたホロム・ゴブリンもやってきた。
取り巻きのゴブリンが活気づき、これまで以上にハンターへ攻撃を仕掛けてくる。
対するハンターたちも、全力で応戦する。総力戦だ。
ラーセフを彼の家族に任せたクレールも、ゴブリンたちとの戦闘に参加する。
「ここで、勝つ! ホロムゥッ! くたばれぇぇぇっ!!」
現れたホロム・ゴブリンに、渾身の機導砲が命中する。
取り巻きのゴブリンに狙われようとも、とにかく親玉となるホロム・ゴブリンの退治を優先させる。
一方で住民の地下水路への避難がようやく完了する。
地下水路内の住民の護衛は、天央が一手に引き受けた。同時に、脱出タイミングの連絡要員役にもなる。
住民たちが怯える中、地上ではハンターとホロム・ゴブリンの戦闘が激しさを増していた。
すでに結構なダメージを与えてるにもかかわらず、動きが鈍るどころかホロム・ゴブリンは怒りに任せて両手斧を振りまくる。
一対一ならまだしも、周囲には取り巻きのゴブリンどもがいるからたちが悪い。
死角から攻撃を仕掛けられ、手間取る間にホロム・ゴブリンの一撃を食らわせられる。
ここが勝負だと、ラシュディアはライトニングボルトを放つ。縦に連なっていたゴブリンたちを、まとめて始末する。
「効果的ならば、自分ごと炎球で撃つ事も辞さないですよ。狂気の沙汰ではありますが。覚悟があるなら、どんどんかかってきてください」
よほどの威圧感があったのか、人間の言語がわからないはずのゴブリンたちが怯えた。
取り巻きからの邪魔が少なくなったところで、ユーロスがホロム・ゴブリンを攪乱する。
苛立ちと一緒に振り下ろされた斧を回避してから、ホロム・ゴブリンの脚部を狙って連撃を仕掛ける。
「とっとと、倒れちまえよ」
出し惜しみはしない。攻撃と回避を繰り返しながら、使えるだけの連撃を叩きこむ。
グラついたホロム・ゴブリンが地面に片膝をついた瞬間を見逃さず、夕鶴が渾身撃を繰り出す。
「我が矜持とこの剣に誓って、私は貴様らを斃す! 明日の朝日が拝めると思うな!!」
巨大のホロム・ゴブリンの動きがさらに鈍ったのもあり、強烈な一撃が命中する。
ラシュディア、扼城が取り巻きのゴブリンを牽制する。
その間にクレール、ユルゲンス、ユーロス、夕鶴がホロム・ゴブリンを着実に追い詰めていく。
単独で戦えば危険な相手でも、ハンターたちが協力すれば脅威も減る。
頭が下がってきた巨体のホロム・ゴブリンに、ユルゲンスがディバインランスを突き立てる。
さすがのホロム・ゴブリンも、ハンターたちの一斉攻撃に耐えられなかった。
地面に沈んだホロム・ゴブリンの姿に、取り巻きのゴブリンが戸惑う。
戸惑いと混乱に支配され、この場から逃げ出す者までいた。
今がチャンスだと、地下水路にいる天央に連絡を取る。
場にいる少なくなったゴブリンをハンターが始末してる間に、住民が地下水路から出てくる。
こうしてハンターたちは、住民に被害を出さないどころか、瀕死のラーセフまでをも救出するのに成功したのだった。
依頼結果
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作戦相談卓 ユルゲンス・クリューガー(ka2335) 人間(クリムゾンウェスト)|40才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/07/28 21:31:41 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/23 23:27:40 |