火中より這い出り蜥蜴

マスター:楠々蛙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/08/05 12:00
完成日
2015/08/10 21:54

みんなの思い出

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オープニング

「洞窟は、まだ見えんのかね」
「もう少し先になります」
 とある火山の中腹を行く、十数人の集団。彼らの目的は、最近になって活性化の兆候を見せているこの火山の調査にある。調査団の殆どは、当然研究者で構成されているが、登山ガイドと、そして護衛として帯剣したハンターが三人付き添っている。
「ああ、あれですよ」
 ガイドが指で示した先にあったのは、中腹から火口付近へと繋がっている洞窟だ。調査に必要な道具一式を抱えたまま、火口まで行く事のできる唯一の道であるらしい。
 一行は、先頭を二人、殿を一人のハンターで固めながら、ランタンの明かりを頼りに洞窟の奥へと歩を進める。
 分岐路の一切ない手狭な一本道を進み、開けた空間に出ると、先頭のハンターが奥に浮かび上がる影に気付いた。
「鰐……、いや蜥蜴か?」
 爬虫類である事は確か。形状は蜥蜴に酷似しているが、しかし、全長四メートルともなれば、些か以上に巨大過ぎる。あちらも、こちらには既に気付いている様子だ。じっと、こちらを睨みながら様子を窺っているのがわかる。
 ハンターが無言のままに、後ろに付いているガイドへと視線を向ける。受けたガイドが慌てて首を横に振る。見覚えがない、という事だろう。
「この山の固有種ではない、という事か。……拙いな」
 あれが突然変異体という事でもない限り、歪虚である可能性が高い。この火山には脅威度の高い害敵は存在しないという事だったからこそ──護衛という役割は兼任であり、本命は寧ろ高い身体能力を生かした力仕事にあったのだ──、今回の道程に向いた軽装備で臨んだのだが裏目に出てしまったらしい。
「どうしますか?」
 先頭を務める一人、新米ハンターである青年が指示を仰ぐ。それに、今回は長役を担う壮年の男が応えた。
「お前はここに。彼らの守りに付け。……我々二人で、仕留めよう」
 殿から先頭に出て来たもう一人──妙齢の女ハンターと視線を交わして、頷き合う。
 両者の得物は、共に長剣。
 左右に分かれて、大蜥蜴へと近付いて行く。
 想定外の敵、装備も心も準備はなし。
 とはいえ敵は一匹、蜥蜴に酷似した形状から、攻撃手段も想像が付く。細見の体躯から、高い機動力を誇る事が予測されるが、ぬらりとした体表に刃物の侵入を拒む事が叶うとは思えない。つまり捉えてさえしまえば、倒すのは容易。仮に歪虚化しているとしても、所詮は畜生。あちらが攻撃の為に接近して来たところを、後の先を取って反撃すれば良いだけの事。無論油断はならぬが、余計な緊張をする程の敵でもなし。
 という彼らの思考を、哂う事ができようか。例え、それが誤りであったとしても。現状で彼らに読み取る事のできる情報からそう判断してしまう事は無理からぬ話。
 今まさに臨戦状態にある大蜥蜴の体色──その燃える様な紅の姿から、その口腔より放たれし紅蓮の焔を連想しろというのはあまりにも酷というものだろう。
 だが現実は一切の手心なく、悪手を打った愚者の過ちを見逃さずに、相応の痛手を与える。
 烈火の責苦──
 蜥蜴──火蜥蜴が吐き出した火球が、長剣を構えながらにじり寄っていた女を襲う。
 ──灼火の苦痛。
「ギァア────!?」
 彼女を苛む火炎とは裏腹に、聞く者の心を凍えさせる苦鳴が洞窟内に木霊する。
「……っ!」
 味方の劣勢を見て取った青年ハンターが、一歩踏み出すが、
「動くな!」
 壮年ハンターの一喝が、それを制止する。彼らの任は護衛。今、陣形を崩してはならない。それにもう、彼女は助からない。苛烈なる火炎の猛威は、既に取り返しの付かない所まで彼女を浸食している。
「……参る」
 火達磨と化した彼女を意識から外し、冷静さを保った壮年のハンターが、火蜥蜴との距離を一気に詰める。が、彼我の間合いが零に達する前に、火蜥蜴の縦長の瞳孔が、ハンターを捉えた。
 剣身が火蜥蜴に届く前に、顎の奥から放たれたのは、扇状の火炎。
 迎撃の炎は、しかし、ハンターとて既に予測の範囲内。直進の軌道を切り替えて、横手に回避。この予測がもっと早くにできていれば犠牲を出さずに済んだものを、という後悔を切り捨て、今は敵を斬って捨てる為に、火蜥蜴の横合いに回り長剣を振るう。
 必殺のマテリアルと殺意を込めた刃の軌道は、しかし、空振りに終わる。
 すんでの所で、火蜥蜴が身を捩って回避してみせたのだ。刃を躱した火蜥蜴が、予測通りに素早く地面を這う。間合いが離れるが、追う事はしない。間合いが開けば、遠距離の攻撃手段を持つ火蜥蜴の独壇場に思えるが、火球にしても火炎放射にしても、火蜥蜴の口腔に火花が集う前兆が伴う。それを見逃しさえしなければ、回避は容易い。
 だが、火蜥蜴は火球も火炎放射も放つ事はしなかった。まさか、ハンターの思惑を読み取ったという事でもないだろうが。地を這う火蜥蜴は、壁を登り天井を伝う。
「厄介な……」
 独壇場と言うなら、この洞窟というフィールドこそ、それだったのだ。
 だが、洞窟の外までの誘導は難しいだろう。縄張りの外まで追いやった外敵をしつこく追おうとはしない筈だ。そもそも、火蜥蜴の脚力から洞窟の外まで逃れられるとも思えない。つまりは、ここで討つしか他に術はないのだ。
 ハンターの直上まで来た火蜥蜴が、天上から四足を離して、宙空へと身を躍らす。落下の過程で、火蜥蜴の総身が激しく発火。猛火に身を包みながら、ハンターを目掛けて身を投げる。
 頭上の熱に焙られながら、それでも冷静にハンターは刃を振るった。頭上を狙う、剣の重量が枷としかならない威力に欠ける斬撃。しかし、それでも容易く火蜥蜴の細首を刎ねてみせた。
 首と共に命を絶たれ、身を燃やす炎も消えた火蜥蜴の骸が地に落ちる。血濡れた音を立てて落下した死体は、やがて塵も残さずに空へと薄れ溶けて逝く。
 視線を火炎に蹂躙され、見るも無残な姿と成り果てた女ハンターへと視線を移し、何事かを口にしようとしたハンターだったが、しかし、感傷に浸る間すらなく、次の過酷な現実が彼の元へと訪れる。
 洞窟の奥から現れしは、五体の蜥蜴。その紅い体色から、先の火蜥蜴と同種である事は明らか。
「彼らを連れて逃げろ」
 新な敵を見据えたまま、壮年ハンターは青年ハンターへと呼び掛ける。
「しかし」
 命に対して抵抗の意思を見せる青年ハンターだが、
「行けぃ!」
 一喝を浴びて、一瞬躊躇いを見せた後に頷いた。後退していく一行を振り抜かぬまま見送って、長剣を構える。
「……推して参る!」
 豪、と迫り来る五つの火球を前にし、高らかに吼え立て、ハンターは長剣を振るった。

リプレイ本文

「この奥になります」
 ガイドを務める男が、光の届かぬ暗闇──口を開く洞窟を指し示す。
「歪虚とは、何処にでも湧き出るものなのですね」
 漣・優(ka5294)が闇の奥を見つめて呟いた。
「はい、奴らは本当に何処であろうと現れる。悲劇を振り撒く為なら、何処にでも」
 その呟きにラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)が応じた。
「つまり片時も油断はならないという事、明日は我が身とは良く言ったものですね。気を引き締めて掛からなければ」
 メリエ・フリョーシカ(ka1991)が腕を組みながら、赤い視線を暗闇へと向ける。
「そうですね。今回は先手を取られるものと覚悟しておくくらいが丁度良いでしょう」
 アティニュス(ka4735)が同様に腕組みしたまま、先見を立てる。
「油断大敵は当然だよ。何せこれ、リセットもコンティニューもできないんだから。死ねばそれまで、はいさよなら……、そんな事より、さっさと殺る事殺って終わらそう」
 ショウコ=ヒナタ(ka4653)が無愛想に締め括る。
「皆さん、お気を付けて。……彼らの仇をお願い致します」
 光源の用意や、消音の工夫を済ませて洞窟の奥へと歩を進めるハンター達を、ガイドが見送る。見送りの言葉は震えていた。彼とて思う事はあるのだろう。でなければ、危険の間近まで近付かなければならない案内役など、全うできなかった筈だ。
「任せといて。ガイドさんこそ、十分に気を付けて」
 霧雨 悠月(ka4130)が彼に向けて、笑顔で手を振った。


 息を潜めて気配を殺しつつ周囲を警戒しながら、一行は洞窟の奥へと進み一本道を抜けて、開けた空間まで辿り着く。
 各々、照明を持つ者は光線を足下に向け、アティニュスに至ってはランタンに薄絹を被せ、更に具足の要所要所に布を巻き付けてまで、隠密に徹している。
 しかし、今回の敵はこの暗闇の中で生まれ、育ち、そして歪虚と成り果てたのだ。
 斯様な存在が、夜目、聴覚、嗅覚といった、闇の中でも周囲を認識する術に長けていない事があろうか。現実はそれ程甘くも優しくも、そして温くもない。
 新たな獲物の到来を先んじて察知した洞窟の主が、一行を焼き殺さんと烈火を紡ぐ。
 だが、ハンター達とて、後手に回る事は想定の内。先に犠牲となった同僚達が、命と引き換えにもたらした情報を糧として此度の戦闘に臨んだ彼らに、踏める二の轍などある筈もない。
 暗中の一点、二点に集う火花を捉えて、ラシュディアが瞬時に土壁を作り出す。火花の集中点とハンター達とを結ぶ直線の中央に出現した土壁が、飛来して来た火球を阻む。
 二つの火球による爆熱と爆風を受けて、限界を超えた土壁が塵となって崩れ去った。
「二度の攻撃で、もう限界か。……無視できない火力です」
 己が張った盾をいとも簡単に破られたラシュディアが、苦々しく呟く。しかし、敵の先手を防ぐという目論見を叶えた。
「もう隠れる必要はないですね」
 メリエが告げ、ハンター達が隠密行動を解除。各々が光源を携帯し、光量を最大限にして洞窟内を照らす。
「さて、始めるとしようか」
 ショウコは、あらかじめカバーを取り外して発光が拡散する様にしておいたLEDを三本散りばめる様に投擲して光源を確保する。
「報告より、一匹少ない様ですが」
 闇を裂く光の中に浮かび上がった四匹の火蜥蜴を見て、前情報との相違を漣が告げる。
「一匹は別地点に? いえ……」
 ラシュディアが火蜥蜴の総身に刻まれた傷痕に気付いた。殆ど癒えている様だが、洞窟のあちらこちらに見られる岩石の融解した痕とも相俟って、この場で繰り広げられた激戦を十分に物語っていた。
「おそらく、最期まで残られたハンターが討ったのでしょう。……本当にお強い方だったのでしょうね。彼らの無念を晴らす為にも、この歪虚共は殲滅しなければ」
 杖を握る手に力を籠めて告げるラシュディアに、漣は頷く。
「はい。それでは僕は僕の役回りを」
 漣は、予めラシュディア、霧雨、ショウコに掛けておいた防性強化に続いて、更にメリエ、アティニュス、そして自身に運動強化の補助を付加。
 敵を知り、己を知れば百戦危うからず。己の未熟を誰よりも熟知している彼は、火蜥蜴との戦力差を正確に測り、今回は通路付近に陣取って味方の補助役に回る。

「さあ、弔い合戦と行きますか!」
 メリエが鬨の声を上げて、疾駆。
 彼女は、火蜥蜴の群体と付かず離れず──つまり最も火蜥蜴の注意を引き付ける距離を意識しながら立ち回る。接近する素振りを見せたメリエに対し、火蜥蜴が扇状の火炎を吐き出し迎撃。しかし、彼女は射程に踏み込まずに、また距離を取る。
 まずは、見。敵の一手一手から、付け入るべき間を、突くべき隙を見出す。
 その為にも火蜥蜴の敵意の的となる様に動くメリエだが、しかし、四匹の内一匹の視線が、彼女から逸れ、アティニュスを凝視する。正確には、彼女の腰に提げられた一振りの刀──水精を宿し妖刀を。火を宿す歪虚が、己と相反する属性を肌で感じ取ったのだ。
「歪虚の分際で、小癪な」
 火蜥蜴の口腔に火花が集う様子を視認したアティニュスが、回避の為に駆ける。
 火花が火炎へと昇華する前に、ショウコが用意しておいた水瓶を放り込んだ。しかし、たかが火花と侮るなかれ。集う火花は儚く目に映れど、歪虚が紡ぎし火種は既に苛烈。放られた瓶を呑み込み、中身の水を飲み干して、火花は火球へと転ずる。
「無駄か……。ごめん、死ぬ気で避けて」
「言われるまでもなくっ」
 火球が火蜥蜴の咢から解放される寸前に、アティニュスは地を蹴って全力で飛び退いた。遅れて火球が飛来。
 直撃を避けても尚、自身を襲う爆風と爆熱に煽られながらも、アティニュスは空中で体勢を直して、膝を着く事もなく着地……後に、すぐさま駆ける。
 今しがた彼女へ火球を放った火蜥蜴を目掛けて。他の三匹の警戒は、そう仕向ける様に立ち回るメリエへと集中している。まさに今こそが、
「好機」
 抜けば玉散る、氷の刃。
 その謳い文句通りに、抜き放たれた刀身の軌跡上で水滴が弾ける。常に水気を帯びた穢れる事なき妖刀を構えて、アティニュスが疾走。
 その軌道は円。その体捌きから放たれる斬線もまた曲線。
 刀身に捉えられる前に火蜥蜴が飛び退ろうとするが、
「逃がさないって」
「牽制くらいなら」
 ショウコ、漣の銃火が阻害する。
 それでも尚、火蜥蜴は斬撃を避けんと身を捩る。脚を浅く斬られながらも、どうにか死線を潜り抜けた火蜥蜴が今度こそ退こうとするが、脚を負傷し鈍った歪虚に更にもう一つ、死線が迫る。
 初太刀を放った刃が反転。続けた二太刀の軌道は刎頚。刃に籠める殺意は必殺。
 総身を火炎で覆い必死の抵抗を試みるも、虚しく首を刎ねられた火蜥蜴は塵と化して消えて逝く。
「凄いや、僕も負けてらんないね」
 味方の戦果を褒め称え、己を鼓舞しつつ、霧雨が群体の中心から最も外側に位置する火蜥蜴を正面に捉え、光源と刀を構えて地を駆ける。
 標的とされた火蜥蜴が、メリエから、接近して来る敵へと縦長の瞳孔を向き変える。
 火花を散らして、迎撃の火炎を放射。すかさずラシュディアが火蜥蜴の眼前に土壁を生成し吐き出された火炎が阻まれた。土壁は更に火蜥蜴の視覚に大きな死角を生み出す。
 四足獣の如きしなやかな動きで霧雨は跳躍し、土壁の上に着地した彼は、垂直の壁を駆け下りる様に落下。狼牙の刃紋が浮かぶ刀身にマテリアルを籠めて振るう。
「あちゃぁ、避けられた」
 渾身の一刀を火蜥蜴が回避。しかし、逃げ遅れた尾を根本から斬り飛ばした。

 事ここに至って、火蜥蜴達が己の不利を悟ったからなのか、散開する。
 尾無しになった火蜥蜴が、後衛組に向かって這い寄り、他の二体が壁を伝って天井へ。
 尾無しはショウコを正面に捉えて猛進。
 標的とされたショウコが騎兵銃を構えて、尾無しの進路に銃弾を撃ち込む。更に、漣の援護が重ねられて、尾無しの猛進の阻害を果たす。
 足を止められた尾無しは、接近を諦めて口腔に火炎を紡ぐ。だが、
「やらせるか、薄鈍」
 ラシュディアが放った稲妻が、尾無しを貫く。高い俊敏性を誇るさしもの火蜥蜴も、雷速の矢をベタ足の状態で回避する事は叶わない。
「こういう灼かれ方は初めてだろう? 痛いか、化物め」
 雷撃で神経を灼かれ眼球の濁った尾無しが、それでも尚、火花を集める。しかし、その額のド真ん中に、マテリアルによって貫通力を強化されたダーツが突き刺さった。
「どんぴしゃりだ。確かブルズアイ、って言うんだっけ?」
 止めの一投に貫かれて、尾無しの火蜥蜴が息絶える。

 天井を這う火蜥蜴の一体が、霧雨を標的に選んで四足を離す。火衣に身を包んで、霧雨を目掛けて飛び掛かる。
「来た来た来た来た、昂ぶってきたあ!」
 落ちて来る火蜥蜴に対して、霧雨は後方に跳躍。しかし、それは単なる回避行動ではなく、獲物を狩る獣の動作。
 彼は背後で垂直に立った土壁を踏み締めると同時に蹴る。
 三角飛びにて火蜥蜴の上を取った霧雨は、昂ぶる闘志とマテリアルを乗せた刀身で、空中の歪虚を胴の半ばで両断する。腹の中身をぶち撒けながら、火蜥蜴が落下。
「ふう、中々楽しかったよ」
 臓物ごと蒸発して逝く骸を見遣って、霧雨は満足気に笑みを浮かべた。

 最後に残った火蜥蜴が、天井からメリエを見下ろす。これまでの同胞達の散り際を看取った歪虚は、剣の間合いに入る事の恐ろしさ、銃火が開いた間合いを零にする事を、その小さな脳味噌で学習した。
 その上で、下に立つ敵を見る。得物は太刀が一本切り。あれならば、天井に貼り付く自身に、敵の攻め手が届く事は天地が引っ繰り返ったとしても有り得ない。
 そう判断して、火蜥蜴は敵に火球を放とうと、口腔に火花を生じさせる。
 火花が火球に転じた瞬間に、眼下の敵が刀を振るった。
 その行為を、無駄な足掻きと嘲笑う程の知性が火蜥蜴にあったとは思えないが、仮にそうだったなら、直後にその笑みは消えていた事だろう。
 有り得ない筈の衝撃が、火蜥蜴を襲ったのだから。
 完全に不意を突かれた火蜥蜴が、天井から地面へと落下する。
 パニック状態に陥りながらも、火蜥蜴は体勢を立て直して、先程まで見下ろしていた筈の敵を見上げた。
 陽炎を背負った彼女は、地に落ちた火蜥蜴へとゆっくりと真正面から、堂々と歩み寄って来る。
「どうした、蜥蜴? ご自慢の火で私を焼かないのか?」
 挑発の言葉を理解できたわけではなかろうが、間合いに踏み込んで来た敵に、火蜥蜴は火炎の放射を浴びせる。扇状の火炎が、間違いなく敵を包んだ。しかし、
「この程度か? お前の火力は。だとすれば──」
 緋色の火中に青き燐光が幾つも灯り、烈火よりも尚紅い人影が焔を引き裂き踊り出る。
「──温い」
 薙ぎ払う太刀によって、火蜥蜴の上顎が斬り飛ばされた。
「私の胸に抱く焔とは、比べるまでもなかったな」

 全ての火蜥蜴を殲滅して、メリエと霧雨が回復を済ませた後、一行は先日の火蜥蜴戦で亡くなったというハンター達の遺体と遺品を回収する。
 周囲を探索して見付かったのは、女ハンターの遺体と壮年ハンターの物であろう融けた長剣。
「さて、どうしましょうか。彼らの遺族の元へ送るべきだと思うのですが」
「んー、それよりもまず青年ハンターさんに届けた方が良いんじゃない?」
「そうですね。火蜥蜴討伐の依頼にも参加を希望していたと聞いていますし。その後、どうするのかは、彼に委ねるべきではないでしょうか」
 漣、霧雨、ラシュディア達が遺体と遺品をどうするか相談する傍らで、ショウコが骸を見下ろして呟いた。
「死神ってのは、いつでも隣で笑っているんだよ。……今更遅いけどね」

 遺体などをガイドが用意していた寝袋に収めて山を下りた一行は、討伐完了の一報を入れる為、ハンターオフィスへと向かった。
「彼は……」
 オフィスの入口前で、仕切りに周囲を見渡している青年を見て、ガイドが呟きを漏らした。
 青年がこちらに目を留め、近付いて来た。
「あんた達が、火山の歪虚を討伐しに向かったっていうハンター達か」
「はい。……それでは、あなたが前回の依頼に参加していたという?」
 漣が青年の問いに答えて、問い返す。
「……ああ。……それで、あんた達は討伐を済ませた帰りなんだな。……あの人達は?」
 一行は、彼に遺体を収めた寝袋と、融けた長剣を差し出す。
「この剣は……」
「男性の遺体は確認できませんでしたが、おそらく……」
 青年を気遣いながら口にしたラシュディアの言葉に、皆まで言わせずに青年が、力なく頷く。
「そう、だろうな。装備が整っていない中、あんな数の歪虚に囲まれたら、いくらあの人でも……」
「ですが、報告よりも歪虚の数が一体減っていました」
「それじゃ、あの人が?」
「ええ、おそらく。……彼らにもこの世に残した人がお在りでしょう。その方々に、彼らの最期を伝えて貰えますか?」
「俺が? ……それは」
 青年が長剣を受け取る事に躊躇う素振りを見せる。仕方のない事だろう。遺族に二人の死を伝える。それは、生き残った彼に──生き残ってしまった彼にとっては、針のむしろの様なものに違いない。
「どうしても無理でしたら──」
 苦渋の表情を浮かべる青年に、漣が声を掛ける。が、青年は首を横に振った。
「……いや、やるよ。それは俺がやらなけりゃ。それが一人生き残った、俺の責任だ。それを果たさなけりゃ、あの人達に顔向けできねえ。剣を握れなくなる、二度とハンターを名乗れなくなっちまう」
「……そうですね。差し出がましい真似をしました」
「いいや、迷った俺が悪いんだ。……これから、強くならなくちゃな」
「その意気だよ。お互い強くなろう。強くなって、先輩達の先へ進めば、それが何よりの手向けになるよ」
 霧雨が笑顔を向けて、励ましの言葉を掛ける。
 その笑顔に釣られて、ぎこちないながらも青年の表情へ僅かに明るさが宿った。
「ああ、そうだな。あの人達の先へ、きっといつの日か」
 俺はこんなに強くなりましたよと、恥じる事なく誇れる様に。

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MVP一覧

  • 強者
    メリエ・フリョーシカka1991

重体一覧

参加者一覧

  • 山岳猟団即応員
    ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779
    人間(紅)|19才|男性|魔術師
  • 強者
    メリエ・フリョーシカ(ka1991
    人間(紅)|17才|女性|闘狩人
  • 感謝のうた
    霧雨 悠月(ka4130
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士

  • ショウコ=ヒナタ(ka4653
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • 世界に示す名
    アティニュス(ka4735
    人間(蒼)|16才|女性|舞刀士

  • 漣・優(ka5294
    人間(蒼)|15才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
漣・優(ka5294
人間(リアルブルー)|15才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/08/05 00:08:51
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/01 19:14:30