剣機の森

マスター:西尾厚哉

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/08/16 22:00
完成日
2015/08/25 14:38

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 バルトアンデルスより北の人里離れた場所にイルリヒト第二宿舎がある。
 宿舎のさらに北方にあるのが野外訓練用の森で、生息するのはゴブリン、コボルトであり、新人訓練生が相手にするには適当とされた。
 その森に、今までいないと思われていた剣機の存在が目撃されたのは数週間前。
 報告を行ったのはハンター達である。


「ケヴィン・ヘルト、ヴィリー・クラウゼン……エミ・モリス、ダニロ・フライヤー……ヒューベルト・ベレ」
 ずらりと並んだ訓練生。レイ・グロスハイムは手元の書類をめくりながら名前を呼んだ。
 呼ばれた者が敬礼をして一歩前に進み出る。レイは顔を確認し、
「以上5名、明朝7時出発。解散」
 全員が敬礼をして隊列から離れる。その時、
「女と一緒かよ」
 声がした。
 誰だ、とレイがぎろりと目を向けた時、
「ちょっとあんた」
 少女の声がして、途端に相手は彼女の回し蹴りを喰らって吹っ飛んだ。
「動きが鈍い」
 彼女はプイとそっぽを向いて歩き去った。くすくすと嘲笑が起こり、吹っ飛んだ少年がむっつりと立ち上がる。
 エミ・モリスとヴィリー・クラウゼンか。
 レイは確認だけして目を背ける。その先にトマス・ブレガがいた。
「威勢がいい子だな」
 トマスはくすくすと笑い
「いいことだ。やっぱりイルリヒトに剣機は無理だった、と後ろ指を指されても困るしね」
 彼の言葉にレイは肩を竦める。
 訓練の森に剣機の存在あり。
 そう報告を受けて調査に入ったのはヒューグラー教官率いる20名の訓練生だ。
 いずれも2年未満の訓練生だったが、所詮ゴブリン剣機と思ったのだろう。
 そして確かに剣機はいた。
 しかし、訓練生達は初めて見る敵の姿に怯え、ヒューグラーは適切な指示ができなかった。
 何体いたかも確認できず無様に森から逃げ帰った彼らに、主任教官アーベレは顔を真っ赤にして怒鳴り散らしたという。
「最初からレイに行かせれば良かったんだよ」
 トマスは言うが、主任がそんなチョイスをするわけがない。
 アーベレは2年前に直属の上司となったが扱いづらい2人を疎ましく思うらしく、特にレイには新入生以外の訓練生を担当させなくなっていた。
 しかし今のところ他に動けるのはレイとトマスしかいないのだからやむを得ない。
「それはそうと」
 トマスはレイに言う。
「錬魔の姫様がお待ちだよ」
 分かってる、というようにレイは頷いた。


「名付けてグラオビーネ!」
 錬魔院の才女、クリスタ・ベルクマンは得意げに試作品の魔導銃を掲げてみせる。
 彼女はレイとトマスが訓練生の時期からの知った間柄だ。
 姫様と呼ぶのはトマスの皮肉で、彼女は別に高貴な身分でも何でもない。
 錬魔院の中ではそれなりに「できのいい」一研究員というだけだ。
 レイは銃をひったくり、少し見るなり
「操作法……は説明不要だな。こいつをあと一挺用意しろ」
 ポンと返す。
 レイのこういう態度は昔からだ。慣れっこになっていたクリスタは怒ることなく
「いいけど、誰に持たせるの?」
 と、彼の顔を覗き込む。
「エミ・モリス」
 返事を聞いて、トマスがへー、という顔でレイを見る。レイが特定の訓練生に興味を持つなんて珍しい。それはクリスタも同じだったようだ。
「よほどお眼鏡に適う子なのね。用意するけど、必ず持って帰ってよ? 主任には内緒なんだから」
「ノープロブレム」
 レイは一言そう答えてさっさと部屋をあとにした。
「あいつはまた壊すぞ?」
 閉まったドアを一瞥して、トマスはクリスタを見る。
「壊すほど使ってくれれば最高。実地効果を試せれば私も主任の鼻が明かせて有難いわ」
 クリスタは答え、クックと笑った。


 翌朝、レイは5人の訓練生を連れて森に入る。
 そのすぐ後に、トマス率いる新人訓練生20名が森に。
 お互い無線機で位置を確認しつつ、レイ部隊の動きを邪魔するような雑魚の動きがあればトマス側で阻止する。
 出発前、トマスはエミ・モリスの様子をちらと確認した。
 『グラオビーネ』を持つ彼女は至って冷静で、きちんと試作品を用いつつ任務を遂行しそうに思えた。
 ただ、彼女を鋭い目で見る別の訓練生の様子は少し気にはなっていたが。
 エミに殴られたヴィリー・クラウゼンだ。
(面白い。任務遂行中に仲違いでもぶちかましてレイを窮地に陥れてくれればなお面白いんだが)
 笑みを漏らすトマスの心中を誰も知ることなく森の調査は開始された。
 異変が起こったのは1時間後だ。
 レイ側の動きを確認しつつコボルトを相手にしていたトマスだったが、無線に異様な連絡が入る。
『ブレガ教官っ、救援をっ……』
 救援?
「カルツ! レイの位置は」
 レイ部隊の位置確認をしていた訓練生にトマスは無線を繋ぐ。
「みっ……見失いましたっ……」
 少年の声が震えて届く。
「最後に確認できたのは、2時の方向、100m先ですっ」
「B班、先発! A班、背後を守ってついて来い!」
 トマスは素早く指示を出し、8名の訓練生を連れて先に2時の方向に向かう。
 そして20分後、彼らは草の中に血まみれで倒れる4人の訓練生を見つけた。
「メスナー! ノール! 手当だ! 残りは周囲を見張れ!」
 トマスは一人の顔を覗き込む。まだ意識がある。目を覆っていたゴーグルを外して眉を潜めた。エミ・モリスだ。
「おい、何があった!」
「……教官……オーク……」
 苦しそうに答える声を聞きながら、トマスは彼女の腕を見る。グラオビーネがない。
 意識が遠のいたのか、エミの目が閉じかけた。
「まだ寝るな! 2名足りない! 銃はどうした!」
 訓練生のひとりとレイの姿がない。
「教官!」
 乱暴に揺さぶるのを見て手当の訓練生が思わず声をあげたが構わずトマスは叫ぶ。
「答えろ!」
「ヴィリーを……引き摺っ……追い……ました……銃……弾……出ま……せん……」
「どっちの方角だ!」
 エミは答えなかった。意識を失ったのだ。
「怪我人を運び出す」
「ブレガ教官、グロスハイム教官は……」
 訓練生は言ってしまってから、想像通りの険しい目を向けられて身を縮めた。
 新人ばかりの集団で2人を助けに行けるはずもなかった。


「冗談じゃないわ!」
 出迎えたのはクリスタの怒声。
「持って帰ってって言ったでしょ!」
 救護室に運ばれる訓練生を見送り、トマスは振り返って口元に笑みを浮かべる。
「僕に当たるのはやめてくれないか」
 笑みの奥に潜む強烈な嫌悪を感じ取ってクリスタは口を噤んだ。
「一刻も早く『クソ銃』を回収することを考えようじゃないか。訓練生への口止めもいつまで有効かわからないよ?」
 冷静過ぎるトマスの口調が逆にぞっとする。
「心配するな。ハンターには既に依頼した。報酬は君が出せよ」
「なんで私が。そっちの責任だわ」
 クリスタは言うが、トマスは動じない。
「そう? 僕は全然構わないよ? 錬魔のうざい研究員が一人や二人いなくなっても」
 クリスタはトマスの顔を睨みつけたのだった。

リプレイ本文

「何かちょっと……」
 雑魚対処を引き受けてくれたトマス・ブレガと十数人の訓練生達をちらりと見やってアティニュス(ka4735)が八原 篝(ka3104)に囁く。
 篝はむっつりと頷いた。
「情報は、出し惜しみなしでお願いね」
 警戒するような視線を向ける篝に
「何の出し惜しみを?」
 トマスは笑って答えたのだが、この事態になぜ笑えるの? と思う。
 それでも彼は皆に森の見取り図を見せ、レイ達を見失った場所を示した。
 教官は黒、訓練生達は迷彩の戦闘服。
 雑魚達の様子はいたって普段通り、つまり、殺気まみれ。
 件の銃は当然動作を確認した上での携帯で、少なくとも持って出た段階では正常であったのだろう。
 ただ、レイ達が遭遇した剣機をトマスは見ていない。
 それはエミに面会を求めたルシオ・セレステ(ka0673)とリーリア・バックフィード(ka0873)が確認した。
 エミは意識が混濁しているが、とトマスが案内してくれたが、2人が会った時にはしっかり目を覚ましていた。
 ベッド脇に女性が一人立っている。
「喧嘩なんかしてません……!」
 掠れたエミの声が響いた。
「あの銃、数発撃ったら反応しなくなった。だからヴィリーが調子を見てくれて。その時剣機が彼の背後から……つっ……」
 エミは顔をしかめて身をよじる。
「錬魔院のクリスタ・ベルクマンだ。クソ銃の製作者」
 トマスの声に女性が振り向いた。
「ハンター? やっと来たの。回収、頼むわよ」
 高飛車な物言いはトマスの辛辣な口調に負けず劣らず。
「訓練生は自業自得ね」
「違い……うっ……」
 エミが再び呻く。
「落ち着いて。帰ったらヒールをかけてあげるから」
 ルシオが手を伸ばすと、思いのほか力のあるエミの手がルシオを掴んだ。
「ヴィリーはやな奴だけど、任務は任務よ。あいつ……ヴィリーを……」
「あいつ、というのは剣機ですね?」
 リーリアが尋ねると、エミは頷いた。
「オークよ。オーク剣機……」
 エミはぜいぜいと息を吐いた。
「10数体いたわ……シールドも……他の銃も持って行かれた……」
 それに反応したのはクリスタだ。トマスが肩を竦める。
「確認していなかったのね!」
 クリスタの責め口調にもトマスの表情は変わらない。
「レイ班のことだろ?」
 言い募ろうとしたクリスタとトマスの間にリーリアが割って入る。
「そのお話はあとでお願いします」
 口を引き結ぶクリスタに
「回収は試作品だけで良いのだね?」
 ルシオが念を押すと、クリスタは当たり前よと彼女の顔を見た。
「他の武器は所詮訓練用。消費数だけ分かればいいのよ」
 クリスタは最後の言葉で再びトマスを睨んだのだった。
 この状態ではいろいろと不信感が沸くのは篝とアティニュスだけでもなかっただろう。
 ともあれ、トマスはバジル・フィルビー(ka4977)の申し出で無線機以外に短伝話も携帯し、ルシオで連絡がとれるようにした。
 彼らが無線機を使うのは訓練の一環らしい。連絡手段が途絶えた時の行動を学ぶ。
 その一つが森の木に残す目印。教官を含め、訓練生は班ごとに目印となる色別の小さなピンを携帯している。
 一本なら移動中。二本なら自分若しくは同行者が負傷、三本なら死者が出た。
「四本なら……?」
 櫻井 悠貴(ka0872)が尋ねると、
「後は追うな。諦めろ」
 トマスはそう答えてくすっと笑う。この人の笑みの溢し方はどこか間違っていると思える。
「でも今回は犬がいるから」
 トマスはウィルフォード・リュウェリン(ka1931)の連れた柴犬を見て言う。犬にはレイとヴィリーの匂いを覚えさせた。上のほうではパルムがついてくる。
「大丈夫です」
 リーリアが言う。
「私がいる限り、安全な任務遂行を保障します」
「それは有難いね」
 皮肉ともとれるトマスの口調にリーリアではなく花厳 刹那(ka3984)が微かに口を引き結んだ。

 まずはレイ部隊が発見された場所に向かう。途中、トマス部隊が雑魚を相手にしていた場所を通る。
 薄らと翳るのを見て篝が目をあげた。また天気が崩れそうだ。
 時折殺気めいた空気。雑魚達も気づいている。悠貴が防性と運動強化を付与してくれたのは心強いわ、と篝が思ったのは皆と同じ気持ちだろう。
 その悠貴は
「死角だらけの中を進まなければならないのは些かキツイものですね」
 と呟きながらも
「南東に向かっています。今、入り口から1キロ半ほどかと」
 かなり明確に場所を認識してくれている。
「このあたりで雑魚を相手にした」
 トマスは前方を指差した。
「普段は死体を処理するが、今回はそのままだから覚悟し……」
 言いかけたが、途中で止まった。訓練生達も互いに顔を見合わせる。
「『彼ら』には埋葬の習慣はありませんよね」
 と、リーリア。目の前に死体などひとつもない。
「ええ、でも、行先は明確」
 花巌が答える。調べるまでもなく一方向に向かう草をなぎ倒した無数の跡。
 犬が唸りをあげた。
 パルムが小さく声をあげて、スポンとウィルフォードの懐に飛び込む。
「ルシオさん!」
 トマスがルシオの手にストンと無線機を投げて寄越した。
「2時の方向100m先だ!」
 草むらから次々にゴブリンが現れる。
 彼らにとっては死体を引き摺った奴も、今ここにいる者も全てが敵。
「3タイプ隊形だ!」
 初めて見るトマスの『真っ当な』姿をあとに、ハンター達は2時に方向に素早く身を翻した。


 森を進むのは犬のほうが早い。
 しかし先頭にいた花巌がふいに足を止めた。
「方向が違います」
 見れば犬は南西に。擦り跡らしきものは南東に。
「匂いを覚えさせているからな」
 ウィルフォードが犬を呼び戻す。南西は2時の方向だ。
 その時、ぽつりと小さな粒が落ちて来た。とうとう降って来た。
「全てを引き摺って、なら、やはり南東の方角に行く方が良いかと」
 と、リーリア。
「先は合致するのかも。念のため分かれる? 異状があれば短伝話で」
 バジルの提案に同意し、素早く二手に分かれた。
 アティニュス、ウィルフォード、バジル、篝は南西に。
 リーリア、悠貴、ルシオ、花巌は南東に。
 雨脚が強くなる。雨を含むと地の様子が変わる。あまり時間はない。
 30分後、身を低くして進む南東組は右手にウィルフォードの犬の小さな声を聞く。やはり方向は合致した。その頃には皆の髪の先から雫が落ちるほどに。
「どうでした?」
 リーリアの問いに篝が答える。
「あちこち血痕が。あれでよく訓練生は重傷程度で済んだものだわ」
 笑える状態じゃないわ、トマス、と篝は心の中で思う。
 更に10分後、後方にいた悠貴が木の幹に刺さったY字のピンを見つけた。手を伸ばした彼女はそのまま動きを止める。後頭部に感じる硬い感触。
「ハンター……だな……ヒールを……持っているか……」
 掠れた若い男の声。
「レイさん……ですか?」
 私としたことが気配に気づかないなんて。
 そう思った悠貴だが、リーリアや篝、花巌も気づいていない。
「聖導士がいます。呼びますから銃を下ろしてください」
 野生動物みたいな人なんだわと思いつつ悠貴が答えると、犬がレイに気づいた。何といっても匂いの根源だ。吠え声に流石に全員が気づく。
 悠貴はそっと振り返り、相手を見た。
 血に染まった顔。金色の髪、灰の瞳、黒の戦闘服。
「銃を下ろして! 治療します」
 バジルが走り寄った。しかし、レイの腕は下がることはない。
 目をしば立たせるレイにバジルは眉を潜める。この人、うまく見えていない?
 ウィルフォードのローブが雨粒を散らして翻り、彼は強引にレイの腕を掴んだ。
 その途端レイの体がぐらりと傾ぎ、慌てて伸ばした悠貴の腕の中に倒れ込む。
「出血量が多いんだ……それで目が」
 バジルがヒールを付与しながら呟く。
「貴方のグラオビーネは?」
 花巌の声に荒い息の下でレイは力ない嘲笑を浮かべ
「あの鉄屑は……誰かが……襟巻にしてるぜ……早くヒールを……クラウゼン……を……引き……剥がす」
 ヴィリーのことか。引き剥がすとは?
「傷が癒えても流した血は戻らないよ」
 ルシオが短伝話を取り出すのを見ながらバジルは答える。彼は早く森から出したほうがいい。雨は体力を奪う。
「場所はどこですか。教えてください」
 アティニュスが顔を覗き込んだが、傷の痛みが取れたレイは無視して立ち上がろうとする。
「トマスが数人連れて来る」
 連絡を終えたルシオが言い、ウィルフォードが歩き出そうとするレイの前に回り込んだ。
「場所を言いたまえ。でないと強引に眠ってもらうぞ」
 落ち着いてはいるが、ウィルフォードの低い声は凄味がある。
「南方12時の方向、500m先に巨大な剣機壁。そこにクラウゼンと銃。これでいいか」
 吐き捨てるように言って横をすり抜けようとしたレイの後頭部にウィルフォードのスタッフがごん、と打ちおろされた。崩れ折れるレイの体を今度はバジルが慌てて受け止める。
「ヒール使ったのに」
「コブなんか放っておけ」
 ふん、と答えるウィルフォードに『グッジョブ』と思った仲間は少なくなかっただろう。レイが連携の取れる動きをしてくれるとはとても思えなかった。
「トマスさんが来るまでここで待つよ。引き渡したら追うから」
 レイを横たえるバジルに悠貴とリーリアも共に残ると意思表示した。
「何かあればすぐに連絡を」
 ルシオの声に頷くバジルを見て、5人は12時の方向に向かった。

 暫くして訓練生を連れたトマスが現れたのでレイを託す。
「何、このデカいコブ。まあ、想像つくけど」
 レイの頭を探ったトマスがクックと笑った。
「ヴィリーさんも連れて来ます」
 リーリアが言うとトマスは頷いた。
「次の班をすぐに寄越す。新人が入れるのはここが限界だ」
 「了解」と答え、3人は身を翻した。
 その数分後、悠貴が「伏せて!」と小さく叫んだ。
 視線の先に2体の剣機。これは大きい。オークだ。
「不味いよ。皆の背後から敵が来ることになる」
 と、バジル。
「足止めします」
 悠貴とバジルの目に同意を見てとったリーリアは動いた。
 瞬脚で一気に距離を詰め、前に回り込んだと同時にシュテルンシュピースで一体を薙ぎ払う。
 注意がこちらに向いたと同時にランアウトで移動。顔を巡らせた一体の喉元を突いた。
 リーリアだけに注意が向いているもう一体には背後から悠貴がシェイドで。素早く弾を込め更にもう一発。
 歪虚化したオークはさすがにすぐには倒れない。
「いい加減……」
 リーリアは声をあげ
「逝きなさい!」
 ランアウトで少し距離を取ったあと、ワイヤーウィップを叩きつける。もう一体に顔を巡らせた時、悠貴の一発がその頭を吹き飛ばしたのだった。
「お見事です」
 走り寄った悠貴が言う。
「さすがにこれは訓練生じゃ無理ね」
 ふうと息を吐いて額の汗を拭うリーリア。森の中は湿気が立ち上っていた。
「……あ!」
 バジルが足元を見て声をあげた。彼が拾い上げたのは真っ二つに折れた黒い銃。
「襟巻にしてるって……」
「グラオビーネ?」
 3人は顔を見合わせたのだった。
 

 そして12時の方向に向かったハンター達。
 折り重なるようにして壁に打ち付けられた剣機、鉄屑、シールドに見えるのは恐らくイルリヒトのもの。
 気配を悟られぬ距離で望遠鏡を覗いた篝がヴィリーの場所を見つけた。壁の右上方だ。
 左肩と右太腿を鉄の杭で打ち付けられている。ぐったりとしているが、気を失っているだけかもしれない。
 銃は持っていなかったが、それは花巌がヴィリーから相当離れたところにそれらしきものを見つけ、篝が確認した。
 鉄楔で打ち込まれているから取り外してもボロボロの状態だろう。
 それにしても気持ちが悪い。剣機は手と頭はフリーなのであちこちでうごめく。
「レクイエムは4回だ」
 ルシオが言った。
「やるしかない。発動できる距離まで援護する」
 篝が答える。
 近づくなり吠え声をあげ、ルシオに武器を振り上げ投げつけようとする剣機に篝は冷気弾を、花巌はトン、と駆けあがり立体攻撃を、アティニュスも近接で伸びる腕を斬る。2人をを狙う剣機にはウィルフォードが炎の矢で援護。
 ルシオの声で効果を見た篝とアティニュスは素早く剣機を踏み台にしてヴィリーの元へ。
 ウィルフォードは花巌のいる場所に向かって足をかける。
「ヴィリー、今外す」
 篝の声にヴィリーが薄らと目を開いた。良かった、生きている。
 鉄杭を抜くと出血するかもしれない。杭ごとヴィリーを引き抜くしかないだろう。
 一方、花巌とウィルフォードは銃をどう取り出そうか悩んでいた。
 横にいる剣機の棍棒で暴発しないかどうか念のため突いて確かめてみる。
 ウィルフォードは花巌の手から棍棒を受け取ると、ガツガツと止めている鉄の楔を叩く。
 花巌は別の剣機の手から斧を奪い取った。
「打ちおろします」
 ガキン、と音が鳴り響いた。ショックで剣機の目が覚める。それをルシオが再び眠らせた。
「あと一回だ!」
 ルシオが叫ぶ。
 歯を食いしばるが、4人はまだ壁から降りることができない。
 次々に目を覚ます剣機。
「取れたわ!」
 篝が叫び、ルシオはヴィリーの体を受け止めようと腕を伸ばす。
 その向こうでウィルフォードが火の矢を放ち
「こっちもだ!」
 叫んだがその時には全ての剣機が目を覚ましていた。
 まずい。
 そう思った時、
「相手はこっちよ!」
 リーリアの声と共にウィップがしなる。続き、銃声。悠貴だ。
「こっちへ!」
 壁を立てたウィルフォードが叫ぶ。
「間に合ってよかった! とにかく離れましょう!」
 悠貴の声にヴィリーを抱え、撤退を開始した。
 壊れた銃を手に最後にその場をあとにしようとした花巌は、ふと背後に気配を感じて振り向いた。
「もう、終わり? つまんない」
 少女の声が聞こえたが、その姿はどこにもなかった。


 トマスの待つ場所までヴィリーを運び、そこで彼の肩と腿の鉄杭を引き抜いて即座にバジルがヒールを付与した。
 荒療治だったが体力を消耗していたヴィリーは小さく呻くだけですぐに深い眠りに落ち込んだ。
「もう使い物にはなりませんけど」
 花巌が半分砕けたグラビオーネをトマスに差出し、バジルはぱっきりと折れた状態で渡す。
「元から鉄屑だ。かまやしない」
 トマスは口の端を歪めて受け取る。
「森へは入らないほうがいいと思うわ」
 剣機の壁のことを篝は伝えるが、トマスは興味深げに目を細めただけだった。
「それと、女の子の声が聞こえました」
 花巌が伝える。
「あれは気のせいではないと思います」
「まあ……僕は森の訓練がなくなったところでどうということはないけれど、レイはどうかな。それと、錬魔の姫さんと」
「ハンターでなければ無理だ」
 ルシオが眉を潜める。
「ん、伝えておくよ。とりあえず感謝する」
 ヴィリーを担架に乗せて去っていくトマスと訓練生達。
「彼は一体誰の味方なの? 全てが他人事ね」
 篝は呟いた。

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MVP一覧

  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステka0673
  • 弓師
    八原 篝ka3104
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那ka3984

重体一覧

参加者一覧

  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステ(ka0673
    エルフ|21才|女性|聖導士
  • 炎からの生還者
    櫻井 悠貴(ka0872
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • ノブリスオブリージュ
    リーリア・バックフィード(ka0873
    人間(紅)|17才|女性|疾影士
  • 時軸の風詠み
    ウィルフォード・リュウェリン(ka1931
    エルフ|28才|男性|魔術師
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 世界に示す名
    アティニュス(ka4735
    人間(蒼)|16才|女性|舞刀士
  • 未来を思う陽だまり
    バジル・フィルビー(ka4977
    人間(蒼)|26才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/12 18:10:29
アイコン 相談卓
リーリア・バックフィード(ka0873
人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/08/16 15:43:11