ゲスト
(ka0000)
イルリヒト生徒救出依頼~歪虚跋扈する山~
マスター:旅硝子
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~4人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/23 07:30
- 完成日
- 2014/07/27 19:22
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「エルガー・ウンターゲーエン他3名の生徒が帰還しておらず、連絡も取れない……」
錬魔院付属の覚醒者専門学園施設であるイルリヒト、その校長室では初老の男性が報告を聞いて唸り声を上げていた。
「彼らが演習に向かった場所は、ドゥンケルベルクで間違いないな」
「はい、何度か生徒を演習に向かわせ、無事に帰還させている場所です。毎回雑魔が出現していますが、再起不能の怪我を負った者は1人もおらず、数も多くはありません」
「ふむ……既に7日間が経過している。ドゥンケルベルクまでは片道3日間、演習が終わったら連絡を入れるよう伝達してある。ならば――」
初老の男性――イルリヒト校長アンゼルム・シュナウダーは、そっと目を閉じた。
覚醒者のみが入学を許されるイルリヒトの訓練は、基礎体力作りから理論を学ぶ座学、そして演習と名付けられた実戦に至るまで、非常に過酷である。
それに耐え切れず逃げ出そうとする生徒も、過去に存在しなかったわけではない――が、今回演習へと向かったチームのリーダーであるエルガーばかりは、何があってもそんなことをするはずがないと、校長は即座に判断を下す。
であれば――。
「救出が必要な事態に陥っている、もしくは」
そこで言葉を切って、校長はしばし考えを巡らせ――目を開き、報告に来た職員へと告げる。
「ハンターズソサエティに依頼を出しなさい。内容は行方不明となったイルリヒト生徒の安否確認、そして生存者の救出とするように」
「軍への協力要請ではないのですね?」
確認するように言った職員に、校長は眉を寄せて頷く。
「正式な手続きを取り軍に要請したところで、手続きに時間がかかり救出には時間がかかるだろう。それに」
憂いを含んだ声を、校長は溜息とともに吐き出した。
「彼らにとって疎ましきイルリヒト生徒の救出とあれば、尚更だ」
「お集まりいただきまして、ありがとうございます」
ハンターズソサエティで依頼書を見て集まったハンター達に、依頼人の男性はイルリヒトの職員だと名乗る。
「イルリヒトは、ゾンネンシュトラール帝国の錬魔院に付属する軍学校です。生徒は覚醒者のみであり、実戦的な授業もあるのですが、今回その授業によって、4人の学生が行方不明になっているのです」
ハンター達の間に僅かな動揺が走るのに構わず、男性は地図を広げ、帝都から徒歩3日程度の場所にある山地に丸を付ける。
「ここはドゥンケルベルクという山なのですが、弱い雑魔の発生こそあるもののイルリヒトの生徒でも対処できる程度であり、年に数度ほど雑魔の退治と実戦の経験積みを兼ねて、生徒で構成されたチームを送り込んでいました。今までは全ての生徒が無事に帰還していたのですが……今回、初めて4人の生徒が、音信不通となっています」
そこで一度息をつき、イルリヒト職員はハンター達を見渡して口を開く。
「不慮の事態により下山不能となっているか、あるいは……死亡している可能性もあります」
事務的な口調ではあるが、『死』を口に出す前の一瞬の躊躇いは、彼が彼なりに生徒達を大切にしているように思えた。
けれどそれ以上淀みを作ることなく、彼は再び口を開いた。
「皆さんに頼みたいのは彼らの安否確認、そして生存者の保護です。また、不測の事態が何だったのか、もしもわかるようなら報告を入れて下さると助かりますが……生存者の命を優先していただけるよう、お願いいたします」
トン、と机の上に受話器状の機械が置かれた。魔導短伝話、という、指定した相手が1km以内にいれば、周辺のマテリアルなどの状況にもよるが通話が可能になる機械だ。
「これには既に、今回のチームリーダーであるエルガー・ウンターゲーエンに持たせた魔導短伝話を登録してあります。山中にいるならば、山のふもとからなら彼らがどこにいても連絡が通じるはずです。エルガーへの伝話を登録できるということ自体が、イルリヒトに関係する者であることを表しているので、身の証などを証明する必要はないはずです」
これによって連絡が通じれば、互いに状況を把握し善後策を講じることもできるだろう。
「どうか、よろしくお願いいたします。……皆様が、頼りなのです」
そう言って職員は、深く深く頭を下げた。
――ドゥンケルベルク、中腹近く。
日の指さぬ洞窟の中は、昼なお暗く目の前も見えぬ。
「番長……俺を、置いて……生き延びて……」
「馬鹿を言うなアルセニー。水だ、飲め」
番長、と呼ばれた男は、その巨体とは裏腹の丁寧な手つきで、熱にうなされる少年に椀から水を飲ませる。
二十歳を少し越したくらいだろうか。あちこちに包帯が巻かれているが、それを気にする素振りはない。
「ごめんなさい、エルガーさん……私の脚が、無事だったらせめて……」
「ベルタ、謝るんじゃない。そんな必要はないんだからな」
少女の方を見ずに、番長ともエルガーとも呼ばれる男は言った。体中に手当の跡がある少女の右脚には、木板が添えられて包帯が巻かれている。明らかに、骨折の応急処置だ。
「それより、もうランタンの油もほとんどない。自分の怪我は、自分の感覚を駆使して手当てを……」
「ばーんちょー!」
昏く淀んだ空気を払拭するかのように、ランタンの灯りとぱたぱたとした足音、そして大声。
「うるせぇぞハラーツァイ!」
そう言いながらも、ランタンに照らされたエルガーの表情はほどよく緊張が解けたように見えた。
「番長、まだあのバケモン、入口んとこさ引っかかってるよ!」
けれど、やや訛りのある少女、ハラーツァイの報告に一行の顔は苦く染まる。
「……ただのゾンビ如きなら、この槍でしばいちまうのにな」
――そう。
怪我人を抱えた彼らが逃げ込んだ洞窟の前には、1mほどの小さな入り口をくぐれない、3mを超える巨体のゾンビが一瞬も離れることなく立ちふさがる。
それも、両腕をチェーンソーへと改造されたものだ。
それだけではない。
雑魔の数も、例年より急激に増えている。異変に気付いた時には既に雑魔が周りを取り囲んでおり、必死に退路を開いてこの洞窟まで逃げてきたのだ。
食料は尽きかけている。水は洞窟の壁を伝う雨垂れを利用しているが、雨が止めばすぐに困るだろう。
洞窟の入り口が1か所しかないことは、確認している。
そして、怪我をした少女と高熱を出した少年。
彼らの命は、風前の灯であった。
錬魔院付属の覚醒者専門学園施設であるイルリヒト、その校長室では初老の男性が報告を聞いて唸り声を上げていた。
「彼らが演習に向かった場所は、ドゥンケルベルクで間違いないな」
「はい、何度か生徒を演習に向かわせ、無事に帰還させている場所です。毎回雑魔が出現していますが、再起不能の怪我を負った者は1人もおらず、数も多くはありません」
「ふむ……既に7日間が経過している。ドゥンケルベルクまでは片道3日間、演習が終わったら連絡を入れるよう伝達してある。ならば――」
初老の男性――イルリヒト校長アンゼルム・シュナウダーは、そっと目を閉じた。
覚醒者のみが入学を許されるイルリヒトの訓練は、基礎体力作りから理論を学ぶ座学、そして演習と名付けられた実戦に至るまで、非常に過酷である。
それに耐え切れず逃げ出そうとする生徒も、過去に存在しなかったわけではない――が、今回演習へと向かったチームのリーダーであるエルガーばかりは、何があってもそんなことをするはずがないと、校長は即座に判断を下す。
であれば――。
「救出が必要な事態に陥っている、もしくは」
そこで言葉を切って、校長はしばし考えを巡らせ――目を開き、報告に来た職員へと告げる。
「ハンターズソサエティに依頼を出しなさい。内容は行方不明となったイルリヒト生徒の安否確認、そして生存者の救出とするように」
「軍への協力要請ではないのですね?」
確認するように言った職員に、校長は眉を寄せて頷く。
「正式な手続きを取り軍に要請したところで、手続きに時間がかかり救出には時間がかかるだろう。それに」
憂いを含んだ声を、校長は溜息とともに吐き出した。
「彼らにとって疎ましきイルリヒト生徒の救出とあれば、尚更だ」
「お集まりいただきまして、ありがとうございます」
ハンターズソサエティで依頼書を見て集まったハンター達に、依頼人の男性はイルリヒトの職員だと名乗る。
「イルリヒトは、ゾンネンシュトラール帝国の錬魔院に付属する軍学校です。生徒は覚醒者のみであり、実戦的な授業もあるのですが、今回その授業によって、4人の学生が行方不明になっているのです」
ハンター達の間に僅かな動揺が走るのに構わず、男性は地図を広げ、帝都から徒歩3日程度の場所にある山地に丸を付ける。
「ここはドゥンケルベルクという山なのですが、弱い雑魔の発生こそあるもののイルリヒトの生徒でも対処できる程度であり、年に数度ほど雑魔の退治と実戦の経験積みを兼ねて、生徒で構成されたチームを送り込んでいました。今までは全ての生徒が無事に帰還していたのですが……今回、初めて4人の生徒が、音信不通となっています」
そこで一度息をつき、イルリヒト職員はハンター達を見渡して口を開く。
「不慮の事態により下山不能となっているか、あるいは……死亡している可能性もあります」
事務的な口調ではあるが、『死』を口に出す前の一瞬の躊躇いは、彼が彼なりに生徒達を大切にしているように思えた。
けれどそれ以上淀みを作ることなく、彼は再び口を開いた。
「皆さんに頼みたいのは彼らの安否確認、そして生存者の保護です。また、不測の事態が何だったのか、もしもわかるようなら報告を入れて下さると助かりますが……生存者の命を優先していただけるよう、お願いいたします」
トン、と机の上に受話器状の機械が置かれた。魔導短伝話、という、指定した相手が1km以内にいれば、周辺のマテリアルなどの状況にもよるが通話が可能になる機械だ。
「これには既に、今回のチームリーダーであるエルガー・ウンターゲーエンに持たせた魔導短伝話を登録してあります。山中にいるならば、山のふもとからなら彼らがどこにいても連絡が通じるはずです。エルガーへの伝話を登録できるということ自体が、イルリヒトに関係する者であることを表しているので、身の証などを証明する必要はないはずです」
これによって連絡が通じれば、互いに状況を把握し善後策を講じることもできるだろう。
「どうか、よろしくお願いいたします。……皆様が、頼りなのです」
そう言って職員は、深く深く頭を下げた。
――ドゥンケルベルク、中腹近く。
日の指さぬ洞窟の中は、昼なお暗く目の前も見えぬ。
「番長……俺を、置いて……生き延びて……」
「馬鹿を言うなアルセニー。水だ、飲め」
番長、と呼ばれた男は、その巨体とは裏腹の丁寧な手つきで、熱にうなされる少年に椀から水を飲ませる。
二十歳を少し越したくらいだろうか。あちこちに包帯が巻かれているが、それを気にする素振りはない。
「ごめんなさい、エルガーさん……私の脚が、無事だったらせめて……」
「ベルタ、謝るんじゃない。そんな必要はないんだからな」
少女の方を見ずに、番長ともエルガーとも呼ばれる男は言った。体中に手当の跡がある少女の右脚には、木板が添えられて包帯が巻かれている。明らかに、骨折の応急処置だ。
「それより、もうランタンの油もほとんどない。自分の怪我は、自分の感覚を駆使して手当てを……」
「ばーんちょー!」
昏く淀んだ空気を払拭するかのように、ランタンの灯りとぱたぱたとした足音、そして大声。
「うるせぇぞハラーツァイ!」
そう言いながらも、ランタンに照らされたエルガーの表情はほどよく緊張が解けたように見えた。
「番長、まだあのバケモン、入口んとこさ引っかかってるよ!」
けれど、やや訛りのある少女、ハラーツァイの報告に一行の顔は苦く染まる。
「……ただのゾンビ如きなら、この槍でしばいちまうのにな」
――そう。
怪我人を抱えた彼らが逃げ込んだ洞窟の前には、1mほどの小さな入り口をくぐれない、3mを超える巨体のゾンビが一瞬も離れることなく立ちふさがる。
それも、両腕をチェーンソーへと改造されたものだ。
それだけではない。
雑魔の数も、例年より急激に増えている。異変に気付いた時には既に雑魔が周りを取り囲んでおり、必死に退路を開いてこの洞窟まで逃げてきたのだ。
食料は尽きかけている。水は洞窟の壁を伝う雨垂れを利用しているが、雨が止めばすぐに困るだろう。
洞窟の入り口が1か所しかないことは、確認している。
そして、怪我をした少女と高熱を出した少年。
彼らの命は、風前の灯であった。
リプレイ本文
「ふぅ……今回の仕事は面倒くさいなんて言ってられねえなあ」
ヒースクリフ(ka1686)がそう呟くほど、今回の件は急を要していた。
「消息不明になってから結構時間が過ぎてるね……遭難するような場所でも無いみたいだし……怪我で動けないのかも……」
時間をかけられないことに焦りを感じながら、星垂(ka1344)がそう口にする。
「……これ……ないよりはましだから……渡してあげて」
さらに姫凪 紫苑(ka0797)が、袋に入ったナッツを星垂に手渡す。
その間に神代 廼鴉(ka2504)は、演習の内容をイルリヒト職員に尋ねていた。
実戦を体験するための授業の一環であり、4人から5人のチームを作って事前に調査された雑魔の発生源で雑魔退治を行って、種類や数を記録する。戦果よりも重視されるのは実戦経験自体で、撤退の判断は生徒達に任される。
「だいたいでもいいから現地の地図かなにかあるなら、それも貸してもらえないか」
廼鴉の言葉に応えて職員は、携えてきた地図を渡した。山中の道などは書いておらず、山の形と周辺の地形が分かる程度のものだ。
「そーいやさ、この山ってどっか野営に適した場所ない? 雨風凌げる洞窟みたいなさ」
エルネスタ・バックハウス(ka0899)が尋ねると、職員はすみませんと眉を寄せる。
「あまり詳細な情報は私も持っていないのです。安全性の確認は教官が行いましたが、生徒達には知らない土地での行動を実地で学んでもらうために、詳細な情報は教官のみが知ることになっています」
「なるほど。ないなら仕方ないね」
エルネスタが呟いたところで、扉が開く。現れたのは医薬品や治療道具を集めてきたクレア グリフィス(ka2636)だ。
「どういう状況でも、助けになる様にしておかないとね」
化膿止めや熱さましの薬草、それに清潔な三角巾や包帯、消毒液などを準備し、クレアはこれで大丈夫かと頷く。
「ん……時間、あまりない……急ぐ」
「そうね、さっさと生徒を見つけてケリを付けたいわ」
紫苑の言葉にクレアが、そして全員が頷いて。
一同は転移門をくぐり、雨の中足早にドゥンケルベルクへと向かったのだった。
ドゥンケルベルクに一番近い転移門から現地まで、情報収集と医薬品の追加を試みたクレアは、最初の町ですぐにそれを切り上げた。人が入らず雑魔が発生する山ゆえに、イルリヒト職員から聞いた話以上の情報は出なかったし、最初に集めてあったものが一番質が良い。
それ以降はまっすぐに向かった、ドゥンケルベルクのふもとにて。
魔導短伝話が繋がるかどうか試す前に、数匹の雑魔が人の気配に振り返り、襲い掛かろうと足を速める。
「……邪魔、どいて」
素早く覚醒して地を蹴った紫苑が、雑魔の首筋に刃を滑らせる。
「悪いけど、相手してる暇ないんでね」
さらにエルネスタが銃撃を重ねる。エストックと軽いシェルバックラーを構えた星垂が、小柄な体躯を生かし雑魔の懐に飛び込んでは一撃、二撃を与え、すぐに離脱を繰り返して敵を翻弄する。
「戦いの基本は斬る、撃つ、策だぜ!」
そう声を上げながらヒースクリフが魔導ドリルの出力を最大にし、その超高威力で次々に止めを刺していく。
雨音が強まる中、廼鴉は銀色のリボルバーの引き金を引きながら、魔導短伝話を耳に当てた。魔法の威力を上げるワンドを手に、クレアが会話を聞き漏らすまいと耳を傾ける。
「……駄目だ、ここでは繋がらないみたいだ」
廼鴉が繋がらぬ伝話に顔をしかめる。魔導短伝話の精度は絶対ではなく、周囲のマテリアルの状態などに影響を受ける。
そしてその頃には数匹の雑魔を倒し終えてはいた――が、すぐにまた草が揺れ、足音が聞こえる。
――足を止めて戦っても、キリがない。
「移動しよう」
すぐにエルネスタが言って、山の斜面へと足を進める。星垂が倒れた草の具合を見て、続く一同を誘導する。
ろくに道もなき山を登りながら、戦いを最小限に、戦うとしてもかける時間を最小限に、ハンター達は雑魔をやり過ごしていく。
雑魔の気配がない場所では、魔導短伝話を使い連絡を試みる。
「もしもーし、イルリヒト御一行様はいらっしゃいますかー・……うーん、繋がらないね」
エルネスタが溜息を吐いたところで、がさりと草が動く。ハンター達がすぐさま戦闘態勢を取る。
飛び出してきたのは、十数匹の雑魔。
これまで出会った群れよりも、数が多い。
「……切り抜けよう」
紫苑が呟くように言って、前方に回った雑魔を狙って駆け抜けスクアーロナイフを振るう。やや遅れて続いたヒースクリフが、魔導ドリルを大きく振り回して道を開けるように雑魔達を追い払う。
大きく唸る音を上げて回転するドリルに怯んで避けなくとも、当たればかなりの傷を与えて弱らせられる。避けてくれれば道ができる。
星垂も盾やエストックを上手く使い、目を狙った一撃で雑魔の無力化を狙う。突き通す剣であるだけに、斬撃を与える剣よりも狙いを定めるのは難しいが――偶然の力も借り見事目を貫いた一撃に、雑魔は不快な悲鳴を上げ転がり回って敵の戦力から脱落する。
そしてエルネスタや廼鴉、クレアは、後ろに回った雑魔の追撃を緩めるべく、足を狙って弾丸や機導砲を撃ち込む。エルネスタと廼鴉はリロードのタイミングをずらして弾幕を繰り広げる。2人が撃ち損じた敵は、クレアが機導砲を使い動きを阻害する。
「行くぜ!」
戦力を削いだところで、ヒースクリフが大きく魔導ドリルを振り抜いて突破口を作る。星垂が飛び出してきた雑魔を盾で弾きながら、急いで、と呼びかける。
一気に駆け抜け、さらに後ろに銃弾や機導砲を撃ち込んで敵の動きを邪魔し、何とか追撃を振り切り――魔導短伝話を使って再び、連絡を試みる。
しばしの沈黙の後――声が、聞こえた!
「こちらエルガー一等兵。緊急の救助を願う……」
「こちらはイルリヒトからの依頼を請けたハンター、救助に来た」
そう応えた廼鴉の周りで、安堵の声が上がる。
「ハンターの方か、ありがたい。こちら自力で動けない怪我人2名、戦闘可能者2名、計4名全員生存……こらハラーツァイうるせぇぞ!」
受話器の話し口を覆うような音と共に、遠くなったエルガーの声が後ろの少女の声をどやしつける。
「だってだって助けのハンターさん来たんだべ! やったー!」
「踊るな! 体力温存してろ!」
そのやり取りが廼鴉だけではなく他のハンター達にまで聞こえて、思わず笑いが零れる。
2人のやり取りと4人全員生存の報。それが、彼らの気持ちを明るくしていた。
「……と、失礼した」
「いやいや。そちらの現在地は?」
笑いを含んだ声から一転、真剣な声で廼鴉は問う。
「ドゥンケルベルクの南西中腹にある洞窟に避難している。しかし怪我人の状況、そして入口を巨大な死体型フェレライが塞いでいることで、身動きが取れない」
「死体型フェレライ?」
「改造を受けているらしく、両腕がチェーンソーになっている。こちらに入って来ることはできないが、こちらからも手出しをできる状態ではない」
ただならぬ状況を聞き、一同の間に緊張が走る。
「他に、歪虚は見かけているかな?」
「いや、他は雑魔のみだ。ただ、数が多い……ハンターの皆さんの現在地は?」
「西側から山に入って、真っ直ぐ登って中腹辺り。たぶん、距離は近いんじゃないかな?」
「南西ってことは……この位置から南はこっちだね」
エルネスタが方位磁針を確認し、方角を示す。こくりと紫苑が頷き、星垂と共に前に出る。
「今から向かうよ……」
「大丈夫、すぐに着くから待っててね♪」
早速進行方向に現れた雑魔を星垂が盾で弾き飛ばしながら、クレアが横から噛み付いてきた雑魔を振り払い己を癒しながら伝話の向こうまで届けと声を上げる。ヒースクリフの振るうドリルの回転音が、紫苑が喉を裂いた雑魔の断末魔が、その背景に力強く響く。
「……ありがとうございます。どうか、よろしくお願いする」
「ありがとなー! 待ってる!」
エルガーの落ち着いた、けれど歓喜を隠せぬ声と、ハラーツァイと呼ばれた少女の大きな声が、魔導短伝話からハンター達の耳へと響いた。
「こっちに向かって枝が折れてる……たぶん、この道を通って行ったと思うよ」
南に向かって山を横に突っ切り、星垂が折れた木々の跡から生徒達が逃げた方向を推測して方角を補正する。さらに時折廼鴉が魔導短伝話でエルガーへと通信を入れる。
(どうでもいい事でも、定期的に通信してくと少しでも不安を解消できるか?)
その思いから発した、廼鴉の心遣いであった。
そして――ついに木々の間から、岩壁に張り付く巨体が目に入る。
す、とエルネスタが猟銃を構え、マテリアルを込めてその力を高める。
伸ばしたのは、威力ではなく――射程。
「グーテンターク、ライナヒーム野郎」
銃声と共に、巨大な頭部を撃ち抜かれたフェレライの身体が大きく揺れた。
ライナヒーム――死体。まさに動く死体そのものの身体がゆっくりと振り返り、肘から先の代わりに取り付けられたチェーンソーがジィィと不気味な音を立てる。
けれどその時には、紫苑が既に飛び出していた。
「……先手必勝……?」
マテリアルを身体に巡らせ動きをも洗練させて一気にフェレライに迫る。巨体の懐に飛び込み、チェーンソーが振り下ろされる前に刃で脇腹を抉る。
「まずは先に生徒達に合流して来るわね」
「ありがとう、行くね!」
ようやく覗いた洞窟の入り口に向かって、クレアと星垂が走る。距離を詰める間に星垂がLEDライトを抜き、すぐさま洞窟の中を照らした。
「あっ、ハンターの人! こっち、こっちだよ!」
ほぼ同時に洞窟の奥から飛び出してきたのは、伝話の向こうにいたのと同じ声の、ハラーツァイと呼ばれていた少女。
「お待たせ、救援に来たわ♪」
「おー! ありがとうな!」
ハラーツァイに先導され、クレアと星垂は洞窟の奥に向かう。奥にいる身体の大きな青年が立ち上がり、深く一礼する。
「エルガー一等兵、このたびのハンターの方々の救援に感謝の意を表する」
それに続いてハラーツァイがぴょこんと、さらに足を延ばして座っていた少女が敬礼をした。
「ハラーツァイ二等兵、同じくっ! ほんとにありがとなっ!」
「ベルタ二等兵、同じく感謝の意を表明します。ありがとうございます……」
そして、エルガーの足元には、言葉を発することもなく横たわる少年。僅かに、胸が上下しているのだけが見て取れる。
「待たせて御免ね……とりあえず此れを食べて脱出に備えて……」
持ってきた食料を、星垂とクレアが急いで取り出す。すまない、とエルガーが再び頭を下げている間に、ハラーツァイがすぐに配分していく。
「怪我人の状況は?」
「俺とハラーツァイは戦闘も可能。ベルタは右脚を骨折しており、自力移動不可能。そして」
横たわった少年の顔を覗き込み、不安げにエルガーが顔を歪める。
「こちらのアルセニーが、傷が化膿して熱を出している。さっきまでは、意識はあったのだが……」
「わかったわ。協力お願い」
クレアが取り出した医薬品を手に、即座に動ける者達は応急手当に取りかかった。
「銃はチェーンソーより強し。ンン~ッ、名言だね、これ」
にやりと笑いながらエルネスタが、何度目かの銃撃をフェレライの膝下へと当てる。振り向いたところに死角から走り込んだ紫苑が、敵の脚の腱を斬り裂くようにナイフを振るい、そのまますぐに飛びすざる。
機導砲を撃ちながら少しずつ距離を詰めたヒースクリフが、魔導ドリルの出力を一気に上げて飛びかかる。
深い集中から、廼鴉がファイアアローを解き放った。既に半ば炭と化したフェレライの膝は、けれどまだ止まろうとはしない。
「ほらほら、どーしたよ。自慢のチェーンソーが錆び付いてるよ?」
それでも、動き自体はかなり鈍ってきている。挑発めかして再びエルネスタが銃声を響かせ、チェーンソーを振り下ろされた紫苑が避けに徹してひらりとかわす。
「要救助者の確保が済むまでは、退けねーよな」
ヒースクリフが魔導ドリルで後ろから敵の膝を抉るのを視界に納め、さらに追撃をと再び廼鴉が集中に入った――その時。
「さて、此処からの逃避行にしようか」
洞窟の入り口から、星垂とクレア、そして生徒達が姿を現す。
自分達で大丈夫だと言うエルガーとハラーツァイに怪我人を背負ってもらい、星垂とクレアは防衛戦に加わる構えだ。
それを確かめ、すっと紫苑が敵の正面に出た。
「……足止めするから……救助者は任せる、ね」
「おう、付き合うぜ」
ヒースクリフが、さらに魔導ドリルを鳴らしてフェレライの前に出る。その間に生徒達を守るよう囲み、足早に斜面を下りていく。
――がさり、と草が動き、雑魔が飛び出してくる。雑魔の出ない道を選びたい所だったが、相手の動きが予測できぬ以上それは難しい。
「それじゃあ、そろそろ歪虚には退場してもらいましょうね♪」
力を温存していたクレアが、アルケミストデバイスから一条の輝きを解き放つ。懐に入られればすぐ抜けるよう、ショートソードの柄に手をかけて。
絶対に怪我人には近寄らせないと、ハンター達は雑魔の群れに決意を込めて立ち向かった。
雑魔を倒し仲間達の姿が見えなくなったことを確かめ、紫苑はほっと息を吐く。
回避に徹することでなるべく傷を受けないよう気を付けてはいたが、そろそろ限界が近づいていた。隣で戦うヒースクリフとは違い、傷を癒す手段を彼女は持って来ていない。
けれど、その瞳がはっと見開かれる。フェレライの後ろから姿を現したのは――十体近くの、雑魔。
焦りをにじませた彼女に対して、冷静にヒースクリフが口を開く。
「こっちだ。ちょっとばかり、仕掛けをしておいたぜ」
「……わかった」
ヒースクリフの示す方向に、紫苑は共に走り出す。当然、フェレライと雑魔は2人を追う。
下草の繁る地帯を迂回し、歪虚達がそこに差し掛かったところで――ぐい、とヒースクリフは落ちていたロープを引いた。
あらかじめ結んでおいたロープが、ぴんと張りフェレライの脚を引っ掛ける――!
地響きを立てて転ぶフェレライ。さらに結んだ草に、雑魔が……意外と引っかからなかった。
たらり、と落ちる冷や汗。迫る雑魔。
「策が失敗した時は……逃げるんだよぉぉぉぉぉ!」
「ん。……逃げるが勝ち」
結局2人は脱兎のごとく逃げ出した。
ハンター達の尽力で、怪我人2人にはほとんど傷を負わせることはなかった。
ただ――アルセニーの容体悪化は著しく、予断を許さない状況だ。
けれど、まだ命があるうちに、4人とも救い出すことができた。この難しい状況でそれを実現できたのは、ひとえにハンター達が力を尽くしたためであった。
再び丁寧に礼を言って転移門をくぐるイルリヒト生徒達の背に、ハンター達は無事を祈るのだった――。
ヒースクリフ(ka1686)がそう呟くほど、今回の件は急を要していた。
「消息不明になってから結構時間が過ぎてるね……遭難するような場所でも無いみたいだし……怪我で動けないのかも……」
時間をかけられないことに焦りを感じながら、星垂(ka1344)がそう口にする。
「……これ……ないよりはましだから……渡してあげて」
さらに姫凪 紫苑(ka0797)が、袋に入ったナッツを星垂に手渡す。
その間に神代 廼鴉(ka2504)は、演習の内容をイルリヒト職員に尋ねていた。
実戦を体験するための授業の一環であり、4人から5人のチームを作って事前に調査された雑魔の発生源で雑魔退治を行って、種類や数を記録する。戦果よりも重視されるのは実戦経験自体で、撤退の判断は生徒達に任される。
「だいたいでもいいから現地の地図かなにかあるなら、それも貸してもらえないか」
廼鴉の言葉に応えて職員は、携えてきた地図を渡した。山中の道などは書いておらず、山の形と周辺の地形が分かる程度のものだ。
「そーいやさ、この山ってどっか野営に適した場所ない? 雨風凌げる洞窟みたいなさ」
エルネスタ・バックハウス(ka0899)が尋ねると、職員はすみませんと眉を寄せる。
「あまり詳細な情報は私も持っていないのです。安全性の確認は教官が行いましたが、生徒達には知らない土地での行動を実地で学んでもらうために、詳細な情報は教官のみが知ることになっています」
「なるほど。ないなら仕方ないね」
エルネスタが呟いたところで、扉が開く。現れたのは医薬品や治療道具を集めてきたクレア グリフィス(ka2636)だ。
「どういう状況でも、助けになる様にしておかないとね」
化膿止めや熱さましの薬草、それに清潔な三角巾や包帯、消毒液などを準備し、クレアはこれで大丈夫かと頷く。
「ん……時間、あまりない……急ぐ」
「そうね、さっさと生徒を見つけてケリを付けたいわ」
紫苑の言葉にクレアが、そして全員が頷いて。
一同は転移門をくぐり、雨の中足早にドゥンケルベルクへと向かったのだった。
ドゥンケルベルクに一番近い転移門から現地まで、情報収集と医薬品の追加を試みたクレアは、最初の町ですぐにそれを切り上げた。人が入らず雑魔が発生する山ゆえに、イルリヒト職員から聞いた話以上の情報は出なかったし、最初に集めてあったものが一番質が良い。
それ以降はまっすぐに向かった、ドゥンケルベルクのふもとにて。
魔導短伝話が繋がるかどうか試す前に、数匹の雑魔が人の気配に振り返り、襲い掛かろうと足を速める。
「……邪魔、どいて」
素早く覚醒して地を蹴った紫苑が、雑魔の首筋に刃を滑らせる。
「悪いけど、相手してる暇ないんでね」
さらにエルネスタが銃撃を重ねる。エストックと軽いシェルバックラーを構えた星垂が、小柄な体躯を生かし雑魔の懐に飛び込んでは一撃、二撃を与え、すぐに離脱を繰り返して敵を翻弄する。
「戦いの基本は斬る、撃つ、策だぜ!」
そう声を上げながらヒースクリフが魔導ドリルの出力を最大にし、その超高威力で次々に止めを刺していく。
雨音が強まる中、廼鴉は銀色のリボルバーの引き金を引きながら、魔導短伝話を耳に当てた。魔法の威力を上げるワンドを手に、クレアが会話を聞き漏らすまいと耳を傾ける。
「……駄目だ、ここでは繋がらないみたいだ」
廼鴉が繋がらぬ伝話に顔をしかめる。魔導短伝話の精度は絶対ではなく、周囲のマテリアルの状態などに影響を受ける。
そしてその頃には数匹の雑魔を倒し終えてはいた――が、すぐにまた草が揺れ、足音が聞こえる。
――足を止めて戦っても、キリがない。
「移動しよう」
すぐにエルネスタが言って、山の斜面へと足を進める。星垂が倒れた草の具合を見て、続く一同を誘導する。
ろくに道もなき山を登りながら、戦いを最小限に、戦うとしてもかける時間を最小限に、ハンター達は雑魔をやり過ごしていく。
雑魔の気配がない場所では、魔導短伝話を使い連絡を試みる。
「もしもーし、イルリヒト御一行様はいらっしゃいますかー・……うーん、繋がらないね」
エルネスタが溜息を吐いたところで、がさりと草が動く。ハンター達がすぐさま戦闘態勢を取る。
飛び出してきたのは、十数匹の雑魔。
これまで出会った群れよりも、数が多い。
「……切り抜けよう」
紫苑が呟くように言って、前方に回った雑魔を狙って駆け抜けスクアーロナイフを振るう。やや遅れて続いたヒースクリフが、魔導ドリルを大きく振り回して道を開けるように雑魔達を追い払う。
大きく唸る音を上げて回転するドリルに怯んで避けなくとも、当たればかなりの傷を与えて弱らせられる。避けてくれれば道ができる。
星垂も盾やエストックを上手く使い、目を狙った一撃で雑魔の無力化を狙う。突き通す剣であるだけに、斬撃を与える剣よりも狙いを定めるのは難しいが――偶然の力も借り見事目を貫いた一撃に、雑魔は不快な悲鳴を上げ転がり回って敵の戦力から脱落する。
そしてエルネスタや廼鴉、クレアは、後ろに回った雑魔の追撃を緩めるべく、足を狙って弾丸や機導砲を撃ち込む。エルネスタと廼鴉はリロードのタイミングをずらして弾幕を繰り広げる。2人が撃ち損じた敵は、クレアが機導砲を使い動きを阻害する。
「行くぜ!」
戦力を削いだところで、ヒースクリフが大きく魔導ドリルを振り抜いて突破口を作る。星垂が飛び出してきた雑魔を盾で弾きながら、急いで、と呼びかける。
一気に駆け抜け、さらに後ろに銃弾や機導砲を撃ち込んで敵の動きを邪魔し、何とか追撃を振り切り――魔導短伝話を使って再び、連絡を試みる。
しばしの沈黙の後――声が、聞こえた!
「こちらエルガー一等兵。緊急の救助を願う……」
「こちらはイルリヒトからの依頼を請けたハンター、救助に来た」
そう応えた廼鴉の周りで、安堵の声が上がる。
「ハンターの方か、ありがたい。こちら自力で動けない怪我人2名、戦闘可能者2名、計4名全員生存……こらハラーツァイうるせぇぞ!」
受話器の話し口を覆うような音と共に、遠くなったエルガーの声が後ろの少女の声をどやしつける。
「だってだって助けのハンターさん来たんだべ! やったー!」
「踊るな! 体力温存してろ!」
そのやり取りが廼鴉だけではなく他のハンター達にまで聞こえて、思わず笑いが零れる。
2人のやり取りと4人全員生存の報。それが、彼らの気持ちを明るくしていた。
「……と、失礼した」
「いやいや。そちらの現在地は?」
笑いを含んだ声から一転、真剣な声で廼鴉は問う。
「ドゥンケルベルクの南西中腹にある洞窟に避難している。しかし怪我人の状況、そして入口を巨大な死体型フェレライが塞いでいることで、身動きが取れない」
「死体型フェレライ?」
「改造を受けているらしく、両腕がチェーンソーになっている。こちらに入って来ることはできないが、こちらからも手出しをできる状態ではない」
ただならぬ状況を聞き、一同の間に緊張が走る。
「他に、歪虚は見かけているかな?」
「いや、他は雑魔のみだ。ただ、数が多い……ハンターの皆さんの現在地は?」
「西側から山に入って、真っ直ぐ登って中腹辺り。たぶん、距離は近いんじゃないかな?」
「南西ってことは……この位置から南はこっちだね」
エルネスタが方位磁針を確認し、方角を示す。こくりと紫苑が頷き、星垂と共に前に出る。
「今から向かうよ……」
「大丈夫、すぐに着くから待っててね♪」
早速進行方向に現れた雑魔を星垂が盾で弾き飛ばしながら、クレアが横から噛み付いてきた雑魔を振り払い己を癒しながら伝話の向こうまで届けと声を上げる。ヒースクリフの振るうドリルの回転音が、紫苑が喉を裂いた雑魔の断末魔が、その背景に力強く響く。
「……ありがとうございます。どうか、よろしくお願いする」
「ありがとなー! 待ってる!」
エルガーの落ち着いた、けれど歓喜を隠せぬ声と、ハラーツァイと呼ばれた少女の大きな声が、魔導短伝話からハンター達の耳へと響いた。
「こっちに向かって枝が折れてる……たぶん、この道を通って行ったと思うよ」
南に向かって山を横に突っ切り、星垂が折れた木々の跡から生徒達が逃げた方向を推測して方角を補正する。さらに時折廼鴉が魔導短伝話でエルガーへと通信を入れる。
(どうでもいい事でも、定期的に通信してくと少しでも不安を解消できるか?)
その思いから発した、廼鴉の心遣いであった。
そして――ついに木々の間から、岩壁に張り付く巨体が目に入る。
す、とエルネスタが猟銃を構え、マテリアルを込めてその力を高める。
伸ばしたのは、威力ではなく――射程。
「グーテンターク、ライナヒーム野郎」
銃声と共に、巨大な頭部を撃ち抜かれたフェレライの身体が大きく揺れた。
ライナヒーム――死体。まさに動く死体そのものの身体がゆっくりと振り返り、肘から先の代わりに取り付けられたチェーンソーがジィィと不気味な音を立てる。
けれどその時には、紫苑が既に飛び出していた。
「……先手必勝……?」
マテリアルを身体に巡らせ動きをも洗練させて一気にフェレライに迫る。巨体の懐に飛び込み、チェーンソーが振り下ろされる前に刃で脇腹を抉る。
「まずは先に生徒達に合流して来るわね」
「ありがとう、行くね!」
ようやく覗いた洞窟の入り口に向かって、クレアと星垂が走る。距離を詰める間に星垂がLEDライトを抜き、すぐさま洞窟の中を照らした。
「あっ、ハンターの人! こっち、こっちだよ!」
ほぼ同時に洞窟の奥から飛び出してきたのは、伝話の向こうにいたのと同じ声の、ハラーツァイと呼ばれていた少女。
「お待たせ、救援に来たわ♪」
「おー! ありがとうな!」
ハラーツァイに先導され、クレアと星垂は洞窟の奥に向かう。奥にいる身体の大きな青年が立ち上がり、深く一礼する。
「エルガー一等兵、このたびのハンターの方々の救援に感謝の意を表する」
それに続いてハラーツァイがぴょこんと、さらに足を延ばして座っていた少女が敬礼をした。
「ハラーツァイ二等兵、同じくっ! ほんとにありがとなっ!」
「ベルタ二等兵、同じく感謝の意を表明します。ありがとうございます……」
そして、エルガーの足元には、言葉を発することもなく横たわる少年。僅かに、胸が上下しているのだけが見て取れる。
「待たせて御免ね……とりあえず此れを食べて脱出に備えて……」
持ってきた食料を、星垂とクレアが急いで取り出す。すまない、とエルガーが再び頭を下げている間に、ハラーツァイがすぐに配分していく。
「怪我人の状況は?」
「俺とハラーツァイは戦闘も可能。ベルタは右脚を骨折しており、自力移動不可能。そして」
横たわった少年の顔を覗き込み、不安げにエルガーが顔を歪める。
「こちらのアルセニーが、傷が化膿して熱を出している。さっきまでは、意識はあったのだが……」
「わかったわ。協力お願い」
クレアが取り出した医薬品を手に、即座に動ける者達は応急手当に取りかかった。
「銃はチェーンソーより強し。ンン~ッ、名言だね、これ」
にやりと笑いながらエルネスタが、何度目かの銃撃をフェレライの膝下へと当てる。振り向いたところに死角から走り込んだ紫苑が、敵の脚の腱を斬り裂くようにナイフを振るい、そのまますぐに飛びすざる。
機導砲を撃ちながら少しずつ距離を詰めたヒースクリフが、魔導ドリルの出力を一気に上げて飛びかかる。
深い集中から、廼鴉がファイアアローを解き放った。既に半ば炭と化したフェレライの膝は、けれどまだ止まろうとはしない。
「ほらほら、どーしたよ。自慢のチェーンソーが錆び付いてるよ?」
それでも、動き自体はかなり鈍ってきている。挑発めかして再びエルネスタが銃声を響かせ、チェーンソーを振り下ろされた紫苑が避けに徹してひらりとかわす。
「要救助者の確保が済むまでは、退けねーよな」
ヒースクリフが魔導ドリルで後ろから敵の膝を抉るのを視界に納め、さらに追撃をと再び廼鴉が集中に入った――その時。
「さて、此処からの逃避行にしようか」
洞窟の入り口から、星垂とクレア、そして生徒達が姿を現す。
自分達で大丈夫だと言うエルガーとハラーツァイに怪我人を背負ってもらい、星垂とクレアは防衛戦に加わる構えだ。
それを確かめ、すっと紫苑が敵の正面に出た。
「……足止めするから……救助者は任せる、ね」
「おう、付き合うぜ」
ヒースクリフが、さらに魔導ドリルを鳴らしてフェレライの前に出る。その間に生徒達を守るよう囲み、足早に斜面を下りていく。
――がさり、と草が動き、雑魔が飛び出してくる。雑魔の出ない道を選びたい所だったが、相手の動きが予測できぬ以上それは難しい。
「それじゃあ、そろそろ歪虚には退場してもらいましょうね♪」
力を温存していたクレアが、アルケミストデバイスから一条の輝きを解き放つ。懐に入られればすぐ抜けるよう、ショートソードの柄に手をかけて。
絶対に怪我人には近寄らせないと、ハンター達は雑魔の群れに決意を込めて立ち向かった。
雑魔を倒し仲間達の姿が見えなくなったことを確かめ、紫苑はほっと息を吐く。
回避に徹することでなるべく傷を受けないよう気を付けてはいたが、そろそろ限界が近づいていた。隣で戦うヒースクリフとは違い、傷を癒す手段を彼女は持って来ていない。
けれど、その瞳がはっと見開かれる。フェレライの後ろから姿を現したのは――十体近くの、雑魔。
焦りをにじませた彼女に対して、冷静にヒースクリフが口を開く。
「こっちだ。ちょっとばかり、仕掛けをしておいたぜ」
「……わかった」
ヒースクリフの示す方向に、紫苑は共に走り出す。当然、フェレライと雑魔は2人を追う。
下草の繁る地帯を迂回し、歪虚達がそこに差し掛かったところで――ぐい、とヒースクリフは落ちていたロープを引いた。
あらかじめ結んでおいたロープが、ぴんと張りフェレライの脚を引っ掛ける――!
地響きを立てて転ぶフェレライ。さらに結んだ草に、雑魔が……意外と引っかからなかった。
たらり、と落ちる冷や汗。迫る雑魔。
「策が失敗した時は……逃げるんだよぉぉぉぉぉ!」
「ん。……逃げるが勝ち」
結局2人は脱兎のごとく逃げ出した。
ハンター達の尽力で、怪我人2人にはほとんど傷を負わせることはなかった。
ただ――アルセニーの容体悪化は著しく、予断を許さない状況だ。
けれど、まだ命があるうちに、4人とも救い出すことができた。この難しい状況でそれを実現できたのは、ひとえにハンター達が力を尽くしたためであった。
再び丁寧に礼を言って転移門をくぐるイルリヒト生徒達の背に、ハンター達は無事を祈るのだった――。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 5人 |
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MVP一覧
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神代 廼鴉(ka2504)
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 エルネスタ・バックハウス(ka0899) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/07/22 02:32:37 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/19 21:12:16 |