ゲスト
(ka0000)
氷始めました
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/08/16 22:00
- 完成日
- 2015/08/22 01:35
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
夏の昼下がり。極彩色の町ヴァリオスの気温はうなぎ登りである。昨日も一昨日も一昨昨日も晴れで気温が下がる暇がない。おまけに朝から風が吹かない。陽炎が立ち、道行く人々や行き交う馬車の足元を揺らめかせている。日陰にいても汗が噴き出るが、日なたに行くとそれに加えてめまいがしてくる。
頭に帽子やタオルを被ったり日傘を差したり対策を講じても、暑さはあまり変わらないような気がする。
つい目が三角になってきそうなこの日和において大人気なのは、アイスクリームやアイスキャンデー、シャーベットにソフトクリーム、ムース、ババロアといった、口とお腹を冷たくしてくれるもの。
リアルブルー渡りのかき氷も大人気だ。たとえ買って食べるのでなくても、氷が削れて行く様は、見ているだけで涼しくなれる。
というわけでその店の前は、結構な人だかり。
●
「おい、氷が足りねえぞ、早く新しいの持って来い!」
「はい!」
親方に促されたバイトは店の奥に引っ込み、地下の氷室へつながるスロープを降りて行く。
薄暗いそこには、四角く成型された氷がずらり。マテリアル冷房装置を完備しているため、そりゃもう涼しい。外界を席巻している灼熱地獄がまるで嘘のようだ。
「えーと、3つくらいは一度に持って行った方がいいな。客も多いしすぐはけるだろ」
口から白い息を出しながらバイトは、大きなやっとこで氷を挟み、キャリーカートに乗せ、地上に戻る。
額にハチマキをした親方はそれを受け取り、新たにかき氷機へセットした。途端に手元のハンドルが逆回転し、したかかに顎を打ってしまう。
「て、店長!? 大丈夫すか!?」
バイトたちが急いで駆け寄る。店の前にいたお客も何事かと、作業場まで見に来る。
その時かき氷機から氷が飛び出した。表面に四角い穴が3つあく。上に2つ、下に1つ――それだけで顔に見えるのだから、人間の目というのも妙なものだ。
その穴から怒涛のごとく砕氷が吹き出し、事態の推移をぽかんと見ていた客たちを飲み込む。
●
「おい、どうしたんだ!」
かき氷屋の前で倒れている人々を、ハンターたちは助け起こした。皆この暑いのに真っ青な顔をしてぶるぶる震えている。唇は紫色で、今にも凍死せんばかりだ。実際触ってみると体がひどく冷たい。いくら氷を食べたからってこんなふうにはならないだろう。
一体何が。
身構えた彼らはすぐに元凶を発見した。
……氷の塊が通行人を追いかけている。
「キャー!」
「なんだこいつ! こっちに来るな!」
氷から砕氷が吹き出す。通行人にかかる。すると彼らは先に転がっている人々と同じように倒れた。
ハンターたちはだるみ気味の気持ちを引き締め、そちらへ向かう。暑いから働きたくないとは言っていられない。出物腫れ物と歪虚は、所かまわず出没するのである。
「こらそこ、待てっ!」
氷が振り向いた。
目から口からの砕氷クラッシャーがハンターたちを襲う。
次の瞬間彼らは、激しい頭痛に見舞われた。かき氷を急いで食べたときの、あの、キーンという痛みだ。加えて、体感気温が一気に下がる。真夏から真冬にほうり出されたみたいに。
リプレイ本文
ヴァリオスは余す事なく夏模様。所用でこの地を訪れていた来未 結(ka4610)とミューレ(ka4567)の2人は影を伝いながら歩いている。石畳の地面から来る照り返しが目に痛い。
「暑いですねー、ミューレさん」
「そうだねー。確実に30度越えしてそうだ」
ため息をついて結は、一休みを提案する。折よく行く手にカフェが見えたので。
「ミューレさん、あそこでアイスコーヒーでも飲んで行きませんか?」
「……そうだね。そうしようか。喉も随分渇いたから」
揃って方向転換していく彼らに、おおいと声をかける者がいた。岩井崎 旭(ka0234)である。
首にかけたタオルで汗を拭き拭き駆け寄ってきた彼は、開口一番冷やかした。
「デートか?」
正面切って指摘された結は、急に恥ずかしくなってきた。体のうちからなお暑くなって、汗が一層吹き出してくる。
「結、大丈夫? 気分が悪い?」
「だ、大丈夫ですミューレさん。もう、今日は本当に暑くてやになっちゃいますね」
ぎこちない返事をしたそのとき、場にひゅうっと冷風が吹き込んできた。まだ店に入っていないのだから冷房風が当たるわけはない。第一冷房にしては寒すぎる。
旭は不審そうに剥き出しの腕をこする。
「なんだ?」
ミューレも長い耳をぶるっと震わせる。
「身体が凍えそうだ……ゆ、結……大丈夫?」
鳥肌を立てている結に彼は、ぴったり寄り添う。
「えへへ。ミューレさん温かいです……」
カップルのラブラブぶりに閉口しあさってを向く旭。
冷風が吹いてきた方角から、まごうことなき悲鳴が聞こえてきた。
ヴァイス(ka0364)は騒ぎが聞こえる方へ走っていた。砕氷の山が路上のあちこちに出来ており、人が倒れている。熱中症というわけではない。皆顔が紙のように白い。睫や髪も凍りついている。何より体が冷えきっている。こんなに暑い日和なのに。
「一体何が……」
自転車に乗り併走している最上 風(ka0891)が、訝しむ彼に呼びかけた。
「レジスト掛けますよー、掛けますよー?……有料ですがね」
続けて前カゴに入れた書類をかざす。
「キュアを掛ける前に、この契約書にサインをお願いします、あっ拇印でも可ですよ?」
「……片手運転は危険だぞ」
それだけ返し速力を上げるヴァイス。
「あっ、判子でもいいんですよ判子でも!」
負けじと追う風。
路上パフォーマンスをしていた久木 満(ka3968)は通り過ぎて行く彼らに尋ねる。
「よう、そんなに急いでどこへ行くんだー!」
「あ、満さん。いえね、なんでも歪虚が無差別に人を襲ってるそうで――」
聞き捨てならぬ情報を得た彼は、キリッと顔を引き締めた。
「それはヤベェな! よし、急いで駆け付けよう! 行くぞうおぉぉぉぉぉっ!」
全力で走りだす。どういうわけだか逆立ちで。
アスワド・ララ(ka4239)とエルバッハ・リオン(ka2434)は涼を取るためかき氷屋を訪れた。だが店はもぬけの殻。ばかりかこの炎天下軒先にツララ。清涼感を見せるための演出かと一瞬思ったが、すぐ側で真っ白になって倒れている人間がいるので違うらしい。
エルバッハはひとまずその人を助け起こし、尋ねてみた。
「もしもし。何があったんですか?」
相手は歯を鳴らしながら答える。
「こここおおおりりりのののばばばけけけももものののがががでででたたた」
アスワドとエルバッハは顔を見合わせた。
「歪虚が出たようですね」
「そうですね、どうやら」
揃って急ぎ足で店を出る。その際アスワドは「失礼、お借りします」と断り、店頭に並んでいたシロップを手にとった。色は黄色、レモン味。ついでに折り畳み椅子も小わきに抱えて行く。何かの足しになるだろうと。
●
ハンターたちは現場に到着した。
彼らが目にしたのは、我が物顔に町を練り歩き、通行人に向け砕氷クラッシャーを吹き付けて行く氷塊の姿。
旭は叫んだ。
「うおっ! 見た目だけじゃなくって、なんて涼しげなヤツ!」
リオンは首を傾げた。
「氷の歪虚ですか。何を思ってこんな時に出てきたのでしょうか?」
普通ああいう系統の歪虚は寒い時期を狙って出現するものではないのか。間違えているのではないのか。
思いながらアスワドは、ぼそりと呟いた。
「極端すぎるのも、どうかと思いますよね。もっと丁度良い温度で冷風を送ってくれればよいものを」
後方から騒ぎが聞こえてくる。
「うわー! こっちにも歪虚出たー!」
「気持ち悪いっ!」
返り見れば満が群集を追いかけていた。奇声を発しながら。
「こほПさ〇さ△じぇ□!!」
一応歪虚と逆方向に散らしているので、避難誘導にはなっているようだ。
結はと言えば、ミューレにレジストを施している。
「ミューレさん……気をつけて」
「ありがとう。結と一緒だとどこまでも熱くなれるよ」
ミューレが結の頬に唇を近づけた。
「……? あ……。も……もぉ、ひ……人前は恥ずかしいです……」
「これからしばらく離れて行動だ。結には結の、僕には僕の役割がある。たとえ離れても、結から貰った温もりがあれば凍える事は無い。敵が凍えさせてくるなら、こっちはそれを跳ね返すほど熱くなる!」
混乱のただ中、二人だけの世界が展開されている。
リオンは傾けていた首を真っ直ぐ戻し、思考を切り替えた。
「今はそんなことより住民の避難と歪虚退治ですね」
アスワドは早速歪虚へケンカを売りに行く。
「かき氷シロップの相棒はいないのか? 哀れな歪虚め。砕かれてかき氷になるがいい。運命からは逃れられんぞ!」
挑発する手にはシロップ、もう片方の手にはクラッシャー避けの盾として折りたたみ椅子をかざしている。
歪虚はアスワドにあなぽこがある面を向けた。そこに旭も進み出る。レイピアを手に後方へ呼びかけながら。
「俺たちが気を引いとくから、その間に避難者誘導頼むぜ!」
風が自他へレジストをかけるかかけないかのうちに、攻撃が始まった。砕氷の波が吹き出した。
「突撃上等! 俺が凍っても無駄にはならん!」
アスワドが盾にした椅子はたちまち霜だらけ。髪や睫も凍りつく。旭も風も直撃は避けたが、影響を完全に免れるわけには行かなかった。身震いひとつ程度の寒い思いをする。
「こちとら今年の夏はかき氷早食いまでしたんだ、今更頭痛のちょっとやそっとで!」
砕氷クラッシャーは攻撃力が大きいが、連続攻撃が難しいらしい。次の発射まで間が空く。
その隙をついて旭は、レイピアで突きかかる。手ごたえは予想していたよりはるかに弱いものだった。ごく簡単に削れてしまう。
「どうした、このままかき氷になっちまうぜ!」
縦横に滑る剣先。それを見ていた風はあっと声を上げ、悔しげに叫ぶ。
「くっ! 風とした事が、みかんを持って来るのを忘れました! あの攻撃で冷凍みかんを作る計画が!」
●
ヴァイスは眉をひそめる。
「この頭痛、これが人が倒れた原因か!」
後方に位置し、レジストをかけられた上でこれだ。なら普通の人間にとっては耐え難いダメージであるはず。早く助けないと。
「一般人は任せてくれ!」
囮班に向けて出した声が自分の頭に響き、思わずこめかみを押さえるヴァイス。同じく救護を担当する結に小声で告げる。
「……く、この頭痛に引っ張られて思考が鈍っている、普段通りに動けると思わず注意してくれよ。直撃を食らわないよう俺の後ろについて来てくれ」
「はい」
双方歪虚の視界に入らないよう後方から近づき、倒れている人間を片端から抱き抱え、確保していく。
「もう大丈夫だ、少し揺れるが確り捕まっていろ!」
ヴァイスが体中についている霜を払いのけ、結が治癒を施す。
「寝たら駄目です、死にますよ!」
戦馬も有効活用し救助者を運ぶ。直接外気の当たらない手近な屋内へ――騒ぎを聞き付けた町の自警団が手伝いに来てくれたので、その点はスムーズにいった。
自分の足で動ける人々についてはミューレとエルバッハ、満が担当した。アースウォールで防護壁をこしらえ、なるたけ攻撃を防げる用に努めつつ、右往左往している人々を誘導する。
ほとんどの人は素直に動いてくれた。問題は頭痛によって平常心を失っている人だ。泣いたりするのはまだいい。困るのは、痛みに耐えかね八つ当たりを起こす人だ。
「いてえ! くそ、いてえ!」
「ここは危ないですから、安全な場所まで逃げてください」
「うるせー! 触んじゃねえよ! 触るな!」
そういう相手は手の付けようがないので、エルバッハは、スリープクラウドで随時眠らせ担いで行くことにした。本来はゆっくり説得するのがいいのだろうが、歪虚が間近にいる以上時間が惜しい。
「さむいー、さむいいー。おかーさーん」
「おとーさーん」
混乱のため親とはぐれてしまった子供もいる。あの程度の歪虚ならまず死亡者が出ることなどあるまいが、幼子にとっては心配なことだろう。
その点考慮した満は、笑いの神様になってやろうと試みた。
「おい、そこのちびっこたち泣くんじゃない!」
彼は両手を地面から離し、頭だけで体を支え、回る。
「どうだ! 必殺人間ゴ――ぐお!」
ぐきと言う音を立て、人間ゴマは倒れた。首を変な方向に曲げて。
子供たちは泣き止んだ。芸が面白かったからではないのは、その表情から明白にうかがい知れる。
側に佇んでいたミューレは、冷気とは別の寒い空気を感じた。
(……俗に言う『スベる』ってこれか……)
とにかく避難誘導は無事に終了した。歪虚の攻撃によって重傷を負った人々も、回収出来た。残るのは歪虚の始末だけだ。
●
歪虚はその身を削られ、二回りほど縮んでしまっていた。表面には旭が刻んだ格子縞がくっきりついている。砕氷クラッシャーの勢いは変わらないが、吐き出してから次の攻撃までの時間が長くなっている。
その合間を縫ってアスワドは、正面から歪虚に向かい、カットラスを振り下ろした。
カットラスはやすやす氷に食い込んだ。が、二等分するまでには至らない。ずっと歪虚に対峙していたせいで指先がかじかみ、力が入りにくくなっているのだ。彼にとってそれは不愉快なことである。
「くそ、後で霜焼けになりそうじゃん、これ……」
周囲には吐き出された砕氷が消えずに堆積したまま。日はさんさんと降り注いでいるのに、少しも溶けない。周囲の温度は下がりっぱなしだ。
「あー涼しいですねー、何かこのまま冬まで冬眠しても良い気になってきました」
のんきなことを言いながら風は、アースウォールの後ろで手をこすり合わせる。回復担当の彼女としては、正面切って歪虚と争うつもりはない。
「もうそろそろ、救助誘導の皆さんが戻ってくる頃合いですかねえ……」
その台詞に呼ばれるように、満が戻ってきた。
逆立ち走りする姿は、全身白いオーラに包まれている――汗と蒸れによる蒸気である。
「クックックッ……これで心置きなく食事ができる……!!!」
彼は背後から歪虚に襲いかり、噛み付き、齧る。がりごりぼりぼりと。
「……これが……これがかき氷か!!」
直後表現しがたい叫びを上げ倒れる。
「◆◇E》Jg→bf“◎◆!!??」
旭が呟いた。
「歪虚を口に入れるとか……無茶過ぎんだろ……」
リオンがウィンドスラッシュをかけ、歪虚の横幅を一気に削ぎ取った。
「立てない厚さにしてあげますよ!」
続いて背面からヴァイスが、ルクス・ソリスで挑む。
「たあっ!」
旭が先に入れてあった切れ目どおりに、ぱくんと氷が割れた。止めにミューリがライトニングボルトで衝撃を与え、ひびが入った部分を剥離させる。
もはや残るのは顔の部分だけというくらいに縮められてしまった歪虚。
であるが焦りはなさそうだった。表情も変えず(変えられないのかもしれないが)、今度は目からもクラッシャーを噴出させる。
「ま……まだ暴れるんですか?」
結は嘆息し、ぐっと拳を握った。寒気も頭痛も冷気もなんのその、表情を変えずにすたすたと歪虚に歩みより、びしっと指を突き付ける。
「繋がり合った心と心……手を繋げばどんな氷河も越えられる……っ。隣の人を慈しみ、思いやる心……! 人はそれを『愛』と言います……!」
熱く語ってから七支刀をがすんと突き刺す。
「てやあ!」
そしてセイクリッドフラッシュを発動する。
「……せーばいっ!」
歪虚は氷の塵となり美しく散った。
キラキラ光る破片を見つめてミューレが言う。
「恨みはないけど、迷惑だから……もしも君が冬に出て来たら恐るべき存在になっていたかもしれないね」
歪虚本体が消失したので、それによって引き起こされていた現象も消失する。霜は解け、体感温度も戻ってくる。
暑くなれば、またぞろ冷たさが恋しくなってくる。
風は再び滲んできた汗を拭い、倒れたままの満を踏み越え、戻ってきたかき氷屋の店主に愛想よく話しかける。
「いやーお店が無事で良かったですねー、風達も頑張った甲斐があります……それにしても猛暑ですねー戦闘したので、暑いですねー。何か冷たいモノとか食したいですねー」
何げなくさりげなく断固として強力なおねだり。
地面に伸びていた満が、ようやく起き上がる。
「……む……朝か……」
●
営業再開したかき氷屋は満員御礼。ハンターたちはカウンター席へ一列に並ぶ。
リオンは氷を食べるペースが速すぎたのか、顔をしかめている。
「一気に食べると頭にきますね」
旭もまたしかめ面だ。元々早食いな彼は、かき氷と相性が悪い。だが皆が食べているなら食べたくなるのが人情というもの。
「くそう、いったい何度この痛みを味わえば!」
ヴァイスはこめかみにキンキン来る感触を楽しむ。これも夏の風物詩と受け止めて。
風は……。
「おかわり下さいー、後、お持ち帰りの準備もお願いしますねー?」
ほかの人間の倍も平らげながら平然としている。大食漢は、体の作りがどこか違うらしい。同じことをした満は頭を抱え全身でスイングしているというのに。
ミューレと結は隣同士に座り、食べさせ愛をしている。
「はい、結、僕のレモン味のかき氷あげる。あーんして」
「えへへ……ミューレさんっわたしの苺味をどうぞっ。あーん、です」
暑かろうが寒かろうがやっていることに変化はない。安定のバカップルだ。
「それにしても、あいつはいったい何がしたくて出て来たんだろうね。もちろん放っておいたら大変なことになっていたけど……歪虚っていうのはまだまだ分からない事が多いね」
「そうですねー。被害さえ及ぼさないなら、ほっといてもいいような感じでしたけど」
「そういえば結、決め台詞格好よかったよー」
「え……? せ……戦闘のことは忘れてくださいっ。あ……あははー。は……恥ずかしい……です」
アスワドはレモン味のかき氷を一口。実にさわやかな味。
「心から夏、万歳。いつもより太陽が輝いてみえますね」
これを楽しめるのも今だけだと、感慨深く思いながら。
「暑いですねー、ミューレさん」
「そうだねー。確実に30度越えしてそうだ」
ため息をついて結は、一休みを提案する。折よく行く手にカフェが見えたので。
「ミューレさん、あそこでアイスコーヒーでも飲んで行きませんか?」
「……そうだね。そうしようか。喉も随分渇いたから」
揃って方向転換していく彼らに、おおいと声をかける者がいた。岩井崎 旭(ka0234)である。
首にかけたタオルで汗を拭き拭き駆け寄ってきた彼は、開口一番冷やかした。
「デートか?」
正面切って指摘された結は、急に恥ずかしくなってきた。体のうちからなお暑くなって、汗が一層吹き出してくる。
「結、大丈夫? 気分が悪い?」
「だ、大丈夫ですミューレさん。もう、今日は本当に暑くてやになっちゃいますね」
ぎこちない返事をしたそのとき、場にひゅうっと冷風が吹き込んできた。まだ店に入っていないのだから冷房風が当たるわけはない。第一冷房にしては寒すぎる。
旭は不審そうに剥き出しの腕をこする。
「なんだ?」
ミューレも長い耳をぶるっと震わせる。
「身体が凍えそうだ……ゆ、結……大丈夫?」
鳥肌を立てている結に彼は、ぴったり寄り添う。
「えへへ。ミューレさん温かいです……」
カップルのラブラブぶりに閉口しあさってを向く旭。
冷風が吹いてきた方角から、まごうことなき悲鳴が聞こえてきた。
ヴァイス(ka0364)は騒ぎが聞こえる方へ走っていた。砕氷の山が路上のあちこちに出来ており、人が倒れている。熱中症というわけではない。皆顔が紙のように白い。睫や髪も凍りついている。何より体が冷えきっている。こんなに暑い日和なのに。
「一体何が……」
自転車に乗り併走している最上 風(ka0891)が、訝しむ彼に呼びかけた。
「レジスト掛けますよー、掛けますよー?……有料ですがね」
続けて前カゴに入れた書類をかざす。
「キュアを掛ける前に、この契約書にサインをお願いします、あっ拇印でも可ですよ?」
「……片手運転は危険だぞ」
それだけ返し速力を上げるヴァイス。
「あっ、判子でもいいんですよ判子でも!」
負けじと追う風。
路上パフォーマンスをしていた久木 満(ka3968)は通り過ぎて行く彼らに尋ねる。
「よう、そんなに急いでどこへ行くんだー!」
「あ、満さん。いえね、なんでも歪虚が無差別に人を襲ってるそうで――」
聞き捨てならぬ情報を得た彼は、キリッと顔を引き締めた。
「それはヤベェな! よし、急いで駆け付けよう! 行くぞうおぉぉぉぉぉっ!」
全力で走りだす。どういうわけだか逆立ちで。
アスワド・ララ(ka4239)とエルバッハ・リオン(ka2434)は涼を取るためかき氷屋を訪れた。だが店はもぬけの殻。ばかりかこの炎天下軒先にツララ。清涼感を見せるための演出かと一瞬思ったが、すぐ側で真っ白になって倒れている人間がいるので違うらしい。
エルバッハはひとまずその人を助け起こし、尋ねてみた。
「もしもし。何があったんですか?」
相手は歯を鳴らしながら答える。
「こここおおおりりりのののばばばけけけももものののがががでででたたた」
アスワドとエルバッハは顔を見合わせた。
「歪虚が出たようですね」
「そうですね、どうやら」
揃って急ぎ足で店を出る。その際アスワドは「失礼、お借りします」と断り、店頭に並んでいたシロップを手にとった。色は黄色、レモン味。ついでに折り畳み椅子も小わきに抱えて行く。何かの足しになるだろうと。
●
ハンターたちは現場に到着した。
彼らが目にしたのは、我が物顔に町を練り歩き、通行人に向け砕氷クラッシャーを吹き付けて行く氷塊の姿。
旭は叫んだ。
「うおっ! 見た目だけじゃなくって、なんて涼しげなヤツ!」
リオンは首を傾げた。
「氷の歪虚ですか。何を思ってこんな時に出てきたのでしょうか?」
普通ああいう系統の歪虚は寒い時期を狙って出現するものではないのか。間違えているのではないのか。
思いながらアスワドは、ぼそりと呟いた。
「極端すぎるのも、どうかと思いますよね。もっと丁度良い温度で冷風を送ってくれればよいものを」
後方から騒ぎが聞こえてくる。
「うわー! こっちにも歪虚出たー!」
「気持ち悪いっ!」
返り見れば満が群集を追いかけていた。奇声を発しながら。
「こほПさ〇さ△じぇ□!!」
一応歪虚と逆方向に散らしているので、避難誘導にはなっているようだ。
結はと言えば、ミューレにレジストを施している。
「ミューレさん……気をつけて」
「ありがとう。結と一緒だとどこまでも熱くなれるよ」
ミューレが結の頬に唇を近づけた。
「……? あ……。も……もぉ、ひ……人前は恥ずかしいです……」
「これからしばらく離れて行動だ。結には結の、僕には僕の役割がある。たとえ離れても、結から貰った温もりがあれば凍える事は無い。敵が凍えさせてくるなら、こっちはそれを跳ね返すほど熱くなる!」
混乱のただ中、二人だけの世界が展開されている。
リオンは傾けていた首を真っ直ぐ戻し、思考を切り替えた。
「今はそんなことより住民の避難と歪虚退治ですね」
アスワドは早速歪虚へケンカを売りに行く。
「かき氷シロップの相棒はいないのか? 哀れな歪虚め。砕かれてかき氷になるがいい。運命からは逃れられんぞ!」
挑発する手にはシロップ、もう片方の手にはクラッシャー避けの盾として折りたたみ椅子をかざしている。
歪虚はアスワドにあなぽこがある面を向けた。そこに旭も進み出る。レイピアを手に後方へ呼びかけながら。
「俺たちが気を引いとくから、その間に避難者誘導頼むぜ!」
風が自他へレジストをかけるかかけないかのうちに、攻撃が始まった。砕氷の波が吹き出した。
「突撃上等! 俺が凍っても無駄にはならん!」
アスワドが盾にした椅子はたちまち霜だらけ。髪や睫も凍りつく。旭も風も直撃は避けたが、影響を完全に免れるわけには行かなかった。身震いひとつ程度の寒い思いをする。
「こちとら今年の夏はかき氷早食いまでしたんだ、今更頭痛のちょっとやそっとで!」
砕氷クラッシャーは攻撃力が大きいが、連続攻撃が難しいらしい。次の発射まで間が空く。
その隙をついて旭は、レイピアで突きかかる。手ごたえは予想していたよりはるかに弱いものだった。ごく簡単に削れてしまう。
「どうした、このままかき氷になっちまうぜ!」
縦横に滑る剣先。それを見ていた風はあっと声を上げ、悔しげに叫ぶ。
「くっ! 風とした事が、みかんを持って来るのを忘れました! あの攻撃で冷凍みかんを作る計画が!」
●
ヴァイスは眉をひそめる。
「この頭痛、これが人が倒れた原因か!」
後方に位置し、レジストをかけられた上でこれだ。なら普通の人間にとっては耐え難いダメージであるはず。早く助けないと。
「一般人は任せてくれ!」
囮班に向けて出した声が自分の頭に響き、思わずこめかみを押さえるヴァイス。同じく救護を担当する結に小声で告げる。
「……く、この頭痛に引っ張られて思考が鈍っている、普段通りに動けると思わず注意してくれよ。直撃を食らわないよう俺の後ろについて来てくれ」
「はい」
双方歪虚の視界に入らないよう後方から近づき、倒れている人間を片端から抱き抱え、確保していく。
「もう大丈夫だ、少し揺れるが確り捕まっていろ!」
ヴァイスが体中についている霜を払いのけ、結が治癒を施す。
「寝たら駄目です、死にますよ!」
戦馬も有効活用し救助者を運ぶ。直接外気の当たらない手近な屋内へ――騒ぎを聞き付けた町の自警団が手伝いに来てくれたので、その点はスムーズにいった。
自分の足で動ける人々についてはミューレとエルバッハ、満が担当した。アースウォールで防護壁をこしらえ、なるたけ攻撃を防げる用に努めつつ、右往左往している人々を誘導する。
ほとんどの人は素直に動いてくれた。問題は頭痛によって平常心を失っている人だ。泣いたりするのはまだいい。困るのは、痛みに耐えかね八つ当たりを起こす人だ。
「いてえ! くそ、いてえ!」
「ここは危ないですから、安全な場所まで逃げてください」
「うるせー! 触んじゃねえよ! 触るな!」
そういう相手は手の付けようがないので、エルバッハは、スリープクラウドで随時眠らせ担いで行くことにした。本来はゆっくり説得するのがいいのだろうが、歪虚が間近にいる以上時間が惜しい。
「さむいー、さむいいー。おかーさーん」
「おとーさーん」
混乱のため親とはぐれてしまった子供もいる。あの程度の歪虚ならまず死亡者が出ることなどあるまいが、幼子にとっては心配なことだろう。
その点考慮した満は、笑いの神様になってやろうと試みた。
「おい、そこのちびっこたち泣くんじゃない!」
彼は両手を地面から離し、頭だけで体を支え、回る。
「どうだ! 必殺人間ゴ――ぐお!」
ぐきと言う音を立て、人間ゴマは倒れた。首を変な方向に曲げて。
子供たちは泣き止んだ。芸が面白かったからではないのは、その表情から明白にうかがい知れる。
側に佇んでいたミューレは、冷気とは別の寒い空気を感じた。
(……俗に言う『スベる』ってこれか……)
とにかく避難誘導は無事に終了した。歪虚の攻撃によって重傷を負った人々も、回収出来た。残るのは歪虚の始末だけだ。
●
歪虚はその身を削られ、二回りほど縮んでしまっていた。表面には旭が刻んだ格子縞がくっきりついている。砕氷クラッシャーの勢いは変わらないが、吐き出してから次の攻撃までの時間が長くなっている。
その合間を縫ってアスワドは、正面から歪虚に向かい、カットラスを振り下ろした。
カットラスはやすやす氷に食い込んだ。が、二等分するまでには至らない。ずっと歪虚に対峙していたせいで指先がかじかみ、力が入りにくくなっているのだ。彼にとってそれは不愉快なことである。
「くそ、後で霜焼けになりそうじゃん、これ……」
周囲には吐き出された砕氷が消えずに堆積したまま。日はさんさんと降り注いでいるのに、少しも溶けない。周囲の温度は下がりっぱなしだ。
「あー涼しいですねー、何かこのまま冬まで冬眠しても良い気になってきました」
のんきなことを言いながら風は、アースウォールの後ろで手をこすり合わせる。回復担当の彼女としては、正面切って歪虚と争うつもりはない。
「もうそろそろ、救助誘導の皆さんが戻ってくる頃合いですかねえ……」
その台詞に呼ばれるように、満が戻ってきた。
逆立ち走りする姿は、全身白いオーラに包まれている――汗と蒸れによる蒸気である。
「クックックッ……これで心置きなく食事ができる……!!!」
彼は背後から歪虚に襲いかり、噛み付き、齧る。がりごりぼりぼりと。
「……これが……これがかき氷か!!」
直後表現しがたい叫びを上げ倒れる。
「◆◇E》Jg→bf“◎◆!!??」
旭が呟いた。
「歪虚を口に入れるとか……無茶過ぎんだろ……」
リオンがウィンドスラッシュをかけ、歪虚の横幅を一気に削ぎ取った。
「立てない厚さにしてあげますよ!」
続いて背面からヴァイスが、ルクス・ソリスで挑む。
「たあっ!」
旭が先に入れてあった切れ目どおりに、ぱくんと氷が割れた。止めにミューリがライトニングボルトで衝撃を与え、ひびが入った部分を剥離させる。
もはや残るのは顔の部分だけというくらいに縮められてしまった歪虚。
であるが焦りはなさそうだった。表情も変えず(変えられないのかもしれないが)、今度は目からもクラッシャーを噴出させる。
「ま……まだ暴れるんですか?」
結は嘆息し、ぐっと拳を握った。寒気も頭痛も冷気もなんのその、表情を変えずにすたすたと歪虚に歩みより、びしっと指を突き付ける。
「繋がり合った心と心……手を繋げばどんな氷河も越えられる……っ。隣の人を慈しみ、思いやる心……! 人はそれを『愛』と言います……!」
熱く語ってから七支刀をがすんと突き刺す。
「てやあ!」
そしてセイクリッドフラッシュを発動する。
「……せーばいっ!」
歪虚は氷の塵となり美しく散った。
キラキラ光る破片を見つめてミューレが言う。
「恨みはないけど、迷惑だから……もしも君が冬に出て来たら恐るべき存在になっていたかもしれないね」
歪虚本体が消失したので、それによって引き起こされていた現象も消失する。霜は解け、体感温度も戻ってくる。
暑くなれば、またぞろ冷たさが恋しくなってくる。
風は再び滲んできた汗を拭い、倒れたままの満を踏み越え、戻ってきたかき氷屋の店主に愛想よく話しかける。
「いやーお店が無事で良かったですねー、風達も頑張った甲斐があります……それにしても猛暑ですねー戦闘したので、暑いですねー。何か冷たいモノとか食したいですねー」
何げなくさりげなく断固として強力なおねだり。
地面に伸びていた満が、ようやく起き上がる。
「……む……朝か……」
●
営業再開したかき氷屋は満員御礼。ハンターたちはカウンター席へ一列に並ぶ。
リオンは氷を食べるペースが速すぎたのか、顔をしかめている。
「一気に食べると頭にきますね」
旭もまたしかめ面だ。元々早食いな彼は、かき氷と相性が悪い。だが皆が食べているなら食べたくなるのが人情というもの。
「くそう、いったい何度この痛みを味わえば!」
ヴァイスはこめかみにキンキン来る感触を楽しむ。これも夏の風物詩と受け止めて。
風は……。
「おかわり下さいー、後、お持ち帰りの準備もお願いしますねー?」
ほかの人間の倍も平らげながら平然としている。大食漢は、体の作りがどこか違うらしい。同じことをした満は頭を抱え全身でスイングしているというのに。
ミューレと結は隣同士に座り、食べさせ愛をしている。
「はい、結、僕のレモン味のかき氷あげる。あーんして」
「えへへ……ミューレさんっわたしの苺味をどうぞっ。あーん、です」
暑かろうが寒かろうがやっていることに変化はない。安定のバカップルだ。
「それにしても、あいつはいったい何がしたくて出て来たんだろうね。もちろん放っておいたら大変なことになっていたけど……歪虚っていうのはまだまだ分からない事が多いね」
「そうですねー。被害さえ及ぼさないなら、ほっといてもいいような感じでしたけど」
「そういえば結、決め台詞格好よかったよー」
「え……? せ……戦闘のことは忘れてくださいっ。あ……あははー。は……恥ずかしい……です」
アスワドはレモン味のかき氷を一口。実にさわやかな味。
「心から夏、万歳。いつもより太陽が輝いてみえますね」
これを楽しめるのも今だけだと、感慨深く思いながら。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/15 07:00:01 |
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相談卓 アスワド・ララ(ka4239) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/08/16 13:49:09 |