キリング・エネミー・ソフトリー

マスター:ミノリアキラ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/08/07 07:30
完成日
2015/08/14 01:28

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●峠道の攻防
 見通しの悪い山道を、馬や、馬に引かせた荷馬車が整然と進んでいく。
 隊商の列だ。
「右手側に何かいるぞー!」
 突然、列の中ほどから声が上がった。
 木立を揺らして、四つの影が列に迫っているのがみえる。
「止まるなっ、走れ、走れー!」
 号令にしたがい、馬たちは砂埃をあげて駆け抜けていく。
 謎の襲撃者たちは、行く手を塞ぐように飛び出してきた。
「ぐわっ」
 先頭の男に石が投げつけられ、馬から転がり落ちる。
 列の前に立ちはだかったのは、三匹のコボルドだ。背後にはゴブリンも控えている。
 そのとき、荷馬車から一組の男女が降りてきた。
「フフ、ここから先は我々に任せてもらおうか……」
 鎧をまとい、立派な剣を腰に帯びた男がニヤリと笑う。
 彼らは兵士ではない。傭兵でもない。
 ハンターズソサエティから派遣されてきた、正式なハンターである。
 峠道に魔物が出るという噂をききつけ、あらかじめ護衛を依頼していたのだ。
「相手が悪かったようだな。お前たちはここで散る運命だ」
 その表情には自信があふれ出ていた。
 不意打ち作戦が成功し、どちらが勝つかはもはや自明の理である。
 そして、彼らの任務は……。
 あえなく失敗した。

●意外な理由
 峠の麓の町。
 任務失敗の報告を受け、ハンターズソサエティから派遣された調査員が現れた。
 失敗の原因を突き止め、この件に対処できる後任のハンターを探すためだ。
 まだ日が高く、客の少ない酒場で目的の人物は派手に酒をあおっていた。
 装備や佇まいからすると、かなりの熟練者のようだ。
 身分を明かした上で声をかけると、ベテランハンターはがっくりと肩を落とした。
「いったい、原因はなんなんだ?」
「それが……」
 彼はゆっくりと話しはじめた。

 隊商には、ハンターたち以外にもう二人の人物がいた。
 商家の跡継ぎ息子と、付き添いの乳母である。
 跡継ぎ息子は十八歳。
 これまで都会で何不自由ない生活を送っていたのだが『そろそろ自分の家の稼業を覚える頃だ』と考えた父親の意向により、一行に加わったのだった。
「危険ですから、戦闘の間はくれぐれも荷馬車から出ないでください」
 忠告すると、商家の若君は気丈に首を横に振った。
「いっ……いやっ、ボクはキミたちを雇う側のにっ、人間として、み、見届けるギムがあるっっ……!」
 若者は青白い顔をしながら、必死に訴える。
「それに……ボクは長男だ。家の期待を裏切り、父上を悲しませるワケにはいかない!」
 不安はあったが、雇用主の身内であるため無下にもできない。
 仕方なく『絶対に、後ろの安全な場所に留まる』ことを条件に戦闘の見学を許可した。
 それがすべての間違いの始まりであった……。
 戦いが始まり、ベテランハンターが剣を鞘から抜いたときだった。
「行くぞっ! 八つ裂きにしてくれる!!」
 背後から「ひいっ」という声が聞こえた。
「や、やめてくれ! 『八つ裂きにする』なんて乱暴で恐ろしい言葉は使わないでくれ!」
 振り返るとそこには、体をブルブルと震わせる若者がいた。
「おお、旦那様の気まぐれにつき合わされて、なんておかわいそうな若旦那様。そこのアナタ! 坊ちゃんは人一倍体が弱く、心も繊細にできているんです! そのように野蛮な言葉は使わないでくださいます!?」
 付き添いの乳母は本気でこの金持ちのボンボン息子を気の毒に思っているらしく、白いハンカチを目元に当てていた。
 野蛮といわれても、これは戦いだ。命のやりとりを伴う行為なのだ……。
 それをわかってついて来たのではないのか?
「いや、今はそれどころではない。とにかく、戦わねば……」
 仕切り直しとばかりに、剣を構えて突撃の体勢をとる。
「剣! そのようにギラギラと尖った武器で斬られたら、痛くてたまらないに違いない! そんなものをボクに見せないでくれ~!」
 坊ちゃんの悲鳴が耳をつんざき、出鼻をくじかれたベテランハンターは前のめりにつんのめった。
「ええい、後ろがうるさくて集中できない。さきに魔法を打ってくれ!」
 仲間に声をかけると、彼女はしぶしぶ魔法を使う準備に入った。
「しかたないわね……」
 マテリアルの光が手元に集まり、あとは発動させるだけ……といったところで、後ろの若者がわめいた。
「うわ~、まぶしすぎる! ばあや、やめさせてくれーっ!」
 その悲鳴を聞きつけた乳母の瞳に正体不明の炎が灯る。
「若旦那様のためならば、わたくし命を惜しみませんわっ!」
 突如、乳母の筋肉が、年配の女性とは思えないほど隆々と盛り上がり、全身から常人のものとは思えない気迫が溢れだした。
「ふぬうんッ!」
 巨体でノシノシと走ってくると、丸太のような腕で女性ハンターを後ろから羽交い絞めにする。
「きゃああっ! ……う、動けない!?」
 女性とはいえ、彼女も経験豊富なハンターであり、覚醒者でもある。
 この乳母、その彼女を羽交い絞めにしてびくとも動かさないのである。
 魔法は不発に終わった。
 その後ろでは、バ……いや若旦那がわんわんと鳴き声を上げている。
 このままでは、まともな戦闘はできまい……。
 リーダーはやむを得ず決断をくだした。
「…………撤退!」
 英断であった。

●優しく倒して?
「それで、町まで引き返してきたと……。……くっ……いや失礼っ……ハハ!」
 笑いを隠せないでいる調査員を、ベテランハンターは睨みつけた。
 しかし、この一件ですっかり自信を喪失してしまったらしい……。
「俺はもうこの件にはいっさい関わりたくない。そっちで後任を探してくれ」
 それだけ言い残し、肩を落としたまま酒場を出て行ってしまった。
「あらら……思ったよりも重傷だなあ」
 敵は大したことはないが、味方のはずの二人が大問題だ。
 とくに若旦那の怖がりは度がすぎる。
 いったいどうやって敵を倒せばいいのだろう?
 調査員はひとり思案に耽っていた。

リプレイ本文

●始まりのステップ
 要請に応じ、ハンターたちは集合場所に集まった。
 宿の前には荷を積み終えた馬車と、荷運び人たち、心配顔の町の人々が揃っている。
「やけに人が多くねえか?」
 得意の槍を担ぎなおし、ウィンス・デイランダール(ka0039)が眉を顰める。
「峠道の邪魔者が恙なくいなくなってくれるかどうかは、彼らの関心事でもあるのだろう」
 パーティに加わったもう一条の槍使い、榊 兵庫(ka0010)がそう付け加えた。
 ふと、兵庫は視線を横に滑らせた。
 その先にメイドの格好をした小柄な老女が立っていた。
「遠路はるばるようこそ。わたくしは乳母のハンナと申します。以後、お見知り置きを」
 彼女はハンター達に向かって深々と頭を垂れた。

●不安なリズム
 宿屋の食堂。
 椅子の上で落ち着きのない様子の痩身の少年がいる。
 彼の前には兵庫から提示された『契約書』が置かれていた。
「我々ハンターは荒事が商品。あなたの行為はいわば素人が職人の仕事に勝手に手を突っ込んで商品の価値を落としている行為そのものです」
 交渉の結果は芳しくない。
 若旦那の身を守るためと事前に乳母に協力を仰いでみたものの「どうなさるかは若旦那様が決めること」とけんもほろろであった。
 すべての条項に目を通し、若旦那は顔を上げた。
「も、申し訳ないが……この件についてハンターズソサエティと契約をかわしたのは父であり、商会に不利益をこうむるような再契約書にサインする権利は自分にはない」
 存外にはっきりとした答えが返ってくる。
 本来は聡明な少年なのかもしれない。
「だが、できる限りキミたちの意向に添えるように……」
「若旦那様! こちらが指示にしたがう必要はありませんわ」
 若旦那が言いかけた言葉を、乳母が遮った。交渉は膠着状態だ。
 三人の間に、ふいに紫煙がたなびく。
「話の途中にすまんが、失礼する」
 入って来たのは弥勒 明影(ka0189)である。
「戦場に出る覚悟もなく見届ける義務か……父の期待を裏切るとはいうが――なぁ、本気で父を悲しませたくないと思っているのか? そうは思えんがな」
 黒衣の麗人の眼差しに射すくめられ、質問も尋問のように聞こえたのか、少年はびくりと肩を竦めた。
「弱ければ甘えも許されると、本気で思っているのか?」
「若旦那様には若旦那様のお考えがございます。わたくしはただそれに従っているにすぎません。さ……若旦那様、こちらに」
「う、うん……」
 エミリオは乳母に連れられ、食堂から去って行く。
 兵庫と明影は顔を見合わせる。どちらも何とも言えない顔をしていた。
 二人は……とくに乳母は、ハンター側を敵視している。
 単なる説得や説教では、態度を硬化させるのみのようだ。

●自慢の息子
 峠道に向かい、馬車が走る。
 戦闘を控えて緊張した空気の中、後続の馬車の中では、若旦那が青い顔をして震えていた。
「おつらそうですね。お名前をきいてもよろしいでしょうか」
 若旦那は、優しく問いかけるレイ・T・ベッドフォード(ka2398)を怖々と見上げた。
「ぼ、ボクは……ガロア家当主ヘラルド・テラン・ガロアの息子、エミリオだ……」
「エミリオ様、と仰るのですね。そのように震えていらっしゃる理由をうかがってもよろしいでしょうか」
「ぼ、ボクを……臆病者だと思うか……?」
「とんでもない。見届けたいという意思はとても素晴らしいことかと」
 やり取りを見守っていたウィンスが口を開いた。
「……同行するのは親父さんに言われたせいなんだろ?」
 若旦那は頷いた。
「父は立派な人だ、ボクの体が弱いことを知って長い間療養させてくれたし、みんなに尊敬されている。だ、だからこそボクは……自慢の息子になりたくて……」
「そうか。俺とは反対だな」
 赤い瞳に一瞬よぎったのは、彼の過去に対する何ものであっただろうか。
 わかるのは、正反対の過去と現在を挟んで、ウィンスが少年と真剣に向き合おうとしていることだ。
 が、しかし。
「大旦那様はあせりすぎなのです。若旦那様が商会の跡取りとして相応しい方におなり遊ばすまで、このハンナがお守りすればいいことです」
 乳母の冷たい拒絶が、それ以上の会話を断ち切ってしまった。
 鬼百合(ka3667)が言う。
「でも……どう考えたって、乳母のおばちゃんはにーちゃんより先に死ぬんですぜ?」
 その率直な指摘に、一瞬、若旦那は目を見開き、息を飲んだかのようにみえた。
「そしたらにーちゃんは自分で自分を守っていかなきゃなんねんでさ」
 しばらくの沈黙の後、若旦那は口を開いた。
「……キミの言う通りだ。ほ……本当は、ボクは臆病な自分を変えたいのだ」
 震える拳を握りしめる。
 そのとき、高い馬の嘶きとともに馬車は急に止まった。
 ハンターたちにとっては、戦いの合図であった。

●決意のゆくえ
 馬が馬車の後方に引いていく。
 砂埃の煙幕の下を影になり、四体の不気味な影が疾走する。
 細長く毛に覆われた体躯を躍動させ、こん棒のような武器を振り回し、隊列を混乱させにかかる。頭に包帯を巻いた護衛隊長は手綱を引き、馬の制御を取り戻すと、その首を荷馬車の後ろに戻す。
「下がれ! 後はハンターたちの仕事だ!」
 砂埃を引きながら、蹄の音が去り、そこには報告の通り、敵はコボルドが三体、ゴブリン一体が残された。
 ひょろ長い体に犬の顔、獰猛な六本の牙。
 生臭い吐息と威嚇の音を漏らしながら、瞳は目の前の六人を睨んでいた。
「優しく殺して、なんて随分面白い事言うのねぇ」
 青い宝石がはめ込まれたワンドを構え、レオナルド・テイナー(ka4157)が戦闘態勢に入る。
 前衛にはウィンスと兵庫、明影、そしてレオナルド。
 間隔をあけて、レイと鬼百合。その後ろに若旦那と乳母が控える。
「ぼ、ボクは、もう……決して取り乱したりしないっ!」
 その声はひっくり返っている。
 コボルド達の姿が蜃気楼のように揺らめき、三体が突然、弾かれたように飛び出した。
 向かう先にはウィンスがいる。
 コボルドが跳躍し、爪を振り下ろす。
 ウィンスは槍を大上段に構え、後ろ脚を引いて回避。腕と体を使って槍を振り回し、ほとんど同時に飛びかかってきた他二体を捌いていく。
「ひいっ」
 後ろで若旦那が声をあげたが、必死で唇をかんで堪えているようだ。馬車の中での説得がきいたのだ。
 とはいえ、それほど短時間に人が変われるのなら、苦労はするまい。
 コボルド達の背後、ゴブリンが石を投げつける。
 重たい動作であったが、頑健そうな体から放たれた石は弾丸となり、痩躯の魔術師を狙う。
「あらヤダ」
 投擲された石が左腕を直撃する。
「う……うわああっ」
 悲鳴を上げたのは、レオナルド本人ではない。若旦那だ。
「ちょっと、うるさいわね。大丈夫よこれくらい……回復してから攻撃に回るわ」
 兵庫がウィンスに目配せする。
「前に出るぞ!」
 ウィンスとともに前進。
 敵の攻撃を引き受け、回復の時間を稼ぐ陣形だ。

 後方もまた、別の意味で戦いに入っていた。
「にーちゃん、にーちゃん! 落ち着いてくだせぇ!」
「やめろ、武器をみせないでくれ! やっぱり、戦いなんてボクにはダメなんだーっ!」
 取り乱しはじめた若旦那をなだめながら、鬼百合は冷静にタイミングをうかがっていた。
 そして若旦那が後ろを向いた瞬間をねらい――!
「な、なにをす……モガッ」
 後ろから飛びつき、その口を必死に塞ぐ。
「わかってくだせぇ、これも若旦那たちを護衛するためなんでさ!」
 若旦那の肩越し、負傷者をかばってウィンスや兵庫が槍を振るい、明影が刃を抜いている。後方のレイも敵に向けて短弓を引き絞る。
 彼らの邪魔をすればするほど、若旦那や乳母の身は危うくなるのだ。
「若旦那様から手を離しなさい!」
 ハンナの周囲に凶悪な気配が渦を巻き始める。
 その細い老女の体は、みるみるうちに盛り上がり、メイド服の上からでもわかるほど逞しい筋肉に覆われていく。
 熊殺しのハンナ――覚醒者として、そう異名をとったありし日の姿の顕現であった。

●ハンナVSレイ
 レイは異常な気迫を感じ、鬼百合をかばいながら距離を取った。
「すべては若旦那様の御為ッ!」
 そう言って近づいてくる姿は不動の山の如く。
 これに組みつかれたのでは、前任者もひとたまりもなかったはずだ。
「ハンナ様……貴女は従者失格です」
「部外者に何がわかるというのです。若旦那様の言いつけに従い、その身をお守りすることこそが我が使命! ふんッ」
 ハンナの足が地面を蹴った。
 巨体は愚鈍に見えがちだが、実際は筋力こそが瞬発力の源である。
 弓を肩の後ろに回し、重騎兵の突撃に備える。体を沈め両腕を上体前で交差、突撃を受け止めた衝撃で体が浮く。
 ハンナはその体を掴もうと素早く腕を突き出す。指先が獰猛な猛禽類と化したかのような突きである。
 右、左、後方に躱し、受け流し――互角のやり取りが続く。
 手加減は必要ないと悟ったかレイは踏みこんで掌底を放つ。覚醒者どうしの高度な駆け引きがあり、両者は束の間離れた。
「ふぅむ……なかなかやりおるな」
 乳母は半身になり、左足を地面から浮かせ、両腕を振り上げた独特の構えを取る。
 足捌きによって敵の攻撃をいなし、また攻撃に転ずるのも易い、まさに攻防一体の構えである。
 引く気はなさそうだが、レイもまた譲れないことがある。
 そのとき。
「――おい! 一匹逃げたぞ!!」
 剣戟のあいだを巧みにすり抜けて、コボルドの一体がレイ達のほうへと向かうのが見えた。
 レイは瞬時に反応し弓に矢を番える。
「ひいっ」と、若旦那が悲鳴を上げた。
「させぬわ!」
 ハンナは弓を引く腕を取り、絡め取る。
(しまった……!)

●ワルツを踊れ
 正面に迫ったコボルドを前に、明影は軍刀を一旦納め、自らも前進しながら抜剣。鞘走りの勢いを殺さず横薙ぎに刃を払い、さらに大上段から振り下ろす。
 漆黒の刃は十字に切り裂いた敵の血しぶきを引きながら、命までもを連れ去って行く。
 残るコボルドと対峙するのは兵庫の片鎌槍である。
 コボルドの爪の攻撃を押さえた切っ先が跳ねるように持ち上がる。槍全体を使った回転の動きから、全身の力を乗せた一撃、渾身撃が放たれる。
 穂先がコボルドを叩き切った。即死であった。
 そのとき、ウィンスが叫んだ。
「一匹逃げたぞ!」
 後ろを振り返ると、レイは腕を乳母に掴まれており、身動きが取れない――と思いきや。
「はっ!」
 気合いと共に反対の腕で雷神斧を掴み、拘束されたままコボルドの背に勢いよく突き立てるのが見えた。
「や、やめろ、近づくなっ……!」
 血しぶきを顔に浴びた若旦那は蒼白となって後ずさる。
 背に斧の一打を食らいながらも、コボルドは立っていた。
 ここで騒ぎ始められては、ゴブリンにトドメを刺そうとしている前衛組の邪魔。そして死にかけとはいえコボルドだって危険なのだ。
「ひ、ひいい~。あいつ、まだ生きてまさァ! 若旦那様、助けてくだせぇ!」
 イチかバチかに賭け、鬼百合は怖がる演技をしてみせた。
 ハンナに守られてばかりの自分を変えたい、その気持ちが本当なら答えてくれるはず。
「そ……んな……ボ、ボクにはむ……ムリだっ」
 若旦那が脅え、声を上げる。
 しかしそれを打ち消す別の声が、彼の耳に届いた。

「――グロウナイトが隊長にして、『激槍』ウィンス・デイランダールッ!!」

 鬨の声を上げながら疾走。二つ名に違わぬ激しい攻撃は、外れてもゴブリンの刃を弾くほどの勢いであった。
 死角から、兵庫の鋭い槍がゴブリンをねらう。
 そのときはじめて、若旦那は目を見開いて戦闘の光景を目撃した。
「こんにちはワンちゃん仲良くしましょ」
 歌を口ずさみながら美しい闇色の四枚羽を広げ、レオナルドは軽快にステップを踏む。
 子犬のように軽く弾むような足取りで敵に近づき、呪文を唱える。
 その姿は野蛮からは程遠く、ひたすらに華麗でさえある。
「は……ハンナ!」
 若旦那の声をきき、鬼百合は再び口を塞ぐタイミングをうかがった。
 だが、その必要はなかった。
 若旦那は腰が抜けているのか、何度も立ち上がろうとしては尻もちをついている。
 それでも脅えた(フリをしている)鬼百合を守ろうと、庇おうとしていた。
「……ぼ、ボクは大丈夫だ! それよりもこの子を守ってやってくれ!」
 鬼百合は素早く両腕をローブで隠し、瀕死のコボルドめがけて魔法を放つ。
 放たれた火球は問題なくコボルドに命中し、息の根を止めた。
 それと、レオナルドの風の刃によって切り裂かれたゴブリンが倒れたのは、ほぼ同時であった。

●終幕
「みんな……迷惑をかけてすまなかった。キミ達はボクらを守るために戦ってくれていたのに、それを野蛮なことなどと……どうか、非礼を許してほしい」
 戦闘が終わり、商隊は荷物を確認し、再出発の準備を整えている。
 若旦那は心の底からすまなさそうな面持ちで、六人のハンター達に頭を下げた。
「ま……途中のことはさておき、最後のはなかなかよかったんじゃねーの」
 ウィンスはそう言って珍しく笑ってみせた。
「キミたちをみて、今度こそ本当に考えを改めたよ。ボクはガロア家の跡取りとしてもっと強くならなければいけない。今度は、ボクがハンナを守ってあげるんだ」
 レオナルドがニヤニヤした笑みを浮かべながら、明影や兵庫の肩を叩く。
「折角だからこの強いお兄さんに弟子入りでもしたらいかが?」
「おお、それは名案だ! ちょうど、家業のかたわらハンターを目指そうと考えていたところなのだ!」
 若旦那は瞳をきらきらと輝かせる。
 確かに成長はみられたものの……ハンター達が一斉に苦い表情を浮かべたのは、言うまでもない。
「ハンナ様……」
 レイは仲間達から離れ、ひとり若旦那に背を向けていた乳母のそばへ行く。
 彼女は独り言のようにつぶやいた。
「貴方の言う通り、わたくしは従者失格です」
 レイは歩みを止める。
「若旦那様は昔……大旦那様の財をねらう不届き者によって誘拐され、殺されかけたことがあるのです……ちょうど、鬼百合様くらいの年のことでした」
 そのときのトラウマから武器や物音にひどく脅えるようになり、エミリオは父親の元から離れて乳母とともに療養生活を送ることになった。
「この方を守れるのはわたくしだけと思ってまいりました……でも、年寄りのお節介だったようですね」
 ハンナは遠くを見つめながら、昔のことを思い出していた。
 薄暗がり、泣いている小さな男の子……。
『えーん、うえぇ~ん。痛いよう、怖いよう……。誰か助けてぇ……!』
 小さな若旦那を抱きしめ、ハンナは何度も大丈夫だと繰り返した。

 おそばにいます。
 このハンナが若旦那様をお守りします、この先もずっと。

 腕の中で泣いていた幼子は、今ようやく自らの力で歩き出そうとしていた。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 4
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • SKMコンサルタント
    レイ・T・ベッドフォードka2398
  • 瑞鬼「白澤」
    鬼百合ka3667

重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 輝きを求める者
    弥勒 明影(ka0189
    人間(蒼)|17才|男性|霊闘士
  • SKMコンサルタント
    レイ・T・ベッドフォード(ka2398
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 瑞鬼「白澤」
    鬼百合(ka3667
    エルフ|12才|男性|魔術師
  • 狭間へ誘う灯火
    レオナルド・テイナー(ka4157
    人間(紅)|35才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン Kill'em All
レイ・T・ベッドフォード(ka2398
人間(リアルブルー)|26才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/08/07 00:04:41
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/06 01:17:17