THE LAST LIVE

マスター:蒼かなた

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/08/04 19:00
完成日
2015/08/10 06:53

みんなの思い出

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オープニング

●ロックの王
 歪虚支配地域――アルナス湖北の古城、そこはとある歪虚の住処である。
 光の差し込まない城内は薄暗く、石造りの廊下には過去の栄光の痕跡であろう壊れた調度品が転がっている。
 闇に飲まれたような廃墟の城の奥、王座の間にいるのは1人の老人だけ。
 王座に座っている黒いスーツの老人は、まるで眠るかのように目を閉じて、ただ浅く息をしている。
 その体は酷く傷ついていた。黒いスーツは新品であるように見えるが、その下から滲むようにして溢れる黒い血がその衣装を汚していく。
 老人――BADDASは僅かに顔を顰めた。燃えるように傷口が傷む。人という弱き者に刻まれた、大小様々な傷が熱を持ちその身を焼く。
 その痛みに、BADDASは笑った。かつて辺境の部族を潰して回った時も、終ぞこのような心と体の猛りを味わったことはない。
 生というものが失われたはずのこの体で、心臓が高鳴り、頭の中を駆け巡る無数の管が脈動し、そのリズムを刻んでいる。
 BADDASには聞こえていた。遥か昔、この身が歪虚として作り上げられたあの時に感じた、魂を震わせるハードロックなあの音楽を。
 それはこの体が崩れ去ろうが、その先に己の死が待っていようが構わない。あの時と同じ、いや、あの時を超える最高の8ビートを奏でられれば、それでいいのだ。
 その最後の演奏を行うのに、この場所はまさにうってつけの場所だ。歪虚に支配された地に立つこの城に辿り着ける者は、強者以外に他ならない。弱者はこの城すら目にすることなく、全て淘汰されてしまうだろう。
 そして王座という特別な空間に立ち入れるのは、たった数人の選ばれし者だけ。その選ばれた者こそが、BADDASの最後の演奏に立ち会うことを許される。
「来い、ハンター達。最高の最後を見せてやろう」

●最高の観客達
 BADDAS討伐――先のナルガンド塔を巡る争いの末、敗北し逃走した彼の者を討ち取る為の作戦が打ち出された。
 あの歪虚の逃げた先、未だに歪虚が支配する地のその向こうに1つの古城があることが判明した。
 これまでのBADDASとの遭遇ポイントや、彼が塔へと至った道から考えるに、そこが奴の拠点であることは間違いないだろう。
 BADDASのような強力な歪虚を野放しにしておくわけにはいかない。もうじき始まる東方での動乱の最中に、もしまた現れて暴れられでもしたら、その被害は甚大なものになる。
 今、そのBADDASは手傷を負っている。その傷が癒える前に討つには、奴の居城へと乗り込まなくてはならない。
 途中に襲いくる歪虚を全て避けるのは難しいだろう。だがそれでも、チャンスは今しかないと言える。
「まっ、そーゆーわけだから露払いは俺らの仕事ってわけだ」
 グレートソードを振るい、熟練ハンターのブレアは1匹の雑魔を切り捨てた。
 他にも数名のハンター達が、獣の如く襲い掛かってくる雑魔を相手にしている。中央にいる数名のハンター達を守り、戦わせない為に、己が傷つくことを厭わずに全力で戦っている。
 そんな折、ハンター達の進む正面の茂みが揺れた。新手か、そう思い構えたブレアの前に、一度見たことのある首の長い特徴的な動物、いや歪虚が姿を現した。
「お前はBADDASの相棒の……確かキキとか言ったか」
 キキはそれに答える様にして、蹄で地面を1度叩く。新手の登場かと、どう攻めるか考えていたブレアだったが、キキは突然背中を向けて茂みの中へと入っていく。
「……何のつもりだ?」
 ブレアは勿論、他のハンターもその奇行に首を傾げる。暫くするとキキはまた茂みから顔をだし、その目でじっと、守られているハンター達をその瞳に映した。
「なるほど、どうやら招待されてるようだ、ぜっ!」
 ブレアは飛び掛ってきた雑魔の首根っこを掴み、地面に引き倒す。そして背中で守っていたハンター達に告げた。
「あの爺の性格からして罠ってことはないだろう。大手を広げて歓迎してくれるんだろうぜ」
 倒れている雑魔に剣を突きたてながら、ブレアはハンター達に促す。
「行って来い。決着をつけて来な!」
 ブレアの言葉を受け、ハンター達はキキの後を追うことを決意した。

 数分もしないうちにキキとハンター達は苔むした古城の入り口の前へと辿り着く。
 そしてその入り口を潜り、カツカツと石の廊下を進んで行ったその先には、開けた大きな部屋があった。
 松明の炎に照らされた部屋の奥。揺れる明かりが、王の席に座っている老人の姿を浮かび上がらせた。
「さあ、ラストライブの時間だ。覚悟はできているな?」
 BADDASがそう問う間に、部屋中に設置されていた燭台に一斉に火が灯り、部屋の中を眩しいくらいに照らし出す。
「いくぞ……ロックンロールだ」
 大音量のロックが王座の間に響き始めた。

リプレイ本文

●ロックビートを掻き鳴らせ
「上等だ」
 耳を劈くような大音量が流れる王座の間で、ウィンス・デイランダール(ka0039)はお決まりの一言と共に走り出した。踏み出す足元から滲み出る銀を紅へと染めながら、ウィンスは笑みを浮べる。
 その隣に、大量の羽毛で顔を覆ったミミズク姿の戦士――岩井崎 旭(ka0234)が並ぶ。
「ヤベーな、ゾクゾクするぜ。こっちは任せろ。そっちは任せた」
 ぶるりと体の芯から震えてくる衝動を押さえ込み、旭はBADDASの隣にいるキキに視線を向けてから言葉を告げる。
「任せろ」
 ウィンスはその一言だけ返し、そして並走していた2人は飛び跳ねるようにして互いに距離を取る。
 その瞬間、2人のあと一歩踏み出そうとしていた床の石畳が砕け散る。2人は何度も見たBADDASのあの不可視の一撃の射程内へと入り込んだことを本能で覚る。
「今度は途中退場ってのは無しなんだね!」
 テンシ・アガート(ka0589)が叫ぶようにBADDASに語りかける。BADDASがその姿を瞳に映せば、ニヤリと笑みを浮べた。
「熱い魂を持つ人間よ、語る必要があるか? それくらい魂で感じろ」
 テンシの体に衝撃が奔る。強烈なボディブローを食らったかのように、体を「く」の字に曲げて後ろに弾き飛ばされた。
 だがテンシはそのまま床に倒れることはなく、靴底で石の床を削りながら踏み止まり、BADDASへ向けて顔を上げた。
「そうだね。倒すよ、あなた達を!」
 笑うBADDAS、その体目掛けて紅蓮の炎が迫る。BADDASは手にしている白い杖を頭の上まで振りかぶると、その火球を思いっきり殴りつけた。それだけで、並の歪虚なら骨ごと焼き尽くす炎はただの火の粉となって霧散した。
「良い炎だ。開幕のイベントには丁度いい」
「ありがとうございます。けど、これがラストライブなのでしょう?」
 古びた枝のような杖を手にするエルバッハ・リオン(ka2434)は、胸元の薔薇の紋様に手を触れるとそこから赤い軌跡を抜き出して、自身の目の前の空間に魔法陣を編みこんでいく。
「それなら望みどおりにこれで終わりにしてあげます。次の開幕はありません」
「強気だな。ならばお前の全力をぶつけてくることだ」
 赤の魔法陣から放たれる炎球と、不可視の衝撃がぶつかる。炎は弾け飛び、そばにあった柱に罅が入り、王の間を茜色で照らし出す。
 その間に、王座へと続く階段を駆け上がる豪奢なドレスを身に纏う女性、フラメディア・イリジア(ka2604)がいた。
 フラメディアは最後の段を登ると同時に飛び上がり、華麗な赤が翻ってBADDASに迫る。
「決闘には誂え向きな演出じゃ。さあ、まずは我と踊って貰おうかの!」
「いいだろう。俺のビートに着いてこれるか?」
 振りかぶったフラメディアの一撃に、BADDASはその杖をかざしてそれを受け止めた。

「さあ、開演だ!」
 アルバ・ソル(ka4189)は小型マイク型の杖に叫ぶ。増幅された音は王の間に響き渡り、同時に生み出されるマテリアルの矢が王座へと放たれる。
「――!」
 キキが音無き声を上げる。空気は揺れ、迫る白き矢は目標を捕らえる前にまるで分解されるかのようにしてその姿を消してしまう。
「魔法への対策はバッチリということか。このライブ、どうやら心より楽しむことができるようだ」
 魔法がかき消される様を見て、久延毘 大二郎(ka1771)はいつも以上の興奮に体が勝手に動き出そうとするのを押さえながら、努めていつも通りにその指し棒型の杖を振るう。
 放たれる炎の矢は合わせて3本、それをただ愚直に一直線にキキへと向けて射出する。
「――!」
 また、キキはその声を鳴らす。迫る炎は何も焼くこともなく、ただのマテリアルの残滓となって消えて行く。
 だが、それでいいのだ。大二郎の掛ける眼鏡のその先に、王座への階段を駆け上がるウィンスの姿があった。
 七色の刃が弧を描くようにして上段から振り下ろされる。キキは首を後ろへと逸らしてそれを避けるが、グレイブの一撃はそのまま床を叩いてその足場を砕いた。
 僅かにバランスを崩すキキ。その横合いから、鉄馬の唸りが響き渡る。
「взрыв」
 囁くような澄んだ声でジークリンデ(ka4778)は言葉を紡ぐ。ヤドリギの杖の先から放たれた小さな火球が一直線にキキの胴体へと接近し、接触と同時にそのエネルギーを開放して爆炎となって広がる。
「――ッ!」
 キキの体が僅かにだがよろめいた。魔法攻撃は有効である。それを確認したところで、アルバ、大二郎、ジークリンデは射線を交えないようにそれぞれの位置に移動を続けながら魔法による飽和射撃を繰り返す。
 そしてその対応に追われているキキの首を刎ねんと、ウィンスのグレイブが真横一文字に閃いた。
「あまり俺の相棒を苛めないでくれないか?」
 だが、その一撃がキキの首に触れるか否かのところでウィンスの体が地面へと叩きつけられる。
「糞が……っ!」
 ウィンスの燃える紅の瞳と、BADDASの赤く濁ったような瞳が交わった。悪態を吐いた所でウィンスの体はさらにもう一撃、地面へとめり込む程の重圧が加わる。
「余所見をするのは良くないんじゃないかな!」
 テンシのマテリアルを纏わせた鋼鉄のワイヤーがBADDASを襲う。だが、BADDASはそのワイヤーを素手で掴む。
「やべぇわ。BADDAS! この震え、止まらねぇ! もっとだ、もっと楽しませろよ!」
「ならばその震え、魂にまで届かせろ」
 旭は鍛え抜かれた破軍の一振りを、筋力を全開にしてただただ振り降ろす。BADDASはそれに応え、スーツ越しでも分かるほどに筋肉を膨張させた腕と共に白き杖を振り上げた。
 旭の体が天井の岩板を一枚砕いたところで、その背へと回り込んでいたフラメディアの巨人の手斧がBADDASの右足を強かに叩いた。
「ぐっ――!?」
 予想外に右膝を着いてしまったBADDASは、手にした杖を背後へと向けて振り抜く。
 だがその一撃を待っていたかのようにフラメディアはBADDASの肩に手を置くと体を跳ね上げて宙へと身を躍らせ、そして逆さまになったBADDASと顔を合わせたところで背へと回していた巨斧をその横顔に叩きつけた。
「ククッ、体が思わず震えてしまった。いいビートを持ってるな、女」
「そなたの魂まで届いたかの?」
「ああ、十分だ」
 ニィと笑うBADDAS。それとほぼ同時にフラメディアの顔の巨大なハンマーにでも殴られたかのよう不可視の一撃が入る。
 そのBADDASの笑みを浮べる顔を、何度目かの紅蓮の炎が照らし出す。
「私はこの炎で幾度もの戦場を潜り抜けてきました」
「そうか。ならば、余興として扱うわけにはいかないようだ。来い」
「行きます」
 その頬にまで茨の棘の紋様を広げたエルバッハの火球を、BADDASは打ち払うことなくその身に受けた。
 巻き上がる爆炎は容易くBADDASの体を飲み込んだ。だが、音楽は鳴り止まない。爆音を掻き消すロックミュージックは衰えることなく、王座の間に響き渡る。
「燃えるような熱さ。あの時を思い出すな」
 顔の半分が焼け焦げているにも関わらず、BADDASはそれでも笑みを見せた。

●Rock'n'Roller
 古城での激闘は続く。その中でBADDASはジークリンデとアルバに目を付けた。
「お前達は俺のロックの邪魔だ」
 それはロックで満たされたこの場所で、不協和音を作り出しているジークリンデのバイクと、アルバのマイク型の杖へと向けられていた。
 それは純粋な怒りであり、そして気に食わないものは叩き潰すというBADDASの純粋な行動理念に基づく行動だった。
「それはこっちの台詞だ!」
 咆えるアルバ。その瞬間、BADDASが飛んだ。それまで王座から離れなかったBADDASは床を蹴り、凄まじい速度でアルバに接近する。
 アルバはすぐさま術を行使し、目の前に石壁を生み出す。だが、それは僅か1秒も形を保てずに砕け散った。
「ぐっ、あっ!?」
 伸ばされたBADDASの腕に掴まれ、そしてそのまま床へと叩きつけられる。仲間からの援護の魔法が飛び、BADDASの体を傷つけるがそんなことはお構い無しに、床に倒れるアルバの腹部をBADDASはその靴底で踏みつけた。
「さあ、次だ」
 BADDASの姿が掻き消え、そこには砕かれた床と煙だけが残される。
「ぐぅっ!?」
 気づけば、ジークリンデのバイクの前輪が拉げていた。そのまま横転したバイクは壁にぶつかって炎上する。
「女、次にロックを聞くときは魂で聞け」
 その言葉と共に、ジークリンデの全身が締め付けられる。全身の骨が砕けるような音と共に、その意識は暗転していった。
 僅か数十秒の間に、2人のハンターが行動不能に陥ってしまった。だが、その間にハンター達も手を拱いていたわけではない。
「流石だな、BADDAS氏。あなたは強い。だが、私達もまた強いのだよ」
 そう口にした大二郎の後ろでは、血塗れになって倒れているキキの姿があった。微かに息はあるが、その体から流れ出る負のマテリアルの様子から見て、BADDASは目を細めた。
 BADDASはゆっくりとキキへと歩み寄っていく。ハンター達は距離を取り警戒するが、BADDASはその誰にも一瞥もすることもなくキキの元へと寄り、膝を着いてその頭を撫でた。
「よく付き合ってくれたな、相棒よ。次でラストの曲だ」
「――」
 その言葉と共に、キキの体から零れ出ていた力がBADDASへと注ぎ込まれていく。キキの体は薄れて行き、そしてあっという間にその姿を消していった。
「さらばだ、相棒」
 BADDASは立ち上がり、そして王座の間からハンター達を改めて一瞥する。
「行くぞ、人間達よ。これがラストソングだ」
 その言葉と共に、BADDASから負のマテリアルの波動が放たれた。全員の肌を粟立てるような、圧倒的な力が開放される。
 王座の間に現れた1体の巨人、BADDASというロックの王の真の姿が解き放たれた。
「待ってたんだ、この時をよっ!」
 そのBADDASに真っ先に挑みかかったのはウィンスだった。前回の戦いの最後が頭を過ぎる。その結末に体が震える。
「聴かせろっ! あん時みてーに……その拳でッ!」
「やはり、ロックだ」
 BADDASはそれに応えた。巨岩のような拳を握り、矮小な人間へ向けてその拳を振り下ろす。
 一合、ウィンスの利き腕が悲鳴を上げる前にへし折れた。だが、腕はまだあと一本残っている。
「何度も言わせるな。これは、魂の、反逆だ……ッ!!」
 二合、その刃がBADDASの拳に突き刺さる。確かな手応え、確かな傷。
 ウィンスはそれを確かに与えたことを確認したと同時に、拳を引かずにそのまま振りぬいたBADDASの一撃をその身に受けて、王座の間の入り口まで吹き飛ばされていた。
 それに続くように、旭とフラメディアがBADDASの元へと接近して行く。その後ろでは、エルバッハと大二郎が肩を並べてBADDASを見上げる。
「合わせるよ、リオン君」
「それは気侭な風に聞いてください、久延毘さん」
 そう口にしながらエルバッハは、大二郎と同時に風魔法を完成させる。放つ風の刃が狙うのは、巨人化しても変わらずそこにある大きな右足の傷だ。
「打ち砕かせて貰うぜ、BADDAS!」
 傷口を抉られて僅かに怯んだBADDASの胴体に、旭の巨斧が叩き込まれる。深くはない、だが浅くも無い傷口からは黒い瘴気のような煙が上がり始める。
 さらなる追撃を、そう思った時に全員の耳に甲高いギターの音が届いたのはほぼ同時だった。
 BADDASを中心に傍にあった石柱は粉々に砕け、床に残っていた正方形の石畳は全て粉砕されていく。
「まだまだぁ!」
 そこでBADDASの背後に回っていたテンシが跳んだ。その狙いに届かせる為に、腕を伸ばす。
 だが、その空中にあった体をいとも容易くBADDASは掴み取った。
「ぐあぁぁあああぁぁ!?」
 テンシの体から急速にマテリアルが消失していく。生きたままに体中の肉を引き千切られていくような痛みは、悲鳴を上げていなければ一瞬で意識を飛ばしてしまっていただろう。
 その中で、テンシは目を見開いてBADDASの目を見た。そして、その目に向かって腕を伸ばす。
「これがぁ、とっておきだあぁぁぁ!!」
 テンシの腕、いやその服の袖から1匹のパルムが飛び出した。マテリアルを纏ったその体を持って、パルムはBADDASの瞳へと飛び込んだ。
「ぐおおぉぉ!?」
 BADDASが顔を抑えて痛みに叫ぶ。その片目は潰れ、焼け爛れたかのような痕が残っている。
「ざまあみ――」
 全てを言い終える前に、テンシの体は地面に叩きつけられていた。BADDASの残った瞳は爛々と赤く光る。
「そろそろ雌雄の時のようじゃの、BADDASよ!」
「そのようだ。だが、終奏が終わるまでが一曲。しっかりと聞いていけ」
 BADDASの腕一本を半ばまで傷つけたところで、フラメディアの体が四方からの重圧に晒される。まるで見えない巨人の手に掴まれているように、その体が握り潰される。
「うおおおぉぉぉ!!」
 そこに旭が飛び掛った。もはや言葉は無く、ただ死力を尽くしたその先にあるものを目指して一心不乱に手にしている武器を叩きつける。
 呼吸もせずに酸素はもはや限界で、視界が段々と薄れてくる中で、確かに見えたBADDASの胸元をマテリアルの光を灯した刃で抉り取った。
 そして、王の間のライブが終わりを告げた。

●主を失った古城
 BADDASは王座に腰掛けていた。その体は既に動くことは無く、その肉体もまた崩壊が始まっている。
「これで閉幕だね」
「いい、ライブだったぜ」
「……ああ」
 返す言葉はこれだけで十分だろう。
「アンコールは無し、だな」
「До свидания」
「お前達は、もっとロックを楽しめ」
 ロックは、もっと魂で感じなければならない。
「強き者との決闘、感謝するのじゃ」
「満足するな。強い奴は腐るほどいる」
 礼はいらない、ロックにそんなものは似合わないからだ。
「……」
「ロックを感じたか?」
「いや」
 強情な奴だ。自覚すればいいロッカーになれるだろう。
「最後の炎は必要でしょうか?」
「いいや、俺の魂は既にお前の炎より熱く燃えている」
 この炎が、俺自身を燃やし尽くすだろう。
「ライブという物はこれが初めてだったんだ。だが……楽しかったよ」
「……」
「これを機に、楽器演奏を趣味にでもしようかな。何かお薦めの楽器はあるかね?」
「それくらい自分の魂に聞け」
 ロックは人に教わるものじゃない。魂の震えを音に乗せればそれがロックだ。
 そして、BADDASという歪虚の体が崩壊した。後には何も残らずに、ただ白い杖だけが主を失った王座に足元に転がり落ちた。

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MVP一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダールka0039
  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭ka0234
  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジアka2604

重体一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダールka0039
  • 遥かなる未来
    テンシ・アガートka0589
  • 正義なる楯
    アルバ・ソルka4189

  • ジークリンデka4778

参加者一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • 遥かなる未来
    テンシ・アガート(ka0589
    人間(蒼)|18才|男性|霊闘士
  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎(ka1771
    人間(蒼)|22才|男性|魔術師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジア(ka2604
    ドワーフ|14才|女性|闘狩人
  • 正義なる楯
    アルバ・ソル(ka4189
    人間(紅)|18才|男性|魔術師

  • ジークリンデ(ka4778
    エルフ|20才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
フラメディア・イリジア(ka2604
ドワーフ|14才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/08/04 13:28:00
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/01 11:30:24