【審判】孤軍暗躍

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/08/07 19:00
完成日
2015/08/18 20:58

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

 難題に向かい頭を抱えるというのは珍しくない。今起こっている問題はここ最近で言えば一番大きい問題の種だろう。王都イルダーナ中央にそびえる王城の奥まった一角、会議室に続く廊下でアイリーンは1人頭を抱えていた。こんな話、どこの誰とも共有できるわけがない。首脳会議で怒声が響く。どれが誰の声か、聞けば容易にわかる。なにしろ、あの場であそこまで剣呑な声を出せる女性は1人しかいない。やがて会議が終わり、2人の人物が廊下を進んでくる。
「事件の状況はどうなっている。騎士団側で対処を行った件も幾つかあるが、我々が持っている情報は少ない。実際、全て偶然の可能性もあるだろうが、そちらで何か心当たりは──」
「私は、これから東方へ赴きます。不在の間、警邏や再発防止策の対応は願いますが……余計なことはしないでください。決して」
 声を掛けたのが騎士団長エリオット・ヴァレンタイン、けんもほろろに突き放したのが聖堂戦士団長ヴィオラ・フルブライト。ヴィオラの表情は険しい。一般的に言う怒りは顔には出ていないが、恐ろしいほどに無表情だ。それが怒りのサインだとアイリーンは心得ていた。エリオットを置き去りにしたヴィオラは、アイリーンに気づくと大きく深呼吸して表情を和らげた。アイリーンはヴィオラの様子に気を止める素振りも見せず、一歩後ろから付き従う。
「アイリーン。例の事件は以後、騎士団と協力して事に当たることとなりました」
「……承知しました。情報共有の許しが下りたのですか?」
 巡礼者が狙われる心当たりに関する内容だ。大司教であるセドリックは当然把握している内容だが、エリオット及び騎士団は何も知らない。知らない上での調査は的外れになる可能性も高いがどうするつもりなのか。他の問題に影響を及ぼさないように早期解決を目指すため、騎士団と協力するという事は理に適っているが……。
「下りてはいません。方針は何一つ変わっていません」
 隠したはずの怒りが漏れ出してくるのをアイリーンは感じ取った。 ヴィオラは他者に怒りを向けることはほとんどない。ままならない現状に苛立ちや焦りを感じているのだと思う。もう一つあるとするのならば……
「事前に連絡していた通り、私はしばらくここを留守にします。私が帰るまでこの事件の調査は、貴方の裁量に任せます」
「はい。……私の裁量で本当に?」
「他の作業は他の者に割り振っておきます。貴方の得意な方法で動いて構いません」
 アイリーンは深く頭を下げてヴィオラを見送った。アイリーンは聖堂戦士団において若干異質である。彼女は覚醒者として、多くの聖堂戦士団員とはクラスが異なっている。聖堂戦士団はその名の通り聖堂教会の組織だけあって聖導士が多いが、彼女は猟撃士だった。また司祭としての地位も助教と最低ラインであり、その地位も形ばかりで実際に教会で講話をすることもない。他の聖堂戦士からは意識的にせよ無意識にせよ遠巻きに見られる一方、それでもなおヴィオラの懐刀として用いられるにはそれ相応の理由がある。
「騎士や司祭には出来ない戦い方、ですね」
 アイリーンの本領は諜報だ。戦場では斥候としても活躍するが、市街地にあれば人と人の間から情報を掠め取ることも出来る。アイリーンは枷をはずされた高揚を感じる一方、ヴィオラの感じる不安も重く見ていた。
「焦ってるのね……」
 苛立ちの正体はわかっている。エリオットにだけあのような怒りをぶつけるのも理解できる。彼女に必要なのは他者の憧憬でも畏怖でもない。彼女が真に欲して止まないのは……。
「…………」
 アイリーンは思考を打ち切り踵を返す。考えたところで、手を貸せるような話でもない。当人の問題でありそれを是とした環境の問題だ。きっかけさえあれば変わるかもしれないが、それもきっかけの形次第。気の重い話題を頭の隅に追いやりながら、アイリーンは歩みを速めた。



 巡礼団が狙われる事件が頻発しており、護衛をするハンターを雇いたい。そういう触れ込みの依頼に名乗りをあげたハンター達は、王都の宿屋で依頼者であるアイリーンに、巡礼を引率するエルマー司祭を紹介された。物腰柔らかで争いの不得意そうな司祭とハンター達が握手をかわした後、アイリーンは事も無げに物騒な話を始めた。
「彼らの巡礼団は囮です」
 ハンター達は互いに見交わしたり、居住まいを正したり。驚きはしたものの、その事態にうすうす気づいている素振りはあった。アイリーンはメンバーを見回すと、早速続きの話に移った。
「これまでの事件を調査した結果、敵は最低でも王都内部に内通者を抱えている可能性が高いとわかりました」
 巡礼者とただの旅行者を外見より見分ける術は存在しない。聖印を首から提げていればそれも可能だが、事件が噂となり聖印を首から下げるものは劇的に減った。だというのに一行に事件は収まる気配が無い。この前提で判別する方法は一つだけ。本人達に聞くことだ。であれば、王都内部にこれらを見聞きする存在がいることは間違いない。
「そこで今回、歪虚に協力する人物を誘き寄せるために、エルマー司祭の巡礼団に協力してもらうことになりました。皆さんにお願いしたい事は二つ。一つは巡礼団の護衛。もう一つは、巡礼者を狙う歪虚に協力する何者かの捜索です」
 段取りは以下のようになる。本日より三日後、同道予定の巡礼者と合流した後に教会で出発する旨を伝え、司祭は巡礼団を率いて隣の町へと出立する。この時に巡礼団は巡礼と関係ない旅人を装う予定となっている。護衛の役割はこれに同様の無害な旅行者を装い、敵を誘い込むことだ。もう一方の役割は歪虚に協力する者の捕縛だが、言うほどに簡単でないことは誰にも明らかだった。
「協力者に関しては現状、どこに伏せているかはわかりません。協力者が首魁なのか、ただの捨て駒なのかも不明です。居るだろうと推測しているのは、そこに居なければ憤怒の歪虚は巡礼者を見分けられない。という一点の根拠が理由です。また、今回はかの人物を洗い出すために、情報の流れを特定する必要があるため聖堂戦士団にも内密の仕事となります」
 教会にも、騎士団にも、勿論民間人にも。そのためにヴィオラはわざわざ、他の聖堂戦士に事後の仕事を割り振った。元々ヴィオラ不在時はアイリーンと他の団員の連携はあまり取れていない。聖堂戦士は正面からの戦闘は得意でも、こういう仕事に肯定的な者は少ない。
「空振りに終わるかもしれませんが、だからといって事件が起きてから動いていては間に合いません。いつまでも巡礼者に護衛をつける余裕もありません。潔癖な聖堂戦士では出来ない活躍を、皆さんに期待しています」
 アイリーンがまとめ終わると、ハンター達はもう一度互いに視線をかわす。誰が何を担うべきか。決めることは多い。状況を整理しつつ、ハンター達は相談を始めた。

リプレイ本文


 教会の朝は早い。日が昇り始める頃には朝の清掃が始まる。
 教会の周辺を掃き清めるのは住み込みの若い信徒達の仕事だが、それ以外にもボランティアで手伝う信者もいる。エイル・メヌエット(ka2807)は彼らの中に潜入することに成功した。
 善人ばかりで警戒心の薄い彼らのことなので、「病床の父親の快癒を祈るために」という美談はあっさりと受け入れられた。
 しかしそれは、聞き込みの難易度にも直結していた。
(よく言えば寛容、あるいは無関心。聞き込みは目立つかしら?)
 歪虚に内通した何者かを探して張り込んだが、巡礼者を見送る時の条件は同じだ。彼らもまた、信徒に紛れ込むのは容易い。ここからが彼女の注意力が試される。
 エイルは石畳にかかる土を丁寧に払い清めながら、視線を追うのに集中した。のどかな朝の風景の中、戦いは始まっていた。



 街が寝静まり日付の変わった頃。ハンター達は最後のミーティングを始めた。宿の2階の大部屋に集まり、両隣は貸しきっているため不在だ。外は念のため葛音 水月(ka1895)が見張りに立っている。
 開始早々、ヴァージル・チェンバレン(ka1989)は内通者が教会関係者でないかという疑いを発した。ウォルター・ヨー(ka2967)は苦笑いで、ギルベルト(ka0764)はにやついた顔で同意する。
『じゃあ変装してもばれてしまうの?』
 エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は心配そうにメモに走り書きを残す。彼女はこれまで巡礼者達と共に、衣装を合わせや演技の詳細を詰めることに時間を割いてきた。無為になる、あるいは逆効果になるのなら今からでも急ぎやり直さなければならない。メモ書きを回し読みして短い沈黙が訪れるが、出した答えは否であった。
「大丈夫じゃないかしら。警戒して大勢で出発したり、別の集団と合流したりは珍しくないみたいよ。特に疑われているような気配はなかったわ。ヴァルナはどう?」
「同じ意見です。特にそのことを聞いてくるような人はいませんでした」
 ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は巡礼に向かう旨を教会に報告して以降、可能な限り巡礼者と行動を共にし、同時に巡礼者からの情報流出がないかを聞き込みしていた。何度も目につく不審な人物は何名か居た。しかしこちらの素性を調べるような者は居なかった。
 もしかしたら遠巻きに観察していたのかもしれないが、その場合に備えてハンター達も商人や医者、あるいは同じ巡礼者の姿で作業している。警戒していないと考えて問題ないだろう。
「巡礼者の中に内通者が居る可能性はどうだ?」
 ユーロス・フォルケ(ka3862)は消去法で最後の可能性を投げかける。あまり考えたくないパターンだが、それはエヴァが否定した。
『少なくとも集まった人には居ない』
 一緒に作業をする中で、旅路への不安は何度も話題に出た。彼らに巡礼と言うことを伏せることに異議は無く、不必要な拡散を防ぐ心積もりが最初からあった。
 演技して紛れ込んでも互いの目もあるため単独行動は難しく、外へ情報を伝えるのは難しいだろう。
 しかし演技が完璧だった可能性も捨てきれない。説明しながら不安になったのか、エヴァは筆談用のメモの最後に『と思う』とだけ書き足した。
「絶対はない。だが人手は有限だ。可能性の高いところから当たるべきだろう」
 ヴァージルが総括して出発前最後のミーティングが終わった。出発前の準備は全員そのまま続行。調査の方針は変更無し。続々と席を立つ中、ギルベルトは終始嬉しそうに笑みを浮かべていた。部屋に残っていたエイルは不審な顔でギルベルトに視線を向けた。
「どうかした??」
「え? だってぇ、面白くなってきたじゃん?」
「……何の話?」
 ギルベルトは更に笑みを深くする。エイルからは口が裂けたかのようにすら見えた。
「内通者なんてさあ、ずぶずぶに腐ってる証拠じゃん。僕ちんそういうの大好きなんだよねぇ!」
 そして仕事も聖堂教会からとは思えない汚れ仕事一歩手前。依頼者は仮にも司祭とは思えない雰囲気の女。楽しくないはずがない。ギルベルトはエイルには構わず、ヒヒヒと笑いをこらえきれないと言った風情のままだ。
 エイルは呆れて物が言えなかった。ここまで露骨に人の不幸や世の混沌を楽しむなど、彼女には理解しがたいものだった。何を言っても返事は不快になるだけ。そう諦めて、エイルは黙って部屋を出て行った。



 行商とその使用人、医者という配役で一行は出発した。警戒はしながらも悲壮な雰囲気はなく、休憩時には雑談を楽しんだ。素人のような演技に加えて、横にはただの素人が実際に一緒に歩いている。遠巻きには戦いなれたハンターの気配は見えないだろう。
「――そんで聞いてくだせぇよ姐さん、そいつが――」
「あの……ウォルターさん……」
「なんでやしょ?」
「疲れませんか?」
 アイリーンはべたべたと絡んでくるウォルターにややげんなりしていた。もちろん、わかっている。これも演技で周囲を警戒する素振りを隠すためなのだと。それでも生来の底抜けに明るい会話が延々続くと疲れも出る。
『私、その話聞きたいです』
 エヴァがバトンタッチとばかりにメモを差し出す。エイルとヴァルナの演技は2人で完結している。であれば自分の出番に違いない。ウォルターは了解したとばかりに話をそちらに振り向けた。
「そうそう。それでそいつが貸した金を―――」
「……」
「―――。で、そしたらそいつ言うに事欠いて―――」
 今度は徐々にウォルターが疲れてきた。興味津々聞いてる振りは良いとして、今まであった相槌が無いのだ。首を縦に振って相槌の代わりにしているが、どうにも間を取るのが難しい。話の緩急が付かないのだ。ウォルターがそうやってへばっていくのを、周りは笑いながら眺めていた。
 ふと、ヴァルナの笑いがぴたりと止まる。森の向こうを見ていたヴァルナは、嫌な予感に襲われ素早く立ち上がった。嫌な予感の正体は、探していたアンズーに似た歪虚だった。
「逃げて!」
 ヴァルナが警告を発すると巡礼者たちは慌てて馬車の中へと逃げ込んでいく。馬車は別に鋼鉄で覆われているわけでもないが、固まって頭を低くしてくれているなら充分に守りきれるだろう。無関係を装っていた仲間たちは、エイルとヴァルナ、ヴァージルと葛音と巡礼者以外を装っていた2組が逃げるふりをして茂みに入っていく。
 残った5人、エヴァ、ウォルター、ユーロス、ギルベルト、そしてアイリーンは隠しもっていた武器を構え馬車の前に立ちふさがる。
 人間相手であれば対応の早さに警戒したところだが、虎の顔と鷲の体を持つ巨大な歪虚はお構い無しに突撃してきた。
 巨大な鉤爪を受けたのはユーロスだ。まだ剣を抜いておらず、鞘で受け止めている。仲間が敵を見つけて追撃に入るまでは演技を続ける必要があった。追撃班はその点、非常に優秀だった。葛音の背中が森の中へと消えていく。その足には迷いが無い。おそらく接触と同時に敵を見つけたのだろう。目視の距離を抜けたのならば、あとは充分に追えるはずだ。
 護衛のハンターはすぐさま攻撃に転じた。
「!」
 エヴァが杖を掲げると、虹色の文字がワンドを囲むように現れる。目標は空中。仰角を高めに取り、範囲魔法を投射する。
(スリープクラウド!)
 発射された光の球体は歪虚の背中で炸裂し、歪虚だけを紫の雲で包んだ。歪虚は眠りに落ちることはなかったが、ユーロスに組み付いていた手が緩む。
 ユーロスは爪を引き離すと返す刀で足先を切り落とす。歪虚は暴れながら翼を振り回し、サーベルを振るうウォルターを弾き返す。膠着を脱する為にエヴァがファイアーボールを使おうとした矢先、ギルベルトが瞬脚で歪虚の背後に回り込んでいた。
 恍惚の笑みを浮かべながら飛び上がったギルベルトは、刃を歪虚の首筋に振り下ろす。戦闘はそれまで。急所への一撃が決めてとなり、墜落した歪虚はほどなくして霧散した。
「ヒヒヒ。アイちんアイちん」
「……何ですか?」
 恍惚とした表情のままギルベルトはナイフについた血を長い舌で舐め取った。
「昨日から興奮しすぎてもうダメ。アイちん、今晩僕ちんと遊ぼう?」
 蛇のような瞳孔がアイリーンに向けられる。ギルベルトは性欲と食欲の延長で殺しの刺激を楽しんでいた。刺激の境界が曖昧な男の言動は、周りの人間全ての心に冷たい恐怖を植えつけた。



 動き出せばハンター達は早い。森の中に入ると同時にヴァージルとヴァルナは敵を発見した。本来は別方向に分散する算段もあったが、敵の位置が明確ならそれも必要ない。敵はフードの男が1人。街道が見えるぎりぎりの距離で茂みに伏せている。発見段階では歪虚との戦闘の様子を見て、周囲のそれほど注意を向けていない。助走をつけてしまえば逃がすことはないだろう。
「葛音、先に行って足を止めてくれ」
「りょーかい」
 楽しそうに一声かけると葛音は一気に速度を上げた。例え敵が同じ疾影士でも、この距離では逃げ切れない。
 葛音は茂みを飛び越え、飛び込みざまに蹴りを見舞った。痛みに悶絶しながら男は吹き飛ぶ。
「はろはろ、どこかの誰かさん。ゲームオーバーですよっ」
「な、なんだ貴様!?」
「……ふーん」
 混乱するばかりの男を前に、葛音は落胆を隠さない。がっかりだ。どう見ても敵なのだから抵抗すれば良いのに。場慣れしてない彼はそう高い地位でもないだろう。
「でも、ちょっとぐらいは遊ぶよね? 」
 葛音は逃げに走ろうとした男の腰に更に強烈な蹴りを見舞う。男はたまらずその場にはいつくばった。なおも立ち上がろうとするが葛音は容赦なく追撃する。立ち上がる前に近寄った葛音は、勢いをつけて膝を踏みつけた。男は骨折した膝を抱えうずくまっる。
「あ、ごめんね。痛いよね」
 男の目が葛音を睨みつける。次の一撃を恐怖してだが、背後には注意が回っていなかった。
 ヴァルナは背後から男に近づくと、ハンカチで猿轡をかました。
「!」
「ダメじゃない。口を塞がないと」
「ごめんごめん」
 軽い口調で会話しながらも2人は手早く内通者を縛り上げていく抵抗むなしく縛られていく男は、エイルのヒールを受けると完全に諦めたようだった。追いついたヴァージルは、あまりの呆気なさにため息をついた。
「これは……使い捨ての可能性が高いな」
 となれば情報の量も期待できない。敵の存在が確定した事は大きいが、苦労を思えばそれ以上の付加価値が欲しいところだ。
「気にしちゃだめですよ。それよりおじさん」
 葛音は縛り上げた男に顔を寄せた。笑顔のままで。
「質問はあとでするけど、嘘ついたらまた痛いことしちゃいますからねー?」
 男は涙目になりながら必死に首を縦に振っていた。



 捕まえた人物は2人。1人は森で確保した人物。もう1人は教会で出発を見ていた男。
 戦闘の決着後にすぐさま王都に取って返したハンター達は、状況を把握できない内通者を難なく取り押さえることが出来た。尋問に関してはアイリーンが担当するとのことで、ひとまずハンター達は内通者2名を引渡し、依頼の目標を完遂した。
 とは言え投げっぱなしで仕事を終える訳ではなく、ハンターはそれぞれに自分の仕事の後片付けに街へと散らばっていく。解散して一息ついた頃合を見計らい、ユーロスは去ろうとするアイリーンの手を引いた。
 合流に使っていた宿屋は閑散として、人の気配は少ない。まだエイルとヴァルナ、ウォルターが残っているが、2人きりになる事は諦めた。
「あんたに聞いておきたいことがあるんだ」
「……何かしら?」
 疑問の内容を察したのか、アイリーンに僅かだが警戒の色が見える。ユーロスは構わず続けた。
「教えてくれ。巡礼ってのは何だ」
「以前に説明したとおりですよ」
「そうじゃない」
 しらを切るアイリーンにユーロスは詰め寄った。
「『特定の聖堂を特定の順で巡ることで守護が得られる』、本当にそれだけか? なら何故、一時的にでも巡礼を止めさせない。内通者の存在が見えている、それは巡礼者を狙う明確な理由があるってことだろう。で、アンタらはその理由を知っているな」
 アイリーンの表情は変わらない。仮面のように固まったままだ。
「分かっていて、何故止めない」
「国威の為。それ以上の理由は聞かないほうがいいわよ」
 肯定と同義の言葉だ。ユーロスは更に詰問しようとしたが、続かなかった。
 アイリーンの人差し指がユーロスの唇に触れる。
 気勢をそがれたユーロスはもごもごと言葉を飲み込んだ。
「ごめんなさいね。今はまだ、教えるわけにはいかないの」
「…………犠牲者が出てるのにか?」
「国が滅びたらもっと大勢死ぬわ。……そして両方を救えるほど、私達には余裕は無いの」
 苦い声だった。辺境だけが滅亡の瀬戸際にあるわけではない。イスルダに敵の拠点を置かれた王国も、同様に首の皮一枚で繋がっているに過ぎない。その苦痛は王国に住む者なら痛いほどわかった。
「私は見ての通りの人間よ。ウォルターさん、貴方ならわかるでしょ?」
 名指しされたウォルターは大げさに驚いたような顔をした。育ちの悪さというものは悪意をどう御すかに見える。精神的な強さで言えばエイルやヴァルナもそう差はないが、悪意を操るという点においては彼女はウォルターやギルベルトと同類だ。 
「それでも私はここに居る。……もしも貴方達に意志と覚悟があるなら協力して。私はこの国を守りたいの。私を守ってくれたヴィオラの為に」
「……へいへい。お金さえ払ってもらえるならいつだって喜んで」
 茶化して笑顔を浮かべるウォルターにアイリーンも笑みを返した。アイリーンは何も語らず、今度こそ場を去った。
 明確な返事は無かった。例え聖堂教会の思惑であったとしても、曖昧な答えに明瞭な返事はできない。ただ曖昧な答えでも嘘偽りは無かった。
「……どうしやす? あたしゃ金になりゃ何でも良いっすよ」
「本当に?」
 エイルはウォルターのわき腹をひじで小突く。答えが出ても、素直に吐き出せる人間ばかりでもない。上手く逃げたアイリーンを追うことを諦め、ハンター達はひとまず仕事の仕舞いを始めることにした。

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参加者一覧

  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • 猛毒の魔銀
    ギルベルト(ka0764
    エルフ|22才|男性|疾影士
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • 俯瞰視の狩人
    ヴァージル・チェンバレン(ka1989
    人間(紅)|45才|男性|闘狩人
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 愛にすべてを
    エイル・メヌエット(ka2807
    人間(紅)|23才|女性|聖導士
  • ミストラル
    ウォルター・ヨー(ka2967
    人間(紅)|15才|男性|疾影士
  • たたかう者
    ユーロス・フォルケ(ka3862
    人間(紅)|17才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/05 06:31:57
アイコン 【質問卓】
エイル・メヌエット(ka2807
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/08/06 20:10:11
アイコン 囮捜査
ユーロス・フォルケ(ka3862
人間(クリムゾンウェスト)|17才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/08/07 15:55:40