ゲスト
(ka0000)
珈琲サロンとぱぁずと移送
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/08 15:00
- 完成日
- 2015/08/17 19:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
いらっしゃい、あら、お久しぶり。
あの子? ふふ、うちの新入りのウェイトレス。可愛いでしょ? 私の妹なのよ。
それより、そんな顔して、どうかしたの?
珈琲サロンとぱぁずは今日も賑やかなランチと、ティータイムを終え、店長代理のユリアは客の引いた店の床にモップを掛けている。
長く勤める店員のローレンツ、ユリアや常連客からは、ロロさんと親しまれる老齢の彼は、濯いだカップを拭って棚に片付けている。
新しくこの店に迎えられた若いウェイトレスのモニカは、テーブルを拭き終えるとバケツに水を汲んで表の窓を拭きに向かった。
「ユリアさん! 今日、すっごく良い天気ですねー」
「ええ……アイスコーヒー、多めに準備した方が良さそうね」
昼下がりを越えてまだ眩しい日の差す店内。
りんごん、ドアのベルを鳴らしたモニカとすれ違いに、1人の客が訪れた。
「いらっしゃいませ。今、空いてるんで、お好きなお席、どこでもどうぞー」
ドアを支えながらモニカが言う。モニカを見たその客は酷く窶れた顔をしていた。
客の男はカウンターに座り、珈琲を一杯注文する。
「どうしたの、浮かない顔をして」
ローレンツの煎れた珈琲を運びながらユリアが尋ねる。
「……ああ、……ユリアちゃんなら、話してもいいかな、ここ常連のハンターもいるんだろう?」
「そう、ね。ご贔屓にして貰って、嬉しい限りだわ。悩みごと? 危ないお仕事なら、ハンターオフィスに行った方が良いかもしれないわ」
男は、貨物の運送を生業としている。満載の荷車をフマーレの端から端へと走らせるのが主な仕事だが、稀にフマーレの外へも向かうことがある。農業のジェオルジ、極彩色のヴァリオス、そして。
「ポルトワールへの仕事が入ったんだ。急な仕事でね」
「あら、ポルトワール。良いところじゃない? でも、海には気をつけて。とても恐ろしい場所だから」
カウンターの中に飾られた罅の入ったゴーグルはユリアの夫だった男の形見、そろそろ彼を亡くして一年になる。黒いドレスを翻してユリアは口許だけで微笑んだ。
「そうだな……」
●
男は珈琲を啜りながら語る。
依頼されたのはある布の移送、それは特別な布で、軍装程度に強度が有り且つ炎を防いでくれるらしい。
その実用に向けての試験がポルトワールで行われる。何でも、水が弱点らしいから、とか何とかと。
詳細は聞いていないが、とにかくその布を試験場まで運ぶこと、が、今回の依頼だ。
その程度ならなんと言うことは無い、これまでも重要な書類や貴重な宝石、複雑で脆弱な魔導機の類いも運んできた。しかし。
「その布を追った歪虚がいるらしくってね」
当初自力で運ぶ予定だった依頼人が、その歪虚に怪我を負わされた為、男に依頼が来たという。
「あのー、その歪虚って、この前退治されたヤツじゃないですか?」
窓を半分拭き終えたモニカが、バケツの水を替えに戻ってきた。
「号外に載ってましたよ。この辺じゃ無いんで、小っちゃい記事でしたけど。どっかで部品泥棒って騒がれてた歪虚みたいで……」
撃退されたのなら、それが襲ってくることは無いだろう。だが騒がされた他の歪虚や雑魔、聞きつけた亜人が出てこないとも限らない。
道中の安全に越したことは無いから、と、とぱぁずの奥の大きな机に貼られた地図にピンがまた一つ立てられた。
出発の日、男とハンターを見送りに来たユリアはその男の手を握って、泣き出しそうな顔で必死に何かを言っている青年を見た。
青年はエンリコと言い、この布に関わる紡績工場で働いている今回の依頼人らしい。
危険な仕事を頼んで済まない、大事なものだから無事に、あなたも無事で届けてくれ。と、そう言っているようだ。あまりの必死さに男が思わず肩を竦めた。
エンリコは首と頭に包帯が、腕と脚に添え木が宛てられ杖を突いている。付き添いらしい初老の男が、こちらへ会釈を、ユリアがそれに応えて微笑むと、偶然その微笑みを見たエンリコの頬が赤く染まった。
●※※※
ユリアは見送りから帰ってクッキーを焼く。店に並べている物で、割と好評だ。店内には客が1人。ローレンツもモニカも出払っている。
客は黒髪を結い上げ華やかな着物を纏った若い女、硝子玉のような青い瞳にうっそりとした笑み。
「珈琲、一杯頂ける?」
「はい、すぐに」
店の中、挽き立ての豆の香りが広がっていく。
いらっしゃい、あら、お久しぶり。
あの子? ふふ、うちの新入りのウェイトレス。可愛いでしょ? 私の妹なのよ。
それより、そんな顔して、どうかしたの?
珈琲サロンとぱぁずは今日も賑やかなランチと、ティータイムを終え、店長代理のユリアは客の引いた店の床にモップを掛けている。
長く勤める店員のローレンツ、ユリアや常連客からは、ロロさんと親しまれる老齢の彼は、濯いだカップを拭って棚に片付けている。
新しくこの店に迎えられた若いウェイトレスのモニカは、テーブルを拭き終えるとバケツに水を汲んで表の窓を拭きに向かった。
「ユリアさん! 今日、すっごく良い天気ですねー」
「ええ……アイスコーヒー、多めに準備した方が良さそうね」
昼下がりを越えてまだ眩しい日の差す店内。
りんごん、ドアのベルを鳴らしたモニカとすれ違いに、1人の客が訪れた。
「いらっしゃいませ。今、空いてるんで、お好きなお席、どこでもどうぞー」
ドアを支えながらモニカが言う。モニカを見たその客は酷く窶れた顔をしていた。
客の男はカウンターに座り、珈琲を一杯注文する。
「どうしたの、浮かない顔をして」
ローレンツの煎れた珈琲を運びながらユリアが尋ねる。
「……ああ、……ユリアちゃんなら、話してもいいかな、ここ常連のハンターもいるんだろう?」
「そう、ね。ご贔屓にして貰って、嬉しい限りだわ。悩みごと? 危ないお仕事なら、ハンターオフィスに行った方が良いかもしれないわ」
男は、貨物の運送を生業としている。満載の荷車をフマーレの端から端へと走らせるのが主な仕事だが、稀にフマーレの外へも向かうことがある。農業のジェオルジ、極彩色のヴァリオス、そして。
「ポルトワールへの仕事が入ったんだ。急な仕事でね」
「あら、ポルトワール。良いところじゃない? でも、海には気をつけて。とても恐ろしい場所だから」
カウンターの中に飾られた罅の入ったゴーグルはユリアの夫だった男の形見、そろそろ彼を亡くして一年になる。黒いドレスを翻してユリアは口許だけで微笑んだ。
「そうだな……」
●
男は珈琲を啜りながら語る。
依頼されたのはある布の移送、それは特別な布で、軍装程度に強度が有り且つ炎を防いでくれるらしい。
その実用に向けての試験がポルトワールで行われる。何でも、水が弱点らしいから、とか何とかと。
詳細は聞いていないが、とにかくその布を試験場まで運ぶこと、が、今回の依頼だ。
その程度ならなんと言うことは無い、これまでも重要な書類や貴重な宝石、複雑で脆弱な魔導機の類いも運んできた。しかし。
「その布を追った歪虚がいるらしくってね」
当初自力で運ぶ予定だった依頼人が、その歪虚に怪我を負わされた為、男に依頼が来たという。
「あのー、その歪虚って、この前退治されたヤツじゃないですか?」
窓を半分拭き終えたモニカが、バケツの水を替えに戻ってきた。
「号外に載ってましたよ。この辺じゃ無いんで、小っちゃい記事でしたけど。どっかで部品泥棒って騒がれてた歪虚みたいで……」
撃退されたのなら、それが襲ってくることは無いだろう。だが騒がされた他の歪虚や雑魔、聞きつけた亜人が出てこないとも限らない。
道中の安全に越したことは無いから、と、とぱぁずの奥の大きな机に貼られた地図にピンがまた一つ立てられた。
出発の日、男とハンターを見送りに来たユリアはその男の手を握って、泣き出しそうな顔で必死に何かを言っている青年を見た。
青年はエンリコと言い、この布に関わる紡績工場で働いている今回の依頼人らしい。
危険な仕事を頼んで済まない、大事なものだから無事に、あなたも無事で届けてくれ。と、そう言っているようだ。あまりの必死さに男が思わず肩を竦めた。
エンリコは首と頭に包帯が、腕と脚に添え木が宛てられ杖を突いている。付き添いらしい初老の男が、こちらへ会釈を、ユリアがそれに応えて微笑むと、偶然その微笑みを見たエンリコの頬が赤く染まった。
●※※※
ユリアは見送りから帰ってクッキーを焼く。店に並べている物で、割と好評だ。店内には客が1人。ローレンツもモニカも出払っている。
客は黒髪を結い上げ華やかな着物を纏った若い女、硝子玉のような青い瞳にうっそりとした笑み。
「珈琲、一杯頂ける?」
「はい、すぐに」
店の中、挽き立ての豆の香りが広がっていく。
リプレイ本文
●
濃紺の空が藍色の様相を帯びて、東の山の端が藤花を更に淡くした浅い花の色に染まる。暁の色が広がる日の出、その白さが目に刺さる頃、薄い光りを頼りにハンター達が目を擦りながら集まった。
朝日に煌めく銀の髪を、夏の早朝の涼しい風に靡かせて、フランソワーズ・ガロッテ(ka4590)は両腕を空へ伸ばしながら欠伸を1つ。伸ばした腕は真っ直ぐには下ろさずに可愛い友人のミルティア・ミルティエラ(ka0155)の首に絡める。
「早朝出発だと眠いわぁ……ミルティアちゃん。頑張りましょうね~」
覆い被さるようにミルティアの頭上で囁く眠たげな声の裏側に、道中出会うだろう敵への期待が覗く。戦いの疼きに身動いで抱き竦めると、ミルティアの顔に押し付けられた胸が柔らかに拉げた。
「――フランさん……!?」
フランソワーズに抱き付こうと背後で構えていたミルティアは、その不意打ちに空気を握った指を解き、呼吸を塞ぐ胸を叩いた。
「が、頑張るのは判ったから……ちょっと、たんま……恥ずかしいし息出来ないし……っ」
くぐもる声で手足を暴れさせ、窮屈な抱擁が解かれると改めて朝の挨拶を告げる。
少女達が戯れる傍ら、クローディオ・シャール(ka0030)は最近出会い魂の声を聞き、心を通じ合わせたと思いを寄せる相棒の自転車のフレームを撫でた。
「ゆくぞ、ヴィクトリア。共にこの苦難を切り抜けるのだ」
まだ新しいその自転車には歪みひとつ付いていない。今日はこの新たな相棒との初任務だ。街道の先を見据えて、軽やかな音でスタンドを蹴り上げた。
マキナ・バベッジ(ka4302)が広げた地図を見ながら依頼人と行き先を確かめている。
「車輪の予備も載せておければ良かったですね……念の為に……」
小さな荷車に馭者は己が1人。そこまでの余裕は無かったと手綱を握りながら依頼人が首を横に振って言う。
その地図を隣で眺めた白水 燈夜(ka0236)が連れた猫へ柔らかな視線を寄越した。
「猫が多いって聞いたな」
目的地はポルトワール、港町だ。
5人と依頼人から数歩離れた辺り、かくり、と大きく首が揺れて蹈鞴を踏む。
たんと地面を踏んだ衝撃に微睡み掛けた目を覚ましたカリアナ・ノート(ka3733)が奮い立たせるように声を上げる。
「だ、大丈夫よ! レディーは何時もより早起きでも、お仕ごと、に……ししょぅ……ぁふ……」
欠伸に滲む目を擦り見上げる空は、いつもの目覚めの時間よりも随分と暗い。欠伸を噛み殺しながら仲間に声を掛けた。
「おはよー……ござ……まーぅ……」
眠そうな声を聞きながら、白水がカリアナを側に招く。
「仕事は早く終わらせた方がいいよな……最近暑いし」
共に荷車の側で依頼人を守れるように付きながら、日の昇り始める空を見る。カリアナも頷いて駆け寄った。ふわり笑む白水と不安に窶れた顔の依頼人を交互に見て杖を確り握り締めた。
「さあ、出発だ!」
クローディオの声が上がる。先導する自転車を荷馬車と護衛の歩みに合わせて緩やかに漕ぎ、朝の街道を進んでいった。
周囲を警戒しながらも、ハンター達は夏の朝に似合いの爽やかな表情を浮かべている。その中でマキナだけは特に厳しい顔をしているように見えた。
「花の絆の一件は僕も色々と縁や責任がありますので……」
どうかしたのかと依頼人が尋ねると、強張った声がそう答えた。その花に触れたことも、狙った歪虚を逃がしたことも倒したことも、思い返せば長い縁だ。ここまで繋いだ絆を絶やさぬ為にも、無事にと。
「退治されたって俺も聞いた。一安心ってところではあるけど……ん、用心に越したことはないし」
竦んでいる依頼人を励ますように白水が声を掛けて、カリアナも無邪気な笑顔を見せる。
「ねえねえ、ジェオルジってどんなところなの?」
積荷の産地だと聞いた土地、興味と好奇心を隠さない楽しげな声で、気を紛らわせようと話し掛ける。
「相手は隠れてるらしいし、奇襲の警戒ぐらいはしておいた方がよさそうよね~」
依頼人がカリアナと荷物を運んだ都市の話を始め、白水は依頼人の視線が茂みや陰りに向かないように歩く。後をミルティアが警戒し、馬車の前をクローディオの自転車とフランソワーズの馬が並んで走る。
見付けた瞬間には襲ってくるかも知れないと、フランソワーズが槍を振って、その穂先で空気を斬った。
ひゅん、と風の鳴った音。その向こうにざわめく気配。
●
空の色は鮮やかな青。遠い山の向こうで太陽よりも高く昇る積乱雲の白が眩しい。日差しと地面の照り返し、上っていく気温に拭っても額がじわりと汗ばんでくる。
暑いなと誰かが呟いた時、先の茂みが揺れてハンター達の進む先にゴブリンが1匹飛び出してきた。
クローディオが剣を抜き、後続へ襲撃を伝えてペダルを踏む足を緩める。フランソワーズはそれを横目に、槍の穂先を振り翳した。
「私は前衛に出る、護衛は任せたわよ!」
陽光に煌めく銀の髪が翻る。駆け抜ける軌跡は紅。首筋まで狐の紋章を上らせ、目つきを鋭く切り替えたその身体を深紅の光りが包み込んだ。
切っ先で敵を指し、昂ぶらせるマテリアルを炎に変えて放つ。
「さぁ、新たな勝利を刻もうか」
艶やかな声が鋭く響いた。
炎の矢がゴブリンに迫る中、ハンター達の警戒に応えるように、茂みから前後を囲む数匹がその姿を現した。
「……そのまま、逃げてくれれば良いんだけど」
護られている者が弱いと察しているのだろうゴブリンの石を握る手が馬車へ向く。
白水が短杖を向けて火球を降らせる。
その瞬間に柔らかな黄色い羽がふわりとその周囲を舞って、地面に落ちる前に消えていく。敵を見据える双眸が海の青に変わっていた。
「私も、側で護るからね!」
カリアナも自身の丈よりも長い杖を操り、馬車の側に控える。
マテリアルを巡らせ、炎にふらつくゴブリンへ水の礫で追い打ちを与える。
後衛の警戒からやや馬車に寄ってミルティアが構え、3人の前に出るようにクローディオとマキナが構える。
次のゴブリンに狙いを向けると茂みが揺れて更にゴブリンがその数を増やした。それぞれの見据える方向から2、3匹が呻って迫り来る。
「近付かせない。さあ、ヴィクトリア!」
クローディオがペダルを思い切り蹴り、横から迫る3匹を射程に掲げた黒い剣の切っ先から眩い光を放つ。光りの中心、ペダルを離し地面に突いて身体を支えたその足に黒い犬の幻影が身を寄せる。
瞳に燃え上がる炎の色を宿すその犬は、死を想起させる黒い毛並みを戦がせて幽かな気配を残して消えた。
「深追いは、しませんが……」
積荷を、彼を狙うのならば。マキナの赤い瞳が石礫を構えるゴブリンを睨む。
革手袋の左手に熱を感じた。肌に浮き上がる文様は巡るマテリアルの時を刻み、歯車を噛ませて針を回す。
その礫を弾かんと狙い澄ます鞭を放った。
馬上から突き立てた槍を引き抜くと血が吹き上がる。鮮血を被りながらフランソワーズが笑う。
「っ……なんて言うかさ、戦ってる時ってホンット猪だよねキミ!」
ミルティアがその背を狙ったゴブリンに華やかに装飾した金鎚を叩き付けた。
桃色の双眸がその色を深めて紅く、背中から溢れ出し、何かを求めるように揺れた触手の幻影は四肢に巡り、装備を覆うように絡みついた。
振り返らずにフランソワーズが顎を引き槍を構え直した。
「効かないな! さあ、此方だ」
クローディオが前へ、攻撃をその縦に受け止めながら誘う。
強固な金属の鎧に棍棒のぶつかる重い音、盾に受け止めた1匹をその反動に勢いを乗せて弾き転ばせる。
「こっちにくるんだ?……そっかそれなら――っと」
「あはははは、楽しいなぁ!」
距離を保とうとしたミルティアに更にゴブリンが迫ってくる。くるりと手中の鎚を回して構えるが、その先で数匹に囲まれたフランソワーズが笑いながらも槍を操る腕に傷を負っていた。
構えた鎚を引き、フランソワーズの傷へ癒やしの祈りを向ける。
他にも傷を負っている仲間はいないだろうかと見回しながら、迫ったゴブリンの棍棒はローブの上に着込んだ防護服へ受ける。身体に伝う軽い衝撃に口角を釣り上げて片腕で振り払った。
ゴブリンの投じた石がマキナのゴーグルを掠めた。
「僕でしたら構いません……そちらですね……」
その攻撃が自身よりも後方の依頼人へ至らなかったことに安堵し、鋼の鞭を撓らせる。モーターの音が低く呻り、空気を切り裂く音を立ててゴブリンへ向かっていった。
こつん、と狙いを逸れた小さな小石が偶然にもハンター達の合間を縫って荷車に触れた。
その小さな音に依頼人が悲鳴を上げる。馭者席で震える依頼人に、カリアナがすぐに声を掛けた。
「大丈夫、馬車はどこも傷付いてないし、ゴブリンもここまで近付けないよ!」
杖を確りと握り、馭者席を背に庇いながら肩越しに振り返る。にっこりと笑んで励ます青い目に、依頼人が震えながら頭を抱えた。
「……よ、っと……うん、さっきのはもう追い払った」
マテリアルを感じながら水の礫を放った短杖を構え、その向かった先を見据えて白水が言う。斃れるゴブリンを隠すように、馭者席を回り込む。
ね、とカリアナが言い添え、ミルティアも振り返って手を振った。
「1匹でもそっちに近付いたら、容赦なく仕留めてやりますよ」
ボクたちに任せて、と、鎚を揺らして落ち付くように説得する。
その説得の合間にも、フランソワーズはゴブリンに向けて馬を進め、槍を振って馬車からの注意を逸らし、クローディオも馭者の護りを量りながら、慎重にペダルを踏む。
落ち着きを取り戻してはいるが、手綱を握ったまま手を震わせる依頼人の側には、カリアナが付きっきりになって話し掛け、励ましている。仲間の状況を気に掛けながら、ミルティアも励ます声を掛けている。
何度か通ったことのある道だが、歪虚に狙われたばかりの荷を積み、亜人とは言っても敵対し攻撃してくるものに囲まれるのは恐ろしい。そう言って怯えている声はしかし、未だか細い。
カリアナに依頼人を任せ、白水が2人を護るように立つと炎を放ち、はぐれたものには水の礫を叩き付ける。
ゴブリンの数は出てきたときよりも半数以上が減っていた。
紛れるように茂みへ引こうとしたものも、クローディオが光りの波で捉え、逃がすまいと自転車の上から見下ろす目で睨む。
最前線へ出るフランソワーズが槍で、或いは炎の矢で貫いては楽しげな声を上げ、その度にミルティアが肩を竦めながら鎚を振るって空気を揺らす。
状況を確かめてマキナは護りの空いた場所から棍棒を構え馬車へと走るゴブリンへ鞭を放つ。不意を突かれたゴブリンが転び藻掻く。
その姿を見詰めて鞭の長い射程に捉えながら、敵への警戒を保ち立ち上がろうとする側から、攻撃を阻んで柄を固く握り締めた。
「――ん、ねえ、猫は好き?……これから行くところ、多いらしいからね」
依頼人が顔を上げる。その視界には白衣の背中。今し方ゴブリン1匹を斃したとは思えない程朗らかな声で白水が話し掛ける。
らしいね、と小さな声が答えた。
「ジェオルジは農業推進の豊かな土地……かしら? それなら、ポルトワールは、海が綺麗な街なのかしら?」
カリアナが行き先の話しを継ぐと、長い息を吐いて静かな声が港町だと答えた。船が行き交う海運の要の街と落ち付いた声。
依頼人の声を聞きながら、ミルティアが鎚を振るった。こっちはもう平気だ、心配なのは笑っている友人の方。
ハンドルを左右交互に握って、剣と盾を器用に操る。新しい相棒との戦い方を掴んできた。
「よし! いいぞ、ヴィクトリア……残りは、3匹か。追い込んで一撃で」
クローディオはペダルを踏み込んで集まるゴブリンに接近する。
馬車周辺の安全を確認し、自身の射程にも敵が居なくなるとマキナは周囲を警戒しながら移動する。茂みや木の影、視覚からの奇襲、石礫の不意打ち。素早く移動しながら、進行の安全を確保する。
「待って、待って――だぁー、もう…待てって言ってんのこの猪!」
茂みに逃げ込む1匹を追っていくフランソワーズと、その後を追うミルティア。
「一匹たりとも逃がさないぞ! せっかくの獲物がもったいない!」
高揚に任せながらも、鋭い穂先の狙いを据えて放った炎の矢がゴブリンの足を掠めてその逃走を止めた。赤い舌が唇を舐める。
「さぁ、私たちに勝利を!」
「仕事は護衛だってのに……ま、でも。真っ赤に咲かせてやりますよ!」
槍が胸を貫き、尚も藻掻くゴブリンの頸を黒い影が衝撃で押し潰す。
「あぁん、楽しかったわぁ……これで終わりかしら?」
馬上で自身の肩を抱いて恍惚とするフランソワーズに、ミルティアが肩を落として溜息を吐く。
「……楽しそうで何よりです……はぁ」
血塗れの友人へ祈りを込めた鎚を向けるが、今度のそれは全て返り血だったらしい。
乾き始めて固まり掛ける血に濡れた髪を摘まんで、子供の様に口を尖らせた友人を皆の元へと促しながら仰ぐ空。
その先に眩い光りが広がって、向こうも片が付いたと知れた。
戦いの跡の残る道を抜け、依頼人の護衛を続けながらカリアナは依頼人との話を弾ませている。
改めて随分幼い少女に護られていたのだと知った依頼人が、晒した醜態に恥じらい挽回するように行き先や嘗て巡った街の話しを語り聞かせた。
フランソワーズは髪の汚れを暫く気にしていたが、楽しげな声が聞こえ、戦闘の高揚が収まる頃には、すっきりとした笑顔で先導の馬を走らせる。
その後姿を眺め、ミルティアは苦笑いで溜息を吐きながら、仕事の後に抱き付こうと指を揺らした。
「――そろそろ到着だが、日も傾いてきたな。……気を抜かずに行こう」
新しい相棒との初任務、茜に染まった空を仰いで呟くと、クローディオは仲間を振り返り声を掛けた。目を凝らせば街の灯が微かに臨め、仄かな磯の香や細波の気配を感じる。
「ん。……しっかり護衛しないと……」
一日歩きはやはり暑いな、帰ったらミルク多めの冷たいカフェオレを、と思い浮かべながら、白水も依頼人とその行き先を見詰めた。
「ハンターが協力できることがあれば、是非ソサエティにご連絡くださいね……僕も興味がありますので……」
月が昇る頃に到着した。ぽつぽつと灯った街の明かりの中、マキナはハンター達に礼を告げた依頼人を引き留る。依頼人は荷を一瞥すると、受取人にそう伝えて置くと頷いた。
夏の夜風が海の香りを運んでくる。
月がゆっくりと昇り、灯りが増えて夜が更けていく。
濃紺の空が藍色の様相を帯びて、東の山の端が藤花を更に淡くした浅い花の色に染まる。暁の色が広がる日の出、その白さが目に刺さる頃、薄い光りを頼りにハンター達が目を擦りながら集まった。
朝日に煌めく銀の髪を、夏の早朝の涼しい風に靡かせて、フランソワーズ・ガロッテ(ka4590)は両腕を空へ伸ばしながら欠伸を1つ。伸ばした腕は真っ直ぐには下ろさずに可愛い友人のミルティア・ミルティエラ(ka0155)の首に絡める。
「早朝出発だと眠いわぁ……ミルティアちゃん。頑張りましょうね~」
覆い被さるようにミルティアの頭上で囁く眠たげな声の裏側に、道中出会うだろう敵への期待が覗く。戦いの疼きに身動いで抱き竦めると、ミルティアの顔に押し付けられた胸が柔らかに拉げた。
「――フランさん……!?」
フランソワーズに抱き付こうと背後で構えていたミルティアは、その不意打ちに空気を握った指を解き、呼吸を塞ぐ胸を叩いた。
「が、頑張るのは判ったから……ちょっと、たんま……恥ずかしいし息出来ないし……っ」
くぐもる声で手足を暴れさせ、窮屈な抱擁が解かれると改めて朝の挨拶を告げる。
少女達が戯れる傍ら、クローディオ・シャール(ka0030)は最近出会い魂の声を聞き、心を通じ合わせたと思いを寄せる相棒の自転車のフレームを撫でた。
「ゆくぞ、ヴィクトリア。共にこの苦難を切り抜けるのだ」
まだ新しいその自転車には歪みひとつ付いていない。今日はこの新たな相棒との初任務だ。街道の先を見据えて、軽やかな音でスタンドを蹴り上げた。
マキナ・バベッジ(ka4302)が広げた地図を見ながら依頼人と行き先を確かめている。
「車輪の予備も載せておければ良かったですね……念の為に……」
小さな荷車に馭者は己が1人。そこまでの余裕は無かったと手綱を握りながら依頼人が首を横に振って言う。
その地図を隣で眺めた白水 燈夜(ka0236)が連れた猫へ柔らかな視線を寄越した。
「猫が多いって聞いたな」
目的地はポルトワール、港町だ。
5人と依頼人から数歩離れた辺り、かくり、と大きく首が揺れて蹈鞴を踏む。
たんと地面を踏んだ衝撃に微睡み掛けた目を覚ましたカリアナ・ノート(ka3733)が奮い立たせるように声を上げる。
「だ、大丈夫よ! レディーは何時もより早起きでも、お仕ごと、に……ししょぅ……ぁふ……」
欠伸に滲む目を擦り見上げる空は、いつもの目覚めの時間よりも随分と暗い。欠伸を噛み殺しながら仲間に声を掛けた。
「おはよー……ござ……まーぅ……」
眠そうな声を聞きながら、白水がカリアナを側に招く。
「仕事は早く終わらせた方がいいよな……最近暑いし」
共に荷車の側で依頼人を守れるように付きながら、日の昇り始める空を見る。カリアナも頷いて駆け寄った。ふわり笑む白水と不安に窶れた顔の依頼人を交互に見て杖を確り握り締めた。
「さあ、出発だ!」
クローディオの声が上がる。先導する自転車を荷馬車と護衛の歩みに合わせて緩やかに漕ぎ、朝の街道を進んでいった。
周囲を警戒しながらも、ハンター達は夏の朝に似合いの爽やかな表情を浮かべている。その中でマキナだけは特に厳しい顔をしているように見えた。
「花の絆の一件は僕も色々と縁や責任がありますので……」
どうかしたのかと依頼人が尋ねると、強張った声がそう答えた。その花に触れたことも、狙った歪虚を逃がしたことも倒したことも、思い返せば長い縁だ。ここまで繋いだ絆を絶やさぬ為にも、無事にと。
「退治されたって俺も聞いた。一安心ってところではあるけど……ん、用心に越したことはないし」
竦んでいる依頼人を励ますように白水が声を掛けて、カリアナも無邪気な笑顔を見せる。
「ねえねえ、ジェオルジってどんなところなの?」
積荷の産地だと聞いた土地、興味と好奇心を隠さない楽しげな声で、気を紛らわせようと話し掛ける。
「相手は隠れてるらしいし、奇襲の警戒ぐらいはしておいた方がよさそうよね~」
依頼人がカリアナと荷物を運んだ都市の話を始め、白水は依頼人の視線が茂みや陰りに向かないように歩く。後をミルティアが警戒し、馬車の前をクローディオの自転車とフランソワーズの馬が並んで走る。
見付けた瞬間には襲ってくるかも知れないと、フランソワーズが槍を振って、その穂先で空気を斬った。
ひゅん、と風の鳴った音。その向こうにざわめく気配。
●
空の色は鮮やかな青。遠い山の向こうで太陽よりも高く昇る積乱雲の白が眩しい。日差しと地面の照り返し、上っていく気温に拭っても額がじわりと汗ばんでくる。
暑いなと誰かが呟いた時、先の茂みが揺れてハンター達の進む先にゴブリンが1匹飛び出してきた。
クローディオが剣を抜き、後続へ襲撃を伝えてペダルを踏む足を緩める。フランソワーズはそれを横目に、槍の穂先を振り翳した。
「私は前衛に出る、護衛は任せたわよ!」
陽光に煌めく銀の髪が翻る。駆け抜ける軌跡は紅。首筋まで狐の紋章を上らせ、目つきを鋭く切り替えたその身体を深紅の光りが包み込んだ。
切っ先で敵を指し、昂ぶらせるマテリアルを炎に変えて放つ。
「さぁ、新たな勝利を刻もうか」
艶やかな声が鋭く響いた。
炎の矢がゴブリンに迫る中、ハンター達の警戒に応えるように、茂みから前後を囲む数匹がその姿を現した。
「……そのまま、逃げてくれれば良いんだけど」
護られている者が弱いと察しているのだろうゴブリンの石を握る手が馬車へ向く。
白水が短杖を向けて火球を降らせる。
その瞬間に柔らかな黄色い羽がふわりとその周囲を舞って、地面に落ちる前に消えていく。敵を見据える双眸が海の青に変わっていた。
「私も、側で護るからね!」
カリアナも自身の丈よりも長い杖を操り、馬車の側に控える。
マテリアルを巡らせ、炎にふらつくゴブリンへ水の礫で追い打ちを与える。
後衛の警戒からやや馬車に寄ってミルティアが構え、3人の前に出るようにクローディオとマキナが構える。
次のゴブリンに狙いを向けると茂みが揺れて更にゴブリンがその数を増やした。それぞれの見据える方向から2、3匹が呻って迫り来る。
「近付かせない。さあ、ヴィクトリア!」
クローディオがペダルを思い切り蹴り、横から迫る3匹を射程に掲げた黒い剣の切っ先から眩い光を放つ。光りの中心、ペダルを離し地面に突いて身体を支えたその足に黒い犬の幻影が身を寄せる。
瞳に燃え上がる炎の色を宿すその犬は、死を想起させる黒い毛並みを戦がせて幽かな気配を残して消えた。
「深追いは、しませんが……」
積荷を、彼を狙うのならば。マキナの赤い瞳が石礫を構えるゴブリンを睨む。
革手袋の左手に熱を感じた。肌に浮き上がる文様は巡るマテリアルの時を刻み、歯車を噛ませて針を回す。
その礫を弾かんと狙い澄ます鞭を放った。
馬上から突き立てた槍を引き抜くと血が吹き上がる。鮮血を被りながらフランソワーズが笑う。
「っ……なんて言うかさ、戦ってる時ってホンット猪だよねキミ!」
ミルティアがその背を狙ったゴブリンに華やかに装飾した金鎚を叩き付けた。
桃色の双眸がその色を深めて紅く、背中から溢れ出し、何かを求めるように揺れた触手の幻影は四肢に巡り、装備を覆うように絡みついた。
振り返らずにフランソワーズが顎を引き槍を構え直した。
「効かないな! さあ、此方だ」
クローディオが前へ、攻撃をその縦に受け止めながら誘う。
強固な金属の鎧に棍棒のぶつかる重い音、盾に受け止めた1匹をその反動に勢いを乗せて弾き転ばせる。
「こっちにくるんだ?……そっかそれなら――っと」
「あはははは、楽しいなぁ!」
距離を保とうとしたミルティアに更にゴブリンが迫ってくる。くるりと手中の鎚を回して構えるが、その先で数匹に囲まれたフランソワーズが笑いながらも槍を操る腕に傷を負っていた。
構えた鎚を引き、フランソワーズの傷へ癒やしの祈りを向ける。
他にも傷を負っている仲間はいないだろうかと見回しながら、迫ったゴブリンの棍棒はローブの上に着込んだ防護服へ受ける。身体に伝う軽い衝撃に口角を釣り上げて片腕で振り払った。
ゴブリンの投じた石がマキナのゴーグルを掠めた。
「僕でしたら構いません……そちらですね……」
その攻撃が自身よりも後方の依頼人へ至らなかったことに安堵し、鋼の鞭を撓らせる。モーターの音が低く呻り、空気を切り裂く音を立ててゴブリンへ向かっていった。
こつん、と狙いを逸れた小さな小石が偶然にもハンター達の合間を縫って荷車に触れた。
その小さな音に依頼人が悲鳴を上げる。馭者席で震える依頼人に、カリアナがすぐに声を掛けた。
「大丈夫、馬車はどこも傷付いてないし、ゴブリンもここまで近付けないよ!」
杖を確りと握り、馭者席を背に庇いながら肩越しに振り返る。にっこりと笑んで励ます青い目に、依頼人が震えながら頭を抱えた。
「……よ、っと……うん、さっきのはもう追い払った」
マテリアルを感じながら水の礫を放った短杖を構え、その向かった先を見据えて白水が言う。斃れるゴブリンを隠すように、馭者席を回り込む。
ね、とカリアナが言い添え、ミルティアも振り返って手を振った。
「1匹でもそっちに近付いたら、容赦なく仕留めてやりますよ」
ボクたちに任せて、と、鎚を揺らして落ち付くように説得する。
その説得の合間にも、フランソワーズはゴブリンに向けて馬を進め、槍を振って馬車からの注意を逸らし、クローディオも馭者の護りを量りながら、慎重にペダルを踏む。
落ち着きを取り戻してはいるが、手綱を握ったまま手を震わせる依頼人の側には、カリアナが付きっきりになって話し掛け、励ましている。仲間の状況を気に掛けながら、ミルティアも励ます声を掛けている。
何度か通ったことのある道だが、歪虚に狙われたばかりの荷を積み、亜人とは言っても敵対し攻撃してくるものに囲まれるのは恐ろしい。そう言って怯えている声はしかし、未だか細い。
カリアナに依頼人を任せ、白水が2人を護るように立つと炎を放ち、はぐれたものには水の礫を叩き付ける。
ゴブリンの数は出てきたときよりも半数以上が減っていた。
紛れるように茂みへ引こうとしたものも、クローディオが光りの波で捉え、逃がすまいと自転車の上から見下ろす目で睨む。
最前線へ出るフランソワーズが槍で、或いは炎の矢で貫いては楽しげな声を上げ、その度にミルティアが肩を竦めながら鎚を振るって空気を揺らす。
状況を確かめてマキナは護りの空いた場所から棍棒を構え馬車へと走るゴブリンへ鞭を放つ。不意を突かれたゴブリンが転び藻掻く。
その姿を見詰めて鞭の長い射程に捉えながら、敵への警戒を保ち立ち上がろうとする側から、攻撃を阻んで柄を固く握り締めた。
「――ん、ねえ、猫は好き?……これから行くところ、多いらしいからね」
依頼人が顔を上げる。その視界には白衣の背中。今し方ゴブリン1匹を斃したとは思えない程朗らかな声で白水が話し掛ける。
らしいね、と小さな声が答えた。
「ジェオルジは農業推進の豊かな土地……かしら? それなら、ポルトワールは、海が綺麗な街なのかしら?」
カリアナが行き先の話しを継ぐと、長い息を吐いて静かな声が港町だと答えた。船が行き交う海運の要の街と落ち付いた声。
依頼人の声を聞きながら、ミルティアが鎚を振るった。こっちはもう平気だ、心配なのは笑っている友人の方。
ハンドルを左右交互に握って、剣と盾を器用に操る。新しい相棒との戦い方を掴んできた。
「よし! いいぞ、ヴィクトリア……残りは、3匹か。追い込んで一撃で」
クローディオはペダルを踏み込んで集まるゴブリンに接近する。
馬車周辺の安全を確認し、自身の射程にも敵が居なくなるとマキナは周囲を警戒しながら移動する。茂みや木の影、視覚からの奇襲、石礫の不意打ち。素早く移動しながら、進行の安全を確保する。
「待って、待って――だぁー、もう…待てって言ってんのこの猪!」
茂みに逃げ込む1匹を追っていくフランソワーズと、その後を追うミルティア。
「一匹たりとも逃がさないぞ! せっかくの獲物がもったいない!」
高揚に任せながらも、鋭い穂先の狙いを据えて放った炎の矢がゴブリンの足を掠めてその逃走を止めた。赤い舌が唇を舐める。
「さぁ、私たちに勝利を!」
「仕事は護衛だってのに……ま、でも。真っ赤に咲かせてやりますよ!」
槍が胸を貫き、尚も藻掻くゴブリンの頸を黒い影が衝撃で押し潰す。
「あぁん、楽しかったわぁ……これで終わりかしら?」
馬上で自身の肩を抱いて恍惚とするフランソワーズに、ミルティアが肩を落として溜息を吐く。
「……楽しそうで何よりです……はぁ」
血塗れの友人へ祈りを込めた鎚を向けるが、今度のそれは全て返り血だったらしい。
乾き始めて固まり掛ける血に濡れた髪を摘まんで、子供の様に口を尖らせた友人を皆の元へと促しながら仰ぐ空。
その先に眩い光りが広がって、向こうも片が付いたと知れた。
戦いの跡の残る道を抜け、依頼人の護衛を続けながらカリアナは依頼人との話を弾ませている。
改めて随分幼い少女に護られていたのだと知った依頼人が、晒した醜態に恥じらい挽回するように行き先や嘗て巡った街の話しを語り聞かせた。
フランソワーズは髪の汚れを暫く気にしていたが、楽しげな声が聞こえ、戦闘の高揚が収まる頃には、すっきりとした笑顔で先導の馬を走らせる。
その後姿を眺め、ミルティアは苦笑いで溜息を吐きながら、仕事の後に抱き付こうと指を揺らした。
「――そろそろ到着だが、日も傾いてきたな。……気を抜かずに行こう」
新しい相棒との初任務、茜に染まった空を仰いで呟くと、クローディオは仲間を振り返り声を掛けた。目を凝らせば街の灯が微かに臨め、仄かな磯の香や細波の気配を感じる。
「ん。……しっかり護衛しないと……」
一日歩きはやはり暑いな、帰ったらミルク多めの冷たいカフェオレを、と思い浮かべながら、白水も依頼人とその行き先を見詰めた。
「ハンターが協力できることがあれば、是非ソサエティにご連絡くださいね……僕も興味がありますので……」
月が昇る頃に到着した。ぽつぽつと灯った街の明かりの中、マキナはハンター達に礼を告げた依頼人を引き留る。依頼人は荷を一瞥すると、受取人にそう伝えて置くと頷いた。
夏の夜風が海の香りを運んでくる。
月がゆっくりと昇り、灯りが増えて夜が更けていく。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 7人 |
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【相談卓】運送護衛 白水 燈夜(ka0236) 人間(リアルブルー)|21才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/08/05 22:19:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/05 05:28:23 |