ゲスト
(ka0000)
炎天下とカブトムシ
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/02 12:00
- 完成日
- 2015/08/09 21:05
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
戦いが起こると、様々な需要が起きる。
利に聡い商人は、こうした需要に鼻が利く。
何を取り扱うかといえば、いわずもがな、武器弾薬のたぐいだ。
あるいは、薬。あるいは食料。あるいは人足も、ある意味カネになる商材だ。
ナイツ・イザキィタも弾薬をかき集め、北を目指す商人の1人である。
寝る間も惜しみ、疾走した結果、安値で火薬を手に入れることができた。
来るべき情報より早ければ、買い叩けるのだ。
「いいか、問題は安全だ」
火薬を取り扱う商人として独り立ちする前、師匠は繰り返し述べた。
「商隊に組み入れてもらえれば、それにこしたことはない」
だが、それでは速度が出ない。
かといって、
「積み荷を爆破されちまったら、命すら危うい」
野盗がどのような手段で襲ってくるかわからない。
だから、常に必要最低限の護衛を用意する必要がある。
師匠の言葉がいくつも走馬灯のように思い出される。
走馬灯……つまりナイツには危機が迫っていた。
馬車の後方に、うっすらと火が見えたのだ。
「はは、まじかよ」
薄暗い林の中、もうすぐ抜けきるというところ。
冗談にしては上出来な、バケモノが姿を現した。
いわゆるカブトムシってやつだ。
ただし、そいつらは大型犬ぐらいの大きさだった。
虫っていうには、あまりにも大きすぎるってもんだ。
「××××っ!」
思わず、意地汚い言葉が口から飛び出す。
そうさ、俺はこいつを知っている。歪虚だろ?
なんせ、このカブトムシは角から炎を散らしてやがった。
幸い馬車に届くほどの射程はないらしい。燃え広がることもない。
不幸中の幸い? とんでもない、追いつかれたら終わりだ。
しかも、複数匹が群れていやがるんだから、始末が悪い。
「止まるわけにもいかねぇ、頼んだぜ」
このために、俺はハンターを雇っていた。
利益が取れるぎりぎりの人数だが、仕方がない。
仕事があれば、報酬も上がってしまうが、仕方がない。
「火薬と心中するつもりはねぇんだ」
あいにくな、と皮肉を込めて苦笑する。
まだ、そんな余裕が有るのかと自分でも驚きだ。
だが、それはハンターの力を信頼しているからに他ならない。
「さて、頼みましたぜ。先生方?」
あえて、そう呼びかけてハンターが馬車から降り立つのを見送った。
前を向き、まずは林を抜け切るしかない。
「いくぜぇ!」と気合を入れるナイツであった。
利に聡い商人は、こうした需要に鼻が利く。
何を取り扱うかといえば、いわずもがな、武器弾薬のたぐいだ。
あるいは、薬。あるいは食料。あるいは人足も、ある意味カネになる商材だ。
ナイツ・イザキィタも弾薬をかき集め、北を目指す商人の1人である。
寝る間も惜しみ、疾走した結果、安値で火薬を手に入れることができた。
来るべき情報より早ければ、買い叩けるのだ。
「いいか、問題は安全だ」
火薬を取り扱う商人として独り立ちする前、師匠は繰り返し述べた。
「商隊に組み入れてもらえれば、それにこしたことはない」
だが、それでは速度が出ない。
かといって、
「積み荷を爆破されちまったら、命すら危うい」
野盗がどのような手段で襲ってくるかわからない。
だから、常に必要最低限の護衛を用意する必要がある。
師匠の言葉がいくつも走馬灯のように思い出される。
走馬灯……つまりナイツには危機が迫っていた。
馬車の後方に、うっすらと火が見えたのだ。
「はは、まじかよ」
薄暗い林の中、もうすぐ抜けきるというところ。
冗談にしては上出来な、バケモノが姿を現した。
いわゆるカブトムシってやつだ。
ただし、そいつらは大型犬ぐらいの大きさだった。
虫っていうには、あまりにも大きすぎるってもんだ。
「××××っ!」
思わず、意地汚い言葉が口から飛び出す。
そうさ、俺はこいつを知っている。歪虚だろ?
なんせ、このカブトムシは角から炎を散らしてやがった。
幸い馬車に届くほどの射程はないらしい。燃え広がることもない。
不幸中の幸い? とんでもない、追いつかれたら終わりだ。
しかも、複数匹が群れていやがるんだから、始末が悪い。
「止まるわけにもいかねぇ、頼んだぜ」
このために、俺はハンターを雇っていた。
利益が取れるぎりぎりの人数だが、仕方がない。
仕事があれば、報酬も上がってしまうが、仕方がない。
「火薬と心中するつもりはねぇんだ」
あいにくな、と皮肉を込めて苦笑する。
まだ、そんな余裕が有るのかと自分でも驚きだ。
だが、それはハンターの力を信頼しているからに他ならない。
「さて、頼みましたぜ。先生方?」
あえて、そう呼びかけてハンターが馬車から降り立つのを見送った。
前を向き、まずは林を抜け切るしかない。
「いくぜぇ!」と気合を入れるナイツであった。
リプレイ本文
●
乱雑に木々が立ち並ぶ薄暗い中、熱気が肌を撫で付ける。
この汗は気温に寄るものか、それともバケモノを背にした冷や汗か。
「本当に頼みますぜ……」
行商人ナイツは、数十秒前のことを思い出し薄く笑う。
「俺達が足止めして倒すから、ナイツさんは林の外を目指してくれ」
「頼みますぜ、先生方」
「そういうのはカタが付いてから言ってくれ」
ザレム・アズール(ka0878)はナイツの言葉を軽く笑い流す。
「転倒しないように、急ぐけれど慎重にな」
それだけ忠告するとさっそうと馬車からザレムは降りていった。
続けて柊 真司(ka0705)は魔導短伝話をさっとナイツに手渡す。
「片付いたら連絡するから、できたら拾ってくれよ」
そう言い残して、馬車を降りていく背中を見送り、ナイツはスピードを上げた。
「来るなって話してるときはだいたい来るんだよなぁ」
ぼやくのは藤堂研司(ka0569)だ。
野盗か、と降りてきたのだが。敵を見て眉間にしわを寄せた。
「なにあれ……カブトムシ?」
「これは随分と……面妖なカブトムシだな」
研司の発言を受けてクローディオ・シャール(ka0030)は静かに言い放つ。
そして身長の半分はあろう盾を地面に立てた。まだ遠くに見えるのは、カブトムシの群れ、普通と異なるのはデカく炎をまき散らしていたことだ。
「やれやれ、まさか火を飛ばすデカイカブトムシが襲ってくるとは思わなかったぜ」
呆れたように真司が言ってのける。
「ふむ。どんな敵であれ、受けた仕事は報酬分働かせて貰おう」
同じく敵を見据えながら扼城(ka2836)がクローディオの隣で大剣を構える。敵の姿を見て扼城は一層剣を握る手に力を込めた。
同意見だ、と真司とクローディオは口にした。
積み荷の内容は、火薬や弾薬。
「前線で物資が枯渇したら大変なことになる」
火薬の重要性を知るアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、雑魔を静かに睨めつける。
カブトムシとの接触に寄って起こりうる悲劇は、前線の窮地に連座するものだ。
「こんなところで雑魔相手になくなってしまうのは惜しい」
「あぁ。積み荷に引火したら吹っ飛んじまうからとっとと馬車を逃さないとな!」
「蜂蜜を少し木に塗ってみた。これで誘われるといいが」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が魔導バイクに乗りながら告げる。しかし、カブトムシたちがその匂いに釣られている様子はない。
「やっぱりこっちが好みか?」
エヴァンスの手には少量の火薬があった。ナイツに頼んで分けてもらった火薬だ。
「もしもってことがあるからよ」
ナイツは「もしものこと」にピンときていなかった。
真司はなんとなく察しつつ、
「しかし何であの馬車を襲ってきたんだろうな。荷台にはほとんど火薬しか積んでねぇっていうのに、火薬でも食うつもりかよ」
「あたし氏、火薬のにおい好きなのでこいつらの気持ちはよくわかる。のか?」
疑問形で結んだのは、雪村 練(ka3808)。
ふんふんと辺りを見渡しながら、なるほど、と納得の仕草を見せた。
「夏といえば昆虫採集! ってのは、もう古いっぽい? 残酷だとかどうとか以前に、最近は虫が嫌いだとか、雑木林がないとか、そんな時代だよなー」
意外と社会派だった。
「ところであたし氏は成虫は平気だけど幼虫が苦手派。あのサイズの幼虫とかSAN減るー」
「それは見たくもないね」と想像が頭をよぎり、アルトが頭を振った。
会話をしている間に、エヴァンスがバイクのエンジンをいれた。
「それじゃ行ってくるか」
これを合図に全員の空気が変わった。
●
「っしゃ来いやカブトムシもどき共! 全員開きにしてやるぜ!」
近づいてくるエヴァンスに先頭を行くカブトムシが機敏に反応した。
彼の持つ火薬の場所をめがけて突進を仕掛けてきたのだ。角は熱を帯び、赤く光る。
誤って魔導バイクに当たるだけでも、何かが起こりそうだ。
「敏感過ぎるだろっ!」
予想以上の反応に慌てて、突進をかわす。
他のカブトムシはあれはお前の獲物だといわんばかりに、エヴァンスを無視していく。
急接近してくるカブトムシに、研司は気合を入れてアサルトライフルを構える。
「体張って通せんぼだ! 伊達にでかい身体してるわけじゃねぇ!」
狙うのはエヴァンスを無視して近づくカブトムシ。
「まだ距離はある。制圧射撃だ、止まれ虫ケラども!」
弾倉を空にしながら面でカブトムシを落としにかかる……が、巨大な身体に似合わぬ回避をみせてその弾幕を抜けられる。
「来る前に……」
ザレムは研司より前へとバイクで出ると、ロープを木に回した。
近づいた瞬間に、ぴんと張ることで罠にかける算段だ。
「メイン移動で前に出てくだち」
等と述べながら、練ものそりと動く。軽く前に出てから光の三角形を作り出しそれぞれの頂点から、光の筋を発する。三体の背を光はかすめていく。
「さてさて」
状況を把握すべく練はぬーっと上体を起こす。もとはどんな体勢なのか、聞かぬが花だ。
攻撃を受けたカブトムシは、懲りずに猛進していた。
現状、エヴァンスが先行して一匹にまとわりつかれていた。
続いてザレムが罠を張り、その側に練が構える。
ザレムたちとほぼ同列に扼城とクローディオが戦線を形成する。
「苦手なわけじゃないけど、好きじゃないんだよな、銃」
そういいながら狙いをつけるアルトは、ザレムたちより後方にいる。
絞った的はカブトムシの角、よくて頭から背中の羽だ。しかし、放たれた弾丸は空に消えた。
「ぶれるな。止まってくれないものか」
手応えのない感じに小さく息をつく。視界の端では真司が木の上部へ、マテリアルを噴射して移動していた。
狙撃手のような位置取りから真司はカブトムシを見下ろす。
クローディオの持つランタンが、薄暗い林で光源として目立っていた。
だが、走光性はないらしくカブトムシの動きはまばらだ。
「出番だな」
クローディオはフルートを取り出すと、静かな鎮魂歌のような旋律を奏でる。
カブトムシの羽音に紛れてその音は響く。歪虚を含めた正しからざる生命の動きを阻害する響だ。
「さて……っと」
やや動きが緩んだように見えた、そこを狙って扼城が踏み込む。
振り下ろされた一撃は奇しくもカブトムシの角にいなされ、空を切る。
「流石に硬いか……」
手に痺れを感じつつも、鬱陶しそうに払われた角をかわす。再び構えなおしてクローディオに目配せをする。自身の羽音で阻害したのか、実際に行動が乱れたのは一体だけだ。
向かってくるカブトムシに対してクローディオは盾をまっすぐに構えていた。
「む」
突進してくるものと思ったがカブトムシは角の先から炎を飛ばしてきた。
盾で防ぎつつ様子を見、進路を塞ぐように移動する。
他のカブトムシも同様に炎弾をまき散らす。
「ちくしょう撃ってきやがった! なんでカブトムシが火を噴くんだ! 暑いからか!」
射程には入っていなが、たまらず研司が叫びを上げる。
夏の虫なら凍え死ね、といわんばかりに冷気を纏った弾丸を放つ。
「えぇいこちとら心はいつでも虫取り少年! やったらぁ!」
「取るんじゃなくて、倒すんだ」
アルトも的を絞りながら銃を打つ。固い装甲、脚、角……狙いすました一撃を狙う。
しかし、カブトムシの動きは予想以上に早い。
「試し切る前に追いつかれるな」
それを阻むように立ちふさがるのが、ザレムだ。
まずは複数匹を巻き込めるタイミングで、扇状に炎の力を纏った破壊エネルギーを放つ。かわしきれず、飛んで火に入る夏の虫という具合である。
しかし、
「効果は薄いか……」
炎を操っていることから予感はあった。多少のダメージは与えているようだが一撃というには、いささか手応えが弱い。
攻撃をくぐり抜け向かってくるカブトムシへ、タイミングを見計らってザレムはロープをぴんと張る。先頭を切っていたカブトムシが一匹、見事に引っかかった。
角を起点にぐるりと反転、羽根を地面につけてけたたましく砂埃をまき散らす。カブトムシそのものの腹から数本の脚が伸びている。
普通のカブトムシと変わらないな、と思いつつ銃口を向けた所で衝撃を受けた。
他のカブトムシが飛び込んできたのである。避けるのは間に合わず、かろうじて受けるが痛手を負った。
「……っ」
転倒を免れると突撃したカブトムシを無視して転げている方へ向かう。
一匹ずつ確実に仕留めなければ……とやわらかな腹へ向けて連射する。
ザレムの罠をくぐり抜けたカブトムシは二匹。
そのうちの一匹を真司は撃ち貫く。弾丸は薄羽の一枚を破損させ、カブトムシの飛行バランスを崩した。落ちかけの紙飛行機のようなカブトムシへ、続けざまに研司が狙いをつけた。
「寒かろう! カブトムシは越冬不可!」
弾丸はカブトムシの頭部に当たり、冷気で動きを鈍らせる。
そこに奇妙な物体が接近した。まるで某怪獣のような動きで迫ってくる、練だ。
カブトムシの後ろへ滑り込むと、機導剣を発動。光の刃が貫いて、消えた。
「でも君たち知ってる? 虫って腹がなくなってもけっこー生きてんだぜー」
その言葉通り、カブトムシはふらふらと飛んで行く。
「まあ後部装甲はなくなるから」、あとは内側の破壊を狙う感じでよろ……って、ありゃりゃ」
どうやら練の攻撃はトドメとなっていたらしい。ぐしゃっという音が聞こえそうな落ち方で、カブトムシは地面へと墜落した。一度だけぴくりと脚が動くが、それきりだ。
一方、最前線でカブトムシに付きまとわれていたエヴァンスは、並走気味になっていた。
「しぶといな。しつこいとメスに嫌われるぜ?」
互いの攻撃が空振り続きで当たらない。
壁役を担おうにもまとわりつかれては、難しい。他のメンバーと離れすぎないよう距離を調整していた。
「っと、あぶねぇな!」
放たれた炎弾をアクセルを踏み切って逃れる。勢いをそのままに、カブトムシの角めがけて横薙ぎに両手剣を振るう。ガツンとした感触が手に乗った。
さすがに一撃で折れるほどヤワじゃない。
しかし、力強い剣撃によってカブトムシの動きが一瞬止まった。今度は炎弾を真正面から受け流して突撃する。
風を裂くような音を奏で、上段から振り下ろされた刃が傷ついた角にヒビを入れた。さらに力を込めれば、ヒビは広がりを見せ角が砕けた。
刃は止まらない。
カブトムシの外殻を切り崩し、真っ二つに切り分けた。
「よし、まずは一匹……あぶねぇ!」
あわや木にぶつかりかけたところで、ハンドルを切る。
バイクを反転させ次なる相手へと全速力で、エヴァンスは走るのだった。
●
二匹を食い止めるのが、クローディオと扼城。
クローディオがレクイエムを奏で、活動が阻害されたカブトムシを扼城が狙う。
「さて、眼ならどうだ……!」
横薙ぎに払われた刃が、カブトムシの目へと吸い込まれようとした。だが、すんでのところで切っ先が羽根の外殻に当たる。
乱れた動きによって軌道がずれたのだ。
さらに強く踏み込み、そのまま片羽を切り落とす。乱れた動きのままクローディオへと向かうが、盾を用いて押し返す。
「どんなに外殻が硬くとも、内側はそうはいかないだろう」
掬い上げるように盾を動かし、カブトムシをひっくり返す。うまく力をいなした形だ。
もう一体は少し前に転ばした状態から復帰しきれていない。
やわらかな腹をめがけて扼城は踏み込み、刃を突き入れる。
「よし……これでどうだ」
剣を引き抜けば、地面へ落ちる。だが、とどめには至っていない。再び飛ぼうとした所で、もう片方の羽根が撃ち飛ばされた。
「火薬はやれねぇが代わりに鉛玉をくれてやるぜ」
撃ち落としたのは真司だ。
全体を見渡しつつ確実に援護をしていく。
両の羽根から外殻を奪われたカブトムシは、扼城の一撃に前後真っ二つに切り分けられた。当然、そこから長くは生きられない。
炎を辞世の句に扼城へ浴びせるのが手一杯だった。
「あっちは……ん?」
一瞬、何が起こっているかわからなかった。
藤堂研司が寝そべっていたのである。
ことは少し前に遡る。
研司たちの最終防衛ラインまで辿り着いたのは一匹。
接近まで残り僅か。研司は、角でひっくり返されるビジョンを描いていた。幸い、ここまで誰も転倒はしていないものの、危うい場面を目撃したからだ。
だからこそ、研司は逆に考えた。
「あえてこっちから体勢保って倒れてやる!」
銃からチャクラムに持ち替えながら、地面へ寝転がる。
その状態からマテリアルを視力と感覚に集中させた。これによって、転げた状態でも狙い澄ますことが出来る。
冷気を帯びたチャクラムを投げ、研司は敵が通過する瞬間を待つ。
が、そこに飛来したのは炎弾だけだった。
「何をやっているんだ?」
アルトが飛び込んできていた。言外に理解に苦しむ行動だ、と寓意を込めてそう告げる。
カブトムシは激突の寸前でハンドルを切っていた。
「やっぱりこっちの方がしっくり来るな」
アルトもまた得物を銃から振動刀へと切り替えていた。到達までに浴びせた傷跡を見つつ、素早く二撃を叩き込む。
起き上がった研司が援護するようにチャクラムを放つ。その間に、全力でかっ飛ばしてきたエヴァンスも合流する。
「ムラサメブレイド、アクティブ。超重光刃閃ってな」
真司も木から降り、前へ出る。
勝負は火を見るより明らかだ。
ザレムは罠にかかり弾丸を受け、なおも蠢くカブトムシにデルタレイを放っていた。同様に練も同じ相手に向けてデルタレイを放つ。
複数の光の攻撃が、カブトムシの羽根に大穴を空け角をへし折った。
腹はすでにボロボロ。討たれるのは必定である。
「これで最後だな」
カブトをなくせば、ただの蟲だ。
燃え盛る剣で中心を突き刺し、内側から焼き焦がす。実際、炎が効いているのかはわからぬが、羽根は力なくへたれ、手足の動きは止まる。
引き抜くと同時に、カブトムシの体はもろくも崩壊するのだった。
「消えるのだな……硬い装甲が防具の材料に使えるのではと思ったんだが」
残念そうにザレムは呟くのであった。
「あたし氏、みっしょんこんぷりーと」
「戦地へ届けるまでは、終わりじゃないよ」
どこかへVサインを送る練にアルトが告げる。
カブトムシは倒れたが、これから何が出てくるのかわからない。勝って兜の緒を締めよ、というものである。
「ヤクシロ、あのときの動きなのだが」
「何かな、クローディオ君」
クローディオと扼城は互いの連携について、詰めていく。
次の戦いに向けてよりいっそうの磨きをかけるためだ。
「お、呼んだか」
エヴァンスと研司は、戻ってくる馬車を見ていた。
真司が連絡を取り、拾いに来てくれたのだ。
その後、ナイツは無事に火薬を卸すことができた。
王国で何が起ころうとしているのか。
ハンターたちの戦いは続くのである。
乱雑に木々が立ち並ぶ薄暗い中、熱気が肌を撫で付ける。
この汗は気温に寄るものか、それともバケモノを背にした冷や汗か。
「本当に頼みますぜ……」
行商人ナイツは、数十秒前のことを思い出し薄く笑う。
「俺達が足止めして倒すから、ナイツさんは林の外を目指してくれ」
「頼みますぜ、先生方」
「そういうのはカタが付いてから言ってくれ」
ザレム・アズール(ka0878)はナイツの言葉を軽く笑い流す。
「転倒しないように、急ぐけれど慎重にな」
それだけ忠告するとさっそうと馬車からザレムは降りていった。
続けて柊 真司(ka0705)は魔導短伝話をさっとナイツに手渡す。
「片付いたら連絡するから、できたら拾ってくれよ」
そう言い残して、馬車を降りていく背中を見送り、ナイツはスピードを上げた。
「来るなって話してるときはだいたい来るんだよなぁ」
ぼやくのは藤堂研司(ka0569)だ。
野盗か、と降りてきたのだが。敵を見て眉間にしわを寄せた。
「なにあれ……カブトムシ?」
「これは随分と……面妖なカブトムシだな」
研司の発言を受けてクローディオ・シャール(ka0030)は静かに言い放つ。
そして身長の半分はあろう盾を地面に立てた。まだ遠くに見えるのは、カブトムシの群れ、普通と異なるのはデカく炎をまき散らしていたことだ。
「やれやれ、まさか火を飛ばすデカイカブトムシが襲ってくるとは思わなかったぜ」
呆れたように真司が言ってのける。
「ふむ。どんな敵であれ、受けた仕事は報酬分働かせて貰おう」
同じく敵を見据えながら扼城(ka2836)がクローディオの隣で大剣を構える。敵の姿を見て扼城は一層剣を握る手に力を込めた。
同意見だ、と真司とクローディオは口にした。
積み荷の内容は、火薬や弾薬。
「前線で物資が枯渇したら大変なことになる」
火薬の重要性を知るアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、雑魔を静かに睨めつける。
カブトムシとの接触に寄って起こりうる悲劇は、前線の窮地に連座するものだ。
「こんなところで雑魔相手になくなってしまうのは惜しい」
「あぁ。積み荷に引火したら吹っ飛んじまうからとっとと馬車を逃さないとな!」
「蜂蜜を少し木に塗ってみた。これで誘われるといいが」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が魔導バイクに乗りながら告げる。しかし、カブトムシたちがその匂いに釣られている様子はない。
「やっぱりこっちが好みか?」
エヴァンスの手には少量の火薬があった。ナイツに頼んで分けてもらった火薬だ。
「もしもってことがあるからよ」
ナイツは「もしものこと」にピンときていなかった。
真司はなんとなく察しつつ、
「しかし何であの馬車を襲ってきたんだろうな。荷台にはほとんど火薬しか積んでねぇっていうのに、火薬でも食うつもりかよ」
「あたし氏、火薬のにおい好きなのでこいつらの気持ちはよくわかる。のか?」
疑問形で結んだのは、雪村 練(ka3808)。
ふんふんと辺りを見渡しながら、なるほど、と納得の仕草を見せた。
「夏といえば昆虫採集! ってのは、もう古いっぽい? 残酷だとかどうとか以前に、最近は虫が嫌いだとか、雑木林がないとか、そんな時代だよなー」
意外と社会派だった。
「ところであたし氏は成虫は平気だけど幼虫が苦手派。あのサイズの幼虫とかSAN減るー」
「それは見たくもないね」と想像が頭をよぎり、アルトが頭を振った。
会話をしている間に、エヴァンスがバイクのエンジンをいれた。
「それじゃ行ってくるか」
これを合図に全員の空気が変わった。
●
「っしゃ来いやカブトムシもどき共! 全員開きにしてやるぜ!」
近づいてくるエヴァンスに先頭を行くカブトムシが機敏に反応した。
彼の持つ火薬の場所をめがけて突進を仕掛けてきたのだ。角は熱を帯び、赤く光る。
誤って魔導バイクに当たるだけでも、何かが起こりそうだ。
「敏感過ぎるだろっ!」
予想以上の反応に慌てて、突進をかわす。
他のカブトムシはあれはお前の獲物だといわんばかりに、エヴァンスを無視していく。
急接近してくるカブトムシに、研司は気合を入れてアサルトライフルを構える。
「体張って通せんぼだ! 伊達にでかい身体してるわけじゃねぇ!」
狙うのはエヴァンスを無視して近づくカブトムシ。
「まだ距離はある。制圧射撃だ、止まれ虫ケラども!」
弾倉を空にしながら面でカブトムシを落としにかかる……が、巨大な身体に似合わぬ回避をみせてその弾幕を抜けられる。
「来る前に……」
ザレムは研司より前へとバイクで出ると、ロープを木に回した。
近づいた瞬間に、ぴんと張ることで罠にかける算段だ。
「メイン移動で前に出てくだち」
等と述べながら、練ものそりと動く。軽く前に出てから光の三角形を作り出しそれぞれの頂点から、光の筋を発する。三体の背を光はかすめていく。
「さてさて」
状況を把握すべく練はぬーっと上体を起こす。もとはどんな体勢なのか、聞かぬが花だ。
攻撃を受けたカブトムシは、懲りずに猛進していた。
現状、エヴァンスが先行して一匹にまとわりつかれていた。
続いてザレムが罠を張り、その側に練が構える。
ザレムたちとほぼ同列に扼城とクローディオが戦線を形成する。
「苦手なわけじゃないけど、好きじゃないんだよな、銃」
そういいながら狙いをつけるアルトは、ザレムたちより後方にいる。
絞った的はカブトムシの角、よくて頭から背中の羽だ。しかし、放たれた弾丸は空に消えた。
「ぶれるな。止まってくれないものか」
手応えのない感じに小さく息をつく。視界の端では真司が木の上部へ、マテリアルを噴射して移動していた。
狙撃手のような位置取りから真司はカブトムシを見下ろす。
クローディオの持つランタンが、薄暗い林で光源として目立っていた。
だが、走光性はないらしくカブトムシの動きはまばらだ。
「出番だな」
クローディオはフルートを取り出すと、静かな鎮魂歌のような旋律を奏でる。
カブトムシの羽音に紛れてその音は響く。歪虚を含めた正しからざる生命の動きを阻害する響だ。
「さて……っと」
やや動きが緩んだように見えた、そこを狙って扼城が踏み込む。
振り下ろされた一撃は奇しくもカブトムシの角にいなされ、空を切る。
「流石に硬いか……」
手に痺れを感じつつも、鬱陶しそうに払われた角をかわす。再び構えなおしてクローディオに目配せをする。自身の羽音で阻害したのか、実際に行動が乱れたのは一体だけだ。
向かってくるカブトムシに対してクローディオは盾をまっすぐに構えていた。
「む」
突進してくるものと思ったがカブトムシは角の先から炎を飛ばしてきた。
盾で防ぎつつ様子を見、進路を塞ぐように移動する。
他のカブトムシも同様に炎弾をまき散らす。
「ちくしょう撃ってきやがった! なんでカブトムシが火を噴くんだ! 暑いからか!」
射程には入っていなが、たまらず研司が叫びを上げる。
夏の虫なら凍え死ね、といわんばかりに冷気を纏った弾丸を放つ。
「えぇいこちとら心はいつでも虫取り少年! やったらぁ!」
「取るんじゃなくて、倒すんだ」
アルトも的を絞りながら銃を打つ。固い装甲、脚、角……狙いすました一撃を狙う。
しかし、カブトムシの動きは予想以上に早い。
「試し切る前に追いつかれるな」
それを阻むように立ちふさがるのが、ザレムだ。
まずは複数匹を巻き込めるタイミングで、扇状に炎の力を纏った破壊エネルギーを放つ。かわしきれず、飛んで火に入る夏の虫という具合である。
しかし、
「効果は薄いか……」
炎を操っていることから予感はあった。多少のダメージは与えているようだが一撃というには、いささか手応えが弱い。
攻撃をくぐり抜け向かってくるカブトムシへ、タイミングを見計らってザレムはロープをぴんと張る。先頭を切っていたカブトムシが一匹、見事に引っかかった。
角を起点にぐるりと反転、羽根を地面につけてけたたましく砂埃をまき散らす。カブトムシそのものの腹から数本の脚が伸びている。
普通のカブトムシと変わらないな、と思いつつ銃口を向けた所で衝撃を受けた。
他のカブトムシが飛び込んできたのである。避けるのは間に合わず、かろうじて受けるが痛手を負った。
「……っ」
転倒を免れると突撃したカブトムシを無視して転げている方へ向かう。
一匹ずつ確実に仕留めなければ……とやわらかな腹へ向けて連射する。
ザレムの罠をくぐり抜けたカブトムシは二匹。
そのうちの一匹を真司は撃ち貫く。弾丸は薄羽の一枚を破損させ、カブトムシの飛行バランスを崩した。落ちかけの紙飛行機のようなカブトムシへ、続けざまに研司が狙いをつけた。
「寒かろう! カブトムシは越冬不可!」
弾丸はカブトムシの頭部に当たり、冷気で動きを鈍らせる。
そこに奇妙な物体が接近した。まるで某怪獣のような動きで迫ってくる、練だ。
カブトムシの後ろへ滑り込むと、機導剣を発動。光の刃が貫いて、消えた。
「でも君たち知ってる? 虫って腹がなくなってもけっこー生きてんだぜー」
その言葉通り、カブトムシはふらふらと飛んで行く。
「まあ後部装甲はなくなるから」、あとは内側の破壊を狙う感じでよろ……って、ありゃりゃ」
どうやら練の攻撃はトドメとなっていたらしい。ぐしゃっという音が聞こえそうな落ち方で、カブトムシは地面へと墜落した。一度だけぴくりと脚が動くが、それきりだ。
一方、最前線でカブトムシに付きまとわれていたエヴァンスは、並走気味になっていた。
「しぶといな。しつこいとメスに嫌われるぜ?」
互いの攻撃が空振り続きで当たらない。
壁役を担おうにもまとわりつかれては、難しい。他のメンバーと離れすぎないよう距離を調整していた。
「っと、あぶねぇな!」
放たれた炎弾をアクセルを踏み切って逃れる。勢いをそのままに、カブトムシの角めがけて横薙ぎに両手剣を振るう。ガツンとした感触が手に乗った。
さすがに一撃で折れるほどヤワじゃない。
しかし、力強い剣撃によってカブトムシの動きが一瞬止まった。今度は炎弾を真正面から受け流して突撃する。
風を裂くような音を奏で、上段から振り下ろされた刃が傷ついた角にヒビを入れた。さらに力を込めれば、ヒビは広がりを見せ角が砕けた。
刃は止まらない。
カブトムシの外殻を切り崩し、真っ二つに切り分けた。
「よし、まずは一匹……あぶねぇ!」
あわや木にぶつかりかけたところで、ハンドルを切る。
バイクを反転させ次なる相手へと全速力で、エヴァンスは走るのだった。
●
二匹を食い止めるのが、クローディオと扼城。
クローディオがレクイエムを奏で、活動が阻害されたカブトムシを扼城が狙う。
「さて、眼ならどうだ……!」
横薙ぎに払われた刃が、カブトムシの目へと吸い込まれようとした。だが、すんでのところで切っ先が羽根の外殻に当たる。
乱れた動きによって軌道がずれたのだ。
さらに強く踏み込み、そのまま片羽を切り落とす。乱れた動きのままクローディオへと向かうが、盾を用いて押し返す。
「どんなに外殻が硬くとも、内側はそうはいかないだろう」
掬い上げるように盾を動かし、カブトムシをひっくり返す。うまく力をいなした形だ。
もう一体は少し前に転ばした状態から復帰しきれていない。
やわらかな腹をめがけて扼城は踏み込み、刃を突き入れる。
「よし……これでどうだ」
剣を引き抜けば、地面へ落ちる。だが、とどめには至っていない。再び飛ぼうとした所で、もう片方の羽根が撃ち飛ばされた。
「火薬はやれねぇが代わりに鉛玉をくれてやるぜ」
撃ち落としたのは真司だ。
全体を見渡しつつ確実に援護をしていく。
両の羽根から外殻を奪われたカブトムシは、扼城の一撃に前後真っ二つに切り分けられた。当然、そこから長くは生きられない。
炎を辞世の句に扼城へ浴びせるのが手一杯だった。
「あっちは……ん?」
一瞬、何が起こっているかわからなかった。
藤堂研司が寝そべっていたのである。
ことは少し前に遡る。
研司たちの最終防衛ラインまで辿り着いたのは一匹。
接近まで残り僅か。研司は、角でひっくり返されるビジョンを描いていた。幸い、ここまで誰も転倒はしていないものの、危うい場面を目撃したからだ。
だからこそ、研司は逆に考えた。
「あえてこっちから体勢保って倒れてやる!」
銃からチャクラムに持ち替えながら、地面へ寝転がる。
その状態からマテリアルを視力と感覚に集中させた。これによって、転げた状態でも狙い澄ますことが出来る。
冷気を帯びたチャクラムを投げ、研司は敵が通過する瞬間を待つ。
が、そこに飛来したのは炎弾だけだった。
「何をやっているんだ?」
アルトが飛び込んできていた。言外に理解に苦しむ行動だ、と寓意を込めてそう告げる。
カブトムシは激突の寸前でハンドルを切っていた。
「やっぱりこっちの方がしっくり来るな」
アルトもまた得物を銃から振動刀へと切り替えていた。到達までに浴びせた傷跡を見つつ、素早く二撃を叩き込む。
起き上がった研司が援護するようにチャクラムを放つ。その間に、全力でかっ飛ばしてきたエヴァンスも合流する。
「ムラサメブレイド、アクティブ。超重光刃閃ってな」
真司も木から降り、前へ出る。
勝負は火を見るより明らかだ。
ザレムは罠にかかり弾丸を受け、なおも蠢くカブトムシにデルタレイを放っていた。同様に練も同じ相手に向けてデルタレイを放つ。
複数の光の攻撃が、カブトムシの羽根に大穴を空け角をへし折った。
腹はすでにボロボロ。討たれるのは必定である。
「これで最後だな」
カブトをなくせば、ただの蟲だ。
燃え盛る剣で中心を突き刺し、内側から焼き焦がす。実際、炎が効いているのかはわからぬが、羽根は力なくへたれ、手足の動きは止まる。
引き抜くと同時に、カブトムシの体はもろくも崩壊するのだった。
「消えるのだな……硬い装甲が防具の材料に使えるのではと思ったんだが」
残念そうにザレムは呟くのであった。
「あたし氏、みっしょんこんぷりーと」
「戦地へ届けるまでは、終わりじゃないよ」
どこかへVサインを送る練にアルトが告げる。
カブトムシは倒れたが、これから何が出てくるのかわからない。勝って兜の緒を締めよ、というものである。
「ヤクシロ、あのときの動きなのだが」
「何かな、クローディオ君」
クローディオと扼城は互いの連携について、詰めていく。
次の戦いに向けてよりいっそうの磨きをかけるためだ。
「お、呼んだか」
エヴァンスと研司は、戻ってくる馬車を見ていた。
真司が連絡を取り、拾いに来てくれたのだ。
その後、ナイツは無事に火薬を卸すことができた。
王国で何が起ころうとしているのか。
ハンターたちの戦いは続くのである。
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カブトムシ狩りの計画立てるよ! 雪村 練(ka3808) 人間(リアルブルー)|15才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/08/02 09:33:28 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/30 22:35:49 |