• 東征

【東征】小高砦の始末

マスター:龍河流

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
4日
締切
2015/07/29 15:00
完成日
2015/08/01 18:14

みんなの思い出

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オープニング

●小高砦崩壊
 九尾の軍勢は、エトファリカ連邦国の守護たる砦のあちらこちらに、一時に攻め寄せていた。
 そして。

「姫っ、牡丹様! 早く退かれなさいませ!!」
「お嬢、そろそろ限界だって。女衆だけでも、なんとか逃げろ」

 砦の一つ、小高砦もその軍勢の猛攻から目こぼしされることはなく。
 上空からの強襲で始まった攻防戦は、周囲の砦に援軍を頼む使者が歪虚の包囲を潜り抜けたかどうかも分からぬままに、そろそろ三日目に入ろうとしていた。

「戦場に男も女もあるかっ」
「ほんっと男って、こういう時だけいい恰好したがるわよね。お嬢もそう思うでしょ?」

 小高砦を預かるのは、武家四十八門の一つ、鳴月家を中心とする軍だった。
 その鳴月家が誇る姫将軍・牡丹を筆頭とする三桁の手練れは、天ノ都に向かおうとする憤怒の軍勢の足止めに、今も全力を尽くしている。
 それでも、複数の尾を持つ妖狐の吐く焔に翻弄され、今はやっと四十人を数えられるだけ。

「あ~、喧嘩にならないうちに言っとくけど、もう逃げるとか無理だから」
「なんでだよ、一か所くらいなんとか隙間を作ってやるって」
「そうじゃ、まだ馬も残っておろう。姫を守って、女子衆だけでも」

 砦とはいえ、長期間籠城できるような造りではない。
 小高い丘の上に、石造りの平屋の建物が口の字に建てられ、周囲に幾重にも堀や石垣を連ねてあったものだ。今はこれらも九尾狐の攻撃により大半が崩されて焼け焦げて、そこを守っていた者達の遺骸と共に無残な姿を晒している。
 代わりにのさばるのは、憤怒の歪虚たる獣の混じりあった見苦しい姿ばかり。

「何故に無理と言う?」
「炎は確かに厄介だけどねぇ?」
「んとね、姫様」

 顔に煤や泥を付けた牡丹を始め、無傷の者は一人もいない。
 多くが火傷の痛みを抱える四十人ほどの一団が、もはや妖狐の炎を防げるとは思えない建物の壁を盾に、仲間の一人の発言に耳を澄ませたが……
 その説明を、最後まで聞くことは叶わなかった。
 なぜなら。

「あのね」
「来たぁっ!!」

 奇妙な音に気付いて、足元を見たのが何人か。
 妖狐の吐き出した焔に、咄嗟に盾を構えた者が数人。
 怪我人を抱えて、少しでも炎から守ろうとした者も少なくない。
 牡丹と周囲の数人は、炎が向かってくる中を敵へ走り出そうとしたようだ。
 けれど、彼らの頭上を炎の筋は流れていった。

「ほら、足元がぁ」

 落下していく説明の声に対して、皆が不満の声を上げたかもしれない。
 憤怒の軍勢は、確かに勝どきを上げ、その後で驚愕の鳴き声を上げていた。
 なぜなら。
 文字通り、砦は地中へと崩れ落ちたのだ。

 四十人ほどの鳴月の軍勢も、諸共に飲み込まれていった。



●砦の地下
 小高砦には、地下に洞穴が通っているとは信憑性がある噂だった。
 事実だと言うことは、砦に詰めた者なら全員が知っている。一部は食糧貯蔵に適した低温で、倉庫として使用していたからだ。
 しかし、この洞穴は井戸掘りで見付けたもので、地上と繋がるのは砦から掘り進んだ二箇所だけ。出入り口も分からないので、ただ倉庫の用しか為してはいなかった。

「姫、向こうから声がします。あの調子なら、割と元気ですな」
「ここに八人で、向こうが六人で、あちらが十一人だったか。合わせると二十六人だから」
「お嬢、二十五」
「そうか、二十五人か。残りは十……十五人のはずだから、この土砂を除けて探しに行こう。上で掘っている奴らより先に、見付けてやらねば」

 格闘師の身のこなしゆえか、たいした怪我もせずに地下に落ちた牡丹は、地中に分断された部下達を集めるべく動き出そうとしていた。
 頭上では、あの尻尾を数本、自慢げに揺らしていた妖狐どもだろうか。土を引っ掻く音がする。
 掘り返して、とことん焼き滅ぼすつもりか。


 鳴月の兵達も、もちろんただやられるつもりなど毛頭なかった。

リプレイ本文

 尻尾を五本持つ妖狐が、甲高い叫びを空に放った。
「ほら、鬼さんはこちらってな」
 その叫びに振り返ろうとする三本尻尾の妖狐に、柊 真司(ka0705)の試作型魔導銃「狂乱せしアルコル」から重い銃弾が撃ち込まれる。
 妖狐の数は五。尻尾が三本が三匹、四本と五本が一匹ずつで、ハンター達の誰もが五本妖狐がこの憤怒の群れを率いていると理解していた。
 あと二つ、分かっているのは、五本妖狐が地下に在る『何か』に固執して掘り返そうとしていることと、他の妖狐や雑魔はそこまでの執着が『何か』にないことだ。
 命令の雄叫びを上げる五本妖狐に従うか、向けられた攻撃に立ち向かうか。行動に迷っている三本妖狐の足元に、今度は矢が突き立った。スライムに犬や鳥の頭が付いたような雑魔が、突き立った矢で溶け崩れていくのを目にして、三本妖狐は上位者の命より目の前の敵に意識を向けてしまった。
 和弓「蒼天」に次の矢をつがえたレイオス・アクアウォーカー(ka1990)にとっては、狙い通り。自分が狙われているのに、浮かぶのは楽しげな笑みだ。
「そろそろ下がるか」
「もうちょいと引きつけてからが、良さそうでござるな~」
 とうに本能の赴くままに、獲物たる人の姿に向かってきている雑魔の鼻先に手裏剣の一撃を見舞い、その速度を抑えている烏丸 薫(ka1964)がレイオスに応えた。
 雑魔達と彼らの合間には、崩れた石垣が横に長く残っている。そこで足を止められると、五本妖狐の指示の方が力を増すかもしれず、雑魔と三本妖狐の意識を引き続けるには、まだ距離を開けられない。
 更に、尾が四本と五本の妖狐は、未だ最初に見た位置から動いていなかった。
「ったく、鉛玉を撃ち込まれても動かねえなんて、気の弱い狐どもだぜっ!」
 その四本妖狐にも、銃弾が撃ち込まれる。一発でどうにかなる相手ではないし、人語を解するかも不明だが、魔導バイク「グローサームーア」の爆音にも負けないエヴァンス・カルヴィ(ka0639)の挑発は理解出来たらしい。
 くわと開いた口から、何を告げたかしかとは分からぬが、きっと『殺してやる』か何かだろう咆哮が上がった。それに触発された雑魔が、またざあっとハンター達のいる方向に動く。
 これを止めようとしたのだろう、五本妖狐も顔を上向かせたが、その顎にカービン「プルーフェトKT9」からの一弾が食い込む。
 ハンター達のこれまでの最先鋒より更に前、戦馬に跨るヒースクリフ(ka1686)が、心底嫌そうに銃口を五本妖狐に向けていた。
「俺は、最前線は好みじゃない」
 装填された弾のありったけを表情一つ変えずに撃ちつづけるヒースクリフの呟きに、不意に戦場にふさわしからぬ明るい笑い声が響いた。
「大丈夫、僕が最前線だよ。雑魔なんか、近寄らせない」
 自分の身の丈と大差ない大剣で風を切りつつ、手裏剣の下をかいくぐった雑魔達の前に立ち塞がったミリア・コーネリウス(ka1287)が、最も近い一体を撫で斬った。
 銃弾が妖狐目掛けて降り、矢がその避ける先に落ちる。刃は走り寄る雑魔を切り捨てて行く様子に、とうとう四本妖狐は明らかに頭をハンター達に向けた。
 続いて、五本妖狐も二歩、三歩と歩き出したのを見て、六人の誰からともなく動き出す。
 目指すのは、崩落した小高砦を囲んでいた石垣の外。点々と散る亡骸のない辺りまでだが、その速度は非常に遅い。いずれ、先に向かって来始めた三本妖狐には、追い付かれそうだ。
 だが。
「そうそう。そのまま来い」
 誰かが呟いたように、五本妖狐も向かってくるのを、六人は望んでいた。


 砦は消え失せ、丘の天辺が妙な形に落ち窪んでいる。
 加えて、人の姿は建物があったはずの場所以外に点在するは亡骸ばかりで、ここ数時間内に出来上がったものはない。
 そして五本妖狐の、執拗に地下から何かを掘り当てようとしていた姿。
 これらを観察するに、自分達が探すべき存在は、どうやら地下に埋もれているのだとアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は考えた。
 更に七夜・真夕(ka3977)のトランシーバーに、陽動班のエヴァンスから柊を通じて寄越された情報と事前に聞いてきた事とで、素早く計算を弾きだす。
「三十五から四十五の間で、砦の連中があのあたりに埋まっている可能性があるね」
「妖狐の様子から、確かに生き埋めになっていそうだが、何故その数字だ?」
 死体を数えると、残りがそのくらい。かなり損傷したものもあるので、もう少し誤差があるかもしれない。
 その返答に、ぶるりと震えたのは真夕一人で、年齢の割に歪虚と戦って長い様子のロニ・カルディス(ka0551)と、こんな場所でも火のない煙草を唇から離さない伊勢 渚(ka2038)とは、あっさりと頷いた。
「んじゃ、連れて帰る人数を減らさんように、そろそろ行こうか」
 陽動の尽力で、ようやく五本妖狐も陥没跡から離れ始めていた。そちらの六人と別行動で、現在は妖狐達の背後に回り込む形になった四人は、早速動き出した。
「誰か、いますかー。助けに来ました」
 真夕が妖狐が掘り返していた岩の下に、届くかどうかわからない声を掛ける。敵がこちらの動きに気付かないよう、小さな声だ。
 しかし、さっきまでは妖狐が掘り返していたところが生存者の確率が高いと掘り継ぐならば、砦の面々には歪虚か助けかの区別は付かないだろう。無用の衝突を防ぐには必要と、真夕が声を掛け続けるのを止める者はいなかった。
 陽動の六人が歪虚の軍勢を引き付けている間、こちらの四人はロニが敵との間に立つ形で警戒を担当し、残る三人は生存者の手掛かりを求めて土を掘り、岩をずらす作業に努めている。


 敵の数は、ざっと見渡したところ五十余。
 対する味方は六。救出が役目の四人は、数に入れてはいけない。
 妖狐が五体もいるので、敵味方の数量差はざっと十倍。ハンターであっても、大抵は歓迎したくない事態のはずだが、この依頼を受けた者達はその点では標準とは異なっていた。
「コレ、別に全滅させてもよいんだろ?」
「向こうに戻らせなきゃ、幾らでも殺して構わんな」
 受けた攻撃に逆上して、追いすがってきた雑魔達を、自らの戦馬にミリアを乗せて引き廻していたヒースクリフは、頃合いと見て馬首を巡らせた。
 ミリアは全身鎧「ソリッドハート」を着けているとは思えない滑らかな動きで、鞍の後ろから滑り降りた。その際、首を傾げて口にしたのが、先の言葉だ。
 彼女と彼の前に押し寄せるのは、雑魔ばかりが十五体ほど。
 少しばらけているがと、ミリアがグレートソード「テンペスト」を振りかぶる。そのゆったりした動きに脅威は感じなかったのか、半分ほどの雑魔が追ってきた勢いのままに肉薄して、大剣に薙ぎ払われていく。
 動きが取れなくなったなら、止めに固執はしない。次の敵に向かうだけだ。
 そして、残った雑魔目掛けて、馬上のヒースクリフが最初はカービンを、続けて黄金拳銃を撃ち放つ。特に後者は相談数を犠牲にした威力をあてに、大物狙いでいく。
 ミリアが余裕があるのを見て、全弾撃ち尽くした銃の弾込めをし始めた。妙に余裕を感じさせるが、実際はゴーグルの下、視線は妖狐の動きを逐一確かめている。
 四本妖狐が、不意に前屈みに体を伸ばした妙な姿勢に、ヒースクリフとミリアは全力でその方向に走り出した。

 膨れた殺気に、咄嗟に試作魔導バイク「ナグルファル」を地に倒し、自分も受け身を取りつつ転がり落ちた柊は、上向いていた左半身に熱を感じた。
「頭が悪すぎるのも、考え物だな、おい」
 如何に挑発したところで、まさか全軍あげてこちらに来るとは思わなかった。五本妖狐はそうしたくなかった様子だが、仲間はその指示に従う知恵がない。自分達の作戦としては願ったりとはいえ、六人で妖狐五体を相手取るのはなかなかに難しい。
 横転したバイクから、盾と小銃を取り上げて、四本妖狐の視線を引く。その背後に、更に三本妖狐が隠れるように近付いてくるのにも気付いていて、柊は身を低くした。
 轟っ
 今度は三本妖狐が炎を吐き、柊の防御障壁とぶつかり合う。障壁に盾を加えても、鼻の中や喉が焼けるかと思う熱が襲ってきた。
 しかし。
「おうっ、美人とお近づきになるまではくたばるなよ」
 響いたのは、柊ではなく妖狐の悲鳴だ。戦馬の駆ける速度を「ダークMASAMUNE」に上乗せて、レイオスが三本妖狐の後ろ足に叩きつけていく。妖狐の背後を駆け抜けられる練度の馬は、全速力で主の意向を実行してのけた。
 すぐさま馬首を返し、突然割って入ったレイオスと柊のどちらを相手取るか迷った四本狐に、再びチャージングを仕掛ける。今度は、柊の射撃が妖狐から自在な動きを奪っていく。
 どちらの顔も、予定通りに妖狐を引き付けられていることに、満足げな笑みが浮かんでいた。

 崩れた石垣の影に隠れたハンターを狙っていた三本妖狐が、飛び掛かってきた人影に炎を吐いた。黒焦げになって落ちた身体を見て、次の敵にと背を向けた途端、焼いたはずの人間に尻尾を切り落とされて逃げ腰になる。
「お前、傭兵してたか?」
「いやぁ、学生でござるな。本分は学業と言う奴でござる」
 縁も何もないとはいえ、目くらましに死体を投げて平然としている烏丸に、エヴァンスが尋ね、リアルブルー人かと一つ頷いた。なんら疑問は解決していないだろうが、話題はこれで打ちきりらしい。
 当然、身代わりにした遺骸はそのまま、二人ともに隠してあったバイクと馬とに跨って、左右に分かれた。死者を悼むのではなく、生者を助けるために来たのだ。同じ位置に居て、妖狐の炎の的になるわけにはいかない。
 戦意を失いかけた妖狐には目もくれず、周囲に蠢く雑魔をエヴァンスは薙ぎ払い、烏丸は斬り伏せて、足場の悪い砦跡を走り回る。
 五本妖狐だけはまだ万全の状態で、明らかにどこから攻撃するのか算段をしている様子に、二人が視線だけでどの方向から攻撃を掛けようかと相談していた時、柊がかねて示し合わせて置いた合図を叫んだ。
 生存者の発見、加えて戦力増の報せである。


「助けに来たわ、私達は味方よ!」
 真夕が声を張り上げたのは、足元から強烈な殺気が土くれを通しても感じられたからだ。避けるよりなにより先に、同士討ちは避けようとようやく見付けた生存者と思しき気配に伝える。
 すぐさま殺気は消えて、何か叫び返してきたが、何を言っているのかはよく分からない。とりあえず女性の声ではあると、警戒をしていたロニも手伝って、土を掘ると下からも棒切れが突きだされた。
「初めて見る顔だな、どこの砦の者だ?」
「どこの砦でもない。待たせたな、西方倭人のお迎えだぜ」
 空いた穴から身軽に飛び出してきた女性は、皆が聞いていた鳴月牡丹の外見特徴に一致する。軽口をきいた伊勢が、名前を問おうとする間も有らばこそ。
「全部で四人か? こちらは八人だ。西の、この方向にまだ六人いるから、救助を頼む。その間、五つ尾は引き付けておくから」
 立て板に水の勢いで言い置いて、牡丹は走り出そうとするではないか。彼女が牡丹だと分かったのは、後から器用に上がってきた人々がそう呼ぶからだ。
 慌てて、アルトと真夕が牡丹の両腕を掴んだ。
「ちょっと! こっちも仲間はいるのよ。いきなり飛び出さないで、連携してちょうだいっ」
「妖狐達を、仲間が六人で引き付けてる。ここはどのくらい残っていそうか、分かるか? 聖導士がいるなら、一働きしてもらいたいんだが」
 この二人に、鳴月勢の男女が加わって、牡丹を伏せさせて情報交換を始めた。その間に、ロニと伊勢は怪我の少ない者を手伝わせて、次の救援箇所を掘り始めている。
 生存者はおそらく四十人。聖導士は二人残っているが、一人は火傷がひどく動ける状態ではなかった。もう一人は、埋まる前の状態ならまだ余力はあるはず。
「地下から掘り進める場所はなかったか?」
「妖狐の動きを警戒してくれ。こちらを見たら、すぐに俺が出る」
 伊勢が砦の地下に詳しい者と掘る場所を決め、作業を分担する。ロニは負傷者に警戒の目の役をさせ、自身はすぐ攻撃に移れるようにしながら、がれきを除ける作業も行っていた。
 そして、五つ尾と鳴月勢が呼ぶ妖狐は、的確に指揮官を狙うだけの知恵があると伝えられる。ハンター達にまだ手を出してきていないのは、誰が指揮官かを見定めようとして叶わずにいるかららしい。ハンターの、明確にリーダーを決めないことが多い態勢が、今回は有利に働いたのだ。
 この頃には、更に六人が見付かって、今度は地下で通路を開く作業が始まっていた。そこが開けば、半分以上が見付かるはずだ。
 しかし、残りはどのあたりに埋もれたか、はっきりしない。掘るのも当てずっぽうでは効率が悪いし、なにより五本妖狐の気を惹く可能性が高い。
「じゃ、先にあいつらを始末しよう。ただし、あんた達より余力があるオレ達が出る」
 本当は負傷者は先に依頼人たる楠木香達の待つ地域に向かわせたいが、妖狐の足止めが完璧でなければ、追われる不安がある。それで方針転換はどうだと、伊勢は言い出したのだ。
 幸いにして、ここのハンター四人は余力があり過ぎる状態である。負傷者の警護なら、鳴月勢でも十分に手が足りる。戦闘の間に、行方不明者の居場所を探すにも、土地に詳しい者の方が適任だ。
 短い相談がまとまって、陽動班にも伝えられた。
「行きますっ!」
 真夕が負傷者のまとめられた一角に、アースウォールを建てたのが合図となった。
 馬は万が一の際の移動用に鳴月勢に預け、ハンター四人が五本妖狐のいる方向に走り出す。同じく牡丹と、三日に届く戦闘で妖狐を屠った経験者を合わせた四人が、妖狐に見えるが離れた位置に向かっていった。
 五本妖狐が、これまでにない力を持った雄叫びを上げる。


 歪虚達が、ハンターの前では初めて統制の取れた展開を見せた。
 五本妖狐を中央に、妖狐と雑魔が集まる。妖狐は半数が牡丹達に向かおうとし、残りは雑魔と共にハンター達に牙を剥いた。
 その雑魔が蠢く辺りを狙い、すっと足を止めた伊勢の遠射が妖狐の足元に跳ねる。続く射撃は、一人のものではなかった。各方向から、一度に一匹に集中した銃弾が、後ろ足を斬られた三本妖狐を沈めていく。
 尾が二本になった妖狐がまた逃げ腰になって、五本妖狐に威嚇の声を向けられる。その光景が雑魔の統制を乱して、
「トップがいま一つだと、烏合の衆になりがちでござるな~」
 右往左往するモノを、烏丸の手裏剣が端から削り取っていく。
 この攻撃が停止したのは、前に踏み込むなとヒースクリフが叫んだから。そして、ファイアスローワーの炎の力が凄まじい勢いで地表を舐めた。
「いいねぇ、やっぱり全滅が一番だよ」
「そうだな。やっと全力で暴れられる」
「露払いは、任せてよ」
 真夕のライトニングボルトが、ヒースクリフの炎を喰らった雑魔の群れを切り裂くと、拓けた道をミリアとアルトが駆けた。その背後を守るように立ったロニの唇からは、レクイエムの響きが流れていく。
 雑魔が痙攣して動かなくなった上を踏み越えて、二本妖狐に肉薄したアルトとミリアが、それぞれの得物を振るった。妖狐が苦し紛れに身を捩りながら吐いた焔が身体に降りかかるが、止まればいい的になることは二人とも体験で知っている。
「女ってのは、怖いねぇ」
 四本妖狐を狙い撃つエヴァンスが、くすりと笑った。彼の視線の先、ハンター達も隠れる影に使いつつ、牡丹達四人が残った三本妖狐に近付いている。このうち三人が女性なもので、つい声に出たのだ。
「動きを止める!」
「よっしゃ、後は任せろ」
 五本妖狐からの炎が届かないよう、三本妖狐を盾にしつつ、牡丹達は三メートル近い三本妖狐をころりと転がした。東方独特の技だろうか。そう言えば、鳴月勢の武装は籠手などが目立ち、ロニのような槍はまだ見ていない。
 何はともあれ、転倒した敵などレイオスのチャージングと薙ぎ払いの新たな犠牲になるだけだった。
 しかし。
「火が来るっ、逃げろ!!」
 柊の危険を知らせる声に、全員が素直に従った。三本妖狐に突きかかったところのレイオスは、のたうつ妖狐を盾にし、更に戦馬を地に引き倒す。牡丹達は、手近の瓦礫の隙間に飛び込んだ。そこに届くかどうかの位置に、柊の防御障壁が展開する。
 皆の耳に届いたのは、妖狐の断末魔だ。五本妖狐が吐いた焔に炙られて、その姿が消えていく。
 しかし、レイオスは自分の盾も使って、たてがみが焼け焦げても共に立ち上がろうとする戦馬を庇っているのを見て、五本妖狐は派手に飛び退った。追いかける銃撃や魔術などに痛めつけられつつ、脱兎の勢いで逃走する。四本妖狐も、それに付き従った。
「あ、待てこら」
「この弱虫、逃げるかっ」
 誰が罵られたところで、五本妖狐が足を止めることなく。
「怪我人は移動だ。向こうと合わせて、少しでも多く治したいからな」
 イヌワシにしがみついて、上空から様子を見ているアルトの妖精が『うんととおくににげた』と告げたので、ロニが炎を喰らった者にもそうでない者にも、移動を促した。


 小高砦の生存者四十人が生き埋めから解放され、他の砦の勢力と合流を目指して移動を始めるのは、それから二時間の後だ。

依頼結果

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MVP一覧

  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕ka3977

重体一覧

参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 英雄譚を終えし者
    ミリア・ラスティソード(ka1287
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 絆の雷撃
    ヒースクリフ(ka1686
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 月日星の剣
    烏丸 薫(ka1964
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • 白煙の狙撃手
    伊勢 渚(ka2038
    人間(紅)|25才|男性|猟撃士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 作戦会議室
ミリア・ラスティソード(ka1287
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/07/29 13:32:33
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/07/26 13:40:17