• 東征

【東征】梓弓引かば帰る家捜し

マスター:狐野径

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/08/09 07:30
完成日
2015/08/15 11:51

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●死夢
「さらばだ」
 別れた鬼は幼子を背負った子どもの背を見送った。
 その鬼の背中は妖怪に負わされた傷で赤く染まっていた――かも知れなかった。

「姉上っ!」
 少女は従者と共に刃に切り裂かれて絶命した。

 分からない真実。
 知識を集めても真実にはたどり着かない。
 情報が欲しい、情報が。
 ――私はどうすればいいんだろうか?

●処遇
(私はどうして生きているのだろうか?)
 大江紅葉は同じ問いかけを何度もしていた。
 最愛の妹若葉と彼女について行った従者二人の弔いを行ってから時間は経つ。
 あの時の紅葉は居場所誰にも告げずに飛び出した上に、天ノ都の危機にいなかった。朝廷に仕える人間として不誠実とも疑惑も湧いておかしくはない。
 紅葉の釈明に同情する者もいれば、妖怪に与しようとしていると警戒する者もいた。どちらの言葉も紅葉は理解し、理解しなかった。
(なぜ生きているのかしら? もし、私が寝込んでいなくて、情報を先にてしていたらどうなっていたのかしら?)
 若葉が持ち歩いていた刀を紅葉は抱きしめる。
(結果倒した妖怪は鬼の監視だと聞いた……なら、私を奇妙な舞台に引っ張り上げたのは誰?)
 考えるふりをするがすぐにどうでもよくなる。
「ああ、若葉もオガツも……私を恨んでいる」
 耳をふさぎうずくまった。

●監視
 大江紅葉の監視に選ばれた武人・松永光頼。一言で言えば凡庸。見た目も悪くはないが、どうもぱっとしない青年だ。
 任務が監視とはいえ、もし紅葉が妖怪に与するそぶりを見せたら斬ることも含んでいると言う。
(彼女の行動はどちらにもとれるということか……)
 心の中は本人しか知らない。会ってみて考えればいいことだった。
 政府からの紅葉への命令書も持って、大江家に向かった。
 大江家の家令は疲れた顔をしている。主を心配しているのが伝わる。
 拒否されるかと思ったが、あっさりと紅葉と会うことを認めてくれた。戸越に声をかけても返答がないので、光頼は勝手に開けた。
 薄暗い部屋の中に、焚き染めた香が充満していた。術者である彼女が使っていると反魂香が存在していたのかと思わず想像してしまう。
「失礼」
 光頼はすべてにふすまを開けはなった。
「何をするの!」
 紅葉は目をぎらぎらさせて怒るが動かない。
「匂いがきつすぎますので」
「……勝手にやってきて何? ひょっとして私の首が飛ぶのかしら?」
 紅葉のささくれ立った心が見える。
 家令はあわてて紅葉に泣きつき、光頼に謝罪する。
「これが朝廷からの親書です」
 紅葉は怯える幼子のように、恐る恐る受け取る。すっと紐を解いて文机でさっと読んだ。
「……私が行かなきゃダメなの?」
「大江殿、何が書いてあるか知りませんが、力を持つなら、あなたと同じような人を作らないために……」
「勝手なことを言わないで」
 紅葉は絶叫して、文机から札をバラリと散らした。
「ええ、勝手なことですよ。貴方ではないので気持ちは察するしかありません」
 冷静な声で光頼はいう。
「立つこともままならないとは……お食事は?」
「……食べたくありません」
「食べてください」
「……あなたに命令されないといけないの!」
「朝廷の仕事をするなら、間違ったことを申してはいないはずです」
 真っ直ぐに告げるしかない。聡明な女性で、感情的になっているだけなのだから。
「死にたいなら一人で死ねばいい。任務を受けるなら、巻き込まれるヒトがいるんだ」
 厳しいことを言う。今回はハンターに頼っている行動の一部を。
「……生きる気はあるんでしょう?」
 紅葉の頬を涙が伝った。

●襲撃
「早く、行くよ」
「ふええええんん」
 少女は泣き始めた妹の口を手でふさぎ、物陰に隠れる。
 妖怪の襲撃があったのはつい先ほどだ。もう少し都が近い所に移動するか、兵士を派遣してもらうかなど大人たちが話しているときだった。
 小さい姉は怖かった。自分だって泣き出したかった。
 ここで泣いてしまったら自分も妹も助からない。
 妖怪が見えないことを確認して、集落の外に出た。壊れた門には幸い何もいなかった。
 悲鳴や戦う音がするため集落の中に妖怪はいると考える。
 隣の集落に助けを求めよう。
 少女はしがみつく妹をおぶって走り出すが、9歳が3歳を背負うだけでも辛い。歩き続けるのもやっとだった。
 疲れて、茂みに隠れる。
 まだ、それほど走っていない。
(随分走ったのに)
 妹を置いて逃げることも考える。この茂みの中ならすぐに見つからないだろうし。
 下してもしがみついている妹はこのことが分かっているのかもしれない。
 忌々しいと思うが、見捨てることはできない。
「泣かないのよ?」
 妹はうなずいた。
 少しは走れそうな妹の手を引いて進んだ。一歩でも、二歩でも隣の集落に近づくために。
 集落の方を見ると、一匹の妖怪が舌なめずりしてこちらを見ていた。

●直感
「大江殿、そんなに早くいかれては」
 集落が近くなってきて、紅葉は馬を速めた。ハンターが抜かれる事態となり、光頼が慌てた。
「嫌な予感がするんです」
 本気で怯えている様子の紅葉の直感を信じるならば、急いだ方がいい。まだ距離はあるので、集落の側で再び策を講じればいいのだ。
 角を曲がって一行は目にする。少女と子、そして妖怪を。
 紅葉は弓をつがえた――。

リプレイ本文

●速力
「大江さん、わたしたちに任せてください」
 矢をつがえかけた紅葉をメトロノーム・ソングライト(ka1267)は止めた。道中で見た紅葉の乗馬技術では難しい技能だ。下手をすれば子どもたちに当てる。メトロノームは馬を走らせ、妖怪にウィンドスラッシュを威嚇を込めて振るう。
「おい、こっちだ」
 バイクで追い抜いた龍崎・カズマ(ka0178)は妖怪の気を逸らすためにカードを投げる。すっと飛んだそれは妖怪を斬りつけた。
「直感が外れるなら良いですが、まずは急ぎましょう」
 ミオレスカ(ka3496)は柔らかい表情を引き締め、銃をいつでも抜けるようにして馬で駆け抜ける。
「ここは私達が引き受けます」
 麗奈 三春(ka4744)は応えて妖怪と子らの間に馬を止めた。その瞬間、後ろに乗っていたブラウ(ka4809)がひらりと下りる。
「妖怪ね……、どんな血を流すのかしら?」
 期待に恍惚としたブラウは刀の柄に触れ、臨戦態勢を整える。
「村を焼かれたときと思い出す……」
 キャリコ・ビューイ(ka5044)は馬の速度を上げた紅葉に驚きを持っていたが、状況が分かって焦燥が増す。
「集落が心配です、急ぎましょう」
 Hollow(ka4450)は急ぎながらも、追い抜きざまに妖怪に銃弾を叩きこむ。
「……俺も村に向かう。ここは任せた」
 三條 時澄(ka4759)は三春がうなずいたのを見て、先に進んだ。

 ハンターたちの決断・行動の速さに、紅葉は呆然とするばかりだった。
「大江殿、あなたは馬にしがみつくか下りるかしてください!」
 光頼の言葉に紅葉は我に返った。

●模糊
 門にたどり着いたハンターは門の側に人間の死体と鋤や鎌を見つける。門の脇に小さな畑があるため、出入りが頻繁だったのかもしれない。
 悲鳴や戦う音がするので奥に生存者はいる。
「行きましょう」
 ミオレスカが促した。
「分かれますか?」
 メトロノームは尋ねる。
「地理を知らないのですから、やめましょう」
 Hollowが告げ、馬を集落の中に入れた。
 カズマは息を吸うと腹の底から声を出した。
「朝廷の命により、救助に参った」
 シンと一度沈黙が広がる。第三者の介入を集落の人間に告げ、妖怪にも告げる。後者は言葉が通じないだろうが、気迫で押せればいい。バイクの音も響き、ちょうどいい威嚇である。
「行こう」
 時澄は下馬して走り出す。
 キャリコも下馬し、遮蔽物に目を走らせながら続いたが、家屋から音がしたため扉越しに声を掛けた。
「ほ、本当に朝廷の人?」
 中からおずおずと女性の声がする。
「ああ」
「倉庫に多分、皆いるの」
 女性は告げる。
「倉庫まで案内してもらえないか? その方があんたも守れるし、我々も早く着ける」
 カズマの言葉の後ためらいの間が生じる。扉が開き、子どもを抱えた女性が現れた。怯えているが、ハンターを見て安堵した様子になる。
「あちらです」
 女性を時澄とキャリコが側に寄り、守りながら進む。
 カズマ、Hollwが先行し、ミオレスカとメトロノームも中衛という位置で周囲と集落の女性を守るように進む。
 いくつかの動物を組み合わせたような、妖怪が幾匹かやってくる。女性に攻撃が来る前に、ハンターたちは確実に倒した。
 最初は怯えていた女性も「守ってもらえる」という確信を得て、足を速めた。
 高床式の倉庫がある場所に来た。周囲は集落の人間が集まれるようなスペースもあるが、今は小物の妖怪が集まっている。
 倉庫の入口では、手に武器となる農作業道具や粗末な槍を持って戦う大人の姿が見える。
「あなた方の相手は私達です」
 ミオレスカの銃が妖怪を撃つ。
「おとなしく、消えろ」
 カズマはカードにマテリアルを込め放ち、複数の妖怪を狙った。
 弱っている妖怪を瞬時に判断しメトロノームはファイアアローを放った。
 Hollowはマテリアルを活性化し、妖怪に向かってデルタレイを放つ。
 数が減ってきたところに、時澄とキャリコが女性をかばいつつ倉庫に向かう。
「ここの中に他の人もいるのか?」
 早口に尋ねる時澄に入口を守っていた男はうなずいた。うなずく彼も動けるが怪我もひどい。他の者たちも同様だ。
「あとは任せて、いったん傷の手当てを」
 女性と子どもを中に預けた後、時澄とキャリコも戦いに加わる。
「ここを拠点に分散しよう」
 別のところからも音がしているため、カズマの提案後、素早く分担を行う。
 カズマとHollowはバイクと戦馬のまま奥にいるだろう人間を助けに向かう。ミオレスカとメトロノームがここに残り近寄る妖怪を狙い、時澄とキャリコがそれらの間位を縫うように進む。

 追い抜きざまに妖怪を攻撃してくれたおかげもあり、三春とブラウは苦労せず妖怪を倒した。
「リンゴのパイよ。リンゴは好きかしら」
 ブラウは戦いに物足りなさを感じつつも、子らに声を掛ける。荷物から取り出して屈む。
 姉にしがみついた幼い子が甘酸っぱい香りに反応し、きょろきょろしている。
「駄目だよ……それよりも集落が」
 姉の方もごくりと唾を飲みつつも、重要なことを先にしないといけないという使命で告げる。
「それなら、仲間が行っていますから、大丈夫ですよ」
 三春は少女に笑いかける、少しでも安堵してもらいたいから。
「ちょっと食べて待ってて、見て来るから」
 ブラウは周囲の警戒に向かう。この子らをとどめるか、集落で避難できる所に連れて行くか判断するには、状況確認が必要だ。
 集落の所から漂う血臭に、早く自分も加わりたい心が躍る。
「今の所、近くに妖怪はいないようよ」
 戻ってきたブラウは三春に尋ねつつ、紅葉にも目を向ける。
「ここでじっとするより、私共もついております、一緒に集落へ戻りませんか?」
 三春の提案に少女は躊躇した。
「中に入らずとも、仲間がいるところの方が確実にあなた方も守れます」
 少女はうなずいた。リンゴパイを食べて満足した妹は姉にしがみついて微笑む。
「行きましょう」
 ブラウはそわそわしながら歩き出した。

 子らの年齢は十三年前の自分と妹を思い起こさせる。
 紅葉は何をしていいのか分からず、後を付いていく。戦えばいいのか、あの子を抱きかかえてあげればいいのか、それとも別の何かできることがあるのか。

●皮肉
 集落に着いた三春とブラウは、用心して中に足を踏みいれた。
 入口の外に仲間の馬もあるので、そこで待機するのも手であるが、仲間と合流したほうがいい。
 入口に死体もあるため、少女の足がさすがに止まった。
 馬から下りた紅葉は近寄り、震える手で少女に触れる。
「私にしがみつくと良いでしょう。みなさんはどこにいるか分かりますか?」
「……倉庫」
「集落の中央ですか」
 少女はうなずいた。
 三春は刀に手を当て、進む準備をする。
「紅葉、方向は分かりますか?」
「はい。作りは同じでしょうから行けます」
 迷った場合は妖怪の攻撃を余分に受けるだけだろう。狭い集落だらから、いずれはたどり着く。
 紅葉は狩衣の袖で少女を隠すように腕に抱く、なるべく見たくないものを見ないで済むように。
「いいにおい」
 衣に焚き染めた香は好評で幼子が頬ずりをし、姉がうなずくのを紅葉は感じた。
「守って下さるかは松永殿……善意にお任せいたします」
 皮肉な言い方に光頼は驚いたが、口元が緩んだ。
「あなたが守るべき民を連れているのですから守らないわけにはいきません」
 くすりと紅葉が笑ったようだった。
「行きましょう」
「そうです、もっと妖怪を嗅ぎ殺したい」
 三春とブラウの声が重なり、歩みを促した。

 反対側の門まで行ったカズマとHollow。途中、怪我で動けない人を発見する。妖怪を倒し、一度彼らを乗り物に乗せて戻ることとする。
「こっちの門は閉まっているのか」
「そうですね……塀を越えて来たなら高さが足りないという問題ですね」
 ここにいる妖怪は羽根があるわけではない。跳躍したのかもしれないが。
 二人は戻る足を止める。怪我人をそれぞれ載せているため押して歩く、または手綱を引いている状態だった。
「トラ?」
「尻尾は蛇みたいだな」
 これまで見た妖怪と明らかに違う。
 Hollowとカズマはそれぞれ乗ると、怪我人に「揺れる事」を忠告し、落とさないように拠点へ急いだ。

 時澄とキャリコは歩きながら逃げ遅れた人を探しつつ、妖怪を退治する。
 確実とスピードを考え、技は惜しみなく使う。
「こちらの方はもういないのか?」
 時澄は気配を探る。
「一旦戻ろう」
 キャリコが提案した。視線は建物の陰から現れたトラの姿をした妖怪に向かう。
 二人で退治をするには荷が重い気配が伝わる。拠点には仲間もいるが守るべき人たちもいる。
 危険よりも、仲間と共に手早く倒すことを選ぶ。倒してしまえば危険はなくなるのだから。

 逃げてくる人、追いかける妖怪。
 ミオレスカとメトロノームは、角から飛び出すものを瞬時に判断して攻守を決める。小物ばかりとはいえ、油断はならない。
「怪我をしている人の手当もままならないですね」
「そうですね」
 神経は擦り減る。広い集落ではないため、逃げ切れていない人や妖怪もそろそろいないとは思いたかった。
 バイクの音が近付く。転がりそうな勢いで倉庫の入口で止まり、カズマが怪我人を集落の人に預ける。
「大物が来る」
 Hollowが同じく、倉庫の人に怪我人を預ける。
「みなさん手を貸してください」
 時澄の声と共にキャリコも、小さな広場に入ってくる。
 短く情報を交換した後痛感したのは「手が足りない」こと。戦って勝てるだろうが、その間に小物が倉庫に来たらひとたまりもない。悩む時間もほとんどない。
「お待たせいたしました」
 三春が声を掛けた。
「これから本番かしら?」
 ブラウは仲間を見渡す。
「ここは私が守ります」
 紅葉は少女と幼子を倉庫にいる大人に引き渡し、階段の下で刀を抜いた。

●一挙に
 妖怪たちを倉庫に近付けないよう、それでも互いに攻撃ができるように場所を選ぶ。
 二方向から現れたトラの姿をした妖怪。妖気と称すにふさわしいくらい、負のマテリアルを噴き上げる。
 カズマとブラウ、三春と時澄という組み合わせで前衛は構える。
 ミオレスカ、メトロノームそしてキャリコが、中衛というような位置から妖怪をうかがう。銃を構えまたは魔法を使える準備を始める。
 仲間の防御や攻撃に力を与えられる魔法を持つHollowは行動を起こしている。
 トラの姿をした妖怪が物理的な攻撃ばかりか不明だ。しっぽの蛇が威嚇するようにハンターを見つめ、トラも考えるように見ている。
 獣たちの吠え声が重なる。妖怪たちは互いが見えないだろうが、同時に魔法を放ってきた。風の刃が一つは失敗したのかどこかへ消え、一つはカズマを斬る。
「獲物を奪ったと怒っているのか」
 近くにいても遠くにいても同じなら、一気に近づく。
「援護します」
 ミオレスカは弾丸にマテリアルを込め、射出する。三春と時澄が接敵するため走った。援護するキャリコの銃弾が妖怪をかすめる。
 メトロノームのファイアアローが飛んだ瞬間、カズマとブラウが走る。Hollowは確実に前衛のために魔法を使っていく。
 妖怪たちは目の前に来た人間に怒りを感じる。抵抗するモノをなぶるのは楽しいが、向かってくる物には腹立つ。
 尻尾の蛇がブラウに噛みつく。
「くぅ」
 腕をかまれた瞬間、痛み以外にしびれを感じた、幸いすぐにそれはひいたが。
「あら……尻尾は危険なのね」
「なら、早く倒す」
 カズマが振動刀を振るう。魔法が追加されているためか、いつもより鋭い感覚があった。
「なら、こちらも」
 メトロノームとHollowの魔法が追撃する。
「ようやく、この時が来たわ。優しく嗅ぎ殺してあげる」
 ブラウの鋭い一撃が妖怪を一匹を葬り去る。
 もう一体の妖怪は三春に攻撃をしている。鋭い爪が脳に振り下ろされていた。
「のんびりしていられません」
 ミオレスカ、三春の攻撃がたたきこまれる。
「これ以上、動き回るな」
 時澄が振るった刀が妖怪を斬る。
「これで終われ」
 キャリコのマテリアルを込めた攻撃が突き抜け、妖怪は消え去った。

●願い
 カズマとミオレスカが応急手当てを行う。ブラウもいたが、ひと段落ついたので荷物を持って子どもたちの方に向かって行った。
 カズマは妖怪の侵入について考えていた。
 集落の人の話を聞き、防ぐのが難しい現実がそこにあった。
「畑の出入りを狙われたわけか」
「柵の中に畑を作るなら、広い場所が必要です」
 ミオレスカは溜息をもらした。

 妖精のアリスを見みせて小さい子を和ませつつ、治療や状況把握の手伝いをするメトロノーム。幸い、小さい子らは大人に守られてかすり傷くらいで済んでいる。
「あのお姉さんが良い物くれるらしいですよ」
 メトロノームに指摘されて子どもたちはそちらを見る。リンゴのパイを取り出したブラウにくぎつけだ。
「たくさんあるから」
 子供たちは見慣れない食べ物に緊張しつつも、匂いにつられて一気に口に放り込んだ。

 Hollowと時澄は集落を見て回り、動けない人がいないか確認に向かう。妖怪がいた場合も考えまとまって行動した。
「やはりこちらの門はしまってますし、壁も問題ないですね」
 Hollowは妖怪が飛び越えたことも考えたが特にないようだ。
「集落の人は別の所に行くか、ここにとどまるか」
 時澄は寂しそうに見る。決めるのは当事者たちであるが土地を捨てる状況は辛い。

 ぼんやりと人々の動きを眺める紅葉は現実という認識が薄かった。
「紅葉……少しいいか?」
「なんでしょうか?」
 紅葉の顔がキャリコに向く。
「一度雇ったハンターの事は覚えてないかも知れないが……以前、同行した人が俺の友人で、紅葉のことを心配していた」
 名前を聞いた瞬間、紅葉はうなずいた。
「その方にも迷惑を掛けました。皆様にも……」
「違うはずだ、迷惑とは」
 キャリコはすぐに良い言葉が見つからなかった。
「どうか、なさいましたか?」
 三春の声に紅葉は首を横に振るが、疲労の濃い顔に意地悪そうな表情を浮かべた。
「私は……私も……」
「……え?」
 三春が聞き返した瞬間、紅葉は曖昧に笑った。
「皆さん、ありがとうございます」
 紅葉の礼は小さい声で、そばにいる三春とキャリコにしか残念ながら聞こえない。
 三春は今日の行動が、明るい日のための一歩になればいいと願わずにいられなかった。

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参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 復興の一歩をもたらした者
    Hollow(ka4450
    人間(紅)|17才|女性|機導師
  • 戦場の舞刀姫
    麗奈 三春(ka4744
    人間(紅)|27才|女性|舞刀士
  • 九代目詩天の信拠
    三條 時澄(ka4759
    人間(紅)|28才|男性|舞刀士
  • 背徳の馨香
    ブラウ(ka4809
    ドワーフ|11才|女性|舞刀士
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓です
メトロノーム・ソングライト(ka1267
エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/08/08 20:53:51
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/05 00:07:48