ゲスト
(ka0000)
海で遊ぼう(双子編)
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/31 19:00
- 完成日
- 2015/08/13 03:55
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「でゅふふふふふ」
エルフの娘、ミーファは最近そんな笑い方をして読書に没頭する日々を送るようになっていた。
双子の姉サイアはその原因はなんとなく理解していた。何から何までそっくりと言われる双子なんだから、感覚でなんとなくわかる。
が、口に出したくない。男性同士の恋物語というのはサイアにとっては理解しがたい分野であったからだ。
「困ったわ。いつまでもずっと傍にいるのに」
双子である場合の風評被害は恐ろしい。
傍で押しつけられ続け、同じ趣味に染め上げられるのもイヤだし、他人がミーファを見たらなんと思うだろうか。
さらに言うならミーファとサイアはそっくりなので、よく間違えられるのだ。
とんだ風評被害が自分に降りかかってくることは想像に難くない。
「困ったわ。いつまでもこうしてられない」
サイアは思い切って立ち上がると、友人のデリアがきょとんとした顔でサイアを見た。
あまり丈夫でない彼女もまた読書を愛好する一人だ。といっても。ミーファとは違う至極マトモなエルフだが。
「どうしたの? サイア」
問いかけるデリアが抱える本は『海』と書かれていた。マリンブルーに染めた表紙が印象的だ。
「その本、何?」
「これ? 海に関することが色んなことが書かれたお話なの。ねぇ、知ってる? 海は湖よりずっと広いんですって。しかも水面は留まらず絶えず波を作っているとか」
デリアは抱える本の表紙を嬉しそうに撫でると、そう話してくれた。
そういうサイアも海など名前でしか聞いたことが無かった。まるで御伽の世界のようだった。
「海にはね、色んな生き物がいるし、それにまつわるお話もあるの。泡から生まれたお姫様が王子様と恋をするお話とか……」
デリアは普段あまりしゃべらない子。
だけど、たくさんの本を読んでいるからか、表現は優しいながらも豊かで、聴いているだけでその様子が浮かんでくるようだった。
森よりずっと多くの人が集まり、活気に満ちた白い砂浜。
夢と恋と冒険が内包された不思議の世界。
デリアの言葉に惹かれて、サイアもそんな世界を是非一度見てみたいと思わずにはいられない。
「ねえ、デリア。海に行ってみない? この前みたいに」
ええっ。と、デリアは本気で驚いた顔をしていたが、それにもかかわらず、サイアは書棚の隅で丸っこくなって読書にふけるミーファにも声をかけた。
「ミーファ。また外にいかない? 今度は、海!」
「サイア。また外に行けるの? 今度は、海!?」
ミーファの顔がぱっと輝いた。
「え、で、でも……」
困ったのは話が急展開されたデリアだった。
「ねえデリア。海の水がしょっぱいって聞くけど、どのくらいかしら。薄く感じるくらい? 海底は塩の結晶があるのかな」
デリアは困った顔をした。そんなことは本にも書いていないのはサイアは知っていた。
「ねえ、外には本では分からない不思議がたくさんあるの」
「そう、外には本では分からない衝撃がたくさんあるのっ」
鼻息荒くミーファもサイアの言葉に同意した。妹の指し示す意味は若干違っていたのは知っていたが、あえて無視した。
想像では推し量れない世界。それはデリアの夢を膨らませるには十分な言葉だった。
それがデリアの兄エグゼントを、そして外界を吟遊するシャイネを巻き込んで実現していくのであった。
「海ならいっぱい恋物語もあるのね。冒険物語もあるのね。ミーファもきっと今の趣味よりいいもの見つけるはず」
デリアにちょっぴりゴメン。と心の中で謝りつつ、サイアはそんなことを考えていた。
一方のミーファは。
「海ならいっぱい殿方を拝めるのね! 絡む様子も見れるのね。デリアもサイアもきっと殿方の絡みの良さに気付けるはず」
真反対の事を考えていた。
●臨海学習 うみのしおり
1.目的
海を見学します。
2.やる事
海でハンターさんと一緒にやるゲーム「ウォーターフラッグ」
海上に浮かんだ旗3つを双子チーム、兄妹チームに分かれて奪います。先に取った方が勝ち。
スキル使用可。死亡不可。
勝者は海の家の食物を奢ってもらえる!
スイカ割り? エルフだろ。リンゴだろ! 「リンゴ割りゲーム」
あとは自由時間。
泳ぐも良し、スイカなどを割るも良し、砂の城を作るもよし、ナンパするもよし、寝るもよし。
注意。他のお客さんもいるので迷惑かけない事。
陽が沈む前に帰る。
ゴミは持って帰ること。
3.海の家メニュー
あたたかいもの
・焼きそば
・魚介焼き ※ 具はその日の仕入れ次第
・ヴルスト ※ 串つき
・あげた芋
・肉入りズッペ
つめたいもの
・かき氷 ※ 目玉商品
・ビール
・ジュース ※ 炭酸はない
かしだせるもの
・うきわ
・パラソル
4.持ち物
水着などは自前でどうぞ。
おやつは300Gまで。リンゴはおやつに入らない。
5.困った時は
自分たちで解決しましょう。
エルフの娘、ミーファは最近そんな笑い方をして読書に没頭する日々を送るようになっていた。
双子の姉サイアはその原因はなんとなく理解していた。何から何までそっくりと言われる双子なんだから、感覚でなんとなくわかる。
が、口に出したくない。男性同士の恋物語というのはサイアにとっては理解しがたい分野であったからだ。
「困ったわ。いつまでもずっと傍にいるのに」
双子である場合の風評被害は恐ろしい。
傍で押しつけられ続け、同じ趣味に染め上げられるのもイヤだし、他人がミーファを見たらなんと思うだろうか。
さらに言うならミーファとサイアはそっくりなので、よく間違えられるのだ。
とんだ風評被害が自分に降りかかってくることは想像に難くない。
「困ったわ。いつまでもこうしてられない」
サイアは思い切って立ち上がると、友人のデリアがきょとんとした顔でサイアを見た。
あまり丈夫でない彼女もまた読書を愛好する一人だ。といっても。ミーファとは違う至極マトモなエルフだが。
「どうしたの? サイア」
問いかけるデリアが抱える本は『海』と書かれていた。マリンブルーに染めた表紙が印象的だ。
「その本、何?」
「これ? 海に関することが色んなことが書かれたお話なの。ねぇ、知ってる? 海は湖よりずっと広いんですって。しかも水面は留まらず絶えず波を作っているとか」
デリアは抱える本の表紙を嬉しそうに撫でると、そう話してくれた。
そういうサイアも海など名前でしか聞いたことが無かった。まるで御伽の世界のようだった。
「海にはね、色んな生き物がいるし、それにまつわるお話もあるの。泡から生まれたお姫様が王子様と恋をするお話とか……」
デリアは普段あまりしゃべらない子。
だけど、たくさんの本を読んでいるからか、表現は優しいながらも豊かで、聴いているだけでその様子が浮かんでくるようだった。
森よりずっと多くの人が集まり、活気に満ちた白い砂浜。
夢と恋と冒険が内包された不思議の世界。
デリアの言葉に惹かれて、サイアもそんな世界を是非一度見てみたいと思わずにはいられない。
「ねえ、デリア。海に行ってみない? この前みたいに」
ええっ。と、デリアは本気で驚いた顔をしていたが、それにもかかわらず、サイアは書棚の隅で丸っこくなって読書にふけるミーファにも声をかけた。
「ミーファ。また外にいかない? 今度は、海!」
「サイア。また外に行けるの? 今度は、海!?」
ミーファの顔がぱっと輝いた。
「え、で、でも……」
困ったのは話が急展開されたデリアだった。
「ねえデリア。海の水がしょっぱいって聞くけど、どのくらいかしら。薄く感じるくらい? 海底は塩の結晶があるのかな」
デリアは困った顔をした。そんなことは本にも書いていないのはサイアは知っていた。
「ねえ、外には本では分からない不思議がたくさんあるの」
「そう、外には本では分からない衝撃がたくさんあるのっ」
鼻息荒くミーファもサイアの言葉に同意した。妹の指し示す意味は若干違っていたのは知っていたが、あえて無視した。
想像では推し量れない世界。それはデリアの夢を膨らませるには十分な言葉だった。
それがデリアの兄エグゼントを、そして外界を吟遊するシャイネを巻き込んで実現していくのであった。
「海ならいっぱい恋物語もあるのね。冒険物語もあるのね。ミーファもきっと今の趣味よりいいもの見つけるはず」
デリアにちょっぴりゴメン。と心の中で謝りつつ、サイアはそんなことを考えていた。
一方のミーファは。
「海ならいっぱい殿方を拝めるのね! 絡む様子も見れるのね。デリアもサイアもきっと殿方の絡みの良さに気付けるはず」
真反対の事を考えていた。
●臨海学習 うみのしおり
1.目的
海を見学します。
2.やる事
海でハンターさんと一緒にやるゲーム「ウォーターフラッグ」
海上に浮かんだ旗3つを双子チーム、兄妹チームに分かれて奪います。先に取った方が勝ち。
スキル使用可。死亡不可。
勝者は海の家の食物を奢ってもらえる!
スイカ割り? エルフだろ。リンゴだろ! 「リンゴ割りゲーム」
あとは自由時間。
泳ぐも良し、スイカなどを割るも良し、砂の城を作るもよし、ナンパするもよし、寝るもよし。
注意。他のお客さんもいるので迷惑かけない事。
陽が沈む前に帰る。
ゴミは持って帰ること。
3.海の家メニュー
あたたかいもの
・焼きそば
・魚介焼き ※ 具はその日の仕入れ次第
・ヴルスト ※ 串つき
・あげた芋
・肉入りズッペ
つめたいもの
・かき氷 ※ 目玉商品
・ビール
・ジュース ※ 炭酸はない
かしだせるもの
・うきわ
・パラソル
4.持ち物
水着などは自前でどうぞ。
おやつは300Gまで。リンゴはおやつに入らない。
5.困った時は
自分たちで解決しましょう。
リプレイ本文
●海だっ
海の家で着替えをして。
扉を出ればそこは白い砂浜。焼けつく海風。引いては返す潮騒の音。透き通った碧海が果てに広がる。
ふあああ。誰もが広がる海に気持ちに息をのみ、湧き上がる期待を押さえつけていた。
「楽しんでおいで」
海の家臨時番頭となったシャーリーン・クリオール(ka0184)がその気持ちに後押しをする。
「海だっ!」
クレール(ka0586)が全力で駆け始める。
「海でござるっ!!」
シオン・アガホ(ka0117)も弾けるように飛び出す。そうだ、湧き上がる興奮を飲んでいられるものか。
みんな一直線に海へ突撃した。
みんな翼が生えたかのように焼けた砂浜の上を飛び跳ねるようにして。浮き輪やバナナボートなどの遊び道具が宙を舞う。
「うみだーーーーーっ!!!」
威勢のいい鬨の声が揃って上がった。
●一時の海辺
「きゃ!? ちーちゃん、つめた……っ」
波打ち際を不思議そうに眺めていたマリエル(ka0116)は突然水をかけられて身を震わせた。熱く火照った体には気持ちいいのだが、胸の隙間やら股の間の僅かな隙間に溜まる水の冷たさがいつまでも残る。
「ふふー、隙あり!!」
上目づかいに睨みつけるマリエルに柏木 千春(ka3061)は悪戯っぽい笑顔で答えた。
「海ではこうやって遊ぶんだよ~。ほーらほら」
「きゃっ、ちょっ。海で遊ぶなんて初めてなんですから、もうちょっと……ひゃあああ」
逃げ回るマリエルの背中に千春が追いかけ回す。が、海水をすくいながら追いかけまわすのは体勢に無理があり、埋もれる足を引き抜けずに派手にコケる千春。
「ああっ、ちーちゃん!」
慌てて振り返るマリエルも。普通の地面と同じように軸足に力を込めて振り返ったために足が埋もれてバランスを崩す。
そして訪れる大きめの波。
「ぷひゃ……!」
「うぷぁ……!」
二人の水死体が波の引いた砂浜に残るばかり。
「ぷ、あは、あはははははっ」
「あはは、おっかしー!」
箸が転がってもおかしいお年頃の二人の笑い声が響く。
「んー、んんんー」
熱く焼けた砂の上で。
菊開 すみれ(ka4196)はオイルを背中に塗ろうとして胸を大きく張って腕を伸ばすが、背中にはなかなか塗りにくい。
「あのぉ、もし良かったら塗ってくれませんかー? どうしても背中は届かないの」
傍を通りかかった三つ編みの男性を『たまたま』見つけて、すみれは身体を反らしたままにヘタレた声をあげた。きょとんとした彼はしばらくすみれの顔を見ていたが、やがて笑顔でそれに応じてくれた。
「ありがとうございます。均等に延ばさないとムラができちゃうんですよ。あ、紐の下もお願いしますね」
日焼けをしたいという気持ちは純粋な心が溢れ出ており、誘っているとか、劣情を催すとか、なんてゆーか××。とかそういう雰囲気は一切ない。
それを知ってか知らずか三つ編みの男も穏やかにほほ笑むと、ゆるゆるとした手つきでオイルを広げていく。
「ありがとうございますっ。うふふ、優しい手つきですね」
すみれは手のひらの動きを感じつつ、軽く鼻歌を歌った。
「ありゃあ、いいねぇ」
パラソルを差した日蔭の中で、すみれを見つめてぼやいたのはエアルドフリス(ka1856)だった。魔術師とは思えない鍛えられた褐色の肌を惜しげもなく晒す濃紺のブーメランパンツ。今回の依頼参加者のみならず、一般人にすら二度見される肢体。
「師匠はああいうのが好きなんだ?」
エアルドフリスと同じく前回の戦いで大怪我を負ったユリアン(ka1664)は師匠の視線の先を見て問いかけた。
「へぇ~。『もし俺を赦してくれるのなら、この後は一緒に居たい』とか言ってくれたのにね? こっちに来たらトドみたいに寝ころんで水着の女の子見始めて?」
ジュード・エアハート(ka0410)だった。ブラウスにサルエルパンツ姿のジュードは海の家で買ってきた焼きそばをもってにこやかに問い直した。ユリアンはジュードを見た瞬間に大怪我した足を引きずってでも逃げ始める。彼も夜の街での『お叱り』を横で聞いていたわけで。もはや一蓮托生。
「フフフ、逃がさないヨー」
「う、うわ……あ、あの、や、優しくしてくれると嬉しいか、な」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)が、ぴるるる。と空気抜きの加減で水鉄砲の先から零れる水を見ながら、ユリアンは引きつるように笑った。アサルトライフルの連射で脚部は穴だらけ。そんなところに海水をかけられたら。考えただけで血の気が引く。
「もちろん、優しくしますよ? 大切な小隊の仲間ですから! でも、また無茶をしないようにお灸を据えるのも大切かなーって」
にたぁ。いや、フレデリク・リンドバーグ(ka2490)はそんな笑いをするはずがない。だが、いつものあの穏やかな、涼やかな口元が今日は邪悪に歪んでいる気がする。フレデリクといえば前の女装依頼でもガムテ脱毛執行者だったわけで。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!!! ……あ、あれ?」
「ユリアンさん、逃げちゃダメですよっ。怪我の部分に砂ついたら化膿しちゃいますからね」
反射動作で悲鳴をあげるユリアンだが、実際ほど痛みがなくてしばし悪戯っ子笑顔のフレデリクの顔と自分の傷口を交互に見て目を白黒させた。
「んふふ。大事な仲間を傷つけるマネするわけないじゃない? 生理食塩水よ。これ♪ 破傷風にかかったら大変でしょ」
葵はウィンクしてそういうと、再びユリアンの顔にぴょるるるるる~と水を吹きかけた。しょっぱいし、水を浴びている気分にもなれる上に、傷にも優しい。
ああ、仲間がいて良かったと思うユリアンだった。
「生理食塩水とは気が利いてるな」
仕返ししてやろうと狙っていたエアルドフリスはふうとため息をついてジュードを懐に受け入れた。
「でしょ。思わず空いた腹の穴から焼きそば食べさせてあげようかとも思ったけど~。それは勘弁してあげるね」
マズい。怒ってる。
エアルドフリスは反射的に腹の傷を抑えて唸った。これで油断したところを隠した水鉄砲で仕返しをすれば和気藹々の遊びムードになれるはずだ。
しかし無情にも、ちるるる~と胸にかかるジュードの水鉄砲。当たった部分がひんやりとする。そしてよく馴れたツンとした香りを伴って、手のひらの下、傷口に垂れていく。
これは、消毒液の香り。ある意味塩水より、よく効く。
●ウォーターフラッグ
さて、海遊びの本日の目玉、ウォーターフラッグには続々と参加者が集まっていた。
「なにか、顔についてる?」
スタート地点でたまたま横になったミーファに向かってザレム・アズール(ka0878)が訊ねた。先ほどから照れ照れして視線を送られているのは知っていた。
「あの、あの。ザレムさんってやっぱり左ですか?」
「左? いや、右だけど……?」
エルフは左利きが標準なのだろうか? ザレムは首を傾げてそう答えると、ミーファの顔がぱっと輝き、矢継ぎ早に言葉を重ねる。
「えっえっ、本当!? そんな風に見えないわ。誘い受け、俺様受けかしらっ。お相手は誰なの」
「ああ、色んな攻撃を受けてきた。……お、おい、大丈夫か!?」
ミーファはザレムの素敵な体験談に白目をむいていた。
「衛生兵、えいせいへーい!」
「代わるがわる誘い受け。で、でゅひひ……」
フラッグが開始前にミーファは撃沈していた。
彼女の頭の中では、今日のこの浜辺で男どもを誘う水の滴るザレムの姿が焼き付いて離れなかった。
「賭けるのは、このお肉ですっ」
ウォーターフラッグに集まった面々の前にフレデリクは高々と、値段の張りそうな霜降り肉を高々と掲げてそう言った。
「あたしがよりをかけて料理するからね」
海の家のエプロンを身に着けたシャーリーンは塩と胡椒の小瓶を空中で回転させてニッと笑った。颯爽たる料理人とはまさに彼女の事だ。
「んー、是非あのお肉はゲットして重体の二人のお肉になるようにしてあげないといけないわネ!」
葵は付け合わせの料理をイメージしながらバーベキュー用に持ち込んだ野菜の検討し始める。
「どっちもがんばるんだよ。それじゃよーい。どんっ!」
シャーリーンによりスタートの合図が上がった。
「さて……」
それとは対照的に、非常にゆっくりとした動作で起き上がったのはレイレリア・リナークシス(ka3872)だ。髪についた砂を払い落としつつ、ゆるりと先行するメンバーを見渡した。
レイレリアはその髪が鴉の翼を思わせる娘に目を付けるとやおら覚醒し、六水晶を掲げた。
「世界に六大あり。大地の晶よ。今顕れて障壁とならんことを」
歌うような詠唱と同時に、まるで滑空するような鴉の翼を思わせる娘の前にアースウォールを突き立てた。突然の地面の変化に相手は壁に足かけ横に駆け抜けるが最初の猛ダッシュのスピードは殺されてしまいあっという間に落ち込んでしまった。その間に何人もが駆け抜けていく。
「まだまだ、ですね」
走ることもせず悠々と砂浜を歩き、先行する兄妹チームに向かってアースウォールを突き立てるレイレリアによって兄妹チームはちょっとばかり混乱をきたしていた。
「きゃあああ、水着がぁぁ」
海に入ってすぐにすみれが悲鳴を上げた。先に塗っていたオイルが滑り材となってしまったのだろうか。肩ひもがずり落ちてしまっていた。
「ふぇぇん」
と涙声をあげるすみれは、オイルを塗ってくれた三つ編みの男にヘルプを叫んだ。
このゲームの参加者といえば、女性が多い。三つ編みの彼はねらい目だったのに。
すみれの下心がばれていたのかどうかは知らないが、彼はすいい~っとこちらに振り向きすらせず泳ぎ去って行った。代わりに飛んでくるのは、彼の相方らしい金髪の娘からの視線。向こうの依頼主の一人であるエルフのエクゼントは多少ドギマギとしている様子はうかがえたが。
うう、まずったかな。
「大変だったな。よし、俺が直してやるぜ!」
おお、やった! 作戦成功!!?
すみれが恥ずかしそうな顔を浮かべて、声の方向を向くとそこにいたのは、キメっきめの笑顔にブーメランパンツ姿で肉体美を強調するヴァイス(ka0364)だった。
「あは、ありがとうございます。でも、フラッグ取らないと、ほ、ほら!」
「フラッグより大切なものがあるだろ。それは君の心だ……」
なんで仲間が釣れちゃワケー!?
「ふふ、こうすれば妨害もなしだよね。旗というお宝は、ざくろが貰ったよ☆」
時音 ざくろ(ka1250)はジェットブーツで浮きあがり海面の上にデニム生地の水着姿で疾走していた。足のブーツから悠々とマテリアルを噴射し、波乗り感覚だ。少々の波や妨害など軽々と飛び越してしまえる。金髪の娘を眼上に収め、フリーハンドバックラーで彼女の視界を防ぐ。
はずだった。
「ひゃああああ!?」
足元を光線が走る。デルタレイだ。ざくろは足元をかすめた瞬間にジェットブーツの威力を高め大きく飛び上がったがデルタレイは空中でも遠慮なく追いかけてくる。反射的に身をよじったのがバランスを崩す結果となってしまった。慌てて大きく飛び上がるが身体はきりもみ回転をしてどこを向いているか自分でもわからない。
「ぬぬ、これはいかんでござる。時音殿、今加勢するでござる!」
シオンは、精神を集中するとやおら両手を組み海面に叩きつけた。
「水ぃぃ流ぅぅぅ破ぁぁぁぁっ!!」
海水がシオンの作った方向に筋となって大きく割り、ざくろを着水の衝撃から守った。水飛沫はそのままデルタレイを放った三つ編みの男目指して追撃を阻止。
更には海を割って進む道を突き進めばフラッグまで歩いて進める! 二人の栄光の道はもうすぐそこ!!
という目論見だったのだが。
誤算1。ざくろは海面があると思って受け身の体勢を取ろうとしていた。
誤算2。フラッグを取ろうとした時には割れた海は元に戻っていた。
結果。
「ごぼぼぼ」
海の大冒険にでかけた二人は藻屑と消えた。
「ここまで来て諦めるなんて絶対ナシだ……!」
ザレムはジェットブーツで軽々と海の上を大きく跳んだ。
「ふぁぁ、見える。ねえ、見てサイア。あの人ね、ああやって誘っているのね!」
下から囁くような双子エルフの囁くような声が聞こえる。
なんか知らないが絶対に誤解されている。一瞬集中力の途切れるが気にしてはいけない。
「もう少し……」
真上からフラッグを掴みとろうとするザレムの前に鴉の黒い影が映った。
「きゃー、あの瞬間に『こいよ』とかって言うのよ!」
ミーファの黄色い声が上がる。
いや、どっちかというと、お前にはやらせない。だけどなぁ。とぼんやり考えたのが不味かった。
「あら、いけませんわぁ。えーい、雷様、しょうかーん!」
チョココ(ka2449)がザレムと鴉の髪の女が旗を取り合う瞬間にライトニングボルトを発射した。
それ、海の中で一番使っちゃいけない奴。
「!!!!?????」
ザレムはぷかりと浮かんでいた。それどころか周りの面々も双子もチョココ本人も死屍累々と海の上に浮かんでいる。
それでもザレムの執念はフラッグを掴んで放さなかった。
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は海の中ほどまでをのんびりと泳ぐと周りの状況をよくよく確認した。そんなエヴァの目の前を霧の魔女が走って行った。
「水の上なら水圧も電撃も関係ないのじゃよ~!」
霧の影から見える青い水着姿の魔女は随分とご機嫌のようだった。
エヴァはにっこり笑うと背中からよいしょっと長柄物をおろし、防水シートにくるんだままそれを肩において狙いを定めた。
ずきゅゅゅゅーーーーん。
「な、な、なんじゃ!?」
突然の銃撃に真っ青になる霧の魔女が振り向くとエヴァは笑って、長柄物ことアサルトライフルに巻き付けていた布を広げた。そこには。
『ドッキリ大成功!』
と書かれていた。
「ふっ、そんなものにひっかかるわけないのじゃ~」
と一笑に伏した時には、エヴァはもうファイアボールを作成しおえていた。
火球の威力で弾ける海。大きくうねる海面。水の上を歩いていた魔女にとってはそれは足場が耐えられないほどに暴れることになるわけで、可愛い悲鳴をあげて魔女は撃沈した。
エヴァはもう一度『ドッキリ大成功』の紙を広げてにっこり笑った。
奢りのお肉はもう目の前だ。
「方程式は見えた! この溢れる生命力が肺活量を示すはず!」
赤髪娘の勢いのすさまじさと言ったら。息継ぎなしで一気に海を行くその姿はチョココのライトニングボルトですら耐え抜き、そのまま一気にフラッグを目指していく。
元気を絵に描いたようなクレールでも競るどころかどんどんと放されていく。
「ふふふ、我に秘策あり!」
クレールはそう言うとマテリアルを解放し、一気に空へと飛びあがった。爆風を放つジェットサンダルで誰よりも空に向かって大きく飛ぶ!
「くーちゃんっ! これで私の勝ちっ!」
赤髪の娘がフラッグに手をかけようとした瞬間、影が彼女を覆った。
太陽を背負ったクレールが空中から舞い降りた。
精霊か!? 天女か!? いや、太陽娘クレールだっ!!!
「あっきゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
クレールはそのまま海面へと激突した。フラッグを取り損ねたあげく、全身をぴったぁぁぁんと叩きつけられたためその場でぷかーっと浮かんでいた。
「とっ、とったぁぁぁぁ!!!」
真面目に泳いでいた赤髪の娘がクレールの真横で勝利の声を上げた。
「残る旗はあと一つ……!」
天竜寺 舞(ka0377)は海の上を『走って』いた。魔術師のように魔法で海面を走るわけでも、機導士のようにマテリアルで飛び上がるわけでもない。超瞬足で海に足が沈む前に次の足を踏みだす。リアルブルーに伝わる超人NINJAも真っ青な水面走行。誰もが疾影士の本気を垣間見た。
「妹に良いとこ見せなきゃ!」
怒ってつもりじゃないんだよ。でもその大胆な水着は男に不埒な感情を想起させるかもしれないって思ったんだ。
舞は障害を飛び越え、電撃で浮かぶ他の参加者の背を踏み台にして海を駆け抜けた。
「お姉ちゃんのこと嫌いにならないでー!!!」
そしてフラッグをげーっと!
「見てたっ!?」
普段のそっけない態度はどこに行ったと言わんばかりにキラキラ輝く目で舞は愛してやまない自分の妹を探した。
「ね、ね。りんご割りってこんな並べ方でいいのかな」
妹はエルフの子とリンゴ割りの準備に忙しそうだった。
あああ。
撃沈。
●楽しいひと時2
「激しい戦いだったね。水しぶきは飛ばなかったかい?」
フラッグは双子チームが勝利し歓声が上がる中、ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)は首を巡らせて後ろにいる恋人セレスティア(ka2691)に声をかけた。
「ありがとう……」
恥ずかしそうな顔をして視線をそらせるセレスティアは、しばし迷った顔をしてそしてラシュディアに向き直った。
「でも、やっぱり、このままじゃいけないと思うの」
「何を言うんだ、セラ。まだ怪我をしている身なんだよ。万が一のことがあったら大変じゃないか。約束は守るって言っただろ?」
「わかってる。でもね、でもね」
セレスティアは赤くなって俯いた。
その視線にはラシュディアの広い背中がすぐ目の前に広がる。そして自分の胸がそれに密着する様子も。
「ずっとこのままはちょっと恥ずかしいの……」
着替えて浜辺についてから、ずーっと。ずーっとおんぶされるのはさすがに気が引けてきたセレスティアだった。
そもそもラシュディアの為に、ちょっと大胆な水着を選定したというのに、最初に見た後はずっと彼の背中に負ぶわれているのだからラシュディアが見て喜んでくれているというわけでもない。
あの苛烈な戦いでは何度もラシュディアの声や姿が脳裏をよぎった。祈ってくれていたのは肌で感じているのだが。
「いいや、悪いものがとりついたら大変だからね」
傷の意味でも、この大胆すぎるセレスティアの色気の意味でも!
腕がプルプルしてきても意地でもおんぶから下ろそうとしないラシュディア。
「もう……」
何とも言えない困った気持ちでセレスティアはラシュディアの首筋に顔を埋めたのであった。
「わ、す、すごいですね……」
クマのぬいぐるみのグレゴリーを抱えたキアーラ(ka5327)は砂像のパルムを見て感心しきりだった。
「うふふ、パルパルがモデルですのよ」
チョココは仲の良いパルムのパルパルを頭に載せて屈託なく笑った。確かにそっくりだ。
「キシシ、負けてらんないよな?」
キアーラがくまのグレゴリーの顔を覗き込むとぬいぐるみはそう喋ったかのようにしてふるふると震えた。
「そんな負けるとか、そんなつもりなんて」
「じゃあ、一緒に作りましょうですわっ」
困った顔をしていたキアーラにチョココは微笑みかけた。
「バーベキューの準備整ったよ~」
シャーリーンがヘラをカンカンと打ち鳴らして遊んでいる仲間達に声をかけると、次々と集まってくる。
「あら、潮の香りもしますね」
レイレリアは鉄板の上で焼かれる海の幸を興味深そうに見つめた。魚は元より、サザエやフジツボ、果てはナマコ。
食べられるの、かしら。
色々試してみたいと思ってはいたが、皿の上に乗っけられたナマコのスライスに少々複雑そうな顔をしていた。
「おお、ナマコまであるなんて通だなっ」
ヴァイスがレイレリアの皿を横から覗き込むと、一ついいかい? と断ってひょいっと口に入れた。美味しそうに食べるヴァイスを見てもやはりレイレリアの表情は胡散臭げだ。それもこれもエヴァのドッキリ大成功の紙が奥に見えるからかもしれない。
どんな味がするのだろうとレイレリアが見つめているとヴァイスは段々顔色が悪くなってくる。
「ほ、ほら。あんたにはこっちの方がお似合いだ」
これを口実にナンパしようと思っていたヴァイスだが、ひたすらじっと見つめられて段々追いつめられるナイーヴハートは耐えきれなくなって、かき氷を差し出して逃げた。
「ありがとうございます……?」
「じ、じゃあ!」
そう言うと、ヴァイスはすぐさま目標を変更し、ざくろに声をかけた。
「よぉ、姉ちゃん! 一緒に食べないか」
「へ?」
しばらくきょとんとし、ざくろは慌てて顔を真っ赤にして否定した。
「ざくろ男、男!」
「何っ!?」
なんか今日は調子悪いぞ!?
そんなヴァイスの後ろからミーファのときめいたため息が漏れる。
「間違いから始まるカラミ。ああ、やっぱり外の世界ってスゴイ!」
「「まって」」
思わずヴァイスとざくろの声がハモる。
「何やってんだ、あれは」
「何って人間関係のもつれじゃない?」
それを見ていたフェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)はサザエをくりぬきながら呟いたところ、ケイ(ka4032)が答えた。
「あれ、なんでお前がいるんだよ」
「それはこっちのセリフ」
口を休めることもなく互いに顔を見合わせる二人。互いがいることを知らなかったのだ。しかし、いる以上は好都合。
「ちょっと口直しが欲しいわね」
ケイが焼きそばをビールで押し込んでそう呟くと、フェイルが例のブツを取り出した。
「冷凍のもあるよ、食べるかい?」
「いいわね」
魚介焼きだの焼きそばだの食べながら例のブツ、マシュマロを口に入れるという人類は世界広しと言えども、二人もいるのが信じられない。
「そういえば、さっきのウォーターフラッグでなんか不思議な感じがしたんだけどさ。既視感っていうやつかな?」
「世界は偶然で満ちている。ああ、世界は素晴らしいことね」
「適当言ってない?」
ケイが魚の串焼きの間にマシュマロ挟んで食べつつ、そう言うのを聞いて、フェイルは眉をしかめた。
しかし、その言葉が遠からず当たっていることをフェイルは知らない。
「オオー、ファンタスティックだネー。海はシラナイ食べ物で溢れてル!」
ねぎまならぬ、『マシュマロま』なる未知の食べ物を見て嬉しそうなアルヴィン。
「確かに知らないもので溢れてますよね! って、わわっ、それどうやって作ったんですか!?」
メロン味のかき氷のカップを頬に当ててひんやりを楽しむフレデリクはアルヴィンのかき氷を見て目を真ん丸にした。
アルヴィンはいちご味のかき氷をスプーンで削ってウサギさんを作りながらにっこり笑った。パーカーもウサギ耳がついていたり水着もウサギさん柄、ウサギさんづくめである。
「まず軽く食べて形を決めるんダ☆ リンリンもやってごらン?」
こくこくと頷いて早速、スプーンでしゃくしゃく削るフレデリク。
「もっと早ク早ク。溶けちゃわないようにネ」
「も、もっとですか。んんんん……んんんんー!!!?」
突如襲い掛かるかき氷頭痛により震えるフレデリク。氷うさぎどころのではない。
アルヴィンはくすくす笑いながら、フレデリクが目をぎゅっと閉じている間に軽くかき氷を成形してあげるのであった。。
「はい、エアさん、あーん」
「あーん」
瀕死に戻したエアルドフリスの口に焼きそばを運ぶジュード。
「はわぁ♪」
ミーファが顔を紅潮しながらそれを見守っていた。それを見たユリアンは少し考えて、バナナボートで視線を遮ってみる。
その横から見ようとするミーファの動きを察知して右へ左へ。覚醒しなくても相手の動きを見抜くくらいは経験でできることだ。
「「あ」」
ミーファがフェイントをかけてもう一度同じ場所から覗き込まれたため、思いっきり至近距離でミーファの顔と鉢合わせする。
潤んだ瞳をみればなんか運命の出会い的な顔をしていることがわかる。解りすぎてコワイ。
「ミーファさん、どうしたの?」
「天竜寺さんっ、と、殿方が盛り上がるってどうなる時でしょうか!?」
問いかけられた舞は、ふっと妹を見た。大胆水着の妹を。
「どうって、ねえ?」
「基本男女の差とかないと思うけどね。自分の気持ちに嘘つかないことが大切なんじゃない?」
カフカ・ブラックウェル(ka0794)はフェレットのヴィーと妹の飼っている犬と遊ばせながらそう答えた。二人とも溺愛する妹がおり、思う気持ちは誰よりも強いという気持ちがあるわけで。
「そうですね!」
二人のアドバイスを受けてミーファはユリアンに向き直った。
「あのっ、ユリアンさんは右と左どっちですか!?」
誰かツッコんでやれ。
「去年はこんなことできなかったし、こうやってのんびりできるのは良かったなー」
クレールはぷかりと浮かんで太陽を眺めていた。
そんな彼女の耳に波とは違うリズムの音が聞こえたのでそのまま起き上がってみると、ウサギさん浮き輪の紐だけ頼りにするアルヴィンが一生懸命にバタ足で泳いでいた。
「アルヴィンさん、泳ぎの練習?」
「ウン、今回は浮き輪ナシで泳げるヨウになったみたイんダ♪」
と言う傍から沈みかけるアルヴィン。
その手をクレールがにぎると、立ち泳ぎの浮沈に合わせてフワフワと腕をふった。波のリズムにあわせてゆらゆら揺れる。
「力入りすぎですよっ。おでこの上の太陽を覗くようにしてみて~」
アルヴィンがあおむけになって空を向けると顔が水面に浮かぶ。
「そうそう。波のリズムに足をユラユラ。お、すごいですっ! ばっちりですよ」
「わァ! これ楽しイ!」
バタ足よりも先に背泳ぎを覚えたアルヴィンは、しばらく一緒に二人で海に身を任せるのを楽しんでいた。
●リンゴ割り
「ちぇすとぉぉぉぉぉっ」
黒ビキニのシオンの一撃は色んな意味で迫力満点だった。大上段からの一撃は4つばかりまとめてリンゴを真っ二つにして転がしただけでなく、土台の砂浜をも真っ二つにする勢いであった。が、コロコロと無傷のリンゴが転がる。
「ああ、そっか。スイカと違って狙いがいくつもあるから全部当てようと思うと、鋭い一撃じゃダメなんだ」
「うぐぐ、やりきったのになんか悔しいでござる……!」
カフカの冷静な分析にシオンは不満げな顔。斬るには剣風で目標を切りつける必殺技、雲耀の剣を体得せねばと胸に秘めるシオン。しかし信じて欲しい。彼女の使った棒はその辺で拾った細い流木なのだ。普通真っ二つにはならない。
「お兄ちゃんっ、勝負だよっ!」
冷静な分析を続けるカフカを挑発するのは双子の妹。
「いいよ、その約束忘れちゃダメだよ」
カフカはシオンから目隠しを受け取ると、できるだけ太い棒を選ぶと、すうと息を吸い込んだ。
香りが位置を教えてくれる。そして叩き込む角度も計算済み。
「でりゃあっ!」
普段の頭脳派とは思えない烈破の声を上げるカフカの一撃は7個のリンゴを吹き飛ばした。
「へぇ、意外と難しいのね。これはちょっと真っ二つにしてみたくなったわ」
ケイも興味津々でフェイルと視線を合わせて頷くと、おもむろに鉄パイプを取り出した。
武器が段々凶悪化してる。
「てぇいっ!」
どがっという鈍い音と共に3個ばかりはじけ飛ぶリンゴを見て、ケイは曇った顔をした。
「難しいわね。あなたもやってみたら? うまくいったらチョコマシュマロあげるわよ」
「もう一撃で決めることは諦めた方がいいみたいだね」
フェイルはマシュマロを口に詰めると目隠しを受け取り、やおらナイフを取り出し、ヒュパパンっ!! と投げ飛ばした。
悲鳴と共に逃げ回る観衆。
「あー、そういうテもあるか」
ケイはそう言うと和弓を取り出し……
みんなに取り押さえられた。
「妹のやつ、うまく切れたよな」
ユリアンは妹からの差し入れを口にしつつ、ぼんやりそんな騒動を眺めていた。
●
「にしても暑いわね。焼けちゃいそう……」
バーベキューの火と太陽の光とでふぅとため息を吐く葵は赤くなりつつあるマリエルや千春の肌を見て不安に駆られた。
「ふあ~、なんかピリピリしてきたね。もう水着の跡がクッキリしてきた……」
「体がこの海での出来事覚えたかも」
記憶を失ったマリエルに新たな思い出を。いっぱい遊んだ楽しさは何物にも代えがたいものだった。肌にもそれがしっかり残ると実感も出てくる。ピリピリも悪いモノじゃ……
「ダメよっ! 今は良くてもシミになっちゃうわっ。それに火傷よ火傷。ヒリヒリして夜も眠れなくなるわよ」
「ひゃっ?」
葵の言葉に千春は驚いて軽く飛び跳ねたが、確かに言う通り段々痛みがひどくなってくる。
「戦いの傷も痛いけど、これも結構イタい」
「どど、どうしたらいいですか。沢城さん!?」
「まず日陰に移動しなきゃ。それから冷やして保湿。あ、いい化粧水あるのよ?」
といっても人の多いこの時間。重体の仲間を日向に押し出すわけにもいかず……。
と、葵は海辺に建物があるのを見つけ、素早くそこに二人を案内した。
「こんなところに建物あったっけ……」
戸惑う3人の目の前に広がる部屋にはパルム、パルム、パルム、パルム、くまのぬいぐるみ。それぞれ違うかき氷を手にしている。
「キキキ、我が城にようこそって感じだよな」
「グレゴリー、ここはみんなのお城なのよ」
キアーラはグレゴリーに語り掛けながら挨拶をした。
「そう、パルムのお家でもあるのですわー。このパルムはかき氷ホルダーにもなっていますの」
共同制作者のチョココは自信満々にそう言った。パルムに囲まれた彼女の姿はまさしくパルムの御使いといえる。
「ところであの肉、霜降りの割には固かったけど、なんの肉だったんだ?」
焼きそばに賞品の肉を入れていたザレムがシャーリーンに問いかけた。牛や羊とは思えない弾力だった。
「ああ、あれ? ゲソだよ。あたし、昨日から準備してたんだけどね。そしたらイカ型の狂気の歪虚が襲ってきたから、撃退したら脚を落としていって」
「まて」
エヴァはのんびりと絵を描いていた。
城に絡みつくゲソ。無数のパルムと共に戦うチョココとグレゴリーが放つ怪光線(機導砲)。
これは傑作になるかも。
そんな予感がした夏の一枚。
海の家で着替えをして。
扉を出ればそこは白い砂浜。焼けつく海風。引いては返す潮騒の音。透き通った碧海が果てに広がる。
ふあああ。誰もが広がる海に気持ちに息をのみ、湧き上がる期待を押さえつけていた。
「楽しんでおいで」
海の家臨時番頭となったシャーリーン・クリオール(ka0184)がその気持ちに後押しをする。
「海だっ!」
クレール(ka0586)が全力で駆け始める。
「海でござるっ!!」
シオン・アガホ(ka0117)も弾けるように飛び出す。そうだ、湧き上がる興奮を飲んでいられるものか。
みんな一直線に海へ突撃した。
みんな翼が生えたかのように焼けた砂浜の上を飛び跳ねるようにして。浮き輪やバナナボートなどの遊び道具が宙を舞う。
「うみだーーーーーっ!!!」
威勢のいい鬨の声が揃って上がった。
●一時の海辺
「きゃ!? ちーちゃん、つめた……っ」
波打ち際を不思議そうに眺めていたマリエル(ka0116)は突然水をかけられて身を震わせた。熱く火照った体には気持ちいいのだが、胸の隙間やら股の間の僅かな隙間に溜まる水の冷たさがいつまでも残る。
「ふふー、隙あり!!」
上目づかいに睨みつけるマリエルに柏木 千春(ka3061)は悪戯っぽい笑顔で答えた。
「海ではこうやって遊ぶんだよ~。ほーらほら」
「きゃっ、ちょっ。海で遊ぶなんて初めてなんですから、もうちょっと……ひゃあああ」
逃げ回るマリエルの背中に千春が追いかけ回す。が、海水をすくいながら追いかけまわすのは体勢に無理があり、埋もれる足を引き抜けずに派手にコケる千春。
「ああっ、ちーちゃん!」
慌てて振り返るマリエルも。普通の地面と同じように軸足に力を込めて振り返ったために足が埋もれてバランスを崩す。
そして訪れる大きめの波。
「ぷひゃ……!」
「うぷぁ……!」
二人の水死体が波の引いた砂浜に残るばかり。
「ぷ、あは、あはははははっ」
「あはは、おっかしー!」
箸が転がってもおかしいお年頃の二人の笑い声が響く。
「んー、んんんー」
熱く焼けた砂の上で。
菊開 すみれ(ka4196)はオイルを背中に塗ろうとして胸を大きく張って腕を伸ばすが、背中にはなかなか塗りにくい。
「あのぉ、もし良かったら塗ってくれませんかー? どうしても背中は届かないの」
傍を通りかかった三つ編みの男性を『たまたま』見つけて、すみれは身体を反らしたままにヘタレた声をあげた。きょとんとした彼はしばらくすみれの顔を見ていたが、やがて笑顔でそれに応じてくれた。
「ありがとうございます。均等に延ばさないとムラができちゃうんですよ。あ、紐の下もお願いしますね」
日焼けをしたいという気持ちは純粋な心が溢れ出ており、誘っているとか、劣情を催すとか、なんてゆーか××。とかそういう雰囲気は一切ない。
それを知ってか知らずか三つ編みの男も穏やかにほほ笑むと、ゆるゆるとした手つきでオイルを広げていく。
「ありがとうございますっ。うふふ、優しい手つきですね」
すみれは手のひらの動きを感じつつ、軽く鼻歌を歌った。
「ありゃあ、いいねぇ」
パラソルを差した日蔭の中で、すみれを見つめてぼやいたのはエアルドフリス(ka1856)だった。魔術師とは思えない鍛えられた褐色の肌を惜しげもなく晒す濃紺のブーメランパンツ。今回の依頼参加者のみならず、一般人にすら二度見される肢体。
「師匠はああいうのが好きなんだ?」
エアルドフリスと同じく前回の戦いで大怪我を負ったユリアン(ka1664)は師匠の視線の先を見て問いかけた。
「へぇ~。『もし俺を赦してくれるのなら、この後は一緒に居たい』とか言ってくれたのにね? こっちに来たらトドみたいに寝ころんで水着の女の子見始めて?」
ジュード・エアハート(ka0410)だった。ブラウスにサルエルパンツ姿のジュードは海の家で買ってきた焼きそばをもってにこやかに問い直した。ユリアンはジュードを見た瞬間に大怪我した足を引きずってでも逃げ始める。彼も夜の街での『お叱り』を横で聞いていたわけで。もはや一蓮托生。
「フフフ、逃がさないヨー」
「う、うわ……あ、あの、や、優しくしてくれると嬉しいか、な」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)が、ぴるるる。と空気抜きの加減で水鉄砲の先から零れる水を見ながら、ユリアンは引きつるように笑った。アサルトライフルの連射で脚部は穴だらけ。そんなところに海水をかけられたら。考えただけで血の気が引く。
「もちろん、優しくしますよ? 大切な小隊の仲間ですから! でも、また無茶をしないようにお灸を据えるのも大切かなーって」
にたぁ。いや、フレデリク・リンドバーグ(ka2490)はそんな笑いをするはずがない。だが、いつものあの穏やかな、涼やかな口元が今日は邪悪に歪んでいる気がする。フレデリクといえば前の女装依頼でもガムテ脱毛執行者だったわけで。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!!! ……あ、あれ?」
「ユリアンさん、逃げちゃダメですよっ。怪我の部分に砂ついたら化膿しちゃいますからね」
反射動作で悲鳴をあげるユリアンだが、実際ほど痛みがなくてしばし悪戯っ子笑顔のフレデリクの顔と自分の傷口を交互に見て目を白黒させた。
「んふふ。大事な仲間を傷つけるマネするわけないじゃない? 生理食塩水よ。これ♪ 破傷風にかかったら大変でしょ」
葵はウィンクしてそういうと、再びユリアンの顔にぴょるるるるる~と水を吹きかけた。しょっぱいし、水を浴びている気分にもなれる上に、傷にも優しい。
ああ、仲間がいて良かったと思うユリアンだった。
「生理食塩水とは気が利いてるな」
仕返ししてやろうと狙っていたエアルドフリスはふうとため息をついてジュードを懐に受け入れた。
「でしょ。思わず空いた腹の穴から焼きそば食べさせてあげようかとも思ったけど~。それは勘弁してあげるね」
マズい。怒ってる。
エアルドフリスは反射的に腹の傷を抑えて唸った。これで油断したところを隠した水鉄砲で仕返しをすれば和気藹々の遊びムードになれるはずだ。
しかし無情にも、ちるるる~と胸にかかるジュードの水鉄砲。当たった部分がひんやりとする。そしてよく馴れたツンとした香りを伴って、手のひらの下、傷口に垂れていく。
これは、消毒液の香り。ある意味塩水より、よく効く。
●ウォーターフラッグ
さて、海遊びの本日の目玉、ウォーターフラッグには続々と参加者が集まっていた。
「なにか、顔についてる?」
スタート地点でたまたま横になったミーファに向かってザレム・アズール(ka0878)が訊ねた。先ほどから照れ照れして視線を送られているのは知っていた。
「あの、あの。ザレムさんってやっぱり左ですか?」
「左? いや、右だけど……?」
エルフは左利きが標準なのだろうか? ザレムは首を傾げてそう答えると、ミーファの顔がぱっと輝き、矢継ぎ早に言葉を重ねる。
「えっえっ、本当!? そんな風に見えないわ。誘い受け、俺様受けかしらっ。お相手は誰なの」
「ああ、色んな攻撃を受けてきた。……お、おい、大丈夫か!?」
ミーファはザレムの素敵な体験談に白目をむいていた。
「衛生兵、えいせいへーい!」
「代わるがわる誘い受け。で、でゅひひ……」
フラッグが開始前にミーファは撃沈していた。
彼女の頭の中では、今日のこの浜辺で男どもを誘う水の滴るザレムの姿が焼き付いて離れなかった。
「賭けるのは、このお肉ですっ」
ウォーターフラッグに集まった面々の前にフレデリクは高々と、値段の張りそうな霜降り肉を高々と掲げてそう言った。
「あたしがよりをかけて料理するからね」
海の家のエプロンを身に着けたシャーリーンは塩と胡椒の小瓶を空中で回転させてニッと笑った。颯爽たる料理人とはまさに彼女の事だ。
「んー、是非あのお肉はゲットして重体の二人のお肉になるようにしてあげないといけないわネ!」
葵は付け合わせの料理をイメージしながらバーベキュー用に持ち込んだ野菜の検討し始める。
「どっちもがんばるんだよ。それじゃよーい。どんっ!」
シャーリーンによりスタートの合図が上がった。
「さて……」
それとは対照的に、非常にゆっくりとした動作で起き上がったのはレイレリア・リナークシス(ka3872)だ。髪についた砂を払い落としつつ、ゆるりと先行するメンバーを見渡した。
レイレリアはその髪が鴉の翼を思わせる娘に目を付けるとやおら覚醒し、六水晶を掲げた。
「世界に六大あり。大地の晶よ。今顕れて障壁とならんことを」
歌うような詠唱と同時に、まるで滑空するような鴉の翼を思わせる娘の前にアースウォールを突き立てた。突然の地面の変化に相手は壁に足かけ横に駆け抜けるが最初の猛ダッシュのスピードは殺されてしまいあっという間に落ち込んでしまった。その間に何人もが駆け抜けていく。
「まだまだ、ですね」
走ることもせず悠々と砂浜を歩き、先行する兄妹チームに向かってアースウォールを突き立てるレイレリアによって兄妹チームはちょっとばかり混乱をきたしていた。
「きゃあああ、水着がぁぁ」
海に入ってすぐにすみれが悲鳴を上げた。先に塗っていたオイルが滑り材となってしまったのだろうか。肩ひもがずり落ちてしまっていた。
「ふぇぇん」
と涙声をあげるすみれは、オイルを塗ってくれた三つ編みの男にヘルプを叫んだ。
このゲームの参加者といえば、女性が多い。三つ編みの彼はねらい目だったのに。
すみれの下心がばれていたのかどうかは知らないが、彼はすいい~っとこちらに振り向きすらせず泳ぎ去って行った。代わりに飛んでくるのは、彼の相方らしい金髪の娘からの視線。向こうの依頼主の一人であるエルフのエクゼントは多少ドギマギとしている様子はうかがえたが。
うう、まずったかな。
「大変だったな。よし、俺が直してやるぜ!」
おお、やった! 作戦成功!!?
すみれが恥ずかしそうな顔を浮かべて、声の方向を向くとそこにいたのは、キメっきめの笑顔にブーメランパンツ姿で肉体美を強調するヴァイス(ka0364)だった。
「あは、ありがとうございます。でも、フラッグ取らないと、ほ、ほら!」
「フラッグより大切なものがあるだろ。それは君の心だ……」
なんで仲間が釣れちゃワケー!?
「ふふ、こうすれば妨害もなしだよね。旗というお宝は、ざくろが貰ったよ☆」
時音 ざくろ(ka1250)はジェットブーツで浮きあがり海面の上にデニム生地の水着姿で疾走していた。足のブーツから悠々とマテリアルを噴射し、波乗り感覚だ。少々の波や妨害など軽々と飛び越してしまえる。金髪の娘を眼上に収め、フリーハンドバックラーで彼女の視界を防ぐ。
はずだった。
「ひゃああああ!?」
足元を光線が走る。デルタレイだ。ざくろは足元をかすめた瞬間にジェットブーツの威力を高め大きく飛び上がったがデルタレイは空中でも遠慮なく追いかけてくる。反射的に身をよじったのがバランスを崩す結果となってしまった。慌てて大きく飛び上がるが身体はきりもみ回転をしてどこを向いているか自分でもわからない。
「ぬぬ、これはいかんでござる。時音殿、今加勢するでござる!」
シオンは、精神を集中するとやおら両手を組み海面に叩きつけた。
「水ぃぃ流ぅぅぅ破ぁぁぁぁっ!!」
海水がシオンの作った方向に筋となって大きく割り、ざくろを着水の衝撃から守った。水飛沫はそのままデルタレイを放った三つ編みの男目指して追撃を阻止。
更には海を割って進む道を突き進めばフラッグまで歩いて進める! 二人の栄光の道はもうすぐそこ!!
という目論見だったのだが。
誤算1。ざくろは海面があると思って受け身の体勢を取ろうとしていた。
誤算2。フラッグを取ろうとした時には割れた海は元に戻っていた。
結果。
「ごぼぼぼ」
海の大冒険にでかけた二人は藻屑と消えた。
「ここまで来て諦めるなんて絶対ナシだ……!」
ザレムはジェットブーツで軽々と海の上を大きく跳んだ。
「ふぁぁ、見える。ねえ、見てサイア。あの人ね、ああやって誘っているのね!」
下から囁くような双子エルフの囁くような声が聞こえる。
なんか知らないが絶対に誤解されている。一瞬集中力の途切れるが気にしてはいけない。
「もう少し……」
真上からフラッグを掴みとろうとするザレムの前に鴉の黒い影が映った。
「きゃー、あの瞬間に『こいよ』とかって言うのよ!」
ミーファの黄色い声が上がる。
いや、どっちかというと、お前にはやらせない。だけどなぁ。とぼんやり考えたのが不味かった。
「あら、いけませんわぁ。えーい、雷様、しょうかーん!」
チョココ(ka2449)がザレムと鴉の髪の女が旗を取り合う瞬間にライトニングボルトを発射した。
それ、海の中で一番使っちゃいけない奴。
「!!!!?????」
ザレムはぷかりと浮かんでいた。それどころか周りの面々も双子もチョココ本人も死屍累々と海の上に浮かんでいる。
それでもザレムの執念はフラッグを掴んで放さなかった。
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は海の中ほどまでをのんびりと泳ぐと周りの状況をよくよく確認した。そんなエヴァの目の前を霧の魔女が走って行った。
「水の上なら水圧も電撃も関係ないのじゃよ~!」
霧の影から見える青い水着姿の魔女は随分とご機嫌のようだった。
エヴァはにっこり笑うと背中からよいしょっと長柄物をおろし、防水シートにくるんだままそれを肩において狙いを定めた。
ずきゅゅゅゅーーーーん。
「な、な、なんじゃ!?」
突然の銃撃に真っ青になる霧の魔女が振り向くとエヴァは笑って、長柄物ことアサルトライフルに巻き付けていた布を広げた。そこには。
『ドッキリ大成功!』
と書かれていた。
「ふっ、そんなものにひっかかるわけないのじゃ~」
と一笑に伏した時には、エヴァはもうファイアボールを作成しおえていた。
火球の威力で弾ける海。大きくうねる海面。水の上を歩いていた魔女にとってはそれは足場が耐えられないほどに暴れることになるわけで、可愛い悲鳴をあげて魔女は撃沈した。
エヴァはもう一度『ドッキリ大成功』の紙を広げてにっこり笑った。
奢りのお肉はもう目の前だ。
「方程式は見えた! この溢れる生命力が肺活量を示すはず!」
赤髪娘の勢いのすさまじさと言ったら。息継ぎなしで一気に海を行くその姿はチョココのライトニングボルトですら耐え抜き、そのまま一気にフラッグを目指していく。
元気を絵に描いたようなクレールでも競るどころかどんどんと放されていく。
「ふふふ、我に秘策あり!」
クレールはそう言うとマテリアルを解放し、一気に空へと飛びあがった。爆風を放つジェットサンダルで誰よりも空に向かって大きく飛ぶ!
「くーちゃんっ! これで私の勝ちっ!」
赤髪の娘がフラッグに手をかけようとした瞬間、影が彼女を覆った。
太陽を背負ったクレールが空中から舞い降りた。
精霊か!? 天女か!? いや、太陽娘クレールだっ!!!
「あっきゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
クレールはそのまま海面へと激突した。フラッグを取り損ねたあげく、全身をぴったぁぁぁんと叩きつけられたためその場でぷかーっと浮かんでいた。
「とっ、とったぁぁぁぁ!!!」
真面目に泳いでいた赤髪の娘がクレールの真横で勝利の声を上げた。
「残る旗はあと一つ……!」
天竜寺 舞(ka0377)は海の上を『走って』いた。魔術師のように魔法で海面を走るわけでも、機導士のようにマテリアルで飛び上がるわけでもない。超瞬足で海に足が沈む前に次の足を踏みだす。リアルブルーに伝わる超人NINJAも真っ青な水面走行。誰もが疾影士の本気を垣間見た。
「妹に良いとこ見せなきゃ!」
怒ってつもりじゃないんだよ。でもその大胆な水着は男に不埒な感情を想起させるかもしれないって思ったんだ。
舞は障害を飛び越え、電撃で浮かぶ他の参加者の背を踏み台にして海を駆け抜けた。
「お姉ちゃんのこと嫌いにならないでー!!!」
そしてフラッグをげーっと!
「見てたっ!?」
普段のそっけない態度はどこに行ったと言わんばかりにキラキラ輝く目で舞は愛してやまない自分の妹を探した。
「ね、ね。りんご割りってこんな並べ方でいいのかな」
妹はエルフの子とリンゴ割りの準備に忙しそうだった。
あああ。
撃沈。
●楽しいひと時2
「激しい戦いだったね。水しぶきは飛ばなかったかい?」
フラッグは双子チームが勝利し歓声が上がる中、ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)は首を巡らせて後ろにいる恋人セレスティア(ka2691)に声をかけた。
「ありがとう……」
恥ずかしそうな顔をして視線をそらせるセレスティアは、しばし迷った顔をしてそしてラシュディアに向き直った。
「でも、やっぱり、このままじゃいけないと思うの」
「何を言うんだ、セラ。まだ怪我をしている身なんだよ。万が一のことがあったら大変じゃないか。約束は守るって言っただろ?」
「わかってる。でもね、でもね」
セレスティアは赤くなって俯いた。
その視線にはラシュディアの広い背中がすぐ目の前に広がる。そして自分の胸がそれに密着する様子も。
「ずっとこのままはちょっと恥ずかしいの……」
着替えて浜辺についてから、ずーっと。ずーっとおんぶされるのはさすがに気が引けてきたセレスティアだった。
そもそもラシュディアの為に、ちょっと大胆な水着を選定したというのに、最初に見た後はずっと彼の背中に負ぶわれているのだからラシュディアが見て喜んでくれているというわけでもない。
あの苛烈な戦いでは何度もラシュディアの声や姿が脳裏をよぎった。祈ってくれていたのは肌で感じているのだが。
「いいや、悪いものがとりついたら大変だからね」
傷の意味でも、この大胆すぎるセレスティアの色気の意味でも!
腕がプルプルしてきても意地でもおんぶから下ろそうとしないラシュディア。
「もう……」
何とも言えない困った気持ちでセレスティアはラシュディアの首筋に顔を埋めたのであった。
「わ、す、すごいですね……」
クマのぬいぐるみのグレゴリーを抱えたキアーラ(ka5327)は砂像のパルムを見て感心しきりだった。
「うふふ、パルパルがモデルですのよ」
チョココは仲の良いパルムのパルパルを頭に載せて屈託なく笑った。確かにそっくりだ。
「キシシ、負けてらんないよな?」
キアーラがくまのグレゴリーの顔を覗き込むとぬいぐるみはそう喋ったかのようにしてふるふると震えた。
「そんな負けるとか、そんなつもりなんて」
「じゃあ、一緒に作りましょうですわっ」
困った顔をしていたキアーラにチョココは微笑みかけた。
「バーベキューの準備整ったよ~」
シャーリーンがヘラをカンカンと打ち鳴らして遊んでいる仲間達に声をかけると、次々と集まってくる。
「あら、潮の香りもしますね」
レイレリアは鉄板の上で焼かれる海の幸を興味深そうに見つめた。魚は元より、サザエやフジツボ、果てはナマコ。
食べられるの、かしら。
色々試してみたいと思ってはいたが、皿の上に乗っけられたナマコのスライスに少々複雑そうな顔をしていた。
「おお、ナマコまであるなんて通だなっ」
ヴァイスがレイレリアの皿を横から覗き込むと、一ついいかい? と断ってひょいっと口に入れた。美味しそうに食べるヴァイスを見てもやはりレイレリアの表情は胡散臭げだ。それもこれもエヴァのドッキリ大成功の紙が奥に見えるからかもしれない。
どんな味がするのだろうとレイレリアが見つめているとヴァイスは段々顔色が悪くなってくる。
「ほ、ほら。あんたにはこっちの方がお似合いだ」
これを口実にナンパしようと思っていたヴァイスだが、ひたすらじっと見つめられて段々追いつめられるナイーヴハートは耐えきれなくなって、かき氷を差し出して逃げた。
「ありがとうございます……?」
「じ、じゃあ!」
そう言うと、ヴァイスはすぐさま目標を変更し、ざくろに声をかけた。
「よぉ、姉ちゃん! 一緒に食べないか」
「へ?」
しばらくきょとんとし、ざくろは慌てて顔を真っ赤にして否定した。
「ざくろ男、男!」
「何っ!?」
なんか今日は調子悪いぞ!?
そんなヴァイスの後ろからミーファのときめいたため息が漏れる。
「間違いから始まるカラミ。ああ、やっぱり外の世界ってスゴイ!」
「「まって」」
思わずヴァイスとざくろの声がハモる。
「何やってんだ、あれは」
「何って人間関係のもつれじゃない?」
それを見ていたフェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)はサザエをくりぬきながら呟いたところ、ケイ(ka4032)が答えた。
「あれ、なんでお前がいるんだよ」
「それはこっちのセリフ」
口を休めることもなく互いに顔を見合わせる二人。互いがいることを知らなかったのだ。しかし、いる以上は好都合。
「ちょっと口直しが欲しいわね」
ケイが焼きそばをビールで押し込んでそう呟くと、フェイルが例のブツを取り出した。
「冷凍のもあるよ、食べるかい?」
「いいわね」
魚介焼きだの焼きそばだの食べながら例のブツ、マシュマロを口に入れるという人類は世界広しと言えども、二人もいるのが信じられない。
「そういえば、さっきのウォーターフラッグでなんか不思議な感じがしたんだけどさ。既視感っていうやつかな?」
「世界は偶然で満ちている。ああ、世界は素晴らしいことね」
「適当言ってない?」
ケイが魚の串焼きの間にマシュマロ挟んで食べつつ、そう言うのを聞いて、フェイルは眉をしかめた。
しかし、その言葉が遠からず当たっていることをフェイルは知らない。
「オオー、ファンタスティックだネー。海はシラナイ食べ物で溢れてル!」
ねぎまならぬ、『マシュマロま』なる未知の食べ物を見て嬉しそうなアルヴィン。
「確かに知らないもので溢れてますよね! って、わわっ、それどうやって作ったんですか!?」
メロン味のかき氷のカップを頬に当ててひんやりを楽しむフレデリクはアルヴィンのかき氷を見て目を真ん丸にした。
アルヴィンはいちご味のかき氷をスプーンで削ってウサギさんを作りながらにっこり笑った。パーカーもウサギ耳がついていたり水着もウサギさん柄、ウサギさんづくめである。
「まず軽く食べて形を決めるんダ☆ リンリンもやってごらン?」
こくこくと頷いて早速、スプーンでしゃくしゃく削るフレデリク。
「もっと早ク早ク。溶けちゃわないようにネ」
「も、もっとですか。んんんん……んんんんー!!!?」
突如襲い掛かるかき氷頭痛により震えるフレデリク。氷うさぎどころのではない。
アルヴィンはくすくす笑いながら、フレデリクが目をぎゅっと閉じている間に軽くかき氷を成形してあげるのであった。。
「はい、エアさん、あーん」
「あーん」
瀕死に戻したエアルドフリスの口に焼きそばを運ぶジュード。
「はわぁ♪」
ミーファが顔を紅潮しながらそれを見守っていた。それを見たユリアンは少し考えて、バナナボートで視線を遮ってみる。
その横から見ようとするミーファの動きを察知して右へ左へ。覚醒しなくても相手の動きを見抜くくらいは経験でできることだ。
「「あ」」
ミーファがフェイントをかけてもう一度同じ場所から覗き込まれたため、思いっきり至近距離でミーファの顔と鉢合わせする。
潤んだ瞳をみればなんか運命の出会い的な顔をしていることがわかる。解りすぎてコワイ。
「ミーファさん、どうしたの?」
「天竜寺さんっ、と、殿方が盛り上がるってどうなる時でしょうか!?」
問いかけられた舞は、ふっと妹を見た。大胆水着の妹を。
「どうって、ねえ?」
「基本男女の差とかないと思うけどね。自分の気持ちに嘘つかないことが大切なんじゃない?」
カフカ・ブラックウェル(ka0794)はフェレットのヴィーと妹の飼っている犬と遊ばせながらそう答えた。二人とも溺愛する妹がおり、思う気持ちは誰よりも強いという気持ちがあるわけで。
「そうですね!」
二人のアドバイスを受けてミーファはユリアンに向き直った。
「あのっ、ユリアンさんは右と左どっちですか!?」
誰かツッコんでやれ。
「去年はこんなことできなかったし、こうやってのんびりできるのは良かったなー」
クレールはぷかりと浮かんで太陽を眺めていた。
そんな彼女の耳に波とは違うリズムの音が聞こえたのでそのまま起き上がってみると、ウサギさん浮き輪の紐だけ頼りにするアルヴィンが一生懸命にバタ足で泳いでいた。
「アルヴィンさん、泳ぎの練習?」
「ウン、今回は浮き輪ナシで泳げるヨウになったみたイんダ♪」
と言う傍から沈みかけるアルヴィン。
その手をクレールがにぎると、立ち泳ぎの浮沈に合わせてフワフワと腕をふった。波のリズムにあわせてゆらゆら揺れる。
「力入りすぎですよっ。おでこの上の太陽を覗くようにしてみて~」
アルヴィンがあおむけになって空を向けると顔が水面に浮かぶ。
「そうそう。波のリズムに足をユラユラ。お、すごいですっ! ばっちりですよ」
「わァ! これ楽しイ!」
バタ足よりも先に背泳ぎを覚えたアルヴィンは、しばらく一緒に二人で海に身を任せるのを楽しんでいた。
●リンゴ割り
「ちぇすとぉぉぉぉぉっ」
黒ビキニのシオンの一撃は色んな意味で迫力満点だった。大上段からの一撃は4つばかりまとめてリンゴを真っ二つにして転がしただけでなく、土台の砂浜をも真っ二つにする勢いであった。が、コロコロと無傷のリンゴが転がる。
「ああ、そっか。スイカと違って狙いがいくつもあるから全部当てようと思うと、鋭い一撃じゃダメなんだ」
「うぐぐ、やりきったのになんか悔しいでござる……!」
カフカの冷静な分析にシオンは不満げな顔。斬るには剣風で目標を切りつける必殺技、雲耀の剣を体得せねばと胸に秘めるシオン。しかし信じて欲しい。彼女の使った棒はその辺で拾った細い流木なのだ。普通真っ二つにはならない。
「お兄ちゃんっ、勝負だよっ!」
冷静な分析を続けるカフカを挑発するのは双子の妹。
「いいよ、その約束忘れちゃダメだよ」
カフカはシオンから目隠しを受け取ると、できるだけ太い棒を選ぶと、すうと息を吸い込んだ。
香りが位置を教えてくれる。そして叩き込む角度も計算済み。
「でりゃあっ!」
普段の頭脳派とは思えない烈破の声を上げるカフカの一撃は7個のリンゴを吹き飛ばした。
「へぇ、意外と難しいのね。これはちょっと真っ二つにしてみたくなったわ」
ケイも興味津々でフェイルと視線を合わせて頷くと、おもむろに鉄パイプを取り出した。
武器が段々凶悪化してる。
「てぇいっ!」
どがっという鈍い音と共に3個ばかりはじけ飛ぶリンゴを見て、ケイは曇った顔をした。
「難しいわね。あなたもやってみたら? うまくいったらチョコマシュマロあげるわよ」
「もう一撃で決めることは諦めた方がいいみたいだね」
フェイルはマシュマロを口に詰めると目隠しを受け取り、やおらナイフを取り出し、ヒュパパンっ!! と投げ飛ばした。
悲鳴と共に逃げ回る観衆。
「あー、そういうテもあるか」
ケイはそう言うと和弓を取り出し……
みんなに取り押さえられた。
「妹のやつ、うまく切れたよな」
ユリアンは妹からの差し入れを口にしつつ、ぼんやりそんな騒動を眺めていた。
●
「にしても暑いわね。焼けちゃいそう……」
バーベキューの火と太陽の光とでふぅとため息を吐く葵は赤くなりつつあるマリエルや千春の肌を見て不安に駆られた。
「ふあ~、なんかピリピリしてきたね。もう水着の跡がクッキリしてきた……」
「体がこの海での出来事覚えたかも」
記憶を失ったマリエルに新たな思い出を。いっぱい遊んだ楽しさは何物にも代えがたいものだった。肌にもそれがしっかり残ると実感も出てくる。ピリピリも悪いモノじゃ……
「ダメよっ! 今は良くてもシミになっちゃうわっ。それに火傷よ火傷。ヒリヒリして夜も眠れなくなるわよ」
「ひゃっ?」
葵の言葉に千春は驚いて軽く飛び跳ねたが、確かに言う通り段々痛みがひどくなってくる。
「戦いの傷も痛いけど、これも結構イタい」
「どど、どうしたらいいですか。沢城さん!?」
「まず日陰に移動しなきゃ。それから冷やして保湿。あ、いい化粧水あるのよ?」
といっても人の多いこの時間。重体の仲間を日向に押し出すわけにもいかず……。
と、葵は海辺に建物があるのを見つけ、素早くそこに二人を案内した。
「こんなところに建物あったっけ……」
戸惑う3人の目の前に広がる部屋にはパルム、パルム、パルム、パルム、くまのぬいぐるみ。それぞれ違うかき氷を手にしている。
「キキキ、我が城にようこそって感じだよな」
「グレゴリー、ここはみんなのお城なのよ」
キアーラはグレゴリーに語り掛けながら挨拶をした。
「そう、パルムのお家でもあるのですわー。このパルムはかき氷ホルダーにもなっていますの」
共同制作者のチョココは自信満々にそう言った。パルムに囲まれた彼女の姿はまさしくパルムの御使いといえる。
「ところであの肉、霜降りの割には固かったけど、なんの肉だったんだ?」
焼きそばに賞品の肉を入れていたザレムがシャーリーンに問いかけた。牛や羊とは思えない弾力だった。
「ああ、あれ? ゲソだよ。あたし、昨日から準備してたんだけどね。そしたらイカ型の狂気の歪虚が襲ってきたから、撃退したら脚を落としていって」
「まて」
エヴァはのんびりと絵を描いていた。
城に絡みつくゲソ。無数のパルムと共に戦うチョココとグレゴリーが放つ怪光線(機導砲)。
これは傑作になるかも。
そんな予感がした夏の一枚。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/31 00:24:05 |
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夏ダヨ!海ダヨ!全員集合ー! アルヴィン = オールドリッチ(ka2378) エルフ|26才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/07/31 02:10:12 |