ゲスト
(ka0000)
【聖呪】それぞれの『役割』
マスター:赤山優牙
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/03 07:30
- 完成日
- 2015/08/08 21:37
みんなの思い出
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オープニング
――
「エリカお姉ちゃん! これ、見て見て!」
桃色の髪を揺らして、一人の幼い少女が大通りに面している装飾品店のショーケースの前で叫んでいた。
それに応えるように、少女よりも少し年上の別の少女が笑顔で近寄る。
「この髪飾り、きれ~い」
小さい方の少女が、ケースの中で飾られている装飾品に目を輝かせる。
作りはシンプルな形であったが、数々の宝石が眩い光を放っていた。
「本当ね。凄く綺麗」
「二つあるから、エリカお姉ちゃんと一緒に付けたいな~」
「ふふ。そうだね」
小さい少女の頭を、優しく撫でる。
「うぅ……でも、凄い値段……」
撫でられながら、少女はその髪飾りの値札を見て言った。
とても、少女が、いや、王国北部の村の住民が買える値段ではない。
「大きくなって、お金を稼げる様になったら、これ、絶対に買う! エリカお姉ちゃんとお揃いで!」
「ありがとう。でも、いつになるのかな」
「いつかわからないけど、ぜぇったいにぃ!」
仲良しな姉妹の微笑ましい光景。
いつかきっと、約束が果たせる日が来る事を幼い少女は信じていた――
●ウィーダの街のある宿屋
ベットの上、薄い肌着姿のままでリルエナは目を覚ました。
面している大通りからは賑わいの音が響いていた。太陽が高く登り、昼を告げる鐘が鳴っていた。
亜人に関する書籍を読み漁っている内に、徹夜してしまい、朝方に寝たので、今頃起きたのだ。
(夢……か……)
その夢は、姉が村からいなくなってから見るようになった。
(エリカお姉ちゃん……約束、後少しで叶えられるよ……)
肌身離さず持っている一組の髪飾り。
幼い少女は大人になっても、ただただ、あの時の約束を守る為に、戦い続けた。
姉の元恋人も、父である村長も、多くの村人も、リルエナにとって、もはや、どうでも良かった。
村も教会も騎士団も、様々な想いやすれ違いも、『あの時の約束』とは関係のない事だから。
だから、一人で狩り続けた。無数の亜人を。
大峡谷に蔓延る怪物共をひたすらに。いつかきっと、姉の眠る場所で、約束を果たす為。ただ、それだけの為に。
(必ず、会いに行くから。エリカお姉ちゃん……)
『北の戦乙女』と呼ばれる凄腕のハンターであるリルエナは寝床から立ち上がった。
故郷の村からアランとハンター達と共に大峡谷に入った。そこで遭遇した炎の亜人を追撃。リルエナは森深くまで追い掛けたのだが、結局、逃げられた。リルエナは来た道を戻るのは危険と判断し、森の中を大きく迂回した結果、ウィーダの街に到着した。
聖女の幽霊の噂を聞いたのはその後の事。急いで村に戻ろうとした所で、ウィーダの街の領主から取引を持ち掛けられた。
『街の移転が終わるまで、専属のハンターとして雇いたい』
一介のハンターに、何の用なのかと思った。もちろん、断るつもりだった。だが、続く領主の言葉にリルエナは驚愕する。
『移転が無事に終わった暁には、この街の戦力を一度だけ、君に預ける』
領主は知っていたのだ。
リルエナが大峡谷深くに踏み入りたい事を。もちろん、ただ踏み入るだけでは意味がない。その為には、ある程度の戦力が必要な事も。
だから、『北の戦乙女』は取引に応じた。
自らの目的を達成させる為に、確実な方法を選んだのだった。
「……今日は、明日の準備に費やすとするか……」
独り言を口にすると、リルエナは剣の手入れから始めるのであった。
●ウィーダの街領主の館にて
『軍師騎士』と呼ばれる、痩せた騎士は領主と昼食を摂っていた。
質実剛健を好むウィーダの街の領主の性格そのままに出てくる昼食は、質素という言葉を通り越し、もはや、野戦食の様である。
「気に入らないか?」
ニヤッと笑って領主が訊ねてくる。
「いえ、不必要な物資を使う事はないと思うので、これで十分だと思います」
「貴殿らしい言葉だ。ところで、交渉の件はどうなっている?」
「全ての交渉は順調に進んでいます」
一つ目は、『北の戦乙女』を専属ハンターとする事。
二つ目は、亜人のある勢力と取引する事。
三つ目は、街の移転を早める為に関係者と打ち合わせする事。
「リルエナの名声は、この街では大きいものがあります。戦力としても極めて貴重ですが、それ以上のものがあります。彼女がいるといないでは、兵士やハンター達の士気に関わりますので」
「よく、彼女の正体と目的を知っていたな」
「青の隊が意味もなくパルシア村に滞在しているわけでもないという事ですよ」
果実で薄く味付けした水を口につけるわけではなく、持ちながらウィーダの街の領主の質問に答える『軍師騎士』。
「貴殿の評価も劣らない気もするがな」
「買い被り過ぎですといつも言っているではありませんか」
呆れた様な表情を浮かべる痩せた騎士。
歪虚の襲来以降、王国内を単身で転戦し、作戦を立案、もしくは、手配し、そのほとんどが、ハンター達の活躍によって勝利してきた。今では、青の隊隊長の懐刀とも一部では称されているらしい。本人にとっては、余計な名声であり、実は迷惑な気持ちではあった。彼の功績はハンター達の活躍あってのものだからだ。
「亜人の方はどうなった?」
「交渉は順調です。いずれは、手を貸してくれると思います」
「亜人との交渉は、王都の方では快く思わないだろうな」
街に滞在中のある覚醒者からの打診で亜人との交渉が進んでいる。
前代未聞かもしれないが、今は四の五の言ってられない状況だ。
「移転の方ですが、五割程済んでいますね。区画毎に順次、移動となります」
「驚いたよ。ゴブリン一体からの討伐賞金、王国からの食糧援助が、この為とは思わなかったからな」
先月初め頃からゴブリンに対する賞金をかけた。覚醒者でなくとも、そこそこ訓練を積めば戦えるので、それなりの人数が賞金目当てに集まった。ゴブリンの数が減ってくると、そのまま、臨時の兵士として多くの者が雇われた。
そして、中旬頃には、王国から大量の食糧援助があった。これで、兵糧にかかる費用の大部分を補う事もでき、かつ、規模が膨れ上がった兵士達を維持する事もできたのだ。
「彼らはしっかりと領民や行商人達を護衛しており、安全に移転ができています」
王国北部では、亜人の襲来により、村や街に大きな損害が出ている場所もあるというのに、ウィーダの街は今だ無傷だ。
「これも、ハンター達の活躍によるものです。特にパルシア村との街道が保たれている事は本隊への支援活動に大きな意味を持ちますので」
「なにもかも、貴殿の計算の中にあったと言うわけか……恐ろしいものだ」
「ですから、買い被り過ぎです」
ウィーダの街の領主は、痩せた騎士の言葉に笑い声を上げながら、干し肉に被りついた。
「エリカお姉ちゃん! これ、見て見て!」
桃色の髪を揺らして、一人の幼い少女が大通りに面している装飾品店のショーケースの前で叫んでいた。
それに応えるように、少女よりも少し年上の別の少女が笑顔で近寄る。
「この髪飾り、きれ~い」
小さい方の少女が、ケースの中で飾られている装飾品に目を輝かせる。
作りはシンプルな形であったが、数々の宝石が眩い光を放っていた。
「本当ね。凄く綺麗」
「二つあるから、エリカお姉ちゃんと一緒に付けたいな~」
「ふふ。そうだね」
小さい少女の頭を、優しく撫でる。
「うぅ……でも、凄い値段……」
撫でられながら、少女はその髪飾りの値札を見て言った。
とても、少女が、いや、王国北部の村の住民が買える値段ではない。
「大きくなって、お金を稼げる様になったら、これ、絶対に買う! エリカお姉ちゃんとお揃いで!」
「ありがとう。でも、いつになるのかな」
「いつかわからないけど、ぜぇったいにぃ!」
仲良しな姉妹の微笑ましい光景。
いつかきっと、約束が果たせる日が来る事を幼い少女は信じていた――
●ウィーダの街のある宿屋
ベットの上、薄い肌着姿のままでリルエナは目を覚ました。
面している大通りからは賑わいの音が響いていた。太陽が高く登り、昼を告げる鐘が鳴っていた。
亜人に関する書籍を読み漁っている内に、徹夜してしまい、朝方に寝たので、今頃起きたのだ。
(夢……か……)
その夢は、姉が村からいなくなってから見るようになった。
(エリカお姉ちゃん……約束、後少しで叶えられるよ……)
肌身離さず持っている一組の髪飾り。
幼い少女は大人になっても、ただただ、あの時の約束を守る為に、戦い続けた。
姉の元恋人も、父である村長も、多くの村人も、リルエナにとって、もはや、どうでも良かった。
村も教会も騎士団も、様々な想いやすれ違いも、『あの時の約束』とは関係のない事だから。
だから、一人で狩り続けた。無数の亜人を。
大峡谷に蔓延る怪物共をひたすらに。いつかきっと、姉の眠る場所で、約束を果たす為。ただ、それだけの為に。
(必ず、会いに行くから。エリカお姉ちゃん……)
『北の戦乙女』と呼ばれる凄腕のハンターであるリルエナは寝床から立ち上がった。
故郷の村からアランとハンター達と共に大峡谷に入った。そこで遭遇した炎の亜人を追撃。リルエナは森深くまで追い掛けたのだが、結局、逃げられた。リルエナは来た道を戻るのは危険と判断し、森の中を大きく迂回した結果、ウィーダの街に到着した。
聖女の幽霊の噂を聞いたのはその後の事。急いで村に戻ろうとした所で、ウィーダの街の領主から取引を持ち掛けられた。
『街の移転が終わるまで、専属のハンターとして雇いたい』
一介のハンターに、何の用なのかと思った。もちろん、断るつもりだった。だが、続く領主の言葉にリルエナは驚愕する。
『移転が無事に終わった暁には、この街の戦力を一度だけ、君に預ける』
領主は知っていたのだ。
リルエナが大峡谷深くに踏み入りたい事を。もちろん、ただ踏み入るだけでは意味がない。その為には、ある程度の戦力が必要な事も。
だから、『北の戦乙女』は取引に応じた。
自らの目的を達成させる為に、確実な方法を選んだのだった。
「……今日は、明日の準備に費やすとするか……」
独り言を口にすると、リルエナは剣の手入れから始めるのであった。
●ウィーダの街領主の館にて
『軍師騎士』と呼ばれる、痩せた騎士は領主と昼食を摂っていた。
質実剛健を好むウィーダの街の領主の性格そのままに出てくる昼食は、質素という言葉を通り越し、もはや、野戦食の様である。
「気に入らないか?」
ニヤッと笑って領主が訊ねてくる。
「いえ、不必要な物資を使う事はないと思うので、これで十分だと思います」
「貴殿らしい言葉だ。ところで、交渉の件はどうなっている?」
「全ての交渉は順調に進んでいます」
一つ目は、『北の戦乙女』を専属ハンターとする事。
二つ目は、亜人のある勢力と取引する事。
三つ目は、街の移転を早める為に関係者と打ち合わせする事。
「リルエナの名声は、この街では大きいものがあります。戦力としても極めて貴重ですが、それ以上のものがあります。彼女がいるといないでは、兵士やハンター達の士気に関わりますので」
「よく、彼女の正体と目的を知っていたな」
「青の隊が意味もなくパルシア村に滞在しているわけでもないという事ですよ」
果実で薄く味付けした水を口につけるわけではなく、持ちながらウィーダの街の領主の質問に答える『軍師騎士』。
「貴殿の評価も劣らない気もするがな」
「買い被り過ぎですといつも言っているではありませんか」
呆れた様な表情を浮かべる痩せた騎士。
歪虚の襲来以降、王国内を単身で転戦し、作戦を立案、もしくは、手配し、そのほとんどが、ハンター達の活躍によって勝利してきた。今では、青の隊隊長の懐刀とも一部では称されているらしい。本人にとっては、余計な名声であり、実は迷惑な気持ちではあった。彼の功績はハンター達の活躍あってのものだからだ。
「亜人の方はどうなった?」
「交渉は順調です。いずれは、手を貸してくれると思います」
「亜人との交渉は、王都の方では快く思わないだろうな」
街に滞在中のある覚醒者からの打診で亜人との交渉が進んでいる。
前代未聞かもしれないが、今は四の五の言ってられない状況だ。
「移転の方ですが、五割程済んでいますね。区画毎に順次、移動となります」
「驚いたよ。ゴブリン一体からの討伐賞金、王国からの食糧援助が、この為とは思わなかったからな」
先月初め頃からゴブリンに対する賞金をかけた。覚醒者でなくとも、そこそこ訓練を積めば戦えるので、それなりの人数が賞金目当てに集まった。ゴブリンの数が減ってくると、そのまま、臨時の兵士として多くの者が雇われた。
そして、中旬頃には、王国から大量の食糧援助があった。これで、兵糧にかかる費用の大部分を補う事もでき、かつ、規模が膨れ上がった兵士達を維持する事もできたのだ。
「彼らはしっかりと領民や行商人達を護衛しており、安全に移転ができています」
王国北部では、亜人の襲来により、村や街に大きな損害が出ている場所もあるというのに、ウィーダの街は今だ無傷だ。
「これも、ハンター達の活躍によるものです。特にパルシア村との街道が保たれている事は本隊への支援活動に大きな意味を持ちますので」
「なにもかも、貴殿の計算の中にあったと言うわけか……恐ろしいものだ」
「ですから、買い被り過ぎです」
ウィーダの街の領主は、痩せた騎士の言葉に笑い声を上げながら、干し肉に被りついた。
リプレイ本文
●ウィーダの街にて
激走する少女が1人。黒い髪が風に流れるのに任せる。
「ノゾミぃぃぃ!」
少女を見つけると、遠慮せずに正面から飛び付いた。
「し、時雨さん!?」
ノゾミは飛びついて来た時雨に驚いていた。
小鳥遊 時雨(ka4921)はノゾミのお友達である。街に滞在しているノゾミを探して走り回っていたのだ。
「もう、小鳥遊ちゃんったら、早いんだから」
そう言いながらも、息一つ切れてない様子で、Non=Bee(ka1604)が後からやってきた。
両手には今日の為に焼いたクッキーや飲み物、リゼリオ経由で手に入れた花火各種、更には、時雨の荷物まで持っていた。
大柄のお姉さんの様に見えるが、意外と肉体派かもしれない。
「Non様! それに、マヘル様も!」
ノゾミはNonと、その横に並ぶマヘル・ハシバス(ka0440)の2人の存在にも驚く。
「私もお邪魔させてもらいますね」
とニッコリと微笑みかけながら、マヘルは言う。しかし、内心は別の事を考えていた。
先日、ある依頼の中で出逢った歪虚。その歪虚の動きの中、マヘルは、ノゾミの歌声を聞いたのだ。
(きっと、気のせいじゃない……ノゾミさんのあの歪虚への思いは本物だから……それが……辛い)
そんなマヘルの心情をNonはさり気なく感じていた。
Nonもノゾミの行く末が気になっていた。本人に知れたら、困りそうな表情を浮かべそうだが……少し、娘を見る母親の様な気持ちが芽生えていた。
「……いやぁね、あたしも老けちゃったわぁ」
「どうかしたのですか?」
ノゾミが首を傾げて聞いてきた。思わず、言葉に出てしまっていたようだ。
「ちょっと、荷物を持ち過ぎて疲れたのよ~」
「よぉし! Nonが疲れる前に行こう!」
時雨は元気な声をあげると、川に向かって指差すのであった。
●軍師騎士
領主館の一室に案内された1人の巫女。
姉から頭の切れる騎士がこの街に滞在していると聞き、足を運んだのだ。部屋に案内されると、1人の痩せた青年が部屋で待っていた。
「はじめまして。ハンターのUisca Amhran(ka0754)と申します。軍師騎士と名高い騎士様のお話が聞きたくて参りました」
「青の隊所属の騎士ノセヤです。Uiscaさんのお名前は以前から存じ上げております」
昨年、王国を襲った歪虚の大規模な侵攻。その際の功績者を彼は把握していたようだ。
「私にできる事を行っただけですので。もし、よければ少し、付き合ってもらえませんか?」
チェス盤に掌を向けながら誘うUisca。騎士は微笑を浮かべ頷いた。
●戦慄の機導師
「おん? あの髭ジジイはもしや……。一人か……の?」
星輝 Amhran(ka0724)の視界の中に、見知った人物が視界の中に入ってきた。
白髪と白いちょび髭が特徴的な爺さんだが、歳不相応の動きで人混みの中を歩いている。
「おお、オキナ! 奇遇じゃな?」
声をかけると、オキナは驚いた顔をした。
「小さい子供に呼び掛けられたと思ったら、星輝嬢ちゃんかい」
「『嬢ちゃん』は不要かもしれんがの。暇じゃったら一杯付き合わぬか?」
「いいのう。良い店を知ってるから、そこへ行こうかの」
2人は通りの抜けて路地へと入って行った。
●北の戦乙女
視線を感じるとはこの事かと檜ケ谷 樹(ka5040)は思った。正確に言うと、隣にいるリルエナにだが。
「この前の依頼振りだったから心配してたんだよ。一緒に食事ができて良かった」
樹の言葉にリルエナは運ばれてきた料理に目を向けていた。
大きいパイシチューが二つ並んでいる。周りからのコソっとした視線は、その料理とリルエナの女性的なそれ、交互に向けられていたのであった。
「恥ずかしい所を見せた……」
パイの事ではない。この前の依頼、炎の亜人を追いかけた最後の事だ。
「……今のままなら、戦うのは控えた方がいい」
樹が優しい口調でリルエナに自分の想いを伝え始めた。
●川遊び
西瓜や飲み物などが川の水で冷やされている中、少女の笑い声が響いていた。
「二人とも足元気をつけなさいよ。切ったりしたら大変だわぁ」
帯をたすき掛けしたNonが川場で遊ぶ2人に向かって声をかける。
時雨が大きく手を振る。
「Non! マヘル! 笹舟流すよぉ!」
夜通し作ってきた沢山の笹舟を時雨は、ノゾミと一緒に流す。
「……あら、笹舟。かわいいじゃない」
流れてくるいくつもの小さい笹舟をNonがきゅんとしながらみつめていた。
マヘルは川の水で冷やしている飲み物を取ろうとして、引っ掛かっている一つの笹舟を元にもどす。
「笹舟を流したら、少し休憩しませんか?」
そして、顔を上げて呼び掛けた。
「は~い!」
時雨とノゾミが同時に返事をする。
「炭酸水もありますけどいかがですか?」
コップに注いだ炭酸水を2人の少女は受け取ると、風呂上がりでもないのに、腰に手を当ててコップに口をつける。
「ぷはー!」
2人が同じ様に口をあけた姿が、微笑ましくて、マヘルは微笑を浮かべた。
ノゾミは普通の少女とどこも変わらない――そんな風に見えたからだ。その時、少女から腹の音が響いた。
慌ててお腹を押さえるノゾミ。もちろん、止まらない。
「お腹空いたら魚でも採って食べましょう。きっと美味しいわぁ」
笑顔でNonがそんな言葉を少女に向けると、川の中にずんずんと入っていった。
川の中ほどに進んだNon。太陽の光をキラっと鱗が反射した刹那、豪快に川の中に腕を突っ込む。
「凄い……」
川辺で様子を見守っていた三人の言葉が重なる。さすが、肉体派。
「こういうのはおねーさんに任せなさい!」
「私も混ざるー。あっ!……ぎゃー!?」
時雨がはしゃぎ過ぎた結果、川にダイブしたのであった。
●ノセヤ
「先輩ですね。あまり関わりはありませんが」
軍師騎士が、駒の一つを動かしながら、Uiscaの質問に答えた。
「ノセヤさんも、ソルラさんのように、ハンターをよく信頼されると聞いていますが、なぜ、なのですか?」
「私の立てた作戦に、命を掛けて下さる……ならば、私は彼らを信頼する……そう決めているのです」
2人が行っているゲームはチェスと似ているものの、一つ、この街独自のルールがあった。
『亜人の襲撃』と称し、中央の4マスは定期的にサイコロを振り、不運な場合は、駒を盤上から取り除かれるのだ。
「亜人と歪虚についてどう思いますか? 特に、今、亜人の対処に追われている状況ですが」
「大峡谷の亜人は、今後、更なる大侵攻があると私は予見しています。歪虚に関しては……なんとも」
彼の駒は、敢えて中央の4マスには入らない。
「私は共存共栄が出来ないのかと思います。辺境では厳しい環境ゆえ魔獣や歪虚に汚染された土地等も利用してうまく付き合ってる……闇雲に駆逐するのはどうなのでしょうか?」
「亜人との関わりは基本、私もそう思いますね。ただ、歪虚に関してはあり得ません。我々と歪虚とは、水と油のようなものと私は思っています」
「人にも多かれ少なかれ闇の部分があります。それも含めて人ですから……後はそれとどう向き合っていくか? でしょう?」
中央の4マスに駒を進めるUisca。駒を失う可能性はあるが、ここを支配していれば、有利に進めるからだ。
「……Uiscaさんは厳しい人ですね。そして、純粋です」
一手。クィーンが中央を迂回した。
次にUiscaの順番と共に『亜人の襲撃』。サイコロを振った結果、不運にもUiscaは駒を失う形になった。
「……両取りです、ね」
駒を失う事により、その形となった。Uiscaは本気で挑んだつもりなのだが、彼の方が一枚上手だったようだ。
(そして、運も持ち合わせている様なのです)
Uiscaはそんな事を思うのであった。
●オキナ
そこは物静かな居酒屋であった。
「ノゾミの様子はどうじゃ? 元気しとるか? 前に比べれば活発というか、お転婆さんになってきとる気もするが……」
「人間、自信を持つと、小生意気にはなってくるものじゃ」
答えながら、オキナは次の料理に手を伸ばした。
「オキナには家族がおったと聞いておるが、ノゾミを重ねて見ておるのかや?」
「儂の子は、男だったしの。孫もおらん」
そんな視点ではノゾミを見ていない様だ。
「まぁ、儂は今年で80を数えるからの。儂から見れば、皆、子供みたいなもんじゃ」
……どっちなんだよと思わずツッコミを入れたくなる所をグッと堪える星輝。真剣な眼差しで訊く。
「ちと腹を割った話をしたいと思うての? ヌシは、誰かに心底従っておるわけじゃあるまい?」
「儂が従うのは、己の信念のみよ」
「ノゾミがこのままではどうなるか、ヌシならば解っておるはずじゃな?」
ニヤッとオキナは笑う。
「人はいずれ死ぬ。儂もノゾミもな。儂にとって死ぬ事自体は問題ではない。それは、ノゾミ嬢ちゃんにとっても同じ事じゃ」
「死地か死期を悟っておると? どうじゃ、ワシは見た目は若いがコレでも50の年は生きとるババアじゃ。聞き役位はお手の物じゃて、吐き出してちぃとは楽にならぬか?」
「儂の方が30年近くは年上の爺じゃ。気持ちだけは受け取っておこうかのぉ」
星輝の頭をポンポンとオキナが小突いた。
「気になっておったのじゃが、何故名前を捨てておるのじゃ?」
その質問に、オキナは重々しく口を開いた。
「……凄く、儂に似合わない名前だからじゃ」
●リルエナ
冷やかな視線を感じ、原因は明らかに僕だねと樹は確信していた。
リルエナを心配して、あれこれ自分の言いたい事を伝えた。
彼女は、残していたものを大事にするあまり、それしか見えていなかった事に気がつき、むせび泣きだしたのだ。
「お父さん……アラン……ごめんなさい……」
意固地になっていたのは自分の方だったと。
娘を失った悲しみの父を、最愛の人を失い絶望していた姉の恋人を、大切な故郷を、そして、ひたすら戦いに身を投じた自分を、見捨てたのは自分自身だった。
「救わなくちゃ。ずっと泣き続けてきた自分を。生きなきゃ。お姉さんの分まで、笑顔でいられる世界で」
「……うん」
急にしおらしくなったリルエナの小さい頷き。
亜人の返り血で全身を濡らし、厳しい視線と凛々しい態度で戦場から戻ってくる女性とは思えない程の代り映えだ。
こうしていると、年下の少女にも見えなくもない。ついでに言うと、凄い谷間だなと、こんな状況なのに、ふと、樹は思った。
「その為なら僕は必ず手伝うよ。リルエナちゃんは一人じゃないから」
「ありがとう、樹。私は、もう一度、踏み出そうと思う」
涙を拭い、リルエナは新たな決意と笑顔を向けた。
「良かった。元気になってくれたみたいで。そうだ、少し、外を行かないか」
窓の外を指差す。そこには、一台の魔導バイクが留まっていた。
●川辺にて
辺りが暗くなり、焼き魚や西瓜を頬張りながら持ち込んだ花火で遊び始めた所で、Uiscaと星輝、オキナが合流した。
お酒も冷やしてあり、星輝とNonがオキナを挟む様に座ると酒盛りが始まる。
「いつもノゾミを見てくれてありがとうね」
酌をしながらNonはオキナにお礼を言った。
「そうか。あんたが、ノゾミの名の……」
「あたしは、あの子の幸せを望んでいるわ。でも、ぶつかる事もある。その時、ノゾミと戦わなきゃいけなくなる事があれば……それが怖いのよ」
「そうじゃな……」
しみじみとし、視線を酌まれた酒からはずした。
「オキナ、ヌシも何か言いたいことがあったら言うてこい♪」
星輝の言葉にオキナは静かに首を振っただけだった。
オキナの視線の先には、ノゾミがマヘルと一緒にいた。
「誰かの力になれる機導師ですか……」
質問に答えたノゾミの言葉を、マヘルは繰り返した。
「その誰かは、反目する時もあります……それでも、ノゾミさんは……小鳥遊さんと……戦う事ができますか?」
「……わからないです。マヘル様はどうなのですか? 私と戦えるのですか?」
困ったような顔を浮かべ、ノゾミは質問で返してきた。
(私は……ノゾミさんと戦う事ができるのでしょうか……?)
緑髪の少女をみつめる。純粋な瞳に自身の姿が写っている気がした。
口を開きかけた時、2人の首筋に急に冷たい物が当てられた。
「ひゃ!」
驚いて振り返ると、冷えた飲み物を手に持つ時雨が、笑顔を浮かべていた。
「しんみりしちゃってー。賑やかわいわい楽しく、色んな思い出作ればいいんだよー、一緒に居られる間はさ」
「……そうね。ありがとう、小鳥遊さん」
懸案事項はある。だが、今日はこれでいいのかもしれない。
そこへ、Uiscaが嬉しそうな表情浮かべて近寄ってきた。
「ノゾミちゃん、久しぶりだね。日記読んだよ」
そう言って日記をノゾミに手渡す。ノゾミは驚いた顔でそれを受け取った。
「私は、貴方が選んだ道なら、それを尊重するよ。ただ、因果は必ず巡ってくるから……。それだけは覚えておいて」
「はい……あ、ありがとうございます」
「それと、会えていないなら、時折イケメンさんにお手紙するようにね♪」
その台詞にノゾミは顔を真っ赤にして照れる。分かり易いほどの反応だ。
「毎日、無事を祈って唄っていたりするんですよ!」
それかっ! と内心思う、Uiscaとマヘルであった。
「Non様、私、強くなれるかな?」
「誰だって、守りたいもの為に強くなるのよ。けど、それを見つめ直す為にも、息抜きは、必要なのよ」
ノゾミの疑問にNonはそう答えると手持ち花火を渡した。その時、甲高い音と共に、花火が一閃していった。
「たーまやー!」
時雨の元気な声が辺りに響く。
「小鳥遊ちゃんったら」
Nonは怒っているわけではない。あの娘も思う事があって、それで、賑やかにしてる……そんな気がしていたから。
時雨が小走りに近付いてくる。
「楽しかったー? ノゾミー?」
「はい! 皆様のおかげで、とても楽しいです!」
魔導バイクのエンジン音が響いた。樹だった。1人乗りの所を無理矢理、後ろにもう1人乗っている。
と……走るには不安定な砂利道に入って、豪快に横滑りするバイク。投げ出される2人。
見守っていた誰もが叫ぶ。時雨は親指を立てていたが、驚いてパーになっていた。
バイクに乗っていた女性はリルエナであった。宙でクルクルっと素晴らしい運動能力と反射を見せて、スタッと着地する。
「「「お、大きいぃ……」」
全員が、着地の際に大きく揺れたそれの巨大さに驚く
一方の樹は当然のように砂利に転がった。覚醒状態なので、怪我はなさそうではあるが……。なんとか立ちあがったが、再びバランスを崩し転倒した。
「転びすぎよ」
笑顔で手を伸ばしてくるリルエナ。その手に掴まりながら樹は言った。
「リルエナちゃん、やっぱり笑った時の方が可愛いよ」
彼女の腕輪につけられている辺境の珍しい実が、優しく揺れた。
おしまい
激走する少女が1人。黒い髪が風に流れるのに任せる。
「ノゾミぃぃぃ!」
少女を見つけると、遠慮せずに正面から飛び付いた。
「し、時雨さん!?」
ノゾミは飛びついて来た時雨に驚いていた。
小鳥遊 時雨(ka4921)はノゾミのお友達である。街に滞在しているノゾミを探して走り回っていたのだ。
「もう、小鳥遊ちゃんったら、早いんだから」
そう言いながらも、息一つ切れてない様子で、Non=Bee(ka1604)が後からやってきた。
両手には今日の為に焼いたクッキーや飲み物、リゼリオ経由で手に入れた花火各種、更には、時雨の荷物まで持っていた。
大柄のお姉さんの様に見えるが、意外と肉体派かもしれない。
「Non様! それに、マヘル様も!」
ノゾミはNonと、その横に並ぶマヘル・ハシバス(ka0440)の2人の存在にも驚く。
「私もお邪魔させてもらいますね」
とニッコリと微笑みかけながら、マヘルは言う。しかし、内心は別の事を考えていた。
先日、ある依頼の中で出逢った歪虚。その歪虚の動きの中、マヘルは、ノゾミの歌声を聞いたのだ。
(きっと、気のせいじゃない……ノゾミさんのあの歪虚への思いは本物だから……それが……辛い)
そんなマヘルの心情をNonはさり気なく感じていた。
Nonもノゾミの行く末が気になっていた。本人に知れたら、困りそうな表情を浮かべそうだが……少し、娘を見る母親の様な気持ちが芽生えていた。
「……いやぁね、あたしも老けちゃったわぁ」
「どうかしたのですか?」
ノゾミが首を傾げて聞いてきた。思わず、言葉に出てしまっていたようだ。
「ちょっと、荷物を持ち過ぎて疲れたのよ~」
「よぉし! Nonが疲れる前に行こう!」
時雨は元気な声をあげると、川に向かって指差すのであった。
●軍師騎士
領主館の一室に案内された1人の巫女。
姉から頭の切れる騎士がこの街に滞在していると聞き、足を運んだのだ。部屋に案内されると、1人の痩せた青年が部屋で待っていた。
「はじめまして。ハンターのUisca Amhran(ka0754)と申します。軍師騎士と名高い騎士様のお話が聞きたくて参りました」
「青の隊所属の騎士ノセヤです。Uiscaさんのお名前は以前から存じ上げております」
昨年、王国を襲った歪虚の大規模な侵攻。その際の功績者を彼は把握していたようだ。
「私にできる事を行っただけですので。もし、よければ少し、付き合ってもらえませんか?」
チェス盤に掌を向けながら誘うUisca。騎士は微笑を浮かべ頷いた。
●戦慄の機導師
「おん? あの髭ジジイはもしや……。一人か……の?」
星輝 Amhran(ka0724)の視界の中に、見知った人物が視界の中に入ってきた。
白髪と白いちょび髭が特徴的な爺さんだが、歳不相応の動きで人混みの中を歩いている。
「おお、オキナ! 奇遇じゃな?」
声をかけると、オキナは驚いた顔をした。
「小さい子供に呼び掛けられたと思ったら、星輝嬢ちゃんかい」
「『嬢ちゃん』は不要かもしれんがの。暇じゃったら一杯付き合わぬか?」
「いいのう。良い店を知ってるから、そこへ行こうかの」
2人は通りの抜けて路地へと入って行った。
●北の戦乙女
視線を感じるとはこの事かと檜ケ谷 樹(ka5040)は思った。正確に言うと、隣にいるリルエナにだが。
「この前の依頼振りだったから心配してたんだよ。一緒に食事ができて良かった」
樹の言葉にリルエナは運ばれてきた料理に目を向けていた。
大きいパイシチューが二つ並んでいる。周りからのコソっとした視線は、その料理とリルエナの女性的なそれ、交互に向けられていたのであった。
「恥ずかしい所を見せた……」
パイの事ではない。この前の依頼、炎の亜人を追いかけた最後の事だ。
「……今のままなら、戦うのは控えた方がいい」
樹が優しい口調でリルエナに自分の想いを伝え始めた。
●川遊び
西瓜や飲み物などが川の水で冷やされている中、少女の笑い声が響いていた。
「二人とも足元気をつけなさいよ。切ったりしたら大変だわぁ」
帯をたすき掛けしたNonが川場で遊ぶ2人に向かって声をかける。
時雨が大きく手を振る。
「Non! マヘル! 笹舟流すよぉ!」
夜通し作ってきた沢山の笹舟を時雨は、ノゾミと一緒に流す。
「……あら、笹舟。かわいいじゃない」
流れてくるいくつもの小さい笹舟をNonがきゅんとしながらみつめていた。
マヘルは川の水で冷やしている飲み物を取ろうとして、引っ掛かっている一つの笹舟を元にもどす。
「笹舟を流したら、少し休憩しませんか?」
そして、顔を上げて呼び掛けた。
「は~い!」
時雨とノゾミが同時に返事をする。
「炭酸水もありますけどいかがですか?」
コップに注いだ炭酸水を2人の少女は受け取ると、風呂上がりでもないのに、腰に手を当ててコップに口をつける。
「ぷはー!」
2人が同じ様に口をあけた姿が、微笑ましくて、マヘルは微笑を浮かべた。
ノゾミは普通の少女とどこも変わらない――そんな風に見えたからだ。その時、少女から腹の音が響いた。
慌ててお腹を押さえるノゾミ。もちろん、止まらない。
「お腹空いたら魚でも採って食べましょう。きっと美味しいわぁ」
笑顔でNonがそんな言葉を少女に向けると、川の中にずんずんと入っていった。
川の中ほどに進んだNon。太陽の光をキラっと鱗が反射した刹那、豪快に川の中に腕を突っ込む。
「凄い……」
川辺で様子を見守っていた三人の言葉が重なる。さすが、肉体派。
「こういうのはおねーさんに任せなさい!」
「私も混ざるー。あっ!……ぎゃー!?」
時雨がはしゃぎ過ぎた結果、川にダイブしたのであった。
●ノセヤ
「先輩ですね。あまり関わりはありませんが」
軍師騎士が、駒の一つを動かしながら、Uiscaの質問に答えた。
「ノセヤさんも、ソルラさんのように、ハンターをよく信頼されると聞いていますが、なぜ、なのですか?」
「私の立てた作戦に、命を掛けて下さる……ならば、私は彼らを信頼する……そう決めているのです」
2人が行っているゲームはチェスと似ているものの、一つ、この街独自のルールがあった。
『亜人の襲撃』と称し、中央の4マスは定期的にサイコロを振り、不運な場合は、駒を盤上から取り除かれるのだ。
「亜人と歪虚についてどう思いますか? 特に、今、亜人の対処に追われている状況ですが」
「大峡谷の亜人は、今後、更なる大侵攻があると私は予見しています。歪虚に関しては……なんとも」
彼の駒は、敢えて中央の4マスには入らない。
「私は共存共栄が出来ないのかと思います。辺境では厳しい環境ゆえ魔獣や歪虚に汚染された土地等も利用してうまく付き合ってる……闇雲に駆逐するのはどうなのでしょうか?」
「亜人との関わりは基本、私もそう思いますね。ただ、歪虚に関してはあり得ません。我々と歪虚とは、水と油のようなものと私は思っています」
「人にも多かれ少なかれ闇の部分があります。それも含めて人ですから……後はそれとどう向き合っていくか? でしょう?」
中央の4マスに駒を進めるUisca。駒を失う可能性はあるが、ここを支配していれば、有利に進めるからだ。
「……Uiscaさんは厳しい人ですね。そして、純粋です」
一手。クィーンが中央を迂回した。
次にUiscaの順番と共に『亜人の襲撃』。サイコロを振った結果、不運にもUiscaは駒を失う形になった。
「……両取りです、ね」
駒を失う事により、その形となった。Uiscaは本気で挑んだつもりなのだが、彼の方が一枚上手だったようだ。
(そして、運も持ち合わせている様なのです)
Uiscaはそんな事を思うのであった。
●オキナ
そこは物静かな居酒屋であった。
「ノゾミの様子はどうじゃ? 元気しとるか? 前に比べれば活発というか、お転婆さんになってきとる気もするが……」
「人間、自信を持つと、小生意気にはなってくるものじゃ」
答えながら、オキナは次の料理に手を伸ばした。
「オキナには家族がおったと聞いておるが、ノゾミを重ねて見ておるのかや?」
「儂の子は、男だったしの。孫もおらん」
そんな視点ではノゾミを見ていない様だ。
「まぁ、儂は今年で80を数えるからの。儂から見れば、皆、子供みたいなもんじゃ」
……どっちなんだよと思わずツッコミを入れたくなる所をグッと堪える星輝。真剣な眼差しで訊く。
「ちと腹を割った話をしたいと思うての? ヌシは、誰かに心底従っておるわけじゃあるまい?」
「儂が従うのは、己の信念のみよ」
「ノゾミがこのままではどうなるか、ヌシならば解っておるはずじゃな?」
ニヤッとオキナは笑う。
「人はいずれ死ぬ。儂もノゾミもな。儂にとって死ぬ事自体は問題ではない。それは、ノゾミ嬢ちゃんにとっても同じ事じゃ」
「死地か死期を悟っておると? どうじゃ、ワシは見た目は若いがコレでも50の年は生きとるババアじゃ。聞き役位はお手の物じゃて、吐き出してちぃとは楽にならぬか?」
「儂の方が30年近くは年上の爺じゃ。気持ちだけは受け取っておこうかのぉ」
星輝の頭をポンポンとオキナが小突いた。
「気になっておったのじゃが、何故名前を捨てておるのじゃ?」
その質問に、オキナは重々しく口を開いた。
「……凄く、儂に似合わない名前だからじゃ」
●リルエナ
冷やかな視線を感じ、原因は明らかに僕だねと樹は確信していた。
リルエナを心配して、あれこれ自分の言いたい事を伝えた。
彼女は、残していたものを大事にするあまり、それしか見えていなかった事に気がつき、むせび泣きだしたのだ。
「お父さん……アラン……ごめんなさい……」
意固地になっていたのは自分の方だったと。
娘を失った悲しみの父を、最愛の人を失い絶望していた姉の恋人を、大切な故郷を、そして、ひたすら戦いに身を投じた自分を、見捨てたのは自分自身だった。
「救わなくちゃ。ずっと泣き続けてきた自分を。生きなきゃ。お姉さんの分まで、笑顔でいられる世界で」
「……うん」
急にしおらしくなったリルエナの小さい頷き。
亜人の返り血で全身を濡らし、厳しい視線と凛々しい態度で戦場から戻ってくる女性とは思えない程の代り映えだ。
こうしていると、年下の少女にも見えなくもない。ついでに言うと、凄い谷間だなと、こんな状況なのに、ふと、樹は思った。
「その為なら僕は必ず手伝うよ。リルエナちゃんは一人じゃないから」
「ありがとう、樹。私は、もう一度、踏み出そうと思う」
涙を拭い、リルエナは新たな決意と笑顔を向けた。
「良かった。元気になってくれたみたいで。そうだ、少し、外を行かないか」
窓の外を指差す。そこには、一台の魔導バイクが留まっていた。
●川辺にて
辺りが暗くなり、焼き魚や西瓜を頬張りながら持ち込んだ花火で遊び始めた所で、Uiscaと星輝、オキナが合流した。
お酒も冷やしてあり、星輝とNonがオキナを挟む様に座ると酒盛りが始まる。
「いつもノゾミを見てくれてありがとうね」
酌をしながらNonはオキナにお礼を言った。
「そうか。あんたが、ノゾミの名の……」
「あたしは、あの子の幸せを望んでいるわ。でも、ぶつかる事もある。その時、ノゾミと戦わなきゃいけなくなる事があれば……それが怖いのよ」
「そうじゃな……」
しみじみとし、視線を酌まれた酒からはずした。
「オキナ、ヌシも何か言いたいことがあったら言うてこい♪」
星輝の言葉にオキナは静かに首を振っただけだった。
オキナの視線の先には、ノゾミがマヘルと一緒にいた。
「誰かの力になれる機導師ですか……」
質問に答えたノゾミの言葉を、マヘルは繰り返した。
「その誰かは、反目する時もあります……それでも、ノゾミさんは……小鳥遊さんと……戦う事ができますか?」
「……わからないです。マヘル様はどうなのですか? 私と戦えるのですか?」
困ったような顔を浮かべ、ノゾミは質問で返してきた。
(私は……ノゾミさんと戦う事ができるのでしょうか……?)
緑髪の少女をみつめる。純粋な瞳に自身の姿が写っている気がした。
口を開きかけた時、2人の首筋に急に冷たい物が当てられた。
「ひゃ!」
驚いて振り返ると、冷えた飲み物を手に持つ時雨が、笑顔を浮かべていた。
「しんみりしちゃってー。賑やかわいわい楽しく、色んな思い出作ればいいんだよー、一緒に居られる間はさ」
「……そうね。ありがとう、小鳥遊さん」
懸案事項はある。だが、今日はこれでいいのかもしれない。
そこへ、Uiscaが嬉しそうな表情浮かべて近寄ってきた。
「ノゾミちゃん、久しぶりだね。日記読んだよ」
そう言って日記をノゾミに手渡す。ノゾミは驚いた顔でそれを受け取った。
「私は、貴方が選んだ道なら、それを尊重するよ。ただ、因果は必ず巡ってくるから……。それだけは覚えておいて」
「はい……あ、ありがとうございます」
「それと、会えていないなら、時折イケメンさんにお手紙するようにね♪」
その台詞にノゾミは顔を真っ赤にして照れる。分かり易いほどの反応だ。
「毎日、無事を祈って唄っていたりするんですよ!」
それかっ! と内心思う、Uiscaとマヘルであった。
「Non様、私、強くなれるかな?」
「誰だって、守りたいもの為に強くなるのよ。けど、それを見つめ直す為にも、息抜きは、必要なのよ」
ノゾミの疑問にNonはそう答えると手持ち花火を渡した。その時、甲高い音と共に、花火が一閃していった。
「たーまやー!」
時雨の元気な声が辺りに響く。
「小鳥遊ちゃんったら」
Nonは怒っているわけではない。あの娘も思う事があって、それで、賑やかにしてる……そんな気がしていたから。
時雨が小走りに近付いてくる。
「楽しかったー? ノゾミー?」
「はい! 皆様のおかげで、とても楽しいです!」
魔導バイクのエンジン音が響いた。樹だった。1人乗りの所を無理矢理、後ろにもう1人乗っている。
と……走るには不安定な砂利道に入って、豪快に横滑りするバイク。投げ出される2人。
見守っていた誰もが叫ぶ。時雨は親指を立てていたが、驚いてパーになっていた。
バイクに乗っていた女性はリルエナであった。宙でクルクルっと素晴らしい運動能力と反射を見せて、スタッと着地する。
「「「お、大きいぃ……」」
全員が、着地の際に大きく揺れたそれの巨大さに驚く
一方の樹は当然のように砂利に転がった。覚醒状態なので、怪我はなさそうではあるが……。なんとか立ちあがったが、再びバランスを崩し転倒した。
「転びすぎよ」
笑顔で手を伸ばしてくるリルエナ。その手に掴まりながら樹は言った。
「リルエナちゃん、やっぱり笑った時の方が可愛いよ」
彼女の腕輪につけられている辺境の珍しい実が、優しく揺れた。
おしまい
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依頼相談掲示板 | |||
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【相談卓】ウィーダの街にて 小鳥遊 時雨(ka4921) 人間(リアルブルー)|16才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/08/02 22:07:47 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/29 00:15:02 |