ゲスト
(ka0000)
霧の先に浮かぶ何か
マスター:植田誠

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/17 07:30
- 完成日
- 2015/08/25 14:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「怪我の方はどうだい?」
「あぁ、問題ねぇよ。いつでも戦えるぜ」
「と言っても、しばらくは通常任務が主体になるけどね」
グライシュタットは南部国境要塞の師団長室。先日ブルーネンフーフにおける戦闘から帰還したロルフ・シュトライトとオットー・アルトリンゲン兵長が話をしていた。
二人の言う通り、彼らは当面通常任務に就くことになる。現在大きな戦場となっているのは東方の地。そちらにはサラ・グリューネマン兵長がおり、当地での支援任務などに当たっている。
「……そういや、最近ウェルナーのおっさんがいないみてぇだけどどうしたんだ?」
「あぁ、ウェルナーはちょっと特別な任務に……」
「特別!? ひょっとしてフリッツの追撃とかか!? それこそ俺にやらしてくれよ団長!」
「いやいや、ウェルナーに頼んでるのはそういう類のものじゃないんだ」
怪我が完治したばかりだというのに随分元気だ、等とロルフは思いつつそれを宥める。
「第一、あの様子じゃしばらくフリッツは姿を見せないんじゃないかな? 多分怪我が治るまではどこかに引きこもって出てこないはず……まぁ当分は安心してていいはずさ」
安心してていいはず……と、自分で言ったのはいいが、本当はそうでもない。フリッツを救いにきたのは間違いなくレオン・シュナイダー前副師団長だ。顔を包帯でくるんでいてはっきりとは見えないが、雰囲気で分かる。恐らくはフリッツの代わりに今後前線に出てくるのはレオンだろう。警戒を強める必要がある。
「それで、特別任務ってのは一体なんなんだよ」
「ん~……まぁいいか。これをちょっと見てくれるかい?」
食い下がるオットーに、ロルフは一枚の海図を差し出した。
「帝国東部近海の海図だ」
「んなの見りゃ分かるけど……ん? ここに書かれてる円はなんだ? この辺りには島も何もなさそうだけど……」
「じゃあこっちも見てくれ。陛下からの手紙だ」
続いて渡した手紙……皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲルからの親書だ。
尤も、内容的には半分以上どうでもいい世間話だったわけだが。要点としては……
『この辺りを調べるとヒンメルリッターにとってすごく良いことがあるので調べてみると良いんじゃないかな』
と、こういうことのようだ。
「オットーはこういう調査みたいなのは苦手だろ? だからウェルナーに頼んだんだ」
「確かに……これなら通常任務の方がマシだぜ……」
「そういうことだ。それじゃ、仕事もたくさんあるんだからしっかり頼むよ」
「へいへい。了解しましたよっと」
そう言って部屋を出ていくオットー。残されたロルフは親書と海図に目を落とし一人考える。
「……果たして、これは本当に陛下の指示なのだろうか」
確かにヴィルヘルミナは自由奔放。しょっちゅう帝都を抜け出しているそうだ。だが、一つの場所で長い調査を続けるという話もまた聞いたことは無い。
「なにも無い海の一定範囲まで当たりを付けるぐらいだからここに何かあるのは間違いない。が、そこまで絞る程の滞在時間があったのか……」
そう考えると、これはヴィルヘルミナによるものでは無いのでは……であれば誰の指示か。いや、それにもロルフは思い当たる節がある。
「……絶火隊が動いてるのか?」
だが、その呟きに対する回答を返してくれるものは誰もいなかった。
●
帝国東部海上に浮かぶ一隻の比較的大型の船。そこには第5師団から派遣されてきたウェルナー・ブラウヒッチの姿があった。
「かれこれ1か月、か……」
ウェルナーの言葉通り、調査を始めて1か月程経っている。サラなどがこの任務に当たっていたら早々に「時間の無駄です」と帰ってきていたかもしれない。もっとも、時間がかかるのも当然だ。第5師団は空が専門。ベテランであっても海の調査等したことは無い。
唯一の救いはそれが恐らくは海の上にあるだろうということだ。第5師団が調査を行うということは間違いなくグリフォンが関係してくることであり、グリフォンは海に潜るような幻獣ではないからだ。
「第4師団辺りに支援要請でも出せればよかったのだが……まぁ言っても仕方ないか」
第4師団は海に強い師団だ。当然海上調査もお手の物だったろう。だが、ロルフから『他の師団に迷惑をかけるのは情勢的に良くないので基本的に第5師団内部で片づけるように』通達があったため、支援要請ははばかられたのだ。
「……やれやれ、師団長も面倒なことをお頼みなさる」
今日もウェルナーは調査開始の指示を出す。1か月経っても調査を打ち切らないのは、この周囲に広がる濃い霧のせいだ。海図に従い一定の範囲まで近づくと、必ずこの霧が発生している。その霧が逆に、ここには何かあるというのを確信させた。
(だが、それが何なのか……)
それはまだウェルナーには分からなかった。
「怪我の方はどうだい?」
「あぁ、問題ねぇよ。いつでも戦えるぜ」
「と言っても、しばらくは通常任務が主体になるけどね」
グライシュタットは南部国境要塞の師団長室。先日ブルーネンフーフにおける戦闘から帰還したロルフ・シュトライトとオットー・アルトリンゲン兵長が話をしていた。
二人の言う通り、彼らは当面通常任務に就くことになる。現在大きな戦場となっているのは東方の地。そちらにはサラ・グリューネマン兵長がおり、当地での支援任務などに当たっている。
「……そういや、最近ウェルナーのおっさんがいないみてぇだけどどうしたんだ?」
「あぁ、ウェルナーはちょっと特別な任務に……」
「特別!? ひょっとしてフリッツの追撃とかか!? それこそ俺にやらしてくれよ団長!」
「いやいや、ウェルナーに頼んでるのはそういう類のものじゃないんだ」
怪我が完治したばかりだというのに随分元気だ、等とロルフは思いつつそれを宥める。
「第一、あの様子じゃしばらくフリッツは姿を見せないんじゃないかな? 多分怪我が治るまではどこかに引きこもって出てこないはず……まぁ当分は安心してていいはずさ」
安心してていいはず……と、自分で言ったのはいいが、本当はそうでもない。フリッツを救いにきたのは間違いなくレオン・シュナイダー前副師団長だ。顔を包帯でくるんでいてはっきりとは見えないが、雰囲気で分かる。恐らくはフリッツの代わりに今後前線に出てくるのはレオンだろう。警戒を強める必要がある。
「それで、特別任務ってのは一体なんなんだよ」
「ん~……まぁいいか。これをちょっと見てくれるかい?」
食い下がるオットーに、ロルフは一枚の海図を差し出した。
「帝国東部近海の海図だ」
「んなの見りゃ分かるけど……ん? ここに書かれてる円はなんだ? この辺りには島も何もなさそうだけど……」
「じゃあこっちも見てくれ。陛下からの手紙だ」
続いて渡した手紙……皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲルからの親書だ。
尤も、内容的には半分以上どうでもいい世間話だったわけだが。要点としては……
『この辺りを調べるとヒンメルリッターにとってすごく良いことがあるので調べてみると良いんじゃないかな』
と、こういうことのようだ。
「オットーはこういう調査みたいなのは苦手だろ? だからウェルナーに頼んだんだ」
「確かに……これなら通常任務の方がマシだぜ……」
「そういうことだ。それじゃ、仕事もたくさんあるんだからしっかり頼むよ」
「へいへい。了解しましたよっと」
そう言って部屋を出ていくオットー。残されたロルフは親書と海図に目を落とし一人考える。
「……果たして、これは本当に陛下の指示なのだろうか」
確かにヴィルヘルミナは自由奔放。しょっちゅう帝都を抜け出しているそうだ。だが、一つの場所で長い調査を続けるという話もまた聞いたことは無い。
「なにも無い海の一定範囲まで当たりを付けるぐらいだからここに何かあるのは間違いない。が、そこまで絞る程の滞在時間があったのか……」
そう考えると、これはヴィルヘルミナによるものでは無いのでは……であれば誰の指示か。いや、それにもロルフは思い当たる節がある。
「……絶火隊が動いてるのか?」
だが、その呟きに対する回答を返してくれるものは誰もいなかった。
●
帝国東部海上に浮かぶ一隻の比較的大型の船。そこには第5師団から派遣されてきたウェルナー・ブラウヒッチの姿があった。
「かれこれ1か月、か……」
ウェルナーの言葉通り、調査を始めて1か月程経っている。サラなどがこの任務に当たっていたら早々に「時間の無駄です」と帰ってきていたかもしれない。もっとも、時間がかかるのも当然だ。第5師団は空が専門。ベテランであっても海の調査等したことは無い。
唯一の救いはそれが恐らくは海の上にあるだろうということだ。第5師団が調査を行うということは間違いなくグリフォンが関係してくることであり、グリフォンは海に潜るような幻獣ではないからだ。
「第4師団辺りに支援要請でも出せればよかったのだが……まぁ言っても仕方ないか」
第4師団は海に強い師団だ。当然海上調査もお手の物だったろう。だが、ロルフから『他の師団に迷惑をかけるのは情勢的に良くないので基本的に第5師団内部で片づけるように』通達があったため、支援要請ははばかられたのだ。
「……やれやれ、師団長も面倒なことをお頼みなさる」
今日もウェルナーは調査開始の指示を出す。1か月経っても調査を打ち切らないのは、この周囲に広がる濃い霧のせいだ。海図に従い一定の範囲まで近づくと、必ずこの霧が発生している。その霧が逆に、ここには何かあるというのを確信させた。
(だが、それが何なのか……)
それはまだウェルナーには分からなかった。
リプレイ本文
●
「……と、こういうわけだ」
第5師団が用意した船の上、目的の海域に向けて移動中ウェルナー・ブラウヒッチ兵長が詳しい説明を行う。
皇帝の親書、第5師団にとって有用な謎の何か、そして1か月に及ぶ探索と謎の霧。それらを聞きながら、ハンターたちは探索の準備を進めていた。
「皇帝陛下の親書、ね……まぁ本物にしろ罠にしろ、そこに『何か』はあるわけだ」
方位磁石やロープを借り受けながらレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)は言った。事の発端はその言葉通り皇帝からの親書。それがまったくの虚報ではないことはここまでの探索……海域の調査を阻むかのように広がる謎の霧が証明してくれていた。
「でも、一体何があるというのでしょうか」
「第4師団じゃなくて第5師団に役立つ海にあるもの……なんだよね?」
「分からない……そもそも親書では何故正体を言わない?」
古川 舞踊(ka1777)やアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)とともに海図を睨んでいたザレム・アズール(ka0878)の頭に浮かぶのは、疑問とちょっとした好奇心。そこにあるのは何なのか……何らかの魔法の品か、それともグリフォンの武装素材でも?
「他にも餌、道具、生物……色々と考えられます。そもそも、何かがあるのは分かっているけど、何があるのかはわからない、とか? ……埒があきませんね。とりあえず探してみましょう」
アレグラ・スパーダ(ka4360)の言う通り、とにかくみつければこの辺りの疑問は明らかになるのだ。尤も、この霧がその妨げになっているわけだが……
「霧の中の探索か……」
無線の周波数を合わせながら考え込んでいた柊 真司(ka0705)が言葉を漏らす。ただ普通に行ってもすり抜けるだけ。そうなると船の航路を曲げたりとか……下手したら空間を曲げるような魔術的な仕掛けがどこかにあると予想できる。
(疑わしいのは魔術や幻術による攪乱……だよねぇ)
同じことを考えていたのは水流崎トミヲ(ka4852)だ。
完全無欠のプロ集団、とは言い難いが……それでも一応海に関する知識を持った人間を雇って今までやってきたのだろう。それが見つけられない以上、これがただの霧や潮流なわけが無い。あるいは巨大な海棲生物が……となっていたらそもそも調査を行っていた第5師団は1か月も無事に過ごせていたわけがない。
「いいかい、首尾よくいったらDT大魔術師トミヲの名前、お上に良い感じに報告しておいてくれ……よ……」
そう言って振り向いたトミヲの視界に入ってきたのは……
「1か月も頑張ってたんですもの、少しぐらいの癒しはあってもいいわよね?」
といって水着+Tシャツ姿で愛嬌を振りまくカーミン・S・フィールズ(ka1559)の姿。トミヲの視線に気付いたカーミンが笑って手を振っている。
その様子を見て若干挙動不審に陥ったトミヲとともに、船は霧の中へと入りこんでいった。
●
「……これと言って特別な事象は無さそうだがな……」
再び海図を睨むザレム。そもそもこの辺りは通常航路からは外れている。その分データが少ないのも要因となっているのか。探索の記録を確認してもやれることはやっているように見える。但し……それらは全て海上に絞られている。
「水中から攻めればもしかしたら霧を発生させている仕掛けや隠しているものが見つかるかもしれない」
仕掛けが霧の中で作用するもの……あるいはこの霧自体が仕掛けなのかもしれないが、それなら霧の無いところから攻めればあるいは……というのが真司の考えだ。
「じゃあオレは海面か海上の調査に当たってみるぜ」
そう言ってレオーネは小舟へと移乗する。霧が意図的なものなら、それは『何か』を隠すものの筈だとレオーネは考える。
「水中にあるのに霧を出したら『ここが怪しいです』って言っちゃうようなもんだろ?」
とはいえ、同じ考えで調査を行っていた第5師団が何も見つけられていないのも事実ではある。これに関して、レオーネは霧の影響で自然に進路が曲げられていると仮説を立てていた。
「それに関しては私も似た感じの意見ね。霧の中で船が流されてると思う。それじゃどうするの?」
「考えがあるぜ……悪いけどちょっと手を貸してくれ」
同意したカーミンに対しレオーネの考えた案は、前後左右に十字の船団を組んで航行するというもの。船の間にロープを渡して位置や間隔を図る。双眼鏡などで位置関係を確認し合い、十字にズレが生じたら連絡、都度修正を繰り返していく。
「……そうすれば霧のせいでたどり着けなかった場所に侵入できると思うんだ」
「分かりました。こちらもそのように……」
レオーネを手伝うべく舞踊もトランシーバー片手に準備を進める。
一方、同じく船の上から調査を行うトミヲは風向きの確認を依頼。途上で紙を燃やすなどして風向きと方位磁石が一致するかを確認してみるつもりだ。
「それじゃよろしく頼むよ」
大型船に残る乗員に言いつつトミヲも移乗。水中班の手伝いがてら命綱のロープを確認することも忘れない。
「……今のところ怪しい感じはしないね」
すでにトミヲは覚醒を行っている。この霧がなんらかの幻術的なものであれば覚醒状態で抵抗を試みることが出来るのではと考えたのだ。だが、今のところ方向感覚と磁石にずれも感じられない。
「あるいは、すでにずらされている? ……ククッ! DT魔法使いの血が騒ぐね!」
「よっと……これでとりあえずは大丈夫かな」
アルトはアレグラの乗る船に乗り込むと命綱代わりのロープを体に巻き付ける。潮流で流されたりしないようにするためだ。
「海上を霧で隠しているなら、海中は潮の流れがおかしくなってる気がするからね」
それで船がまっすぐ進めず今まで発見できなかった……と、この辺りは他の者と似た考えのようだ。
「灯りは絶やさないようにお願いします」
アレグラの方は無線の状態を確認するついでに大型船と連絡をとりあう。大型船は止まった状態で灯りを焚いてもらうことで目印になってもらおうというのだ。
なお、アレグラとしてはある程度探索範囲を決めて船を停め探索を行うつもりであったのだが……この辺りはレオーネの案に合わせる形で移動しながらの探索になりそうだ。
『それでは、そろそろ参りましょう』
無線から舞踊の声が聞こえる。こうしてハンターたちは海上、海中両面からの探索に乗り出した。
●
探索が始まってからしばらく……
紙を燃やしたトミヲは、煙の流れを風向きや方位磁石と照らし合わせて確認。
「進行方向はこっちで……風向きはそのまま……ふーむ、特にズレは無し」
だが、特に違和感は感じられない。
「異常なし。そっちはどうだ?」
『こちら、特に異常は感じられません』
一方、レオーネは無線で舞踊や他の船に乗っている者と連絡を取りズレが生じていないか確認する。だが、特にズレは無し。
「……確実に大型船からは離れてきている……方向は間違っていないみたいですね」
大型船の方に目をやったアレグラもそう認識する。では、海中の方はどうか……
「これぐらいの深度では何も見つからないな……」
息継ぎの為に上がってきた真司は船の上に報告する。
霧のせいか明かりも届きにくく、海の中は暗い。探すべきものが何か、ということも分からない状態では見つけることは難しいのか。
「今が夏で良かったよ」
続いてアルトが浮上してくる。こちらは潮流の向きや魚等が近寄らない場所が無いか注意を振り向けていたが、特に問題は無さそうだ。
「……俺も潜ろう」
磁石や感覚が狂うあたりで水中に入る予定だったザレムだが、このままじゃ埒が明かないと自身も海の中へ。
こうして、数度潜って、浮上してを繰り返していた矢先……真司があるものを見つけた。
(……魚型の歪虚か)
ダイバーズウォッチで潜水時間を確認した真司はライトを利用して同じく潜っている面々に軽く合図を送る。そして、すぐさま水中用アサルトライフルを構え……発射。銃弾は吸い込まれるように歪虚へ命中。その後動き出す様子は見えない。仕留めたようだ。
その間にザレム、アルトは浮上して歪虚の発見を報告する。
「この状況が歪虚の作り出したものなら、先程柊さんが倒した敵は偵察ということも考えられますね」
緊張した面持ちで舞踊はロングボウを構える。他の者も戦闘準備を整える……だが、結果として何も起こらなかった。
「単なるはぐれ歪虚、みたいですね」
アレグラの声に胸をなで下ろす一同。水中での戦闘を想定していたアルトやザレム、真司も一度船の上に戻る。
「……どうかしたのかい?」
そんな水中班の面々が、皆どこか訝しむような表情を浮かべている。疑問を感じたトミヲはそんな言葉を投げかける。それに答えたのは真司だ。
「……いや、ちょっと……船の進路ズレてないか?」
「え? そんなはずは……」
そう聞いて船の位置を確認するレオーネだが……距離感も、磁石も、大型船との位置関係も問題無さそうだ。
「あ、私もそれ思ったわ。さっきより曲がってない?」
だが、真司だけではない。カーミンも同様の感想を抱いていた。
「潮流は問題無さそうだけど……やっぱり霧の影響かな?」
呟くアルト……これらの疑問は割とあっさり片が付くことに。
「……ちょっとこれ海中で見てきてもらえるかい?」
トミヲはそう言うと真司に方位磁針を渡した。それに従い真司は方位磁針を持って海中へ。先ほどの様なはぐれ歪虚がいないとも限らないので、ザレムが護衛としてついていく。
そして、海中で真司が見たのは……海上とは別の方角を指す磁石の針だった。
●
事実に基づく推論はこうだ。
海上の霧は実際に魔術的、あるいは幻術的な要素を持った霧で、高い抵抗力を持つトミヲを始め、ハンターたちの認識を狂わせる程強力なものだった。
そして……
「その霧は海の中には影響を及ぼしていない、と……」
第5師団が1か月かけても見つからないはずだ。彼らは何かが海上にあると思っていたから海中からのアプローチは一切行ってこなかったのだから。
そういうわけで、今は水中班が潜った状態で移動し、命綱を利用して方向がずれたら都度修正を行っていた。
「とはいえ、この先に何があるんでしょうか……」
舞踊の抱いた疑問。その答えはすぐにわかることに。
「底が見えた! 段々浅くなっていくみたいだぞ」
海中から上がってきた真司がそう報告してくる。と、同時に……
「む?」
もう何枚目かの紙を燃やしていたトミヲ。その煙が突如揺らめく。風向きが変わったのだ。そして、同時に周囲を包んでいた濃い霧が晴れていく。
「霧を抜けたみたいですね……そして、これがゴールと」
アレグラの言葉通り、目の前にはゴール……巨大な断崖が広がっている。
「……岩山みたいだな……海の真ん中だし岩島? これが『何か』なのか?」
水中班が船に戻ってくる中、レオーネは呟く。
ハンターたちはそのまま船をこぎ島の周囲をぐるりと回っていく。とりたてて何かがあるという事ではなさそうに見える。
「しかし、上まで上るとなると苦労しそうね……」
呟くカーミン。それほどにこの崖は高い。
「……みんな、静かに……!」
不意に、ザレムが声を上げる。それに従い皆が口をつぐんだ。
ザレムが指差した方向……そこには、一つの穴。崖にめり込むようにできた、入り江のようなものだろう。
そこから、ちらりと船が見える。
「いったいどうやってここに……」
「ボク達と同じやり方でこの島を発見した先達といったところかな」
アルトはそう言うとゆっくり船を漕いでいき……角度を変えてみると船を見ると、マストには髑髏のマーク……海賊のようだ。
「厄介な連中がいたもんだね……どうする?」
『……とりあえず、一度大型船の方に戻りましょう』
レオーネの問いにアレグラが無線を通じて返す。今回の目的は探索。海賊との戦闘は織り込んではいない。
こうしてハンターたちは再度霧の中へと漕ぎ出していく。大型船に戻るのはそう難しくないはずだ。霧の中で船は灯りを絶やさず待ってくれているはずなのだから。
「しかし結局俺達が見つけたのは……」
何だったのか。そう続けようとしたザレムが空を見上げた時、その視界には……
「……グリフォン?」
霧を抜けて島の方へと向かっていくグリフォンの姿が見えた。他の者達も見ただろう。しかも、1頭ではない。霧の中に入り込む短い間に2、3頭見えた。
第5師団では今グリフォンを出していないはずだ。そもそも、出してここまでたどり着けるならハンターに依頼が出されるはずがない。
だが、あのグリフォンたちは霧を抜けて悠々と飛んできていた。
「……ひょっとしてですけど……この島は……」
「グリフォンの住む島……なのか?」
舞踊の言葉にレオーネが続いた。もしそうであれば、年中人手とグリフォンの不足している第5師団にとって非常に有用なものであることに違いない。
だが、本来山岳部に住んでいるはずのグリフォンが何故こんなところに……
「……ははぁ、読めたぞ」
トミヲは一人、その回答を思い浮かべる。
(ここに居るのかな。この魔術を仕掛けた誰かが)
それは、辺境でも見られた大幻獣と呼ばれる存在なのではないか。尤も、その回答の答え合わせを行えるのはまだ先の事になりそうだった。
「……と、こういうわけだ」
第5師団が用意した船の上、目的の海域に向けて移動中ウェルナー・ブラウヒッチ兵長が詳しい説明を行う。
皇帝の親書、第5師団にとって有用な謎の何か、そして1か月に及ぶ探索と謎の霧。それらを聞きながら、ハンターたちは探索の準備を進めていた。
「皇帝陛下の親書、ね……まぁ本物にしろ罠にしろ、そこに『何か』はあるわけだ」
方位磁石やロープを借り受けながらレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)は言った。事の発端はその言葉通り皇帝からの親書。それがまったくの虚報ではないことはここまでの探索……海域の調査を阻むかのように広がる謎の霧が証明してくれていた。
「でも、一体何があるというのでしょうか」
「第4師団じゃなくて第5師団に役立つ海にあるもの……なんだよね?」
「分からない……そもそも親書では何故正体を言わない?」
古川 舞踊(ka1777)やアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)とともに海図を睨んでいたザレム・アズール(ka0878)の頭に浮かぶのは、疑問とちょっとした好奇心。そこにあるのは何なのか……何らかの魔法の品か、それともグリフォンの武装素材でも?
「他にも餌、道具、生物……色々と考えられます。そもそも、何かがあるのは分かっているけど、何があるのかはわからない、とか? ……埒があきませんね。とりあえず探してみましょう」
アレグラ・スパーダ(ka4360)の言う通り、とにかくみつければこの辺りの疑問は明らかになるのだ。尤も、この霧がその妨げになっているわけだが……
「霧の中の探索か……」
無線の周波数を合わせながら考え込んでいた柊 真司(ka0705)が言葉を漏らす。ただ普通に行ってもすり抜けるだけ。そうなると船の航路を曲げたりとか……下手したら空間を曲げるような魔術的な仕掛けがどこかにあると予想できる。
(疑わしいのは魔術や幻術による攪乱……だよねぇ)
同じことを考えていたのは水流崎トミヲ(ka4852)だ。
完全無欠のプロ集団、とは言い難いが……それでも一応海に関する知識を持った人間を雇って今までやってきたのだろう。それが見つけられない以上、これがただの霧や潮流なわけが無い。あるいは巨大な海棲生物が……となっていたらそもそも調査を行っていた第5師団は1か月も無事に過ごせていたわけがない。
「いいかい、首尾よくいったらDT大魔術師トミヲの名前、お上に良い感じに報告しておいてくれ……よ……」
そう言って振り向いたトミヲの視界に入ってきたのは……
「1か月も頑張ってたんですもの、少しぐらいの癒しはあってもいいわよね?」
といって水着+Tシャツ姿で愛嬌を振りまくカーミン・S・フィールズ(ka1559)の姿。トミヲの視線に気付いたカーミンが笑って手を振っている。
その様子を見て若干挙動不審に陥ったトミヲとともに、船は霧の中へと入りこんでいった。
●
「……これと言って特別な事象は無さそうだがな……」
再び海図を睨むザレム。そもそもこの辺りは通常航路からは外れている。その分データが少ないのも要因となっているのか。探索の記録を確認してもやれることはやっているように見える。但し……それらは全て海上に絞られている。
「水中から攻めればもしかしたら霧を発生させている仕掛けや隠しているものが見つかるかもしれない」
仕掛けが霧の中で作用するもの……あるいはこの霧自体が仕掛けなのかもしれないが、それなら霧の無いところから攻めればあるいは……というのが真司の考えだ。
「じゃあオレは海面か海上の調査に当たってみるぜ」
そう言ってレオーネは小舟へと移乗する。霧が意図的なものなら、それは『何か』を隠すものの筈だとレオーネは考える。
「水中にあるのに霧を出したら『ここが怪しいです』って言っちゃうようなもんだろ?」
とはいえ、同じ考えで調査を行っていた第5師団が何も見つけられていないのも事実ではある。これに関して、レオーネは霧の影響で自然に進路が曲げられていると仮説を立てていた。
「それに関しては私も似た感じの意見ね。霧の中で船が流されてると思う。それじゃどうするの?」
「考えがあるぜ……悪いけどちょっと手を貸してくれ」
同意したカーミンに対しレオーネの考えた案は、前後左右に十字の船団を組んで航行するというもの。船の間にロープを渡して位置や間隔を図る。双眼鏡などで位置関係を確認し合い、十字にズレが生じたら連絡、都度修正を繰り返していく。
「……そうすれば霧のせいでたどり着けなかった場所に侵入できると思うんだ」
「分かりました。こちらもそのように……」
レオーネを手伝うべく舞踊もトランシーバー片手に準備を進める。
一方、同じく船の上から調査を行うトミヲは風向きの確認を依頼。途上で紙を燃やすなどして風向きと方位磁石が一致するかを確認してみるつもりだ。
「それじゃよろしく頼むよ」
大型船に残る乗員に言いつつトミヲも移乗。水中班の手伝いがてら命綱のロープを確認することも忘れない。
「……今のところ怪しい感じはしないね」
すでにトミヲは覚醒を行っている。この霧がなんらかの幻術的なものであれば覚醒状態で抵抗を試みることが出来るのではと考えたのだ。だが、今のところ方向感覚と磁石にずれも感じられない。
「あるいは、すでにずらされている? ……ククッ! DT魔法使いの血が騒ぐね!」
「よっと……これでとりあえずは大丈夫かな」
アルトはアレグラの乗る船に乗り込むと命綱代わりのロープを体に巻き付ける。潮流で流されたりしないようにするためだ。
「海上を霧で隠しているなら、海中は潮の流れがおかしくなってる気がするからね」
それで船がまっすぐ進めず今まで発見できなかった……と、この辺りは他の者と似た考えのようだ。
「灯りは絶やさないようにお願いします」
アレグラの方は無線の状態を確認するついでに大型船と連絡をとりあう。大型船は止まった状態で灯りを焚いてもらうことで目印になってもらおうというのだ。
なお、アレグラとしてはある程度探索範囲を決めて船を停め探索を行うつもりであったのだが……この辺りはレオーネの案に合わせる形で移動しながらの探索になりそうだ。
『それでは、そろそろ参りましょう』
無線から舞踊の声が聞こえる。こうしてハンターたちは海上、海中両面からの探索に乗り出した。
●
探索が始まってからしばらく……
紙を燃やしたトミヲは、煙の流れを風向きや方位磁石と照らし合わせて確認。
「進行方向はこっちで……風向きはそのまま……ふーむ、特にズレは無し」
だが、特に違和感は感じられない。
「異常なし。そっちはどうだ?」
『こちら、特に異常は感じられません』
一方、レオーネは無線で舞踊や他の船に乗っている者と連絡を取りズレが生じていないか確認する。だが、特にズレは無し。
「……確実に大型船からは離れてきている……方向は間違っていないみたいですね」
大型船の方に目をやったアレグラもそう認識する。では、海中の方はどうか……
「これぐらいの深度では何も見つからないな……」
息継ぎの為に上がってきた真司は船の上に報告する。
霧のせいか明かりも届きにくく、海の中は暗い。探すべきものが何か、ということも分からない状態では見つけることは難しいのか。
「今が夏で良かったよ」
続いてアルトが浮上してくる。こちらは潮流の向きや魚等が近寄らない場所が無いか注意を振り向けていたが、特に問題は無さそうだ。
「……俺も潜ろう」
磁石や感覚が狂うあたりで水中に入る予定だったザレムだが、このままじゃ埒が明かないと自身も海の中へ。
こうして、数度潜って、浮上してを繰り返していた矢先……真司があるものを見つけた。
(……魚型の歪虚か)
ダイバーズウォッチで潜水時間を確認した真司はライトを利用して同じく潜っている面々に軽く合図を送る。そして、すぐさま水中用アサルトライフルを構え……発射。銃弾は吸い込まれるように歪虚へ命中。その後動き出す様子は見えない。仕留めたようだ。
その間にザレム、アルトは浮上して歪虚の発見を報告する。
「この状況が歪虚の作り出したものなら、先程柊さんが倒した敵は偵察ということも考えられますね」
緊張した面持ちで舞踊はロングボウを構える。他の者も戦闘準備を整える……だが、結果として何も起こらなかった。
「単なるはぐれ歪虚、みたいですね」
アレグラの声に胸をなで下ろす一同。水中での戦闘を想定していたアルトやザレム、真司も一度船の上に戻る。
「……どうかしたのかい?」
そんな水中班の面々が、皆どこか訝しむような表情を浮かべている。疑問を感じたトミヲはそんな言葉を投げかける。それに答えたのは真司だ。
「……いや、ちょっと……船の進路ズレてないか?」
「え? そんなはずは……」
そう聞いて船の位置を確認するレオーネだが……距離感も、磁石も、大型船との位置関係も問題無さそうだ。
「あ、私もそれ思ったわ。さっきより曲がってない?」
だが、真司だけではない。カーミンも同様の感想を抱いていた。
「潮流は問題無さそうだけど……やっぱり霧の影響かな?」
呟くアルト……これらの疑問は割とあっさり片が付くことに。
「……ちょっとこれ海中で見てきてもらえるかい?」
トミヲはそう言うと真司に方位磁針を渡した。それに従い真司は方位磁針を持って海中へ。先ほどの様なはぐれ歪虚がいないとも限らないので、ザレムが護衛としてついていく。
そして、海中で真司が見たのは……海上とは別の方角を指す磁石の針だった。
●
事実に基づく推論はこうだ。
海上の霧は実際に魔術的、あるいは幻術的な要素を持った霧で、高い抵抗力を持つトミヲを始め、ハンターたちの認識を狂わせる程強力なものだった。
そして……
「その霧は海の中には影響を及ぼしていない、と……」
第5師団が1か月かけても見つからないはずだ。彼らは何かが海上にあると思っていたから海中からのアプローチは一切行ってこなかったのだから。
そういうわけで、今は水中班が潜った状態で移動し、命綱を利用して方向がずれたら都度修正を行っていた。
「とはいえ、この先に何があるんでしょうか……」
舞踊の抱いた疑問。その答えはすぐにわかることに。
「底が見えた! 段々浅くなっていくみたいだぞ」
海中から上がってきた真司がそう報告してくる。と、同時に……
「む?」
もう何枚目かの紙を燃やしていたトミヲ。その煙が突如揺らめく。風向きが変わったのだ。そして、同時に周囲を包んでいた濃い霧が晴れていく。
「霧を抜けたみたいですね……そして、これがゴールと」
アレグラの言葉通り、目の前にはゴール……巨大な断崖が広がっている。
「……岩山みたいだな……海の真ん中だし岩島? これが『何か』なのか?」
水中班が船に戻ってくる中、レオーネは呟く。
ハンターたちはそのまま船をこぎ島の周囲をぐるりと回っていく。とりたてて何かがあるという事ではなさそうに見える。
「しかし、上まで上るとなると苦労しそうね……」
呟くカーミン。それほどにこの崖は高い。
「……みんな、静かに……!」
不意に、ザレムが声を上げる。それに従い皆が口をつぐんだ。
ザレムが指差した方向……そこには、一つの穴。崖にめり込むようにできた、入り江のようなものだろう。
そこから、ちらりと船が見える。
「いったいどうやってここに……」
「ボク達と同じやり方でこの島を発見した先達といったところかな」
アルトはそう言うとゆっくり船を漕いでいき……角度を変えてみると船を見ると、マストには髑髏のマーク……海賊のようだ。
「厄介な連中がいたもんだね……どうする?」
『……とりあえず、一度大型船の方に戻りましょう』
レオーネの問いにアレグラが無線を通じて返す。今回の目的は探索。海賊との戦闘は織り込んではいない。
こうしてハンターたちは再度霧の中へと漕ぎ出していく。大型船に戻るのはそう難しくないはずだ。霧の中で船は灯りを絶やさず待ってくれているはずなのだから。
「しかし結局俺達が見つけたのは……」
何だったのか。そう続けようとしたザレムが空を見上げた時、その視界には……
「……グリフォン?」
霧を抜けて島の方へと向かっていくグリフォンの姿が見えた。他の者達も見ただろう。しかも、1頭ではない。霧の中に入り込む短い間に2、3頭見えた。
第5師団では今グリフォンを出していないはずだ。そもそも、出してここまでたどり着けるならハンターに依頼が出されるはずがない。
だが、あのグリフォンたちは霧を抜けて悠々と飛んできていた。
「……ひょっとしてですけど……この島は……」
「グリフォンの住む島……なのか?」
舞踊の言葉にレオーネが続いた。もしそうであれば、年中人手とグリフォンの不足している第5師団にとって非常に有用なものであることに違いない。
だが、本来山岳部に住んでいるはずのグリフォンが何故こんなところに……
「……ははぁ、読めたぞ」
トミヲは一人、その回答を思い浮かべる。
(ここに居るのかな。この魔術を仕掛けた誰かが)
それは、辺境でも見られた大幻獣と呼ばれる存在なのではないか。尤も、その回答の答え合わせを行えるのはまだ先の事になりそうだった。
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相談卓 アレグラ・スパーダ(ka4360) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/08/17 01:00:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/16 07:45:52 |