ゲスト
(ka0000)
ジュランナと森の虚ろ
マスター:松尾京

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/07 19:00
- 完成日
- 2015/08/14 03:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ジェオルジにある、駐屯地の一つで――
陸軍の女性士官・ジュランナ少尉は、うつらうつらしながら、夢を見ていた。
若きジュランナは、想い人である青年、商家の息子フレデリコの家を訪ねている。
そしてフレデリコを前に、ジュランナは言う。
『フレデリコ。わたくし、あなたと付き合って差し上げてもよろしくてよ!』
『え……?』
困惑しているフレデリコに、ジュランナは興奮気味に続ける。
『あなたならまあ、家柄的にも釣り合いが取れてますし、イケメンですし……申し分ありませんわ。だからありがたく思いなさいな。わたくしの伴侶になれることを!』
裕福な家の出である上、学があり、美人。断られるはずもないと、ジュランナは自信満々だった。
だが、フレデリコは予想外の答えを発した。
『いやその……ごめん』
『え! ……何でですの!』
『何でって……そもそも僕、君とあんまり仲よくないよね?』
『え? いや……この前、わたくしの事を好きだと仰っていたじゃありませんの!』
『言ったことないよ。まぁ、美人だなとは言った気がするけど』
『それはもう告白と同義でしょ!』
『そんなわけないだろ……』
フレデリコは怖いものを見るような目で見たあと、決定的な言葉を放つ。
『というか僕、今恋人がいるから。アナベラ。彼女と付き合ってるから』
すると家の奥から一人の女性が出てきてフレデリコに並んだ。ジュランナは愕然とする。
『あ、あなた、時々フレデリコと一緒にいる乱暴女!?』
『乱暴女じゃなくて、彼女はハンターだよ』
『は、はんたー?』
『そう。暴れてるんじゃなくて仕事してるの』
『な、何にせよ、そんなわけのわからないことしてる女と、どーして! わたくしの方が家柄だっていいですわ!』
『家柄で恋人を決めるわけじゃないから』
ハンター女は、高価でも何でもない、粗野そうな服を着て――フレデリコに寄り添っていた。
そしてジュランナを一瞥して……『ぷ』と嘲笑を浴びせる。
「はぁッぁ!」
ジュランナはがばっと目を覚ました。椅子と机からばきがしゃんと転げ落ちて額を打つ。
「痛たた! ……あー、不愉快な夢ですわ」
額を押さえながら、立ち上がる。今一度思い出して椅子や戸棚を蹴り飛ばした。
すると後ろから……部下の男、レオン軍曹の冷静な声が響く。
「少尉。一応は備品ですので、そのくらいにしておきましょう」
「あぁん? わたくしがここで一番偉いからいいんですのよ!」
どすどすと蹴り続けるジュランナ。
一応注意はしたので、レオンは自分の書類整理に戻った。慣れているから、あとは放っておけば鎮まるのがわかっているのである。
その通り、ジュランナはすぐ飽きて部屋から出た。
だだっ広い村が見える。ここはその中にちょんと建つ、陸軍の駐屯地。
ジュランナ少尉は、ここで活動する陸軍の士官である。
といっても、のどかなジェオルジにおいては、陸軍は「駐在所のお巡りさん」のようなものである。ここでも、民家と変わらないような建物に……ジュランナ含めわずか三人の軍人が駐屯して、平和な日々を送っていた。
その三人目である、若い一般兵のロドリコが村から走ってきた。新人らしい動きでジュランナにびしと敬礼する。
「少尉! ご苦労様です。……えっと、その、聞きましたか?」
「何がですの」
「ゴブリンが出たという話です。何でも歪虚化しているそうで、山で目撃されたと」
「……歪虚! ゴブリン!」
言葉を聞くなり、ジュランナはがちゃがちゃと武器を準備しはじめる。
「これはチャンスですわ! 打って出ますわよ!」
ロドリコは、え? と混乱した。
「打って出るとは?」
「わたくし達でその歪虚をぐっちゃぐちゃにするのですわ! 久しぶりにハンターの面目をつぶすチャンスが来ましたわ! ほほほーほほ!」
「……相手は歪虚ですよ? 我々は覚醒者ではありませんし、ハンターに任せるのが吉なのでは……?」
「何言ってるんですの! ハンターに無駄足を踏ませてやるいい機会なのですわ! 今すぐ準備なさい!」
ロドリコがぽかんとしていると、レオンが出てきて肩に手をやる。
「ロドリコ。先々の為に注意しておこう。ジュランナ少尉は過去の男女トラブルからハンターに対抗心を燃やしている。軍人になったのもそのあたりが要因らしい」
「……は、……」
「だから、こういう事はまま起こる。ここに配属された以上、覚悟しておけ」
レオンの悟ったような言葉に、ロドリコはしばし何とも言えなかった。
「……では、本当に歪虚と戦いに行くのですか?」
「少尉である以上、命令は絶対だ。逃げるのは少尉が撤退命令を出したときだけだ」
「……」
「『行動力のある少尉だ』と思っておけ。それがチャームポイントだと」
すると銃を持ったジュランナが血走った目で出てきた。
「レオン軍曹! 歪虚を殺しに行きますわよ! 馬を出せい!」
「馬ですか。馬は新しい品種への入れ替えのため、今はおりませんよ」
「はあ!? 何でこの大事なときに! じゃー魔導トラックを出しなさい!」
「整備中です」
「あー! 何でですのよ! 移動手段を両方使えなくしてどうするんですの!」
「両方とも少尉のご命令で行ったことでしたが……」
「……じゃあバイクは! 魔導バイク!」
「そんなもの配備されていませんよ」
アァーッ!! と奇声を上げるジュランナ。
「どうするんですの! 見回りとは違うんですのよ! 徒歩はいやですわよ!」
「少尉が興味本位で購入なされた、自転車がありますが……」
「ええい、もうそれでよろしいですわ! 全軍出撃ですわよ!」
三人は自転車をこいで村道を進み始めた。
ぜーはーと息を上げながら、ロドリコは涙目だった。
「俺……ここでやっていけるのかな……」
「すぐに慣れる」
レオンは静かに答えた。
ハンターが依頼を受けて山に分け入ると……。
遠くに、『はんたーはくるな。しごとちゅう』と書かれている旗を掲げた軍人達が見えた。
厳密には旗を持っているのは一人だけである。
『ほーほほ! 対応の遅いハンターと、迅速に敵を殲滅した陸軍! イメージの差は歴然ですわ!』
歪虚がいるのに大声を張っているのがその本人だ。
どうやらハンターより先に歪虚を退治しようとしているらしい。
と、そこに、軍人三人のうち、比較的まともそうな男が足音を忍ばせて近づいてきた。
「すまない。足手まといになるだろうが我々はここを離れられない。少尉――あの彼女はかくかくしかじかの理由でハンターを逆恨みしているから……色々と注意して頂けると助かる」
そんなことを伝えてから、『レオンはどこですの!』と言う声が聞こえてくると、またすぐに戻って行った。
陸軍の女性士官・ジュランナ少尉は、うつらうつらしながら、夢を見ていた。
若きジュランナは、想い人である青年、商家の息子フレデリコの家を訪ねている。
そしてフレデリコを前に、ジュランナは言う。
『フレデリコ。わたくし、あなたと付き合って差し上げてもよろしくてよ!』
『え……?』
困惑しているフレデリコに、ジュランナは興奮気味に続ける。
『あなたならまあ、家柄的にも釣り合いが取れてますし、イケメンですし……申し分ありませんわ。だからありがたく思いなさいな。わたくしの伴侶になれることを!』
裕福な家の出である上、学があり、美人。断られるはずもないと、ジュランナは自信満々だった。
だが、フレデリコは予想外の答えを発した。
『いやその……ごめん』
『え! ……何でですの!』
『何でって……そもそも僕、君とあんまり仲よくないよね?』
『え? いや……この前、わたくしの事を好きだと仰っていたじゃありませんの!』
『言ったことないよ。まぁ、美人だなとは言った気がするけど』
『それはもう告白と同義でしょ!』
『そんなわけないだろ……』
フレデリコは怖いものを見るような目で見たあと、決定的な言葉を放つ。
『というか僕、今恋人がいるから。アナベラ。彼女と付き合ってるから』
すると家の奥から一人の女性が出てきてフレデリコに並んだ。ジュランナは愕然とする。
『あ、あなた、時々フレデリコと一緒にいる乱暴女!?』
『乱暴女じゃなくて、彼女はハンターだよ』
『は、はんたー?』
『そう。暴れてるんじゃなくて仕事してるの』
『な、何にせよ、そんなわけのわからないことしてる女と、どーして! わたくしの方が家柄だっていいですわ!』
『家柄で恋人を決めるわけじゃないから』
ハンター女は、高価でも何でもない、粗野そうな服を着て――フレデリコに寄り添っていた。
そしてジュランナを一瞥して……『ぷ』と嘲笑を浴びせる。
「はぁッぁ!」
ジュランナはがばっと目を覚ました。椅子と机からばきがしゃんと転げ落ちて額を打つ。
「痛たた! ……あー、不愉快な夢ですわ」
額を押さえながら、立ち上がる。今一度思い出して椅子や戸棚を蹴り飛ばした。
すると後ろから……部下の男、レオン軍曹の冷静な声が響く。
「少尉。一応は備品ですので、そのくらいにしておきましょう」
「あぁん? わたくしがここで一番偉いからいいんですのよ!」
どすどすと蹴り続けるジュランナ。
一応注意はしたので、レオンは自分の書類整理に戻った。慣れているから、あとは放っておけば鎮まるのがわかっているのである。
その通り、ジュランナはすぐ飽きて部屋から出た。
だだっ広い村が見える。ここはその中にちょんと建つ、陸軍の駐屯地。
ジュランナ少尉は、ここで活動する陸軍の士官である。
といっても、のどかなジェオルジにおいては、陸軍は「駐在所のお巡りさん」のようなものである。ここでも、民家と変わらないような建物に……ジュランナ含めわずか三人の軍人が駐屯して、平和な日々を送っていた。
その三人目である、若い一般兵のロドリコが村から走ってきた。新人らしい動きでジュランナにびしと敬礼する。
「少尉! ご苦労様です。……えっと、その、聞きましたか?」
「何がですの」
「ゴブリンが出たという話です。何でも歪虚化しているそうで、山で目撃されたと」
「……歪虚! ゴブリン!」
言葉を聞くなり、ジュランナはがちゃがちゃと武器を準備しはじめる。
「これはチャンスですわ! 打って出ますわよ!」
ロドリコは、え? と混乱した。
「打って出るとは?」
「わたくし達でその歪虚をぐっちゃぐちゃにするのですわ! 久しぶりにハンターの面目をつぶすチャンスが来ましたわ! ほほほーほほ!」
「……相手は歪虚ですよ? 我々は覚醒者ではありませんし、ハンターに任せるのが吉なのでは……?」
「何言ってるんですの! ハンターに無駄足を踏ませてやるいい機会なのですわ! 今すぐ準備なさい!」
ロドリコがぽかんとしていると、レオンが出てきて肩に手をやる。
「ロドリコ。先々の為に注意しておこう。ジュランナ少尉は過去の男女トラブルからハンターに対抗心を燃やしている。軍人になったのもそのあたりが要因らしい」
「……は、……」
「だから、こういう事はまま起こる。ここに配属された以上、覚悟しておけ」
レオンの悟ったような言葉に、ロドリコはしばし何とも言えなかった。
「……では、本当に歪虚と戦いに行くのですか?」
「少尉である以上、命令は絶対だ。逃げるのは少尉が撤退命令を出したときだけだ」
「……」
「『行動力のある少尉だ』と思っておけ。それがチャームポイントだと」
すると銃を持ったジュランナが血走った目で出てきた。
「レオン軍曹! 歪虚を殺しに行きますわよ! 馬を出せい!」
「馬ですか。馬は新しい品種への入れ替えのため、今はおりませんよ」
「はあ!? 何でこの大事なときに! じゃー魔導トラックを出しなさい!」
「整備中です」
「あー! 何でですのよ! 移動手段を両方使えなくしてどうするんですの!」
「両方とも少尉のご命令で行ったことでしたが……」
「……じゃあバイクは! 魔導バイク!」
「そんなもの配備されていませんよ」
アァーッ!! と奇声を上げるジュランナ。
「どうするんですの! 見回りとは違うんですのよ! 徒歩はいやですわよ!」
「少尉が興味本位で購入なされた、自転車がありますが……」
「ええい、もうそれでよろしいですわ! 全軍出撃ですわよ!」
三人は自転車をこいで村道を進み始めた。
ぜーはーと息を上げながら、ロドリコは涙目だった。
「俺……ここでやっていけるのかな……」
「すぐに慣れる」
レオンは静かに答えた。
ハンターが依頼を受けて山に分け入ると……。
遠くに、『はんたーはくるな。しごとちゅう』と書かれている旗を掲げた軍人達が見えた。
厳密には旗を持っているのは一人だけである。
『ほーほほ! 対応の遅いハンターと、迅速に敵を殲滅した陸軍! イメージの差は歴然ですわ!』
歪虚がいるのに大声を張っているのがその本人だ。
どうやらハンターより先に歪虚を退治しようとしているらしい。
と、そこに、軍人三人のうち、比較的まともそうな男が足音を忍ばせて近づいてきた。
「すまない。足手まといになるだろうが我々はここを離れられない。少尉――あの彼女はかくかくしかじかの理由でハンターを逆恨みしているから……色々と注意して頂けると助かる」
そんなことを伝えてから、『レオンはどこですの!』と言う声が聞こえてくると、またすぐに戻って行った。
リプレイ本文
●侵攻
「……あれで軍人なのか」
ヴァレル・ロエンローグ(ka2925)は旗を見て呟いている。
「俺の知識が間違っていなければ、戦場でああも大声を出す指揮官は――そう、『馬鹿』という存在だったな」
どーん、と真顔で言うヴァレルだが、状況を見ればそれは真理でもある。
ネイハム・乾風(ka2961)は退屈そうに言う。
「関わるのも面倒そうだけど……けがをさせたらさらに面倒そうだね」
「うむ、彼らを守りつつ事に当たるとしよう!」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は頷いて馬を北へ向ける。
「……じゃあ、あのひたすら面倒臭くも面倒臭そうな面倒臭い人達を対応してもらってる間に、こっちは正面から攻めようかな」
超級まりお(ka0824)が頬をぽりぽりとかきつつ言うと……それを合図に、ハンターは南北二手に分かれた。
バイクと馬を駆り、四人が北へ向かう。
カイン・マッコール(ka5336)は中途、西に目を向けた。
「ゴブリンです。こちらには気付いていないようですが――」
弓化ゴブリンが二匹、島の東端に見えていた。
視線の先は軍人達だ。
「……あそこから狙われたらよくないね……。先は任せるよ」
ネイハムは即断すると、止まってライフルの照準を除く。崖を挟んで弾幕を張り――弓化ゴブリン二体の行動を制した。
三人がその間に森を駆け……早々と、軍人達の前に到達した。
南側。フィリテ・ノート(ka0810)は身を低くして道を進行していた。
「今のところ、敵の姿は見えないようだけど……気をつけて行きましょ」
それにこくり、と頷くのは蒼綺 碧流(ka3373)。
「森から出てきたら、すぐに撃ち込んでやるのです……」
ペネレイトを構えながらも、フィリテと視界をカバーし合いながら歩む。
キアーラ(ka5327)は二人について進みながらも、口を動かし続けている。
「――強そうなおにーさん、おねーさんと一緒に楽に歪虚の死に様拝めると思ったら、変なのがいて面倒そうになったねぇ」
「……勝手に困りに行くような人たちは……知ら、ない、って言いたい、けど……皆も気にしてるから、わたしも……少し、だけ、頑張る……」
「――十分さ。ま、ボクとしては歪虚の崩れゆく様子が見られれば何でもいいんだけどね」
動いているのはキアーラの口だけ。だがキアーラは会話しているかのように、ぬいぐるみのグレゴリーと見合っていた。
と、北東で軍人とハンターが合流し、騒ぎになり出した。
伴って、島の森もがさがさと物音がして……杖化ゴブリンが一匹、南に出てきた。
「碧流、注意して」
フィリテは、アースウォールで防御壁を造り、碧流と共に戦闘態勢を作る。
同時、南の森で待機していたまりおが、島の森へと一気に駆け、突入した。
「さて――いってみようかな」
北東に意識を取られたゴブリンをすり抜け、弓化個体に肉迫。背後からスラッシュエッジを放った。
ギャアッ、とゴブリンは不意打ちにもんどり打つ。
剣化ゴブリンが接近して、剣を振ってくるが、まりおはひらりと躱す。
「おっと、もう気付いたの? でも、ボクはそう簡単にはやられないよ?」
――道の方では、碧流がペネレイトを杖化ゴブリンに向けている。あらかじめ、キアーラに施されていた運動強化で、狙いは確実。
「遠距離火砲支援……いくのです」
ぼっ、と防御壁の影からゴブリンの胸を狙撃。
たたらを踏むゴブリンに、キアーラも、グレゴリーから弾丸を発射。ゴブリンの脇腹の一部を、衝撃で消し飛ばした。
北東の崖。
ハンターを見て、ジュランナは声を上げて指を差す。
「ぬーっ! 現れましたわねハンター! 邪魔しに来るとはいい度胸!」
「邪魔も何も、依頼です。ゴブリンを殺しに来ただけですよ」
カインが冷静に言うが、嘘ですわ! とわめくジュランナ。
こうなったら邪魔される前に全軍前進ですわー! と走り出す。
だがそこで、ぼん、とヴァレルの作り出した土壁に阻まれて尻餅をついた。
「痛い……なんですのこれは!」
「壁だ」
「なるほど……ってそうじゃないですわよ!」
「やたらと前に出ようとするからだぞ」
ヴァレルの言葉にも、ジュランナは反抗するが――そこで、しゅうっ、と矢が空を裂く。
ひぃ、とジュランナが縮こまると……その矢を、ディアドラが盾で防いだ。
「軍人よ、今前に出ていたら危なかったぞ!」
「……むぐぐ」
ディアドラの言葉に、ジュランナは悔しげにうめいた。
●森の戦い
島の森では――攻撃された弓化ゴブリンが起き上がり、まりおに矢を撃っていた。しかし、まりおはそれも跳躍して回避。着地して弓化ゴブリンと向き合った。
「遠距離攻撃を持ってる敵は、倒しておきたいから――ねっ!」
軍人達の姿を頭によぎらせつつ――再びスラッシュエッジ。強烈な斬撃に悲鳴を上げるゴブリンだが……まだ倒れるには至らない。
「それにしても、腕が武器化して生活しづらいだろうに……」
まりおが言うと……ゴブリンは、むしろ弓を見せつけるようにする。よくはわからないが気に入っているらしい。アピールし終えると、今度は矢を掃射してきた。
「とと、厄介だけど、当たらないよっ」
まりおは木の陰に飛び、その攻撃もかすめるに留めていた。
南の道でも、杖化ゴブリンが体勢を立てなおして接近し、炎の塊を放ってきていた。
広範囲の炎――だが、フィリテと碧流は土壁でダメージを免れている。
「きゃっ……と、碧流、平気?」
「大丈夫なのです」
「キアーラさんは――」
キアーラは、射程ぎりぎりで炎の残滓を受けていた。だが体力はまだ残っている。
「……わたしは、大丈夫、です」
――そう、まだボクらは大丈夫。歪虚をやっつけてないんだからね――と、呟きながら、キアーラは杖化ゴブリンを銃撃。
次いで、フィリテがウォータシュートを撃ち込み――同時に碧流も狙撃をする。
強力なダメージ、だが――ゴブリンはまだ死ななかった。瀕死のていで、森へ逃げ込む。
三人は、それを追った。
北東。ジュランナが一瞬大人しくなったところで、ディアドラを先頭に進軍を開始していた。
が、間を置かずしてジュランナは、やっぱりハンターが前は嫌だと文句を言い出す。型の古い銃をぶんぶん振り回してきた。
「覚悟なさいハンター! こうなったら排除してやりますわー!」
「あまり邪魔すると馬に蹴られるから注意するのだぞ」
ディアドラが言うと、ヒヒンと馬が鳴く。ジュランナはまた、ひー! と飛びすさった。
「動物を使うのはずるいですわ!」
「そもそも何故こちらをこれほど嫌うのだ? 大王が気に入らないわけではないはずだが」
ディアドラの言葉にジュランナはきょとんとした。
「大王って何ですの」
「それはもちろん、ボクだ! 古の大王の生まれ変わりなのである!」
「な、何ですって……! だ、大王が何ですの! わたくしだって少尉ですわ! 偉いんですのよ!」
ジュランナが張り合っているうちに、ネイハムが合流した。やり取りを見て息をつく。
「……やっぱり面倒な人みたいだね……」
言いつつも、構えて発砲。凍てつく銃撃で、北に出ていた弓化ゴブリンの攻撃を阻止した。
次いで、カインもカービンで同個体を狙う。照準を、頭部に合わせた。
(――ゴブリンは殺すだけだ)
慈悲は与えない。カインは、違わず頭部を狙撃した。
倒れるゴブリンはそれでも、身じろぎしていたが……ヴァレルが放ったファイアアローがとどめを刺した。ヴァレルは冷静に観察する。
「もう二匹ほど出てきそうだな」
「ちょっと、わたくしを差し置いて何攻撃してるんですのー!」
「ならば、軍人達もどんどん戦えばいいのだ。数的にも有利であるぞ!」
ディアドラが言うと、ジュランナはむう、とうなりつつも、わかってますわ! と森に銃を向けた。
●挟撃
弓化ゴブリンと戦うまりおの元へ……再び、剣化ゴブリンが距離を詰めてきていた。
「ここで二対一はさすがにきついかな……っと」
まりおが一瞬後退しようとしたそのとき。剣化ゴブリンが横からの衝撃に転倒した。
「この距離なら、百発百中なのです……」
剣化ゴブリンを狙撃した碧流と、フィリテ、そしてキアーラが森に入ってきていた。
「ありがとう。そっちは無事?」
まりおの言葉に、三人は頷くと、周囲を見回す。
剣化ゴブリンは一度木々の奥に逃げてしまっていたが――瀕死の杖化ゴブリンの姿を捉えた。三人はまず、それを追った。
「じゃあ、こっちはこっちで片付けちゃおうかな」
まりおは弓化ゴブリンに向き直ると……ひと息に接近。
マテリアルを込めた苛烈な斬撃で、体を両断し――弓化ゴブリンを絶命、霧散させた。
一方、フィリテと碧流は、崖際に杖化ゴブリンを追い詰めていた。
「もう、逃げられないわよっ」
逃亡する機会をうかがうゴブリンに、フィリテはウォーターシュートを放つ。
当たれば助からない、が、ゴブリンはそれでも必死で真横に避けた。
しかしそれも予測済み。碧流がそこへ、銃口を向けていた。
「リテと一緒なら――不安はないのです」
銃弾に貫かれた杖化ゴブリンは、倒れると同時に消滅した。
キアーラは、その中途で剣化ゴブリンに道を阻まれていた。だが、剣での攻撃はうまく鎧で受け、浅く留めた。
遠くで響く軍人の声を聞きながら……グレゴリーを見つめて言葉を重ねる。
「――向こうは騒がしいみたいだね。このまま、ボクらの邪魔をしないでほしいね」
「そう、ね……わたシの、ボクらの邪魔は――させない」
歪虚への怒り、歪虚を倒す愉悦。全てをない交ぜに、キアーラは機導砲を放つ。至近からの一撃が、ゴブリンの剣化した腕を破壊した。
北側に、森を抜けた槍化ゴブリンが攻め込んできていた。
ディアドラが槍の一撃を盾で防御すると――その間、ジュランナは自前の銃でぱんぱんと槍化ゴブリンを狙撃している。
だが敵にダメージはない。キーッ、とジュランナはキレて、部下もろとも敵に突貫しようとした。
が、軍人達を、ばらららっ、とネイハムの制圧射撃が襲う。
「あばばばば! 何するんですの!!」
のたうち回りながら、ジュランナが訴えるが……ネイハムは変わらぬ調子で言うだけだ。
「直接撃ってはないから平気でしょ……」
「そーじゃなくて!」
「……必要な事だよ。前に出て死にたいならいいけどさ……」
ジュランナはそれでも、ぐぬぬと納得いっていないようだが……ぎぃん! と間近で槍化ゴブリンとカインが切り結ぶと、ひー! と距離を取った。
カインはちらとジュランナを見る。
「言い争いを続けている間に、敵が逃げて村に到達でもされれば、意味がありませんよ」
ジュランナはぐっと黙った。
カインは槍を弾くと……次いで繰り出される突き攻撃を、正面から踏み付けて封じる。そのまま盾で槍化ゴブリンを殴った。
ディアドラも挟み込むように、勢いを付けて同個体に騎士剣の斬撃を喰らわせる。
「……軍人なんでしょ。少尉だって言うならなおさら、それらしく指示でもしてくれないかな。こっちの行動をさ……」
ネイハムが言うと……ジュランナは微妙に喜色を浮かべ、腕を組んだ。
「ほ、ほほ! しょうがないですわね!」
そのとき、森から出てきていた杖化ゴブリンに――同じく森を抜けたまりおが、追いついていた。そのまま刀での強烈な斬撃を叩き込む。
「このまま挟み撃ちだねー」
まりおが言うのを聞いてからジュランナは指差した。
「あの杖のゴブリンを狙うのですわ!」
「そう言うなら仕方ない」
もとよりそのつもりだったヴァレルは、ほとんど同時にファイアアロー。
次いで、ネイハムも高加速射撃で撃ち抜き――短時間のうちに杖化個体を撃破した。
●決着
フィリテと碧流は、キアーラと共に剣化ゴブリンを前にしている。とはいえ、剣化ゴブリンは明らかに戦闘力を落としていた。
それでも、欠けた刃でがむしゃらに襲ってくるが――フィリテは既に正面にアースウォールを展開していた。
ゴブリンがそれで止まるわけではない、が。
「碧流、頼める?」
「言わずもがな、なのです」
ゴブリンが突きで土壁を破壊してきたところに――碧流が銃口を向けていた。
脇腹を狙撃。ゴブリンは倒れ込む。キアーラが、そこに立っていた。
「――さあ、イライラは、みぃんな歪虚にぶつけて、大好きな瞬間を堪能しよう」
グレゴリーによる銃撃。剣化ゴブリンは胸を貫かれ――崩れるように、消えた。
槍化ゴブリンの振り回し攻撃を、ディアドラとカインはまたも盾で防御していた。ディアドラが刺突で貫けば、ゴブリンの体力は底が見えている。
それでも襲ってくる槍化ゴブリンの懐に、カインは素速く入り込んでいた。
サポートに徹していてもよかったが……接近戦になるなら、応じるだけ。
どんな形であれ、敵となったゴブリンは、殺す。それがカインの為すことだった。
それは一瞬。カインが下方から突き上げたダガーが、ゴブリンの下顎を貫いた。
ギ、という声を漏らし、剣化ゴブリンは消滅した。
「さあ今度こそわたくしが活躍する番ですわー!」
北の敵がいなくなると、ジュランナは勢いづいて島へ突入したが……そこにいた碧流は、無表情に言うだけだった。
「もう敵はいないのです」
「えっ……」
戦闘後。
皆の前で、ジュランナはじたばた暴れていた。
「あー! 結局何もしてないですわ! ハンターに負けましたわー! もーいや!」
「いやさ……ハンター相手にハンターの得意分野で挑んでも。事情は知らないけど、こっちを凹ませたいなら勝機があることをやらないと」
まりおが少々呆れたように言うと、ぐぬぬぬと唸るジュランナ。
正論過ぎて全く反論できないのだった。
「とはいえ、何もしていないわけではないぞ。一緒に戦った仲だ。何より無事でよかったな!」
ディアドラが言うと……ヴァレルも頷く。
「少なくとも攻撃の手が増えたことには、感謝する。まあ面倒も増えたが」
そこにカインが、口を開く。
「コレは私的な感情ですけど、真っ先に来てくれたことには感謝しています。僕の村の時は誰も助けに来てくれなかったので」
一礼するカインに……ジュランナは鎮まっていた。
「お礼を、言われても……ど、どう反応すればいいかわかりませんわっ」
素直に感謝すればいいのでは、と部下の軍曹が進言すると……。
ジュランナは何かを思いつき、顔をぱっと明るくした。
「いいですわ! 歩み寄りの姿勢に免じて……あなたたちは、今日からわたくしのライバルと認めて差し上げますわ!」
意味がわからない、というハンターの表情も無視して、ジュランナは勝手に満足した。
「だから今日は一時休戦ですわ! 次は負けませんわ!」
そしてそのまま走り去り……あとに静けさが残った。
ハンターは一時、顔を見合わせたが……。
山には、平和が戻っていた。
先ずはそれで良しとして――皆は、山を下りたのだった。
「……あれで軍人なのか」
ヴァレル・ロエンローグ(ka2925)は旗を見て呟いている。
「俺の知識が間違っていなければ、戦場でああも大声を出す指揮官は――そう、『馬鹿』という存在だったな」
どーん、と真顔で言うヴァレルだが、状況を見ればそれは真理でもある。
ネイハム・乾風(ka2961)は退屈そうに言う。
「関わるのも面倒そうだけど……けがをさせたらさらに面倒そうだね」
「うむ、彼らを守りつつ事に当たるとしよう!」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は頷いて馬を北へ向ける。
「……じゃあ、あのひたすら面倒臭くも面倒臭そうな面倒臭い人達を対応してもらってる間に、こっちは正面から攻めようかな」
超級まりお(ka0824)が頬をぽりぽりとかきつつ言うと……それを合図に、ハンターは南北二手に分かれた。
バイクと馬を駆り、四人が北へ向かう。
カイン・マッコール(ka5336)は中途、西に目を向けた。
「ゴブリンです。こちらには気付いていないようですが――」
弓化ゴブリンが二匹、島の東端に見えていた。
視線の先は軍人達だ。
「……あそこから狙われたらよくないね……。先は任せるよ」
ネイハムは即断すると、止まってライフルの照準を除く。崖を挟んで弾幕を張り――弓化ゴブリン二体の行動を制した。
三人がその間に森を駆け……早々と、軍人達の前に到達した。
南側。フィリテ・ノート(ka0810)は身を低くして道を進行していた。
「今のところ、敵の姿は見えないようだけど……気をつけて行きましょ」
それにこくり、と頷くのは蒼綺 碧流(ka3373)。
「森から出てきたら、すぐに撃ち込んでやるのです……」
ペネレイトを構えながらも、フィリテと視界をカバーし合いながら歩む。
キアーラ(ka5327)は二人について進みながらも、口を動かし続けている。
「――強そうなおにーさん、おねーさんと一緒に楽に歪虚の死に様拝めると思ったら、変なのがいて面倒そうになったねぇ」
「……勝手に困りに行くような人たちは……知ら、ない、って言いたい、けど……皆も気にしてるから、わたしも……少し、だけ、頑張る……」
「――十分さ。ま、ボクとしては歪虚の崩れゆく様子が見られれば何でもいいんだけどね」
動いているのはキアーラの口だけ。だがキアーラは会話しているかのように、ぬいぐるみのグレゴリーと見合っていた。
と、北東で軍人とハンターが合流し、騒ぎになり出した。
伴って、島の森もがさがさと物音がして……杖化ゴブリンが一匹、南に出てきた。
「碧流、注意して」
フィリテは、アースウォールで防御壁を造り、碧流と共に戦闘態勢を作る。
同時、南の森で待機していたまりおが、島の森へと一気に駆け、突入した。
「さて――いってみようかな」
北東に意識を取られたゴブリンをすり抜け、弓化個体に肉迫。背後からスラッシュエッジを放った。
ギャアッ、とゴブリンは不意打ちにもんどり打つ。
剣化ゴブリンが接近して、剣を振ってくるが、まりおはひらりと躱す。
「おっと、もう気付いたの? でも、ボクはそう簡単にはやられないよ?」
――道の方では、碧流がペネレイトを杖化ゴブリンに向けている。あらかじめ、キアーラに施されていた運動強化で、狙いは確実。
「遠距離火砲支援……いくのです」
ぼっ、と防御壁の影からゴブリンの胸を狙撃。
たたらを踏むゴブリンに、キアーラも、グレゴリーから弾丸を発射。ゴブリンの脇腹の一部を、衝撃で消し飛ばした。
北東の崖。
ハンターを見て、ジュランナは声を上げて指を差す。
「ぬーっ! 現れましたわねハンター! 邪魔しに来るとはいい度胸!」
「邪魔も何も、依頼です。ゴブリンを殺しに来ただけですよ」
カインが冷静に言うが、嘘ですわ! とわめくジュランナ。
こうなったら邪魔される前に全軍前進ですわー! と走り出す。
だがそこで、ぼん、とヴァレルの作り出した土壁に阻まれて尻餅をついた。
「痛い……なんですのこれは!」
「壁だ」
「なるほど……ってそうじゃないですわよ!」
「やたらと前に出ようとするからだぞ」
ヴァレルの言葉にも、ジュランナは反抗するが――そこで、しゅうっ、と矢が空を裂く。
ひぃ、とジュランナが縮こまると……その矢を、ディアドラが盾で防いだ。
「軍人よ、今前に出ていたら危なかったぞ!」
「……むぐぐ」
ディアドラの言葉に、ジュランナは悔しげにうめいた。
●森の戦い
島の森では――攻撃された弓化ゴブリンが起き上がり、まりおに矢を撃っていた。しかし、まりおはそれも跳躍して回避。着地して弓化ゴブリンと向き合った。
「遠距離攻撃を持ってる敵は、倒しておきたいから――ねっ!」
軍人達の姿を頭によぎらせつつ――再びスラッシュエッジ。強烈な斬撃に悲鳴を上げるゴブリンだが……まだ倒れるには至らない。
「それにしても、腕が武器化して生活しづらいだろうに……」
まりおが言うと……ゴブリンは、むしろ弓を見せつけるようにする。よくはわからないが気に入っているらしい。アピールし終えると、今度は矢を掃射してきた。
「とと、厄介だけど、当たらないよっ」
まりおは木の陰に飛び、その攻撃もかすめるに留めていた。
南の道でも、杖化ゴブリンが体勢を立てなおして接近し、炎の塊を放ってきていた。
広範囲の炎――だが、フィリテと碧流は土壁でダメージを免れている。
「きゃっ……と、碧流、平気?」
「大丈夫なのです」
「キアーラさんは――」
キアーラは、射程ぎりぎりで炎の残滓を受けていた。だが体力はまだ残っている。
「……わたしは、大丈夫、です」
――そう、まだボクらは大丈夫。歪虚をやっつけてないんだからね――と、呟きながら、キアーラは杖化ゴブリンを銃撃。
次いで、フィリテがウォータシュートを撃ち込み――同時に碧流も狙撃をする。
強力なダメージ、だが――ゴブリンはまだ死ななかった。瀕死のていで、森へ逃げ込む。
三人は、それを追った。
北東。ジュランナが一瞬大人しくなったところで、ディアドラを先頭に進軍を開始していた。
が、間を置かずしてジュランナは、やっぱりハンターが前は嫌だと文句を言い出す。型の古い銃をぶんぶん振り回してきた。
「覚悟なさいハンター! こうなったら排除してやりますわー!」
「あまり邪魔すると馬に蹴られるから注意するのだぞ」
ディアドラが言うと、ヒヒンと馬が鳴く。ジュランナはまた、ひー! と飛びすさった。
「動物を使うのはずるいですわ!」
「そもそも何故こちらをこれほど嫌うのだ? 大王が気に入らないわけではないはずだが」
ディアドラの言葉にジュランナはきょとんとした。
「大王って何ですの」
「それはもちろん、ボクだ! 古の大王の生まれ変わりなのである!」
「な、何ですって……! だ、大王が何ですの! わたくしだって少尉ですわ! 偉いんですのよ!」
ジュランナが張り合っているうちに、ネイハムが合流した。やり取りを見て息をつく。
「……やっぱり面倒な人みたいだね……」
言いつつも、構えて発砲。凍てつく銃撃で、北に出ていた弓化ゴブリンの攻撃を阻止した。
次いで、カインもカービンで同個体を狙う。照準を、頭部に合わせた。
(――ゴブリンは殺すだけだ)
慈悲は与えない。カインは、違わず頭部を狙撃した。
倒れるゴブリンはそれでも、身じろぎしていたが……ヴァレルが放ったファイアアローがとどめを刺した。ヴァレルは冷静に観察する。
「もう二匹ほど出てきそうだな」
「ちょっと、わたくしを差し置いて何攻撃してるんですのー!」
「ならば、軍人達もどんどん戦えばいいのだ。数的にも有利であるぞ!」
ディアドラが言うと、ジュランナはむう、とうなりつつも、わかってますわ! と森に銃を向けた。
●挟撃
弓化ゴブリンと戦うまりおの元へ……再び、剣化ゴブリンが距離を詰めてきていた。
「ここで二対一はさすがにきついかな……っと」
まりおが一瞬後退しようとしたそのとき。剣化ゴブリンが横からの衝撃に転倒した。
「この距離なら、百発百中なのです……」
剣化ゴブリンを狙撃した碧流と、フィリテ、そしてキアーラが森に入ってきていた。
「ありがとう。そっちは無事?」
まりおの言葉に、三人は頷くと、周囲を見回す。
剣化ゴブリンは一度木々の奥に逃げてしまっていたが――瀕死の杖化ゴブリンの姿を捉えた。三人はまず、それを追った。
「じゃあ、こっちはこっちで片付けちゃおうかな」
まりおは弓化ゴブリンに向き直ると……ひと息に接近。
マテリアルを込めた苛烈な斬撃で、体を両断し――弓化ゴブリンを絶命、霧散させた。
一方、フィリテと碧流は、崖際に杖化ゴブリンを追い詰めていた。
「もう、逃げられないわよっ」
逃亡する機会をうかがうゴブリンに、フィリテはウォーターシュートを放つ。
当たれば助からない、が、ゴブリンはそれでも必死で真横に避けた。
しかしそれも予測済み。碧流がそこへ、銃口を向けていた。
「リテと一緒なら――不安はないのです」
銃弾に貫かれた杖化ゴブリンは、倒れると同時に消滅した。
キアーラは、その中途で剣化ゴブリンに道を阻まれていた。だが、剣での攻撃はうまく鎧で受け、浅く留めた。
遠くで響く軍人の声を聞きながら……グレゴリーを見つめて言葉を重ねる。
「――向こうは騒がしいみたいだね。このまま、ボクらの邪魔をしないでほしいね」
「そう、ね……わたシの、ボクらの邪魔は――させない」
歪虚への怒り、歪虚を倒す愉悦。全てをない交ぜに、キアーラは機導砲を放つ。至近からの一撃が、ゴブリンの剣化した腕を破壊した。
北側に、森を抜けた槍化ゴブリンが攻め込んできていた。
ディアドラが槍の一撃を盾で防御すると――その間、ジュランナは自前の銃でぱんぱんと槍化ゴブリンを狙撃している。
だが敵にダメージはない。キーッ、とジュランナはキレて、部下もろとも敵に突貫しようとした。
が、軍人達を、ばらららっ、とネイハムの制圧射撃が襲う。
「あばばばば! 何するんですの!!」
のたうち回りながら、ジュランナが訴えるが……ネイハムは変わらぬ調子で言うだけだ。
「直接撃ってはないから平気でしょ……」
「そーじゃなくて!」
「……必要な事だよ。前に出て死にたいならいいけどさ……」
ジュランナはそれでも、ぐぬぬと納得いっていないようだが……ぎぃん! と間近で槍化ゴブリンとカインが切り結ぶと、ひー! と距離を取った。
カインはちらとジュランナを見る。
「言い争いを続けている間に、敵が逃げて村に到達でもされれば、意味がありませんよ」
ジュランナはぐっと黙った。
カインは槍を弾くと……次いで繰り出される突き攻撃を、正面から踏み付けて封じる。そのまま盾で槍化ゴブリンを殴った。
ディアドラも挟み込むように、勢いを付けて同個体に騎士剣の斬撃を喰らわせる。
「……軍人なんでしょ。少尉だって言うならなおさら、それらしく指示でもしてくれないかな。こっちの行動をさ……」
ネイハムが言うと……ジュランナは微妙に喜色を浮かべ、腕を組んだ。
「ほ、ほほ! しょうがないですわね!」
そのとき、森から出てきていた杖化ゴブリンに――同じく森を抜けたまりおが、追いついていた。そのまま刀での強烈な斬撃を叩き込む。
「このまま挟み撃ちだねー」
まりおが言うのを聞いてからジュランナは指差した。
「あの杖のゴブリンを狙うのですわ!」
「そう言うなら仕方ない」
もとよりそのつもりだったヴァレルは、ほとんど同時にファイアアロー。
次いで、ネイハムも高加速射撃で撃ち抜き――短時間のうちに杖化個体を撃破した。
●決着
フィリテと碧流は、キアーラと共に剣化ゴブリンを前にしている。とはいえ、剣化ゴブリンは明らかに戦闘力を落としていた。
それでも、欠けた刃でがむしゃらに襲ってくるが――フィリテは既に正面にアースウォールを展開していた。
ゴブリンがそれで止まるわけではない、が。
「碧流、頼める?」
「言わずもがな、なのです」
ゴブリンが突きで土壁を破壊してきたところに――碧流が銃口を向けていた。
脇腹を狙撃。ゴブリンは倒れ込む。キアーラが、そこに立っていた。
「――さあ、イライラは、みぃんな歪虚にぶつけて、大好きな瞬間を堪能しよう」
グレゴリーによる銃撃。剣化ゴブリンは胸を貫かれ――崩れるように、消えた。
槍化ゴブリンの振り回し攻撃を、ディアドラとカインはまたも盾で防御していた。ディアドラが刺突で貫けば、ゴブリンの体力は底が見えている。
それでも襲ってくる槍化ゴブリンの懐に、カインは素速く入り込んでいた。
サポートに徹していてもよかったが……接近戦になるなら、応じるだけ。
どんな形であれ、敵となったゴブリンは、殺す。それがカインの為すことだった。
それは一瞬。カインが下方から突き上げたダガーが、ゴブリンの下顎を貫いた。
ギ、という声を漏らし、剣化ゴブリンは消滅した。
「さあ今度こそわたくしが活躍する番ですわー!」
北の敵がいなくなると、ジュランナは勢いづいて島へ突入したが……そこにいた碧流は、無表情に言うだけだった。
「もう敵はいないのです」
「えっ……」
戦闘後。
皆の前で、ジュランナはじたばた暴れていた。
「あー! 結局何もしてないですわ! ハンターに負けましたわー! もーいや!」
「いやさ……ハンター相手にハンターの得意分野で挑んでも。事情は知らないけど、こっちを凹ませたいなら勝機があることをやらないと」
まりおが少々呆れたように言うと、ぐぬぬぬと唸るジュランナ。
正論過ぎて全く反論できないのだった。
「とはいえ、何もしていないわけではないぞ。一緒に戦った仲だ。何より無事でよかったな!」
ディアドラが言うと……ヴァレルも頷く。
「少なくとも攻撃の手が増えたことには、感謝する。まあ面倒も増えたが」
そこにカインが、口を開く。
「コレは私的な感情ですけど、真っ先に来てくれたことには感謝しています。僕の村の時は誰も助けに来てくれなかったので」
一礼するカインに……ジュランナは鎮まっていた。
「お礼を、言われても……ど、どう反応すればいいかわかりませんわっ」
素直に感謝すればいいのでは、と部下の軍曹が進言すると……。
ジュランナは何かを思いつき、顔をぱっと明るくした。
「いいですわ! 歩み寄りの姿勢に免じて……あなたたちは、今日からわたくしのライバルと認めて差し上げますわ!」
意味がわからない、というハンターの表情も無視して、ジュランナは勝手に満足した。
「だから今日は一時休戦ですわ! 次は負けませんわ!」
そしてそのまま走り去り……あとに静けさが残った。
ハンターは一時、顔を見合わせたが……。
山には、平和が戻っていた。
先ずはそれで良しとして――皆は、山を下りたのだった。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 カイン・A・A・カーナボン(ka5336) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/08/07 10:27:00 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/05 00:05:50 |