ゲスト
(ka0000)
氷弾
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/14 12:00
- 完成日
- 2015/08/21 02:26
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ゾンネンシュトラール帝国北部、某所――
広大な針葉樹林帯を切り拓いて、か細い車両輸送路が辺境領へと伸びる。
その途上では現在、帝国軍の手によって、
付近で発見された正体不明の巨石の移送作業が進行中だった。
巨石は約2か月前、針葉樹林の只中に突如発生した、小規模なマテリアル汚染の発生源と考えられた。
発生時、周囲は歪虚化したゴブリンの戦士団が徘徊しており、
派遣されたハンターがこれを討伐、ようやく現地調査へとこぎつけたのだが、
「巨石表面に刻み込まれた紋様については、一部資料との照合の結果、
北部辺境領成立以前、当地に生息していたコボルドないしゴブリンの亜人文明遺跡と推測される。
この紋様は今なお魔術的機能を維持しており、
汚染が発見される直前まで、何らかの理由で休眠状態にあったものと思われる。
また、汚染発生時期から推察するに、
辺境での聖地リタ・ティト奪還作戦の前後、帝国軍輸送部隊を襲撃した歪虚戦力との関連が強く疑われる。
しかし、巨石の具体的な機能、その建設目的は一切不明。
より詳細な分析が急がれる上、当地における汚染拡散の懸念もあり、
移動調査班は巨石の解体による一時的機能停止、及び帝都への移送手続きをここに要請する」。
要請は受け入れられた。
巨石はワルプルギス錬魔院移動調査班の監督の下、四片に分割され、
魔導トラックにて帝都へ運ばれる手筈となった。
●
某日深夜、帝国軍の野営地にて。
陣形を組んだ機械化ゾンビ・エルトヌスの部隊が、兵士もろとも天幕を焼く。
彼らが携える長槍の柄には、魔法の火炎を噴き出す機導兵器が装着されていた。
その威力は絶大で、5メートルは離れた敵を、簡単に焼き殺すことができる。
それでもなお、屈強の帝国軍兵士たちは果敢に抵抗を試みる。
ゾンビたちの動きは鈍い。一旦、火炎放射の射程から逃れてしまえば、
「魔導銃のほうが有利だ。怯むな」
下士官の命令で、兵たちが魔導銃の一斉射撃を行う。
弾丸の大半は、敵が掲げた巨大な盾に阻まれてしまうが、
何発かは防御の隙間を縫い、手足に命中して僅かながらも進軍を遅らせる。
「時間を稼げば良い。負傷者を運び出し、最低限の物資と共に車両へ乗せる。撤退だ!」
野営部隊の目的は、巨石輸送の中継ぎだ。歪虚相手に消耗戦を続ける意味はない。
一刻も早く撤退を完了させ、戦闘部隊やハンターに事後を引き継がねば。
「車両準備、まだか!?」
●
突如、きいぃん、という高音が、立膝で銃を構えた兵たちの耳をつんざく。
「何の音っ」
問いかけた下士官の頭部が、弾けて消えた。
驚き振り返った部下たちも、雨あられと降り注ぐ散弾に次々引き裂かれた。
弾丸は、エルトヌス分隊の背後から発射された。
身長2メートル強、白銀の鎧に全身を包んだ『何か』が、
細長い柄を持つ大筒を右手で軽々と差し伸ばし、エルトヌスの肩に固定用の鉤を引っかけ、撃ってみせた。
発射の度、どすん、と重たい砲声が辺りに響く。
連射を生き延びた兵士ふたりが、銃を捨てて逃亡を始めた。
しかし片方が、突然脚を押さえて、その場に転がってしまう。
見れば、散弾を食った小さな銃創から、白い霜のようなものがじわじわと肌に広がっている。
焼けつくような痛みで、とても立ち上がることができない。
それでも手で土を掻き、這い進もうとする兵士を見て、
『頑張るなァ、生肉』
あの高音と共に、白銀の鎧がけたけたと笑い声を上げる。
『でも、こりゃァ駄目だな。怪我をすりゃ痛い、手足は簡単に千切れて戻らない、血を流し過ぎると死んじまう。
脆い、本当に脆いもんだよ。肉って奴は……君も卒業してみるかいッ』
戦乙女の兜を模した、頭部の大きな羽根飾りが声に共鳴して、きぃんと鳴った。
耳障りな高音に耐えつつ聞き入る者があれば、声の主が『女性』であるとも分かったろう。
だが、脚を負傷した兵士はそんなことに思い至る余裕もなく、
『身体はナマでも心はハガネ、それが精鋭無比の帝国軍兵士ってモンだろうええッ!?』
再び放たれた散弾が、兵士をばらばらにして吹き飛ばす。
地面に残された血溜まりは、瞬く間に表面から霜が張って、赤い氷へ変わっていく。
(デュラハン!)
逃げ延びた兵士が、ちょうど動き出す寸前の魔導トラックへ飛び乗った。
荷台には巨石の四分の一が鎮座し、その周囲に数名の負傷兵がしがみついている。
「兵長は!?」
「やられた。ゾンビだけじゃねぇ、デュラハンが指揮してやがる。
逃げるっきゃねぇぞ、さっさと飛ばせ!」
『何処行くんだよォ!?』
デュラハンの放つ散弾が、荷台の巨石をかすめた。砕けた石の欠片が兵士たちに降りかかる。
『……って、いけねェ。アレぶっ壊しちゃいけないんだったネーしょうがないよネー』
デュラハンは言いつつ、大筒の鉤でエルトヌスを面白半分に引っ張り弄ぶ。
その間に、車両1台が野営地を離脱してしまった。走り去る車両を見送り、
『まァ後3つもあンだし、良いっしょ? ねェ。そこオラァ!』
残り3台の車両へ走る兵士を、使っていなかった左手の大筒で撃った。
何人かがまとめて粉々にされ、痛みに呻く負傷者たちへは、エルトヌスの分隊が迫っていく。
火炎放射の轟音と悲鳴、その合間に、
『預かりモンのお腐れ肉、思ったよか使えっけど、鈍いのがホント難だよな。
やっぱひとりで来れば良かった? でもなァ、ゼンゼとランツェが生肉どもにやられたそーだし』
羽根飾りを小刻みに震わせて、独り言を呟くデュラハン。
『……どんなモンかなァ、ちょーっと待ってみっか。うん、ちょーっとだけ……』
兵士全員を殺戮してなお、デュラハンと剣機の一群は野営地に留まり続けた。
巨石の回収を待つ為。そして、ハンターたちを待つ為に。
ゾンネンシュトラール帝国北部、某所――
広大な針葉樹林帯を切り拓いて、か細い車両輸送路が辺境領へと伸びる。
その途上では現在、帝国軍の手によって、
付近で発見された正体不明の巨石の移送作業が進行中だった。
巨石は約2か月前、針葉樹林の只中に突如発生した、小規模なマテリアル汚染の発生源と考えられた。
発生時、周囲は歪虚化したゴブリンの戦士団が徘徊しており、
派遣されたハンターがこれを討伐、ようやく現地調査へとこぎつけたのだが、
「巨石表面に刻み込まれた紋様については、一部資料との照合の結果、
北部辺境領成立以前、当地に生息していたコボルドないしゴブリンの亜人文明遺跡と推測される。
この紋様は今なお魔術的機能を維持しており、
汚染が発見される直前まで、何らかの理由で休眠状態にあったものと思われる。
また、汚染発生時期から推察するに、
辺境での聖地リタ・ティト奪還作戦の前後、帝国軍輸送部隊を襲撃した歪虚戦力との関連が強く疑われる。
しかし、巨石の具体的な機能、その建設目的は一切不明。
より詳細な分析が急がれる上、当地における汚染拡散の懸念もあり、
移動調査班は巨石の解体による一時的機能停止、及び帝都への移送手続きをここに要請する」。
要請は受け入れられた。
巨石はワルプルギス錬魔院移動調査班の監督の下、四片に分割され、
魔導トラックにて帝都へ運ばれる手筈となった。
●
某日深夜、帝国軍の野営地にて。
陣形を組んだ機械化ゾンビ・エルトヌスの部隊が、兵士もろとも天幕を焼く。
彼らが携える長槍の柄には、魔法の火炎を噴き出す機導兵器が装着されていた。
その威力は絶大で、5メートルは離れた敵を、簡単に焼き殺すことができる。
それでもなお、屈強の帝国軍兵士たちは果敢に抵抗を試みる。
ゾンビたちの動きは鈍い。一旦、火炎放射の射程から逃れてしまえば、
「魔導銃のほうが有利だ。怯むな」
下士官の命令で、兵たちが魔導銃の一斉射撃を行う。
弾丸の大半は、敵が掲げた巨大な盾に阻まれてしまうが、
何発かは防御の隙間を縫い、手足に命中して僅かながらも進軍を遅らせる。
「時間を稼げば良い。負傷者を運び出し、最低限の物資と共に車両へ乗せる。撤退だ!」
野営部隊の目的は、巨石輸送の中継ぎだ。歪虚相手に消耗戦を続ける意味はない。
一刻も早く撤退を完了させ、戦闘部隊やハンターに事後を引き継がねば。
「車両準備、まだか!?」
●
突如、きいぃん、という高音が、立膝で銃を構えた兵たちの耳をつんざく。
「何の音っ」
問いかけた下士官の頭部が、弾けて消えた。
驚き振り返った部下たちも、雨あられと降り注ぐ散弾に次々引き裂かれた。
弾丸は、エルトヌス分隊の背後から発射された。
身長2メートル強、白銀の鎧に全身を包んだ『何か』が、
細長い柄を持つ大筒を右手で軽々と差し伸ばし、エルトヌスの肩に固定用の鉤を引っかけ、撃ってみせた。
発射の度、どすん、と重たい砲声が辺りに響く。
連射を生き延びた兵士ふたりが、銃を捨てて逃亡を始めた。
しかし片方が、突然脚を押さえて、その場に転がってしまう。
見れば、散弾を食った小さな銃創から、白い霜のようなものがじわじわと肌に広がっている。
焼けつくような痛みで、とても立ち上がることができない。
それでも手で土を掻き、這い進もうとする兵士を見て、
『頑張るなァ、生肉』
あの高音と共に、白銀の鎧がけたけたと笑い声を上げる。
『でも、こりゃァ駄目だな。怪我をすりゃ痛い、手足は簡単に千切れて戻らない、血を流し過ぎると死んじまう。
脆い、本当に脆いもんだよ。肉って奴は……君も卒業してみるかいッ』
戦乙女の兜を模した、頭部の大きな羽根飾りが声に共鳴して、きぃんと鳴った。
耳障りな高音に耐えつつ聞き入る者があれば、声の主が『女性』であるとも分かったろう。
だが、脚を負傷した兵士はそんなことに思い至る余裕もなく、
『身体はナマでも心はハガネ、それが精鋭無比の帝国軍兵士ってモンだろうええッ!?』
再び放たれた散弾が、兵士をばらばらにして吹き飛ばす。
地面に残された血溜まりは、瞬く間に表面から霜が張って、赤い氷へ変わっていく。
(デュラハン!)
逃げ延びた兵士が、ちょうど動き出す寸前の魔導トラックへ飛び乗った。
荷台には巨石の四分の一が鎮座し、その周囲に数名の負傷兵がしがみついている。
「兵長は!?」
「やられた。ゾンビだけじゃねぇ、デュラハンが指揮してやがる。
逃げるっきゃねぇぞ、さっさと飛ばせ!」
『何処行くんだよォ!?』
デュラハンの放つ散弾が、荷台の巨石をかすめた。砕けた石の欠片が兵士たちに降りかかる。
『……って、いけねェ。アレぶっ壊しちゃいけないんだったネーしょうがないよネー』
デュラハンは言いつつ、大筒の鉤でエルトヌスを面白半分に引っ張り弄ぶ。
その間に、車両1台が野営地を離脱してしまった。走り去る車両を見送り、
『まァ後3つもあンだし、良いっしょ? ねェ。そこオラァ!』
残り3台の車両へ走る兵士を、使っていなかった左手の大筒で撃った。
何人かがまとめて粉々にされ、痛みに呻く負傷者たちへは、エルトヌスの分隊が迫っていく。
火炎放射の轟音と悲鳴、その合間に、
『預かりモンのお腐れ肉、思ったよか使えっけど、鈍いのがホント難だよな。
やっぱひとりで来れば良かった? でもなァ、ゼンゼとランツェが生肉どもにやられたそーだし』
羽根飾りを小刻みに震わせて、独り言を呟くデュラハン。
『……どんなモンかなァ、ちょーっと待ってみっか。うん、ちょーっとだけ……』
兵士全員を殺戮してなお、デュラハンと剣機の一群は野営地に留まり続けた。
巨石の回収を待つ為。そして、ハンターたちを待つ為に。
リプレイ本文
●
「援護します、行って下さい」
シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)のライフルの照準上に乗る、ゾンビ兵・エルトヌス。
いずれの個体も盾で半身をカバーしており、防御は硬い。が、
(その『硬さ』が仇となる)
わざと射線に角度をつけ、弾が盾に当たって跳弾を起こすよう狙った。
目論み通り、弾丸は盾の表面で跳ね飛ぶと、防御を掻い潜って隣の別個体に命中する。
バイポッドを使い、伏射でエルトヌスを狙撃するシルヴィア。
仲間たちの騎馬も突撃を開始した。
敵はエルトヌス20体、扇状に広がり陣を敷く。足下には兵士たちの死体、そして、
『待ち兼ねたぜ、生肉ども!』
耳障りな高音を交えた、デュラハンの高笑い。
白銀のデュラハンは陣の後方に位置したまま、ハンターの接近を待ち受けた。
「まずは剣機だ、脚を使って引っ掻き回す!」
アーサー・ホーガン(ka0471)は戦馬をじくざぐに走らせつつ、ゾンビ兵へ迫っていく。
「引っ掻き回したら、後はやる」
斜め後方から追従する、魔導バイクのクリスティン・ガフ(ka1090)。
ヘッドライトが野営地の惨状を照らし出す。
(石狙いで襲い、運搬待ちで暇だから私たちで遊ぼうというところか?)
巨石を積んだトラック3台は、敵陣から離れた場所に放置されている。
ハンター6人如きに奪われる心配など更々ない、という訳か。
(奴ら、どうやってアレを運ぶつもりだ? ……まぁ良い。
何者だろうと、どのような策を弄しようと、我が斬魔剛剣術を以て闘争し、略奪するだけのこと)
「エルトヌスの動きを止めます」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)は疾駆する馬上で杖を取り、歪虚調伏の法術を準備する。
アーサーたちとは別方向から敵陣へ突入、
引きつけたゾンビを術で抑え、仲間の攻撃機会を作る作戦だった。
(直後、僕も攻撃の法術でデュラハンごと打撃を与え、後退して回復……)
だが誤算がひとつ、
『良い度胸だネッ!』
デュラハンの大筒が、既に先鋒のハンターたちを狙っていた。
エルトヌスの火炎放射を上回る射程を持った大砲の、第1射がユキヤを襲う。
敵中に白い光が閃いたかと思えば、
左手で構えていたユキヤの盾へ、大粒の散弾が霰のように打ちつけた。
(!?)
左腕が消し飛んだかと思うほどの衝撃。辛うじて急所を守ってみせたものの、
(眩暈が……馬の様子もおかしい)
馬の脇腹に、散弾の破片を食った。たちまち横倒しになりそうなところを、手綱を取って持ち直させる。
前方にエルトヌスの一群。近過ぎる、下手に馬を返そうとすれば殺られてしまう。
(術で、止めるしか)
大筒の2発目、
『次は貴様……と見せかけて貴様ッ』
デュラハンは発射直前、片手で握る大筒の先端を横に振った。
散弾はアーサーを掠めつつ、後方のクリスティンへと大部分が飛ぶ。
大剣で弾を受けたアーサーがのけぞると、クリスティンも、
得物のギガースアックスで受け止めた筈が、衝撃に武器を跳ね返され、
危うくバイクから振り落とされそうになるほどに姿勢を崩された。
受け切れなかった弾は防具に食い込み、そこから白い霜が広がり始める。アーサーは、
「冷てっ……こりゃマズイぜ!」
手の甲に鋭い痛みを感じ、手袋についた霜を慌てて払い落とした。
馬は無事だが、ショックで気勢を削がれ、足取りが重くなっている。
(先手を取られちまったか)
距離を空けてユキヤの後ろから敵陣へと迫っていた、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)を3発目が見舞う。
着弾――大半を右手の盾で受け流す。残りは胴鎧が弾いてくれた。
騎馬のゴースロンも駆け足を止めない。更にその後方からは、
(こう、便利な武器と言うものは大抵向こう側が持っているのですねぇ)
ただひとり、徒歩のマッシュ・アクラシス(ka0771)が続く。
デュラハンの砲撃については報告を受けていたが、
(ああいうの、何処かにありませんかね)
予想以上の威力に、突撃はまんまと出鼻を挫かれた。
まずはデュラハンの動きを抑えねば、剣機殲滅は困難と見える。
(ユキヤさんの法術に合わせられれば、私もそちらへ向かったほうが良いでしょうか)
だが、まずはアルトの出番だった。
ユキヤが火炎放射と刺し違える形で、法術・レクイエムを発動。
マッシュもサーベルを振り抜き、マテリアルの衝撃波を撃つ。アルトは敵の動きが鈍った一瞬を見て、
「あの、馬鹿げた武器を止めてくる」
ゴースロンに跨ったまま敵陣へ肉薄しつつ、鐙から足を抜く。
馬の背を踏み、立ち上がってからの跳躍。鮮やかな背面飛びで、敵前衛の頭上を飛び越えた。
そうしてアルトを放り出すと、ゴースロンはゾンビを避け、何処かへ走り去っていった。
「お見事」
マッシュは短く口笛を吹きつつ、腰のサーベルを抜き、ユキヤの救護へと向かう。
●
アルトは着地と同時に地面を転がり、起き上がりざま、大筒2門を手にしたデュラハンと目を合わせる。
砲撃が飛ぶより早く、這うような姿勢から一挙に駆け出して間合いを詰め、切りかかった。
超音波振動の刃がデュラハンの装甲を削る。すかさずの反撃、
アルトが咄嗟に身を屈めると、大筒の柄に生えた固定用の鉤が頭を掠めた。
「噂に聞く、グロル・リッターの一角か?」
『応ッ』
軽々振り回されるデュラハンの大筒を、紙一重で避けていく。砲が使えない近距離を保ちつつも、
ステップを刻んで僅かずつ移動して敵に追わせ、ゾンビから引き離すつもりだった。
デュラハンは両手の大筒を交互に振り下ろすが、リズムは単調。避けられる。
「退屈なら私が遊んでやる、お代は……そうだな、お前が虐殺した兵士たちに合わせて」
反撃の振動刀。回り込みながら、片手打ちで籠手を狙う。
「お前の首で良い」
『そう来なくっちゃなァ』
アルト愛用の改造振動刀は1撃ごと、確実に敵の鎧へ傷をつけていく。
勝てる――かはまだ分からない。
攻撃のわざとらしい単調さからして、敵はまだ『遊んでいる』。
(今はそれで良い。仲間が剣機を減らす時間を稼げれば)
ユキヤの馬が火炎放射を浴びて、ひっくり返る。
直前で鐙から足を外し、馬体に脚を潰されることだけは避けたが、
(撃たれたショックで、身体が痺れてる)
落馬寸前に放った法術の効果で、エルトヌスの約半数が動きを止めた。
だが、機能回復に成功した何体かが、早くも痙攣めいた動きで迫って来る。
ユキヤは後退しようとして、初めて片方の足首を挫いていたことに気づく。足がもつれる。
回復の暇はない、1度の攻撃で仕留め切れるとも思えない、
(それなら)
術の重ねがけ。再度ゾンビを制止すると、すかさずマッシュが割り込んだ。
彼にその場を任せ、撤退を図るユキヤ。しかし騎馬を失い、更には足の負傷。
すぐさま敵の射程から逃れるとは行かず、追撃の火炎放射が背中を捉えた。
マッシュが助走をつけて群れへ突きかかり、注意を逸らしたことで、
ユキヤに届いた炎は短時間で途切れた。それでも彼を襲った激痛は凄まじく、
「畜生、ひとり倒れた!」
突撃を敢行するアーサーの視界の端に、倒れたまま動かないユキヤの姿。
アーサーは敵陣の右手、槍を持つ側から進入し、大剣で何体かを薙ぎ払うと、
「クリスティン!」
「任せろ!」
クリスティンに攻撃を引き継ぎ、自分はユキヤを拾いに行く。
マッシュはユキヤを庇いつつ、敵左翼を抑えている。シルヴィアの銃撃も加わるが、
(見通しが甘かったか)
クリスティンの斧をゾンビの盾が受け止め、威力を殺してしまう。
砲撃によるダメージの影響か、アーサーとの連携のタイミングを乱されたか、
(それ以上に、こいつら騎馬突撃に強い!)
●
アーサーは握っていた剣を一旦背中の留め具に戻すと、
馬を走らせたまま、ぐっと手を伸ばしてユキヤを引っ張り上げた。
ユキヤは気を失っている。命に係わる傷ではないが、意識が戻っても戦闘は困難だろう。
(本人が目を覚ませば、回復魔法も使えるんだろうが……)
狙撃を続けていたシルヴィアの下へ戻ると、ユキヤを預けて再び攻撃に向かう。
最初の突撃ではゾンビ数体をまとめて切りつけてみせたが、完全に破壊することはできなかった。
(大砲に邪魔食っただけじゃねぇな、こりゃ)
敵の武装は、前面数メートルに魔法の火を吹きつける。
どんなに一撃離脱を心がけようと、正面からぶつかれば否応なく反撃されてしまう。
ならばと横合いから切り込んで、防御の弱い槍の持ち手側を攻めてはみたが、
(そうなりゃ敵は、こっちから見て縦並び。ボウリングのピンじゃねぇからな)
1体目は難なく剣で薙ぎ倒せても、2体、3体と切れば勢いが止まる。
(馬が止まれば、こっちゃ馬上で身動きできねぇ)
彼我の移動速度の差も裏目に出た。
機動力で攪乱するつもりが、相手の足が鈍過ぎて上手く引きつけられない。
ゾンビの壁は左右に揺れ動く内にむしろ集合してしまい、長槍持ちの密集陣形と化していた。
(乗騎の速力を活かせずとも、剛剣術なれば!)
クリスティンがゾンビの只中で斧を振るう。低速のバイクに跨ったままでも、
骨盤から脊髄、肩甲骨、両腕から武器へと無駄なく力を伝え、3体を盾ごと叩き潰す。
しかし槍による一拍遅れの反撃が、離脱する間際の彼女に傷を負わせた。
砲撃で歪んだ防具の隙間を貫かれ、
(再度突撃……この深手では無理か!)
(上手く行ってないのか)
『上手いな』
アルトが一瞬、後ろの仲間たちを振り返る。
デュラハンのこれまでの攻撃は、全て躱していた。向き直り、
「折角お前みたいな強そうなのと遊ぶんだ、名前を聞いても良いか?
私の方は、お前が適当に付けてくれて構わないぞ?」
『"暴氷"』
デュラハンの構えが変わった。両手の大筒を高々と掲げ、
『ビュクセ。よろしく、"高級肉"』
けたたましい金属音と共に、全身の関節を同時に駆動、回転させる。
1個の竜巻と化したグロル・リッター、"暴氷"のビュクセ。
(ボクの技、何処まで通用するかな)
アルトは息を呑みつつも、果敢に飛び込んでいく。
●
クリスティンの離脱を助けようと、アーサーが仕掛ける。
シルヴィアも同じ攻撃目標へ射撃を集中させ援護、ふたりの攻撃でゾンビ2体を撃破するが、
引き換えにアーサーも敵の迎撃を受け反転、戻って来る。
傍目にも馬の息が上がっており、騎手もかなり負傷しているようだった。
砲撃が途絶えてなおの苦戦。継戦可能な前衛は、今やアルトとマッシュのみ。
そしてゾンビ兵は横陣に戻りつつ、遅いながらも着実に戦線を押し上げてきている。
(……)
シルヴィアは銃を抱えたまま、おもむろに立射へ切り替える。
ビュクセの乱舞攻撃の只中、アルトは2本の大筒の打撃を受け流し、躱し続けた。
怯えて退けば散弾の餌食になる。打撃の範囲内に留まり続けるしかないが、
敵の人間離れした動きと臂力の前に、盾による防御の上からも、徐々に体力を削られていく。
(押し切られる訳には!)
変幻自在の軌道で襲い来る大筒。
振り下ろしを左手の刀で受けた瞬間、手首を返し、相手の攻撃を外すと同時に脇腹へ切りつける。
勢いもそのままに、片脚を軸に1回転すると、再び脇腹を叩く――
フェイント。腕を捻って強引に軌道を変え、大筒でアルトを叩き潰そうとする敵の左腕を迎え撃った。
振動刀が火花を散らし、籠手に食い込む。刹那、
(蹴り!?)
右の回し蹴り。仰け反って避けたところを、大筒の銃身に殴られた。
衝撃で何メートルか転がされ、起き上がることもできない。
『生肉にしちゃ頑張ったほうだが、ここまで……ン?』
ビュクセが左の大筒を捨て、アルトを掴み上げようとしたとき。
鎧の左腕が、ひとりでに折れ曲がる。
見れば、振動刀に切り裂かれた籠手が、アルトを持ち上げた負荷で今にも千切れそうになっていた。
『……ははッ』
アルトの身体を遠くへ投げ出すと共に、壊れた左腕も、肘から先を一緒に飛ばしてしまう。
『遊びのお代と、こいつはオマケだ!』
「撤退、するしかなさそうですねぇ」
マッシュの剣が放つ衝撃波が、エルトヌスの行進を押し止める。
シルヴィアも弾倉1本分を連射、制圧射撃で敵接近を遅らせた。
負傷者を後ろにして、彼女はその場を動けない。
「術は使えるか、おい!?」
アーサーが呼びかけると、ようやく意識の戻ったユキヤが、震える手で回復の法術を試みる。
「私がアルト殿を拾って、逃げる。それしかなさそうだな」
クリスティンが言うが、鎧の隙間から漏れ出すほどの出血がある。
まずは傷を塞がねば、バイクを駆ることも難しい。
苦境の最中、畳みかけるように砲音が響く。
ゾンビ数体が砕け散ったかと思えば、武器や鎧の破片を交えて、散弾がマッシュに降り注いだ。
遂にマッシュも倒れると、辺りにきぃぃん、と高音が鳴り渡る。ビュクセが笑っている。
5人が戦闘不能に陥り、最早無事なのはシルヴィアひとり。
「行かせませんよ、あなた方の敵は私です」
シルヴィアがライフルを構え、僅かに前へ出る。
ユキヤを抱えたアーサーと、クリスティンは、負傷した身体に鞭打って乗騎に跨った。
シルヴィアは至近距離から弾丸をばら撒くが、残り全てのゾンビを止められはしない。
(仲間を盾に生き延びてきた、その代償――? を)
炎が彼女の魔獣装甲を包むと、少し遅れて、全身に刺すような痛みを感じる。だが、退かない。
(払う)
突如、背後に瞬き出した光を振り返る間もなく、シルヴィアの痛みが和らいでいく。
ユキヤの治癒の法術、続いて、
「今の内に……残りの人を!」
レクイエムが数秒間ゾンビを停止させ、他3人が一斉に駆け出す。
シルヴィアは、ゾンビの足下に倒れていたマッシュの下へ。
抱き起すと、火炎放射を掻い潜り、待機させていた戦馬まで共に逃げる。
騎馬のアーサーはユキヤを後ろに乗せ、彼らを先導した。
クリスティンは大筒の射程を避け、大回りにバイクを走らせた。
岩に叩きつけられ、ぐったりとしたままのアルトの傍に、乗騎・ゴースロンが寄り添っている。
バイクを下り、急いでアルトを巨馬の背に乗せると、
「主人を助けに戻ったか。良い子だ……一緒に逃げるぞ」
馬の首を軽く叩いてから、手綱を取る。背後では、鎧の立てる重々しい足音。
バイクに戻り、ゴースロンの綱を引きながら走り出すと、
『その女に免じて、勝負は預けてやる! 精々長生きするんだなァ!』
嘲笑うように、大筒が空に向けて撃ち放たれる。
立て続けに3度、白い閃光が野営地を照らし出した。
●
撤退するハンターの頭上遥かを、有翼の怪物の影が飛び去っていく。
「リンドヴルム。石を空輸するつもりでしょうか」
マッシュを乗せて馬を走らせていたシルヴィアが、夜空を見上げて呟く。
歪虚の手に渡った亜人遺跡。
今回の敗北が意味するものは、果たして――
「援護します、行って下さい」
シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)のライフルの照準上に乗る、ゾンビ兵・エルトヌス。
いずれの個体も盾で半身をカバーしており、防御は硬い。が、
(その『硬さ』が仇となる)
わざと射線に角度をつけ、弾が盾に当たって跳弾を起こすよう狙った。
目論み通り、弾丸は盾の表面で跳ね飛ぶと、防御を掻い潜って隣の別個体に命中する。
バイポッドを使い、伏射でエルトヌスを狙撃するシルヴィア。
仲間たちの騎馬も突撃を開始した。
敵はエルトヌス20体、扇状に広がり陣を敷く。足下には兵士たちの死体、そして、
『待ち兼ねたぜ、生肉ども!』
耳障りな高音を交えた、デュラハンの高笑い。
白銀のデュラハンは陣の後方に位置したまま、ハンターの接近を待ち受けた。
「まずは剣機だ、脚を使って引っ掻き回す!」
アーサー・ホーガン(ka0471)は戦馬をじくざぐに走らせつつ、ゾンビ兵へ迫っていく。
「引っ掻き回したら、後はやる」
斜め後方から追従する、魔導バイクのクリスティン・ガフ(ka1090)。
ヘッドライトが野営地の惨状を照らし出す。
(石狙いで襲い、運搬待ちで暇だから私たちで遊ぼうというところか?)
巨石を積んだトラック3台は、敵陣から離れた場所に放置されている。
ハンター6人如きに奪われる心配など更々ない、という訳か。
(奴ら、どうやってアレを運ぶつもりだ? ……まぁ良い。
何者だろうと、どのような策を弄しようと、我が斬魔剛剣術を以て闘争し、略奪するだけのこと)
「エルトヌスの動きを止めます」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)は疾駆する馬上で杖を取り、歪虚調伏の法術を準備する。
アーサーたちとは別方向から敵陣へ突入、
引きつけたゾンビを術で抑え、仲間の攻撃機会を作る作戦だった。
(直後、僕も攻撃の法術でデュラハンごと打撃を与え、後退して回復……)
だが誤算がひとつ、
『良い度胸だネッ!』
デュラハンの大筒が、既に先鋒のハンターたちを狙っていた。
エルトヌスの火炎放射を上回る射程を持った大砲の、第1射がユキヤを襲う。
敵中に白い光が閃いたかと思えば、
左手で構えていたユキヤの盾へ、大粒の散弾が霰のように打ちつけた。
(!?)
左腕が消し飛んだかと思うほどの衝撃。辛うじて急所を守ってみせたものの、
(眩暈が……馬の様子もおかしい)
馬の脇腹に、散弾の破片を食った。たちまち横倒しになりそうなところを、手綱を取って持ち直させる。
前方にエルトヌスの一群。近過ぎる、下手に馬を返そうとすれば殺られてしまう。
(術で、止めるしか)
大筒の2発目、
『次は貴様……と見せかけて貴様ッ』
デュラハンは発射直前、片手で握る大筒の先端を横に振った。
散弾はアーサーを掠めつつ、後方のクリスティンへと大部分が飛ぶ。
大剣で弾を受けたアーサーがのけぞると、クリスティンも、
得物のギガースアックスで受け止めた筈が、衝撃に武器を跳ね返され、
危うくバイクから振り落とされそうになるほどに姿勢を崩された。
受け切れなかった弾は防具に食い込み、そこから白い霜が広がり始める。アーサーは、
「冷てっ……こりゃマズイぜ!」
手の甲に鋭い痛みを感じ、手袋についた霜を慌てて払い落とした。
馬は無事だが、ショックで気勢を削がれ、足取りが重くなっている。
(先手を取られちまったか)
距離を空けてユキヤの後ろから敵陣へと迫っていた、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)を3発目が見舞う。
着弾――大半を右手の盾で受け流す。残りは胴鎧が弾いてくれた。
騎馬のゴースロンも駆け足を止めない。更にその後方からは、
(こう、便利な武器と言うものは大抵向こう側が持っているのですねぇ)
ただひとり、徒歩のマッシュ・アクラシス(ka0771)が続く。
デュラハンの砲撃については報告を受けていたが、
(ああいうの、何処かにありませんかね)
予想以上の威力に、突撃はまんまと出鼻を挫かれた。
まずはデュラハンの動きを抑えねば、剣機殲滅は困難と見える。
(ユキヤさんの法術に合わせられれば、私もそちらへ向かったほうが良いでしょうか)
だが、まずはアルトの出番だった。
ユキヤが火炎放射と刺し違える形で、法術・レクイエムを発動。
マッシュもサーベルを振り抜き、マテリアルの衝撃波を撃つ。アルトは敵の動きが鈍った一瞬を見て、
「あの、馬鹿げた武器を止めてくる」
ゴースロンに跨ったまま敵陣へ肉薄しつつ、鐙から足を抜く。
馬の背を踏み、立ち上がってからの跳躍。鮮やかな背面飛びで、敵前衛の頭上を飛び越えた。
そうしてアルトを放り出すと、ゴースロンはゾンビを避け、何処かへ走り去っていった。
「お見事」
マッシュは短く口笛を吹きつつ、腰のサーベルを抜き、ユキヤの救護へと向かう。
●
アルトは着地と同時に地面を転がり、起き上がりざま、大筒2門を手にしたデュラハンと目を合わせる。
砲撃が飛ぶより早く、這うような姿勢から一挙に駆け出して間合いを詰め、切りかかった。
超音波振動の刃がデュラハンの装甲を削る。すかさずの反撃、
アルトが咄嗟に身を屈めると、大筒の柄に生えた固定用の鉤が頭を掠めた。
「噂に聞く、グロル・リッターの一角か?」
『応ッ』
軽々振り回されるデュラハンの大筒を、紙一重で避けていく。砲が使えない近距離を保ちつつも、
ステップを刻んで僅かずつ移動して敵に追わせ、ゾンビから引き離すつもりだった。
デュラハンは両手の大筒を交互に振り下ろすが、リズムは単調。避けられる。
「退屈なら私が遊んでやる、お代は……そうだな、お前が虐殺した兵士たちに合わせて」
反撃の振動刀。回り込みながら、片手打ちで籠手を狙う。
「お前の首で良い」
『そう来なくっちゃなァ』
アルト愛用の改造振動刀は1撃ごと、確実に敵の鎧へ傷をつけていく。
勝てる――かはまだ分からない。
攻撃のわざとらしい単調さからして、敵はまだ『遊んでいる』。
(今はそれで良い。仲間が剣機を減らす時間を稼げれば)
ユキヤの馬が火炎放射を浴びて、ひっくり返る。
直前で鐙から足を外し、馬体に脚を潰されることだけは避けたが、
(撃たれたショックで、身体が痺れてる)
落馬寸前に放った法術の効果で、エルトヌスの約半数が動きを止めた。
だが、機能回復に成功した何体かが、早くも痙攣めいた動きで迫って来る。
ユキヤは後退しようとして、初めて片方の足首を挫いていたことに気づく。足がもつれる。
回復の暇はない、1度の攻撃で仕留め切れるとも思えない、
(それなら)
術の重ねがけ。再度ゾンビを制止すると、すかさずマッシュが割り込んだ。
彼にその場を任せ、撤退を図るユキヤ。しかし騎馬を失い、更には足の負傷。
すぐさま敵の射程から逃れるとは行かず、追撃の火炎放射が背中を捉えた。
マッシュが助走をつけて群れへ突きかかり、注意を逸らしたことで、
ユキヤに届いた炎は短時間で途切れた。それでも彼を襲った激痛は凄まじく、
「畜生、ひとり倒れた!」
突撃を敢行するアーサーの視界の端に、倒れたまま動かないユキヤの姿。
アーサーは敵陣の右手、槍を持つ側から進入し、大剣で何体かを薙ぎ払うと、
「クリスティン!」
「任せろ!」
クリスティンに攻撃を引き継ぎ、自分はユキヤを拾いに行く。
マッシュはユキヤを庇いつつ、敵左翼を抑えている。シルヴィアの銃撃も加わるが、
(見通しが甘かったか)
クリスティンの斧をゾンビの盾が受け止め、威力を殺してしまう。
砲撃によるダメージの影響か、アーサーとの連携のタイミングを乱されたか、
(それ以上に、こいつら騎馬突撃に強い!)
●
アーサーは握っていた剣を一旦背中の留め具に戻すと、
馬を走らせたまま、ぐっと手を伸ばしてユキヤを引っ張り上げた。
ユキヤは気を失っている。命に係わる傷ではないが、意識が戻っても戦闘は困難だろう。
(本人が目を覚ませば、回復魔法も使えるんだろうが……)
狙撃を続けていたシルヴィアの下へ戻ると、ユキヤを預けて再び攻撃に向かう。
最初の突撃ではゾンビ数体をまとめて切りつけてみせたが、完全に破壊することはできなかった。
(大砲に邪魔食っただけじゃねぇな、こりゃ)
敵の武装は、前面数メートルに魔法の火を吹きつける。
どんなに一撃離脱を心がけようと、正面からぶつかれば否応なく反撃されてしまう。
ならばと横合いから切り込んで、防御の弱い槍の持ち手側を攻めてはみたが、
(そうなりゃ敵は、こっちから見て縦並び。ボウリングのピンじゃねぇからな)
1体目は難なく剣で薙ぎ倒せても、2体、3体と切れば勢いが止まる。
(馬が止まれば、こっちゃ馬上で身動きできねぇ)
彼我の移動速度の差も裏目に出た。
機動力で攪乱するつもりが、相手の足が鈍過ぎて上手く引きつけられない。
ゾンビの壁は左右に揺れ動く内にむしろ集合してしまい、長槍持ちの密集陣形と化していた。
(乗騎の速力を活かせずとも、剛剣術なれば!)
クリスティンがゾンビの只中で斧を振るう。低速のバイクに跨ったままでも、
骨盤から脊髄、肩甲骨、両腕から武器へと無駄なく力を伝え、3体を盾ごと叩き潰す。
しかし槍による一拍遅れの反撃が、離脱する間際の彼女に傷を負わせた。
砲撃で歪んだ防具の隙間を貫かれ、
(再度突撃……この深手では無理か!)
(上手く行ってないのか)
『上手いな』
アルトが一瞬、後ろの仲間たちを振り返る。
デュラハンのこれまでの攻撃は、全て躱していた。向き直り、
「折角お前みたいな強そうなのと遊ぶんだ、名前を聞いても良いか?
私の方は、お前が適当に付けてくれて構わないぞ?」
『"暴氷"』
デュラハンの構えが変わった。両手の大筒を高々と掲げ、
『ビュクセ。よろしく、"高級肉"』
けたたましい金属音と共に、全身の関節を同時に駆動、回転させる。
1個の竜巻と化したグロル・リッター、"暴氷"のビュクセ。
(ボクの技、何処まで通用するかな)
アルトは息を呑みつつも、果敢に飛び込んでいく。
●
クリスティンの離脱を助けようと、アーサーが仕掛ける。
シルヴィアも同じ攻撃目標へ射撃を集中させ援護、ふたりの攻撃でゾンビ2体を撃破するが、
引き換えにアーサーも敵の迎撃を受け反転、戻って来る。
傍目にも馬の息が上がっており、騎手もかなり負傷しているようだった。
砲撃が途絶えてなおの苦戦。継戦可能な前衛は、今やアルトとマッシュのみ。
そしてゾンビ兵は横陣に戻りつつ、遅いながらも着実に戦線を押し上げてきている。
(……)
シルヴィアは銃を抱えたまま、おもむろに立射へ切り替える。
ビュクセの乱舞攻撃の只中、アルトは2本の大筒の打撃を受け流し、躱し続けた。
怯えて退けば散弾の餌食になる。打撃の範囲内に留まり続けるしかないが、
敵の人間離れした動きと臂力の前に、盾による防御の上からも、徐々に体力を削られていく。
(押し切られる訳には!)
変幻自在の軌道で襲い来る大筒。
振り下ろしを左手の刀で受けた瞬間、手首を返し、相手の攻撃を外すと同時に脇腹へ切りつける。
勢いもそのままに、片脚を軸に1回転すると、再び脇腹を叩く――
フェイント。腕を捻って強引に軌道を変え、大筒でアルトを叩き潰そうとする敵の左腕を迎え撃った。
振動刀が火花を散らし、籠手に食い込む。刹那、
(蹴り!?)
右の回し蹴り。仰け反って避けたところを、大筒の銃身に殴られた。
衝撃で何メートルか転がされ、起き上がることもできない。
『生肉にしちゃ頑張ったほうだが、ここまで……ン?』
ビュクセが左の大筒を捨て、アルトを掴み上げようとしたとき。
鎧の左腕が、ひとりでに折れ曲がる。
見れば、振動刀に切り裂かれた籠手が、アルトを持ち上げた負荷で今にも千切れそうになっていた。
『……ははッ』
アルトの身体を遠くへ投げ出すと共に、壊れた左腕も、肘から先を一緒に飛ばしてしまう。
『遊びのお代と、こいつはオマケだ!』
「撤退、するしかなさそうですねぇ」
マッシュの剣が放つ衝撃波が、エルトヌスの行進を押し止める。
シルヴィアも弾倉1本分を連射、制圧射撃で敵接近を遅らせた。
負傷者を後ろにして、彼女はその場を動けない。
「術は使えるか、おい!?」
アーサーが呼びかけると、ようやく意識の戻ったユキヤが、震える手で回復の法術を試みる。
「私がアルト殿を拾って、逃げる。それしかなさそうだな」
クリスティンが言うが、鎧の隙間から漏れ出すほどの出血がある。
まずは傷を塞がねば、バイクを駆ることも難しい。
苦境の最中、畳みかけるように砲音が響く。
ゾンビ数体が砕け散ったかと思えば、武器や鎧の破片を交えて、散弾がマッシュに降り注いだ。
遂にマッシュも倒れると、辺りにきぃぃん、と高音が鳴り渡る。ビュクセが笑っている。
5人が戦闘不能に陥り、最早無事なのはシルヴィアひとり。
「行かせませんよ、あなた方の敵は私です」
シルヴィアがライフルを構え、僅かに前へ出る。
ユキヤを抱えたアーサーと、クリスティンは、負傷した身体に鞭打って乗騎に跨った。
シルヴィアは至近距離から弾丸をばら撒くが、残り全てのゾンビを止められはしない。
(仲間を盾に生き延びてきた、その代償――? を)
炎が彼女の魔獣装甲を包むと、少し遅れて、全身に刺すような痛みを感じる。だが、退かない。
(払う)
突如、背後に瞬き出した光を振り返る間もなく、シルヴィアの痛みが和らいでいく。
ユキヤの治癒の法術、続いて、
「今の内に……残りの人を!」
レクイエムが数秒間ゾンビを停止させ、他3人が一斉に駆け出す。
シルヴィアは、ゾンビの足下に倒れていたマッシュの下へ。
抱き起すと、火炎放射を掻い潜り、待機させていた戦馬まで共に逃げる。
騎馬のアーサーはユキヤを後ろに乗せ、彼らを先導した。
クリスティンは大筒の射程を避け、大回りにバイクを走らせた。
岩に叩きつけられ、ぐったりとしたままのアルトの傍に、乗騎・ゴースロンが寄り添っている。
バイクを下り、急いでアルトを巨馬の背に乗せると、
「主人を助けに戻ったか。良い子だ……一緒に逃げるぞ」
馬の首を軽く叩いてから、手綱を取る。背後では、鎧の立てる重々しい足音。
バイクに戻り、ゴースロンの綱を引きながら走り出すと、
『その女に免じて、勝負は預けてやる! 精々長生きするんだなァ!』
嘲笑うように、大筒が空に向けて撃ち放たれる。
立て続けに3度、白い閃光が野営地を照らし出した。
●
撤退するハンターの頭上遥かを、有翼の怪物の影が飛び去っていく。
「リンドヴルム。石を空輸するつもりでしょうか」
マッシュを乗せて馬を走らせていたシルヴィアが、夜空を見上げて呟く。
歪虚の手に渡った亜人遺跡。
今回の敗北が意味するものは、果たして――
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 クリスティン・ガフ(ka1090) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/08/14 10:41:32 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/10 14:41:44 |