ゲスト
(ka0000)
【東征】ひよことたまごの総力戦
マスター:鳥間あかよし

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 2日
- 締切
- 2015/08/03 22:00
- 完成日
- 2015/08/11 23:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●小景
こんな深夜だというのに、屋敷には煌々と明かりがついている。
変わった屋敷だ、泉の上に建てられているのだから。
周りは宵闇より濃い憤怒を恐れて、ぴしゃんと口をつぐんでいるのに、その屋敷だけ熱気にあふれている。縁側を走りまわり、障子を乱暴に開け閉め。時に荷車が出入りし、怒鳴りあう声はさながら戦場のよう。
そうだ、戦場だ。ここは筆が刃な戦の場。
モノノフの護符を作り出す、陰陽寮が一翼。
いま、人影がひとつ、開けっ放しの門から表の暗闇へまろびいでた。
伸びかけの黒髪をざっくりと束ねた少年だ。玄関から顔を出した同輩へ、なにごとか返事をして道を急ぐ。
向かう先は城。名を龍尾城。
請うはモノノフ、またの名を、あなた。
●つまりなんなのさ
「護符作りが、追いつかないよ!」
泉玄舎の鴻池ユズル(こうのいけ・ゆずる)は、新たに積み上げられた白紙の山を見上げ、崩れ落ちた。
年のころは十二かそこら。伸びかけの黒髪をざっくり束ね、すりきれた狩衣を着ている。声変わりもまだなのか、水色の瞳はまだまだ幼い。その瞳に、疲れた顔の妹弟子が四人、ずるずる這い出てくる姿が映った。
「おなかすいたよう」
「……ねむい」
「札作り飽きたー」
「荷造りやだー」
「アオナ! アケミ! シロミツ! クロミツ! いいかげんにしろ!」
廊下側から突然、怒鳴りつけられた。
振り返った先に立っていたのは、白い狩衣の少年、尼崎チアキ(あまがさき・ちあき)。とび色の瞳に鬱憤が燃えている。年上なのだろう鴻池よりも、半年かそこらくらいは。
「恐れ多くもスメラギ様よりおおせつかった護符作りだぞ、真面目にやれ!」
だって、と頬をふくらませる子ども四人を、守るように鴻池が手を広げた。
「認めようよ尼崎。ここは人手が足りないんだよ」
「くだらんことを言っていないで手を動かせ! やらなきゃ終わらんぞ!」
「降参しよう。最初の分はどうにか城へ納めることができたけれど、おかわりが出るなんて僕もおまえも考えてなかったじゃないか」
「当然だ。流派を問わず作成でき、かつ効力を均一にするために、数を頼みにする方法に出たのだからな。あればあるだけいい」
「だけど僕達だけではとても、護符に込めるマテリアルが足りないよ」
「この戦に負けたなら俺たちは滅ぶしかないんだぞ!」
押し問答に、鴻池はほぞをかんだ。
泉玄舎は数ある陰陽寮の中でも玄武の流れを汲む小さな学び舎だ。天ノ都の下町にあり、寮を名乗るほどの規模ではなく、舎をもって符術師育成の許認可を得ている。隣近所の評判は、住み込みの寺子屋と同程度。創始者は元武家で、四十を過ぎてから陰陽道をこころざし泉玄舎を建設した。道楽だったのではと四代目になる先生は言っていた。その先生は、南の戦いへ行ったきり、音沙汰がない。
そんなわけで屋敷には、子どもしかいない。みんな弟子とは名ばかりの拾われっ子だから、家事や礼儀は仕込まれているけれど、肝心の符術が使えるのは鴻池と尼崎だけ。その二人だって、半年前先生に苗字をいただいたばかりの駆け出しだった。
半人前二人を足しても泉玄舎の看板はやっぱり重い。だから護符作りは妹弟子もそろっての総力戦だった。
泉玄舎の玄関を入って正面、屋敷の中心を貫く廊下から左へ行けば、泉へ面した畳敷きの間。今日はふすまがすべて取り払われ、障子も開けっ放しの大広間だ。妹弟子たちはそこで、丈夫な紙から札を切り出し、鴻池が符術の礎を組む。方法は人によって違うが、泉玄舎では戦勝を意味するとんぼの絵を入れることで札を聖別している。
よく乾かした札を束にして廊下を右へ行けば、こちらは板壁で仕切られた生活の場。お勝手に納戸に先生の部屋、そして神棚のある小広間。そこだけ、切り取られたように静かで、木戸を押し開けば、護符を手に瞑目している尼崎が居る。
それが彼らの戦いだった。
だけどもしかし、戦線が保たれたのは最初の護符作りが終わるまでだった。追加の圧倒的物量は、あっさりとこの名も無き小隊の許容量を越え瓦解寸前へ追い込んだ。その様は、あの大きな大きな火狐の王へ突撃していく東方軍のようで……。
パチンパチンと、行灯のそばでハサミの音が響いている。
うとうとしながら、アオナが札の切り出しを再開していた。いちばんおねえさんのアオナだけは、重大さを飲み込んでいるようで、手伝えることを探して鴻池のあとをついてまわっていた。
縁側ではアケミが、筆を入れた札を乾かしている。普段から何を考えているのかよくわからない子で、ただ言われたことを言われたようにするだけだ。
さらに下の妹弟子、シロミツとクロミツにいたっては遊びの延長で、しかもとうに飽きている。集中しろと言うほうが無理だ。
冷静さを保つために、我ながらわざとらしく感じるほど、鴻池は深く呼吸をした。
「アオナたちはもう寝る時間だろう。尼崎だってフラフラじゃないか」
「ならばこの白紙の山をどうするつもりなんだ。一度は引き受けておいて断るなど、泉玄舎の名折れだ!」
尼崎が床板を踏んだ。シロミツとクロミツが驚いて抱き合い、アケミが口を真一文字に結びアオナの後ろに隠れる。そのアオナも、瞳いっぱいに涙をためていた。
「無理なものは無理だよ。後生だ、ちーちゃん。僕だってケンカなんかしたかないんだ」
「ケンカ? 悠長なことだな、歪虚との全面戦争だぞ。大概にしろ!」
握りつぶした札を投げ捨て、尼崎が鴻池の胸倉をつかむ。何かが鴻池のなかで堰を切った瞬間。
ぐぎゅううううう。
腹の虫が鳴った。
ぐぎゅー。ぎゅるるる。きゅー。きゅるーりぎゅりっ。
つられて鳴きだし大合唱。夕飯を食べてから、ずいぶん経っている。シロミツとクロミツがわめきだした。
「おなか!」
「すいたー!」
「「ばんごはん、お茶漬けしか食べてないっ!」」
「て、手抜きじゃない、忙しかったんだ!」
炊事担当こと尼崎が空いたほうの手を振り回した。そうだねと、鴻池も苦笑で答え……ふと気づいた。
「ハンターの力を借りよう」
つぶやきに尼崎は目を見開いた。鴻池が独り言をもらす。
「そうだ、どうして気づかなかったんだろう。ハンターなら僕達よりずっとマテリアルの扱いに長けている。協力してもらえばいいじゃないか。符術の基礎を組むまでなら、負担は少ないから僕達も手伝えるし、泉玄舎の名目は保てるし、流通する護符の量は増えるし、誰も損しない!」
言い切った鴻池に、尼崎が若干引く。頭に昇った血もついでに下がったようだ。善は急げと鴻池は駆け出した。
「行ってくるよちーちゃん、留守はお願い!」
草履をひっかけて門の外へ。つまづき転びかける鴻池。その背へ声をかけたのは、玄関から顔を出した尼崎だ。
「……同じ頼むなら正式な依頼にしろ。救援任務、大至急と。卑屈は泉玄舎の名折れだからな」
わかった、と力強く返事をすると、鴻池は龍尾城を目指し走り出した。
こんな深夜だというのに、屋敷には煌々と明かりがついている。
変わった屋敷だ、泉の上に建てられているのだから。
周りは宵闇より濃い憤怒を恐れて、ぴしゃんと口をつぐんでいるのに、その屋敷だけ熱気にあふれている。縁側を走りまわり、障子を乱暴に開け閉め。時に荷車が出入りし、怒鳴りあう声はさながら戦場のよう。
そうだ、戦場だ。ここは筆が刃な戦の場。
モノノフの護符を作り出す、陰陽寮が一翼。
いま、人影がひとつ、開けっ放しの門から表の暗闇へまろびいでた。
伸びかけの黒髪をざっくりと束ねた少年だ。玄関から顔を出した同輩へ、なにごとか返事をして道を急ぐ。
向かう先は城。名を龍尾城。
請うはモノノフ、またの名を、あなた。
●つまりなんなのさ
「護符作りが、追いつかないよ!」
泉玄舎の鴻池ユズル(こうのいけ・ゆずる)は、新たに積み上げられた白紙の山を見上げ、崩れ落ちた。
年のころは十二かそこら。伸びかけの黒髪をざっくり束ね、すりきれた狩衣を着ている。声変わりもまだなのか、水色の瞳はまだまだ幼い。その瞳に、疲れた顔の妹弟子が四人、ずるずる這い出てくる姿が映った。
「おなかすいたよう」
「……ねむい」
「札作り飽きたー」
「荷造りやだー」
「アオナ! アケミ! シロミツ! クロミツ! いいかげんにしろ!」
廊下側から突然、怒鳴りつけられた。
振り返った先に立っていたのは、白い狩衣の少年、尼崎チアキ(あまがさき・ちあき)。とび色の瞳に鬱憤が燃えている。年上なのだろう鴻池よりも、半年かそこらくらいは。
「恐れ多くもスメラギ様よりおおせつかった護符作りだぞ、真面目にやれ!」
だって、と頬をふくらませる子ども四人を、守るように鴻池が手を広げた。
「認めようよ尼崎。ここは人手が足りないんだよ」
「くだらんことを言っていないで手を動かせ! やらなきゃ終わらんぞ!」
「降参しよう。最初の分はどうにか城へ納めることができたけれど、おかわりが出るなんて僕もおまえも考えてなかったじゃないか」
「当然だ。流派を問わず作成でき、かつ効力を均一にするために、数を頼みにする方法に出たのだからな。あればあるだけいい」
「だけど僕達だけではとても、護符に込めるマテリアルが足りないよ」
「この戦に負けたなら俺たちは滅ぶしかないんだぞ!」
押し問答に、鴻池はほぞをかんだ。
泉玄舎は数ある陰陽寮の中でも玄武の流れを汲む小さな学び舎だ。天ノ都の下町にあり、寮を名乗るほどの規模ではなく、舎をもって符術師育成の許認可を得ている。隣近所の評判は、住み込みの寺子屋と同程度。創始者は元武家で、四十を過ぎてから陰陽道をこころざし泉玄舎を建設した。道楽だったのではと四代目になる先生は言っていた。その先生は、南の戦いへ行ったきり、音沙汰がない。
そんなわけで屋敷には、子どもしかいない。みんな弟子とは名ばかりの拾われっ子だから、家事や礼儀は仕込まれているけれど、肝心の符術が使えるのは鴻池と尼崎だけ。その二人だって、半年前先生に苗字をいただいたばかりの駆け出しだった。
半人前二人を足しても泉玄舎の看板はやっぱり重い。だから護符作りは妹弟子もそろっての総力戦だった。
泉玄舎の玄関を入って正面、屋敷の中心を貫く廊下から左へ行けば、泉へ面した畳敷きの間。今日はふすまがすべて取り払われ、障子も開けっ放しの大広間だ。妹弟子たちはそこで、丈夫な紙から札を切り出し、鴻池が符術の礎を組む。方法は人によって違うが、泉玄舎では戦勝を意味するとんぼの絵を入れることで札を聖別している。
よく乾かした札を束にして廊下を右へ行けば、こちらは板壁で仕切られた生活の場。お勝手に納戸に先生の部屋、そして神棚のある小広間。そこだけ、切り取られたように静かで、木戸を押し開けば、護符を手に瞑目している尼崎が居る。
それが彼らの戦いだった。
だけどもしかし、戦線が保たれたのは最初の護符作りが終わるまでだった。追加の圧倒的物量は、あっさりとこの名も無き小隊の許容量を越え瓦解寸前へ追い込んだ。その様は、あの大きな大きな火狐の王へ突撃していく東方軍のようで……。
パチンパチンと、行灯のそばでハサミの音が響いている。
うとうとしながら、アオナが札の切り出しを再開していた。いちばんおねえさんのアオナだけは、重大さを飲み込んでいるようで、手伝えることを探して鴻池のあとをついてまわっていた。
縁側ではアケミが、筆を入れた札を乾かしている。普段から何を考えているのかよくわからない子で、ただ言われたことを言われたようにするだけだ。
さらに下の妹弟子、シロミツとクロミツにいたっては遊びの延長で、しかもとうに飽きている。集中しろと言うほうが無理だ。
冷静さを保つために、我ながらわざとらしく感じるほど、鴻池は深く呼吸をした。
「アオナたちはもう寝る時間だろう。尼崎だってフラフラじゃないか」
「ならばこの白紙の山をどうするつもりなんだ。一度は引き受けておいて断るなど、泉玄舎の名折れだ!」
尼崎が床板を踏んだ。シロミツとクロミツが驚いて抱き合い、アケミが口を真一文字に結びアオナの後ろに隠れる。そのアオナも、瞳いっぱいに涙をためていた。
「無理なものは無理だよ。後生だ、ちーちゃん。僕だってケンカなんかしたかないんだ」
「ケンカ? 悠長なことだな、歪虚との全面戦争だぞ。大概にしろ!」
握りつぶした札を投げ捨て、尼崎が鴻池の胸倉をつかむ。何かが鴻池のなかで堰を切った瞬間。
ぐぎゅううううう。
腹の虫が鳴った。
ぐぎゅー。ぎゅるるる。きゅー。きゅるーりぎゅりっ。
つられて鳴きだし大合唱。夕飯を食べてから、ずいぶん経っている。シロミツとクロミツがわめきだした。
「おなか!」
「すいたー!」
「「ばんごはん、お茶漬けしか食べてないっ!」」
「て、手抜きじゃない、忙しかったんだ!」
炊事担当こと尼崎が空いたほうの手を振り回した。そうだねと、鴻池も苦笑で答え……ふと気づいた。
「ハンターの力を借りよう」
つぶやきに尼崎は目を見開いた。鴻池が独り言をもらす。
「そうだ、どうして気づかなかったんだろう。ハンターなら僕達よりずっとマテリアルの扱いに長けている。協力してもらえばいいじゃないか。符術の基礎を組むまでなら、負担は少ないから僕達も手伝えるし、泉玄舎の名目は保てるし、流通する護符の量は増えるし、誰も損しない!」
言い切った鴻池に、尼崎が若干引く。頭に昇った血もついでに下がったようだ。善は急げと鴻池は駆け出した。
「行ってくるよちーちゃん、留守はお願い!」
草履をひっかけて門の外へ。つまづき転びかける鴻池。その背へ声をかけたのは、玄関から顔を出した尼崎だ。
「……同じ頼むなら正式な依頼にしろ。救援任務、大至急と。卑屈は泉玄舎の名折れだからな」
わかった、と力強く返事をすると、鴻池は龍尾城を目指し走り出した。
リプレイ本文
●ウィスパードール
「月が青い、よ……グレゴリー」
水面に映る月に、黒に染まった少女とクマのぬいぐるみの影が落ちる。泉玄舎の門をくぐり飛び石を渡るうちに、キアーラ(ka5327)は水の上を歩いているような錯覚を感じた。もうすこしで屋敷だ、にぎやいだ輪へ自分が入るのだと思うと、キアーラはうれしいような気後れするような気分になって足を止め、人形へ囁きかける。
(戦勝祈願……みんなの無事、祈らな、きゃ)
クマがニヒルに口元をゆがめた、ような気がする。グレゴリーの顔は月影へさやかに沈み、誰にも見えなかった。
――まぁたまた、いい子ぶっちゃってさ! もっと大事な想いがあるだろう?
(……どういう、事?)
――歪虚滅びろ! さ。戦勝祈願なんだ、当然だろう?
(でも……みんなの無事も、大事)
――それは否定しないよ。どっちが大きいかって話さ!
(そう……そう、ね)
キアーラは背を押されたかのように足を踏み出した。
「両方あるなら……どっちもお祈り、する」
――キシシ、いい欲張り具合だね。そのぐらいがちょうどいいさ。ありったけ込めてやろう!
高笑いするグレゴリーを抱きしめ、キアーラは泉玄舎へたどりついた。グレゴリーといっしょにお辞儀をしてあいさつ。
「……ごめんください」
●ハローハワユー
「ぱ~るぱるぱるぱ~るぱる、ユグディラんらん猫にゃんにゃん! こ~んば~んは~♪」
「……こんばんは」
まぶしい笑顔を見せるチョココ(ka2449)。頭の上に乗ったパルムが尻を振っている。どうやら挨拶をしているらしい。自分よりも幼い少女に出迎えられ、キアーラはあいまいな笑みをグレゴリーの陰で浮かべた。
続いて姿を見せたのが箒とちりとりを持った黒肌のエルフ、ラル・S・コーダ(ka4495)。ほっそりした肢体の楚々とした美女で、足の運び方ひとつとっても踊るように優雅だ。
「こんばんは、キアーラさんですね。本日はどちらのお手伝いに?」
「え、と」
「わたし、歌を歌わなければマテリアルをうまく扱えないのです。なので、今回は札作りやおさんどんに参りました」
「わたくしはパルムのパルパルと一緒に護符作りのお手伝いですわ。こっちは真面目に静か~に集中してマテリアルを護符へ込めますの」
「じゃあ……そっち、です。あの、よ、よろしくお願いします……」
「は~い、一名様ごあんな~いですわ」
キアーラはぺこりと頭を下げた。古い廊下はよく磨かれてはいたが、靴を脱いだ足にはすこしざらつきを感じる。あけっぱなしの大広間には紙切れが散らばっているのが見え、ラルは軽く会釈をすると掃除に戻った。チョココがおねえさんぶって言う。
「集中力は長くは続きませんから、きりのよい処で休憩を入れるのですわ。お腹が空いたら、あちらの畳の間で腹ごしらえですわ♪ 今日は料理上手な人が集まっているから頼もしいですわ~♪」
よだれを垂らさんばかりのチョココ。見ればたしかに、ちゃぶ台の上にずらりとおにぎりが並んでいる。
「はっはー!! 夏の祭典でも行うのか! 同盟のジェオルジって所ではもう済ませたようだがな!」
追加の握り飯を盆に満載した役犬原 昶(ka0268)が廊下の角から現れた。
「昶様~、ひとついただいてもよろしいかしら?」
「もちろんだ、ガンガン食え! 米だ! 何はともあれ米を食え! 米食えば活力が生まれるっつーもんだ!」
ひとつどころか五つ乗せた皿を押し付け、昶は神棚の間へ行く一行を見送った。そしてちゃぶ台を囲む少年たちへ声をかける。
「どうだ、ガキども、食ってるか!」
「ふぁいっ!」
鴻池が食べながら元気よく返事をした。頬には米粒がいくつもついている。おなかがすいていたのか、シロミツとクロミツは喉へ詰まらせんばかりに夜食をがっついていた。アオナは猫舌なのか、うどんを相手に悪戦苦闘。アケミだけは縁側のほうから、ちゃぶ台をじっと眺めるだけでいた。昶はアケミへ、こいこいと手招きした。
「心置きなく飲んで食って休めよ! 力仕事なら任しとけ! グッズが壊れねぇように細心の注意は払って運んでやるぜ!」
畳の間の様子をたしかめた天竜寺 詩(ka0396)は、まっすぐ台所へ向かった。
(あの子達もスメラギ君と東方のため、頑張ってるんだね。私も負けずに支援するよ♪)
パンをかまどで香ばしくあぶりながらツナ缶の中身をほぐし砕いたナッツとあわせる、干し肉をスパイスと煮込み、ついでにチーズもとろりとさせる。仕上がりに満足しながら、詩はできあがったホットサンドイッチを皿に並べた。
(これなら作業しながらつまめるしね)
つづいて鍋へ水を張り、ザラメをまわしいれる。隣のかまどには蒸し器をかけ、蓮根のスライスを。火加減を調節していた詩のうえに影が落ちる。顔をあげてみれば、割烹着に三角巾の音羽 美沙樹(ka4757)とエステル・クレティエ(ka3783)だった。
「音羽 美沙樹と申しますわ、よろしくお願いしますわね。空いているかまどを使ってもよろしいかしら」
「うん。私のもすぐ終わるし、自由に使ってよ」
「腕の振るいがいがありますこと。夜食は十分なようだから、あたし、明日の仕込みをいたしますわね。こういう場合は、ごはんを食べて休憩させて気分転換が一番。根をつめすぎても、疲れが酷くなって手が遅くなりますもの」
挨拶をしているうちに薬缶から湯気が上がった。棚をあたっていたエステルが茶椀と急須をとりだす。ミントやローズマリーを急須にぽいぽい放り込み、ハーブティーの下ごしらえ。湯と泉の水を使って、温かいお絞りと冷たいお絞りとを作りながら、エステルはすこしだけ顔を曇らせた。
「私たちが元気なうちにあの子たちには休んでもらいたいですね。年少さんは特に疲れているようだけど……ちょっとくらいならお話を聞いてもいいでしょうか」
「お話?」
美沙樹の相槌にエステルが目をキラキラさせながら振り向く。
「だって、符術、ですし。そして此処は学び舎なんです!」
めったにない機会だとエステルの顔に書いてあった。
「建物もなんだか特別に思えて、ああ、木目が、木目が四神の形に!」
「それは気のせいだと思うわ」
「あの、込めるマテリアルの量や書き込む文字によって効果が変わったりとかするのかなあって! それから符の材質は? ただの紙に見えるけどじつは特別なのかもとか!」
一気にまくし立てた彼女はあわてて口元をおさえた。
「あ、静かにですよね。ごめんなさい。台所だからいいかなって、つい」
「終わったらいろいろ教えてもらえるかもしれないわ」
「そうですね、美沙樹さんの料理とおやつを楽しみに作業しますね!」
ハーブティーをいれたエステルは鼻歌交じりに台所を後にした。畳の間へ差し入れし、自身は神棚の間へ。静謐な空間に入ると自然に身が引き締まった。神棚の真正面でチョココがゆらゆら揺れている。踊っているらしい。壁際では尼崎が黙祷していた。横顔が青白い。
(尼崎くん、だいじょうぶかしら)
手に取った札に違和感を抱き裏返してみると、チョココが書いたらしきパルムの絵があった。まわりにはパルパルの手形がついている。
(これは霊験あらたかね)
踊りながら集中しているチョココの姿に吹きだしそうになるのをこらえ、エステルはお絞りで目元を拭うと精霊を呼び出した。
●ねんねんころり
大広間の騒動を眺め、水流崎トミヲ(ka4852)は首をまわした。こきりと音がする。
「あー、これ、何か覚えがある……そう、ブラックバイトだ。見てるだけで肩がこってくるよ。ま、でも、良い機会だね。ボクのこの荒ぶるDT魔力を……符に叩きこんで全ハンターへお届けしてやるよ!」
カッと目を見開き、彼は自分の護符を取り出した。仕上がりの参考にする腹積もりだ。
「全国の男子がもっとDTを守れるといい。そう思わないかい?」
「思わない」
隣でイェルバート(ka1772)が首を振った。
「リア充候補め。キミみたいな奴は幸せな結婚をして孫にも恵まれ穏やかな老後を過ごせよ……ッ」
「呪われた気がする」
ざれ言を流し、イェルバートは腕を組む。雑駁な雰囲気には、どこかなつかしさを感じる。頭をひねっているうちに思い当たった。
(……なんだかこの雰囲気、爺ちゃんの工房で徹夜で作業して魔導機械を仕上げているときと似ているような……)
大きく首を縦に振る。
「うん、修羅場ってことが分かった。僕にできることがあれば喜んで手伝うよ。鴻池くん、どれから手をつければいいかな」
「ありがとう、そこの包装を解いておくれよ」
「立ち上がらなくていい、休憩してなよ」
「けど」
「神棚前で倒れたおバカさんが居たので連れて来ましたよ」
牧 渉(ka0033)が尼崎を抱いて歩いてきた。山と詰まれた手付かずを前にして、驚きとも呆れともつかない吐息をこぼす。
「これはまた、思ったより……いえいえ、無理してもらいすぎてるくらいですよ。尼崎さんはこのまま布団に放り込みましょうか」
「フトン?」
イェルバートがピクリと耳を動かした。
「フトンって東方の寝具だよね。綿で出来ていてロールケーキみたいになるって聞いたよ」
「どちらかというとミルフィーユですかね」
「……ミルフィーユ。どんな寝心地なんだろう。一仕事終わらせたら僕もフトンで寝てみたいよ」
よしと気合をいれなおすイェルバート。フードの下からちらりと見えた素顔にもやる気が満ちていた。
尼崎がまぶたを開ける。立ち上がろうとする彼をレオン・フォイアロート(ka0829)が押し留めた。
「よく頑張りましたね。後は私達も手伝いましょう」
「まだ終わっていない」
「お気持ちはよくわかります。私も東方を救うため、自分に何かできることはないかと思い、一助にでもなればとこの依頼へ参加しました」
あなたのような子どもが頑張っているというのに、騎士である私が遊んでいるわけにはいきませんからねと、ふうわり微笑む。
「ただ、護符を作るのは初めてですから、気をつける点があるのでしたらご指導ください」
「……」
尼崎は札を手に取り彼なりのやり方をレオンへ教える。傍耳を立てていたハンターが集まってきた。
「なるほど、よくわかりました。マテリアルを注ぐのは私にお任せください。バトンタッチとしましょう。そうそう、確かこんな話がありましたか。職人が眠ってしまった間に小人さんが仕事を終わらせておいてくれた、とね」
少年と手を合わせると、レオンは札の束を持てるだけ持って廊下の奥へ消えた。
代わりに現れたのがハッド(ka5000)だ。盆には水から煮出したコーヒー、ドネルケバブにドンドゥルマが乗っている。ふくいくたる香りに子ども達へ生気が戻った。座布団に腰を下ろしたハッドが頬杖をつく。
「チアキんとユズルんは徹夜でもするつもりなのかの? アオナん以下はまだまだ子どもじゃろ~し、無理はさせられぬ。既にぶっ倒れた者もおるようじゃしな」
じろりと尼崎を睨むハッド。
鋏を置いたクレール(ka0586)が、聖母のように両腕を広げた。
「アオナちゃん、アケミちゃん、シロミツちゃん、クロミツちゃん、今までほんとにありがとう。すっごく頼もしい。でも、ずっと働きづめじゃ疲れちゃうよ。お姉ちゃんとお話してくれる? 私も疲れちゃった」
おなかはふくれた? ちゃんと寝れてる? こまごました質問を投げかけるのは、幼な子らを思う気持ちの表れだ。シロミツとクロミツは、眠い、疲れたと騒がしいくらい訴えるが、アオナは拳を膝に乗せたままうつむいている。縁側のアケミは障子の影から出てこようとしない。アオナが言う。
「……まだぜんぜんできてないから寝ない」
「アオナちゃん……」
一途さを不憫に思ったクレールが彼女を抱きしめる。
「だから私たちが居るんだよ。安心して」
顔を上げ、年長二人へ視線をやる。
「ユズルさん、チアキさんも。こういうときこそ、ちゃんと休んでくださいね。先が見えないからこそ、体を、大事に」
「うんうん、それとね、暑すぎると集中も途切れやすいし、体にも悪いし」
ネムリア・ガウラ(ka4615)が言を引き継ぐ。
「着てるものが臭ってくると、周りの人が気が散るかもだし。水でも浴びておいでよ。体を清めてまた頑張ろうよ、えっと、なんだっけ」
「……禊」
「そう、それ」
ぶっきらぼうに答える尼崎に、ジュード・エアハート(ka0410)は苦笑をもらした。今日は染井吉野の舞う淡い桃の着物を着こみ、黒のロングウィッグをしゃなりと結い上げている。
(東方風の格好になってるかな? 非常事態だから大人も子どもも関係ないのかもしれないけど。それでも頼る人が居ないっていうのはきっと凄く不安なはずだから。少しでもあの子達の力になりたいな)
「せめて何かお食べ。おにぎりも味噌汁もおうどんもあるよ」
「それとも甘いものがいいのかな?」
いつのまにかやってきた詩が、お盆をちゃぶ台へ置き、年長達へ笑いかけた。
「鴻池君は糖水って知ってる?」
「たんすい?」
「はーい、これでーす」
詩は椀を差し出した。ザラメで味付けされたスープに蓮根が浮いている。
「食べれば思い当たるかもね。甘くてさっぱりしてるから飲みやすいし、子どもにもオススメ。蓮根は疲れによく利くし、甘いものは腹持ちがいいから、対戦時は先行で審査員へ出して満腹にさせるのがお約束だよ」
「どういうこと? 僕ぜんぜんわからないよ!」
「いいから食べてみてよ!」
妙に説明的なセリフを歯切れよくしゃべり、詩は椀を押し付けると障子の向こうへ声をかけた。
「アケミちゃんもおいでよ。おいしいよ?」
「甘いものはいいよね、ボクも大好きだよ。キミたちもどうだい? 張り詰めすぎたって、能率が落ちるだけさ。メリハリを大事にしなきゃね」
だばーっ。トミヲがちゃぶ台へお菓子の山を築いた。大人目線で言い含めた途端、うってかわってケーキを掲げる。
「そう! だからボクは食べる!! このデコレーションケーキ、一つはボク用だから! 一つと書いて一ホール! ウォオオオオオオ!」
つられてお菓子へ手を出したシロミツとクロミツが大きな瞳をまんまるにした。
「ケーキ!」
「ケーキちょうだい、もっと!」
「花籠パイもあるよ?」
「「ケーキがいい!」」
「なになに? 楽しそうなことしてるじゃん! あー、ごはん発見ー! 食べ放題? まじで? なにここ天国なの?」
小鳥遊 時雨(ka4921)が乱入してきた。いっしょになってお菓子を平らげていく。
「皆で千羽鶴折っちゃうようなノリだよね、戦場へ届けこの思いっ、てゆー」
甘いものでテンションがだだあがりしたシロミツとクロミツを、アオナがなだめる。二人はいやいやと首を振った。
「ハンターさんとあそぶー」
「あそぶのー」
「「あそぶー」」
ああこれは夜通し騒いだあげく明け方頃に電池が切れるやつだ。掃除をしていたラルがシロミツを抱き上げた。
「寝付くまでわたしが歌いましょうか、添い寝もしてあげるわ」
「うん、お姉ちゃんも故郷の子守唄、歌ってあげるからゆっくり、おやすみ」
クレールもクロミツの頭を撫で、アオナと手をつなぐ。ラルとクレールはそのままアオナたちを連れて畳の間を出て行った。アケミは障子の影に隠れたきり出てこない。こちらが近づくと、次の障子まで逃げていく。ジュードは思い当たった。
(怖がられているのかな。見知らぬ人が何人もやってきたから仕方ないね)
追うのを止め、マカロンやクッキーを山盛りにした皿を畳へ置く。
「皆頑張ってるよね、お疲れ様。俺たちも頑張るから頼りにしてね」
ふしぎなもので追わなくなるとアケミのほうから寄ってきた。着物が気を許すきっかけになったのだろうか。だんだん近づいてくるアケミへ、ちっちっと声をかけながら待ちの一手。やっとチョコ餅を渡せるまでになったとき、妙な達成感がジュードの胸に溢れた。アケミをおんぶして廊下を歩きながら、ジュードは聞いてみた。
「先生はどんな人?」
「つよい」
「つよいのかあ」
「つよいから、心配は、してない。ちょっとだけしか」
「大丈夫、皆で力を合わせればなんとかなるよ」
寝かしつけた彼女へ手を振ると、彼は神棚の間を目指し歩き出した。
「……負けられないね」
●護符に寄せて
休憩がてら、雪加(ka4924)は畳の間を歩き回っていた。天井まで積み上げられた札に瑠璃紺の瞳がまばたく。
「……君達が、こんなに作ったの? すごいなぁ……わたしとそう変わらないのに。わたしは、たたかうしか…できないから……」
語尾が小さくなる。こんな才能があれば、もっとスメラギ様のお役に立てるのかな……。
(私は私にできることをしよう……きっとそれが、彼の、みんなの役に立つ道だから……)
夜食のうどんを空にしてごちそうさまと手を合わせると、雪加は神棚の前へ戻っていく。冷えた板の間で、聞こえるのは仲間の衣擦れと己が鼓動だけ。
(……誰かを護るための護符、ですものね。大事です)
大事な家族、大事な友人、護りたい人……。一人ずつ思い浮かべて、想いを込め紙切れを護符へ転じる。
(たとえ、それが遠い願いだとしても……とどかないとは、思いたくないの……)
食べたら眠くなってきたのか、先ほどから鴻池は目をこすっている。札を切る手も止まりがちになっていた。向かいで時雨が指先を揉みながら言う。
「うはー、指先乾いてきた。パリパリ。ワセリンかなんかないの? 折り紙とかちょー得意な私でもこの量は予想外だよ、いったいどこの誰、こんなに注文したの? ってこれ私も受け取るんだっけ! ナントカは天下のまわり物ってことなのかな、ねえっ?」
「確かに、こりゃ……すごい量だ。ここまで、良く頑張ったな」
コーヒーをぐい飲みする時雨の隣で、火椎 帝(ka5027)がすなおな感想を述べ、年長の頭をぽんぽんと叩くように撫でた。
「ハンターのことを、思い出してくれて……頼ってくれて、ありがとな。これからは僕らも一緒に頑張るよ」
だからもう、不安な思いを抱かなくていい。プレッシャーに耐えなくていい。青い瞳にはそう浮かんでいた。
「休憩を勧めているのはね、甘やかしじゃないし、子ども扱いでもない。きみたちのマテリアルが枯渇しつつあるのが、僕らにも分かるからだ。このままじゃ倒れておしまいだ。けれど、回復したならまた続きが出来る」
にっと口の端をあげ、鴻池と尼崎に視線を合わせる。
「みんなと一緒に”頑張って”くれよ。しっかり納品して国をあっと言わせてやろーぜ」
「はいっ」
「……ああ」
ソーサーへカップを逆さにして伏せ、時雨もひよっこ符術師を元気付けようとする。
「やられたらやりかえそーよ、十倍返しーって。私なんか千羽鶴送られて万羽鶴折り返したことありますし? しかも独りで! 五日でっ! って、小鳥遊引くわーみたいな顔しないでー!? ぎゃーとらうまがー……」
「口もいいけれど手を動かそう」
「や、ごめんごめん帝ー。私、しゃべらないと死ぬ病気なんだよね。でも作業はがんばってるじゃん?」
ザレム・アズール(ka0878)が札の山へ目をやり、得心したようにうなずく。
「たぶん、一人一人が誰かの為に何かしようとする……それが力になっていくんだと思う。俺は……」
彼の脳裏を人影がよぎった。はかなく、けれど芯は強い、思い出に似た面差し。いつか再会したい、その人の影が。
口ごもったザレムを、興味深げに時雨がのぞきこむ。
「……秘密だ」
軽く笑い声を立てて追跡をかわすと、彼は懐から自分の四神護符をとりだした。
「うん。俺も前線に出る予定だよ。正面から歪虚王をひきつける部隊にね」
正直怖い、そう彼は口にした。
「そんな時、人って心のよりどころが有ると違うんだよ。これは俺の護符だ。もしかしたら君が作った護符かもしれないな」
鴻池はそれを受け取り、しみじみとながめた。
「僕達のではないけれど、一枚は友達が作ったやつだよ」
「わかるんだね」
「筆跡が出るから……」
押し黙ってしまった鴻池の肩を紅薔薇(ka4766)が優しく叩いた。
「ここに敵はおらんが、これも一つの戦いなのじゃ……。妾らと共にあるかぎり堂々としておられよ。……終わりが見えんがの」
最後は鴻池へ聞こえないように。紙の端を切り落としていた渉も相槌を打つ。
「あと何枚作ればいいか、は考えないほうが良さそうですね。作れるだけ作るのみです」
ひそひそとささやきあう二人の脇で、札の山へ手を伸ばした尼崎が揺らいだ。額には玉の汗が浮いている。ハッドが、ひょいと彼をかつぎあげた。
「強制連行ー」
「は、離せ、おろせ!」
「騒いでよいのか? 妹弟子たちは寝付いておるぞ」
ぐっと言葉に詰まった尼崎にハッドはからから笑うと、時雨の伏せたコーヒーカップを開いた。
「ほれ吉兆がでておるじゃろ。我輩らを呼ばわったからぞ。なんじゃコーヒー占いを知らんのか」
「鴻池殿も休む時分ぞ。無理が利くのは余裕のある時だけじゃ」
紅薔薇も鴻池を立たせた。年長二人を寝間まで送っていく。
ハンターだけになった大広間をイェルバートは見回した。
(年下がここまでやってくれたんだ、僕も負けていられないや)
ラルの掃除のおかげで床が見えてはいるものの、辺りは雑然と散らかっている。まずは点検前と点検後の札をきちんと分別するところから始めることにした。
「またごっちゃになってる。これじゃ間違いが起きても仕方がないや。整理整頓は工場の基本なんだよ。Uiscaさん、そっちは表。白龍さまを描くなら裏にして」
「あれ、表ってこっちじゃなかったっけ。なんだか描きたりないけど、まあいいか」
「手を入れた札は彼へ渡してよ。縁側へ並べにいくから」
イェルバートに促されたUisca Amhran(ka0754)は、トルステン=L=ユピテル(ka3946)へ自分の作った札を渡し、たいそうな仏頂面を拝む羽目になった。おそるおそる白龍さまサブレなど献上してみる。
「これ角が折れてる、やり直し」
「このくらい誤差の範囲かなって」
「んな顔すんなよ。慌てねーで丁寧にやりゃいーんだよ。一枚から加護があるそうだから、見た目も均一にしねーとな」
(……え。この護符、四神護符っていうくらいだから四枚一組で持つのが基本だと思ってた)
しゅんとしたUiscaの隣で、束を抱えたネムリアが頬をさする。
「えっと、それじゃ。お札にマテリアルを込める作業を手伝うね。胡坐で良いのかな? 形から入るのも大事?」
「人それぞれだそうだから、行って直接見るほうが早いんじゃねーか」
「わかりました。西方の巫女の力をお見せいたしましょうっ」
壁に貼った紙へ正の字を記し、廃棄分まで管理しているトルステンに言われては従わざるをえない。Uiscaとネムリアは元気よく返事をすると札の束を受け取った。
部屋に入ると、確かに皆思い思いの姿勢で集中していた。レオンのように正座している者、ジュードのように機導術を応用している者、帝やアズールのように尼崎たちのやり方を忠実に再現する者。手前ではクレールが札を剣のように神棚へ捧げている。
(神様、精霊様……。どうか友達を、皆を護ってください。皆で、笑いあいたいんです。私のマテリアル……届いて!)
真摯に祈りを捧げるクレールの横顔に、Uiscaはふと既視感を覚えた。
(なつかしい、なんだろうこの静謐さ。ああ……)
聖地だ。
遠い異国の地で、つかのま故郷を感じた彼女は、四神の描かれた札を手に取った。
(きっと白龍さまも私たちを守ってくださいます)
瞑想するUiscaの隣へ座り、ネムリアも札を抱きしめた。
(この札を持つ人が、無事でありますように。笑顔で戻れますように)
愛用の光斬刀を抜き、紅薔薇は細く息を吐いた。丹田へ集めた闘気を頭頂まで練り上げれば、あふれた力が彼女という龍脈を通り刀まで流れていく気がした。
(妾の刀は神社で祀られていた護神刀。幼き日より接してきた妾にはこの刀が補助具として最適じゃ)
完成した札を十枚ずつこよりで綴じ、それを百の束にして紙箱へ詰めていく。黙々と護符作りを続ける紅薔薇。だが、やはりマテリアルの放出を続ければ疲れがたまる。うしみつを越えたあたりから闘気を越えて殺気が混じりだした。
「ふふふ……これも憤怒の狐どものせいじゃな。妾の気持ちが通じるのなら、この護符はきっと良い物になるのじゃ」
「紅薔薇さん声出ちゃってるよ、あっ!」
ミコト=S=レグルス(ka3953)が七枚目の札を破いた。百面相をしながら緊張に汗ばんだ手で次の札を取る。
(えっと、えっと、この紙に念を…込める……。念…念……。力を込めすぎないようにしないと。じゃないとさっきの二の舞だし……慎重に、慎重に)
びりっ。
「あ゛っ」
ちょうどその時木戸が開いた。完成した護符を紅薔薇から受け取ったトルステンがミコトへ視線をやった。ミコトは青ざめ、破れた札をさっと後ろへ隠す。トルステンが押し殺した声を出した。
(……見せてみろ)
(ち、ちが、わざとじゃな……っ)
(もうお前触んな! 掃除でもしてろ!)
(じゃ、じゃま、してな…う、ううう…ご、ごめんなさい……)
(泣くことないだろ。そっちはいいから畳の間にこいよ)
ミコトはうんとうなずくとトルステンについていく。寝息の聞こえる部屋の前を通った時、トルステンは思った。
(ハァ……。あっちもこっちもガキばっかじゃねーか。保護者は何やって……って俺か。しょーがねーから手伝ってやる)
木戸をぴっちり閉めると、大広間の騒ぎがうそのように静かになった。誠の意味で扉は結界であろうと、柏木 千春(ka3061)は考えた。彼岸と此岸を、あちらとこちらを隔てるには薄い戸板で十分なのだと。そう思いたかった。
先に作業へ入っていたマリエル(ka0116)が、一枚目を終わらせて肩の力を抜く。複雑な思いを抱いたのか、自分の作った護符をじっと見つめている。千春はマリエルの対面で正座し、自分も同じ山から札を取った。四神の描かれた札を裏返すと、手書きの白龍が踊っている。片手で持ったそれを顔の前へ掲げ、利き手を翡翠のペンダントに添えると千春はまぶたを閉じた。
(この護符を持つ人が、無事でありますように。私の祈りが、少しでも加護の力となりますように)
ミルクティーみたいな髪が一房、白く染まる。淡い蛍火が札の周りでくるくると輪を描く。札の四神が淡く光った。千春はそれを隣の山へ重ね、次の札を手に取った。向かいではマリエルが懸命に札へマテリアルを込めている。彼女を盗み見ながら、千春は首もとの翡翠石をなでた。つるりとした冷たい感触が、胸の奥にひそむ不安をかき消してくれる気がした。
(おそらく別の戦場になってしまうと思うけれど、どうか彼女が無事でありますように)
札の山を挟んで二人の少女は、同じ考えを抱いていた。マリエルが新たな札を取りマテリアルを注ぐ。
(……ちーちゃん、私にここにいる意味を教えてくれた、大事なお友達)
護符へ込めるのは祈りと願い、そして慈母の如き想い。
一枚、また一枚と作業を続ける中、集中が途切れそうになり、正面の千春を見つめる。
(難しいのは分かってる、でもこれを持つ人が帰れますように。皆が無事で戻ってきますように……どうかちーちゃんも……)
ふと千春が集中をとき、二人の視線が合わさった。マリエルはにこりと微笑み、声は出さず口だけを動かした。
(がんばろう)
(がんばろうね)
ふふり。千春も笑う。マリエルが気恥ずかしげにまつげを伏せる。
目が合えば、それだけで伝わる想いを、人は絆と呼ぶ。互いに互いを思いながら、再び二人は静かな祈りへ沈んでいった。
●新たなる戦場へ
玄関先の荷車に護符が限界まで乗っている。畳の間はきれいさっぱりかたづき、平素の風情を取り戻していた。美沙樹は屋敷中へ呼びかけた。
「おはようございます皆さん、本日もよい天気です! 朝はやっぱりお魚ですね!」
ぱりっと焼けた魚が膳に乗っている。美沙樹が山盛りにした茶碗を皆へ配っていく。徹夜をしたハンターたちが生あくびしながら大広間へ集まった。壁にはハッド特製の、畳大の巨大な護符がある。青龍の代わりに白龍だったりするゆるい雰囲気の四神の絵を、パルムの足跡が縁取っていた。
「あら鴻池さんと尼崎さんはどちらへ? 今朝方護符作りをしていたのは見たのですけれど」
美沙樹が廊下をのぞいたのと、二人が盆を下げてやってきたのが同時だった。盆には水をいれた器が立ち並んでいる。
「泉の水だよ。来てくれてありがとう。助かったよ」
「いろいろと差し入れされたしな、礼だ」
妹弟子たちもぺこりと頭を下げると水を配りに散っていく。受け取った帝はひとりひとりの頭を撫でた。
「みんなよく頑張ったな」
「頑張ったね、えらいよ。ボクは働きすぎてなんだか胸痛がするけど」
トミヲが茶化す傍ら、ザレムは憂いを秘めたまま口を開いた。
「必ず生きて帰る……とは約束できない。けど首の皮一枚、俺たちの作った護符で命が繋がると信じられるなら……そう、信じさせてくれ。そして、俺たちを見送ってほしい」
「もし西方と自由に行き来できるようになったら、西方へも遊びに来てね。すてきなところなんだよ」
Uiscaが皆と指切りをする。それをまぶしげに見つめていた雪加がぽつりとこぼした。トミヲも自分の両頬を叩く。さて、決戦だ、と。
「……護らないと、ね。もっと、お話とかしたいもの」
「あの子たちの分も背負って頑張るよ」
「じゃ、祝勝会の準備よろしくー!」
「気が早くない?」
トミヲの一言に時雨は指を鳴らした。
「デザートがあるとないとじゃ大違いじゃん? フルコースまとめて食べちゃおうよ、腹が減っては、だもーん! いただきまーす!」
「月が青い、よ……グレゴリー」
水面に映る月に、黒に染まった少女とクマのぬいぐるみの影が落ちる。泉玄舎の門をくぐり飛び石を渡るうちに、キアーラ(ka5327)は水の上を歩いているような錯覚を感じた。もうすこしで屋敷だ、にぎやいだ輪へ自分が入るのだと思うと、キアーラはうれしいような気後れするような気分になって足を止め、人形へ囁きかける。
(戦勝祈願……みんなの無事、祈らな、きゃ)
クマがニヒルに口元をゆがめた、ような気がする。グレゴリーの顔は月影へさやかに沈み、誰にも見えなかった。
――まぁたまた、いい子ぶっちゃってさ! もっと大事な想いがあるだろう?
(……どういう、事?)
――歪虚滅びろ! さ。戦勝祈願なんだ、当然だろう?
(でも……みんなの無事も、大事)
――それは否定しないよ。どっちが大きいかって話さ!
(そう……そう、ね)
キアーラは背を押されたかのように足を踏み出した。
「両方あるなら……どっちもお祈り、する」
――キシシ、いい欲張り具合だね。そのぐらいがちょうどいいさ。ありったけ込めてやろう!
高笑いするグレゴリーを抱きしめ、キアーラは泉玄舎へたどりついた。グレゴリーといっしょにお辞儀をしてあいさつ。
「……ごめんください」
●ハローハワユー
「ぱ~るぱるぱるぱ~るぱる、ユグディラんらん猫にゃんにゃん! こ~んば~んは~♪」
「……こんばんは」
まぶしい笑顔を見せるチョココ(ka2449)。頭の上に乗ったパルムが尻を振っている。どうやら挨拶をしているらしい。自分よりも幼い少女に出迎えられ、キアーラはあいまいな笑みをグレゴリーの陰で浮かべた。
続いて姿を見せたのが箒とちりとりを持った黒肌のエルフ、ラル・S・コーダ(ka4495)。ほっそりした肢体の楚々とした美女で、足の運び方ひとつとっても踊るように優雅だ。
「こんばんは、キアーラさんですね。本日はどちらのお手伝いに?」
「え、と」
「わたし、歌を歌わなければマテリアルをうまく扱えないのです。なので、今回は札作りやおさんどんに参りました」
「わたくしはパルムのパルパルと一緒に護符作りのお手伝いですわ。こっちは真面目に静か~に集中してマテリアルを護符へ込めますの」
「じゃあ……そっち、です。あの、よ、よろしくお願いします……」
「は~い、一名様ごあんな~いですわ」
キアーラはぺこりと頭を下げた。古い廊下はよく磨かれてはいたが、靴を脱いだ足にはすこしざらつきを感じる。あけっぱなしの大広間には紙切れが散らばっているのが見え、ラルは軽く会釈をすると掃除に戻った。チョココがおねえさんぶって言う。
「集中力は長くは続きませんから、きりのよい処で休憩を入れるのですわ。お腹が空いたら、あちらの畳の間で腹ごしらえですわ♪ 今日は料理上手な人が集まっているから頼もしいですわ~♪」
よだれを垂らさんばかりのチョココ。見ればたしかに、ちゃぶ台の上にずらりとおにぎりが並んでいる。
「はっはー!! 夏の祭典でも行うのか! 同盟のジェオルジって所ではもう済ませたようだがな!」
追加の握り飯を盆に満載した役犬原 昶(ka0268)が廊下の角から現れた。
「昶様~、ひとついただいてもよろしいかしら?」
「もちろんだ、ガンガン食え! 米だ! 何はともあれ米を食え! 米食えば活力が生まれるっつーもんだ!」
ひとつどころか五つ乗せた皿を押し付け、昶は神棚の間へ行く一行を見送った。そしてちゃぶ台を囲む少年たちへ声をかける。
「どうだ、ガキども、食ってるか!」
「ふぁいっ!」
鴻池が食べながら元気よく返事をした。頬には米粒がいくつもついている。おなかがすいていたのか、シロミツとクロミツは喉へ詰まらせんばかりに夜食をがっついていた。アオナは猫舌なのか、うどんを相手に悪戦苦闘。アケミだけは縁側のほうから、ちゃぶ台をじっと眺めるだけでいた。昶はアケミへ、こいこいと手招きした。
「心置きなく飲んで食って休めよ! 力仕事なら任しとけ! グッズが壊れねぇように細心の注意は払って運んでやるぜ!」
畳の間の様子をたしかめた天竜寺 詩(ka0396)は、まっすぐ台所へ向かった。
(あの子達もスメラギ君と東方のため、頑張ってるんだね。私も負けずに支援するよ♪)
パンをかまどで香ばしくあぶりながらツナ缶の中身をほぐし砕いたナッツとあわせる、干し肉をスパイスと煮込み、ついでにチーズもとろりとさせる。仕上がりに満足しながら、詩はできあがったホットサンドイッチを皿に並べた。
(これなら作業しながらつまめるしね)
つづいて鍋へ水を張り、ザラメをまわしいれる。隣のかまどには蒸し器をかけ、蓮根のスライスを。火加減を調節していた詩のうえに影が落ちる。顔をあげてみれば、割烹着に三角巾の音羽 美沙樹(ka4757)とエステル・クレティエ(ka3783)だった。
「音羽 美沙樹と申しますわ、よろしくお願いしますわね。空いているかまどを使ってもよろしいかしら」
「うん。私のもすぐ終わるし、自由に使ってよ」
「腕の振るいがいがありますこと。夜食は十分なようだから、あたし、明日の仕込みをいたしますわね。こういう場合は、ごはんを食べて休憩させて気分転換が一番。根をつめすぎても、疲れが酷くなって手が遅くなりますもの」
挨拶をしているうちに薬缶から湯気が上がった。棚をあたっていたエステルが茶椀と急須をとりだす。ミントやローズマリーを急須にぽいぽい放り込み、ハーブティーの下ごしらえ。湯と泉の水を使って、温かいお絞りと冷たいお絞りとを作りながら、エステルはすこしだけ顔を曇らせた。
「私たちが元気なうちにあの子たちには休んでもらいたいですね。年少さんは特に疲れているようだけど……ちょっとくらいならお話を聞いてもいいでしょうか」
「お話?」
美沙樹の相槌にエステルが目をキラキラさせながら振り向く。
「だって、符術、ですし。そして此処は学び舎なんです!」
めったにない機会だとエステルの顔に書いてあった。
「建物もなんだか特別に思えて、ああ、木目が、木目が四神の形に!」
「それは気のせいだと思うわ」
「あの、込めるマテリアルの量や書き込む文字によって効果が変わったりとかするのかなあって! それから符の材質は? ただの紙に見えるけどじつは特別なのかもとか!」
一気にまくし立てた彼女はあわてて口元をおさえた。
「あ、静かにですよね。ごめんなさい。台所だからいいかなって、つい」
「終わったらいろいろ教えてもらえるかもしれないわ」
「そうですね、美沙樹さんの料理とおやつを楽しみに作業しますね!」
ハーブティーをいれたエステルは鼻歌交じりに台所を後にした。畳の間へ差し入れし、自身は神棚の間へ。静謐な空間に入ると自然に身が引き締まった。神棚の真正面でチョココがゆらゆら揺れている。踊っているらしい。壁際では尼崎が黙祷していた。横顔が青白い。
(尼崎くん、だいじょうぶかしら)
手に取った札に違和感を抱き裏返してみると、チョココが書いたらしきパルムの絵があった。まわりにはパルパルの手形がついている。
(これは霊験あらたかね)
踊りながら集中しているチョココの姿に吹きだしそうになるのをこらえ、エステルはお絞りで目元を拭うと精霊を呼び出した。
●ねんねんころり
大広間の騒動を眺め、水流崎トミヲ(ka4852)は首をまわした。こきりと音がする。
「あー、これ、何か覚えがある……そう、ブラックバイトだ。見てるだけで肩がこってくるよ。ま、でも、良い機会だね。ボクのこの荒ぶるDT魔力を……符に叩きこんで全ハンターへお届けしてやるよ!」
カッと目を見開き、彼は自分の護符を取り出した。仕上がりの参考にする腹積もりだ。
「全国の男子がもっとDTを守れるといい。そう思わないかい?」
「思わない」
隣でイェルバート(ka1772)が首を振った。
「リア充候補め。キミみたいな奴は幸せな結婚をして孫にも恵まれ穏やかな老後を過ごせよ……ッ」
「呪われた気がする」
ざれ言を流し、イェルバートは腕を組む。雑駁な雰囲気には、どこかなつかしさを感じる。頭をひねっているうちに思い当たった。
(……なんだかこの雰囲気、爺ちゃんの工房で徹夜で作業して魔導機械を仕上げているときと似ているような……)
大きく首を縦に振る。
「うん、修羅場ってことが分かった。僕にできることがあれば喜んで手伝うよ。鴻池くん、どれから手をつければいいかな」
「ありがとう、そこの包装を解いておくれよ」
「立ち上がらなくていい、休憩してなよ」
「けど」
「神棚前で倒れたおバカさんが居たので連れて来ましたよ」
牧 渉(ka0033)が尼崎を抱いて歩いてきた。山と詰まれた手付かずを前にして、驚きとも呆れともつかない吐息をこぼす。
「これはまた、思ったより……いえいえ、無理してもらいすぎてるくらいですよ。尼崎さんはこのまま布団に放り込みましょうか」
「フトン?」
イェルバートがピクリと耳を動かした。
「フトンって東方の寝具だよね。綿で出来ていてロールケーキみたいになるって聞いたよ」
「どちらかというとミルフィーユですかね」
「……ミルフィーユ。どんな寝心地なんだろう。一仕事終わらせたら僕もフトンで寝てみたいよ」
よしと気合をいれなおすイェルバート。フードの下からちらりと見えた素顔にもやる気が満ちていた。
尼崎がまぶたを開ける。立ち上がろうとする彼をレオン・フォイアロート(ka0829)が押し留めた。
「よく頑張りましたね。後は私達も手伝いましょう」
「まだ終わっていない」
「お気持ちはよくわかります。私も東方を救うため、自分に何かできることはないかと思い、一助にでもなればとこの依頼へ参加しました」
あなたのような子どもが頑張っているというのに、騎士である私が遊んでいるわけにはいきませんからねと、ふうわり微笑む。
「ただ、護符を作るのは初めてですから、気をつける点があるのでしたらご指導ください」
「……」
尼崎は札を手に取り彼なりのやり方をレオンへ教える。傍耳を立てていたハンターが集まってきた。
「なるほど、よくわかりました。マテリアルを注ぐのは私にお任せください。バトンタッチとしましょう。そうそう、確かこんな話がありましたか。職人が眠ってしまった間に小人さんが仕事を終わらせておいてくれた、とね」
少年と手を合わせると、レオンは札の束を持てるだけ持って廊下の奥へ消えた。
代わりに現れたのがハッド(ka5000)だ。盆には水から煮出したコーヒー、ドネルケバブにドンドゥルマが乗っている。ふくいくたる香りに子ども達へ生気が戻った。座布団に腰を下ろしたハッドが頬杖をつく。
「チアキんとユズルんは徹夜でもするつもりなのかの? アオナん以下はまだまだ子どもじゃろ~し、無理はさせられぬ。既にぶっ倒れた者もおるようじゃしな」
じろりと尼崎を睨むハッド。
鋏を置いたクレール(ka0586)が、聖母のように両腕を広げた。
「アオナちゃん、アケミちゃん、シロミツちゃん、クロミツちゃん、今までほんとにありがとう。すっごく頼もしい。でも、ずっと働きづめじゃ疲れちゃうよ。お姉ちゃんとお話してくれる? 私も疲れちゃった」
おなかはふくれた? ちゃんと寝れてる? こまごました質問を投げかけるのは、幼な子らを思う気持ちの表れだ。シロミツとクロミツは、眠い、疲れたと騒がしいくらい訴えるが、アオナは拳を膝に乗せたままうつむいている。縁側のアケミは障子の影から出てこようとしない。アオナが言う。
「……まだぜんぜんできてないから寝ない」
「アオナちゃん……」
一途さを不憫に思ったクレールが彼女を抱きしめる。
「だから私たちが居るんだよ。安心して」
顔を上げ、年長二人へ視線をやる。
「ユズルさん、チアキさんも。こういうときこそ、ちゃんと休んでくださいね。先が見えないからこそ、体を、大事に」
「うんうん、それとね、暑すぎると集中も途切れやすいし、体にも悪いし」
ネムリア・ガウラ(ka4615)が言を引き継ぐ。
「着てるものが臭ってくると、周りの人が気が散るかもだし。水でも浴びておいでよ。体を清めてまた頑張ろうよ、えっと、なんだっけ」
「……禊」
「そう、それ」
ぶっきらぼうに答える尼崎に、ジュード・エアハート(ka0410)は苦笑をもらした。今日は染井吉野の舞う淡い桃の着物を着こみ、黒のロングウィッグをしゃなりと結い上げている。
(東方風の格好になってるかな? 非常事態だから大人も子どもも関係ないのかもしれないけど。それでも頼る人が居ないっていうのはきっと凄く不安なはずだから。少しでもあの子達の力になりたいな)
「せめて何かお食べ。おにぎりも味噌汁もおうどんもあるよ」
「それとも甘いものがいいのかな?」
いつのまにかやってきた詩が、お盆をちゃぶ台へ置き、年長達へ笑いかけた。
「鴻池君は糖水って知ってる?」
「たんすい?」
「はーい、これでーす」
詩は椀を差し出した。ザラメで味付けされたスープに蓮根が浮いている。
「食べれば思い当たるかもね。甘くてさっぱりしてるから飲みやすいし、子どもにもオススメ。蓮根は疲れによく利くし、甘いものは腹持ちがいいから、対戦時は先行で審査員へ出して満腹にさせるのがお約束だよ」
「どういうこと? 僕ぜんぜんわからないよ!」
「いいから食べてみてよ!」
妙に説明的なセリフを歯切れよくしゃべり、詩は椀を押し付けると障子の向こうへ声をかけた。
「アケミちゃんもおいでよ。おいしいよ?」
「甘いものはいいよね、ボクも大好きだよ。キミたちもどうだい? 張り詰めすぎたって、能率が落ちるだけさ。メリハリを大事にしなきゃね」
だばーっ。トミヲがちゃぶ台へお菓子の山を築いた。大人目線で言い含めた途端、うってかわってケーキを掲げる。
「そう! だからボクは食べる!! このデコレーションケーキ、一つはボク用だから! 一つと書いて一ホール! ウォオオオオオオ!」
つられてお菓子へ手を出したシロミツとクロミツが大きな瞳をまんまるにした。
「ケーキ!」
「ケーキちょうだい、もっと!」
「花籠パイもあるよ?」
「「ケーキがいい!」」
「なになに? 楽しそうなことしてるじゃん! あー、ごはん発見ー! 食べ放題? まじで? なにここ天国なの?」
小鳥遊 時雨(ka4921)が乱入してきた。いっしょになってお菓子を平らげていく。
「皆で千羽鶴折っちゃうようなノリだよね、戦場へ届けこの思いっ、てゆー」
甘いものでテンションがだだあがりしたシロミツとクロミツを、アオナがなだめる。二人はいやいやと首を振った。
「ハンターさんとあそぶー」
「あそぶのー」
「「あそぶー」」
ああこれは夜通し騒いだあげく明け方頃に電池が切れるやつだ。掃除をしていたラルがシロミツを抱き上げた。
「寝付くまでわたしが歌いましょうか、添い寝もしてあげるわ」
「うん、お姉ちゃんも故郷の子守唄、歌ってあげるからゆっくり、おやすみ」
クレールもクロミツの頭を撫で、アオナと手をつなぐ。ラルとクレールはそのままアオナたちを連れて畳の間を出て行った。アケミは障子の影に隠れたきり出てこない。こちらが近づくと、次の障子まで逃げていく。ジュードは思い当たった。
(怖がられているのかな。見知らぬ人が何人もやってきたから仕方ないね)
追うのを止め、マカロンやクッキーを山盛りにした皿を畳へ置く。
「皆頑張ってるよね、お疲れ様。俺たちも頑張るから頼りにしてね」
ふしぎなもので追わなくなるとアケミのほうから寄ってきた。着物が気を許すきっかけになったのだろうか。だんだん近づいてくるアケミへ、ちっちっと声をかけながら待ちの一手。やっとチョコ餅を渡せるまでになったとき、妙な達成感がジュードの胸に溢れた。アケミをおんぶして廊下を歩きながら、ジュードは聞いてみた。
「先生はどんな人?」
「つよい」
「つよいのかあ」
「つよいから、心配は、してない。ちょっとだけしか」
「大丈夫、皆で力を合わせればなんとかなるよ」
寝かしつけた彼女へ手を振ると、彼は神棚の間を目指し歩き出した。
「……負けられないね」
●護符に寄せて
休憩がてら、雪加(ka4924)は畳の間を歩き回っていた。天井まで積み上げられた札に瑠璃紺の瞳がまばたく。
「……君達が、こんなに作ったの? すごいなぁ……わたしとそう変わらないのに。わたしは、たたかうしか…できないから……」
語尾が小さくなる。こんな才能があれば、もっとスメラギ様のお役に立てるのかな……。
(私は私にできることをしよう……きっとそれが、彼の、みんなの役に立つ道だから……)
夜食のうどんを空にしてごちそうさまと手を合わせると、雪加は神棚の前へ戻っていく。冷えた板の間で、聞こえるのは仲間の衣擦れと己が鼓動だけ。
(……誰かを護るための護符、ですものね。大事です)
大事な家族、大事な友人、護りたい人……。一人ずつ思い浮かべて、想いを込め紙切れを護符へ転じる。
(たとえ、それが遠い願いだとしても……とどかないとは、思いたくないの……)
食べたら眠くなってきたのか、先ほどから鴻池は目をこすっている。札を切る手も止まりがちになっていた。向かいで時雨が指先を揉みながら言う。
「うはー、指先乾いてきた。パリパリ。ワセリンかなんかないの? 折り紙とかちょー得意な私でもこの量は予想外だよ、いったいどこの誰、こんなに注文したの? ってこれ私も受け取るんだっけ! ナントカは天下のまわり物ってことなのかな、ねえっ?」
「確かに、こりゃ……すごい量だ。ここまで、良く頑張ったな」
コーヒーをぐい飲みする時雨の隣で、火椎 帝(ka5027)がすなおな感想を述べ、年長の頭をぽんぽんと叩くように撫でた。
「ハンターのことを、思い出してくれて……頼ってくれて、ありがとな。これからは僕らも一緒に頑張るよ」
だからもう、不安な思いを抱かなくていい。プレッシャーに耐えなくていい。青い瞳にはそう浮かんでいた。
「休憩を勧めているのはね、甘やかしじゃないし、子ども扱いでもない。きみたちのマテリアルが枯渇しつつあるのが、僕らにも分かるからだ。このままじゃ倒れておしまいだ。けれど、回復したならまた続きが出来る」
にっと口の端をあげ、鴻池と尼崎に視線を合わせる。
「みんなと一緒に”頑張って”くれよ。しっかり納品して国をあっと言わせてやろーぜ」
「はいっ」
「……ああ」
ソーサーへカップを逆さにして伏せ、時雨もひよっこ符術師を元気付けようとする。
「やられたらやりかえそーよ、十倍返しーって。私なんか千羽鶴送られて万羽鶴折り返したことありますし? しかも独りで! 五日でっ! って、小鳥遊引くわーみたいな顔しないでー!? ぎゃーとらうまがー……」
「口もいいけれど手を動かそう」
「や、ごめんごめん帝ー。私、しゃべらないと死ぬ病気なんだよね。でも作業はがんばってるじゃん?」
ザレム・アズール(ka0878)が札の山へ目をやり、得心したようにうなずく。
「たぶん、一人一人が誰かの為に何かしようとする……それが力になっていくんだと思う。俺は……」
彼の脳裏を人影がよぎった。はかなく、けれど芯は強い、思い出に似た面差し。いつか再会したい、その人の影が。
口ごもったザレムを、興味深げに時雨がのぞきこむ。
「……秘密だ」
軽く笑い声を立てて追跡をかわすと、彼は懐から自分の四神護符をとりだした。
「うん。俺も前線に出る予定だよ。正面から歪虚王をひきつける部隊にね」
正直怖い、そう彼は口にした。
「そんな時、人って心のよりどころが有ると違うんだよ。これは俺の護符だ。もしかしたら君が作った護符かもしれないな」
鴻池はそれを受け取り、しみじみとながめた。
「僕達のではないけれど、一枚は友達が作ったやつだよ」
「わかるんだね」
「筆跡が出るから……」
押し黙ってしまった鴻池の肩を紅薔薇(ka4766)が優しく叩いた。
「ここに敵はおらんが、これも一つの戦いなのじゃ……。妾らと共にあるかぎり堂々としておられよ。……終わりが見えんがの」
最後は鴻池へ聞こえないように。紙の端を切り落としていた渉も相槌を打つ。
「あと何枚作ればいいか、は考えないほうが良さそうですね。作れるだけ作るのみです」
ひそひそとささやきあう二人の脇で、札の山へ手を伸ばした尼崎が揺らいだ。額には玉の汗が浮いている。ハッドが、ひょいと彼をかつぎあげた。
「強制連行ー」
「は、離せ、おろせ!」
「騒いでよいのか? 妹弟子たちは寝付いておるぞ」
ぐっと言葉に詰まった尼崎にハッドはからから笑うと、時雨の伏せたコーヒーカップを開いた。
「ほれ吉兆がでておるじゃろ。我輩らを呼ばわったからぞ。なんじゃコーヒー占いを知らんのか」
「鴻池殿も休む時分ぞ。無理が利くのは余裕のある時だけじゃ」
紅薔薇も鴻池を立たせた。年長二人を寝間まで送っていく。
ハンターだけになった大広間をイェルバートは見回した。
(年下がここまでやってくれたんだ、僕も負けていられないや)
ラルの掃除のおかげで床が見えてはいるものの、辺りは雑然と散らかっている。まずは点検前と点検後の札をきちんと分別するところから始めることにした。
「またごっちゃになってる。これじゃ間違いが起きても仕方がないや。整理整頓は工場の基本なんだよ。Uiscaさん、そっちは表。白龍さまを描くなら裏にして」
「あれ、表ってこっちじゃなかったっけ。なんだか描きたりないけど、まあいいか」
「手を入れた札は彼へ渡してよ。縁側へ並べにいくから」
イェルバートに促されたUisca Amhran(ka0754)は、トルステン=L=ユピテル(ka3946)へ自分の作った札を渡し、たいそうな仏頂面を拝む羽目になった。おそるおそる白龍さまサブレなど献上してみる。
「これ角が折れてる、やり直し」
「このくらい誤差の範囲かなって」
「んな顔すんなよ。慌てねーで丁寧にやりゃいーんだよ。一枚から加護があるそうだから、見た目も均一にしねーとな」
(……え。この護符、四神護符っていうくらいだから四枚一組で持つのが基本だと思ってた)
しゅんとしたUiscaの隣で、束を抱えたネムリアが頬をさする。
「えっと、それじゃ。お札にマテリアルを込める作業を手伝うね。胡坐で良いのかな? 形から入るのも大事?」
「人それぞれだそうだから、行って直接見るほうが早いんじゃねーか」
「わかりました。西方の巫女の力をお見せいたしましょうっ」
壁に貼った紙へ正の字を記し、廃棄分まで管理しているトルステンに言われては従わざるをえない。Uiscaとネムリアは元気よく返事をすると札の束を受け取った。
部屋に入ると、確かに皆思い思いの姿勢で集中していた。レオンのように正座している者、ジュードのように機導術を応用している者、帝やアズールのように尼崎たちのやり方を忠実に再現する者。手前ではクレールが札を剣のように神棚へ捧げている。
(神様、精霊様……。どうか友達を、皆を護ってください。皆で、笑いあいたいんです。私のマテリアル……届いて!)
真摯に祈りを捧げるクレールの横顔に、Uiscaはふと既視感を覚えた。
(なつかしい、なんだろうこの静謐さ。ああ……)
聖地だ。
遠い異国の地で、つかのま故郷を感じた彼女は、四神の描かれた札を手に取った。
(きっと白龍さまも私たちを守ってくださいます)
瞑想するUiscaの隣へ座り、ネムリアも札を抱きしめた。
(この札を持つ人が、無事でありますように。笑顔で戻れますように)
愛用の光斬刀を抜き、紅薔薇は細く息を吐いた。丹田へ集めた闘気を頭頂まで練り上げれば、あふれた力が彼女という龍脈を通り刀まで流れていく気がした。
(妾の刀は神社で祀られていた護神刀。幼き日より接してきた妾にはこの刀が補助具として最適じゃ)
完成した札を十枚ずつこよりで綴じ、それを百の束にして紙箱へ詰めていく。黙々と護符作りを続ける紅薔薇。だが、やはりマテリアルの放出を続ければ疲れがたまる。うしみつを越えたあたりから闘気を越えて殺気が混じりだした。
「ふふふ……これも憤怒の狐どものせいじゃな。妾の気持ちが通じるのなら、この護符はきっと良い物になるのじゃ」
「紅薔薇さん声出ちゃってるよ、あっ!」
ミコト=S=レグルス(ka3953)が七枚目の札を破いた。百面相をしながら緊張に汗ばんだ手で次の札を取る。
(えっと、えっと、この紙に念を…込める……。念…念……。力を込めすぎないようにしないと。じゃないとさっきの二の舞だし……慎重に、慎重に)
びりっ。
「あ゛っ」
ちょうどその時木戸が開いた。完成した護符を紅薔薇から受け取ったトルステンがミコトへ視線をやった。ミコトは青ざめ、破れた札をさっと後ろへ隠す。トルステンが押し殺した声を出した。
(……見せてみろ)
(ち、ちが、わざとじゃな……っ)
(もうお前触んな! 掃除でもしてろ!)
(じゃ、じゃま、してな…う、ううう…ご、ごめんなさい……)
(泣くことないだろ。そっちはいいから畳の間にこいよ)
ミコトはうんとうなずくとトルステンについていく。寝息の聞こえる部屋の前を通った時、トルステンは思った。
(ハァ……。あっちもこっちもガキばっかじゃねーか。保護者は何やって……って俺か。しょーがねーから手伝ってやる)
木戸をぴっちり閉めると、大広間の騒ぎがうそのように静かになった。誠の意味で扉は結界であろうと、柏木 千春(ka3061)は考えた。彼岸と此岸を、あちらとこちらを隔てるには薄い戸板で十分なのだと。そう思いたかった。
先に作業へ入っていたマリエル(ka0116)が、一枚目を終わらせて肩の力を抜く。複雑な思いを抱いたのか、自分の作った護符をじっと見つめている。千春はマリエルの対面で正座し、自分も同じ山から札を取った。四神の描かれた札を裏返すと、手書きの白龍が踊っている。片手で持ったそれを顔の前へ掲げ、利き手を翡翠のペンダントに添えると千春はまぶたを閉じた。
(この護符を持つ人が、無事でありますように。私の祈りが、少しでも加護の力となりますように)
ミルクティーみたいな髪が一房、白く染まる。淡い蛍火が札の周りでくるくると輪を描く。札の四神が淡く光った。千春はそれを隣の山へ重ね、次の札を手に取った。向かいではマリエルが懸命に札へマテリアルを込めている。彼女を盗み見ながら、千春は首もとの翡翠石をなでた。つるりとした冷たい感触が、胸の奥にひそむ不安をかき消してくれる気がした。
(おそらく別の戦場になってしまうと思うけれど、どうか彼女が無事でありますように)
札の山を挟んで二人の少女は、同じ考えを抱いていた。マリエルが新たな札を取りマテリアルを注ぐ。
(……ちーちゃん、私にここにいる意味を教えてくれた、大事なお友達)
護符へ込めるのは祈りと願い、そして慈母の如き想い。
一枚、また一枚と作業を続ける中、集中が途切れそうになり、正面の千春を見つめる。
(難しいのは分かってる、でもこれを持つ人が帰れますように。皆が無事で戻ってきますように……どうかちーちゃんも……)
ふと千春が集中をとき、二人の視線が合わさった。マリエルはにこりと微笑み、声は出さず口だけを動かした。
(がんばろう)
(がんばろうね)
ふふり。千春も笑う。マリエルが気恥ずかしげにまつげを伏せる。
目が合えば、それだけで伝わる想いを、人は絆と呼ぶ。互いに互いを思いながら、再び二人は静かな祈りへ沈んでいった。
●新たなる戦場へ
玄関先の荷車に護符が限界まで乗っている。畳の間はきれいさっぱりかたづき、平素の風情を取り戻していた。美沙樹は屋敷中へ呼びかけた。
「おはようございます皆さん、本日もよい天気です! 朝はやっぱりお魚ですね!」
ぱりっと焼けた魚が膳に乗っている。美沙樹が山盛りにした茶碗を皆へ配っていく。徹夜をしたハンターたちが生あくびしながら大広間へ集まった。壁にはハッド特製の、畳大の巨大な護符がある。青龍の代わりに白龍だったりするゆるい雰囲気の四神の絵を、パルムの足跡が縁取っていた。
「あら鴻池さんと尼崎さんはどちらへ? 今朝方護符作りをしていたのは見たのですけれど」
美沙樹が廊下をのぞいたのと、二人が盆を下げてやってきたのが同時だった。盆には水をいれた器が立ち並んでいる。
「泉の水だよ。来てくれてありがとう。助かったよ」
「いろいろと差し入れされたしな、礼だ」
妹弟子たちもぺこりと頭を下げると水を配りに散っていく。受け取った帝はひとりひとりの頭を撫でた。
「みんなよく頑張ったな」
「頑張ったね、えらいよ。ボクは働きすぎてなんだか胸痛がするけど」
トミヲが茶化す傍ら、ザレムは憂いを秘めたまま口を開いた。
「必ず生きて帰る……とは約束できない。けど首の皮一枚、俺たちの作った護符で命が繋がると信じられるなら……そう、信じさせてくれ。そして、俺たちを見送ってほしい」
「もし西方と自由に行き来できるようになったら、西方へも遊びに来てね。すてきなところなんだよ」
Uiscaが皆と指切りをする。それをまぶしげに見つめていた雪加がぽつりとこぼした。トミヲも自分の両頬を叩く。さて、決戦だ、と。
「……護らないと、ね。もっと、お話とかしたいもの」
「あの子たちの分も背負って頑張るよ」
「じゃ、祝勝会の準備よろしくー!」
「気が早くない?」
トミヲの一言に時雨は指を鳴らした。
「デザートがあるとないとじゃ大違いじゃん? フルコースまとめて食べちゃおうよ、腹が減っては、だもーん! いただきまーす!」
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/03 19:06:30 |
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護符作り準備室 トルステン=L=ユピテル(ka3946) 人間(リアルブルー)|18才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/08/03 23:05:22 |