ゲスト
(ka0000)
廃墟に潜む黒き者
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/08/05 22:00
- 完成日
- 2015/08/10 21:06
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ハンター諸君に告げる。今回のミッションはかなり特殊である。敵となるものの姿、特性、すべてが不明なのだ。
まずこの城を見てくれたまえ。見事に荒れ果てているだろう。人里からさほど遠くないにもかかわらず。
50年前さる忌まわしい事件が起きて以来、完全に放棄されてしまっているのだ。
近隣の住民はそのことを知っているから誰も近づこうとしないのだが、近年リアルブルーとの交流が盛んになるにつれ、『廃墟マニア』なる人種が現れ、それらがちょいちょい無断で出入りするようになった。
長年整備していない建物だ。不意に床が抜けたり壁が崩れたり天井が落ちたりといったことも、あるやも知れぬ。そのように憂慮した関係者が立ち入り禁止の札を掲げても、無断出入りは止まなかった。
仕方ないので近くに監視小屋を設置し回り持ちで人を置き、入ろうとするものに注意を促すことにしたが、監視員のいない夜を狙って忍び込む者についてはとても手が回らない……。
そして、今回の事件が起きた。
昨日、監視小屋に来た監視員は、城の前に白っぽい固まりが散らばっているのを見つけた。始めは正体がよく分からなかったそうだ。しかしためつすがめつ見ているうちに、人間の骨だと確信するに至った。確かめれば周辺には潰れたメガネだの腕時計だのも落ちていたそうだ。
昨日夕方小屋を引き上げる際そんなものはなかったと、彼は証言している。つまり、夜の間に城に忍び込んだものが何かに襲われ食われたということだ。
被害者の身元については現在調査中だが、何分にも人目を避けて忍び込んでいるだけに、生前の目撃情報がない。特定までにはかなりの時間を要することだろう。
とにかく、何かがこの城の中にいるのは確かだ。ハンター諸君はそれを捜し出し、よろしく殲滅してほしい。
なお出発に際しては、城の見取り図の写しを配布する。50年前のものだが、十分参考になると思う。
……忌まわしい事件とは何か、と?
……そうだな、事件解決の参考になるかもしれないから教えておこう。ただし、他言は無用に願う。この周辺の人々はその話が広がるのを好まないのだ。
50年前この城に住んでいた城主は、大層な美食家だったそうだ。クリムゾンウェスト中の美味珍味をくまなく味わい尽くし、おしまいに禁断の食物へ手をつけた――人肉だ。
外部から来た旅行客などを『歓待したいから』と城に招いて酔いつぶさせ、そのまま調理場へ連れていったとか。
そういった行いの報いなのか、ある晩突然発狂し、燃え盛る竈の中に自ら飛び込んで死んだ。
その竈は人肉を焼くのに使っていた、特注の竈だったそうだ。
まずこの城を見てくれたまえ。見事に荒れ果てているだろう。人里からさほど遠くないにもかかわらず。
50年前さる忌まわしい事件が起きて以来、完全に放棄されてしまっているのだ。
近隣の住民はそのことを知っているから誰も近づこうとしないのだが、近年リアルブルーとの交流が盛んになるにつれ、『廃墟マニア』なる人種が現れ、それらがちょいちょい無断で出入りするようになった。
長年整備していない建物だ。不意に床が抜けたり壁が崩れたり天井が落ちたりといったことも、あるやも知れぬ。そのように憂慮した関係者が立ち入り禁止の札を掲げても、無断出入りは止まなかった。
仕方ないので近くに監視小屋を設置し回り持ちで人を置き、入ろうとするものに注意を促すことにしたが、監視員のいない夜を狙って忍び込む者についてはとても手が回らない……。
そして、今回の事件が起きた。
昨日、監視小屋に来た監視員は、城の前に白っぽい固まりが散らばっているのを見つけた。始めは正体がよく分からなかったそうだ。しかしためつすがめつ見ているうちに、人間の骨だと確信するに至った。確かめれば周辺には潰れたメガネだの腕時計だのも落ちていたそうだ。
昨日夕方小屋を引き上げる際そんなものはなかったと、彼は証言している。つまり、夜の間に城に忍び込んだものが何かに襲われ食われたということだ。
被害者の身元については現在調査中だが、何分にも人目を避けて忍び込んでいるだけに、生前の目撃情報がない。特定までにはかなりの時間を要することだろう。
とにかく、何かがこの城の中にいるのは確かだ。ハンター諸君はそれを捜し出し、よろしく殲滅してほしい。
なお出発に際しては、城の見取り図の写しを配布する。50年前のものだが、十分参考になると思う。
……忌まわしい事件とは何か、と?
……そうだな、事件解決の参考になるかもしれないから教えておこう。ただし、他言は無用に願う。この周辺の人々はその話が広がるのを好まないのだ。
50年前この城に住んでいた城主は、大層な美食家だったそうだ。クリムゾンウェスト中の美味珍味をくまなく味わい尽くし、おしまいに禁断の食物へ手をつけた――人肉だ。
外部から来た旅行客などを『歓待したいから』と城に招いて酔いつぶさせ、そのまま調理場へ連れていったとか。
そういった行いの報いなのか、ある晩突然発狂し、燃え盛る竈の中に自ら飛び込んで死んだ。
その竈は人肉を焼くのに使っていた、特注の竈だったそうだ。
リプレイ本文
鬼百合(ka3667)は、目の前にそびえ立つ城を眺めた。彼は生来、マテリアルに対する感受性が鋭い。負の気配を敏感に察知する。背景は明るいのに、建物だけが暗く淀んで見える。
「別に怖くはねぇけど、やーなとこですねぃ」
龍華 狼(ka4940)はウォーミングアッを兼ね、指を鳴らした。
「人食い化物に古い洋館か……ホラーじゃあるまいし……肝試しみてぇだな……まさかビビってねぇよな? 鬼百合」
「ビビってんのはどっちですかぃ」
「俺はビビってねぇよ! ホラーとか嫌いじゃねぇし」
「ああ、オレはホラーあんま好きじゃねぇですけど……」
どこからともなくカラスがたくさん飛んできた。近くの木に止まり、潰れた嗄れ声を上げる。
ヴァイス(ka0364)は彼らの視線を辿ってみた――何 静花(ka4831)が目から口から鼻から血を流し、地に伏している。戦う前から瀕死状態である。
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)が彼女の肩を掴み、揺さぶっている。
「起きてください静花さん。死体と誤解されてますよ」
「……お城……案外遠かった……ウェゲフゲフ!……私が死んだら……南の青い海に……ガハッ!」
J(ka3142)と鬼非鬼 ふー(ka5179)は、城の入り口へと足を進める。
扉は倒れていた。窓もガラスの大部分が割れたり落ちたり。 しつこくしがみついているカーテンだったぼろぎれが風を受け、バタバタ揺れている。
「廃墟になる前はそれはそれは立派なお城だったでしょうに……歪虚退治が終わって、時間とお金があれば再建したいくらいだわ」
「ホラーハウスでも始めるのか?」
「いいえ、私が住むの。そして鬼非鬼家繁栄の足掛かりにするの。ここは自由都市の主要街道も近いし港湾も近いしで、交通の便がいいですし。手に入るものなら、ぜひそうしたいですわ」
会話を聞いた水流崎トミヲ(ka4852)は、心から思った。
(……僕ならどんなにビフォーアフターされても住みたくないな……完全に事故物件だし……)
とはいえ食に関しては己も一家言ある身、人肉城主について多少考えてみなくもない。下腹を撫でつつ同行者たちを見回し、ヴァイスに話しかける。
「……僕とヴァイス君以外は食いでがなさそうだねぇ」
「え? なんだって?」
「いや、ね。人食いに狙われる率が高いのは誰かなーってちょっと考察してたのさ」
●
ハンターたちは一丸となって廃墟に入って行く。
J、ヴァイス、ふー、トミヲ、鬼百合、狼、ユキヤ、静花という並び――静花は自力歩行出来る状態ではないため、ユキヤに負ぶわれている。
城の中は暗い。昼でも照明は必需品だ。空気は濁っており、かび臭い。
「何がいるかわかりませんが効率良く探索しましょう」
にこやかな狼の声が、やけに大きく反響する。足音も。
探索を始めて十数分後、廊下の隅に骨を見つけた。量からして複数の骨であるもようだ。
ヴァイスはそれらを手に取り、ランタンをかざす。
「この骨は人のものではないな。……大きさからしてコボルトか? それに向こうのはゴブリンか。縄張り争いって感じではないし、こいつ等も人食いの被害者のようだな」
トミヲは周囲を確かめてみた。粗末な斧や鎧が落ちている。どれも壊れていない。
「……んー、あんまり、抵抗の跡はなさそうだね」
鬼百合は大腿骨を手にし、こんこん髑髏の頭を叩いた。
「しっかし、きれーに食われちまったもんですねぃ」
一番初めに見た被害者のもそうだったが、これも骨自体の損傷がほとんどない。牙で噛み砕かれたなら、こうなってないはずだが……。
「丸飲みされたってことですかねぃ? 狼」
「いや、肉だけ溶かされてチューチュー吸われたとかいう可能性もあるぞ」
トミヲは後ろを振り返った。そこには陰気な暗がりがあるばかり。何の気配もしない。が、ついつい念入りにライトで照らしてしまう。
「こう言う時の定番だと、一人消え……二人消え……最後に残ったのは誰かって感じだけど……大体キャラが被る子から消えるよね」
ジョークを飛ばし一歩踏みだした彼を待っていたのは、床板の腐れだった。
バリバリイッ
「ぎゃああああああ!!??」
長い廊下の端から端まで響き渡るような悲鳴が上がる。
幸いにも腹回りが邪魔をし、腰から下は落下せずにすんだ。
「たっ、助けて、ちょっと引っ張ってー!」
叫び声を上げる彼に狼が、真顔で言う。
「そういえば確かにトミヲさんは被ってますね、Jさんとも静花さんとも。メガネキャラという点で」
「違うよ被ってないよ! メガネはキャラじゃなくてただのアイテムだよ! 僕はこのパーティーにおける唯一無二のちょいぽちゃキャラだよ誰とも被ってないよ! 助けてヴァイス君!」
「いや、そうしたいが……俺も体重があるからなあ。近くに行くと更に床が抜けそうで」
「ロープ、ロープ投げるからそれ引っ張ってー!」
バインダーに綴じた見取り図へ髑髏の記号を書き込んだふーは、壁を撫でているJに尋ねた。
「何か不審な点でも?」
Jは言葉で答えることをせず、ふーの手を取り壁に当てた。ふーは眉をひそめる。
妙につるっとして、くぼんでいたのだ。
「これは……何かが擦れた跡、かしら?」
静花をおぶい直しつつ、ユキヤもまたそこへ手を当てる。
天井を照らしてみれば、壁に出来ているのと同じ幅のくぼみがついている。そのくぼみは、天井にある裂け目の中に消えていっている。
Jの口調が真剣なものに変わった。
「そうですね、恐らくこれは、人食いが移動した跡でしょう。敵は壁や天井を歩くことが可能である。かつあの裂け目を通り抜けられる体の構造をしている――この2点については間違いないと思います」
とすると、一体どんな姿か。得られた情報を手掛かりに、ふー、J、ユキヤは推理してみる。
「壁に張り付いての移動が可能ということは、スライム系じゃないの? 不定形ならどんな隙間にも入れるわよね」
「どうでしょうね……それなら移動速度はさほどでないから、戦いやすいのですが」
「しかし、スライムなら足跡が付かないような気も」
静花は咳をするばかり。まともにものを考えられる状態ではないようだ。目が死んでいる。
後ろでは救出作業が続行中。
「じゃあ行くぜ、せーの!」
「ちょいちょい待ってくだせえヴァイスさん! 今床がミシッて言いましたぜぃ!」
「……トミヲさん、どうでしょう。僕たちが探索している間、ここで待っておいていただくわけにはいきませんか? 後で必ず回収しに来ますので」
「止めてよ! 僕その間に食われちゃうよ!」
●
トミヲを救出し、調査続行。
道々骨のある箇所をチェックしていたふーは、ある法則に気づいた。
「人食いは、壁に沿って動く習性があるみたいね。回廊の真ん中とか広間の中程といった場所には、痕跡が全然見当たらないし」
それともうひとつ、新しい発見があった。個室を調べているとき、壊れた家具を何点も見つけたのだが、どれにも歯型がついていた。ならば敵はスライム系でない可能性が高い。スライムの食事法は巻き込んで溶かすであって、齧るではない。
一体どんな歪虚か。あれこれ考えつつ一同は、件の調理場がある地下へ。
足を踏み入れてみれば、生前からの家具調度がそのまま残っていた。食堂に入ってみれば、テーブルに食器が並んでいる。どれも一見して分かるほどの高級品ばかりだが、とにかく趣味がよくない。人間と植物、動物が融合したような気味悪い模様が多用されている。
「趣味悪いな、ここの城主は」
辟易した様子のヴァイスに鬼百合が、少々得意げな講釈を垂れる。
「いや、俺、古書で読んだことがあるんですけど、50年前はこういうのが貴族の一部で大流行してたんですぜぃ。グロテスクモダンとか何とか」
食堂を抜けると調理場があった。
ハンターたちは、左右に分かれて待ち構え、締め切られた扉をゆっくり開く。何が飛び出してきても対応可能なように。
苦く酸っぱい悪臭。
明かりをかざしてみれば、奥まったところに巨大な竈。これが特注のなにがしと言う奴であろう。大口を開けた人の顔に模されている。豚どころか牛一頭、小型のドラゴンすら丸ごと余裕で入れられる大きさだ。もっともここで焼かれていたのは豚でも牛でなくドラゴンでもなく、人間だが。
竈の蓋は閉まっている――城主を最後に何も焼くことはなかったのか。
狼は、天井から下がるかぎ針の列に横目を向けた後言った。
「その特注の竈がいかにもな感じがしますね」
トミヲが眼鏡をくい、と押し上げる。
「だね。人食い館に相応しいご趣味だよ――」
言いかけて彼は気づいた。竈の扉の隙間から長いものが出ているのを。
なんだか触覚っぽい。
「……いやいや。まさか、あんなに大きいのがゴキブリなワケないし雑魔なわkギョエエエエエエエ動いたァァァァァ!!?」
ヴァイスは皆の前に立ち、MURAMASAを抜き放つ。
「……何かいるな」
竈の扉が耳障りな音を立て開いた。毛の生えた節足。油光りした平べったい体。膨れた腹。そして、頭だけが人間だ。頬と顎のたるんだ男の顔がへらへら笑っている。
狼と鬼百合は嫌悪感をあらわにした。
「うげっ……気持ち悪ぃ……これが成れの果てかよ……悲惨だな」
「こりゃ皮肉がきいてますねぃ」
Jは素早く頭の中で、城の間取りを構築した。この調理場には入り口以外、どこにも逃げ道がない。ここで戦うのは不利だ。広い場所に向かったほうがいい。
「皆さん、いったんここから出ましょう!」
ふーは猟銃を構え、相手から目を離さぬまま、後方にずり下がる。
「賛成するわ!」
ユキヤの背から静花が飛び降りた。死人のようだった目が飢えた獣のようにギラついていた。パイレーツアックスをかざし、敵の前に躍り出る。
「うおおおおおおお死いねえええええええええ!」
ゴキブリの顔がべろんと裏返る。細かな歯の生えた花が咲いた。内蔵が飛び出てきたみたいだ。彼女はそこを斧で殴りつける。
黒ずんだ粘液が飛び散った。ゴキブリはひるむ事なく花を閉じ、斧を包み込もうとする。
あまりのグロさにトミヲは引いた。
「うわ……」
静花を押さえ付けようとする足をヴァイスがなぎ払い、切る。しかしあまりこたえた様子がない。
ふーは静花に当たらぬよう、幅広い胴体を狙って撃つ。
「お城に巣食う害虫め、大人しくお城を空け渡しなさい!」
狼と鬼百合も、同時に攻撃を仕掛けた。
「鬼百合合わせろ! 畳み掛けるぞ!」
「おうよ狼、いっきますぜ! そんなに食いたきゃこれでも食ってろ!」
降魔刀とウィンドスラッシュが左右の触覚を切り落とす。途端にゴキブリの動きがおかしくなった。目を失ったように、その場でぐるぐる回り始める。
静花がやっと離れた。体は早くも傷だらけだ。噛まれたところがヤスリをかけられたようになっている。
ユキヤは彼女に、手早くヒーリングスフィアを施した。ヴァイスが肩を揺すり、強く言い聞かせる。
「撤退だ! 戦うのは上に戻ってからだ!」
全員厨房から出た。鬼百合が厨房の入り口にアースウォールの足止めを作った。
全員全速力で階段を駆け上がる。
回転し続けていたゴキブリは触覚が復元するや否や後を追い始めた。アースウォールと天井の隙間へ無理やり体をねじ入れ抜け出す。
●
広間に繋がる回廊を走る。殿を務めるのは静花だ。
ゴキブリが追いついてきそうになるたび、Jの機導砲、ふー、ヴァイスの射撃が距離を開けさせた。
ゴキブリが後ろ羽を開いた。飛ぶ。飛んでくる。トミヲは背筋に悪寒が走るのを覚えた。
「……近ァ……!?」
鬼百合が舌打ちする。
「それ、絶対やると思ったぜぃ!」
覆いかぶさるように飛んでくる巨体は、薄羽が燃えたことで体勢を崩し失速、不時着する。
その間にハンターたちは、広間に駆け込んだ。
トミヲがゴールデン・バウをふるい呪文を唱える。
「み、漲り、溢れろ、ぼくのDT魔力ゥ……!」
彼は床から生えてきた壁によじ登った。高所から狙い撃ちするほうが、断然有利なので。ちょうどいいのでふーも、それを障壁として使わせてもらうことにする。
ゴキブリが広間に入って来た。
静花は例によって一切防御を考えない。怒涛のごとく凶器で殴りつけるのみ。実にベルセルクらしい戦法だ。
Jは彼女が食いつかれないよう、自身も前衛に回り、ネーベルナハトを突き出し押しやり、ゴキブリの動きを阻害する。
ふーの銃弾が腹に次々穴を空けた。
狼は周囲を素早く立ち回り、残っている足を一本、また一本と切り落として行く。連携している鬼百合が、また触覚を断ち切った。
ヴァイスが刃をたたき込む。頭がコロリと落ちる。
だが頭がなくなっても体は死なず動き続ける。それどころか頭自体も生きていた。なぜ首が動かせないのか訝しんでいるような表情で、目ばかり動かしている。
「ううっ……虫って無駄にバイタリティ高い……」
トモヲは有りったけの力を注ぎ、ライトニングボルトを打ち込んだ。
雷に打たれ真っ黒になる体と頭。しかしなおぴくぴく動いてる。
Jは呆れ顔でエレクトリックショックをかける。
「いい加減に諦めたらどうなんだ? 粘ったって何も出ないぞ」
それでもまだ死に切ってない。
静花は斧を振り上げ燃えカスを切り刻んだ。50分割くらいにしたところでようやく全てが動かなくなり、消滅していく。
タイミングよく時間切れし、その場に倒れる静花。
「あ゛ー……死にそう」
トミヲは胸を撫で下ろし、壁から降りる。
「皆、どうかな、ついでにもう一度厨房をチェックするのは。負のマテリアルの澱がないか、確認しておくべきだと思うんだ。もし在るのならば、後日浄化をしなくてはいけないから、ね」
ヴァイスが頷く。
「そうだな。竈周辺は特に何かしら痕跡がありそうだからな」
●
「というわけで探してみたらこれだけのものがありました」
積まれた髑髏を前に言葉を失う監視員に向け、ふーが熱弁を振るう。
「それで今後の方針についてなんだけど、私としては廃墟マニアどもから入場料を払わせればいいと思うの。監視小屋を拡充したり城再建の資金源にできるし……体勢が整えば無断で入る輩を捕まえて罰金を取ることもできるわ。そうそう、犠牲者の慰霊碑何かにも使えるわね。ところでこのお城は、現在誰の所有になっているの? 可能なら鬼非鬼家に引き取らせてもらいたいんだけど……」
交渉を続ける彼女の後ろで狼は、骨の山を前に首を振る。
「人間って怖いですよねー……」
鬼百合が横から口を挟む。
「どっちかってぇとよそいき喋りの狼の方が怖ぇですぜ」
「口調が怖ぇとは何だよ! 猫被っとけば馬鹿な相手は騙されるんだよ! 生きる為の知恵だ――」
後日。
城の所有権は町にあるので売ることは出来ないのがそこまで言うなら是非ということでふーは、人食い城の観光大使に任命されたのであった。
「別に怖くはねぇけど、やーなとこですねぃ」
龍華 狼(ka4940)はウォーミングアッを兼ね、指を鳴らした。
「人食い化物に古い洋館か……ホラーじゃあるまいし……肝試しみてぇだな……まさかビビってねぇよな? 鬼百合」
「ビビってんのはどっちですかぃ」
「俺はビビってねぇよ! ホラーとか嫌いじゃねぇし」
「ああ、オレはホラーあんま好きじゃねぇですけど……」
どこからともなくカラスがたくさん飛んできた。近くの木に止まり、潰れた嗄れ声を上げる。
ヴァイス(ka0364)は彼らの視線を辿ってみた――何 静花(ka4831)が目から口から鼻から血を流し、地に伏している。戦う前から瀕死状態である。
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)が彼女の肩を掴み、揺さぶっている。
「起きてください静花さん。死体と誤解されてますよ」
「……お城……案外遠かった……ウェゲフゲフ!……私が死んだら……南の青い海に……ガハッ!」
J(ka3142)と鬼非鬼 ふー(ka5179)は、城の入り口へと足を進める。
扉は倒れていた。窓もガラスの大部分が割れたり落ちたり。 しつこくしがみついているカーテンだったぼろぎれが風を受け、バタバタ揺れている。
「廃墟になる前はそれはそれは立派なお城だったでしょうに……歪虚退治が終わって、時間とお金があれば再建したいくらいだわ」
「ホラーハウスでも始めるのか?」
「いいえ、私が住むの。そして鬼非鬼家繁栄の足掛かりにするの。ここは自由都市の主要街道も近いし港湾も近いしで、交通の便がいいですし。手に入るものなら、ぜひそうしたいですわ」
会話を聞いた水流崎トミヲ(ka4852)は、心から思った。
(……僕ならどんなにビフォーアフターされても住みたくないな……完全に事故物件だし……)
とはいえ食に関しては己も一家言ある身、人肉城主について多少考えてみなくもない。下腹を撫でつつ同行者たちを見回し、ヴァイスに話しかける。
「……僕とヴァイス君以外は食いでがなさそうだねぇ」
「え? なんだって?」
「いや、ね。人食いに狙われる率が高いのは誰かなーってちょっと考察してたのさ」
●
ハンターたちは一丸となって廃墟に入って行く。
J、ヴァイス、ふー、トミヲ、鬼百合、狼、ユキヤ、静花という並び――静花は自力歩行出来る状態ではないため、ユキヤに負ぶわれている。
城の中は暗い。昼でも照明は必需品だ。空気は濁っており、かび臭い。
「何がいるかわかりませんが効率良く探索しましょう」
にこやかな狼の声が、やけに大きく反響する。足音も。
探索を始めて十数分後、廊下の隅に骨を見つけた。量からして複数の骨であるもようだ。
ヴァイスはそれらを手に取り、ランタンをかざす。
「この骨は人のものではないな。……大きさからしてコボルトか? それに向こうのはゴブリンか。縄張り争いって感じではないし、こいつ等も人食いの被害者のようだな」
トミヲは周囲を確かめてみた。粗末な斧や鎧が落ちている。どれも壊れていない。
「……んー、あんまり、抵抗の跡はなさそうだね」
鬼百合は大腿骨を手にし、こんこん髑髏の頭を叩いた。
「しっかし、きれーに食われちまったもんですねぃ」
一番初めに見た被害者のもそうだったが、これも骨自体の損傷がほとんどない。牙で噛み砕かれたなら、こうなってないはずだが……。
「丸飲みされたってことですかねぃ? 狼」
「いや、肉だけ溶かされてチューチュー吸われたとかいう可能性もあるぞ」
トミヲは後ろを振り返った。そこには陰気な暗がりがあるばかり。何の気配もしない。が、ついつい念入りにライトで照らしてしまう。
「こう言う時の定番だと、一人消え……二人消え……最後に残ったのは誰かって感じだけど……大体キャラが被る子から消えるよね」
ジョークを飛ばし一歩踏みだした彼を待っていたのは、床板の腐れだった。
バリバリイッ
「ぎゃああああああ!!??」
長い廊下の端から端まで響き渡るような悲鳴が上がる。
幸いにも腹回りが邪魔をし、腰から下は落下せずにすんだ。
「たっ、助けて、ちょっと引っ張ってー!」
叫び声を上げる彼に狼が、真顔で言う。
「そういえば確かにトミヲさんは被ってますね、Jさんとも静花さんとも。メガネキャラという点で」
「違うよ被ってないよ! メガネはキャラじゃなくてただのアイテムだよ! 僕はこのパーティーにおける唯一無二のちょいぽちゃキャラだよ誰とも被ってないよ! 助けてヴァイス君!」
「いや、そうしたいが……俺も体重があるからなあ。近くに行くと更に床が抜けそうで」
「ロープ、ロープ投げるからそれ引っ張ってー!」
バインダーに綴じた見取り図へ髑髏の記号を書き込んだふーは、壁を撫でているJに尋ねた。
「何か不審な点でも?」
Jは言葉で答えることをせず、ふーの手を取り壁に当てた。ふーは眉をひそめる。
妙につるっとして、くぼんでいたのだ。
「これは……何かが擦れた跡、かしら?」
静花をおぶい直しつつ、ユキヤもまたそこへ手を当てる。
天井を照らしてみれば、壁に出来ているのと同じ幅のくぼみがついている。そのくぼみは、天井にある裂け目の中に消えていっている。
Jの口調が真剣なものに変わった。
「そうですね、恐らくこれは、人食いが移動した跡でしょう。敵は壁や天井を歩くことが可能である。かつあの裂け目を通り抜けられる体の構造をしている――この2点については間違いないと思います」
とすると、一体どんな姿か。得られた情報を手掛かりに、ふー、J、ユキヤは推理してみる。
「壁に張り付いての移動が可能ということは、スライム系じゃないの? 不定形ならどんな隙間にも入れるわよね」
「どうでしょうね……それなら移動速度はさほどでないから、戦いやすいのですが」
「しかし、スライムなら足跡が付かないような気も」
静花は咳をするばかり。まともにものを考えられる状態ではないようだ。目が死んでいる。
後ろでは救出作業が続行中。
「じゃあ行くぜ、せーの!」
「ちょいちょい待ってくだせえヴァイスさん! 今床がミシッて言いましたぜぃ!」
「……トミヲさん、どうでしょう。僕たちが探索している間、ここで待っておいていただくわけにはいきませんか? 後で必ず回収しに来ますので」
「止めてよ! 僕その間に食われちゃうよ!」
●
トミヲを救出し、調査続行。
道々骨のある箇所をチェックしていたふーは、ある法則に気づいた。
「人食いは、壁に沿って動く習性があるみたいね。回廊の真ん中とか広間の中程といった場所には、痕跡が全然見当たらないし」
それともうひとつ、新しい発見があった。個室を調べているとき、壊れた家具を何点も見つけたのだが、どれにも歯型がついていた。ならば敵はスライム系でない可能性が高い。スライムの食事法は巻き込んで溶かすであって、齧るではない。
一体どんな歪虚か。あれこれ考えつつ一同は、件の調理場がある地下へ。
足を踏み入れてみれば、生前からの家具調度がそのまま残っていた。食堂に入ってみれば、テーブルに食器が並んでいる。どれも一見して分かるほどの高級品ばかりだが、とにかく趣味がよくない。人間と植物、動物が融合したような気味悪い模様が多用されている。
「趣味悪いな、ここの城主は」
辟易した様子のヴァイスに鬼百合が、少々得意げな講釈を垂れる。
「いや、俺、古書で読んだことがあるんですけど、50年前はこういうのが貴族の一部で大流行してたんですぜぃ。グロテスクモダンとか何とか」
食堂を抜けると調理場があった。
ハンターたちは、左右に分かれて待ち構え、締め切られた扉をゆっくり開く。何が飛び出してきても対応可能なように。
苦く酸っぱい悪臭。
明かりをかざしてみれば、奥まったところに巨大な竈。これが特注のなにがしと言う奴であろう。大口を開けた人の顔に模されている。豚どころか牛一頭、小型のドラゴンすら丸ごと余裕で入れられる大きさだ。もっともここで焼かれていたのは豚でも牛でなくドラゴンでもなく、人間だが。
竈の蓋は閉まっている――城主を最後に何も焼くことはなかったのか。
狼は、天井から下がるかぎ針の列に横目を向けた後言った。
「その特注の竈がいかにもな感じがしますね」
トミヲが眼鏡をくい、と押し上げる。
「だね。人食い館に相応しいご趣味だよ――」
言いかけて彼は気づいた。竈の扉の隙間から長いものが出ているのを。
なんだか触覚っぽい。
「……いやいや。まさか、あんなに大きいのがゴキブリなワケないし雑魔なわkギョエエエエエエエ動いたァァァァァ!!?」
ヴァイスは皆の前に立ち、MURAMASAを抜き放つ。
「……何かいるな」
竈の扉が耳障りな音を立て開いた。毛の生えた節足。油光りした平べったい体。膨れた腹。そして、頭だけが人間だ。頬と顎のたるんだ男の顔がへらへら笑っている。
狼と鬼百合は嫌悪感をあらわにした。
「うげっ……気持ち悪ぃ……これが成れの果てかよ……悲惨だな」
「こりゃ皮肉がきいてますねぃ」
Jは素早く頭の中で、城の間取りを構築した。この調理場には入り口以外、どこにも逃げ道がない。ここで戦うのは不利だ。広い場所に向かったほうがいい。
「皆さん、いったんここから出ましょう!」
ふーは猟銃を構え、相手から目を離さぬまま、後方にずり下がる。
「賛成するわ!」
ユキヤの背から静花が飛び降りた。死人のようだった目が飢えた獣のようにギラついていた。パイレーツアックスをかざし、敵の前に躍り出る。
「うおおおおおおお死いねえええええええええ!」
ゴキブリの顔がべろんと裏返る。細かな歯の生えた花が咲いた。内蔵が飛び出てきたみたいだ。彼女はそこを斧で殴りつける。
黒ずんだ粘液が飛び散った。ゴキブリはひるむ事なく花を閉じ、斧を包み込もうとする。
あまりのグロさにトミヲは引いた。
「うわ……」
静花を押さえ付けようとする足をヴァイスがなぎ払い、切る。しかしあまりこたえた様子がない。
ふーは静花に当たらぬよう、幅広い胴体を狙って撃つ。
「お城に巣食う害虫め、大人しくお城を空け渡しなさい!」
狼と鬼百合も、同時に攻撃を仕掛けた。
「鬼百合合わせろ! 畳み掛けるぞ!」
「おうよ狼、いっきますぜ! そんなに食いたきゃこれでも食ってろ!」
降魔刀とウィンドスラッシュが左右の触覚を切り落とす。途端にゴキブリの動きがおかしくなった。目を失ったように、その場でぐるぐる回り始める。
静花がやっと離れた。体は早くも傷だらけだ。噛まれたところがヤスリをかけられたようになっている。
ユキヤは彼女に、手早くヒーリングスフィアを施した。ヴァイスが肩を揺すり、強く言い聞かせる。
「撤退だ! 戦うのは上に戻ってからだ!」
全員厨房から出た。鬼百合が厨房の入り口にアースウォールの足止めを作った。
全員全速力で階段を駆け上がる。
回転し続けていたゴキブリは触覚が復元するや否や後を追い始めた。アースウォールと天井の隙間へ無理やり体をねじ入れ抜け出す。
●
広間に繋がる回廊を走る。殿を務めるのは静花だ。
ゴキブリが追いついてきそうになるたび、Jの機導砲、ふー、ヴァイスの射撃が距離を開けさせた。
ゴキブリが後ろ羽を開いた。飛ぶ。飛んでくる。トミヲは背筋に悪寒が走るのを覚えた。
「……近ァ……!?」
鬼百合が舌打ちする。
「それ、絶対やると思ったぜぃ!」
覆いかぶさるように飛んでくる巨体は、薄羽が燃えたことで体勢を崩し失速、不時着する。
その間にハンターたちは、広間に駆け込んだ。
トミヲがゴールデン・バウをふるい呪文を唱える。
「み、漲り、溢れろ、ぼくのDT魔力ゥ……!」
彼は床から生えてきた壁によじ登った。高所から狙い撃ちするほうが、断然有利なので。ちょうどいいのでふーも、それを障壁として使わせてもらうことにする。
ゴキブリが広間に入って来た。
静花は例によって一切防御を考えない。怒涛のごとく凶器で殴りつけるのみ。実にベルセルクらしい戦法だ。
Jは彼女が食いつかれないよう、自身も前衛に回り、ネーベルナハトを突き出し押しやり、ゴキブリの動きを阻害する。
ふーの銃弾が腹に次々穴を空けた。
狼は周囲を素早く立ち回り、残っている足を一本、また一本と切り落として行く。連携している鬼百合が、また触覚を断ち切った。
ヴァイスが刃をたたき込む。頭がコロリと落ちる。
だが頭がなくなっても体は死なず動き続ける。それどころか頭自体も生きていた。なぜ首が動かせないのか訝しんでいるような表情で、目ばかり動かしている。
「ううっ……虫って無駄にバイタリティ高い……」
トモヲは有りったけの力を注ぎ、ライトニングボルトを打ち込んだ。
雷に打たれ真っ黒になる体と頭。しかしなおぴくぴく動いてる。
Jは呆れ顔でエレクトリックショックをかける。
「いい加減に諦めたらどうなんだ? 粘ったって何も出ないぞ」
それでもまだ死に切ってない。
静花は斧を振り上げ燃えカスを切り刻んだ。50分割くらいにしたところでようやく全てが動かなくなり、消滅していく。
タイミングよく時間切れし、その場に倒れる静花。
「あ゛ー……死にそう」
トミヲは胸を撫で下ろし、壁から降りる。
「皆、どうかな、ついでにもう一度厨房をチェックするのは。負のマテリアルの澱がないか、確認しておくべきだと思うんだ。もし在るのならば、後日浄化をしなくてはいけないから、ね」
ヴァイスが頷く。
「そうだな。竈周辺は特に何かしら痕跡がありそうだからな」
●
「というわけで探してみたらこれだけのものがありました」
積まれた髑髏を前に言葉を失う監視員に向け、ふーが熱弁を振るう。
「それで今後の方針についてなんだけど、私としては廃墟マニアどもから入場料を払わせればいいと思うの。監視小屋を拡充したり城再建の資金源にできるし……体勢が整えば無断で入る輩を捕まえて罰金を取ることもできるわ。そうそう、犠牲者の慰霊碑何かにも使えるわね。ところでこのお城は、現在誰の所有になっているの? 可能なら鬼非鬼家に引き取らせてもらいたいんだけど……」
交渉を続ける彼女の後ろで狼は、骨の山を前に首を振る。
「人間って怖いですよねー……」
鬼百合が横から口を挟む。
「どっちかってぇとよそいき喋りの狼の方が怖ぇですぜ」
「口調が怖ぇとは何だよ! 猫被っとけば馬鹿な相手は騙されるんだよ! 生きる為の知恵だ――」
後日。
城の所有権は町にあるので売ることは出来ないのがそこまで言うなら是非ということでふーは、人食い城の観光大使に任命されたのであった。
依頼結果
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相談卓 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142) 人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/08/05 07:08:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/03 23:56:22 |