• 聖呪

【聖呪】遠く離れた場所で

マスター:秋風落葉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/08/01 15:00
完成日
2015/08/06 17:14

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●間に合わなかった
 草原を駆けるゴブリンの群れ。
 人間達がその光景を目にしたら、さぞや驚くに違いない。
 なぜならば彼らの中には、魔導銃と呼ばれる武器を持つ者が多数いたからだ。
 そして先頭でリトルラプターに跨り、その群れを指揮する者。
 名をデルギンという。
 彼が率いる亜人達は銃を持つ者、あるいは剣や槍を持つ者、様々であったが、ゴブリンにしては統制のとれた動きで行軍していた。
 亜人の数は三桁をゆうに超える。これだけの人数が集まり、武器を手にして行進する目的は一つだ。そう、戦場に行くのである。
 しかし、ある丘の上にさしかかった時、リーダーであるデルギンはリトルラプターを停止させた。背後の亜人達もそれにならう。配下達の様子を顧みることなく、デルギンは一点を凝視していた。
 はるか遠くの空に、天へとたなびく煙が見える。デルギンはその煙のせいで足を止めたのだ。やや遅れて配下のゴブリン達もそれに気づく。とはいえ、煙があがっている理由までが分かる者はデルギンを含めた数人だ。
 グラズヘイム王国北部ルサスール領。その北端にある町、オーレフェルト。ホロム・ゴブリンと呼ばれる者達が、人間の領土への侵攻の足がかりとしてこの町を襲撃したのだ。立ち上る煙は彼らの侵攻の証でもある。ここからでは現在の戦況など分かるはずもないが、おそらく分水嶺を迎えている頃だろう。デルギン達はその侵攻作戦に参加するつもりだったのだが……。
 遠目に見える煙は、デルギン達がこの戦いに参加できなかったことを示していた。そう、彼らは作戦時間に間に合わなかったのだ。

 ――先日、デルギンの一派は人間達を襲撃し、数多の魔導銃を手に入れた。しかし、その際突如現れた新手の追撃により、一部の魔導銃を奪い返され、また、魔導銃を操ることのできる兵をも失うという出来事があった。
 その為、魔導銃に適正のある個体の選出、ならびに軍の再編成に時間がとられ、この侵攻作戦に参加できない結果になってしまったというわけだ。

(ハンター……まったく忌々しい存在だ)
 デルギンは遠くに見える煙から目を逸らさず、憎憎しげに心の中で呟いた。
 自分の直属の部下や、頭数合わせに集めた者達の視線が自分の後頭部に突き刺さっていることが分かる。ようやく意識を現実へと引き戻したデルギンは後ろを振り向いた。
 彼の視線の先には疲労の色が隠せないゴブリンの一団があった。リトルラプターに跨る者はデルギンを含めたわずかな人数しかおらず、それが行軍の遅れの一因となったことは否めない。
(もはや急いでも戦いには間に合うまい)
 デルギンはそう判断した。仮に間に合ったとしても、それは兵達を先ほど以上に走らせた結果であろう。それでは戦場にたどり着いた時に大した戦力にはなれまい。魔導銃を扱える者がいるとはいえ、軍の大半は剣で戦う者達なのだ。
「よく聞け。予定が変わった」
 デルギンは配下を見渡し、目的地が変わったことを告げる。顔を見合わせるゴブリン。ほとんどのゴブリンはあくまで人間たちを襲撃するということしか知らされておらず、どこに向かっているかも実は理解していなかったが。
 突然の進路変更を言い渡したデルギンに、一体のゴブリンが己のリトルラプターを寄せた。彼はデルギンの側近にあたり、もちろん先の煙の意味も、ここで進路を変えることの意味も理解していた。
「ヤクソクをヤブルコトにナル……イイノカ?」
 囁く配下に、デルギンはこともなげに答えた。
「かまわぬ。別にワシらは他の部族に隷属している訳でもない。元々共闘関係にすぎぬのだ」
「ワカッタ。サスガはデルギン。あのゴブリンがコワクナイノダナ……」
 亜人族による人間の領域への侵攻。その中心には王を自負する一人のゴブリンがいる。オーレフェルトへの襲撃ももちろん彼の意図によるものであろう。
 ゴブリンの王と目されるその存在とも対等であろうとするデルギンの姿に、部下は感銘を受けたようだった。デルギンは不敵に笑う。
「当然だ。では後ろの同胞達にも伝達しろ」
「アア」
 配下のゴブリンは騎乗するトカゲの首を巡らし、駆けて行く。デルギンは部下を見送り、そっと心の中で呟いた。
(とはいえ、点数稼ぎはしておく必要があるな……)
 ゴブリンの王のことが全く怖くないわけではないデルギンであった。
 デルギンを含む亜人の群れはやがてオーレフェルトへの道をそれ、いずこかへと行軍しだした。

●埋め合わせ
 一夜を野で過ごした後、再び行軍を続けているゴブリン達。その主であるデルギンは騎乗するリトルラプターの足をとめ、振り向いた。
「同胞達よ。聞け。この先にニンゲン達の住処があるはずだ」
 デルギンの言葉にゴブリン達はざわつく。
 ――予定が変わったという話だが、やはりニンゲンとは戦うのか?
 口々にそういった質問が生まれ、デルギンは鷹揚に頷いた。
「今からその村を奪い取る。『肉』隊と『骨』隊。お前達にやってもらう」
 指名を受けたゴブリンの部隊がデルギンの前へとやって来る。『肉』隊のリーダーらしきゴブリンが口を開いた。
「ジュウをツカッテもイイノカ?」
「もちろんだ。お前達の訓練も兼ねておるからな。存分に撃ってくるがいい。リロードは忘れてはならぬぞ」
「ワカッタ。オレたちデルギンのヤクにタツ」
 魔導銃を持つゴブリン達は得物を天にかかげ、歓声をあげた。意気込む彼らを笑顔で見つめ、デルギンは言い添える。
「今回はワシが指揮するまでもないであろう。お前達に任せるぞ」
 この時デルギンは知らなかった。村の中に、彼が忌み嫌うハンター達が滞在していることを……。

リプレイ本文


 静かな村の中に激しい鐘の音が響き渡った。
 村人によって幾度も鳴らされるそれは、この村にとってとある危機的状況を示していた。敵が来た、と。
 偶然村に滞在していた十人のハンター達にもその報はすぐに伝わることとなる。酒場や通りで思い思いに過ごしていた彼らは即座に戦いの顔つきとなった。
「襲撃だと……考えろ。状況は……敵の目的は……理は何でどんな利を求めている? それが判れば打てる手は増える……」
 騒然とする村内で初月 賢四郎(ka1046)は状況を確かめるべく酒場の椅子から立ち上がり、駆け出した。
 勇ましくも武具を手にとって駆ける村人達に混ざり、ハンター達も皆、各々の武器を持ち村の正面へと急いだ。
 やがて、ハンター達は敵の軍勢の姿を目の当たりにする。敵の正体はゴブリンだ。しかし、問題はその人数である。
「これはすごい数ですこと。もしもの場合は村を捨てる事も視野に入れるべきでしょうけど……まずはやれることをやってみましょう」
 建物の裏からゴブリン達の軍勢を盗み見たガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401)はそう呟き、言葉通りに自分のやるべきことを為すために移動を開始する。
「統率が取れているように見えるのに指揮官らしき姿が見えないわね」
 鬼非鬼 ゆー(ka4952)もゴブリン達の様子を窺い、指揮官がいないように見えることをいぶかしく思う。
 そんな中、ジェットブーツを用い、村内の家の屋根に上って敵陣を窺う賢四郎。トランシーバーを用い、遠くに見えるゴブリンの一群についての報告を仲間へと行う。
 賢四郎からもたらされた情報に、ゆーは顔をしかめた。魔導銃らしきものを持つゴブリンがいるということにも驚かされたが、今目の前にいる部隊のさらに後方、そこにもゴブリンらしき大群が控えているというのだ。
「戦力逐次投入なんて一番やっちゃいけない下策なのに、舐められたものね」
 ゆーはゴブリンの群れを睨みつけると、そんな下策を取った敵に目に物見せてやろうと行動を始めた。
 村人達は敵の多さにごくりと唾を飲み込む。
 そんな彼らを安心させようと、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は音もなく微笑んだ。言葉をしゃべることができない彼女は、手持ちのスケッチブックに素早くあることを書き込み、それを村人へと渡すと自分も戦いに身を投じるため、駆け出した。

 ゴブリンらしからぬ綺麗な隊列を組み、村へと侵攻を開始した亜人達。
 試作型魔導銃「狂乱せしアルコル」を手にし、一体のゴブリンに狙いをつけるのは賢四郎とは別の家の屋根上に陣取るケイ(ka4032)。遠射のスキルを用い、後衛で銃を持つゴブリンを狙う。
「先ずは一撃。はずさない……せいぜい見本になさいよゴブリン達?」
 レイターコールドショットにより、冷気を纏った弾丸が見事にゴブリンの頭に命中し、ゴブリンはそのまま絶命する。
 予期せぬ攻撃にゴブリン達は一瞬言葉を失うが、数を頼りにそのまま突撃を行った。
 先陣を切ったのは剣と槍で武装するゴブリンだ。村人達の弓から矢が数本放たれるが、ゴブリン達は降り注ぐそれらを切り払い、足を止めることなく突っ込んでくる。
 彼らを迎え撃つかのように、明らかにただの村人とは思えない出で立ちの者達が村を囲む柵から飛び出した。


「ん……抜けてきた。ここは通さない。行くよ、『リッパー』」
 オートマチック「チェイサー」による射撃を済ませた後、アルティミシア(ka5289)は銃を懐に収める。そしてポケットの中の『リッパー』に触れ、囁いた。それは彼女が幼い頃から愛用している首狩りナイフである。
(防衛戦は久しぶり。まぁ、やってやれない事はない。近寄る敵は、切り裂く)
 群がるゴブリンを特に恐れた様子もなく、少女は白兵戦の武器を手に前へと出た。
「Don't worry!! 村の皆サンにケガはさせマセン!」
 クロード・N・シックス(ka4741)も村人達を守るため、柵の外でゴブリンを迎撃する。彼女目掛けて突進し、剣を繰り出すゴブリン。
 クロードは守りの構えを取り、きっちりと敵の刃をトンファーで受け止めると、流れるような動作でカウンターを叩き込んだ。
 エヴァはアースウォールによって出来た土の壁を盾とし、それに隠れながらアサルトライフルで応戦している。
(恨みつらみは一つも無い。ただ、来ると言うなら容赦はしない)
 エヴァはとある目的を胸に秘め、孤立して動いている敵を優先的に狙っていた。
 もちろん魔導銃を持つゴブリンも、エヴァを障害物ごと貫こうと試みる。魔法で生まれた土の壁も敵の操る銃には分が悪いのか、一発の銃弾で大きな亀裂が入ってしまう。あまり長くは持たないようだ。
 魔導銃で射撃を行うゴブリンを屋根上から見下ろし、感嘆の表情を浮かべているのは先ほど見事な狙撃の腕を敵味方に披露したケイだ。
「へえ、確かに上手く扱えるようね。腐れ縁の野郎から聞いた以上だわ……でも、まだまだじゃない? 今の内に潰しておきましょうか。まったく、厄介なゴブリンが増えたものね」
 ケイは言葉と共に一体のゴブリンの頭へと狙いをつけ、トリガーに指をかける。銃身が火を吹き、ターゲットの頭はざくろのように弾けた。
 ケイと同じように、魔導銃を持つゴブリンを遠く見据える少年ハンターが一人。しかし、その瞳に潜む感情はケイのそれとは全く違っていた。
「銃をもったゴブリンか。略奪して使い方を覚えたかそれとも教えた奴がいるか、僕は亜人共を殺すだけだ」
 過去のある出来事により、ゴブリン達を深く憎んでいるカイン・マッコール(ka5336)。彼の手にも銃が握られている。
「亜人駆除の資料にリアルブルーの銃器の本を見たけど、自動小銃は兵士の技量を平均化すると聞いたけど、どんなものかな?」
 カインはアサルトライフル「ヴォロンテAC47」を手に射撃を行い、ゴブリンの群れを牽制する。クロード達の隙を突こうとしていたゴブリンは出足を挫かれたように踏みとどまった。
「やはり、馬鹿だけど間抜けじゃない、強い奴は囲んで叩くことが効果的だってわかってるか」
 前線で直に刃物を交えている仲間を狙う敵へと、優先的に射撃するカイン。
 カインとエヴァのバックアップ射撃により、敵はアルティミシア達を攻めあぐねているようだ。
 それならばと迂回しようとしたゴブリンの一群の中に、一瞬青白い雲状のガスが広がり、巻き込まれたゴブリン達は突然やってきた睡魔に負け、地へと倒れ込む。
 ラススヴェート(ka5325)のスリープクラウドである。
「王国では今あちらこちらでゴブリンの襲撃があるようですね。そしてこの村にも現れましたか。数は多いようですが、さて」
 ラススヴェートは憂いの表情のまま新たな敵にデリンジャーYL1の狙いをつける。
 彼らの活躍により、ゴブリン達は村の柵の内部に入り込むことが出来ていない状況だ。また一体、先行して突破を試みようとした亜人がやはりエヴァのライフルに撃たれて倒れる。
 単独で動く者は彼女によって狙われることに気付いた一部のゴブリンは、的になることを恐れて今度は集団で彼女へ襲い掛かってきたが、それこそがエヴァの目論見であった。
 エヴァはアースウォールの陰から横に飛び出し、ファイアーボールを放つ。彼女の火球はかたまっていたゴブリンの一群を見事にまとめて焼き尽くした。
 攻めあぐねるゴブリン達を後ろから叱咤するように、魔導銃を持つゴブリン達が村へと一斉射撃を行った。弾雨はカインの身につける鎧を貫き、彼をよろめかせた。エヴァの生み出した土の壁もついに破壊され、消滅する。
 さらに魔導銃の弾丸が一人の村人の腕をかすめた。幸い大きな怪我にはならなかったが、その衝撃と恐怖にへたり込む男。
 ラススヴェートはその男とゴブリンとの間に入り、男を敵の攻撃から庇う。その間に退避を促し、村人は四つんばいではありながらも何とか家屋の裏側へと逃れた。
(民に代わり戦うのが我々なのである。彼も確かそう言っていましたね)
 ラススヴェートは過去の事を想起しながらもすぐに現実へと意識を戻し、ウィンドスラッシュで一体のゴブリンを狙い、切り裂いた。
 しかしゴブリン達は数を頼りに続々と押し寄せてくる。クロードもゴブリンの繰り出した槍を不覚にも受け損ない、手傷を負った。アルティミシアも自分が受けた傷を癒すべくマテリアルヒーリングの行使に入る。
 しかしまだハンター達は奥の手を残している。すでに配置についていた仲間達は、ある指示が来るのを今か今かと待っていた。
「『人の嫌がる事を進んでしましょう』か。教官の台詞が浮かんでくるとはね。奴らが嫌がる事は何か……考えろ……」
 敵の動きを観察していた賢四郎。魔導銃を持つゴブリン達は後衛から狙撃を行ってくるが、今は護衛を兼ねる剣持ちゴブリン達がほとんど前衛へと出てきていた。
 ――動くならばこのタイミング!
 賢四郎はトランシーバーに何事かを囁く。彼の言葉を受け取った受信先のメンバーは、ついに行動を開始した。


 村の柵が一部解放され、機会を窺っていたガーベラ、J(ka3142)、ゆーはそれぞれ魔導バイク、または戦馬に跨り、側面からゴブリンの後衛へと突っ込んだ。
 魔導銃を構えているゴブリン達は慌ててそちらへと狙いをつけ、それぞれトリガーに指をかける。
 そこに屋根上のケイが制圧射撃による全弾のばらまきを行った。数体のゴブリンはその弾幕に驚き、ろくな狙いもつけられずにトリガーを引き、明後日の方角へと弾丸が飛んでいってしまった。しかし、それでも残るゴブリンは正確に突然現れた相手への射撃をやってのける。ガーベラ、Jを凶弾が襲い、彼女達をしたたかに痛めつけた。
 敵の銃弾が運よく至近を逸れていったゆーは魔導拳銃「ペンタグラム」を引き抜き、そのままバイクを走らせつつ敵を撃った。
「魔導銃とはこう扱うものよ」
 彼女が持つ銃も同じ『魔導』の名を持つ銃だ。ゆーが放った銃弾は、先ほど彼女を狙ったゴブリンの胸に命中し、絶命させた。しかし、別のゴブリンがゆーを目掛けて正面から銃をぶっぱなす。それは彼女のビキニアーマーを難なく貫いた。
 ゆーが受けた傷と衝撃は大きく、彼女は危うく魔導バイクから落とされそうになった。しかし、何とかこらえるゆー。
 ガーベラは馬を走らせながらセイクリッドフラッシュの準備に入る。
「蹂躙してさしあげましょう」
 敵に恐怖を与えんが為、嫣然と微笑むガーベラ。すり抜けざまに放たれた光の波動は数体のゴブリンを吹き飛ばす。
 Jも試作魔導バイク「ナグルファル」で敵陣をかく乱しながら、デルタレイで三体のゴブリンを狙い撃つ。
 光の三角形の頂点から計三本の光線が放たれ、それぞれがゴブリンを貫いた。
 剣を持ったゴブリンがJへと切りかかるが、Jはシールド「リパルション」をかざし、その刃を完全に防ぐ。Jはそのまま目の前の敵もろとも一掃するため、ファイアスロワーの行使に入る。彼女の手に集まる赤いマテリアルが、ゴブリンには竜の顎から放たれる炎のブレスのように思えた……。


 敵の後衛が乱れたのをチャンスと見、前進を開始したのはクロード。
「双旋棍のクロードは健在デス! ワタシを倒せるfighterはいますかネー?」
 名乗りをあげるのは今がbest timingだと思ったらしいクロードの声が戦場へと響く。もちろんその名乗りに恥じず、左右のトンファーはゴブリンを的確に打ちのめした。
 ここが攻め時と、アルティミシアもランアウトで一気にゴブリンへと肉薄した。
「頚に、手首に足首に、刃を宛てて迷わず……引く!」
 アルティミシアは得物をゴブリンの首筋にあて、言葉通りに敵の命を断ち切った。返り血がアルティミシアの体を赤く染める。
「どんな生き物でも……命は温かいね」
 手の中でナイフをくるくると玩びながら、返り血を拭うアルティミシア。
 突然の戦況の変化に戸惑っているのは前衛にいるゴブリン達だ。彼らは後ろで何が起きているのか、まだ把握できていない。
 後衛からの援護射撃はほとんど飛んでこなくなっていたが、それでも前衛のゴブリン達にとって目の前にいる敵はわずかである。歯をむき出し、柵へと取り付こうとする亜人達。
 ゴブリン達を遮るべく、ラススヴェートは柵の上から手を伸ばし、そこにアースウォールによる土の壁を作りだした。
 目の前の柵を乗り越えようとしたゴブリンはもちろん一瞬戸惑った。しかし、気を取り直してその壁を迂回しようとし……見事、あらかじめ掘られていた落とし穴に引っかかる。幸い内部に剣山などはなかったものの、かなりの深度まで掘られたそれは、背の低いゴブリンにとっては奈落の底と同義であった。
 カインも今では手持ちの短剣を抜き、ゴブリンへと切り付けていた。
「誰から入れ知恵されたかしらないけど、考えが甘かったな」
 彼の操るダガー「コルタール」は空間に鮮やかな軌跡を描き、ゴブリンの腕を切り裂いた。
 ゴブリンはハンター達の勢いに押されだしている。エヴァは後ろを振り向き、手を振って合図を出した。
 戦いの前にエヴァからスケッチブックを託されていたあの村人は頷き、彼女から頼まれていた作戦を実行する。
「ハンターの増援がもうすぐやって来るぞ!」
「侵略者には容赦するな!」
 村の中からそういった声が次々に沸きあがり、さらに彼らの放った矢がゴブリン達の頭上へと降り注ぐ。それらは全て外れたが、ゴブリン達の一部は先ほどの声に落ち着きをなくしていた。
(ハンターがアラタにヤッテクル!?)
 ゴブリンの中には人語を多少理解できる者がおり、今回の指揮を任されていたゴブリンもその内の一体であった。そのことが彼と仲間の亜人達にとっての不幸だった。
(ソンナ……ソレジャトテモカチメがナイ……!)
 ハンターという存在の恐ろしさは、過去の経験でその身に刻まれている。今ここに援軍が現れたら、もはや勝つことは出来ないという彼の見立ては間違っていない。
「ニゲルゾ! テキがイッパイクル!!」
 指揮官ゴブリンが声を大にして叫ぶ。それは前衛のゴブリン達へも届き、彼らの動きを一瞬混乱させた。もちろんそれはハンター達に利し、前衛のゴブリンの壊滅速度が早くなる。なお、援軍がやって来ると村人達が叫んだのはエヴァがあらかじめ村人達に仕込んでいた作戦に過ぎず、実際にそんな予定はない。指揮するゴブリンがもう少し冷静だったなら、そのことにも気付いたかもしれないが……。
 ついにゴブリンの前線部隊は崩壊し、魔導銃を持つゴブリン達も気がつけばもう残りわずかだ。ガーベラのシャドウブリットがゴブリンへと放たれ、また一体戦場からゴブリンの姿が消える。もはや、ゴブリン達に勝機はない。
 指揮を任されていたゴブリンは慌てて背を向け、逃げだしたところをJの水中用アサルトライフルP5に後ろから狙い撃たれ、その命を散らした。

「一匹でも残しておくと情報が漏れるかもしれないから、処理しとくよ」
 あらかた片付いた後、カインは容赦なくまだ息のあるゴブリンへととどめをさす。
「この村に近づいたゴブリンがどうなるか、あそこの大軍にも教えてあげましょう」
 そう言いながら落とし穴に近づくのはゆーだ。手には、ブランデーとバンダナで作った自作の火炎瓶が握られている。それをゴブリンが落ちたままの落とし穴へと放り込むと、たちまち亜人の断末魔と赤い炎が天を貫いた。遠くに見えるゴブリンの一群に、これ以上ない見せしめとなった可能性が高い。
 討ち果たされ、一体も戻ってこないゴブリン。ただの村人達に、こんな真似が出来るわけがない。遠くで戦況を見ていたデルギンは、またもハンター達による介入があったことに気付いていた。
「おのれ……またしても……またしても……ハンター!!」
 デルギンは戦力の再投入という選択は取らず、大人しく残る軍勢を引き上げさせた。もちろん、ハンター達への新たな憎悪を胸に秘めて。


 危機は去った。ハンター達は数人が負傷したものの、肝心の村への被害もほとんどない。村人達は抱き合って喜び、ハンター達にもお礼を述べた。
 ハンター達もお互いに健闘を讃え、勝利を分かちあう。しかし、彼らはすでにこの戦いの後のことを見据えていた。
「勝つには勝ったが、先も考えないと……」
 回収を済ませたゴブリン達が落としていった武器――特に魔導銃――を見ながら、賢四郎は今後新たな襲撃があった時に、この村が無事ですむような方策について思案をめぐらせていた。
「昔から東方では『備えあれば嬉しいな』と言いマス! 日頃の準備が大切ですヨ!」
 微妙に間違っているが意味は大体合っていることを述べるクロード。彼女も賢四郎の対策案を手伝うつもりのようだ。
 エヴァ、ゆーは村から借りたシャベルを手に、新たな落とし穴を掘っていた。
 落とし穴、柵の増設。
 賢四郎はそれに加え、ハンターがこの村にいるという証となりえる、旗印のようなものを設置することでゴブリン達が近づかなくなるのではないか、というアイディアが浮かんだ。
 賢四郎はそのことを伝えるために村長を探す。
 もしそれが完成した暁には、リアルブルーにある鬼瓦のようにきっとこの村を災厄から守ってくれるだろう。

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参加者一覧

  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • 矛盾に向かう理知への敬意
    初月 賢四郎(ka1046
    人間(蒼)|29才|男性|機導師

  • ガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401
    人間(紅)|28才|女性|聖導士
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
    人間(蒼)|30才|女性|機導師
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • 双棍の士
    葉桐 舞矢(ka4741
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • お説教レディ
    鬼非鬼 ゆー(ka4952
    人間(蒼)|17才|女性|舞刀士

  • アルティミシア(ka5289
    人間(紅)|11才|女性|疾影士

  • ラススヴェート(ka5325
    エルフ|65才|男性|魔術師
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボン(ka5336
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人

サポート一覧

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アイコン 相談卓
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/08/01 12:32:49
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/07/29 13:49:43